説明

糖尿病診療支援装置及び糖尿病診療支援方法

【課題】従来に比して簡便に糖代謝に関する病態の情報を提供することが可能な糖尿病診療支援装置及び糖尿病診療支援方法を提供する。
【解決手段】
糖尿病診療支援装置は、多数の患者の診療データから、予めインスリン分泌能、インスリン感受性、及び肝糖放出能の複数のレベル(クラスタ)に対応するクラスタ特徴量情報を記憶しておく。糖尿病診療支援装置は、病態推定対象の患者の空腹時血糖値、経口糖負荷後120分血糖値、及びBMIから、患者が属するインスリン分泌能、インスリン感受性、及び肝糖放出能のクラスタを判別し、患者がどのレベルのクラスタに属しているかを出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスリン分泌能、インスリン感受性等の患者の糖代謝に関する情報及び糖尿病治療薬による治療効果に関する情報を提供する糖尿病診療支援装置及び糖尿病診療支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病診療においては、糖代謝に関する病態を把握することが重要である。かかる糖代謝に関する病態は、糖代謝に関する基本的指標であるインスリン分泌能及びインスリン感受性が主として使用される。また、肝糖放出能も病態把握に使用されることがある。
【0003】
インスリン分泌能を精密に測定するためには、例えばグルコースクランプ試験の1つである高血糖クランプ試験を実施する必要がある。また、インスリン感受性を精密に測定するためには、例えば上記の高血糖クランプ試験とは異なるグルコースクランプ試験である高インスリン正常血糖クランプ試験を実施する必要がある。肝糖放出能を測定するためには、例えばグルコースを同位体でラベルするグルコーストレーサー試験を実施する必要がある。
【0004】
特許文献1には、食事後の血糖値及び血中インスリン濃度からインスリン感受性を求める方法が開示されている。この特許文献1に開示されている方法では、グルコースクランプ試験を実施することなく、インスリン感受性が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2010−525335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したグルコースクランプ試験は、点滴と多数回の採血が必要であり、患者への負担が大きい。特許文献1に開示されている方法では、グルコースクランプ試験を実施する必要がないが、血中インスリン濃度を複数回測定する必要がある。血中インスリン濃度の測定は、血糖値の測定と比較して高コストであるため、頻繁に実施することはできない。また、グルコーストレーサー試験は同位体で標識したブドウ糖を使用するため、簡便に実施することはできない。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、従来に比して簡便に糖代謝に関する病態の情報を提供することが可能な糖尿病診療支援装置及び糖尿病診療支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明の一の態様の糖尿病診療支援装置は、少なくとも血糖値及びBMIを含む複数のパラメータに基づいて定められた、インスリン分泌能、インスリン感受性、肝糖放出又は糖尿病治療薬による治療効果に関する区分を示す情報を記憶する記憶部と、被験者の血糖値及びBMIを含む複数のパラメータの各測定値を受け付ける受付部と、前記受付部により受け付けた各測定値に基づいて、被験者が属する前記区分を決定する決定手段と、前記決定手段により決定された区分に関する情報を出力する出力部と、を備える。
【0009】
上記態様において、前記血糖値が、複数時点において測定された血糖値を含んでいてもよい。
【0010】
上記態様において、前記血糖値が、1回の糖負荷の過程で複数回測定された血糖値を含んでいてもよい。
【0011】
上記態様において、前記複数回測定された血糖値が、空腹時血糖値と、糖負荷から所定時間経過後に測定された血糖値とを含んでいてもよい。
【0012】
上記態様において、前記区分は、インスリン分泌能、インスリン感受性、肝糖放出又は糖尿病治療薬による治療効果が既知の被験者から得られた複数の測定値のデータを、複数の集団に分類するための区分であってもよい。
【0013】
上記態様において、前記区分を示す情報は、各区分に属する複数のデータの平均値ベクトルおよび共分散行列であってもよい。
【0014】
本発明の一の態様の糖尿病診療支援方法は、少なくとも血糖値及びBMIを含む複数のパラメータに基づいて定められた、インスリン分泌能、インスリン感受性、肝糖放出又は糖尿病治療薬による治療効果に関する区分を示す情報を記憶するステップと、被験者の血糖値及びBMIを含む複数のパラメータの各測定値を受け付けるステップと、受け付けられた各測定値に基づいて、被験者が属する前記区分を決定するステップと、決定された区分に関する情報を出力するステップと、を有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来に比して簡便に糖代謝に関する病態の情報を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施の形態に係る糖尿病診療支援装置の構成を示すブロック図。
【図2】生体シミュレーションシステムの構成を示す機能ブロック図。
【図3】クラスタ特徴量抽出処理の手順を示すフローチャート。
【図4】生体シミュレーション処理の手順を示すフローチャート。
【図5】クラスタ特徴量情報のデータ構造を示す模式図。
【図6】病態推定処理の手順を示すフローチャート。
【図7】病態推定結果画面の一例を示す図。
【図8】診療データをインスリン分泌能の高さに応じてクラス分けをした結果を示すグラフ。
【図9】サンプルとした各患者のインスリン分泌能のレベル推定結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0018】
[糖尿病診療支援装置の構成]
図1は、本実施の形態に係る糖尿病診療支援装置の構成を示すブロック図である。本実施の形態に係る糖尿病診療支援装置1は、コンピュータ1aによって実現される。図1に示すように、コンピュータ1aは、本体11と、表示部12と、入力部13とを備えている。本体11は、CPU11aと、ROM11b、RAM11c、ハードディスク11d、読出装置11e、入出力インタフェース11f、及び画像出力インタフェース11gを備えており、CPU11a、ROM11b、RAM11c、ハードディスク11d、読出装置11e、入出力インタフェース11f、および画像出力インタフェース11gは、バス11iによって接続されている。
【0019】
CPU11aは、RAM11cにロードされたコンピュータプログラムを実行することが可能である。そして、後述する糖尿病診療支援プログラム14aを当該CPU11aが実行することにより、コンピュータ1aが糖尿病診療支援装置1として機能する。
【0020】
ROM11bは、マスクROM、PROM、EPROM、又はEEPROM等によって構成されており、CPU11aに実行されるコンピュータプログラムおよびこれに用いるデータ等が記録されている。RAM11cは、SRAMまたはDRAM等によって構成されている。RAM11cは、ハードディスク11dに記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、CPU11aがコンピュータプログラムを実行するときに、CPU11aの作業領域として利用される。
【0021】
ハードディスク11dは、オペレーティングシステムおよびアプリケーションプログラム等、CPU11aに実行させるための種々のコンピュータプログラムおよび当該コンピュータプログラムの実行に用いられるデータがインストールされている。糖尿病診療支援プログラム14aも、このハードディスク11dにインストールされている。
【0022】
また、ハードディスク11dには、生体の糖代謝に関する機能をコンピュータにシミュレートさせるための生体シミュレーションプログラム14bがインストールされている。生体シミュレーションプログラム14bをCPU11aが実行することにより、コンピュータ1aが生体シミュレーションシステムとして機能する。生体シミュレーションシステムの詳細は後述する。
【0023】
また、ハードディスク11dには、クラスタ特徴量情報14cが記憶されている。クラスタ特徴量情報14cは、CPU11aによる糖尿病診療支援プログラム14aの実行に使用されるデータである。かかるクラスタ特徴量情報14cの詳細については後述する。
【0024】
読出装置11eは、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、またはDVD−ROMドライブ等によって構成されており、可搬型記録媒体14に記録されたコンピュータプログラムまたはデータを読み出すことができる。また、可搬型記録媒体14には、糖尿病診療支援プログラム14aが格納されており、コンピュータ1aが当該可搬型記録媒体14から糖尿病診療支援プログラム14aを読み出し、当該糖尿病診療支援プログラム14aをハードディスク11dにインストールすることが可能である。
【0025】
なお、前記糖尿病診療支援プログラム14aは、可搬型記録媒体14によって提供されるのみならず、電気通信回線(有線、無線を問わない)によってコンピュータ1aと通信可能に接続された外部の機器から前記電気通信回線を通じて提供することも可能である。例えば、前記糖尿病診療支援プログラム14aがインターネット上のサーバコンピュータのハードディスク内に格納されており、このサーバコンピュータにコンピュータ1aがアクセスして、当該コンピュータプログラムをダウンロードし、これをハードディスク11dにインストールすることも可能である。
【0026】
また、ハードディスク11dには、例えば米マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)等のマルチタスクオペレーティングシステムがインストールされている。以下の説明においては、本実施の形態に係る糖尿病診療支援プログラム14aは当該オペレーティングシステム上で動作するものとしている。
【0027】
入出力インタフェース11fは、例えばUSB,IEEE1394,又はRS-232C等のシリアルインタフェース、SCSI,IDE,又はIEEE1284等のパラレルインタフェース、およびD/A変換器、A/D変換器等からなるアナログインタフェース等から構成されている。入出力インタフェース11fには、キーボードおよびマウスからなる入力部13が接続されており、ユーザが当該入力部13を使用することにより、コンピュータ1aにデータを入力することが可能である。
【0028】
画像出力インタフェース11gは、LCDまたはCRT等で構成された表示部12に接続されており、CPU11aから与えられた画像データに応じた映像信号を表示部12に出力するようになっている。表示部12は、入力された映像信号にしたがって、画像(画面)を表示する。
【0029】
<生体シミュレーションシステム>
次に、生体シミュレーションシステムについて説明する。生体シミュレーションシステムは、クラスタ特徴量情報の作成に使用される。
【0030】
図2は、生体シミュレーションシステムの構成を示す機能ブロック図である。生体シミュレーションシステム20は、診療データ入力部21と、生体モデル22と、生体モデル駆動部23と、生体モデル生成部24と、病態分析部25とを有している。
【0031】
ここで用いる生体モデル22 としては、例えば、Seike al., Journal of Physiological Sciences, vol 61, 321-330 (2011)で開示されている数式(数理モデル)によって表現したものを用いることができる。
【0032】
この数理モデルは、血漿グルコース濃度G、血漿インスリン濃度I、グルコース濃度の上昇に依存した総インスリン分泌速度R、グルコース濃度の上昇変動に依存したインスリン分泌速度RI1、グルコース濃度の上昇に依存したインスリン分泌速度RI2、糖負荷後の肝糖放出変化速度RΔSGO、およびリモートインスリン(末梢組織のインスリン作用点におけるインスリン作用量)を変数とする。ここで、G(0)、I(0)は糖負荷時点での値とし、その他の値は時刻tにおける値とすると、これらの変数は、下記の微分方程式で記述される。
【数1】

ここで、式中の各パラメータは、
I1: グルコース濃度血漿からのインスリン消失率(固定値)
I2: グルコース濃度の上昇変動に依存したインスリン分泌感度(可変値)
I3: 追加インスリン分泌における時定数(可変値)
I4: 追加インスリン分泌感度(可変値)
G1: 肝を除くインスリン非依存糖取り込み率(固定値)
G2: リモートインスリンの消失率(固定値)
G3: インスリン感受性(可変値)
G4: 肝糖放出関連パラメータ(可変値)
G5: 肝糖放出関連パラメータ(可変値)
: 肝糖放出関連定数(固定値)
であって、固定パラメータは患者によらず一定値に定められ、可変パラメータは各患者によって異なる値を持つことができる。
【0033】
生体モデル駆動部23は、生体モデル22を用いて、生体の挙動を再現するための計算を行うための部分である。たとえば、MatLab(マスワークス社製品)又はE−Cell(慶應義塾大学公開ソフトウェア)を用いて、生体モデルの挙動を計算してもよい。また、他の計算システムを用いてもよい。
【0034】
前記生体モデル22として前記ミニマルモデルを用いる場合は、生体モデル駆動部23として、前記微分方程式を任意の値のパラメータと任意の時間間隔で計算できる数値計算ソフトウェアを用いることができる。
【0035】
生体モデル生成部24は、生体モデル駆動部23の出力が、入力された診療データと合致するような、生体モデル22のパラメータセットを推定するための部分である。パラメータセットの推定方法としては、公知の最少二乗法、最急降下法や遺伝的アルゴリズムを用いることができるが、これらに限るものではなく、必要に応じて他の方法を用いてもよい。
【0036】
前記生体モデル22として前記数理モデルを用いる場合は、第1のステップとして、前記診療データとして経口糖負荷試験時の血漿中インスリン濃度変化データを用い、前記モデル駆動部23が出力するIとの誤差が最少となるように、公知の最少二乗法、最急降下法や遺伝的アルゴリズムを用いて、前記パラメータのうちのpI2、pI3、pI4を推定することができる。次のステップで、前記診療データとして経口糖負荷試験時の血漿中グルコース濃度変化データを用い、前期モデル駆動部23が出力するGとの誤差が最少となるように、同様の公知手法を用いて前記パラメータのうちのpG3、G4、G5を推定することができる。
【0037】
病態分析部25は、生体モデル生成部24が生成したパラメータセットを、糖尿病及び耐糖能異常の病態を理解するうえで重要となる3要素、「インスリン分泌能」、「インスリン感受性」、「肝糖放出能」と対応付け、あらかじめ定めた正常人のパラメータセットと比較し、異常となっているパラメータを検出することで病態を分析する。例えば、前記数理モデルのパラメータのうち、pI4を「インスリン分泌能(ここでは、追加インスリン分泌感度)」、pG3を「インスリン感受性」、RΔSGOあるいはRΔSGOの糖負荷後一定時間の積分値を「肝糖放出能」と対応付けることができる。さらに、特定のパラメータについて、正常人のとりうる上限値と下限値を設定し、その範囲を超えた場合に異常と判定してもよい。また、正常人のパラメータの代表値と、生成された患者のパラメータの比率で正常、異常を判定することもできる。
【0038】
<クラスタ特徴量情報>
ここで、クラスタ特徴量情報14cについて説明する。クラスタ特徴量情報14cは、インスリン分泌能、インスリン感受性、及び肝糖放出能が既知の複数の患者から得られた参照データから作成される。クラスタ特徴量情報14cには、インスリン分泌能、インスリン感受性、及び肝糖放出能の3種類のクラスタ特徴量情報が含まれている。
【0039】
以下、インスリン分泌能についてのクラスタ特徴量情報の作成方法を説明する。クラスタ特徴量情報14cは、コンピュータ1aが以下のクラスタ特徴量抽出処理を実行することにより作成される。
【0040】
図3は、クラスタ特徴量抽出処理の手順を示すフローチャートである。ユーザは、複数の患者に対して経口糖負荷試験を実施し、経口糖負荷試験の測定結果を含む複数の患者の診療データを収集する。収集される診療データとしては、経口糖負荷試験において測定された血糖値及びインスリン濃度、並びに体重を含んでいる。また、経口糖負荷試験において測定された血糖値及びインスリン濃度には、
経口糖負荷後0分、30分、60分、及び120分の4点において測定された血糖値及びインスリン濃度を含んでいる。ユーザは、収集した複数セットの診療データをコンピュータ1aに入力し、CPU11aが、入力された複数セットの診療データを受け付ける(ステップS11)。
【0041】
次にCPU11aは、入力された複数セットの診療データの中から1つを選択し(ステップS12)、選択された診療データを用いて、生体シミュレーション処理を実行する(ステップS13)。
【0042】
図4は、生体シミュレーション処理の手順を示すフローチャートである。これは、コンピュータ1aのCPU11aが生体シミュレーションプログラム14bを実行することにより行われる。
【0043】
生体シミュレーション処理において、まずCPU11aは、生体モデル22のパラメータセットを初期値に設定する(ステップS131)。
【0044】
次にCPU11aは、設定されたパラメータセットにより生体モデル駆動部23に生体の挙動を再現させる(ステップS132)。続いて、CPU11aは、生体モデル駆動部23の出力データと、選択されている診療データとを比較し(ステップS133)、両者が十分に合致するか否かを判定する(ステップS134)。
【0045】
十分に合致しない場合には(ステップS134においてNO)、CPU11aはパラメータセットを更新し(ステップS135)、ステップS132へ処理を戻す。
【0046】
一方、生体モデル駆動部23の出力データと、選択されている診療データとが十分に合致する場合には(ステップS134においてYES)、CPU11aは、その時点における生体モデル22のインスリン分泌能、インスリン感受性、及び肝糖放出能を、診療データに対応付けてハードディスク11dに記憶し(ステップS136)、クラスタ特徴量抽出処理における生体シミュレーション処理の呼出アドレスに処理を戻す。
【0047】
次にCPU11aは、入力された全ての診療データに対して生体シミュレーション処理を実行したか否かを判定し(ステップS14)、まだ生体シミュレーション処理を実行していない診療データが残っている場合には(ステップS14においてNO)、ステップS12へ処理を戻す。
【0048】
ステップS14において、全ての診療データに対して生体シミュレーション処理が実行されている場合(ステップS14においてYES)、CPU11aは、各患者の診療データを、インスリン分泌能、インスリン感受性、及び肝糖放出能のそれぞれによってソートする(ステップS15)。この処理では、CPU11aは、各診療データを3つずつ用意し、1つ目のデータセットをインスリン分泌能の高さによってソートし、2つ目のデータセットをインスリン感受性の高さによってソートし、3つ目のデータセットを肝糖放出能によってソートする。
【0049】
次にCPU11aは、インスリン分泌能でソートした診療データを、インスリン分泌能の高さの順に3つのクラス(高、中、低)に分割する。同様に、CPU11aは、インスリン感受性でソートした診療データを、インスリン感受性の高さの順に3つのクラスに分割し、肝糖放出能でソートした診療データを、肝糖放出能の高さの順に3つのクラスに分割する(ステップS16)。各クラスは、低い方から順にレベル1、2、3とラベリングされる。
【0050】
ユーザは、入力部13を用いて、病態の推定に使用する変数(以下、「推定用変数」という。)を指定する。推定用変数としては、糖代謝に関する測定項目(例えば、空腹時血糖値、食後(経口糖負荷後)所定時間の血糖値、空腹時インスリン濃度、食後(経口糖負荷後)所定時間のインスリン濃度、体重、BMI等)を指定することができる。また、推定用変数としては、診療データに含まれる複数の測定項目を指定することができる。診療データに含まれていない測定項目を推定用変数として指定する場合、各診療データに当該測定項目の測定値を追加すればよい。本実施の形態では、3つの推定用変数として、空腹時血糖値、経口糖負荷後120分血糖値、及びBMIを指定することとする。CPU11aは、ユーザから指定された3つの測定項目を受け付け、これらを推定用変数として選択する(ステップS17)。
【0051】
次に、CPU11aは、ステップS16において定義した各クラスについて、推定用変数に関する平均値ベクトル(μ,μ,μ)及び共分散行列Σを算出し(ステップS18)、処理を終了する。ステップS18の処理について詳しく述べる。前述したように、インスリン分泌能について3つのクラスが、インスリン感受性について3つのクラスが、肝糖放出能について3つのクラスが、それぞれ定義されている。ステップS18の処理では、これらの9のクラスのそれぞれについて、クラスに属する診療データの平均値ベクトル及び共分散行列が算出される。これらの平均値ベクトル及び共分散行列によって、クラスタ特徴量情報14cが構成される。
【0052】
上述したような方法により作成されたクラスタ特徴量情報14cが、ハードディスク11dに記憶されている。図5は、クラスタ特徴量情報のデータ構造を示す模式図である。クラスタ特徴量情報14cには、インスリン分泌能についてのクラスタ特徴量情報141と、インスリン感受性についてのクラスタ特徴量情報142と、肝糖放出能についてのクラスタ特徴量情報143とが含まれる。インスリン分泌能についてのクラスタ特徴量情報141には、インスリン分泌能のレベル1のクラスの平均値ベクトル及び共分散行列と、インスリン分泌能のレベル2のクラスの平均値ベクトル及び共分散行列と、インスリン分泌能のレベル3のクラスの平均値ベクトル及び共分散行列とが含まれる。同様に、インスリン感受性についてのクラスタ特徴量情報142には、インスリン感受性のレベル1〜3のそれぞれのクラスの平均値ベクトル及び共分散行列が含まれ、肝糖放出能についてのクラスタ特徴量情報143には、肝糖放出能のレベル1〜3のそれぞれのクラスの平均値ベクトル及び共分散行列が含まれる。
【0053】
[糖尿病診療支援装置の動作]
次に、糖尿病診療支援装置1の動作について説明する。糖尿病診療支援装置1は、糖尿病に関する病態を推定する病態推定処理を実行することが可能である。
【0054】
図6は、病態推定処理の手順を示すフローチャートである。病態推定処理を開始した後、ユーザは、入力部13を用いて糖尿病に関する病態を推定する対象の患者の患者ID、患者の氏名、患者氏名のふりがな、及び病態推定用データxを糖尿病診療支援装置1に入力する。病態推定用データxは、糖尿病に関する病態を推定する対象の患者について測定された、推定用変数の測定項目の測定値である。本実施の形態においては、患者の空腹時血糖値、経口糖負荷後120分血糖値、及びBMIとされる。ユーザは、かかる病態推定用データxをコンピュータ1aに入力し、CPU11aが、入力された病態推定用データxを受け付ける(ステップS21)。
【0055】
次にCPU11aは、クラスタ特徴量情報14cに基づいて、病態推定用データxから各クラスタへのマハラノビス距離D(x)を算出する(ステップS22)。ステップS22の処理を詳しく説明する。まずCPU11aは、病態推定用データxと、インスリン分泌能のレベル1のクラスタ特徴量情報(平均値ベクトル及び共分散行列)とから、病態推定用データxからインスリン分泌能のレベル1のクラスタへのマハラノビス距離を算出する。同様に、CPU11aは、病態推定用データxから、インスリン分泌能のレベル2のクラスタ、及びインスリン分泌能のレベル3のクラスタのそれぞれへの各マハラノビス距離を算出する。さらに、CPU11aは、病態推定用データxからインスリン感受性のレベル1〜3のクラスタそれぞれへの各マハラノビス距離を算出し、また、病態推定用データxから肝糖放出能のレベル1〜3のクラスタそれぞれへの各マハラノビス距離を算出する。このように、ステップS22においては、インスリン分泌能、インスリン感受性、及び肝糖放出能のそれぞれについて、3つずつマハラノビス距離が算出される。
【0056】
次にCPU11aは、インスリン分泌能、インスリン感受性、及び肝糖放出能のそれぞれについて、マハラノビス距離が最小となるクラスタを、患者が属するクラスタとして選択する(ステップS23)。つまり、インスリン分泌能のレベル1〜3のクラスタのうち、マハラノビス距離が最小のクラスタが、当該患者が属するインスリン分泌能のクラスタとして選択される。同様に、インスリン感受性のレベル1〜3のクラスタのうち、マハラノビス距離が最小のクラスタが、当該患者が属するインスリン感受性のクラスタとして選択され、肝糖放出能のレベル1〜3のクラスタのうち、マハラノビス距離が最小のクラスタが、当該患者が属する肝糖放出能のクラスタとして選択される。
【0057】
次にCPU11aは、ステップS23において選択されたクラスタに基づいて、病態推定結果画面を表示部12に表示させ(ステップS24)、病態推定処理を終了する。
【0058】
図7は、病態推定結果画面の一例を示す図である。図に示すように、病態推定結果画面100には、患者IDを表示する領域101と、患者名を表示する領域102と、患者名のふりがなを表示する領域103とが設けられている。また、病態推定結果画面100には、病態の推定結果として、患者が属するインスリン分泌能、インスリン感受性、及び肝糖放出能のクラスタの各レベルを示すグラフ104と、コメント105とが表示される。
【0059】
コメント105は、ハードディスク11dに格納されているコメントデータ14dから読み出されたものが表示される。コメントデータ14dは、インスリン分泌能、インスリン感受性、及び肝糖放出能のレベルの組み合わせ毎に与えられる複数のコメントを含んでいる。例えば、インスリン分泌能がレベル1、インスリン感受性がレベル2、肝糖放出能がレベル3の場合には、「インスリン分泌能が不十分な病態と考えられます。インスリン感受性は保持されているものの、インスリン分泌が十分でないため、肝糖放出が亢進し、末梢での糖取り込みも低下していると推定されます。」というコメントが対応する。このように、インスリン分泌能、インスリン感受性、及び肝糖放出能のレベルのそれぞれの組み合わせに対応して、病態を説明するコメントが割り当てられており、ステップS23において選択された各クラスタのレベルの組み合わせに対応するコメントが、病態推定結果画面に表示される。
【0060】
かかる病態推定結果画面100により、ユーザは患者の病態の推定結果、即ち、患者が属するインスリン分泌能、インスリン感受性、肝糖放出能の各クラスタのレベルを容易に把握することができる。また、患者が属するインスリン分泌能、インスリン感受性、肝糖放出能の各クラスタのレベルの組み合わせに応じたコメントが表示されるので、ユーザは患者がどのような病態であると考えられるのかを容易に確認することができる。ユーザは、このような病態推定結果を糖尿病の診療に役立てることができる。
【0061】
[評価試験1]
本願出願人は、経口糖負荷試験を実施した900人の患者の診療データを用いて、本実施の形態に係る糖尿病診療支援装置1の性能評価試験を実施した。この評価試験においては、900人の患者の診療データのそれぞれに対して本実施の形態に係る生体シミュレーション処理を実行し、各診療データについてインスリン分泌能、インスリン感受性、及び肝糖放出能を推定した。次に、各診療データをインスリン分泌能の高さによってソートし、インスリン分泌能の低い順にレベル1、2、3の3つのクラスに分割した。図8は、診療データをインスリン分泌能の高さに応じてクラス分けをした結果を示すグラフである。図において、十字はレベル1のデータを、三角形はレベル2のデータを、四角形はレベル3のデータを示している。本願出願人は、このようにして得られたクラスのそれぞれについて、クラスタ特徴量情報(平均値ベクトル及び共分散行列)を算出した。
【0062】
次に本願出願人は、空腹時血糖値、経口糖負荷後120分血糖値、及びBMIのそれぞれを一定の間隔で分割した3次元のメッシュを作成し、メッシュを構成する各データ点を、本実施の形態に係る糖尿病診療支援装置1に入力し、各データ点のインスリン分泌能、インスリン感受性、及び肝糖放出能のレベルを推定した。図9は、各データ点のインスリン分泌能のレベル推定結果を示すグラフである。図において、ドットはレベル1と推定されたデータ点を、三角形はレベル2と推定されたデータ点を、四角形はレベル3と推定されたデータ点を示している。換言すれば、ドットの集合はレベル1のクラスタを、三角形の集合はレベル2のクラスタを、四角形の集合はレベル3のクラスタを示している。
【0063】
下表に、本評価試験の結果を示す。下表では、生体シミュレーションによる各患者のインスリン分泌能の推定結果と、本実施の形態に係る糖尿病病態推定方法によるインスリン分泌能の推定結果との関係を示している。表において、Hは、インスリン分泌能のレベルが高いことを示し、Mは、インスリン分泌能のレベルが中程度であることを示し、Lは、インスリン分泌能のレベルが低いことを示している。表に示すように、生体シミュレーションによりインスリン分泌能が「高い」と推定された患者のうち、本実施の形態に係る糖尿病病態推定方法によりインスリン分泌能が「高い」と推定された患者の数は232であり、インスリン分泌能が「中程度」と推定された患者の数は82であり、インスリン分泌能が「低い」と推定された患者の数は27である。また、生体シミュレーションによりインスリン分泌能が「中程度」と推定された患者のうち、本実施の形態に係る糖尿病病態推定方法によりインスリン分泌能が「高い」と推定された患者の数は102であり、インスリン分泌能が「中程度」と推定された患者の数は120であり、インスリン分泌能が「低い」と推定された患者の数は118である。さらに、生体シミュレーションによりインスリン分泌能が「低い」と推定された患者のうち、本実施の形態に係る糖尿病病態推定方法によりインスリン分泌能が「高い」と推定された患者の数は18であり、インスリン分泌能が「中程度」と推定された患者の数は39であり、インスリン分泌能が「低い」と推定された患者の数は283である。このように、生体シミュレーションによりインスリン分泌能が「高い」と推定された患者のうちの最も多くの患者について、本実施の形態に係る糖尿病病態推定方法によりインスリン分泌能が「高い」と推定されている。また、生体シミュレーションによりインスリン分泌能が「中程度」と推定された患者のうちの最も多くの患者について、本実施の形態に係る糖尿病病態推定方法によりインスリン分泌能が「中程度」と推定されており、生体シミュレーションによりインスリン分泌能が「低い」と推定された患者のうちの最も多くの患者について、本実施の形態に係る糖尿病病態推定方法によりインスリン分泌能が「低い」と推定されている。このように、本実施の形態に係る糖尿病病態推定方法による推定結果と、生体シミュレーションによる推定結果とが高い精度で一致していることが分かる。
【表1】

【0064】
したがって、本実施形態の方法によれば、空腹時血糖値と、経口糖負荷試験によって測定可能な糖負荷後2時間血糖値と、BMIという測定が容易なパラメータを用いるのみで、被験者における糖尿病病態を推定することができる。
【0065】
[評価試験2]
本願出願人は、経口糖負荷試験を実施後、インスリン抵抗性改善薬による治療が行なわれた37人の患者の診療データを用いて、本実施の形態に係る糖尿病診療支援装置1の性能評価試験を実施した。この評価試験においては、まず評価試験1で用いた900例のうちの37例について、評価試験1で記載の方法で、インスリン感受性が「低い」、「中程度」、「高い」の3つの区分に分類した。また、37症例の各々について、薬物治療を6ヶ月行なった後、治療前ヘモグロビンA1cが1割以上低下していることを薬剤奏功の基準として薬物奏功したか否かを評価した。そして、インスリン感受性に基づく3つの区分のそれぞれの区分において、薬物奏功した症例の数とその割合を算出した。
【0066】
下表に、本評価試験の結果を示す。下表では、本実施の形態に係る糖尿病病態推定方法によるインスリン感受性の推定結果と、インスリン抵抗性改善薬(チアゾリジン誘導体関連薬)による治療効果との関係を示している。表に示すように、インスリン感受性が「低い」と推定された症例数は12であり、そのうち薬物奏功した症例の数はであり、奏功率は83%であった。インスリン感受性が「中程度」と推定された症例数は17であり、そのうち薬物奏功した症例数はであり、奏功率は18%であった。インスリン感受性が「高い」と推定された症例数は8であり、そのうち薬物奏功した症例数はであり、奏功率は13%であった。このように、本実施の形態に係る糖尿病病態推定方法によって推定されたインスリン感受性が低いほど、インスリン抵抗性改善薬の奏功率が高いことが分かる。このことから、本実施形態の方法によれば、被験者属する区分として、糖尿病治療薬による治療効果が「高い」、「中程度」、「低い」という情報を提供することができる。
【表2】

【0067】
(その他の実施の形態)
上記の実施の形態においては、患者のインスリン分泌能、インスリン感受性、肝糖放出能、及び糖尿病治療薬による治療効果を推定する構成について述べたが、これに限定されるものではない。インスリン分泌能、インスリン感受性、及び肝糖放出能の何れか1つのみを推定する構成であってもよいし、インスリン分泌能、インスリン感受性、肝糖放出能、及び糖尿病治療薬による治療効果のうちの2つを推定する構成であってもよい。しかしながら、インスリン分泌能、インスリン感受性、及び肝糖放出能を総合して判断することにより、患者の糖尿病の病態を正確に把握することができるため、患者のインスリン分泌能、インスリン感受性、及び肝糖放出能の全てを推定する構成とすることが好ましい。上記の実施の形態においては、インスリン感受性に基き、糖尿病治療薬の治療効果を推定する構成について述べたが、これに限定されるものではない。インスリン分泌能、インスリン感受性、及び肝糖放出能の何れか1つのみを推定した結果に基いて治療効果を推定する構成であってもよいし、インスリン分泌能、インスリン感受性、及び肝糖放出能のうちの2つを推定した結果に基いて治療効果を推定する構成であってもよい。病態推定を行なうことなく、糖尿病治療薬による治療効果を推定する場合、糖尿病治療薬による治療効果が既知の被験者から得られた複数の測定値のデータを用いて、評価試験1における生体シミュレーションにより推定したインスリン分泌能、インスリン感受性、又は肝糖放出能の代わりに糖尿病治療薬に対する実際の治療効果を用いることで、評価試験1と同様の手順で複数の集団に分類し、治療効果を予測してもよい。
【0068】
また、上記の実施の形態においては、クラスタ特徴量情報14cを生成するために、各患者のインスリン分泌能、インスリン感受性、及び肝糖放出能を生体シミュレーションにより推定する構成について述べたが、これに限定されるものではない。患者から直接測定されたインスリン分泌能、インスリン感受性、及び肝糖放出能を使用して、クラスタ特徴量情報を生成する構成としてもよい。患者からインスリン分泌能、インスリン感受性、及び肝糖放出能を測定するためには、グルコースクランプ試験及びグルコーストレーサー試験を実施する必要があるが、これらの試験は患者に大きな負担を要したり、特殊な試験手順が必要となる。信頼性の高いクラスタ特徴量情報を作成するためには、多くのサンプルが必要であり、このためには多数の患者に対してグルコースクランプ試験及びグルコーストレーサー試験を実施する必要があり、困難である。その点、生体シミュレーションを使用すれば、グルコースクランプ試験及びグルコーストレーサー試験を実施する必要がなく、容易に多数の患者のインスリン分泌能、インスリン感受性、及び肝糖放出能を得ることができる。
【0069】
また、上述した実施の形態においては、ハードディスク11dにインストールされた生体の糖代謝に関する機能をコンピュータにシミュレートさせるための生体シミュレーションプログラム14bによってクラスタ特徴量情報を作成する例を示したが、これに限定されるものではなく、他のコンピュータによって作成したクラスタ特徴量情報を用いることもできる。
【0070】
また、上記の実施の形態においては、病態推定用データxからインスリン分泌能の各レベルのクラスタ、インスリン感受性の各レベルのクラスタ、及び肝糖放出能の各レベルのクラスタへのマハラノビス距離をそれぞれ算出し、かかるマハラノビス距離を用いて患者がどのクラスタ(レベル)に属するかを判断する構成について述べたが、これに限定されるものではない。クラスタの境界を示すデータを記憶しておき、対象患者の病態推定用データがどのクラスタに属するかを、クラスタの境界と病態推定用データとの位置関係から判定する構成であってもよい。例えば、空腹時血糖値、経口糖負荷後120分血糖値、及びBMIを推定用変数とする場合には、空腹時血糖値、経口糖負荷後120分血糖値、及びBMIの3軸を有する空間内において、インスリン分泌能、インスリン感受性、及び肝糖放出能のそれぞれについて複数のクラスタを定義し、各クラスタの境界を示すデータをハードディスクに記憶しておく。病態の推定を行う際には、入力された病態推定用データとクラスタの境界とを比較し、病態推定用データがどのクラスタに属するかを判定する。
【0071】
また、上記の実施の形態においては、推定用変数として空腹時血糖値、経口糖負荷後120分血糖値、及びBMIを用いる構成について述べたが、これに限定されるものではない。推定用変数は、少なくとも血糖値を含み、糖代謝に関するパラメータ(測定項目)であれば、他のパラメータを設定することも可能である。糖代謝に関するパラメータとしては、空腹時血糖値、食後(経口糖負荷後)所定時間の血糖値、体重、BMI、ヘモグロビンA1c、収縮期血圧、拡張期血圧、ウエスト、ヒップ、年齢、性別、喫煙・飲酒の有無等が挙げられる。また、複数種類の血糖値データを推定用変数とすることも可能である。また、血糖値に加え、所定の時間の1回の採血で得られるインスリン濃度、Cペプチド濃度、中性脂肪、総コレステロール、HDL、LDL、GPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)、GOT(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ)、クレアチニンなど、複数項目の検査値を簡便に利用できる推定用変数として用いてもよい。例えば、空腹時血糖値及び経口糖負荷後60分血糖値を推定用変数としてもよいし、経口糖負荷後60分血糖値及び経口糖負荷後120分血糖値を推定用変数としてもよい。ただし、2以上の血糖値を推定用変数とする場合、1回の経口糖負荷(又は食事)に関する血糖値を使用する必要がある。例えば、経口糖負荷後60分血糖値及び経口糖負荷後120分血糖値を推定用変数とする場合、1回の経口糖負荷についての経口糖負荷後60分血糖値及び経口糖負荷後120分血糖値を使用しなければならない。
【0072】
また、上記の実施の形態においては、薬剤奏功の基準を、薬物治療を6ヶ月行なった後、治療前ヘモグロビンA1cが1割以上低下していることとしたが、これに限定されるものではない。例えば、治療後のヘモグロビンA1cが6.5%以下になったか、若しくは治療によりヘモグロビンA1cが1%以上低下したかをもって薬剤が奏効したと推定することもできる。治療期間についても、例えば、3ヶ月とすることも、1年とすることもできる。
【0073】
また、上記の実施の形態においては、患者が属するインスリン分泌能、インスリン感受性、及び肝糖放出能のクラスタの各レベルを示すグラフ104と、コメント105とを含む病態推定結果画面100を出力する構成としたが、これに限定されるものではない。病態の推定結果として、上記グラフのみを表示してもよい。また、インスリン分泌能のレベルではなく、インスリン分泌能のレベルに対応するインスリン分泌指数(II)を求め、このインスリン分泌指数(II)を病態推定結果として表示することもできる。これは、例えば、インスリン分泌能のレベル毎に、対応するインスリン分泌指数(II)を与えておき(例えば、レベル1に対応するインスリン分泌指数(II)を0〜0.3とする等)、患者が属するインスリン分泌能のレベル(クラスタ)が判定された場合に、そのレベルに対応するインスリン分泌指数(II)を表示してもよい。同様に、インスリン感受性のレベルではなく、インスリン感受性のレベルに対応するHOMA−IRを求め、このHOMA−IRを病態推定結果として表示することも可能である。
【0074】
また、上述した実施の形態においては、1つのコンピュータ1aのCPU11aに糖尿病診療支援プログラム14aを実行させることにより、このコンピュータ1aを糖尿病診療支援装置1として機能させる構成について述べたが、これに限定されるものではなく、糖尿病診療支援プログラム14aと実質的に同一の処理を実行するための専用のハードウェア回路により糖尿病診療支援装置を構成することもできる。
【0075】
また、上述した実施の形態においては、単一のコンピュータ1aにより糖尿病診療支援プログラムの全ての処理を実行する構成について述べたが、これに限定されるものではなく、上述した糖尿病診療支援プログラムと同様の処理を、複数の装置(コンピュータ)により分散して実行する分散システムとすることも可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 糖尿病診療支援装置
1a コンピュータ
11 本体
12 画像表示部
13 入力部
11d ハードディスク
11g 画像出力インタフェース
11e 読出装置
11f 入出力インタフェース
14 可搬型記録媒体
14a 糖尿病診療支援プログラム
100 病態推定結果画面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも血糖値及びBMIを含む複数のパラメータに基づいて定められた、インスリン分泌能、インスリン感受性、肝糖放出又は糖尿病治療薬による治療効果に関する区分を示す情報を記憶する記憶部と、
被験者の血糖値及びBMIを含む複数のパラメータの各測定値を受け付ける受付部と、
前記受付部により受け付けた各測定値に基づいて、被験者が属する前記区分を決定する決定手段と、
前記決定手段により決定された区分に関する情報を出力する出力部と、
を備える、
糖尿病診療支援装置。
【請求項2】
前記血糖値が、複数時点において測定された血糖値を含む、
請求項1に記載の糖尿病診療支援装置。
【請求項3】
前記血糖値が、1回の糖負荷の過程で複数回測定された血糖値を含む、
請求項2に記載の糖尿病診療支援装置。
【請求項4】
前記複数回測定された血糖値が、空腹時血糖値と、糖負荷から所定時間経過後に測定された血糖値とを含む、
請求項3に記載の糖尿病診療支援装置。
【請求項5】
前記区分は、インスリン分泌能、インスリン感受性、肝糖放出又は糖尿病治療薬による治療効果が既知の被験者から得られた複数の測定値のデータを、複数の集団に分類するための区分である、
請求項1〜4の何れか一項に記載の糖尿病診療支援装置。
【請求項6】
前記区分を示す情報は、各区分に属する複数のデータの平均値ベクトルおよび共分散行列である、
請求項5に記載の糖尿病診療支援装置。
【請求項7】
少なくとも血糖値及びBMIを含む複数のパラメータに基づいて定められた、インスリン分泌能、インスリン感受性、肝糖放出又は糖尿病治療薬による治療効果に関する区分を示す情報を記憶するステップと、
被験者の血糖値及びBMIを含む複数のパラメータの各測定値を受け付けるステップと、
受け付けられた各測定値に基づいて、被験者が属する前記区分を決定するステップと、
決定された区分に関する情報を出力するステップと、
を有する、
糖尿病診療支援方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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