説明

糖液から固形物を製造する方法及び固形物

【課題】
本発明は、イソマルツロースを含む糖液の固形物を製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、ショ糖からイソマルツロースを生成する酵素をショ糖液に作用させてイソマルツロース含有糖液を得、当該糖液から固形物を製造する方法であって、当該糖液を加熱して、当該糖液の固形分濃度を77〜96質量%に調整すること、上記で得た調整物を65〜120℃に保ちながら、せん断力を与えて結晶核を作る処理に付すこと、そして上記で得た処理物を冷やすこと、を含む前記方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖液から固形物を製造する方法、特にはイソマルツロースを含む糖液から固形物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イソマルツロースは、Protaminobacter rubrum、Serratia plymuthica、Erwinia rhapontici、又はKlebsiella sp.などが生成する酵素α-グルコシルトランスフェラーゼをショ糖に作用させることにより、ショ糖のα-1,2結合がα−1,6結合に転移した二糖である。
【0003】
ショ糖液に上記酵素を作用させて得られた糖液の糖組成は、イソマルツロースが60〜90質量%、トレハルロースが5〜35質量%、並びにグルコース及びフルクトースがそれぞれ0.2〜5質量%である。この糖液を濃縮して、イソマルツロースの結晶を生成させ(結晶化工程)、当該生成された結晶を遠心分離により採取すること(遠心分離工程)によって結晶化されたイソマルツロースが得られる。このように、結晶化されたイソマルツロースは、上記糖液を結晶化工程及び遠心分離工程に付すことにより得られる。当該結晶化されたイソマルツロースは、結晶パラチノース(商標)IC(三井製糖株式会社、イソマルツロース純度99.0%以上)として販売されている。一方、遠心分離工程により得られた蜜分の糖組成は、トレハルロースが53〜59%及びイソマルツロースが11〜17%である。当該蜜分は、パラチノース(商標)シロップ−ISN(三井製糖株式会社)として販売されている。
【0004】
イソマルツロースの水への溶解度は低く、そのためイソマルツロースの結晶は析出しやすい。一方、トレハルロースは結晶化せず、液状である。よって、上記糖液からトレハルロースを除いて、イソマルツロース製品の固形製品又は粉末製品として販売するために、上記遠心分離工程は必須である。また、上記遠心分離工程において、上記結晶化されたイソマルツロースと上記蜜分は一定の割合で生成するが、需要と供給のバランスが一致しないことによって、蜜分が余る場合がある。
【0005】
下記特許文献1〜7は、糖類の固形化方法を記載する。このうち、特許文献1及び2は、パラチノースの固形化方法を記載する。特許文献3〜7は、パラチノース以外の糖類の固形化方法を記載する。
【0006】
下記特許文献1は、蔗糖をパラチノースに変換する細菌の酵素により蔗糖をパラチノースに変換するに際し、副生するぶどう糖、果糖の含量を温度変化によって制御し、生成糖類を全量固形化することを特徴とする糖類配合物の製造法を記載する(請求項1)。全量固形化する手段として固結粉砕法が挙げられており、当該固結粉砕法は、糖液を高度に濃縮し、粘稠な白下状とした後、冷却、固化させ、破砕しながら温風を送って乾燥させ、粉砕する方法によって固形化する(第2頁左下欄第10〜17行)。
【0007】
下記特許文献2は、アモルファスパラチノースの製造法を記載する(請求項1)。当該製造法は、原料温度が110〜150℃の溶解部分とバレル温度が0〜60℃の析出部分から構成される二軸エクストルーダーに、パラチノース結晶とこれに対して3〜9%の水を供給し、アモルファスパラチノースを生成させることを特徴とする(請求項1)。アモルファスパラチノースとは、通常、パラチノース溶液を濃縮後冷却して結晶を生成させる場合と、無定形な物質を生成させる場合とがあるが、後者の無定形な物質をさす(第2頁右下欄第4〜7行)。
【0008】
下記特許文献3は、油脂および/または界面活性剤を含有し、実質上水分を含有しない溶融ソルビトールを、このソルビトールが固化せず種結晶ソルビトールが融解しない温度に設定して種結晶ソルビトールを添加、予備混合した後または添加と同時に、60〜85℃で一定時間剪断力を加えながら結晶化させる結晶化粉末ソルビトールの製法を記載する(請求項1)。
【0009】
下記特許文献4は、含水率1〜15重量%のマルチトール水溶液に、マルチトール種結晶の融点以下の温度でマルチトール種結晶を加え、油脂および/または界面活性剤の存在下または不存在下に混練して混練品に剪断力を加え続けることを特徴とする粉末または顆粒状結晶マルチトールの製法を記載する(請求項1)。
【0010】
下記特許文献5は、結晶マルチトール及びそれを含有する含蜜結晶を製造する方法において、1)固形分中にマルトースが81〜90重量%含まれる濃度30〜75重量%のシロップを接触水素化して相当する糖アルコールシロップを得る第一工程、2)糖アルコールシロップを、陽イオン交換樹脂を充填した塔に供給してクロマト分離し、固形分中にマルチトールが92〜99.9重量%含まれるマルチトール高含有シロップ画分を得る第二工程、3)マルチトール高含有シロップ画分を濃縮した後、得られたシロップの一部を種結晶の存在下で結晶化して結晶マルチトールを回収する工程及び、得られたシロップの残余を種結晶の存在下で噴霧乾燥又は冷却混練することにより結晶マルチトールを含有する含蜜結晶を得る工程から成る第三工程、の各工程を逐次経由することを特徴とする方法を記載する(請求項1)。
【0011】
下記特許文献6は、結晶マルチトール及びそれを含有する含蜜結晶の製造方法において、1)固形物中に40〜75重量%のマルトースを含むシロップを接触水素化して相当する糖アルコールシロップを得る第一工程、2)糖アルコールシロップを陽イオン交換樹脂を充填した塔に供給してクロマト分離し、ソルビトールを多く含む画分と、固形物中にマルチトールが80.5〜86.5重量%含まれるマルチトール含有シロップ画分(a)及び重合度(DP)が3以上のポリオール画分を得る第二工程、3)マルチトール含有シロップ画分(a)を陽イオン交換樹脂を充填した塔に供給してクロマト分離し、ソルビトールを多く含む画分と、固形分中にマルチトールが97.5重量%以上含まれるマルチトール含有シロップ画分(b)及び重合度(DP)が3以上のポリオール画分を得る第三工程、4)マルチトール含有シロップ画分(b)を濃縮した後、結晶化して、結晶マルチトールと固形物中に90重量%以上のマルチトールを含む母液とを得る第四工程、5)第四工程で得られた母液を種結晶の存在下で噴霧乾燥又は冷却混練することにより結晶マルチトールを含有する含蜜結晶を得る第五工程、の各工程を逐次経由することを特徴とする製造方法を記載する(請求項1)。
【0012】
下記特許文献7は、濃度92〜98重量%、固形物中のマルチトール純度が88重量%以上のマルチトール水溶液を連続的に容器内に導入し、攪拌することによりマルチトール結晶を発生させて、マルチトールスラリーを生成させる工程、該工程で生成したマルチトールスラリーを冷却・混練してマルチトールマグマを形成させ、該マグマを押出孔から押出し、マルチトール含蜜結晶を得る工程、を連続して行うことを特徴とするマルチトール含蜜結晶の連続的製造方法を記載する(請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭56−117796号公報
【特許文献2】特開平3−240463号公報
【特許文献3】特開平5−294862号公報
【特許文献4】特開平6−7110号公報
【特許文献5】特開平9−19300号公報
【特許文献6】特開平10−17589号公報
【特許文献7】特開2004−346081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記したように酵素α-グルコシルトランスフェラーゼをショ糖液に作用させて得られたイソマルツロース含有糖液に含まれる糖類の組成は、イソマルツロースが60〜90質量%、トレハルロースが5〜35質量%、並びにグルコース及びフルクトースがそれぞれ0.2〜5質量%である。トレハルロースは非結晶性(液状)である。よって、遠心分離工程を経ない場合、主としてトレハルロースからなる非結晶の糖液の存在の故に、当該イソマルツロース含有糖液から固形物を得ることは困難である。従って、従来、当該イソマルツロース含有糖液そのものは、固形化又は粉末化したイソマルツロース製品として販売できなかった。従来の固形化又は粉末化したイソマルツロース製品として、上記結晶パラチノースIC(三井製糖株式会社)が挙げられる。この製品はイソマルツロース結晶である。イソマルツロース結晶を得る為には、上記のとおり、結晶化工程及び遠心分離工程を経る必要があった。特に、当該イソマルツロース結晶を上記非結晶の糖液から分離する為に遠心分離工程は必須であった。しかし、酵素α-グルコシルトランスフェラーゼをショ糖液に作用させて得られたイソマルツロース含有糖液は糖類のうち約80質量%がイソマルツロースであるので、当該糖液それ自体を固形化又は粉末化できれば、イソマルツロース純度は従来製品より低いものの、イソマルツロース製品として販売できる。そこで、本発明は、上記遠心分離工程を経ずに、固形製品又は粉末製品として販売可能なイソマルツロース製品を製造する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、上記非結晶の糖液を含む固形物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、ショ糖からイソマルツロースを生成する酵素をショ糖液に作用させてイソマルツロース含有糖液を得、当該糖液からイソマルツロース含有固形物を製造する方法を提供する。当該方法は、当該糖液を加熱して、当該糖液の固形分濃度を77〜96質量%に調整すること、上記で得た調整物を70〜120℃に保ちながら、せん断力を与えて結晶核を生成する処理に付すこと、そして上記で得た処理物を冷やすことを含む。また、本発明は、イソマルツロースを70〜90質量%含有する固形物であって、当該固形物が結晶と非結晶の糖液とが集合したものであり、当該結晶のメディアン径が、レーザー回折式粒度分布測定により測定したときに、0.1〜20μmである、前記固形物を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法により、ショ糖からイソマルツロースを生成する酵素をショ糖液に作用させて得られるイソマルツロース含有糖液を、従来の遠心分離工程を経ずに、固形化又は粉末化することができる。すなわち、本発明により、当該糖液を遠心分離せずに、トレハルロース等の非結晶の糖液を含む上記イソマルツロース含有糖液それ自体を全量固形化できる。その結果、イソマルツロース高含有の固形物又は粉末が得られる。
本発明の製造方法により得られた固形物および本発明の固形物は、イソマルツロースの固形製品又は粉末製品として販売することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の固形物中の結晶及び非結晶の糖液の状態のモデル図である。
【図2】本発明の固形物の顕微鏡写真である。
【図3】本発明の固形物の顕微鏡写真である。
【図4】本発明の固形物の顕微鏡写真である。
【図5】本発明の固形物を手で粉砕したものの顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において「イソマルツロース(isomaltulose)」とは、グルコースがフルクトースにα-1,6-グルコシル結合することによって構成された二糖をいう。イソマルツロースはパラチノース(palatinose)(商標)とも呼ばれる。以降、パラチノースともいう。
【0019】
本発明において、「ショ糖からイソマルツロースを生成する酵素」とは、ショ糖からイソマルツロースを生成することができる酵素であれば任意のものであってよい。当該酵素は、例えばα-グルコシルトランスフェラーゼである。α-グルコシルトランスフェラーゼは、例えばProtaminobacter rubrum、Serratia plymuthica、Erwinia rhapontici、又はKlebsiella sp.に由来するものである。
【0020】
本発明において「イソマルツロース含有糖液」とは、ショ糖からイソマルツロースを生成する酵素をショ糖液に作用させて得られた糖液であって、イソマルツロースを含む液をいう。当該ショ糖液は、当該酵素によりイソマルツロースを生成する為の原料となるものであればよい。例えば、当該ショ糖液は、製糖工程で得られるローリカー、ブラウンリカー、炭酸リカー及びファインリカーなどでありうる。当該ショ糖液は、上記酵素による反応の最適化の為に、ショ糖を5〜60質量%、特には10〜50質量%含みうる。当該ショ糖液はショ糖以外の糖を含んでもよいが、当該ショ糖液に含まれる全ての糖類の合計質量に対して、ショ糖が97質量%以上であることが好ましい。当該ショ糖液に上記酵素を作用させることは、例えば特開昭57−39794号公報に記載の方法により行なわれうるが、当該方法に限られない。当該ショ糖液に上記酵素を作用させて、イソマルツロース含有糖液が得られる。ショ糖からイソマルツロースを生成する酵素をショ糖液に作用させて得られた糖液(以下、「イソマルツロース含有糖液」ともいう)は、イソマルツロース以外の糖類を含む。イソマルツロース以外の糖類として、例えばトレハルロース、フルクトース、グルコース、スクロース、イソマルトース、イソメレチトースなど、上記酵素の作用の結果得られる酵素反応液に含まれる糖を挙げることができる。さらに、イソマルツロース含有糖液はミネラル及び/又はアミノ酸を含みうる。当該糖液は、さらに他の成分を含みうる。当該他の成分は、例えば当該糖液に含まれる成分の濃度を各バッチ毎に一定にする為に添加されるものである。本発明の方法において、糖液中の各糖類の濃度及び組成は、高速液体クロマトグラフィー等の当技術分野の通常の方法により測定されうる。
【0021】
当該イソマルツロース含有糖液は、当該イソマルツロース含有糖液に含まれる糖類のうち、70〜90質量%、好ましくは72〜89質量%、より好ましくは74〜88質量%、さらにより好ましくは75〜85質量%がイソマルツロースである。当該イソマルツロースの割合の計算において、分母は、当該イソマルツロース含有糖液に含まれるイソマルツロース、トレハルロース、フルクトース、グルコース、スクロース及びイソマルトースの合計質量である。糖類の質量は無水物として計算される。イソマルツロースの割合が低すぎる場合、糖液の固形化ができない。イソマルツロースの割合は上記上限より高くてもよいが、通常は、製造効率の観点から、上記酵素を作用させた結果得られる糖液中のイソマルツロース割合に従い上記上限の割合までとする。
【0022】
当該イソマルツロース含有糖液に含まれる糖類の合計質量に対するトレハルロースの質量割合は、例えば8〜25質量%、特には9〜20質量%、より特には10〜18質量%でありうる。当該イソマルツロース含有糖液に含まれる糖類に対するグルコースの割合は、例えば0.1〜5質量%、特には0.2〜4質量%、より特には0.3〜3質量%でありうる。当該イソマルツロース含有糖液に含まれる糖類に対するフルクトースの割合は、例えば0.1〜5質量%、特には0.2〜4質量%、より特には0.3〜3質量%でありうる。これらの割合の計算においても、分母は、イソマルツロースの質量割合と同様に、当該糖液に含まれるイソマルツロース、トレハルロース、フルクトース、グルコース、スクロース、イソマルトースの合計質量である。これらの糖類の質量は無水物として計算される。
当該イソマルツロース含有糖液の形態はいかなる形態のものであってよく、例えば、イソマルツロース及びイソマルツロース以外の糖類は液中に溶解していてよく、又は、液中に懸濁若しくは分散していてもよく、又は液中に沈殿していてもよい。
【0023】
本発明において「固形物」とは、結晶と非結晶の糖液とが集合したものである。当該結晶はイソマルツロース結晶であると考えられる。また、本発明の固形物中において、上記非結晶の糖液は、当該イソマルツロース結晶によって取り囲まれていると考えられる。本発明の固形物中の結晶及び非結晶の糖液の状態のモデル図を図1に示す。
【0024】
上記結晶がイソマルツロース結晶であることは、顕微鏡、例えばデジタルマイクロスコープ(株式会社ハイロックス、KH−7700)など、により確認されうる。すなわち、当該固形物をポリ袋に入れ、袋の外から指又は棒などで当該固形物を押しつぶして、粉砕物を得る。得られた粉砕物を顕微鏡により確認すると、結晶を確認することができる。すなわち、当該結晶は顕微鏡観察により透き通ってみえる。なお、複数の成分又は複数の糖類が固形化したものは、透き通ってみえない。当該結晶は細長い形状をしており、いくつかの結晶が集合体を形成している場合もある。当該集合体を形成している場合、各結晶がある面で接している。また、上記糖液中に含まれる糖類のうち、イソマルツロース以外の糖類は結晶化していないと考えられる。例えば、トレハルロースは非結晶性である。また、グルコース、フルクトース、及びショ糖などの含有率が低い糖類は蜜分として存在し、結晶にならないと考えられる。
【0025】
当該結晶のメディアン径は、0.1μm以上20μm以下、より特には0.2μm以上15μm以下、さらに特には0.3μm以上10μm以下である。当該メディアン径が大きすぎる場合、結晶が集合するのに非常に時間を要し、製造が効率的でない。当該メディアン径が小さすぎる場合、固形物が形成されない。当該メディアン径は、レーザー回折式粒度分布測定により測定される。
当該測定方法は、当技術分野の通常の知識に従うものである。レーザー回折式粒度分布測定は、特には、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所、SALD−2000J)により行なわれる。当該測定は、以下のとおりに行なわれる。すなわち、当該固形物をポリ袋に入れ、袋の外から指又は棒などで当該固形物を押しつぶして粉砕物を得る。得られた粉砕物を、バイアル瓶中の2−プロパノールに添加し、バイアル瓶を数回、特には5〜10回、振って、粉砕物を懸濁させる。懸濁させた後、バイアル瓶を数秒間、特には約5〜10秒間、静置して得られた懸濁液の上清を得る。当該上清の濁度を2−プロパノールにより2.0以下に調整する。調整した懸濁液を上記レーザー回折式粒度分布測定によって測定することにより、当該メディアン径が得られる。
【0026】
市販されているイソマルツロースのうち、例えば結晶パラチノースIC(三井製糖株式会社)はメディアン径が国際標準篩(ISO)により350〜450μmである。一方、本発明において、結晶のメディアン径は、0.1μm〜20μmであることから、上記結晶パラチノースICよりも極めて小さな粒径を有する結晶が生成し、当該結晶が集合した塊が形成される。
【0027】
本発明の固形物は、イソマルツロース及びイソマルツロース以外の糖類を含む。本発明の固形物に含まれる糖類の組成及び質量割合は、上記で述べたイソマルツロース含有糖液に含まれる糖類の組成及び質量割合と同じである。また、本発明の固形物中の非結晶の糖液は、特にはトレハルロース、フルクトース、グルコース、スクロース、イソマルトース及び/又はイソメレチトースを含む糖液である。当該非結晶の糖液はイソマルツロースも含みうる。さらに、当該非結晶の糖液は、ショ糖からイソマルツロースを生成する酵素をショ糖液に作用させて得られる糖液に含まれる成分であって、糖類以外の成分、例えばミネラル及び/又はアミノ酸、を含みうる。当該非結晶の糖液は上記蜜分でありうる。当該非結晶の糖液は、本発明の固形物中において、その全部が液状であってよく、又は、その一部が液状であり且つそれ以外が固体状であってもよい。特には、当該非結晶の糖液のうち、当該非結晶の糖液の質量に対して、トレハルロースが40質量%〜99質量%、特には45〜80質量%、より特には50〜70質量%でありうる。
【0028】
本発明の固形物は、当技術分野の通常の粉砕手段によりあるいはヒトの手によって容易に粉砕することができる。上記粉砕手段として例えばピンクラッシャー又はハンマーミル等を挙げることができる。粉砕の結果、上記メディアン径の結晶から構成される粉末が得られる。また、粉砕の結果、例えば20μm〜6mm、特には30μm〜5mmのメディアン径(粒度)の粒状物を得ることもできる。当該メディアン径は、用途に応じて調節されることができる。当該メディアン径は、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所、SALD−2000J)を用いて測定されうる。
【0029】
当該固形物は、イソマルツロース含有率が70〜90質量%、特には72〜89質量%、より特には74〜88質量%、さらに特には75〜85質量%、さらに特には80質量%超〜85質量%でありうる。その結果、上記市販されているイソマルツロースの代替物として利用できる。さらに、上記市販されているイソマルツロースの製造工程における遠心分離工程が省略されることにより、液体を固形化又は粉末化するのに要する時間及びエネルギーを大幅に減らすことができる。その結果、大幅な効率化が図られる。また、従来のイソマルツロース結晶の製造において生成していた蜜分を生成せずに、上記イソマルツロース含有糖液を全量固形化することができる。
【0030】
本発明において固形物全体としての水分含有量は、0.5〜9質量%、特には0.55〜8質量%、さらに特には0.8〜7質量%でありうる。当該水分含有量が高すぎる場合、フォンダン状になり固形物でなくなる。本発明の固形物は、乾燥処理によって上記水分含有量の範囲を下回るように処理されうるが、そのような処理は製造効率の観点から好ましくない。市販されているイソマルツロースのうち、例えば結晶パラチノースIC(三井製糖株式会社)は水分含有量が0.2質量%以下であり、粉末パラチノースICP(三井製糖株式会社)は水分含有量が0.3質量%以下である。すなわち、本発明の固形物は、市販されているイソマルツロースと比べて水分含有量が高い。上記水分含有量は、固形物を75℃で3時間の減圧乾燥を行ない、減圧乾燥前後の質量変化に基づき算出される(以下、この水分含有量測定法を「減圧乾燥法」という)。
また、当該水分含有量は、測定時間の短縮の為に、赤外線水分計(kett社製赤外線水分計FD-600-2、65℃、20分の加熱乾燥)により測定されてもよい。減圧乾燥法による水分含有量と赤外線水分計による水分含有量とは相関があり、赤外線水分計による水分含有量は、所定の式により、減圧乾燥法による水分含有量へと換算できる。当該式は以下のとおりである:固形物の粒径が2mmパス600μmオンである場合、y=0.9408x−0.3698 (R2=0.9979);固形物の粒径が600μmパスである場合、y=0.9828x-0.1879 (R2=0.997)。当該式において、yは減圧乾燥法による水分含有量であり、xは赤外線水分計による水分含有量である。R2は、上記相関における決定係数である。例えば、2mmパス600μmオンの固形物の赤外線水分計による水分含有量2.8質量%及び600μmパスの固形物の赤外水分計による水分含有量2.9質量%が、減圧乾燥法による水分含有量3質量%に相当する。
【0031】
本発明の固形物に水を加え、Brixを25°に且つpHを7に調整した液の色価は、好ましくは600以下、より好ましくは500以下、さらにより好ましくは400以下、300以下又は200以下であり、最も好ましくは100以下である。当該色価により、従来のイソマルツロース製品と同等の外観が得られる。当該色価の測定方法は、「製糖便覧」(精糖技術研究会編、1962年6月30日発行、朝倉書店)に記載された白糖の色価の測定方法において、測定条件のうちBrixを25°に、pHを7に変更し、且つセル長さを5cmに変更した方法である。測定方法の具体的な手順は以下のとおりである。当該固形物に水を加え、Brixを25°に且つ、1規定の塩酸又は水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを7に調整する。得られた調整液について、分光光度計にて波長420nm及び波長720nmの吸光度を測定する。測定された吸光度から、以下の計算式に基づき色価(AI)が算出される。AI={(-logT420)-(-logT720)}÷(b×c)×1000。ここで、-logT420は420nmにおける吸光度であり、-logT720は720nmにおける吸光度である。bはセルの長さ(cm)であり、cは、当該調整液のBrixに基づいて算出された、上記調整液1mlに含まれる糖類の質量(g/ml)である。
【0032】
本発明の固形物は、イソマルツロースを70〜90質量%、特には72〜89質量%、より特には74〜88質量%、さらに特には75〜85質量%、さらに特には80質量%超〜85質量%含む。当該イソマルツロースの質量割合は、固形物の全質量に対する無水イソマルツロースの質量割合である。本発明の固形物は、トレハルロースを8〜25質量%、特には9〜20質量%、より特には10〜18質量%含みうる。当該トレハルロースの割合は、固形物の全質量に対する無水トレハルロースの質量割合である。本発明の固形物は、固形物の全質量に対して、グルコースを0.1〜5質量%、特には0.2〜4質量%、より特には0.3〜3質量%含みうる。本発明の固形物は、固形物の全質量に対して、フルクトースを0.1〜5質量%、特には0.2〜4質量%、より特には0.3〜3質量%含みうる。
【0033】
以下で、本発明の製造方法の各工程を説明する。
【0034】
本発明の製造方法において糖液の固形分濃度を、77〜96質量%、好ましくは80〜94質量%、さらにより好ましくは83〜93質量%に調整する。当該固形分濃度が低すぎる場合、次のせん断力付与装置による処理を行なっても固形物が得られず、当該糖液は例えばフォンダン状になる。当該固形分濃度が高すぎる場合、当該糖液は飴化し、次のせん断力付与装置による処理を行なっても粒子、特にはイソマルツロース微結晶(結晶核)が形成されない。当該固形分濃度の調整は、製造効率の観点から、好ましくは加熱により行なわれるが、他の方法により行なわれてもよい。当該加熱は、当技術分野の通常の方法により行なわれてよい。例えば、上記糖液を容器に入れて、当該糖液を攪拌しながら加熱機によって加熱することができる。当該加熱機の例として、濃縮缶、結晶缶、効用缶及び薄膜式濃縮機などを挙げることができる。本発明において、当該加熱により、糖液の温度が108℃〜122℃、特には110℃〜120℃、より特には112℃〜118℃に達せられることで、上記固形分濃度が得られうる。本発明において、当該加熱は常圧で行なわれてよい。当該加熱温度が低すぎる場合、次のせん断力付与装置による処理を行なっても固形物が得られず、当該糖液は例えばフォンダン状になり、一方、高すぎる場合、糖液の糖組成に影響はしないが、糖液が飴化する。また、より速やかな固形分濃度の達成の為に、加熱は減圧下で行なわれてもよい。当該加熱を減圧下で行なう場合、例えば、当該糖液を減圧下160mmHg(真空度−600mmHg)で72〜86℃に加熱することにより、当該糖液を減圧下110mmHg(真空度−650mmHg)で64〜77℃に加熱することにより、又は、当該糖液を減圧下60mmHg(真空度−700mmHg)で50〜62℃に加熱することにより、上記固形分濃度が得られる。
【0035】
本発明において「固形分濃度」とは、液体中に含まれる固形分の濃度である。本発明において、固形分濃度は当技術分野の通常の方法により測定されうる。例えば、数種類の濃度の溶液を用意し、それらを減圧乾燥(75℃、3時間)することにより、これら溶液の固形分濃度を求める。一方で、これら溶液のBrixを計測する。そして、これら溶液の固形分濃度及びBrixから固形分濃度とBrixとの間の関係性(例えば線形関係)を得る。当該得られた関係性に基づき、溶液の固形分濃度が求められる。
【0036】
本発明の製造方法において、上記固形分濃度を調整された調整物は、その温度を70〜120℃に保ちながら、せん断力を与えて結晶核を生成する処理に付される。すなわち、本発明において、当該処理は、上記調整物に結晶核を生成するせん断処理である。本発明において、当該処理は、せん断力付与装置により行なわれる。
【0037】
本発明において「せん断力付与装置」とは、物質にせん断力を付与することができる装置であり、特には粘度の高いものを練り混ぜる(ものをずらす力が逆方向に両側から掛かりすり混ぜる、こねる、混捏する)装置であり、特にはニーダの機能を有する装置であり、より特には加熱ができ、掻き取りができ、且つせん断処理に付される材料が容器に付着したまま残らない装置である。当該装置として、ニーダ、エクストルーダー、混練機、攪拌機及び万能混合攪拌機を挙げることができる。ニーダとして、例えばKRC(商標)ニーダ(株式会社栗本鐵工所)を挙げることができる。攪拌機として、例えばケンミックス(株式会社愛工舎製作所)を挙げることができる。その他、SCプロセッサなども用いられうる。
【0038】
本発明の製造方法において、せん断力付与装置によるせん断処理によって、結晶核が生成される。本発明の製造方法において、当該結晶核が発生することによって上記固形物が形成されると考えられる。好ましいせん断処理は、当該結晶核を作るような処理である。好ましいせん断処理は、具体的には以下に述べるせん断力付与装置及び処理条件により行なわれうる。以下に述べるせん断力付与装置及び処理条件により、固形化に要する時間が短縮され、製造方法の効率化が図られる。
【0039】
当該せん断力付与装置のうち、容量が小さいものとして例えば混練機、攪拌機および万能混合撹拌機を挙げることができる。これらの装置は、その容器がボウル状(曲面底)であり、縦軸で混捏用の撹拌羽根(パン生地用など)が使用でき、羽根と容器の隙間(クリアランス)に原料が入り羽根により混捏される。混練機、攪拌機および万能混合撹拌機の例として、例えばケンミックス(株式会社愛工舎製作所)、万能混合撹拌機(カントーミキサー、関東混合機工業株式会社)を挙げることができる。これら混練機、攪拌機および万能混合撹拌機において、回転数は、小型の卓上型のものでは100〜500rpm、5kg以下のものでは60〜220rpm、10kg以下のものでは150〜400rpmでありうる。このとき、もっとも力が掛かる部分の羽根の周速度は200〜900cm/分、特には300〜800cm/分でありうる。これより速くてもよいが、調整物が容器から飛び散る可能性がある。これらの装置を使用した場合、羽根は通常1本又は2本の線で容器と調整物を挟み込み、調整物に力が掛かる面積が少なく、また力は斜め下方向にかかり調整物が上部に逃げるため、せん断力付与処理に付す時間(以下、処理時間ともいう)は例えば1分〜40分、特には2分〜30分でありうる。当該処理時間は、調整物にせん断力が付与されている時間であり、例えば混練又は攪拌されている時間である。
【0040】
当該せん断力付与装置のうち、容量が大きいものとして例えば横軸式のせん断力付与装置、特には横軸式のニーダ、エクストルーダー、又はSCプロセッサを挙げることができる。これらの装置はいずれも、円筒状の容器中に軸に固定された回転する放射状、スクリュー状、または点対称の形(例えば楕円型またはおむすび型)の羽根がセットされるため、調整物には羽根と容器の間の間隙(クリアランス)を通過する間にあらゆる方向からせん断力がかけられる。ニーダの場合は調整物が通過する筒に混捏用のパドルがセットされる。ニーダでは、軸が両側で固定されており、軸を固定している片方の端付近に原料投入口があり、もう片方の端付近に原料排出口がある。ニーダ中の筒とパドルとの間のクリアランスは小さく、調整物が容器に残存しにくく、調整物が容器から掻き出されうる。当該装置として、例えばS2KRC(商標)ニーダ(株式会社栗本鐵工所)を挙げることができる。ニーダのパドル径が50mmであれば、ニーダの回転数は90〜500rpm、好ましくは100〜360rpm、特には200〜250rpmで使用できる。パドルはミキシング型であることが好ましい。エクストルーダーの場合は軸が片側で固定されており、もう片側の軸側が開放であり、排出口である。エクストルーダーはシリンダー中にスクリューがセットされるが、エクストルーダーでせん断処理する場合は、ニーディング用のディスクをセットする必要がある。ニーダのパドル径が大きくなるほど、またエクストルーダーのシリンダー径が大きくなるほど、同じ回転数でもせん断力が大きくなるため、回転数を落とすことができる。ニーダ及びエクストルーダーに代表される横軸式の混捏装置を使用する場合、クリアランスが0.3〜5mm、特には0.5〜3mmでありうる。ニーダ及びエクストルーダーに代表される横軸式のせん断力付与装置を使用する場合、周速度は20〜90cm/分、特には30〜80cm/分でありうる。横軸式のせん断力付与装置では、調整物にあらゆる方向から常にせん断力がかかるため、処理時間は例えば2秒〜60秒、特には3秒〜40秒、より特には4秒〜30秒でありうる。当該処理時間は、調整物にせん断力が付与されている時間である。当該処理時間は式:処理時間=(処理時のせん断力付与装置中の調整物量)/(調整物の供給速度)により算出される。例えば、S2KRCニーダをニーダ内充満率10体積%で用いた場合、その筒部分の容量が1200mLであり、当該容量のうちパドル部分を除いた部分の容量が40体積%、すなわち480mLであるので、せん断処理時にニーダ中に存在する調整物量は48mL(約50g)である。上記場合であって且つ供給速度が600g/分、すなわち10g/秒である場合、上記式に基づき、処理時間は5秒と計算される。当該供給速度は、ニーダから排出される処理物の時間当たりの量として求めてもよい。S2KRCニーダ以外の装置を用いた場合も、上記計算方法に従い処理時間が算出される。
【0041】
当該せん断力付与装置による処理における調整物の温度は65〜120℃、好ましくは66〜110℃、より好ましくは67〜100℃、さらにより好ましくは70〜95℃である。当該処理における当該調整物の温度が低すぎる場合、粘度が高すぎるためイソマルツロース結晶核が十分に生成せず、一方、高すぎる場合、充分な過飽和度が得られないため、結晶核が充分に生成しない。また、当該処理における他の条件、例えば装置の種類、周速度、及び処理時間などは、本発明の固形物中に上記メディアン径の結晶が得られるように適宜設定されてよい。
【0042】
また、本発明において、固形化に要する時間の短縮の為に、せん断力付与装置としてニーダを用いることが好ましい。本発明においてせん断力付与装置としてニーダを用いる場合、せん断力付与処理における当該調整物の好ましい温度は75〜100℃、好ましくは77〜95℃である。上記調整物が添加される上記ニーダ中の容器の温度をこれらの温度に維持することにより、当該調整物の温度は上記の温度に維持されうる。
【0043】
本発明の製造方法において、上記せん断処理によって生成する結晶核が、続く冷却工程においてさらに大きくなって、本発明の固形物中の結晶となりうる。上記せん断処理によって生成する結晶核は、続く冷却工程において大きくならずに、本発明の固形物中に存在してもよい。
【0044】
本発明において、上記せん断力付与装置による処理において、任意的にシードを当該調整物に添加することもできる。当該シードは、起晶の為に添加される。すなわち、当該シードは、当該調整物中にイソマルツロース結晶が発生することを促進すると考えられる。当該シードは、当技術分野において通常用いられるものでよく、例えばイソマルツロース結晶を粉砕したもの、特にはパラチノースICP(三井製糖株式会社)、又は、例えば、本発明において用いられるイソマルツロース含有液を単に減圧乾燥(75℃、2時間)してハンマーミル(不二パウダル株式会社、SAMPLE−MILL KIIW−1)で粉砕したもの又は本発明の固形物を粉砕したものである。
【0045】
上記せん断力付与処理後、当該処理により得られた処理物を冷やすことによって、本発明の固形物が得られる。当該冷却は、当該処理物を放冷することによって、または必要に応じて強制冷却することによって行なわれる。放冷又は強制冷却の例として、例えばせん断力付与装置から得られた液が1mm〜30mm、好ましくは2〜20mm、より好ましくは3〜15mmの厚さになるように冷却用バット上に流し、冷却することが挙げられる。他の冷却装置として、スチールベルトを挙げることができる。処理物は、例えば室温、特には0〜60℃、より特には10〜50℃、さらに特には20〜40℃に冷却されうる。
【0046】
本発明の固形物を粉砕して粒状物、例えば顆粒又は粉末などを得ることもできる。効率的に粒状物を得るために、好ましくは当該粉砕の前若しくは後に又は当該粉砕と並行して、固形物の乾燥が行なわれる。当該粉砕及び乾燥は当技術分野の既知の手段を用いて行なわれる。効率的に粒状物を得るために、当該乾燥により、固形物の水分含有量が好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、より好ましくは3.5質量%以下、さらにより好ましくは3質量%以下にされる。すなわち、本発明の粒状物は好ましくは上記の水分含有量を有しうる。当該水分含有量は、上記減圧乾燥法により測定されたものである。
【0047】
上記粉砕は、例えば以下のとおりに行なわれる。まず、本発明の固形物を、最大径2〜3cm程度の塊に粗砕する。得られた塊をさらに粉砕して粉砕物を得る。得られた粉砕物を乾燥する。このようにして粒状物が得られる。必要に応じて、当該乾燥された粉砕物を、さらに粉砕してもよい。
上記粗砕のための装置は、固形物を最大径2〜3cm程度の塊に粗砕することができる装置であれば任意のものであってよく、例えばピンミル、ハンマークラッシャー、ロールミル、ジョークラッシャー又はカッターミルなどであるがこれらに限定されない。上記粉砕のための装置は、当該粗砕により得られた塊を粉砕できる装置であれば任意のものであってよく、例えばパワーミル、ニブラ、フレーククラッシャー又は衝撃式粉砕機などであるがこれらに限定されない。当該乾燥は、例えば流動層乾燥機により行われるが、当業者に既知の他の乾燥機により行なわれてもよい。あるいは、当該粉砕及び乾燥は、上記粉砕及び乾燥を行う機能を有する装置、例えばドライマイスタなど、により行なわれうる。ドライマイスタは以下で述べる分級機能も有しうる。
【0048】
本発明の粒状物は、必要に応じて分級されうる。分級は当業者に既知の任意の手段により行なわれうる。当該分級において用いられる篩の目開きは当業者により適宜決定される。当該分級によって、粒状物の粒度分布において、上記目開きの値以上の粒径のものが1質量%以下である粒状物、例えば5mm以上、4mm以上、3mm以上、2mm以上、1mm以上、又は600μm以上の粒径のものが1質量%以下である粒状物など、が得られる。上記篩として、特には国際規格ISO3310-1:2000に従う目開き3.35mmの篩、目開き2mmの篩、目開き1mmの篩、又は目開き600μmの篩が用いられうる。また、2種類の目開きの篩を用いてもよく、これら2種類の目開きの間の粒径を有さないものが1質量%以下である粒状物、すなわちこれら2種類の目開きの間の粒径を有するものが99質量%超である粒状物が得られる。粒径が小さな粒状物、特には粒径が1mm以下、より特には600μm以下である粒状物を集めたものは、粉末状である。粒径が大きな粒状物、特には粒径が1mm超〜5mm以下である粒状物を集めたものは、顆粒状である。本発明において、粒径がNmm以上である粒状物とは、目開きNmmの篩をパスしなかった粒状物を意味する。
【0049】
また、本発明は、イソマルツロースを70〜90質量%含有する固形物であって、当該固形物が結晶と非結晶性の糖液とが集合したものであり、当該結晶のメディアン径が、レーザー回折式粒度分布測定により測定したときに、0.1〜20μmである、前記固形物も提供する。当該固形物は、上記の本発明の製造方法により得られる。当該固形物の特徴は、上記に示した本発明の製造方法により得られた固形物の特徴と同じである。
【0050】
下記に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものでない。
下記の実施例において、固形分濃度を以下のとおりにして測定した。すなわち、数種類の濃度の溶液を用意し、それらを減圧乾燥(75℃、3時間)することにより、これら溶液の固形分濃度を求める。当該減圧乾燥は、固形分濃度測定において通常用いられる減圧乾燥方法であり、真空ポンプにより行なわれた。一方で、これら溶液のBrixを計測する。Brixは、デジタル屈折計(株式会社アタゴ、RX−5000)により測定した。そして、これら溶液の固形分濃度及びBrixから固形分濃度とBrixとの間の線形関係を得た。当該得られた線形関係に基づき、溶液の固形分濃度を求めた。
【実施例1】
【0051】
(固形物の製造)
1.モデル液の加熱
ショ糖からイソマルツロースを生成する酵素をショ糖液に作用させて得られる糖液のモデル液として、パラチノースIC(三井製糖株式会社)、パラチノースシロップISK(三井製糖株式会社)及び水を、IC:ISK:水=65:24:11の配合割合(質量に基づく)で混合したモデル液を調製した。これは、イソマルツロース製造における酵素反応液は一般に、脱塩され、そしてパラチノース結晶の分離工程に付され、そして、分離された結晶分がパラチノースIC(三井製糖株式会社)であり、分離された蜜分がパラチノースシロップISK(三井製糖株式会社)である。すなわち、上記配合割合でパラチノースIC(三井製糖株式会社)とパラチノースシロップISK(三井製糖株式会社)とを混合した液は、ショ糖からイソマルツロースを生成する酵素をショ糖液に作用させて得られる糖液のモデル液として使用できる。
【0052】
当該モデル液を、常圧下で、加熱濃縮機(15L容量)で加熱して混合液の温度を115℃になるまで煮詰めた。煮詰め後の混合液のBrixは約85°であった。当該煮詰め後の混合液の固形分濃度は89%であった。このようにして、固形分濃度を89%に調整したものが得られた。
【0053】
2.調整物のせん断
上記調整物を、回転数を228rpmに設定し且つ下記表1に示す胴体温度及び供給量に設定したS2KRC(商標)ニーダ(株式会社栗本鐵工所)による処理に付した。下記表1に示すとおり、当該ニーダ中での調整物の処理時間(装置内滞留時間)は5〜18秒であり、当該調整物のせん断処理中の品温は73〜91℃であった。当該処理時間は、S2KRCニーダをニーダ内充満率10%で用いた場合の処理時間算出法により求めた。ニーダから排出された処理物を、処理物の厚さが3mmになるようにステンレスバットに受けて放冷し、当該処理物を固形化させた。また、ニーダからの排出後固形化するまでの時間を記録した。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示すとおり、いずれの処理時間及び処理中の品温においても、固形物が得られた。処理中の品温が実施例1−2、1−4、1−6又は1−7における品温である場合、特に固形化時間が短かった。また、得られた固形物はいずれも、粉砕機(ピンクラッシャー)によって粉砕し、流動層乾燥することによって粒状物を得ることができた。
【0056】
(固形物の分析)
上記実施例1−4の固形物をデジタルマイクロスコープ(株式会社ハイロックス、KH−7000)で観察した。その結果、図2及び図3のとおり(いずれも倍率50倍)、当該固形物は、粒子、特には結晶が集まった塊であることが分かる。また、図4(倍率250倍)において、当該結晶の粒度が50μmより小さいことがわかる。次に、上記固形物を手でつぶして粉砕物を得た。当該粉砕物を、バイアル瓶中の2−プロパノールに添加し、バイアル瓶を5〜10回振って粉砕物を懸濁させた。懸濁液を約5〜10秒間静置し、懸濁液上清を得た。当該懸濁液上清の濁度を2.0以下に調整した。濁度調整後の懸濁液上清中の結晶のメディアン径を、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所、SALD−2000J)により3回測定した。その結果を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
表2に示されるとおり、当該結晶の平均メディアン径は4.194μmであった。
【0059】
上記実施例1−4の固形物の水分含有量を測定した。測定は、約5gの当該固形物を約30gの秤量缶に精秤し、75℃で3時間の減圧乾燥後の質量変化から、水分含有量を算出することにより行なわれた。当該減圧乾燥は、食品の水分含有量測定において通常用いられる減圧乾燥方法であり、真空ポンプにより行なわれた。当該測定を3回行なった。その測定結果を表3に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
表3に示されるとおり、上記3回の測定における、当該固形物の平均水分含有量は1.53質量%であった。
【0062】
上記実施例1−4の固形物を手で粉砕したものを、デジタルマイクロスコープ(株式会社ハイロックス、KH−7700)にて観察した。観察結果を図5に示す。図5から固形物を構成する粒子が透明である。よって、これら粒子がイソマルツロース結晶であることが分かる。
【実施例2】
【0063】
(固形物の製造)
1.モデル液の加熱
ショ糖からイソマルツロースを生成する酵素をショ糖液に作用させて得られる糖液のモデル液として、パラチノースIC(三井製糖株式会社)、パラチノースシロップISK(三井製糖株式会社)及び水を、IC:ISK:水=58.3:21.7:20の配合割合(質量に基づく)で混合したモデル液を調製した。当該モデル液の糖組成を以下の表4に示す。
【0064】
【表4】

【0065】
モデル液を鍋に入れ、常圧下で、木ベラで攪拌しながらIHヒーターにて115℃又は120℃に加熱した。モデル液の固形分濃度は、115℃において88.5質量%であり、120℃において92.3質量%であった。このようにして、固形分濃度を調整した調整物が得られた。
2.調整物のせん断
調整物が115℃又は120℃になった時点で、当該溶液にシードを添加し、そして、攪拌機(ケンミックス、株式会社愛工舎製作所、メモリ3の攪拌速度)で攪拌混合した。当該シードは、パラチノースICP又は当該モデル液を単に減圧乾燥(75℃、3時間)してハンマーミル(不二パウダル株式会社、SAMPLE−MILL KIIW−1)で粉砕したもの(以下、「モデル液シード」という)である。シードの添加量は下記表5に記載されるとおりである。攪拌子は、当該攪拌機に付属のアルミビーターを使用した。当該攪拌混合の間、調整物はヒーターにより70℃に維持された。当該攪拌混合の結果、固形物が得られた。また、固形物が得られるまでの攪拌時間を記録した。
【0066】
(比較例1)
モデル液が125℃に加熱されたこと以外は、上記実施例2の固形化方法と同じ方法で固形化を行なった。125℃におけるモデル液の固形分濃度は95.6質量%であった。
【0067】
固形化の結果を以下の表5に示す。
【0068】
【表5】

【0069】
表5のうち、◎は固形物が得られたことを示し、○は一部飴化する部分があるが固形物が得られたことを示し、×は飴化して固形物は得られなかったことを示す。表5に示されるとおり、加熱温度が115℃及び120℃である場合、固形物が得られた。しかし、加熱温度が125℃である場合、反応液は飴化し、固形物は得られなかった。また、加熱温度が115℃及び120℃である場合、いずれのシードを用いた場合でも、固形物が得られた。特に、加熱温度が115℃である場合、飴化した部分を含まない固形物が得られた。
【0070】
(参考例)
上記加熱におけるイソマルツロースの分解の程度の確認
上記モデル液を加熱し、イソマルツロースが分解しているかどうかを確認した。当該確認は、モデル液を下記表6に示す各種温度に加熱し、当該各種温度における糖組成をHPLCにより分析することによって行なわれた。その分析結果を、以下の表6に示す。
【0071】
【表6】

【0072】
表6より、いずれの温度においても糖組成に大きな変化は無い。従って、上記加熱においてイソマルツロースは分解していない。
【実施例3】
【0073】
三井製糖株式会社岡山工場で40質量%のスクロース溶液を、Protaminobacter rubrum CBS574.77の生産するα-グルコシルトランスフェラーゼを固定化した固定化酵素を充填したバイオリアクターで反応させて、反応液を得た。得られた反応液は、Brix41.1°であった。得られた反応液の糖組成はイソマルツロース83.1質量%、トレハルロース11.1質量%、フルクトース1.9質量%、グルコース1.5質量%、及びその他の糖2.4質量%であった。当該反応液を、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂により脱塩し、脱塩液を得た。
上記脱塩液を横型薄膜遠心式濃縮機(ロートサームRT-2 Aタイプ、三菱マテリアルテクノ株式会社)に43.14kg/hの供給速度で投入して濃縮した。濃縮液のBrixは89.8°、固形分濃度は93.7質量%であった。当該濃縮における排出液温は112℃、排出速度は19.86kg/h、蒸発液は23.28kg/h、濃縮率は2.17倍であった。得られた排出液をニーダ(S2KRCニーダ、株式会社栗本鐵工所)により、上記実施例1−4と同じ条件でせん断処理及び冷却処理をした。せん断処理中の調整物の温度は88℃であった。当該処理の結果、固形物が得られた。固形化時間は5.5分であった。当該固形物を構成する結晶のメディアン径は4.30μmであった。減圧乾燥法によって測定された当該固形物の水分含有量は1.59質量%であった。
【実施例4】
【0074】
実施例3と同様に反応液を得た。得られた反応液は、Brix40.9°であった。得られた反応液の糖組成はイソマルツロース81.0質量%、トレハルロース11.3質量%、フルクトース2.3質量%、グルコース2.2質量%、及びその他の糖3.1質量%であった。当該反応液について、実施例3と同様に脱塩及び濃縮を行ない、濃縮液を得た。得られた濃縮液のBrixは86°、固形分濃度は89.8質量%であった。当該濃縮液を、回転数を240rpmに設定し且つ供給速度を21g/秒に設定したニーダ(S4KRCニーダ、株式会社栗本鐵工所)によるせん断処理に付した。当該濃縮液をニーダに投入したときの当該濃縮液の温度は96℃であった。ニーダのジャケット温度は70℃であった。せん断処理における、当該濃縮液の処理時間(ニーダー内滞留時間)は12.4秒であった。当該処理時間は、上記で述べたS2KRCニーダの場合の処理時間算出法のうち、筒部分の容量をS4KRCニーダの6300mLに変更し且つ供給速度を21g/秒に変更して求めた。せん断処理後にニーダから排出されたときの当該濃縮液の温度は71℃であった。せん断処理後の濃縮液をステンレスバットに流し、濃縮液を放置したところ、濃縮液が固形化して固形物が得られた。固形化に要した時間は約6分であった。
得られた固形物を、ピンミル(粗砕機RB1212、株式会社栗本鐵工所)で粗砕して粗砕物を得た。当該粗砕物は最大径2〜3cmの塊であった。当該粗砕物のかさ密度は、ABD粉体特性測定器(筒井理化学器械株式会社)により測定したところ、0.75kg/L(疎充填)であった。当該粗砕物の水分含有量は8.6質量%(kett社製赤外線水分計FD-600-2、65℃、20分の加熱乾燥)であった。この粗砕物を、破砕式造粒機(パワーミルP-3S、株式会社ダルトン、回転速度4000rpm、スクリーン孔径7mm、底板有り)で粉砕して粉砕物を得た。このときの処理能力は782kg/hであった。当該処理能力は、当該造粒機から30秒間で出てくる粉砕物の質量に基づき計算された。得られた粉砕物のうち、国際規格ISO3310-1:2000に従う目開き2mmのふるいをパスしたものが45.5質量%であった。当該粉砕物のかさ密度は0.59kg/Lであった。この粉砕物を流動層乾燥機(ミゼットドライヤーMDB-400、株式会社ダルトン)において熱風温度60℃、風量4.4m3/分で、排気温度が53.3℃になるまで乾燥した。乾燥した粉砕物のかさ密度は0.62kg/Lであり、粉砕物の水分含有量は、減圧乾燥法により測定したときに、2.8質量%であった。乾燥した粉砕物を再度上記破砕式造粒機(回転速度4000rpm、スクリーン孔径3mm、底板有り)で再度粉砕して粒状物を得た。得られた粒状物のうち、上記国際規格に従う目開き2mmのふるいをパスしたものの質量割合が、78.5質量%であった。当該粒状物を、上記国際規格に従う目開き2mm及び600μmの2段のふるいをセットした振動篩で分級した。当該分級の結果得られた粒状物のうち、600μmパスのものを「実施例4−1の粒状物」、2mmパス600μmオンのものを「実施例4−2の粒状物」という。
【実施例5】
【0075】
実施例4で得られた固形物について、粉砕用ピンハンマーをセットした気流乾燥機(ドライマイスタDMR-1、ホソカワミクロン株式会社、分散ローター回転数5500rpm、分級ローター回転数170rpm、熱風吸気温度80℃、排気温度72℃)により、粉砕、乾燥、及び分級を行って粒状物を得た。処理能力は4.51kg/hであった。得られた粒状物の水分含有量は、減圧乾燥法により測定したときに、2.67質量%であった。得られた粒状物を、レーザー回折式粒度分布測定装置(Mastersizer2000、マルバーン社)で測定したところ、粒子範囲は0.020μm以上2000μm以下であり、メディアン径は514.5μmであった。
【0076】
試験例1:実施例4で得た粒状物の評価
【0077】
実施例4−1の粒状物、実施例4−2の粒状物、粉末パラチノース(粉末パラチノースIC、三井製糖株式会社、以下「IC」という)、及び結晶パラチノースIC(パラチノースICP、三井製糖株式会社、以下「ICP」という)の4種の試料について、溶解速度、水分、水分活性、色価を測定した。これらの測定方法は以下のとおりである。なお、実施例4−1及び実施例4−2の粒状物については、実施例4の操作を繰り返し行い、Lot1、Lot2、及びLot3を得、それぞれのLotについて、測定を行なった。
【0078】
溶解速度
200 mlビーカーに蒸留水80gを入れ、ウォーターバスにて20℃に保ち且つスターラーにより300rpmで回転させた。上記試料それぞれ20gを当該ビーカーに添加し、当該添加から試料が溶解するまでの時間を測定した。固形物が液中に見えなくなったことをもって、試料が溶解したこととした。また、実施例4−1及び実施例4−2の粒状物のLot1〜3のうちLot1のみについて、測定を行なった。
【0079】
水分
上記で述べた減圧乾燥法により測定した。
【0080】
水分活性
水分活性測定装置(Novasina IC-500 AW-LAB、日本シイベルヘグナー株式会社)及び温度/湿度センサー(Novasina enBSK、日本シイベルヘグナー株式会社)を用いて測定した。
【0081】
色価
上記で述べた色価測定法により測定した。
【0082】
測定結果を、以下の表7に示す。
【0083】
【表7】

【0084】
表7に示されるとおり、実施例4−1の粒状物は、IC及びICPのいずれよりも、溶解時間が短い。すなわち、実施例4−1の粒状物は、IC及びICPのいずれよりも溶解速度が速い。また、実施例4−2の粒状物は、ICよりも溶解速度が速い。
【0085】
実施例4−1及び実施例4−2の粒状物のいずれもが、ICよりも水分が多いにもかかわらず、ICと同程度の水分活性を有するか又はICよりも水分活性が低かった。
【0086】
実施例4−1及び実施例4−2の粒状物のいずれもが、ICP及びICと同程度の色価又はICP及びICよりも高い色価を有した。
【0087】
試験例2:ハードキャンディの製造と評価
【0088】
なべに実施例4−2の粒状物7質量部及び水3質量部を入れ、それらを混合後、火にかけた。液温が160℃になった時点でなべを火からおろし、当該液を型に入れ、そして固めて、ハードキャンディを得た。
【0089】
実施例4−2の粒状物の代わりに同量のパラチノース(結晶パラチノースIC、三井製糖株式会社)を用いたこと以外は、上記方法でハードキャンディを製造した。
【0090】
実施例4−2の粒状物を用いたハードキャンディは、パラチノースハードキャンディと同様に透明であった。砂糖単独でハードキャンディを製造した場合、煮詰める工程又は固める工程において結晶が析出し、透明なハードキャンディが得られない。一方、パラチノース及び本発明による固形物によりキャンディを製造した場合、透明なキャンディが得られることが示された。
【0091】
試験例3:ヨーグルトドリンクの製造と評価
【0092】
(ヨーグルトドリンクの製造)
ヨーグルトドリンクを、下記表8に示す試験区1〜4の材料及び配合により製造した。実施例4−1及び4−2の粒状物並びにパラチノースの配合量は、砂糖の甘味度と合わせる為に、砂糖配合量の1/0.45倍とした。製造手順は以下のとおりである。(1)ヨーグルトに脱脂粉乳を加え、ダマにならないよう混ぜた。(2)(1)で得られた混合物に牛乳を加えて混ぜ、そして各糖類を加えてよく混ぜた。(3)(2)で得られた混合物に30質量%クエン酸を添加してpHを4.5に調整し、ヨーグルトドリンクを得た。
【0093】
【表8】

【0094】
(外観の評価)
色彩色差計(CR-400、コニカミノルタ株式会社)を用いて、試験区1〜4のヨーグルトドリンクを測定した結果を表9に示す。表9中の値は、国際照明委員会(CIE)の規定するCIE色差式L*a*b*に従うものである。L*、a*、及びb*はそれぞれ、エルスター、エースター、及びビースターと読む。
【0095】
【表9】

【0096】
表9に示されるとおり、試験区1〜4のヨーグルトドリンクの間で、色の違いはほとんどみられなかった。すなわち、実施例4−1及び4−2の粒状物を用いた場合、砂糖及びパラチノースを用いた場合と同等の外観を有するヨーグルトドリンクが製造される。なお、試験区1、2、及び4のヨーグルトドリンクの粘度は、試験区3のものよりも高かった。これは糖類の配合量がより多いことによる。
【0097】
(味の評価)
上記のとおり試験区1〜4の甘味度を揃えたが、試験区3のヨーグルトドリンクの甘味が最も強く、試験区4のヨーグルトドリンクの甘味が最も弱かった。試験区1及び2のヨーグルトドリンクの甘味は、試験区3のものよりも弱いが、しっかり感じられるものであった。
酸味については、試験区1及び2のヨーグルトドリンクが最も強く、試験区3のものが最も弱かった。
試験区4のヨーグルトドリンクと試験区1及び2のヨーグルトドリンクとを味の点で比較すると、試験区4のものは単調な味ですっきりしているのに対し、試験区1及び2のものは甘さに厚みがあり濃厚な味であった。試験区1のヨーグルトドリンクと試験区2のものとの間で、味質の差はなかった。
【0098】
試験例4:ホイップクリームの製造と評価
【0099】
(ホイップクリームの製造)
ホイップクリームを、下記表10に示す試験区1〜4の材料及び配合により製造した。実施例4−1及び4−2の粒状物並びにパラチノースの配合量は、砂糖の甘味度と合わせる為に、砂糖配合量の1/0.45倍とした。ホイップクリームは、生クリームに各種糖類を加え、ハンドミキサーで泡立て製造した。泡立ては、九分立てになった時点で止めた。
【0100】
【表10】

【0101】
食感及び味質において、試験区1〜4のホイップクリームの間で差は認められなかった。また、試験区3のホイップクリームよりも、試験区1、2及び4のものの方が、泡立ち始めるのが早かった。
【0102】
試験例5:チョコレートの製造と評価
【0103】
(チョコレートの製造)
チョコレートを、下記表11に示す試験区1〜3の材料及び配合により製造した。甘味を補う為に、試験区1及び2では、試験区3の砂糖配合量の半分だけを、それぞれ実施例4−1の粒状物又はパラチノースで置き換えた。チョコレートは、以下のとおりに製造した。まず、各種糖類を粉砕機で粉砕した。粉砕した各種糖類を刻んだブラックチョコレートと合わせた。湯煎にかけてブラックチョコレートを溶かした。ブラックチョコレートが溶けたら、40〜45℃で5分間、空気が入らないようによく混ぜた。糖類が均一に混ざったら、56℃まで温め、ボウルを冷水につけて28℃まで下げた。再び湯煎にかけて31℃まで温度をあげ、型に流し入れ、冷却して、チョコレートを得た。
【0104】
【表11】

【0105】
(味の評価)
試験区2のチョコレートと比較して試験区1のものは甘味に厚みがあり、香りや風味も良かった。甘味については、試験区3のチョコレートの甘味が最も強く、試験区2のものが最も弱かった。
苦味については、試験区3のチョコレートが、試験区1及び試験区2のものよりも強かった。また、試験区2のチョコレートは甘味が弱い分苦味だけが強く感じるのに対し、試験区1のものは甘味も苦味も強く、且つ、カカオの風味も感じられた。
【0106】
試験例6:抹茶スポンジの製造と評価
【0107】
(スポンジの製造)
スポンジを、下記表12に示す試験区1〜3の材料及び配合により製造した。甘味を補う為に、試験区1及び2では、試験区3の砂糖配合量の半分だけを、それぞれ実施例4−1の粒状物又はパラチノースで置き換えた。スポンジは、以下のとおりに製造した。まず、薄力粉及び抹茶を混合しふるった。バターを溶かした。全卵に糖類を入れて、湯煎で30℃に保ちながらハンドミキサーで12分間泡立てた。泡立てた卵液に、上記薄力粉及び抹茶の混合物を、3回に分けて入れさっくり混ぜた。さらに、溶かしバターを加え、練らないように混ぜてスポンジ生地を得た。スポンジ生地を、クッキングペーパーを敷いた天板に流し、200℃で15分間焼いて、抹茶スポンジを得た。
【0108】
【表12】

【0109】
得られた抹茶スポンジのうち、試験区1のスポンジが、甘さが控えめでさっぱりしていた。
【0110】
試験例7:バトンショコラの製造と評価
【0111】
(バトンショコラの製造)
バトンショコラを、下記表13に示す試験区1〜3の材料及び配合により製造した。甘味を補う為に、試験区1及び2では、試験区3の砂糖配合量の半分だけを、それぞれ実施例4−1の粒状物又はパラチノースで置き換えた。バトンショコラは、以下のとおりに製造した。まず、バターをクリーム状に練って、当該練ったバターに各種糖類を加えてさらに混ぜた。当該バターに、全卵を少しずつ加えた。さらに、篩った粉(小麦粉、アーモンドパウダー、ココアパウダーの混合物)を加えて生地を得た。当該生地を、絞り袋で天板に絞り出し、170℃で15分間焼いて、バトンショコラを得た。
【0112】
【表13】

【0113】
試験区1のバトンショコラは、試験区2のものよりもさっぱりしていなかったが、試験区3のものよりもさっぱりしていた。また、試験区1のバトンショコラが、最もビター感が強かった。
【0114】
試験例8:にんじんゼリーの製造と評価
【0115】
(にんじんゼリーの製造)
にんじんゼリーを、下記表14に示す試験区1〜3の材料及び配合により製造した。製造方法は以下のとおりである。まず、にんじんを適当に切って、水及びレモンと合わせ、それらをミキサーにかけて(15秒×3回)、にんじんジュースを得た。別途、ゲル化剤とそれぞれの糖類とをよく混合しておいた。当該混合物と上記ジュースとを鍋に入れてよく混ぜ、火にかけて沸騰してから3分間煮た。当該煮た液を型に充填し、そして冷却して、にんじんゼリーを得た。
【0116】
【表14】

【0117】
試験区1及び試験区2のゼリーは、試験区3のものよりも、にんじんの青臭みが少なかった。従来、パラチノースが、臭みのマスキングの為に添加されている。実施例の粒状物によっても、パラチノースと同様にマスキング効果が得られることが示された。
【0118】
試験例9:イチゴジャムの製造と評価
【0119】
(イチゴジャムの製造)
イチゴジャムを、下記表15に示す試験区1〜3の材料及び配合により製造した。砂糖と実施例4−2の粒状物の割合を変えて、結晶が析出しないBrix60°のイチゴジャムを検討した。なお、結晶析出を防ぐ為に、いずれの試験区においても、トレハルロースシロップ(ミルディア75、三井製糖株式会社)を全糖類質量の2質量割合配合した。
【0120】
【表15】

【0121】
試験区3のジャムは冷蔵保存1ヶ月後に結晶が析出したが、試験区1及び2のジャムは冷蔵保存1ヶ月後でも結晶は析出せず、3日間冷凍してから解凍しても結晶析出はみられなかった。
甘味を評価したところ、試験区3のジャムは、試験区1のジャムほどの甘さは無いが、しっかりとした甘さが感じられた。また、実施例4−2の粒状物の配合が多いジャムほど甘味がすっきりしており酸味が強かった。試験区3のジャムは、甘さと酸味のバランスがよく、イチゴの味が強かった。
【0122】
試験例10:チューインガムの製造と評価
【0123】
パラチノース又は実施例4−1の粒状物を用いてチューインガムを製造した。製造方法は、以下のとおりである。まず、チューインガムベース30質量部に、酵素糖化水飴(コーソシラップH85C、Brix85°、日本コーンスターチ株式会社)15質量部を加え、45℃に保温したニーダー(ベンチニーダーPNV-1、株式会社入江商会)を用いて5分間混練した。得られた混合物に、甘味料としてパラチノース(粉末パラチノースICP、三井製糖株式会社)54質量部又は実施例4−1の粒状物54質量部を数回に分けて加え、さらに1質量部のグリセロール(純正化学 食品添加物)を加えて15分間混練した。次いで、1質量部の香料(ペパーミントオイル、高田香料株式会社)を加えて5分間混練した。そして次に、取り粉として粉末パラチノース(粉末パラチノースICP、三井製糖株式会社)を用い、混練物を圧延して板ガム状に成型し(厚さ2mm、幅2cm、長さ7cm)、アルミ箔に包み、チューインガムを得た。
得られたガムを、製造の1週間後に観察したところ、実施例4−1の粒状物を使用したチューインガムは、パラチノースを使用したものよりもやわらかかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショ糖からイソマルツロースを生成する酵素をショ糖液に作用させてイソマルツロース含有糖液を得、当該糖液から固形物を製造する方法であって、
当該糖液を加熱して、当該糖液の固形分濃度を77〜96質量%に調整すること、
上記で得た調整物を65〜120℃に保ちながら、せん断力を与えて結晶核を作る処理に付すこと、そして
上記で得た処理物を冷やすこと、
を含む前記方法。
【請求項2】
前記固形分濃度を調整することが、当該糖液を常圧下で110〜120℃に加熱することによって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
イソマルツロースを70〜90質量%含有する固形物であって、当該固形物が結晶と非結晶の糖液とが集合したものであり、当該結晶のメディアン径が、レーザー回折式粒度分布測定により測定したときに、0.1〜20μmである、前記固形物。
【請求項4】
前記固形物の水分含有量が0.5〜9質量%である、請求項3に記載の固形物。
【請求項5】
前記固形物に水を加え、Brixを25°に且つpHを7に調整した液について測定した色価が600以下である、請求項3又は4に記載の固形物。
【請求項6】
前記固形物が粒状物であり、当該粒状物の粒度分布において、5mm以上の粒径のものが1質量%以下である、請求項3〜5のいずれか1項に記載の固形物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−179045(P2012−179045A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252794(P2011−252794)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(501190941)三井製糖株式会社 (52)
【Fターム(参考)】