説明

糖濃度測定装置、糖濃度測定システム、及び糖濃度測定方法

【課題】簡便に糖濃度を測定することができる糖濃度測定装置、糖濃度測定システム、及び糖濃度測定方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明にかかる糖濃度測定装置は涙液中のグルコースと反応する第1の物質が設けられ、光が照射されると涙液中のグルコース濃度に応じた信号光を発するグルコース反応領域2を有するコンタクトレンズを装着した被験者の糖濃度を測定する糖濃度測定装置であって、コンタクトレンズ1におけるグルコース反応領域2の位置を特定する位置特定部50と、位置特定部50で特定されたグルコース反応領域2に対して、光を照射する光照射部47と、光照射部47から照射された光によってグルコース反応領域2で発生した信号光を検出する検出部45と、検出部45によって検出された信号光に基づいて、涙液中のグルコース濃度を測定する測定部51と、を備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖濃度測定装置、糖濃度測定システム、及び糖濃度測定方法に関し、特に詳しくは涙液中に含まれるグルコースに応じて糖濃度を測定する糖濃度測定装置、糖濃度測定システム、及び糖濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血糖値を測定するには血液を直接採取して測定することが行われている。しかしこのような生体を傷つける侵襲的な方法は被測定者への負担が大きく、特に1日に何度も測定をしなくてはならない糖尿病患者には負担となる。そこで、非侵襲で血糖値を測定できる方法が種々検討されている。例えば赤外線を使い、特定の波長のグルコースの赤外線吸収量を測定するという方法が検討されている。しかし、血液中の糖濃度はあまり高くない上に、ノイズとなる様々なたんぱく質や脂質が混じっている。しかも赤外線の吸収特性は体温のわずかの変化に影響されるので、血糖値の絶対値はもとより相対変化を得るのも現実的ではなく、いまだ実用化されていない。
【0003】
その中で涙(涙液)の血糖値を測定するという方法がある。涙は血液と繋がっており、角膜の細胞に栄養を与えるために適度に血糖が含まれている。涙液の糖濃度は血糖値のおよそ10分の1程度であり、涙液中の糖濃度の変化は血糖値の変化を直接反映する。涙液中の糖濃度はグルコースに反応する酵素を使って直接測定が可能である。例えば特許文献1にはグルコース反応酵素をコンタクトレンズにつけて測定する方法が開示されている。グルコース反応酵素がグルコースに反応して2波長の蛍光を発するため、その蛍光を観測することで血糖中のグルコース濃度を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2004−528103号公報
【特許文献2】特表2008−502392号公報
【特許文献3】特表2005−502389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2の方法では、眼球の正面から瞳孔に光を当てて発する蛍光を検出している。従って、被験者は眼球を測定中動かすことができず、また測定装置は光学的に厳密につくられているので被験者の頭部が動かないようにする構造が必要になり、その分大きくなり、可搬性に問題がある。また眼球に直接可視光の光が入るので、測定中はまぶしく目がくらみやすい。したがって、この方法では常時測定ができず、数時間おきの測定となってしまう。
【0006】
また、特許文献3に記載されているデバイスはコンタクトレンズに埋め込まれているが、その構造は複雑で製作が難しい。特に通信用のデバイス、および持続時間が十分長い電池を開発するのは困難であり、高コストになる。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、糖濃度を簡便に測定することができる糖濃度度測定装置、糖濃度測定システム、及び糖濃度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様に係る糖濃度測定装置は、涙液中のグルコースと反応する第1の物質が設けられ、光が照射されると前記涙液中のグルコース濃度に応じた信号光を発するグルコース反応領域を有する眼用デバイスを装着した被験者に対して糖濃度を測定する糖濃度測定装置であって、前記眼用デバイスにおける前記グルコース反応領域の位置を特定する位置特定部と、前記位置特定部で特定されたグルコース反応領域に対して、光を照射する光照射部と、前記光照射部から照射された光によって前記グルコース反応領域で発生した信号光を検出する検出部と、前記検出部によって検出された信号光に基づいて、糖濃度を測定する測定部と、を備えるものである。このようにすることで、簡便に糖濃度を測定することができる。
本発明の第2の態様に係る糖濃度測定装置は、上記の糖濃度測定装置において、前記眼用デバイスには、前記グルコース反応領域に対して所定の位置関係にあるマークが設けられ、前記位置特定部は、前記マークの位置を特定することで、前記グルコース反応領域の位置を特定するものである。これにより、グルコース反応領域の位置を正確に特定することができるようになる。
本発明の第3の態様に係る糖濃度測定装置は、上記の糖濃度測定装置において、前記眼用デバイスには、前記光の照射によって前記信号光とは異なる波長の参照光を発生する第2の物質が設けられた参照用領域が設けられ、前記検出部は、前記参照用領域が発する前記参照光を検出し、前記測定部は、前記検出部が測定した参照光及び前記信号光に基づいて、前記涙液中の糖濃度を測定することを特徴とするものである。これにより、正確に糖濃度を測定することができる。
本発明の第4の態様に係る糖濃度測定装置は、上記の糖濃度測定装置において、前記位置測定部は、前記グルコース反応領域を含む前記眼用デバイスを撮像する撮像部を備え、前記撮像部によって撮像された画像を解析することで前記グルコース反応領域の位置を特定するものである。これにより、グルコース反応領域に確実に光を照射することができる。
本発明の第5の態様に係る糖濃度測定装置は、上記の糖濃度測定装置において、前記位置特定部は、特定した前記グルコース反応領域の位置に応じて、前記光照射部からの光及び前記検出部に向かう信号光の光軸の角度を調整する光軸調整部をさらに備えるものである。これにより、グルコース反応領域により確実に光を照射することができる。
本発明の第6の態様に係る測定装置は、上記の測定装置において、前記光軸調整部は、前記位置特定部で特定された前記グルコース反応領域に追尾するように、前記光軸の角度が調整されることを特徴とするものである。これにより、グルコース反応領域以外の部分に光が照射されるのを防ぐことができ、被験者が煩わしく感じるのをふせぐことができる。
本発明の第7の態様に係る糖濃度測定システムは、上記のいずれかの糖濃度測定装置と、涙液中のグルコースと反応する第1の物質が設けられ、光が照射されると前記涙液中のグルコース濃度に応じた信号光を発するグルコース反応領域を有する眼用デバイスと、備えたものである。これにより、簡便な糖濃度測定システムを提供することができる。
本発明の第8の態様に係る糖濃度測定方法は、涙液中のグルコースと反応する第1の物質が設けられ、光が照射されると前記涙液中のグルコース濃度に応じた信号光を発するグルコース反応領域を有する眼用デバイスを用いて糖濃度を測定する糖濃度測定方法であって、前記眼用デバイスにおける前記グルコース反応領域の位置を特定する位置特定ステップと、前記位置特定ステップで特定されたグルコース反応領域に対して、光を照射する光照射ステップと、前記光照射ステップで照射された光によって前記グルコース反応領域で発生した信号光を検出する検出ステップと、前記検出ステップで検出された信号光に基づいて、糖濃度を測定する測定ステップと、を備えるものである。このようにすることで、簡便に糖濃度を測定することができる。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明によれば、糖濃度を簡便に測定することができる糖濃度測定装置、糖濃度測定システム、及び糖濃度測定方法を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態に糖濃度測定システムに用いられるコンタクトレンズの構成を模式的に示す図である。
【図2】図1のコンタクトレンズを眼球に装着した状態を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に糖濃度測定システムに用いられるコンタクトレンズの別の構成を模式的に示す図である。
【図4】図3のコンタクトレンズを眼球に装着した状態を示す正面図である。
【図5】本発明の実施の形態に糖濃度測定システムの構成を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に糖濃度測定方法を示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施の形態に糖濃度測定システムに用いられるコンタクトレンズの変形例の構成を模式的に示す図である。
【図8】本発明の実施の形態に糖濃度測定システムに用いられる測定装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施の形態にかかる糖濃度測定システムに用いられるコンタクトレンズについて、図1を用いて説明する。図1(a)は、コンタクトレンズ1の構成を模式的に示す正面図であり、図1(b)は側面図である。このグルコース反応領域2は、グルコースに反応して所定の蛍光を発する物質が塗布や浸透により形成されている。そのような物質の一例として例えばフルオレセインデキストランはコンカナバリンAへの結合に関してグルコースと競合するので、グルコース濃度が高くなるとコンカナバリンAとの結合が外れ、グルコース濃度に比例した蛍光を発することができるようになる。例えば上記の蛍光物質を励起する波長488nmの紫外線を当てると、グルコース反応領域2は波長514nmのピークの蛍光を発し、蛍光の強さはグルコース濃度に比例する。このようにグルコース濃度に応じて蛍光が変化する領域がグルコース反応領域2である。またグルコース反応領域2には参照光としてローダミンなどのグルコースに影響を受けない蛍光材料を交ぜておくこともできる。
【0012】
このグルコース反応領域2が透明である場合は、コンタクトレンズ1上におけるグルコース反応領域2の位置の認識が困難となる。このため位置情報を知らせるためのマーク3がコンタクトレンズ1上に設けられている。マーク3は、例えばコンタクトレンズ1の表面に印刷などを行うことにより形成することができる。このマーク3は普段は透明で特定の波長に反応するような素材であっても良く、たとえば紫外線に反応する蛍光材料を用いることができる。図1では、コンタクトレンズ1に、グルコース反応領域2に対応するよう4つのマーク3が設けられており、それぞれのグルコース反応領域2の近傍にマーク3が配置されている。また、グルコース反応領域2がある部分を浸潤性として、涙液を浸透させる構成とすることが好ましい。こうすることで、コンタクトレンズ1の裏面側、すなわち眼球側の涙液がグルコース反応領域2まで浸透するため、涙液中のグルコース濃度の測定を確実に行うことができるようになる。
【0013】
図1(a)に示すように、正面視においてグルコース反応領域2は円形のコンタクトレンズ1の中心から外れた位置に形成されている。従って、コンタクトレンズ1を装着した状態では瞳孔及び虹彩を外れた位置にグルコース反応領域2が配置される。グルコース反応領域2を虹彩の周辺の一部に設ける場合、グルコース反応領域2が瞼に隠れてしまわないように、複数個配置するのが望ましい。図1では4つのグルコース反応領域2が設けられており、これらのグルコース反応領域2はコンタクトレンズ1の中心を挟んで対向するように分散配置されている。このように、コンタクトレンズ1の中心の上下左右にグルコース反応領域2を設けることで、いずれの角度でコンタクトレンズ1が装着されたとしても、いずれかのグルコース反応領域2が瞼から露出するようになる。
【0014】
図1に示すコンタクトレンズ1を眼球に装着すると図2に示すようになる。図2は、眼球10にコンタクトレンズ1を装着した状態を模式的に示す正面図である。眼球10の中心に虹彩11があり、虹彩11を覆うように虹彩11の周囲にコンタクトレンズ1が装着されている。また、眼球10が上下の瞼から見えており、上記の通り、左右2つのグルコース反応領域2が瞼から完全に露出しており、上下2つのグルコース反応領域2の一部が瞼に隠れている。さらに、左右2つのグルコース反応領域2の近傍にはマーク3があり、この2つのマーク3も瞼から完全に露出している。
【0015】
なお、図1、図2では、グルコース反応領域2が複数の領域に分かれているものとして説明したが、例えば、図3、図4に示すように、グルコース反応領域2を虹彩11の周囲に連続して円周方向に設けてもよい。図3(a)は、コンタクトレンズ1の別の構成を模式的に示す正面図であり、図1(b)は側面図である。図4は、眼球10にコンタクトレンズ1を装着した状態を模式的に示す正面図である。図3、図4のように、虹彩11の周辺を囲むように円環上のグルコース反応領域2を設けた場合、虹彩11から外側に所定距離だけ離れた位置では、必ずグルコース反応領域2が存在する。従って、虹彩11を基準にグルコース反応領域2の位置を把握できることとなり、位置特定用のマーク3を省くことができる。
【0016】
次に、上記のコンタクトレンズ1を用いた糖濃度測定システムについて図5を用いて説明する。図5は、本実施の形態にかかる測定システムの構成を示す図である。測定システムは、コンタクトレンズ1と、測定装置5とを備えている。測定装置5は、ミラー20、撮像装置21、受光装置22、励起光放射装置23、処理回路30、光軸調整回路31、受光制御回路32、信号処理回路33、表示・記録装置34、及び励起光制御回路35を備えている。上記各回路は、測定装置5全体又は各部を制御するCPU(Central Processing Unit)やROM(Read Only Memory)又はRAM(Random Access Memory)、画像処理用半導体等によって構成される。例えば、ソフトウェア及びハードウェア構成が協働することによって所定の処理を実行することが可能である。
【0017】
図5の例においては、被験者の左目の眼球10にはコンタクトレンズ1が装着され、コンタクトレンズ1にはグルコース反応領域2とマーク3が形成されている。眼球10の前方には、コンタクトレンズ1の装着者の視界を妨げない位置(例えば前方斜め左の位置)にミラー20が配置されており、ミラー20は例えば反射方向を可変できるよう、2軸で回転可能となっている。ミラー20はプラスチックなどに適度な反射率をもたせた半透明な材料でできていれば、視界を妨げず、より好ましい。
【0018】
眼球10の前方でコンタクトレンズ1の被験者の視界を妨げない位置には、ミラー20に加えて、撮像装置21が配置されている。撮像装置21は例えば小型のCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサやCCD(Charged Coupled Device)カメラであり、眼球10を撮影して、マーク3の位置を検出するために設けられている。例えば、眼球10の全体を撮像するように撮像装置21の画角や倍率を調整することで、確実にマーク3の位置を検出することができるようになる。撮像装置21で撮影した画像は処理回路30に出力され、処理回路30は画像処理により画像を解析して、マーク3の位置を割り出す。なお、図3、4に示したマーク3が設けられていないコンタクトレンズ1の場合、撮像装置21で虹彩11を撮像し、処理回路30が画像解析処理を行い、虹彩11の位置を割り出す。
【0019】
処理回路30は、求めたマーク3又は虹彩11の位置を光軸調整回路31に出力し、光軸調整回路31はその位置情報に基づいてミラー20の向きを操作し、光軸を調整する。ミラー20に対する光軸上には、励起光放射装置23と受光装置22が配置されている。励起光放射装置23は例えば次のような構成になっている。励起光放射装置23は、波長488nmの光を放射するLED(Light Emitting Diode)や半導体レーザ等の光源を有しており、コリメートレンズにより平行光あるいは平行光に近い光を作り出し、それをミラー20に向かって放射する。ミラー20は励起光放射装置からの放射光(励起光)をグルコース反応領域2に向けて反射する。グルコース反応領域2では励起光を受けて、514nmの蛍光を発する。このとき、発生する蛍光の強度は、涙液中のグルコース濃度に応じたものとなっている。グルコース反応領域2で発生した蛍光はミラー20に反射して、受光装置22に達する。
【0020】
受光装置22は例えば次のような構成になっている。受光装置22は514nm付近の光を通すバンドパスフィルタを有しており、蛍光信号以外の光信号を除去する。バンドパスフィルタを通った蛍光はレンズを通ってフォトダイオードに集光され、電気信号に変換される。受光装置22はグルコース反応領域2で発生した蛍光の強度に応じて電気信号を出力する。受光装置22からの電気信号は信号処理回路33に出力され、信号処理回路33は電気信号に基づいて血糖値を推定し、推定された血糖値は表示・記録装置34のモニタにより表示される。なお、モニタの代わりに、あるいはモニタとともにスピーカを設け、音声により血糖値を報知するようにしてもよい。また、血糖値の値は表示・記録装置34のメモリに記録され、血糖値の推移が参照出来るようになっている。なお、表示・記録装置34のメモリに記憶された血糖値のデータを有線又は無線のインターフェースにより、外部の装置に送信しても良い。受光制御回路32は受光装置22が適切に動作できるように制御する。例えば、適切な電圧や温度による特性の変化を補正するなどの役割を持っている。励起光制御回路35はレーザやLEDの光量の制御などを行っている。
【0021】
測定装置5を構成する構成要素は、例えば眼鏡の蔓(つる)やフレーム、あるいはヘッドマウントディスプレイといった形で目のそばに置かれる。こうすることで、装着性を向上することができ、長時間の装着が可能となる。
【0022】
ミラー20はDC的にグルコース反応領域2を追尾するような構成になっていてもよい。このようにグルコース反応領域2を追尾し、このグルコース反応領域2のみに励起光を照射するような構成とすることにより、瞳孔に励起光が入って患者の活動が妨げられるのを回避することができる。ミラー20によってグルコース反応領域2を追尾する場合、処理回路30での画像処理結果に応じてグルコース反応領域2の位置を求め、グルコース反応領域2の励起光の入射位置がグルコース反応領域に追尾するように光軸調整回路31がミラー20の角度を調整すればよい。あるいは、被験者の測定対象となる目がある付近を光軸調整回路31が常時スキャンするような構成でもよい。この場合は励起光を発するタイミングを処理回路30が励起光制御回路35に指示する。これにより、瞳孔に励起光が入射するのを防ぐことができるため、被験者に対する影響を低減することができ、長時間の測定を行うことができるようになる。
【0023】
本実施形態に係る測定方法について図6に示す。図6は、測定方法を示すフローチャートである。まずグルコース反応領域2の位置を確認する(S41)。これは撮像装置21と処理回路30により行う。すなわち、撮像装置21でコンタクトレンズ1の一部の画像を取得して、処理回路30がこの画像を解析することで、マーク3の位置を確認する。
【0024】
次に光軸調整を行う(S42)。これはミラー20と光軸調整回路31により行われる。すなわち、グルコース反応領域2に対するマーク3の相対位置が既知であるので、ステップS41で求めたマーク3の位置から、グルコース反応領域2に光軸が一致するように光軸調整回路31がミラー20の角度調整を行う。
【0025】
次にバックグラウンド受光を行い(S43)、蛍光でない514nmの信号を除去する。具体的には、励起光制御回路35によって励起光を照射していない状態で、514nmの光のバックグラウンドレベルを測定する。この測定結果は信号処理回路33内のメモリに一時的に蓄えられる。
【0026】
次に励起光照射を行い(S44)、その結果生じた蛍光の信号光を受光する(S45)。受光した信号光には蛍光だけでなくバックグラウンドノイズも含まれているので信号処理回路33はバックグランドレベルと信号光との差分を取得し、グルコース信号とする(S46)。蛍光の光量とグルコース濃度には相関があるので、これで涙液のグルコース濃度がわかる。次に信号処理回路33は涙液グルコース濃度と血糖値の関係を所定の方法により求める(S47)。涙液グルコース濃度と血糖値はほぼ比例関係(おおむね10分の1)であるが、その割合は被験者毎に異なるので、被験者毎にあらかじめ測定しておくことが好ましい。このようにして求められた血糖値を表示・記録装置34で表示したり記録したりする(S48)。
【0027】
上記のように、コンタクトレンズ1にグルコース反応領域2を設けるだけで血糖度の測定を行うことができるため、通常のコンタクトレンズ1と同様に装着することができ、被験者に負担を軽減することができる。また、測定装置5に簡素な光学系のみを追加すればよいため、簡便な構成の測定装置5で測定することができる。これにより、測定装置を小型化することができ、メガネ、ヘッドマウントディスプレイ等の被験者が身に着ける装着具に測定装置を組み込むことができる。測定装置の可搬性が高くなり、被験者が測定装置やコンタクトレンズ1を煩わしく感じることなく、継続して測定することができる。グルコース反応領域2の位置に応じて光軸を調整することで、グルコース反応領域2に光を照射すること、及びグルコース反応領域2によって発せられた蛍光の受光を容易に行うことができる。特に、グルコース反応領域2に追尾するように励起光を照射することによって、被験者の瞳孔に励起光が入射するのを防ぐことができ、長時間の測定を行ったとしても被験者の負担を低減することができる。また、目の付近をスキャンする構成としたとしても、瞳孔に励起光が入射する時間を低減することができるため、被験者の負担を低減することができる。
【0028】
なお、グルコース反応領域2に用いる物質については、上記の物質に特に限定されるものではなく、涙液中のグルコースと反応して、グルコースに応じた信号光を発する物質であればよい。同様に、参照光領域4に用いる物質についても、上記の物質に特に限定されるものではなく、涙液中のグルコースと無関係に参照光を発する物質であればよい。また、グルコース反応領域2の近傍に位置特定用のマーク3を設けることで、グルコース反応領域2の位置を確実に特定できる。さらに、撮像装置21で撮像した画像に対して画像解析を行うことで、簡便かつ確実にグルコース反応領域2の位置を特定することができる。グルコース反応領域2をコンタクトレンズ1の中心からずれた位置に形成することで、コンタクトレンズ1装着時にグルコース反応領域2が瞳孔からずれる。これにより、瞳孔に励起光が入射するのを防ぐことができ、長時間の測定を行うことができるようになる。
【0029】
(変形例)
ところで光学系とコンタクトレンズの位置関係などが随時変わる場合、励起光の状態や受光状況がそれに応じて変化する。そのために受光した光信号の絶対値が必ずしも涙液グルコース濃度を表すとは限らない場合がある。この場合、コンタクトレンズ1の一部にローダミン(中心発光波長574nm)などの蛍光材料を混ぜておき、2波長を測定し、ローダミンの蛍光を参照光として、その相対値によりグルコース濃度を推定する方法がある。この場合、受光装置22で514nmの蛍光と574nmの蛍光とを検出できるようにする。
【0030】
なお、ローダミンはグルコース反応領域2と同じ場所にあってもよい。この場合、受光装置22にフルオレセインデキストランによる514nmの蛍光とローダミンによる574nmの蛍光を区別するような工夫をする。たとえば2種類のバンドパスフィルタを用いて受光する蛍光の波長を切り替えたり、異なるバンドパスフィルタを各々用いた受光装置22を2系統用意する。このような構成の測定装置5においては、574nmの蛍光の光信号の変動から励起光の状態や受光状況の変化を推定することができるため、正確に糖濃度を測定することができる。
【0031】
しかしながらこの方法では、バンドパスフィルタの切替や2系統の受光装置22が必要となり装置全体の重さが増えてしまう。それを回避するためのコンタクトレンズ1を図7に示す。図7は、コンタクトレンズ1の変形例を模式的に示す正面図である。あらかじめコンタクトレンズ1にグルコース反応領域2以外に参照光領域4を設け、ここにたとえばローダミンを塗布又は浸透させる。参照光領域4の位置はグルコース反応領域2と同じようにマーク3との位置関係で判別ができる。そこで光軸調整回路31によりミラー20を調整し参照光のみを検出することができる。光軸調整回路31によりミラー20を調整して、励起光をグルコース反応領域2と参照光領域4を交互に照射する。受光装置22が514nmと574nmの両方の波長を検出できるようにすれば、バンドパスフィルタの機械的動作無しで1系統による測定を行うことができる。これにより重さを増やすことなく、より精密な測定が可能になる。なお、グルコース反応領域2と参照光領域4とが全く重ならないような別の領域としても良く、一部が重複するような領域としても良い。参照光領域4の位置についても、グルコース反応領域2と同様にマーク3の位置を基準として特定することができるようにしてもよい。
【0032】
その他の実施の形態.
図8を用いて、その他の実施形態にかかる測定装置の構成について説明する。図8は、測定装置5の構成を簡略化して示すブロック図であり、測定装置5は、撮像部41、制御部42、出力部43、記憶部44、検出部45、光軸調整部46、光照射部47、光出力部48、光受光部49、及び位置特定部50を備えている。制御部42は、測定装置5を制御するCPU等の集積回路を備え、各部の制御や情報処理を行う。制御部42は、コンピュータプログラムを用いたソフトウェアにより各部の制御を行っても良く、ハードウェア構成によって各部の制御を行っても良い。
【0033】
撮像部41は、撮像装置21と同様に、被検査者の眼の周辺の画像を撮像する。制御部42は、処理回路30と同様に撮像部41で撮像された画像に対して所定の画像解析処理を行い、グルコース反応領域2の位置を特定する。従って、撮像部41と制御部42が、コンタクトレンズ1におけるグルコース反応領域2の位置を特定する位置特定部50として機能する。光軸調整部40は、光軸調整回路31及びミラー20と同様に、位置特定部50で特定されたグルコース反応領域2の位置に基づいて励起光及び信号光の光軸調整を行う。光照射部47は励起光を出力する光出力部48を有しており、励起光放射装置23及び励起光制御回路35と同様に光出力部48は調整された光軸に沿って伝播する励起光を出力する。コンタクトレンズ1中のグルコース反応領域2に励起光が照射されることにより発生する蛍光は、上記の光軸に沿って伝播して検出部45に設けられた光受光部49で受光される。
【0034】
光受光部49は、蛍光の強度を電気信号に変換するフォトダイオード等を有しており、光受光部49を有する検出部45が受光装置22及び受光制御回路32と同様に機能する。制御部42に設けられた測定部51は、信号処理回路33と同様に光受光部49からの電気信号に基づいて、被験者の糖濃度を測定する。例えば、制御部42の測定部51は、記憶部44に予め記憶された変換式や変換テーブルなどを参照することによって蛍光強度からグルコース濃度を推定し、涙液中のグルコース濃度を血液中の糖濃度に変換する。表示・記録装置34と同様に、記憶部44は測定部51で測定された糖濃度を記憶し、出力部43は糖濃度をモニタ中に表示する。
【0035】
なお、コンタクトレンズ1はハードコンタクトレンズ、ソフトコンタクトレンズ、使い捨てコンタクトレンズ、カラーコンタクトレンズ、視力補正用コンタクトレンズ、角膜矯正用コンタクトレンズなどのいずれのタイプであっても良い。上記の説明では、被験者が目に装着する眼用デバイスをコンタクトレンズ1としたが、コンタクトレンズ1以外の眼用デバイスを用いてもよい。例えば、眼中レンズ、結膜下レンズ、角膜内レンズ、外科用シャント/インプラント等の眼内に装着される眼用デバイスであればよく、外部からグルコース反応領域2を撮像できる箇所に装着した状態で測定を行う。
【符号の説明】
【0036】
1 コンタクトレンズ
2 グルコース反応領域
3 マーク
4 参照光領域
5 測定装置
10 眼球
11 虹彩
20 ミラー
21 撮像装置
22 受光装置
23 励起光放射装置
30 処理回路
31 光軸調整回路
32 受光制御回路
33 信号処理回路
34 表示・記録装置
35 励起光制御回路
41 撮像部
42 制御部
43 出力部
44 記憶部
45 検出部
46 光軸調整部
47 光照射部
48 光出力部
49 光受光部
50 位置特定部
51 測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
涙液中のグルコースと反応する第1の物質が設けられ、光が照射されると前記涙液中のグルコース濃度に応じた信号光を発するグルコース反応領域を有する眼用デバイスを装着した被験者に対して糖濃度を測定する糖濃度測定装置であって、
前記眼用デバイスにおける前記グルコース反応領域の位置を特定する位置特定部と、
前記位置特定部で特定されたグルコース反応領域に対して、光を照射する光照射部と、
前記光照射部から照射された光によって前記グルコース反応領域で発生した信号光を検出する検出部と、
前記検出部によって検出された信号光に基づいて、糖濃度を測定する測定部と、を備える糖濃度測定装置。
【請求項2】
前記眼用デバイスには、前記グルコース反応領域に対して所定の位置関係にあるマークが設けられ、
前記位置特定部は、前記マークの位置を特定することで、前記グルコース反応領域の位置を特定する請求項1に記載の糖濃度測定装置。
【請求項3】
前記眼用デバイスには、前記光の照射によって前記信号光とは異なる波長の参照光を発生する第2の物質が設けられた参照用領域が設けられ、
前記検出部は、前記参照用領域が発する前記参照光を検出し、
前記測定部は、前記検出部が測定した参照光及び前記信号光に基づいて、前記涙液中の糖濃度を測定することを特徴とする請求項1、又は2に記載の糖濃度測定装置。
【請求項4】
前記位置測定部は、前記グルコース反応領域を含む前記眼用デバイスを撮像する撮像部を備え、前記撮像部によって撮像された画像を解析することで前記グルコース反応領域の位置を特定する請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の糖濃度測定装置。
【請求項5】
前記位置特定部は、特定した前記グルコース反応領域の位置に応じて、前記光照射部からの光及び前記検出部に向かう信号光の光軸の角度を調整する光軸調整部をさらに備える請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の糖濃度測定装置。
【請求項6】
前記光軸調整部は、前記位置特定部で特定された前記グルコース反応領域に追尾するように、前記光軸の角度が調整されることを特徴とする請求項5に記載の糖濃度測定装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の糖濃度測定装置と、
涙液中のグルコースと反応する第1の物質が設けられ、光が照射されると前記涙液中のグルコース濃度に応じた信号光を発するグルコース反応領域を有する眼用デバイスと、備えた糖濃度測定システム。
【請求項8】
涙液中のグルコースと反応する第1の物質が設けられ、光が照射されると前記涙液中のグルコース濃度に応じた信号光を発するグルコース反応領域を有する眼用デバイスを用いて糖濃度を測定する糖濃度測定方法であって、
前記眼用デバイスにおける前記グルコース反応領域の位置を特定する位置特定ステップと、
前記位置特定ステップで特定されたグルコース反応領域に対して、光を照射する光照射ステップと、
前記光照射ステップで照射された光によって前記グルコース反応領域で発生した信号光を検出する検出ステップと、
前記検出ステップで検出された信号光に基づいて、糖濃度を測定する測定ステップと、を備える糖濃度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−3075(P2013−3075A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137057(P2011−137057)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(308036402)株式会社JVCケンウッド (1,152)
【Fターム(参考)】