説明

糖濃度測定装置

【課題】試料中の塩分濃度の影響を受けずに、安定かつ精度よく糖濃度を測定する。
【解決手段】試料と接触し、電圧が印加されることにより、試料中の糖濃度に対応して電流が流れる作用極201及び対極202と、銀−塩化銀参照極203とを備えた、試料中の糖濃度を測定するための糖濃度測定用電極101と、試料中の塩化物イオン濃度を測定するための塩濃度測定用電極102と、塩濃度測定用電極102の出力から、銀−塩化銀参照極203の電位のずれを把握し、把握した電位のずれを用いて、作用極201に印加すべき電圧を補正する電圧補正部105とを有する糖濃度測定装置である。塩濃度測定用電極102は、糖濃度測定用電極101とは別個に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖濃度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
糖濃度測定装置としては、例えば特許文献1に記載されたものがある。特許文献1の装置では、糖濃度測定手段に用いる電極と塩分測定手段に用いる電極とを共通に使用し、糖濃度測定手段と塩分測定手段とを切換手段で切り換えて、尿糖と尿中塩分の両方を測定する。
【0003】
また、特許文献1には、簡略化した銀・塩化銀からなる電極を備えた参照極では、尿中塩分濃度の影響を受け、糖濃度がみかけ上高くなることも記載されている。特許文献1では、塩分濃度と補正係数の関係及び補正式により、塩分濃度と補正係数の関係を求め、測定された塩分濃度を塩分測定軸に当てはめて、それに対応する補正係数を求め、この求めた補正係数を補正式により代入することによって、補正後の糖濃度を算出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−30981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、微量な糖を含む試料を用いる場合には、特許文献1よりもさらに精度よく糖濃度を補正できる技術が望まれた。また、特許文献1の技術では、切換手段による糖濃度測定手段と塩分測定手段との切り替えにより、回路が不安定になることもあった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、試料中の塩分濃度の影響を受けずに、安定かつ精度よく糖濃度を測定できる糖濃度測定装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、
試料と接触し、電圧が印加されることにより、前記試料中の糖濃度に対応して電流が流れる作用極及び対極と、銀−塩化銀参照極とを備えた、試料中の糖濃度を測定するための糖濃度測定用電極と、
前記試料中の塩化物イオン濃度を測定するための塩濃度測定用電極と、
前記塩濃度測定用電極の出力から、前記銀−塩化銀参照極の電位のずれを把握し、把握した前記電位のずれを用いて、前記作用極に印加すべき電圧を補正する電圧補正部と、
を有し、
前記塩濃度測定用電極が、前記糖濃度測定用電極とは別個に設けられている、糖濃度測定装置が提供される。
【0008】
この発明によれば、糖濃度測定用電極とは別個に塩濃度測定用電極を設けるため、糖濃度測定用の電極回路と塩濃度測定用の電極回路とが互いに分離され、両者の電極回路が安定する。また、電極回路の安定化により、試料に含まれる塩化物イオンに対応した参照極に生じる電位のずれを正確に把握し、糖濃度測定用電極に印加すべき電圧を精度よく補正することができる。したがって、試料中の塩濃度の影響を受けずに、安定かつ精度よく糖濃度を測定することが可能になる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、試料中の塩分濃度の影響を受けずに、安定かつ精度よく糖濃度を測定できる糖濃度測定装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施の形態に係る糖濃度測定装置の論理構造を示す模式的なブロック図である。
【図2】実施の形態に係る糖濃度測定装置の電極構造の一例を示す平面図である。
【図3】実施の形態に係る糖濃度測定装置の一例を示す外観図である。
【図4】実施の形態に係る糖濃度測定装置を説明する図である。
【図5】実施の形態に係る糖濃度測定装置の電極構造の一例を示す平面図である。
【図6】実施の形態に係る糖濃度測定装置の動作を説明するフローチャートである。
【図7】実施例で用いた塩濃度測定用電極の構造を示す図である。
【図8】実施例を示す図である。
【図9】実施例で用いた糖濃度測定用電極の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0012】
図1は、本実施の形態の糖濃度測定装置の論理構造を示す模式的なブロック図である。また、図2は、本実施の形態の糖濃度測定装置が備える糖濃度測定用電極及び塩濃度測定用電極の模式図である。図1、2で示すように、この糖濃度測定装置は、試料と接触し、電圧が印加されることにより、試料中の糖濃度に対応して電流が流れる作用極201及び対極202と、塩化銀から塩化物イオンを生成する電極反応により作用極201の電位を制御する銀−塩化銀参照極203とを備えた、試料中の糖濃度を測定するための糖濃度測定用電極101と、試料中の塩化物イオン濃度を測定するための塩濃度測定用電極102と、塩濃度測定用電極102の出力から、参照極203の電位のずれを把握し、把握した電位のずれを用いて、作用極201に印加すべき電圧を補正する電圧補正部105とを有する。塩濃度測定用電極102は、糖濃度測定用電極101とは別個に設けられている。
【0013】
本実施の形態に係る糖濃度測定装置の一例には、例えば、図3で示す尿糖計1が挙げられる。図3で示すように、尿糖計1の外観の構成は、尿糖センサ2、表示部3、操作部4を含む。
【0014】
尿糖センサ2は、図1にも対応して示されるように、糖濃度測定用電極101と、塩濃度測定用電極102とを備えている。尿糖センサ2は、試料となる尿のグルコース濃度を電気化学的に検出する。尿糖センサ2の周辺部分は、液体試料が溜められるように凹型上になっており、尿糖センサ2は、その凹形状の底部に位置している。
【0015】
糖濃度測定用電極101は、試料中のグルコース濃度を測定するものであり、測定ベースは、Hセンサである。作用極201は、アノードであり、材料としては、白金、金、カーボン等が挙げられる。また、作用極201には、グルコースオキシダーゼが固定化されている。対極202は、カソードであり、材料としては、白金、銀、カーボン等が挙げられる。糖濃度測定用電極101は、セラミックス、ガラス、プラスチック、紙等の基板205上に、蒸着法、スパッタリング法、スクリーン印刷法などにより、作用極201及び対極202が形成され、スクリーン印刷法などによって、銀−塩化銀参照極203が形成される。
【0016】
作用極201にグルコースオキシダーゼ固定化させる方法としては、作用極201にグルタルアルデヒド架橋アルブミン膜を形成し、これを覆うようにグルコースオキシダーゼ含有光架橋樹脂膜を形成する方法が挙げられる。このように形成された作用極201に対して、直流電源106から直流電圧が印加されることで、固定化されたグルコースオキシダーゼによりグルコースが酸化され、グルコノラクトンに変化すると共に、過酸化水素が発生する(式(I))。
【0017】
グルコース(C12)+酸素(O)→グルコノラクトン(C10)+H(過酸化水素)・・・(I)
【0018】
発生する過酸化水素は、作用極201上でさらに酸化され、電子が生成する(式(II))。
【0019】
過酸化水素(H)→水素イオン(2H)+酸素(O)+電子(2e)・・・(II)
【0020】
式(II)で示す、過酸化水素反応により生じた電子により、作用極201から対極202に電流が流れる。そこで、これを糖濃度測定用電流検出回路107で検出し、糖濃度算出部108で処理されることで、試料中のグルコースの濃度を測定することができる。このとき、作用極201と銀−塩化銀参照極203との間の電位は、一定に保つように対極202の電位が制御される。
【0021】
銀−塩化銀参照極203の電位(E)は、通常、25℃で+0.222Vであるが、塩化物イオンを含む試料に接触すると、下記式(III)に基づきEの値に変動する。
E=E−(RT/F)log|Cl|・・・(III)
なお、式(III)中、Rは気体定数(J/mol)であり、Tは絶対温度(K)であり、Fはファラデー定数(C)である。|Cl|は、塩化物イオンの濃度である。
【0022】
そこで、本実施の形態では、塩濃度測定用電極102を糖濃度測定用電極101とは別個に設けることで、試料中の塩濃度変化を管理する。
【0023】
塩濃度測定用電極102は、図2で示すように、一対の電極(204a、204b)からなり、材料としては、白金、金、パラジウム等が挙げられるが、電極特性が安定することから、白金電極がより好ましい。塩濃度測定用電極102は、セラミックス、ガラス、プラスチック、紙等の基板206上に、蒸着法、スパッタリング法、スクリーン印刷法などにより形成することができる。塩濃度測定用電極102には、交流電源109から所定の周波数の交流電流が印加されることで、一対の電極(204a、204b)との間に電流が流れ、この電流を塩濃度測定用電流検出回路110で検出し、塩濃度算出部104でデータ処理することで、試料中の塩化物イオンの濃度を測定することができる。
【0024】
ここで、図2では、糖濃度測定用電極101と塩濃度測定用電極102とを別々の基板上に分離して形成する例を示したが、図5で示すように、同一の基板206上に形成させることもできる。この場合、糖濃度測定用電極101を一対の電極(204a、204b)で挟んで配置させることで、装置の大きさをコンパクトにすることができる。また、糖濃度測定用電極101及び塩濃度測定用電極102は、同一の基板206上に形成させることで、異なる基板で形成させるよりも、少量の試料で測定することができる。
【0025】
また、尿糖センサ2は、温度センサ113を備えていてもよい。温度センサ113は、尿糖センサ2の環境温度、又は、尿糖センサ2の凹部に溜められた液体試料の温度を測定する。
【0026】
図3に戻り、表示部3は、測定値や操作ガイダンス等を表示する。操作部4は、電源オン/オフスイッチ等を含んでいて、この電源オン/オフスイッチを押すことにより、オフされた電源がオンされ、再度、電源オン/オフスイッチを押すことにより、尿糖計1の電源がオフされるようになっている。
【0027】
図1に戻り、演算処理部5の構成について説明する。演算処理部5は、CPU(中央処理装置、Central Processing Unit)、RAM(メインメモリ、Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、入出力インターフェース等からなり、表示部3への表示や操作部4からの入力を含んだ、尿糖計1全体の制御を行うようになっている。加えて、尿糖計1は、図示しないA/D変換部を有しており、このA/D変換部は、尿糖センサ2で検出された信号を、デジタルデータに変換して演算処理部5へと出力するようになっている。具体的には、演算処理部5は、記憶部103と、塩濃度算出部104と、電圧補正部105と、糖濃度算出部108と、温度補正部114とを備える。
【0028】
記憶部103には、所定量の糖及び塩化物イオンを含有する基準試料Sのグルコース濃度及び塩化物イオン濃度(C)、基準試料Sに尿糖センサ2を浸漬させたとき作用極201に印加されるべき標準電圧(V)、銀−塩化銀参照極203の基準電位(−E)、後述する関係を示すテーブルや数式等があらかじめ記憶されている。
【0029】
尿糖計1は、通信部112を備えていてもよい。通信部112では、パーソナルコンピュータ等の外部機器と各種データの通信を行う。USB(ユニバーサル・シリアル・バス)、LAN(ローカル・エリア・ネットワーク)等の端子又は無線LAN、Bluetooth(登録商標)、ワイヤレスUSB等の接続装置である。
【0030】
次に、図6で示すフローチャートを用いて、本実施の形態の一例である尿糖計1の取扱、操作及び動作について説明する。
【0031】
(ステップS101)
測定者が、操作部4の電源オン/オフスイッチを押すなどすることにより、尿糖計1がオン状態になり、演算処理部5の動作により初期化処理が行われる。この初期化処理は、尿糖計1を測定状態にできるものであれば限定されず、例えば、基準試料Sを尿糖センサ2に浸漬させて、記憶部103に記憶された種々の基準に合致するよう印加電圧を調整してもよい。
【0032】
(ステップS102)
次に、測定者が尿糖センサ2の凹部に尿をかけたり、紙コップ等に入れた尿に浸漬させたりして、糖濃度測定用電極101及び塩濃度測定用電極102に測定試料Tを接触させる。
【0033】
(ステップS103)
次に、測定試料Tの塩化物イオン濃度を測定する。具体的には、演算処理部5の指示により、交流電源109から塩濃度測定用電極102に所定の周波数の交流電流が印加される。そして、一対の電極(204a、204b)の間に発生した電流を塩濃度測定用電流検出回路110が検出し、デジタル信号に変換して、塩濃度算出部104に送出する。
【0034】
ここで、記憶部103は、塩濃度測定用電極102の出力値と試料の塩化物イオン濃度との関係を記憶している。そこで、塩濃度算出部104は、塩濃度測定用電流検出回路110から受け付けたデジタル信号に対応する塩化物イオン濃度を算出し、電圧補正部105に算出結果を送出する。このとき、算出結果を記憶部103に蓄積したり、表示部3に表示させたり、通信部112からネットワークを介して出力させたりしてもよい。
【0035】
尿糖計1を用いた塩濃度の測定法について、具体例を挙げて以下に説明する。たとえば、装置の設計段階において、あらかじめ、図7で示す簡易的な電極構造を用意し、交流ボルタンメトリーによるモデル実験を行う。この例では、塩濃度測定用の一対の電極(204a、204b)として、プレナー型白金電極(各電極の表面積:2mm)を0.5mmの間隔で設置し、交流電圧を印加して、電流と塩濃度との関係を測定する。試料として、0.2、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0重量%の塩化ナトリウム水溶液を用いる。白金電極は、各試料の液中に含浸させて出力電流を測定する。その結果、例えば、図8に示すような、塩化物イオン濃度(重量%)と出力電流(nA)との関係が得られるので、記憶部103にこの関係を記憶させておく。こうすることで、塩濃度算出部104は、塩濃度測定用電流検出回路110から受け付けた塩濃度測定用電極102の電流値を図8に示す関係図にあてはめ、対応する塩化物イオン濃度を抽出して、測定試料Tの塩化物イオン濃度を取得することができる。
【0036】
ところで、通常の尿糖計では、電極表面が汚染して、電流値がずれることがある。この場合、基準試料Sを用いて下記式(11)に示すように測定試料Tの出力電流を補正することができる。
A'=A×IC0/I'C0・・・(11)
〔式(11)中、A'が補正後の測定試料Tの電流値であり、Aが得られた測定試料Tの電流であり、I'C0が測定試料Tの測定時において、基準試料Sを測定したときの塩濃度測定用電極102の出力電流であり、IC0が初期状態において基準試料Sを測定したときの塩濃度測定用電極102の出力電流である。〕
たとえば、記憶部103に記憶された基準試料Sの塩化物イオン濃度(C)が150mmol/L(0.88重量%)であれば、図8の関係からIC0は、5.8nAとなるが、使用により電極表面が汚染され、基準試料Sの塩化物イオン濃度(C)の測定時における塩濃度測定用電極102の出力(I'C0)が4nAに変動したとする。この場合、塩濃度算出部104は、塩濃度測定用電流検出回路110を介して得られた電流値Aを1.45倍(=IC0/I'C0=5.8/4)にし、図8で示す関係図にあてはめ、対応する塩化物イオン濃度を抽出して、測定試料Tの塩化物イオン濃度を取得することができる。
【0037】
なお、図7で示す電極における塩化物イオン濃度の測定範囲は、図8で示すように、0.1〜2重量%の範囲であるが、この範囲であれば、ヒト尿の塩濃度の測定範囲としては、問題はない。使用範囲から外れる範囲における表示部3への塩化物イオン濃度の提示は「0.1重量%以下」、「2重量%以上」等と表示させればよい。
【0038】
塩濃度測定用電極102が出力する電流は、電極の環境や試料温度によっても変動することがある。そこで、温度補正部114は、温度センサ113の測定結果を用いて、塩濃度算出部104が受け付けたデジタル信号を基準温度下(例えば25℃)におけるデジタル信号に補正してもよい。また、塩濃度算出部104が算出した塩化物イオン濃度を基準温度下で測定された塩化物イオン濃度に補正することもできる。
【0039】
図1に戻り、電圧補正部105は、測定試料Tの塩化物イオン濃度(C)を受け付けると、記憶部103に記憶されている基準試料Sの塩化物イオン濃度(C)及び銀−塩化銀参照極203の基準電位(E)を抽出し、測定試料Tの塩化物イオン濃度(C)と基準試料Sの塩化物イオン濃度(C)とを対比することで、銀−塩化銀参照極203の電位のずれを把握する。
【0040】
前述の式(III)及び図4で示すように、測定試料T中の塩化物イオン濃度が基準試料Sの塩化物イオン濃度(C)に対して10分の1になれば、参照極の(C)電位(E)がN大きくなり、測定試料T中の塩化物イオン濃度が基準試料Sの塩化物イオン濃度(C)の10倍になれば、参照極の電位(E)がN小さくなる。ここで、作用極201と参照極203との間の電位は、−Eに保つように制御すればよいため、測定試料Tの塩化物イオン濃度(C)が、基準試料Sの塩化物イオン濃度(C)に対して10分の1のときは、標準電圧(V)に対して、作用極201に印加すべき電圧を−Nとすればよく、測定試料Tの塩化物イオン濃度が基準試料Sの塩化物イオン濃度(C)に対して10倍のときは、標準電圧値(V)に対して、作用極201に印加すべき電圧を+Nとすればよい。こうして補正された電圧を直流電源106から糖濃度測定用電極101に印加する。
【0041】
また、記憶部103が、下記式(1)で示す補正式を記憶していれば、電圧補正部105は、記憶部103に記憶された基準試料Sの塩化物イオン濃度(C)、標準電圧(V)、及び、塩濃度算出部104が算出した測定試料Tの塩化物イオン濃度(C)を下記(1)にそれぞれ代入して、作用極201に印加すべき電圧(V)を決定することができる。
=V+N×ln(C/C)・・・(1)
〔式(1)中、Nは、RT/Fであり、Rは気体定数(J/mol)であり、Tは絶対温度(K)であり、Fはファラデー定数(C)であり、V及びVの単位は、mVであり、C及びCの単位は、mmol/Lである。〕
【0042】
(ステップS104)
ステップS103で補正された電圧は、直流電源106から作用極201に印加され、測定試料Tのグルコース濃度が測定される。具体的には、電圧の印加により、作用極201で前述の反応がおこり、過酸化水素の分解が生じて、作用極201から対極202に電流が流れる。そうすると、糖濃度測定用電流検出回路107は、この電流値を検出し、デジタル信号に変換して、糖濃度算出部108に送出する。記憶部103には、グルコース濃度と糖濃度測定用電極の出力値との関係が記憶されているため、糖濃度算出部108は、これを参照し、出力値に対応するグルコース濃度を選択して、測定試料Tのグルコース濃度が算出される。算出されたグルコース濃度は、記憶部103に蓄積させたり、表示部3に表示してユーザに示したり、通信部112からネットワークを介して出力してもよい。
【0043】
このとき、温度補正部114は、温度センサ113の測定結果を用いて、糖濃度算出部108が受け付けたデジタル信号を基準温度下におけるデジタル信号に補正したり、塩濃度算出部104が算出したグルコース濃度を基準温度下で測定されたグルコース濃度に補正してもよい。
【0044】
(ステップS105)
次に、演算処理部5が、測定及び演算終了の通知を行う。具体的には、表示部3に、「測定終了しました」というメッセージを表示し、ブザーを鳴らす。
【0045】
(ステップS106)
次に、演算処理部5が、測定結果及びアドバイスを表示する。例えば、記憶部103に記憶した、測定試料Tのグルコース濃度をそのまま表示部3に表示させる。このとき、記憶部103に記憶した、測定試料Tの塩化物イオン濃度を併せて表示部3に表示させることもできる。
【0046】
また、糖濃度算出部108は、測定試料Tのグルコース濃度を基準試料Sのグルコース濃度及び塩化物イオン濃度と比較して、所定の閾値を満たすか否かを判断してもよい。また、塩濃度算出部104もまた、測定試料Tのグルコース濃度及び塩化物イオン濃度を基準試料Sの塩化物イオン濃度と比較して、所定の閾値を満たすか否かを判断してもよい。このとき、糖濃度算出部108は、基準試料Sにかえて、過去の測定試料のグルコース濃度との比較を行ってもよい。塩濃度算出部104もまた、基準試料Sにかえて、過去の測定試料のグルコース濃度との比較を行ってもよい。閾値は、例えば、正常の範囲、生活不良の範囲(食べすぎ、水分不足)、健康不良の範囲といった項目ごとに定めることができる。判断結果は、メッセージあるいは警告として、グルコース濃度とともに表示部3に表示させればよい。さらに、演算処理部5は、糖濃度算出部108の判断結果と塩濃度算出部104の判断結果から、総合評価をして表示部4に表示させてもよい。これにより、ユーザは、尿中のグルコース濃度を把握するとともに、生活習慣を改善することができる。
【0047】
これらの測定結果及びアドバイスは、演算処理部5が表示部3に表示したメニューに従って、測定者が操作部4のボタンを操作することで、測定結果を閲覧することができる。また、通信部112を用いて、他のコンピュータへの送信を行い、他のコンピュータの画面上で測定結果を確認してもよい。
【0048】
測定終了後、洗浄等の後処理を行うメッセージを表示部3に表示し、ユーザは洗浄を行って、電源オン/オフスイッチにより、電源をオフにする。
【0049】
なお、図6の処理は、尿糖計1の測定モードのみに着目して説明したが、尿糖計1は、測定モードと、基準試料Sを用いた電位の基準合わせを行う較正モードとの2種類のモードを区別して実行してもよい。測定モードと較正モードとの切り替えは、例えば、公知のものを採用することができる。
【0050】
つづいて、本実施の形態の作用効果について説明する。本実施の形態の装置によれば、糖濃度測定用電極101とは別個に塩濃度測定用電極102を設けるため、糖濃度測定用の電極回路と塩濃度測定用の電極回路とが互いに分離され、両者の電極回路が安定する。また、電極回路の安定化により、試料に含まれる塩化物イオンに対応した参照極203に生じる電位のずれを正確に把握し、糖濃度測定用電極101に印加すべき電圧を精度よく補正することができる。したがって、試料中の塩分濃度の影響を受けずに、安定かつ精度よくグルコース濃度を測定することが可能になる。
【0051】
また、本実施の形態では、塩濃度測定用電極102として一対の電極を設けている。これにより、基準電位に対する塩濃度測定用電極102の出力の大小を精度よく検出してグルコース濃度測定の精度を改善し、かつ、電極構造をコンパクトにすることができる。
【0052】
また、本実施の形態の一例に係る尿糖計であれば、塩濃度の影響が顕著であるグルコース濃度が50mg/dl以下の健常レベルの尿であっても、塩濃度の影響を受けることなく、精度よくグルコース濃度を測定することができる。したがって、食べ過ぎや水分不足など食生活の改善の指針を提供することができ、ユーザの健康を増進し、生活習慣病の予防に寄与することが可能になる。この時、さらに、グルコース濃度ともに、塩濃度算出部104が算出した塩化物イオン濃度も併せて表示部3に表示させることで、食生活をより効果的に管理することができ、ユーザーはより効果的に生活習慣を改善することができる。
【0053】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
たとえば、実施の形態においては、尿糖計を例に挙げて説明したが、本発明の糖濃度測定装置は、血液中の血糖値や塩濃度、食物中の糖分、塩分等を測定することもできる。
【実施例】
【0054】
図7で示す簡易的な電極構造を用意し、交流ボルタンメトリーによるモデル実験を行った。この例では、塩濃度測定用の一対の電極(204a、204b)として、プレナー型白金電極(各電極の表面積:2mm)を0.5mmの間隔で設置した。交流電圧を印加して、図8で示すように、電流と塩濃度との関係を測定した。これに、図9で示す糖濃度測定用電極を用意した。この電極構成は、デジタル尿糖計UG−103(タニタ社製)と同じであり、参照極は、銀−酸化銀からなる電極である。また、上記式(1)中、標準電圧値(V)は、450mVとし、基準試料Sの塩化物イオン濃度(C)は、150mmol/L(0.9重量%)とした。なお、RT/Fは、25℃で59である。これらを代入して式(12)を用意した。
=450+59×ln(C/150)・・・(12)
試料として、グルコース濃度が50mg/dlであり、塩化物イオン濃度を0.03、0.09、0.3、0.9、1.8、3.0重量%にふったサンプルを用意し、上記式(12)を用いてVを算出し、それぞれ作用極201に電圧を印加した。このようにして測定されたグルコース濃度の誤差は、±5重量%以下に収まった。一方、すべてのサンプルについて、標準電圧値(V)である450mVを印加した場合は、測定したグルコース濃度の結果にぶれが生じ、誤差は、最大で±20重量%程度であった。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1で示すように、実施例は比較例と比べて顕著に精度よくグルコース濃度が測定できることが示された。
【符号の説明】
【0057】
1 尿糖計
2 尿糖センサ
3 表示部
4 操作部
5 演算処理部
101 糖濃度測定用電極
102 塩濃度測定用電極
103 記憶部
104 塩濃度算出部
105 電圧補正部
106 直流電源
107 糖濃度測定用電流検出回路
108 糖濃度算出部
109 交流電源
110 塩濃度測定用電流検出回路
112 通信部
113 温度センサ
114 温度補正部
201 作用極
202 対極
203 参照極
204a 電極
204b 電極
205 基板
206 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料と接触し、電圧が印加されることにより、前記試料中の糖濃度に対応して電流が流れる作用極及び対極と、銀−塩化銀参照極とを備えた、前記試料中の糖濃度を測定するための糖濃度測定用電極と、
前記試料中の塩化物イオン濃度を測定するための塩濃度測定用電極と、
前記塩濃度測定用電極の出力から、前記銀−塩化銀参照極の電位のずれを把握し、把握した前記電位のずれを用いて、前記作用極に印加すべき電圧を補正する電圧補正部と、
を有し、
前記塩濃度測定用電極が、前記糖濃度測定用電極とは別個に設けられている、糖濃度測定装置。
【請求項2】
基準試料の塩化物イオン濃度と、前記基準試料が接触したとき前記作用極に印加すべき標準電圧と、を記憶する記憶部と、
測定すべき測定試料に接触した前記塩濃度測定用電極の出力から前記測定試料の塩化物イオン濃度を算出する塩濃度算出部と、
をさらに備え、
前記電圧補正部は、算出された前記測定試料の塩化物イオン濃度と前記基準試料の塩化物イオン濃度とを対比し、対比の結果に基づいて前記電位のずれを把握し、前記電位のずれを用いて前記標準電圧を補正して前記作用極に印加すべき電圧を決定する、請求項1に記載の糖濃度測定装置。
【請求項3】
前記記憶部は、下記式(1)で示す補正式を記憶し、
前記電圧制御部は、記憶された前記基準試料の塩化物イオン濃度(C)と、前記塩濃度算出部が算出した前記測定試料の塩化物イオン濃度(C)と、記憶された前記標準電圧(V)とを下記(1)に代入して、前記作用極に印加すべき電圧(V)を決定する、請求項2に記載の糖濃度測定装置。
=V+N×ln(C/C)・・・(1)
〔式(1)中、Nは、RT/Fであり、Rは気体定数(J/mol)であり、Tは絶対温度(K)であり、Fはファラデー定数(C)であり、V及びVの単位は、mVであり、C及びCの単位は、mmol/Lである。〕
【請求項4】
前記塩濃度測定用電極が、白金電極である、請求項1乃至3いずれか1項に記載の糖濃度測定装置。
【請求項5】
前記糖濃度測定用電極が、一対の電極からなり、交流電圧が印加される、請求項1乃至4いずれか1項に記載の糖濃度測定装置。
【請求項6】
前記塩濃度測定用電極が、前記糖濃度測定用電極を前記一対の電極で挟んで配置される、請求項5に記載の糖濃度測定装置。
【請求項7】
前記糖濃度測定用電極の出力から、前記試料中の糖濃度を算出する糖濃度算出部と、
前記糖濃度算出部が算出した前記糖濃度を表示する表示部と、
をさらに有し、
前記作用極は、前記電圧補正部が補正した電圧が印加される、1乃至6いずれか1項に記載の糖濃度測定装置。
【請求項8】
前記試料に接触した前記塩濃度測定用電極の出力から前記試料の塩化物イオン濃度を算出する塩濃度算出部をさらに有し、
前記塩濃度算出部は、算出された前記塩化物イオン濃度が所定の閾値を超えるか否かを判断し、
前記表示部は、前記塩濃度算出部の判断結果を表示する、請求項7に記載の糖濃度測定装置。
【請求項9】
前記糖濃度測定用電極及び前記塩濃度測定用電極の環境温度、又は、前記糖濃度測定用電極及び前記塩濃度測定用電極に接触した試料の温度を測定する温度センサと、
前記温度センサの測定温度を用いて、前記糖濃度測定用電極及び前記塩濃度測定用電極の出力を補正する温度補正部と、
をさらに有する、請求項1乃至8いずれか1項に記載の糖濃度測定装置。
【請求項10】
尿の糖濃度を測定するために用いられる、請求項1乃至9いずれか1項に記載の糖濃度測定装置。
【請求項11】
50mg/dl以下のグルコースを含有する尿を測定するために用いられる、請求項10に記載の糖濃度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−242244(P2012−242244A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112644(P2011−112644)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000133179)株式会社タニタ (303)