説明

糖組成物及び飲食品

【課題】食品の風味を損なわない糖組成物を提供する。
【解決手段】本発明の糖組成物は、グルコースを構成糖とする食物繊維を含有する糖組成物であって、次式におけるx、y、zの数値が、それぞれ0.20≦x≦0.75、0.25≦y≦0.80、z≦0.30である糖組成物。
x…グルコースを構成糖とする重合度3,4の食物繊維の含量(g)/ グルコースを構成糖とする食物繊維含量の合計(g)
y…グルコースを構成糖とする重合度5〜9の食物繊維の含量(g)/ グルコースを構成糖とする食物繊維含量の合計(g)
z…グルコースを構成糖とする重合度10以上の食物繊維の含量(g)/グルコースを構成糖とする食物繊維含量の合計(g)
このような糖組成物は食品に添加した場合に、食品の風味を損なわない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は糖組成物及びそれを用いた飲食品に関する。より詳しくは、食物繊維を含有する糖組成物及びそれを用いた飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、難消化性デキストリン、ポリデキストロース等の糖組成物は、水溶性の食物繊維として、飲料や菓子等の食品分野で広く用いられている。
難消化性デキストリンは、澱粉(コーンスターチ等)を酸の存在下で焙焼することにより製造される。その製造過程で、澱粉の焙焼中に、還元末端のグルコース残基の還元性基で分子内脱水をおこしたり、解離したグルコース残基がランダムに他の水酸基に転移したりする結果、澱粉本来の結合の他に1,2、1,3のグルコシド結合が分子内に生じる(下記非特許文献1を参照)。安価に製造可能な糖組成物であるが、食品に添加した場合、その食品の味の”キレ”を打ち消してしまい、食品の味がぼやけるという欠点がある(下記特許文献1を参照)。難消化性デキストリンは、還元末端のグルコース残基が分子内で脱水された1-6アンヒドログルコース構造を有するデキストリンで、焙焼工程で生じる特有な風味が有り、味のキレを打ち消し、後味にも影響するという問題点も有る。
【0003】
ポリデキストロースは、グルコースとソルビトールを加酸熱処理することにより製造される。ポリデキストロースの製造コストも安価であるが、酸性化の過程で苦味が生じ、その苦みが食品の風味に影響を与えてしまうと言われている。(下記特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−142233号公報
【特許文献2】特開平5−255402号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】食物繊維 基礎と応用 第3版 第一出版株式会社 65ページ 2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、飲食品の風味に悪影響を与えない糖組成物を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、食物繊維を含有する糖組成物について鋭意検討したところ、下記の次式のように、グルコースを構成糖とする重合度3,4の食物繊維、グルコースを構成糖とする重合度5〜9の食物繊維、及びグルコースを構成糖とする重合度10以上の食物繊維をそれぞれ特定量含有するグルコースを構成糖とする食物繊維を含有する糖組成物であれば、飲食品に使用したとき該飲食品の風味に悪影響を与えないこと、またキレ、後味などの味質を改善できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下に係わるものである。
グルコースを構成糖とする食物繊維を含有する糖組成物であって、
次式におけるx、y、zの数値が、それぞれ0.20≦x≦0.75、0.25≦y≦0.80、z≦0.30である糖組成物。
x…グルコースを構成糖とする重合度3,4の食物繊維の含量(g)/ グルコースを構成糖とする食物繊維含量の合計(g)
y…グルコースを構成糖とする重合度5〜9の食物繊維の含量(g)/ グルコースを構成糖とする食物繊維含量の合計(g)
z…グルコースを構成糖とする重合度10以上の食物繊維の含量(g)/グルコースを構成糖とする食物繊維含量の合計(g)
【0009】
本発明の糖組成物は、グルコースを構成糖とする糖質の全重量に対する、グルコースを構成糖とする食物繊維含量の合計が5重量%以上であるのが好適である。
本発明の糖組成物は、転移酵素を糖原料に作用させて製造することが可能であり、その転移酵素は、α−グルカンと、α−グルコオリゴ糖と、グルコースとからなる群より選択されるいずれか1種以上の糖原料に作用して、α1,2グルコシド結合を有する糖質と、α1,3グルコシド結合を有する糖質を生成し、65℃以上の温度で酵素反応可能なAspergillus属由来の転移酵素を用いるのが好適である。
前記転移酵素を作用させる糖原料としては、澱粉質を前記転移酵素以外の酵素又は酸によって部分的に加水分解して得られる澱粉部分分解物を用いるのが好適である。
前記転移酵素以外の酵素としては、αアミラーゼを用いるのが好適である。
【0010】
更に、本発明の糖組成物は、飲食品に使用して、含有させるのが好適である。該糖組成物は、飲食品に、苦味等の雑味を与えない等の飲食品の風味に影響を与えない。また、味質を改善することが可能である。よって、飲食品、健康飲食品、特定保健用食品等の食品分野等で広く利用することができる。それを用いた該飲食品は、例えば発酵飲食品であるのが好適である。発酵飲食品の場合、発酵終了後も本発明の糖質が分解させずに残存し、効果を発揮する点で、有利である。
また、前記糖組成物の使用により食品の風味に悪影響を与えることなく、キレ、後味などの味質を改善する方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の糖組成物は、飲食品の風味に悪影響を与えないので、食品分野等に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に使用可能な転移酵素の電気泳動写真(a)と、推測されるアミノ酸配列(b)
【図2】本発明に使用可能な転移酵素の一例、温度と酵素活性との関係を示すグラフ。
【図3】本発明に使用可能な転移酵素の一例、pHと酵素活性との関係を示すグラフ。
【図4】本発明に使用可能な転移酵素の一例、温度安定性のグラフ
【図5】本発明に使用可能な転移酵素の一例、pH安定性のグラフ
【図6】転移酵素を用いてマルトースを原料とした反応の一例、反応液の重合度分布を示すHPLCチャート(a)、反応液2〜3糖中の糖構造異性体を示すHPLCチャート(b)。
【図7】転移酵素を用いてマルトースを原料とした反応の一例、重合度分布の経時変化を示すグラフ(a)、α1,2結合オリゴ糖、α1,3結合オリゴ糖、食物繊維含量の経時変化を示すグラフ(b)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明及び本発明に用いる用語について具体的に説明する。
<本発明の糖組成物>
本発明はグルコースを構成糖とする食物繊維を含有する糖組成物である。
そして、本発明の糖組成物は、糖組成物の主成分が、グルコースを構成糖とする重合度3,4の食物繊維(x)、及びグルコースを構成糖とする重合度5〜9の食物繊維(y)であれば、特に限定されない。よって、含有する食物繊維の重合度分布を示す値であるx、y、zが、それぞれ0.20≦x≦0.75、0.25≦y≦0.80、z≦0.30である、グルコースを構成糖とする食物繊維を含有する糖組成物である。すなわち、糖組成物の主成分はx、yであり、z成分は0.30以下の糖組成物であってもよい。
x…グルコースを構成糖とする重合度3,4の食物繊維の含量(g)/グルコースを構成糖とする食物繊維含量の合計(g)
y…グルコースを構成糖とする重合度5〜9の食物繊維の含量(g)/グルコースを構成糖とする食物繊維含量の合計(g)
z…グルコースを構成糖とする重合度10以上の食物繊維の含量(g)/グルコースを構成糖とする食物繊維含量の合計(g)
【0014】
このとき、好ましくは、0.20≦x≦0.75、0.28≦y≦0.75、z≦0.30、より好ましくは、0.25≦x≦0.75、0.28≦y≦0.75、z≦0.15、更に好ましくは、0.20≦x≦0.70、0.30≦y≦0.75、z≦0.02であるのが好適である。
本発明の糖組成物は、後述の本発明の製造方法にて製造が可能であるが、酵素分解条件の調整や分離、精製によって、グルコースを構成糖とする重合度3,4の食物繊維(x)、グルコースを構成糖とする重合度5〜9の食物繊維(y)及びグルコースを構成糖とする重合度10以上の食物繊維(z)の各含有量を調整することも可能である。
例えば、グルコースを構成糖とする重合度10以上の食物繊維(z)の含有量を、前記z≦0.30より、より減少させることができる。すなわち、zの数値範囲を、0<zとすることも可能であり、また、よりz≦0.15、よりz≦0.02、更にz=0とすることも可能である。
また、例えば、グルコースを構成糖とする重合度3,4の食物繊維(x)及びグルコースを構成糖とする重合度5〜9の食物繊維(y)の含有量を、好ましくは、0.20≦x≦0.75、0.25≦y≦0.80、より好ましくは、0.25≦x≦0.75、0.28≦y≦0.75、更に好ましくは、0.25≦x≦0.70、0.30≦y≦0.75とするのが、後味、キレの点で有利である。
【0015】
すなわち、前記グルコースを構成糖とする食物繊維中の、グルコースを構成糖とする重合度3,4の食物繊維(以下、「重合度3,4の食物繊維」ともいう。)及びグルコースを構成糖とする重合度5〜9の食物繊維(以下、「重合度5〜9の食物繊維」ともいう。)の割合(x、y)を高めて飲食品などに使用するのが、望ましい。
重合度10以上の食物繊維の割合(z)を低減させることにより、より易水性の食物繊維とすることも可能となるし、これを除いても食品の風味に悪影響を与えず、キレ、後味共に良好である。
よって、重合度3,4の食物繊維及び重合度5〜9の食物繊維を、グルコースを構成糖とする食物繊維の主成分とすることにより、これを、飲食品に使用する際に溶かしやすくハンドリングが容易であり、固形状及び液状等のものにも使用しやすい。
【0016】
<食物繊維>
食物繊維とは糖質の一種であり、水溶性のものと難水溶性のものがある。本発明の糖組成物は水溶性であるから、水に分散しやすく、難水溶性のものに比べ飲料、食品等の添加剤として利用価値が高い。
本発明における食物繊維とは、酵素−HPLC法(衛新13号(栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について、平成11年4月26日)に記載されている高速液体クロマトグラフ法である。また、同方法はAOAC INTERNATIONALの総食物繊維定量法にも採用されている。(AOAC 2001.03))にて測定される食物繊維のことをいう。この方法では、酵素処理後に残存する3糖以上の成分が食物繊維として定量される。
上記酵素−HPLC法は食物繊維の分析法として一般に使用されており、本発明において食物繊維の含量およびその重合度とは、酵素−HPLC法における酵素処理後の糖組成物の含量およびその重合度とする。
【0017】
酵素−HPLC法における重合度毎の食物繊維含量測定のためのHPLC条件は以下の通りとする。
カラム:CK04S(三菱化学社製)、
カラム温度 : 65℃、
移動層組成 : D.W.(蒸留水)
検出 : RI(示差屈折)検出
流速 : 0.35mL/分
【0018】
酵素−HPLC法において、食物繊維のHPLCによる分離が困難な場合は、重合度が既知のオリゴ糖を用いて同定する。特に重合度10の食物繊維は分離が困難であるため、マルトオリゴ糖(10糖)の溶出時間以降の成分を重合度10の食物繊維と定義した。
【0019】
前記重合度3,4の食物繊維、前記重合度5〜9の食物繊維及び前記重合度10以上の食物繊維に含まれるものとしては、後述するα1,2グルコシド結合(α1,2結合)および/またはα1,3グルコシド結合(α1,3結合)〔以下、「α1,2結合および/またはα1,3結合の糖質」ともいう。〕を有する糖質を含むものが好適である。
【0020】
グルコースを構成糖とする糖質の全重量に対する、グルコースを構成糖とする食物繊維(好適には重合度3〜9の食物繊維)含量の合計が、好ましくは5重量%以上、より好ましくは20重量%以上とするのが、効能の点から、好適である。
【0021】
<糖組成物の製造方法>
次に、本発明の糖組成物の製造方法の一例を以下に説明する。
本発明の糖組成物の製造方法は特に限定されないが、望ましくは、澱粉分解物等の糖原料に酵素を作用させて製造することができる。
【0022】
<酵素の説明>
本発明の糖組成物の製造に使用可能な酵素の一例は転移酵素であって、α−グルカン、α−グルコオリゴ糖、グルコースから選ばれる少なくとも一種を含む澱粉分解物(澱粉部分分解物を含む)等の糖原料に作用して本発明の食物繊維を生成し、その食物繊維の重合度に特徴を有する糖組成物を生成する性質を持つものである。
さらに好適には、その転移酵素は、糖原料に作用してα1,2グルコシド結合(α1,2結合)、α1,3グルコシド結合(α1,3結合)を有する糖質を生成する特性を持ち、65℃以上の温度で酵素反応可能なものであり、その耐熱性酵素としてAspergillus属の転移酵素が例示できる。以下、ここで例示した酵素について説明する。
【0023】
α1,2結合を含む糖質とは、分子内にα1,2結合を一箇所以上含む2糖以上の糖質を意味し、α1,2結合のみからなるオリゴ糖の他、α1,2結合とそれ以外の結合とからなるオリゴ糖も含む。
具体的には、2糖であるコージビオース[O−α−D−グルコピラノシル−(1→2)−O−D−グルコピラノース]]、3糖であるコージビオシルグルコース[O−α−D−グルコピラノシル−(1→2)−O−α−D−グルコピラノシル−(1→4)−D−グルコピラノース]などが例示できる。
また、メチル化分析法(Journal of Biochemistry 第55巻 205ページ 1964年)やNMR分析法などにより、3糖以上の成分についても、その構造中に1,2結合が含有されるか判断できる。
【0024】
α1,3結合を含む糖質とは、分子内にα1,3結合を一箇所以上含むことを意味し、α1,3結合のみからなるオリゴ糖の他、α1,3結合とそれ以外の結合とからなるオリゴ糖も含む。具体的には、2糖であるニゲロース[O−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−O−D−グルコピラノース]のほか、3糖であるニゲロシルグルコース[O−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−O−α−D−グルコピラノシル−(1→4)−D−グルコピラノース]、ニゲロトリオース[O−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−O−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−D−グルコピラノース]などが例示できる。
また、メチル化分析法やNMR分析法などにより、3糖以上の成分についても、その構造中に1,3結合が含有されるか判断できる。
【0025】
なお、α1,2結合およびα1,3結合を含む糖質とは、分子内にα1,2結合およびα1,3結合をそれぞれ一箇所以上含むことを意味し、α1,2結合およびα1,3結合とそれ以外の結合とからなるオリゴ糖も含む。
ここで、分子内にα1,2結合がα1,3結合よりも多く有するときには、α1,2結合を含む糖質とし、分子内にα1,3結合がα1,2結合よりも多く有するときには、α1,3結合を含む糖質とする。
【0026】
3糖以上の成分でその構造中に1,2結合や1,3結合が含有されるかの判定には、上記の酵素−HPLC法で算出される食物繊維含量によっても判断することができる。
【0027】
ところで、澱粉糖におけるグルコース間の結合様式は、α1,4結合、α1,6結合であり、通常の澱粉糖にはα1,2結合やα1,3結合は殆ど存在しない。上記の酵素−HPLC法を用いた分析例より、澱粉を酸焙焼すると、1,2結合及び/又は1,3結合(α、βの結合様式は不明)の含有量が増加し、食物繊維含量が上昇することが記載されている(Journal of Applied Glycoscience 第49巻 第479項 2002年)が、本発明の転移酵素を用いれば、α1,2結合およびα1,3結合の糖質を顕著に増加させることができる。
【0028】
転移酵素は65℃では90%以上の残存活性を持ち、α−グルカン、マルトオリゴ糖、グルコースから選ばれる少なくとも一種を含む糖液に作用して、α1,2結合、α1,3結合を含む糖質を生成する作用を示す酵素が望ましく、
糸状菌(Absidia、Acremonium、Actinomadura、Alternaria、Aspergillus、Chaetomium、Coprinus、Coriolus、Geotrichum、Humicola、Monascus、Mortierella、Mucor、Nocardiopsis、Oidiodendron、Penicillium、Rhizomucor、Rhizopus、Trichoderma、Verticillium)
担子菌(Coliolus、Corticium、Cyathus、Irpexs、Polyporus、Pycnoporus、Trametes)、
細菌(Aeromonas、Agrobacterium、Alcaligenes、Agrobacterium、Alteromonas、Arthrobacter、Bacillus、Brevibacterium、Chromobacterium、Corynebacterium、Crypnohectria、Erwinia、Escherichia、Flavobacterium、Klebsiella、Lactobacillus、Lactococcus、Leuconostoc、Microbacterium、Micrococcus、Pimelobacter、Plesiomonas、Protaminobacter、Pseudomonas、Serratia、Streptococcus、Streptoverticillium、Sulfolobus、Thermus、Xanthomonas)
放線菌(Actinomadura、Actinomyces、Actinoplanes、Amycolatopsis、Eupenicillium、Nocardiopsis、Streptomyces、Thermomonospora)
酵母(Aureobasidium、Candida、Irpex、Kluyveromyces、Pycnoporus、Saccharomyces、Trichosporon)など食品製造にて使用例のある株が望ましい。
【0029】
中でもAspergillus niger属菌株またはAspergillus awamori属菌株等のAspergillus属が好ましく、それらの中でも、Aspergillus niger(ATCC[American Type Culture Collection] 10254)、Aspergillus niger van Tieghem var. niger fsp. hennebergii Blochwitz ex Al−Musallam(NBRC[NITE Biological Resource Center] 4043)、Aspergillus awamori(ATCC 14331)などが好適な菌株として挙げられる。
Aspergillus属の菌を用いて、目的とする転移酵素を得るに際しては、その培養には、公知の手法が適宜に採用され、例えば液体培養及び固体培養の何れもが任意に用いられ得るものである。
使用する微生物は野生株に限らず、上記野生株を紫外線、エックス線、放射線、各種薬品[NTG(N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン)、EMS(エチルメタンスルホネート)等]などを用いる人工的変異手段で変異した変異株も、α1,2結合、α1,3結合を有する糖質を産生する耐熱性の転移酵素である限り、使用できる。
【0030】
Aspergillus属の菌を用いた培養に際して用いられる培地の炭素源としては、例えば、グルコース、フルクトース、ショ糖、乳糖、澱粉、グリセリン、デキストリン、レシチン等が、単独で又は組み合わせて用いられ、また、窒素源としては、有機及び無機の窒素源の何れもが利用可能であり、そのうち、有機窒素源としては、例えば、ペプトン、酵母エキス、大豆、きなこ、米ぬか、コーンスティープリカー、肉エキス、カゼイン、アミノ酸等が用いられ、一方、無機窒素源としては、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸‐アンモニウム、リン酸二アンモニウム、塩化アンモニウム等が用いられることとなる。更に、そのような培地に添加される無機塩や微量栄養素としては、例えば、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、鉄、亜鉛、カルシウム、マンガンの塩類の他、ビタミン等を挙げることが出来る。また、上記の各種成分を含有する培地成分として小麦ふすま等の天然物を用いることも可能である。
【0031】
Aspergillus属の菌を用いた培養は、一般に10〜40℃の温度で行なわれるが、好ましくは25〜30℃の培養温度が有利に採用され、更に、培地pHは2.5〜8.0であれば良い。そして、必要な培養期間は、菌体濃度、培地pH、培地温度、培地の構成等によって異なるが、通常、4日〜9日程度であり、目的物である転移酵素が最大に達した頃に、その培養が停止される。
【0032】
このようにして、微生物を培養した後、転移酵素を回収する。転移酵素の活性は、培養物の菌体と培地の両方に認められ、公知の方法によって精製して利用することができる。
一例として、培養液の処理物を濃縮した粗酵素標品を透析後、東ソー(株)社製ゲル「TOYOPEARL DEAE−650M」などを用いた陰イオン交換カラムクロマトグラフィー、続いて、GEヘルスケア・ジャパン社製カラム「HiLoad 16/60 uperdex 200pg」、「HiLoad 16/60 Superdex 75pg」を連結させたゲル瀘過クロマトグラフィー、次に、GEヘルスケア・ジャパン社製カラム「MonoP 5/200 GL」を用いた等電点クロマトグラフィーを行うことで、電気泳動的に単一な酵素を得ることができる。
【0033】
Aspergillus由来の酵素を用いた場合の酵素化学的性質は以下のとおりである。
(1)作用
基質の非還元末端のα−グルコシド結合をエキソ型に切断するα−グルコシダーゼで、α1,4結合以外にα1,2結合、α1,3結合の加水分解を行う一方、糖供与体からのグルコース残基を糖受容体のグルコース残基の2,3,4位いずれかの水酸基に転移する糖転移反応も行う。
α−グルコシル基が4位の水酸基に転移した転移生成物は、本酵素によって再び分解されるため、最終的に転移生成物としてα1,2、α1,3結合を有する糖質が蓄積される。また、グルコース骨格を持つ誘導体、OH基を有する化合物を受容体とした場合でも、糖転移活性も持つ。従って、α−グルカン、α−グルコオリゴ糖、グルコース等に、グルコース誘導体を加えた基質に作用して、配糖体を採取することができる。
基質としては、澱粉、アミロース、アミロペクチン,グリコーゲン、デキストリン、などのα−グルカン、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトオリゴ糖、コージビオース、ニゲロースなどα−グルコオリゴ糖、グルコースを使用することができる。
【0034】
(2)分子量
Native-ゲル電気泳動より、分子量110,000〜90,000ダルトン、好適には分子量97,000ダルトンである。このとき、Native-ゲル電気泳動分析は、GEヘルスケア・ジャパン社製、PhastSystemにて行えばよい。
SDS-ゲル電気泳動より、分子量60,000〜40,0000ダルトン、好適には分子量48,000、かつ分子量70,000〜50,000ダルトン、好適には分子量59,000ダルトンの2本のバンドを有する。このとき、SDS-ゲル電気泳動分析は、PhastSystem、GEヘルスケア・ジャパン社製にて行えばよい。
(3)等電点
本酵素の等電点はpI:4.0〜6.0、好適には4.9〜5.5であり、中心値が5.2である。このとき、等電点既知の標準タンパク質とともに等電点電気泳動(PhastSystem、GEヘルスケア・ジャパン社製)を行えばよい。
(4)至適温度
pH4.0、10分間の反応で、60〜70℃、好適には65℃である。
(5)至適pH
50℃、10分間の反応で、pH3.0〜4.0、好適にはpH3.5である。
(6)温度安定性(耐熱性)
65℃、30分の処理で、初期活性の80%以上、好適には90%以上、より好適には95%以上残存する。
(7)pH安定性
4℃、24時間の保存で、pH2.5〜5.5、好適にはpH3.0〜5.0である。
【0035】
(8)基質特異性
ニゲロース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース及びマルトヘプタオースの少なくとも1種以上のもの、特にニゲロースに対して高い親和性を有するか又は高い反応性を有するものが好適である。なお、マルトース(各10mM溶液)を基準とすればよい。
(9)金属イオンの影響
亜鉛イオン及び銅イオンにて阻害されるものが好適である。マグネシウムイオン及びマンガンイオンにて同等以上に活性されるものが好適である。
(10)アミノ酸配列
以下のアミノ酸配列を1種以上有するものが好適である。
配列番号1:LLVEYQTDERLHVMIYDADEEVYQVPESVLPR
配列番号2:TWLPDDPYVYGLGEHSDPMR
配列番号3:IPLETMWTDIDYMDKR
配列番号4:VFTLDPQR
配列番号5:WASLGAFYTFYR
【0036】
また、各配列番号に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加されたアミノ酸配列とは、各配列番号とそれぞれ機能的に等価なアミノ酸配列を意味し、1若しくは数個、好ましくは1〜6個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加されたアミノ酸配列であって、依然として、その酵素学的性質を有する配列をいう。また、付加には、両末端への1若しくは数個、好ましくは1〜6個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸の付加も含まれる。
【0037】
<糖組成物製造方法の具体例>
前記転移酵素(好適には上述した菌体及び培養液から取得した転移酵素)を、基質であるα−グルカン、α−グルコオリゴ糖、グルコースから選ばれる少なくとも一種からなる糖原料(基質)に作用させることにより、α1,2および/またはα1,3結合を有する糖質を含有する糖組成物を取得することができる。
α1,2結合、α1,3結合を含有する糖質を効率よく生産することのできる基質(糖原料)としては、澱粉、アミロース、アミロペクチン,グリコーゲン、デキストリン、などのα−グルカン、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトオリゴ糖、コージビオース、ニゲロースなどα−グルコオリゴ糖、グルコースを単独で又は複数組み合わせて使用することができる。
【0038】
また、基質(糖原料)として、澱粉、アミロペクチン、アミロースなどの澱粉質をアミラーゼ又は酸などによって部分的に加水分解して得られる澱粉分解物を用いてもよい。「部分的に加水分解する」とは、例えば、特定のDE(dextrose equivalent)に調整することなどが挙げられる。
このとき、澱粉(部分)分解物(好適には澱粉液化液)は、DE(dextrose equivalent)5〜40、好ましくはDE8〜30のものが好適である。また、澱粉は、特に限定されないが、馬鈴薯澱粉、小麦粉澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチなどが挙げられ、これらを1種又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
澱粉を部分的に加水分解するアミラーゼとしては、例えば、Handbook of Amylases and Related Enzymes (パーガモン・プレス社、東京、1988年)に記載されている、α−アミラーゼ、マルトペンタオース生成アミラーゼ、マルトヘキサオース生成アミラーセなどが用いられる。これらアミラーゼとプルラナーゼ及びイソアミラーゼなどの枝切酵素を併用することも有利に実施できる。
【0039】
グルコースを基質(糖原料)として用いた場合、他の基質の場合と異なり,加水分解反応の逆反応である縮合反応によって,α1,2結合、α1,3結合を含有する糖質を生産することができるが,その収率は転移反応に比べて低いため、経済性の点からマルトース以上の糖質が望ましい。
α−グルコシル基の受容体としては、非還元末端にグルコース残基を有していればよく、具体的にはグルコース、マルトース、マルトトリオース、コージビオース、コージトリオース、コージビオシルグルコース、ニゲロース、ニゲロトリオース、ニゲロシルグルコース、イソマルトース、イソマルトトリオース、パノース、セロビオース、ソホロース、ラミナリビオース、ゲンチオビオース、トレハロース、スクロースなどが挙げられる。また、グルコースの誘導体やOH基を持つ化合物も受容体となりうる。
【0040】
α1,2結合、α1,3結合を生成する酵素を基質(糖原料)に作用させる際に、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、α−グルコシダーゼ、などで加水分解したり、ブランチングエンザイム、グルコシルトランスフェラーゼ、などを作用させて、分子量や、甘味性、還元力などを調整したり、粘性を低下させたりすることも可能である。
これらの酵素の中でも、50℃〜65℃でも失活しない耐熱性酵素を選択すれば、本発明の転移酵素と一緒に作用させる際に、50℃を超える高温で処理できる。
これらの酵素は、α1,2結合、α1,3結合を生成する転移酵素と同時に作用させても良いし、別々に反応させても良い。他の酵素が澱粉分解酵素の場合、本発明の転移酵素と同時に作用させると、澱粉部分分解物の生成と、当該分解物からの糖生成とが同時に進行する。また、得られたα1,2結合、α1,3結合を有する糖質を水素添加し糖アルコールにして、還元力を消滅せしめることなどの更なる加工処理を施すことも随意である。
【0041】
反応における基質濃度は、反応液中に溶解する濃度であればよく、1〜80重量%の範囲、より効率よく糖質を得るためには10〜60重量%、より好ましくは20〜45重量%の条件で行うのが望ましい。
反応に用いられる温度としては酵素が反応液中で安定である温度域ならばよく、50〜90℃、望ましくは60〜80℃、より望ましくは60〜70℃で行うのが適当である。反応に用いられるpHは、通常pH3.5〜7.0、望ましくはpH4.0〜6.5、より望ましくはpH4.0〜6.0で行うのが適当である。複数の酵素を反応に使用する場合には、使用する酵素及び酵素反応工程に応じて、適宜、上記の反応温度及び反応pHを調整してもよい。
反応期間は、10分間〜7日間、好ましくは1時間〜4日間が好適である。
反応に用いる酵素濃度は濃いほうが反応時間の短縮が図れて都合がよい。酵素濃度が薄いとα1,2結合、α1,3結合を有する糖質の収率が悪くなる。
【0042】
α1,2結合、α1,3結合を持つ糖質を含有する反応液は、常法により、瀘過、遠心分離などして不溶物を除去した後、活性炭で脱色、H型、OH型イオン交換樹脂で脱塩し、濃縮し、シラップ状製品とする。更に、乾燥して粉末状製品にすることも随意である。
必要ならば、更に、高度な精製(分離精製)をすることも随意である。これにより、糖組成物中の前記食物繊維含有量の調整や、グルコースを構成糖とする糖質の全重量に対する、グルコースを構成糖とする食物繊維含量の調整も行うこともできる。
例えば、イオン交換(陽イオン交換および陰イオン交換)カラムクロマトグラフィーによる分画、活性炭カラムクロマトグラフィーによる分画、ゲル濾過カラムクロマトグラフィーによる画分をすることにより、高純度化することもできる。
【0043】
イオン交換カラムクロマトグラフィーとしては、特開昭58−23799号公報、特開昭58−72598号公報などに開示されている塩型強酸性カチオン交換樹脂を用いるカチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーにより、夾雑糖類を除去して高含有画分を採取する方法が有利に実施できる。塩型強酸性カチオン交換樹脂を用いるカチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィー法にて、糖組成物中の前記食物繊維含有量等の調整を行うのが望ましい。
この際、固定床方式、移動床方式、疑似移動床方式のいずれの方式を採用することも随意である。
【実施例】
【0044】
以下に本発明の糖組成物のより詳細な具体例を説明するが、本発明はこれに限定されるものでない。
【0045】
<実施例1>
30重量%、DE12馬鈴薯澱粉液化液(澱粉部分分解物)を温度65℃、pH6.0に調整した後、後述する参考例1、2の方法で精製した耐熱性転移酵素を対固形分3U、αアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)を対固形分0.005重量%添加し36時間作用させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭・イオン精製処理・濃縮し、75重量%の実施例1の糖組成物を得た。
また、DEはデキストロース・エクイバレント(DextroseEquivalent,DE)であって、澱粉分解物の分解度の指標であり、この値の小さいものは分子が大きく高粘度である。また、耐熱性転移酵素の力価と測定法については後述する。
【0046】
<実施例2>
35重量%、DE18コーンスターチ液化液(澱粉部分分解物)を温度50℃、pH5.5に調整した後、後述する参考例1の方法で精製した耐熱性転移酵素を対固形分30U、24時間作用させた。反応後の糖液に、αアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)対固形分0.15重量%、グルコアミラーゼ(AMG、ノボザイムズ社製)対固形分0.1重量%を添加しさらに24時間作用させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭・イオン精製処理・濃縮し、50重量%の水溶液に調製し、60℃に加熱した強酸性カチオン交換樹脂(FX1040、オルガノ社製) を充填した連続式クロマト分離装置(トレソーネ、オルガノ社製)に供し、低分子を除去した。
分画された澱粉分解物の溶液を活性炭・イオン精製処理した後、濃縮し、スプレードライヤーで粉末化し実施例2の糖質を得た。
【0047】
<実施例3>
40重量%、DE10ワキシーコーンスターチ液化液(澱粉部分分解物)を温度65℃、pH5.5に調整した後、後述する参考例1、2の方法で精製した耐熱性転移酵素を対固形分10U、αアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)を対固形分0.05重量%添加し、48時間作用させた。反応後の糖液に、グルコアミラーゼ(AMG、ノボザイムズ社製)対固形分0.3重量%を添加し、40℃にて24時間作用させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭・イオン精製処理・濃縮し、50重量%の水溶液に調製し、60℃に加熱したゲルろ過カラム(TOYOPEARL HW−40S、東ソー社製)に供し、低分子を除去した。
分画された澱粉分解物の溶液を活性炭・イオン精製処理した後、濃縮し、スプレードライヤーで粉末化し実施例3の糖質を得た。
【0048】
<実施例4>
20重量%、DE8コーンスターチ液化液(澱粉部分分解物)を温度60℃、pH6.0に調整した後、後述する参考例1の方法で精製した耐熱性転移酵素を対固形分6U、αアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)対固形分0.02%、βアミラーゼ(β−アミラーゼ#1500、ナガセ生化学工業製)を対固形分0.03重量%添加し、36時間作用させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭・イオン精製処理した後、濃縮し、スプレードライヤーで粉末化し実施例4の糖質を得た。
なお、実施例1〜4の澱粉液化液は、αアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)による酵素液化により調製することができる。また、実施例1〜4で用いた耐熱性転移酵素は、濃縮したものを用いることができる。実施例1〜4で用いた耐熱性転移酵素の添加量は固形分1gあたりの酵素量(U)のことを示す。
【0049】
<実施例5>
実施例4の糖組成物と、関東化学(株)製のマルトース(特級)を、固形分当たり、18:82の比率で混合し、水を加えて溶解した後、溶解液をスプレードライヤーにて粉末化し、実施例5の糖組成物を得た。
【0050】
<実施例6>
塩酸による酸液化により調製した、20重量%、DE30コーンスターチ液化液(澱粉部分分解物)を温度65℃、pH6.5に調整した後、後述する参考例1の方法で精製後、濃縮した耐熱性転移酵素を固形分1g当たり0.5U、αアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)対固形分0.1%、枝切酵素(クライスターゼPLF、天野エンザイム社製)対固形分0.3重量%添加し、96時間作用させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭・イオン精製処理した後、濃縮し、スプレードライヤーで粉末化し実施例6の糖質を得た。
【0051】
<実施例7>
αアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)による酵素液化により調製した、45重量%、DE30馬鈴薯澱粉液化液(澱粉部分分解物)を温度70℃、pH4.0に調整した後、後述する参考例1、2の方法で精製後、濃縮した耐熱性転移酵素を固形分1g当たり60U、αアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)を対固形分0.5重量%、枝切酵素(クライスターゼPLF、天野エンザイム社製)対固形分0.8重量%添加し、添加し1時間作用させた。反応後の糖液に、グルコアミラーゼ(AMG、ノボザイムズ社製)対固形分0.3重量%を添加し、40℃にて24時間作用させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭・イオン精製処理・濃縮し、50重量%の水溶液に調製し、60℃に加熱したゲルろ過カラム(TOYOPEARL HW−40S、東ソー社製)に供し、低分子を除去した。
分画された澱粉分解物の溶液を活性炭・イオン精製処理した後、濃縮し、スプレードライヤーで粉末化し実施例7の糖質を得た。
【0052】
<比較例1〜3>
比較例1として松谷化学工業(株)製の商品名「ファイバーソル2」(難消化性デキストリン)を、比較例2として昭和産業(株)製の商品名「IMO900P」を、比較例3として関東化学(株)製のマルトース(特級)をそれぞれ用いた。
【0053】
<糖組成>
実施例1〜7、比較例1〜3の糖組成物について、グルコースを構成糖とする重合度3、4の食物繊維、グルコースを構成糖とする重合度5〜9の食物繊維、グルコースを構成糖とする重合度10以上の食物繊維、グルコースを構成糖とする食物繊維の合計を酵素-HPLC法により求め、得られた含有量から、x、y、z、即ち、食物繊維の合計に対する、各重合度の食物繊維の割合(重量比)を求めた。
【0054】
【表1】

【0055】
上記表1から明らかなように、実施例1〜7の糖組成物は、少なくとも酵素−HPLC法による食物繊維の全含有量が、市販の物(比較例1〜3)とほぼ同程度か、市販の物よりも多い場合もある。
食物繊維素材を飲食品に添加した場合、グルコースを構成糖とする糖質の全重量に対してグルコースを構成糖とする食物繊維含量が5重量%以上であれば、十分に効果を発揮する。また、実施例1〜5の糖組成物は水に可溶であり、本発明による糖組成物が水溶性食物繊維としての特性を有することもわかる。
耐熱性酵素により製造された実施例1〜7の糖組成物は、x、y、zの数値が、それぞれ0.20≦x≦0.75、0.25≦y≦0.80、z≦0.30の範囲にある。逆に、比較例1〜3や市販の糖組成物は、x、y、zの内、少なくとも一つが本願の範囲外にあり、公知の物と比較して、本発明の糖組成物は食物繊維組成の点で明らかに異なる性質を示すのが分かる。
なお、後述するように、実施例6及び7が、風味、キレ、後味について、液状、半固形状、固形状の飲食品においてバランスよく、最も優れていると考えられる。また、zについては、傾向として、少ないほど、飲食品の風味に影響を与えにくいと考えられる。
よって、x、y、zの数値が、それぞれ0.20≦x≦0.75、0.25≦y≦0.80、z≦0.30の範囲にある糖組成物が好ましく、zは0でもよいと考えられる。
【0056】
次に、上記実施例1〜7、比較例1〜3の糖組成物について下記評価試験(食品添加試験)を行った。なお、評価試験は9人の被験者に、糖組成物添加食品を試食してもらい、8人以上が良いと答えた場合を◎、7〜6人が良いと答えた場合を○、5〜4人が良いと答えた場合を△、3人以下が良いと答えた場合を×として評価した。
風味がよい:食品本来の風味に悪影響を与えない(苦味、えぐみ、臭いなどによる影響が無い)。
キレがよい:味がすっきりとしている(口中で味がもたついた感じが少ない)。
後味がよい:飲食後に口中に残る味の質がよい。
尚、以下の表2〜表13中での食物繊維含量とは、各試験で製造した食品中の食物繊維量である。
<食品添加試験1>
各糖組成物の5重量%水溶液について評価試験を行った。その結果を下記表2に示す。
【0057】
【表2】



【0058】
<食品添加試験2>
麦汁エキス40g、マルトース100g、ホップエキス5g、大豆ペプチド1.7g、酵母0.6gに実施例1、2、6または比較例1、2、3(事前に固形分75%に調製したもの)を30g混合し、水を加え終重量1000gになるように調整した後、7日間発酵を行った。実施例5に関しては、麦汁エキス40g、ホップエキス5g、大豆ペプチド1.7g、酵母0.6gに実施例5を125g混合し、水を加え終重量1000gになるように調整した後、7日間発酵を行った。発酵後、珪藻土にて酵母を除去しビール(発泡酒)を試作した。その評価試験を下記表3に示す。
【0059】
【表3】




【0060】
<食品添加試験3>
小麦粉350g、砂糖15g、乾燥酵母30g、イーストフード1.5g、食塩10g、脱脂粉乳15g、水200gを混合し、中種を製造した。粉末の実施例・比較例の糖組成物は事前に水を加え固形分濃度75%のけん濁液としておく。実施例または比較例の糖組成物を固形分換算で33g添加した後、ミキサーで15分混捏した。次に、混捏したパン生地を分割して丸め、中間生地を製造した。次に、中間生地をポリエチレンの袋に入れ、急速冷凍後、-30℃の冷凍庫に一週間保管した。一週間の冷凍保管の後、ドウコンディショナーを用いて、解凍・発酵した。そして、発酵させた生地を分割し、ホイロで再発酵させた後、焼成してパンを試作した。その評価結果を下記表4に示す。
【0061】
【表4】




【0062】
<食品添加試験4>
電子レンジで柔らかくした無塩バター110gをクリーム状になるまでハンドミキサーで練った後、実施例または比較例の糖組成物をそれぞれ合計100gずつ3回に分けて練り混ぜながら添加した。次にバニラエッセンス100μgを加え、卵黄29gを3回に分けて添加し、練り混ぜた。そして、薄力粉124g、ベーキングパウダー2.5gを加えて軽く混ぜた後、直径3cmのボール状に丸めた。次に、オーブンペーパー上に並べ、軽く押しつぶしてほぼ均一の厚さにした後、160℃に予備加熱したオーブンで約30分焼成し、クッキーを試作した。その評価結果を下記表5に示す。
【0063】
【表5】

【0064】
<食品添加試験5>
紅茶抽出液97gに対し砂糖を1g添加し、実施例または比較例の糖組成物を2g添加し、紅茶を試作した。その評価結果を下記表6に示す。
【0065】
【表6】

【0066】
<食品添加試験6>
発酵脱脂乳38g、安定剤13g、香料0.35g、水0.05gに対し実施例または比較例(事前に固形分75%に調製したもの)をそれぞれ36g添加し、ホモジナイザーで均質化してドリンクヨーグルトを試作した。その評価結果を下記表7に示す。
【0067】
【表7】

【0068】
<食品添加試験7>
アルコール分20重量%の焼酎甲類(トライアングル、サッポロビール社製)25g、実施例または比較例の糖組成物を2g添加し合計重量100gとなるよう水を加え混合し、4℃1日間保存して、アルコール飲料を試作した。その評価結果を下記表8に示す。
【0069】
【表8】

【0070】
<食品添加試験8>
食塩0.5g、ビタミンC 0.03g、ビタミンB1 0.03g、塩化マグネシウム0.2g、乳酸カルシウム0.2g、クエン酸2.4g、クエン酸ソーダ1.7g、フレーバー2g、ぶどう糖80g、菓糖13g、水1500gに実施例または比較例の糖組成物60gを混合し、加熱殺菌してスポーツ飲料を試作した。その評価結果を下記表9に示す。
【0071】
【表9】



【0072】
<食品添加試験9>
無塩バター4.5g、脱脂粉乳10.5g、砂糖11g、卵黄8g、水62gに実施例または比較例の糖組成物(事前に固形分75重量%に調製したもの)を4g添加・混合しアイスクリームを製造した。その評価結果を下記表10に示す。
【0073】
【表10】

【0074】
<食品添加試験10>
ボールに水51.3gにて水戻しした乾燥卵黄26.7gと砂糖36.0g、実施例または比較例の糖組成物36gを入れ、泡だて器で混ぜ合わせた。篩った小麦粉16.0gを加えて、更に泡だて器で混ぜ合わせた。これに、50℃に温めた牛乳200gを少しずつ加えて、ときのばし、裏ごし器を通した後、中火でクリーム状になるまで掻き混ぜて、カスタードクリームを製造した。その評価結果を下記表11に示す。
【0075】
【表11】




【0076】
<食品添加試験11>
生あん100gに同量の水を加えて均一化させたスラリーを準備した。次に、前記スラリーに、固形分換算100gの実施例・比較例の糖組成物を加えて煮詰め、小豆こしあん試作品を調製した。その評価結果を下記表12に示す。
【0077】
【表12】



【0078】
<食品添加試験12>
食酢33g、砂糖2g、食塩0.5g、薄口醤油8.4g、だし汁26.3gに実施例または比較例(事前に固形分75%に調製したもの)30g添加し、ノンオイルドレッシングを試作した。その評価結果を下記表13に示す。
【0079】
【表13】



【0080】
上記表2〜13から明らかなように、実施例1〜7の糖組成物は比較例1〜3の糖組成物に比べて、風味、キレ、後味等全ての評価結果で優れている。
従って、x、y、zの数値が、それぞれ0.20≦x≦0.75、0.25≦y≦0.80、z≦0.30の範囲にある糖組成物は、市販の食物繊維と同じかそれ以上の食物繊維含量でありながら、多様な食品の使用において食品の風味に悪影響を与えずに使用可能なことが実証された。
【0081】
以下に本発明の糖組成物の製造に用いる転移酵素について詳細な具体例を説明するが、本発明はこれに限定されるものでない。
【0082】
<分析方法>
転移酵素の活性はマルトースを基質とした加水分解活性にて評価した。転移酵素の分活性として、マルトースを基質とした加水分解活性は、以下のように測定した。20mM マルトース 100μLに対して、200mM酢酸緩衝液(pH4.0)を16μL、酵素溶液を84μL加え、50℃で10分間反応させた後、沸騰浴で5分間処理することで反応を停止した。反応液に生成したグルコース量をグルコースCIIテストワコー(和光純薬工業製)にて測定した。1分間に1μmolのマルトースを分解する酵素量を1Uと定義した。
【0083】
転移酵素に各種基質を作用させた反応液の組成分析は、以下の分析法を用いて実施した。
反応液の重合度分布は以下の条件でゲルろ過カラムによる分析にて行った。
HPLC測定条件 : カラム:三菱化学CK04S、
カラム温度 : 65℃、
移動層組成 : D.W.(蒸留水)
検出 : RI(示差屈折検出機)
流速 : 0.35mL/分
【0084】
得られた組成物の2、3糖成分における、α1,2結合を有するオリゴ糖(コージビース、コージビオシルグルコース)、α1,3結合を有するオリゴ糖(ニゲロース、ニゲロシルグルコース、ニゲロトリオース)は、糖の還元末端を標識化するリン酸−フェニルヒドラジン法(特許第2846059号公報)にて分析を行った。各ピークは、あらかじめ同条件で分析した標準糖の溶出時間と比較して同定し、ピーク面積より生成量を算出した。
【0085】
なお、2糖類の標準糖は市販試薬を用い、3糖類の標準糖には市販試薬と以下の手法で得られる組成物を用いた。ニゲロトリオース、ニゲロシルグルコースはBiochimica et Biophysica Acta 第1700巻 189ページ 2004年に記載された手法に従い調製し標品とした。コージビオシルグルコース、ニゲロシルグルコースは特開2003−169665号公報に記載された手法に従い調製し標品とした。
具体的な分析方法は、以下のように行った。
HPLC測定条件 : カラム: Unison UK−Amino 250×4.6mm (インタクト(株)社製)
カラム温度 : 35℃
【0086】
【表14】



【0087】
【表15】



【0088】
【表16】



【0089】
検出機 :蛍光検出器 Ex 330nm、Em 470nm
流速 :溶離液:1.0mL/分、反応液:0.4mL/分
得られた組成物全体において、1,2結合、1,3結合の糖質が含有されるか評価するためには、メチル化分析法(Journal of Biochemistry 第55巻 205ページ 1964年)を行った。
得られた組成物の3糖以上の成分に1,2結合、1,3結合の糖質が含有されるか評価するために、酵素−HPLC法を行った。本分析法で検出される3糖以上の成分を食物繊維含有量とした。
Journal of Applied Glycoscience 第49巻 479ページ 2002年の分析例では、αグルカンの分子中に1,2結合、1,3結合が存在すると糖質の食物繊維含量が高くなることが知られている。そのため、この分析法で検出される3糖以上の成分には1,2結合、1,3結合が存在すると考えられる。
【0090】
<低いDE成分の老化性と反応温度の関係>
コーンスターチを常法によりαアミラーゼを用いて液化させ、濃度30%、DE10の澱粉液化液を得た。次いで、この澱粉液化液を50、55、60、65、70℃の各温度に保存して反応を継続させDE28まで分解した。なお、DEは粉糖関連工業分析法、(株)食品化学新聞社に記載された手法にて測定した。
反応終了時に塩酸を添加し、反応液をpH4.0に調整して80℃に1時間保存することによりαアミラーゼを失活させた。得られた各反応液中の異物を除去するため、φ9cmのヌッチェにろ布を張り、ろ過助剤(セライトKC580、米国、セライト社製)を20g重層してケーキを作成し反応液を通過させた。得られたサンプルの分解性、性状を評価するため、濁度(分光光度計UV−1200、島津製作所、1cm石英セル)を測定した。その結果を下記表17に記載する。
【0091】
【表17】



【0092】
表17に示すように、65℃以上の反応温度であれば濁度に大きな変化はみられない。
60℃では濁度に変化が確認され、55℃以下の反応では大幅な濁度の上昇がみられた。反応温度が低下するに従い、澱粉液化液中の分子量が大きく結晶性の高い成分が析出し、酵素が作用できなくなったため、濁度の上昇がみられたと考えられる。以上より、低いDE成分(特にDE0〜20)での酵素反応では、65℃以上の反応温度で行うのが望ましいことがわかる。
【0093】
<参考例1:ATCC10254株由来転移酵素の生産>
培地として、澱粉:2%、ペプトン:0.25%、酵母エキス:0.25%、大豆粉:1%、リン酸一カリウム:0.03%、硫酸マグネシウム:0.01%、塩化カルシウム:0.01%、及び塩化ナトリウム:0.01%を含み、pH=6.5としたものを準備し、その100mLを、500mL容の三角フラスコに入れて、蒸気滅菌した後、Aspergillus niger ATCC 10254株を植菌し、30℃の温度で3日間、振とう培養を行なった。
上記の種を滅菌水で80倍に希釈し、その10mLを、500mLの三角フラスコ内に収容した、オートクレーブ滅菌した10gの小麦ふすまに移植せしめ、水分が均一になるようによく攪拌した後、30℃で4日間、固体培養を行なった。培養終了後、100gの滅菌水で小麦ふすまを洗浄し、16,000×g, 30分、4℃で遠心して不溶物を除いた。酵素活性を上記<分析方法>に記載したマルトース分解活性にて評価した結果、培地原料1gあたり53Uの活性を得た。
【0094】
<参考例2:ATCC10254株由来転移酵素の精製>
参考例1の手法にて得られる培養液1.8L、9,700Uを濃縮し、以下の4段階のクロマト分離を行った。
(1)陰イオン交換クロマトグラフィー(1回目):培養液を限外ろ過により20mM酢酸ナトリウム緩衝液pH5.5に置換し、0.2μmのフィルターを通過したものを酵素原液として用いた。分離樹脂はTOYOPEARL DEAE−650M(東ソー(株)社製)を用い、樹脂量(以後CVと記載)は100mLとした。
初発の緩衝液として20mM 酢酸ナトリム緩衝液pH5.5を用いて、0→0.4M
塩化ナトリウムの直線的濃度勾配(8CV)で溶出し、上記<分析方法>で記載したマルトース分解活性を含む画分を回収した。
【0095】
(2)陰イオン交換クロマトグラフィー(2回目): (1)で得られたフラクションを回収し、限外ろ過により(1)と同じ組成の初発緩衝液に置換し、再度陽イオン交換樹脂による分離を行った。CV=25mL、0→0.25M 塩化ナトリウムの直線的濃度勾配(10CV)の直線的濃度勾配で溶出し、マルトース分解活性を含む画分を回収した。
【0096】
(3)ゲルろ過クロマトグラフィー: 上記(2)の工程で得られたフラクションを回収し、次にゲルろ過クロマトグラフィーによる精製を行った。分離はHiLoad 16/60 Superdex 200pg(GEヘルスケア・ジャパン社製)を2本と、HiLoad 16/60 Superdex 75pg(GEヘルスケア・ジャパン社製)1本を連結したカラムで行った。サンプルは限外ろ過によって0.2Mの塩化ナトリウムを含む20mM 酢酸緩衝液pH5.5 に置換すると同時に、1mLまで濃縮した。同じ組成のバッファーで平衡化したカラムに供して、得られたフラクションから、マルトース分解活性を含む画分を回収した。
【0097】
(4)等電点クロマトグラフィー(クロマトフォーカシング): 上記(3)の工程で得られたフラクションを回収し、クロマトフォーカシングを行った。カラムはMonoP 5/200 GL(GEヘルスケア・ジャパン社製)を使用した。初発バッファーは0.025M ヒスチジン−塩酸緩衝液pH5.5、溶出バッファーはPolybuffer74−塩酸緩衝液pH3.5(GEヘルスケア・ジャパン社製)を使用してpH5.5から3.5の勾配によるクロマトグラフィーを行い、2Uのマルトース分解活性を含む画分を回収した。
得られた画分はNative−ポリアクリルアミドゲルゲル電気泳動(PhastSystem、GEヘルスケア・ジャパン社製、以後Native−PAGEと記載)にて純度を評価した結果を図1a(左方)に示す。97,000ダルトンの単一バンドであった。
【0098】
<参考例3:ATCC10254株由来転移酵素の性質>
参考例2の方法で得られた酵素をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PhastSystem、GEヘルスケア・ジャパン社製、以後SDS−PAGEと記載))にて分析した結果を図1a(右方)に示す。分子量48,000、59,000の2本が検出された。Native−PAGEによる結果と比較すると、本酵素はヘテロダイマーの構造を持つと考えられた。
また、等電点電気泳動(PhastSystem、GEヘルスケア・ジャパン社製)にて分析し、等電点は約4.9〜5.5であった(中心値が5.2)。蛋白質が糖鎖等の修飾を受けているために、広い分布を示すと考えられる。
【0099】
<最適温度、最適pH>
本酵素活性に対する温度、pHの影響を上記<分析方法>に記載したマルトース分解活性の測定方法に準じて調べた。pHの影響の評価では酢酸緩衝液の代わりにブリトン−ロビンソン緩衝液を用いて実施した。
その結果を図2(温度の影響)、図3(pHの影響)に示した。酵素の至適温度はpH4.0、10分間反応で65℃、至適pHは50℃、10分間反応で3.5であった。
【0100】
<温度安定性、pH安定性>
本酵素活性に対する温度、pHの安定性を上記<分析方法>に記載したマルトース分解活性の測定方法に準じて調べた。pHの安定性の評価では酢酸緩衝液の代わりにブリトン−ロビンソン緩衝液を用いて実施した。
温度安定性は酵素溶液(20mM酢酸緩衝液、pH4.0)を各温度に30分間保持し、氷水にて冷却後、残存する酵素活性を評価した。pH安定性は酵素溶液(各pHの20mMブリトン−ロビンソン緩衝液)を4℃、24時間保持し、pHを4.0に調整した後、残存する酵素活性を評価した。
それぞれの結果を図4(温度安定性)、図5(pH安定性)に示した。本酵素の温度安定性は65℃では初期活性の95%以上残存し、70℃では90%以上残存していた。pH安定性は3.0〜5.0の範囲であった。
<基質特異性>
本酵素の基質特異性を50℃、pH4.0の条件にて評価した。下記表18に示す。
【0101】
【表18】



【0102】
マルトースや、コージビオース、ニゲロース、スクロースなどの2糖、および、重合度2〜7のマルトオリゴ糖、アミロース、可溶性澱粉などには良好に作用してグルコースを生成する。特にα1,3結合を有する2糖であるニゲロースが最も良好な基質である。
重合度2〜4のイソマルトオリゴ糖、パノース、αサイクロデキストリン、アミロース、グリコーゲンについては作用性が低下する。パラニトロフェニルα−グルコシド、メチルα―グルコシド、γ−シクロデキストリン、についてはわずかに反応がみられた。トレハロース、β−サイクロデキストリンには全く反応がみられなかった。
【0103】
<金属イオンの影響>
本酵素の各金属イオンの影響を上記<分析方法>に記載したマルトース分解活性の測定方法に準じて実施した。各種イオンを反応系に添加して測定した結果を下記表19に示す。
本酵素は亜鉛イオン、銅イオンによりその活性を阻害される。EDTAは本酵素のマルトース分解活性には影響を与えなかった。
【0104】
【表19】



【0105】
<アミノ酸配列>
転移酵素に含まれるアミノ酸配列を以下の方法で分析した。SDS−PAGEのゲルから、タンパク質のバンドを切り出し、還元アルキル化処理でタンパク質分子中のS−S結合を切断した後、トリプシン消化によってペプチド断片化して分析サンプルを調製した。LC/MS(高速液体クロマトグラフ質量分析計、Agilent 1100シリーズ、アジレント・テクノロジー株式会社製)に供した。Aspergillus niger CBS 513.88株の配列と比較した結果、分子量59,000のバンドからは以下の配列が含有されると予測された。
配列I:LLVEYQT DERLHVMIYDADEEVYQVPESVLPR、
配列II:TWLPDDPYVYGLGEHSDPMR、
配列III:IPLETMWTDIDYMDKR、
配列IV:VFTLDPQR
また、分子量48,000のバンドからは以下の配列が含有されると予測された。
配列V:WASLGAFYTFYR
【0106】
上記配列と、既知の酵素アミノ酸配列との比較結果を図1bに示す。Aspergillus nigerの生産するα−グルコシダーゼは複数種あることが予測されている(Nature Biotechnology 第25巻 第221ページ 2007年)。 図1bに記載したアミノ酸配列はそのうち1種(Gene agdB、Accession no.An01g10930)である。
本発明に用いる転移酵素は図1bの下線部で示した配列、すなわちアミノ酸配列のアミノ酸番号64−95、146−165、295−310、312−319、619−630の5箇所でGene agdBの配列(配列番号6)と一致が見られるため、Gene agdBである可能性が高い。Gene agdBには、本発明に用いる酵素のような、基質特性、転移特性、耐熱特性等があるということは今まで全く見出されていない。
【0107】
比較配列として、既知のα1,4、α1,6結合オリゴ糖生成酵素(Aspergillus niger由来α−グルコシダーゼ、Gene agdA、Accession no.:ang_An04g06920、Agricultural and Biological Chemistry 第55巻 2327ページ 1991年)、 α1,3、α1,6結合オリゴ糖生成酵素(Lactobacillus johnsonii由来α−グルコシダーゼ、Gene ljag31、Biochimie 第91巻 1434ページ 2009年)、 α1,2、α1,3結合オリゴ糖生成酵素(ソバ由来α−グルコシダーゼ 特開2002−65273号公報、Agricultural and Biological Chemistry 第32巻 929ページ 1968年)、とのアミノ酸配列の比較を行ったところ、これらの酵素には上記耐熱性転移酵素と一致する配列は存在しなかった。また、これら比較配列を有する酵素の耐熱性は、Aspergillus niger由来の酵素では65℃、15分で40%以下に低下する。 Lactobacillus johnsonii由来の酵素では55℃、10分で20%以下に低下する。 ソバ由来の酵素では65℃、10分で活性は残存していない。
以上より耐熱性が劣っていた。
【0108】
α1,3結合オリゴ糖生成酵素:Acremonium sp由来α−グルコシダーゼ(特開平7−59559及び特開平11−9276号公報に記載、株名:S4G13)は、配列III,IV,Vと類似する配列を有していたが、各配列III,IV,Vにおいて、上記耐熱性転移酵素と2個の差異があった。このαグルコシダーゼは、α1,3結合、α1,4結合を有する糖質を生成するが、α1,2結合転移は殆ど見られず、しかも上述したように耐熱性が劣る(55℃、30分で活性が65%に低下)。
【0109】
他のα1,3結合オリゴ糖生成酵素:Acremonium implicatum由来α−グルコシダーゼ(Biochimica et Biophysica Acta 第1700巻 第189ページ 2004年、及び特開2004−173650号広報)では、配列III,IV,Vと類似する配列を有していたが、配列III,IVにおいて本発明の転移酵素と2個の差異、配列Vにおいて1個の差異があった。このαグルコシダーゼは、α1,3結合、α1,4結合を有する糖質を生成するが、α1,2結合転移は殆ど見られず、耐熱性が劣る(60℃、15分で活性がなくなると記載)。
従って、上記配列I〜Vのいずれか1以上と一致する物が、耐熱性を備え、かつ、新規の糖組成物を生産可能なことが分かる。
なお、α1,2、α1,3結合オリゴ糖生成酵素(Paecilomyces lilacinus由来α―グルコシダーゼ 特開2003−169665号公報)の配列は公開されていなかった。
【0110】
<参考例4:精製酵素によるマルトースの転移物>
参考例2の方法で得られた精製酵素、0.5mL(0.7U/mL)を、45%マルトース1mLに作用させ(最終濃度30%)、65℃で反応を開始した。
所定時間反応後に沸騰浴槽で10分間加熱し、酵素を失活させた。
この反応液中の重合度分布を上記<分析方法>に記載したゲルろ過クロマトグラフィーで分析した。また、2糖、3糖の異性体の組成を<分析方法>に記載したポストカラム法にて分析し、2種のHPLCより各成分の組成を算出した。反応開始後48時間における2種のHPLC分析におけるクロマトグラムを図6a、図6bに示す。
【0111】
反応開始後48時間での分子量分布は、単糖25.2%、2糖29.5%、3糖20.8%、4糖以上24.5%となった。2、3糖中の異性体分析より、α1,2結合を有する低分子糖質(以後、α1,2結合オリゴ糖と記載)が15.6%、α1,3結合を有する低分子糖質(以後、α1,3結合オリゴ糖と記載)が14.9%となった。コージオリゴ糖のうち2糖であるコージビオースが11.2%、3糖であるコージビオシルグルコースが4.4%得られた。ニゲロオリゴ糖のうち2糖であるニゲロースが8.5%、3糖であるニゲロトリオースが2.5%、ニゲロシルグルコースが3.9%であった。2糖、3糖成分中のα1,2結合オリゴ糖+α1,3結合オリゴ糖の割合は61%となっていた。
また、上記<分析方法>に記載した手法に従い、食物繊維含量を算出した結果、31%となった。反応液では3糖以上の成分は45.3%となることより、3糖以上成分中の68%はα1,2、α1,3結合を持つ糖質が含有されると考えられた。
【0112】
反応開後の72時間までの経時変化を図7a、図7bに示す。重合度分布では、基質であるマルトースが減少と共に3糖成分が生成し、続いてさらに重合度が増加していく。3糖、4糖以上成分の合成と共に、α1,2結合オリゴ糖、α1,3結合オリゴ糖の増加がみられ、同様に食物繊維含量も増加する。そのため、α1,2結合、α1,3結合を有する糖質の生成量は反応時間と共に転移物として蓄積してくることがわかる。
【0113】
<参考例5:粗酵素によるマルトースの転移物>
参考例1の方法で得られた粗酵素、0.5mL(4.0U/mL)を、45%マルトース1mLに作用させ(最終濃度30%)、65℃で反応を開始した。反応開始72時間後に沸騰浴槽で10分間加熱し、酵素を失活させた
この反応液中の重合度分布、2糖、3糖の異性体分析を参考例4と同様の手法を用いて行った。
その結果を下記表20に示す。参考例4と同様にα1,2結合オリゴ糖、α1,3結合オリゴ糖の生成がみられ、反応液の2糖、3糖成分中のα1,2結合オリゴ糖とα1,3結合オリゴ糖の割合の合計は52%となっていた。
また、食物繊維含量を算出した結果、31%となり、反応液3糖以上の成分中の61%はα1,2、α1,3結合を持つ糖質が含有されると考えられた。
【0114】
【表20】



【0115】
<参考例6:他のAspergillus属由来転移酵素の調製>
Aspergillus niger van Tieghem var. niger fsp. hennebergii Blochwitz ex Al−Musallam(NBRC[NITE Biological Resource Center] 4043)、Aspergillus awamori(ATCC14331)を用いた以外は、参考例1と同様に液体培地による前培養、固層培地による本培養を行い、培養1g当たり、41U、35Uの活性を持つ培養抽出液を得た。
それぞれの抽出液より、参考例2の方法に準じて、2回の陰イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィーを行い、部分精製酵素を得た。これらの酵素の性質を参考例3にて記載した手法に従い評価した。ATCC10254株の場合とともに表21にまとめた。
【0116】
【表21】



【0117】
これらの部分精製酵素を用いて、参考例5に従って、マルトースを基質とした場合の転移反応を行い、その生成物の組成を分析した結果、ATCC10254由来の酵素の場合と同様にα1,2結合、α1,3結合を有する糖質が生成することを確認した。
【0118】
<参考例7:精製酵素によるマルトペンタオースの転移物>
参考例2の方法で得られた精製酵素、0.5mL(0.7U/mL)を、45%マルトペンタオース1mLに作用させ(最終濃度30%)、65℃で反応を開始した。反応開始72時間後に沸騰浴槽で10分間加熱し、酵素を失活させた。この反応液中の重合度分布、2糖、3糖の異性体分析を参考例4と同様な手法を用いて行い、各成分の組成分析を行った。分析結果を表22に示す。
参考例4同様にα1,2結合オリゴ糖、α1,3結合オリゴ糖の生成がみられ、反応液の2糖、3糖成分中のα1,2結合オリゴ糖とα1,3結合オリゴ糖の割合の合計は54%となっていた。また、食物繊維含量を算出した結果、44%となり、反応液3糖以上の成分中の90%はα1,2、α1,3結合を持つ糖質が含有されると考えられた。
【0119】
【表22】



【0120】
<参考例8:精製酵素による液化液の転移物、αアミラーゼ、枝切酵素との同時反応>
高分子のαグルカンを基質とした転移反応は以下のように行った。DE10の30重量%コーンスターチ液化液100gをpH6.0に調整した。液温65℃にて、参考例2の方法で得られた精製酵素を固形分1g当り0.7U、αアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)対固形分0.01重量%、枝切酵素(クライスターゼPLF、天野エンザイム社製)対固形分0.1重量%を添加し、72時間反応した。
反応開始72時間後に沸騰浴槽で10分間加熱し、酵素を失活させた。この反応液中の重合度分布、2糖、3糖の異性体分析を参考例4と同様な手法を用いて行い、各成分の組成分析を行った。分析結果を表23に示す。
参考例4と同様にα1,2結合オリゴ糖、α1,3結合オリゴ糖の生成がみられ、反応液の2糖、3糖成分中のα1,2結合オリゴ糖とα1,3結合オリゴ糖の割合の合計は57%となっていた。
また、食物繊維含量を算出した結果、55%となり、反応液3糖以上の成分中の77%はα1,2、α1,3結合を持つ糖質が含有されると考えられた。
【0121】
【表23】



【0122】
<参考例9:粗酵素による液化液の転移物、αアミラーゼ、枝切酵素との同時反応、ゲルろ過カラムによる分離>
高分子のαグルカンを基質とした転移反応は以下のように行った。DE10の30%(W/W)コーンスターチ液化液100gをpH6.0に調整した。液温65℃にて、参考例2の方法で得られた精製酵素を固形分1g当り4.0U、αアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)対固形分0.01重量%、枝切酵素(クライスターゼPLF、天野エンザイム社製)対固形分0.1重量%を量添加し、72時間反応した。
反応開始72時間後に沸騰浴槽で10分間加熱し、酵素を失活させた。この反応液中の重合度分布、2糖、3糖の異性体分析を参考例4と同様な手法を用いて行い、各成分の組成分析を行った。分析結果を表24に示す。
参考例4と同様にα1,2結合オリゴ糖、α1,3結合オリゴ糖の生成がみられ、反応液の2糖、3糖成分中のα1,2結合オリゴ糖とα1,3結合オリゴ糖の割合の合計は53%となっていた。また、食物繊維含量を算出した結果、55%となり、反応液3糖以上の成分中の74%はα1,2、α1,3結合を持つ糖質が含有されると考えられた。
【0123】
【表24】



【0124】
食物繊維含量の測定で得たサンプルを精製・濃縮し、固形分1gの処理物を得た。サンプルをゲルろ過樹脂Bio−Gel P2(バイオラッド社製)を充填したゲルろ過カラム(φ6cm×100cm)に添加してクロマト分離を行い、3糖以上の成分を回収した。常法により精製、濃縮、凍結乾燥をして0.2gの分画物を得た。
【0125】
分画したサンプルに含有する結合様式を確認するため、<分析方法>に記載したメチル化分析をおこなった。結果を下記表25に示す。食物繊維含量として算出される3糖以上の成分中には1,2結合、1,3結合が含有されることが分かる。
【0126】
【表25】



【0127】
<参考例10:粗酵素(ATCC14331由来)による液化液の転移物、αアミラーゼ、枝切酵素との同時反応、擬似移動層クロマト分離装置による分離>
参考例6の方法で得られたAspergillus awamori(ATCC14331)由来の粗酵素を用い、参考例9に記載した手法で高分子のαグルカンを基質にした反応を実施した。この反応液中の重合度分布、2糖、3糖の異性体分析を参考例4と同様な手法を用いて行い、各成分の組成分析を行った。分析結果を表26に示す。
参考例4と同様にα1,2結合オリゴ糖、α1,3結合オリゴ糖の生成がみられ反応液の2糖、3糖成分中のα1,2結合オリゴ糖とα1,3結合オリゴ糖の割合の合計は44%となっていた。また、食物繊維含量を算出した結果、55%となり、反応液3糖以上の成分中の65%はα1,2、α1,3結合を持つ糖質が含有されると考えられた。
【0128】
【表26】



【0129】
【表27】



【0130】
得られた反応液30重量%、50kgをpH5.0に調製し、αアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)を対固形分3重量%、グルコアミラーゼ(AMG、ノボザイムズ社製)を対固形分8重量%添加して、60℃で1時間反応した。酵素分解後のサンプルを精製・濃縮し、固形分10kgの処理物を得た。
酵素処理物は塩型強酸性カチオン交換樹脂(FX1040、オルガノ社製)を充填した連続式クロマト分離装置(トレソーネ、オルガノ社製)により分離を行い、3糖以上の成分を分画し、常法により精製、濃縮、噴霧乾燥を行い、固形分2kgの分画物を得た。分画したサンプルの糖組成は単糖、2糖、3糖、4糖以上が、0.0、0.0、27.1、72.9%となった。また、<分析方法>に記載した手法に従い、食物繊維含量を算出した結果、93%となった。
得られたサンプルに含有する結合様式を確認するため、参考例9と同様にメチル化分析を行った。結果上記表27に示す。クロマト分画物には1,2結合、
1,3結合が存在することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の糖組成物は飲料や菓子等の飲食品だけでなく、医薬、化粧品、家畜飼料等広い分野で添加剤として使用することができる。本発明の糖組成物は、水に分散しやすく、飲料や食品等の添加剤として利用価値が高い、水溶性食物繊維としての利用も可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコースを構成糖とする食物繊維を含有する糖組成物であって、
次式におけるx、y、zの数値が、それぞれ0.20≦x≦0.75、0.25≦y≦0.80、z≦0.30である糖組成物。
x…グルコースを構成糖とする重合度3,4の食物繊維の含量(g)/ グルコースを構成糖とする食物繊維含量の合計(g)
y…グルコースを構成糖とする重合度5〜9の食物繊維の含量(g)/ グルコースを構成糖とする食物繊維含量の合計(g)
z…グルコースを構成糖とする重合度10以上の食物繊維の含量(g)/グルコースを構成糖とする食物繊維含量の合計(g)
【請求項2】
グルコースを構成糖とする糖質の全重量に対する、グルコースを構成糖とする食物繊維含量の合計が5重量%以上である請求項1記載の糖組成物。
【請求項3】
前記糖組成物は、転移酵素を糖原料に作用させて製造された請求項1又は請求項2記載の糖組成物。
【請求項4】
前記転移酵素は、α−グルカンと、α−グルコオリゴ糖と、グルコースとからなる群より選択されるいずれか1種以上の糖原料に作用して、α1,2グルコシド結合を有する糖質と、α1,3グルコシド結合を有する糖質を生成し、65℃以上の温度で酵素反応可能なAspergillus属由来の転移酵素である請求項3記載の糖組成物。
【請求項5】
前記糖原料は、澱粉質を前記転移酵素以外の酵素又は酸によって部分的に加水分解して得られる澱粉部分分解物である請求項3又は請求項4記載の糖組成物。
【請求項6】
前記酵素はαアミラーゼである請求項5記載の糖組成物。
【請求項7】
前記請求項1〜6のいずれか1項記載の糖組成物を含有する飲食品。
【請求項8】
前記飲食品は発酵飲食品である請求項7記載の飲食品。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−200225(P2011−200225A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45378(P2011−45378)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000187079)昭和産業株式会社 (64)
【Fターム(参考)】