糖質関連酵素を擬似粉末状態の糖質原料と反応させる糖質複合体の製造方法とその生産物
【課題】糖質関連酵素を擬似粉末状態で反応させる糖質複合体の製造法とその生産物を提供する。
【解決手段】糖質原料を擬似粉末状態にして糖質関連酵素で反応させ、その生産物である糖質複合体を製造する方法であって、1)糖質原料の擬似粉末状態を保持するために用いる糖質が、ラクトース、サイクロデキストリン、セルロース、澱粉、米粉、小麦粉、又は増粘多糖であり、2)反応用原料が、グルコース、フルクトース、ソルボース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、フコース、アセチルグルコサミン及び/又はそれらのポリマー、糖アルコール、ポリフェノール、水酸基をもつアミノ酸、若しくはステロイドであり、3)上記1、2の原料を個別又は1種以上混合して、擬似粉末状態を保持し、糖質関連酵素で反応させることを特徴とする糖質複合体の製造方法及びその生産物。
【解決手段】糖質原料を擬似粉末状態にして糖質関連酵素で反応させ、その生産物である糖質複合体を製造する方法であって、1)糖質原料の擬似粉末状態を保持するために用いる糖質が、ラクトース、サイクロデキストリン、セルロース、澱粉、米粉、小麦粉、又は増粘多糖であり、2)反応用原料が、グルコース、フルクトース、ソルボース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、フコース、アセチルグルコサミン及び/又はそれらのポリマー、糖アルコール、ポリフェノール、水酸基をもつアミノ酸、若しくはステロイドであり、3)上記1、2の原料を個別又は1種以上混合して、擬似粉末状態を保持し、糖質関連酵素で反応させることを特徴とする糖質複合体の製造方法及びその生産物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖質原料を擬似粉末状態で、糖質関連酵素と反応させ、その生産物である反応物全体からなる糖質複合体を製造する方法とその生産物に関するものであり、更に詳しくは、糖質原料の粉末状態を保持するために用いる粉末状態保持用素材(粉末化基材又は担体)と反応基質(反応用原料又は基質)を混合して、適度の水分を含有する状態で、全体が散ける(ばらける)状態(粉末状酵素反応と呼称する)、非離水状態、又は(弱粘性)泥状態の「擬似粉末状態」にして糖質関連酵素を作用させて、糖質複合体を製造する方法とその生産物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、酵素反応は液中で行い、基質が高濃度であっても反応は進み、また、農産原料の状態で保蔵した場合、酵素反応が進むことがあり、農産原料の品質劣化が起こることは知られていた。また、基質高濃度下で糖質関連酵素の逆合成反応を利用した各種糖質、糖質複合体の製造方法が開発、実用化されている。例えば、分岐サイクロデキストリンの製法(例えば、特許文献1など)があり、分岐サイクロデキストリンは、高濃度のマルトオリゴ糖とサイクロデキストリンとの混合物を基質とする、プルラナーゼ、イソアミラーゼなどの澱粉枝切り酵素の逆合成反応によっても生成することは一般的に知られている。この他の糖質関連酵素でも、反応生成物を高濃度とした場合、逆合成が起こりやすいことは周知のことである。
【0003】
通常の酵素反応は液状態で行われ、反応終了後、生成物を取り出したり、そのままの状態で濃縮・乾燥して製品化する。この他、固定化酵素を用いて生成物を連続的に取り出すこともできるが、濃縮・乾燥、あるいは、分画又は分取・乾燥する工程が必要である。濃縮のみで液状製品とすることもできる例もあるが、品質保持、保存、取り扱いの面からは、乾燥粉末にすることが望まれる。
【0004】
先行技術として、例えば、糖質と糖質以外の食品成分を混合して大気中で高温処理して機能性素材を製造する方法及びその素材(特許文献2)があり、その中で、「本発明は、リパーゼの反応にも適用でき、例えば、粉末化基材に基質の脂肪酸と糖アルコールを噴霧混合し、50〜60℃で密閉静置反応すれば、脂肪酸エステルを製造できる。リパーゼの反応での基質の組合せをデキストリンとグルコース、フルクトースなど単糖、糖アルコール、ポリフェノール、ステロイドなどの水酸基をもつ食品成分などに換えて、サイクロデキストリン合成酵素の作用を利用すれば、各種の糖転移物が得られる。また、プラナーゼ、イソアミラーゼによる糖転移反応、α−アミラーゼ、グルコアミラーゼによる糖転移反応、ペプチダーゼによるアミノ酸転移反応も、水が粒表面に局在するために効率的に進行することが予想され、その利用も可能である。」と記載されている。
【0005】
また、他の先行技術として、粉末状の食品素材とその処理方法(特許文献3)があり、その中で、「粉体を担体として、食品素材を混合して噴霧し処理することを特徴とする食品素材の処理方法(請求項10)」、「粉体が、粉末セルロース、粉末キチン、ガラスビーズ又は粉炭である請求項10の方法(請求項11)」、「澱粉を担体として、食品素材を混合して噴霧し処理することを特徴とする食品素材の処理方法(請求項12)」と記載されている。
【0006】
また、麹菌による米麹の製造では、蒸した米に麹菌を塗して室で発酵し、微生物で物質生産が行われている。この場合、本態は酵素反応であるが、麹菌を接種して発酵させるものであり、固体発酵、半固体発酵など、水分含有原材料を用いた各種醸造技術に通じるものである。これに対し、本発明の方法は、原材料に適量の水分を含ませ、直接酵素を作用させ、製品化するもので、麹菌による発酵とは本質的に異なる技術である。
【0007】
また、製パン用酵素製剤には各種の製品があり、これらを利用することによりパン製品品質を各種に改善されている。小麦粉に各種素材を混合してこれら酵素を発酵と同時に作用させるもので、本発明の方法に一部類似するものであるが、酵母が関与し、食品製造に用いられるもので、本発明の方法とは、乾燥粉末素材の製造という点で本質的に異なるものである。
【0008】
他の先行技術として、米粉にβ−アミラーゼを添加混捏し、ケーキ状にして反応させ柔らかいモチが形成されることが示されている(非特許文献1)。この方法は、本発明の方法に一部類似しているが、食品製造に用いられるもので、本発明の乾燥粉末素材の製造法とは本質的に異なるものである。更に、食品自体に酵素類を作用させて、組織を崩壊させるなどして、物性、食味を改良する例もあるが、食品全体を取り扱うもので、本発明のように、素材・成分を粉末状態で反応させて目的の生成物を製造することはできない。
【0009】
これまでの糖質製品の製造法としては、原料の粉砕・磨砕、分級などによる粉末製品の製造、これらと各種素材との混合によるミックス粉の製造が主体である。糖質原料を加工・化工して製造した糖質製品としては、グルコース、異性化糖、マルトース、トレハロース、オリゴ糖(マルトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、分岐オリゴ糖、ラフィノースなど)があり、多糖類としては、セルロース系、ヘミセルロース系があり、増粘多糖類は、微生物培養法、原材料からの抽出、酵素処理などにより製造されている。
【0010】
加工・化工製品については、酵素処理による製造の祭には、液状反応を行うのが常法であり、固定化酵素を用いる場合も、通液して製造する。この製造法では、水を多量に必要とし、しかも安定性の高い乾燥品を得るためには、生成物の濃縮・乾燥工程を必要とし、生産コストの上昇と環境負荷の増大が製品価格に影響する。更に、各種ミックス粉へのニーズも多様化し、粉への各種機能性の付与も求められている。
【0011】
一般に、粉末状でも酵素反応は進むと考えられるが、しかし、本発明者らが検討したところ、所謂粉末状態でも酵素反応は起こるものの、その効率は極めて低く、市販糖質粉末に酵素を混合撹拌して反応させても反応の進行は実用化にはほど遠い程度であった。一般的な所謂乾燥した粉末状態では反応はほとんど進まず、ある程度の水分の存在が必要であることが判明した。また、これまで、粉末状態を保持することができる所定の水分含有率を保有する食品素材についての報告例もなく、粉末状態を保持することが可能な水分含有率の特定もなされていないのが実情であった。
【0012】
このような状況の中で、本発明者らは、可能な限り水を使用せずに水の含有率を低水準に低下させた所定の水分含有率で、反応を進める方法を探索してきた過程で、反応効率を高める条件として、水分含有率と反応形態を検討し、反応形態として、粉末状保持用糖質と反応用基質を用い、水分と酵素を混合し、水分添加により、反応形態がどのように変化し、反応が進行するかを検討して、粉末状保持用糖質(基材)と反応用基質を仕分け、反応の進行に好適な所定の水分含有率を見出すとともに、糖質関連酵素との組合せで極めて多様な生産物を製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特公昭56−48156号公報
【特許文献2】特開2009−60875号公報
【特許文献3】特開2007−236269号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】応用糖質科学 第1巻 第2号 p194−200“Bacillus flexus由来の耐熱性β−アミラーゼについて”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、糖質原料を水分含有率が低い所定の条件下で糖質関連酵素と反応させてその生産物である糖質複合体を製造し、乾燥と殺菌を兼ねた、簡単な処理で商品化が可能な、糖加水分解反応、糖転移反応によるオリゴ糖、糖質複合体などの製造方法とその生産物を提供することを目的とするものである。更に、本発明は、糖質関連酵素を擬似粉末状態の糖質原料と反応させることでその生産物である糖質複合体を製造する方法とその生産物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)糖質原料を擬似粉末状態にして糖質関連酵素で反応させ、その生産物である糖質複合体を製造する方法であって、1)糖質原料の擬似粉末状態を保持するために用いる糖質が、ラクトース、サイクロデキストリン、セルロース、澱粉、米粉、小麦粉、又は増粘多糖であり、2)反応用原料が、グルコース、フルクトース、ソルボース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、フコース、アセチルグルコサミン及び/又はそれらのポリマー、糖アルコール、ポリフェノール、水酸基をもつアミノ酸、若しくはステロイドであり、3)上記1、2の原料を個別又は1種以上混合して、擬似粉末状態を保持し、糖質関連酵素で反応させることを特徴とする糖質複合体の製造方法。
(2)擬似粉末状態を保持するための糖質の澱粉が、トウモロコシ、米、小麦、馬鈴薯、甘藷、タピオカ、又はサゴである、前記(1)に記載の方法。
(3)増粘多糖が、グアガム、アルギン酸Na、コンニャクイモ、又は寒天である、前記(1)に記載の方法。
(4)糖質関連酵素(一般名)が、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、ポリガラクチュロナーゼ、キシラナーゼ、β−グルカナーゼ、グルコアミラーゼ、α−アミラーゼ、耐熱性αアミラーゼ、デキストラナーゼ、β−アミラーゼ、マルトトリオヒドロラーゼ、プルラナーゼ、CDグルカノトランスフェラーゼ(CGTase、CD合成酵素)、トランスグルコシダーゼ、スクラーゼ、ラクターゼ、インベルターゼ、又はグルコース・イソメラーゼである、前記(1)に記載の方法。
(5)糖質関連酵素を2種以上組み合わせて反応させる、前記(4)に記載の方法。
(6)擬似粉末状態を保持するための糖質と反応用原料の等量混合物に酵素を添加したものの水分含有率が、ラクトースでは12〜17%、サイクロデキストリンでは12〜34%、セルロースでは10〜72%、澱粉では16〜45%、米粉では19〜50、小麦粉では14〜38、増粘多糖では17〜91%である、前記(1)に記載の方法。
(7)反応終了後、擬似粉末状態の反応物を乾燥して全体を用いる、前記(1)に記載の糖質複合体の製造法。
(8)糖質原料を非離水状態の擬似粉末状態にして糖質関連酵素で反応させ、その生産物である糖質複合体を製造する方法であって、1)糖質原料の非離水状態を保持するために用いる糖質が、セルロース、澱粉、米粉、又は小麦粉であり、2)反応用原料が、グルコース、フルクトース、ソルボース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、フコース、アセチルグルコサミン及び/又はそれらのポリマー、糖アルコール、ポリフェノール、水酸基をもつアミノ酸、若しくはステロイドであり、3)上記1、2の原料を個別又は1種以上混合して、糖質関連酵素で反応させる、前記(1)に記載の糖質複合体の製造方法。
(9)前記(1)から(8)のいずれかに記載の製造方法で、糖質原料を擬似粉末状態で酵素反応させ、乾燥と同時に酵素を欠活させて得られる長期保存によっても品質劣化の少ないことを特徴とする糖質複合体。
【0017】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、糖質原料を擬似粉末状態にして糖質関連酵素と反応させ、その生産物である糖質複合体を製造する方法であって、1)糖質原料の擬似粉末状態を保持するために用いる糖質が、ラクトース、サイクロデキストリン、セルロース、澱粉、米粉、小麦粉、又は増粘多糖であること、2)反応用原料が、グルコース、フルクトース、ソルボース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、フコース、アセチルグルコサミン及び/又はそれらのポリマー、糖アルコール、ポリフェノール、水酸基をもつアミノ酸、若しくはステロイドであること、3)上記1、2の原料を個別又は1種以上混合して、擬似粉末状態を保持し、糖質関連酵素と反応させること、を特徴とするものである。
【0018】
本発明では、擬似粉末状態を保持するための糖質の澱粉が、トウモロコシ、米、小麦、馬鈴薯、甘藷、タピオカ、又はサゴであること、増粘多糖が、グアガム、アルギン酸Na、コンニャクイモ、又は寒天であること、糖質関連酵素(一般名)が、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、ポリガラクチュロナーゼ、キシラナーゼ、β−グルカナーゼ、グルコアミラーゼ、α−アミラーゼ、耐熱性αアミラーゼ、デキストラナーゼ、β−アミラーゼ、マルトトリオヒドロラーゼ、プルラナーゼ、CDグルカノトランスフェラーゼ(CGTase、CD合成酵素)、トランスグルコシダーゼ、スクラーゼ、ラクターゼ、インベルターゼ、又はグルコース・イソメラーゼであること、を好ましい実施態様としている。
【0019】
また、本発明では、擬似粉末状態を保持するための糖質と反応用原料の等量混合物に酵素を添加したものの水分含有率が、ラクトースでは12〜17%、サイクロデキストリンでは12〜34%、セルロースでは10〜72%、澱粉では16〜45%、米粉では19〜50、小麦粉では14〜38、増粘多糖では17〜91%であること、また、糖質原料を非離水状態の擬似粉末状態にして酵素反応する方法であって、1)糖質原料の非離水状態を保持するために用いる糖質が、セルロース、澱粉、米粉、又は小麦粉であること、2)反応用原料が、グルコース、フルクトース、ソルボース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、フコース、アセチルグルコサミン及び/又はそれらのポリマー、糖アルコール、ポリフェノール、水酸基をもつアミノ酸、若しくはステロイドであること、3)上記1、2の原料を個別又は1種以上混合して、糖質関連酵素で反応させること、を好ましい実施態様としている。
【0020】
一般に、栄養学的には、単糖を基本の構成成分とする物質の総称が炭水化物と定義されているが、本発明で、糖質とは、物質として、単糖を基本の構成成分とする物質で、その誘導体を含むものとする。また、粉末状態を保持するとは、水分を加えたとき、塊になったり、水分が染み出る状態ではなく、湿潤状態で、粒子及び/又は小さい塊が散けている状態のことをいう。
【0021】
本発明では、1gの粉末化基材が水分を含み粉末状態を保持することができる粉末状態保持限界水量(μL)をPSSV(powder state sustainable water volume)とした。なお、粉末化基材に水を逐次添加して、その様子を観察すると、粉末状(P:Powder)→水を含んで湿潤となるが散ける状態(H:Humid)→軟弱ケーキ状(SC:Soft Cake)→固化ケーキ状(HC:Hard Cake)[ここまでを粉末状態とする]→泥状(M:Muddy)→液泥状(ML:Muddy Liquid)[ここまでを非離水状態とする]→懸濁液状(Sus:Suspension)となる。
【0022】
通常、原材料とする粉末には、水分が10%内外含まれるが、PSSVは、原材料乾燥粉末1g当たりの吸水量、すなわち、市販原材料を105℃、2時間乾燥した粉末を使用し、その乾燥粉末に対しての水分添加率である。非離水状態とは、反応系中で静置したとき水層が分離しない状態のことをいう。澱粉系とは、粉末状態保持用糖質の澱粉に反応用原料と酵素を含む全体を意味する。また、本発明の方法で製造される製品の名称を、粉末状酵素処理物Powder State Enzyme Treated Food Ingredients PSET パセト(又はパスト)食品素材と呼称する。
【0023】
反応形態は、粉末状(Powder State Reaction, PSRと略称、ペースト状又はケーキ状、Paste State reaction or Cake State Reaction CSR)、非離水状の泥状(Muddy State Reaction MSR)、懸濁液状(Suspension State Reaction,SSR)、液状(溶液状も含める、Liquid or Solution State Reaction,LSR)のように大別され、本発明の方法は、粉末状態はPSR、CSRまで、非離水状態はMSRまでとし、本発明では、これらを含めて、「擬似粉末状態」(Pseudo Powder State)と定義する。
【0024】
市販原材料を、105℃、3時間乾燥した時の水分含有率測定例(%)を示すと、以下の如くである。すなわち、トウモロコシ澱粉9.4、馬鈴薯澱粉13.6、粳米澱粉10.2、糯米澱粉11.2、小麦澱粉9.6、甘藷澱粉9.6、セルロース5.9、アラビアガム9.0、グアガム10.8、アルギン酸Na13.6、コンニャクイモ11.2、α−CD(α−サイクロデキストリン)7.4、β−CD12.8、γ−CD7.6、米粉(上新粉)11.0、薄力粉10.2、中力粉8.6、強力粉8.8である。このように、一般の市販糖質原材料の水分含有率は10%前後となっている。
【0025】
粉末状態保持限界水量PSSVの測定は、以下のようにする。すなわち、各試料のPSSVの測定は、市販品を用い、105℃、3時間で乾燥した後、その1gをとり、100μLずつ逐次添加してミクロスパーテルで撹拌し、外観を観察して行う。測定した結果は、以下に示す通りである。
【0026】
すなわち、トウモロコシ澱粉600、馬鈴薯澱粉600、粳米澱粉700、糯米澱粉900、小麦澱粉600、甘藷澱粉800、タピオカ澱粉600、サゴ澱粉700、米粉(上新粉)1000、薄力粉400、中力粉400、強力粉600、セルロース2500、アラビアガム200、グアガム10000、アルギン酸Na2000、コンニャクイモ5200、寒天4000、α−CD300、β−CD500、γ−CD400、マルトース・H2O 200、ショ糖200以下、トレハロース200以下、ラクトース200、サンオリゴ5,6 200以下、トウモロコシ澱粉DE10 200以下、サンセロビオ(主成分セロビオース)200、エリスリトール200以下、キシリトール200以下、ソルビトール200以下、マンニトール200、キシロース200、グルコース無水500、フルクトース200以下、マンノース200以下、ガラクトース400、アセチルグルコサミン400、カゼイン1800、ゼラチン1800であった。
【0027】
これらのうち、粉末状態保持用として用いることができる糖質としては、水を加えたとき、あめ状になったり、容易に溶解せず、サラサラな状態を保持する性質をもつものが望ましく、PSSVが200以下のものは、粉末状態保持用糖質(粉末化基材)としての使用には向かず、反応用原料(反応基質)として用いられる。また、粉末状から液状に至る途上の泥状でも、本発明の方法を適用することができる。なお、PSSVは、反応基質と混合したとき、その種類と量により変化するので、好適な量比を選択すればよい。
【0028】
これらの糖質が、粉末状態保持用か反応原料用かは限定的ではなく、粉末状を保持することができれば何れの方法でも本発明の方法を適用することがあり、例えば、キサンタンガム、タマリンドシードガム、寒天、ゼラチン、ジェランガム、ネイテイブジェランガム、グァーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、デキストラン、ペクチン、アルギン酸、アルギン酸塩類、サイリウムシードガム、カードラン、プルラン、タラガム、アラビアガム、カラヤガム、CMC、セルロース、微結晶セルロース、グアガム部分分解物及び大豆多糖類がある。しかし、水を加えた反応系が反応後の処理により硬く固まり、磨砕し難くなる場合は、実用化に不利となる。
【0029】
そこで、市販糖質原材料にPSSVの水を加えて開放系1週間室温放置したときの固化の様子を観察したところ、以下に示すようになった。
乾燥後もサラサラ状で磨砕しやすいもの:セルロース、トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉、粳米澱粉、糯米澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、寒天、米粉。
固化するが磨砕しやすいもの:α−CD,薄力粉
固化して磨砕し難いもの:アラビアガム、グアガム、アルギン酸Na、コンニャクイモ、中力粉、強力粉、β−CD、γ−CD、ラクトース、トレハロース、ショ糖、マルトース・H2O、トウモロコシ澱粉DE10粉あめ他単糖、オリゴ糖類、糖アルコール類
【0030】
但し、グアガム、アルギン酸Naは、PSSVが高く、PSSVの量の水を加えて乾燥処理した場合は固化するが、PSSVの半量以下であれば、磨砕は容易にできる。これらの結果より、粉末状態保持用糖質(基材)としては、セルロース、トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉、粳米澱粉、糯米澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、グアガム、アルギン酸Na、寒天、米粉、α−CD,薄力粉が適当であり、これらを組み合わせて用いることもでき、また、基材自体も基質になることもある。
【0031】
実際に水分含有率がどの程度まで散ける状態になっているかを、トウモロコシ澱粉と馬鈴薯澱粉を用いて電子顕微鏡で観察した結果は、以下のようになり、乾燥澱粉1g当たり400μLの水を加えても、散けた状態であり、600μLでは澱粉粒子は加熱融解した状態となった。すなわち、PSSVは、600を超えないことを意味している。しかし、反応終了後の乾燥処理の際、澱粉粒が溶解しない、粉末状原料が溶解しないような温度で乾燥すれば、粉末状を保持することができる。
【0032】
例えば、澱粉の場合、泥状反応でも塊となるものの、磨砕は容易であり、セルロースの場合は、高温乾燥でも基質の量が少ない場合は、磨砕が容易である。ほとんどの単糖、オリゴ糖類は、PSSV水分添加後室温乾燥しても硬く固まり、磨砕し難くなる。容易な磨砕が可能であれば、これらの糖質でも反応時は粉末状態にして反応を進め、反応終了後乾燥するなどして本発明の方法を適用することができる。
【0033】
分光々度計による検討は、次のようにして行った。SS−C500mgを10mバイアルに秤取り、0,50,100,250,500μL,750μL,1mL,2mLの水を加え、500倍希釈No.37酵素液(4500ユニット/g)、各50μLを加えて、ミクロスパーテルで撹拌混合した。室温(25℃)で1時間放置(液状試験区は時々揺らして撹拌)、反応終了後、105℃、30分で密閉系酵素失活処理した。水を加えて全量を5050μLになるようにし、数分間室温放置して、0.1%ヨウ素溶液の5倍希釈液100μL加えて発色させた。1500rpm×10分間遠心分離して上清2mLを用いて比色した。なお、ヨウ素呈色のλmaxは560nm前後である。
【0034】
後記する試験例に示すように、50μLから250μLまでは反応は進み、更に750μLまで反応は進み、1mL以上では劣り、添加水分量による状態観察では、100μLの湿潤粉末状、250μLのやや軟弱固体、500μLでの泥状、これ以上は離水状態であった。本検討結果でも、50μLから750μLで活性が高く、特に、200μL前後の水分添加量で高活性が発揮されることを示している。これは、糖質関連酵素の種類によらず、ほぼ同様の傾向を有していることを確認している。
【0035】
粉末状態で作用する加水分解酵素の探索は、市販糖質関連酵素を48種類集積し、以下のようにして行った。すなわち、SS−C10mLバイアルに各500mgとり、これに、集積した酵素剤の1/100希釈液200μL又は1%水溶液、懸濁液の上清を加え、密閉して45℃、2時間反応させ、反応後、密閉して、105℃、30分酵素失活処理を行い、水5mL添加して撹拌し、10分間静置した後、上清200μLをホールプレートにとり、水1mL、ヨウ素液(0.1%ヨウ素−1%ヨウ化カリウム溶液)100μLを加えて発色させ、呈色度を写真撮影した。
【0036】
ヨウ素デンプン反応呈色度による酵素活性表示は、次のようにした。
−(活性強力):Bnk(ヨウ素液100μL+蒸留水1mL)と同じ呈色(薄褐黄色) ±(活性あり):僅かに褐色 +(活性弱い):褐紫色 ++(活性微弱):赤紫色 +++(活性なし):紫色(Ref−酵素無添加と同じ呈色)
【0037】
以下は、粉末状態の酵素反応の酵素活性の結果のまとめである。
1.ヘミセルラーゼ +++
2.セルラーゼ +++
3.ペクチナーゼ ±
4.ペクチナーゼ・キシラナーゼ ±
5.グルコアミラーゼ −
6.グルコアミラーゼ −
7.α−アミラーゼ −
8.インベルターゼ ±
9.スクラーゼS +++
10.デキストラナーゼ +++
11.セルラーゼ +++
12.ヘミセルラーゼ +++
13.ヘミセルラーゼ ±
14.セルラーゼ +++
15.ヘミセルラーゼ +++
16.ヘミセルラーゼ +++
17.グルコアミラーゼ −
18.βアミラーゼ +
19.α−アミラーゼ −
20.βアミラーゼ ±
21.グルコアミラーゼ −
22.グルコースイソメラーゼ +++
23.セルラーゼ −
24.α−アミラーゼ −
25.耐熱性αアミラーゼ −
26.ペクチナーゼ +++
27.βアミラーゼ +
28.セルラーゼ +
29.セルラーゼ −
30.ラクターゼ +++
31.グルコアミラーゼ −
32.マルトトリオヒドロラーゼ +
33.プルラナーゼ +++
34.CDグルカノトランスフェラーゼ ++
35.トランスグルコシダーゼ +++
36.アミラーゼ −
37.α−アミラーゼ −
38.α−アミラーゼ −
39.グルコアミラーゼ −
40.セルラーゼ −
41.セルラーゼ +++
42.α−アミラーゼ −
43.α−アミラーゼ −
44.α−アミラーゼ −
45.ポリガラクチュロナーゼ +
46.セルラーゼ +++
47.β−グルカナーゼ ++
48.β−グルカナーゼ +++
Ref (酵素液の換わりに水を用いた) +++
【0038】
酵素製品の種類は、以下に示す通りである。
番号.一般名(製品名、メーカー)
1.ヘミセルラーゼ(スクラーゼX、三菱化学フーズ)
2.セルラーゼ(スクラーゼC、三菱化学フーズ)
3.ペクチナーゼ(スクラーゼN、三菱化学フーズ)
4.ペクチナーゼ・キシラナーゼ(スクラーゼA、三菱化学フーズ)
5.グルコアミラーゼ(コクラーゼM、三菱化学フーズ)
6.グルコアミラーゼ(コクラーゼG2、三菱化学フーズ)
7.α−アミラーゼ(コクラーゼ、三菱化学フーズ)
8.インベルターゼ(三菱化学フーズ)
9.スクラーゼS(三菱化学フーズ)
10.デキストラナーゼ(デキストラナーゼ2F、三菱化学フーズ)
11.セルラーゼ(セルロシンT3、エイチビイアイ)
12.ヘミセルラーゼ(セルロシンHC、エイチビイアイ)
13.ヘミセルラーゼ(セルロシンHC100、エイチビイアイ)
14.セルラーゼ(セルロシンAC40、エイチビイアイ)
15.ヘミセルラーゼ(セルロシンGM5、エイチビイアイ)
16.ヘミセルラーゼ(セルロシンTP25、エイチビイアイ)
17.グルコアミラーゼ(グルラーゼAN、エイチビイアイ)
18.βアミラーゼ(ハイマルトシンG、エイチビイアイ)
19.α−アミラーゼ(液化酵素T、エイチビイアイ)
20.βアミラーゼ(βアミラーゼ#15000S、ナガセケムテックス)
21.グルコアミラーゼ(グルコチーム#20000、ナガセケムテックス)
22.固定化グルコース イソメラーゼ(スイターゼGN、ナガセケムテックス)
23.セルラーゼ(セルラーゼXP425、ナガセケムテックス)
24.α−アミラーゼ(スピターゼCP40FG、ナガセケムテックス)
25.耐熱性αアミラーゼ(スピターゼXP404V2、ナガセケムテックス)
26.ペクチナーゼ(ペクチナーゼXP534NEO、ナガセケムテックス)
27.βアミラーゼ(βアミラーゼL、ナガセケムテックス)
28.セルラーゼ(セルラーゼSS、ナガセケムテックス)
29.セルラーゼ(セルラーゼXL531、ナガセケムテックス)
30.ラクターゼ(ラクターゼナガセ、ナガセケムテックス)
31.グルコアミラーゼ(長瀬酵素剤N15L、ナガセケムテックス)
32.マルトトリオヒドロラーゼ(ATM1.2L、天野エンザイム)
33.プルラナーゼ(プルラナーゼ「アマノ」3、天野エンザイム)
34.CDグルカノトランスフェラーゼ(コンチザイム、天野エンザイム)
35.トランスグルコシダーゼ(トランスグルコシダーゼL「アマノ」、天野エンザイム)
36.アミラーゼ(アミラーゼAD「アマノ」1天野エンザイム、)
37.α−アミラーゼ(クライスターゼL1、天野エンザイム)
38.α−アミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム)
39.グルコアミラーゼ(グルクザイムAF6、天野エンザイム)
40.セルラーゼ(セルラーゼA「アマノ」3、天野エンザイム)
41.セルラーゼ(セルラーゼ「アマノ」4、天野エンザイム)
42.α−アミラーゼ(BAN 480 L、ノボザイム)
43.α−アミラーゼ(Fungamyl 800 L、ノボザイム)
44.α−アミラーゼ(Termamyl 120 L (Type L)、ノボザイム)
45.ポリガラクチュロナーゼ(Pectinex Ultra SP−L、ノボザイム)
46.セルラーゼ(Celluclast 1.5 L、ノボザイム)
47.β−グルカナーゼ(Viscozyme L、ノボザイム)
48.β−グルカナーゼ(Ultraflo L、ノボザイム)
【0039】
CGTaseでの粉末状酵素反応は、以下のようにして行った。すなわち、グルコース(G1、市販試薬特級)、マルトース(G2、一水和物、市販試薬特級)、マルトトリオース(G3、水飴 Bx.81.1)、マルトテトラオース(G4、水飴 Bx 77.7)、サンオリゴ5,6(G5,6、G5とG6が主成分)、可溶性澱粉(SS)を基質として用い、各250mgをバイアルに取り、セルロース250mgを加え、CGTase(No.34)の10倍希釈酵素液を300μL加えて撹拌・混合し、5日間、45℃で反応させた。
【0040】
バイアル中の試料約100mgを取りだし、ヨウ素液(1%ヨウ化カリ溶液中に0.1%にヨウ素を溶解したもの)200μL、水1mLを加えて発色させ、その呈色を観察した。その結果、G4、G5,6、SSでは褐紫色になり、他は、ヨウ素液と同程度であった。この反応条件は、超過剰であり、100倍希釈酵素液100μL、反応温度・時間45℃、30分間では、全ての試験区でヨウ素呈色は示さず、反応で生成したα−CDがヨウ素呈色を阻害しているか、反応が全く進行していないことを示していた。
【0041】
詳細には、反応液を失活処理後、グルコアミラーゼ純品でCD以外の澱粉由来糖質をグルコースまでに加水分解してHPLCで分析すればよい。また、簡便法として、濾紙にグルコアミラーゼ処理後の溶液を滴下、乾燥後、ヨウ素液を滴下、半乾燥して、青紫の呈色を観察する方法もある。その他の酵素による反応性生物の測定は、HPLCにより行い、示差屈折検出器を用い、新しく現れたピーク面積/(原材料のクロマトグラフでのピーク面積+新しく現れたピーク面積)×100とし、変換率とした。
【0042】
反応基質混合系による分岐−CDの調製は、以下のようにして行った。すなわち、市販マルトース一水和物とα−CDの各10%溶液を調製し、密栓付きバイアルに、その各200μLを混合し、食添用セルロース400mgを加えて撹拌・混合し、プルラナーゼ溶液(市販試薬粗製プルラナーゼ、林原生物化学研究所製10mgを1mLの水に溶解)40μLを加えて密閉系45℃で静置反応1時間、密閉系105℃で失活30分間とし、失活後、2mLの水を加えて1500rpm×10分間遠心分離して、その上清10μLをHPLCで測定した。
【0043】
HPLC条件は、以下の通りである。すなわち、水溶性素材・成分、糖質系分析の場合、カラムLichrosphere NH2(5μm)を用い、カラム温度35℃、移動相65%アセトニトリル、流速1.0mL/minとし、示差屈折検出器を用いて検出した。疎水性素材・成分の場合、カラム(Inartsil ODS−2,φ6.0mm×250mm,ジーエルサイエンス(株))を用い、カラム温度40℃で、移動相−メタノールと0.1%リン酸水溶液を1:9の割合で混合したものを、流速1.0ml/min、紫外吸収検出器(UV−2075 Plus,日本分光工業(株))、波長280nmと示差屈折検出器を用いて、検出した。
【0044】
装置は、脱気装置(DG−3310,日本分光工業(株)),カラムオーブン(MODEL−555,ガスクロ工業(株)),ポンプ(880−PU,日本分光工業(株)),インジェクター(7125,レオダイン社),紫外吸収検出器(875−UV,日本分光工業(株)),示差屈折検出器(RI−2031,日本分光工業(株))、記録計(Chromatocorder12,システムインスツルメンツ(株))を用いた。
【0045】
粉末状態の保持機能は期待できないが、水分含有量が少なければ反応が進む可能性がある糖質としては、PSSVが200以下のショ糖、トレハロース、サンオリゴ5,6、トウモロコシ澱粉加水分解物DE10、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、フルクトース、マンノースなどがある。この他の糖質であっても、粉末状態を保持する手段をとることができれば、反応を進め、粉末状素材を製造することが可能となる。
【0046】
粉末状態保持用の糖質としては、澱粉、セルロース、ヘミセルロースが利用できるが、これ以外のものでも粉末状態を保持できる素材であれば何れでも本発明の方法を適用できる。例えば、活性炭粉末、グラスビーズ、アルミナなどがある。しかし、このままの状態での食品素材としての利用は困難である。また、DEAE−セルロースに糖質関連酵素、アミノ酸関連酵素を結合させて、粉末状酵素反応をした後、反応生成物を速やかに水抽出して取りだして、製品化することも可能で、酵素のリサイクルができるが、反応物全体の製品化はできない。
【0047】
混合酵素系での粉末状酵素反応を進めることも可能である。糖転移活性のあるα−グルコシダーゼとβ−グルコシダーゼをグルコースとでα、β結合混合多糖が生成することが酵素作用とHPLCの検討で示唆され、反応前後でのHPLCプロファイルの差異と反応後に新規に生成した液クロピークのα−グルコシダーゼ及びβ−グルコシダーゼの作用後での消長で新規多糖が生成することが確認された。
【0048】
澱粉にα−アミラーゼと澱粉以外の糖質とβ−グルコシダーゼを複合的に本発明の方法で作用させれば澱粉の物性を改変できる。α−アミラーゼとしては、通常の酵素でも澱粉粒を一部水解出来るが、生澱粉分解活性が高い酵素が効率的に用いられる。澱粉以外の糖質としては、マルトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、マンノオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、アラビノキシラン、単糖、増粘多糖を用いる。β−グルコシダーゼは、グリコシダーゼの一種であり、本発明の方法では、グルコシダーゼに限定するものではなく、グリコシダーゼであれば何れでも用いることができる。
【0049】
糖質関連酵素を組み合わせて用い、適当な基質を粉末状で作用させて、その混合比を変化させることにより、求める物性の製品を創出することも可能である。例えば、CGTase+プルラナーゼ+β−アミラーゼ又はα−アミラーゼで分岐CD製造も可能である。β−CDがβ−アミラーゼの活性を阻害することは知られているが、分岐CDの生成に大きくは影響しない。
【0050】
タンパク質の分解物、疎水性アミノ酸を粉末化基材として用い、親水性のアミノ酸を混合し、ペプチダーゼ、プロテアーゼなどのアミノ酸系関連酵素を混合し、粉末状酵素反応する。乳タンパク質、ラクトフェリン、卵タンパク質などの動物タンパク質、大豆粉、大豆タンパク質などの植物タンパク質の物性、味質を変換したり、生理機能を付与することが可能であり、混合基質、混合酵素を用い、その混合比を変化させることにより、広汎な種類の素材、成分の生産が可能となる。
【0051】
OH基をもつ素材、成分としては、中性糖、糖アルコール、酸性糖質などの糖質、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、核酸、ポリフェノール、ステロイドなどがあるが、これらに、グルコース、グルコース重合物、ラクトース、ショ糖などの二糖類、その他糖質及びその重合物とCGTase、α−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、その他の糖質関連酵素を粉末状態で作用させると、各種の結合物、複合体が生成する。
【0052】
通常の市販状態の水分含有量では、これらの反応は殆ど起こらないか、極めて進み難い。しかし、水分含有率10%以下であっても長時間の反応では、糖質複合体が生成する可能性がある。また、逆に大量の水分を添加しても散けて、乾燥により粉末が容易に得られるものであれば、本発明の方法を適用できる。通常の糖質素材は、水分を添加して散ける状態で室温乾燥しても、分離しやすいサラサラの粉末にはなり難い。高温で乾燥しても固化して破砕し難い塊となる。それでも粉末状酵素反応は起こるので、塊状の糖質素材の製造は可能である。
【0053】
ポリフェノール(Polyphenole)とは、同一分子内に2個以上のフェノール性水酸基(ヒドロキシ基)をもつもので、4000種類以上知られ、フラボノイド系、フェノール酸系がある。これらの成分は、植物に含まれる成分で植物抽出物、エキスに含まれている。実用素材・成分には、甘茶成分、羅漢果、ステビア、還元CoQ10、クワンソウエキス、クロシン、ホノキオール、甘草エキス、アスコルビン酸など、極めて多くの種類が知られている。
【0054】
CGTaseは、これらの水酸基に作用する、又は、複合体を形成して、各種機能を発揮する。更に、糖転移酵素、糖質水解酵素は、その逆反応で糖質同士を結合させ、糖質ポリマーを生成する。糖質関連酵素としては、この他、各種異性化酵素も知られている。これらの酵素は、これまで、水溶液又は懸濁液状態で反応され、各種素材、成分が製造されているが、本発明の方法を適用することが可能となり、その効率は格段に高くなることが期待される。
【0055】
本発明は、水分をある程度まで添加しても粉末状、又は非離水状態を保持することができる粉末化基材と反応基質を撹拌混合し、散けた状態、又は非離水状態を保持して反応させ、各種素材・成分を製造することを特徴とするものである。発酵技術、製パン、製菓技術、食品製造として、類似した事例はあるが、糖質酵素の反応が、粉末状態、又は非離水状態の一定水分含有率の擬似粉末状態で効果的に進むとの知見を利用して粉末状素材を製造する技術は、本発明で初めて開発されたものである。本発明においては、乾燥、酵素欠活及び殺菌の条件としては80〜120℃、処理時間は15〜120分が好適であり、この製造条件で製品の品質劣化を抑制することができる。この場合、酵素の種類によっては、例えば耐熱性α−アミラーゼのように100℃でも欠活しないものもあるが、乾燥が十分であれば製品の成分変化や、着色は進行しない。
【0056】
次に、本発明の試験例を示す。
[試験例]
(1)澱粉粒の散け状態の観察
トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉に水を加え澱粉粒の散け状態を観察した。その結果を図1〜3に示す。図中、Cは、トウモロコシ澱粉、Pは、馬鈴薯澱粉、数字は1gの乾燥原材料に添加した水の量である。
【0057】
次に、電顕観察用試料調製と観察について説明する。トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉の市販品(乾燥無処理)各1gをビーカーにとり、0,40,100,200,400,600,800,1200,2000μLの水を加えて撹拌混合し、大気圧中で170℃、30分間高温処理した結果、トウモロコシ、馬鈴薯とも800では、シャバシャバで水懸濁液となるが、600では散けた。また、30分高温処理後、トウモロコシは600でやや砕きにくくなり、800でひび割れしたように底に乾燥固化した。馬鈴薯では200までは粉末状であり、400、600ではやや砕きにくい。800、1200では泡状薄いセロファン状になってふわっとした感じの粉末になった(α化)。トウモロコシ、馬鈴薯とも400以上は乳鉢で粗く磨砕し、試料とした。
【0058】
電顕用試料作製及び撮影は、以下のように行った。SEM試料台にカーボンテープを貼付け、その上に粉体を乗せてエアブロー・イオンスパッタ装置(日立製 E−102)でPt−Pd(白金−パラジウム)をおよそ13nmコーティングし、日本電子(株)製 JSM−6510LAを用い、加速電圧:5kV、の条件で撮影した。両澱粉粒とも澱粉原料1gに400μLの水を添加すると、分離した澱粉粒と融合した澱粉粒が存在し、600μLでは、ほぼ融合していた。すなわち、融合の直前の条件では散ける状態であることが認められた。
【0059】
(2)加水分解酵素の探索
加水分解酵素の探索を、市販糖質関連酵素を48種類集積し、以下のようにして行った。
【0060】
すなわち、粉末状態の酵素反応例について説明すると、粉末状態保持用糖質としてセルロース粉末25g、反応用基質として可溶性澱粉5gを200mLのビーカーにとり、水25mLを加えてスパーテルでよく撹拌混合した。ポリ試薬瓶に入れ、冷蔵庫で保存し、これをSS−C(湿潤粉末状態、水分含有率:46.2%)とした。
【0061】
反応速度比較:10mLバイアルを用い、液状酵素剤α−アミラーゼ(No.37 4500ユニット/g クライスターゼL1、天野エンザイム)の500倍希釈酵素溶液50μLをSS−C 200mgに加え、0,25,50,75,100,150,200,250,300,500μL,1mL,2mLの水を加え、撹拌混合したところ、0−75:湿潤粉末状(PSR)、75−100:半固体、練り物、糊状(CSR)、150−200:泥状(MSR)、250−:懸濁液状(SSR,LSR振ると液が動き混合できる)、となった。
【0062】
これを密栓して、室温(25℃)で30分間静置反応し、密栓したまま、105℃、30分間酵素失活処理をした後、水を各2000,1950〜1500,1000、0μLを加えて振盪撹拌し、各200μLをホールプレートにとり、水1mLとヨウ素液(1%ヨウ化カリ溶液に0.1%にヨウ素を溶解した溶液)100μLを加えてその呈色を観察した。
【0063】
SS−C(セルロース25g、可溶性澱粉5g、蒸留水25mLを撹拌混合し、密閉冷蔵庫保存)を探索用とした。すなわち、10mLバイアルにSS−C500mgをとり、集積した酵素剤の1/100希釈液200μL又は1%水溶液、懸濁液の上清200μLを加え、密閉45℃、2時間反応させ、反応後、密閉して105℃、30分、酵素失活処理をした後、水5mL添加、撹拌し、10分間静置後、上清200μLをホールプレートにとり、水1mL、ヨウ素液(0.1%ヨウ素−1%ヨウ化カリウム溶液)100μLを加えて発色させ、呈色度とした。その結果を図4〜8に示す。
【0064】
ヨウ素デンプン反応呈色度による酵素活性表示は、次のようにした。
−(活性強力):Bnkと同じ(薄褐黄色) ±(活性あり):僅かに褐色 +(活性弱い):褐紫色 ++(活性微弱):赤紫色 +++(活性なし):紫色(Refと同じ色)
【0065】
Refは、SS−C500mg+蒸留水200μLで同様に処理し、その上清200μLをホールプレートにとり、水1mL、ヨウ素液(0.1%ヨウ素−1%ヨウ化カリウム溶液)100μLを加えて発色させたものである。Bnkは、蒸留水1.2mL+ヨウ素液100μLである。
【0066】
0〜200までは薄褐色、この後は水が遊離して動き、液量の増加とともに反応は遅延し、徐々に紫色が強くなった。反応が進むのは200までで、反応効率が最もよいのは、100であった。100での粉末状酵素反応と2000での液状反応の速度比は2.5(200倍希釈酵素反応と同等な呈色)で、水が動きにくい半固体状態までは反応速度は速く、それ以上の水分では水が動いて、水分が多くなるにしたがって反応速度が遅延した。
【0067】
(3)粉末状態の反応における水分量と反応速度
SS−C200mgを13本の10mバイアルに秤取り、0,25,50,75,100,150,200,250,300,500μL,1mL,2mLの水を加え、500倍希釈No.37酵素液、各50μLを加えて、ミクロスパーテルで撹拌、混合した。室温(25℃)で1時間放置し(液状試験区は時々揺らして撹拌)、反応終了後、105℃で密閉系酵素失活処理、水を2000、1975、・・・1000、0のように加えて全量を2050μLになるようにし、数分間室温放置して、上清200μLを1mL水+ヨウ素液100μLのホールプレートに入れて発色させた。その結果を図9に示す。
【0068】
(4)分光々度計による水分添加量と活性の変化
SS−C500mgを10mバイアルに秤取り、0,50,100,250,500μL,750μL,1mL,2mLの水を加え、500倍希釈No.37酵素液(4500ユニット/g)、各50μLの酵素液を添加、ミクロスパーテルで撹拌、混合した。室温(25℃)で1時間放置し(液状試験区は時々揺らして撹拌)、反応終了後、105℃30minで密閉系で酵素失活処理した。これに、水を加えて全量を5050μLになるようにし、数分間室温放置して、0.1%ヨウ素溶液の5倍希釈液100μL加えて振盪撹拌して発色させた。1500rpm×10分間遠心分離して上清を2mLで比色した。λmaxの吸光度をプロットした。その結果を図10に示す。酵素溶液は、液状酵素剤α−アミラーゼ(No.37 4500ユニット/g クライスターゼL1、天野エンザイム)酵素原液の500倍希釈液である。
【0069】
(5)HPLCによる反応生成物の分析
HPLCにより反応生成物を分析した。その結果を図11に示す。図中、V0は、ボイドボリューム、G2は、マルトース、α−CDは、α−サイクロデキストリン、G2−α−CDは、マルトシル−α−サイクロデキストリンである。
【発明の効果】
【0070】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)粉末化基材に反応基質を混合し、擬似粉末状態を保持して糖質関連酵素を反応させる粉末状酵素反応と、基材・基質の選択により、各種の生産物を製造することができる。
(2)粉末化基材として、ある一定の水分量を加えても散ける状態のもの用い、この時点の水分量を粉末状態保持限界水量PSSV(powder state sustainable water volume)とし、澱粉、セルロース、増粘多糖類などを選択し、粉末状態又は非離水状態の擬似粉末状態で酵素反応を行うことができる。
(3)粉末化基材の澱粉として、トウモロコシ、米、小麦、馬鈴薯、甘藷、タピオカ、サゴ、増粘多糖の種類として、グアガム、アルギン酸Na、コンニャクイモ、寒天を用いることができる。
(4)反応基質としては、グルコース、フルクトース、ソルボース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、フコース、アセチルグルコサミン及び/又はそれらのポリマー、糖アルコール、ポリフェノール、水酸基をもつアミノ酸、ステロイドを用いることができる。
(5)酵素は、糖質関連酵素が主体であり、グルコース、ガラクトース、マンノース、アミノ糖、酸性糖、チオ糖などの糖質ポリマーを水解するカルボヒドラーゼ、トランスフェラーゼ、イソメラーゼを用いて、水解物や合成物を製造することができる。
(6)酵素として、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、ポリガラクチュロナーゼ、キシラナーゼ、β−グルカナーゼ、グルコアミラーゼ、α−アミラーゼ、耐熱性αアミラーゼ、デキストラナーゼ、β−アミラーゼ、マルトトリオヒドロラーゼ、プルラナーゼ、CDグルカノトランスフェラーゼ(CGTase、CD合成酵素)、トランスグルコシダーゼ、スクラーゼ、ラクターゼ、インベルターゼ、グルコース・イソメラーゼ、リゾチームなどを組み合わせて反応させることができる。
(7)粉末状酵素反応ができる水分含有率は、糖質によって異なり、反応基質の量が増える場合は、水分含有率を低く抑えればよい。
(8)粉末状酵素反応終了後、乾燥と同時に殺菌処理し、要すれば微粉末化して、製品とすることができ、反応物全体を直接一定の温度、時間で処理すれば安定性の高い粉末製品とすることができる。
(9)非離水状態でも反応を進行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉に水を加え澱粉粒の散け状態を観察した結果を示す。市販澱粉を105℃3時間乾燥した試料1gに蒸留水を0〜1200μLを添加して、撹拌混合。開放系170℃で乾燥処理した後、観察した。
【図2】トウモロコシ澱粉の澱粉粒の散け状態を観察した結果を示す。
【図3】馬鈴薯澱粉の澱粉粒の散け状態を観察した結果を示す。
【図4】加水分解酵素の探索結果を示す。市販糖質関連酵素を48種類集積し、SS−C(セルロース25g、可溶性澱粉5g、蒸留水25mLを撹拌混合し、密閉冷蔵庫保存)を探索用とした。
【図5】加水分解酵素の探索結果を示す。
【図6】加水分解酵素の探索結果を示す。
【図7】加水分解酵素の探索結果を示す。
【図8】加水分解酵素の探索結果を示す。
【図9】粉末状態の反応における水分量と反応速度についての検討例を示す。SS−C200mgを用い、添加水量を変化させて、酵素液と撹拌混合して反応させ、ヨウ素呈色を観察した結果である。
【図10】分光々度計による水分添加量と活性の変化の検討結果を示す。SS−C500mgを用い、添加水量を変化させて、酵素液と撹拌混合して反応させ、ヨウ素呈色を分光々度計で比色し、560nm前後のλmaxをプロットした。
【図11】HPLCによる反応生成物の分析例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0072】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0073】
以下の実施例では、粉末状態を保持するために用いる糖質を基材、反応用原料を基質と記述する。酵素剤は集積したものを0.2%溶液又は懸濁液とし、懸濁液の場合はその上清を用いた。また、得られた製品は、[基材−基質−酵素]パセト食品素材のように分類し、例えば、[Cel−Glc−StE]パセト食品素材のように分類した。基材も糖質であるので、酵素の作用を受ける可能性があるが、本発明では、実施例3以外は、それらの分析はしていない。
【0074】
本発明では、基材、基質、酵素については、以下のように分類した。
基材:セルロース−Cel、澱粉−St、増粘多糖−Gelなど
基質:Glc−グルコース系、Fru−フルクトース系、Man−マンノース系、Gal−ガラクトース系、Fuc−フコース系、Xyl−キシロース系、Ara−アラビノース系、GlcNAc−アセチルグルコサミン系、Uro−ウロン酸系など。配糖体のアグリコンをAgrと略す。
酵素:StE(澱粉系水解酵素)、CelE(セルロース系水解酵素)、HCelE(ヘミセルロース系水解酵素)(なお、本明細書では、ヘミセルラーゼとは細胞壁に含まれるセルロース以外の糖質全体を含める)、その他。
【0075】
本発明では、集積した酵素製品は、以下のように分類した。
StE:7.α−アミラーゼ、19.α−アミラーゼ、24.α−アミラーゼ、25.耐熱性αアミラーゼ、36.アミラーゼ、37.α−アミラーゼ、38.α−アミラーゼ、42.α−アミラーゼ、43.α−アミラーゼ、44.α−アミラーゼ、20.βアミラーゼ、27.βアミラーゼ、18.βアミラーゼ、21.グルコアミラーゼ、5.グルコアミラーゼ、6.グルコアミラーゼ、31.グルコアミラーゼ、39.グルコアミラーゼ、17.グルコアミラーゼ、32.マルトトリオヒドロラーゼ
【0076】
TraE:34.CDグルカノトランスフェラーゼ、35.トランスグルコシダーゼ
CelE:2.セルラーゼ、11.セルラーゼ、14.セルラーゼ、23.セルラーゼ、28.セルラーゼ、29.セルラーゼ、40.セルラーゼ、41.セルラーゼ、46.セルラーゼ、47.β−グルカナーゼ、48.β−グルカナーゼ
HCelE:1.ヘミセルラーゼ、12.ヘミセルラーゼ、13.ヘミセルラーゼ、15.ヘミセルラーゼ、16.ヘミセルラーゼ、3.ペクチナーゼ、4.ペクチナーゼ・キシラナーゼ、26.ペクチナーゼ、45.ポリガラクチュロナーゼ
【0077】
SucE:8.インベルターゼ、9.スクラーゼS
LacE:30.ラクターゼ
DexE:10.デキストラナーゼ
PulE:33.プルラナーゼ
IsoE:22.グルコースイソメラーゼ
【0078】
本発明では、目的とする素材の製造には、この基材、基質、酵素を組合せ、適宜、反応条件を設定した。基材の混合、基質の混合、酵素の混合、これらを組合せにより、更に多種類の製品を製造した。また、基材のセルロース、澱粉、増粘多糖を組み合わせて、適当な酵素で反応させた場合には、溶解性・湿潤性などの物性は混合物とは異なっているので、相互の部分を交換したハイブリッドタイプの糖質となっている可能性がある。このようにして製造される製品は、安定性、食味、食品の色彩、溶解性などの物性が改良され、毒性が低減化され、更に生理機能性など、新しい特性が付与される。
【実施例1】
【0079】
基材としてセルロース20g、基質として市販粉あめ(ワキシー澱粉 酵素分解物DE5)5g、グルコアミラーゼ酵素液100μL、蒸留水20mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX(登録商標)50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、サラサラの乾燥粉末を得た。本条件で得られた製品は、サッパリした甘味がある、[Cel−Glc−StE]パセト食品素材であり、変換率は73%であった。
【実施例2】
【0080】
密栓付きPYREX(登録商標)50mL耐圧ビンの代わりに食品包装用の紙袋(耐油紙)を使用し、酵素をβ−アミラーゼに換え、密封し、反応後開封して、殺菌・乾燥した以外は、実施例1と同様にして、甘味がマイルドでシットリした食感の糖質素材を得た。変換率は56%であった。
【0081】
この場合、基材を少なくし、基質を多くしたい場合は、粉末状態保持のために水分添加量を少なく調整すればよいこと、また、反応用容器に特に制限はなく、ろ過布、目の細かい布袋又は米用紙袋に入れて、湿度を調節した部屋に2日間45℃で放置した後、風袋全体を105℃で1時間、乾燥殺菌処理すれば製品とすることができること、窒素封入又はポリ袋に入れて真空にすれば、1週間の反応が可能となること、が分かった。また、基材としてウルチ米澱粉を用いて、α−アミラーゼ及び/又はグルコアミラーゼを加えて実施例1に準じて反応させれば基材は基質としても利用できる。
【実施例3】
【0082】
基質として、イヌリン、酵素としてβ−グルカナーゼ100μLとセルラーゼ100μLを用いた以外は、実施例1と同様にして、粉末を得た。本条件で得られた製品は、甘味のある、[Cel−Fru−CelE]パセト食品素材であり、変換率は12%であった。この場合、ヘミセルラーゼを用いることもできるが、これら酵素剤には夾雑酵素が含まれるものと予想されるので、変換効率を高めるにはイヌリン分解酵素の利用が望ましい。
【実施例4】
【0083】
基材としてセルロース20g、基質としてローカストビーンガム1g、ヘミセルラーゼ酵素液100μL、蒸留水20mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX(登録商標)50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、僅かに塊がある製品が得られた。この塊は砕きやすく、手で押すだけで粉末になった。本条件で得られた製品は、[Cel−Man・Gal−HCelE]パセト食品素材であり、水を添加して溶解すると粘凋、不透明な懸濁液になった。
【0084】
ローカストビーンガムの代わりにグアガム、タラガムを用いて同様に処理すると、粘性が異なる製品が得られた。基質としてタマリンド、フコイダン、キシラン、アラビノキシラン、キチン分解物、ペクチン、キサンタンガム、ジェランガムを用いた以外は同様に処理して、粘性の異なる製品が得られた。
【実施例5】
【0085】
基材としてトウモロコシ澱粉20g、基質としてローカストビーンガム1g、ヘミセルラーゼ酵素液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX(登録商標)50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、サラサラな製品が得られた。本条件で得られた製品は、[St−Man・Gal−HCelE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、やや粘凋で不透明な溶液になった。
【0086】
ローカストビーンガムの代わりにグアガム、タラガムを用いて同様処理すると、粘性が異なる製品が得られ、トウモロコシ澱粉の代わりにモチトウモロコシ澱粉を用いた以外は同様に処理して、溶解性のより優れた製品が得られた。
【実施例6】
【0087】
基材として米澱粉20g、基質としてローカストビーンガム1g、ヘミセルラーゼ酵素液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、サラサラな製品が得られた。本条件で得られた製品は、[St−Man・Gal−HCelE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、やや粘凋で不透明な溶液になった。
【0088】
ローカストビーンガムの代わりにグアガム、タラガムを用いて同様に処理すると、粘性が異なる製品が得られ、トウモロコシ澱粉の代わりにモチトウモロコシ澱粉、糯米澱粉、タピオカ澱粉を用いた以外は同様に処理して、溶解性のより優れた製品が得られた。
【実施例7】
【0089】
基材としてトウモロコシ澱粉20g、基質としてタマリンドガム1g、ヘミセルラーゼ酵素液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、サラサラな製品が得られた。本条件で得られた製品は、[St−Xyl−HCelE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、やや粘凋で不透明な溶液になった。
【実施例8】
【0090】
基材としてトウモロコシ澱粉20g、基質としてフコイダン1g、ヘミセルラーゼ酵素液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX(登録商標)50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、サラサラな製品が得られた。本条件で得られた製品は、[St−Fuc−HCelE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、やや粘凋で不透明な溶液になった。
【実施例9】
【0091】
基材としてトウモロコシ澱粉20g、基質としてキシラン1g、ヘミセルラーゼ酵素液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、サラサラな製品が得られた。本条件で得られた製品は、[St−Xyl−HCelE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、やや粘凋で不透明な溶液になった。
【実施例10】
【0092】
基材としてトウモロコシ澱粉20g、基質としてアラビノキシラン1g、ヘミセルラーゼ酵素液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、サラサラな製品が得られた。本条件で得られた製品は、[St−Ara・Xyl−HCelE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、不透明な溶液になった。
【実施例11】
【0093】
基材としてトウモロコシ澱粉20g、基質としてキチン分解物1g、ヘミセルラーゼ酵素液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、サラサラな製品が得られた。本条件で得られた製品は、[St−GlcNAc−HCelE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、不透明な溶液になった。
【実施例12】
【0094】
基材としてトウモロコシ澱粉20g、基質としてペクチン1g、ヘミセルラーゼ酵素液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、サラサラな製品が得られた。本条件で得られた製品は、[St−Uro−HCelE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、粘凋、不透明な溶液になった。
【実施例13】
【0095】
基材としてグアガム10g+セルロース10g、基質として粉あめ5g、グルコアミラーゼ酵素液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、塊がある乾燥製品が得られた。この塊は乳鉢で容易に磨砕することができた。本条件で得られた製品は、[Gel・Cel−Glc−StE]パセト食品素材であり、変換率は47%であった。水を添加して加熱溶解すると、フラットな甘味のやや粘凋な懸濁液になった。
【0096】
StEの代わりに、α−アミラーゼ酵素液100μL+ヘミセルラーゼ酵素液100μLを混合して用いた以外は同様に処理して、粘凋性が抑えられた製品が得られた。本条件で得られた製品は、[Gel・Cel−Glc−StE・HCelE]パセト食品素材であった。
【実施例14】
【0097】
基材としてアルギン酸Na10g+セルロース10g、基質として粉あめ5g、グルコアミラーゼ酵素液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、塊がある乾燥製品が得られた。この塊は乳鉢で容易に磨砕することができた。変換率は45%であった。本条件で得られた製品は、[Gel・Cel−Glc−StE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、フラットな甘味のやや粘凋な懸濁液になった。
【実施例15】
【0098】
基材としてコンニャクイモ粉20g、基質として粉あめ5g、マルトトリオヒドロラーゼ酵素液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、サラサラな乾燥製品が得られた。本条件で得られた製品は、[Gel−Glc−StE]パセト食品素材であり、変換率は36%であった。水を添加して加熱溶解すると、やや粘凋不透明液になった。
【実施例16】
【0099】
基材として寒天粉末20g、基質として粉あめ5g、β−アミラーゼ酵素液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、乾燥製品が得られた。変換率は52%であった。本条件で得られた製品は、[Gel−Glc−StE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、フラットな甘味のやや粘凋な懸濁液になり、ゲル状にすることができた。
【実施例17】
【0100】
基材としてモチトウモロコシ澱粉20g、基質としてショ糖5g、スクラーゼ酵素液100μL、蒸留水10mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、乾燥製品が得られた。変換率は63%であった。本条件で得られた製品は、[St−Glc・Fru−SucE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、フラットな甘味のやや粘凋な不透明溶液になった。
【実施例18】
【0101】
基材としてモチトウモロコシ澱粉20g、基質としてショ糖5g、スクラーゼ酵素液100μL、蒸留水10mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、乾燥製品が得られた。変換率は63%であった。本条件で得られた製品は、[St−Glc・Fru−SucE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、フラットな甘味のやや粘凋な透明溶液になった。
【実施例19】
【0102】
基材としてモチトウモロコシ澱粉20g、基質としてラクトース糖5g、ラクターゼ酵素液100μL、蒸留水10mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、乾燥製品が得られた。変換率は48%であった。本条件で得られた製品は、[St−Glc・Gal−LacE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、フラットな甘味のやや粘凋な透明溶液になった。
【実施例20】
【0103】
基材としてモチトウモロコシ澱粉20g、基質としてデキストラン5g、デキストラナーゼ酵素液100μL、蒸留水10mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、乾燥製品が得られた。本条件で得られた製品は、[St−Glc−DexE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、やや粘凋な透明溶液になった。
【実施例21】
【0104】
基材としてモチトウモロコシ澱粉20g、基質としてプルラン5g、プルラナーゼ酵素液100μL、蒸留水10mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、乾燥製品が得られた。本条件で得られた製品は、[St−Glc−PulE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、やや粘凋な透明溶液になった。
【実施例22】
【0105】
基材としてセルロース19g、基質としてグルコース5g、グルコースイソメラーゼビーズ酵素剤1g、蒸留水10mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、乾燥製品が得られた。この製品は固定化酵素を使用しているので、このままでは製品化はできず、100mLの水で抽出して、抽出液を用いて変換率を45%と計算した。遊離酵素を使用することができれば、直接製品化が可能である。
【実施例23】
【0106】
基材としてトウモロコシ澱粉20g、基質として粉あめ4gとコレステロール1g、CDグルカノトランスフェラーゼ酵素液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、乾燥製品が得られた。製品中の配糖化成分を、製品を70%アセトニトリルで抽出して分析したところ、ほぼ半量は配糖化されていた。
【0107】
コレステロールをβ−シストロールに代えた以外は同様に処理して、同様の結果を得た。本条件で得られた製品は、[St−Glc・Agr−TraE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、不透明溶液になった。
【実施例24】
【0108】
基材としてトウモロコシ澱粉20g、基質としてマルトテトラオース4gとイソフラボンアグリコンミクスチャーA 1g、CDグルカノトランスフェラーゼ酵素(CGTase)液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、乾燥製品が得られた。
【0109】
イソフラボンアグリコンミクスチャーAを各、D−(+)−カテキン水和物、αGヘスペリジン、ゆずポリフェノール、赤しそポリフェノール、フルーツポリフェノール、茶ポリフェノール、没食子酸に代えた以外は同様に処理して、同様の結果を得た。本条件で得られた製品は、[St−Glc・Agr−TraE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、不透明溶液になった。
【実施例25】
【0110】
基材としてトウモロコシ澱粉20g、基質としてマルトペンタオース、マルトヘキサオース混合物4gとアスコルビン酸1gに代えた以外は、実施例23と同様にして、同様の結果を得た。
【実施例26】
【0111】
基材としてトウモロコシ澱粉20g、基質としてマルトペンタオース、マルトヘキサオース混合物4gとエルゴステロール1gに代えた以外は、実施例23と同様にして、同様の結果を得た。この他、ユビキノンやビタミンKのようなOH基をもたないものでもCGTaseでCD合成、複合化で安定化することができた。
【実施例27】
【0112】
基材としてトウモロコシ澱粉20g、基質としてマルトペンタオース、マルトヘキサオース混合物4gとエルゴステロール1g、トランスグルコシダーゼ酵素液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、乾燥製品が得られた。
【実施例28】
【0113】
馬鈴薯澱粉20g、α−アミラーゼ酵素液100μL、蒸留水12mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、105℃、乾熱器中、密閉系で24時間静置反応させた。澱粉は透明な水あめになった。酵素剤は、耐熱性でなくとも同様に反応した。
【0114】
α−アミラーゼ酵素液100μLにグルコアミラーゼ酵素液100μLを混合使用することで、甘味が増強された水あめ製品が得られた。タピオカ澱粉、モチトウモロコシ澱粉、糯米澱粉でも、非離水状態に到達する前までの水分含有量であれば、水あめ状になるが、水分が多い製品となった。澱粉がケーキ状になっている場合は水分の少ない水あめになった。米粉、小麦粉も同様にして用いることができた。
【実施例29】
【0115】
セルロース10g、キシログルカン10g、セルラーゼ酵素液100μLとヘミセルラーゼ酵素液100μL、水15mLを撹拌混合して、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、ハイブリッド様糖質製品が得られた。キシログルカンの代わりに、各、タマリンドガム、キサンタンガム、ジェランガムを用い、同様の結果を得た。
【実施例30】
【0116】
トウモロコシ澱粉10g、キシログルカン10g、α−アミラーゼ酵素液100μL、セルラーゼ酵素液100μL、ヘミセルラーゼ酵素液100μL、水7mLを撹拌混合して、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、ハイブリッド様糖質製品が得られた。キシログルカンの代わりに、各、タマリンドガム、キサンタンガム、ジェランガムを用い、同様の結果を得た。
【実施例31】
【0117】
市販マルトース一水和物とα−CDの各10%溶液を調製し、各10mL、セルロース20gを加えて撹拌・混合、プルラナーゼ溶液(市販試薬粗製プルラナーゼ、林原生物化学研究所製10mgを1mLの水に溶解)200μLを密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、変換率45%(初発α−CDを100として)で、マルトシル−α−CDが得られた。
【0118】
マルトースの代わりに、可溶性澱粉を用い、β−アミラーゼ溶液(Wako β−アミラーゼ,オオムギ由来10mgを1mLの蒸留水に溶解)200μL追加した以外は同様に処理して、36%の変換率でマルトシル−α−CDが得られた。乾燥条件を、80℃、2時間とした他は実施例1と同様に処理した後、室温放冷して遮光密封袋につめ、2ヶ月間保存して成分、色、香りが変化しない製品が得られた。120℃、15分間の処理でも同様であり、本発明は、上記温度範囲外でも適用できる可能性があると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
以上詳述したように、本発明は、糖質関連酵素を擬似粉末状態で反応させる糖質複合体の製造法とその生産物に係るものであり、本発明によれば、粉末状保持基材として、ある一定以下の水分含量では基材が散けた状態、すなわち粉末状態で反応し、しかも反応効率が高く、反応効率は、非離水状態になるまで低下しない。本発明では、余計な水分を使わないので、乾燥も容易で、主として乾燥粉末製品を製造できるので、食品加工での利用に便利で安価な製品を提供できる。更に、本発明では、基質を基材と混合し、多様な糖質関連酵素を作用させることが可能であるので、基材・基質、糖質関連酵素との組合せで、極めて多種多彩な製品が製造でき、ニーズに従って、この組合せを作り、反応させて、そのまま製品化できるので、利用範囲は極めて広く、生理機能性など、新しい特性を付与することも可能となる。本発明は、粉末状から非離水状態に至る範囲での反応でも各種の粉あめ、水あめ様の製品が得られ、食品に限らず、化粧品、医薬品の製造にも適用できるものとして有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖質原料を擬似粉末状態で、糖質関連酵素と反応させ、その生産物である反応物全体からなる糖質複合体を製造する方法とその生産物に関するものであり、更に詳しくは、糖質原料の粉末状態を保持するために用いる粉末状態保持用素材(粉末化基材又は担体)と反応基質(反応用原料又は基質)を混合して、適度の水分を含有する状態で、全体が散ける(ばらける)状態(粉末状酵素反応と呼称する)、非離水状態、又は(弱粘性)泥状態の「擬似粉末状態」にして糖質関連酵素を作用させて、糖質複合体を製造する方法とその生産物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、酵素反応は液中で行い、基質が高濃度であっても反応は進み、また、農産原料の状態で保蔵した場合、酵素反応が進むことがあり、農産原料の品質劣化が起こることは知られていた。また、基質高濃度下で糖質関連酵素の逆合成反応を利用した各種糖質、糖質複合体の製造方法が開発、実用化されている。例えば、分岐サイクロデキストリンの製法(例えば、特許文献1など)があり、分岐サイクロデキストリンは、高濃度のマルトオリゴ糖とサイクロデキストリンとの混合物を基質とする、プルラナーゼ、イソアミラーゼなどの澱粉枝切り酵素の逆合成反応によっても生成することは一般的に知られている。この他の糖質関連酵素でも、反応生成物を高濃度とした場合、逆合成が起こりやすいことは周知のことである。
【0003】
通常の酵素反応は液状態で行われ、反応終了後、生成物を取り出したり、そのままの状態で濃縮・乾燥して製品化する。この他、固定化酵素を用いて生成物を連続的に取り出すこともできるが、濃縮・乾燥、あるいは、分画又は分取・乾燥する工程が必要である。濃縮のみで液状製品とすることもできる例もあるが、品質保持、保存、取り扱いの面からは、乾燥粉末にすることが望まれる。
【0004】
先行技術として、例えば、糖質と糖質以外の食品成分を混合して大気中で高温処理して機能性素材を製造する方法及びその素材(特許文献2)があり、その中で、「本発明は、リパーゼの反応にも適用でき、例えば、粉末化基材に基質の脂肪酸と糖アルコールを噴霧混合し、50〜60℃で密閉静置反応すれば、脂肪酸エステルを製造できる。リパーゼの反応での基質の組合せをデキストリンとグルコース、フルクトースなど単糖、糖アルコール、ポリフェノール、ステロイドなどの水酸基をもつ食品成分などに換えて、サイクロデキストリン合成酵素の作用を利用すれば、各種の糖転移物が得られる。また、プラナーゼ、イソアミラーゼによる糖転移反応、α−アミラーゼ、グルコアミラーゼによる糖転移反応、ペプチダーゼによるアミノ酸転移反応も、水が粒表面に局在するために効率的に進行することが予想され、その利用も可能である。」と記載されている。
【0005】
また、他の先行技術として、粉末状の食品素材とその処理方法(特許文献3)があり、その中で、「粉体を担体として、食品素材を混合して噴霧し処理することを特徴とする食品素材の処理方法(請求項10)」、「粉体が、粉末セルロース、粉末キチン、ガラスビーズ又は粉炭である請求項10の方法(請求項11)」、「澱粉を担体として、食品素材を混合して噴霧し処理することを特徴とする食品素材の処理方法(請求項12)」と記載されている。
【0006】
また、麹菌による米麹の製造では、蒸した米に麹菌を塗して室で発酵し、微生物で物質生産が行われている。この場合、本態は酵素反応であるが、麹菌を接種して発酵させるものであり、固体発酵、半固体発酵など、水分含有原材料を用いた各種醸造技術に通じるものである。これに対し、本発明の方法は、原材料に適量の水分を含ませ、直接酵素を作用させ、製品化するもので、麹菌による発酵とは本質的に異なる技術である。
【0007】
また、製パン用酵素製剤には各種の製品があり、これらを利用することによりパン製品品質を各種に改善されている。小麦粉に各種素材を混合してこれら酵素を発酵と同時に作用させるもので、本発明の方法に一部類似するものであるが、酵母が関与し、食品製造に用いられるもので、本発明の方法とは、乾燥粉末素材の製造という点で本質的に異なるものである。
【0008】
他の先行技術として、米粉にβ−アミラーゼを添加混捏し、ケーキ状にして反応させ柔らかいモチが形成されることが示されている(非特許文献1)。この方法は、本発明の方法に一部類似しているが、食品製造に用いられるもので、本発明の乾燥粉末素材の製造法とは本質的に異なるものである。更に、食品自体に酵素類を作用させて、組織を崩壊させるなどして、物性、食味を改良する例もあるが、食品全体を取り扱うもので、本発明のように、素材・成分を粉末状態で反応させて目的の生成物を製造することはできない。
【0009】
これまでの糖質製品の製造法としては、原料の粉砕・磨砕、分級などによる粉末製品の製造、これらと各種素材との混合によるミックス粉の製造が主体である。糖質原料を加工・化工して製造した糖質製品としては、グルコース、異性化糖、マルトース、トレハロース、オリゴ糖(マルトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、分岐オリゴ糖、ラフィノースなど)があり、多糖類としては、セルロース系、ヘミセルロース系があり、増粘多糖類は、微生物培養法、原材料からの抽出、酵素処理などにより製造されている。
【0010】
加工・化工製品については、酵素処理による製造の祭には、液状反応を行うのが常法であり、固定化酵素を用いる場合も、通液して製造する。この製造法では、水を多量に必要とし、しかも安定性の高い乾燥品を得るためには、生成物の濃縮・乾燥工程を必要とし、生産コストの上昇と環境負荷の増大が製品価格に影響する。更に、各種ミックス粉へのニーズも多様化し、粉への各種機能性の付与も求められている。
【0011】
一般に、粉末状でも酵素反応は進むと考えられるが、しかし、本発明者らが検討したところ、所謂粉末状態でも酵素反応は起こるものの、その効率は極めて低く、市販糖質粉末に酵素を混合撹拌して反応させても反応の進行は実用化にはほど遠い程度であった。一般的な所謂乾燥した粉末状態では反応はほとんど進まず、ある程度の水分の存在が必要であることが判明した。また、これまで、粉末状態を保持することができる所定の水分含有率を保有する食品素材についての報告例もなく、粉末状態を保持することが可能な水分含有率の特定もなされていないのが実情であった。
【0012】
このような状況の中で、本発明者らは、可能な限り水を使用せずに水の含有率を低水準に低下させた所定の水分含有率で、反応を進める方法を探索してきた過程で、反応効率を高める条件として、水分含有率と反応形態を検討し、反応形態として、粉末状保持用糖質と反応用基質を用い、水分と酵素を混合し、水分添加により、反応形態がどのように変化し、反応が進行するかを検討して、粉末状保持用糖質(基材)と反応用基質を仕分け、反応の進行に好適な所定の水分含有率を見出すとともに、糖質関連酵素との組合せで極めて多様な生産物を製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特公昭56−48156号公報
【特許文献2】特開2009−60875号公報
【特許文献3】特開2007−236269号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】応用糖質科学 第1巻 第2号 p194−200“Bacillus flexus由来の耐熱性β−アミラーゼについて”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、糖質原料を水分含有率が低い所定の条件下で糖質関連酵素と反応させてその生産物である糖質複合体を製造し、乾燥と殺菌を兼ねた、簡単な処理で商品化が可能な、糖加水分解反応、糖転移反応によるオリゴ糖、糖質複合体などの製造方法とその生産物を提供することを目的とするものである。更に、本発明は、糖質関連酵素を擬似粉末状態の糖質原料と反応させることでその生産物である糖質複合体を製造する方法とその生産物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)糖質原料を擬似粉末状態にして糖質関連酵素で反応させ、その生産物である糖質複合体を製造する方法であって、1)糖質原料の擬似粉末状態を保持するために用いる糖質が、ラクトース、サイクロデキストリン、セルロース、澱粉、米粉、小麦粉、又は増粘多糖であり、2)反応用原料が、グルコース、フルクトース、ソルボース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、フコース、アセチルグルコサミン及び/又はそれらのポリマー、糖アルコール、ポリフェノール、水酸基をもつアミノ酸、若しくはステロイドであり、3)上記1、2の原料を個別又は1種以上混合して、擬似粉末状態を保持し、糖質関連酵素で反応させることを特徴とする糖質複合体の製造方法。
(2)擬似粉末状態を保持するための糖質の澱粉が、トウモロコシ、米、小麦、馬鈴薯、甘藷、タピオカ、又はサゴである、前記(1)に記載の方法。
(3)増粘多糖が、グアガム、アルギン酸Na、コンニャクイモ、又は寒天である、前記(1)に記載の方法。
(4)糖質関連酵素(一般名)が、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、ポリガラクチュロナーゼ、キシラナーゼ、β−グルカナーゼ、グルコアミラーゼ、α−アミラーゼ、耐熱性αアミラーゼ、デキストラナーゼ、β−アミラーゼ、マルトトリオヒドロラーゼ、プルラナーゼ、CDグルカノトランスフェラーゼ(CGTase、CD合成酵素)、トランスグルコシダーゼ、スクラーゼ、ラクターゼ、インベルターゼ、又はグルコース・イソメラーゼである、前記(1)に記載の方法。
(5)糖質関連酵素を2種以上組み合わせて反応させる、前記(4)に記載の方法。
(6)擬似粉末状態を保持するための糖質と反応用原料の等量混合物に酵素を添加したものの水分含有率が、ラクトースでは12〜17%、サイクロデキストリンでは12〜34%、セルロースでは10〜72%、澱粉では16〜45%、米粉では19〜50、小麦粉では14〜38、増粘多糖では17〜91%である、前記(1)に記載の方法。
(7)反応終了後、擬似粉末状態の反応物を乾燥して全体を用いる、前記(1)に記載の糖質複合体の製造法。
(8)糖質原料を非離水状態の擬似粉末状態にして糖質関連酵素で反応させ、その生産物である糖質複合体を製造する方法であって、1)糖質原料の非離水状態を保持するために用いる糖質が、セルロース、澱粉、米粉、又は小麦粉であり、2)反応用原料が、グルコース、フルクトース、ソルボース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、フコース、アセチルグルコサミン及び/又はそれらのポリマー、糖アルコール、ポリフェノール、水酸基をもつアミノ酸、若しくはステロイドであり、3)上記1、2の原料を個別又は1種以上混合して、糖質関連酵素で反応させる、前記(1)に記載の糖質複合体の製造方法。
(9)前記(1)から(8)のいずれかに記載の製造方法で、糖質原料を擬似粉末状態で酵素反応させ、乾燥と同時に酵素を欠活させて得られる長期保存によっても品質劣化の少ないことを特徴とする糖質複合体。
【0017】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、糖質原料を擬似粉末状態にして糖質関連酵素と反応させ、その生産物である糖質複合体を製造する方法であって、1)糖質原料の擬似粉末状態を保持するために用いる糖質が、ラクトース、サイクロデキストリン、セルロース、澱粉、米粉、小麦粉、又は増粘多糖であること、2)反応用原料が、グルコース、フルクトース、ソルボース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、フコース、アセチルグルコサミン及び/又はそれらのポリマー、糖アルコール、ポリフェノール、水酸基をもつアミノ酸、若しくはステロイドであること、3)上記1、2の原料を個別又は1種以上混合して、擬似粉末状態を保持し、糖質関連酵素と反応させること、を特徴とするものである。
【0018】
本発明では、擬似粉末状態を保持するための糖質の澱粉が、トウモロコシ、米、小麦、馬鈴薯、甘藷、タピオカ、又はサゴであること、増粘多糖が、グアガム、アルギン酸Na、コンニャクイモ、又は寒天であること、糖質関連酵素(一般名)が、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、ポリガラクチュロナーゼ、キシラナーゼ、β−グルカナーゼ、グルコアミラーゼ、α−アミラーゼ、耐熱性αアミラーゼ、デキストラナーゼ、β−アミラーゼ、マルトトリオヒドロラーゼ、プルラナーゼ、CDグルカノトランスフェラーゼ(CGTase、CD合成酵素)、トランスグルコシダーゼ、スクラーゼ、ラクターゼ、インベルターゼ、又はグルコース・イソメラーゼであること、を好ましい実施態様としている。
【0019】
また、本発明では、擬似粉末状態を保持するための糖質と反応用原料の等量混合物に酵素を添加したものの水分含有率が、ラクトースでは12〜17%、サイクロデキストリンでは12〜34%、セルロースでは10〜72%、澱粉では16〜45%、米粉では19〜50、小麦粉では14〜38、増粘多糖では17〜91%であること、また、糖質原料を非離水状態の擬似粉末状態にして酵素反応する方法であって、1)糖質原料の非離水状態を保持するために用いる糖質が、セルロース、澱粉、米粉、又は小麦粉であること、2)反応用原料が、グルコース、フルクトース、ソルボース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、フコース、アセチルグルコサミン及び/又はそれらのポリマー、糖アルコール、ポリフェノール、水酸基をもつアミノ酸、若しくはステロイドであること、3)上記1、2の原料を個別又は1種以上混合して、糖質関連酵素で反応させること、を好ましい実施態様としている。
【0020】
一般に、栄養学的には、単糖を基本の構成成分とする物質の総称が炭水化物と定義されているが、本発明で、糖質とは、物質として、単糖を基本の構成成分とする物質で、その誘導体を含むものとする。また、粉末状態を保持するとは、水分を加えたとき、塊になったり、水分が染み出る状態ではなく、湿潤状態で、粒子及び/又は小さい塊が散けている状態のことをいう。
【0021】
本発明では、1gの粉末化基材が水分を含み粉末状態を保持することができる粉末状態保持限界水量(μL)をPSSV(powder state sustainable water volume)とした。なお、粉末化基材に水を逐次添加して、その様子を観察すると、粉末状(P:Powder)→水を含んで湿潤となるが散ける状態(H:Humid)→軟弱ケーキ状(SC:Soft Cake)→固化ケーキ状(HC:Hard Cake)[ここまでを粉末状態とする]→泥状(M:Muddy)→液泥状(ML:Muddy Liquid)[ここまでを非離水状態とする]→懸濁液状(Sus:Suspension)となる。
【0022】
通常、原材料とする粉末には、水分が10%内外含まれるが、PSSVは、原材料乾燥粉末1g当たりの吸水量、すなわち、市販原材料を105℃、2時間乾燥した粉末を使用し、その乾燥粉末に対しての水分添加率である。非離水状態とは、反応系中で静置したとき水層が分離しない状態のことをいう。澱粉系とは、粉末状態保持用糖質の澱粉に反応用原料と酵素を含む全体を意味する。また、本発明の方法で製造される製品の名称を、粉末状酵素処理物Powder State Enzyme Treated Food Ingredients PSET パセト(又はパスト)食品素材と呼称する。
【0023】
反応形態は、粉末状(Powder State Reaction, PSRと略称、ペースト状又はケーキ状、Paste State reaction or Cake State Reaction CSR)、非離水状の泥状(Muddy State Reaction MSR)、懸濁液状(Suspension State Reaction,SSR)、液状(溶液状も含める、Liquid or Solution State Reaction,LSR)のように大別され、本発明の方法は、粉末状態はPSR、CSRまで、非離水状態はMSRまでとし、本発明では、これらを含めて、「擬似粉末状態」(Pseudo Powder State)と定義する。
【0024】
市販原材料を、105℃、3時間乾燥した時の水分含有率測定例(%)を示すと、以下の如くである。すなわち、トウモロコシ澱粉9.4、馬鈴薯澱粉13.6、粳米澱粉10.2、糯米澱粉11.2、小麦澱粉9.6、甘藷澱粉9.6、セルロース5.9、アラビアガム9.0、グアガム10.8、アルギン酸Na13.6、コンニャクイモ11.2、α−CD(α−サイクロデキストリン)7.4、β−CD12.8、γ−CD7.6、米粉(上新粉)11.0、薄力粉10.2、中力粉8.6、強力粉8.8である。このように、一般の市販糖質原材料の水分含有率は10%前後となっている。
【0025】
粉末状態保持限界水量PSSVの測定は、以下のようにする。すなわち、各試料のPSSVの測定は、市販品を用い、105℃、3時間で乾燥した後、その1gをとり、100μLずつ逐次添加してミクロスパーテルで撹拌し、外観を観察して行う。測定した結果は、以下に示す通りである。
【0026】
すなわち、トウモロコシ澱粉600、馬鈴薯澱粉600、粳米澱粉700、糯米澱粉900、小麦澱粉600、甘藷澱粉800、タピオカ澱粉600、サゴ澱粉700、米粉(上新粉)1000、薄力粉400、中力粉400、強力粉600、セルロース2500、アラビアガム200、グアガム10000、アルギン酸Na2000、コンニャクイモ5200、寒天4000、α−CD300、β−CD500、γ−CD400、マルトース・H2O 200、ショ糖200以下、トレハロース200以下、ラクトース200、サンオリゴ5,6 200以下、トウモロコシ澱粉DE10 200以下、サンセロビオ(主成分セロビオース)200、エリスリトール200以下、キシリトール200以下、ソルビトール200以下、マンニトール200、キシロース200、グルコース無水500、フルクトース200以下、マンノース200以下、ガラクトース400、アセチルグルコサミン400、カゼイン1800、ゼラチン1800であった。
【0027】
これらのうち、粉末状態保持用として用いることができる糖質としては、水を加えたとき、あめ状になったり、容易に溶解せず、サラサラな状態を保持する性質をもつものが望ましく、PSSVが200以下のものは、粉末状態保持用糖質(粉末化基材)としての使用には向かず、反応用原料(反応基質)として用いられる。また、粉末状から液状に至る途上の泥状でも、本発明の方法を適用することができる。なお、PSSVは、反応基質と混合したとき、その種類と量により変化するので、好適な量比を選択すればよい。
【0028】
これらの糖質が、粉末状態保持用か反応原料用かは限定的ではなく、粉末状を保持することができれば何れの方法でも本発明の方法を適用することがあり、例えば、キサンタンガム、タマリンドシードガム、寒天、ゼラチン、ジェランガム、ネイテイブジェランガム、グァーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、デキストラン、ペクチン、アルギン酸、アルギン酸塩類、サイリウムシードガム、カードラン、プルラン、タラガム、アラビアガム、カラヤガム、CMC、セルロース、微結晶セルロース、グアガム部分分解物及び大豆多糖類がある。しかし、水を加えた反応系が反応後の処理により硬く固まり、磨砕し難くなる場合は、実用化に不利となる。
【0029】
そこで、市販糖質原材料にPSSVの水を加えて開放系1週間室温放置したときの固化の様子を観察したところ、以下に示すようになった。
乾燥後もサラサラ状で磨砕しやすいもの:セルロース、トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉、粳米澱粉、糯米澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、寒天、米粉。
固化するが磨砕しやすいもの:α−CD,薄力粉
固化して磨砕し難いもの:アラビアガム、グアガム、アルギン酸Na、コンニャクイモ、中力粉、強力粉、β−CD、γ−CD、ラクトース、トレハロース、ショ糖、マルトース・H2O、トウモロコシ澱粉DE10粉あめ他単糖、オリゴ糖類、糖アルコール類
【0030】
但し、グアガム、アルギン酸Naは、PSSVが高く、PSSVの量の水を加えて乾燥処理した場合は固化するが、PSSVの半量以下であれば、磨砕は容易にできる。これらの結果より、粉末状態保持用糖質(基材)としては、セルロース、トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉、粳米澱粉、糯米澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、グアガム、アルギン酸Na、寒天、米粉、α−CD,薄力粉が適当であり、これらを組み合わせて用いることもでき、また、基材自体も基質になることもある。
【0031】
実際に水分含有率がどの程度まで散ける状態になっているかを、トウモロコシ澱粉と馬鈴薯澱粉を用いて電子顕微鏡で観察した結果は、以下のようになり、乾燥澱粉1g当たり400μLの水を加えても、散けた状態であり、600μLでは澱粉粒子は加熱融解した状態となった。すなわち、PSSVは、600を超えないことを意味している。しかし、反応終了後の乾燥処理の際、澱粉粒が溶解しない、粉末状原料が溶解しないような温度で乾燥すれば、粉末状を保持することができる。
【0032】
例えば、澱粉の場合、泥状反応でも塊となるものの、磨砕は容易であり、セルロースの場合は、高温乾燥でも基質の量が少ない場合は、磨砕が容易である。ほとんどの単糖、オリゴ糖類は、PSSV水分添加後室温乾燥しても硬く固まり、磨砕し難くなる。容易な磨砕が可能であれば、これらの糖質でも反応時は粉末状態にして反応を進め、反応終了後乾燥するなどして本発明の方法を適用することができる。
【0033】
分光々度計による検討は、次のようにして行った。SS−C500mgを10mバイアルに秤取り、0,50,100,250,500μL,750μL,1mL,2mLの水を加え、500倍希釈No.37酵素液(4500ユニット/g)、各50μLを加えて、ミクロスパーテルで撹拌混合した。室温(25℃)で1時間放置(液状試験区は時々揺らして撹拌)、反応終了後、105℃、30分で密閉系酵素失活処理した。水を加えて全量を5050μLになるようにし、数分間室温放置して、0.1%ヨウ素溶液の5倍希釈液100μL加えて発色させた。1500rpm×10分間遠心分離して上清2mLを用いて比色した。なお、ヨウ素呈色のλmaxは560nm前後である。
【0034】
後記する試験例に示すように、50μLから250μLまでは反応は進み、更に750μLまで反応は進み、1mL以上では劣り、添加水分量による状態観察では、100μLの湿潤粉末状、250μLのやや軟弱固体、500μLでの泥状、これ以上は離水状態であった。本検討結果でも、50μLから750μLで活性が高く、特に、200μL前後の水分添加量で高活性が発揮されることを示している。これは、糖質関連酵素の種類によらず、ほぼ同様の傾向を有していることを確認している。
【0035】
粉末状態で作用する加水分解酵素の探索は、市販糖質関連酵素を48種類集積し、以下のようにして行った。すなわち、SS−C10mLバイアルに各500mgとり、これに、集積した酵素剤の1/100希釈液200μL又は1%水溶液、懸濁液の上清を加え、密閉して45℃、2時間反応させ、反応後、密閉して、105℃、30分酵素失活処理を行い、水5mL添加して撹拌し、10分間静置した後、上清200μLをホールプレートにとり、水1mL、ヨウ素液(0.1%ヨウ素−1%ヨウ化カリウム溶液)100μLを加えて発色させ、呈色度を写真撮影した。
【0036】
ヨウ素デンプン反応呈色度による酵素活性表示は、次のようにした。
−(活性強力):Bnk(ヨウ素液100μL+蒸留水1mL)と同じ呈色(薄褐黄色) ±(活性あり):僅かに褐色 +(活性弱い):褐紫色 ++(活性微弱):赤紫色 +++(活性なし):紫色(Ref−酵素無添加と同じ呈色)
【0037】
以下は、粉末状態の酵素反応の酵素活性の結果のまとめである。
1.ヘミセルラーゼ +++
2.セルラーゼ +++
3.ペクチナーゼ ±
4.ペクチナーゼ・キシラナーゼ ±
5.グルコアミラーゼ −
6.グルコアミラーゼ −
7.α−アミラーゼ −
8.インベルターゼ ±
9.スクラーゼS +++
10.デキストラナーゼ +++
11.セルラーゼ +++
12.ヘミセルラーゼ +++
13.ヘミセルラーゼ ±
14.セルラーゼ +++
15.ヘミセルラーゼ +++
16.ヘミセルラーゼ +++
17.グルコアミラーゼ −
18.βアミラーゼ +
19.α−アミラーゼ −
20.βアミラーゼ ±
21.グルコアミラーゼ −
22.グルコースイソメラーゼ +++
23.セルラーゼ −
24.α−アミラーゼ −
25.耐熱性αアミラーゼ −
26.ペクチナーゼ +++
27.βアミラーゼ +
28.セルラーゼ +
29.セルラーゼ −
30.ラクターゼ +++
31.グルコアミラーゼ −
32.マルトトリオヒドロラーゼ +
33.プルラナーゼ +++
34.CDグルカノトランスフェラーゼ ++
35.トランスグルコシダーゼ +++
36.アミラーゼ −
37.α−アミラーゼ −
38.α−アミラーゼ −
39.グルコアミラーゼ −
40.セルラーゼ −
41.セルラーゼ +++
42.α−アミラーゼ −
43.α−アミラーゼ −
44.α−アミラーゼ −
45.ポリガラクチュロナーゼ +
46.セルラーゼ +++
47.β−グルカナーゼ ++
48.β−グルカナーゼ +++
Ref (酵素液の換わりに水を用いた) +++
【0038】
酵素製品の種類は、以下に示す通りである。
番号.一般名(製品名、メーカー)
1.ヘミセルラーゼ(スクラーゼX、三菱化学フーズ)
2.セルラーゼ(スクラーゼC、三菱化学フーズ)
3.ペクチナーゼ(スクラーゼN、三菱化学フーズ)
4.ペクチナーゼ・キシラナーゼ(スクラーゼA、三菱化学フーズ)
5.グルコアミラーゼ(コクラーゼM、三菱化学フーズ)
6.グルコアミラーゼ(コクラーゼG2、三菱化学フーズ)
7.α−アミラーゼ(コクラーゼ、三菱化学フーズ)
8.インベルターゼ(三菱化学フーズ)
9.スクラーゼS(三菱化学フーズ)
10.デキストラナーゼ(デキストラナーゼ2F、三菱化学フーズ)
11.セルラーゼ(セルロシンT3、エイチビイアイ)
12.ヘミセルラーゼ(セルロシンHC、エイチビイアイ)
13.ヘミセルラーゼ(セルロシンHC100、エイチビイアイ)
14.セルラーゼ(セルロシンAC40、エイチビイアイ)
15.ヘミセルラーゼ(セルロシンGM5、エイチビイアイ)
16.ヘミセルラーゼ(セルロシンTP25、エイチビイアイ)
17.グルコアミラーゼ(グルラーゼAN、エイチビイアイ)
18.βアミラーゼ(ハイマルトシンG、エイチビイアイ)
19.α−アミラーゼ(液化酵素T、エイチビイアイ)
20.βアミラーゼ(βアミラーゼ#15000S、ナガセケムテックス)
21.グルコアミラーゼ(グルコチーム#20000、ナガセケムテックス)
22.固定化グルコース イソメラーゼ(スイターゼGN、ナガセケムテックス)
23.セルラーゼ(セルラーゼXP425、ナガセケムテックス)
24.α−アミラーゼ(スピターゼCP40FG、ナガセケムテックス)
25.耐熱性αアミラーゼ(スピターゼXP404V2、ナガセケムテックス)
26.ペクチナーゼ(ペクチナーゼXP534NEO、ナガセケムテックス)
27.βアミラーゼ(βアミラーゼL、ナガセケムテックス)
28.セルラーゼ(セルラーゼSS、ナガセケムテックス)
29.セルラーゼ(セルラーゼXL531、ナガセケムテックス)
30.ラクターゼ(ラクターゼナガセ、ナガセケムテックス)
31.グルコアミラーゼ(長瀬酵素剤N15L、ナガセケムテックス)
32.マルトトリオヒドロラーゼ(ATM1.2L、天野エンザイム)
33.プルラナーゼ(プルラナーゼ「アマノ」3、天野エンザイム)
34.CDグルカノトランスフェラーゼ(コンチザイム、天野エンザイム)
35.トランスグルコシダーゼ(トランスグルコシダーゼL「アマノ」、天野エンザイム)
36.アミラーゼ(アミラーゼAD「アマノ」1天野エンザイム、)
37.α−アミラーゼ(クライスターゼL1、天野エンザイム)
38.α−アミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム)
39.グルコアミラーゼ(グルクザイムAF6、天野エンザイム)
40.セルラーゼ(セルラーゼA「アマノ」3、天野エンザイム)
41.セルラーゼ(セルラーゼ「アマノ」4、天野エンザイム)
42.α−アミラーゼ(BAN 480 L、ノボザイム)
43.α−アミラーゼ(Fungamyl 800 L、ノボザイム)
44.α−アミラーゼ(Termamyl 120 L (Type L)、ノボザイム)
45.ポリガラクチュロナーゼ(Pectinex Ultra SP−L、ノボザイム)
46.セルラーゼ(Celluclast 1.5 L、ノボザイム)
47.β−グルカナーゼ(Viscozyme L、ノボザイム)
48.β−グルカナーゼ(Ultraflo L、ノボザイム)
【0039】
CGTaseでの粉末状酵素反応は、以下のようにして行った。すなわち、グルコース(G1、市販試薬特級)、マルトース(G2、一水和物、市販試薬特級)、マルトトリオース(G3、水飴 Bx.81.1)、マルトテトラオース(G4、水飴 Bx 77.7)、サンオリゴ5,6(G5,6、G5とG6が主成分)、可溶性澱粉(SS)を基質として用い、各250mgをバイアルに取り、セルロース250mgを加え、CGTase(No.34)の10倍希釈酵素液を300μL加えて撹拌・混合し、5日間、45℃で反応させた。
【0040】
バイアル中の試料約100mgを取りだし、ヨウ素液(1%ヨウ化カリ溶液中に0.1%にヨウ素を溶解したもの)200μL、水1mLを加えて発色させ、その呈色を観察した。その結果、G4、G5,6、SSでは褐紫色になり、他は、ヨウ素液と同程度であった。この反応条件は、超過剰であり、100倍希釈酵素液100μL、反応温度・時間45℃、30分間では、全ての試験区でヨウ素呈色は示さず、反応で生成したα−CDがヨウ素呈色を阻害しているか、反応が全く進行していないことを示していた。
【0041】
詳細には、反応液を失活処理後、グルコアミラーゼ純品でCD以外の澱粉由来糖質をグルコースまでに加水分解してHPLCで分析すればよい。また、簡便法として、濾紙にグルコアミラーゼ処理後の溶液を滴下、乾燥後、ヨウ素液を滴下、半乾燥して、青紫の呈色を観察する方法もある。その他の酵素による反応性生物の測定は、HPLCにより行い、示差屈折検出器を用い、新しく現れたピーク面積/(原材料のクロマトグラフでのピーク面積+新しく現れたピーク面積)×100とし、変換率とした。
【0042】
反応基質混合系による分岐−CDの調製は、以下のようにして行った。すなわち、市販マルトース一水和物とα−CDの各10%溶液を調製し、密栓付きバイアルに、その各200μLを混合し、食添用セルロース400mgを加えて撹拌・混合し、プルラナーゼ溶液(市販試薬粗製プルラナーゼ、林原生物化学研究所製10mgを1mLの水に溶解)40μLを加えて密閉系45℃で静置反応1時間、密閉系105℃で失活30分間とし、失活後、2mLの水を加えて1500rpm×10分間遠心分離して、その上清10μLをHPLCで測定した。
【0043】
HPLC条件は、以下の通りである。すなわち、水溶性素材・成分、糖質系分析の場合、カラムLichrosphere NH2(5μm)を用い、カラム温度35℃、移動相65%アセトニトリル、流速1.0mL/minとし、示差屈折検出器を用いて検出した。疎水性素材・成分の場合、カラム(Inartsil ODS−2,φ6.0mm×250mm,ジーエルサイエンス(株))を用い、カラム温度40℃で、移動相−メタノールと0.1%リン酸水溶液を1:9の割合で混合したものを、流速1.0ml/min、紫外吸収検出器(UV−2075 Plus,日本分光工業(株))、波長280nmと示差屈折検出器を用いて、検出した。
【0044】
装置は、脱気装置(DG−3310,日本分光工業(株)),カラムオーブン(MODEL−555,ガスクロ工業(株)),ポンプ(880−PU,日本分光工業(株)),インジェクター(7125,レオダイン社),紫外吸収検出器(875−UV,日本分光工業(株)),示差屈折検出器(RI−2031,日本分光工業(株))、記録計(Chromatocorder12,システムインスツルメンツ(株))を用いた。
【0045】
粉末状態の保持機能は期待できないが、水分含有量が少なければ反応が進む可能性がある糖質としては、PSSVが200以下のショ糖、トレハロース、サンオリゴ5,6、トウモロコシ澱粉加水分解物DE10、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、フルクトース、マンノースなどがある。この他の糖質であっても、粉末状態を保持する手段をとることができれば、反応を進め、粉末状素材を製造することが可能となる。
【0046】
粉末状態保持用の糖質としては、澱粉、セルロース、ヘミセルロースが利用できるが、これ以外のものでも粉末状態を保持できる素材であれば何れでも本発明の方法を適用できる。例えば、活性炭粉末、グラスビーズ、アルミナなどがある。しかし、このままの状態での食品素材としての利用は困難である。また、DEAE−セルロースに糖質関連酵素、アミノ酸関連酵素を結合させて、粉末状酵素反応をした後、反応生成物を速やかに水抽出して取りだして、製品化することも可能で、酵素のリサイクルができるが、反応物全体の製品化はできない。
【0047】
混合酵素系での粉末状酵素反応を進めることも可能である。糖転移活性のあるα−グルコシダーゼとβ−グルコシダーゼをグルコースとでα、β結合混合多糖が生成することが酵素作用とHPLCの検討で示唆され、反応前後でのHPLCプロファイルの差異と反応後に新規に生成した液クロピークのα−グルコシダーゼ及びβ−グルコシダーゼの作用後での消長で新規多糖が生成することが確認された。
【0048】
澱粉にα−アミラーゼと澱粉以外の糖質とβ−グルコシダーゼを複合的に本発明の方法で作用させれば澱粉の物性を改変できる。α−アミラーゼとしては、通常の酵素でも澱粉粒を一部水解出来るが、生澱粉分解活性が高い酵素が効率的に用いられる。澱粉以外の糖質としては、マルトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、マンノオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、アラビノキシラン、単糖、増粘多糖を用いる。β−グルコシダーゼは、グリコシダーゼの一種であり、本発明の方法では、グルコシダーゼに限定するものではなく、グリコシダーゼであれば何れでも用いることができる。
【0049】
糖質関連酵素を組み合わせて用い、適当な基質を粉末状で作用させて、その混合比を変化させることにより、求める物性の製品を創出することも可能である。例えば、CGTase+プルラナーゼ+β−アミラーゼ又はα−アミラーゼで分岐CD製造も可能である。β−CDがβ−アミラーゼの活性を阻害することは知られているが、分岐CDの生成に大きくは影響しない。
【0050】
タンパク質の分解物、疎水性アミノ酸を粉末化基材として用い、親水性のアミノ酸を混合し、ペプチダーゼ、プロテアーゼなどのアミノ酸系関連酵素を混合し、粉末状酵素反応する。乳タンパク質、ラクトフェリン、卵タンパク質などの動物タンパク質、大豆粉、大豆タンパク質などの植物タンパク質の物性、味質を変換したり、生理機能を付与することが可能であり、混合基質、混合酵素を用い、その混合比を変化させることにより、広汎な種類の素材、成分の生産が可能となる。
【0051】
OH基をもつ素材、成分としては、中性糖、糖アルコール、酸性糖質などの糖質、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、核酸、ポリフェノール、ステロイドなどがあるが、これらに、グルコース、グルコース重合物、ラクトース、ショ糖などの二糖類、その他糖質及びその重合物とCGTase、α−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、その他の糖質関連酵素を粉末状態で作用させると、各種の結合物、複合体が生成する。
【0052】
通常の市販状態の水分含有量では、これらの反応は殆ど起こらないか、極めて進み難い。しかし、水分含有率10%以下であっても長時間の反応では、糖質複合体が生成する可能性がある。また、逆に大量の水分を添加しても散けて、乾燥により粉末が容易に得られるものであれば、本発明の方法を適用できる。通常の糖質素材は、水分を添加して散ける状態で室温乾燥しても、分離しやすいサラサラの粉末にはなり難い。高温で乾燥しても固化して破砕し難い塊となる。それでも粉末状酵素反応は起こるので、塊状の糖質素材の製造は可能である。
【0053】
ポリフェノール(Polyphenole)とは、同一分子内に2個以上のフェノール性水酸基(ヒドロキシ基)をもつもので、4000種類以上知られ、フラボノイド系、フェノール酸系がある。これらの成分は、植物に含まれる成分で植物抽出物、エキスに含まれている。実用素材・成分には、甘茶成分、羅漢果、ステビア、還元CoQ10、クワンソウエキス、クロシン、ホノキオール、甘草エキス、アスコルビン酸など、極めて多くの種類が知られている。
【0054】
CGTaseは、これらの水酸基に作用する、又は、複合体を形成して、各種機能を発揮する。更に、糖転移酵素、糖質水解酵素は、その逆反応で糖質同士を結合させ、糖質ポリマーを生成する。糖質関連酵素としては、この他、各種異性化酵素も知られている。これらの酵素は、これまで、水溶液又は懸濁液状態で反応され、各種素材、成分が製造されているが、本発明の方法を適用することが可能となり、その効率は格段に高くなることが期待される。
【0055】
本発明は、水分をある程度まで添加しても粉末状、又は非離水状態を保持することができる粉末化基材と反応基質を撹拌混合し、散けた状態、又は非離水状態を保持して反応させ、各種素材・成分を製造することを特徴とするものである。発酵技術、製パン、製菓技術、食品製造として、類似した事例はあるが、糖質酵素の反応が、粉末状態、又は非離水状態の一定水分含有率の擬似粉末状態で効果的に進むとの知見を利用して粉末状素材を製造する技術は、本発明で初めて開発されたものである。本発明においては、乾燥、酵素欠活及び殺菌の条件としては80〜120℃、処理時間は15〜120分が好適であり、この製造条件で製品の品質劣化を抑制することができる。この場合、酵素の種類によっては、例えば耐熱性α−アミラーゼのように100℃でも欠活しないものもあるが、乾燥が十分であれば製品の成分変化や、着色は進行しない。
【0056】
次に、本発明の試験例を示す。
[試験例]
(1)澱粉粒の散け状態の観察
トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉に水を加え澱粉粒の散け状態を観察した。その結果を図1〜3に示す。図中、Cは、トウモロコシ澱粉、Pは、馬鈴薯澱粉、数字は1gの乾燥原材料に添加した水の量である。
【0057】
次に、電顕観察用試料調製と観察について説明する。トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉の市販品(乾燥無処理)各1gをビーカーにとり、0,40,100,200,400,600,800,1200,2000μLの水を加えて撹拌混合し、大気圧中で170℃、30分間高温処理した結果、トウモロコシ、馬鈴薯とも800では、シャバシャバで水懸濁液となるが、600では散けた。また、30分高温処理後、トウモロコシは600でやや砕きにくくなり、800でひび割れしたように底に乾燥固化した。馬鈴薯では200までは粉末状であり、400、600ではやや砕きにくい。800、1200では泡状薄いセロファン状になってふわっとした感じの粉末になった(α化)。トウモロコシ、馬鈴薯とも400以上は乳鉢で粗く磨砕し、試料とした。
【0058】
電顕用試料作製及び撮影は、以下のように行った。SEM試料台にカーボンテープを貼付け、その上に粉体を乗せてエアブロー・イオンスパッタ装置(日立製 E−102)でPt−Pd(白金−パラジウム)をおよそ13nmコーティングし、日本電子(株)製 JSM−6510LAを用い、加速電圧:5kV、の条件で撮影した。両澱粉粒とも澱粉原料1gに400μLの水を添加すると、分離した澱粉粒と融合した澱粉粒が存在し、600μLでは、ほぼ融合していた。すなわち、融合の直前の条件では散ける状態であることが認められた。
【0059】
(2)加水分解酵素の探索
加水分解酵素の探索を、市販糖質関連酵素を48種類集積し、以下のようにして行った。
【0060】
すなわち、粉末状態の酵素反応例について説明すると、粉末状態保持用糖質としてセルロース粉末25g、反応用基質として可溶性澱粉5gを200mLのビーカーにとり、水25mLを加えてスパーテルでよく撹拌混合した。ポリ試薬瓶に入れ、冷蔵庫で保存し、これをSS−C(湿潤粉末状態、水分含有率:46.2%)とした。
【0061】
反応速度比較:10mLバイアルを用い、液状酵素剤α−アミラーゼ(No.37 4500ユニット/g クライスターゼL1、天野エンザイム)の500倍希釈酵素溶液50μLをSS−C 200mgに加え、0,25,50,75,100,150,200,250,300,500μL,1mL,2mLの水を加え、撹拌混合したところ、0−75:湿潤粉末状(PSR)、75−100:半固体、練り物、糊状(CSR)、150−200:泥状(MSR)、250−:懸濁液状(SSR,LSR振ると液が動き混合できる)、となった。
【0062】
これを密栓して、室温(25℃)で30分間静置反応し、密栓したまま、105℃、30分間酵素失活処理をした後、水を各2000,1950〜1500,1000、0μLを加えて振盪撹拌し、各200μLをホールプレートにとり、水1mLとヨウ素液(1%ヨウ化カリ溶液に0.1%にヨウ素を溶解した溶液)100μLを加えてその呈色を観察した。
【0063】
SS−C(セルロース25g、可溶性澱粉5g、蒸留水25mLを撹拌混合し、密閉冷蔵庫保存)を探索用とした。すなわち、10mLバイアルにSS−C500mgをとり、集積した酵素剤の1/100希釈液200μL又は1%水溶液、懸濁液の上清200μLを加え、密閉45℃、2時間反応させ、反応後、密閉して105℃、30分、酵素失活処理をした後、水5mL添加、撹拌し、10分間静置後、上清200μLをホールプレートにとり、水1mL、ヨウ素液(0.1%ヨウ素−1%ヨウ化カリウム溶液)100μLを加えて発色させ、呈色度とした。その結果を図4〜8に示す。
【0064】
ヨウ素デンプン反応呈色度による酵素活性表示は、次のようにした。
−(活性強力):Bnkと同じ(薄褐黄色) ±(活性あり):僅かに褐色 +(活性弱い):褐紫色 ++(活性微弱):赤紫色 +++(活性なし):紫色(Refと同じ色)
【0065】
Refは、SS−C500mg+蒸留水200μLで同様に処理し、その上清200μLをホールプレートにとり、水1mL、ヨウ素液(0.1%ヨウ素−1%ヨウ化カリウム溶液)100μLを加えて発色させたものである。Bnkは、蒸留水1.2mL+ヨウ素液100μLである。
【0066】
0〜200までは薄褐色、この後は水が遊離して動き、液量の増加とともに反応は遅延し、徐々に紫色が強くなった。反応が進むのは200までで、反応効率が最もよいのは、100であった。100での粉末状酵素反応と2000での液状反応の速度比は2.5(200倍希釈酵素反応と同等な呈色)で、水が動きにくい半固体状態までは反応速度は速く、それ以上の水分では水が動いて、水分が多くなるにしたがって反応速度が遅延した。
【0067】
(3)粉末状態の反応における水分量と反応速度
SS−C200mgを13本の10mバイアルに秤取り、0,25,50,75,100,150,200,250,300,500μL,1mL,2mLの水を加え、500倍希釈No.37酵素液、各50μLを加えて、ミクロスパーテルで撹拌、混合した。室温(25℃)で1時間放置し(液状試験区は時々揺らして撹拌)、反応終了後、105℃で密閉系酵素失活処理、水を2000、1975、・・・1000、0のように加えて全量を2050μLになるようにし、数分間室温放置して、上清200μLを1mL水+ヨウ素液100μLのホールプレートに入れて発色させた。その結果を図9に示す。
【0068】
(4)分光々度計による水分添加量と活性の変化
SS−C500mgを10mバイアルに秤取り、0,50,100,250,500μL,750μL,1mL,2mLの水を加え、500倍希釈No.37酵素液(4500ユニット/g)、各50μLの酵素液を添加、ミクロスパーテルで撹拌、混合した。室温(25℃)で1時間放置し(液状試験区は時々揺らして撹拌)、反応終了後、105℃30minで密閉系で酵素失活処理した。これに、水を加えて全量を5050μLになるようにし、数分間室温放置して、0.1%ヨウ素溶液の5倍希釈液100μL加えて振盪撹拌して発色させた。1500rpm×10分間遠心分離して上清を2mLで比色した。λmaxの吸光度をプロットした。その結果を図10に示す。酵素溶液は、液状酵素剤α−アミラーゼ(No.37 4500ユニット/g クライスターゼL1、天野エンザイム)酵素原液の500倍希釈液である。
【0069】
(5)HPLCによる反応生成物の分析
HPLCにより反応生成物を分析した。その結果を図11に示す。図中、V0は、ボイドボリューム、G2は、マルトース、α−CDは、α−サイクロデキストリン、G2−α−CDは、マルトシル−α−サイクロデキストリンである。
【発明の効果】
【0070】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)粉末化基材に反応基質を混合し、擬似粉末状態を保持して糖質関連酵素を反応させる粉末状酵素反応と、基材・基質の選択により、各種の生産物を製造することができる。
(2)粉末化基材として、ある一定の水分量を加えても散ける状態のもの用い、この時点の水分量を粉末状態保持限界水量PSSV(powder state sustainable water volume)とし、澱粉、セルロース、増粘多糖類などを選択し、粉末状態又は非離水状態の擬似粉末状態で酵素反応を行うことができる。
(3)粉末化基材の澱粉として、トウモロコシ、米、小麦、馬鈴薯、甘藷、タピオカ、サゴ、増粘多糖の種類として、グアガム、アルギン酸Na、コンニャクイモ、寒天を用いることができる。
(4)反応基質としては、グルコース、フルクトース、ソルボース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、フコース、アセチルグルコサミン及び/又はそれらのポリマー、糖アルコール、ポリフェノール、水酸基をもつアミノ酸、ステロイドを用いることができる。
(5)酵素は、糖質関連酵素が主体であり、グルコース、ガラクトース、マンノース、アミノ糖、酸性糖、チオ糖などの糖質ポリマーを水解するカルボヒドラーゼ、トランスフェラーゼ、イソメラーゼを用いて、水解物や合成物を製造することができる。
(6)酵素として、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、ポリガラクチュロナーゼ、キシラナーゼ、β−グルカナーゼ、グルコアミラーゼ、α−アミラーゼ、耐熱性αアミラーゼ、デキストラナーゼ、β−アミラーゼ、マルトトリオヒドロラーゼ、プルラナーゼ、CDグルカノトランスフェラーゼ(CGTase、CD合成酵素)、トランスグルコシダーゼ、スクラーゼ、ラクターゼ、インベルターゼ、グルコース・イソメラーゼ、リゾチームなどを組み合わせて反応させることができる。
(7)粉末状酵素反応ができる水分含有率は、糖質によって異なり、反応基質の量が増える場合は、水分含有率を低く抑えればよい。
(8)粉末状酵素反応終了後、乾燥と同時に殺菌処理し、要すれば微粉末化して、製品とすることができ、反応物全体を直接一定の温度、時間で処理すれば安定性の高い粉末製品とすることができる。
(9)非離水状態でも反応を進行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉に水を加え澱粉粒の散け状態を観察した結果を示す。市販澱粉を105℃3時間乾燥した試料1gに蒸留水を0〜1200μLを添加して、撹拌混合。開放系170℃で乾燥処理した後、観察した。
【図2】トウモロコシ澱粉の澱粉粒の散け状態を観察した結果を示す。
【図3】馬鈴薯澱粉の澱粉粒の散け状態を観察した結果を示す。
【図4】加水分解酵素の探索結果を示す。市販糖質関連酵素を48種類集積し、SS−C(セルロース25g、可溶性澱粉5g、蒸留水25mLを撹拌混合し、密閉冷蔵庫保存)を探索用とした。
【図5】加水分解酵素の探索結果を示す。
【図6】加水分解酵素の探索結果を示す。
【図7】加水分解酵素の探索結果を示す。
【図8】加水分解酵素の探索結果を示す。
【図9】粉末状態の反応における水分量と反応速度についての検討例を示す。SS−C200mgを用い、添加水量を変化させて、酵素液と撹拌混合して反応させ、ヨウ素呈色を観察した結果である。
【図10】分光々度計による水分添加量と活性の変化の検討結果を示す。SS−C500mgを用い、添加水量を変化させて、酵素液と撹拌混合して反応させ、ヨウ素呈色を分光々度計で比色し、560nm前後のλmaxをプロットした。
【図11】HPLCによる反応生成物の分析例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0072】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0073】
以下の実施例では、粉末状態を保持するために用いる糖質を基材、反応用原料を基質と記述する。酵素剤は集積したものを0.2%溶液又は懸濁液とし、懸濁液の場合はその上清を用いた。また、得られた製品は、[基材−基質−酵素]パセト食品素材のように分類し、例えば、[Cel−Glc−StE]パセト食品素材のように分類した。基材も糖質であるので、酵素の作用を受ける可能性があるが、本発明では、実施例3以外は、それらの分析はしていない。
【0074】
本発明では、基材、基質、酵素については、以下のように分類した。
基材:セルロース−Cel、澱粉−St、増粘多糖−Gelなど
基質:Glc−グルコース系、Fru−フルクトース系、Man−マンノース系、Gal−ガラクトース系、Fuc−フコース系、Xyl−キシロース系、Ara−アラビノース系、GlcNAc−アセチルグルコサミン系、Uro−ウロン酸系など。配糖体のアグリコンをAgrと略す。
酵素:StE(澱粉系水解酵素)、CelE(セルロース系水解酵素)、HCelE(ヘミセルロース系水解酵素)(なお、本明細書では、ヘミセルラーゼとは細胞壁に含まれるセルロース以外の糖質全体を含める)、その他。
【0075】
本発明では、集積した酵素製品は、以下のように分類した。
StE:7.α−アミラーゼ、19.α−アミラーゼ、24.α−アミラーゼ、25.耐熱性αアミラーゼ、36.アミラーゼ、37.α−アミラーゼ、38.α−アミラーゼ、42.α−アミラーゼ、43.α−アミラーゼ、44.α−アミラーゼ、20.βアミラーゼ、27.βアミラーゼ、18.βアミラーゼ、21.グルコアミラーゼ、5.グルコアミラーゼ、6.グルコアミラーゼ、31.グルコアミラーゼ、39.グルコアミラーゼ、17.グルコアミラーゼ、32.マルトトリオヒドロラーゼ
【0076】
TraE:34.CDグルカノトランスフェラーゼ、35.トランスグルコシダーゼ
CelE:2.セルラーゼ、11.セルラーゼ、14.セルラーゼ、23.セルラーゼ、28.セルラーゼ、29.セルラーゼ、40.セルラーゼ、41.セルラーゼ、46.セルラーゼ、47.β−グルカナーゼ、48.β−グルカナーゼ
HCelE:1.ヘミセルラーゼ、12.ヘミセルラーゼ、13.ヘミセルラーゼ、15.ヘミセルラーゼ、16.ヘミセルラーゼ、3.ペクチナーゼ、4.ペクチナーゼ・キシラナーゼ、26.ペクチナーゼ、45.ポリガラクチュロナーゼ
【0077】
SucE:8.インベルターゼ、9.スクラーゼS
LacE:30.ラクターゼ
DexE:10.デキストラナーゼ
PulE:33.プルラナーゼ
IsoE:22.グルコースイソメラーゼ
【0078】
本発明では、目的とする素材の製造には、この基材、基質、酵素を組合せ、適宜、反応条件を設定した。基材の混合、基質の混合、酵素の混合、これらを組合せにより、更に多種類の製品を製造した。また、基材のセルロース、澱粉、増粘多糖を組み合わせて、適当な酵素で反応させた場合には、溶解性・湿潤性などの物性は混合物とは異なっているので、相互の部分を交換したハイブリッドタイプの糖質となっている可能性がある。このようにして製造される製品は、安定性、食味、食品の色彩、溶解性などの物性が改良され、毒性が低減化され、更に生理機能性など、新しい特性が付与される。
【実施例1】
【0079】
基材としてセルロース20g、基質として市販粉あめ(ワキシー澱粉 酵素分解物DE5)5g、グルコアミラーゼ酵素液100μL、蒸留水20mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX(登録商標)50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、サラサラの乾燥粉末を得た。本条件で得られた製品は、サッパリした甘味がある、[Cel−Glc−StE]パセト食品素材であり、変換率は73%であった。
【実施例2】
【0080】
密栓付きPYREX(登録商標)50mL耐圧ビンの代わりに食品包装用の紙袋(耐油紙)を使用し、酵素をβ−アミラーゼに換え、密封し、反応後開封して、殺菌・乾燥した以外は、実施例1と同様にして、甘味がマイルドでシットリした食感の糖質素材を得た。変換率は56%であった。
【0081】
この場合、基材を少なくし、基質を多くしたい場合は、粉末状態保持のために水分添加量を少なく調整すればよいこと、また、反応用容器に特に制限はなく、ろ過布、目の細かい布袋又は米用紙袋に入れて、湿度を調節した部屋に2日間45℃で放置した後、風袋全体を105℃で1時間、乾燥殺菌処理すれば製品とすることができること、窒素封入又はポリ袋に入れて真空にすれば、1週間の反応が可能となること、が分かった。また、基材としてウルチ米澱粉を用いて、α−アミラーゼ及び/又はグルコアミラーゼを加えて実施例1に準じて反応させれば基材は基質としても利用できる。
【実施例3】
【0082】
基質として、イヌリン、酵素としてβ−グルカナーゼ100μLとセルラーゼ100μLを用いた以外は、実施例1と同様にして、粉末を得た。本条件で得られた製品は、甘味のある、[Cel−Fru−CelE]パセト食品素材であり、変換率は12%であった。この場合、ヘミセルラーゼを用いることもできるが、これら酵素剤には夾雑酵素が含まれるものと予想されるので、変換効率を高めるにはイヌリン分解酵素の利用が望ましい。
【実施例4】
【0083】
基材としてセルロース20g、基質としてローカストビーンガム1g、ヘミセルラーゼ酵素液100μL、蒸留水20mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX(登録商標)50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、僅かに塊がある製品が得られた。この塊は砕きやすく、手で押すだけで粉末になった。本条件で得られた製品は、[Cel−Man・Gal−HCelE]パセト食品素材であり、水を添加して溶解すると粘凋、不透明な懸濁液になった。
【0084】
ローカストビーンガムの代わりにグアガム、タラガムを用いて同様に処理すると、粘性が異なる製品が得られた。基質としてタマリンド、フコイダン、キシラン、アラビノキシラン、キチン分解物、ペクチン、キサンタンガム、ジェランガムを用いた以外は同様に処理して、粘性の異なる製品が得られた。
【実施例5】
【0085】
基材としてトウモロコシ澱粉20g、基質としてローカストビーンガム1g、ヘミセルラーゼ酵素液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX(登録商標)50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、サラサラな製品が得られた。本条件で得られた製品は、[St−Man・Gal−HCelE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、やや粘凋で不透明な溶液になった。
【0086】
ローカストビーンガムの代わりにグアガム、タラガムを用いて同様処理すると、粘性が異なる製品が得られ、トウモロコシ澱粉の代わりにモチトウモロコシ澱粉を用いた以外は同様に処理して、溶解性のより優れた製品が得られた。
【実施例6】
【0087】
基材として米澱粉20g、基質としてローカストビーンガム1g、ヘミセルラーゼ酵素液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、サラサラな製品が得られた。本条件で得られた製品は、[St−Man・Gal−HCelE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、やや粘凋で不透明な溶液になった。
【0088】
ローカストビーンガムの代わりにグアガム、タラガムを用いて同様に処理すると、粘性が異なる製品が得られ、トウモロコシ澱粉の代わりにモチトウモロコシ澱粉、糯米澱粉、タピオカ澱粉を用いた以外は同様に処理して、溶解性のより優れた製品が得られた。
【実施例7】
【0089】
基材としてトウモロコシ澱粉20g、基質としてタマリンドガム1g、ヘミセルラーゼ酵素液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、サラサラな製品が得られた。本条件で得られた製品は、[St−Xyl−HCelE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、やや粘凋で不透明な溶液になった。
【実施例8】
【0090】
基材としてトウモロコシ澱粉20g、基質としてフコイダン1g、ヘミセルラーゼ酵素液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX(登録商標)50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、サラサラな製品が得られた。本条件で得られた製品は、[St−Fuc−HCelE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、やや粘凋で不透明な溶液になった。
【実施例9】
【0091】
基材としてトウモロコシ澱粉20g、基質としてキシラン1g、ヘミセルラーゼ酵素液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、サラサラな製品が得られた。本条件で得られた製品は、[St−Xyl−HCelE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、やや粘凋で不透明な溶液になった。
【実施例10】
【0092】
基材としてトウモロコシ澱粉20g、基質としてアラビノキシラン1g、ヘミセルラーゼ酵素液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、サラサラな製品が得られた。本条件で得られた製品は、[St−Ara・Xyl−HCelE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、不透明な溶液になった。
【実施例11】
【0093】
基材としてトウモロコシ澱粉20g、基質としてキチン分解物1g、ヘミセルラーゼ酵素液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、サラサラな製品が得られた。本条件で得られた製品は、[St−GlcNAc−HCelE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、不透明な溶液になった。
【実施例12】
【0094】
基材としてトウモロコシ澱粉20g、基質としてペクチン1g、ヘミセルラーゼ酵素液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、サラサラな製品が得られた。本条件で得られた製品は、[St−Uro−HCelE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、粘凋、不透明な溶液になった。
【実施例13】
【0095】
基材としてグアガム10g+セルロース10g、基質として粉あめ5g、グルコアミラーゼ酵素液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、塊がある乾燥製品が得られた。この塊は乳鉢で容易に磨砕することができた。本条件で得られた製品は、[Gel・Cel−Glc−StE]パセト食品素材であり、変換率は47%であった。水を添加して加熱溶解すると、フラットな甘味のやや粘凋な懸濁液になった。
【0096】
StEの代わりに、α−アミラーゼ酵素液100μL+ヘミセルラーゼ酵素液100μLを混合して用いた以外は同様に処理して、粘凋性が抑えられた製品が得られた。本条件で得られた製品は、[Gel・Cel−Glc−StE・HCelE]パセト食品素材であった。
【実施例14】
【0097】
基材としてアルギン酸Na10g+セルロース10g、基質として粉あめ5g、グルコアミラーゼ酵素液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、塊がある乾燥製品が得られた。この塊は乳鉢で容易に磨砕することができた。変換率は45%であった。本条件で得られた製品は、[Gel・Cel−Glc−StE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、フラットな甘味のやや粘凋な懸濁液になった。
【実施例15】
【0098】
基材としてコンニャクイモ粉20g、基質として粉あめ5g、マルトトリオヒドロラーゼ酵素液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、サラサラな乾燥製品が得られた。本条件で得られた製品は、[Gel−Glc−StE]パセト食品素材であり、変換率は36%であった。水を添加して加熱溶解すると、やや粘凋不透明液になった。
【実施例16】
【0099】
基材として寒天粉末20g、基質として粉あめ5g、β−アミラーゼ酵素液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、乾燥製品が得られた。変換率は52%であった。本条件で得られた製品は、[Gel−Glc−StE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、フラットな甘味のやや粘凋な懸濁液になり、ゲル状にすることができた。
【実施例17】
【0100】
基材としてモチトウモロコシ澱粉20g、基質としてショ糖5g、スクラーゼ酵素液100μL、蒸留水10mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、乾燥製品が得られた。変換率は63%であった。本条件で得られた製品は、[St−Glc・Fru−SucE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、フラットな甘味のやや粘凋な不透明溶液になった。
【実施例18】
【0101】
基材としてモチトウモロコシ澱粉20g、基質としてショ糖5g、スクラーゼ酵素液100μL、蒸留水10mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、乾燥製品が得られた。変換率は63%であった。本条件で得られた製品は、[St−Glc・Fru−SucE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、フラットな甘味のやや粘凋な透明溶液になった。
【実施例19】
【0102】
基材としてモチトウモロコシ澱粉20g、基質としてラクトース糖5g、ラクターゼ酵素液100μL、蒸留水10mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、乾燥製品が得られた。変換率は48%であった。本条件で得られた製品は、[St−Glc・Gal−LacE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、フラットな甘味のやや粘凋な透明溶液になった。
【実施例20】
【0103】
基材としてモチトウモロコシ澱粉20g、基質としてデキストラン5g、デキストラナーゼ酵素液100μL、蒸留水10mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、乾燥製品が得られた。本条件で得られた製品は、[St−Glc−DexE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、やや粘凋な透明溶液になった。
【実施例21】
【0104】
基材としてモチトウモロコシ澱粉20g、基質としてプルラン5g、プルラナーゼ酵素液100μL、蒸留水10mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、乾燥製品が得られた。本条件で得られた製品は、[St−Glc−PulE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、やや粘凋な透明溶液になった。
【実施例22】
【0105】
基材としてセルロース19g、基質としてグルコース5g、グルコースイソメラーゼビーズ酵素剤1g、蒸留水10mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、乾燥製品が得られた。この製品は固定化酵素を使用しているので、このままでは製品化はできず、100mLの水で抽出して、抽出液を用いて変換率を45%と計算した。遊離酵素を使用することができれば、直接製品化が可能である。
【実施例23】
【0106】
基材としてトウモロコシ澱粉20g、基質として粉あめ4gとコレステロール1g、CDグルカノトランスフェラーゼ酵素液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、乾燥製品が得られた。製品中の配糖化成分を、製品を70%アセトニトリルで抽出して分析したところ、ほぼ半量は配糖化されていた。
【0107】
コレステロールをβ−シストロールに代えた以外は同様に処理して、同様の結果を得た。本条件で得られた製品は、[St−Glc・Agr−TraE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、不透明溶液になった。
【実施例24】
【0108】
基材としてトウモロコシ澱粉20g、基質としてマルトテトラオース4gとイソフラボンアグリコンミクスチャーA 1g、CDグルカノトランスフェラーゼ酵素(CGTase)液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、乾燥製品が得られた。
【0109】
イソフラボンアグリコンミクスチャーAを各、D−(+)−カテキン水和物、αGヘスペリジン、ゆずポリフェノール、赤しそポリフェノール、フルーツポリフェノール、茶ポリフェノール、没食子酸に代えた以外は同様に処理して、同様の結果を得た。本条件で得られた製品は、[St−Glc・Agr−TraE]パセト食品素材であり、水を添加して加熱溶解すると、不透明溶液になった。
【実施例25】
【0110】
基材としてトウモロコシ澱粉20g、基質としてマルトペンタオース、マルトヘキサオース混合物4gとアスコルビン酸1gに代えた以外は、実施例23と同様にして、同様の結果を得た。
【実施例26】
【0111】
基材としてトウモロコシ澱粉20g、基質としてマルトペンタオース、マルトヘキサオース混合物4gとエルゴステロール1gに代えた以外は、実施例23と同様にして、同様の結果を得た。この他、ユビキノンやビタミンKのようなOH基をもたないものでもCGTaseでCD合成、複合化で安定化することができた。
【実施例27】
【0112】
基材としてトウモロコシ澱粉20g、基質としてマルトペンタオース、マルトヘキサオース混合物4gとエルゴステロール1g、トランスグルコシダーゼ酵素液100μL、蒸留水8mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、乾燥製品が得られた。
【実施例28】
【0113】
馬鈴薯澱粉20g、α−アミラーゼ酵素液100μL、蒸留水12mLを加えて撹拌混合してから、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、105℃、乾熱器中、密閉系で24時間静置反応させた。澱粉は透明な水あめになった。酵素剤は、耐熱性でなくとも同様に反応した。
【0114】
α−アミラーゼ酵素液100μLにグルコアミラーゼ酵素液100μLを混合使用することで、甘味が増強された水あめ製品が得られた。タピオカ澱粉、モチトウモロコシ澱粉、糯米澱粉でも、非離水状態に到達する前までの水分含有量であれば、水あめ状になるが、水分が多い製品となった。澱粉がケーキ状になっている場合は水分の少ない水あめになった。米粉、小麦粉も同様にして用いることができた。
【実施例29】
【0115】
セルロース10g、キシログルカン10g、セルラーゼ酵素液100μLとヘミセルラーゼ酵素液100μL、水15mLを撹拌混合して、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、ハイブリッド様糖質製品が得られた。キシログルカンの代わりに、各、タマリンドガム、キサンタンガム、ジェランガムを用い、同様の結果を得た。
【実施例30】
【0116】
トウモロコシ澱粉10g、キシログルカン10g、α−アミラーゼ酵素液100μL、セルラーゼ酵素液100μL、ヘミセルラーゼ酵素液100μL、水7mLを撹拌混合して、密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、ハイブリッド様糖質製品が得られた。キシログルカンの代わりに、各、タマリンドガム、キサンタンガム、ジェランガムを用い、同様の結果を得た。
【実施例31】
【0117】
市販マルトース一水和物とα−CDの各10%溶液を調製し、各10mL、セルロース20gを加えて撹拌・混合、プルラナーゼ溶液(市販試薬粗製プルラナーゼ、林原生物化学研究所製10mgを1mLの水に溶解)200μLを密栓付きPYREX50mL耐圧ビンに入れて、45℃の恒温器の中で24時間静置反応させた。反応終了後、栓を開放して、乾熱器中105℃で1時間処理して殺菌と同時に乾燥し、変換率45%(初発α−CDを100として)で、マルトシル−α−CDが得られた。
【0118】
マルトースの代わりに、可溶性澱粉を用い、β−アミラーゼ溶液(Wako β−アミラーゼ,オオムギ由来10mgを1mLの蒸留水に溶解)200μL追加した以外は同様に処理して、36%の変換率でマルトシル−α−CDが得られた。乾燥条件を、80℃、2時間とした他は実施例1と同様に処理した後、室温放冷して遮光密封袋につめ、2ヶ月間保存して成分、色、香りが変化しない製品が得られた。120℃、15分間の処理でも同様であり、本発明は、上記温度範囲外でも適用できる可能性があると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
以上詳述したように、本発明は、糖質関連酵素を擬似粉末状態で反応させる糖質複合体の製造法とその生産物に係るものであり、本発明によれば、粉末状保持基材として、ある一定以下の水分含量では基材が散けた状態、すなわち粉末状態で反応し、しかも反応効率が高く、反応効率は、非離水状態になるまで低下しない。本発明では、余計な水分を使わないので、乾燥も容易で、主として乾燥粉末製品を製造できるので、食品加工での利用に便利で安価な製品を提供できる。更に、本発明では、基質を基材と混合し、多様な糖質関連酵素を作用させることが可能であるので、基材・基質、糖質関連酵素との組合せで、極めて多種多彩な製品が製造でき、ニーズに従って、この組合せを作り、反応させて、そのまま製品化できるので、利用範囲は極めて広く、生理機能性など、新しい特性を付与することも可能となる。本発明は、粉末状から非離水状態に至る範囲での反応でも各種の粉あめ、水あめ様の製品が得られ、食品に限らず、化粧品、医薬品の製造にも適用できるものとして有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖質原料を擬似粉末状態にして糖質関連酵素で反応させ、その生産物である糖質複合体を製造する方法であって、1)糖質原料の擬似粉末状態を保持するために用いる糖質が、ラクトース、サイクロデキストリン、セルロース、澱粉、米粉、小麦粉、又は増粘多糖であり、2)反応用原料が、グルコース、フルクトース、ソルボース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、フコース、アセチルグルコサミン及び/又はそれらのポリマー、糖アルコール、ポリフェノール、水酸基をもつアミノ酸、若しくはステロイドであり、3)上記1、2の原料を個別又は1種以上混合して、擬似粉末状態を保持し、糖質関連酵素で反応させることを特徴とする糖質複合体の製造方法。
【請求項2】
擬似粉末状態を保持するための糖質の澱粉が、トウモロコシ、米、小麦、馬鈴薯、甘藷、タピオカ、又はサゴである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
増粘多糖が、グアガム、アルギン酸Na、コンニャクイモ、又は寒天である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
糖質関連酵素(一般名)が、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、ポリガラクチュロナーゼ、キシラナーゼ、β−グルカナーゼ、グルコアミラーゼ、α−アミラーゼ、耐熱性αアミラーゼ、デキストラナーゼ、β−アミラーゼ、マルトトリオヒドロラーゼ、プルラナーゼ、CDグルカノトランスフェラーゼ(CGTase、CD合成酵素)、トランスグルコシダーゼ、スクラーゼ、ラクターゼ、インベルターゼ、又はグルコース・イソメラーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
糖質関連酵素を2種以上組み合わせて反応させる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
擬似粉末状態を保持するための糖質と反応用原料の等量混合物に酵素を添加したものの水分含有率が、ラクトースでは12〜17%、サイクロデキストリンでは12〜34%、セルロースでは10〜72%、澱粉では16〜45%、米粉では19〜50、小麦粉では14〜38、増粘多糖では17〜91%である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
反応終了後、擬似粉末状態の反応物を乾燥して全体を用いる、請求項1に記載の糖質複合体の製造法。
【請求項8】
糖質原料を非離水状態の擬似粉末状態にして糖質関連酵素で反応させ、その生産物である糖質複合体を製造する方法であって、1)糖質原料の非離水状態を保持するために用いる糖質が、セルロース、澱粉、米粉、又は小麦粉であり、2)反応用原料が、グルコース、フルクトース、ソルボース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、フコース、アセチルグルコサミン及び/又はそれらのポリマー、糖アルコール、ポリフェノール、水酸基をもつアミノ酸、若しくはステロイドであり、3)上記1、2の原料を個別又は1種以上混合して、糖質関連酵素で反応させる、請求項1に記載の糖質複合体の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の製造方法で、糖質原料を擬似粉末状態で酵素反応させ、乾燥と同時に酵素を欠活させて得られる長期保存によっても品質劣化の少ないことを特徴とする糖質複合体。
【請求項1】
糖質原料を擬似粉末状態にして糖質関連酵素で反応させ、その生産物である糖質複合体を製造する方法であって、1)糖質原料の擬似粉末状態を保持するために用いる糖質が、ラクトース、サイクロデキストリン、セルロース、澱粉、米粉、小麦粉、又は増粘多糖であり、2)反応用原料が、グルコース、フルクトース、ソルボース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、フコース、アセチルグルコサミン及び/又はそれらのポリマー、糖アルコール、ポリフェノール、水酸基をもつアミノ酸、若しくはステロイドであり、3)上記1、2の原料を個別又は1種以上混合して、擬似粉末状態を保持し、糖質関連酵素で反応させることを特徴とする糖質複合体の製造方法。
【請求項2】
擬似粉末状態を保持するための糖質の澱粉が、トウモロコシ、米、小麦、馬鈴薯、甘藷、タピオカ、又はサゴである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
増粘多糖が、グアガム、アルギン酸Na、コンニャクイモ、又は寒天である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
糖質関連酵素(一般名)が、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、ポリガラクチュロナーゼ、キシラナーゼ、β−グルカナーゼ、グルコアミラーゼ、α−アミラーゼ、耐熱性αアミラーゼ、デキストラナーゼ、β−アミラーゼ、マルトトリオヒドロラーゼ、プルラナーゼ、CDグルカノトランスフェラーゼ(CGTase、CD合成酵素)、トランスグルコシダーゼ、スクラーゼ、ラクターゼ、インベルターゼ、又はグルコース・イソメラーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
糖質関連酵素を2種以上組み合わせて反応させる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
擬似粉末状態を保持するための糖質と反応用原料の等量混合物に酵素を添加したものの水分含有率が、ラクトースでは12〜17%、サイクロデキストリンでは12〜34%、セルロースでは10〜72%、澱粉では16〜45%、米粉では19〜50、小麦粉では14〜38、増粘多糖では17〜91%である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
反応終了後、擬似粉末状態の反応物を乾燥して全体を用いる、請求項1に記載の糖質複合体の製造法。
【請求項8】
糖質原料を非離水状態の擬似粉末状態にして糖質関連酵素で反応させ、その生産物である糖質複合体を製造する方法であって、1)糖質原料の非離水状態を保持するために用いる糖質が、セルロース、澱粉、米粉、又は小麦粉であり、2)反応用原料が、グルコース、フルクトース、ソルボース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、フコース、アセチルグルコサミン及び/又はそれらのポリマー、糖アルコール、ポリフェノール、水酸基をもつアミノ酸、若しくはステロイドであり、3)上記1、2の原料を個別又は1種以上混合して、糖質関連酵素で反応させる、請求項1に記載の糖質複合体の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の製造方法で、糖質原料を擬似粉末状態で酵素反応させ、乾燥と同時に酵素を欠活させて得られる長期保存によっても品質劣化の少ないことを特徴とする糖質複合体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−110966(P2013−110966A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256828(P2011−256828)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(501360821)DSP五協フード&ケミカル株式会社 (6)
【出願人】(302046621)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(501360821)DSP五協フード&ケミカル株式会社 (6)
【出願人】(302046621)
【Fターム(参考)】
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