説明

糖鎖捕捉物質およびその用途

【課題】糖鎖および/または糖の誘導体を含む生体試料の分析に用いられる糖鎖捕捉物質の製造方法およびこの製造方法に用いることができるモノマー、このモノマーを重合して得られるポリマーを提供する。また、その試料調製方法の用途を提供する。
【解決手段】下記の(式13)で表される構造を有するモノマー。


(R2はH,CH3,または炭素数2〜5の炭化水素鎖,R6は−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖,[P]は保護基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の糖鎖捕捉物質を使った試料調製方法およびその方法により得られる分析試料に関する。本発明は、糖鎖捕捉物質の製造方法およびそれに用いる化合物ならびにこの化合物を重合してなる重合体に関する。また、本発明は、糖鎖捕捉物質の用途、例えば使用方法、糖鎖マイクロアレイおよびこの糖鎖マイクロアレイの用途、糖鎖アフィニティビーズおよびこの糖鎖アフィニティビーズの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
生体高分子とは、糖鎖、糖タンパク、糖ペプチド、ペプチド、オリゴペプチド、タンパク、核酸、脂質などの総称である。
【0003】
また、これら生体高分子は、医学、細胞工学、臓器工学などのバイオテクノロジー分野において重要な役割を担っており、これら物質による生体反応の制御機構を明らかにすることはバイオテクノロジー分野の発展に繋がることになる。
【0004】
この中でも、糖鎖は、非常に多様性に富んでおり、天然に存在する生物が有する様々な機能に関与する物質である。糖鎖は生体内でタンパク質や脂質などに結合した複合糖質として存在することが多く、生体内の重要な構成成分の一つである。生体内の糖鎖は細胞間情報伝達,タンパク質の機能や相互作用の調整などに深く関わっていることが明らかになりつつある。
【0005】
なお、糖鎖とは、グルコース,ガラクトース,マンノース,フコース,キシロース,N−アセチルグルコサミン,N−アセチルガラクトサミン,シアル酸などの単糖およびこれらの誘導体がグリコシド結合によって鎖状に結合した分子の総称である。
【0006】
例えば、糖鎖を有する生体高分子としては、細胞の安定化に寄与する植物細胞の細胞壁のプロテオグリカン、細胞の分化、増殖、接着、移動等に影響を与える糖脂質、及び細胞間相互作用や細胞認識に関与している糖タンパク質等が挙げられる。これらの生体高分子に含まれる糖鎖が、この生体高分子と互いに機能を代行、補助、増幅、調節、あるいは阻害しあいながら高度で精密な生体反応を制御する機構が次第に明らかにされつつある。さらに、このような糖鎖と細胞の分化増殖、細胞接着、免疫、及び細胞の癌化との関係が明確にされれば、この糖鎖工学と、医学、細胞工学、あるいは臓器工学とを密接に関連させて新たな展開を図ることが期待できる。
【0007】
特許文献1には、このような糖鎖と特異的に反応しうる物質が記載されており、これらの物質を用いて糖鎖を分離などする方法が併せて記載されている。
【特許文献1】国際公開第2004/058687号パンフレット
【発明の開示】
【0008】
ところで、特許文献1には、糖鎖捕捉物質に捕捉された糖鎖をこの糖鎖捕捉物質より遊離する(切り出す)ために、トリフルオロ酢酸や酸性樹脂などを用いた酸処理を用いる例が記載されている。このような過酷な条件に糖鎖をさらすことは、生体試料から取り出された糖鎖の末端に結合し、かつ、酸性条件で脱離しやすい性質を持つシアル酸残基の脱離など糖鎖の変性を引き起こすおそれがあり、より穏やかな条件での糖鎖切り出しを行うことが望まれていた。なお、糖鎖に結合するシアル酸の有無および結合場所は、疾患と関連することが多く、シアル酸が完全な状態で糖鎖を分析することが望まれ、分析前の前処理段階でシアル酸の一部でも脱離してしまうと正確な糖鎖情報を得ることができなくなるものである。
【0009】
そこで、本発明は、糖鎖および/または糖の誘導体を含む生体試料より分析試料のための糖鎖および/または糖の誘導体を、簡単な操作で分離精製することを可能にする試料調製方法、およびこの方法により得られる分析試料を提供する。また、本発明は、前記試料調製方法に用いられる糖鎖捕捉物質の製造方法およびこの製造方法に用いることができるモノマー、このモノマーを重合して得られるポリマーを提供する。また、本発明は、前記試料調製方法の用途を提供する。
【0010】
本発明は、
(1)ヒドラジド基を含む物質Aと、糖鎖および/または糖の誘導体とを、当該物質Aのヒドラジド基と当該糖鎖および/または糖の誘導体の還元末端との間のヒドラゾン形成によって結合することを特徴とする試料調製方法。
(2)物質Aがクロモフォアまたはフルオロフォアを含む部位を含むことを特徴とする(1)項に記載の試料調製方法。
(3)物質Aが下記から選ばれる物質またはその塩である(1)項に記載の試料調製方法。
(物質A):5-Dimethylaminonaphthalene-1-sulfonyl hydrazine (Dansylhydrazine); 2-hydrazinopyridine;9-fluorenylmethyl carbazate (Fmoc hydrazine);benzylhydrazine;4,4-difluoro-5,7-dimethyl-4-bora-3a,4a-diaza-s-indacene-3-propionoc acid, hydrazide;2-(6,8-difluoro-7-hydroxy-4-methylcoumarin)acetohydrazide;7-diethylaminocoumarin-3-carboxylic acid, hydrazide (DCCH);phenylhydrazine;1-Naphthaleneacethydrazide;2-hydrazinobenzoic acid;biotin hydrazide;phenylacetic hydrazide
(4)物質Aがアルギニン残基、トリプトファン残基、フェニルアラニン残基、チロシン残基、システイン残基およびこれら誘導体の少なくとも一つからなる部分を含む(1)項に記載の試料調製方法。
(5)物質Aが下記(式1)の構造を有する化合物である(4)項に記載の試料調製方法。
【0011】
【化1】

【0012】
(Rは -CH3 または -CD3 を表す)
(6)物質Aが下記(式2)の構造を有する(1)項に記載の試料調製方法。
【0013】
【化2】

【0014】
(Rは H, -COCH3, -COCD3 のいずれかを示す。)
(7)物質Aが下記(式3)で表される(1)項に記載の試料調製方法。
【0015】
【化3】

【0016】
(担体はポリマーマトリックス、Rは−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖を示す。)
(8)物質Aが下記の(式4)で表される架橋型ポリマー構造を有する(7)項に記載の試料調製方法。
【0017】
【化4】

【0018】
(R1,R2は−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖,R3,R4,R5はH,CH3,または炭素数2〜5の炭化水素鎖を示す。m,nはモノマーユニット数を示す。)
(9)物質Aが下記の(式5)で表される架橋型ポリマー構造を有する(7)項に記載の試料調製方法。
【0019】
【化5】

【0020】
(m,nはモノマーユニット数を示す。)
(10)物質Aが平均粒径0.1μm以上500μm以下のポリマー粒子である(7)項〜(9)項のいずれか一項に記載の試料調製方法。
(11)物質Aが乾燥重量1mg当り100nmol以上のヒドラジド基を有するポリマー粒子である(7)項〜(10)項のいずれか一項に記載の試料調製方法。
(12)物質Aが乾燥重量1mg当り0.5μmol以上のヒドラジド基を有するポリマー粒子である(7)項〜(10)項のいずれか一項に記載の試料調製方法。
(13)物質AがpH3〜8で安定である(7)項〜(12)項のいずれか一項に記載の試料調製方法。
(14)物質Aが少なくとも1MPa以下の圧力下で安定である(7)項〜(12)項のいずれか一項に記載の試料調製方法。
(15)(7)項において、前記式(3)中の担体が固相基板または固相基板の表面に直接結合する物質であることを特徴とする試料調製方法。
(16)(1)項〜(15)項のいずれか一項に記載の試料調製方法により物質Aと糖鎖および/または糖の誘導体とを結合させる糖鎖捕捉段階と、
前記糖鎖捕捉段階で捕捉された物質Aと糖鎖および/または糖の誘導体との複合体に、アミノオキシ基またはヒドラジド基を含む物質Bを作用させて、前記複合体と前記物質Bの間で生じるヒドラゾン−オキシム交換反応またはヒドラゾン−ヒドラゾン交換反応により、前記糖鎖および/または糖の誘導体を前記物質Aから切り離しつつ前記物質Bに結合させる糖鎖遊離段階と
を含む試料調製方法。
(17)物質Bがクロモフォアまたはフルオロフォアを含む部位を含むことを特徴とする(16)項に記載の試料調製方法。
(18)物質Bが下記のヒドラジド基を含む物質またはアミノオキシ基を含む物質からなる群から選ばれる物質または塩である(16)項に記載の試料調製方法。
(ヒドラジド基を含む物質)5-Dimethylaminonaphthalene-1-sulfonyl hydrazine (Dansylhydrazine);2-hydrazinopyridine;9-fluorenylmethyl carbazate (Fmoc hydrazine);benzylhydrazine;4,4-difluoro-5,7-dimethyl-4-bora-3a,4a-diaza-s-indacene-3-propionoc acid, hydrazide;2-(6,8-difluoro-7-hydroxy-4-methylcoumarin)acetohydrazide;7-diethylaminocoumarin-3-carboxylic acid, hydrazide (DCCH);phenylhydrazine;1-Naphthaleneacethydrazide;2-hydrazinobenzoic acid;phenylacetic hydrazide;
(アミノオキシ基を含む物質)O-benzylhydroxylamine;O-phenylhydroxylamine;O-(2,3,4,5,6-pentafluorobenzyl)hydroxylamine;O-(4-nitrobenzyl)hydroxylamine;2-aminooxypyridine;2-aminooxymethylpyridine;4-[(aminooxyacetyl)amino]benzoic acid methyl ester;4-[(aminooxyacetyl)amino]benzoic acid ethyl ester;4-[(aminooxyacetyl)amino]benzoic acid n-butyl ester。
(19)物質Bがアルギニン残基、トリプトファン残基、フェニルアラニン残基、チロシン残基、システイン残基およびこれら誘導体の少なくとも一つからなる部分を含む(16)項に記載の試料調製方法。
(20)物質Bが下記の(式7)で表される構造を有する(16)項に記載の試料調製方法。
【0021】
【化6】

【0022】
(構造式中、Rは -CH3, -CD3 を示す。)
(21)物質Bが固相担体である(16)項に記載の試料調製方法。
(22)物質Bがアミノオキシ基を含む固相担体である(21)項に記載の試料調製方法。
(23)物質Bが下記(式12)で表される(22)項に記載の試料調製方法。
【0023】
【化7】

【0024】
(担体はポリマーマトリックス、Rは−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖を示す。)
(24)物質Bが下記の(式8)で表される構造を有するポリマー粒子である(23)項に記載の試料調製方法。
【0025】
【化8】

【0026】
(R1,R2は−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖,R3,R4,R5はH,CH3,または炭素数2〜5の炭化水素鎖を示す。m,nはモノマーユニット数を示す。)
(25)物質Bが下記の(式9)で表される構造を有するポリマー粒子である(23)項に記載の試料調製方法。
【0027】
【化9】

【0028】
(m,nはモノマーユニット数を示す。)
(26)(21)項において、前記固相担体が固相基板または固相基板の表面に直接結合する物質であることを特徴とする試料調製方法。
(27)(16)項〜(25)項のいずれか一項に記載の製造方法において、前記糖鎖遊離段階の後に、ヒドラゾン−オキシム交換またはヒドラゾン−ヒドラゾン交換反応を、少なくとも1回以上行うことを特徴とする試料調製方法。
(28)糖鎖および/または糖の誘導体を結合させた、下記の(式3)、(式4)または(式5)で表される構造を有する物質Aを、酸性条件で処理することにより、ヒドラゾン結合を解離させ、糖鎖および/または糖の誘導体を遊離させることを特徴とする試料調製方法。
【0029】
【化10】

【0030】
(担体はポリマーマトリックス、Rは−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖を示す。)
【0031】
【化11】

【0032】
(R1,R2は−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖,R3,R4,R5はH,CH3,または炭素数2〜5の炭化水素鎖を示す。m,nはモノマーユニット数を示す。)
【0033】
【化12】

【0034】
(m,nはモノマーユニット数を示す。)
(29)酸性条件での処理が、0.01〜10体積パーセントのトリフルオロ酢酸溶液による処理である(28)項に記載の試料調製方法。
(30)酸性条件での処理が、0.01〜1体積パーセントのトリフルオロ酢酸溶液による処理であり、25〜80℃で5〜60分間行われる(29)項に記載の試料調製方法。
(31)(1)項〜(30)項のいずれか一項に記載の試料調製方法により調製された分析試料。
(32)下記(式3)で表される物質Aの製造方法であって、
重合性基を含むカルボン酸エステルモノマーを含む原料を架橋剤存在下で重合させてカルボン酸エステル含有ポリマー粒子を得た後、当該カルボン酸エステル含有ポリマー粒子を10体積パーセント以上の濃度のヒドラジン溶液で処理することを特徴とする物質Aの製造方法。
【0035】
【化13】

【0036】
(担体はポリマーマトリックス、Rは−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖を示す。)
(33)前記カルボン酸エステルモノマーがカルボン酸メチルエステルである(32)項に記載の物質Aの製造方法。
(34)下記の(式10)で表される構造を有するモノマー。
【0037】
【化14】

【0038】
(R1 は−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖,R2はH,CH3,または炭素数2〜5の炭化水素鎖を示す。)
(35)(34)項に記載のモノマーを重合させて得られる重合体。
(36)下記の(式11)で表される構造を有するモノマー。
【0039】
【化15】

【0040】
(37)(36)項に記載のモノマーを重合させて得られる重合体。
(38)下記の(式13)で表される構造を有するモノマー。
【0041】
【化16】

【0042】
(R2はH,CH3,または炭素数2〜5の炭化水素鎖,R6は−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖,[P]は保護基を示す。)
(39)(38)項に記載のモノマーを重合させて得られる重合体。
(40)(39)項に記載の重合体において、前記(式13)の保護基[P]を、酸処理により脱保護して得られる重合体。
(41)下記の(式14)で表される構造を有するモノマー。
【0043】
【化17】

【0044】
(42)(41)項に記載のモノマーを重合させて得られる重合体。
(43)(42)項に記載の重合体のt-butoxycarbonyl基を、酸処理により脱保護して得られる重合体。
(44)下記(式4)で表される物質Aの製造方法であって、
下記(式10)の構造を有するモノマーを架橋剤存在下で重合してカルボン酸エステル含有ポリマー粒子を得た後、当該カルボン酸エステル含有ポリマー粒子を10体積パーセント以上の濃度のヒドラジン溶液で処理することを特徴とする物質Aの製造方法。
【0045】
【化18】

【0046】
(R1,R2は−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖,R3,R4,R5はH,CH3,または炭素数2〜5の炭化水素鎖を示す。m,nはモノマーユニット数を示す。)
【0047】
【化19】

【0048】
(R1 は−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖,R2はH,CH3,または炭素数2〜5の炭化水素鎖を示す。)
(45)下記(式5)で表される物質Aの製造方法であって、
下記(式11)の構造を有するモノマーを架橋剤存在下で重合してカルボン酸エステル含有ポリマー粒子を得た後、当該カルボン酸エステル含有ポリマー粒子を10体積パーセント以上の濃度のヒドラジン溶液で処理することを特徴とする物質Aの製造方法。
【0049】
【化20】

【0050】
(m,nはモノマーユニット数を示す。)
【0051】
【化21】

【0052】
(46)混合物のまま、または、混合物から特定の画分を単離精製された糖鎖および/または糖の誘導体を固定化した固相担体を、該糖鎖および/または糖の誘導体に対して結合性または親和性を有する物質を捕集するための担持体として用いる使用方法。
(47)下記(式3)または(式12)で表される構造を有する物質Bからなる固相担体で構成される固相基板の表面に下記(工程1)〜(工程4)によって糖鎖および/または糖の誘導体を固定化する糖鎖マイクロアレイの製造方法。
(工程1)糖鎖および/または糖の誘導体と可溶性のヒドラジド基含有化合物とを結合させ、所定の分離手段によって糖鎖および/または糖の誘導体を、精製、および/または単離する工程。
(工程2)工程1で得られた化合物の溶液を、前記固相基板上に整列的に点着する工程。
(工程3)点着後の固相基板を所定の条件でインキュベートすることにより、糖鎖−物質Aの結合を、固相基板−糖鎖の結合に交換する反応を進行させ、糖鎖および/または糖の誘導体を固相基板に固定化する工程。
(工程4)固相基板上の未反応物を洗浄除去する工程。
【0053】
【化22】

【0054】
(担体はポリマーマトリックス、Rは−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖を示す。)
【0055】
【化23】

【0056】
(担体はポリマーマトリックス、Rは−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖を示す。)
(48)(47)項に記載の方法により製造される糖鎖マイクロアレイ。
(49)(48)項に記載の糖鎖マイクロアレイの表面に、検体を含む溶液を接触させ、所定の条件でインキュベートおよび洗浄操作を行った後に、固相基板上の点着部位の糖鎖および/または糖の誘導体に捕集された糖結合性物質を検出することにより、固定化された糖鎖および/または糖の誘導体と特異的に結合または吸着する糖結合性物質を探索するシステム。
(50)(48)項に記載の糖鎖マイクロアレイの表面に、検体を含む溶液を接触させ、固相基板上の点着部位の糖鎖および/または糖の誘導体に、前記検体中の糖結合性タンパク質を捕集させ、捕集した量を所定の定量化手段で定量化する結合性タンパク質の認識特異性を評価するシステム。
(51)下記(式3)または(式12)で表される構造を有する物質Bからなる固相担体で構成されるポリマーの表面に、糖鎖および/または糖の誘導体を固定化する糖鎖アフィニティビーズの製造方法。
【0057】
【化24】

【0058】
(担体はポリマーマトリックス、Rは−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖を示す。)
【0059】
【化25】

【0060】
(担体はポリマーマトリックス、Rは−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖を示す。)
(52)(51)項に記載の糖鎖アフィニティビーズの製造方法において、
前記ポリマー粒子の表面に下記(工程1)〜(工程3)によって糖鎖および/または糖の誘導体を固定化することを特徴とする糖鎖アフィニティビーズの製造方法。
(工程1)糖鎖および/または糖の誘導体と可溶性のヒドラジド基含有化合物とを結合させ、所定の分離手段によって糖鎖および/または糖の誘導体を、精製、および/または単離する工程。
(工程2)工程1で得られた化合物を、前記ポリマー粒子と接触させ、所定の条件でインキュベートすることにより、糖鎖−ヒドラジド基含有化合物の結合を、糖鎖−ポリマー粒子の結合に交換させ、糖鎖および/または糖の誘導体をポリマー粒子に固定化する工程。
(工程3)ポリマー粒子上の未反応物を洗浄除去する工程。
(53)(51)項または(52)項に記載の方法により製造される糖鎖アフィニティビーズ。
(54)(53)項に記載の糖鎖アフィニティビーズに検体を含む溶液を接触させ、所定の条件でインキュベートおよび洗浄操作を行った後に、捕捉された糖結合性物質を単離するシステム。
を提供する。
【0061】
本発明によれば、糖鎖および/または糖の誘導体を含む生体試料より分析試料のための糖鎖および/または糖の誘導体を、簡単な操作で分離精製することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0062】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実
施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0063】
【図1】図1は、糖鎖と2-hydrazinopyridineとの反応物のMALDI-TOF-MSチャートを示す。横軸に分子量(m/z)、縦軸に強度を示す。また、2668.421(=m/z)におけるピーク(a)、2978.005(=m/z)におけるピーク(b)および3263.785(=m/z)におけるピーク(c)において予測される糖鎖の構造を、●:ガラクトース、■:N−アセチルグルコサミン、○:マンノース、◆:シアル酸として模式的に表示した;
【図2】図2は、糖鎖と物質Aの実施例との反応物のMALDI-TOF-MSチャートを示す。横軸に分子量(m/z)、縦軸に強度を示す。各メインピークにおいて予測される糖鎖の構造を、●:ガラクトース、■:N−アセチルグルコサミン、○:マンノース、◆:シアル酸、三角:フコースとして模式的に表示した;
【図3】図3は、本実施例の糖鎖遊離段階での交換反応のpHと交換効率との関係を示すグラフである。横軸にpH、縦軸に交換効率を示す。オキシムからオキシムへの交換を○で示し、オキシムからヒドラゾンへの交換を●で示し、ヒドラゾンからオキシムへの交換を□で示し、ヒドラゾンからヒドラゾンへの交換を■で示す;
【図4】図4は、図3の交換反応で得られた反応物のMALDI-TOF-MSチャートを示す。横軸に分子量(m/z)、縦軸に強度を示す。チャートの上段から、ビーズの官能基がヒドラジドで、遊離試薬がアミノオキシ化合物(aoWR)である場合、ビーズの官能基がヒドラジドで、遊離試薬がヒドラジド化合物(AcWRh)である場合、ビーズの官能基がアミノオキシで、遊離試薬がアミノオキシ化合物(aoWR)である場合、ビーズの官能基がアミノオキシで、遊離試薬がヒドラジド化合物(AcWRh)である場合をそれぞれ示す;
【図5】図5は、実験例7(B)の(1)の方法で回収した糖鎖のMALDI-TOF-MSチャートを示す。横軸に分子量(m/z)、縦軸に強度を示す。チャートの上段がコントロール(血清糖鎖+400μMの内部標準)であり、中段がフロースルーサンプル(ビーズと未反応の糖鎖)+400μMの内部標準)であり、下段がサンプル(ヒドラジド基含有ビーズに捕捉後、オキシム交換で回収した血清糖鎖+400μMの内部標準)であり、コントロールの定量対象糖鎖の強度を100%したときに、フロースルーサンプルが12%(88%がビーズと結合)、サンプルが56%であった;
【図6】図6は、実験例7(B)の(2)の方法で回収した糖鎖のMALDI-TOF-MSチャートを示す。横軸に分子量(m/z)、縦軸に強度を示す。チャートの上段から、Affi-Gel Hzを50μl(乾燥重量16.5mg)、100μl(乾燥重量33mg)、150μl(乾燥重量49.5mg)、およびヒドラジド基含有ビーズを2.5mg使用したときの結果を示す;
【図7】図7は、実施例8(1)の方法で回収した糖鎖のMALDI-TOF-MSチャートを示す。横軸に分子量(m/z)、縦軸に強度を示す。チャートの上段から、反応前、ビーズとの反応後、ビーズ未使用(ネガティブコントロール)での結果を示す;
【図8】図8は、実施例9(2)のレクチン捕捉性の検証の結果を示すグラフである。縦軸には450nmにおける吸光度を示す。レクチン濃度が1μg/mlであり、●2.5μmol/g単糖固定化(飽和量)●である;
【図9】図9は、実施例10(2)のレクチン捕捉性の検証の結果を示すグラフである。横軸に分子量(m/z)、縦軸に強度を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
以下、本発明の実施形態について説明する。
一つの観点から、本発明は、ヒドラジド基を含む物質Aと、糖鎖および/または糖の誘導体とを、当該物質Aのヒドラジド基と当該糖鎖および/または糖の誘導体の還元末端との間のヒドラゾン形成によって結合することを特徴とする試料調製方法を提供する。
【0065】
この試料調製方法で用いられるヒドラジド基を含む物質Aとしては、端部にヒドラジド基(−NHNH−)を含んでいれば特に限定されることはない。このヒドラジド基が、水溶液などの溶液中で糖鎖より形成される環状のヘミアセタール型と非環状のアルデヒド型との平衡において、アルデヒド基と反応して特異的、かつ、安定な結合を形成して、糖鎖を捕捉することができるようになる。ここで、糖鎖捕捉反応とは、以下に示すような反応をいう。
【0066】
【化26】

【0067】
ここで、物質Aは、低分子化合物、固相担体のいずれの形態をとってもよい。
低分子化合物として用いる場合には、物質Aは、アルギニン残基、トリプトファン残基、フェニルアラニン残基、チロシン残基、システイン残基およびこれら誘導体の少なくとも一つからなる部分を含むことが、以下の観点から好ましい。
【0068】
すなわち、アルギニン(R)残基を含む場合、MALDI−TOF−MS測定時にイオン化が促進され、検出感度が向上することが知られている。また、トリプトファン(W)は蛍光性のアミノ酸であり、かつ疎水性であることから、逆相HPLCでの分離性向上と、蛍光検出感度向上を図ることができる。なお、フェニルアラニン(F)およびチロシン(Y)を用いた場合には、UV吸収による検出に適している。
【0069】
また、システインを用いた場合には、側鎖のチオール基を利用して、S−S結合により−SH基を含む他の物質と結合させることができる。例えば、−SH基を含む固相担体に固定化することが可能となる。また、他の例としては、ICAT法(Isotope-Coded Affinity Tags)に利用することができる。
【0070】
このような物質Aの一例としては、下記(式1)の構造を有する化合物を挙げることができる。
【0071】
【化27】

【0072】
(Rは -CH3または -CD3を表す)
【0073】
(式1)の化合物は、以下のスキーム1にしたがって製造することができる。
【0074】
【化28】

【0075】
スキーム1において、化合物(b)は、トリプトファン部分のアミノ基がフェニル基などにより保護された化合物(a)のPd/C存在下での水素化による脱保護により得られる。ここで、トリプトファン部分は、フェニルアラニン、チロシン、システインなどにより置換することもできる。
【0076】
続いて、化合物(b)のトリプトファン側のアミノ基を、水溶性カルボジイミド(WSC)、ジメチルアミノピリジン(DMAP)の存在下で、ジメチルホルムアミド(DMF)の溶媒中で、酢酸(AcOH)を作用させて、アセチル化して、化合物(c)を得る。
【0077】
さらに、化合物(c)にメタノール(MeOH)の溶媒中で、ヒドラジンを作用させて、アルギニン側のC末端のメトキシ基を、ヒドラジド基に置換して、目的の(式1)の化合物として化合物(d)を得る。
【0078】
化合物(d)に重水素(D)を導入する場合には、スキーム1において、化合物(b)に、水溶性カルボジイミド(WSC)、ジメチルアミノピリジン(DMAP)の存在下で、ジメチルホルムアミド(DMF)の溶媒中で、重水素酢酸(CD3COOH)にてアセチル化して、トリプトファン側のアミノ基を重水化アセチル基にてアセチル化した化合物を得る。さらに、この化合物にメタノール(MeOH)の溶媒中で、ヒドラジンを作用させて、アルギニン側のC末端のメトキシ基を、ヒドラジド基に置換して、目的の(式1)の化合物として化合物(e)を得る。
【0079】
また、物質Aの他の一例としては、下記(式2)の構造を有する化合物を挙げることができる。
【0080】
【化29】

【0081】
(Rは H, -COCH3, -COCD3のいずれかを示す。)
【0082】
(式2)の化合物は、以下のスキーム2にしたがって製造することができる。
【0083】
【化30】

【0084】
スキーム2において、まず、システインの二量体(化合物(t))に2−アミノ安息香酸(化合物(u))を作用させて、化合物(v)を得る。
【0085】
この化合物(v)に無水酢酸を作用させて、2−アミノベンゾイル基のアミノ基をアセチル化させて、化合物(q)が得られる。このとき、無水酢酸である化合物(o)を用いることにより軽水素化化合物(q−1)が得られ、一方重水素化無水酢酸である化合物(p)を用いることにより重水素化化合物(q−2)が得られる。
【0086】
続いて、化合物(q−1)または(q−2)と、ヒドラジンとを反応させて、化合物(r)が得られる。なお、化合物(r)においてRがアセチル基(-COCH3)であるときは軽水素化物(r−1)が得られ、Rが重水素化アセチル基(-COCD3)であるときは重水素化物(r−2)が得られる。
【0087】
さらに、化合物(r)にDTTなどの還元剤を用いて還元し、ジスルフィド結合を切断して、アミノ基がアセチル化された2−アミノベンゾイル基と、システインとを有する、(式2)のヒドラジド基含有化合物が得られる。なお、化合物(r)においてRがアセチル基(-COCH3)であるときは軽水素化物(s−1)が得られ、Rが重水素化アセチル基(-COCD3)であるときは重水素化物(s−2)が得られる。
【0088】
以上のように、物質Aにアルギニン残基、トリプトファン残基、フェニルアラニン残基、チロシン残基、システイン残基およびこれら誘導体を導入することにより、捕捉された糖鎖に質量分析の高感度化や,蛍光・UV標識化などの機能を付与することが可能となる。
【0089】
また、(式2)に示したように、2−アミノベンゾイル基などのクロモフォアまたはフルオロフォアを分子中に含んでいてもよく、このような基としては、2−アミノベンゾイル基の他にはベンジル基、ナフチル基、アントラセニル基、ピリジル基などに代表される芳香族残基、Dansyl基、Fmoc基を含む置換基などが挙げられる。このような置換基は、蛍光性を付与するための標識化合物であり、糖鎖のHPLC分析に一般的に使用されている。したがって、この置換基を導入した物質Aにより捕捉した糖鎖および/または糖の誘導体を標識化サンプルとすることができる。この標識化サンプルを用いることにより、物質Aにより捕捉された糖鎖および/または糖の誘導体を、逆相カラムを用いたHPLCにて高分解能、高感度で分析することが可能になる。
【0090】
また、(式1)、(式2)にて説明したように、重水素化された置換基、例えば重水素化アセチル基などを含んでいてもよい。このような重水素化された官能基を含むものは、質量分析による検出感度を向上させ、定性および定量が可能になる。
【0091】
例えば、(式1)、(式2)の物質Aを用いて重水素化されたサンプルおよび軽水素化されたサンプルを組み合わせて用いることにより、例えば未知の糖鎖含有サンプル(例えば、血清を処理したもの)に含まれる糖鎖の質量分析による定性および定量分析が可能になる。
【0092】
これにより、例えば組成も濃度も既知のサンプルを重水素標識化し、未知のサンプルを軽水素標識化して、両サンプルを混合してから質量分析を行った場合、重水素化サンプルの各ピークは軽水素化サンプルの対応する各ピークよりも導入した重水素の数だけ高分子量の方にシフトして観測される。そこで、各ピークの位置(m/z値)および強度を解析して、未知のサンプルの各ピークが示す糖鎖の種類と、そのサンプル中の濃度とがわかる。このような解析は、既知サンプルを軽水素化し、未知サンプルを重水素化することによっても可能である。
【0093】
また、この解析において、健常人から採取したサンプルを重水素化し、疾病患者から採取したサンプルを軽水素化することにより、あるいは健常者サンプルを軽水素化し、疾病患者サンプルを重水素化することにより、両者のサンプル中に含まれる糖鎖の種類、量における相違を解析することが可能になる。したがって、このような分析試料は、糖の代謝が関与する生体反応に基づく疾病の診断、このような生体反応を制御することによる治療などの用途に好適に使用される。
【0094】
物質Aについて、(式1)および(式2)の構造を有する化合物について説明したが、物質Aは下記から選ばれる物質またはその塩であってもよい。
【0095】
(物質A):5-Dimethylaminonaphthalene-1-sulfonyl hydrazine (Dansylhydrazine); 2-hydrazinopyridine;9-fluorenylmethyl carbazate (Fmoc hydrazine);benzylhydrazine;4,4-difluoro-5,7-dimethyl-4-bora-3a,4a-diaza-s-indacene-3-propionic acid, hydrazide;2-(6,8-difluoro-7-hydroxy-4-methylcoumarin)acetohydrazide;7-diethylaminocoumarin-3-carboxylic acid, hydrazide (DCCH);phenylhydrazine;1-Naphthaleneacethydrazide;2-hydrazinobenzoic acid;biotin hydrazide;phenylacetic hydrazide
【0096】
また、これらの化合物に、捕捉された糖鎖を高精度かつ高感度に検出するという観点から、クロモフォアまたはフルオロフォアを含む部位を導入してもよく、また重水素を導入してもよい。
【0097】
ここで、糖鎖捕捉反応、すなわち物質Aと糖鎖および/または糖の誘導体との反応は、糖鎖および/または糖の誘導体を含む試料に、物質Aを導入して、pHが4〜8の条件にて、また反応温度が4〜90℃、好ましくは25〜90℃、より好ましくは40〜90℃の条件における反応系で、10分間〜24時間、好ましくは10分間〜8時間、より好ましくは10分間〜2時間行われる。
【0098】
また、固相担体として用いる場合には、物質Aは、下記(式3)で表される。
【0099】
【化31】

【0100】
(担体はポリマーマトリックス、Rは−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖を示す。)
【0101】
式3において、担体は、無機物質または有機高分子物質からなるポリマーマトリックスであり、粒子、固相基板、または固相基板の表面に直接結合する物質の形態として用いられる。
【0102】
ここで、担体として用いることができる無機物質としては、粒子状のものを用いることができ、例えばシリカ粒子、アルミナ粒子、ガラス粒子、金属粒子などが挙げられる。
【0103】
また、有機高分子物質としては、アガロース、セファロースに代表される多糖類ゲル、ビニル化合物の重合体であるポリマーを粒子状にしたもの、固相基板の表面に固定化したものが挙げられる。また、これら物質を用いて固相基板の表面を構成してもよい。
【0104】
また、粒子としたときの形状は球であることが好ましく、平均粒径0.1μm以上500μm以下のポリマー粒子である。このような範囲の粒径を有する担体の粒子は、遠心分離,フィルタなどによる回収が容易であり、かつ、充分な表面積を有しているために糖鎖との反応効率も高いと考えられる。粒径が上記の範囲よりも大幅に大きい場合、表面積が小さくなるために糖鎖との反応効率が低くなることがある。また、粒径が上記の範囲よりも大幅に小さい場合、特にフィルタによる粒子の回収が難しくなることがある。さらに、粒子をカラムに充填して用いる場合、粒径が過小であると通液の際の圧力損失が大きくなってしまうことがある。
【0105】
また、固相基板としては、マイクロプレート、平板状の基板が挙げられる。このようにすることで、物質Aを糖鎖マイクロアレイ用基板に適用して、分析試料を調製することが可能になる。
【0106】
Rは、−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖を示し、例えば下記のものを挙げることができる。下記式中、a、b、dは1から5の整数を表し、cは1から10の整数を表す。
【0107】
【化32】

【0108】
ここで、糖鎖捕捉反応は、上述のような粒子状の物質Aをカラムなどに充填して糖鎖および/または糖の誘導体を含む試料を通してもよい(連続式)し、この粒子を試料中に投入して行ってもよい(回分式)。また、粒子が予め充填された反応容器内に試料を連続的に投入して攪拌して行ってもよい(半回分式)。
【0109】
また、上記(式3)で表される物質Aは、重合性基を含むカルボン酸エステルモノマーを含む原料を架橋剤存在下で重合させてカルボン酸エステル含有ポリマー粒子を得た後、当該カルボン酸エステル含有ポリマー粒子を10体積パーセント以上の濃度のヒドラジン溶液で処理することにより得ることができる。したがって、別の観点からは、本発明は、このような(式3)で表される物質Aの製造方法を提供する。
【0110】
ここで、カルボン酸エステルモノマーとしては、カルボン酸のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル、カルボン酸メチルエステルが挙げられる。
【0111】
また、架橋剤としては、多官能の化合物であって、カルボン酸エステルモノマーと共重合を行う化合物を好適に用いることができ、例えば(1)ポリオールのジまたはトリ(メタ)アクリル酸エステル類、例えばポリオールがエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリグリセリン等であるもの、(2)上記(1)において、不飽和酸が(メタ)アクリル酸以外のもの、例えばマレイン酸、フマル酸などであるもの、(3)ビスアクリルアミド類、例えばN,N'−メチレンビスアクリルアミドなど、(4)ポリエポキシドと(メタ)アクリル酸を反応させて得られるジまたはトリ(メタ)アクリル酸エステル類、(5)ポリイソシアネートと(メタ)アクリル酸ヒドロキシエステルを反応させて得られるジ(メタ)アクリル酸カルバミルエステル類、例えばポリイソシアネートがトリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどであるもの、(6)多価アリル化合物、例えばアリル化デンプン、アリル化セルロース、ジアリルフタレート、テトラアリロキシエタン、ペンタエリストールトリアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、トリアリルトリメリテート等が挙げられる。これらの中でも本発明では、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、N,N'−メチレンビス(メタ)アクリルアミド等が好ましい。
【0112】
すなわち、(式3)で表される物質Aは、下記のような構造をとるものを用いることができる。
−(ヒドラジド基含有化合物成分)m−(架橋剤成分)n−
このような構造を有する物質Aとしては、下記の(式4)で表される架橋型ポリマー構造を有するものが挙げられる。
【0113】
【化33】

【0114】
(R1,R2は−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖,R3,R4,R5はH,CH3,または炭素数2〜5の炭化水素鎖を示す。m,nはモノマーユニット数を示す。)
【0115】
1は、−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖を示し、例えば前記Rと同様のものを挙げることができる。
【0116】
2は、−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖を示し、例えば下記のものを挙げることができる。下記式中、e、fは1から5の整数を表し、gは1から10の整数を表す。
【0117】
【化34】

【0118】
3、R4、R5は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、H,CH3,または炭素数2〜5の炭化水素鎖を示し、例えば下記のものを挙げることができる。下記式中、hは1から4の整数を表す。
【0119】
【化35】

【0120】
ここで、ヒドラジド基含有化合物成分の前駆体であるカルボン酸エステルモノマーとしては、下記の(式10)で表されるカルボン酸メチルエステルモノマーを好適に用いることができる。また、架橋剤成分としては前記の架橋剤を用いることができる。
【0121】
【化36】

【0122】
(R1は−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖,R2はH,CH3,または炭素数2〜5の炭化水素鎖を示す。)
【0123】
1およびR2の具体例は、前述した(式4)で挙げられたものと同様のものである。
【0124】
すなわち、(式4)で表される物質Aは、(式10)の構造を有するモノマーを架橋剤存在下で重合してカルボン酸エステル含有ポリマー粒子を得た後、当該カルボン酸エステル含有ポリマー粒子を10体積パーセント以上の濃度のヒドラジン溶液で処理することにより得ることができる。
【0125】
さらなる観点からは、本発明は、(式10)で表されるモノマー、このモノマーを重合させて得られる重合体、および、上述したように、この(式10)を用いて(式4)の物質Aを得る製造方法を提供する。
【0126】
また、この製造方法では、カルボン酸エステルモノマーを出発物質とし、このモノマーを架橋剤の存在下で重合させてポリマー粒子を得た後に、ヒドラジン溶液で処理して(式4)の物質Aを得ているが、例えば下記の(式13)のヒドラジド基含有モノマーを出発物質として、このモノマーを前述したような架橋剤の存在下で重合させた後に、脱保護することによっても、(式4)の物質Aを得ることができる。
【0127】
【化37】

【0128】
(R2はH,CH3,または炭素数2〜5の炭化水素鎖,R6は−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖,[P]は保護基を示す。)
【0129】
ここで、R2の具体例は、前述した(式4)で挙げられたものと同様のものである。
また、R6は−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖を示し、例えば下記のものを挙げることができる。下記式中、i、jは1から5の整数を表す。
【化38】

【0130】
また、(式13)中での保護基[P]は、Boc、Fmoc、Tmocなどが挙げられる。
また、保護基[P]を脱保護する方法としては、通常の酸処理が挙げられる。
【0131】
さらなる観点からは、本発明は、(式13)で表されるモノマー、このモノマーを重合させて得られる重合体、および、上述したように、この(式13)を用いて(式4)の物質Aを得る製造方法を提供する。
【0132】
また、このような(式4)のうち、特に好適な物質Aとしては、下記の(式5)で表される架橋型ポリマー構造を有するものが挙げられる。
【0133】
【化39】

【0134】
(m,nはモノマーユニット数を示す。)
【0135】
ここで、ヒドラジド基含有化合物成分の前駆体であるカルボン酸エステルモノマーとしては、下記の(式11)で表されるカルボン酸メチルエステルモノマーを好適に用いることができる。また、架橋剤成分としてはエチレングリコールジ(メタ)アクリレートを用いることができる。
【0136】
【化40】

【0137】
すなわち、(式5)で表される物質Aは、(式11)の構造を有するモノマーを架橋剤存在下で重合してカルボン酸エステル含有ポリマー粒子を得た後、当該カルボン酸エステル含有ポリマー粒子を10体積パーセント以上の濃度のヒドラジン溶液で処理することにより得ることができる。
【0138】
さらなる観点からは、本発明は、(式11)で表されるモノマー、このモノマーを重合させて得られる重合体、および、上述したように、この(式11)を用いて(式5)の物質Aを得る製造方法を提供する。
【0139】
また、この製造方法では、(式11)のカルボン酸エステルモノマーを出発物質とし、このモノマーを架橋剤の存在下で重合させてポリマー粒子を得た後に、ヒドラジン溶液で処理して(式5)の物質Aを得ているが、例えば下記の(式14)のヒドラジド基含有モノマーを出発物質として、このモノマーを前述したような架橋剤の存在下で重合させた後に、脱保護することによっても、(式5)の物質Aを得ることができる。
【0140】
【化41】

【0141】
また、保護基であるt-butoxycarbonyl(Boc)基を脱保護する方法としては、通常の酸処理が挙げられる。
【0142】
さらなる観点からは、本発明は、(式14)で表されるモノマー、このモノマーを重合させて得られる重合体、および、上述したように、この(式14)を用いて(式5)の物質Aを得る製造方法を提供する。
【0143】
また、(式3)、(式4)、(式5)で表される物質Aは、乾燥重量1mg当り100nmol以上、好ましくは0.5μmol以上のヒドラジド基を有するポリマー粒子であり、pH3〜8で安定であり、少なくとも1MPa以下の圧力下で安定であることが、粒子の形状を保ち、かつ、活性なヒドラジド基の含有量が実質的に変化しないという観点から好ましい。また、架橋剤と共重合した粒子なので、溶媒への溶解性が低くなり、さらに物理的強度が十分得られる。さらには、pH3〜8で切断される部位がない。
【0144】
もう一つの観点から、本発明は、前述した試料調製方法により物質Aと糖鎖および/または糖の誘導体とを結合させる糖鎖捕捉段階と、糖鎖捕捉段階で捕捉された物質Aと糖鎖および/または糖の誘導体との複合体に、アミノオキシ基またはヒドラジド基を含む物質Bを作用させて、前記複合体と前記物質Bの間で生じるヒドラゾン−オキシム交換反応またはヒドラゾン−ヒドラゾン交換反応により、前記糖鎖および/または糖の誘導体を前記物質Aから切り離しつつ前記物質Bに結合させる糖鎖遊離段階とを含む試料調製方法を提供する。
【0145】
この方法において、糖鎖捕捉段階では、前述したように、物質Aと、糖鎖および/または糖の誘導体とを、当該物質Aのヒドラジド基と当該糖鎖および/または糖の誘導体の還元末端との間のヒドラゾン形成によって結合し、糖鎖および/または糖の誘導体を物質Aに捕捉させる。
【0146】
続いて、糖鎖遊離段階では、下記の(反応式1)に示したように、ヒドラゾン−オキシム交換反応またはヒドラゾン−ヒドラゾン交換反応を行う。
【0147】
【化42】

【0148】
ここで、物質Aは、前述にて説明したものを用いることができる。
また、物質Bは、低分子化合物、固相担体のいずれの形態をとってもよい。
【0149】
低分子化合物として用いる場合には、物質Aと同様に、アルギニン残基、トリプトファン残基、フェニルアラニン残基、チロシン残基、システイン残基およびこれら誘導体の少なくとも一つからなる部分を含むことが、前述したような観点から好ましい。
【0150】
すなわち、物質Bにアルギニン残基などを含ませることにより、糖鎖遊離段階を経て得られる、物質Bと、糖鎖および/または糖の誘導体との複合体について、MALDI−TOF−MS測定での検出感度の向上、逆相HPLCでの分離性向上と、蛍光検出感度の向上などを図ることができる。
【0151】
このような物質Bの一例としては、前記物質Aで挙げられた低分子化合物、および下記(式7)で表される構造を有する化合物を挙げることができる。また、(式7)において、トリプトファン部分は、フェニルアラニン、チロシン、システインなどにより置換することもできる。
【0152】
【化43】

【0153】
(構造式中、Rは -CH3, -CD3を示す。)
【0154】
(式7)の化合物は、以下のスキーム3にしたがって製造することができる。なお、R=CH3の場合を示す。
【0155】
【化44】

【0156】
スキーム3において、化合物(b)(WR-OMe)は、トリプトファン部分のアミノ基がフェニル基などにより保護された化合物の脱保護により得られる。ここで、トリプトファン部分は、フェニルアラニン、チロシンなどにより置換することもできる。続いて、化合物(b)とBoc保護されたヒドロキシアミン(化合物(w))との混合酸無水物法などの縮合反応により、化合物(m)が合成される。このヒドロキシアミンの保護基は、化合物(w)のようなBocに限られることはなく、Fmoc、Trocなどであってもよい。続いて、化合物(m)を脱保護処理することにより、目的物である(式7)の化合物として化合物(n)が得られる。この脱保護処理としては、例えば保護基がBocである場合には、トリフルオロ酢酸(TFA)による処理が挙げられる。
【0157】
以上のように、物質Bにアルギニン残基、トリプトファン残基、フェニルアラニン残基、チロシン残基、システイン残基およびこれら誘導体を導入することにより、捕捉された糖鎖を高精度かつ高感度に検出することができるようになる。
【0158】
また、(式7)に示したように、2−アミノベンゾイル基などのクロモフォアまたはフルオロフォアを分子中に含んでいてもよく、このような基としては、2−アミノベンゾイル基の他にはベンジル基、ナフチル基、アントラセニル基、ピリジル基などに代表される芳香族残基、Dansyl基、Fmoc基を含む置換基などが挙げられる。このような置換基は、蛍光性を付与するための標識化合物であり、糖鎖のHPLC分析に一般的に使用されている。したがって、この置換基を導入した物質Aにより捕捉した糖鎖および/または糖の誘導体を標識化サンプルとすることができる。この標識化サンプルを用いることにより、物質Aにより捕捉された糖鎖および/または糖の誘導体を、逆相カラムを用いたHPLCにて高分解能、高感度で分析することが可能になる。
【0159】
また、(式7)にて説明したように、重水素化された置換基、例えば重水素化メトキシエステル基などを含んでいてもよい。このような重水素化された官能基を含むものは、質量分析による検出感度を向上させる効果に加えて、例えば標準物質を重ラベル、サンプルを軽ラベルし,混合して測定するなどのように、質量数の差を利用した定量的分析を可能とする。
【0160】
これにより、糖鎖遊離段階を経て得られる、物質Bと、糖鎖および/糖の誘導体との複合体も、前述したような物質Aと糖鎖および/または糖の誘導体との複合体にて好適に使用される用途に好適に使用することができる。
【0161】
物質Bについて、(式7)の構造を有する化合物について説明したが、物質Bは下記のヒドラジド基を含む物質またはアミノオキシ基を含む物質からなる群から選ばれる物質または塩であってもよい。
【0162】
(ヒドラジド基を含む物質)5-Dimethylaminonaphthalene-1-sulfonyl hydrazine (Dansylhydrazine);2-hydrazinopyridine;9-fluorenylmethyl carbazate (Fmoc hydrazine);benzylhydrazine;4,4-difluoro-5,7-dimethyl-4-bora-3a,4a-diaza-s-indacene-3-propionic acid, hydrazide;2-(6,8-difluoro-7-hydroxy-4-methylcoumarin)acetohydrazide;7-diethylaminocoumarin-3-carboxylic acid, hydrazide (DCCH);phenylhydrazine;1-Naphthaleneacethydrazide;2-hydrazinobenzoic acid;phenylacetic hydrazide。
【0163】
(アミノオキシ基を含む物質)O-benzylhydroxylamine;O-phenylhydroxylamine;O-(2,3,4,5,6-pentafluorobenzyl)hydroxylamine;O-(4-nitrobenzyl)hydroxylamine;2-aminooxypyridine;2-aminooxymethylpyridine;4-[(aminooxyacetyl)amino]benzoic acid methyl ester;4-[(aminooxyacetyl)amino]benzoic acid ethyl ester;4-[(aminooxyacetyl)amino]benzoic acid n-butyl ester。
【0164】
また、これらの化合物に、捕捉された糖鎖を高精度かつ高感度に検出するという観点から、クロモフォアまたはフルオロフォアを含む部位を導入してもよく、また重水素を導入してもよい。
【0165】
ここで、糖鎖遊離段階での反応は、物質Aと、糖鎖および/または糖の誘導体との複合体を含む試料に物質Bを導入して、pH3〜8、好ましくはpH4〜6に調整し、温度4〜90℃、好ましくは60〜90℃で、15分〜16時間、好ましくは15分〜5時間、より好ましくは30分〜3時間加熱することによって行われる。溶媒は水およびアセトニトリル、メタノール等に代表される揮発性有機溶媒のいずれか、または、それらの混合溶媒であることが好ましく、より好ましくは水/アセトニトリルの混合溶媒であり、最も好ましくは、pH調整剤としての2%酢酸を含む水/アセトニトリル(1:9)の混合溶媒である。
【0166】
また、固相担体として用いる場合には、物質Bは、前述した物質Aで挙げられた物質、およびアミノオキシ基を含み、例えば下記(式12)で表される物質を好適に用いることができる。
【0167】
【化45】

【0168】
(担体はポリマーマトリックス、Rは−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖を示す。)
【0169】
式12において、担体は、(式3)で説明された担体と同様に、無機物質または有機高分子物質からなるポリマーマトリックスであり、粒子、固相基板、または固相基板の表面に直接結合する物質の形態として用いられる。また、Rの具体例としては、(式3)での説明にて挙げられたものと同様のものを挙げることができる。
【0170】
ここで、糖鎖遊離段階での交換反応は、容器などに導入した糖鎖および/または糖の誘導体を捕捉させた粒子状の物質Aに対して、低分子化合物の物質Bの溶液を添加して行ってよい。また、上述のような粒子状の物質Bを容器などに導入して、糖鎖および/または糖の誘導体を捕捉させた低分子化合物の物質Aの溶液を添加して交換反応を行ってもよい。あるいは、カラムなどに充填させた糖鎖および/または糖の誘導体を捕捉させた粒子状の物質Aに対して、低分子化合物の物質Bの溶液を通して行ってよい。また、上述のような粒子状の物質Bをカラムなどに充填して、糖鎖および/または糖の誘導体を捕捉させた低分子化合物の物質Aの溶液を通して交換反応を行ってもよい。また、糖鎖および/または糖の誘導体を捕捉させた低分子化合物の物質Aの溶液に、低分子化合物の物質Bを導入して交換反応を行ってもよい。
【0171】
この交換反応により得られる、物質Bと、糖鎖および/または糖の誘導体との複合体において、物質Bおよび糖鎖および/または糖の誘導体は、物質Bとしてヒドラジド基を有する物質を用いたときはヒドラゾン結合にて、また物質Bとしてアミノオキシ基を有する物質を用いたときはオキシム結合にて結合されることになる。
【0172】
(式12)で示される物質Bとしては、下記の(式8)で表される構造を有するポリマー粒子を好適に用いることができる。
【0173】
【化46】

【0174】
(R1,R2は−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖,R3,R4,R5はH,CH3,または炭素数2〜5の炭化水素鎖を示す。m,nはモノマーユニット数を示す。)。また、R1からR5の具体例としては、(式4)での説明にて挙げられたものと同様のものを挙げることができる。
【0175】
さらに、このような(式8)で示したポリマー粒子において、下記の(式9)で表される構造を有するポリマー粒子を好適に使用することができる。
【0176】
【化47】

【0177】
(m,nはモノマーユニット数を示す。)
【0178】
また、(式12)、(式8)、(式9)で表される物質Bは、pH3〜8で安定であり、少なくとも1MPa以下の圧力下で安定であることが、糖鎖捕捉担体用途および固相基板用途の観点から好ましい。
【0179】
また、前記糖鎖遊離段階の後に、ヒドラゾン−オキシム交換またはヒドラゾン−ヒドラゾン交換反応を、少なくとも1回以上行ってもよい。これにより、いったん遊離させた糖鎖および/または糖の誘導体に対して、予定された分析方法に適用できるように、さらに任意の標識化合物からなる物質Bを作用させて、標識化サンプルを得ることが可能になる。
【0180】
ここでは、糖鎖捕捉物質に捕捉された糖鎖を遊離して標識化サンプルを得る方法を説明したが、下記の方法によれば、非標識サンプルを得ることができ、本発明はこのような試料調製方法も提供する。
【0181】
このような試料調製方法は、糖鎖およびまたは糖の誘導体を結合させた、前記(式3)、前記(式4)または前記(式5)で表される構造を有する物質Aを、酸性条件で処理することにより、ヒドラゾン結合を解離させ、糖鎖およびまたは糖の誘導体を遊離させることを特徴としている。
【0182】
このときの酸性条件での処理は、0.01〜10体積パーセントのトリフルオロ酢酸溶液による処理であり、好ましくは0.01〜1体積パーセントのトリフルオロ酢酸溶液にて、25〜80℃で5〜60分間行われる。
【0183】
このようにして得られる糖鎖サンプルからなる分析試料は、標識化されていないものであり、標識しなくてもよい用途に有用である。
【0184】
このようにして、糖鎖および/または糖の誘導体を含む生体試料より分析試料のための糖鎖および/または糖の誘導体を、簡単な操作で分離精製することが可能になる。さらなる観点から、本発明は、この分析試料方法により得られる分析試料を提供する。
【0185】
さらに、別の観点から、本発明は、物質Aを用いて糖鎖を捕捉する段階を含む試料調製方法の用途を提供する。すなわち、本発明は、混合物のまま、または、混合物から特定の画分を単離精製された糖鎖および/または糖の誘導体を固定化した固相担体を、該糖鎖および/または糖の誘導体に対して結合性または親和性を有する物質を捕集するための担持体として用いる使用方法を提供する。
【0186】
この使用方法において、まず糖鎖および/または糖の誘導体を含む試料は、混合物のまま、またはこの混合物から特定の画分を単離精製して用いてもよい。また、物質Aとして固相担体を用い、この固相担体に対して試料溶液を通して、この試料中の糖鎖および/または糖の誘導体を固相担体のヒドラジド基あるいはアミノオキシ基に結合させて、固定化する。
【0187】
続いて、この固相担体に対して、診断または検査を行うための検体から採取した試料(以下、「検体試料」という)を作用させて、この検体試料に含まれる糖鎖および/または糖の誘導体に対して結合性または親和性を有する物質、例えばレクチンなどの糖結合性タンパク質を捕集させる。このようにして、検体試料中の糖鎖および/または糖の誘導体を固定化させた固相担体を、検体試料中のレクチンなどを捕集する担持体として使用することができる。
【0188】
また、捕集された物質を、検出、定量化することにより、糖鎖と検体細胞の分化増殖、細胞接着、免疫、および細胞の癌化との関係について、より高度な解析を行うことができる。
【0189】
さらに、別の観点から、本発明は、前記の糖鎖捕捉段階および糖鎖遊離段階からなる試料調製方法の用途を提供する。
【0190】
一つの観点から、本発明は、糖鎖マイクロアレイの製造方法を提供する。
すなわち、この糖鎖マイクロアレイの製造方法は、下記(式3)または(式12)で表される構造を有する物質Bからなる固相担体で構成される固相基板の表面に下記(工程1)〜(工程4)によって糖鎖および/または糖の誘導体を固定化するものである。
【0191】
【化48】

【0192】
(担体はポリマーマトリックス、Rは−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖を示す。)
【0193】
【化49】

【0194】
(担体はポリマーマトリックス、Rは−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖を示す。)
【0195】
なお、これら物質の具体例は、前述のとおりである。
【0196】
(工程1)糖鎖および/または糖の誘導体と可溶性のヒドラジド基含有化合物とを結合させ、所定の分離手段によって糖鎖および/または糖の誘導体を、精製、および/または単離する工程。
(工程2)工程1で得られた化合物の溶液を、前記固相基板上に整列的に点着する工程。
(工程3)点着後の固相基板を所定の条件でインキュベートすることにより、糖鎖−物質Aの結合を、固相基板−糖鎖の結合に交換する反応を進行させ、糖鎖および/または糖の誘導体を固相基板に固定化する工程。
(工程4)固相基板上の未反応物を洗浄除去する工程。
【0197】
(工程1)においては、前述した糖鎖および/または糖の誘導体と、物質Aとを反応させて、物質Aに糖鎖および/または糖の誘導体を捕捉させ、所定の分離手段、例えばクロマトグラフィ等の技術を用いて糖鎖および/または糖の誘導体を精製および/または単離する。(工程2)においては、(工程1)で得られる糖鎖および/または糖の誘導体を、固相基板に整列的に点着させる。(工程3)においては、例えばpH5、温度が60〜90℃,反応時間が1〜16時間の条件によりインキュベートし、前述した(反応式1)で示した交換反応を行い、結果として糖鎖および/または糖の誘導体を固相基板に固定化する。(工程4)においては、(工程3)にて未反応であった物質を、バッファなどを用いて通常の方法により洗浄除去する。
【0198】
さらなる観点から、本発明はこのような方法により得られる糖鎖マイクロアレイを提供する。この糖鎖マイクロアレイは、例えば検体試料中に含まれる糖鎖および/または糖の誘導体と相互作用する物質の捕集を行うための担持体として使用することができる。これにより、捕集された物質の同定、定量化などを行うことが可能になる。
【0199】
さらなる観点から、本発明は、前記の糖鎖マイクロアレイの用途を提供する。
例えば、この糖鎖マイクロアレイの表面に、検体を含む溶液を接触させ、所定の条件でインキュベートおよび洗浄操作を行った後に、固相基板上の点着部位の糖鎖および/または糖の誘導体に捕集された糖結合性物質を検出することにより、固定化された糖鎖および/または糖の誘導体と特異的に結合または吸着する糖結合性物質を探索するシステムが提供される。
【0200】
この探索システムにおいて、前述したような方法にて、糖鎖および/または糖の誘導体を固定化させた固相基板に、検体(試料)を含む溶液を導入管などから導入して、検体試料を糖鎖および/または糖の誘導体と接触させる。
【0201】
さらに、検体試料と、糖鎖および/または糖の誘導体とが接触した状態で、インキュベートを行う。このときのインキュベートの条件は、例えばpH4〜10、温度が37℃、反応時間が1〜16時間である。
【0202】
インキュベート処理をした結果、糖鎖および/または糖の誘導体に捕集された糖結合性物質、例えばレクチンなどのタンパク質を検出する。このときの検出方法および手段としては、糖結合性物質が直接に蛍光染色可能ならば、染色後に蛍光スキャナーを用いて蛍光を測定することにより検出する;糖結合性物質が既知であって、かつ、特定の抗体と結合する場合には、その抗体を結合させることにより検出するなどが挙げられる。また、糖結合性物質がタンパク質である場合には、これらに限定されることはなく、その他一般的なタンパク検出方法が適用可能である。
【0203】
このように、本システムによれば、捕集された糖結合性物質を検出することにより、固定化された糖鎖および/または糖の誘導体と特異的に結合または吸着する糖結合性物質を探索することが可能になる。これにより、糖鎖と検体細胞の分化増殖、細胞接着、免疫、および細胞の癌化との関係について、より高度な解析を行うことができる。
【0204】
また、例えば前述した糖鎖マイクロアレイの用途として、糖鎖マイクロアレイの表面に、検体を含む溶液を接触させ、固相基板上の点着部位の糖鎖および/または糖の誘導体に、前記検体中の糖結合性タンパク質を捕集させ、捕集した量を所定の定量化手段、例えば蛍光・発色等の手段で定量化する結合性タンパク質の認識特異性を評価するシステムが提供される。
【0205】
前述したように、糖鎖および/または糖の誘導体を固定化させた固相基板からなる糖鎖マイクロアレイに、検体試料中の糖結合性タンパク質を捕集させて、この捕集量を定量化する。
【0206】
本システムによれば、この結果に基づいて、結合性タンパク質の認識特異性を評価することができる。
【0207】
さらに、もう一つの観点から、本発明は、前記の糖鎖捕捉段階および糖鎖遊離段階からなる試料調製方法の用途として、糖鎖アフィニティビーズの製造方法を提供する。
【0208】
すなわち、この糖鎖アフィニティビーズの製造方法は、下記(式3)または(式12)で表される構造を有する物質Bからなる固相担体で構成されるポリマーの表面に、糖鎖および/または糖の誘導体を固定化するものである。
【0209】
【化50】

【0210】
(担体はポリマーマトリックス、Rは−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖を示す。)
【0211】
【化51】

【0212】
(担体はポリマーマトリックス、Rは−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖を示す。)
【0213】
なお、これら物質の具体例は、前述のとおりである。
【0214】
さらに、この糖鎖アフィニティビーズの製造方法において、前記ポリマー粒子の表面に下記(工程1)〜(工程3)によって糖鎖および/または糖の誘導体を固定化する手順としてもよい。
【0215】
(工程1)糖鎖および/または糖の誘導体と可溶性のヒドラジド基含有化合物とを結合させ、所定の分離手段によって糖鎖および/または糖の誘導体を、精製、および/または単離する工程。
(工程2)工程1で得られた化合物を、ポリマー粒子と接触させ、所定の条件でインキュベートすることにより、糖鎖−ヒドラジド基含有化合物の結合を、糖鎖−ポリマー粒子の結合に交換させ、糖鎖および/または糖の誘導体をポリマー粒子に固定化する工程。
(工程3)ポリマー粒子上の未反応物を洗浄除去する工程。
【0216】
(工程1)においては、前述した糖鎖および/または糖の誘導体と、物質Aとを反応させて、物質Aに糖鎖および/または糖の誘導体を捕捉させ、所定の分離手段、例えばクロマトグラフィ等の技術を用いて糖鎖および/または糖の誘導体を精製および/または単離する。なお、このときの糖鎖捕捉反応の条件の一具体例としては、pH4〜7、反応温度が25〜90℃、反応時間が1〜16時間、具体的にはpH5、反応時間が80℃、反応時間が1時間の条件が挙げられる。
【0217】
(工程2)においては、(工程1)で得られる糖鎖および/または糖の誘導体を、ポリマー粒子と接触させて、所定の条件、例えばpH4〜7、温度が25〜90℃、反応時間が1〜16時間、具体的にはpH5、温度が80℃、反応時間1時間でインキュベートし、前述した(反応式1)で示した交換反応を行い、結果として糖鎖および/または糖の誘導体をポリマー粒子に固定化する。(工程3)においては、(工程2)にて未反応であった物質を、バッファなどを用いて通常の方法により洗浄除去する。
【0218】
なお、糖鎖アフィニティビーズを、糖鎖および/または糖の誘導体を、予めヒドラジド基を有する物質Aにて捕捉しておいて、物質Bにて交換反応を行うことにより製造する手順を挙げたが、これに限定されることはなく、糖鎖および/または糖の誘導体を含む試料を直接、物質Bからなる固相担体にて作製したポリマー粒子に接触させることによって、糖鎖アフィニティビーズを製造してもよい。
【0219】
さらなる観点から、本発明はこのような方法により得られる糖鎖アフィニティビーズを提供する。また、本発明は、この糖鎖アフィニティビーズの用途として、糖結合性物質を単離するシステムを提供する。
【0220】
すなわち、この糖結合性物質を単離するシステムでは、前述の糖鎖アフィニティビーズに、検体(試料)を含む溶液を接触させ、所定の条件でインキュベートおよび洗浄操作を行った後に、捕捉された糖結合性物質が単離される。
【0221】
このシステムにおいて、まず、糖鎖アフィニティビーズに検体試料を含む溶液を接触させ、所定の条件、例えばpH4〜10、温度が37℃、反応時間が1〜16h、Ca2+およびMg2+を含む緩衝液中でインキュベートすることにより、糖鎖アフィニティビーズの表面に固定化された糖鎖および/または糖の誘導体に、糖結合性物質が捕集される。さらに、バッファなどを用いて通常の洗浄処理により、糖結合性物質が捕集された糖鎖アフィニティビーズの表面を洗浄する。
【0222】
さらに、捕集された糖結合性物質を、糖鎖アフィニティビーズから単離する。このときに、糖鎖アフィニティビーズから、糖結合性物質を遊離させる方法としては、メタノール等の有機溶媒を加え、糖と糖結合性物質を引き離す方法;高濃度(0.1〜1M)のハプテン糖の溶液を加え、糖結合性物質を引き離す、すなわち加えた高濃度の糖の方にレクチンを移す方法などが挙げられる。
【0223】
以上のように、本発明の試料調製方法は、様々な用途に適用することができる。
【実施例1】
【0224】
以下の実験例にて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実験例に限定されることはない。
【0225】
(実験例1)
(A)ヒドラジド基含有化合物の調製
【0226】
(低分子ヒドラジド化合物)
1.下記のヒドラジド化合物は市販品を用いた。
5-Dimethylaminonaphthalene-1-sulfonyl hydrazine (Dansylhydrazine); 2-hydrazinopyridine; 9-fluorenylmethyl carbazate (Fmoc hydrazine); benzylhydrazine; 4,4-difluoro-5,7-dimethyl-4-bora-3a,4a-diaza-s-indacene-3-propionic acid, hydrazide (BODIPY (tm) FL hydrazide); 2-(6,8-difluoro-7-hydroxy-4-methylcoumarin)acetohydrazide (Marina Blue (tm) hydrazide); 7-diethylaminocoumarin-3-carboxylic acid, hydrazide (DCCH); phenylhydrazine; 1-Naphthaleneacethydrazide; 2-hydrazinobenzoic acid
【0227】
2.AcWRh(物質A)の合成
前述したスキーム1に示すルートでAcWRhを合成した(なお、Acはアセチル基、Wはトリプトファン残基、Rはアルギニン残基、hはヒドラジド基を示す)。
【0228】
(1)WR-OMe(化合物(b))の合成 Z-WR-OMe(a)(10 mg, 20 mmol)および10% Pd/C(10mg)にメタノール(5ml)を加え、水素ガス雰囲気下、室温で2時間攪拌した。反応溶液を水系メンブレンフィルタでろ過することによりPd/Cを除去し、ろ液を減圧濃縮することで目的物である化合物(b)(WR-OMe)を得た。MALDI-TOF-MSによる解析により、目的物の [M+H]+ イオンをm/z:376に観測した。
【0229】
(2)AcWROMe (c) の合成
WR-OMe (b) (53 mg, 0.14 mmol) をDMF 1 ml に溶解し、WSC (40 mg, 0.20 mmol)、DMAP (5 mg, 0.041 mmol) および酢酸 (200 μl) を加え、室温で 3 時間攪拌した。さらに WSC (50 mg, 0.26 mmol) を追加し、終夜攪拌した。反応溶液を濃縮し、得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=1:1)により精製する事で目的とするAcWROMeを得た。1H NMR (500 MHz, CD3OD)δ7.70-7.00 (m, 5H, indole), 3.62 (s, 3H, OMe), 1.93 (s, 3H, Ac)
【0230】
(3)AcWRh(d)の合成
AcWROMe 10 mgを10% ヒドラジン/メタノール (5 ml) に溶解し、室温で12時間反応後、濃縮する事によりAcWRh(d)を調製した。MALDI-TOF MSによる解析により、目的物の[M + H]+ イオンをm/z:416.89に観測した。
【0231】
一方、上記の手順に従って、アセチル基が重水素置換されたd-AcWRh(e)を調整した。d-AcWROMe: 1H NMR (500 MHz, CD3OD)δ7.59-6.99 (m, 5H, indole), 3.62 (s, 3H, OMe), 1.93 (s, 3H, Ac), d-AcWRh:MALDI-TOF-MS [M + H]+ m/z:419.94
【0232】
(ヒドラジド基含有ポリマービーズの合成)
1.メチルエステル含有モノマーの合成
以下のスキーム4に示すルートでメチルエステル含有モノマーを合成した。
【0233】
【化52】

【0234】
(1)化合物(h)の合成
無水メタクリル酸 (MAH : 5 g, 0.03 mol) (f) を 100 ml のクロロホルムに溶解させた溶液を、25 g の(エチレンジオキシ) ビス (エチルアミン) (EDBEA : 25 g, 0.17 mol) (g) を 100 mlのクロロホルムに溶解させた溶液に氷浴上で滴下投入した。そこへ窒素を封入し、終夜攪拌させた。得られた反応溶液から溶媒を蒸発させて得た残留物を、シリカゲルカラム(展開溶媒:クロロホルム90容/メタノール10容の混合溶媒)にかけて所定のフラクションを分取して、このフラクションから溶媒を蒸発させて化合物(h)を得た。
【0235】
(2)化合物(j)の合成
5gの化合物(h)(0.023mol)を100mlのクロロホルムに溶解させた溶液に、1.5当量のコハク酸モノメチル(i)および1.5当量の水溶性カルボジイミド化合物(WSC)である1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドを加えて、密栓した。そこへ窒素を封入し、終夜攪拌させた。得られた反応溶液から溶媒を蒸発させて得た残留物を、シリカゲルカラム(展開溶媒:クロロホルム90体積%/メタノール10体積%の混合溶媒)にかけて所定のフラクションを分取して、このフラクションから溶媒を蒸発させて化合物(j)を得た。
また、得られた物質は、NMR、マトリックス支援レーザイオン化−飛行時間型質量分析器(MALDI−TOF−MS)により化合物(j)であることを確認した。
【0236】
2.メチルエステル含有ポリマーの合成
以下のスキーム5に示すルートでメチルエステル含有ポリマー粒子を合成した。
【0237】
【化53】

【0238】
三口フラスコに25mlの5%ポリビニルアルコール(PVA)水溶液を装入し、そこへ窒素をパージした。1gの化合物(j)(2.6mmol)、エチレングリコールジメタクリレート(k)(EGDMA:(j)に対して5mol%)および1mlのクロロホルムからなる混合物を、前記三口フラスコに導入し、60℃に保ちながら攪拌して、混合物に含まれるモノマーとしての化合物(j)およびEGDMAをPVA水溶液中に分散させた。続いて、モノマーに対して3重量%の重合開始剤としてのアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を加えて重合を開始させた。60℃で16時間反応させた後、生成したポリマー粒子を遠心分離により回収し、メタノールと水とで洗浄した。
【0239】
3.ヒドラジド基の導入
ポリマー粒子400 mgを容器にとり、ヒドラジン1水和物4 mlを加えて攪拌し、室温で2時間静置した。反応後、ヒドラジン1水和物を除去し、メタノールで洗浄したのち、1M塩酸でリンスした。その後さらに純水で洗浄した。
【0240】
4.官能基量の定量
ポリマー粒子1mgを容器にとり、N-アセチル-D-ラクトサミン(LacNAc)1μmolを添加し、さらに、2%酢酸を含むアセトニトリル180μlを加えた。これを80℃で45分間加熱することによりLacNAcとビーズ上のヒドラジド基を反応させた。純水でビーズをリンスして未反応の糖鎖を回収し、それをMALDI-TOF-MS測定により定量(内部標準法)し、ビーズへのLacNAc結合量を求めた。ビーズ1mgあたり0.86μmol(860 nmol)のLacNAcが結合することが分かった。
【0241】
(市販のヒドラジド基含有ビーズ)
Bio-Rad社製「アフィゲル-Hz」をそのまま用いた。
1.官能基量の定量
アフィゲル-Hzの分散液50μl(ビーズの乾燥重量として16.5 mg) を容器にとり、LacNAc1μmolを添加し、さらに、2%酢酸を含むアセトニトリル180μlを加えた。これを80℃で45分間加熱することにより LacNAcとビーズ上のヒドラジド基を反応させた。純水でビーズをリンスして未反応の糖鎖を回収し、それをMALDI-TOF-MS測定により定量(内部標準法)し、ビーズへのLacNAc結合量を求めた。ビーズ1mg(乾燥重量) あたり約8nmolのLacNAcが結合することが分かった。
【0242】
(B)アミノオキシ基含有化合物の合成
(アミノオキシ基含有低分子化合物aoWRの合成) 前述したスキーム3にしたがってaoWR(化合物(n))を合成した。(aoはアミノオキシ基を示す)
【0243】
(1)Boc-NHOCH2CO-W-R-OMe(化合物(m))の合成 Bocアミノオキシ酢酸(l)(2.5mmol)のTHF(6ml)溶液を-20℃に冷却した。ついでN-メチルモルホリン(3.0mmol)とギ酸イソブチル(3.0mmol)を添加し、15分攪拌することで混合酸無水物を調製した。反応溶液を0℃とし、別の反応溶液にて化合物(b)(WR-OMe(3.0mmol))を水(3ml)に溶解し、炭酸水素ナトリウム(3.0mmol)を添加することにより調製したWR-OMe溶液を混合し、1時間攪拌した。反応溶液を減圧濃縮し、得られた残留物をシリカゲルクロマトグラフィーにより精製することで目的物である化合物(m)(Boc-NHOCH2CO-W-R-OMe)を得た。MALDI-TOF-MSによる解析により、目的物の[M+H]+イオンをm/z:547に観測した。
【0244】
(2)NH2OCH2CO-W-R-OMe(化合物(n))の合成
化合物(m)にトリフルオロ酢酸(TFA)(2ml)を加え、-20℃で2時間攪拌した。反応液を減圧濃縮し、トルエンを加えて共沸を繰り返してTFAを除去して、目的物である化合物(n)を得た。MALDI-TOF-MSによる解析により、目的物の[M+H]+イオンをm/z:448に観測した。
【0245】
一方、上記手順に従って、メチル基の水素が軽水素のもの:aoWR(H)、および重水素のもの:aoWR(D)を調製した。
【0246】
(アミノオキシ基含有ポリマービーズの合成)
特許文献:国際公開第2005/097844号パンフレットに記載の方法によりアミノオキシ基含有ポリマー粒子を作製した。
【0247】
(実験例2)糖鎖試料の調製
(1)糖タンパク質糖鎖の調製
糖タンパク質としてフェツイン(fetuin)またはリボヌクレアーゼB(ribonuclease B)を試料として用いた。糖タンパク質10 mgを容器に取り、50mM重炭酸アンモニウム溶液に溶解させた。少量の界面活性剤を添加し、60℃で30分インキュベートしたのち、N-glycosidase F(Roche社製)10unitを添加し、37℃で16時間インキュベートすることで糖鎖を遊離させた。
【0248】
(2)血清中に含まれる糖タンパク質糖鎖の調製
ヒト血清5 mLを容器にとり、50mM重炭酸アンモニウム溶液に溶解させた。少量の界面活性剤を添加し、60℃で30分インキュベートしたのち、N-glycosidase F(Roche社製)5unitを添加し、37℃で16時間インキュベートすることで糖鎖を遊離させた。
【0249】
(実験例3)低分子ヒドラジド化合物と糖鎖との反応
(1)市販ヒドラジド化合物と糖鎖との反応
実験例1(A)のヒドラジド化合物を10mMの濃度でメタノールまたはアセトニトリルに溶解し、ヒドラジド化合物溶液を得た。実験例2(1)のフェツイン糖鎖溶液(500pmol相当)にヒドラジド化合物溶液1μlを加え、さらにアセトニトリル100μlを加えた。80℃で45分間加熱することにより糖鎖とヒドラジド化合物とを反応させた。反応後の生成物をMALDI-TOF-MSで測定した。
【0250】
図1には、代表的に2-hydrazinopyridineを用いた場合のMALDI-TOF-MSチャートを示すが、糖鎖(図中、構造を模式図で示す)と2-hydrazinopyridineが結合した分子量を示す位置にピークを観測した。他の化合物を用いた場合も同様の結果を得た。
【0251】
(2)AcWRhと糖鎖との反応
実験例1(A)のAcWRhを10 mMの濃度でメタノールまたはアセトニトリルに溶解し、ヒドラジド化合物溶液を得た。実験例2(2)の血清糖鎖溶液(血清5μl相当量)を容器にとり、ヒドラジド化合物溶液1μlを加え、さらにアセトニトリル100μlを加えた。80℃で45分間加熱することにより糖鎖とヒドラジド化合物(AcWRh)とを反応させた。反応後の生成物をMALDI-TOF-MSで測定した。
【0252】
図2にはMALDI-TOF-MSチャートを示すが、糖鎖(図中、構造を模式図で示す)とAcWRhとが結合した分子量を示す位置にピークを観測した。
【0253】
(実験例4)ヒドラジド基含有ポリマービーズと糖鎖との反応
実験例1(A)のヒドラジド基含有ポリマービーズ2.5mgを容器に測り取った。実験例2(2)の血清糖鎖溶液(血清5μl相当量)を加え、さらに、2%酢酸を含むアセトニトリル180μlを加えた。これを80℃で45分間加熱することにより糖鎖とビーズ上のヒドラジド基とを反応させた。少量の純水でビーズをリンスして未反応の糖鎖を回収し、それをMALDI-TOF-MS測定により定量したところ、80〜90%の糖鎖がビーズに結合したことが分かった。その後、ビーズを0.5%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液、50%メタノール、4Mグアニジン水溶液、および純水で洗浄して、後述する糖鎖再遊離の実験に供した。
【0254】
(実験例5)ラベル化糖鎖の調製
(1)AcWRh(d),AcWRh(e)と糖鎖の結合
キトトリオース水溶液に10等量の実験例1(A)のAcWRh(d)またはd-AcWRh(e)を添加し、酢酸でpH5に調整した。90℃で1時間加熱することによりキトトリオース-AcWRh(d)標識体およびキトトリオース-d-AcWRh(e)標識体を得た。
【0255】
(2)aoWR(H),aoWR(D)と糖鎖の結合
キトトリオース水溶液に10等量の実験例1(B)のaoWR(H)またはaoWR(D)を添加し、酢酸でpH5に調整した。90℃で1時間加熱することによりキトトリオース-aoWR標識体を得た。
【0256】
(実験例6)液相での官能基交換反応
以下の交換反応では、ヒドラジド基含有化合物でラベル化した糖鎖をアミノオキシ基含有化合物(またはヒドラジド基含有化合物)と反応させることで、ヒドラゾン−オキシム交換(またはヒドラゾン−ヒドラゾン交換)によりラベルの付け替えを行った。比較として、アミノオキシ基含有化合物でラベル化した糖鎖に対してもラベルの付け替えを試みた。反応の進行はMALDI-TOF-MSにより確認した。
【0257】
(A)官能基交換反応
(1)ヒドラゾン−ヒドラゾン交換反応
実験例5(1)のキトトリオース−AcWRh(d)標識体の溶液に10等量の実験例1(A)のd-AcWRh(e)を添加し、酢酸でpH5に調整した。90℃で1時間加熱反応後、反応液の一部を取り出し、内部標準として濃度既知の実験例5(2)のキトトリオース−aoWR(H)標識体と混合した。これをMALDI-TOF-MSで分析し、反応液中に含まれるキトトリオース−AcWRh(d)標識体と、この反応で得られたキトトリオース−d-AcWRh(e)標識体との比率を算出した。
【0258】
(2)ヒドラゾン−オキシム交換反応
実験例5(1)のキトトリオース−AcWRh(d)標識体の溶液に10等量の実験例1(B)のaoWR(H)を添加し、酢酸でpH5に調整した。90℃で1時間加熱反応後、反応液の一部を取り出し、内部標準として濃度既知の実験例5(2)のキトトリオース−aoWR(D)標識体と混合した。これをMALDI-TOF-MSで分析し、反応液中に含まれるキトトリオース−AcWRh(d)標識体と、この反応で得られたキトトリオース−aoWR(H)標識体との比率を算出した。
【0259】
(3)オキシム−ヒドラゾン交換反応
実験例5(2)のキトトリオース−aoWR(H)標識体の溶液に10等量の実験例1(A)のAcWRh(d)を添加し、酢酸でpH5に調整した。90℃で1時間加熱反応後、反応液の一部を取り出し、内部標準として濃度既知の実験例5(1)のキトトリオース−d-AcWRh(e)標識体と混合した。これをMALDI-TOF-MSで分析し、反応液中に含まれるキトトリオース−aoWR(H)と、この反応で得られたキトトリオース−AcWRh(d)との比率を算出した。
【0260】
(4)オキシム−オキシム交換反応
実験例5(2)のキトトリオース−aoWR(H)標識体の溶液に10等量の実験例1(B)のaoWR(D)を添加し、酢酸でpH5に調整した。90℃で1時間加熱反応後、反応液の一部を取り出し、内部標準として濃度既知の実験例5(1)のキトトリオース−AcWRh(d)標識体と混合した。これをMALDI-TOF-MSで分析し、反応液中に含まれるキトトリオース−aoWR(H)と、この反応で得られたキトトリオース−aoWR(D)の比率を算出した。
【0261】
(B)官能基交換反応の考察
図3は上記4パターンの交換反応の収率を示したグラフである。
ヒドラゾン−ヒドラゾン交換反応およびヒドラゾン−オキシム交換の効率は、オキシム−ヒドラゾン交換およびオキシム−オキシム交換と比べて高いことがわかる。すなわち、ヒドラゾン結合はオキシム結合よりも交換反応を受けやすいといえる。さらに、ヒドラゾン−ヒドラゾン交換よりも、ヒドラゾン−オキシム交換の方が効率よく進行したこともわかった。
【0262】
(実験例7)固相から液相への交換反応
(A)交換反応効率の比較
実験例6における液相での交換反応の結果より、ヒドラゾン−オキシム交換が最も効率よく進行することが分かった。そこで、以下に示したように、固相から液相への交換反応についても同様に反応効率を比較した。
【0263】
実験例4で血清糖鎖を捕捉させたヒドラジド基含有ビーズ、および、実験例4と同様の方法で血清糖鎖を捕捉させたアミノオキシ基含有ビーズを用いて比較した。各糖鎖捕捉ビーズに20μlのaoWR(H)溶液(20mM)、またはAcWRh(H)溶液(20mM)を加え、さらに180μlの2%酢酸/アセトニトリル溶液を加え、80℃で45分間加熱した。反応後、上清を回収し、MALDI-TOF-MS測定を行った。
【0264】
図4はMALDI-TOF-MSチャートである。
チャートのS/N比より明らかに、ヒドラジド基含有ビーズで捕捉し、アミノオキシ化合物で遊離した場合が最も効率がよいことがわかる。この結果は、実験例6における液相での反応効率比較の結果と一致する。
【0265】
(B)交換反応によるビーズからの糖鎖再遊離
(1)ヒドラジド基含有ポリマービーズからの糖鎖再遊離
実験例4において糖鎖を結合させたヒドラジド基含有ポリマービーズに、20μlのaoWR(H)溶液(20mM)および180μlの2%酢酸/アセトニトリル溶液を加え、80℃で45分間加熱した。反応後、上清を回収し、内部標準物質(キトテトラオース)を添加してMALDI-TOF-MS測定を行うことにより、糖鎖回収量を算出した。
【0266】
(2)市販ビーズ(アフィゲル-Hz)からの糖鎖再遊離
実験例4と同様の方法で血清糖鎖を捕捉させたアフィゲル-Hzに対し、実験例7(B)の(1)と同様の方法で糖鎖を再遊離させ、回収量を算出した。
【0267】
図5には実験例7(B)の(1)の方法で回収した糖鎖のMALDI-TOF-MSチャートを示す。
内部標準物質のシグナル量から換算した結果、使用した糖鎖のうち56%の量を回収できたことが分かった。
【0268】
図6には実験例7(B)の(2)の方法で回収した糖鎖のMALDI-TOF-MSチャートを示す。同時に実験例7(B)の(1)にて回収した糖鎖のチャートも併記する。
【0269】
マススペクトルのS/N比から、明らかに市販ビーズ使用の場合の糖鎖回収量が少ないことが分かった。ビーズ使用量を3倍まで増やした場合でも、シグナル量でヒドラジド基含有ポリマービーズには及ばないことが分かった。これは上述の通り、市販ビーズの官能基量が本特許のビーズと比較して少ない(約1/100)ためと推測される。
【0270】
(実験例8)液相から固相への交換反応
以下に示したように、ヒドラジド化合物で標識化(ヒドラゾン結合)した糖鎖を、アミノオキシ基含有ポリマービーズと接触させることで、液相から固相へのヒドラゾン−オキシム交換反応を行った。この方法は、例えば蛍光性ヒドラジド化合物で糖鎖をラベル化後、HPLC等で糖鎖を単離し、それをビーズと反応させることによって、単離した糖鎖をビーズに固定化するといった応用が可能である。つまり、糖鎖混合物(たとえば糖タンパクから回収した糖鎖)から任意の糖鎖を選び出し、それをビーズ表面に呈示する方法として利用できる。また、応用例において、ビーズのかわりに固相基板も用いることができる。
【0271】
(1)ヒドラジン化合物(AcWRh(d))と糖鎖との結合
実験例1(A)のAcWRh(d)を10mMの濃度でメタノールに溶解した。糖タンパク質であるフェツイン(fetuin)から遊離した糖鎖10pmol相当を容器にとり、ヒドラジド化合物溶液1μlを加え、さらに2%酢酸を含むアセトニトリル100μlを加えた。80℃で45分間加熱することにより糖鎖とAcWRh(d)とを反応させた。
【0272】
(2)ヒドラジン化合物(d-AcWRh(e))と糖鎖との結合
実験例8(1)と同様の方法で糖鎖とd-AcWRh(e)とを反応させた。
【0273】
(3)交換反応
5 mgのアミノオキシ基含有ポリマービーズを容器にとり、AcWRh(d)と結合した糖鎖を投入した。酢酸緩衝液でpH4に調整し、80℃で1時間反応させた。反応後、上清を回収し、内部標準として濃度既知のd-AcWRh(e)標識化糖鎖を加え、MALDI-TOF-MS測定を行うことにより糖鎖 (代表的にNA3: Asialo, galactosylated triantennary glycanに注目) の量を求めた。ネガティブコントロールとして、アミノオキシ基含有ポリマービーズを含まない系を同様に処理した。
【0274】
図7にはMALDI-TOF-MSチャートを示す。
アミノオキシ基含有ポリマービーズと反応させた系では、約20%の量の糖鎖しか観測されなかった。一方、ネガティブコントロールでは糖鎖量はほとんど変化しなかった。このことから、約80%量の糖鎖がアミノオキシ基含有ポリマービーズ上に結合したことが分かった。
【0275】
(実験例9)単糖固定化ビーズ
(1)単糖固定化ビーズの調製
実験例1(B)のアミノオキシ基含有ポリマービーズ10mgを容器にとり、ガラクトース (Gal)、あるいは、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を10μmol添加した。2%酢酸を含むアセトニトリルを200μl添加し、80℃で1時間加熱することで糖をビーズに固定化した。その後、ビーズを0.5%SDS溶液、メタノール、純水で順次洗浄することで莢雑物を除去した。
【0276】
(2)レクチン捕捉性の検証
3種類のHRP(horse radish peroxidase)標識化レクチン:HRP-Concanavalin A (Con A)、HRP-Wheat germ agglutinin (WGA)、HRP-Ricinus communis agglutinin (RCA120)(レクチンはいずれも生化学工業(株)製)を1μg/mlの濃度でそれぞれbinding buffer(50mM Tris/HCl、100mM NaCl、10mM CaCl2、10mM MgCl2、pH7.6)に溶解した。実験例9(1)にて単糖を固定化したビーズ1mgを容器に取り、これにいずれかのレクチン溶液を100μl加え、37℃で16時間穏やかに攪拌した。その後、ビーズを0.05%のTween-20を含むbinding bufferおよびbinding bufferで各1時間洗浄した。ビーズ上に結合したHRP標識化レクチンをperoxidase発色キット (住友ベークライト製)で発色させ、溶液の450nmの吸光度を測定することにより、レクチンの結合量を見積もった。
【0277】
図8に示すように、GlcNAcを固定化したビーズにはWGAが多く結合し、Galを固定化したビーズにはRCA120が多く結合したことがわかる。WGAはGlcNAcを、RCA120はGalを主に認識することが知られており、本発明の方法を適用して単糖を固定化したビーズは、対応するレクチンを正しく認識・捕捉可能であることが示された。
【0278】
(実験例10)オリゴ糖固定化ビーズ
(1)オリゴ糖固定化ビーズの調製
実験例1(B)のアミノオキシ基含有ポリマービーズ10mgを容器にとり、実験例2(1)のフェツイン(fetuin)糖鎖あるいはribonuclease B糖鎖溶液を、糖鎖量に換算して1μmol相当添加した。2%酢酸を含むアセトニトリルを200μl添加し、80℃で1時間加熱することで糖鎖をビーズに固定化した。その後、ビーズを0.5%SDS溶液、メタノール、純水で順次洗浄することで莢雑物を除去した。
【0279】
(2)レクチン捕捉性の検証
(Concanavalin A (Con A)の捕捉)
実験例10(1)にてRibonuclease B糖鎖を固定化済みのビーズ1mgを容器に取った。これにCon A溶液(10μg/ml)を1μl、およびbinding bufferを100μl加え、37℃で16時間穏やかに攪拌することでCon Aとビーズ上の糖鎖を結合させた。その後、ビーズを0.05%のTween-20を含むbinding bufferおよびbinding bufferで各1時間洗浄した。洗浄液を取り除き、ハプテンとして0.5 Mのmethyl-α-mannopyranosideを20μl加え、37℃で2時間攪拌することでビーズ上の糖鎖に結合したCon Aを遊離させた。上清を回収し、トリプシン溶液(Promega 社製 sequence grade trypsin)を加え、37℃で16時間静置し、遊離したCon Aをペプチド断片化した。一部を取ってMALDI-TOF-MS測定を行い、以下のように、データを既知のCon Aのアミノ酸配列を比較した。
【0280】
(1)Con Aのアミノ酸配列(既知)からトリプシン切断位置を推定し、ペプチド断片の質量数を予測した。また、測定したマススペクトルデータと比較し、一致することを確認した。このとき、ペプチド断片の質量数の予測には「PeptideMass(web上に公開されているツール)」を利用した。
(2)得られたスペクトルのうち代表的なものについてMS/MS解析を行い、「MASCOT MS/MS Ion Search(ペプチド断片のMS/MSデータから元のタンパクを推定するツール)」を用いて解析したところ、正しくCon A由来であることを確認した。
【0281】
図9に示すように、Con A由来のペプチドと質量数が一致するピークを多数検出した。Ribonuclease Bに含まれる主な糖鎖はハイマンノース型糖鎖(マンノース残基を多く含む)であり、Con Aはマンノースを認識し結合する性質がある。これらのことから、ビーズに固定化した糖鎖によってCon Aを認識・捕捉できることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(式13)で表される構造を有するモノマー。
【化1】

(R2はH,CH3,または炭素数2〜5の炭化水素鎖,R6は−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖,[P]は保護基を示す。)
【請求項2】
下記の(式14)で表される構造を有する請求項1に記載のモノマー。
【化2】

【請求項3】
請求項1または2に記載のモノマーを重合させて得られる重合体。
【請求項4】
請求項3に記載の重合体の保護基を酸処理により脱保護して得られる、請求項3に記載の重合体の側鎖の末端にヒドラジド基を有する重合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−184430(P2012−184430A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−103021(P2012−103021)
【出願日】平成24年4月27日(2012.4.27)
【分割の表示】特願2008−528715(P2008−528715)の分割
【原出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】