説明

糖1−リン酸誘導体の立体選択的製造方法

【課題】糖1-リン酸化合物のアノマー位(C1位)にリン酸が結合した化合物(糖1-リン酸化合物) を立体選択的に製造する手段を提供する。
【解決手段】式(Ia)又は(Ib)(R1はアルキル基、R2及びR3は水素原子、アルキル基、又はアリール基を示すが、R1及びR2は環状構造を形成してもよく;RA−O-は糖化合物残基を示す)で表される糖1-オキサザホスホリジン化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は糖1-リン酸誘導体の立体選択的製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖化合物のアノマー位 (C1位)にリン酸が結合した化合物 (糖1-リン酸化合物) は、糖鎖の生合成反応の基質として極めて重要である。また、糖-1リン酸構造は、細菌や酵母の細胞壁や莢膜、動物の糖タンパク質の糖鎖部分などに認められ、抗原決定基として機能することが報告されている。このような理由から、糖転移酵素の機能解明のためのプローブとなること、糖転移酵素の阻害剤としての可能性を有すること、及び細菌等に対するワクチンとしての可能性を有するなどの点においてリン酸部位に化学修飾を施した糖1-リン酸アナログが注目されている。しかしながら、糖1-リン酸化合物は化学的に不安定であり、合成が困難であるという問題を有している。特に、グリコシドの2つのアノマー異性体(α体及びβ体)の立体選択的に合成することは極めて困難である。
【0003】
立体選択的な糖1-リン酸化合物の一般的な合成法として、アノマー位に脱離基を有するグリコシルドナーのSN2型グリコシル化法が知られている(Tetrahedron Lett., 31, pp.327-330, 1990; J. Am. Chem. Soc., 124, pp.2263-2266, 2002; Carbohyd. Res., 223, pp.169-185, 1992)。この方法ではα体のグリコシルドナーからβ体が得られ、β体のグリコシルドナーからはα体が得られるが、原料のグリコシルドナーを立体的に純粋な化合物として得る必要があり、反応時間が長引くことで生成物の異性化を伴うという問題がある。糖2-位水酸基に導入したアシル基による隣接基関与を利用するグリコシル化法(Org. Lett., 9, pp.1227-1230, 2007)を用いると、糖骨格2位の置換基とトランスの位置関係にある糖1-リン酸化合物が得られる。例えばグルコースからはβ体を得ることができ、マンノースからはα体が得られる。
【0004】
また、糖1-リン酸化合物のα、β異性体間の熱力学的安定性の差を利用し、プロトン酸及びルイス酸条件下において熱力学的に安定な異性体へと平衡を偏らせる方法(J. Chem. Soc., Perkin Trans 1, pp.1699-1704, 1998; Org. Lett., 2, pp.2135-2138, 2000; Can. J. Chem., pp.743−747, 2006)が知られている。この方法ではアノマー効果の影響により多く糖骨格の場合にα体が優先して生成する。しかしながら、アノマー異性体間の熱力学的安定性の差が大きくない場合には完全な立体選択性を達成することが困難であり、酸性条件下で不安定な置換基を有する化合物には適用できず、適用できる場合においても異性化の過程で副反応に起因する収率の低下が懸念される。さらに、糖1,2-オルトエステルを経由するSN2反応(Org. Lett., 8, pp.1815-1818, 2006)及び糖1,2-エポキシドを経由するSN2反応(Org. Lett., 1, pp.211-214, 1999)などによる糖1-リン酸化合物の合成も報告されているが、これらの方法では上記のアシル基による隣接基関与を利用するグリコシル化法と同様に1,2-トランス体が得られる。
【0005】
これらの方法はグリコシルホスフェート誘導体又はグリコシルH-ホスホネート誘導体を合成するための方法であり、グリコシルホスファイト誘導体、グリコシルホスホロアミダイト誘導体などの合成には適用されていない。グリコシルホスファイト誘導体やグリコシルホスホロアミダイト誘導体を立体選択的に合成するための方法として立体的要因などに起因する糖アノマー位水酸基及びそのアルコラートにおけるα/β組成比の偏りを利用した方法が報告されている(J. Org. Chem., 66, pp.6234-6243, 2001; Carbohyd. Res., 242, pp.91-107, 1993; Tetrahedron Lett., 27, pp.6271-6274, 1986; Angew. Chem. Int. Ed., 43, pp.5674-5677, 2004等)。これらの方法はN-アセチルグルコサミン、ガラクトース、及びマンノース誘導体において成功例があり、特にN-アセチルグルコサミン誘導体については、多くの場合良好なα選択性が得られる。しかしながら、これらの手法では糖骨格上の置換基の立体的な要因が重要であることから、上記方法を多様な糖誘導体に適用可能というわけではない。
【0006】
一方、2-クロロ-1,3,2-オキサザホスホリジン誘導体を用いてリン原子の立体を厳密に制御した核酸誘導体を製造する方法が提案されている(例えばJ. Am. Chem. Soc., 130, pp.16031-16037, 2008、合成方法の概要は下記スキームを参照のこと)。しかしながら、従来、2-クロロ-1,3,2-オキサザホスホリジン誘導体を糖化合物のアノマー位にホスホジエステル結合を立体選択的に導入する目的で用いた合成方法は知られていない。
【0007】
【化1】

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Tetrahedron Lett., 31, pp.327-330, 1990
【非特許文献2】J. Am. Chem. Soc., 124, pp.2263-2266, 2002
【非特許文献3】Carbohyd. Res., 223, pp.169-185, 1992
【非特許文献4】Org. Lett., 9, pp.1227-1230, 2007
【非特許文献5】J. Chem. Soc., Perkin Trans 1, pp.1699-1704, 1998
【非特許文献6】Org. Lett., 2, pp.2135-2138, 2000
【非特許文献7】Can. J. Chem., pp.743−747, 2006
【非特許文献8】Org. Lett., 8, pp.1815-1818, 2006
【非特許文献9】Org. Lett., 1, pp.211-214, 1999
【非特許文献10】J. Org. Chem., 66, pp.6234-6243, 2001
【非特許文献11】Carbohyd. Res., 242, pp.91-107, 1993
【非特許文献12】Tetrahedron Lett., 27, pp.6271-6274, 1986
【非特許文献13】Angew. Chem. Int. Ed., 43, pp.5674-5677, 2004
【非特許文献14】J. Am. Chem. Soc., 130, pp.16031-16037, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、糖1-リン酸化合物のアノマー位(C1位)にリン酸が結合した化合物(糖1-リン酸化合物) を立体選択的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、グルコース、マンノース等の骨格を有するアノマー水酸基遊離の糖誘導体と2-クロロ-1,3,2-オキサザホスホリジン誘導体などの光学活性試薬とを反応させることによりグリコシルオキサザホスホリジン誘導体を製造し、さらにリン原子を硫黄やホウ素を含む置換基によって修飾することにより種々の糖1-リン酸誘導体を立体選択的に製造できることを見出した。本発明は上記の知見に基づいて完成されたものである。
【0011】
すなわち、本発明により、下記の一般式(Ia)又は(Ib):
【化2】

〔式中、R1は炭素数1〜4個のアルキル基を示し、R2は水素原子、炭素数1〜4個のアルキル基、又は炭素数6〜14個のアリール基を示し、R3は水素原子、炭素数1〜4個のアルキル基、又は炭素数6〜14個のアリール基を示すが、R1及びR2はそれらがそれぞれ結合する窒素原子及び炭素原子とともに炭素数3〜16個の環状構造を形成してもよく;RA−O-は糖化合物残基(RAとOとの結合はα結合又はβ結合のいずれかであり、該糖化合物残基は、糖化合物が単糖化合物である場合には1位の水酸基から水素原子を除いた残基を示し、糖化合物が単糖化合物以外の糖化合物である場合には糖化合物を構成する複数の糖化合物のうち還元末端の糖化合物における1位の水酸基から水素原子を除いた残基を示し、糖化合物残基は1個又は2個以上の保護基を有していてもよい)を示す〕で表される糖1-オキサザホスホリジン化合物が提供される。
【0012】
上記発明の好ましい態様によれば、R1及びR2がそれらがそれぞれ結合する窒素原子及び炭素原子とともに5員環の環状構造を形成する上記の糖1-オキサザホスホリジン化合物;R3がフェニル基である上記の糖1-オキサザホスホリジン化合物;RAとOとの結合がα結合である上記の糖1-オキサザホスホリジン化合物;糖化合物残基が還元糖の残基である上記の糖1-オキサザホスホリジン化合物;糖化合物の残基がグルコース、ガラクトース、又はマンノースの残基である上記の糖1-オキサザホスホリジン化合物が提供される。
【0013】
また、糖1-リン酸化合物のアノマー位)にリン酸が結合した糖1-リン酸化合物の製造に用いるための上記の糖1-オキサザホスホリジン化合物が提供される。
【0014】
別の観点からは、本発明により、上記一般式(Ia)又は(Ib)で表される糖1-オキサザホスホリジン化合物の製造方法であって、RA-OH (RAは上記と同義である)で表される化合物と下記の一般式(IIa)又は(IIb):
【化3】

(式中、R1、R2、及びR3は上記と同義である)とを反応させる工程を含む方法が提供される。
【0015】
上記発明の好ましい態様によれば、R1及びR2がそれらがそれぞれ結合する窒素原子及び炭素原子とともに5員環の環状構造を形成する上記の方法;R3がフェニル基である上記の方法;RAとOとの結合がα結合である上記の方法;糖化合物残基が還元糖の残基である上記の方法;糖化合物の残基がグルコース、ガラクトース、又はマンノースの残基である上記の方法が提供される。
【0016】
さらに別の観点からは、本発明により、下記一般式(IIIa)又は(IIIb);
【化4】

(式中、R1、R2、R3、及びRAは上記と同義であり、RBは糖化合物残基(該糖化合物残基は、糖化合物が単糖化合物である場合には任意の水酸基から水素原子を除いた残基を示し、糖化合物が単糖化合物以外の糖化合物である場合には糖化合物を構成する複数の糖化合物のうち還元末端の糖化合物における任意の水酸基から水素原子を除いた残基を示し、糖化合物残基は1個又は2個以上の保護基を有していてもよい)を示す)で表される化合物が提供される。
【0017】
上記発明の好ましい態様によれば、R1及びR2がそれらがそれぞれ結合する窒素原子及び炭素原子とともに5員環の環状構造を形成する上記の化合物;R3がフェニル基である上記の化合物;RAとOとの結合がα結合である上記の化合物;糖化合物残基が還元糖の残基である上記の化合物;糖化合物の残基がグルコース、ガラクトース、又はマンノースの残基である上記の化合物;RBが示す糖化合物残基が糖化合物で単糖化合物である場合には6位又は4位の水酸基から水素原子を除いた残基を示し、糖化合物が単糖化合物以外の糖化合物である場合には糖化合物を構成する複数の糖化合物のうち還元末端の糖化合物における6位又は4位の水酸基から水素原子を除いた残基を示す(糖化合物残基は1個又は2個以上の保護基を有していてもよい)上記の化合物が提供される。
【0018】
また、別の観点からは、本発明により、下記一般式(IVa)又は(IVb);
【化5】

(式中、R1、R2、R3、RA、及びRBは上記と同義であり、Xはイオウ原子、→BH3、又はセレン原子を示す)で表される化合物が提供される。
【0019】
上記発明の好ましい態様によれば、R1及びR2がそれらがそれぞれ結合する窒素原子及び炭素原子とともに5員環の環状構造を形成する上記の化合物;R3がフェニル基である上記の化合物;RAとOとの結合がα結合である上記の化合物;糖化合物残基が還元糖の残基である上記の化合物;糖化合物の残基がグルコース、ガラクトース、又はマンノースの残基である上記の化合物;RBが示す糖化合物残基が糖化合物が単糖化合物である場合には6位又は4位の水酸基から水素原子を除いた残基を示し、糖化合物が単糖化合物以外の糖化合物である場合には糖化合物を構成する複数の糖化合物のうち還元末端の糖化合物における6位又は4位の水酸基から水素原子を除いた残基を示す(糖化合物残基は1個又は2個以上の保護基を有していてもよい)上記の化合物;Xがイオウ原子又は→BH3である上記の化合物が提供される。
【0020】
さらに、本発明により、下記一般式(Va)又は(Vb);
【化6】

(式中、RA及びRBは上記と同義であり、X'はH、S-、BH3-、OR11(R11は炭素数1〜4のアルキル基を示す)、又はN(R12)(R13)(R12及びR13はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示す)を示す)で表される化合物が提供される。
【0021】
上記発明の好ましい態様によれば、RAとOとの結合がα結合である上記の化合物;糖化合物残基が還元糖の残基である上記の化合物;糖化合物の残基がグルコース、ガラクトース、又はマンノースの残基である上記の化合物;RBが示す糖化合物残基が糖化合物が単糖化合物である場合には6位又は4位の水酸基から水素原子を除いた残基を示し、糖化合物が単糖化合物以外の糖化合物である場合には糖化合物を構成する複数の糖化合物のうち還元末端の糖化合物における6位又は4位の水酸基から水素原子を除いた残基を示す(糖化合物残基は1個又は2個以上の保護基を有していてもよい)上記の化合物;X'がS-又はBH3-である上記の化合物が提供される。
【0022】
また、本発明により、
(1)一般式(Va)又は(Vb)で表される化合物の製造方法であって、下記の工程:
(a)上記RA-OH (RAは上記と同義である)で表される化合物と上記の一般式(IIa)又は(IIb)(RAは上記と同義である)で表される化合物とを反応させて上記一般式(Ia)又は(Ib)で表される糖1-オキサザホスホリジン化合物を製造する工程;
(b)上記工程(a)で得られた上記一般式(Ia)又は(Ib)で表される糖1-オキサザホスホリジン化合物をRB-OH(RBは上記と同義である)で表される糖化合物と反応させて上記一般式(IIIa)又は(IIIb)で表される化合物を製造する工程;
(c)上記工程(b)で得られた上記一般式(IIIa)又は(IIIb)で表される化合物とX(Xは上記と同義である)と反応させて一般式(IVa)又は(IVb)で表される化合物を製造する工程;及び
(d)上記工程(c)で得られた一般式(IVa)又は(IVb)で表される化合物から上記のR1-NH-C(R2)-C(R3)-で表される基を脱保護する工程
を含む方法が提供される。
【0023】
さらに、本発明により、
(2)一般式(Va)又は(Vb)で表される化合物の製造方法であって、下記の工程:
(b)上記一般式(Ia)又は(Ib)で表される糖1-オキサザホスホリジン化合物をRB-OH(RBは上記と同義である)で表される糖化合物と反応させて上記一般式(IIIa)又は(IIIb)で表される化合物を製造する工程;
(c)上記工程(b)で得られた上記一般式(IIIa)又は(IIIb)で表される化合物とX(Xは上記と同義である)と反応させて一般式(IVa)又は(IVb)で表される化合物を製造する工程;及び
(d)上記工程(c)で得られた一般式(IVa)又は(IVb)で表される化合物から上記のR1-NH-C(R2)-C(R3)-で表される基を脱保護する工程
を含む方法、
【0024】
(3)一般式(Va)又は(Vb)で表される化合物の製造方法であって、下記の工程:
(c)上記一般式(IIIa)又は(IIIb)で表される化合物とX(Xは上記と同義である)と反応させて一般式(IVa)又は(IVb)で表される化合物を製造する工程;及び
(d)上記工程(c)で得られた一般式(IVa)又は(IVb)で表される化合物から上記のR1-NH-C(R2)-C(R3)-で表される基を脱保護する工程
を含む方法、並びに
(4)一般式(Va)又は(Vb)で表される化合物の製造方法であって、下記の工程:
(d)一般式(IVa)又は(IVb)で表される化合物から上記のR1-NH-C(R2)-C(R3)-で表される基を脱保護する工程
を含む方法が提供される。
【発明の効果】
【0025】
本発明の方法により、グルコース、マンノース等の骨格を有するアノマー水酸基遊離の糖誘導体と2-クロロ-1,3,2-オキサザホスホリジン誘導体などの光学活性試薬とを反応させることによりグリコシルオキサザホスホリジン誘導体を製造し、さらにリン原子を硫黄やホウ素を含む置換基によって修飾することにより、種々の糖1-リン酸誘導体を立体選択的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
上記一般式(Ia)及び(Ib)において、R1は炭素数1〜4個のアルキル基を示し、R2は水素原子、炭素数1〜4個のアルキル基、又は炭素数6〜14個のアリール基を示し、R3は水素原子、炭素数1〜4個のアルキル基、又は炭素数6〜14個のアリール基を示す。
【0027】
本明細書において、アルキル基は直鎖状、分枝鎖状、環状、又はそれらの組み合わせからなるアルキル基のいずれであってもよい。アルキル基の炭素数は1〜4個であり、好ましくは炭素数1〜3程度である。アルキル基は1個又は2個以上の不飽和結合(二重結合又は三重結合)を含んでいてもよく、2個以上の不飽和結合を含む場合には、それらは共役していても非共役であってもよい。二重結合と三重結合を適宜組合わせて含んでいてもよい。アルキル基は任意の位置に1個又は2個以上の置換基を有していてもよく、2個以上の置換基を有する場合にはそれらは同一でも異なっていてもよい。例えば、ハロゲン原子、水酸基、オキソ基、シアノ基、カルボキシル基、アミノ基、フェニル基などのアリール基、又はピリジル基などのヘテロアリール基などを有していてもよく、これらの置換基はさらに別の置換基を有していてもよい。置換基を有するアルキル基の例としては、例えばベンジル基やシアノエチル基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。好ましくは炭素数1〜3個程度の直鎖又は分枝鎖アルキル基を用いることができる。R11が示すアルキル基についても同様である。
【0028】
R1及びR2はそれらがそれぞれ結合する窒素原子及び炭素原子とともに炭素数3〜16個の環状構造を形成してもよく、好ましくは1個の環構成窒素原子を含む4〜7員環を用いることができる。上記の環状構造は1個又は2個以上の不飽和結合を含んでいてもよく、上記の環構成窒素原子以外に、例えば酸素原子、イオウ原子、又は窒素原子などからなる群から選ばれる環構成ヘテロ原子を1個又は2個以上含んでいてもよい。環状構造には置換基が1個又は2個以上存在していてもよいが、置換基としては上記のアルキル基について言及したものなどを用いることができる。好ましくはR1及びR2はそれらがそれぞれ結合する窒素原子及び炭素原子とともに飽和の5又は6員環を形成することができ、特に好ましくはR1及びR2はそれらがそれぞれ結合する窒素原子及び炭素原子とともに飽和の5員環を形成することができる。1,3,2-オキサザホスホリジン骨格を形成することが好ましい。
【0029】
RA−O-は糖化合物残基(糖化合物の1個の水酸基から水素原子を除いた残りの基のことである)を示すが、RAとOとの結合はα結合又はβ結合のいずれかであり、該糖化合物残基は、糖化合物が単糖化合物である場合には1位の水酸基から水素原子を除いた残基を示し、糖化合物が単糖化合物以外の糖化合物である場合には糖化合物を構成する複数の糖化合物のうち還元末端の糖化合物における1位の水酸基から水素原子を除いた残基を示し、糖化合物残基は1個又は2個以上の保護基を有していてもよい。糖化合物残基を構成する糖化合物は、水酸基のほか、アミノ基(アルキル基やアセチル基などの置換基を有していてもよい)などの官能基を有していてもよい。糖化合物残基を構成する糖化合物の水酸基やアミノ基などの官能基は適宜の保護基を有していてもよい。保護基の種類は特に限定されないが、一般的には、アセチル基、ベンジル基、ベンゾイル基、ピバロイル基、トリメチルシリル基、Tert-ブチルジメチルシリル基、エーテル保護基など適宜の保護基を1種又は2種以上組合わせて用いることができる。糖化合物の保護基についてはGreenら、Protective Groups in Organic Synthesis, 3rd Edition, 1999, John Wiley & Sons, Inc.などの成書を参照することができる。
【0030】
糖化合物残基を構成する糖化合物の種類は特に限定されず、単糖化合物又は二糖以上のオリゴ糖又は多糖類のいずれであってもよい。例えば、アロース、タロース、グロース、グルコース、アルトロース、マンノース、ガラクトース、イドース、フルクトース、リボース、リキソース、キシロース、アラビノース、アピオース、エリトロース、トレオース、グリセルアルデヒド、セドヘプツロース、コリオース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、リブロース、キシルロース、エリトルロース、ジヒドロキシアセトン、トレハロース、コージビオース、ニゲロース、マルトース、イソマルトース、イソトレハロース、ソホロース、ラミナリビオース、セロビオース、メリビオース、ゲンチオビオース、ラクトース、スクロース、デオキシリボース、フコース、ラムノース、グルクロン酸、ガラクツロン酸、グルコサミン、ガラクトサミン、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルマンノサミン、N-アセチルラクトサミン、グリセリン、キシリトール、ソルビトール、アスコルビン酸、グルクロノラクトン、グルコノラクトン、デンプン、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、セルロース、ペクチン、グルコマンナン、又はイズロン酸など、あるいはその立体異性体などが上げられるが、これらに限定されることはない。
【0031】
RBが示す糖化合物残基を構成する糖化合物も上記と同様である。RBが示す糖化合物残基は、糖化合物が単糖化合物である場合には任意の水酸基から水素原子を除いた残基を意味し、糖化合物が単糖化合物以外の糖化合物である場合には糖化合物を構成する複数の糖化合物のうち還元末端の糖化合物における任意の水酸基から水素原子を除いた残基を意味する。好ましくはRBが示す糖化合物残基は、糖化合物が単糖化合物である場合には6位又は4位、好ましくは6位の水酸基から水素原子を除いた残基を意味し、糖化合物が単糖化合物以外の糖化合物である場合には糖化合物を構成する複数の糖化合物のうち還元末端の糖化合物における6位又は4位、好ましくは6位の水酸基から水素原子を除いた残基を意味する。
【0032】
一般式(IVa)又は(IVb)で表される化合物においてXはイオウ原子、→BH3、又はセレン原子を示す。また、一般式(Va)又は(Vb)で表される化合物においてX'はH、S-、BH3-、OR11、又はN(R12)(R13)(R12及びR13はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示す)を示す。
【0033】
本発明により提供される一般式(Va)又は(Vb)で表される化合物の製造方法は、下記の工程:
(a)上記RA-OH (RAは上記と同義である)で表される化合物と上記の一般式(IIa)又は(IIb)(RAは上記と同義である)で表される化合物とを反応させて上記一般式(Ia)又は(Ib)で表される糖1-オキサザホスホリジン化合物を製造する工程;
(b)上記工程(a)で得られた上記一般式(Ia)又は(Ib)で表される糖1-オキサザホスホリジン化合物をRB-OH(RBは上記と同義である)で表される糖化合物と反応させて上記一般式(IIIa)又は(IIIb)で表される化合物を製造する工程;
(c)上記工程(b)で得られた上記一般式(IIIa)又は(IIIb)で表される化合物とX(Xは上記と同義である)と反応させて一般式(IVa)又は(IVb)で表される化合物を製造する工程;及び
(d)上記工程(c)で得られた一般式(IVa)又は(IVb)で表される化合物から上記のR1-NH-C(R2)-C(R3)-で表される基を脱保護する工程
を含むことを特徴としている。
【0034】
上記方法の工程(a)において2-クロロ-1,3,2-オキサザホスホリジン誘導体(R1及びR2がそれらがそれぞれ結合する窒素原子及び炭素原子とともに5員環の環状構造を形成しており、R3がフェニル基である化合物)を光学活性試薬として用いて一般式(Va)又は(Vb)で表される化合物を製造する方法を本発明の方法の好ましい一態様として以下のスキームに示し、このスキームに従って本発明の方法を具体的に説明するが、このスキームに示された方法は本発明の理解を助けるために提示したものであり、本発明の方法は下記スキームに記載された方法に限定されることはない。スキーム中、Phはフェニル基を示す。
【0035】
【化7】

【0036】
上記工程(a)において用いる2-クロロ-1,3,2-オキサザホスホリジン誘導体は公知化合物であり、例えばJ. Am. Chem. Soc., 130, pp.16031-16037, 2008などの文献を参照することにより容易に入手することができる。2-クロロ-1,3,2-オキサザホスホリジン誘導体と糖化合物(RA-OH)との反応は、例えばトリエチルアミンなどの有機アミンの存在下においてテトラヒドロフランなどの不活性溶媒中で行うことができる。反応温度は特に限定されないが、例えば-78℃から室温程度の範囲、好ましくは-78℃で行うことができる。この反応により、極めて高収率にかつ高い立体選択性で一般式(Ia)又は(Ib)で表される糖1-オキサザホスホリジン化合物を製造することができる。上記工程において用いられる一般式(IIa)及び(IIb)で表される化合物は光学対掌体の関係にあり、これらの化合物を糖化合物(RA-OH)と反応させることにより、リン原子上に不斉中心が誘導され、それぞれ光学活性体である一般式(Ia)又は(Ib)で表される化合物が得られる。
【0037】
上記工程(b)においては、工程(a)で得られた糖1-オキサザホスホリジン化合物をモノマーとして用い、この化合物に対して糖化合物(RB-OH)を反応させて一般式(IIIa)又は(IIIb)で表される化合物を得ることができる。反応は、糖化合物(RB-OH)において結合を形成させたい水酸基のみを未保護とし、残りの水酸基やアミノ基などの反応性官能基を適宜の保護基で修飾した糖化合物を用いて、目的の水酸基に糖1-オキサザホスホリジン化合物を反応させる。反応は、例えばN-(シアノメチル)ピロリジニウムトリフルオロメタンスルホネート(CMPT)を縮合剤として用いて、例えばアセトニトリルなどの不活性溶媒中で行うことができる。反応は、例えば氷冷下から加温下、好ましくは室温下程度の温度で行うことができる。この反応も立体選択的に進行して、高収率及び高い立体選択性で目的物(一般式(IIIa)又は(IIIb)で表される化合物)を製造することができる。
【0038】
つづいて、工程(b)で得られた一般式(上記一般式(IIIa)又は(IIIb)で表される化合物とXとを反応させて一般式(IVa)又は(IVb)で表される化合物を製造することができる。Xとしてはイオウ原子又は→BH3などをあげることができるが、これらに限定されることはない。例えば、イオン原子の導入は、ジメチルチウラムジスルフィド(DTD)などの試薬を用いて公知の方法(文献:J. Am. Chem. Soc., 130, pp.16031-16037, 2008)により行うことができ、→BH3の導入はボランーテトラヒドロフラン錯体などの試薬を用いて公知の方法(文献;Bioorg. Med. Chem. Lett., 16, pp.3111-3114, 2006)により行うことができる。
【0039】
得られたXが→BH3である一般式(IVa)又は(IVb)で表される化合物を塩基で処理することによりX’が→BH3である一般式(Va)又は(Vb)で表される化合物を製造することができる。塩基の種類は特に限定されないが、例えばトリエチルアミン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、又は1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)などの有機アミンを用いることが好ましい。反応はアセトニトリルやTHFなどの不活性溶媒の存在下に例えば氷冷下から室温程度の反応温度で1時間から1日程度で完了する。
【0040】
さらに、Xが→BH3である上記の一般式(Va)又は(Vb)で表される化合物から、X'が水素原子、アルキル基(該アルキル基は置換基を有していてもよく、不飽和結合を含んでいてもよい)、アミノ基(該アミノ基は置換基を有していてもよい)、イオウ原子、酸素原子、ハロゲン原子、又はセレン原子である化合物を製造することができる。この方法については、Org. Lett., 10, pp.1557-1560, 2008及び特願2008-150792号明細書に具体的に説明されているので、上記刊行物及び特許出願の明細書の開示の全てを参照により本明細書の開示として含める。この方法は、一般的には、上記一般式(IVa)又は(IVb)で表される糖1-ボラノホスフェート化合物をトリチルカチオンで処理して脱ボラン化してH-ホスホネートジエステル化合物を製造する工程を含んでおり、さらに必要に応じて上記のH-ホスホネートジエステル化合物にX'で表される基を導入する工程を含む。
【0041】
脱ボラン化により得られたX'が水素原子であるH-ホスホネートジエステル化合物は化学的に不安定であるが、この化合物に対してX'として水素原子以外の基を導入することにより安定化することができる。この反応はH-ホスホネートジエステル化合物からリン原子が修飾されたリン酸化合物を製造する方法として公知の方法を適宜適用することができる。この反応により、例えば、グリコシルホスホロチオエート、グリコシルホスホロアミダイト、グリコシルアルキルホスホネート、グリコシルホスホロフルオリダイト、又はグリコシルホスホロセレノエートなどの糖1-リン酸化合物を製造することができる。糖1-ボラノホスフェート化合物からグリコシルホスホロチオエート、グリコシルホスホロアミダイト、グリコシルアルキルホスホネート、グリコシルホスホロフルオリダイト、又はグリコシルホスホロセレノエートなどの糖1-リン酸化合物を製造する工程については、例えば特開2010-235593号公報に開示されている。上記公報の開示の全てを参照により本明細書の開示に含める。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。下記実施例においてBnはベンジル基を示し、Phはフェニル基を示す。
例1:(Rp)-2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-α-D-マンノピラノシド 1-O-オキサザホスホリジン モノマー [(Rp)-1]
【化8】

【0043】
共沸乾燥した2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-α-D-マンノース (108 mg, 0.200 mmol) のテトラヒドロフラン(THF, 1.00 ml) 溶液にトリエチルアミン (0.194 ml, 1.40 mmol) を加えて-78℃で撹拌し、(4R,5S)-2-クロロ-1,3,2-オキサザホスホリジン (145 mg, 0.600 mmol) のTHF (0.900 ml) 溶液を滴下した。滴下後、反応系を室温まで昇温し、30分撹拌した。その後、反応溶液をクロロホルムによって希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液によって洗浄、洗液をクロロホルムによって抽出し、集めた有機層を硫酸ナトリウムによって乾燥した。乾燥剤を濾別し、溶媒を減圧溜去することにより、(Rp)-1を粗生成物として得た。さらに、NH-シリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン : 酢酸エチル = 5 : 1, v/v, トリエチルアミン 4%) での精製操作により、純粋な(Rp)-1を定量的に得た。
1H NMR (CDCl3) δ 1.10-1.20 (m, 1H), 1.60-1.65 (m, 2H), 3.05-3.20 (m, 1H), 3.48-4.06 (m, 9H), 4.44-4.91 (m, 8H), 5.62 (dd, J =7.7, 1.8 Hz, 1H), 5.79 (d, J =6.3 Hz, 1H), 7.15-7.40 (m, 25H)
31P NMR δ 150.4
【0044】
例2:(Sp)-2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-α-D-マンノピラノシド 1-O-オキサザホスホリジン モノマー [(Sp)-1]
【化9】

【0045】
共沸乾燥した2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-α-D-マンノース (108 mg, 0.200 mmol) のTHF (1.00 ml) 溶液にトリエチルアミン (0.194 ml, 1.40 mmol) を加えて-78℃で撹拌し、(4S,5R)-2-クロロ-1,3,2-オキサザホスホリジン (145 mg, 0.600 mmol) のTHF (0.900 ml) 溶液を滴下した。滴下後、反応系を室温まで昇温し、30分撹拌した。その後、反応溶液をクロロホルムによって希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液によって洗浄、洗液をクロロホルムによって抽出し、集めた有機層を硫酸ナトリウムによって乾燥した。乾燥剤を濾別し、溶媒を減圧溜去することにより、(Sp)-1を粗生成物として得た。さらに、NH-シリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン : 酢酸エチル = 44 : 5, v/v, トリエチルアミン 2%) での精製操作により、純粋な(Sp)-1を収率26%で得た。
1H NMR (CDCl3) δ 0.88-1.20 (m, 2H), 1.55-1.62 (m, 2H), 3.15-3.20 (m, 1H), 3.51-4.09 (m, 9H), 4.44-4.88 (m, 8H), 5.59 (dd, J =6.9, 1.8 Hz, 1H), 5.73 (d, J =6.6 Hz, 1H), 7.14-7.39 (m, 25H)
31P NMR δ 156.0
【0046】
例3:(Sp)-テトラエチルアンモニウム 2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-α-D-マンノース-1-イル 1-チオフェニル-2,3,4-トリ-O-ベンジル-α-D-グルコース-6-イル ホスホロチオエート [(Sp)-2]
【化10】

【0047】
(Rp)-1 (74.6 mg, 0.100 mmol) と1-チオフェニル-2,3,4-トリ-O-ベンジル-α-D-グルコース (54.3 mg, 0.100 mmol) を混合して真空乾燥し、前日からモレキュラーシーブによる脱水操作を行なっておいたN-(シアモメチル)ピロリジニウムトリフルオロメタンスルホネート (CMPT) (52.0 mg, 0.200 mmol) のアセトニトリル (1.00 ml) 溶液を室温で加え、1時間撹拌した。この反応溶液にジメチルチウラムジスルフィド (DTD) (63.7mg, 0.300 mmol) を室温で加えた。30分後、25%アンモニア水-ピリジン (5 : 1, v/v) 100 mlを加え、反応容器を密栓した上で55度に加熱し、終夜撹拌した。アンモニアの減圧溜去し、0.1 M トリエチルアンモニウム炭酸水素バッファーによって塩交換を行ないつつジクロロメタンによる抽出を行ない、集めた有機層を硫酸ナトリウムによって乾燥した。乾燥剤を濾別し、溶媒を減圧溜去することにより、(Sp)-2を粗生成物として得た。
31P NMR δ 56.5 (major product)
【0048】
例4:(Rp)-テトラエチルアンモニウム 2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-α-D-マンノース-1-yl 1-チオフェニル-2,3,4-トリ-O-ベンジル-α-D-グルコース-6-イル ホスホロチオエート [(Rp)-2]
【化11】

【0049】
(Sp)-1 (74.6 mg, 0.100 mmol) と1-チオフェニル-2,3,4-トリ-O-ベンジル-α-D-グルコース (54.3 mg, 0.100 mmol) を混合して真空乾燥し、前日からモレキュラーシーブによる脱水操作を行なっておいたN-(シアノメチル)ピロリジニウムトリフルオロメタンスルホネート (CMPT) (52.0 mg, 0.200 mmol) のアセトニトリル (1.00 ml) 溶液を室温で加え、1時間撹拌した。この反応溶液にジメチルチウラムジスルフィド (DTD) (63.7 mg, 0.300 mmol) を室温で加えた。30分後、25%アンモニア水-ピリジン (5 : 1, v/v) 100 mlを加え、反応容器を密栓した上で55度に加熱し、終夜撹拌した。アンモニアの減圧溜去し、0.1 M トリエチルアンモニウム炭酸水素バッファーによって塩交換を行ないつつジクロロメタンによる抽出を行ない、集めた有機層を硫酸ナトリウムによって乾燥した。乾燥剤を濾別し、溶媒を減圧溜去することにより、(Rp)-2を粗生成物として得た。さらに、シリカゲルカラムクロマトグラフィー (ジクロルメタン/メタノール 0.5%/トリエチルアミン 0.5%) での精製操作により、純粋な(Rp)-2を収率39%で得た。
1H NMR δ 3.37-4.11 (m, 12H), 4.20-4.92 (m, 15H), 6.04 (dd, J =10.5, 1.8 Hz, 1H), 7.14-7.57 (m, 40H)
31P NMR δ 57.1
【0050】
例5:(Rp)-2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-α-D-グルコピラノシド 1-O-オキサザホスホリジン モノマー [(Rp)-3].
【化12】

【0051】
アノマー異性体比α:β = 80:20の2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-α-D-グルコースに対して、酢酸エチルからの再結晶を2回行なうことで、アノマー異性体比α: β= 96:4の2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-α-D-グルコースを得た。これを原料とし、(Rp)-1同様の合成手法、及び精製手法によって純粋な(Rp)- 3 (α: β= 94:6) を定量的に得た。
1H NMR (CDCl3) δ 1.10-1.18 (m, 1H), 1.64-1.73 (m, 2H), 3.18-3.21 (m, 1H), 3.56-4.06 (m, 9H), 4.38-4.99 (m, 8H), 5.65 (dd, J =8.3, 3.6 Hz, 1H), 5.94 (d, J =6.6 Hz, 1H), 7.12-7.35 (m, 25H)
31P NMR δ 149.3 (α isomer), 157.3 (α isomer)
【0052】
例6:(Sp)-テトラエチルアンモニウム 2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-α-D-グルコース-1-イル 1-チオフェニル-2,3,4-tri-O-ベンジル-α-D-グルコース-6-イル ホスホロチオエート [(Sp)-4]
【化13】

【0053】
(Rp)-3 (α: β= 94:6) を原料とし、(Sp)-2同様の合成手法で(Sp)-4を粗生成物として得た。本合成では(Rp)-3をグリコシルアクセプターに対して1.2当量使用した。
31P NMR δ 57.8 (major product)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(Ia)又は(Ib):
【化1】

〔式中、R1は炭素数1〜4個のアルキル基を示し、R2は水素原子、炭素数1〜4個のアルキル基、又は炭素数6〜14個のアリール基を示し、R3は水素原子、炭素数1〜4個のアルキル基、又は炭素数6〜14個のアリール基を示すが、R1及びR2はそれらがそれぞれ結合する窒素原子及び炭素原子とともに炭素数3〜16個の環状構造を形成してもよく;RA−O-は糖化合物残基(RAとOとの結合はα結合又はβ結合のいずれかであり、該糖化合物残基は、糖化合物が単糖化合物である場合には1位の水酸基から水素原子を除いた残基を示し、糖化合物が単糖化合物以外の糖化合物である場合には糖化合物を構成する複数の糖化合物のうち還元末端の糖化合物における1位の水酸基から水素原子を除いた残基を示し、糖化合物残基は1個又は2個以上の保護基を有していてもよい)を示す〕で表される糖1-オキサザホスホリジン化合物。
【請求項2】
R1及びR2がそれらがそれぞれ結合する窒素原子及び炭素原子とともに5員環の環状構造を形成し、かつR3がフェニル基である請求項1に記載の糖1-オキサザホスホリジン化合物。
【請求項3】
一般式(IIIa)又は(IIIb);
【化2】

(式中、R1、R2、R3、及びRAは上記と同義であり、RBは糖化合物残基(該糖化合物残基は、糖化合物が単糖化合物である場合には任意の水酸基から水素原子を除いた残基を示し、糖化合物が単糖化合物以外の糖化合物である場合には糖化合物を構成する複数の糖化合物のうち還元末端の糖化合物における任意の水酸基から水素原子を除いた残基を示し、糖化合物残基は1個又は2個以上の保護基を有していてもよい)を示す)で表される化合物。
【請求項4】
一般式(IVa)又は(IVb);
【化3】

(式中、R1、R2、R3、RA、及びRBは上記と同義であり、Xはイオウ原子、→BH3、又はセレン原子を示す)で表される化合物。
【請求項5】
一般式(Va)又は(Vb);
【化4】

(式中、RA及びRBは上記と同義であり、X'はH、S-、BH3-、OR11(R11は炭素数1〜4のアルキル基を示す)、又はN(R12)(R13)(R12及びR13はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示す)を示す)で表される化合物。
【請求項6】
請求項5に記載の一般式(Va)又は(Vb)で表される化合物の製造方法であって、下記の工程:
(a)RA-0 (RAは上記と同義である)で表される化合物と上記一般式(IIa)又は(IIb)(RAは上記と同義である)で表される化合物とを反応させて上記一般式(Ia)又は(Ib)で表される糖1-オキサザホスホリジン化合物を製造する工程;
(b)上記工程(a)で得られた上記一般式(Ia)又は(Ib)で表される糖1-オキサザホスホリジン化合物をRB-OH(RBは上記と同義である)で表される糖化合物と反応させて上記一般式(IIIa)又は(IIIb)で表される化合物を製造する工程;
(c)上記工程(b)で得られた上記一般式(IIIa)又は(IIIb)で表される化合物とX(Xは上記と同義である)とを反応させて一般式(IVa)又は(IVb)で表される化合物を製造する工程;及び
(d)上記工程(c)で得られた一般式(IVa)又は(IVb)で表される化合物から上記のR1-NH-C(R2)-C(R3)-で表される基を脱保護する工程
を含む方法。