説明

糞便懸濁液作製用容器

【課題】 糞便中の剥離がん細胞を迅速、簡便、かつ、安全に回収するための糞便懸濁・ろ過用容器を提供する。
【解決手段】 糞便を破砕し、懸濁する部位と、懸濁した糞便をろ過するフィルターと、フィルターを通したろ液を回収する部位が一体化した容器であり、糞便を採取した容器を接続して使用することも出来る糞便懸濁用容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は大腸がん検査に使用する糞便を採取する糞便採取キット、及び採取した糞便を懸濁・濾過する糞便処理キットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
欧米諸国では、大腸がんは常に癌死亡率の上位を占めている。日本でも大腸がんの患者数は近年急激に増加している。これは日本人の食生活が肉食中心の欧米型になったことに原因があると考えられている。日本国内では毎年約6万人が大腸がんに羅患しており、臓器別の死亡数でも、胃がん、肺がんに続く3番目の多さであり、今後の増加も予想されている。しかし他のがんと異なり、大腸がんは早期がんであれば手術により、完全に治せる可能性が高いことが知られている。従って、大腸がんは早期がん検診の対象として有望であり、数多くの検査法が考案されてきた。
【0003】
現在大腸がんの早期発見を目指した検査法として注腸検査や内視鏡検査などが行なわれている。注腸検査とはバリウムを大腸内に注入し、大腸の粘膜面に付着させ、その表面の凹凸をX線により調べる方法である。内視鏡検査は大腸の中を直接内視鏡で調べる方法である。特に内視鏡検査は大腸がんの発見に対して、高い感度と特異性を有しており、事実上の確定検査法である。加えて、検査中に早期がんや前がん状態のポリープを切除できる利点も有している。
【0004】
しかし、これらの検査法はコストが高い上に、被験者への負担が大きい上に、合併症のリスクを伴っている。さらに内視鏡検査では操作に熟練を要し、検査の出来る施設が限られている。従ってこれらの方法は無症状の一般人を対象にした大腸がんスクリーニング検査には向いていない。
【0005】
そこで、大腸がんスクリーニング検査法として、簡便で、検査コストも低い便潜血検査が広く利用されている。便潜血検査とは糞便に含まれるヘモグロビンの存在を調べることにより、腸内の出血の有無を診断し、間接的に大腸がんの存在の有無を検査する方法である。
【0006】
現在広く実施されている便潜血検査ではあるが、一方で検査の有用性に対して疑問の声も上がっている。便潜血検査の感度はばらつきが大きく約25%とであるとの報告もあり、大腸がん患者を見落とす確率が高い。加えて、陽性的中率も低く、便潜血検査陽性の被験者の中で実際に大腸がん患者である割合は10%以下であり、多くの偽陽性を含んでいる。そのため、より信頼性の高い新たな検査法の開発が強く望まれている。
【0007】
そこで、新しい大腸がん検査法として、便中に剥離したがん細胞を利用した検査方法に注目が集まっている。大腸がんに伴い、間接的におこる腸内の出血を調べる便潜血検査法に比べて、本方法は直接がん細胞の存在を調べるため、原理的に信頼性の高い検査法になり得ると考えられる。
【0008】
上記の剥離した細胞を利用した検査方法では、糞便中からがん細胞に由来する核酸または蛋白を直接抽出し、それを検査対象にする戦略と、実際にがん細胞自体を回収し、検査対象にする戦略の2種類が考えられる。がん細胞由来産物を濃縮できるという点では、後者のがん細胞を回収する戦略が有利である。
【0009】
大腸内剥離がん細胞の回収方法ではパーコールを利用した回収法や(下記非特許文献1、2、3)、凍結させた便の表面からがん細胞を回収する方法が考案されている(下記特許文献1、非特許文献4、5、6)。また糞便からの細胞回収に関する便処理のトータルシステムも考案されている(特許文献2)。
【0010】
【特許文献1】WO97/09600号公報
【0011】
【特許文献2】特願2003−281978
【非特許文献1】Int.J.Cancer、 Vol.52、 347-350、 1992
【非特許文献2】Gastroenterology、 Vol.114、 1196-1205、 1998
【非特許文献3】International Journal of Molecular Medicine、 Vol.13、 451-454、 2004
【非特許文献4】Clinical Cancer Research、 Vol.4、 337-342、 1998
【非特許文献5】The Lancet、 Vol.359、 1917-1919、 2002
【非特許文献6】APMIS、 Vol.110、 239-246、 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
糞便から大腸がん細胞を回収するためには、始めに糞便の懸濁液を作製する必要がある。現在行われている方法は、糞便と懸濁用の溶液を袋に入れ、ストマッカーと呼ばれる固形物をマイルドに粉砕できる装置を使用して懸濁液を作製している(特許文献1、2)。特許文献2では、さらに糞便懸濁液を漏斗型フィルターにより、濾過し、その濾液中から大腸がん細胞を回収している。
【0013】
しかし、これらの方法では採取糞便のストマッカー処理あるいは懸濁液の濾過処理の工程が開放系であるため、周囲への臭いの漏れや、糞便懸濁液が周りに飛散するなどの問題が生じる。さらにマニュアル操作のステップが多いため、大量検体の処理には向いていない等の問題点も存在する。
【0014】
また従来の便潜血検査用の糞便検体の回収、懸濁容器を本方法に利用した場合、細胞の回収に必要な便量を得ることができない。便潜血検査は、少量の糞便(0.1g以下)で検出可能であるが、糞便から細胞を回収するためには少なくとも0.5g以上の糞便が必要であると考えられる。
【0015】
本発明は、糞便中の剥離がん細胞を迅速、簡便、かつ、安全に回収するための糞便回収容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、糞便の採取、粉砕、懸濁、濾過の一連の過程を一体化した糞便採取キット及び糞便処理キットにより上記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
【0017】
本発明の糞便採取キットは、糞便採取容器と、糞便採取容器との結合部を有する収納筒体からなる収納容器とで構成される。又、本発明の糞便処理キットは、糞便採取容器と、糞便採取容器の結合部とシリンジ収納部と、懸濁部と、濾液受け容器と、フィルターからなる糞便処理容器本体で構成される。
【0018】
糞便処理キットは、糞便を破砕し、懸濁する懸濁部と、懸濁した糞便を濾過するフィルターと、フィルターを通した濾液を回収する濾液受け容器が一体化した構造をとる。さらに糞便採取容器を取り付け、採取した糞便を糞便処理キット本体内に押し出すことが可能である。
【0019】
粉砕、懸濁、濾過のステップは糞便処理キットを振とうすることにより、同時に行う。さらにこのステップは糞便処理キットを振とう装置に装着することにより、自動化することも可能である。
【発明の効果】
【0020】
糞便の採取、粉砕、懸濁、濾過の一連の過程を一体化にした本発明により、糞便の濾過液を得る一連の操作を簡便かつ、短時間に行うことができる。さらに、糞便の懸濁を閉鎖系で行うことが出来るため、サンプルの飛散の危険性が低く、操作者に対する安全性を高めることができる。加えて、糞便からがん細胞を回収するために必要な多量の便(0.5g以上)を処理できる。更に、これらの一連の操作を自動化し、多検体処理を行うことも可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の糞便採取キット及び糞便処理キットの具体的構造とその使用方法を示す。
<糞便採集>
図1は本発明の糞便採取及び、糞便処理キットを構成する容器部分の断面図である。糞便採取容器1は、シリンジ2状の構造をしており、採取容器使用時に容器を保持する取っ手3を有している。シリンジ2の先端部は糞便に付き差す部分であり、シリンジ2の内部は空洞になっている。収納容器4は、該糞便採取容器と結合できる他方の結合部位5を有し、該糞便採取容器を収納できる収納筒体6からなる。
【0022】
図2(A)は糞便採取の状態を示した図である。糞便採取容器1のシリンジ2先端部分を糞便7に突き刺すことにより、シリンジ2内に糞便を押し込み、採取することが出来る。さらに採取容器を糞便に複数回突き刺すことにより、複数部位の糞便を採取するとともに、細胞検査に必要な0.5g以上の糞便を採取することが可能である。
【0023】
図2(B)は糞便を採取した糞便採取容器1を収納容器4に装着する操作を示した図である。収納容器4は、中に糞便採取容器1を収納することが出来る。糞便採取容器1は収納容器4にねじ込み式にはめることでき、糞便を密閉することが出来る。
【0024】
図2(C)は、収納容器4に糞便採取容器1をはめ込んだ図である。この状態で、次の操作に備えて保存、運搬することが可能である。運搬は通常の封筒等に入れて、郵便や宅配便で行うことが可能である。運搬用に、保冷剤を組み込んだ糞便採取容器専用箱を使用することも可能である。専用箱は糞便収納容器の形に合わせて作製できるため、少ないスペースで多検体を運搬することができる。
<糞便懸濁・濾過>
図3は、糞便処理容器本体8の断面図を示したものであり、糞便処理容器本体8は、シリンジ収納部9、懸濁部10、濾液受け容器11で構成されている。シリンジ収納部9の上部には糞便採取容器1との結合部12を有し、ねじ込み式に糞便採取容器1と糞便処理容器本体8を結合することができる。この場合、糞便採取容器1を接続せずに、直接糞便のみを糞便処理容器本体8内に落とし込む方式に容器を変更することも可能である。シリンジ収納部9は糞便採取容器1のシリンジ2が収まる部分である。懸濁部10は糞便の懸濁を行う本体の中心部分である。懸濁部10と濾液受け容器11との接続部13は、フィルター14をはめ込みと部位と、濾液受け用容器11の接続をおこなう結合部からなる、ねじ状構造をした部分である。フィルター14は、懸濁液を濾過するために使用する、直径が30mm程度のポリアミドメッシュフィルターで、外周がゴム性のリング構造になっており、懸濁部10の接続部13に嵌め込んで使用する。フィルター部位の素材は上記のものに限定する必要はなく、フィルターの条件を満たし、本操作に適応できるものであれば、他の素材でも問題ない。フィルターの口径は500μmから1000μm程度が好ましいが、糞便量、糞便中の混合物などの条件によって、100μmから2000μm程度まで変化させることができる。濾液受け容器11は、懸濁部10の接続部13にねじ込み式に接続する。コニカルチューブなどの名前で呼ばれるファルコン社等から市販されている50ml遠沈管又は新たに作製したものを接続させて使用する。
【0025】
図4(A)は便採取容器1を便処理容器本体8に結合した後の、便懸濁・ろ過操作の模式図である。本体中心部10には予め糞便粉砕用ボール15がある。糞便粉砕用ボール15の材質は、ジルコニアなどのセラミックス製やステンレスなどの金属性のものが使用できる。大きさは直径10mm程度のものが好ましいが、直径5mmから25mm程度まで使用できる。個数は標準では3個使用するが、1個から10数個まで使用できる。濾液受け容器11中には懸濁用溶液16を予め入れておく。懸濁用溶液16の量は20mlから40ml程度が好ましい。溶液の種類はHanks液、DMEM培養液など、細胞の洗浄や培養に使用する溶液ならば使用可能である。溶液には細胞を安定させる作用、あるいはチューブへの非特異吸着を抑える作用などがある血清やBSAを加えることが望ましい。
【0026】
実際の懸濁・濾過操作は容器を上下に振とうすることにより行う。本体中心部10では糞便17と粉砕用ボール15が懸濁用溶液16と混合し、糞便が破砕される。振とうを繰り返すことにより、糞便がより懸濁された状態になる。、振とうの向きは、糞便の懸濁状態に対応して、随時変えることができる。振とうの回数はおよそ100往復で行う。糞便の状態により、およそ50回から1000回まで、振とう回数を変えることも可能である。振とうは人の手もしくは振とう装置を用いて行う。振とう装置には市販のシェイカーあるいはアーム式に振とうする振とう装置などを使用することが出来る。なお、懸濁部10の中心部に、メッシュ状の構造物を備えると、摩擦により、糞便の懸濁を促進すると同時に、液中に含まれる固形の破砕物の一部を捕らえて、フィルターの詰まりを少なくすることができる。
【0027】
図4(A)の18は糞便懸濁後の濾液であり、フィルター14により濾過されて、濾液受け用容器11に移動した後の状態を示している。振とう後の懸濁液の濾液受け用容器11への完全な移動は、片方の手で懸濁部10を保持し、もう片方の手で濾液受け容器11を小刻みに軽く叩くことにより、可能である。
【0028】
図4(B)は懸濁・濾過用容器の別パターンを示している。アダプター19は中心部に上記14と同一のフィルターを差し込むこが可能である。さらに、上記13のねじ込み式の接続部が上下両方向に存在する構造をとっており、濾液受け容器11の反対側に懸濁用容器20を結合させることが可能である。懸濁用容器20は濾液受け容器11と同じ種類のチューブを使うことが可能である。懸濁用容器20には予め粉砕用ボールを入れておき、そのチューブ内に直接糞便を落とした後にアダプター19と接続して使用する。懸濁・濾過の操作は図4(A)と同様に振とうして行うことができる。
【0029】
図4(C)は懸濁・濾過用容器のさらに別のパターンを示している。糞便採取容器1は予め懸濁用溶液21が入った懸濁専用容器22にねじ込み式に接続することができる。接続後は上記と同様に振とうし、糞便を懸濁する。懸濁後の溶液23は直接アダプター19に接続して、濾過を行うかあるいはアダプター19に流しこんで濾過をおこなうことが可能である。
【0030】
以上の手順を経ることにより、採取容器1刺し分(約1-1.5g)の通常糞便の懸濁・濾過処理を行うことができる。しかし、実際の検査では糞便の粘度や採取量が被験者により異なり、糞便の懸濁・濾過を行う際に、採取容器1のシリンジ2から便が懸濁部10に落ちないケースがある。これらの現象を防ぐ採取容器を図5に模式図で示した。
【0031】
図5(A)の採取容器はシリンジ部に窓24をあけている。振とう時に窓の部分から懸濁用の溶液が入り込みシリンジ内の糞便が押しだされる仕組みになっている。
【0032】
図5(B)の採取容器は取っ手部分が蓋25になっており、振とう前に糞便粉砕用のボールをシリンジ内に入れることが可能である。続いて振とうを行うとボールの重みによりシリンジ内の糞便が押し出される仕組みになっている。
【0033】
図5(C)の採取容器はシリンジ内に予め糞便粉砕用のボール26が収まった構造をしている。振とうを行うとボールを保持していた膜状構造27が壊れ、シリンジ内の糞便が下に押し出される仕組みになっている。
【0034】
上記いずれかの方法で作製した糞便懸濁・濾過液は別の容器に移し変え、この濾液中に存在する細胞を回収し、大腸がんの検査用に使用する。
<磁気ビーズによる細胞回収>
濾液中に含まれるがん細胞は、がん細胞にアフィニティーをもった担体を用いて回収する。担体にはがん細胞に対するアフィニティーを持った抗体が表面に結合した磁気ビーズを使用する。具体的にはダイナル社から市販されているBer−EP4抗体結合磁気ビーズ(Dynabeads Epithelial Enrich、ダイナル社)を使用する。Ber−EP4以外にも大腸がん細胞に対するアフィニィティーを持った抗体ならば適応可能である。抗体以外にも大腸がん細胞にアフィニィティーのあるアプタマー、リガンドなどが使用できる。
<大腸がん診断>
上記方法で回収した細胞は、続いて大腸がん判定用の検体として使用する。がんの判定には細胞そのものを利用する場合と細胞から抽出した物質を利用する場合がある。細胞そのものを利用する場合は回収後、直ちに使用する。又、細胞固定液等で保存することも可能である。抽出物質を利用する場合は−80℃にペレットを凍結保存することが可能である。
【0035】
細胞そのものを利用する場合はパパニコロウ染色により、細胞を染色し、顕微鏡で観察し判定する。細胞質に対する核の比率(N/C比)が高く、クロマチンが凝集した異型性の細胞が確認できた場合、がん細胞であると判定を下す。染色法はその他にもがん細胞を同定できるものであれば適応可能である。一般染色以外にもがん細胞特異的抗体を利用した免疫染色が適応可能である。
【0036】
細胞からはDNAもしくはRNAを抽出して、がん判定に利用することが可能である。DNA、RNAの抽出には各社から発売されている核酸抽出キットが使用出来る。具体的にはDNAの抽出にはダイナル社のDynabeadsDNA DIREIC Universal、キアゲン社のQIAampDNA Mini Kit、三光純薬社のセパジーンなどが挙げられる。RNAの抽出にはニッポンジーン社のISOGEN、インビトロジェ
ン社のTRIzol Reagentなどが挙げられる。
【0037】
抽出したDNAを用いて遺伝子診断を行う場合、大腸がんに関連した遺伝子であるK−ras、APC、p53、Smad4等の遺伝子配列の変異をシークエンス解析、SSCP解析、DHPLC解析等の手法を用いて診断する。あるいはhMLH1、p14、p16、MGMT、APC、SFRP1等のプロモーター領域のメチル化を検出することにより大腸がん診断を行うことが可能である。抽出したRNAを用いて遺伝子診断を行う場合、大腸がん細胞で特異的に発現している遺伝子を調べることにより、診断を行うことが可能である。具体的にはノーザンブロッティング法、RT−PCR法、マイクロアレイ法等の方法が利用できる。
【0038】
本発明の糞便採取キット及び糞便処理キットを用いる大腸がん細胞の回収プロトコールに対して、従来の、ストマッカー法による大腸がん細胞の回収では、検体回収及び濾過の手順が相違する。即ち、本発明では、糞便回収を特定の糞便回収容器により行い、懸濁と濾過をストマッカーを用いず、該糞便回収容器と結合可能な糞便処理容器によって行う。懸濁と濾過を同一工程、連結された容器で行うことが可能となったことで、糞便を扱う煩雑さからの解放、作業時間の短縮、消耗品の低減等がもたらされた。又、粘性のある糞便の懸濁部位への移行を正確に行うための仕組みを採取容器に取り入れ、実際の臨床サンプルへの対応を容易にした。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<実施例1:糞便回収用容器の作製>
本発明の糞便採取キット及び糞便処理キットの各樹脂部品を射出成型で作製した。部品は糞便採取容器(ポレエチレン製)、収納容器(ポレエチレン製)、糞便処理キット本体(ポレエチレン製)、アダプター(ポリエチレン製)、フィルター(外周:エラストマー製、フィルター部:ナイロン製)からなる。各部品の説明は上記を参照のこと。
<実施例2:模擬便による評価>
糞便採取容器及び糞便処理容器の使用方法に関して模擬便を使って検討した。模擬便は基材として釣餌(浮子鯉、マルキュー株式会社)2.5g、増粘剤として小麦粉(カメリヤ強力小麦粉、日清製粉)1gを混合した後、水2.5mlを加えて練りこみ作製した。模擬便を使用して図4の(A)(B)(C)の各パターンで濾過液の作製を試みた。その結果、すべてのパターンで模擬便の濾過液を作製することが出来た。
<実施例3:細胞回収率の評価>
模擬便と培養細胞を混ぜた状態で便懸濁処理を行い、細胞回収率を調べることにより、本容器の実サンプルへの適応性の評価を行った。
大腸がん細胞HCT116(ATCC、住商ファーマ社)を培養し、実験に使用した。細胞培養は培養用メディウムとしてAdvanced DMEM medium (Invitrogen社)にウシ胎児血清(FBS: fetal bovine serum、 Invitrogen社) が10%になるように加えたものを使用し、5%CO、37℃の条件下で行った。培養し、増やした細胞は0.25%トリプシン−EDTA(Invitrogen社)処理により回収し、血球計算盤(HIRSCHMANN社)を用いて細胞数をカウントし、実験に使用した。
【0040】
図5(A)に示した便採取容器を使用し、1刺し分の模擬便(約1.3g)を採取した。次に採取容器を1.6x105 個のHCT116細胞を入れた30mlのL-15 medium(Sigma-Aldrich社)+ 10%BS(bovine serum、Invitrogen社)と容器本体中心部に便破砕用セラミックス製ボール(ニッカトー社)3個を入れた糞便処理容器本体にセッティングした。次にこの容器を専用振とう機で振とうし(250r/min、 1分間)、模擬便の懸濁・濾過液を作製した。
【0041】
この懸濁・濾過液に磁気ビーズ(Dynabeads Epithelial Enrich、 Dynal社)40μl(約1.6x107個)を加えて、ローター(Macsmix、第一化学薬品株式会社)にセットし、30分間室温で回転させた(約12 rpm)。次にチューブを磁石スタンド(Dynal MPC-1、 Dynal社)にセッティングし、シェーカー(プチシェーカー MODEL224 和研薬株式会社) に乗せて15分間室温で振とうした。振とう後、磁石スタンドにチューブをセットした状態を保ちながら、デカンテーションにより溶液を捨てた。さらに模擬便残渣を取り除くため、PBS(−)(Invitorogen社)で2回チューブ内を洗浄した。続いてチューブを磁石スタンドから外し、L−15 medium 約600μlを加え、磁気ビーズを懸濁し、磁石スタンド(Dynal MPC-S、Dynal社)にセッティングした1.5mlのチューブ(アシスト社)に移した。磁気ビーズがチューブ内の磁石接触面に集まっていることを確認した後、溶液を取り除いた。さらにPBS(−)で3回チューブ内を洗浄した。最後に磁石スタンドからチューブを外し、100μlのL−15 medium で再懸濁した。
【0042】
再懸濁液10μlをトリパンブルー溶液(Sigma-Aldrich社)10μlと混合し、血球計算盤を用いて細胞数をカウントした。カウントした数を、最初に加えた細胞数(1.6x105個)で割って、細胞回収率を求めた。3回の実験を行った結果、平均で32.2%(SD 5.7)の回収率を得ることがき、本方法を用いた細胞の回収が可能であることが判明した。
【0043】
本発明の糞便採取キット及び糞便処理キットにより、大腸がん細胞の回収方法が容易になった。これにより、大腸がんの早期発見に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の糞便採取容器を示す断面図である。
【図2】本発明の糞便採取容器による便採取法を示す断面図である。
【図3】本発明の糞便処理容器本体を示す断面図である。
【図4】本発明の糞便懸濁・濾過処理法のパターンを示した図である。
【図5】本発明の糞便採取容器の改良パターンを示した図である。
【符号の説明】
【0045】
1:糞便採取容器、2:シリンジ、3:取っ手、4:収納容器、5:結合部位、6:収納筒体、7:糞便、8:糞便処理容器本体、9:シリンジ収納部、10:懸濁部、11:濾液受け容器、12:結合部、13:接続部、14:フィルター、15:糞便粉砕用ボール、16:懸濁用溶液、17:回収糞便、18:糞便懸濁後の濾液、19:アダプター、20:懸濁用容器、21:懸濁溶液、22:懸濁専用容器、23:懸濁後の溶液、24:窓、25:蓋、26:糞便粉砕用のボール、27:膜状構造。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
糞便採取容器と該糞便採取容器と結合可能な糞便処理容器本体と該糞便採取容器から該糞便処理容器本体へ採取した糞便を移動させる手段を有する糞便処理キットであって、(a)該糞便採取容器は、糞便に突き刺すことにより0.5グラム以上の糞便を採取できる容量を有するシリンジと、糞便採取口と該糞便採取口の他端の該シリンジ外周部に設けられた取っ手からなり、(b)該糞便処理容器本体は、該シリンジを収納するシリンジ収納部と、該シリンジ収納部に接続し糞便の懸濁を行う懸濁部と、該懸濁部に接続され分離可能で、懸濁・濾過された糞便の濾液を受ける濾液受け容器と、該懸濁部と該濾液受け容器の接続部に設けられたフィルターからなることを特徴とする糞便処理キット。
【請求項2】
前記糞便処理は振とうにより行うことを特徴とする請求項1に記載の糞便処理キット。
【請求項3】
前記シリンジは、糞便懸濁時にシリンジ中に水流を呼び込こむための窓を有することを特徴とする請求項1に記載の糞便処理キット。
【請求項4】
前記糞便採取容器は、上部が開閉式になっており、糞便破砕用ボールを挿入し、糞便懸濁時にシリンジ中の糞便を下に押しだせる構造を有することを特徴とする請求項1に記載の糞便処理キット。
【請求項5】
前記糞便採取容器は、シリンジ上部に糞便粉砕用ボール収納構造を有し、糞便懸濁時の振とうにより、ボールがシリンジ内に放出され、シリンジ中の糞便を下に押し出せる構造を有することを特徴とした、請求項1に記載の糞便処理キット。
【請求項6】
前記糞便粉砕用ボール収納構造の部材は、振とうにより、突き破られることが可能な薄膜であることを特徴とする請求項1に記載の糞便処理キット。
【請求項7】
糞便処理容器と濾液受け容器と両容器を接続するアダプターからなる糞便処理キット。
【請求項8】
前記アダプターはフィルターを有するリング状の構造をしており、上下2方向に該糞便処理容器と該濾液受け容器を向かいあう形で接続できる構造を特徴とする請求項7に記載の糞便処理キット。
【請求項9】
前記アダプターに接続する該糞便処理容器と濾液受け容器は同一の形状である請求項7のに記載の糞便処理キット
【請求項10】
濾液受け容器と該アダプターを接続し、アダプター中のフィルター部へ懸濁液を添加することで濾過を行うことを特徴とする糞便処理キット。
【請求項11】
糞便採取容器を濾液受け容器を直接接続した構造をもつ糞便処理キット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−248170(P2007−248170A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−70159(P2006−70159)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】