説明

糸の染色装置及び方法、当該方法を用いた釣糸の製造法

【課題】
糸(ナイロン糸であっても)を一定長毎に部分染あるいは多色染を行う染色装置及び方法を提供する。
【解決手段】
糸を走行経路に沿って走行させる走行機構と、前記走行経路の中途部の下方に位置して、当該中途部を横切る方向に並設された複数の染槽B1、B2からなる染槽セットBと、1つの染槽を選択して前記中途部にある糸の下方に位置させるように、前記染槽セットを、走行経路の中途部を横切る方向に移動させる手段と、前記中途部の上方に位置して降昇可能に設けられ、下降時に前記中途部にある糸を押し下げて、選択された染槽内の液体に浸ける、糸押下げ体P1、P2と、糸の走行、前記染槽セットの移動、前記糸押し下げ体の下降・上昇、を制御する制御部と、を備えた糸の染色装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸の染色装置及び方法、並びに、当該染色方法を用いて部分染あるいは多色染された釣糸を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
魚釣りの際のタナ取りの便宜のため、道糸の所定部位を着色してマーキングを行い、釣糸の送り出し長さを視覚的に認識できるようにする場合がある。釣糸の着色に関する先行文献として、特許文献1〜3が挙げられる。特許文献1、2はペイントローラを用いた着色が開示され、特許文献3にはインクジェットを用いた着色が開示されている。
【0003】
最近では、釣糸の長さを知るためのマーキングのみならず、釣糸のファッション性を高めるべく多色に着色された釣糸の要望もある。本出願人は、ペイントローラを下方から道糸に間欠的に当接するのみで道糸に対して一定長毎に着色を施すことができ、また、多色模様の形成も容易にできる着色装置を提案している(特許文献4)。
【0004】
しかしながら、ペイントローラを用いた着色装置は、PE(ポリエチレン)ラインの着色には有利であるが、顔料を用いた着色はナイロンラインには適さないため、釣糸としてポピュラーなナイロンラインをより良好に染色できるような技術のニーズがある。
【特許文献1】特開昭60−220164号
【特許文献2】実開平6−33990号
【特許文献3】特開2002−84943号
【特許文献4】特許第3587783号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ペイントローラを用いた着色が適しない糸(典型的には、ナイロン糸)であっても、糸に対して所定長さ毎に部分染め、あるいは、多色染めを施すことを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明が採用した染色装置は、
糸を走行経路に沿って走行させる走行機構と、
前記走行経路の中途部の下方に位置して、当該中途部を横切る方向に並設された複数の染槽からなる染槽セットと、
1つの染槽を選択して前記中途部にある糸の部分の下方に位置させるように、前記染槽セットを、走行経路の中途部を横切る方向に移動させる手段と、
前記中途部の上方に位置して降昇可能に設けられ、下降時に前記中途部にある糸の部分を押し下げて、選択された染槽内の液体に浸ける、糸押下げ体と、
糸の走行、染槽セットの移動、糸押し下げ体の下降・上昇、を制御する制御部と、を備えている。
走行経路に沿って移動する糸は、所定のテンションがかかった状態(例えば、糸が自重で弛まない程度)である。
糸押下げ体は、糸の部分を押し下げた状態で糸の走行を許容できるガイド当接部を備えている。
【0007】
1つの態様では、前記走行経路の中途部は、第1の方向に延びており、染槽セットの複数の染槽は第1の方向に対して直交する第2の方向に並設されており、染槽セットは、選択された1つの染槽が前記中途部の下方に位置するように、第1の方向に対して直交する第2の方向に往復動可能である。
1つの態様では、複数の染槽からなる染槽セットは、第1の方向に直交する方向に往復動可能な可動台上に載設されており、可動台を所望位置に移動させることで、所望の染槽を前記中途部の下方に位置させる。
【0008】
1つの態様では、糸押下げ体は、染槽毎に各染槽の上方に位置して設けてあり、前記糸押下げ体は前記染槽セットと一体で移動する。すなわち、上側の糸押下げ体と下側の染槽の組を走行経路の中途部を横切る方向に複数組並設して染色機構ユニットを構成し、かつ、当該染色機構ユニットは走行経路の中途部を横切る方向に移動可能な可動染色機構ユニットである。
【0009】
1つの態様では、各染槽には、前記糸押し下げ体により押し下げられた糸の長さ方向前後に接触するガイド体が設けてある。
典型的には、糸に接触するガイド体のガイド面は周面である。1つの態様ではガイド体は回転自在のガイドローラであるが、糸との摩擦係数が小さければガイド体は回転しないものでもよい。
【0010】
1つの態様では、前記制御部は、走行中の糸の停止及び糸押下げ体の下降、糸押下げ体の下降姿勢維持及び糸の走行の再開、糸押下げ体の上昇、染槽セットの移動による染槽の選択、を繰り返す。
【0011】
1つの態様では、前記染槽セットの下方には、各染槽内の液体の温度を同温に保たつためのヒータが配置されている。液体の温度は、用いられる糸に対応して選択された染色液により糸が浸染されるのに適切な温度に設定される。
【0012】
本発明が採用した染色方法は、糸を走行経路に沿って走行させる走行機構と、糸の走行経路の中途部の下方に位置して、当該中途部にある糸の部分を横切る方向に並設された複数の染槽からなる染槽セットと、前記染槽セットを走行経路の中途部を横切る方向に移動させる手段と、前記中途部の上方に降昇可能に設けた糸押下げ体と、を用いて、以下の工程を繰り返すものである。
糸押下げ体を下降させて、前記中途部にある糸の部分(典型的な態様では水平姿勢にある)を押し下げて、当該中途部の下方に位置する選択された染槽内の液体に漬けること、
糸押下げ体が下降姿勢を維持した状態で糸を走行させることで糸の所定長の部分を液体に潜らせること、
糸押下げ体を上昇させて、押下げられた糸の部分を押し下げられる前の姿勢(典型的な態様では水平姿勢)に復帰させること、
染槽セットを移動させて前記中途部の下方に位置する染槽を選択すること。
【0013】
1つの態様では、前記染槽セットは、少なくとも、第1の液体を収容した第1の染槽と、第2の液体を収容した第2の染槽と、を備え、
前記糸押し下げ体の降下により中途部にある糸の部分を押し下げて、中途部の下方に位置する第1の染槽の第1の液体に漬ける工程と、
糸押下げ体が下降姿勢を維持した状態で糸を走行させることで糸の所定長の部分を第1の液体に潜らせる工程と、
前記下降姿勢にある糸押下げ体を上昇させる工程と、
第2の染槽が中途部の下方に位置するように染槽セットを移動させる工程と、
前記糸押し下げ体の降下により中途部にある糸の部分を押し下げて、中途部の下方に位置する第2の染槽の第2の液体に漬ける工程と、
糸押下げ体が下降姿勢を維持した状態で糸を走行させることで糸の所定長の部分を第2の液体に潜らせる工程と、
を含んでいる。
もちろん、染槽セットが3つ以上の染槽を用いて染色を行うこと、すなわち、第3の染槽あるいは第4の染槽、さらには第5の染槽を用いる工程を備えることは、本発明の範囲内である。
【0014】
1つの態様では、前記第1の液体は第1の色の染色液であり、前記第2の液体は第2の色の染色液であり、糸を少なくとも2色に多色染する。
1つの態様では、前記第1の液体は第1の色の染色液であり、前記第2の液体は第1の液体と同温の水であり、糸を少なくとも第1の色に部分染する。
1つの態様では、各染槽の液体は略同じ温度を備えている。
【0015】
1つの態様では、前記糸押下げ体が、前記中途部にある糸の部分を押し下げる時には、糸の走行が停止される。
1つの態様では、前記糸押下げ体が、前記中途部にある糸の部分を押し下げる時以外は糸の走行が継続されるが、必要に応じて、染色処理の他の工程で糸の走行を一時的に停止させたり、あるいは、糸の走行速度を変化させたりしてもよい。
【0016】
1つの態様では、前記糸はナイロン糸であり、染槽には、ナイロン糸を染色可能な染色液(典型的には酸性染料)が収容されている。
【0017】
本発明は、上記染色方法を用いて部分染あるいは多色染された釣糸を製造する方法としても提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、糸に対して所定長さ毎に部分染め、あるいは、多色染めを施すことが可能となる。本発明は、染色可能な糸であれば対象となる糸が限定されず、道糸、具体的にはナイロンラインの染色に適用することができ、道糸に対して一定長毎に着色を施すことができるうえ、多色模様の形成も容易にでき、魚釣りの愛好者に正確な棚取りを行い得るだけでなくファッション性においても優れた道糸を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(A)は染色装置の概略図であり、糸押下げ体が染槽セットの一方の染槽の上方に位置している状態を示し、(B)は染色装置の染槽セットの平面図であり、水平姿勢にある糸の部分が一方の染槽上に位置している状態を示している。
【図2】2組の上側の糸押下げ体と下側の染槽の組を備えた可動染色機構ユニットの概略図である。
【図3】(A)は図1の状態から糸押下げ体が下降して一方の染槽上の糸の部分を染槽内の液体に浸すように押し下げた時を示す側面図、(B)は、糸押下げ体が下降姿勢にある状態での糸の走行を示す側面図、(C)は下降姿勢にある糸押下げ体が上昇して、押し下げられた糸が水平姿勢に復帰した状態を示す側面図、である。
【図4】(A)糸押下げ体が他方の染槽の上方に位置し、糸が他方の染槽上に位置している状態を示す側面図、(B)は同平面図である。
【図5】(A)は図4の状態から糸押下げ体が下降して他方の染槽上の糸の部分を染槽内の液体に浸すように押し下げた時を示す側面図、(B)は、糸押下げ体が下降姿勢にある状態での糸の走行を示す側面図、(C)は下降姿勢にある糸押下げ体が上昇して、押し下げられた糸が水平姿勢に復帰した状態を示す側面図、である。
【図6】(A)は3つの染槽からなる染槽セットにおいて第1染槽が複数本の糸の部分の下方に位置した状態を示す平面図、(B)は第2染槽が複数本の糸の部分の下方に位置した状態を示す平面図、である。
【図7】糸の染色処理工程を示すフロー図である。
【図8】本発明によって多色染ないし部分染された糸の部分図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1(A)に示すように、染色処理される糸は、糸を供給する給糸機構から繰り出され、所定の走行経路を通って延出し、糸を巻き取る巻取機構で巻き取られる。走行経路途中の所定部位には染色機構が設けてあり、給糸機構と巻取機構との間で延出する糸は、走行経路途中で染色が施され、染色された糸は、所定の工程を経て、巻取機構で巻き取られる。給糸機構と巻取機構との間で延出する糸、すなわち、走行経路上の糸は、少なくとも当該糸の重力で弛まない程度の張力を備えた緊張状態が維持されている。このような糸の走行機構は当業者によく知られており、例えば、特許文献4の記載を参照することができる。
【0021】
図7に示すように、糸は、給糸工程、染色工程、水洗工程、色止め工程(色の固定化)、水洗工程、巻取工程の順で処理される。染色機構により染色が施された部位は、水洗部に供給され、該水洗部を通過することによって水洗される。染色が施された部位は水洗された後、色止め処理が施される。ナイロン糸を染色する場合には、例えばナイロンフィックスを用いて色止めすることができる。染色された糸は、色止め処理後、さらに水洗されて、巻取機構で巻き取られる。なお、染色された糸に撥水処理を施してもよい。
【0022】
給糸機構と染色機構との間には、糸Lを給糸機構から繰り出して走行させるフィードローラFが配置してある。モータによってフィードローラFが糸を走行させる方向に回転することで、給糸機構のボビンに巻装された状態の糸Lが引き出されると同時に、巻取機構のボビンをモータにより糸を巻き取る方向に回転させることで、給糸機構から糸が引き出されて、所定のテンションを維持しながら走行する。図面では1つのガイドローラGのみを例示しているが、走行経路途中において必要に応じて延出する糸を案内するガイドローラ、あるいはテンションを作用させるガイドローラが設けられることが当業者に理解される。
【0023】
給糸機構において、糸は回転自在のボビンに巻き取られた状態で用意され、ボビンに巻装された状態から繰り出され、所望のテンションがかかった緊張状態で延出しながら走行し、先端側から巻取機構のボビンに巻き取られていく。典型的な態様では、給糸機構、巻取機構にはそれぞれ複数個のボビンが設けてあり、複数個のボビンから繰出された複数本の糸が糸揃部を通過することで並列状に揃えられ、互いに平行した状態で走行し(図6参照)、染色処理を含む各処理が施された後、並列状に揃えられた糸は分散部を通過することで分散されて巻取機構の複数個のボビンにそれぞれ巻装される。フィードローラFは、糸揃部と染色機構との間に位置して設けてある。
【0024】
染色機構の構成及び染色工程について図1〜図5を参照しつつ説明する。染色機構は、糸Lの走行経路途中の所定部位の下方に位置して、当該所定部位の糸の走行方向(糸の長さ方向)であるX方向と直交するY方向に並設された2つの染槽B1、B2を備えた染槽Bと、各染槽B1、B2の上方に位置して降昇可能に設けた糸押下げ体P1、P2と、を備えている。糸押し下げ体P1、P2は、上昇した待機姿勢にある時には、糸Lの走行経路の上方に位置する高さにあり、下降した下降姿勢にある時には、それぞれの染槽B1、B2内に収容された液体内に浸かる高さにある。例えば、染槽B1が糸の部分の下方に位置している状態で糸押下げ体P1が下降すると、染槽B1上に位置する糸Lの部分に当接して当該部分を押し下げて染槽B1内の液体に漬けるようになっている。走行経路上の糸は緊張状態で延びているが、糸押下げ体により押し下げられる程度の遊び(さらに、糸の伸縮性の範囲内で幾分伸びてもよい)を備えている。下降姿勢にある糸押下げ体を上昇させると、走行中の糸にはテンションが作用しているため押し下げられた糸は元の水平姿勢に復帰して走行を継続する。
【0025】
染槽セットBは、染槽セットB上の糸Lの長さ方向であるX方向に直交するY方向に移動可能となっており、染槽セットBを移動させることで、染槽B1、B2のいずれかを選択して、糸の走行経路の所定部位の下方に位置させることができる。より具体的には、2つの染槽B1、B2からなる染槽セットBは、走行経路の所定部位の長さ方向Xに直交する方向Yに往復動可能な可動台S上に設けてあり、可動台Sを移動させることで、所望の染槽を走行経路の所定部位の下方に位置させる。可動台Sの往復動を行うスライド移動機構としては、リニアガイド、ボールネジ等の直動機構を用いればよい。
【0026】
1つの態様では、図2に示すように、染槽B1、B2からなる染槽セットB、及び、各染槽B1、B2上に位置して降昇可能に設けた糸押下げ体P1、P2は、一体として走行経路を横切るY方向に往復動可能な可動染色機構ユニットを形成している。1つの態様では、染槽セットBを固定した可動台Sに、糸押下げ体P1、P2を取り付ける支持フレームを設ける。支持フレームは、可動台SのY方向両端部に立ち上がり状に設けたポストSF1と、ポストSF1間を連結する横材SF2からなり、横材SF2に対して糸押下げ体P1、P2を降昇可能に取り付ければよい。
【0027】
各染槽B1、B2の糸の走行方向の前後部位には、下降する糸押下げ体P1、P2によって押し下げられた糸の部分の長さ方向前後に接触するガイドローラG11、G12、G21、G22が設けてある。図示の態様では、染槽の前壁、後壁の上端の外側にガイドローラが配置されているが、ガイドローラを前壁、後壁の上端の内側に配置してもよい。糸押下げ体P1、P2が上昇姿勢(待機姿勢)にある時には、糸の部分は、ガイドローラG11、G12、G21、G22の上方に離間した水平姿勢にあり、ガイドローラG11、G12、G21、G22と接触していない。1つの好ましい態様では、ガイドローラG11、G12、G21、G22は回転自在であるが、ガイドローラの周面に糸が接触した状態で糸の走行を許容できるものであれば、必ずしも回転しなくてもよい。図示では、染槽の後方側に他のガイドローラGを示しているが、染槽の前方側にガイドローラを設けてもよい。
【0028】
糸押下げ体P1、P2は、昇降機構によって降昇するようになっている。昇降機構としては公知のアクチュエータを適宜選択して用いればよいことが当業者に理解される。糸押下げ体P1、P2は、同一の形状を備えており、下降した時に糸に当接するガイド当接部を備えている。ガイド当接部は、当該当接部に糸が接触した時に当該糸にダメージを与えることがなく、また、ガイド当接部に糸が接触した状態で糸の走行を許容できるものであれば、その形状は問わないが、1つの好ましい態様では、ガイド当接部は周面を備えている。また、回転自在のローラからガイド当接部を形成してもよい。図示の態様では、糸押下げ体P1のガイド当接部は、糸の走行方向の前後に位置した第1当接部P11、第2当接部P12を備えている。第1当接部P11、第2当接部12は、染槽B1の幅方向に延びている。同様に、糸押下げ体P2のガイド当接部は、糸の走行方向の前後に位置した第1当接部P21、第2当接部P22を備えている。第1当接部P21、第2当接部22は、染槽B1の幅方向に延びている。
【0029】
1つの態様では、染槽B1、B2には、異色の染色液が収容されている。例えば、糸を赤色と青色から多色染する場合には、染槽B1には赤色の染色液、染槽B2には青色の染色液が収容される。糸を部分染したい場合には、染槽B1に染色液、染槽B2に水が収容される。染槽セットBの下方にはヒータHが配置されており、染色液の温度を、糸に対応して選択された染色液による糸の浸染に適切な温度に設定する。本実施形態の酸性染料では、染色液を70℃〜90℃程度の温度に設定する。ヒータHによって、染槽B1、B2に収容された液体(液体が水の場合であっても)はほぼ同一の温度に設定される。
【0030】
染色液の種類は、糸の種類に対応して選択される。本発明において、染色が施される糸の繊維としては、染色可能な繊維であれば限定されず、ポリアミド(典型的にはナイロン)、ポリエステル等が例示される。糸の染色において、どのような染料がどのような繊維を染色できるかは当業者によく知られており、糸の繊維に応じて染色液を選択すればよい。例えば、ナイロン等のポリアミド繊維は酸性染料によって染色できる。ポリエステルの場合は、分散染料によって染色できる。あるいは、カチオン可染型ポリエステル(CDP)であれば、カチオン染料によって染色できる。また、糸の種類は、モノフィラメントでもマルチフィラメントでもよい。
【0031】
本発明の典型的な実施形態では、染色対象となる糸は、釣糸に用いるナイロン糸であり、染槽に収容される染色液として酸性染料が用いられる。染色液に含まれる助剤は当業者において適宜選択することができ、例えば、酸性染料に助剤としての酢酸を加えて染色液を得る。
【0032】
糸Lの走行、染槽セットBの移動、糸押下げ体P1、P2の下降・上昇(糸押下げ体の下降のタイミング、下降姿勢の維持時間、上昇のタイミング)は制御部によって制御される。より具体的には、制御部からの指令でフィードローラFおよび巻取機構のモータを駆動させることで糸を走行させ、モータを停止させること(あるいは、モータを駆動させた状態で、モータからの駆動力の伝達を一時的に中断させること)で糸の走行を停止させる。また、モータの回転数を制御することで糸の走行速度を制御することができる。制御部は、予め設定されたプログラムに従って染色工程を実行する。染槽セットの各染槽には要求される染色糸に対応する染色液(例えば、赤色と青色)が収容され、プログラムは、要求される染色糸(例えば、赤色○○m、青色△△mを交互に備えた糸)に応じて設定されることが当業者に理解される。
【0033】
制御部からの所定のタイミングでの指令で、スライド移動機構によって染槽セットBをY方向に移動させて、染槽B1、B2のいずれかを選択して、走行経路の中途部の下方に位置させる。制御部からの所定のタイミングでの指令で、昇降機構によって選択された染槽B1またはB2に対応する糸押下げ体P1またはP2を上昇姿勢(待機姿勢)から下降させて下降姿勢とし、下降姿勢を所定時間維持させ、所定のタイミングで下降姿勢から上昇させて上昇姿勢(待機姿勢)とする。
【0034】
図1では、糸Lの走行経路の所定の中途部の下方に染槽B1が位置しており、押下げ体P1が所定部位にある糸の部分の上方で待機姿勢にある。この状態で、制御部からの指令で昇降機構によって押下げ体P1が下降して、水平姿勢にある糸の部分を押し下げて、下方に位置する染槽B1に収容された第1の液体に漬ける(図3(A))。糸押し下げ体P1により押し下げられた糸の部分の長さ方向前後は、それぞれ、ガイドローラG11、G12に接触している。糸押下げ体P1のガイド当接部P11、P12は押し下げられた第1の液体中の糸に接触している。1つの態様では、糸押下げ体P1が、糸の部分を押し下げる時には、糸の走行が停止される。
【0035】
糸押下げ体P1が下降姿勢を維持した状態で糸を所定時間走行させることで糸の所定長の部分を第1の液体に潜らせる(図3(B))。糸押下げ体P1により押下げられて第1の液体に漬けられた糸の部分Lは、糸の走行に伴って次の工程へと進む。糸の走行速度および糸押下げ体P1の下降姿勢維持時間によって、第1の液体に潜らせる糸の部分Lの長さ(染色区間)が決定される。一方、糸の走行速度は、染色液に浸った糸に染料が染着できる程度の速度に設定される。
【0036】
糸押下げ体P1が下降姿勢を所定時間維持した後、制御部からの指令で昇降機構によって下降姿勢にある糸押下げ体P1を上昇させる(図3(C))。押下げられた糸は水平姿勢に復帰する。
【0037】
次いで、制御部からの指令で、スライド移動機構によって、染槽B2が糸Lの走行経路の所定部位の下方に位置するように染槽セットBを移動させ、押下げ体P2が所定部位にある糸の部分の上方で待機姿勢となる(図4(A)、(B))。
【0038】
図4(A)の状態から、制御部からの指令で昇降機構によって押下げ体P2が下降して、水平姿勢にある糸の部分を押し下げて、下方に位置する染槽B2に収容された第2の液体に漬ける(図5(A))。糸押し下げ体P2により押し下げられた糸の部分の長さ方向前後は、それぞれ、ガイドローラG21、G22に接触している。糸押下げ体P2のガイド当接部P21、P22は押し下げられた第1の液体中の糸に接触している。1つの態様では、糸押下げ体P2が、糸の部分を押し下げる時には、糸の走行が停止される。
【0039】
1つの態様では、糸押下げ体P2の下降タイミングは、糸押下げ体P2が降下して下降姿勢となった時に、第1の液体に浸かった糸の部分Lの基端側L11に隣接する部位が丁度第2の液体に浸かるようなタイミングである。糸押下げ体P2が下降して下降姿勢となった時に、糸の部分Lの基端側L11に隣接する部位が丁度第2の液体に浸かるかは、糸押下げ体P2により糸が押下げられた時に糸のどの部分が第2の液体に浸かるかを考慮しつつ、糸がある所定の位置まで移動した時(糸の走行速度、時間する)に糸押下げ体P2を降下させることによって行うことがきる。
【0040】
糸押下げ体P2が下降姿勢を維持した状態で糸を所定時間走行させることで糸の所定長の部分を第2の液体に潜らせる(図5(B))。糸押下げ体P2により押下げられて第2の液体に漬けられた糸の部分Lは、糸の走行に伴って次の工程へと進む。糸の走行速度によって、第2の液体に潜らせる糸の長さ(染色区間)が決定される。一方、糸の走行速度は、染色液に浸った糸に染料が染着できる程度の速度に設定される。
【0041】
糸押下げ体P2が下降姿勢を所定時間維持した後、制御部からの指令で昇降機構によって下降姿勢にある糸押下げ体P2を上昇させる(図5(C))。押下げられた糸は水平姿勢に復帰する。
【0042】
走行中の糸の停止及び糸押下げ体の下降、糸押下げ体の下降姿勢維持及び糸の走行の再開、糸押下げ体の上昇、染槽セットの移動による染槽の選択、を繰り返すことで、糸は、第1の液体に浸された部分Lと第2の液体に浸された部分Lとを交互に備えることになる(図8参照)。例えば、第1の液体が赤色の染色液、第2の液体が青色の染色液であれば、赤色部分Lと青色部分Lを交互に備えた多色染の糸を得ることができる。あるいは、第1の液体が赤色の染色液、第2の液体が水であれば、赤色部分Lと無地部分Lを交互に備えた部分染の糸を得ることができる。
【0043】
染槽セットBの染槽の数は限定されず、図6に示すように、3つの染槽B1、染槽B2、染槽B3からなる染槽セットBを用いて3色に糸を染め分けることができる。例えば、染槽B1が赤色の染色液、染槽B2が青色の染色液、染槽B3が黄色の染色液を収容している。より具体的には、糸押し下げ体P1の降下により糸の部分を押し下げて、第1の染槽B1の第1の染色液に漬ける工程と、糸押下げ体P1が下降姿勢を維持した状態で糸を走行させることで糸の所定長の部分を第1の染色液に潜らせる工程と、下降姿勢にある糸押下げ体P1を上昇させる工程と、第2の染槽B2が糸の下方に位置するように染槽セットBを移動させる工程と、糸押し下げ体P2の降下により糸の部分を押し下げて、第2の染槽B2の第2の染色液に漬ける工程と、糸押下げ体P2が下降姿勢を維持した状態で糸を走行させることで糸の所定長の部分を第2の染色液に潜らせる工程と、下降姿勢にある糸押下げ体P2を上昇させる工程と、第3の染槽B3が糸の下方に位置するように染槽セットBを移動させる工程と、糸押し下げ体P3の降下により糸の部分を押し下げて、第3の染槽B3の第3の染色液に漬ける工程と、糸押下げ体P3が下降姿勢を維持した状態で糸を走行させることで糸の所定長の部分を第3の染色液に潜らせる工程と、繰り返すことで、糸を3色で多色染することができる。同様に、4つの染槽を用いれば4色に染め分けることができ、5つの染槽を用いれば5色に染め分けることができることが当業者に理解される。
【0044】
図6に示すように、典型的には、並行状の複数本の糸Lが走行経路に沿って同時に走行する。各染槽B1、B2、B3の幅及び糸押下げ体P1、P2、P3(図6A)のみに示す)の幅は、複数本の糸の全幅よりも大きい寸法を備えている。押下げ体が下降することで、複数本の糸Lを同時に押下げて、下方の染槽内の液体に漬けるようになっている。
【0045】
本発明に係る染色装置および方法は、典型的には、多色染ないし部分染されたナイロン製の釣糸の製造に用いられる。ここで、第1の長さの赤色部分と第2の長さの青色部分を交互に備えた釣用の道糸を得るものとする。第1の長さ、第2の長さは、例えば、数十cm〜数十mの範囲から、任意に設定することができる。第1の長さ、第2の長さは、糸の走行速度と糸押下げ体の降下姿勢維持時間とから決定することができる。
【0046】
先ず、赤色の染色液を収容した染槽B1を糸の走行経路の所定部位の下方に位置させると共に、糸押下げ体P1を走行経路の所定部位の上方に位置させる。所定のタイミングで糸の走行を一時停止して、糸押下げ体P1を降下させて、染槽B1の上方に位置する糸の部分を押し下げて染槽B1内の赤色の染料液に浸す。糸押下げ体P1が下降姿勢を維持した状態で糸の走行を再開することで糸の所定長の部分(第1の長さ)を赤色の染料液に潜らせて浸染する。
【0047】
次いで、下降姿勢にある糸押下げ体P1を上昇させる。染槽セットBを移動させて糸の走行経路の所定部位の下方に染槽B2を位置させると共に、糸押下げ体P2を走行経路の所定部位の上方に位置させる。所定のタイミングで糸の走行を一時停止して、糸押下げ体P2を降下させて、染槽B2の上方に位置する糸の部分を押し下げて染槽B2内の青色の染料液に浸す。糸押下げ体P2の下降タイミングは、糸押下げ体が下降して糸の部分を青色の染色液に漬けて下降姿勢となった時に、赤色部分の基端側に隣接する部位が丁度青色の染色液に浸かるようなタイミングである。糸押下げ体P2が下降姿勢を維持した状態で糸の走行を再開することで糸の所定長の部分(第2の長さ)を青色の染料液に潜らせて浸染する。
【0048】
第1サイクル(赤色の染色液を収容した染槽B1の選択、走行中の糸の停止及び糸押下げ体P1の下降、糸押下げ体P1の下降姿勢維持及び糸の走行の再開、糸押下げ体P1の上昇)と、第2サイクル(青色の染色液を収容した染槽B2の選択、走行中の糸の停止及び糸押下げ体P2の下降、糸押下げ体P2の下降姿勢維持及び糸の走行の再開、糸押下げ体P2の上昇)、を繰り返すことで、第1の長さの赤色部分と第1の長さの青色部分を交互に備えた道糸を得る。
【符号の説明】
【0049】
L 糸
B 染槽セット
B1、B2、B3 染槽
G11、G12、G21、G22 ガイドローラ
P1、P2、P3 糸押下げ体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸を走行経路に沿って走行させる走行機構と、
前記走行経路の中途部の下方に位置して、当該中途部を横切る方向に並設された複数の染槽からなる染槽セットと、
1つの染槽を選択して前記中途部にある糸の部分の下方に位置させるように、前記染槽セットを、走行経路の中途部を横切る方向に移動させる手段と、
前記中途部の上方に位置して降昇可能に設けられ、下降時に前記中途部にある糸の部分を押し下げて、選択された染槽内の液体に浸ける、糸押下げ体と、
糸の走行、染槽セットの移動、糸押し下げ体の下降・上昇、を制御する制御部と、
を備えた糸の染色装置。
【請求項2】
糸押下げ体は、染槽毎に各染槽の上方に位置して設けてあり、前記糸押下げ体は前記染槽セットと一体で移動する、請求項1に記載の染色装置。
【請求項3】
各染槽には、前記糸押し下げ体により押し下げられた糸の部分の長さ方向前後に接触するガイド体が設けてある、請求項1、2いずれかに記載の染色装置。
【請求項4】
前記制御部は、走行中の糸の停止及び糸押下げ体の下降、糸押下げ体の下降姿勢維持及び糸の走行の再開、糸押下げ体の上昇、染槽セットの移動による染槽の選択、を繰り返す、請求項1〜3いずれか1項に記載の染色装置。
【請求項5】
前記染槽セットの下方には、各染槽内の液体の温度を同温に保たつためのヒータが配置されている、請求項1〜4いずれか1項に記載の染色装置。
【請求項6】
糸を走行経路に沿って走行させる走行機構と、糸の走行経路の中途部の下方に位置して、当該中途部にある糸の部分を横切る方向に並設された複数の染槽からなる染槽セットと、前記染槽セットを走行経路の中途部を横切る方向に移動させる手段と、前記中途部の上方に降昇可能に設けた糸押下げ体と、を用いて、以下の工程を繰り返す糸の染色方法。
糸押下げ体を下降させて、前記中途部にある糸の部分を押し下げて、当該中途部の下方に位置する選択された染槽内の液体に漬けること、
糸押下げ体が下降姿勢を維持した状態で糸を走行させることで糸の所定長の部分を液体に潜らせること、
糸押下げ体を上昇させて、押下げられた糸の部分を押し下げられる前の姿勢に復帰させること、
染槽セットを移動させて前記中途部の下方に位置する染槽を選択すること。
【請求項7】
前記染槽セットは、少なくとも、第1の液体を収容した第1の染槽と、第2の液体を収容した第2の染槽と、を備え、
前記糸押し下げ体の降下により中途部にある糸の部分を押し下げて、中途部の下方に位置する第1の染槽の第1の液体に漬ける工程と、
糸押下げ体が下降姿勢を維持した状態で糸を走行させることで糸の所定長の部分を第1の液体に潜らせる工程と、
前記下降姿勢にある糸押下げ体を上昇させる工程と、
第2の染槽が中途部の下方に位置するように染槽セットを移動させる工程と、
前記糸押し下げ体の降下により中途部にある糸の部分を押し下げて、中途部の下方に位置する第2の染槽の第2の液体に漬ける工程と、
糸押下げ体が下降姿勢を維持した状態で糸を走行させることで糸の所定長の部分を第2の液体に潜らせる工程と、
を含んでいる、請求項6に記載の染色方法。
【請求項8】
前記第1の液体は第1の色の染色液であり、前記第2の液体は第2の色の染色液であり、糸を少なくとも2色に多色染する、請求項7に記載の染色方法。
【請求項9】
前記第1の液体は第1の色の染色液であり、前記第2の液体は第1の液体と同温の水であり、糸を少なくとも第1の色に部分染する、請求項7に記載の染色方法。
【請求項10】
前記糸押下げ体が、前記中途部にある糸の部分を押し下げる時には、糸の走行が停止される、請求項6〜9いずれか1項に記載の染色方法。
【請求項11】
前記糸はナイロン糸であり、少なくとも1つの染槽には酸性染料が収容されている、請求項6〜10いずれか1項に記載の染色方法。
【請求項12】
前記糸は釣糸であり、請求項6〜11いずれか1項に記載された方法を用いて部分染あるいは多色染された釣糸を製造する方法。
【請求項13】
糸を走行経路に沿って走行させる走行機構と、糸の走行経路の中途部の下方に位置して、当該中途部にある糸の部分を横切る方向に並設された複数の染槽からなる染槽セットと、前記染槽セットを走行経路の中途部を横切る方向に移動させる手段と、前記中途部の上方に降昇可能に設けた糸押下げ体と、を用いて、制御部に、請求項6〜11いずれか1項に記載された方法を実行させるためのコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−96023(P2013−96023A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238459(P2011−238459)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【特許番号】特許第4996765号(P4996765)
【特許公報発行日】平成24年8月8日(2012.8.8)
【出願人】(507089425)野口染色株式会社 (3)
【Fターム(参考)】