説明

糸処理装置

【課題】糸の加工性能が高い糸処理装置を提供すること。
【解決手段】糸処理装置1は、糸導入部11及び糸排出部12を備えた糸通路と、糸通路に流体を噴射する流体噴射孔14とを有するノズル2と、糸排出部12の先端に位置する排出口12aと対向する球状の衝突体4を備えている。糸排出部12は排出口12aに向けてその内径が拡大する末広がり状に形成されており、衝突体4は、ノズル2の、糸排出部12の排出口12aが形成された端面から離れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸に流体を噴射して交絡やループ等を生じさせて、糸に嵩高性を付与する糸処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、合成樹脂等のフィラメントからなる糸に流体を噴射し、フィラメントに交絡やループ等を生じさせることにより、糸に嵩高性を付与する糸処理装置が知られている。
【0003】
特許文献1,2には、糸導入部及び糸排出部を有する糸通路と、この糸通路内に圧縮空気を噴射するエア噴射孔を備えたノズルと、このノズルの糸排出部と対向するように配置された球状の衝突体とを備えた、糸処理装置がそれぞれ開示されている。尚、これら特許文献1,2の糸処理装置においては、糸排出部が、先端の排出口側ほど径が拡大する末広がり状に形成された上で、球状の衝突体が、糸排出部の排出口(糸排出部の先端面)から内側に入り込んでいる。
【0004】
糸導入部から導入された糸は、エアが噴射される糸通路内を通過して糸排出部から排出される。ここで、糸通路から出たエアは球状の衝突体に衝突してその表面に沿って流れ、このエアの流れに乗って、糸は糸排出部と衝突体との間の隙間を通って排出される。その際に、糸排出部内のエアの流れによってフィラメントにループや交絡等が発生するため、糸に嵩高性が付与される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2000−514509号公報(特に、図5、図6、及び、図8)
【特許文献2】特開2000−303280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本願発明者の検討により、前述した従来の糸処理装置においては、嵩高加工が不十分になる場合があり、特に、糸が細い場合にその傾向が顕著になることがわかった。
【0007】
本願発明者は、上記原因を解明すべく鋭意検討を行った結果、従来の糸処理装置において加工が不十分になるのは、ノズルの糸排出部に球状の衝突体が一部入り込んでいるために、糸排出部が窮屈になるために不安定な空気の流れとなり、フィラメントが十分に絡まないことが主な原因であるということを知見した。
【0008】
本発明の目的は、糸の加工性能が高い糸処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0009】
第1の発明の糸処理装置は、糸導入部及び糸排出部を備えた糸通路と、前記糸通路に流体を噴射する流体噴射孔とを有するノズルと、前記糸排出部の先端に位置する排出口と対向する球状の衝突体を備え、前記糸排出部は前記排出口に向けてその内径が拡大する末広がり状に形成されており、前記衝突体が、前記ノズルの、前記糸排出部の前記排出口が形成された端面から離れていることを特徴とするものである。
【0010】
本発明によれば、糸排出部の排出口と対向する球状の衝突体が排出口から離れており、糸排出部内に入り込んでいないため、糸排出部の容積が大きくなってフィラメントが安定して絡みやすくなり、従来装置と比べて嵩高加工の性能が上がる。
【0011】
また、球状の衝突体が糸排出部内に入り込んでいないと、加工開始時、あるいは、糸切れ後の加工再開時にノズルへの糸通しを行う際に、糸排出部と衝突体との間に糸を通しやすくなり、糸通し作業が容易になる。
【0012】
第2の発明の糸処理装置は、前記第1の発明において、前記衝突体の径が、前記糸排出部の排出口の径とほぼ同じであることを特徴とするものである。
【0013】
衝突体の径が小さ過ぎると、多くの流体が衝突体に衝突せずにそのまま排出されてしまう。また、衝突体の径が大き過ぎると、衝突体と糸排出部との隙間から排出される流体の流れが窮屈になり不安定となる。従って、安定して糸の加工を行うためには、衝突体の径は、排出口の径とほぼ同じであることが好ましい。
【0014】
第3の発明の糸処理装置は、前記第1又は第2の発明において、前記ノズルは筒状に形成されるとともにその一端部にフランジ部が設けられ、前記ノズルの前記フランジ部には前記糸導入部の導入口が形成され、前記フランジ部と反対側の他端部には前記糸排出部の排出口が形成され、前記ノズルを保持するノズルホルダをさらに備え、前記ノズルホルダは筒状の前記ノズルが挿入される貫通状の装着孔を有し、この装着孔の一方の開口に前記衝突体が対向するように配置され、前記ノズルは、前記排出口が形成された前記他端部が、前記装着孔の前記衝突体とは反対側の開口から挿入され、前記フランジ部は前記ノズルホルダの側面に当接していることを特徴とするものである。
【0015】
ノズルを保持するノズルホルダには貫通状の装着孔が形成され、この装着孔の一方の開口に衝突体が対向して配置されている。そして、ノズルは、その排出口が、衝突体と対向する前記一方の開口に位置するように、ノズルホルダの装着孔に挿入される。
【0016】
ところで、本発明においては、筒状のノズルの一端部にはフランジ部が設けられており、このフランジ部とは反対側のノズルの端部がノズルホルダの装着孔に挿入される一方、フランジ部がノズルホルダの側面に当接することで、ノズルのノズルホルダに対する位置決めがなされる。ここで、本発明では、ノズルのフランジ部に糸導入部の導入口が形成され、フランジ部と反対側に位置するノズルの端部に糸排出部の排出口が形成されている。従って、このノズルは、装着孔の衝突体とは反対側の開口から、排出口が形成された端部(フランジ部と反対側の端部)が装着孔に挿入されて、排出口が衝突体と対向する一方で、フランジ部は装着孔に挿入されずにノズルホルダの側面に当接する。このように、本発明においては、ノズルは、衝突体と反対側からノズルホルダに対して着脱されるため、着脱時にノズルが衝突体と干渉することがなく、メンテナンス(清掃)やノズル交換の際におけるノズルの着脱作業が非常に容易になる。
【0017】
第4の発明の糸処理装置は、前記第3の発明において、前記衝突体は、前記ノズルホルダに固定的に設けられていることを特徴とするものである。
【0018】
前述したように、ノズルは、ノズルホルダの装着孔に対して、衝突体の反対側の開口から挿入されることから、ノズルをノズルホルダに着脱する際に衝突体とノズルとが干渉しないため、ノズルの着脱のために衝突体を動かす必要がない。また、ノズルがノズルホルダに装着された状態において、衝突体がノズルの排出口よりも内側に入り込んでいないため、衝突体と糸排出部との間に一定以上の隙間が確保されることから、衝突体を動かすことなくノズルへの糸通しを行うことが可能である。従って、衝突体をノズルホルダに対して可動に構成する必要がなくなり、衝突体がノズルホルダに固定された構成を採用することで、構造が簡単になり部品点数も少なくなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る糸処理装置の断面図である。
【図2】図1のII-II線断面図である。
【図3】図1のノズルを中心とする部分の拡大図である。
【図4】実施例1〜3と比較例1〜6の諸条件、及び、試験結果をまとめた図表である。
【図5】(a)は比較例1〜3で使用したノズルを示す図、(b)は比較例4〜6で使用したノズルを示す図である。
【図6】実施例4〜10及び比較例7,8と、実施例11〜17及び比較例9,10の諸条件、及び、試験結果をまとめた図表である。
【図7】実施例18〜36の諸条件、及び、試験結果をまとめた図表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本実施形態の糸処理装置の断面図、図2は図1のII-II線断面図、図3は図1のノズルを中心とする部分の拡大図である。尚、以下では、図1における上下左右の方向を上下左右と定義して説明する。図1〜図3に示すように、糸処理装置1は、ノズル2と、このノズル2を保持するノズルホルダ3と、ノズルホルダ3に固定的に設けられた球状の衝突体4とを備えている。
【0021】
まず、ノズル2について説明する。図1〜図3に示すように、ノズル2は金属やセラミックス等の硬質材料により筒状に形成され、このノズル2の一端部には径方向に張り出したフランジ部2aが設けられている。また、ノズル2の内部にはノズル2の筒軸方向に延びる糸通路10が形成されている。糸通路10は、ノズル2のフランジ部2a側(右側部分)に形成された糸導入部11と、ノズル2のフランジ部2aと反対側(左側部分)に形成された糸排出部12と、糸導入部11と糸排出部12を繋ぐエア導入部13とを有する。
【0022】
ノズル2の右端部に位置するフランジ部2aの端面には糸が導入される導入口11aが開口しており、糸導入部11は、前記導入口11aから先端側(図中左側)に向かうほど内径が縮小する先細り状に形成されている。一方、フランジ部2aと反対側の、ノズル2の左端面には糸通路10内に導入された糸が排出される排出口12aが開口しており、糸排出部12は、排出口12aに向かうほど内径が拡大する末広がり形状に形成されている。先細りの糸導入部11や末広がりの糸排出部12の形状としては、例えば、テーパー状や、テーパー状よりも開口端における広がりの程度(曲率)が大きいラッパ状などを採用することができる。一例として、図では、糸導入部11がラッパ状、糸排出部12がテーパー状となっている。
【0023】
ノズル2の筒軸方向中央部には、糸通路10のエア導入部13へ開口したエア噴射孔14(流体噴射孔)が設けられている。尚、図ではエア噴射孔14が1つしか示されていないが、実際は、複数(例えば、3つ)のエア噴射孔14がノズル2の周方向等間隔位置にそれぞれ配置されている。また、エア噴射孔14は、ノズル2の半径方向(糸通路10と直交する方向)に対して、糸通路10の先端側(左側)へ傾斜して延びており、糸通路10へエアを噴射したときに左方へ向かう強いエア流を発生させることができるようになっている。
【0024】
次に、ノズルホルダ3について説明する。図1、図2に示すように、ノズルホルダ3は、上下に長い直方体形状に形成されている。このノズルホルダ3の上側部分には、ノズルホルダ3を水平に貫通する装着孔20が形成されている。尚、この装着孔20には上述したノズル2が挿入されるが、装着孔20の径はノズル2のフランジ部2aの外径よりは小さくなっている。そのため、装着孔20にノズル2の左端部が右側の開口から挿入装着される一方で、ノズル2の右端部に設けられたフランジ部2aは装着孔20に挿入されずにノズルホルダ3の右側面に当接し、これにより、ノズル2はノズルホルダ3に対して位置決めされる。また、図1に示すように、ノズルホルダ3には、装着孔20に挿入されたノズル2が右方へ飛び出るのを防止する規制部材22が取り付けられる。
【0025】
ノズルホルダ3の内部には上下に延びるエア供給孔21が形成されており、このエア供給孔21はチューブ30を介して図示しないエア供給源に接続される。また、ノズル2がノズルホルダ3の装着孔20に装着されたときには、ノズル2に形成されたエア噴射孔14がエア供給孔21と連通し、エア供給孔21から供給されたエアが、エア噴射孔14から糸通路10へ噴射されることになる。
【0026】
次に、衝突体4について説明する。球状の衝突体4は、金属やセラミックス等の硬質材料で形成されている。この衝突体4は、ノズルホルダ3の装着孔20の左側開口と対向するように配置されている。別の言い方をすれば、装着孔20に挿入されたノズル2の左端面に形成された、糸排出部12の排出口12aと対向している。但し、衝突体4は、ノズル2の、糸排出部12の排出口12aが形成された端面(ノズル2の左端面)から、ノズル2の軸方向に関して、距離Lをあけて離間しており、糸排出部12内に衝突体4が入り込んでいない。衝突体4がこのようにノズル2の端面から離れて配置されている理由については後ほど説明する。
【0027】
また、衝突体4をノズル2の排出口12aと対向する位置に保持する構成は特に限定されるものではないが、本実施形態では一例として以下のような構成を採用している。まず、図1に示すように、ノズルホルダ3の側面に取付部材23が設けられ、この取付部材23にブロック状のホルダ24の下部がボルト25で固定されている。ホルダ24の上部には柱状の支持部材26が水平姿勢で保持されており、この支持部材26の先端に衝突体4が取り付けられている。つまり、衝突体4は、支持部材26、ホルダ24、及び、取付部材23を介して、ノズルホルダ3に固定的に取り付けられている。尚、図1では、支持部材26の基端部はホルダ24に形成されたネジ孔に螺合されて、支持部材26はホルダ24に対して進退自在に構成されており、この支持部材26のホルダ24に対する進出量を変更することで、衝突体4の位置(即ち、衝突体4とノズル2の排出口12aとの離間距離L)を調整可能になっている。
【0028】
次に、本実施形態の糸処理装置1の、嵩高加工時における作用について説明する。まず、ノズル2に設けられた糸導入部11の導入口11aから、合成樹脂等のフィラメントからなる糸31が導入され、エア導入部13へ導かれる。また、図3に矢印で示すように、エア導入部13には、図示しないエア供給源から供給されたエアがエア噴射孔14から噴射される。
【0029】
エア導入部13に噴射されたエアは糸排出部12から排出され、さらに、排出口12aに対向して配置されている衝突体4に衝突し、図3に矢印で示すように衝突体4の表面に沿って流れる。このエアの流れに乗って、糸31は衝突体4と糸排出部12との間の隙間から排出される。このとき、糸排出部12内の激しいエアの流れによって糸31の構成フィラメントがほぐされ、さらに、個々のフィラメントが激しく運動することによってループや交絡等が発生することで、糸31に嵩高性が付与される。
【0030】
ここで、前述したように、本実施形態の糸処理装置1においては、衝突体4は、ノズル2の左端面(糸排出部12の排出口12aが形成された端面)から離れている。そのため、糸排出部12の内容積が大きくなって、開繊されたフィラメントが絡みやすくなる。従って、嵩高加工の性能が上がり、細い糸の加工も可能となる。
【0031】
また、球状の衝突体4が糸排出部12内に入り込んでいないため、加工開始あるいは糸切れ後の加工再開のためにノズル2へ糸通しを行う際に、糸排出部12と衝突体4との間に糸を通しやすくなり、作業が容易になる。
【0032】
尚、球状の衝突体4は特定の大きさのものに限定されるものではない。但し、排出口12aの径に対して衝突体4の径が小さ過ぎると多くのエアが衝突体4に衝突せずにそのまま真っ直ぐに排出されてしまう。また、衝突体4の径が大き過ぎると衝突体4と糸排出部12との間でエアの流れが窮屈になる。従って、安定して糸の加工を行うためには、衝突体4の径は、排出口12aの径とほぼ同じであることが好ましい。
【0033】
また、本実施形態のノズル2はその一端部にフランジ部2aを有するものであるが、そのフランジ部2a側に糸導入部11の導入口11aが形成され、フランジ部2aと反対側の端部に糸排出部12の排出口12aが形成されている。そのため、ノズルホルダ3の装着孔20の、衝突体4と反対側の開口(図1右側の開口)から、ノズル2の排出口12aが形成された左端部を挿入して装着を行うことになる。このように、ノズル2は、衝突体4と反対側からノズルホルダ3に対して着脱されるため、メンテナンス(清掃)やノズル2の交換の際におけるノズル2の着脱作業が非常に容易になる。
【0034】
また、ノズル2が、衝突体4の反対側の開口から装着孔20に挿入されることから、ノズル2をノズルホルダ3に着脱する際に衝突体4とノズル2とが干渉しないため、衝突体4を動かす必要がない(これに対して、先に挙げた特許文献1(特表2000−514509号公報)の構成(図8参照)では、ノズルのフランジ部に排出口が形成されているために、衝突体とノズルのフランジ部とが対向することになり、衝突体側からノズルを着脱(抜き差し)する必要があるため、衝突体を動かさずにノズルを着脱することは不可能である)。また、ノズル2がノズルホルダ3に装着された状態で、衝突体4がノズル2の排出口12aよりも内側に入り込んでいないため、衝突体4と糸排出部12との間に一定以上の隙間が存在することから、衝突体4を動かすことなくノズル2への糸通しを行うことが可能になる。従って、衝突体4をノズルホルダ3に対して可動に構成する必要がなくなり、衝突体4がノズルホルダ3に固定された構成を採用することで、構造が簡単になり部品点数も少なくなる。
【0035】
尚、本発明は前述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜変更を加えることができる。
【0036】
例えば、前記実施形態では衝突体4がノズルホルダ3に対して固定的に設けられるとしたが、衝突体4がノズルホルダ3に対して可動であってもよい。この形態では、ノズル2内に糸を通す際に衝突体4を排出口12aと対向する位置から移動させることで、糸通しが容易になるという効果が得られる。
【0037】
また、糸導入部11については、テーパー状やラッパ状といった、先端に向けて内径が縮小する形状に形成される必要は特になく、例えば、上述した特許文献1の図5のノズル2と同様に、糸導入部11が、径の変化しないストレート形状に形成されてもよい。
【実施例】
【0038】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0039】
(1)本発明の実施例と従来構成のノズルを使用した比較例との比較検討(図4:実施例1〜3、比較例1〜6)
ここでは、本発明を適用した実施例1〜3を、衝突体がノズルの排出口から内側に入り込んでいる比較例(比較例1〜6)と比較することにより、その効果を検討した。図4に、実施例1〜3と比較例1〜6の諸条件を示す。
【0040】
実施例1〜3は、先に挙げた図1や図3に示される、糸導入部11がラッパ状、糸排出部12がテーパー状のノズル2を使用している。比較例1〜3は、図5(a)に示される、糸導入部111が内径の変化しないストレート状、糸排出部112がラッパ状のノズル102を使用している。比較例4〜6は、図5(b)に示される、糸導入部211がテーパー状、糸排出部212がラッパ状のノズル202を使用している。また、図4に示されるように、実施例1〜3、比較例1〜3、及び、比較例4〜6のそれぞれにおいて、球状の衝突体の径は、ノズルの糸排出部の排出口径と等しくなっている。また、図4における、「衝突体−排出口間距離」は図3に示される距離Lのことであり、比較例1〜6においてマイナスの値となっているのは、図5に示されるように、排出口112a,212aよりも内側に衝突体104,204が入り込んでいることを示す。尚、「糸種」の欄における「PET」は加工対象の糸繊維がポリエステル、「PA6」はナイロン6であることを示している。
【0041】
また、嵩高加工の方法としては、1)コア&エフェクト加工、2)合糸加工、3)シングル加工の3つの方法が一般的に知られている。1)コア&エフェクト加工は、2本の糸を異なる速度でそれぞれ供給し、速度が小さい糸(コア糸)の周りに速度の大きい糸を巻き付けるようにして、1本の太い嵩高な糸を形成する。2)合糸加工は2本の糸を同じ速度で供給して互いに交絡させて1本の太い嵩高な糸を形成する。3)シングル加工は、1本の太い糸のみを供給し、その構成フィラメントを開繊して互いに交絡させることにより1本の嵩高な糸を形成する。
【0042】
上記3つの方法のうち、1)と2)は2本の細い糸を使用して1本の太い糸を形成するため、原料として細い糸が必要になるが、一般的に細い糸ほど高価になるため、製品コストが高くなる。それに対して、3)は原料に1本の太い糸を使用することから、製品コストを低く抑えることができる。しかし、その反面、供給原糸の構成フィラメントを十分に開繊した上でフィラメント同士を交絡させる必要があるため、加工が難しいとされている。ここでは、実施例及び比較例のそれぞれについて、上記3)のシングル加工で加工を行った場合に、十分な嵩高加工が可能か否かを検討した。
【0043】
また、フィラメントにループや交絡等が多数形成されて十分な嵩高加工がなされた場合には、ノズルに供給された糸量(供給糸速)に対して、ノズルから排出される糸量(排出糸速)がかなり小さくなる。そこで、図4においては、十分な嵩高加工がなされているか否かの判断には、ノズルへの供給糸量の、排出糸量に対する過剰率(オーバーフィード)という指標を用いた。例えば、供給糸速が300m/minで、排出糸速が200m/minであれば、オーバーフィード(%)=((300−200)/200)×100=50(%)となる。このオーバーフィードの値が高いほどフィラメントに交絡やループ等が多く発生していることになる。一般的に、加工が正常である場合のオーバーフィードの値は、30%以上である。
【0044】
図4に、実施例1〜3及び比較例1〜6のそれぞれについてのオーバーフィードを示す。この結果から分かるように、本発明を適用した実施例1〜3では、糸種にかかわらずオーバーフィードが高く、十分な加工が行われているのに対して、衝突体が糸排出部に入り込んでいる比較例1〜6では、オーバーフィードが極端に低く、加工が十分に行われないことが分かる。
【0045】
(2)衝突体−排出口の最適距離の検討(図6:実施例4〜10及び比較例7,8、実施例11〜17及び比較例9,10)
次に、図3のノズル2を使用したときの、衝突体−排出口間の距離と糸の加工性との関係について検討した。図6に実施例4〜10及び比較例7,8、実施例11〜17及び比較例9,10の諸条件を示す。
【0046】
実施例4〜10及び比較例7,8と、実施例11〜17及び比較例9,10とでは、糸種が異なっている。また、嵩高加工としては上記(1)の検討で述べたシングル加工を採用している。尚、ここでは、先の(1)の検討とは異なり、一定のオーバーフィードで糸をノズル内に導入したときの、糸排出部から排出された糸の張力を測定した。ここで、排出側の糸張力が高くなるほど、糸の交絡が強くなることが一般に知られている。従って、測定された排出側の糸張力から、糸に施された嵩高加工の程度を判断することができる。
【0047】
図7に、実施例4〜10及び比較例7,8と、実施例11〜17及び比較例9,10のそれぞれについての排出側の糸張力を示す。この結果から分かるように、衝突体−排出口距離が0以下である比較例7,8及び比較例9,10は、糸切れが発生するか、あるいは、排出側の糸張力が低くなっており、十分な加工ができないことがわかる。また、実施例のうち、衝突体−排出口距離が0.2〜0.4mmである、実施例5〜7、及び、実施例12〜15が、同種の糸を扱う他の実施例と比べて糸張力が高くなっている。以上の結果から、図6の諸条件下で良好な加工を行うためには、衝突体−排出口距離を0.2〜0.4mmにすることが好ましい。
【0048】
(3)球状の衝突体の大きさに関する検討(図7:実施例18〜36)
次に、図3のノズル2を使用したときの、衝突体の大きさと糸の加工性との関係について検討した。図7に実施例18〜36の諸条件を示す。
【0049】
実施例18〜30と、実施例31〜36とでは、糸種が異なっている。また、嵩高加工としては上記(1)の検討で述べたシングル加工を採用している。また、上の(2)の検討と同じように、オーバーフィードを一定にした上で、排出側の糸張力を測定し、これによって糸に施された嵩高加工の程度を判断した。
【0050】
図7に、実施例18〜36のそれぞれについての排出側の糸張力を示す。この結果から分かるように、同種の糸(PA6 40d/72f)を加工した実施例18〜30の中では、球状の衝突体の径が排出口径と同じである、実施例21〜23の糸張力が高くなっている。そして、衝突体の径が排出口の径に対して、小さくなる、あるいは、大きくなるにつれて、実施例21〜23よりも糸張力は小さくなる傾向にある(実施例18〜20、実施例24〜26、実施例27〜30)。また、PET150d/72fの糸を加工した実施例31〜36でも、球状の衝突体の径が排出口径と同じである、実施例31〜33の排出側の糸張力が高めになっている。以上の結果から、衝突体の径は、排出口の径とほぼ同じであることが好ましい。
【符号の説明】
【0051】
1 糸処理装置
2 ノズル
2a フランジ部
3 ノズルホルダ
4 衝突体
10 糸通路
11 糸導入部
11a 導入口
12 糸排出部
12a 排出口
13 エア導入部
14 エア噴射孔
20 装着孔
31 糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸導入部及び糸排出部を備えた糸通路と、前記糸通路に流体を噴射する流体噴射孔とを有するノズルと、
前記糸排出部の先端に位置する排出口と対向する球状の衝突体を備え、
前記糸排出部は前記排出口に向けてその内径が拡大する末広がり状に形成されており、
前記衝突体が、前記ノズルの、前記糸排出部の前記排出口が形成された端面から離れていることを特徴とする糸処理装置。
【請求項2】
前記衝突体の径が、前記糸排出部の排出口の径とほぼ同じであることを特徴とする請求項1に記載の糸処理装置。
【請求項3】
前記ノズルは筒状に形成されるとともにその一端部にフランジ部が設けられ、
前記ノズルの前記フランジ部には前記糸導入部の導入口が形成され、前記フランジ部と反対側の他端部には前記糸排出部の排出口が形成され、
前記ノズルを保持するノズルホルダをさらに備え、
前記ノズルホルダは筒状の前記ノズルが挿入される貫通状の装着孔を有し、この装着孔の一方の開口に前記衝突体が対向するように配置され、
前記ノズルは、前記排出口が形成された前記他端部が、前記装着孔の前記衝突体とは反対側の開口から挿入され、前記フランジ部は前記ノズルホルダの側面に当接していることを特徴とする請求項1又は2に記載の糸処理装置。
【請求項4】
前記衝突体は、前記ノズルホルダに固定的に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の糸処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−157653(P2011−157653A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19936(P2010−19936)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(503329994)有限会社JTC (2)
【出願人】(510028914)株式会社AIKIリオテック (2)
【Fターム(参考)】