説明

糸切れ検知方法および装置

【課題】多糸条を同時に生産する繊維製造工程において、工程毎、または工程内各箇所、または前後の工程での糸条本数差を検知することにより工程中の糸切れを迅速にかつ確実に検知する糸切れ検知方法および装置を提供する。
【解決手段】所定の間隔をおいて併走する糸条中の糸切れを検知する方法において、併走する糸条の上流側と下流側とにおいて糸条本数を検知し、該上流側と下流側とで検知した糸条本数の差を確認することにより糸切れを検知することを特徴とする糸切れ検知方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糸条を同時に生産する繊維製造工程において、工程中の糸切れを迅速にかつ確実に検知するための糸切れ検知方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、糸切れ検知器は走行する複数本の糸と対向させて一対の電極を設置し、この電極間に交流高電圧を印加し、さらに糸と一対の電極間を光軸が貫通するように光電検出器を設置したものであり、糸切れ時に糸が電極側へ吸引され、交流高電圧によって振動を起こして、光軸を遮断することにより糸切れを検知する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
繊維製造工程において、通常は上記の方法で糸切れを十分検知できるが、例えば炭素繊維製造工程における耐炎化工程のように、何段もローラーを介して熱処理し、かつ耐炎化炉の中が外側からは何も見えない状態において、糸切れした後、糸切れした糸条のテールが隣接ラインに跨いでいるような場合では、かかるテールを検知せず、耐炎化炉内に、糸切れした糸条が落ちて堆積する、いわゆるトグロが形成され、それが蓄熱して発火するという問題が懸念される。
【0004】
また、織機、編機などでは数十〜数千本の糸条が一斉に給糸されているため、糸条本数を順次計数し、検出部が所定の時間内に次の糸条から受光しないことによって、当該糸条が糸切れしていることを検知し、さらに計数した糸条数から糸切れした糸条を特定する糸切れ検知方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
織機のように、初めから経糸の糸条数が固定されている場合は単に糸条数を計数する方法は有効であるが、通常の繊維製造工程では、何らかの事情により糸条がライン落ちすることが頻繁にあるため、特許文献2で提案されるような技術では、システム上その都度糸条数を変更しなければならず、実際に適用することは事実上不可能である。また、糸切れが発生し、その糸切れを修復するような処置をしている時に、他の糸条でさらに糸切れが発生したようなときには、正確な糸条数を把握することができないため、糸条数を計数するだけの技術では、迅速に糸切れを検知して処置することが難しい。
【0006】
また、レーザー光照射部および該レーザ光照射部を揺動する揺動機構の両者からなり、並列状態で走行する複数の糸条列を順次周期的に照射するレーザー光照射装置と、その受光信号を処理し、前記糸条の糸切れの有無を検知する処理装置とから構成する検知装置が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
特許文献3で提案される方法は、糸条間ピッチが20mm以上離れている場合には、精度良く測定することが可能であるが、糸条間ピッチが20mm未満であると照射した光が隣接糸条と干渉するため、正確に糸切れを検知することができず、また何段もローラーを介して糸条が行き来しているような工程では、目標とする糸条ではなく、別の糸条を検知して糸切れを正確に検知できないことがあるという問題を有する。
【特許文献1】特開昭62−74884号公報
【特許文献2】特開平6−2232号公報
【特許文献3】特開平5−147825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の課題は、従来技術の上述した問題点を解決し、多糸条を糸条間ピッチを小さくして同時に生産する繊維製造工程において、工程中の糸切れの有無を迅速にかつ確実に検知できる糸切れ検知方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、
(1)複数の糸条が所定の間隔をおいて併走する糸条群中の糸切れを検知する方法であって、前記糸条群の上流側と下流側のそれぞれにおいて糸条本数を検知し、上流側で検知した糸条本数と下流側で検知した糸条本数との差を確認することにより糸切れを検知することを特徴とする糸切れ検知方法。
(2)糸条の繊度が100〜60,000デシテックスであり、併走する糸条の本数が10〜1,500本であり、かつ糸条の走行速度が0.5〜2,000m/分である上記(1)に記載の糸切れ検知方法。
(3)前記糸条本数を検知する手段が、次の(A)または(B)のいずれかである上記(1)または(2)に記載の糸切れ検知方法。
(A)光源から糸条群に向かって光を投光する投光部と、投光された光を受光する受光部とを、糸条群の幅方向に一定速度で往復移動させ、受光部での受光量変化を検知する手段
(B)糸条群の一部または全てを、一度に電荷結合素子カメラにより撮像し、撮像された画像をパターン認識または2値化して記録する手段
(4)前記(A)における速度が5〜300cm/秒の範囲内である上記(3)に記載の糸切れ検知方法。
(5)前記(A)における光源がレーザー光源である上記(3)または(4)に記載の糸切れ検知方法。
(6)前記(B)において、一度に撮像する糸条本数が5〜500本の範囲内である上記(3)〜(5)のいずれかに記載の糸切れ検知方法。
(7)前記糸条が炭素繊維の製造工程中の糸条である上記(1)〜(6)のいずれかに記載の糸切れ検知方法。
(8)上流側の糸条群が、ローラーを介して糸条を折り返しながら200〜300℃で熱処理する耐炎化工程において耐炎化炉に入る直前の糸条群であり、下流側の糸条群が前記耐炎化炉から出る直後の糸条群である上記(7)に記載の糸切れ検知方法。
(9)複数の糸条が所定の間隔をおいて併走する糸条群中の糸切れを検知する装置であって、前記糸条群の上流側と下流側のそれぞれにおいて糸条本数を検知する検知器を設けるとともに、上流側の検知器で検知した糸条本数と下流側の検知器で検知した糸条本数との差を確認する手段を備えることを特徴とする糸切れ検知装置。
(10)前駆体繊維から焼成工程を経て炭素繊維を製造するに際して、上記(7)または(8)に記載の糸切れ検知方法を用いることを特徴とする炭素繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、工程毎、または工程内各箇所での糸条本数、または前後の工程での糸条本数差を検知することにより、工程中の糸切れを迅速にかつ確実に検知することができる。特に炭素繊維製造における耐炎化工程のように、何段ものローラーを介して糸条を熱処理する工程においても、各ローラー部で糸条本数を計数し、ローラー間の糸条本数差を検知することにより、迅速で確実な糸切れ検知が可能となる。さらに、耐炎化工程での糸切れ発生により、耐炎化炉内で形成されたトグロが蓄熱して発火することにより火災になるようなことを防止することもでき、防災対策として大きな効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の糸切れ検知方法は、工程毎、または工程内各箇所、または前後の工程において、複数の糸条が所定の間隔をおいて併走する糸条群中の糸切れを検知する方法であって、前記糸条群の上流側と下流側のそれぞれにおいて糸条本数を検知し、上流側で検知した糸条本数と下流側で検知した糸条本数との差、すなわち糸条本数差を確認することにより糸切れを検知するものである。
【0012】
本発明で対象とする糸条は無機繊維、有機繊維のいずれにも好適に用いることができる。炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、スチール繊維などの無機繊維、および、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレン・ベンゾ・ビスオキサゾール(PBO)繊維、ナイロン6、66などのポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、塩化ビニル繊維、セルロース繊維、パルプ繊維などの有機繊維を使用することができる。
【0013】
所定の間隔をおいて併走する1本の糸条の繊度は100〜60,000デシテックス(dtex)であることが望ましい。100デシテックス未満になると、糸条の繊度が細いため、糸条本数検知で未検知となる可能性がある。また、60,000デシテックスを越えると、糸繊度が太いため糸割れなどにより本数を誤検知する可能性がある。好ましくは200〜40,000デシテックスであるのがよい。
【0014】
糸条の本数については特に規定はしないが、10本以上1,500本以下が望ましい。1,500本を越えると糸条幅が拡がるため、レーザー光や、電荷結合素子(以下、CCDと略記)カメラで糸条本数を検知するときに、誤検知して糸条本数差が正確に検知できにくくなる。さらに好ましい範囲は1,300本以下である。
【0015】
糸条の走行速度については0.5〜2,000m/分であることが望ましい。0.5m/分より遅ければ、糸切れを早期に発見できず、本来の糸切れ検知の意味がなくなってくる。また、2,000m/分より速ければ、どこの場所で糸切れしたか確実に検知することが難しくなってくる。さらに好ましい範囲は1〜500m/分である。
【0016】
糸条本数を検知する手段としては、次の2つの手段のいずれかを採用するのが良い。
(A)光源から糸条群に向かって光を投光する投光部と、投光された光を受光する受光部とを、糸条群の幅方向に一定速度で往復移動させ、受光部での受光量変化を検知する手段
、または、(B)糸条群の一部または全てを、一度に電荷結合素子カメラにより撮像し、撮像された画像をパターン認識または2値化して記録する手段、である。
【0017】
(A)における光源についてはレーザー光源を用いるのが望ましいが、投光された光が拡散しなければ特に限定しない。また、(A)における投光部と受光部はいずれも5〜300cm/秒の範囲内の一定速度で移動することが望ましい。5cm/秒より遅い条件では、本数を検知するのに時間がかかるため、各工程間の糸条本数差を確認するのに時間がかかり、迅速に糸切れを検知することができにくくなる。また、300cm/秒より速い条件では、光源速度が速いため糸条本数を正確に検知できにくくなるため誤検知が多くなり、結果的に正確な糸切れ検知ができにくくなる。より好ましくは10〜100cm/秒の範囲内である。
【0018】
図1は、本発明で用いられる糸条本数検知手段(A)の一例を示す概略模式図である。
【0019】
図1に示すように、ローラー5を介してターンさせて走行する糸条群4を挟むように、かつ糸条群4に接触しないように、図2に示すような、光源を有する投光部6と、光源から投光された光を受光し、受光した光、いわゆる受光量の強弱の変化を感知する受光部7とが同時に備わっている投受光器1と、それに対面する鏡部3を設け、投受光器1を、順次走行する糸条群4の幅方向にレール2に沿って一定速度で往復運動させつつ、投受光器1の投光部6から投光された光を鏡部3の鏡面に反射させて、その反射光を再び投受光器1の受光部7で検知する。糸条がない部分は投光部6からの光が鏡面に反射し反射光をほぼ100%受光部で検知することができるが、糸条がある箇所は投光部からの光を遮るため、反射光が糸条のないときと比較して、例えば0〜30%まで低下する。30%以下の光量変化を糸条があると認識して光量変化した回数を糸本数として計量する。あるいは図3に示すように、糸条群4を挟んで、投光部を有する投光器8と受光部を有する受光器9を設置し、投光部の光源から糸条群に向かって投光された光を受光部で受光して検知し、光量変化した回数を糸本数として計量する方法もある。そして、それぞれ順次検出させることによって、糸条を検出し糸条数を順次カウントしていく。なお、投光部や受光部は一定速度で移動しているため、糸条が等間隔で併走していれば、糸条の光影を検出しない時間は一定のものとなるが、何らかの原因で糸条が走行していない場合には、糸条の光影を検出しない時間が長くなるから、糸条の光影を検出しない時間が長くなったことにより、その位置に糸条が存在しないことを検知することもできる。
【0020】
(B)において、一度に撮像する糸条本数は、解像度の観点から、5〜500本の範囲内とするのが良い。
【0021】
図4は、本発明で用いられる糸条本数検知手段(B)の一例を示す概略模式図である。
【0022】
図4に示すように、CCDカメラ10を、走行する糸条を検知する位置に設置し、レール2に沿って、走行する糸条群4の幅方向に移動できるようにする。CCDカメラ10で所定の視野の糸条群を撮像し、CCDカメラ10からの画像信号を画像信号処理部に入力させる。画像信号からパターン認識または2値化の方法を用いて糸条本数を検知する。パターン認識は予め1本の糸条の画像を記憶させておき、その画像を基に同じ画素の画像が幾つあるかカウントすることにより糸本数を検知する。2値化は糸条を黒色、その他の画面を白色と認識させ、黒色が幾つ画面に現れるかにより糸本数をカウントする。糸条本数が多い場合には、CCDカメラが機幅方向に移動しながら、一度に撮像する糸条本数を例えば5〜500本として糸条本数を記録する。
【0023】
このような糸条本数検知手段を用いて、糸条群の上流側と下流側のそれぞれにおいて糸条分数を検知し、上流側で検知した糸条本数と下流側で検知した糸条本数との差を確認するのである。
【0024】
糸条本数差を確認する手段としては、糸条本数検知手段により得られた各ポジションでの糸条本数データを回路により取り込み、プログラム、またはシーケンサーによって上流と下流の糸条本数差を読みとり、その糸条本数差がゼロで無い場合には、信号を送るような演算処理機などを用いることにより行うことができる。かかる信号を用いて、警報音などのアラームを発生することにより、糸切れが発生したことを検知することができるのである。
【0025】
本発明の糸切れ検知方法は繊維製造工程、繊維を使用した高次加工工程いずれでも使用できる。繊維製造工程では、上記で述べた無機繊維、有機繊維の製造工程の全てに適用できる他、光ファイバーの製造工程でも用いることが可能である。また、繊維を用いた高次加工工程では織物工程、編み物工程、組み紐工程、また繊維に樹脂を含浸させるプリプレグ工程、プルトルージョン工程、多糸条を同時に樹脂などにディップする工程でも適用することができる。特に多糸条を糸条間ピッチを小さくして同時に製造することの多い炭素繊維製造工程において大きな効果を発揮する。
【0026】
本発明の糸切れ検知方法は、炭素繊維の製造工程の中でも、特に、前駆体繊維を耐炎化処理し炭素化処理する、いわゆる焼成工程で有効な糸切れ検知方法であるが、焼成工程の中では特に限定されるものではない。ただし、何段ものローラーを介して糸条を折り返しながら200〜300℃で熱処理する耐炎化工程においては、工程途中で糸切れ発生後、糸条が耐炎化炉内へ落下して蓄熱して発火する可能性があることから、防災上有効な糸切れ検知方法となる。この場合、耐炎化炉に入る直前の糸条群が上流側の糸条群となり、耐炎化炉から出る直後の糸条群が下流側の糸条群となる。その際、耐炎化炉内で糸が切れたときに、ローラーに巻き付かずに糸条が炉内へ落下してとぐろを形成するときには、入り側のローラーは糸条が走行しているが、出側のローラーは切れたテールが抜けていくため、糸条が走行していないことになる。入側と出側の糸条本数差を検知することにより、素早く耐炎化炉内の糸切れを検知することができ、とぐろの蓄熱による発火を未然に防ぐことができる。
【0027】
耐炎化工程の何段ものローラーがある中で、最初に耐炎化炉内に入る直前の糸条群を上流側の糸条群とし、耐炎化炉から最後に出る直後の糸条群を下流側の糸条群としても効果が得られる。特に、耐炎化炉の中に折り返しローラーがある場合は、上記のようにするのが好ましい。一方、耐炎化炉の外側にローラーがある場合には、耐炎化炉の1通過ごとに、その入出において糸条本数検知器を設置すれば、糸切れ発生後、より短時間に糸条本数差を検知することができるため、糸条がトグロを形成し続けて、それが蓄熱して発火することを、より早く防ぐことができる。
【実施例】
【0028】
以下に示す実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本実施例では、図5〜8に示した機幅4m、長さ8mの耐炎化炉11(炉外ローラー)を用い、炭素繊維の前駆体繊維であるポリアクリロニトリル糸条(単繊維繊度:1.1dtex、単繊維数:12,000本、実表面積と投影面積との比Sr/Spは1.01)を400本(400ライン)併走させて、10m/分の走行速度で駆動ローラーへ巻き取った。但し、耐炎化炉は昇温せずに、ポリアクリロニトリル糸条の耐炎化はさせなかった。
【0029】
(実施例1)
図5に示すとおり、No.1からNo.15のローラー5の各部に、図1に示すような糸条本数検知手段(A)12を設置した。投光部の光源にはレーザー光源を用い、投受光器1を40cm/秒の一定の移動速度で機幅方向に移動しながら糸条群4における光影を検知し、約10秒間で糸条本数を測定した。10秒後に再度逆方向に40cm/秒の一定の移動速度で移動しながら糸条群4における光影を検知することにより糸条本数を測定し、それを繰り返した。糸条本数差を確認する手段としては、各ポジションでの糸条本数データを回路により取り込み、プログラムによって、各前後のローラーで糸条本数差を読みとり、その糸条本数差がゼロでなくなったときに、信号を送るような演算処理機を用い、かかる信号によって、警報音が発生するようにした。
【0030】
ここで、No.6のローラーの手前で20ライン目の糸条を故意に切断して実験を行った。切断後、No.5のローラーとNo.6のローラーでの糸条本数を測定した結果、No.5のローラーでの糸条本数は糸が走行し続けているため400本であったのに対し、No.6のローラーでは糸が切れテールが抜けていくことにより399本になり、糸条本数差がゼロでなくなったため、警報音が鳴り、No.5のローラーとNo.6のローラーとの間で糸切れ発生していることを確認した。この一連の動作を10回繰り返した結果、10回とも糸切れ発生を確認できた。
【0031】
(実施例2)
故意に切断する糸条を20ライン目と21ライン目の2本に変更した以外は、実施例1と同様にして実験を行った。切断後、No.5のローラーとNo.6のローラーでの糸条本数を測定した結果、No.5のローラーでの糸条本数は糸が走行し続けているため400本であったのに対し、No.6のローラーでは糸が切れテールが抜けていくことにより398本になり、糸条本数差がゼロでなくなったため、警報音が鳴り、No.5のローラーとNo.6のローラーとの間で2本糸切れ発生していることを確認した。この一連の動作を10回繰り返した結果、10回とも糸切れ発生を確認できた。
【0032】
(実施例3)
20ライン目の糸条を故意に切断した後、切断した糸条の引き抜き処置を行い、20ライン目の糸条を完全に引き抜いた直後に、No.8のローラーの手前で100ライン目の糸条を故意に切断した以外は、実施例1と同様にして実験を行った。100ライン目の糸条を切断後、No.7のローラーと、No.8のローラーでの糸条本数を測定した結果、No.7のローラーでの糸条本数は399本であったのに対し、No.8のローラーでは100ライン目の糸条が切れテールが抜けていくことにより398本になり、No.7のローラーとNo.8のローラーでの糸条本数差が2となり、警報音が鳴って、No.7のローラーとNo.8のローラーとの間で2本糸切れ発生していることを確認した。この一連の動作を10回繰り返した結果、10回とも糸切れ発生を確認できた。
【0033】
(実施例4)
図6に示すとおり、No.1からNo.15のローラー5の各部の上部付近に、図4で示すような糸条本数検知手段(B)13を設置した。CCDカメラによる1回の撮像は、一度に1〜50ラインの糸条群について行い、その次に51〜100ライン、101〜150ライン、151〜200ラインの順番に行った。CCDカメラからの画像信号は2値化を行い、1つの画像に写る糸条本数を測定した。一回の撮像から1つの画像に写る糸条本数の測定までにかかる時間は3秒間で、一回の撮像による糸条本数検知が終了したら、レール2を速度20cm/秒で移動して、次の位置で撮像して糸条本数を検知した。糸条本数差を確認する手段としては、各ポジションでの糸条本数データを回路により取り込み、プログラムによって、各前後のローラーで糸条本数差を読みとり、その糸条本数差がゼロでなくなったときに、信号を送るような演算処理機を用い、かかる信号によって、警報音が発生するようにした。
【0034】
ここで、No.6のローラーの手前で20ライン目の糸条を故意に切断して実験を行った。切断後、No.5のローラーとNo.6のローラーでの糸条本数を測定した結果、No.5のローラーでの糸条本数は糸が走行し続けているため400本であったのに対し、No.6のローラーでは糸が切れテールが抜けていくことにより399本になり、糸条本数差がゼロでなくなったため、警報音が鳴り、No.5のローラーとNo.6のローラーとの間で糸切れ発生していることを確認した。この一連の動作を10回繰り返した結果、10回とも糸切れ発生を確認できた。
【0035】
(実施例5)
故意に切断する糸条を20ライン目と21ライン目の2本に変更した以外は、実施例4と同様にして実験を行った。切断後、No.5のローラーとNo.6のローラーでの糸条本数を測定した結果、No.5のローラーでの糸条本数は糸が走行し続けているため400本であったのに対し、No.6のローラーでは糸が切れテールが抜けていくことにより398本になり、糸条本数差がゼロでなくなったため、警報音が鳴り、No.5のローラーとNo.6のローラーとの間で2本糸切れ発生していることを確認した。この一連の動作を10回繰り返した結果、10回とも糸切れ発生を確認できた。
【0036】
(実施例6)
20ライン目の糸条を故意に切断した後、切断した糸条の引き抜き処置を行い、20ライン目の糸条を完全に引き抜いた直後に、No.8のローラーの手前で100ライン目の糸条を故意に切断した以外は、実施例1と同様にして実験を行った。100ライン目の糸条を切断後、No.7のローラーと、No.8のローラーでの糸条本数を測定した結果、No.7のローラーでの糸条本数は399本であったのに対し、No.8のローラーでは100ライン目の糸条が切れテールが抜けていくことにより398本になり、No.7のローラーとNo.8のローラーでの糸条本数差が2となり、警報音が鳴って、No.7のローラーとNo.8のローラーとの間で2本糸切れ発生していることを確認した。この一連の動作を10回繰り返した結果、10回とも糸切れ発生を確認できた。
【0037】
(比較例1)
図7に示すとおり、No.1からNo.15のローラー5の各部の横側に光電管方式糸切れ検知器14を設置し、糸が切れた後のテールを検知することにより糸切れ検知を行った。ここで、No.6のローラーの手前で20ライン目の糸条を故意に切断して実験を行った。切断後、No.5のローラーとNo.6のローラーでの糸切れ検知器が糸切れ検知することを確認した。しかし、この一連の動作を10回繰り返した結果7回は糸切れ検知したものの3回は糸切れを検知しなかった。
【0038】
(比較例2)
図8に示すとおり、No.5のローラー部にのみ、図1に示すような糸条本数検知手段(A)12を設置した。投光部の光源にはレーザー光源を用い、投受光器1を40cm/秒の一定の移動速度で機幅方向に移動しながら糸条群4における光影を検知し、約10秒間で糸条本数を測定した。10秒後に再度逆方向に40cm/秒の一定の移動速度で移動しながら糸条群4における光影を検知することにより糸条本数を測定し、それを繰り返した。糸条群全ての糸条本数を検知することにより、400本と比較して糸条本数が少ないことを検知した段階で警報音を出すシステムとして糸切れ検知した。
【0039】
ここで、No.6のローラーの手前で20ライン目の糸条を故意に切断した後、切断した糸条の引き抜き処置を行い、20ライン目の糸条を完全に引き抜いた直後に、No.8のローラーの手前で100ライン目の糸条を故意に切断した後、No.7のローラーでの糸条本数を測定した。糸切れ本数は2本であるため糸条本数は398本になるところであるが、No.8のローラーの手前で切断した100ライン目の糸条はNo.7のローラーで巻き付くことなく糸が炉内へ垂れ続けたため、No.7のローラーでの糸条本数は399本を記録し正確な糸切れを検知できなかった。この一連の動作を10回繰り返したが、No.7のローラーで糸条が巻き付いた3回は確実に糸切れ検知したが、残り7回は糸条がローラーに巻き付かず炉内に垂れ続けたため、糸切れ検知しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の糸切れ検知技術を用いれば、工程中の糸切れを迅速にかつ確実に検知することができる。特に炭素繊維製造における耐炎化炉のように何段ものローラーを介して糸条を熱処理する工程において、各ローラー部で糸条本数を測定しローラー間の糸条本数差を検知することにより、迅速で確実な糸切れ検知が可能となる。耐炎化工程で糸切れにより、炉内に糸条がトグロを形成すると蓄熱して発火することにより火災になる恐れもあり、防災対策として大きな効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明で用いられる糸条本数検知手段(A)の一例を示す概略摸式図である。
【図2】本発明で用いられる糸条本数検知手段(A)の一例を示す概略側面図である。
【図3】本発明で用いられる糸条本数検知手段(A)の一例を示す概略側面図である。
【図4】本発明で用いられる糸条本数検知手段(B)の一例を示す概略摸式図である。
【図5】実施例1〜3で用いた耐炎化炉および移動式糸切れ検知器の概略側面図である。
【図6】実施例4〜6で用いた耐炎化炉および移動式糸切れ検知器の概略側面図である。
【図7】比較例1で用いた耐炎化炉および光電管方式糸切れ検知器の概略側面図である。
【図8】比較例2で用いた耐炎化炉および移動式糸切れ検知器の概略側面図である。
【符号の説明】
【0042】
1:投受光器
2:レール
3:鏡部
4:糸条群
5:ローラー
6:投光部
7:受光部
8:投光器
9:受光器
10:CCDカメラ
11:耐炎化炉
12:糸条本数検知手段(A)
13:糸条本数検知手段(B)
14:光電管方式糸切れ検知器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の糸条が所定の間隔をおいて併走する糸条群中の糸切れを検知する方法であって、前記糸条群の上流側と下流側のそれぞれにおいて糸条本数を検知し、上流側で検知した糸条本数と下流側で検知した糸条本数との差を確認することにより糸切れを検知することを特徴とする糸切れ検知方法。
【請求項2】
糸条の繊度が100〜60,000デシテックスであり、併走する糸条の本数が10〜1,500本であり、かつ糸条の走行速度が0.5〜2,000m/分である請求項1に記載の糸切れ検知方法。
【請求項3】
前記糸条本数を検知する手段が、次の(A)または(B)のいずれかである請求項1または2に記載の糸切れ検知方法。
(A)光源から糸条群に向かって光を投光する投光部と、投光された光を受光する受光部とを、糸条群の幅方向に一定速度で往復移動させ、受光部での受光量変化を検知する手段
(B)糸条群の一部または全てを、一度に電荷結合素子カメラにより撮像し、撮像された画像をパターン認識または2値化して記録する手段
【請求項4】
前記(A)における速度が5〜300cm/秒の範囲内である請求項3に記載の糸切れ検知方法。
【請求項5】
前記(A)における光源がレーザー光源である請求項3または4に記載の糸切れ検知方法。
【請求項6】
前記(B)において、一度に撮像する糸条本数が5〜500本の範囲内である請求項3〜5のいずれかに記載の糸切れ検知方法。
【請求項7】
前記糸条が炭素繊維の製造工程中の糸条である請求項1〜6のいずれかに記載の糸切れ検知方法。
【請求項8】
上流側の糸条群が、ローラーを介して糸条を折り返しながら200〜300℃で熱処理する耐炎化工程において耐炎化炉に入る直前の糸条群であり、下流側の糸条群が前記耐炎化炉から出る直後の糸条群である請求項7に記載の糸切れ検知方法。
【請求項9】
複数の糸条が所定の間隔をおいて併走する糸条群中の糸切れを検知する装置であって、前記糸条群の上流側と下流側のそれぞれにおいて糸条本数を検知する検知器を設けるとともに、上流側の検知器で検知した糸条本数と下流側の検知器で検知した糸条本数との差を確認する手段を備えることを特徴とする糸切れ検知装置。
【請求項10】
前駆体繊維から焼成工程を経て炭素繊維を製造するに際して、請求項7または8に記載の糸切れ検知方法を用いることを特徴とする炭素繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−247106(P2007−247106A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−74032(P2006−74032)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】