説明

糸搬送装置

【課題】 糸が搬送状態又は停止状態であるかを問わずに糸張力を調整することができる糸搬送装置を提供すること。
【解決手段】 糸搬送装置は、搬送ライン上に送出ロールと、それより下流側にある後段ロールとを備えており、その後段ロールを回転駆動する後段ロール駆動手段と、後段ロールが回転状態の場合に糸延伸率を調整するために送出ロールの回転量指令を出力するストレッチ制御手段と、そのストレッチ制御手段からの回転量指令に基づいて送出ロールを回転駆動する送出ロール駆動手段と、後段ロールが回転停止状態の場合に糸張力を目標糸張力に一致させるための送出ロールの回転量指令を出力する張力制御手段と、その張力制御手段からの回転量指令の送出ロール駆動手段への入力を、後段ロールが回転停止状態の場合に許可し、後段ロールが回転状態の場合に禁止する制御切換手段とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の搬送ラインに沿って糸を上流側から下流側へ搬送するための糸搬送装置に関するものであり、特に、搬送ラインに沿って搬送される糸に糊付けを行う糸糊付け装置における糸搬送装置として用いられることに適したものである。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維製品用の糸糊付け装置は、複数のロールに掛架した状態にある多数の細糸を、これら各ロールを回転駆動させることによって搬送する糸搬送装置を備え、この糸搬送装置によって搬送される多数の細糸に糊付け及び乾燥を施すための装置である。このような糸糊付け装置は、多数の細糸が外周に巻回された送出ロールを備えており、多数の細糸は、この送出ロールによって搬送ライン上へと送り出される。
【0003】
なお、本来は、糸が送り出されるビームを「送出ビーム」と称し、糸を巻き取るビームを「巻取ビーム」と称すべきではあるが、本明細書では、説明の便宜上、「送出ビーム」を「送出ロール」と称し、「巻取ビーム」を「巻取ロール」と称している。
【0004】
この糸糊付け装置によれば、多数の細糸は、送出ロールから送り出され、筬によって整列され、その下流側にあるフィードロールへ搬送され、このフィードロールを介して更に下流側にある糊付け用のサイジングロールへ向けて搬送される。多数の細糸は、サイジングロールによって糊付けされ、熱風乾燥装置の内部へ送り込まれ、この熱風乾燥装置内を通過する間に、細糸に付着した糊表面が熱風によって乾燥させられる。
【0005】
熱風乾燥装置を通過した多数の細糸は、次に、乾燥用の複数のシリンダロールの外周面に接触した状態で巻き掛けられて搬送される。ここで、複数のシリンダロールは、その内部に供給される蒸気によって加熱されており、多数の糊付けされた細糸を所定水分率に仕上げ乾燥するものである。そして、このシリンダーロールによって乾燥された糸は、シリンダーロールの下流側にあるクーリング装置へ搬送され、このクーリング装置を通過することで冷却される。
【0006】
クーリング装置により冷却された多数の細糸は、その下流側に配設されるテイクアップロールによって巻取ロールへと搬送され、この巻取ロールの外周に巻回されることで巻き取られる。また、フィードロール、サイジングロール、シリンダロール及びテークアップロールには、これらの各ロールの外周面に多数の細糸を接触させて搬送するためのガイドロールが付設されている。
【0007】
さらに、送出ロール、フィードロール、サイジングロール、シリンダロール、テークアップロール、及び、巻取ロールは、それぞれ個別のサーボモータによって回転駆動されており、糸糊付け装置は、このサーボモータによる各ロールの回転駆動によって、多数の細糸が搬送ライン上を上流側から下流側へ搬送移動されるものとなっている。
【0008】
ここで、糸糊付け装置においては、細糸に作用する張力(以下「糸張力」という。)をできるだけ均一な低張力に調整維持することが望ましい。過大な糸張力が細糸に作用すると、細糸の強伸度が低下して、糸切れの原因となる一方、過小な糸張力が細糸に作用すると、例えば、多数の細糸同士が絡まり合ったり、又は、熱風乾燥装置内で底ずれした結果、細糸の糊落ちや毛羽立ちの原因となるからである。
【0009】
このように細糸に作用する糸張力を低張力化できず、上記した不具合が細糸に生じた場合には、かかる不具合を解消するため、糸糊付け装置の稼働を停止しなければならず、その復旧に多大な労力を要してしまう。よって、糸糊付け装置を稼働する場合、搬送対象である多数の細糸に作用する糸張力を適正値(適正な目標値)に調整することが極めて重要な課題となる。
【0010】
ここで、糸張力の調整が必要となる区間(以下「糸張力調整区間」という。)は、上流側及び下流側にある一対のロール間に糸が掛架されている区間であり、例えば、上記した糸糊付け装置における送出ロール及びフィードロール間、フィードロール及びサイジングロール間、サイジングロール及びシリンダロール間、シリンダロール及びテークアップロール間、又は、テークアップロール及び巻取ロール間が、これに該当する。
【0011】
そして、このような各糸張力調整区間にある糸の糸張力を調整するための糸張力調整方式については、これまでにも種々の提案がなされているが、なかでも、張力制御方式と、ストレッチ制御方式とがよく知られている。
【0012】
張力制御方式は、糸張力調整区間にある糸の糸張力を直接的に調整する制御方式であるのに対し、ストレッチ制御方式は、糸にフックの法則が成立することから、糸張力調整区間にある糸の糸延伸量(ストレッチ量)又は糸延伸率(ストレッチ率)を増減させることで糸張力を間接的に調整する制御方式である。
【0013】
ここで、張力制御方式は、例えば、任意の糸張力調整区間の途中にロードセル等の張力検出器が配設され、この張力検出器により糸張力の実測値を検出し、この糸張力に関する実測値と目標糸張力との偏差に基づいて、この糸張力調整区間に係る双方又はいずれか一方のロールの回転速度を増減することで、糸張力調整区間における糸張力の実測値を目標糸張力に一致させようとするものである。
【0014】
一方、ストレッチ制御方式は、例えば、任意の糸張力調整区間に係る一方のロールによる糸の移動速度と他方のロールによる糸の移動速度との差分又は比をストレッチ率と定義した上で、各ロールの回転速度の計測結果に基づいてストレッチ率を演算し、このストレッチ率と目標ストレッチ率との偏差に基づいて、糸張力調整区間に係る一対のロールの双方又はいずれか一方の回転速度を増減することで、糸張力調整区間における糸のストレッチ率を目標ストレッチ率に一致させようとするものである。
【0015】
このように、上記した張力制御方式及びストレッチ制御方式では、その具体的な制御構造が異なるものの、いずれも最終的に糸張力を調整することを目的とする点では一致している。しかも、かかる張力制御方式及びストレッチ制御方式は、いずれも糸張力調整区間にあるロールの回転速度を速度制御するものであり、実質的にはロールを回転駆動させるサーボモータの速度制御を行うものである。
【0016】
なお、これらの張力制御方式及びストレッチ制御方式は、速度制御を用いたものの外にも、糸張力調整区間にあるロールの駆動トルクをトルク制御するもの、実質的には当該ロールを回転駆動させるサーボモータのトルク制御を行うものであっても良い。
【特許文献1】特開平07−229055号公報
【特許文献2】特開平06−108338号公報
【特許文献3】特開平06−108337号公報
【特許文献4】特開平05−078031号公報
【特許文献5】特許2892355号公報
【0017】
ところで、近年の衣料製品の多様化に伴って、例えば、10〜30デニール程度の極細糸を用いた織布等が求められるケースもあり、このような場合には、かかる極細糸の強伸度が極めて小さいことから、糊付け処理を施すときに、糸搬送装置により搬送する際の糸張力をより低く調整し、その低張力状態を厳密に維持しつつ搬送することが求められる。
【0018】
しかしながら、上記した速度制御又はトルク制御を用いた場合にあっては、例えば、糸太さ10〜30デニールである約1000本程度の極細糸が、糸搬送装置の送出ロール及びフィードロール間やテークアップロール及び巻取ロール間を、一般的な設定糸張力である約20〜50Nmの糸張力を加えて安定的に搬送することができなかった。
【0019】
これは、送出ロールや巻取ロールが概ね200kgf以上もある大重量物であることに起因するものであり、このような大重量の送出ロール又は巻取ロールの慣性の影響がその他の要素(減衰性や弾性)に比べて大きくなる結果、糸張力やストレッチ率の速応性を重視して速度制御系やトルク制御系が構成されると、逆に定常偏差が増加したり減衰性が低下してしまう。また、一方、糸張力又はストレッチ率の定常偏差や減衰性を重視して速度制御系やトルク制御系が構成されると、逆に速応性が低下してしまう。
【0020】
特に、このように送出ロール及び巻取ロールの重量が大きいな場合には、その分、サーボモータの回転力を送出ロール又は巻取ロールへ伝達する伝達機構による機械的トルク損失が大きくなるため、特に、トルク制御を用いた糸張力調整方式では、極細糸を低張力で安定的に搬送することができなかった。
【0021】
しかも、極細糸のように強伸度が極小となる場合は、糸張力又はストレッチ率の速応性を重視して速度制御系やトルク制御系が構成されると、糸張力又はストレッチ率の減衰性がより一層悪化することが想定され、糸張力やストレッチ率が適正値に収束して安定化するまでに長時間を要したり、ゲインの程度によっては制御量が発振して極細糸が切れてしまう恐れもある。
【0022】
そこで、このような不具合に対して極めて有効な糸張力調整方式として、本願出願人は、特願2007−210597号及び特願2007−232413号において、極細糸を低い糸張力を加えつつ搬送するために位置制御を用いた糸張力調整方式を提案している。
【0023】
この本願出願人が提案する糸張力調整方式は、具体的には、位置制御を用いたストレッチ制御方式であり、その基本的コンセプトは、任意の糸張力調整区間に係る一方のロールの回転量と他方のロールの回転量の差分又は比を糸のストレッチ量と定義した上で、目標ストレッチ量を設定し、その目標ストレッチ量と一方のロールの回転量とに基づいて、他方のロールの回転量指令を演算し、この回転量指令に基づいて、他方のロールの回転量を増減することで、糸張力調整区間における糸のストレッチ量を目標ストレッチ量に一致させようとするものである。
【0024】
そして、この位置制御を用いたストレッチ制御方式は、最終的に糸張力を調整するため、糸張力調整区間に係る一対のロールの回転量を位置制御するものであり、実質的にはロールを回転駆動させるサーボモータの(回転量の)位置制御を行うものである。このように位置制御を用いたストレッチ制御方式は、任意の糸張力調整区間に係る一対のローラの回転量を、目標ストレッチ量から換算される回転量比率に基づいて調整するものであり、いわゆる同期比率制御方式を応用したものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
しかしながら、上記した位置制御を用いたストレッチ制御方法であっても、送出ロールや巻取ロールの交換時、又は、糸切れ等による糸の搬送停止時など、各サーボモータが回転され得ない状況下においては、各サーボモータの回転量の変化がないため、各サーボモータの回転量に基づいて糸のストレッチ量を調整するための制御入力を生成することができず、結果、糸張力調整区間にある糸の糸張力を調整することができないという問題点があった。
【0026】
しかも、送出ロールや巻取ロールの交換時に搬送ライン上にある糸に不要な伸縮が発生したり、或いは、糸切れ等の復旧作業に伴う時間経過によって糸に不要な伸縮が発生したりすると、糸張力調整区間に係る実際の糸張力が目標値から外れてしまうこともあり、糸張力が狂ってしまうという問題点があった。さらに、糸張力が目標値から外れた状態のまま、糸搬送が再開されると、再開後の糸搬送が不安定となり、結果、糊付けされた糸に品質不良が発生してしまうという問題点もあった。
【0027】
そこで、本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、糸が搬送状態(例えば、加速状態、減速状態、又は、定常運転状態など)である場合に、糸のストレッチ制御が行われる一方で、糸が搬送停止状態となった場合に糸の張力制御に切り換えることで、糸が搬送状態又は停止状態であるかを問わず、その糸に作用する糸張力を調整することができる糸搬送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
この目的を達成するために、請求項1の糸搬送装置は、所定の搬送ライン上に回転可能に配設され外周に糸が巻回される送出ロールと、その送出ロールよりも搬送ライン下流側であって前記搬送ライン上に回転可能に配設される後段ロールとを備えており、前記送出ロールの回転に伴って送出される糸を、前記搬送ラインに沿って前記後段ロールへ搬送し、その後段ロールの回転を介して更に搬送ライン下流側に配設される各工程へ搬送する糸糊付け機の糸搬送装置であって、更に、前記後段ロールを回転駆動する後段ロール駆動手段と、その後段ロールが回転状態にある場合に、その後段ロール及び送出ロール間(以下「送出区間」という。)にある糸が生ずべき目標糸延伸率に基づいて得られる前記後段ロール及び送出ロールの回転量の比率(以下「送出部回転比」という。)、その後段ロールの外径及び前記送出ロールの巻径現在値の比率(以下「送出部径比」という。)、及び、その後段ロールの回転量とを乗算した値を、前記送出区間の糸延伸率を調整するために前記送出ロールを回転させるべき回転量指令として出力するストレッチ制御手段と、そのストレッチ制御手段により出力される回転量指令に基づいて前記送出ロールを回転駆動する送出ロール駆動手段と、前記後段ロールが回転停止状態にある場合に、前記送出区間の糸張力を目標糸張力に一致させるため、その送出区間に関する目標糸張力と実際の糸張力との偏差(以下「送出区間張力偏差」という。)に基づいて前記送出ロールを回転させるべき回転量指令を演算し出力する張力制御手段と、その張力制御手段により出力される回転量指令の前記送出ロール駆動手段への入力を、前記後段ロールが回転停止状態にある場合に許可する一方、前記後段ロールが回転状態にある場合に禁止する制御切換手段とを備えている。
【0029】
この請求項1の糸搬送装置によれば、送出ロール及び後段ロール間に掛架される糸、即ち、送出区間にある糸は、それが搬送状態にある場合にストレッチ制御によって糸張力が調整され、それが搬送停止状態にある場合に張力制御によって糸張力が調整される。つまり、ストレッチ制御は、後段ロールが回転状態にある場合、即ち、後段ロールの回転量がゼロでない場合に実行され、張力制御は、後段ロールが回転停止状態にある場合、即ち、後段ロールの回転量がゼロの場合に実行される。
【0030】
なぜなら、後段ロールが回転されることで、糸は送出区間からそれより下流側にある各工程へ搬送されるのであり、又、後段ロールの回転量が生じている(即ちゼロでない)からこそ、ストレッチ制御が実行可能となるからである(式(2)参照。)。また、後段ロールの回転が停止されれば、糸は送出区間で停止し、当然に後段ロールの回転量もゼロとなり、結果、ストレッチ制御の実行不能となるため(式(2)参照。)、これに代わって、張力制御により送出区間の糸張力を調整するのである。
【0031】
ストレッチ制御手段は、後段ロールが回転状態にある場合、即ち、糸が搬送状態にある場合に、送出区間を走行する糸の糸延伸率を調整するものであり、この調整によって送出区間の糸張力が間接的に調整される。このストレッチ制御手段によれば、送出区間にある糸を目標糸延伸率にて延伸させるため、その目標糸延伸率と送出部径比と後段ロールの回転量とに基づき、送出ロールに対する回転量指令が演算される。なお、目標糸延伸率は、送出区間にある糸が生ずべき糸延伸率の目標値であり、巻径現在値は、糸の送出に伴って変化する送出ロールの巻径の現在値である。
【0032】
このストレッチ制御手段による回転量指令の演算は、下記する式(1),(2)の関係に基づいて行われる。ここで、式(1)は、糸延伸率と送出部回転比との間に成立する関係を示したものであり、式(2)は、後段ロールの回転量を基準とした場合に、送出部回転比と送出部径比と送出ロールの回転量との間に成立する関係を示したものである。
【0033】
γ=1−ε ・・・ (1)
Δθ1=γ・(D2/D1)・Δθ2 ・・・ (2)
(但し、式(1)において、γは送出区間の送出部回転比、εは送出区間にある糸の糸延伸率であり、式(2)において、Δθ1は送出ロールの回転量、Δθ2は後段ロールの回転量、D2/D1は送出部径比、D1は送出ロールの巻径現在値、D2は後段ロールの外径である。また、数式中の「・」は乗算演算子であって「/」は除算演算子である(以下同じ。))
【0034】
なお、式(1)における糸延伸率は、次式(3)に基づくものであり、この式(3)は、送出区間における糸延伸率と糸延伸量との間に成立する関係を示したものである。
ε=ΔL/L=(L’−L)/L ・・・ (3)
(但し、式(3)において、ΔLは送出区間にある糸の糸延伸量、Lは非延伸状態の糸長さ、L’は延伸状態の糸長さである。)
【0035】
上記した式(1),(2)を用いた場合、ストレッチ制御手段によれば、式(1)の糸延伸率(ε)に目標糸延伸率の値を代入することで送出部回転比(γ)の値を演算し、この演算値を式(2)の送出部回転比(γ)に代入し、この代入値に後段ロールの外径(D2)の値と後段ロールの回転量(Δθ2)の値とを乗算し、この乗算値を送出ロールの巻径現在値(D1)の値で除算すれば、式(2)の送出ロールの回転量の値が求まり、この値が送出ロールの回転量指令として出力される。
【0036】
このように、式(1),(2)に基づいて回転量指令を演算する場合、ストレッチ制御手段による回転量指令は、送出部回転比と送出部径比と後段ロールの回転量との積となるので、後段ロールが回転停止状態となる場合にゼロとなる(式(2)参照。)。結果、張力制御が実行される場合に、ストレッチ制御手段による回転量指令が、送出ロール駆動手段へ入力されることが自動的に抑制される。
【0037】
つまり、上記した式(1),(2)に基づくストレッチ制御手段を採用することで、送出区間の糸に対して張力制御がなされている場合に、張力制御手段から送出ロール駆動手段へ入力される張力制御手段による回転量指令にとって外乱となるストレッチ制御手段による回転量指令を自動的にカットでき、結果、かかるストレッチ制御手段による回転量指令をカットするための手段を別途設ける必要もなくなる。
【0038】
送出ロール駆動手段は、ストレッチ制御手段又は張力制御手段による回転量指令に基づいて、送出ロールを回転駆動させるものである。ここで、送出ロール駆動手段は、必ずしもストレッチ制御手段又は張力制御手段による回転量指令を送出ロールの回転にそのまま用いるものである必要はなく、この回転量指令に基づいて生成される新たな回転量指令を用いて送出ロールを回転させるものであっても良い。例えば、送出ロール駆動手段は、ストレッチ制御手段又は張力制御手段による回転量指令に対し、所定の補正処理を施した回転量指令を用いて、送出ロールを回転駆動するものであっても良い。
【0039】
張力制御手段は、後段ロールが回転停止状態にある場合、即ち、糸が搬送停止状態にある場合に、送出区間で停止している糸の糸張力を直接的に目標糸張力に調整するものである。この張力制御手段によれば、送出区間で停止している糸の実際の糸張力を目標糸張力に一致させるため、これらの偏差である送出区間張力偏差が求められ、この送出区間張力偏差に基づいて送出ロールを回転させるべき回転量指令が演算される。
【0040】
ここで、後段ロールが回転停止状態の場合、ストレッチ制御手段による回転量指令がゼロとなるので、ストレッチ制御手段による送出ロールのストレッチ制御が停止して、制御切換手段によって張力制御手段と送出ロール駆動手段との接続が許可されて、張力制御手段による回転量指令が送出ロール駆動手段へ入力される。すると、この張力制御手段による回転量指令に基づいて送出ロールが送出ロール駆動手段により回転駆動されて、送出ロールの位置変更がなされることで、送出区間にある糸の糸張力が目標糸張力に一致するように変更される。
【0041】
一方、後段ロールが回転状態の場合や、回転停止状態だった後段ロールが回転状態へ移行すると、ストレッチ制御手段による回転量指令が生じるので、送出ロールのストレッチ制御が実行される。このため、制御切換手段によって張力制御手段と、張力制御手段による回転量指令が送出ロール駆動手段へ入力されることが禁止される。すると、送出ロール駆動手段は、張力制御手段による回転量指令の影響を受けずに、ストレッチ制御手段による回転量指令に基づいて送出ロールを回転駆動するものとなる。
【0042】
この結果、後段ロールの回転状態にあっては、ストレッチ制御手段が張力制御手段による干渉を受けることなく独自の制御機能を発揮し、後段ロールの回転停止状態にあっては、張力制御手段がストレッチ制御手段による干渉を受けることなく独自の制御機能を発揮することができるものとなる。
【0043】
請求項2の糸搬送装置は、請求項1の糸搬送装置において、前記ストレッチ制御手段に代えて、前記後段ロールが回転状態にある場合に、前記送出区間にある糸が生ずべき目標糸延伸率と前記後段ロールの回転量とに基づいて、前記送出区間の糸延伸率を調整するために前記送出ロールを回転させるべき回転量指令を演算し出力するストレッチ制御手段を備えており、前記制御切換手段に代えて、前記後段ロールが回転停止状態にある場合に、前記送出ロール駆動手段への前記張力制御手段による回転量指令の入力を許可し且つ前記ストレッチ手段による回転量指令の入力を禁止する一方、前記後段ロールが回転状態にある場合に、前記送出ロール駆動手段への前記張力制御手段による回転量指令の入力を禁止し且つ前記ストレッチ制御手段による回転量指令の入力を許可する制御切換手段を備えている。
【0044】
この請求項2の糸搬送装置は、請求項1のものに対し、ストレッチ制御手段及び制御切換手段を変更したものであり、この変更に伴って請求項1のものとは一部異なる作用を生じる。そこで、以下では、請求項1の糸搬送装置の作用と同一の部分については説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0045】
この請求項2の糸搬送装置によれば、ストレッチ制御手段は、送出区間にある糸を目標糸延伸率で延伸させるため、その目標糸延伸率と後段ロールの回転量とに基づき、送出ロールの回転量指令が演算される。なお、このストレッチ制御手段による回転量指令の演算は、必ずしも上記した式(1)〜(3)に基づくものに限定されるものではなく、他の演算方式を採用しても良い。
【0046】
ここで、他の演算方式を採用した場合、ストレッチ制御手段による回転量指令は、必ずしも後段ロールが回転停止状態のときにゼロとなるとは限らない。したがって、後段ロールが回転停止状態の場合には、制御切換手段によって、ストレッチ制御手段による回転量指令の送出ロール駆動手段への入力を禁止した上で、張力制御手段による回転量指令の送出ロール駆動手段への入力が許可される。
【0047】
すると、この張力制御手段による回転量指令に基づいて、送出ロールが送出ロール駆動手段により回転駆動されることで、送出ロールの位置変更がなされて、送出区間にある糸の糸張力が目標糸張力に一致するように変更される。
【0048】
一方、後段ロールが回転状態の場合や、回転停止状態だった後段ロールが回転状態へ移行した場合には、ストレッチ制御手段による送出ロールのストレッチ制御が必要となる。したがって、後段ロールが回転状態の場合には、制御切換手段によって、張力制御手段による回転量指令の送出ロール駆動手段への入力を禁止した上で、ストレッチ制御手段による回転量指令の入力が許可される。
【0049】
すると、送出ロール駆動手段は、張力制御手段による回転量指令の影響を受けずに、ストレッチ制御手段から出力される回転量指令に基づいて送出ロールを回転駆動するものとなる。
【0050】
この結果、後段ロールの回転状態にあっては、ストレッチ制御手段が張力制御手段による干渉を受けることなく独自の制御機能を発揮し、後段ロールの回転停止状態にあっては、張力制御手段がストレッチ制御手段による干渉を受けることなく独自の制御機能を発揮することができるものとなる。
【0051】
請求項3の糸搬送装置は、請求項1又は2の糸搬送装置において、前記張力制御手段により出力される前記送出ロールの回転量指令が入力され、この回転量指令に対して前記送出ロールの巻径現在値に基づく補正変換を施した値を、前記送出ロールを回転させるための回転量指令として前記送出ロール駆動手段へ出力する巻径変動補償手段を備えており、前記制御切換手段に代えて、その巻径変動補償手段により出力される回転量指令の前記送出ロール駆動手段への入力を、前記後段ロールが回転停止状態にある場合に許可する一方、前記後段ロールが回転状態にある場合に禁止する制御切換手段を備えている。
【0052】
この請求項3の糸搬送装置は、請求項1又は2のものに対し、張力制御手段及び制御切換手段を変更したものであり、この変更に伴って請求項1又は2のものとは一部異なる作用を生じる。そこで、以下では、請求項1又は2の糸搬送装置の作用と同一の部分については説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0053】
この請求項3の糸搬送装置によれば、張力制御手段によって、後段ロールが回転停止状態の場合、即ち、糸が搬送停止状態にある場合、送出区間にある糸の糸張力を目標糸張力に一致させるために送出区間張力偏差に基づいて、当該偏差をゼロにするために必要な送出ロールの回転量指令が演算される。
【0054】
ここで、送出ロールの巻径現在値は、この送出ロールによる糸の送り出し又は巻き戻しに応じて時々刻々と変化するものである。このような送出ロールの巻径現在値の変化は、送出ロールの回転時の動特性の変動(モデル化誤差)を招来し、かかる動特性の変動が張力制御手段による制御性能を低下させてしまう恐れがある。例えば、張力制御手段が送出ロールの最小巻径(ビーム径)の値に基づいて設計されるような場合は、送出ロールの巻径現在値が送出ロールのビーム径に比べて大きくなるほど、そのモデル化誤差が大きくなり、その分、張力制御手段による制御性能が低下するものと推察される。
【0055】
そこで、この請求項3の糸搬送装置では、巻径変動補償手段によって、張力制御手段から出力される回転量指令に対して送出ロールの巻径現在値を用いた補正変換が施されることで、送出ロールの巻径現在値に応じた回転量指令が演算されて、この新たな回転量指令が制御切換手段を介して送出ロール駆動手段へと出力される。
【0056】
請求項4の糸搬送装置は、請求項3の糸搬送装置において、前記巻径変動補償手段は、前記張力制御手段により演算される前記送出ロールの回転量指令に対して、前記送出ロールの巻径現在値の逆数を乗算することで補正変換をなすものである。なお、この巻径変動補償手段は、特に、張力制御手段が送出ロールの最小巻径(ビーム径)の値に基づいて設計される場合に好適である。
【0057】
この請求項4の糸搬送装置によれば、請求項3の糸搬送装置と同様に作用する上、張力制御手段により演算された送出ロールの回転量指令に対して送出ロールの巻径現在値の逆数を乗算することで、その回転量指令が巻径現在値に応じた新たな回転量指令へと補正変換される。そして、この補正変換された新たな回転量指令が巻径変動補償手段から制御切換手段を介して送出ロール駆動手段へ出力されれば、送出ロールの巻径の大小に応じた糸張力の調整がなされるので、送出ロールの巻径変化に伴う糸張力の制御性能の低下も抑制される。
【0058】
請求項5の糸搬送装置は、所定の搬送ライン上に回転可能に配設され外周に糸が巻回される巻取ロールと、その巻取ロールよりも搬送ライン上流側であって前記搬送ライン上に回転可能に配設される前段ロールとを備えており、その前段ロールよりも搬送ライン上流側に配設される各工程から、その前段ロールの回転を介して搬送されてくる糸を、前記巻取ロールの外周に巻き取って巻回させる糸糊付け機の糸搬送装置であって、更に、前記前段ロールを回転駆動する前段ロール駆動手段と、その前段ロールが回転状態にある場合に、その前段ロール及び巻取ロール間(以下「巻取区間」という。)にある糸が生ずべき目標糸延伸率に基づいて得られる前記前段ロール及び巻取ロールの回転量の比率(以下「巻取部回転比」という。)、その前段ロールの外径及び前記巻取ロールの巻径現在値の比率(以下「巻取部径比」という。)、及び、その前段ロールの回転量とを乗算した値を、前記巻取区間の糸延伸率を調整するために前記巻取ロールを回転させるべき回転量指令として出力するストレッチ制御手段と、そのストレッチ制御手段により出力される回転量指令に基づいて前記巻取ロールを回転駆動する巻取ロール駆動手段と、前記前段ロールが回転停止状態にある場合に、前記巻取区間の糸張力を目標糸張力に一致させるため、その巻取区間に関する目標糸張力と実際の糸張力との偏差(以下「巻取区間張力偏差」という。)に基づいて前記巻取ロールを回転させるべき回転量指令を演算し出力する張力制御手段と、その張力制御手段により出力される回転量指令の前記巻取ロール駆動手段への入力を、前記前段ロールが回転停止状態にある場合に許可する一方、前記前段ロールが回転状態にある場合に禁止する制御切換手段とを備えている。
【0059】
この請求項5の糸搬送装置によれば、前段ロール及び巻取ロール間に掛架される糸、即ち、巻取区間にある糸は、それが搬送状態にある場合にストレッチ制御によって糸張力が調整され、それが搬送停止状態にある場合に張力制御によって糸張力が調整される。つまり、ストレッチ制御は、前段ロールが回転状態にある場合、即ち、前段ロールの回転量がゼロでない場合に実行され、張力制御は、前段ロールが回転停止状態にある場合、即ち、前段ロールの回転量がゼロの場合に実行される。
【0060】
なぜなら、前段ロールが回転されることで、糸は各工程から巻取区間へ搬送されてくるのであり、又、前段ロールの回転量が生じている(即ちゼロでない)からこそ、ストレッチ制御が実行可能となるからである(式(12)参照。)。また、前段ロールの回転が停止されれば、糸は巻取区間で停止し、当然に前段ロールの回転量もゼロとなり、結果、ストレッチ制御の実行不能となるため(式(12)参照。)、これに代わって、張力制御により巻取区間の糸張力を調整するのである。
【0061】
ストレッチ制御手段は、前段ロールが回転状態にある場合、即ち、糸が搬送状態にある場合に、巻取区間を走行する糸の糸延伸率を調整するものであり、この調整によって巻取区間の糸張力が間接的に調整される。このストレッチ制御手段によれば、巻取区間にある糸を目標糸延伸率にて延伸させるため、その目標糸延伸率と巻取部径比と前段ロールの回転量とに基づき、巻取ロールに対する回転量指令が演算される。なお、目標糸延伸率は、巻取区間にある糸が生ずべき糸延伸率の目標値であり、巻径現在値は、糸の巻取に伴って変化する巻取ロールの巻径の現在値である。
【0062】
このストレッチ制御手段による回転量指令の演算は、下記する式(11),(12)の関係に基づいて行われる。ここで、式(11)は、糸延伸率と巻取部回転比との間に成立する関係を示したものであり、式(12)は、前段ロールの回転量を基準とした場合に、巻取部回転比と巻取部径比と巻取ロールの回転量との間に成立する関係を示したものである。
【0063】
γ=1+ε ・・・ (11)
Δθ1=γ・(D2/D1)・Δθ2 ・・・ (12)
(但し、式(11)において、γは巻取区間の巻取部回転比、εは巻取区間にある糸の糸延伸率であり、式(12)において、Δθ1は巻取ロールの回転量、Δθ2は前段ロールの回転量、D2/D1は巻取部径比、D1は巻取ロールの巻径現在値、D2は前段ロールの外径である。また、数式中の「・」は乗算演算子であって「/」は除算演算子である(以下同じ。))
【0064】
なお、式(11)における糸延伸率は、次式(13)に基づくものであり、この式(13)は、巻取区間における糸延伸率と糸延伸量との間に成立する関係を示したものである。
ε=ΔL/L=(L’−L)/L ・・・ (13)
(但し、式(13)において、ΔLは巻取区間にある糸の糸延伸量、Lは非延伸状態の糸長さ、L’は延伸状態の糸長さである。)
【0065】
上記した式(11),(12)を用いた場合、ストレッチ制御手段によれば、式(11)の糸延伸率(ε)に目標糸延伸率の値を代入することで巻取部回転比(γ)の値を演算し、この演算値を式(12)の巻取部回転比(γ)に代入し、この代入値に前段ロールの外径(D2)の値と前段ロールの回転量(Δθ2)の値とを乗算し、この乗算値を巻取ロールの巻径現在値(D1)の値で除算すれば、式(12)の巻取ロールの回転量の値が求まり、この値が巻取ロールの回転量指令として出力される。
【0066】
このように、式(11),(12)に基づいて回転量指令を演算する場合、ストレッチ制御手段による回転量指令は、巻取部回転比と巻取部径比と前段ロールの回転量との積となるので、前段ロールが回転停止状態となる場合にゼロとなる(式(12)参照。)。結果、張力制御が実行される場合に、ストレッチ制御手段による回転量指令が、巻取ロール駆動手段へ入力されることが自動的に抑制される。
【0067】
つまり、上記した式(11),(12)に基づくストレッチ制御手段を採用することで、巻取区間の糸に対して張力制御がなされている場合に、張力制御手段から巻取ロール駆動手段へ入力される張力制御手段による回転量指令にとって外乱となるストレッチ制御手段による回転量指令を自動的にカットでき、結果、かかるストレッチ制御手段による回転量指令をカットするための手段を別途設ける必要もなくなる。
【0068】
巻取ロール駆動手段は、ストレッチ制御手段又は張力制御手段による回転量指令に基づいて、巻取ロールを回転駆動させるものである。ここで、巻取ロール駆動手段は、必ずしもストレッチ制御手段又は張力制御手段による回転量指令を巻取ロールの回転にそのまま用いるものである必要はなく、この回転量指令に基づいて生成される新たな回転量指令を用いて巻取ロールを回転させるものであっても良い。例えば、巻取ロール駆動手段は、ストレッチ制御手段又は張力制御手段による回転量指令に対し、所定の補正処理を施した回転量指令を用いて、巻取ロールを回転駆動するものであっても良い。
【0069】
張力制御手段は、前段ロールが回転停止状態にある場合、即ち、糸が搬送停止状態にある場合に、巻取区間で停止している糸の糸張力を直接的に目標糸張力に調整するものである。この張力制御手段によれば、巻取区間で停止している糸の実際の糸張力を目標糸張力に一致させるため、これらの偏差である巻取区間張力偏差が求められ、この巻取区間張力偏差に基づいて巻取ロールを回転させるべき回転量指令が演算される。
【0070】
ここで、前段ロールが回転停止状態の場合、ストレッチ制御手段による回転量指令がゼロとなるので、ストレッチ制御手段による巻取ロールのストレッチ制御が停止して、制御切換手段によって張力制御手段と巻取ロール駆動手段との接続が許可されて、張力制御手段による回転量指令が巻取ロール駆動手段へ入力される。すると、この張力制御手段による回転量指令に基づいて巻取ロールが巻取ロール駆動手段により回転駆動されて、巻取ロールの位置変更がなされることで、巻取区間にある糸の糸張力が目標糸張力に一致するように変更される。
【0071】
一方、前段ロールが回転状態の場合や、回転停止状態だった前段ロールが回転状態へ移行すると、ストレッチ制御手段による回転量指令が生じるので、巻取ロールのストレッチ制御が実行される。このため、制御切換手段によって張力制御手段と、張力制御手段による回転量指令が巻取ロール駆動手段へ入力されることが禁止される。すると、巻取ロール駆動手段は、張力制御手段による回転量指令の影響を受けずに、ストレッチ制御手段による回転量指令に基づいて巻取ロールを回転駆動するものとなる。
【0072】
この結果、前段ロールの回転状態にあっては、ストレッチ制御手段が張力制御手段による干渉を受けることなく独自の制御機能を発揮し、前段ロールの回転停止状態にあっては、張力制御手段がストレッチ制御手段による干渉を受けることなく独自の制御機能を発揮することができるものとなる。
【0073】
請求項6の糸搬送装置は、請求項5の糸搬送装置において、前記ストレッチ制御手段に代えて、前記前段ロールが回転状態にある場合に、前記巻取区間にある糸が生ずべき目標糸延伸率と前記前段ロールの回転量とに基づいて、前記巻取区間の糸延伸率を調整するために前記巻取ロールを回転させるべき回転量指令を演算し出力するストレッチ制御手段を備えており、前記制御切換手段に代えて、前記前段ロールが回転停止状態にある場合に、前記巻取ロール駆動手段への前記張力制御手段による回転量指令の入力を許可し且つ前記ストレッチ手段による回転量指令の入力を禁止する一方、前記前段ロールが回転状態にある場合に、前記巻取ロール駆動手段への前記張力制御手段による回転量指令の入力を禁止し且つ前記ストレッチ制御手段による回転量指令の入力を許可する制御切換手段を備えている。
【0074】
この請求項6の糸搬送装置は、請求項5のものに対し、ストレッチ制御手段及び制御切換手段を変更したものであり、この変更に伴って請求項5のものとは一部異なる作用を生じる。そこで、以下では、請求項5の糸搬送装置の作用と同一の部分については説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0075】
この請求項6の糸搬送装置によれば、ストレッチ制御手段は、巻取区間にある糸を目標糸延伸率で延伸させるため、その目標糸延伸率と前段ロールの回転量とに基づき、巻取ロールの回転量指令が演算される。なお、このストレッチ制御手段による回転量指令の演算は、必ずしも上記した式(11)〜(3)に基づくものに限定されるものではなく、他の演算方式を採用しても良い。
【0076】
ここで、他の演算方式を採用した場合、ストレッチ制御手段による回転量指令は、必ずしも前段ロールが回転停止状態のときにゼロとなるとは限らない。したがって、前段ロールが回転停止状態の場合には、制御切換手段によって、ストレッチ制御手段による回転量指令の巻取ロール駆動手段への入力を禁止した上で、張力制御手段による回転量指令の巻取ロール駆動手段への入力が許可される。
【0077】
すると、この張力制御手段による回転量指令に基づいて、巻取ロールが巻取ロール駆動手段により回転駆動されることで、巻取ロールの位置変更がなされて、巻取区間にある糸の糸張力が目標糸張力に一致するように変更される。
【0078】
一方、前段ロールが回転状態の場合や、回転停止状態だった前段ロールが回転状態へ移行した場合には、ストレッチ制御手段による巻取ロールのストレッチ制御が必要となる。したがって、前段ロールが回転状態の場合には、制御切換手段によって、張力制御手段による回転量指令の巻取ロール駆動手段への入力を禁止した上で、ストレッチ制御手段による回転量指令の入力が許可される。
【0079】
すると、巻取ロール駆動手段は、張力制御手段による回転量指令の影響を受けずに、ストレッチ制御手段から出力される回転量指令に基づいて巻取ロールを回転駆動するものとなる。
【0080】
この結果、前段ロールの回転状態にあっては、ストレッチ制御手段が張力制御手段による干渉を受けることなく独自の制御機能を発揮し、前段ロールの回転停止状態にあっては、張力制御手段がストレッチ制御手段による干渉を受けることなく独自の制御機能を発揮することができるものとなる。
【0081】
請求項7の糸搬送装置は、請求項5又は6の糸搬送装置において、前記張力制御手段により出力される前記巻取ロールの回転量指令が入力され、この回転量指令に対して前記巻取ロールの巻径現在値に基づく補正変換を施した値を、前記巻取ロールを回転させるための回転量指令として前記巻取ロール駆動手段へ出力する巻径変動補償手段を備えており、前記制御切換手段に代えて、その巻径変動補償手段により出力される回転量指令の前記巻取ロール駆動手段への入力を、前記前段ロールが回転停止状態にある場合に許可する一方、前記前段ロールが回転状態にある場合に禁止する制御切換手段を備えている。
【0082】
この請求項7の糸搬送装置は、請求項5又は6のものに対し、張力制御手段及び制御切換手段を変更したものであり、この変更に伴って請求項5又は6のものとは一部異なる作用を生じる。そこで、以下では、請求項5又は6の糸搬送装置の作用と同一の部分については説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0083】
この請求項7の糸搬送装置によれば、張力制御手段によって、前段ロールが回転停止状態の場合、即ち、糸が搬送停止状態にある場合、巻取区間にある糸の糸張力を目標糸張力に一致させるために巻取区間張力偏差に基づいて、当該偏差をゼロにするために必要な巻取ロールの回転量指令が演算される。
【0084】
ここで、巻取ロールの巻径現在値は、この巻取ロールによる糸の送り出し又は巻き戻しに応じて時々刻々と変化するものである。このような巻取ロールの巻径現在値の変化は、巻取ロールの回転時の動特性の変動(モデル化誤差)を招来し、かかる動特性の変動が張力制御手段による制御性能を低下させてしまう恐れがある。例えば、張力制御手段が巻取ロールの最小巻径(ビーム径)の値に基づいて設計されるような場合は、巻取ロールの巻径現在値が巻取ロールのビーム径に比べて大きくなるほど、そのモデル化誤差が大きくなり、その分、張力制御手段による制御性能が低下するものと推察される。
【0085】
そこで、この請求項7の糸搬送装置では、巻径変動補償手段によって、張力制御手段から出力される回転量指令に対して巻取ロールの巻径現在値を用いた補正変換が施されることで、巻取ロールの巻径現在値に応じた回転量指令が演算されて、この新たな回転量指令が制御切換手段を介して巻取ロール駆動手段へと出力される。
【0086】
請求項8の糸搬送装置は、請求項7の糸搬送装置において、前記巻径変動補償手段は、前記張力制御手段により演算される前記巻取ロールの回転量指令に対して、前記巻取ロールの巻径現在値の逆数を乗算することで補正変換をなすものである。なお、この巻径変動補償手段は、特に、張力制御手段が巻取ロールの最小巻径(ビーム径)の値に基づいて設計される場合に好適である。
【0087】
この請求項8の糸搬送装置によれば、請求項7の糸搬送装置と同様に作用する上、張力制御手段により演算された巻取ロールの回転量指令に対して巻取ロールの巻径現在値の逆数を乗算することで、その回転量指令が巻径現在値に応じた新たな回転量指令へと補正変換される。そして、この補正変換された新たな回転量指令が巻径変動補償手段から制御切換手段を介して巻取ロール駆動手段へ出力されれば、巻取ロールの巻径の大小に応じた糸張力の調整がなされるので、巻取ロールの巻径変化に伴う糸張力の制御性能の低下も抑制される。
【発明の効果】
【0088】
請求項1から4のいずれかの糸搬送装置によれば、糸搬送の停止後、糸の糸張力の調整方式が、制御切換手段によって、ストレッチ制御手段によるストレッチ制御から、張力制御手段による張力制御に切り換えられるので、後段ロールの回転動作が停止したままの状態であっても送出区間の糸張力を目標糸張力に一致するように調整できるという効果がある。したがって、送出区間にある糸に不要な伸縮が発生したり、或いは、糸切れ等の復旧作業に伴う時間経過によって糸に不要な伸縮が発生しても、送出区間にある糸の糸張力を目標糸張力に一致するように調整でき、結果、糸搬送が再開された後の糸搬送状態を安定化でき、糊付けされた糸に品質低下を防止できるという効果がある。
【0089】
請求項5から8のいずれかの糸搬送装置によれば、糸搬送の停止後、糸の糸張力の調整方式が、制御切換手段によって、ストレッチ制御手段によるストレッチ制御から、張力制御手段による張力制御に切り換えられるので、前段ロールの回転動作が停止したままの状態であっても巻取区間の糸張力を目標糸張力に一致するように調整できるという効果がある。したがって、巻取区間にある糸に不要な伸縮が発生したり、或いは、糸切れ等の復旧作業に伴う時間経過によって糸に不要な伸縮が発生しても、巻取区間にある糸の糸張力を目標糸張力に一致するように調整でき、結果、糸搬送が再開された後の糸搬送状態を安定化でき、糊付けされた糸に品質低下を防止できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0090】
以下、本発明の好ましい実施例について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の糸搬送装置の一実施例である搬送装置2を備えた繊維糸用の糸糊付け装置の一実施例である糊付け装置1の構成を示した概略図である。この糊付け装置1は、いわゆるサイザーと呼ばれるものである。
【0091】
図1に示すように、この糊付け装置1は、糸λの搬送ライン上に配設される複数のロールを回転させることによって、この搬送ラインに沿って上流側から下流側へと多数の糸λを搬送するものであり、多数の糸λを搬送する過程で、これらの糸λに対し、糊付け、乾燥および冷却を施した後、これらの糸λを巻き取って回収する装置である。
【0092】
なお、図示は省略するが、この糊付け装置1は、多数の糸λを、図1の紙面に対する垂直方向に並列させた状態で同時搬送する構造となっている。また、搬送ラインは、図1中に図示した糸λの軌跡に相当するものであり、図1では糸λと一致している。
【0093】
糊付け装置1には、糸λの搬送ラインの最上流側(図1左側)に送出ロール11が回転可能に配設されている。この送出ロール11は、その外周に多数の糸λが巻回可能に形成されており、巻回された糸λは、この送出ロール11の回転によって搬送ラインの下流側へ送出される。
【0094】
また、この糊付け装置1の搬送ライン上には、送出ロール11の下流側に更に、筬(図示せず)、テンションロール17、フィードロール12、サイジングロール15、熱風乾燥装置3、複数のシリンダーロール16,16,・・・、クーリング装置4、テークアップロール13及びテンションロール18が、この順番で配設されている。
【0095】
フィードロール12、サイジングロール15、各シリンダーロール16,16,・・・、テークアップロール13及びテンションロール17,18は、いずれも搬送ライン上に回転可能に配設されており、これらの回転によって送出ロール11から送出された糸λが搬送ラインに沿って搬送される。
【0096】
なお、各テンションロール17,18、フィードロール12、サイジングロール15、第1段目及び第5段目のシリンダーロール16,16及びテークアップロール13には、それらの外周面に多数の糸λを接触させて搬送するためのガイドロール19,19,・・・が回転可能な状態で付設されている。
【0097】
搬送ラインの最下流側(図1右側)には、巻取ロール14が回転可能に配設されている。この巻取ロール14は、その外周に多数の糸λが巻回可能に形成されており、糊付け、乾燥および冷却の各処理が施された糸λは、この巻取ロール14の回転に伴って巻取ロール14の外周に巻回されて巻き取られる。
【0098】
このように糊付け装置1は、上記した各ロール11〜19によって糸λを搬送ラインに沿って送出ロール11から巻取ロール14へ向けて搬送するための搬送装置2が構成されている。
【0099】
また、送出ロール11配設側のテンションロール17には、その回転軸の端部にロードセル5が連結されており、このロードセル5は、送出ロール11及びフィードロール12間(以下「送出区間」という。)7内にある糸λに作用する糸張力を検出するための張力センサ(張力検出手段)である。
【0100】
一方、巻取ロール14配設側のテンションロール18には、その回転軸の端部に別のロードセル6が連結されており、このロードセル6は、テークアップロール13及び巻取ロール14間(以下「巻取区間」という。)8内にある糸λに作用する糸張力を検出するための張力センサである。
【0101】
ところで、送出ロール11、フィードロール12、サイジングロール15、各シリンダーロール16,16,・・・、テークアップロール13、及び、巻取ロール14は、いずれもサーボモータM1〜M6から供給される回転力によって回転駆動される原動ロールである。
【0102】
具体的には、送出ロール11がサーボモータM1によって、フィードロール12がサーボモータM2によって、テークアップロール13がサーボモータM3によって、巻取ロール14がサーボモータM4によって、サイジングロール15がサーボモータM5によって、各シリンダロール16がサーボモータM6によって、それぞれ回転駆動されるように構成されている。
【0103】
これに対し、各テンションロール17,18やガイドロール19,19,・・・などは、サーボモータM1〜M6によって直接的に回転駆動されない従動ロールであって、搬送移動される糸λとの摩擦接触、又は、いずれかの原動ロールとの摩擦接触を介して回転されるものである。
【0104】
なお、以下の説明では、送出ロール11、フィードロール12、サイジングロール15、テークアップロール13又は巻取ロール14のことを、それぞれ区別することなく単に「原動ロールDR」と称することもあり、各テンションロール17,18やガイドロール19,19,・・・などのことを、それぞれ区別することなく単に「従動ロールFR」と称することもある。
【0105】
原動ロールDR(シリンダーロール16,16,・・・を除く。)の回転軸には、伝達機構(図示せず。)を介して各サーボモータM1〜M5が連結されている。もっとも、複数のシリンダーロール16,16,・・・の回転軸には、伝達機構(図示せず。)を介して1台のサーボモータM6が連結されており、この1台のサーボモータM6が出力する回転力が各シリンダーロール16,16,・・・に対して分岐して伝達されることで、各シリンダーロール16,16,・・・がそれぞれ同一の回転速度(又は回転量)で回転される。
【0106】
これらの各原動ロールDRが各サーボモータM1〜M6から供給される回転力を受けて回転されることで、糊付け装置1は、糸λを搬送ライン上を上流側から下流側へ搬送移動することができるのである。また、各サーボモータM1〜M6の回転軸には、パルスエンコーダ(ロータリーエンコーダ)EN1〜EN6がそれぞれ連結されている。
【0107】
パルスエンコーダEN1〜EN6は、サーボモータM1〜M6の回転軸の回転量を検出するための回転センサであり、下記する制御装置20は、これらのパルスエンコーダEN1〜EN6による検出結果に基づいて各原動ロールDRの回転量や回転速度を制御し、結果、糸λの搬送速度、糸張力及びストレッチ量を調整するものである。
【0108】
図2は、糊付け装置1の電気的構成を示すブロック図である。
【0109】
図2に示すように、糊付け装置1は、その各部の動作の制御を行う制御装置20を備えており、この制御装置20の内部には、演算装置であるCPU21が搭載されている。このCPU21は、一定の制御演算時間間隔(以下単に「時間間隔」という。)Δt毎に制御演算を行い、糊付け装置1の各部に対する制御指令を更新するものであり、後述するフィードロール制御ユニット40、送出ロール制御ユニット50、送出部巻径推定ユニット70、テークアップロール制御ユニット80、巻取ロール制御ユニット90及び、巻取部巻径推定ユニット100で行われる各種演算を実行するものである。
【0110】
また、制御装置20には、基本プログラムや各種の固定データを記憶した書換え不能な不揮発性メモリであるROM22と、ワークエリアとして用いられる書換可能な揮発性メモリであるRAM23と、各種の設定変更可能な各種データや糊付け装置1の各部を制御する制御プログラムを記憶する書換可能な不揮発性メモリであるEEPROM24とが搭載されている。
【0111】
RAM23は、上記したCPU21によって演算される各種データを一時的に記憶するものであり、更に、フィードロール制御ユニット40、送出ロール制御ユニット50、巻径推定ユニット70、テークアップロール制御ユニット80、巻取ロール制御ユニット90及び、巻取部巻径推定ユニット100によってなされる各種の処理に関する制御プログラムは、このRAM23上に展開されて実行される。
【0112】
EEPROM24には、上記した制御プログラムが記憶されている。また、EEPROM24には、送出区間7に関する糸搬送時のストレッチ制御及び糸搬送停止時の張力制御を行うために必要となる数値データ、例えば、送出区間7の目標糸張力f1^、送出ロール11の実際の総回転量(以下「送出ロール検出総回転量」という。)θ1、送出ロール11の巻径現在値D1に関するデータテーブル(以下「巻径データテーブル」という。)、フィードロール12の外径D2、フィードロール12の加減速カーブ、及び、送出区間7にある糸λの目標糸延伸率ε1^などの各種の数値データが記憶される。
【0113】
また、EEPROM24には、巻取区間8に関する糸搬送時のストレッチ制御及び糸搬送停止時の張力制御を行うために必要となる数値データ、例えば、巻取区間8の目標糸張力f2^、巻取ロール14の実際の総回転量(以下「巻取ロール検出総回転量」という。)θ4の現在値と、テークアップロール13の外径D3、テークアップロール13の加減速カーブ、及び、巻取区間8にある糸λの目標糸延伸率ε2^などの各種の数値データも記憶される。
【0114】
なお、EEPROM24には、巻取ロール14の巻径現在値D4に関する巻径データテーブルは記憶されていないが、かかる巻取ロール14の巻径現在値D4の推定は、後述するように、上記した送出ロール11の巻径データテーブルが利用される。
【0115】
さらに、EEPROM24には、その他にも、糊付け装置1の各部の制御に必要な各種の数値データが記憶可能であり、例えば、熱風乾燥装置3の設定温度、各シリンダーロール16,16,・・・の設定温度、及び、クーリング装置4の設定温度等の数値データについても記憶される。
【0116】
また、この制御装置20には、各種の設定値を入力するために操作される操作表示パネル25と、熱風乾燥装置3の加熱装置3aと、各シリンダーロール16,16,・・・の加熱装置16aと、クーリング装置4の冷却装置4aと、熱風乾燥装置3内の温度を検出する温度センサTS1と、各シリンダーロール16,16,・・・内の温度を検出する温度センサTS2と、クーリング装置4内の温度検出する温度センサTS3とがそれぞれ接続されている。
【0117】
操作表示パネル25は、糊付け装置1の各部を制御するために必要となる各種の設定値を入力するために操作される入力装置であり、特に、上記したEEPROM24に記憶される各種の数値データは、この操作表示パネル25を用いて入力される。また、この操作表示パネル25は、ディスプレイ機能を有したタッチパネルであり、糊付け装置1の稼働状況を示す各種情報が画面上にに表示可能となっている。
【0118】
各温度センサTS1〜TS3は、検出温度の大きさに応じたレベルの検出信号を出力し、これらの検出信号を制御装置20へそれぞれ入力する。すると、制御装置20では、個々の検出信号をアンプ(図示せず)により増幅して更にA/D変換器(図示せず)により検出温度を示すデータ値へとそれぞれ変換し、熱風乾燥装置3の加熱装置3aと、各シリンダーロール16,16,・・・の加熱装置16aと、クーリング装置4の冷却装置4aとの出力調整を行うための制御指令をそれぞれ演算する。
【0119】
これらの制御指令が制御装置20から、熱風乾燥装置3の加熱装置3a、各シリンダーロール16,16,・・・の加熱装置16a、及び、クーリング装置4の冷却装置4aへ入力されると、各制御指令に応じて各加熱装置3a,16a及び冷却装置4aの出力が操作調整され、熱風乾燥装置3、各シリンダーロール16,16,・・・及びクーリング装置4の温度が設定温度に一致するように制御が行われる。
【0120】
また、この制御装置20には、送出区間7にある糸λの糸張力を検出するためのロードセル5と、巻取区間8にある糸λの糸張力を検出するためのロードセル6と、6個のパルスエンコーダEN1〜EN6と、6台のサーボモータM1〜M6とがそれぞれ接続されている。
【0121】
送出区間7に配設されるロードセル5は、送出区間7にある糸λの糸張力の大きさに応じたレベルの検出信号を出力し、この検出信号を制御装置20へと入力する。一方、巻取区間8に配設されるロードセル6は、巻取区間8にある糸λの糸張力の大きさに応じたレベルの検出信号を出力し、この検出信号を制御装置20へと入力する。
【0122】
各パルスエンコーダEN1〜EN6は、それが連結されるサーボモータM1〜M6の回転軸の回転量に応じたパルス信号列を出力し、これらのパルス信号列を制御装置20へ入力するものである。また、各サーボモータM1〜M6は、上記した各原動ロールDRを回転駆動する動力源であり、制御装置20に内蔵されるサーボアンプ31〜36から出力される3相電圧に応じた回転量、回転速度又はトルクで回転駆動される。
【0123】
ここで、サーボモータM1はサーボアンプ31によって、サーボモータM2はサーボアンプ32によって、サーボモータM3はサーボアンプ33によって、サーボモータM4はサーボアンプ34によって、サーボモータM5はサーボアンプ35によって、サーボモータM6はサーボアンプ36によって、それぞれ駆動される。
【0124】
次に、図3から図7を参照して、糊付け装置1の送出区間7内に位置する糸λに対する制御方式について説明する。
【0125】
(A)フィードロール制御ユニット
図3は、フィードロール制御ユニット40について示したブロック図である。このフィードロール制御ユニット40は、フィードロール12の回転駆動制御を行うために制御装置20の内部に構成される制御ユニットであり、主として、フィードロール制御器41と、フィードロール12を回転駆動するサーボモータ(以下「フィードモータ」ともいう。)M2用のサーボアンプ32とを備えている。
【0126】
(A−1)フィードロール制御器
フィードロール制御器41は、フィードロール12用の制御器であり、主に、フィードロール速度指令器42と、回転量変換器43と、パルス発生器44とを備えている。
【0127】
(A−1−1)フィードロール速度指令器
フィードロール速度指令器42は、予め設定された所定の加減速カーブに従ったフィードロール速度指令ω2^を生成して回転量変換器43へ出力するものである。また、フィードロール速度指令ω2^は、時間間隔Δtの間にフィードロール12が出力すべき回転速度の目標値であって、EEPROM24に記憶される加減速カーブに基づいて決定される。
【0128】
(A−1−2)回転量変換器
回転量変換器43は、その入力端にフィードロール速度指令器42の出力端が接続されており、このフィードロール速度指令器42から入力されるフィードロール速度指令ω2^に基づいて、次式(21)により、フィードロール回転量指令Δθ2^を演算してパルス発生器44へ出力するものである。
Δθ2^=ω2^・Δt ・・・ (21)
(但し、式(21)において、Δtは時間間隔である。)
【0129】
ここで、フィードロール回転量指令Δθ2^は、フィードロール12がフィードロール速度指令ω2^に相当する回転速度で時間間隔Δtの間に回転する場合に、その時間間隔Δtの間にフィードロール12が回転すべき回転量である。
【0130】
(A−1−3)パルス発生器
パルス発生器44は、その入力端に回転量変換器43の出力端が接続されており、この回転量変換器43から入力されるフィードロール回転量指令Δθ2^に基づいた数のパルス信号を時間間隔Δt内に含むパルス信号列(以下「フィードモータパルス指令」という。)PL2^を発生して、このフィードモータパルス指令PL2^を、フィードモータM2用のサーボアンプ32の偏差カウンタ32aへ出力するものである。
【0131】
ここで、「フィードロール回転量指令Δθ2^に基づいた数のパルス信号」とは、「フィードロール12をフィードロール回転量指令Δθ2^の分だけ回転させるために、フィードモータM2が回転すべき回転量に相当する数のパルス信号」を意味している。
【0132】
そこで、このパルス発生器44では、次式(22)に基づいて、入力されたフィードロール回転量指令Δθ2^をフィードモータM2の回転量指令Δθm2^に換算し、このフィードモータM2の回転量指令Δθm2^に相当する数のパルス信号を時間間隔Δt内に含むパルス信号列を、フィードモータパルス指令PL2^として出力することとなる。
Δθm2^=R2・Δθ2^ ・・・ (22)
(但し、式(22)において、R2はフィードロール12とフィードモータM2との間に介在する伝達機構の伝達比(その他の伝達損失等を含む。)である。)
【0133】
(A−2)サーボアンプ
図4は、サーボアンプ32の内部構造を示すブロック図である。図4に示すように、サーボアンプ32は、主に、偏差カウンタ32aと、位置制御器32bと、速度制御器32cと、電流制御器32dとを備えている。
【0134】
(A−2−1)偏差カウンタ
偏差カウンタ32aは、その入力端に、フィードロール制御器41のパルス発生器44の出力端と、更に、このサーボアンプ32が接続されるフィードモータM2用のパルスエンコーダEN2の出力端とが接続されており、その出力端に位置制御器32bの入力端が接続されている。
【0135】
この偏差カウンタ32aは、フィードロール制御器41のパルス発生器44から入力されるフィードモータパルス指令PL2^のパルス数を計数してフィードモータM2の回転量指令Δθm2^を検出し、フィードモータM2に連結されるパルスエンコーダEN2から入力されるパルス信号列のパルス数を計数してフィードモータM2の実際の回転量(以下「検出回転量」ともいう。)Δθm2を検出し、なおかつ、フィードモータM2に関する回転量指令Δθm2^と検出回転量Δθm2との偏差Em(=Δθm2^−Δθm2)を演算して位置制御器32bへ出力するものである。
【0136】
(A−2−2)位置制御器
位置制御器32bは、その入力端に偏差カウンタ32aの出力端が接続されており、この偏差カウンタ32aから入力される偏差Emに基づいて、フィードモータM2の速度指令vm2^を、次式(23)により演算して出力するものである。
vm2^=Kp・Em=Kp・(Δθm2^−Δθm2) ・・・ (23)
(但し、式(23)において、Kpは位置制御器32bの比例ゲインである。)
【0137】
(A−2−3)速度制御器
速度制御器32cは、その入力端に位置制御器32bの出力端が接続されており、この位置制御器32bから入力されるフィードモータM2の速度指令vm2^に基づいてモータ電流指令im^を演算し、このモータ電流指令im^を電流制御器32dへ出力するものである。この速度制御器32cとしては、例えば、PI制御器やPID制御器などが用いられており、その比例制御要素の比例ゲイン、積分制御要素の積分時間、及び、微分制御要素の微分時間の値は、上記したEEPROM24に記憶設定されており、操作表示パネル25の操作によって入力設定及び設定変更可能となっている。
【0138】
(A−2−4)電流制御器
電流制御器32dは、その入力端に速度制御器32cの出力端が接続されており、この速度制御器32cから入力されるモータ電流指令im^に基づいて所定の3相電圧をフィードモータM2に印加するものであり、この3相電圧の印加によってフィードモータM2を回転駆動させるものである。
【0139】
(B)送出ロール制御ユニット
図5は、送出ロール制御ユニット50について示したブロック図である。この送出ロール制御ユニット50は、送出ロール11の回転駆動制御を行うために制御装置20の内部に構成される制御ユニットであり、主として、送出ロール制御器51と、送出ロール11を回転駆動するサーボモータ(以下「送出モータ」ともいう。)M1用のサーボアンプ31とを備えている。
【0140】
(B−1)送出ロール制御器
送出ロール制御器51は、送出ロール11用の制御器であり、主に、搬送モード制御器52と、停止モード制御器53と、制御切換器54と、モード検出器55と、パルス発生器56とを備えており、搬送モード制御器52および停止モード制御器53の出力端は、制御切換器54を介してパルス発生器56の入力端にそれぞれ接続されている。
【0141】
(B−1−1)搬送モード制御器
搬送モード制御器52は、送出区間7にある糸λが搬送状態(搬送モード)にある場合、即ち、フィードロール12が回転状態にある場合に、かかるフィードロール12の回転に応じて送出ロール11を回転を操作調整することで、送出区間7を搬送移動している糸λの糸延伸量を制御するものである。ここで、搬送モード制御器52は、主に、パルス復元器52aと、ストレッチ補償器52bと、張力偏差演算器52cと、搬送張力補償器52dと、操作量補正器52eとを備えている。
【0142】
(B−1−1−1)パルス復元器
パルス復元器52aは、その入力端にフィードモータM2用のパルスエンコーダEN2の出力端が接続されており、このパルスエンコーダEN2から入力されるパルス信号列(以下「フィードロール検出パルス」という。)PL2のパルス数を計数することでフィードモータM2の実際の回転量Δθm2を検出し、このフィードモータM2の検出回転量Δθm2をフィードロール12の検出回転量Δθ2に変換してストレッチ補償器52bへ出力するものである。
【0143】
(B−1−1−2)ストレッチ補償器
ストレッチ補償器52bは、送出区間7で搬送されている糸λに目標糸延伸率ε1^に基づく延伸を加えるための制御を行うものである。このストレッチ補償器52bは、その入力端にパルス復元器52aの出力端が接続されており、このパルス復元器52aから入力されるフィードロール12の検出回転量Δθ2に基づいて、送出ロール11に対するストレッチ回転量指令Δθ1str^を、上記式(1),(2)から導出される次式(24),(25)により演算して操作量補正器52eへ出力するものである。
【0144】
γ1^=1−ε1^ ・・・ (24)
Δθ1str^=γ1^・(D2/D1)・Δθ2 ・・・ (25)
(但し、式(1)において、γ1^は送出区間7の送出部回転比、ε1^は送出区間7にある糸λの目標糸延伸率であり、式(2)において、Δθ1str^は送出ロール11のストレッチ回転量指令、Δθ2はフィードロール12の検出回転量、D2/D1は送出部径比、D1は送出ロール11の巻径現在値、D2はフィードロール12の外径である。)
【0145】
(B−1−1−3)張力偏差演算器
張力偏差演算器52cは、その入力端に、送出区間7にある糸λに作用させるべき目標糸張力f1^と、送出区間7にある糸λに作用する実際の糸張力(以下「検出糸張力」ともいう。)f1とが、それぞれ入力される。この張力偏差演算器52cは、目標糸張力f1^と検出糸張力f1との偏差である送出区間張力偏差E1tns(=f1^−f1)を演算して搬送張力補償器52dへ出力するものである。
【0146】
ここで、目標糸張力f1^は、その値がEEPROM24に設定記憶されており、CPU21によって読み出されて、張力偏差演算器52cへ入力される。一方、送出区間7の検出糸張力f1は、送出区間7に配設されるロードセル5によって検出される検出信号を、アンプ57により増幅してA/D変換器58により検出糸張力を示すデータ値に変換したものであり、このA/D変換器58から張力偏差演算器52cへ入力される。
【0147】
(B−1−1−4)搬送張力補償器
搬送張力補償器52dは、送出区間7で搬送されている糸λの検出糸張力f1を目標糸張力f1^に一致させるため、即ち、送出区間張力偏差E1tnsをゼロにするための制御を行うPID制御器であり、その入力端に張力偏差演算器52cの出力端が接続されている。搬送張力補償器52dは、この張力偏差演算器52cから入力される送出区間張力偏差E1tnsに基づいて、送出ロール11に対する搬送張力回転量指令Δθ1dtns^を演算して操作量補正器52eへ出力するものである。
【0148】
なお、搬送張力補償器52dとして機能するPID制御器については、その比例制御要素の比例ゲイン、積分制御要素の積分時間、及び、微分制御要素の微分時間の値が、上記したEEPROM24に記憶設定されており、操作表示パネル25の操作によって入力設定及び設定変更可能となっている。
【0149】
(B−1−1−5)操作量補正器
操作量補正器52eは、次式(26)により、ストレッチ回転量指令Δθ1str^に対して搬送張力回転量指令Δθ1dtns^に基づく補正を施したものを、送出ロール11に対する新たな回転量指令(以下「搬送回転量指令」という。」)Δθ1drv^として制御切換器54へ出力するものである。この操作量補正器52eによれば、次式(26)に基づいて、搬送回転量指令Δθ1drv^が演算される。
Δθ1drv^=Δθ1str^−Δθ1dtns^ ・・・ (26)
【0150】
(B−1−2)停止モード制御器
停止モード制御器53は、送出区間7にある糸λが搬送停止状態(停止モード)にある場合、即ち、フィードロール12が回転停止状態にある場合に、送出ロール11の回転を操作調整することで、送出区間7で停止している糸λの糸張力を制御するものである。ここで、停止モード制御器53は、主に、停止張力補償器53aと、巻径変動補償器53bとを備えている。
【0151】
(B−1−2−1)停止張力補償器
停止張力補償器53aは、送出区間7で停止している糸λの検出糸張力f1を目標糸張力f1^に一致させるため、即ち、送出区間張力偏差E1tnsをゼロにするための制御を行うPID制御器であり、その入力端に搬送モード制御器52の張力偏差演算器52cの出力端が接続されている。停止張力補償器53aは、この張力偏差演算器52cから入力される送出区間張力偏差E1tnsに基づいて、送出ロール11に対する停止張力回転量指令Δθ1stns^を演算して巻径変動補償器53bへ出力するものである。
【0152】
なお、停止張力補償器53aとして機能するPID制御器については、その比例制御要素の比例ゲイン、積分制御要素の積分時間、及び、微分制御要素の微分時間の値が、上記したEEPROM24に記憶設定されており、操作表示パネル25の操作によって入力設定及び設定変更可能となっている。
【0153】
(B−1−2−2)巻径変動補償器
巻径変動補償器53bは、その入力端に停止張力補償器53aの出力端が接続されており、この停止張力補償器53aから入力される停止張力回転量指令Δθ1stns^に対して、送出ロール11の巻径現在値D1の値に基づく補正変換を、次式(27)に基づいて施すことによって、送出ロール11に対する停止時回転量指令Δθ1stp^を演算して制御切換器54へ出力するものである。
Δθ1stp^=(K1/D1)・Δθ1stns^ ・・・ (27)
(但し、式(27)において、K1は比例ゲイン(K1≠0)である。)
【0154】
なお、式(27)に基づく巻径変動補償器53bは、特に、停止張力補償器53aを設計する場合に、制御対象である送出ロール11のモデル化に際して送出ロール11の外径として最小巻径(ビーム径)を用いているときに好適である。
【0155】
(B−1−3)制御切換器
制御切換器54は、モード検出器55から出力される停止モード信号又は搬送モード信号に基づいて、パルス発生器56の接続先を、搬送モード制御器52又は停止モード制御器53のいずれか一方から他方へ切り換えるものである。この制御切換器54は、その一方の入力端に搬送モード制御器52の出力端、即ち、操作量補正器52eの出力端が接続され、その他方の入力端に停止モード制御器53の出力端、即ち、巻径変動補償器53bの出力端が接続され、その出力端にパルス発生器56の入力端が接続されている。
【0156】
(B−1−4)モード検出器
モード検出器55は、その入力端に搬送モード制御器52のパルス復元器52aの出力端が接続されており、このパルス復元器52aから入力されるフィードロール12の検出回転量Δθ2に基づいて、フィードロール12の回転速度ω2を演算して、この回転速度ω2がフィードロール12の停止状態を示す閾値(以下「停止速度」という。)以下である場合に停止モード信号を制御切換器54へ出力し、この回転速度ω2が停止速度を越える場合に搬送モード信号を制御切換器54へ出力するものである。なお、フィードロール12の停止状態を示す停止速度が0rad/sに設定されている。
【0157】
(B−1−4−1)制御切換器及びモード検出器の動作
これらの制御切換器54及びモード検出器55によれば、フィードロール12の回転速度ω2が停止速度を越えると、モード検出器55から搬送モード信号が制御切換器54へ入力され、この搬送モード信号を受けた制御切換器54によって、停止モード制御器53の出力端とパルス発生器56の入力端との接続が切断され、搬送モード制御器52の出力端とパルス発生器56の入力端とが接続される。
【0158】
この結果、モード検出器55が搬送モード信号を出力する場合、即ち、送出区間7の糸λが搬送状態(搬送モード)の場合には、搬送回転量指令Δθ1drv^が搬送モード制御器52からパルス発生器56へ入力され、停止時回転量指令Δθ1stp^が停止モード制御器53からパルス発生器56へ入力されることが禁止される。
【0159】
一方、フィードロール12の回転速度ω2が停止速度となると、モード検出器55から停止モード信号が制御切換器54へ入力され、この停止モード信号を受けた制御切換器54によって、停止モード制御器53の出力端とパルス発生器56の入力端とが接続され、搬送モード制御器52の出力端とパルス発生器56の入力端との接続が切断される。
【0160】
この結果、モード検出器55が停止モード信号を出力する場合、即ち、送出区間7の糸λが搬送停止状態(停止モード)の場合には、停止時回転量指令Δθ1stp^が停止モード制御器53からパルス発生器56へ入力され、搬送回転量指令Δθ1drv^が搬送モード制御器52からパルス発生器56へ入力されることが禁止される。
【0161】
(B−1−5)パルス発生器
パルス発生器56は、その入力端に制御切換器54の出力端が接続されており、この制御切換器54から入力される搬送回転量指令Δθ1drv^又は停止時回転量指令Δθ1stp^に基づいた数のパルス信号を時間間隔Δt内に含むパルス信号列(以下「送出モータパルス指令」という。)PL1^を発生して、この送出モータパルス指令PL1^を、送出モータM1用のサーボアンプ31の偏差カウンタ31aへ出力するものである。
【0162】
ここで、「搬送回転量指令Δθ1drv^又は停止時回転量指令Δθ1stp^に基づいた数のパルス信号」とは、「送出ロール11を搬送回転量指令Δθ1drv^又は停止時回転量指令Δθ1stp^の分だけ回転させるために、送出モータM1が回転すべき回転量に相当する数のパルス信号」を意味している。
【0163】
そこで、このパルス発生器56では、次式(28)に基づいて、入力された送出ロール11の搬送回転量指令Δθ1drv^又は停止時回転量指令Δθ1stp^を送出モータM1の回転量Δθm1^に換算し、この送出モータM1の回転量Δθm1^に相当する数のパルス信号を時間間隔Δt内に含むパルス信号列を、送出モータパルス指令PL1^として送出モータM1用のサーボアンプ31の偏差カウンタ31aへ出力することとなる。
【0164】
Δθm1^=R1・Δθ1^ ・・・ (28)
(但し、式(28)において、R1は送出ロール11と送出モータM1との間に介在する伝達機構の伝達比(その他の伝達損失等を含む。)、Δθ1^は、搬送モードの場合に搬送回転量指令Δθ1drv^であり、停止モードの場合に停止時回転量指令Δθ1stp^である。)
【0165】
(B−2)送出モータ用のサーボアンプ
送出モータM1用のサーボアンプ31は、その入力端に送出ロール制御器51のパルス発生器56の出力端と送出モータM1用のパルスエンコーダEN1の出力端とが接続され、その出力端に送出モータM1が接続されている。なお、送出モータM1用のサーボアンプ31については、その内部構造及び動作が上記したフィードモータM2用のサーボアンプ32と同種のものであるので、その説明を省略する。
【0166】
(C)巻径データテーブルについて
ところで、上記した送出ロール制御器51において、搬送モード制御器52のストレッチ補償器52b、及び、停止モード制御器53の停止張力補償器53aが、巻径現在値D1を用いて演算を行う場合、その演算時点における送出ロール11の巻径現在値D1を求める必要があり、そのため、EEPROM24には「巻径データテーブル」が記憶されている。
【0167】
送出ロール11の巻径現在値D1は、糸λの送り出し又は巻き戻しに伴って、つまり、送出ロール検出総回転量θ1の値の変化に応じて変動するからである。特に、糊付け装置1においては、送出ロール11を正転させて糸λを送り出す場合(送出ロール検出総回転量θ1が増加する場合)に送出ロール11の巻径現在値D1が減少し、送出ロール11を逆転させて糸λを巻き戻す場合(送出ロール検出総回転量θ1が減少する場合)に送出ロール11の巻径現在値D1が増加する。
【0168】
ここで、「巻径データテーブル」の取得は、いわゆるワーパーによって送出ロール11に対する糸λの巻き付けが行われる前処理工程60においてなされる。
【0169】
(D)巻径データテーブルを取得するための前処理工程
図6は、「巻径データテーブル」を取得するための前処理工程60の概略図である。図6に示すように、前処理工程60には、主に、クリール61と、筬62と、測長ロール63と、送出ロール11と、サーボモータM11と、サーボアンプ64と、制御器65と、計測装置66と、記憶メモリ67とが装備されている。
【0170】
特に、計測装置66は、送出ロール11への糸λの巻き付け開始時点から終了時時点まで、逐次、送出ロール11の総回転量θ1invの変化と、その総回転量の変化に伴う送出ロール11の巻径現在値D1の変化とを、それぞれ相互に対応づけて記憶メモリ67へ記憶するものである。
【0171】
上記した前処理工程60によれば、クリール61から供給される多数の糸λが、筬62を介して測長ロール63へ送られ、この測長ロール63の外周に接触しつつ送出ロール11へ送られて、この送出ロール11に巻き取られて巻回される。ここで、測長ロール63は、糸λとの摩擦接触力によって回転される従動ロールであり、多数の糸λは、送出ロール11がサーボモータM11により回転駆動されることで、この送出ロール11の外周に順次巻き付けられる。
【0172】
また、測長ロール63の回転軸、及び、送出ロール11の回転駆動用のサーボモータM11の回転軸にはパスエンコーダEN11,EN12が個々に連結されており、これらのパスエンコーダEN11,EN12は、計測装置66、サーボアンプ64及び制御器65にそれぞれ接続されている。
【0173】
制御器65は、サーボモータM11に連結されるパスエンコーダEN12を介して検出される送出ロール11の回転量に基づいて、その送出ロール11の回転指令を演算してサーボアンプ64へ出力するものである。サーボアンプ64は、制御器65から入力される回転量指令に基づいてサーボモータM11へ出力される3相電圧を生成してサーボモータM11に印加し、このサーボモータM11を回転駆動させるものである。
【0174】
計測装置66は、個々のパスエンコーダEN11,EN12から出力されるパルス信号列に基づいて、測長ロール63の単位回転量(単位時間Δτ当たりの回転量)Δθ0と送出ロール11の単位回転量Δθ1invとを計測し、この計測結果に基づいて、送出ロール11の巻径現在値D1と、測長ロール63の総回転量θ0(=ΣΔθ0・Δτ)と送出ロール11の総回転量θ1inv(=ΣΔθ1inv・Δτ)とを演算するものである。
【0175】
この計測装置66によれば、上記した送出ロール11への糸λの巻き付けが開始すると、単位時間Δτが経過する毎に、下記する計測演算処理が実行される。
【0176】
この計測演算処理によれば、パスエンコーダEN11,EN12からのパルス信号列に基づいて、測長ロール63及び送出ロール11の単位回転量Δθ0,Δθ1invが計測され、これらが記憶メモリ67に記憶される。そして、これらの単位回転量Δθ0,Δθ1invの計測値と記憶メモリ67に予め記憶されている測長ロール63の外径D0とを、次式(29)へ代入して演算することで、この計測時点における送出ロール11の巻径現在値D1が算出されて、その算出した巻径現在値D1の値が記憶メモリ67に記憶される。
D1=D0・Δθ0/Δθ1inv ・・・ (29)
(但し、式(29)において、D0は測長ロール63の外径である。)
【0177】
なお、式(29)は、測長ロール63の回転による糸λの移動量と、送出ロール11の回転による糸λの巻き取り量とが等しくなるという関係から導き出されたものである。
【0178】
さらに、計測演算処理では、記憶メモリ67に記憶されている糸巻き付け開始時点から今回の計測演算処理の実行時点までの送出ロール11の単位回転量Δθ1invを積算することで、当該計測演算処理の実行時点における送出ロール11の総回転量θ1invが演算されて、この演算値が送出ロール11の巻径現在値D1の値に対応つけて記憶メモリ67に記憶されて、1回分の計測演算処理を終了する。
【0179】
この1回分の計測演算処理は、送出ロール11への糸λの巻き付け開始から終了まで単位時間Δτ間隔で繰り返し実行され、その実行の度ごとに、送出ロール11の総回転量θ1inv及び巻径現在値D1とが相互に対応づけられて記憶メモリ67に記憶される。この結果、記憶メモリ67には、送出ロール11の巻径現在値D1の値を送出ロール11の総回転量θ1invに対応づけて記録したデータテーブル、即ち、「巻径データテーブル」が生成される。
【0180】
この「巻径データテーブル」は、前処理工程60による送出ロール11への糸λの巻き付けが完了した後、この送出ロール11を用いて糊付け装置1による糊付けが行われる場合に、前処理工程60における記憶メモリ67から、糊付け装置1のEEPROM24へ転送されて記憶される。
【0181】
(E)送出部巻径推定ユニット
図7は、送出部巻径推定ユニット70を示したブロック図である。図7に示すように、送出部巻径推定ユニット70は、主に、パルス復元器71と、送出総回転量演算器72と、送出部巻径推定器73とを備えている。この送出部巻径推定ユニット70は、上記した送出ロール制御ユニット50と同期して時間間隔Δt毎に、送出ロール11の巻径現在値D1を推定するための処理(以下「送出ロール巻径推定処理」という。)を実行するものである。
【0182】
(E−1)パルス復元器
パルス復元器71は、その入力端に送出モータM1用のパルスエンコーダEN1の出力端が接続されており、このパルスエンコーダEN1から入力されるパルス信号列(以下「送出ロール検出パルス」という。)PL1のパルス数を計数することで送出モータM1の実際の回転量Δθm1を検出し、この送出モータM1の検出回転量Δθm1を送出ロール11の検出回転量Δθ1に変換して、送出総回転量演算器72へ出力するものである。
【0183】
(E−2)送出総回転量演算器
送出総回転量演算器72は、その入力端にパルス復元器71の出力端が接続されており、次式(30)に基づいて、このパルス復元器71から入力される送出ロール11の検出回転量Δθ1に基づいて、送出ロール検出総回転量θ1の最新値を演算するものである。
【0184】
この送出総回転量演算器72によれば、入力された送出ロール11の検出回転量Δθ1(式(30)右辺第2項)の値とEEPROM24から読み出された前回の送出ロール検出総回転量θ1(式(30)右辺第1項)の値とを加算した値が、今回の送出ロール検出総回転量θ1(式(30)左辺)の値として取得される。
θ1←θ1+Δθ1 ・・・ (30)
(但し、式(30)において、演算子「←」は、右辺の演算値を左辺の変数値に書き換えることを意味するものである。)
【0185】
また、この送出総回転量演算器72によって取得された今回の送出ロール検出総回転量θ1の値は、CPU21によって、送出ロール検出総回転量θ1の新たな値としてEEPROM24に上書きされて記憶保持され、次回の送出ロール検出総回転量θ1の演算に用いられる。
【0186】
(E−3)送出部巻径推定器
送出部巻径推定器73は、その入力端に、送出総回転量演算器72から出力される送出ロール検出総回転量θ1と、CPU21によってEEPROM24から読み出された巻径データテーブルとが入力されている。この送出部巻径推定器73は、送出ロール検出総回転量θ1の値に対応する送出ロール11の巻径現在値D1の値を巻径データテーブルの中から抽出して、この抽出した巻径現在値D1を、上記したストレッチ補償器52b及び巻径変動補償器53bへそれぞれ出力するものである。
【0187】
もっとも、「巻径データテーブル」に記憶される送出ロール11の総回転量θ1invは、上記した前処理工程によって送出ロール11に糸λを巻き付けるときのものであったのに対し、送出総回転量演算器72により出力される送出ロール検出総回転量θ1は、糊付け装置1において糸λが送り出されるときのものである。
【0188】
そこで、この送出部巻径推定器73では、送出ロール検出総回転量θ1に基づいて巻径データテーブルから巻径現在値D1を抽出するにあたって、次式(31)に基づいて、検出総回転量θ1を総回転量θ1invに相当する値θ1inv^に一旦変換し、この変換総回転量θinv^に対応する巻径現在値D1を、巻径データテーブルから抽出して、ストレッチ補償器52b及び巻径変動補償器53bへそれぞれ出力するように構成されている。
【0189】
θ1inv^=θ1inv(max)−θ1 ・・・ (31)
(但し、式(31)において、θ1inv(max)は、巻径データテーブルに記憶される送出ロール11の総回転量θ1invの最大値である。)
【0190】
この送出部巻径推定器73により抽出された送出ロール11の巻径現在値D1は、ストレッチ補償器52b及び巻径変動補償器53bへそれぞれ入力され、上記した式(25),(27)に基づく演算処理に用いられる。
【0191】
次に、図8から図10を参照して、糊付け装置1の巻取区間8内に位置する糸λに対する制御方式について説明する。
【0192】
(F)テークアップロール制御ユニット
図8は、テークアップロール制御ユニット80について示したブロック図である。このテークアップロール制御ユニット80は、テークアップロール13の回転駆動制御を行うために制御装置20の内部に構成される制御ユニットであり、主として、テークアップロール制御器81と、テークアップロール13を回転駆動するサーボモータ(以下「テークアップモータ」ともいう。)M3用のサーボアンプ33とを備えている。
【0193】
(F−1)テークアップロール制御器
テークアップロール制御器81は、テークアップロール13用の制御器であり、主に、テークアップロール速度指令器82と、回転量変換器83と、パルス発生器84とを備えている。
【0194】
(F−1−1)テークアップロール速度指令器
テークアップロール速度指令器82は、予め設定された所定の加減速カーブに従ったテークアップロール速度指令ω3^を生成して回転量変換器83へ出力するものである。また、テークアップロール速度指令ω3^は、時間間隔Δtの間にテークアップロール13が出力すべき回転速度の目標値であり、EEPROM24に記憶される加減速カーブに基づいて決定される。
【0195】
(F−1−2)回転量変換器
回転量変換器83は、その入力端にテークアップロール速度指令器82の出力端が接続されており、このテークアップロール速度指令器82から入力されるテークアップロール速度指令ω3^に基づいて、次式(41)により、テークアップロール回転量指令Δθ3^を演算してパルス発生器84へ出力するものである。
Δθ3^=ω3^・Δt ・・・ (41)
(但し、式(41)において、Δtは時間間隔である。)
【0196】
ここで、テークアップロール回転量指令Δθ3^は、テークアップロール13がテークアップロール速度指令ω3^に相当する回転速度で時間間隔Δtの間に回転する場合に、その時間間隔Δtの間にテークアップロール13が回転すべき回転量である。
【0197】
(F−1−3)パルス発生器
パルス発生器84は、その入力端に回転量変換器83の出力端が接続されており、この回転量変換器83から入力されるテークアップロール回転量指令Δθ3^に基づいた数のパルス信号を時間間隔Δt内に含むパルス信号列(以下「テークアップモータパルス指令」という。)PL3^を発生して、このテークアップモータパルス指令PL3^を、テークアップモータM3用のサーボアンプ33の偏差カウンタ33aへ出力するものである。
【0198】
ここで、「テークアップロール回転量指令Δθ3^に基づいた数のパルス信号」とは、「テークアップロール13をテークアップロール回転量指令Δθ3^の分だけ回転させるために、テークアップモータM3が回転すべき回転量に相当する数のパルス信号」を意味している。
【0199】
そこで、このパルス発生器84では、次式(42)に基づいて、入力されたテークアップロール回転量指令Δθ3^をテークアップモータM3の回転量指令Δθm3^に換算し、このテークアップモータM3の回転量指令Δθm3^に相当する数のパルス信号を時間間隔Δt内に含むパルス信号列を、テークアップモータパルス指令PL3^として出力することとなる。
Δθm3^=R3・Δθ3^ ・・・ (42)
(但し、式(42)において、R3はテークアップロール13とテークアップモータM3との間に介在する伝達機構の伝達比(その他の伝達損失等を含む。)である。)
【0200】
(F−2)テークアップモータ用のサーボアンプ
テークアップモータM3用のサーボアンプ33は、その入力端にテークアップロール制御器81のパルス発生器84の出力端とテークアップモータM3用のパルスエンコーダEN3の出力端とが接続され、その出力端にテークアップモータM3が接続されている。なお、テークアップモータM3用のサーボアンプ33については、その内部構造及び動作が上記したフィードモータM2用のサーボアンプ32と同種のものであるので、その説明を省略する。
【0201】
(G)巻取ロール制御ユニット
図9は、巻取ロール制御ユニット90について示したブロック図である。この巻取ロール制御ユニット90は、巻取ロール14の回転駆動制御を行うために制御装置20の内部に構成される制御ユニットであり、主として、巻取ロール制御器91と、巻取ロール14を回転駆動するサーボモータ(以下「巻取モータ」ともいう。)M4用のサーボアンプ34とを備えている。
【0202】
(G−1)巻取ロール制御器
巻取ロール制御器91は、巻取ロール14用の制御器であり、主に、搬送モード制御器92と、停止モード制御器93と、制御切換器94と、モード検出器95と、パルス発生器96とを備えており、搬送モード制御器92および停止モード制御器93の出力端は、制御切換器94を介してパルス発生器96の入力端にそれぞれ接続されている。
【0203】
(G−1−1)搬送モード制御器
搬送モード制御器92は、巻取区間8にある糸λが搬送状態(搬送モード)にある場合、即ち、テークアップロール13が回転状態にある場合に、かかるテークアップロール13の回転に応じて巻取ロール14を回転を操作調整することで、巻取区間8を搬送移動している糸λの糸延伸量を制御するものである。ここで、搬送モード制御器92は、主に、パルス復元器92aと、ストレッチ補償器92bと、張力偏差演算器92cと、搬送張力補償器92dと、操作量補正器92eとを備えている。
【0204】
(G−1−1−1)パルス復元器
パルス復元器92aは、その入力端にテークアップモータM3用のパルスエンコーダEN3の出力端が接続されており、このパルスエンコーダEN3から入力されるパルス信号列(以下「テークアップロール検出パルス」という。)PL3のパルス数を計数することでテークアップモータM3の実際の回転量Δθm3を検出し、このテークアップモータM3の検出回転量Δθm3をテークアップロール13の検出回転量Δθ3に変換してストレッチ補償器92bへ出力するものである。
【0205】
(G−1−1−2)ストレッチ補償器
ストレッチ補償器92bは、巻取区間8で搬送されている糸λに目標糸延伸率ε2^に基づく延伸を加えるための制御を行うものである。このストレッチ補償器92bは、その入力端にパルス復元器92aの出力端が接続されており、このパルス復元器92aから入力されるテークアップロール13の検出回転量Δθ3に基づいて、巻取ロール14に対するストレッチ回転量指令Δθ4str^を、上記式(11),(12)から導出される次式(44),(45)により演算して操作量補正器92eへ出力するものである。
【0206】
γ2^=1+ε2^ ・・・ (44)
Δθ4str^=γ2^・(D3/D4)・Δθ3 ・・・ (45)
(但し、式(11)において、γ2^は巻取区間8の巻取部回転比、ε2^は巻取区間8にある糸λの目標糸延伸率であり、式(12)において、Δθ4str^は巻取ロール14のストレッチ回転量指令、Δθ3はテークアップロール13の検出回転量、D3/D4は巻取部径比、D4は巻取ロール14の巻径現在値、D3はテークアップロール13の外径である。)
【0207】
ここで、巻取ロール制御器91における式(44)は、その右辺が加算式であるのに対し、上記した送出ロール制御器51における式(24)は、その右辺が減算式であった。これは、送出区間7については、フィードロール12の回転量Δθ2に対して送出ロール11のストレッチ回転量指令Δθ1str^を減少させることで糸延伸量が増加されるのに対し、巻取区間8については、反対に、テークアップロール13の回転量Δ3に対して巻取ロール14のストレッチ回転量指令Δθ4str^を増加させることで送出区間7の糸延伸量が増加されるからである。
【0208】
(G−1−1−3)張力偏差演算器
張力偏差演算器92cは、その入力端に、巻取区間8にある糸λに作用させるべき目標糸張力f2^と、巻取区間8にある糸λに作用する実際の糸張力(以下「検出糸張力」ともいう。)f2とが、それぞれ入力される。この張力偏差演算器92cは、目標糸張力f2^と検出糸張力f2との偏差である巻取区間張力偏差E2tns(=f2^−f2)を演算して搬送張力補償器92dへ出力するものである。
【0209】
ここで、目標糸張力f2^は、その値がEEPROM24に設定記憶されており、CPU21によって読み出されて、張力偏差演算器92cへ入力される。一方、巻取区間8の検出糸張力f2は、巻取区間8に配設されるロードセル6によって検出される検出信号を、アンプ97により増幅してA/D変換器98により検出糸張力を示すデータ値に変換したものであり、このA/D変換器98から張力偏差演算器92cへ入力される。
【0210】
(G−1−1−4)搬送張力補償器
搬送張力補償器92dは、巻取区間8で搬送されている糸λの検出糸張力f2を目標糸張力f2^に一致させるため、即ち、巻取区間張力偏差E2tnsをゼロにするための制御を行うPID制御器であり、その入力端に張力偏差演算器92cの出力端が接続されている。搬送張力補償器92dは、この張力偏差演算器92cから入力される巻取区間張力偏差E2tnsに基づいて、巻取ロール14に対する搬送張力回転量指令Δθ4dtns^を演算して操作量補正器92eへ出力するものである。
【0211】
なお、搬送張力補償器92dとして機能するPID制御器については、その比例制御要素の比例ゲイン、積分制御要素の積分時間、及び、微分制御要素の微分時間の値が、上記したEEPROM24に記憶設定されており、操作表示パネル25の操作によって入力設定及び設定変更可能となっている。
【0212】
(G−1−1−5)操作量補正器
操作量補正器92eは、次式(46)により、ストレッチ回転量指令Δθ4str^に対して搬送張力回転量指令Δθ4dtns^に基づく補正を施したものを、巻取ロール14に対する新たな回転量指令(以下「搬送回転量指令」という。」)Δθ4drv^として制御切換器94へ出力するものである。この操作量補正器92eによれば、次式(46)に基づいて、搬送回転量指令Δθ4drv^が演算される。
Δθ4drv^=Δθ4str^+Δθ4dtns^ ・・・ (46)
【0213】
ここで、巻取ロール制御器91における式(46)は、その右辺が加算式であるのに対し、上記した送出ロール制御器51における式(26)は、その右辺が減算式であった。これは、送出区間7については、フィードロール12の回転量Δθ2に対して送出ロール11の搬送回転量指令Δθ1drv^を減少させることで糸延伸量が増加されるのに対し、巻取区間8については、反対に、テークアップロール13の回転量Δ3に対して巻取ロール14の搬送回転量指令Δθ4drv^を増加させることで送出区間7の糸延伸量が増加されるからである。
【0214】
(G−1−2)停止モード制御器
停止モード制御器93は、巻取区間8にある糸λが搬送停止状態(停止モード)にある場合、即ち、テークアップロール13が回転停止状態にある場合に、巻取ロール14の回転を操作調整することで、巻取区間8で停止している糸λの糸張力を制御するものである。ここで、停止モード制御器93は、主に、停止張力補償器93aと、巻径変動補償器93bとを備えている。
【0215】
(G−1−2−1)停止張力補償器
停止張力補償器93aは、巻取区間8で停止している糸λの検出糸張力f2を目標糸張力f2^に一致させるため、即ち、巻取区間張力偏差E2tnsをゼロにするための制御を行うPID制御器であり、その入力端に搬送モード制御器92の張力偏差演算器92cの出力端が接続されている。停止張力補償器93aは、この張力偏差演算器92cから入力される巻取区間張力偏差E2tnsに基づいて、巻取ロール14に対する停止張力回転量指令Δθ4stns^を演算して巻径変動補償器93bへ出力するものである。
【0216】
なお、停止張力補償器93aとして機能するPID制御器については、その比例制御要素の比例ゲイン、積分制御要素の積分時間、及び、微分制御要素の微分時間の値が、上記したEEPROM24に記憶設定されており、操作表示パネル25の操作によって入力設定及び設定変更可能となっている。
【0217】
(G−1−2−2)巻径変動補償器
巻径変動補償器93bは、その入力端に停止張力補償器93aの出力端が接続されており、この停止張力補償器93aから入力される停止張力回転量指令Δθ4stns^に対して、巻取ロール14の巻径現在値D4の値に基づく補正変換を、次式(47)に基づいて施すことによって、巻取ロール14に対する停止時回転量指令Δθ4stp^を演算して制御切換器94へ出力するものである。
Δθ4stp^=(K2/D4)・Δθ4stns^ ・・・ (47)
(但し、式(47)において、K2は比例ゲイン(K2≠0)である。)
【0218】
なお、式(47)に基づく巻径変動補償器93bは、特に、停止張力補償器93aを設計する場合に、制御対象である巻取ロール14のモデル化に際して巻取ロール14の外径として最小巻径(ビーム径)を用いているときに好適である。
【0219】
(G−1−3)制御切換器
制御切換器94は、モード検出器95から出力される停止モード信号又は搬送モード信号に基づいて、パルス発生器96の接続先を、搬送モード制御器92又は停止モード制御器93のいずれか一方から他方へ切り換えるものである。この制御切換器94は、その一方の入力端に搬送モード制御器92の出力端、即ち、操作量補正器92eの出力端が接続され、その他方の入力端に停止モード制御器93の出力端、即ち、巻径変動補償器93bの出力端が接続され、その出力端にパルス発生器96の入力端が接続されている。
【0220】
(G−1−4)モード検出器
モード検出器95は、その入力端に搬送モード制御器92のパルス復元器92aの出力端が接続されており、このパルス復元器92aから入力されるテークアップロール13の検出回転量Δθ3に基づいて、テークアップロール13の回転速度ω3を演算して、この回転速度ω3がテークアップロール13の停止状態を示す閾値(以下「停止速度」という。)以下である場合に停止モード信号を制御切換器94へ出力し、この回転速度ω3が停止速度を越える場合に搬送モード信号を制御切換器94へ出力するものである。なお、テークアップロール13の停止状態を示す停止速度が0rad/sに設定されている。
【0221】
(G−1−4−1)制御切換器及びモード検出器の動作
これらの制御切換器94及びモード検出器95によれば、テークアップロール13の回転速度ω3が停止速度を越えると、モード検出器95から搬送モード信号が制御切換器94へ入力され、この搬送モード信号を受けた制御切換器94によって、停止モード制御器93の出力端とパルス発生器96の入力端との接続が切断され、搬送モード制御器92の出力端とパルス発生器96の入力端とが接続される。
【0222】
この結果、モード検出器95が搬送モード信号を出力する場合、即ち、巻取区間8の糸λが搬送状態(搬送モード)の場合には、搬送回転量指令Δθ4drv^が搬送モード制御器92からパルス発生器96へ入力され、停止時回転量指令Δθ4stp^が停止モード制御器93からパルス発生器96へ入力されることが禁止される。
【0223】
一方、テークアップロール13の回転速度ω3が停止速度となると、モード検出器95から停止モード信号が制御切換器94へ入力され、この停止モード信号を受けた制御切換器94によって、停止モード制御器93の出力端とパルス発生器96の入力端とが接続され、搬送モード制御器92の出力端とパルス発生器96の入力端との接続が切断される。
【0224】
この結果、モード検出器95が停止モード信号を出力する場合、即ち、巻取区間8の糸λが搬送停止状態(停止モード)の場合には、停止時回転量指令Δθ4stp^が停止モード制御器93からパルス発生器96へ入力され、搬送回転量指令Δθ4drv^が搬送モード制御器92からパルス発生器96へ入力されることが禁止される。
【0225】
(G−1−5)パルス発生器
パルス発生器96は、その入力端に制御切換器94の出力端が接続されており、この制御切換器94から入力される搬送回転量指令Δθ4drv^又は停止時回転量指令Δθ4stp^に基づいた数のパルス信号を時間間隔Δt内に含むパルス信号列(以下「巻取モータM4パルス指令」という。)PL4^を発生して、この巻取モータM4パルス指令PL4^を、巻取モータM4用のサーボアンプ34の偏差カウンタ34aへ出力するものである。
【0226】
ここで、「搬送回転量指令Δθ4drv^又は停止時回転量指令Δθ4stp^に基づいた数のパルス信号」とは、「巻取ロール14を搬送回転量指令Δθ4drv^又は停止時回転量指令Δθ4stp^の分だけ回転させるために、巻取モータM4が回転すべき回転量に相当する数のパルス信号」を意味している。
【0227】
そこで、このパルス発生器96では、次式(48)に基づいて、入力された巻取ロール14の搬送回転量指令Δθ4drv^又は停止時回転量指令Δθ4stp^を巻取モータM4の回転量Δθm4^に換算し、この巻取モータM4の回転量Δθm4^に相当する数のパルス信号を時間間隔Δt内に含むパルス信号列を、巻取モータM4パルス指令PL4^として巻取モータM4用のサーボアンプ34の偏差カウンタ34aへ出力することとなる。
【0228】
Δθm4^=R1・Δθ4^ ・・・ (48)
(但し、式(48)において、R1は巻取ロール14と巻取モータM4との間に介在する伝達機構の伝達比(その他の伝達損失等を含む。)、Δθ4^は、搬送モードの場合に搬送回転量指令Δθ4drv^であり、停止モードの場合に停止時回転量指令Δθ4stp^である。)
【0229】
(G−2)巻取モータ用のサーボアンプ
巻取モータM4用のサーボアンプ34は、その入力端に巻取ロール制御器91のパルス発生器96の出力端と巻取モータM4用のパルスエンコーダEN4の出力端とが接続され、その出力端に巻取モータM4が接続されている。なお、この巻取モータM4用のサーボアンプ34については、その内部構造及び動作が上記したフィードモータM2用のサーボアンプ32と同種のものであるので、その説明を省略する。
【0230】
(H)巻取部巻径推定ユニット
図10は、巻取部巻径推定ユニット100を示したブロック図である。図10に示すように、巻取部巻径推定ユニット100は、主に、パルス復元器101と、巻取総回転量演算器102と、巻取部巻径推定器103とを備えている。この巻取部巻径推定ユニット100は、上記した巻取ロール制御ユニット90と同期して時間間隔Δt毎に、巻取ロール14の巻径現在値D4を推定するための処理(以下「巻取ロール巻径推定処理」という。)を実行するものである。
【0231】
(H−1)パルス復元器
パルス復元器101は、その入力端に巻取モータM4用のパルスエンコーダEN4の出力端が接続されており、このパルスエンコーダEN4から入力されるパルス信号列(以下「巻取ロール検出パルス」という。)PL4のパルス数を計数することで巻取モータM4の実際の回転量Δθm4を検出し、この巻取モータM4の検出回転量Δθm4を巻取ロール14の検出回転量Δθ4に変換して、巻取総回転量演算器102へ出力するものである。
【0232】
(H−2)巻取総回転量演算器
巻取総回転量演算器102は、その入力端にパルス復元器101の出力端が接続されており、次式(49)に基づいて、このパルス復元器101から入力される巻取ロール14の検出回転量Δθ4に基づいて、巻取ロール検出総回転量θ4の最新値を演算するものである。
【0233】
この巻取総回転量演算器102によれば、入力された巻取ロール14の検出回転量Δθ4(式(49)右辺第2項)の値とEEPROM24から読み出された前回の巻取ロール検出総回転量θ4(式(49)右辺第1項)の値とを加算した値が、今回の巻取ロール検出総回転量θ4(式(49)左辺)の値として取得される。
θ4←θ4+Δθ4 ・・・ (49)
(但し、式(49)において、演算子「←」は、右辺の演算値を左辺の変数値に書き換えることを意味するものである。)
【0234】
また、この巻取総回転量演算器102によって取得された今回の巻取ロール検出総回転量θ4の値は、CPU21によって、巻取ロール検出総回転量θ4の新たな値としてEEPROM24に上書きされて記憶保持され、次回の巻取ロール検出総回転量θ4の演算に用いられる。
【0235】
(H−3)巻取部巻径推定器
巻取部巻径推定器103は、その入力端に、巻取総回転量演算器102から出力される巻取ロール検出総回転量θ4と、CPU21によってEEPROM24から読み出された巻径データテーブルとが入力されている。この巻取部巻径推定器103は、巻取ロール検出総回転量θ4の値に対応する巻取ロール14の巻径現在値D4の値を巻径データテーブルから抽出して、この抽出した巻径現在値D4を、上記したストレッチ補償器92b及び巻径変動補償器93bへそれぞれ出力するものである。
【0236】
ここで、「巻径データテーブル」に記憶される送出ロール11の総回転量θ1invについては、上記した前処理工程によって巻取ロール14に糸λを巻き付けるときのものであり、巻取総回転量演算器102により出力される巻取ロール検出総回転量θ4についても、糊付け装置1において糸λが巻き取られるときのものである。
【0237】
このため、この巻取部巻径推定器103では、巻取ロール検出総回転量θ4に基づいて巻径データテーブルから巻径現在値D4を抽出するにあたって、検出総回転量θ4の値に対応する巻径現在値D1を巻径データテーブルから抽出して、この抽出された巻径現在値D1の値を巻径現在値D4の値として、ストレッチ補償器92b及び巻径変動補償器93bへそれぞれ出力するように構成されている。
【0238】
この巻取部巻径推定器103により出力された巻取ロール14の巻径現在値D4は、ストレッチ補償器92b及び巻径変動補償器93bへそれぞれ入力され、上記した式(45),(47)に基づく演算処理に用いられる。
【0239】
次に、図11を参照して、上記実施例の変形例について、以下に説明する。
【0240】
図11は、第2実施例の送出ロール制御ユニット150について示したブロック図である。第2実施例の送出ロール制御ユニット150は、上記した第1実施例の送出ロール制御ユニット150に対して、送出ロール制御器の制御切換器について変更を施したものである。以下、第1実施例と同一の部分には同一の符号を付して、その説明を省略し、異なる部分のみを説明する。
【0241】
図11に示すように、第2実施例の送出ロール制御ユニット150は、送出ロール制御器151の制御切換器154が、張力偏差演算器52cと、搬送張力補償器52dと、停止張力補償器53aとの接続分岐点に配設されている。この制御切換器154は、その入力端に張力偏差演算器52cの出力端のみが接続されており、その2個の出力端のうち、一方の出力端に搬送張力補償器52dの入力端が接続され、他方の出力端に停止張力補償器53aの入力端が接続されている。
【0242】
この制御切換器154によれば、フィードロール12の回転速度ω2が停止速度を越えると、モード検出器55から搬送モード信号が制御切換器154へ入力され、この搬送モード信号を受けた制御切換器154によって、張力偏差演算器52cの出力端と停止モード制御器53の停止張力補償器53aの入力端との接続が切断され、張力偏差演算器52cの出力端と搬送モード制御器52の搬送張力補償器52dの入力端とが接続される。
【0243】
この結果、モード検出器55が搬送モード信号を出力する場合、即ち、送出区間7の糸λが搬送状態(搬送モード)の場合、送出区間張力偏差E1tnsは、搬送モード制御器52の搬送張力補償器52dへ入力され、停止モード制御器53の停止張力補償器53aへの入力が禁止される。このため、パルス発生器56へは、搬送モード制御器52による搬送回転量指令Δθ1drv^が入力されて、停止モード制御器53による停止時回転量指令Δθ1stp^の入力が禁止される。
【0244】
一方、フィードロール12の回転速度ω2が停止速度となると、モード検出器55から停止モード信号が制御切換器154へ入力され、この停止モード信号を受けた制御切換器154によって、張力偏差演算器52cの出力端と停止モード制御器53の停止張力補償器53aの入力端とが接続され、張力偏差演算器52cの出力端と搬送モード制御器52の搬送張力補償器52dの入力端との接続が切断される。
【0245】
この結果、モード検出器55が停止モード信号を出力する場合、即ち、送出区間7の糸λが搬送停止状態(停止モード)の場合、送出区間張力偏差E1tnsは、搬送モード制御器52の搬送張力補償器52dへの入力が禁止され、停止モード制御器53の停止張力補償器53aへ入力される。このため、パルス発生器56へは、停止モード制御器53による停止時回転量指令Δθ1stp^の入力が許可されることとなる。
【0246】
そして、停止モードの場合は、送出区間張力偏差E1tnsが搬送張力補償器52dへ入力されないため、その出力である搬送張力回転量指令Δθ1dtns^もゼロとなり、なおかつ、パルス復元器52aの出力であるフィードロール12の検出回転量Δθ2もゼロとなるため、ストレッチ補償器52bの出力であるストレッチ回転量指令Δθ1str^もゼロとなる。この結果、パルス発生器56へは、搬送モード制御器52による搬送回転量指令Δθ1drv^の入力が自動的に防止されることとなる。
【0247】
以上、実施例に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0248】
例えば、本実施例では、搬送モード制御器52におけるパルス復元器52aへの入力としてフィードモータM2の検出回転量Δθm2を用いたが、かかるパルス復元器52aへの入力信号は必ずしもこれに限定されるものではなく、特に、演算処理の遅れを解消するためには、フィードロール制御器41のパルス発生器56から出力されるフィードモータM2回転量指令Δθm2をパルス復元器52aへ入力するようにしても良い。
【0249】
また、本実施例では、搬送モード制御器92におけるパルス復元器92aへの入力としてテークアップモータM3の検出回転量Δθm3を用いたが、かかるパルス復元器92aへの入力信号は必ずしもこれに限定されるものではなく、特に、演算処理の遅れを解消するためには、テークアップロール制御器81のパルス発生器84から出力されるテークアップモータ回転量指令Δθm3をパルス復元器92aへ入力するようにしても良い。
【0250】
また、本実施例では、送出ロール11の巻径現在値D1を求めるために送出部巻径推定ユニット70を、巻取ロール14の巻径現在値D4を求めるために巻取部巻径推定ユニット100をそれぞれ用いたが、かかる送出ロールや巻取ロールの巻径現在値の導出方式は必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば、送出ロールや巻取ロールの巻径現在値を超音波センサや光学センサを用いて計測するようにしても良い。
【0251】
また、上記した第2実施例は、送出ロール制御器151について制御切換器154に関する変更を施したが、かかる第2実施例で説明した制御切換器に関する変更は、必ずしも送出ロール制御器にのみ適用されるものではなく、上記した巻取ロール制御器における制御切換器について同様に適用しても良い。したがって、巻取ロール制御器における制御切換器を、巻取ロール制御器における張力偏差演算器52cと、搬送張力補償器52dと、停止張力補償器53aとの接続分岐点に配設するようにしても良い。
【0252】
また、本実施例では、本発明の後段ロールとしてフィードロールを、本発明の前段ロールとしてテークアップロールを、それぞれ用いて説明したが、後段ロール及び前段ロールは必ずしもこれらに限定されるものではなく、これらのフィードロールやテークアップロールが存在しない糸搬送装置の場合には、送出ロールと送出区間を隔てて前後する別のロールを後段ロールとし、巻取ロールと巻取区間を隔てて前後する別のロールを前段ロールとしても良い。
【0253】
例えば、フィードロールが存在しない場合は後段ロールとしてサイジングロール等を適用し、テークアップロールが存在しない場合は前段ロールとしてシリンダロール等を適用して良い。
【0254】
また、本実施例では、停止モード制御器53の停止張力補償器53aと制御切換器54との間に巻径変動補償器53bを設けたが、例えば、停止張力補償器53aがモデル化誤差に対してロバストな制御要素である場合は、必ずしも巻径変動補償器53bを設けずとも良い。
【図面の簡単な説明】
【0255】
【図1】本発明の一実施例である搬送装置を備えた糊付け装置の構成を示した概略図である。
【図2】糊付け装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図3】フィードロール制御ユニットを示したブロック図である。
【図4】サーボアンプの内部構造を示したブロック図である。
【図5】送出ロール制御ユニットを示したブロック図である。
【図6】「巻径データテーブル」を取得するための前処理工程の概略図である。
【図7】送出部巻径推定ユニットを示したブロック図である。
【図8】テークアップロール制御ユニットを示したブロック図である。
【図9】巻取ロール制御ユニットを示したブロック図である。
【図10】巻取部巻径推定ユニットを示したブロック図である。
【図11】第2実施例の送出ロール制御ユニットを示したブロック図である。
【符号の説明】
【0256】
1 糊付け装置(糸糊付け装置)
2 搬送装置(糸搬送装置の一部)
3 熱風乾燥装置(搬送ライン上の各工程の一部)
4 クーリング装置(搬送ライン上の各工程の一部)
5,6 ロードセル(糸搬送装置の一部)
11 送出ロール
12 フィードロール(後段ロール)
13 テークアップロール(前段ロール)
14 巻取ロール
15 サイジングロール(搬送ライン上の各工程の一部)
16,16,… シリンダロール(搬送ライン上の各工程の一部)
20 制御装置(糸搬送装置の一部)
31 サーボアンプ(送出ロール駆動手段の一部)
32 サーボアンプ(後段ロール駆動手段の一部)
33 サーボアンプ(前段ロール駆動手段の一部)
34 サーボアンプ(巻取ロール駆動手段の一部)
52b ストレッチ補償器(請求項1から4のストレッチ制御手段)
53a 停止張力補償器(請求項1から4の張力制御手段)
53b 巻径変動補償器(請求項1から4の巻径変動補償手段)
54,154 制御切換器(請求項1から4の制御切換手段)
92b ストレッチ補償器(請求項5から8のストレッチ制御手段)
93a 停止張力補償器(請求項5から8の張力制御手段)
93b 巻径変動補償器(請求項5から8の巻径変動補償手段)
94,154 制御切換器(請求項5から8の制御切換手段)
λ 糸
M1〜M6 サーボモータ(糸搬送装置の一部)
M1 サーボモータ(送出ロール駆動手段の一部)
M2 サーボモータ(後段ロール駆動手段の一部)
M3 サーボモータ(前段ロール駆動手段の一部)
M4 サーボモータ(巻取ロール駆動手段の一部)
EN1〜EN6 パルスエンコーダ(糸搬送装置の一部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の搬送ライン上に回転可能に配設され外周に糸が巻回される送出ロールと、その送出ロールよりも搬送ライン下流側であって前記搬送ライン上に回転可能に配設される後段ロールとを備えており、前記送出ロールの回転に伴って送出される糸を、前記搬送ラインに沿って前記後段ロールへ搬送し、その後段ロールの回転を介して更に搬送ライン下流側に配設される各工程へ搬送する糸糊付け機の糸搬送装置において、
前記後段ロールを回転駆動する後段ロール駆動手段と、
その後段ロールが回転状態にある場合に、その後段ロール及び送出ロール間(以下「送出区間」という。)にある糸が生ずべき目標糸延伸率に基づいて得られる前記後段ロール及び送出ロールの回転量の比率(以下「送出部回転比」という。)、その後段ロールの外径及び前記送出ロールの巻径現在値の比率(以下「送出部径比」という。)、及び、その後段ロールの回転量とを乗算した値を、前記送出区間の糸延伸率を調整するために前記送出ロールを回転させるべき回転量指令として出力するストレッチ制御手段と、
そのストレッチ制御手段により出力される回転量指令に基づいて前記送出ロールを回転駆動する送出ロール駆動手段と、
前記後段ロールが回転停止状態にある場合に、前記送出区間の糸張力を目標糸張力に一致させるため、その送出区間に関する目標糸張力と実際の糸張力との偏差(以下「送出区間張力偏差」という。)に基づいて前記送出ロールを回転させるべき回転量指令を演算し出力する張力制御手段と、
その張力制御手段により出力される回転量指令の前記送出ロール駆動手段への入力を、前記後段ロールが回転停止状態にある場合に許可する一方、前記後段ロールが回転状態にある場合に禁止する制御切換手段とを備えていることを特徴とする糸搬送装置。
【請求項2】
前記ストレッチ制御手段に代えて、前記後段ロールが回転状態にある場合に、前記送出区間にある糸が生ずべき目標糸延伸率と前記後段ロールの回転量とに基づいて、前記送出区間の糸延伸率を調整するために前記送出ロールを回転させるべき回転量指令を演算し出力するストレッチ制御手段を備えており、
前記制御切換手段に代えて、前記後段ロールが回転停止状態にある場合に、前記送出ロール駆動手段への前記張力制御手段による回転量指令の入力を許可し且つ前記ストレッチ手段による回転量指令の入力を禁止する一方、前記後段ロールが回転状態にある場合に、前記送出ロール駆動手段への前記張力制御手段による回転量指令の入力を禁止し且つ前記ストレッチ制御手段による回転量指令の入力を許可する制御切換手段を備えていることを特徴とする請求項1記載の糸搬送装置。
【請求項3】
前記張力制御手段により出力される前記送出ロールの回転量指令が入力され、この回転量指令に対して前記送出ロールの巻径現在値に基づく補正変換を施した値を、前記送出ロールを回転させるための回転量指令として前記送出ロール駆動手段へ出力する巻径変動補償手段を備えており、
前記制御切換手段に代えて、その巻径変動補償手段により出力される回転量指令の前記送出ロール駆動手段への入力を、前記後段ロールが回転停止状態にある場合に許可する一方、前記後段ロールが回転状態にある場合に禁止する制御切換手段を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の糸搬送装置。
【請求項4】
前記巻径変動補償手段は、前記張力制御手段により演算される前記送出ロールの回転量指令に対して、前記送出ロールの巻径現在値の逆数を乗算することで補正変換をなすものであることを特徴とする請求項3記載の糸搬送装置。
【請求項5】
所定の搬送ライン上に回転可能に配設され外周に糸が巻回される巻取ロールと、その巻取ロールよりも搬送ライン上流側であって前記搬送ライン上に回転可能に配設される前段ロールとを備えており、その前段ロールよりも搬送ライン上流側に配設される各工程から、その前段ロールの回転を介して搬送されてくる糸を、前記巻取ロールの外周に巻き取って巻回させる糸糊付け機の糸搬送装置において、
前記前段ロールを回転駆動する前段ロール駆動手段と、
その前段ロールが回転状態にある場合に、その前段ロール及び巻取ロール間(以下「巻取区間」という。)にある糸が生ずべき目標糸延伸率に基づいて得られる前記前段ロール及び巻取ロールの回転量の比率(以下「巻取部回転比」という。)、その前段ロールの外径及び前記巻取ロールの巻径現在値の比率(以下「巻取部径比」という。)、及び、その前段ロールの回転量とを乗算した値を、前記巻取区間の糸延伸率を調整するために前記巻取ロールを回転させるべき回転量指令として出力するストレッチ制御手段と、
そのストレッチ制御手段により出力される回転量指令に基づいて前記巻取ロールを回転駆動する巻取ロール駆動手段と、
前記前段ロールが回転停止状態にある場合に、前記巻取区間の糸張力を目標糸張力に一致させるため、その巻取区間に関する目標糸張力と実際の糸張力との偏差(以下「巻取区間張力偏差」という。)に基づいて前記巻取ロールを回転させるべき回転量指令を演算し出力する張力制御手段と、
その張力制御手段により出力される回転量指令の前記巻取ロール駆動手段への入力を、前記前段ロールが回転停止状態にある場合に許可する一方、前記前段ロールが回転状態にある場合に禁止する制御切換手段とを備えていることを特徴とする糸搬送装置。
【請求項6】
前記ストレッチ制御手段に代えて、前記前段ロールが回転状態にある場合に、前記巻取区間にある糸が生ずべき目標糸延伸率と前記前段ロールの回転量とに基づいて、前記巻取区間の糸延伸率を調整するために前記巻取ロールを回転させるべき回転量指令を演算し出力するストレッチ制御手段を備えており、
前記制御切換手段に代えて、前記前段ロールが回転停止状態にある場合に、前記巻取ロール駆動手段への前記張力制御手段による回転量指令の入力を許可し且つ前記ストレッチ手段による回転量指令の入力を禁止する一方、前記前段ロールが回転状態にある場合に、前記巻取ロール駆動手段への前記張力制御手段による回転量指令の入力を禁止し且つ前記ストレッチ制御手段による回転量指令の入力を許可する制御切換手段を備えていることを特徴とする請求項5記載の糸搬送装置。
【請求項7】
前記張力制御手段により出力される前記巻取ロールの回転量指令が入力され、この回転量指令に対して前記巻取ロールの巻径現在値に基づく補正変換を施した値を、前記巻取ロールを回転させるための回転量指令として前記巻取ロール駆動手段へ出力する巻径変動補償手段を備えており、
前記制御切換手段に代えて、その巻径変動補償手段により出力される回転量指令の前記巻取ロール駆動手段への入力を、前記前段ロールが回転停止状態にある場合に許可する一方、前記前段ロールが回転状態にある場合に禁止する制御切換手段を備えていることを特徴とする請求項5又は6に記載の糸搬送装置。
【請求項8】
前記巻径変動補償手段は、前記張力制御手段により演算される前記巻取ロールの回転量指令に対して、前記巻取ロールの巻径現在値の逆数を乗算することで補正変換をなすものであることを特徴とする請求項7記載の糸搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−161894(P2009−161894A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169257(P2008−169257)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(300072266)有限会社エィブィアール (8)
【Fターム(参考)】