説明

糸条パッケージの捲取り方法

【課題】フィラメント数が少なく、かつ単糸繊度が太い合成繊維糸条のパッケージに関し、解舒性良好な糸条パッケージを得るための捲き取り方法を提供することを技術的な課題とする。
【解決手段】糸条をボビンに捲き取るにあたり、リングレールが最下部に位置するときのスピンドル回転数を基準にして、リングレール上昇時にスピンドル回転数を上げ、リングレール下降時にスピンドル回転数を下げて糸条を捲き取る方法であって、上部捲上角度が5度以下のパラレル捲きにより糸条を捲取った後、コンビネーション捲きに移行することにより、捲き上がり時の上部傾斜糸層の捲上角度を18度以下とする糸条パッケージの捲き取り方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノフィラメント、マルチフィラメントの糸条パッケージの捲取り方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
延伸撚糸機における糸条の捲取りは、延伸ローラより供給された糸条をリングとトラベラにより、加撚しながら、駆動されるスピンドルに装填されている円筒ボビンで捲取るのが、一般的である。
【0003】
糸の捲取り様式は、リングを担持しているリングレールの昇降運動によって定まり、多数の捲取り様式が公知である(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3-98954号公報
【特許文献2】特開平5−230723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、フィラメント数が少なく、かつ単糸繊度が太い合成繊維糸条を整経、製編織する場合、テンションガイドを介してパッケージ上部より糸条を引き出すと、解舒される糸条のバルーニングがパッケージ上部傾斜糸層に繰り返し接触する。そうすると、円錐形の上部傾斜糸層が綾落ちし、これが原因で、整経、製編織時に糸切れ、連れ込みなどが発生し、布帛の品位が低下してしまう。そして、このような現象は、作業効率を悪化させるものでもある。
糸条パッケージの捲取り方法はこれまでに多数提案されているものの、このような合成繊維糸条に適した捲取り方法は未だ提案されていない。
本発明は、上記課題を解決するものであり、フィラメント数が少なく、かつ単糸繊度が太い合成繊維糸条のパッケージに関し、解舒性良好な糸条パッケージを得るための捲取り方法を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、本発明なすに至った。
すなわち、本発明は、単糸数5f以下、単糸繊度10dtex以上のモノフィラメントもしくはマルチフィラメント糸条をボビンに捲取るにあたり、リングレールが最下部に位置するときのスピンドル回転数を基準にして、リングレール上昇時にスピンドル回転数を上げ、リングレール下降時にスピンドル回転数を下げて糸条を捲取る方法であって、上部捲上角度が5度以下のパラレル捲きにより糸条を捲取った後、コンビネーション捲きに移行することにより、捲き上がり時の上部傾斜糸層の捲上角度を18度以下とすることを特徴とする糸条パッケージの捲取り方法を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、フィラメント数が少なく、かつ単糸繊度が太い合成繊維糸条のパッケージに関し、解舒性良好な糸条パッケージを得るための捲取り方法が提供できる。しかるに、本発明の方法により得られたパッケージを使用すれば、整経、製編織時、円錐形の上部傾斜糸層に解舒バルーニングが繰り返し接触しても、綾落ちが少なく、糸切れ、連れ込みが減少し、織編物の品位を大幅に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の方法の概略模式図の一例である。
【図2】本発明において好ましく採用される捲取りパターンの概略図の一例である。
【図3】本発明において好ましく採用されるリングレール昇降時のスピンドル回転数パターンの概略図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明では、糸条をボビンに捲取るにあたり、リングレールが最下部に位置するときのスピンドル回転数を基準にして、リングレール上昇時にスピンドル回転数を上げ、リングレール下降時にスピンドル回転数を下げて糸条を捲取る。これにより、捲取張力の変動を抑え、上部傾斜糸層の捲硬度低下を防ぐことができる。
捲取張力は、バルーンの大きさとトラベラの回転数とに大きく左右される。この点、バルーンの大きさは、リングレールの位置により変化し、トラベラの回転数はパッケージの糸層径により変化する
言い換えれば、捲取張力は、バルーンの軸方向の長さが短くなるにしたがって小さくなり、バルーンの軸方向の長さが長くなるにしたがって大きくなる。また、トラベラ回転数はスピンドル回転数が一定の場合、糸層径が小さいほど、トラベラ回転数が減少して捲取張力は低下し、糸層径が大きいほど、トラベラ回転数が増加して高くなる。
【0010】
このような捲取張力の変動を解消するには、リングレールの昇降運動毎にスピンドル回転数を増減させればよい。これにより、上部傾斜糸層の捲硬度低下を防ぐことができる。
【0011】
図1は、本発明の方法を示す概略図の一例である。なお、図1では、延撚機を用いているが、本発明の方法は、延撚機を用いる場合のみに限定されるものではない
図1において、まず、未延伸糸1をクリールに設置する。供給ローラ2を使用して未延伸糸を一定速度で引き出し、加熱ローラ3に適宣回数捲き付ける。そして、ヒートプレート4で熱セットし、延伸ローラ5に適宣回数捲き付けて、延伸した延伸糸をボビン上方のセンターガイドを経て、トラベラを介してボビンに捲き付ける。
【0012】
トラベラは、リングレールに固定されたリングホルダー6のリング上を回転する。リングレールは、図2に示すようなパターンで昇降運動する。これにより、捲取り糸層が形成され、所望のパッケージ7が得られる。
【0013】
ボビンは、スピンドルに挿着されており、駆動モーターに連結されたシャフトの回転をベルトで連動することによってスピンドルは回転駆動する。
【0014】
駆動モーターとしては、回転数が任意に変更可能なものがよく、接続された制御機によって、回転数を決める。
【0015】
一般に、延伸ローラとリングに沿って回転するトラベラとの間には、バルーンが形成される。このバルーンの軸方向の長さは、リングレールの位置により変化する。このとき、バルーンの長さが短くなると張力は低くなり、長くなると張力は高くなる。
本発明では、パッケージ内層は、パラレル捲きで捲取る。そして、リングレールのコッピング長が設定値に達した後、コンビネーション捲きに移行する。コンビネーション捲きでは、リングレールの上部ターン位置が除々に上昇する。そして、パッケージ上部傾斜糸層では糸層径が減少する。
【0016】
捲取張力は、一般に糸層径が小さいほど低くなり、増えるほど高くなる。これは、糸層径が小さくなるにしたがい、トラベラ回転数が減少し、逆に、糸層径が大きくなるにしたがい、トラベラ回転数が増大するためである。
また、捲取張力は、リングレール最下部で最大となり、バルーンの最も短く、捲径が最も小さいリングレール最上部で最小となる。
本発明では、リングレールの上昇時にスピンドル回転数を上げ、リングレールの下降時に回転数を低減させる。これにより、捲取張力を一定にすることができ、結果、糸層の捲硬度低下を防ぐことができる。リングレールの昇降運動の制御は、回転数が適当に変更可能な共通の駆動モーターを用いれば可能となる。
【0017】
本発明では、リングレールの最下部の捲取張力と、リングレールの最上部の捲取張力とを、延伸ローラとボビン上のガイドと間で測定し、リングレールの最下部の捲取張力と、リングレールの最上部の捲取張力が同等となるように、スピンドル回転数が設定される。
なお、1dtexあたり0.1gf以上の捲取張力であれば、パッケージの捲硬度は、85以上が可能である。ただ、フィラメント数が少なく、単糸繊度が太い糸条においては、単糸−単糸間の接糸点が少ないことによる摩擦抵抗が小さいため、単糸間において安定性が悪く、表面の凹凸差が大きい。ゆえに、解舒時のバルーニングよって、綾落ちが発生しやすい。そのため、上部傾斜糸層の捲硬度は、90以上が好ましく、より好ましくは、95以上である。
【0018】
本発明における、パッケージの捲取りパターンは、内層をパラレル捲きで捲取り、その後、コンビネーション捲きに移行する。コンビネーション捲きでは、リングレール上部のターン位置は、徐々に上昇し、最終的に上部傾斜糸層の最先端まで達する。このようにして、上部傾斜糸層に重なり糸層が形成される。糸を解舒するときは、常に上部傾斜糸層の表層より解舒されるため、解舒バルーニングの影響が少なく、糸条の綾落ち、糸束の連れ出しが防げる。
【0019】
パーン内層のパラレル捲きの捲量は特に限定されるものではないが、パラレル捲きの上部傾斜糸層の捲上角度は5度以下とする。これにより、パラレル捲きの上部傾斜糸層の上からコンビネーション捲きの糸層を形成する際、糸層の乱れなどを防ぐことができる。
【0020】
パラレル捲きの上部傾斜糸層の捲上角度が5度を超えると、コンビネーション捲きによる糸層形成時に捲取張力が変動し、糸切れが発生したり、パラレル捲き上部の解舒時に解舒バルーンによる綾落ちが発生し、糸束の連れ出しが起こる。
【0021】
上部傾斜糸層に重なり糸層を形成する場合、捲取張力の急激な変化により、糸切れなどが発生することがあり、できるだけ緩やかに変化させることが好ましく、上部傾斜糸層の長さが長いほど有利である。
【0022】
パッケージにおいて、捲き上がり時の上部傾斜糸層の捲上角度は、18度以下とする。18度を超えると、解舒性が大きく低下する。好ましくは、15度以下である。
【実施例】
【0023】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例における測定方法と評価方法は次の通りである。
【0024】
1.捲硬度
延伸パーンの捲硬度測定は、硬度計(高分子計器製「HARDNESS TESTER」)を用い、上部傾斜糸層、円筒部、下部傾斜糸層の表面を2等分した中央部を測定し、各部の平均値を硬度とした。
【0025】
2.捲取張力
捲取張力の測定は、張力測定器を用い、延伸時に延伸ローラとボビン上のガイドとの間で測定した。
【0026】
3.操業性
紡糸工程で得られた未延伸糸を、図1の延撚機で100錘を使用して延伸を行い、延伸中の糸切れ回数により、次の3段階で評価し、○を合格とした。
○ 糸切れ数 0〜1回
△ 糸切れ数 2〜4回
× 糸切れ数 5回以上
【0027】
4.外観検査
得られた延伸糸パッケージの外観欠点(綾乱れ、毛羽、単糸切れ)発生数により、次の3段階で評価し、○を合格とした。
○ 外観欠点の発生なし
△ 外観欠点の発生数 1〜3点
× 外観欠点の発生数 4点以上
【0028】
5.解舒性
延伸工程で得られた延伸糸100パッケージを、整経機に導入し糸速500m/分で解舒試験し、綾落ち数、解舒乱れによる糸切れ回数により、次の4段階で評価し、○を合格とした。
○ 綾落ち、糸切れなし
△ 綾落ち、糸切れ合計回数 1〜3回
× 綾落ち、糸切れ合計回数 4〜6回
×× 綾落ち数糸切れ合計回数 7回以上
【0029】
(実施例1)
トータル繊度44.2dtex、単糸繊度22.1dtex、フィラメント数2の未延伸糸を用意した。未延伸糸を図1に示す延撚機を設置した後、糸条を供給ローラに導き、90℃の加熱ローラを介して、145℃のヒートプレートで熱処理し、加熱ローラと延伸ローラで1.64倍に延伸し、延伸速度480m/分で捲取り、28dtex2fの延伸糸となした。
【0030】
糸条パッケージの捲取りパターンは、内層をパラレル捲きで、パラレル捲きの上部捲角度を3度とし、リングレールのコッピング長が設定値に達した後、コンビネーション捲きした。リングレールの昇降運動の経過を図2に示す。
【0031】
スピンドル回転数は、図3に示すように、リングレール最下部の基本回転数を基準にして、リングレール上昇時にスピンドル回転数を上げ、下降時にスピンドル回転数を下げた。リングレール昇降速度は、20mm/sとし、スピンドル駆動モーターの回転数はリングレール最下部の回転数を基準に、上昇時16rpm/sづつ上げ、リングレール最上部からの下降時に16rpm/sづつ下げる設定とした。捲取張力は、4〜5gfであった。
図2に示す上部傾斜糸層の捲上角度を14度で、糸条パッケージを捲取った。
【0032】
(実施例2、比較例1〜4)
条件を表1記載のものに変更し、実施例1と同様に行った。
【0033】
【表1】

【0034】
表1より、明らかなように、実施例1、2では、操業性、外観欠点、解舒性とも良好であった。
【0035】
一方、比較例1では、上部傾斜糸層の捲硬度が低く、外観欠点が見られ、解舒性に問題があった。比較例2、4では、捲上角度が大きいため、糸条パッケージに綾落ちが見られ、解舒性に問題があった。比較例3では、スピンドル昇降時の回転数が高すぎたため、捲取張力を一定に保つことができず、操業性に問題があった。
【符号の説明】
【0036】
1 未延伸糸
2 供給ローラ
3 加熱ローラ
4 ヒートプレート
5 延伸ローラ
6 リングホルダー
7 パッケージ
8 上部傾斜糸層
9 円筒部
10 下部傾斜糸層
θ 捲上角度


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糸数5f以下、単糸繊度10dtex以上のモノフィラメントもしくはマルチフィラメント糸条をボビンに捲き取るにあたり、リングレールが最下部に位置するときのスピンドル回転数を基準にして、リングレール上昇時にスピンドル回転数を上げ、リングレール下降時にスピンドル回転数を下げて糸条を捲き取る方法であって、上部捲上角度が5度以下のパラレル捲きにより糸条を捲取った後、コンビネーション捲きに移行することにより、捲き上がり時の上部傾斜糸層の捲上角度を18度以下とすることを特徴とする糸条パッケージの捲き取り方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−214202(P2011−214202A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84722(P2010−84722)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】