説明

糸条加熱装置

【課題】保温箱内の保温効率を上げることで、糸条送りローラにより送られる糸条を加熱するためのヒータの消費電力を低減する。
【解決手段】ローラユニット3は、ゴデットローラ11、セパレートローラ12、ローラ11、12を収容する保温箱13、及び、保温箱13の外側に設けられた熱交換器30を有している。熱交換器30では、排気ファン40が駆動すると、保温箱13内の空気が内管31内を通って排気される。また、吸気ファン41が駆動すると、外部の空気が外管32内を通った後、分岐管34内を通って保温箱13内に流入する。このとき、熱交換器30では、内管31内を通る空気と外管32内を通る空気との間で熱交換が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸条を加熱する糸条加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、紡糸部から送出された糸条をゴデットローラで送りながら延伸してワインダで巻き取る紡糸巻取機について記載されている。この特許文献1の紡糸巻取機には、紡糸機から紡出された複数の糸条に油剤を付与する給油装置と、2つのゴデットローラとが設けられている。そして、紡糸機から紡出され、給油装置により油剤が付着した複数の糸条を2つのゴデットローラ間で延伸している。
【0003】
また、特許文献2には、ゴデットローラとして加熱ローラを用いることが記載されている。そして、この加熱ローラはボックス(保温箱)内に収容されており、加熱ローラにより発生させた熱が、保温箱内から外部に逃げ出しにくいようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−77547号公報(図1)
【特許文献2】特開2001−262429号公報(図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1のように糸条に油剤が付与される場合に、特許文献2のようにゴデットローラを加熱ローラとして用いると、紡糸部から紡出されて油剤が付着した糸条が保温箱内を走行する際に、糸条に付着した油剤が加熱され気化して油煙が発生して、保温箱内に油煙が充満してしまうおそれがある。
【0006】
そこで、保温箱内の煙を除去するために、排気ファンにより保温箱内の煙を空気とともに排出することが考えられる。しかしながら、これでは、保温箱内の煙を排出するときに、保温箱内の高温の空気もともに排出されてしまう。さらに、保温箱内の空気が排出されることで、保温箱内の気圧が外部よりも低下するため、例えば、保温箱に対して糸条を出し入れするための開口などから外部の低温の空気が流入してしまう。そして、保温箱内の温度が低下し、糸条を適切な温度に加熱するのに必要なヒータの消費電力が増大してしまう。
【0007】
そこで、本発明の目的は、保温箱内の保温効率を上げることで、糸条送りローラにより送られる糸条を加熱するためのヒータの消費電力を低減することが可能な糸条加熱装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の糸条加熱装置は、紡出された糸条を送る糸条送りローラと、前記糸条送りローラにより送られる糸条を加熱するヒータと、前記糸条送りローラ及び前記ヒータが収容され、糸条の入口と出口とが形成された保温箱と、を備えており、前記保温箱には、前記保温箱内の空気を排出する排気手段に接続される排気口と、前記保温箱内に空気を流入させる流入口とがさらに形成されており、前記排気手段により前記排気口から排出される空気と前記流入口から流入する空気との間で熱交換させる熱交換器をさらに備えている。
【0009】
保温箱内を走行する糸条に付着した油剤が保温箱内で加熱されると、加熱された油剤が気化して油煙を発生する。そこで、この煙を除去しようとして、排気手段により排気口から空気とともに煙を排出する。すると、保温箱内の空気が排出されるのにともない、保温箱内の気圧が外部よりも低下するため、保温箱内に流入口から空気が流入する。ここで、保温箱内の空気はヒータにより加熱されて、保温箱内に流入しようとする空気よりも高温になっている。そこで、本発明の糸条加熱装置では、熱交換器により排気口から排出される高温の空気と流入口から流入する低温の空気との間で熱交換させて、加熱された空気を保温箱内に流入させている。これにより、排気手段により保温箱内の空気を排出することによる保温箱内の温度低下が抑制され、保温箱内の保温効率が向上し、糸条を適切な温度に加熱するのに必要なヒータの消費電力を低減することができる。
【0010】
また、前記流入口には、前記保温箱内に強制的に空気を送り込む送気手段が接続されていることが好ましい。
【0011】
これによると、排気手段により保温箱内の空気が排出されるのにともない、保温箱内の気圧が低下した際に、熱交換器の流入口を介して加熱された空気を保温箱内に流入させることができ、保温箱内に例えば糸条の入口などから熱交換器を介さずに冷たい空気が流入するのを抑制することができ、保温箱内の保温効率をさらに向上させることができる。
【0012】
このとき、前記送気手段による前記保温箱への空気の送気量は、前記排気手段による前記保温箱からの空気の排気量以上であることが好ましい。
【0013】
これによると、排気手段により保温箱内から排出される空気の量以上に、送気手段により保温箱内に加熱された空気が流入するため、保温箱内に熱交換器を介さずに冷たい空気が流入するのをより確実に抑制することができ、保温箱内の保温効率を一層向上させることができる。
【0014】
また、前記排気口と前記流入口は、互いに離れて形成されていることが好ましい。
【0015】
これによると、保温箱内からの空気の排出と、保温箱内への空気の流入が離れた位置で行われるため、排気口の周辺で流入口から流入した空気により油煙が拡散することがなく、保温箱内から油煙を効率よく排出させることができる。また、流入口から保温箱内へ流入する空気がすぐに排気口から流出するのを防止することができる。
【0016】
このとき、前記熱交換器は、前記排気口と前記排気手段を接続する排気管と、前記流入口と接続された流入管と、を有しており、前記流入管は、前記排気管に外挿された外管と、前記外管から分岐した分岐管と、を有しており、前記外管は、一端を封止されており、前記分岐管は、前記流入口と接続されていてもよい。
【0017】
これによると、保温箱内から排出され、排気管内を流れる高温の空気により、外管内を流れる低温の空気が加熱される。そして、外管内を流れる間に加熱された空気を分岐管を介して排気口から離れた位置で保温箱内に流入させることができる。
【0018】
そして、前記分岐管は、前記外管の前記一端部から分岐していることが好ましい。
【0019】
これによると、外管内に流入した空気が、分岐管を流れる前に外管内を流れる時間が長くなり、熱交換器による熱交換効率を上げて、より高温に加熱された空気を保温箱内に流入させることができる。
【0020】
また、前記排気口は、前記糸条の入口よりも前記糸条の出口の近くに配置されていてもよい。
【0021】
糸条が走行すると、糸条の周囲に空気の流れ(随伴流)が生じる。そのため、糸条が入口を通って保温箱内に入る際には、外部の冷たい空気が入口を通って保温箱内に流れ込む。また、糸条が出口を通って保温箱内から出る際には、保温箱内の加熱された空気が出口を通って外部に流れ出す。このとき、保温箱の入口よりも出口の近くに、排気手段と接続された排気口を配置することで、出口から随伴流によって煙が外部に流れ出るのを抑制することができる。
【0022】
このとき、前記流入口は、前記糸条の出口よりも前記糸条の入口の近くに配置されており、前記糸条の入口と前記流入口は、前記糸条の入口から入った糸条と前記流入口から流入した空気とが直交するように、または、前記糸条の入口から入った糸条の走行方向と逆向きに傾斜した方向に前記流入口から流入した空気が流れるように形成されていることが好ましい。
【0023】
これによると、流入口から保温箱内に入口を横切って空気が流入するため、走行する糸条により発生した随伴流が入口を通過して、保温箱内に入り込むのを遮断することができる。したがって、保温箱内に入口から外部の冷たい空気が随伴流により入り込むのを抑制し、保温箱内の保温効率をより一層向上させることができる。
【0024】
また、前記糸条送りローラが、前記ヒータを内蔵する加熱ローラであることが好ましい。
【0025】
これによると、糸条送りローラに巻かれた糸条を直接加熱するため、糸条の加熱効率を向上させることができる。また、糸条送りローラと別にヒータを設ける必要がなく、装置の構成が簡単になる。
【発明の効果】
【0026】
熱交換器により排気口から排出される高温の空気と流入口から流入する低温の空気との間で熱交換させて、加熱された空気を保温箱内に流入させている。これにより、排気手段により保温箱内の空気を排出することによる保温箱内の温度低下が抑制され、保温箱内の保温効率が向上し、糸条を適切な温度に加熱するのに必要なヒータの消費電力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態に係る糸製造装置の概略構成図である。
【図2】ローラユニットの斜視図である。
【図3】保温箱及び熱交換器の水平断面を上方から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る糸製造装置の概略構成図である。図1に示すように、糸製造装置1は、紡糸機2、給油ユニット6、2つのローラユニット3、4(糸条加熱装置)、及び、巻取機5などを有している。
【0029】
紡糸機2は、紡糸口金2aから吐出された複数のフィラメントからなる糸条Y(いわゆるマルチフィラメント糸)を下方に紡出する。給油ユニット6は、紡糸機2から紡出されて走行する複数の糸条Yに油剤を付着させる。ローラユニット3、4は、紡糸機2から紡出され、油剤が付着した複数の糸条Yを加熱しつつ延伸して送る。巻取機5は、ローラユニット3、4により延伸されて送られた複数の糸条Yを図示しないボビンに巻き取る。
【0030】
なお、上述した糸製造装置1の各部の構成のうち、紡糸機2及び巻取機5の構成は従来と同様であるのでその詳細な説明を省略し、以下ではローラユニット3、4について詳細に説明する。
【0031】
ローラユニット3、4は、紡糸機2よりも下方に配置されている。図2は、ローラユニットの斜視図である。図3は、保温箱及び熱交換器の水平断面を上方から見た図である。なお、図2においては、2つのローラユニット3、4のうち糸条Yの走行方向上流側にあるローラユニット3を図示している。また、ローラユニット3、4は同様の構造を有するものなので、以下ではローラユニット3を例に挙げてその構造について説明し、ローラユニット4についてはローラユニット3との違いだけを説明する。そして、ローラユニット3、4のどちらについて説明しているのかをわかりやすくするために、ローラユニット4の構成要素には、ローラユニット3の構成要素に付した符号にダッシュをつけた符号(例えば、ゴデットローラ11’、セパレートローラ12’など)を付して説明を行う。
【0032】
図1、図2に示すように、ローラユニット3は、ゴデットローラ11、セパレートローラ12、ローラ11、12を収容する保温箱13、及び、保温箱13の外側に設けられた熱交換器30を有している。保温箱13は、断熱材からなる直方体形状の箱である。また、保温箱13には、開閉自在な扉13aが設けられている。
【0033】
保温箱13内には、ゴデットローラ11及びセパレートローラ12が収容されている。ゴデットローラ11は、保温箱13の扉13aと反対側に配置された、図示しないフレームによって片持ち支持された駆動ローラであり、紡糸機2から送られた複数の糸条Yを引き取る。そして、ゴデットローラ11は、図示しない駆動モータにより駆動されると回転して、巻き掛けられた複数の糸条Yを走行方向下流側に送る。
【0034】
セパレートローラ12は、ゴデットローラ11の上方に配置されており、ゴデットローラ11と同様に、保温箱13の扉13aと反対側に配置された、図示しないフレームに片持ち支持された従動ローラである。ゴデットローラ11により引き取られた複数の糸条Yは、ゴデットローラ11とセパレートローラ12との間で、互いに重なり合わないように所定のピッチごとにずれて複数回巻き付けられている。
【0035】
そして、ゴデットローラ11が回転して、複数の糸条Yが走行することで、糸条Yが巻回されたセパレートローラ12も回転する。セパレートローラ12から送られた複数の糸条Yは、走行方向下流側にあるローラユニット4に送られる。
【0036】
また、ゴデットローラ11は、ヒータ15(図2参照)を内蔵した加熱ローラであり、ゴデットローラ11とセパレートローラ12との間に巻回されて送られる間に糸条Yは加熱される。そして、ゴデットローラ11及びセパレートローラ12が保温箱13内に配置され、扉13aが閉じられることにより、ヒータ15により発生した熱が保温箱13外に逃げ出してしまうのを防止している。なお、セパレートローラ12も、ゴデットローラ11と同様に駆動ローラであってもよいし、加熱ローラであってもよい。
【0037】
保温箱13の上壁23には、ローラ11、12を挟んだ両側の部分に、複数の糸条Yの並び方向とほぼ平行に延びた2つのスリット24a、24b(糸条の入口、糸条の出口)が形成されている。スリット24aは、ローラ11、12への糸掛け時に前面から糸条Yを挿入するために、その扉13a側(保温箱13の開閉口側)の端が開口している。そして、スリット24aは、巻取機5への糸巻き取り時に糸条Yを保温箱13内に入れるための入口となっている。
【0038】
スリット24bは、スリット24aと同様に、ローラ11、12への糸掛け時に前面から糸条Yを挿入するために、その扉13a側の端が開口している。そして、スリット24bは、巻取機5への糸巻き取り時に保温箱13内から糸条Yを出すための出口となっている。
【0039】
また、スリット24a、24bの上記開口は、扉13aを閉じたときに、扉13aにより塞がれるようになっている。
【0040】
また、保温箱13の扉13aと反対側の側壁26には、ローラ11、12を挟んだ両側の部分であって、スリット24a、24bの直下の部分に、流入口27、排気口28がそれぞれ形成されている。流入口27は矩形状をしており、排気口28は円状をしている。
【0041】
図2、図3に示すように、熱交換器30は、例えば、銅やアルミニウムなどの熱伝達効率のよい金属材料からなる、内管31及び内管31に外挿された外管32からなる二重管33と、外管32から分岐した分岐管34と、を有している。内管31は、一端を排気ファン40(排気手段)に接続されており、他端を排気口28に接続されている。外管32は、一端を吸気ファン41(送気手段)に接続されており、他端を封止されている。分岐管34は、外管32の端部側から分岐しており、流入口27と接続されている。外管32と分岐管34は、外周を図示しない断熱材で巻かれている。なお、吸引ファン41は、分岐管34と保温箱13の接続部近傍に設けることも可能である(図3の一点鎖線部で示す部分)。
【0042】
そして、排気ファン40が駆動すると、保温箱13内の空気が内管31内を通って排気される。また、吸気ファン41が駆動すると、外部の空気が外管32内を通った後、分岐管34内を通って保温箱13内に流入する。このとき、熱交換器30では、内管31内を通る空気と外管32内を通る空気とが互いに逆方向に流れる対向流となっており、この2方向に流れる空気の間で熱交換が行われる。これにより、並行流の場合に比べて、熱の伝達効率が高くなっている。なお、吸気ファン41による保温箱13への空気の送気量は、排気ファン40による保温箱13からの空気の排気量以上にしている。好ましくは、送気量と排気量は同じである。吸気ファン41と排気ファン40の送気量と排気量は、ファン駆動モータ容量、配管の径形状、バルブの開閉量などを調整することで、所望の空気流量に設定することができる。
【0043】
ローラユニット4は、ローラユニット3とは上下が逆になった姿勢で配置されている。そして、ローラユニット3、4は、後述するがゴデットローラ11の回転速度が異なっている。
【0044】
以上のような構成を有する糸製造装置1においては、紡糸機2から紡出された複数の糸条Yが、給油ユニット6により油剤が付着された後、まず、スリット24aの開口と反対側(図1の紙面奥側)の端部近傍を通って保温箱13内に入り、ローラユニット3のゴデットローラ11に引き取られる。
【0045】
そして、保温箱13内のゴデットローラ11に引き取られた糸条Yは、ゴデットローラ11とセパレートローラ12との間に複数回巻回された後に、ゴデットローラ11から離れて、スリット24bの開口近傍を通って保温箱13の外部に出て、スリット24a’の開口と反対側(図1の紙面奥側)の端部近傍を通って保温箱13’内に入り、ローラユニット4のゴデットローラ11’に送られる。
【0046】
その後、保温箱13内のゴデットローラ11’に引き取られた糸条Yは、ゴデットローラ11’とセパレートローラ12’との間を複数回巻回された後に、ゴデットローラ11’から離れて、スリット24b’の開口近傍を通って保温箱13’の外部に出て、巻取機5に送られる。
【0047】
これにより、糸条Yは、紡糸機2から巻取機5に向かって、例えば、4000〜6000m/min程度の速度で走行する。このとき、糸条Yは、ヒータ15を内蔵した加熱ローラ11、12の間、及び、同様にヒータ15を内蔵した加熱ローラ11’、12’の間を加熱されながら送られる。さらに、ローラユニット4のゴデットローラ11’は、ローラユニット3のゴデットローラ11よりも回転速度が速くなっており、加熱された糸条Yは、ゴデットローラ11とゴデットローラ11’との間で、両者の回転速度の差に対応した力で延伸される。
【0048】
ここで、保温箱13内で糸条Yとともに油剤が加熱されると、糸条Yに付着した油剤の一部は気化して保温箱13内で油煙が発生する。そこで、保温箱13内で発生した煙を除去するために排気口28から排気しているが、このとき、保温箱13内の高温の空気も煙とともに排出されることになる。そして、保温箱13内の空気が排出されて、保温箱13内の気圧が外部よりも低下することで、保温箱13内にスリット24aや隙間から外部の低温の空気が流入してしまう。そして、保温箱13内の温度が低下してしまう。
【0049】
そこで、本実施形態においては、熱交換器30を設けることで、保温箱13内から煙とともに排出される高温の空気(例えば、100度)と、保温箱13内に流入する外部の低温の空気(例えば、30度)との間で熱交換を行い、加熱された空気(例えば、60度)を保温箱13内に流入させている。これにより、排気ファン40により保温箱13内の空気を排出することによる保温箱13内の温度低下が抑制され、保温箱13内の保温効率が向上し、糸条Yを適切な温度に加熱するのに必要なヒータ15の消費電力を低減することができる。
【0050】
また、吸気ファン41により保温箱13内に流入口27から空気を流入させることで、保温箱13のスリット24a、24bや隙間ではなく、熱交換器30により加熱された空気を優先的に流入させることができる。このとき、排気ファン40により保温箱13内から排出される空気の量以上に、吸気ファン41により保温箱13内に加熱された空気が流入するため、保温箱13内に熱交換器30を介さずに低温の空気が流入するのを抑制することができ、保温箱13内の保温効率を一層向上させることができる。
【0051】
また、排気口28が保温箱13内から糸条Yが出るためのスリット24bの直下に設けられていることで、スリット24bから糸条Yの走行によって生じる随伴流によって煙が外部に流れ出るのを抑制することができる。さらに、流入口27が保温箱13内へ糸条Yを入れるためのスリット24aの直下に設けられていることで、保温箱13内への空気の流入が排気口28から離れた位置で行われるため、排気口28の周辺で流入口27から流入した空気により煙が拡散することがなく、保温箱13内から煙を効率よく排出させることができる。また、保温箱13内に流入する空気がすぐに排気口28から流出するのを防止することができる。加えて、分岐管34が外管32の側壁26寄りから分岐していることで、外管32内に流入した空気が、分岐管34を流れる前に外管32内を流れる時間が長くなり、熱交換器30による熱交換効率を上げて、より高温に加熱された空気を保温箱13内に流入させることができる
【0052】
また、流入口27から保温箱13内にスリット24aを横切って空気が流入するため、走行する糸条Yにより発生した随伴流がスリット24aを通過して、保温箱13内に入り込むのを遮断することができる。したがって、保温箱13内にスリット24aから外部の低温の空気が随伴流により入り込むのを抑制し、保温箱13内の保温効率をより一層向上させることができる。なお、スリット24aと流入口27は、スリット24aから入った糸条Yと流入口27から流入した空気とが直交するように形成され、好ましくは、スリット24aから保温箱13内に入った糸条Yの走行方向と逆向きに傾斜した方向に流入口27から流入した空気が流れるように形成されていれば、随伴流が入り込むのをより効果的に抑制することができる。
【0053】
さらに、ゴデットローラ11がヒータ15を内蔵する加熱ローラであることで、ゴデットローラ11に巻かれた糸条Yを直接加熱するため、糸条Yの加熱効率を向上させることができ、また、この加熱するゴデットローラ11と別にヒータ15を設ける必要がなく、ローラユニット3、4の構成が簡単になる。
【0054】
次に、本実施の形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。ただし、本実施の形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付し、適宜その説明を省略する。
【0055】
本実施形態においては、ローラユニット3のローラ11、12とローラユニット4のローラ11’、12’とがそれぞれ異なる保温箱13、13’内に収容されていたが、1つの保温箱113内に収容されていてもよい。例えば、いわゆる片掛けタイプと称され、複数の加熱ローラを千鳥状に配置し、各加熱ローラへの巻き掛け角度を360度以内にして、上流側の加熱ローラから順にそれぞれ糸条Yを掛けて走行させる構成においても、本発明を適用することができる。
【0056】
また、本実施形態においては、熱交換器30の二重管33の内管31の断面形状は円形であったが、熱交換器230の内管231はいかなる形状であってもよく、伝熱面積が大きくなり、熱交換効率が大きくなるような形状であればよい。
【0057】
さらに、本実施形態においては、熱交換器としては、二重管33を用いたが、従来公知の種々の熱交換器を用いてもよい。例えば、複数枚のプレートを積層して、プレート間に流路を形成して、冷却媒体と加熱媒体をプレートの積層方向に関して交互に流す流路を形成したプレート式の熱交換器であってもよい。
【0058】
また、本実施形態においては、ゴデットローラ11とセパレートローラ12との間に糸条Yを複数回巻回していたが、セパレートローラ12を設けずに、ゴデットローラ11だけに糸条Yを複数回巻回してもよい。
【0059】
さらに、本実施形態においては、内管31が排気ファン40と接続され、外管32が吸気ファン41と接続され、内管31を排気される高温の空気が流れているとともに、外管32及び分岐管34を流入する低温の空気が流れていたが、内管31が吸気ファン41と接続され、外管32が排気ファン40と接続され、外管32及び分岐管34を排気される高温の空気が流れるとともに、内管31を流入する低温の空気が流れてもよい。
【0060】
また、本実施形態においては、複数のフィラメントからなるマルチフィラメント糸に油剤を付着させて加熱延伸した後、巻取機5に巻き取る糸製造装置1に本発明を適用したが、モノフィラメント糸に油剤を付着させて加熱延伸した後、巻取機5に巻き取る糸製造装置に本発明を適用してもよい。さらに、マルチフィラメント糸、モノフィラメント糸に限らず、糸条Yに油剤を付着させずに加熱延伸した後、巻取機5に巻き取る糸製造装置においても、紡出された糸条Yに含まれる不純物が気化して煙が発生するおそれがあるため、本発明を適用してもよい。
【0061】
さらに、本実施形態においては、排気口28や流入口27の数は1つであったが複数であってもよい。そして、排気口28や流入口27を設ける位置は任意の位置であってよい。例えば、排気口を糸条Yの出口のスリット24bの直下に加えて、油煙の発生しやすい加熱されたゴデットローラ11の近傍に設けてもよい。
【0062】
また、本実施形態においては、吸気ファン41により流入口27から強制的に空気を流入させていたが、外管32の一端は吸気ファン41に接続されず、大気開放されていてもよい。この場合でも、保温箱13内から排気口28を介して空気が排出されることで、保温箱13内の気圧が外部よりも低下するため、外管32を介して流入口27から空気は流入される。また、外管32の一端は、加圧ポンプなどの加圧源に接続されていてもよい。
【0063】
さらに、本実施形態においては、吸気ファン41は外管32の端部に接続されていたが、外管32内、分岐管34内及び流入口27のいずれかに設けられていてもよい。
【0064】
また、本実施形態では、糸条Yを加熱しつつ延伸するための、ゴデットローラ及びセパレートローラを保温箱内に備えたローラユニットに本発明を適用した例について説明したが、これには限られず、糸条を加熱して送るための加熱ローラを保温箱内に備えた他の糸条加熱装置に本発明を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 糸製造装置
3、4 ローラユニット
11 ゴデットローラ
12 セパレートローラ
13 保温箱
15 ヒータ
27 流入口
28 排気口
30 熱交換器
Y 糸条


【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡出された糸条を送る糸条送りローラと、
前記糸条送りローラにより送られる糸条を加熱するヒータと、
前記糸条送りローラ及び前記ヒータが収容され、糸条の入口と出口とが形成された保温箱と、を備えており、
前記保温箱には、前記保温箱内の空気を排出する排気手段に接続される排気口と、前記保温箱内に空気を流入させる流入口とがさらに形成されており、
前記排気手段により前記排気口から排出される空気と前記流入口から流入する空気との間で熱交換させる熱交換器をさらに備えていることを特徴とする糸条加熱装置。
【請求項2】
前記流入口には、前記保温箱内に強制的に空気を送り込む送気手段が接続されていることを特徴とする請求項1に記載の糸条加熱装置。
【請求項3】
前記送気手段による前記保温箱への空気の送気量は、前記排気手段による前記保温箱からの空気の排気量以上であることを特徴とする請求項2に記載の糸条加熱装置。
【請求項4】
前記排気口と前記流入口は、互いに離れて形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の糸条加熱装置。
【請求項5】
前記熱交換器は、前記排気口と前記排気手段を接続する排気管と、前記流入口と接続された流入管と、を有しており、
前記流入管は、前記排気管に外挿された外管と、前記外管から分岐した分岐管と、を有しており、
前記外管は、一端を封止されており、
前記分岐管は、前記流入口と接続されていることを特徴とする請求項4に記載の糸条加熱装置。
【請求項6】
前記分岐管は、前記外管の前記一端部から分岐していることを特徴とする請求項5に記載の糸条加熱装置。
【請求項7】
前記排気口は、前記糸条の入口よりも前記糸条の出口の近くに配置されていることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の糸条加熱装置。
【請求項8】
前記流入口は、前記糸条の出口よりも前記糸条の入口の近くに配置されており、
前記糸条の入口と前記流入口は、前記糸条の入口から入った糸条と前記流入口から流入した空気とが直交するように、または、前記糸条の入口から入った糸条の走行方向と逆向きに傾斜した方向に前記流入口から流入した空気が流れるように形成されていることを特徴とする請求項7に記載の糸条加熱装置。
【請求項9】
前記糸条送りローラが、前記ヒータを内蔵する加熱ローラであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の糸条加熱装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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