糸条加熱装置
【課題】糸条の加熱効率をさらに上げることで、糸条を十分に加熱する。
【解決手段】ローラユニット4は、保温箱13内にゴデットローラ11とセパレートローラ12とを有している。そして、複数の糸条Yは、保温箱13内において、ゴデットローラ11とセパレートローラ12との間で互いに重なり合わないように複数回巻回されつつ、ゴデットローラ11により加熱されている。ローラユニット4は、さらに、ゴデットローラ11の糸条Yが巻き掛けられた外周面と隙間をあけて対向して設けられた波板30を有している。この波板30のゴデットローラ11との対向面側には、ゴデットローラ11の周方向に沿って区分された凹部によって画定された複数の空間が形成されている。
【解決手段】ローラユニット4は、保温箱13内にゴデットローラ11とセパレートローラ12とを有している。そして、複数の糸条Yは、保温箱13内において、ゴデットローラ11とセパレートローラ12との間で互いに重なり合わないように複数回巻回されつつ、ゴデットローラ11により加熱されている。ローラユニット4は、さらに、ゴデットローラ11の糸条Yが巻き掛けられた外周面と隙間をあけて対向して設けられた波板30を有している。この波板30のゴデットローラ11との対向面側には、ゴデットローラ11の周方向に沿って区分された凹部によって画定された複数の空間が形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸条を加熱する糸条加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、繊維機械の分野では、例えば、糸条を加熱延伸するときなどに、糸条に加熱処理を施す糸条加熱装置が設けられている。このように、糸条に加熱処理を施す装置として、特許文献1の糸条加熱装置では、加熱ローラとセパレートローラとの間に糸条が複数回巻回されており、加熱ローラから発生した熱でこのローラに巻き掛けられた糸条を加熱している。また、この糸条加熱装置には、加熱ローラの糸条が巻き掛けられた外周面を覆うように、加熱ローラとの対向面が平面形状となった熱輻射板が設けられている。そして、熱輻射板により反射された輻射熱により、加熱ローラと反対側からも糸条を加熱して加熱効率を上げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−278990号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の糸条加熱装置のように、加熱ローラに対して平面形状の熱輻射板を設けて、加熱ローラに巻き掛けられた糸条を、加熱ローラによる直接の伝導に加えてさらに輻射により加熱しても、糸条の高速走行による随伴気流の影響で加熱効率が低下することが問題となっていた。
【0005】
そこで、本発明の目的は、糸条の加熱効率をさらに上げることで、糸条を十分に加熱することができる糸条加熱装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の糸条加熱装置は、糸条を加熱しながら送る加熱ローラと、前記加熱ローラの少なくとも前記糸条が巻き掛けられた外周面と隙間をあけて対向して設けられた第1加熱促進部材と、を備えており、前記第1加熱促進部材の前記加熱ローラとの対向面側には、前記加熱ローラの周方向に沿って区分された複数の空間が形成されている。
【0007】
本発明の糸条加熱装置によると、加熱ローラに巻き掛けられた糸条が走行すると、糸条の周辺に加熱ローラの周方向に沿った随伴流が生じているが、第1加熱促進部材の加熱ローラとの対向面側に加熱ローラの周方向に沿って複数の空間が区分されて形成されていることで、加熱ローラの外周部にて乱流が発生し、加熱ローラに巻き掛けられた糸条への熱の伝達を促進することができる。また、第1加熱促進部材の対向面は加熱ローラを覆っているため、加熱ローラから熱放射された輻射熱を対向面で反射させて、加熱ローラに巻き掛けられた糸条を加熱することができる。これらより、加熱ローラに巻き掛けられた糸条の加熱効率を上げることができ、糸条を十分に加熱することができる。
【0008】
また、前記第1加熱促進部材の前記対向面は、波形形状をしていることが好ましい。
【0009】
これによると、空間を画定する凹部を波形で形成することで、糸条の伝達による加熱と輻射による加熱をどちらも効率よく行うことができる。
【0010】
さらに、前記第1加熱促進部材の前記対向面は、前記糸条の材質によって決まる熱吸収波長の範囲内にピーク波長を有する遠赤外線を放射する材料で遠赤コーティングされていることが好ましい。
【0011】
これによると、加熱ローラに巻き掛けられている糸条の熱吸収波長の範囲内にピーク波長を有する遠赤外線(電磁波)を放射する材料で、第1加熱促進部材の対向面をコーティングしている。この状態で、加熱ローラにより発生した熱で対向面が加熱されると、この対向面から糸条の吸収しやすい波長の遠赤外線が放射されるため、輻射による糸条の加熱効率を上げることができる。
【0012】
加えて、前記第1加熱促進部材は、前記加熱ローラの略全周に設けられていることが好ましい。
【0013】
これによると、加熱ローラから発生した熱が逃げにくくなり、加熱ローラの保温効率を上げることができる。
【0014】
また、前記加熱ローラが収容された保温箱をさらに備えており、前記保温箱には、前記加熱ローラの少なくとも前記糸条が巻き掛けられた外周面と隙間をあけて対向して板部材が取り付けられており、前記板部材の前記加熱ローラとの対向面側に、前記複数の空間が区分されて形成されていることが好ましい。
【0015】
板部材だと、例えば、折り曲げて凹凸を交互に並べたり、プレスで凹みを形成したりすることで、加熱ローラの周方向に沿って区分された複数の空間を簡単に形成することができる。そして、このように区分された複数の空間を簡単に形成できる板部材を、従来から加熱ローラが収容されている保温箱に取り付けるだけで、加熱ローラに巻き掛けられた糸条の加熱効率を上げることができる。
【0016】
また、前記加熱ローラが収容された保温箱をさらに備えており、前記保温箱の内壁面の一部分は、前記加熱ローラの前記糸条が巻き掛けられた外周面と隙間をあけて対向し、その対向対向面側に前記複数の空間が区分されて形成されていてもよい。
【0017】
これによると、保温箱の内面によって形成される保温空間の容積が小さくなり、保温箱内の保温効率を上げることができる。
【0018】
また、前記加熱ローラとの間で、所定のピッチで複数回巻回されており、前記加熱ローラと同じく前記糸条を加熱するセパレートローラと、前記セパレートローラの少なくとも前記糸条が巻き掛けられた外周面と隙間をあけて対向して設けられた第2加熱促進部材と、をさらに備えており、前記第2加熱促進部材の前記セパレートローラとの対向面側には、前記セパレートローラの周方向に沿って区分された複数の空間が形成されていることが好ましい。
【0019】
これによると、セパレートローラに対して第2加熱促進部材を設けることで、加熱ローラに対して第1加熱促進部材を設けた場合と同様に、セパレートローラに巻き掛けられた糸条の加熱効率を上げることができる。
【発明の効果】
【0020】
加熱ローラに巻き掛けられた糸条が走行すると、糸条の周辺に加熱ローラの周方向に沿った随伴流が生じているが、第1加熱促進部材の加熱ローラとの対向面側に加熱ローラの周方向に沿って複数の空間が区分されて形成されていることで、加熱ローラの外周部にて乱流が発生し、加熱ローラに巻き掛けられた糸条への熱の伝達を促進することができる。また、第1加熱促進部材の対向面は加熱ローラを覆っているため、加熱ローラから熱放射された輻射熱を対向面で反射させて、加熱ローラに巻き掛けられた糸条を加熱することができる。これらより、加熱ローラに巻き掛けられた糸条の加熱効率を上げることができ、糸条を十分に加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態に係る糸製造装置の概略構成図である。
【図2】図1のローラユニットの斜視図である。
【図3】保温箱内におけるゴデットローラの側面図である。
【図4】熱伝達の促進について説明するゴデットローラの平面図である。
【図5】輻射について説明するゴデットローラの平面図である。
【図6】変形例1におけるローラユニットの平面図である。
【図7】変形例2におけるローラユニットの平面図である。
【図8】変形例3におけるローラユニットの平面図である。
【図9】変形例4におけるローラユニットの平面図である。
【図10】変形例5におけるローラユニットの平面図である。
【図11】変形例5における板部材の内周面側から見た斜視図である。
【図12】変形例6におけるローラユニットの平面図である。
【図13】変形例7におけるローラユニットの平面図である。
【図14】変形例7における板部材の内周面側から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る糸製造装置の概略構成図である。図1に示すように、糸製造装置1は、紡糸機2、2つのローラユニット3、4(糸条加熱装置)、及び、巻取機5などを有している。
【0023】
紡糸機2は、複数(例えば、24〜32本程度)の糸条Yを図1の紙面垂直方向に並んだ状態で下方に紡出する。ローラユニット3、4は、紡糸機2から紡出された複数の糸条Yを、加熱しつつ延伸する。巻取機5は、ローラユニット3、4により延伸された複数の糸条Yを図示しないボビンに巻き取る。
【0024】
なお、上述した糸製造装置1の各部の構成のうち、紡糸機2及び巻取機5の構成は従来と同様であるので、その詳細な説明を省略し、以下では、ローラユニット3、4について詳細に説明する。
【0025】
ローラユニット3、4は、紡糸機2よりも下方に配置されている。図2は、図1のローラユニットの斜視図である。図3は、保温箱内におけるゴデットローラの側面図である。なお、図2においては、2つのローラユニット3、4のうち糸条Yの走行方向下流側にあるローラユニット4を図示している。また、ローラユニット3、4は同様の構造を有するものなので、以下ではローラユニット4を例に挙げてその構造について説明し、ローラユニット3についてはローラユニット4との違いだけを説明する。そして、ローラユニット3、4のどちらについて説明しているのかをわかりやすくするために、ローラユニット3の構成要素には、ローラユニット4の構成要素に付した符号にダッシュをつけた符号(例えば、ゴデットローラ11’、セパレートローラ12’など)を付して説明を行う。
【0026】
図1〜図3に示すように、ローラユニット4は、ゴデットローラ11、セパレートローラ12、波板30、31(第1、第2加熱促進部材)、及び、これらを収容するための保温箱13を有している。保温箱13は、断熱材からなる略直方体形状の箱である。また、保温箱13には、開閉自在な扉13aが設けられている。
【0027】
保温箱13内には、ゴデットローラ11及びセパレートローラ12が収容されている。ゴデットローラ11は、保温箱13の扉13aと反対側に配置された、図示しないフレームによって片持ち支持された駆動ローラであり、走行方向上流側(図1の左下)にあるローラユニット3から送られた複数の糸条Yを引き取る。そして、ゴデットローラ11は、駆動モータ37(図3参照)により駆動されると回転して、巻き掛けられた複数の糸条Yを走行方向下流側に送る。
【0028】
セパレートローラ12は、ゴデットローラ11の下方に配置されており、ゴデットローラ11と同様に、保温箱13の扉13aと反対側に配置された、図示しないフレームに片持ち支持された従動ローラである。ゴデットローラ11により引き取られた複数の糸条Yは、ゴデットローラ11とセパレートローラ12との間で、互いに重なり合わないように所定のピッチごとにずれて複数回巻回されている。なお、セパレートローラ12は、ゴデットローラ11と同様に駆動ローラであってもよい。
【0029】
そして、ゴデットローラ11が回転して、複数の糸条Yが走行することで、糸条Yが巻回されたセパレートローラ12も回転する。セパレートローラ12から送られた複数の糸条Yは、走行方向下流側(図1の下方)にある巻取機5に送られる。
【0030】
また、ゴデットローラ11は、内部にヒータ15(図2参照)を備えた加熱ローラであり、ゴデットローラ11とセパレートローラ12との間に巻回されて送られる間に糸条Yは加熱される。そして、ゴデットローラ11及びセパレートローラ12が保温箱13内に配置され、扉13aが閉じられることにより、ヒータ15により発生した熱が保温箱13から外部に逃げ出してしまうのを防止している。
【0031】
保温箱13の底壁23には、図2の左右方向に関してローラ11、12を挟んだ両側の部分に、複数の糸条Yの並び方向とほぼ平行に延びた2つのスリット24a、24bが形成されている。スリット24aは、ローラ11、12への糸掛け時に前面から糸条Yを挿入するために、その扉13a側(保温箱13の開閉口側)の端が開口している。そして、スリット24aは、巻取機5への糸巻き取り時に糸条Yを保温箱13内に入れるための入口となっている。
【0032】
スリット24bは、スリット24aと同様に、ローラ11、12への糸掛け時に前面から糸条Yを挿入するために、その扉13a側の端が開口しているが、スリット24aよりも長さが短くなっている。そして、スリット24bは、巻取機5への糸巻き取り時に保温箱13内から糸条Yを出すための出口となっている。
【0033】
また、スリット24a、24bの上記前面開口は、扉13aを閉じたときに、扉13aにより塞がれるようになっている。
【0034】
波板30は、表面が鏡面仕上げされたステンレスからなる板部材が折り曲げられて、2辺からなる三角状の山が連続して並んで凹部と凸部が形成されており、ゴデットローラ11の上方に配置されており、支持部材32を介して保温箱13に固定されている。そして、波板30は、ゴデットローラ11の糸条Yが巻き掛けられた外周面(ゴデットローラ11の略上半分)と糸条Yが走行可能な隙間をあけて対向しており、ゴデットローラ11の周方向に沿って凹凸が交互に並んで配置されている。そして、波板30のゴデットローラ11との対向面(内周面)側には、ゴデットローラ11の周方向に沿って区分された凹部によって画定された複数の空間35(図4参照)が形成されている。
【0035】
また、ゴデットローラ11の軸方向に沿った波板30の長さは、ゴデットローラ11の軸方向長さよりも短くなっており、ゴデットローラ11は波板30よりも保温箱13の開閉口に向かった突出部25を有している。また、波板30のゴデットローラ11と対向している対向面30aは、遠赤コーティング(例えば、セラミックコーティング)されている。
【0036】
波板31は、波板30と同様に、表面が鏡面仕上げされたステンレスからなる板部材が折り曲げられて、2辺からなる三角状の山が連続して並んで凹部と凸部が形成されており、ゴデットローラ11の下方に配置されており、支持部材(図示せず)を介して保温箱13に固定されている。そして、波板31は、ゴデットローラ11とセパレートローラ12の間であって、ゴデットローラ11の糸条Yが巻き掛けられていない外周面(ゴデットローラ11の下部分)と糸条Yが走行可能な隙間をあけて対向しており、ゴデットローラ11の周方向に沿って凹凸が交互に並んで配置されている。そして、波板31のセパレートローラ12との対向面(内周面)側にも、セパレートローラ12の周方向に沿って区分された凹部によって画定された複数の空間が形成されている。
【0037】
また、ゴデットローラ11の軸方向に沿った波板31の長さは、ゴデットローラ11の軸方向長さと同様になっている。また、波板31のゴデットローラ11と対向している対向面31aは、遠赤コーティング(例えば、セラミックコーティング)されている。このようにして、ゴデットローラ11は、ゴデットローラ11に最初に入ってくる糸条Y周辺の空間、最後に出ていく糸条Y周辺の空間、糸条Yを掛ける過程で糸条Yが移動する空間、及び、セパレートローラ12へ糸条Yを架け渡す空間を除いて、波板30、31により略全周を覆われている。
【0038】
ローラユニット3は、ローラユニット4とは上下が逆になった姿勢で配置されている。そして、ローラユニット3、4は、後述するがゴデットローラ11の回転速度が異なっている。
【0039】
以上のような構成を有する糸製造装置1においては、紡糸機2から紡出された複数の糸条Yが、まず、スリット24a’の開口と反対側(図1の紙面奥側)の端部近傍を通って保温箱13’内に入り、ローラユニット3のゴデットローラ11’に引き取られる。
【0040】
そして、保温箱13’内のゴデットローラ11’に引き取られた糸条Yは、ゴデットローラ11’とセパレートローラ12’との間に複数回巻回された後に、ゴデットローラ11’から離れて、スリット24b’の開口近傍を通って保温箱13’の外部に出て、スリット24aの開口と反対側(図1の紙面奥側)の端部近傍を通って保温箱13内に入り、ローラユニット4のゴデットローラ11に送られる。
【0041】
その後、保温箱13内のゴデットローラ11に引き取られた糸条Yは、ゴデットローラ11とセパレートローラ12との間を複数回巻回された後に、ゴデットローラ11から離れて、スリット24bの開口近傍を通って保温箱13の外部に出て、巻取機5に送られる。
【0042】
これにより、糸条Yは、紡糸機2から巻取機5に向かって、例えば、4000〜6000m/min程度の速度で走行する。このとき、糸条Yは、ローラ11、12の間、及び、ローラ11’、12’の間を送られる間に加熱される。さらに、ローラユニット4のゴデットローラ11は、ローラユニット3のゴデットローラ11’よりも回転速度が速くなっており、加熱された糸条Yは、ゴデットローラ11とゴデットローラ11’との間で、両者の回転速度の差に対応した力で延伸される。
【0043】
ところで、保温箱13内において、ゴデットローラ11に巻き掛けられた糸条Yは、ヒータ15により加熱されたゴデットローラ11の外周面からの伝導で直接加熱される。
【0044】
さらに、ゴデットローラ11に巻き掛けられた糸条Yが走行すると、図4に示すように、糸条Yの周辺にゴデットローラ11の周方向に沿った随伴流33が生じる。このとき、ゴデットローラ11の糸条Yが巻き掛けられた外周面に対向して波板30が設けられており、この波板30がゴデットローラ11の周方向に沿って凹凸が交互に並んで連続した波形であることから、この随伴流33が波板30の凹みの壁面(空間35を画定する壁面)に衝突して、ゴデットローラ11の外周部にて乱流34が発生する。
【0045】
すると、この乱流34により、糸条Yとの相対速度が上昇し、対流熱伝達を促進するため、ゴデットローラ11に巻き掛けられた糸条Yへの熱の伝達を促進することができる。また、乱流34がゴデットローラ11の周方向に沿って複数連続して発生するため、ゴデットローラ11に巻き掛けられて走行する糸条Yへの熱の伝達を連続的に促進することができる。
【0046】
また、波板30の対向面30aはゴデットローラ11を覆っているため、図5に示すように、ゴデットローラ11により発生した熱で加熱されて、ゴデットローラ11から熱放射された電磁波36を反射して、輻射によりゴデットローラ11に巻き掛けられた糸条Yを加熱することができ、且つ、ゴデットローラ11の表面からの熱放射を少なくすることができる。
【0047】
このとき、糸条Yの種類にもよるが、一般的に、糸条の熱吸収波長の範囲は、電磁波の一部の範囲に属する遠赤外線の波長範囲内となっている。例えば、糸条YがPETであると、熱吸収波長のピーク波長は約10μmとなっている。そして、一般的に、遠赤外線の波長は約4〜1000μmと言われている。
【0048】
そこで、波板30の対向面30aを、このPETのピーク波長に近い電磁波を特に放射するセラミックの材料でコーティングすることで、ゴデットローラ11により発生した熱で対向面30aが加熱されると、対向面30aからは糸条Yの熱吸収波長に近い波長の電磁波が放射されることになり、この波長の電磁波は糸条Yに吸収されやすく、輻射による糸条Yの加熱効率を上げることができる。すなわち、糸条Yの種類に応じて、対向面30aにコーティングするセラミックの材料を変えて、糸条の熱吸収波長とセラミックの放射する波長を近い波長にすればよい。
【0049】
さらに、波板30は、2辺からなる三角形状の凹部となっているため、上述した糸条Yの伝達による加熱と輻射による加熱をどちらも効率よく行うことができる。
【0050】
また、波板30、31が、ゴデットローラ11からセパレートローラ12へ糸条Yを架け渡す空間を除いて、ゴデットローラ11の全周を覆っていることで、ゴデットローラ11から発生した熱が逃げにくくなり、ゴデットローラ11の保温効率を上げることができ、糸条Yを適正な温度に加熱するのに必要なヒータ15の消費電力を低減することができる。以上のことから、ゴデットローラ11に巻き掛けられた糸条Yの加熱効率を上げることができ、糸条Yを十分に加熱することができる。また、ゴデットローラ11への糸条Yの巻き数を減らして、ゴデットローラ11を小型化することができる。
【0051】
さらに、波板30、31は板部材なので、折り曲げるだけで凹凸が交互に並んだ形状を簡単に形成することができる。そして、このように簡単に形成できる板部材を、従来からゴデットローラ11が収容されている保温箱13に取り付けるだけで、ゴデットローラ11に巻き掛けられた糸条Yの加熱効率を上げることができる。
【0052】
また、一般的に、ゴデットローラ11の回転、及び、糸条Yが走行すると、糸条Yの周辺に随伴流が生じるが、ゴデットローラ11からセパレートローラ12へ糸条Yを架け渡す空間を除いて、波板30、31がゴデットローラ11の全周を覆っていることで、随伴流は波板30、31とゴデットローラ11の間で発生するだけで、波板30、31よりも外側で発生するのを抑制することができる。このように、波板30、31は、糸条Yの加熱効率を上げるのに加えて、随伴流の発生を抑制する防風板としても機能する。これにより、走行する糸条Yの糸揺れを抑制して、糸品質を向上させることができる。
【0053】
また、ゴデットローラ11は波板30よりも保温箱13の開閉口に向かった突出部25を有しているため、ゴデットローラ11及びセパレートローラ12への糸掛けを行う際には、扉13aを開けて、保温箱13内を露出させて、ゴデットローラ11の波板30よりも突出した突出部25に簡単に糸掛けすることができる。なお、波板30と、ゴデットローラ11及びセパレートローラ12との隙間を糸掛け操作面側(前面)で広くすることで、糸掛け作業性を改善することができる。この場合、突出部25を設けることなく、ゴデットローラ11全域に波板30を設けることができる。
【0054】
さらに、仮に、波板30である板部材が、凹凸が並んだ形状ではなく、ゴデットローラ11の外周面に沿った平面形状であると、板部材をゴデットローラ11に近づけすぎると、ゴデットローラ11を回転させて、ゴデットローラ11に巻き掛けられた糸条Yを走行させたときに、板部材とゴデットローラ11の間で負圧が生じて、板部材の対向面に糸条Yが引き寄せられることになり、糸条Yに適正な張力を付与されないおそれがある。
【0055】
そこで、本実施形態では、板部材が、凹凸が並んだ波板30であることで、板部材とゴデットローラ11の間では層流ではなく乱流34が発生することになり、波板30の対向面30aに糸条Yが引き寄せられにくくなり、糸条Yに適正な張力を付与することができる。
【0056】
次に、本実施の形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。ただし、本実施の形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付し、適宜その説明を省略する。なお、以下では、ローラユニット4の構成を変更した例について説明した場合には、ローラユニット3の構成についても同様の変更が可能であると解する。
【0057】
本実施形態においては、セパレートローラ12がヒータを備えた加熱ローラではないため、セパレートローラ12に対しては波板を配置していなかったが、図6に示すように、セパレートローラ12がヒータ40を備えた加熱ローラの場合には、セパレートローラ12に対して、糸条Yが巻き掛けられた外周面に隙間をあけて対向して波板41、及び、糸条Yが巻き掛けられていない外周面に隙間をあけて対向して波板42を設けてもよい(変形例1)。この場合、上述したゴデットローラ11に巻き掛けられた糸条Yと同様に、セパレートローラ12に巻き掛けられた糸条Yの加熱効率を上げることができる。
【0058】
また、本実施形態においては、波板30は板部材であり、保温箱13に取り付けられていたが、図7に示すように、保温箱63の一部の内壁面63aが、ゴデットローラ11の糸条Yが巻き掛けられた外周面と隙間をあけて対向し、その内壁面63aがゴデットローラ11の周方向に沿って凹凸が交互に並んだ凹凸形状であってもよい(変形例2)。この場合、内壁面63aとゴデットローラ11との間には、ゴデットローラ11の周方向に沿って区分された複数の空間65が形成される。そして、保温箱63の内壁面と外壁面の間の空洞には、断熱材64が収容されていることが好ましい。これによると、保温箱63の内面によって形成される保温空間の容積が小さくなり、保温箱63内の保温効率を上げることができる。
【0059】
さらに、本実施形態においては、ゴデットローラ11とセパレートローラ12との間に糸条Yを複数回巻回していたが、セパレートローラ12を設けずに、ゴデットローラ11だけに糸条Yを360度未満の片掛けとしてもよい。
【0060】
また、本実施形態においては、波板30の対向面30aをセラミックコーティングしていたが、セラミックに限らず、糸条Yの種類に合わせて種々の材料により遠赤コーティングしてもよい。
【0061】
さらに、本実施形態においては、ゴデットローラ11の糸条Yが巻き掛けられた外周面を覆う板部材は、ゴデットローラ11の周方向に沿って三角波が連続して並んだ波板30であったが、周方向に沿って凹凸が交互に並んだ形状であればいかなる形状であってもよい(変形例3)。例えば、図8に示すように、板部材66は、底壁と側壁のなす角度が直角となった矩形状の複数の凹部67と、複数の凹部67をゴデットローラ11の周方向に沿って連結する複数の連結部68とが交互に並んだ凹凸形状であってもよい。この場合、板部材66のゴデットローラ11との対向面(内周面)側には、ゴデットローラ11の周方向に沿って区分された複数の空間69が形成される。
【0062】
加えて、本実施形態においては、ゴデットローラ11の周方向に沿って凹凸形状を並べて、ゴデットローラ11の周方向に沿って区分された複数の空間35が形成されていたが、ゴデットローラ11の周方向に沿って複数の空間が区分されて形成されていればいかなる構成であってもよい(変形例4、5、6)。
【0063】
(変形例4)例えば、図9に示すように、板部材70は、平面形状であり、ゴデットローラ11の周方向に沿って円弧状に曲げられたものであり、この板部材70のゴデットローラ11との対向面に、複数のL字型のブラケット71の一辺を溶接する。複数のブラケット71は、溶接されていない一辺がゴデットローラ11の径方向中心を向いて延在しており、ゴデットローラ11の周方向に離間して配置されている。このようにして、板部材70のゴデットローラ11との対向面側に、ブラケット71によって仕切られ、ゴデットローラ11の周方向に沿って区分された複数の空間72を形成していてもよい。
【0064】
(変形例5)例えば、図10、図11に示すように、板部材76は、ゴデットローラ11の周方向に沿って円弧状に曲げられたものであり、例えば内周面77側からのプレスにより、ゴデットローラ11の径方向外側に向かって凹んだ複数の角柱の突起部78が形成されている。複数の突起部78は、三角断面をしており、ゴデットローラ11の軸方向に沿って離間して並ぶとともに、ゴデットローラ11の周方向に沿って離間して並んだマトリックス状に配置されている。このようにして、板部材76の内周面77側に、ゴデットローラ11の周方向に沿って区分され、突起部78の凹みによって画定された複数の空間79を形成していてもよい。
【0065】
(変形例6)例えば、図12に示すように、板部材80は、上述した実施形態のような波形ではなく、頂点を形成する2つの斜辺の長さが互いに異なる三角状の山が連続して並んだノコギリ歯形状となっている。そして、2つの斜辺のうち長さの短い斜辺80aがゴデットローラ11の回転方向(図12では時計周り方向)の下流側に配置されて、ゴデットローラ11の回転中心に向かって延在している。このようにして、板部材80の内周面側に、ゴデットローラ11の周方向に沿って区分された凹部によって画定された複数の空間81を形成していてもよい。これによると、ゴデットローラ11の周方向に沿った随伴流が斜辺80aに衝突して空間81において渦流が生じやすい。
【0066】
さらに、本実施形態においては、直線状の凸部と凹部で形成されていたが、曲線状の凸部と凹部で形成されるものであってもよい(変形例7)。例えば、図13、図14に示すように、板部材85は、ゴデットローラ11の周方向に沿って円弧状に曲げられたものであり、例えば内周面86側からのプレスにより、ゴデットローラ11の径方向外側に向かって凹んだ複数の曲線状の突起部87が形成されている。複数の突起部87は、曲線断面をしており、ゴデットローラ11の軸方向に沿って離間して並ぶとともに、ゴデットローラ11の周方向に沿って離間して並んで配置されている。このようにして、板部材85の内周面86側に、ゴデットローラ11の周方向に沿って区分され、突起部87の凹みによって画定された複数の空間88を形成していてもよい。
【0067】
また、本実施形態においては、ゴデットローラ11とセパレートローラ12は、保温箱13内に収容されていたが、保温箱13を設けなくてもよい。
【0068】
さらに、本実施形態においては、ゴデットローラ11の糸条Yが巻き掛けられた外周面に対して波板30を設けたのに加えて、ゴデットローラ11の糸条Yが巻き掛けられていない外周面に対して波板31を設けていたが、波板31は設けなくてもよい。
【0069】
また、本実施形態では、糸条Yを加熱しつつ延伸するための、ゴデットローラ及びセパレートローラを備えたローラユニットに本発明を適用した例について説明したが、これには限られず、糸条を加熱して送るための加熱ローラを備えた他の糸条加熱装置に本発明を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 糸製造装置
3、4 ローラユニット
11 ゴデットローラ
12 セパレートローラ
15 ヒータ
30、31 波板
30a、31a 対向面
Y 糸条
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸条を加熱する糸条加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、繊維機械の分野では、例えば、糸条を加熱延伸するときなどに、糸条に加熱処理を施す糸条加熱装置が設けられている。このように、糸条に加熱処理を施す装置として、特許文献1の糸条加熱装置では、加熱ローラとセパレートローラとの間に糸条が複数回巻回されており、加熱ローラから発生した熱でこのローラに巻き掛けられた糸条を加熱している。また、この糸条加熱装置には、加熱ローラの糸条が巻き掛けられた外周面を覆うように、加熱ローラとの対向面が平面形状となった熱輻射板が設けられている。そして、熱輻射板により反射された輻射熱により、加熱ローラと反対側からも糸条を加熱して加熱効率を上げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−278990号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の糸条加熱装置のように、加熱ローラに対して平面形状の熱輻射板を設けて、加熱ローラに巻き掛けられた糸条を、加熱ローラによる直接の伝導に加えてさらに輻射により加熱しても、糸条の高速走行による随伴気流の影響で加熱効率が低下することが問題となっていた。
【0005】
そこで、本発明の目的は、糸条の加熱効率をさらに上げることで、糸条を十分に加熱することができる糸条加熱装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の糸条加熱装置は、糸条を加熱しながら送る加熱ローラと、前記加熱ローラの少なくとも前記糸条が巻き掛けられた外周面と隙間をあけて対向して設けられた第1加熱促進部材と、を備えており、前記第1加熱促進部材の前記加熱ローラとの対向面側には、前記加熱ローラの周方向に沿って区分された複数の空間が形成されている。
【0007】
本発明の糸条加熱装置によると、加熱ローラに巻き掛けられた糸条が走行すると、糸条の周辺に加熱ローラの周方向に沿った随伴流が生じているが、第1加熱促進部材の加熱ローラとの対向面側に加熱ローラの周方向に沿って複数の空間が区分されて形成されていることで、加熱ローラの外周部にて乱流が発生し、加熱ローラに巻き掛けられた糸条への熱の伝達を促進することができる。また、第1加熱促進部材の対向面は加熱ローラを覆っているため、加熱ローラから熱放射された輻射熱を対向面で反射させて、加熱ローラに巻き掛けられた糸条を加熱することができる。これらより、加熱ローラに巻き掛けられた糸条の加熱効率を上げることができ、糸条を十分に加熱することができる。
【0008】
また、前記第1加熱促進部材の前記対向面は、波形形状をしていることが好ましい。
【0009】
これによると、空間を画定する凹部を波形で形成することで、糸条の伝達による加熱と輻射による加熱をどちらも効率よく行うことができる。
【0010】
さらに、前記第1加熱促進部材の前記対向面は、前記糸条の材質によって決まる熱吸収波長の範囲内にピーク波長を有する遠赤外線を放射する材料で遠赤コーティングされていることが好ましい。
【0011】
これによると、加熱ローラに巻き掛けられている糸条の熱吸収波長の範囲内にピーク波長を有する遠赤外線(電磁波)を放射する材料で、第1加熱促進部材の対向面をコーティングしている。この状態で、加熱ローラにより発生した熱で対向面が加熱されると、この対向面から糸条の吸収しやすい波長の遠赤外線が放射されるため、輻射による糸条の加熱効率を上げることができる。
【0012】
加えて、前記第1加熱促進部材は、前記加熱ローラの略全周に設けられていることが好ましい。
【0013】
これによると、加熱ローラから発生した熱が逃げにくくなり、加熱ローラの保温効率を上げることができる。
【0014】
また、前記加熱ローラが収容された保温箱をさらに備えており、前記保温箱には、前記加熱ローラの少なくとも前記糸条が巻き掛けられた外周面と隙間をあけて対向して板部材が取り付けられており、前記板部材の前記加熱ローラとの対向面側に、前記複数の空間が区分されて形成されていることが好ましい。
【0015】
板部材だと、例えば、折り曲げて凹凸を交互に並べたり、プレスで凹みを形成したりすることで、加熱ローラの周方向に沿って区分された複数の空間を簡単に形成することができる。そして、このように区分された複数の空間を簡単に形成できる板部材を、従来から加熱ローラが収容されている保温箱に取り付けるだけで、加熱ローラに巻き掛けられた糸条の加熱効率を上げることができる。
【0016】
また、前記加熱ローラが収容された保温箱をさらに備えており、前記保温箱の内壁面の一部分は、前記加熱ローラの前記糸条が巻き掛けられた外周面と隙間をあけて対向し、その対向対向面側に前記複数の空間が区分されて形成されていてもよい。
【0017】
これによると、保温箱の内面によって形成される保温空間の容積が小さくなり、保温箱内の保温効率を上げることができる。
【0018】
また、前記加熱ローラとの間で、所定のピッチで複数回巻回されており、前記加熱ローラと同じく前記糸条を加熱するセパレートローラと、前記セパレートローラの少なくとも前記糸条が巻き掛けられた外周面と隙間をあけて対向して設けられた第2加熱促進部材と、をさらに備えており、前記第2加熱促進部材の前記セパレートローラとの対向面側には、前記セパレートローラの周方向に沿って区分された複数の空間が形成されていることが好ましい。
【0019】
これによると、セパレートローラに対して第2加熱促進部材を設けることで、加熱ローラに対して第1加熱促進部材を設けた場合と同様に、セパレートローラに巻き掛けられた糸条の加熱効率を上げることができる。
【発明の効果】
【0020】
加熱ローラに巻き掛けられた糸条が走行すると、糸条の周辺に加熱ローラの周方向に沿った随伴流が生じているが、第1加熱促進部材の加熱ローラとの対向面側に加熱ローラの周方向に沿って複数の空間が区分されて形成されていることで、加熱ローラの外周部にて乱流が発生し、加熱ローラに巻き掛けられた糸条への熱の伝達を促進することができる。また、第1加熱促進部材の対向面は加熱ローラを覆っているため、加熱ローラから熱放射された輻射熱を対向面で反射させて、加熱ローラに巻き掛けられた糸条を加熱することができる。これらより、加熱ローラに巻き掛けられた糸条の加熱効率を上げることができ、糸条を十分に加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態に係る糸製造装置の概略構成図である。
【図2】図1のローラユニットの斜視図である。
【図3】保温箱内におけるゴデットローラの側面図である。
【図4】熱伝達の促進について説明するゴデットローラの平面図である。
【図5】輻射について説明するゴデットローラの平面図である。
【図6】変形例1におけるローラユニットの平面図である。
【図7】変形例2におけるローラユニットの平面図である。
【図8】変形例3におけるローラユニットの平面図である。
【図9】変形例4におけるローラユニットの平面図である。
【図10】変形例5におけるローラユニットの平面図である。
【図11】変形例5における板部材の内周面側から見た斜視図である。
【図12】変形例6におけるローラユニットの平面図である。
【図13】変形例7におけるローラユニットの平面図である。
【図14】変形例7における板部材の内周面側から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る糸製造装置の概略構成図である。図1に示すように、糸製造装置1は、紡糸機2、2つのローラユニット3、4(糸条加熱装置)、及び、巻取機5などを有している。
【0023】
紡糸機2は、複数(例えば、24〜32本程度)の糸条Yを図1の紙面垂直方向に並んだ状態で下方に紡出する。ローラユニット3、4は、紡糸機2から紡出された複数の糸条Yを、加熱しつつ延伸する。巻取機5は、ローラユニット3、4により延伸された複数の糸条Yを図示しないボビンに巻き取る。
【0024】
なお、上述した糸製造装置1の各部の構成のうち、紡糸機2及び巻取機5の構成は従来と同様であるので、その詳細な説明を省略し、以下では、ローラユニット3、4について詳細に説明する。
【0025】
ローラユニット3、4は、紡糸機2よりも下方に配置されている。図2は、図1のローラユニットの斜視図である。図3は、保温箱内におけるゴデットローラの側面図である。なお、図2においては、2つのローラユニット3、4のうち糸条Yの走行方向下流側にあるローラユニット4を図示している。また、ローラユニット3、4は同様の構造を有するものなので、以下ではローラユニット4を例に挙げてその構造について説明し、ローラユニット3についてはローラユニット4との違いだけを説明する。そして、ローラユニット3、4のどちらについて説明しているのかをわかりやすくするために、ローラユニット3の構成要素には、ローラユニット4の構成要素に付した符号にダッシュをつけた符号(例えば、ゴデットローラ11’、セパレートローラ12’など)を付して説明を行う。
【0026】
図1〜図3に示すように、ローラユニット4は、ゴデットローラ11、セパレートローラ12、波板30、31(第1、第2加熱促進部材)、及び、これらを収容するための保温箱13を有している。保温箱13は、断熱材からなる略直方体形状の箱である。また、保温箱13には、開閉自在な扉13aが設けられている。
【0027】
保温箱13内には、ゴデットローラ11及びセパレートローラ12が収容されている。ゴデットローラ11は、保温箱13の扉13aと反対側に配置された、図示しないフレームによって片持ち支持された駆動ローラであり、走行方向上流側(図1の左下)にあるローラユニット3から送られた複数の糸条Yを引き取る。そして、ゴデットローラ11は、駆動モータ37(図3参照)により駆動されると回転して、巻き掛けられた複数の糸条Yを走行方向下流側に送る。
【0028】
セパレートローラ12は、ゴデットローラ11の下方に配置されており、ゴデットローラ11と同様に、保温箱13の扉13aと反対側に配置された、図示しないフレームに片持ち支持された従動ローラである。ゴデットローラ11により引き取られた複数の糸条Yは、ゴデットローラ11とセパレートローラ12との間で、互いに重なり合わないように所定のピッチごとにずれて複数回巻回されている。なお、セパレートローラ12は、ゴデットローラ11と同様に駆動ローラであってもよい。
【0029】
そして、ゴデットローラ11が回転して、複数の糸条Yが走行することで、糸条Yが巻回されたセパレートローラ12も回転する。セパレートローラ12から送られた複数の糸条Yは、走行方向下流側(図1の下方)にある巻取機5に送られる。
【0030】
また、ゴデットローラ11は、内部にヒータ15(図2参照)を備えた加熱ローラであり、ゴデットローラ11とセパレートローラ12との間に巻回されて送られる間に糸条Yは加熱される。そして、ゴデットローラ11及びセパレートローラ12が保温箱13内に配置され、扉13aが閉じられることにより、ヒータ15により発生した熱が保温箱13から外部に逃げ出してしまうのを防止している。
【0031】
保温箱13の底壁23には、図2の左右方向に関してローラ11、12を挟んだ両側の部分に、複数の糸条Yの並び方向とほぼ平行に延びた2つのスリット24a、24bが形成されている。スリット24aは、ローラ11、12への糸掛け時に前面から糸条Yを挿入するために、その扉13a側(保温箱13の開閉口側)の端が開口している。そして、スリット24aは、巻取機5への糸巻き取り時に糸条Yを保温箱13内に入れるための入口となっている。
【0032】
スリット24bは、スリット24aと同様に、ローラ11、12への糸掛け時に前面から糸条Yを挿入するために、その扉13a側の端が開口しているが、スリット24aよりも長さが短くなっている。そして、スリット24bは、巻取機5への糸巻き取り時に保温箱13内から糸条Yを出すための出口となっている。
【0033】
また、スリット24a、24bの上記前面開口は、扉13aを閉じたときに、扉13aにより塞がれるようになっている。
【0034】
波板30は、表面が鏡面仕上げされたステンレスからなる板部材が折り曲げられて、2辺からなる三角状の山が連続して並んで凹部と凸部が形成されており、ゴデットローラ11の上方に配置されており、支持部材32を介して保温箱13に固定されている。そして、波板30は、ゴデットローラ11の糸条Yが巻き掛けられた外周面(ゴデットローラ11の略上半分)と糸条Yが走行可能な隙間をあけて対向しており、ゴデットローラ11の周方向に沿って凹凸が交互に並んで配置されている。そして、波板30のゴデットローラ11との対向面(内周面)側には、ゴデットローラ11の周方向に沿って区分された凹部によって画定された複数の空間35(図4参照)が形成されている。
【0035】
また、ゴデットローラ11の軸方向に沿った波板30の長さは、ゴデットローラ11の軸方向長さよりも短くなっており、ゴデットローラ11は波板30よりも保温箱13の開閉口に向かった突出部25を有している。また、波板30のゴデットローラ11と対向している対向面30aは、遠赤コーティング(例えば、セラミックコーティング)されている。
【0036】
波板31は、波板30と同様に、表面が鏡面仕上げされたステンレスからなる板部材が折り曲げられて、2辺からなる三角状の山が連続して並んで凹部と凸部が形成されており、ゴデットローラ11の下方に配置されており、支持部材(図示せず)を介して保温箱13に固定されている。そして、波板31は、ゴデットローラ11とセパレートローラ12の間であって、ゴデットローラ11の糸条Yが巻き掛けられていない外周面(ゴデットローラ11の下部分)と糸条Yが走行可能な隙間をあけて対向しており、ゴデットローラ11の周方向に沿って凹凸が交互に並んで配置されている。そして、波板31のセパレートローラ12との対向面(内周面)側にも、セパレートローラ12の周方向に沿って区分された凹部によって画定された複数の空間が形成されている。
【0037】
また、ゴデットローラ11の軸方向に沿った波板31の長さは、ゴデットローラ11の軸方向長さと同様になっている。また、波板31のゴデットローラ11と対向している対向面31aは、遠赤コーティング(例えば、セラミックコーティング)されている。このようにして、ゴデットローラ11は、ゴデットローラ11に最初に入ってくる糸条Y周辺の空間、最後に出ていく糸条Y周辺の空間、糸条Yを掛ける過程で糸条Yが移動する空間、及び、セパレートローラ12へ糸条Yを架け渡す空間を除いて、波板30、31により略全周を覆われている。
【0038】
ローラユニット3は、ローラユニット4とは上下が逆になった姿勢で配置されている。そして、ローラユニット3、4は、後述するがゴデットローラ11の回転速度が異なっている。
【0039】
以上のような構成を有する糸製造装置1においては、紡糸機2から紡出された複数の糸条Yが、まず、スリット24a’の開口と反対側(図1の紙面奥側)の端部近傍を通って保温箱13’内に入り、ローラユニット3のゴデットローラ11’に引き取られる。
【0040】
そして、保温箱13’内のゴデットローラ11’に引き取られた糸条Yは、ゴデットローラ11’とセパレートローラ12’との間に複数回巻回された後に、ゴデットローラ11’から離れて、スリット24b’の開口近傍を通って保温箱13’の外部に出て、スリット24aの開口と反対側(図1の紙面奥側)の端部近傍を通って保温箱13内に入り、ローラユニット4のゴデットローラ11に送られる。
【0041】
その後、保温箱13内のゴデットローラ11に引き取られた糸条Yは、ゴデットローラ11とセパレートローラ12との間を複数回巻回された後に、ゴデットローラ11から離れて、スリット24bの開口近傍を通って保温箱13の外部に出て、巻取機5に送られる。
【0042】
これにより、糸条Yは、紡糸機2から巻取機5に向かって、例えば、4000〜6000m/min程度の速度で走行する。このとき、糸条Yは、ローラ11、12の間、及び、ローラ11’、12’の間を送られる間に加熱される。さらに、ローラユニット4のゴデットローラ11は、ローラユニット3のゴデットローラ11’よりも回転速度が速くなっており、加熱された糸条Yは、ゴデットローラ11とゴデットローラ11’との間で、両者の回転速度の差に対応した力で延伸される。
【0043】
ところで、保温箱13内において、ゴデットローラ11に巻き掛けられた糸条Yは、ヒータ15により加熱されたゴデットローラ11の外周面からの伝導で直接加熱される。
【0044】
さらに、ゴデットローラ11に巻き掛けられた糸条Yが走行すると、図4に示すように、糸条Yの周辺にゴデットローラ11の周方向に沿った随伴流33が生じる。このとき、ゴデットローラ11の糸条Yが巻き掛けられた外周面に対向して波板30が設けられており、この波板30がゴデットローラ11の周方向に沿って凹凸が交互に並んで連続した波形であることから、この随伴流33が波板30の凹みの壁面(空間35を画定する壁面)に衝突して、ゴデットローラ11の外周部にて乱流34が発生する。
【0045】
すると、この乱流34により、糸条Yとの相対速度が上昇し、対流熱伝達を促進するため、ゴデットローラ11に巻き掛けられた糸条Yへの熱の伝達を促進することができる。また、乱流34がゴデットローラ11の周方向に沿って複数連続して発生するため、ゴデットローラ11に巻き掛けられて走行する糸条Yへの熱の伝達を連続的に促進することができる。
【0046】
また、波板30の対向面30aはゴデットローラ11を覆っているため、図5に示すように、ゴデットローラ11により発生した熱で加熱されて、ゴデットローラ11から熱放射された電磁波36を反射して、輻射によりゴデットローラ11に巻き掛けられた糸条Yを加熱することができ、且つ、ゴデットローラ11の表面からの熱放射を少なくすることができる。
【0047】
このとき、糸条Yの種類にもよるが、一般的に、糸条の熱吸収波長の範囲は、電磁波の一部の範囲に属する遠赤外線の波長範囲内となっている。例えば、糸条YがPETであると、熱吸収波長のピーク波長は約10μmとなっている。そして、一般的に、遠赤外線の波長は約4〜1000μmと言われている。
【0048】
そこで、波板30の対向面30aを、このPETのピーク波長に近い電磁波を特に放射するセラミックの材料でコーティングすることで、ゴデットローラ11により発生した熱で対向面30aが加熱されると、対向面30aからは糸条Yの熱吸収波長に近い波長の電磁波が放射されることになり、この波長の電磁波は糸条Yに吸収されやすく、輻射による糸条Yの加熱効率を上げることができる。すなわち、糸条Yの種類に応じて、対向面30aにコーティングするセラミックの材料を変えて、糸条の熱吸収波長とセラミックの放射する波長を近い波長にすればよい。
【0049】
さらに、波板30は、2辺からなる三角形状の凹部となっているため、上述した糸条Yの伝達による加熱と輻射による加熱をどちらも効率よく行うことができる。
【0050】
また、波板30、31が、ゴデットローラ11からセパレートローラ12へ糸条Yを架け渡す空間を除いて、ゴデットローラ11の全周を覆っていることで、ゴデットローラ11から発生した熱が逃げにくくなり、ゴデットローラ11の保温効率を上げることができ、糸条Yを適正な温度に加熱するのに必要なヒータ15の消費電力を低減することができる。以上のことから、ゴデットローラ11に巻き掛けられた糸条Yの加熱効率を上げることができ、糸条Yを十分に加熱することができる。また、ゴデットローラ11への糸条Yの巻き数を減らして、ゴデットローラ11を小型化することができる。
【0051】
さらに、波板30、31は板部材なので、折り曲げるだけで凹凸が交互に並んだ形状を簡単に形成することができる。そして、このように簡単に形成できる板部材を、従来からゴデットローラ11が収容されている保温箱13に取り付けるだけで、ゴデットローラ11に巻き掛けられた糸条Yの加熱効率を上げることができる。
【0052】
また、一般的に、ゴデットローラ11の回転、及び、糸条Yが走行すると、糸条Yの周辺に随伴流が生じるが、ゴデットローラ11からセパレートローラ12へ糸条Yを架け渡す空間を除いて、波板30、31がゴデットローラ11の全周を覆っていることで、随伴流は波板30、31とゴデットローラ11の間で発生するだけで、波板30、31よりも外側で発生するのを抑制することができる。このように、波板30、31は、糸条Yの加熱効率を上げるのに加えて、随伴流の発生を抑制する防風板としても機能する。これにより、走行する糸条Yの糸揺れを抑制して、糸品質を向上させることができる。
【0053】
また、ゴデットローラ11は波板30よりも保温箱13の開閉口に向かった突出部25を有しているため、ゴデットローラ11及びセパレートローラ12への糸掛けを行う際には、扉13aを開けて、保温箱13内を露出させて、ゴデットローラ11の波板30よりも突出した突出部25に簡単に糸掛けすることができる。なお、波板30と、ゴデットローラ11及びセパレートローラ12との隙間を糸掛け操作面側(前面)で広くすることで、糸掛け作業性を改善することができる。この場合、突出部25を設けることなく、ゴデットローラ11全域に波板30を設けることができる。
【0054】
さらに、仮に、波板30である板部材が、凹凸が並んだ形状ではなく、ゴデットローラ11の外周面に沿った平面形状であると、板部材をゴデットローラ11に近づけすぎると、ゴデットローラ11を回転させて、ゴデットローラ11に巻き掛けられた糸条Yを走行させたときに、板部材とゴデットローラ11の間で負圧が生じて、板部材の対向面に糸条Yが引き寄せられることになり、糸条Yに適正な張力を付与されないおそれがある。
【0055】
そこで、本実施形態では、板部材が、凹凸が並んだ波板30であることで、板部材とゴデットローラ11の間では層流ではなく乱流34が発生することになり、波板30の対向面30aに糸条Yが引き寄せられにくくなり、糸条Yに適正な張力を付与することができる。
【0056】
次に、本実施の形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。ただし、本実施の形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付し、適宜その説明を省略する。なお、以下では、ローラユニット4の構成を変更した例について説明した場合には、ローラユニット3の構成についても同様の変更が可能であると解する。
【0057】
本実施形態においては、セパレートローラ12がヒータを備えた加熱ローラではないため、セパレートローラ12に対しては波板を配置していなかったが、図6に示すように、セパレートローラ12がヒータ40を備えた加熱ローラの場合には、セパレートローラ12に対して、糸条Yが巻き掛けられた外周面に隙間をあけて対向して波板41、及び、糸条Yが巻き掛けられていない外周面に隙間をあけて対向して波板42を設けてもよい(変形例1)。この場合、上述したゴデットローラ11に巻き掛けられた糸条Yと同様に、セパレートローラ12に巻き掛けられた糸条Yの加熱効率を上げることができる。
【0058】
また、本実施形態においては、波板30は板部材であり、保温箱13に取り付けられていたが、図7に示すように、保温箱63の一部の内壁面63aが、ゴデットローラ11の糸条Yが巻き掛けられた外周面と隙間をあけて対向し、その内壁面63aがゴデットローラ11の周方向に沿って凹凸が交互に並んだ凹凸形状であってもよい(変形例2)。この場合、内壁面63aとゴデットローラ11との間には、ゴデットローラ11の周方向に沿って区分された複数の空間65が形成される。そして、保温箱63の内壁面と外壁面の間の空洞には、断熱材64が収容されていることが好ましい。これによると、保温箱63の内面によって形成される保温空間の容積が小さくなり、保温箱63内の保温効率を上げることができる。
【0059】
さらに、本実施形態においては、ゴデットローラ11とセパレートローラ12との間に糸条Yを複数回巻回していたが、セパレートローラ12を設けずに、ゴデットローラ11だけに糸条Yを360度未満の片掛けとしてもよい。
【0060】
また、本実施形態においては、波板30の対向面30aをセラミックコーティングしていたが、セラミックに限らず、糸条Yの種類に合わせて種々の材料により遠赤コーティングしてもよい。
【0061】
さらに、本実施形態においては、ゴデットローラ11の糸条Yが巻き掛けられた外周面を覆う板部材は、ゴデットローラ11の周方向に沿って三角波が連続して並んだ波板30であったが、周方向に沿って凹凸が交互に並んだ形状であればいかなる形状であってもよい(変形例3)。例えば、図8に示すように、板部材66は、底壁と側壁のなす角度が直角となった矩形状の複数の凹部67と、複数の凹部67をゴデットローラ11の周方向に沿って連結する複数の連結部68とが交互に並んだ凹凸形状であってもよい。この場合、板部材66のゴデットローラ11との対向面(内周面)側には、ゴデットローラ11の周方向に沿って区分された複数の空間69が形成される。
【0062】
加えて、本実施形態においては、ゴデットローラ11の周方向に沿って凹凸形状を並べて、ゴデットローラ11の周方向に沿って区分された複数の空間35が形成されていたが、ゴデットローラ11の周方向に沿って複数の空間が区分されて形成されていればいかなる構成であってもよい(変形例4、5、6)。
【0063】
(変形例4)例えば、図9に示すように、板部材70は、平面形状であり、ゴデットローラ11の周方向に沿って円弧状に曲げられたものであり、この板部材70のゴデットローラ11との対向面に、複数のL字型のブラケット71の一辺を溶接する。複数のブラケット71は、溶接されていない一辺がゴデットローラ11の径方向中心を向いて延在しており、ゴデットローラ11の周方向に離間して配置されている。このようにして、板部材70のゴデットローラ11との対向面側に、ブラケット71によって仕切られ、ゴデットローラ11の周方向に沿って区分された複数の空間72を形成していてもよい。
【0064】
(変形例5)例えば、図10、図11に示すように、板部材76は、ゴデットローラ11の周方向に沿って円弧状に曲げられたものであり、例えば内周面77側からのプレスにより、ゴデットローラ11の径方向外側に向かって凹んだ複数の角柱の突起部78が形成されている。複数の突起部78は、三角断面をしており、ゴデットローラ11の軸方向に沿って離間して並ぶとともに、ゴデットローラ11の周方向に沿って離間して並んだマトリックス状に配置されている。このようにして、板部材76の内周面77側に、ゴデットローラ11の周方向に沿って区分され、突起部78の凹みによって画定された複数の空間79を形成していてもよい。
【0065】
(変形例6)例えば、図12に示すように、板部材80は、上述した実施形態のような波形ではなく、頂点を形成する2つの斜辺の長さが互いに異なる三角状の山が連続して並んだノコギリ歯形状となっている。そして、2つの斜辺のうち長さの短い斜辺80aがゴデットローラ11の回転方向(図12では時計周り方向)の下流側に配置されて、ゴデットローラ11の回転中心に向かって延在している。このようにして、板部材80の内周面側に、ゴデットローラ11の周方向に沿って区分された凹部によって画定された複数の空間81を形成していてもよい。これによると、ゴデットローラ11の周方向に沿った随伴流が斜辺80aに衝突して空間81において渦流が生じやすい。
【0066】
さらに、本実施形態においては、直線状の凸部と凹部で形成されていたが、曲線状の凸部と凹部で形成されるものであってもよい(変形例7)。例えば、図13、図14に示すように、板部材85は、ゴデットローラ11の周方向に沿って円弧状に曲げられたものであり、例えば内周面86側からのプレスにより、ゴデットローラ11の径方向外側に向かって凹んだ複数の曲線状の突起部87が形成されている。複数の突起部87は、曲線断面をしており、ゴデットローラ11の軸方向に沿って離間して並ぶとともに、ゴデットローラ11の周方向に沿って離間して並んで配置されている。このようにして、板部材85の内周面86側に、ゴデットローラ11の周方向に沿って区分され、突起部87の凹みによって画定された複数の空間88を形成していてもよい。
【0067】
また、本実施形態においては、ゴデットローラ11とセパレートローラ12は、保温箱13内に収容されていたが、保温箱13を設けなくてもよい。
【0068】
さらに、本実施形態においては、ゴデットローラ11の糸条Yが巻き掛けられた外周面に対して波板30を設けたのに加えて、ゴデットローラ11の糸条Yが巻き掛けられていない外周面に対して波板31を設けていたが、波板31は設けなくてもよい。
【0069】
また、本実施形態では、糸条Yを加熱しつつ延伸するための、ゴデットローラ及びセパレートローラを備えたローラユニットに本発明を適用した例について説明したが、これには限られず、糸条を加熱して送るための加熱ローラを備えた他の糸条加熱装置に本発明を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 糸製造装置
3、4 ローラユニット
11 ゴデットローラ
12 セパレートローラ
15 ヒータ
30、31 波板
30a、31a 対向面
Y 糸条
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸条を加熱しながら送る加熱ローラと、
前記加熱ローラの少なくとも前記糸条が巻き掛けられた外周面と隙間をあけて対向して設けられた第1加熱促進部材と、を備えており、
前記第1加熱促進部材の前記加熱ローラとの対向面側には、前記加熱ローラの周方向に沿って区分された複数の空間が形成されていることを特徴とする糸条加熱装置。
【請求項2】
前記第1加熱促進部材の前記対向面は、波形形状をしていることを特徴とする請求項1に記載の糸条加熱装置。
【請求項3】
前記第1加熱促進部材の前記対向面は、前記糸条の材質によって決まる熱吸収波長の範囲内にピーク波長を有する遠赤外線を放射する材料で遠赤コーティングされていることを特徴とする請求項1または2に記載の糸条加熱装置。
【請求項4】
前記第1加熱促進部材は、前記加熱ローラの略全周に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の糸条加熱装置。
【請求項5】
前記加熱ローラが収容された保温箱をさらに備えており、
前記保温箱には、前記加熱ローラの少なくとも前記糸条が巻き掛けられた外周面と隙間をあけて対向して板部材が取り付けられており、
前記板部材の前記加熱ローラとの対向面側に、前記複数の空間が区分されて形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の糸条加熱装置。
【請求項6】
前記加熱ローラが収容された保温箱をさらに備えており、
前記保温箱の内壁面の一部分は、前記加熱ローラの前記糸条が巻き掛けられた外周面と隙間をあけて対向し、その対向面側に前記複数の空間が区分されて形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の糸条加熱装置。
【請求項7】
前記加熱ローラとの間で、所定のピッチで複数回巻回されており、前記加熱ローラと同じく前記糸条を加熱するセパレートローラと、
前記セパレートローラの少なくとも前記糸条が巻き掛けられた外周面と隙間をあけて対向して設けられた第2加熱促進部材と、をさらに備えており、
前記第2加熱促進部材の前記セパレートローラとの対向面側には、前記セパレートローラの周方向に沿って区分された複数の空間が形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の糸条加熱装置。
【請求項1】
糸条を加熱しながら送る加熱ローラと、
前記加熱ローラの少なくとも前記糸条が巻き掛けられた外周面と隙間をあけて対向して設けられた第1加熱促進部材と、を備えており、
前記第1加熱促進部材の前記加熱ローラとの対向面側には、前記加熱ローラの周方向に沿って区分された複数の空間が形成されていることを特徴とする糸条加熱装置。
【請求項2】
前記第1加熱促進部材の前記対向面は、波形形状をしていることを特徴とする請求項1に記載の糸条加熱装置。
【請求項3】
前記第1加熱促進部材の前記対向面は、前記糸条の材質によって決まる熱吸収波長の範囲内にピーク波長を有する遠赤外線を放射する材料で遠赤コーティングされていることを特徴とする請求項1または2に記載の糸条加熱装置。
【請求項4】
前記第1加熱促進部材は、前記加熱ローラの略全周に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の糸条加熱装置。
【請求項5】
前記加熱ローラが収容された保温箱をさらに備えており、
前記保温箱には、前記加熱ローラの少なくとも前記糸条が巻き掛けられた外周面と隙間をあけて対向して板部材が取り付けられており、
前記板部材の前記加熱ローラとの対向面側に、前記複数の空間が区分されて形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の糸条加熱装置。
【請求項6】
前記加熱ローラが収容された保温箱をさらに備えており、
前記保温箱の内壁面の一部分は、前記加熱ローラの前記糸条が巻き掛けられた外周面と隙間をあけて対向し、その対向面側に前記複数の空間が区分されて形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の糸条加熱装置。
【請求項7】
前記加熱ローラとの間で、所定のピッチで複数回巻回されており、前記加熱ローラと同じく前記糸条を加熱するセパレートローラと、
前記セパレートローラの少なくとも前記糸条が巻き掛けられた外周面と隙間をあけて対向して設けられた第2加熱促進部材と、をさらに備えており、
前記第2加熱促進部材の前記セパレートローラとの対向面側には、前記セパレートローラの周方向に沿って区分された複数の空間が形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の糸条加熱装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−229504(P2012−229504A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98122(P2011−98122)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(502455511)TMTマシナリー株式会社 (91)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(502455511)TMTマシナリー株式会社 (91)
【Fターム(参考)】
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