説明

糸条

【課題】本発明は、より伸度が小さく、機械的強度がより大きく且つ耐摩耗性、耐切削性等がより優れており、比重も自由に変更可能な、釣糸として好適に使用できる糸条を提供する。
【解決手段】重量平均分子量20万以上の超高分子量ポリエチレンフィラメントよりなる芯糸と、その周囲を被覆する、重量平均分子量20万以上の超高分子量ポリエチレンよりなる被覆層を含む糸状体が、該超高分子量ポリエチレンの融点以上の温度で加熱延伸されてなることを特徴とする糸条。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸度が小さく、機械的強度が大きく且つ耐摩耗性、耐切削性等が優れ、釣糸として好適に使用できる糸条に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、釣りの漁法が高度化するにつれて、釣糸に対してもより一層の高性能化が求められている。かかる高性能化の一つとして、低伸度化が挙げられる。伸度が小さいほど魚信をより的確にとられることができ、それは直接釣果に反映するためである。しかし、糸条の伸度を低くすると、耐磨耗性、耐切削性等が低下するという問題がある。即ち、伸度を低下させるということは、フィブリルの発生を惹起させる結果となるため耐磨耗性、耐切削性等が低下するのである。
【0003】
又、従来の釣糸としては、素材が持つ固有の比重を有する釣糸が存在するにすぎなかった。これに対し、素材が有する固有の比重に限定されることなく、天候や潮流などの変化に応じて、釣糸の比重を微妙に変えたい、そして釣糸の比重が微妙に異なる釣糸を備えたいという市場の要求があった。
【0004】
これらの要求を満たす釣糸として、従来、伸度の低い釣糸として、分子量20万以上の超高分子量ポリエチレンフィラメントを少なくとも含む組紐であり、組紐を構成するフィラメントが超高分子量ポリエチレンフィラメントの融点よりも低融点である熱接着性樹脂を用いて融着させることにより一体化されており、伸度が4%以下である組紐からなる釣糸及び該組紐の周囲を、高密度ポリエチレン、ポリプロピレンもしくはエチレン酢酸ビニル共重合体などポリオレフィン系樹脂もしくはその変性物、ナイロンもしくは共重合ナイロンなどのポリアミド樹脂、アクリル系樹脂もしくはその共重合変性物、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂またはエポキシ樹脂等の被覆樹脂で被覆した釣糸(例えば、特許文献1参照。)が提案されており、超高分子量ポリエチレンフィラメントや被覆樹脂に金属粉末や金属フィラメントを含有してもよいと記載されている。
【0005】
上記釣糸は、従来の釣糸に比較し、伸度が小さく、機械的強度が大きく且つ耐摩耗性、耐切削性等が優れており、比重も自由に変更可能である。しかし、現状ではより伸度が小さく、より機械的強度が大きく且つ耐摩耗性、耐切削性等がより優れた釣糸が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4,054,646号公報
【特許文献2】特開昭55−5228号公報
【特許文献3】特開昭55−107506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記欠点に鑑み、より伸度が小さく、機械的強度がより大きく且つ耐摩耗性、耐切削性等がより優れており、比重も自由に変更可能な、釣糸として好適に使用できる糸条を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、
[1]重量平均分子量20万以上の超高分子量ポリエチレンフィラメントよりなる芯糸と、その周囲を被覆する、重量平均分子量20万以上の超高分子量ポリエチレンよりなる被覆層を含む糸状体が、該超高分子量ポリエチレンの融点以上の温度で加熱延伸されてなることを特徴とする糸条、
[2]芯糸が、超高分子量ポリエチレンフィラメントを撚った撚糸であることを特徴とする前記[1]記載の糸条、
[3]芯糸が、超高分子量ポリエチレンフィラメント及び/又は超高分子量ポリエチレンフィラメントを撚った撚糸を含む製紐糸であることを特徴とする前記[1]記載の糸条、
[4]芯糸が、超高分子量ポリエチレンフィラメント以外の他のフィラメントを含んでいることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれか1項記載の糸条、
[5]他のフィラメントが、金属粒子を含有していることを特徴とする前記[4]記載の糸条、
[6]更に、外周に樹脂層が被覆されていることを特徴とする前記[1]〜[5]のいずれか1項記載の糸条、
[7]樹脂層が、金属粒子を含有していることを特徴とする前記[6]記載の糸条
[8]加熱延伸における延伸倍率が、2〜10倍であることを特徴とする前記[1]〜[7]のいずれか1項記載の糸条、
[9]加熱延伸における加熱温度が150〜170℃であることを特徴とする前記[1]〜[8]のいずれか1項記載の糸条、
[10]糸条の伸度が4%以下であることを特徴とする前記[1]〜[9]のいずれか1項記載の糸条、
[11]糸条の磨耗試験における磨耗回数1000回後の強度が12.3cN/dtex以上であることを特徴とする前記[1]〜[10]のいずれか1項記載の糸条、及び
[12]前記[1]〜[11]のいずれか1項記載の糸条からなること特徴とする釣糸
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の糸条の構成は上述の通りであり、伸度が小さく、機械的強度が大きく且つ耐摩耗性、耐切削性等が優れている。又、比重を自由に変更可能であり、釣糸として好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】耐磨耗性試験に用いる試験装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明で使用される芯糸は、重量平均分子量20万以上の超高分子量ポリエチレンフィラメントよりなる。尚、本発明における重量平均分子量はゲルパーミェーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定された値である。
【0012】
超高分子量ポリエチレンフィラメントを構成する超高分子量ポリエチレンは、エチレンのホモポリマーであってもよいし、エチレンを主体とし炭素数3〜10程度の低級α−オレフィン類、例えば、プロピレン、ブテン、ペンテン、へキセン等との共重合体であってもよい。エチレンとα−オレフィンとの共重合体は、α−オレフィンの割合が炭素数1000個当たり平均0.1〜20個程度が好ましく、より好ましくは平均0.5〜10個程度である。超高分子量ポリエチレンの重量平均分子量は、小さくなると機械的強度、耐摩耗性、耐切削性等が低下し伸度が大きくなるので、20万以上であり、好ましくは30万〜160万である。
【0013】
超高分子量ポリエチレンフィラメントの太さは、特に限定されないが、一般に0.4〜11dpfが好ましい。又、超高分子量ポリエチレンフィラメントの製造方法は、特に限定されず、従来公知の任意の製造方法で製造されればよい(例えば、特許文献2,3参照)。
【0014】
超高分子量ポリエチレンフィラメントとしては、例えば、商品名「ダイニーマ」(登録商標 東洋紡株式会社製)、「スペクトラ」(登録商標 ハネウエル社製)等として市販されている。
【0015】
本発明で使用される芯糸は、上記超高分子量ポリエチレンフィラメントよりなるが、一本のフィラメントから構成されていてもよいし、複数本のフィラメントから構成されていてもよいが、複数本のフィラメントから構成されているのが好ましい。又、その太さは、特に限定されないが、10〜20,000dtexが好ましい。
【0016】
複数本のフィラメントで芯糸を構成する場合、複数本のフィラメントを単に引き揃えただけの引き揃え糸であってもよいし、引き揃えたフィラメントを撚った撚糸であってもよいし、複数本のフィラメント及び/又は該撚糸を製紐した製紐糸であってもよい。
【0017】
上記撚糸は、撚係数Kが0.2〜1.5程度が好ましく、より好ましくは約0.3〜1.2程度、更に好ましくは約0.4〜0.8程度である。耐磨耗性を維持するためには、撚係数が約0.2以上であることが好ましく、糸条の伸度を低くするためには撚係数が約1.5以下であることが好ましい。尚、撚係数Kは次式:
K=t×D1/2(式中、t:撚り数(回/m)、D:繊度(tex))
により算出される。尚、式における繊度は、JIS L 1013(1999)に従って測定した値である。
【0018】
又、上記製紐糸は、組角が約5°〜90°程度で製紐されるのが好ましく、より好ましくは約5°〜50°程度、更に好ましくは約20°〜30°程度である。耐磨耗性を維持するためには、組角が約5°以上であることが好ましく、糸条の伸度を低くするためには組角が約90°以下であることが好ましい。従って、製紐に用いるフィラメント及び/又は該撚糸の数は、4本、8本、12本、16本、32本等である。尚、組角は、デジタルHDマイクロスコープ VH−7000(キーエンス株式会社製)を用いて測定できる。製紐糸の製造方法は、特に限定されず、一般にフィラメント及び/又は該撚糸を組紐機(製紐機)に供給して行われる。
【0019】
本発明で使用される芯糸は、上記超高分子量ポリエチレンフィラメント以外のフィラメント(以下、「他のフィラメント」と略称する。)を物性の許す範囲内で含んでいてもよい。
【0020】
上記他のフィラメントとしては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアセタール系樹脂等の熱可塑性樹脂からなるフィラメント及び金属フィラメントが挙げられる。
【0021】
上記ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、上記超高分子量ポリエチレン以外のポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等が挙げられる。ポリプロピレン樹脂は重合平均分子量が約400,000以上のものが好ましい。上記ポリエチレン樹脂及びポリプロピレン樹脂は、ホモポリマーであってもよいし、コポリマーであってもよい。エチレンコポリマーは、エチレンを主体とし炭素数3〜10程度の低級α−オレフィン類、例えば、プロピレン、ブテン、ペンテン、へキセン等との共重合体であり、α−オレフィンの割合が炭素数1000個当たり平均0.1〜20個程度が好ましく、より好ましくは平均0.5〜10個程度である。又、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)なども挙げられる。プロピレンコポリマーは、プロピレンを主体とし炭素数3〜10程度の低級α−オレフィン類、例えば、エチレン、ブテン、ペンテン、へキセン等との共重合体であり、α−オレフィンの割合が炭素数1000個当たり平均0.1〜20個程度が好ましく、より好ましくは平均0.5〜10個程度である。
【0022】
上記ポリアミド系樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン6,10等の脂肪族ポリアミド若しくはその共重合体、又は芳香族ジアミンとジカルボン酸により形成される半芳香族ポリアミド若しくはその共重合体などが挙げられる。
【0023】
上記ポリエステル系樹脂としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタリン2,6ジカルボン酸、フタル酸、α,β−(4−カルボキシフェニル)エタン、4,4’−ジカルボキシフェニル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸又はこれらのエステル類と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ポリエチレングリコール、テトラメチレングリコール等のジオール化合物とから重縮合されるポリエステル若しくはその共重合体等が挙げられる。
【0024】
上記フッ素系樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリモノクロロトリフルオロエチレン樹脂、ポリヘキサフルオロプロピレン樹脂及びその共重合体等が挙げられる。
【0025】
上記ポリアクリロニトリル系樹脂としては、アクリロニトリルと他のポリマーとのコポリマーであるポリアクリロニトリル系樹脂が挙げられる。上記他のポリマーとしては、例えば、メタクリレート、アクリレート、酢酸ビニル等が挙げられ、該他のポリマーは約5重量%程度以下の割合で含有されていることが好ましい。
【0026】
上記ポリビニルアルコール系樹脂としては、ビニルアルコールと他のポリマーとのコポリマーであるポリビニルアルコール系樹脂が挙げられる。上記他のポリマーとしては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリエテン、その他のポリアルケン類等が挙げられ、該他のポリマーは約5重量%程度以下の割合で含有されていることが好ましい。
【0027】
上記ポリアセタール系樹脂としては、例えばポリオキシメチレンなどアセタール結合を主鎖に有するポリアセタール系樹脂が挙げられる。ポリアセタール系樹脂フィラメントは、ポリアセタール系樹脂を溶融紡糸するなど自体公知の方法で製造できる。
【0028】
上記熱可塑性樹脂からなる他のフィラメントは、高クリープ性フィラメントであってもよい。高クリープ性フィラメントとは、延伸後、その形状を保ちつづけるようなフィラメントをいう。より具体的には、フィラメントの破断強度の半分の荷重を100時間加えつづけ、その後かかる荷重を取り除いたときの永久伸びが、約1%以上が好ましく、より好ましくは約5%以上、更に好ましくは約10%以上である。尚、永久伸びは、JIS L 1013(1992)に従って、万能試験機 オートグラフAG−100kNI(商品名 島津製作所製)を用いて伸度を測定するのと同様にして測定する。
【0029】
従って、他のフィラメントとしては、ポリアセタール系樹脂フィラメントが好ましく、その引張強度は約3.5cN/dtex以上、伸度は20%以下のものが好ましい。尚、引張強度及び伸度は上述と同様に測定することができる。
【0030】
上記金属フィラメントとしては、例えば、銅、鉄、ステンレス、鉛、錫、ニッケル、コバルト、金、銀、白金等の金属のフィラメントが挙げられる。
【0031】
上記熱可塑性樹脂からなる他のフィラメントには、金属粒子を含有していてもよい。金属粒子を含有することにより、フィラメントを構成する素材が有する固有の比重に関係なく、任意の比重を有するフィラメント、特に比重の大きいフィラメントを得ることができる。金属粒子を含有する他のフィラメントの製造方法は、特に限定されず、例えば、金属粒子と熱可塑性樹脂を含む混合組成物を作成し、溶融紡糸することにより容易に製造することができる。
【0032】
上記金属粒子としては、例えば、鉄、銅、亜鉛、錫、ニッケル、タングステン等を単独で、又は混合若しくは合金としたものが挙げられる。中でも重さを与えやすく、強度の低下を極力抑えて、比重を高くする効果が少量の添加により現れるタングステンが好ましい。金属粒子の平均粒径は、特に限定されないが、大きすぎると均一性が乏しくなるので20μm以下が好ましく、より好ましくは10μm以下である。又、その添加量は熱可塑性樹脂100重量部に対し1〜90重量部が好ましく、より好ましくは5〜70重量部である。
【0033】
又、上記熱可塑性樹脂からなる他のフィラメントは、中空構造が付与されていても良い。他のフィラメントを中空構造にすることによりフィラメント(糸条)に浮力を与えることができる。又、中空の大きさ等を調整することにより、又は上述したように金属粒子をさらに含有させることにより、糸条を水や海水などの液体中で使用する際の糸の重量と浮力のバランスを任意に設定できる。その結果、例えば、本発明に係る糸条を釣糸や水産資材として用いる場合は、糸条の水や海水中での沈降速度がコントロールできる。
【0034】
フィラメントに中空構造を付与するには溶融紡糸する際に所望の数の中空を形成することができる中空糸用紡糸口金を備えている溶融紡糸装置を用いて製造すればよい。中空が一つの場合は製造時にフィラメントの断面が部分的に偏平となり、フィラメントの強度が落ちる場合があるので、中空は二つ以上であることが好ましい。二つ以上の中空を有する構造とすることによってフィラメントの強度の低下が防止できるという利点もある。中空の数は、特に制限されず、例えば、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ、九つと適宜に設けることができる。
【0035】
複数本のフィラメントで芯糸を構成する場合、フィラメントの周囲に油剤を付与してもよい。油剤を付与することにより、延伸する際のフィラメントの損傷を軽減することができる。又、油剤を付与することにより隣接するフィラメント同士が融着することが実質的になくなるため、フィラメント中の分子の配向性の低減を防止することができ、その結果、融着による引張強度、結節強度、摩擦堅牢度等の低下を防止することができるという利点がある。
【0036】
上記油剤は、繊維に付与されるのに通常使用されているものであればよく、例えば、集束性樹脂(バインダー類)、ベース潤滑油、界面活性剤及びこれらの混合物等が挙げられる。上記集束性樹脂としては、例えば、ポリウレタン系樹脂、シリコン系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。上記ベース潤滑油としては、ジメチルポリシロキサン、ポリエーテル等が挙げられる。上記界面活性剤としては、高級アルコール、高級アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン・高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレン・高級脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール・高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン・アルキルアミノエーテル、ポリオキシエチレン・ヒマシ油エーテル、アルキルリン酸エステル塩(好ましくは、アルカリ金属塩若しくはアミン塩)、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩(好ましくは、アルカリ金属塩もしくはアミン塩)、アルキルスルホネートナトリウム塩等が挙げられる。
【0037】
上記ポリウレタン系樹脂としては、ポリエーテルポリオールとポリイソシアネートとの反応又はポリカーボネートポリオールとポリイソシアネートとの反応により得られる高分子重合体が挙げられるが、なかでも耐水性、耐熱性等の点からポリカーボネートポリオールとポリイソシアネートとの反応により得られる高分子重合体が好ましい。上記ポリイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート等の脂肪族又は芳香族のポリイソシアネートが挙げられ、耐候性の点から脂肪族ポリイソシアネートが好ましい。
【0038】
上記シリコン系樹脂としては、基本骨格にシロキサン結合を有するものが挙げられるが、なかでも、水素、炭素数1〜3のアルキル基やフェニル基、又は、これらのアルコキシ基がケイ素原子に結合しているものが好ましく、特にジメチルシロキサンが好ましい。更に、ジメチルシロキサンのアミノ変性、エポキシ変性、アルキレンオキサイド変性等の変性シリコン系樹脂及びそれらの混合物も好適に用いられる。
【0039】
上記フッ素系樹脂としては、例えば、4フッ化エチレン重合体、3フッ化塩化エチレン重合体、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン共重合体、4フッ化エチレン・パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン・パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン重合体、エチレン・4フッ化エチレン共重合体等が挙げられる。フッ素系樹脂は通常分散剤を用いて分散媒中に微粒子状フッ素系樹脂を分散せしめた分散体或いは乳化剤を用いて水系媒体中に微粒子状フッ素系樹脂を乳化せしめた水乳化体の形で使用するのが好ましい。
【0040】
油剤を芯糸に付与する方法は、特に限定されず、従来公知の任意方法が採用されてよく、例えば、浸漬給油法、スプレー給油法、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法等が挙げられ、浸漬給油法及びスプレー給油法が好ましい。
【0041】
本発明で使用される糸状体は、上記芯糸と、その周囲を被覆する、重量平均分子量20万以上の超高分子量ポリエチレンよりなる被覆層を含む。被覆層を構成する重量平均分子量20万以上の超高分子量ポリエチレンは、前述した芯糸を構成する重量平均分子量20万以上の超高分子量ポリエチレンと同一のものであって、重量平均分子量は同一であってもよいし異なってもよい。糸状体における被覆層を構成する超高分子量ポリエチレンの含有量は、少なくなると芯糸を均一に被覆固定できなくなり、多くなりすぎると伸度が低下するので1〜50重量%が好ましく、より好ましくは2〜20重量%であり、更に好ましくは5〜10重量%である。又、この被覆層も上記金属粒子を含有していてもよい。
【0042】
被覆層の形成方法は、特に限定されず、例えば、超高分子量ポリエチレンを押出機で溶融し、上記芯糸に押出被覆する方法、超高分子量ポリエチレン溶剤溶液を作製し、その溶液に上記芯糸を浸漬する、所謂、ディッピング法等が挙げられる。
【0043】
上記ディッピング法で芯糸に超高分子量ポリエチレンを被覆して被覆層を形成する方法としは、例えば、超高分子量ポリエチレンをデカリン(デカヒドロナフタレン)に溶解し、30〜70重量%のデカリン溶液を作製し、この溶液に芯糸を浸漬した後、引き上げ、その太さを規定する金型を通しながら加熱してデカリンを蒸発させる方法が挙げられる。
【0044】
上記糸状体は、その外周に更に樹脂層が被覆されてもよい。該樹脂(以下、「被覆樹脂」という。)は、糸状体に密着できるものであれば特に限定されないが、屋外での長期使用に耐え、摩擦、曲げ疲労性等の耐久特性に優れたものが好ましい。又、糸状体の引張り強度を損なわずに熱被覆するためには、メルトインデックスが0.1g/10分以上の樹脂が好ましく、より好ましくは、0.1g/10分〜1000g/10分である。尚、メルトインデックスは、JIS K 7210(1976)「熱可塑性プラスチックの流れ試験方法」に従った方法にて、メルトインデクサ(宝工業株式会社製 L−202)で測定した値である。
【0045】
上記被覆樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体などポリオレフィン系樹脂若しくはその変性物、ナイロン、共重合ナイロンなどのポリアミド樹脂、アクリル系樹脂若しくはその共重合変性物、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0046】
上記樹脂層も前記金属粒子を含有していてもよいし、中空構造が付与されていても良い。
又、樹脂層の形成方法は、特に限定されず、例えば、被覆樹脂を押出機で溶融し、上記糸状体の外周に押出被覆する方法、溶融状若しくは溶液状の被覆樹脂に上記糸状体を浸漬し引き上げて余剰量をしぼり取るという、所謂、ディッピング法等が挙げられる。更に、例えばアプリケーター、ナイフコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、フローコーター、ロッドコーター、刷毛等公知の手段を用いて被覆樹脂を塗布してもよい。
【0047】
上記芯糸、被覆層及び樹脂層に、本発明の目的を損なわない範囲内で各種公知の耐磨耗剤、艶消し剤、改質剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、磁性材料、導電性物質、高誘電率を有する物質などが添加されていてもよい。
【0048】
本発明の糸条は、上記糸状体が上記超高分子量ポリエチレンの融点以上の温度で加熱延伸されてなることを特徴とする。
【0049】
上記加熱延伸方法は、特に限定されず、従来公知の任意の方法が採用されればよく、例えば、ロール一軸延伸法、ゾーン一軸延伸法等の一軸延伸法により、ヒータや熱風により加熱しながら延伸する方法が挙げられ、一段延伸でも2回以上延伸する多段延伸であってもよい。
【0050】
延伸時の温度は、糸条体を構成する樹脂の種類、その径の大きさによって異なるので一概には言えないが、少なくとも糸条体を構成する超高分子量ポリエチレンの融点以上の温度で延伸処理を行う。延伸温度が高くなりすぎると糸状体が溶融して破断してしまうので、超高分子量ポリエチレンの融点以上の温度であって、150〜175℃が好ましく、より好ましくは155〜165℃である。尚、2種以上の超高分子量ポリエチレンが併用され、その融点が異なる場合は、最も低い融点の融点以上の温度で延伸処理を行う。
【0051】
延伸倍率も、特に限定されず、糸条の要求される物性により適宜決定されればよいが、一般に、2〜10倍が好ましい。尚、繰出ピンチロールで糸条体を送り出し、引取ピンチロールで引取って延伸するロール一軸延伸法により延伸された糸条体の延伸倍率は、「引取ピンチロールの引取り速度/繰出ピンチロールの送り出し速度」で定義される。
【0052】
又、延伸時に延伸速度を調整することにより、糸条にテーパー状を形成してもよい。具体的には、延伸速度を上げることにより、長手方向に径が小さくなり、延伸速度を下げることにより、長手方向に径が大きくなる。このように延伸速度を変化させる際には、延伸速度の変化がなだらかに増加傾向又は減少傾向に傾斜していることが好ましい。即ち、延伸時に延伸速度を漸増又は/及び漸減することが好ましい。延伸速度の変化がそのようななだらかな変化であれば、延伸速度は直線的に変化してもよいし、そうでなくてもよい。
【0053】
延伸時の延伸速度は、芯糸(フィラメント)や被覆層を構成する樹脂の種類、糸条の太さ等により異なるので一概には言えない。例えば、糸条の径の最も大きい部分を形成させる際の延伸速度と、糸条の径の最も小さい部分を形成させる際の延伸速度との比が、1:2〜6程度であることが好ましい。
【0054】
本発明の糸条の伸度は5%程度以下が好ましく、より好ましくは4.0%以下であり、更に好ましくは3.0%以下であり、より更に好ましくは2.7%以下である。例えば、糸条が釣糸の場合には伸度が小さいほど魚信を的確に捉えやすくなるので、伸度は上記範囲が好ましい。尚、伸度は、JIS L 1013(1992)に従って、万能試験機 オートグラフAG−100kNI(商品名 島津製作所製)を用いて測定した値である。
【0055】
本発明の糸条は、磨耗試験における磨耗回数1000回後の強度が12.3cN/dtex以上であるのが好ましく、より好ましくは14.1cN/dtex以上である。上記磨耗試験は、次の通り行う。試験機としては、図1に示したように、シートベルトの六角棒磨耗試験機を改良して、六角棒の位置にΦ9mmのセラミックガイド2を配置したものを用いる。前記試験機のストローク長、角度等に関しては、JIS D 4604(1995)に従う。セラミックガイド2にサンプル1を通し、一方をドラム5の固定部4に固定し他方に荷重3をかける。荷重はサンプルの最大強力値に対し、3.3%の割合の荷重をかける。1000回ドラム5を往復運動させ、セラミックガイドでサンプルを磨耗する。そしてその磨耗された部分の強力を測定する。尚、ドラム5とクランク7はクランクアーム6により連結されており、クランク7によりドラム5は往復運動をするようになされている。
【0056】
磨耗前の強力値(a)と磨耗後の強力値(b)から、次式;c(%)=b/a×100で求められる残存強力値(c)を算出し、cの値が高いほど、耐磨耗性に優れていると判断する。尚、強力値はJIS L 1013(1992)に従って、万能試験機 オートグラフAG−100kNI(商品名 島津製作所製)で測定する。
【0057】
本発明の糸条の比重は1.01〜10.0が好ましい。比重は、電子比重計SD−200L(ミラージュ貿易株式会社製)を用いて測定する。又、糸条の摩擦堅牢度は3級以上が好ましく、より好ましくは4級以上である。尚、摩擦堅牢度は、JIS L 0849(1996)に従って測定する。
【実施例】
【0058】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
ダイニーマ220T/200F(東洋紡績株式会社製、融点134℃)4本を製紐機で角打ちすることにより製紐して、太さ950.4dtexの芯糸を得た。ダイニーマ220T/200F(東洋紡績株式会社製、融点134℃)を短く切断して得られた切断片10重両部をデカリン90重量部に添加混合してスラリー状混合物を得た。得られたスラリー状混合物を220℃のスクリュー型混練機に投入して溶解した後、クロスヘッド型押出成形機により170℃で得られた芯糸の周囲に押出被覆し、直後に100℃の窒素ガス中でデカリンを蒸発させ冷却することにより超高分子量ポリエチレンが被覆された、太さ995dtexの糸状体を得た。得られた糸状体を160℃に加熱オーブン中で延伸倍率3倍に加熱延伸して、太さ332dtexの糸条を得た。
【0059】
(比較例1)
実施例1で得られた芯糸をアクリル樹脂エマルション(約22重量%)(DIC株式会社製、商品名「ボンコート3750」)に浸漬した後、引き上げて100℃の窒素ガス中で水を蒸発させ冷却することにより超高分子量ポリエチレンが被覆された、太さ1026dtexの糸状体を得た。得られた糸状体を160℃に加熱オーブン中で延伸倍率3倍に加熱延伸して、太さ342dtexの糸条を得た。
【0060】
(比較例2)
実施例1で得られた芯糸を160℃に加熱オーブン中で延伸倍率3倍に加熱延伸して、太さ317dtexの糸条を得た。
実施例1及び比較例1,2で得られた糸条の強力値(a)と摩擦試験を行った糸条の強力値(b)を測定し、残存強力値(c)を計算して表1に示した。
【0061】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の糸条は、上述の通り、伸度が小さく、機械的強度が大きく且つ耐摩耗性、耐切削性等がより優れており、比重も自由に変更可能なので、釣糸、ロープ、テニスラケットやバトミントンラケットのガット、洋弓の弦、ダイヤルコード紐等として好適に使用でき、特に釣糸として好適に使用できる。
【符号の説明】
【0063】
1 試験サンプル
2 セラミックガイド(磨耗部分)
3 荷重
4 固定部
5 ドラム
6 クランクアーム
7 クランク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量20万以上の超高分子量ポリエチレンフィラメントよりなる芯糸と、その周囲を被覆する、重量平均分子量20万以上の超高分子量ポリエチレンよりなる被覆層を含む糸状体が、該超高分子量ポリエチレンの融点以上の温度で加熱延伸されてなることを特徴とする糸条。
【請求項2】
芯糸が、超高分子量ポリエチレンフィラメントを撚った撚糸であることを特徴とする請求項1記載の糸条。
【請求項3】
芯糸が、超高分子量ポリエチレンフィラメント及び/又は超高分子量ポリエチレンフィラメントを撚った撚糸を含む製紐糸であることを特徴とする請求項1記載の糸条。
【請求項4】
芯糸が、超高分子量ポリエチレンフィラメント以外の他のフィラメントを含んでいることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の糸条。
【請求項5】
他のフィラメントが、金属粒子を含有していることを特徴とする請求項4記載の糸条。
【請求項6】
更に、外周に樹脂層が被覆されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の糸条。
【請求項7】
樹脂層が、金属粒子を含有していることを特徴とする請求項6記載の糸条。
【請求項8】
加熱延伸における延伸倍率が、2〜10倍であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の糸条。
【請求項9】
加熱延伸における加熱温度が150〜170℃であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載の糸条。
【請求項10】
糸条の伸度が4%以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項記載の糸条。
【請求項11】
糸条の磨耗試験における磨耗回数1000回後の強度が12.3cN/dtex以上であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項記載の糸条。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項記載の糸条からなること特徴とする釣糸。

【図1】
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【公開番号】特開2010−168700(P2010−168700A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−13578(P2009−13578)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(506269149)株式会社ワイ・ジー・ケー (21)
【Fターム(参考)】