説明

糸状菌形質転換用プラスミド及びこれを用いた糸状菌の形質転換方法

【課題】簡便且つ大量に調製することができ、且つ糸状菌において効率よく相同組換えを起こさせることができる形質転換用プラスミドであって、糸状菌のセルフクローニング株取得にも用いることができる形質転換用プラスミドと、このプラスミドを用いた糸状菌の形質転換方法を提供する。
【解決手段】形質転換用遺伝子断片と、大腸菌由来のプラスミド断片とを含み、上記形質転換用遺伝子断片は、糸状菌由来ポリヌクレオチドと、目的遺伝子発現カセットとを含み、上記大腸菌由来のプラスミド断片は、上記糸状菌由来ポリヌクレオチドの内部に挿入されるように連結されている、形質転換用プラスミド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸状菌形質転換用プラスミド、及びこのプラスミドから大腸菌由来の核酸を取り除いて糸状菌に挿入し、糸状菌を形質転換する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
糸状菌は、多種多様の酵素タンパク質を生産することで知られており、中でもアスペルギルス(Aspergillus)属には産業的に重要な種が多く含まれ、我が国の伝統的な醸造産業や食品用、工業用酵素剤の製造等に広く利用されている。
【0003】
特に麹菌アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)は、歴史的に食品として安全に食べられてきたことから、アメリカ合衆国ではGRAS(Generally Recognized As Safe)グレードとしてその安全性が認められている。
【0004】
一方、アスペルギルス属糸状菌は、その高いタンパク質生産能を利用すべく遺伝子組換えによる育種が盛んに行われており、多くの遺伝子組換え菌が酵素剤の生産に利用されている(例えば、特許文献1、非特許文献1)。
【0005】
しかし、これまで酵素剤の生産に利用されてきた遺伝子組換え菌の多くは、その育種の過程で異種生物由来の核酸を染色体に取り込んでおり、我が国では遺伝子組換え体を食品に利用することへの反発が強いことから、遺伝子組換え麹菌によって生産された酵素はそのほとんどが食品用途以外の分野に利用されているのが現状である。
【0006】
ところで、遺伝子組換え技術によって育種を行った場合でも、最終的に宿主に導入された核酸が宿主と同一の種由来の核酸のみの場合には、その育種株はセルフクローニング株とみなされ、遺伝子組換え体には該当しない(非特許文献2)。
【0007】
セルフクローニング株の育種方法はいくつか報告されている。例えば、一旦挿入した異種生物由来の核酸を除去する方法や(特許文献2)、初めから異種生物由来の核酸を含まないように合成した目的遺伝子のみを宿主に挿入する方法等がある(特許文献3)。
【0008】
しかし、大腸菌や酵母と異なり、形質転換効率、特に相同組換え頻度が低い糸状菌の育種においては、一旦染色体に挿入された異種生物由来の核酸を除去することは困難であるし、挿入遺伝子断片のみをPCR等の技術によって大量合成しようとすればコストもかかり、また合成の過程で遺伝子に変異が入る可能性も高い。このため、糸状菌においては、より安価に簡便に形質転換用プラスミドを作製でき、且つ育種株からの核酸除去という後工程を必要としないセルフクローニング株の育種方法が求められている。
【0009】
非特許文献3には、糸状菌において、コートランスフォーメーション(cotransformation)という手法を用いて、遺伝子断片からセルフクローニング株を育種する方法が開示されている。
【0010】
特許文献4には、酵母(サッカロマイセス・セレビシエ)において、セルフクローニング用の遺伝子発現カセットを適当なプラスミドに挿入し、プラスミドとして増幅した後に、発現カセットを制限酵素で切断して形質転換に用い、二重交叉相同組換えによってセルフクローニング株を作製する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6−62868号公報(1994年3月8日公開)
【特許文献2】特開2003−144164号公報(2003年5月20日公開)
【特許文献3】特開2004−329143号公報(2004年11月25日公開)
【特許文献4】特開平10−234368号公報(1998年9月8日公開)
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】van Hartingsveldt W, van Zeijl CM, Harteveld GM, Gouka RJ, Suykerbuyk ME, Luiten RG, van Paridon PA, Selten GC, Veenstra AE, van Gorcom RF, er al., Cloning, characterization and overexpression of the phytase-encoding gene (phyA) of Aspergillus niger. Gene. 1993 May 15;127(1):87-94
【非特許文献2】遺伝子組換え食品(微生物)の安全性評価基準2008(http://www.fsc.go.jp/senmon/idensi/gm_shokuhin_biseibutu_kijun.pdf)
【非特許文献3】C. Nowak, R. Radzio, U. Kuck, DNA-mediated transformation of a fungus employing a vector devoid of bacterial DNA sequences. Appl Microbiol Biotechnol. 1995 43:1077-1081
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、非特許文献3に開示された方法では、挿入遺伝子は染色体上の任意の箇所に組み込まれることが予想され、挿入位置を明らかにできないことから育種方法としてあまり望ましいとは言えない。
【0014】
また、特許文献4に開示された方法では、挿入遺伝子の位置は明らかになるものの、酵母と比べてはるかに相同組換え頻度が低い糸状菌では、この方法によってセルフクローニング株を作製することは困難である。
【0015】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡便且つ大量に調製することができ、且つ糸状菌において効率よく相同組換えを起こさせることができる形質転換用プラスミドであって、糸状菌のセルフクローニング株取得にも用いることができる形質転換用プラスミドと、このプラスミドを用いた糸状菌の形質転換方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために本発明者は鋭意研究を重ねた。その結果、大腸菌を利用して簡便且つ大量に調製することができ、且つ糸状菌の染色体内における目的の部位において効率良く相同組換えを起こさせることができる形質転換用プラスミドを構築することに成功し、ここに開示するものである。すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
【0017】
本発明に係る形質転換用プラスミドは、糸状菌を形質転換するためのプラスミドであって、形質転換用遺伝子断片と、大腸菌由来のプラスミド断片とを含み、上記形質転換用遺伝子断片は、糸状菌由来ポリヌクレオチドと、目的遺伝子発現カセットとを含み、上記大腸菌由来のプラスミド断片は、上記糸状菌由来ポリヌクレオチドの内部に挿入されるように連結されていることを特徴としている。
【0018】
本発明に係る形質転換用プラスミドでは、上記形質転換用遺伝子断片は、同一生物種由来のポリヌクレオチドからなることが好ましい。
【0019】
本発明に係る形質転換用プラスミドでは、上記糸状菌由来ポリヌクレオチドは、マーカー遺伝子であることが好ましい。
【0020】
本発明に係る糸状菌の形質転換方法は、上述した形質転換用プラスミドから上記大腸菌由来のプラスミド断片を除去し、上記形質転換用遺伝子断片を取得する工程(A)と、上記工程(A)で得られた形質転換用遺伝子断片を、宿主糸状菌に導入する工程(B)とを含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る形質転換用プラスミドは、大腸菌由来のプラスミド断片を有している。このため、当該形質転換用プラスミドを大腸菌を用いて簡便且つ大量に調製することができる。また、本発明に係る形質転換用プラスミドを用いれば、一重交叉相同組換えによって、目的遺伝子発現カセットを、糸状菌の染色体内における目的の部分に効率良く相同組換えを起こさせることができるという効果を奏する。
【0022】
本発明に係る形質転換方法によれば、大腸菌由来のプラスミド断片が染色体内に挿入されていない形質転換体を容易に且つ効率よく取得することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態を示すものであり、形質転換体選択用マーカー遺伝子の内部に挿入されるように大腸菌由来のプラスミド断片が配置された形質転換用プラスミドを概略的に表す図である。
【図2】大腸菌由来のプラスミド断片を取り除いた形質転換用遺伝子断片が糸状菌染色体上のマーカー遺伝子部位に相同組換えによって挿入されることを模式的に示した図である。
【図3】実施例1におけるpNENselfプラスミドの構築手順を示す図である。
【図4】実施例1におけるpNENself−agdAプラスミドの概略図である。
【図5】実施例1において得られた形質転換体がα−グルコシダーゼを発現していることを示す図である。
【図6】実施例1において得られた形質転換体の染色体上にα−グルコシダーゼ発現カセットが組み込まれていることを示す図である。図6の(a)はniaDをプローブとした場合、(b)はpUC118をプローブとした場合の結果を表している。
【図7】実施例2におけるpSENselfプラスミドの構築手順を示す図である。
【図8】実施例2において得られた形質転換体がα−グルコシダーゼを発現していることを示す図である。
【図9】実施例2において得られた形質転換体の染色体上にα−グルコシダーゼ発現カセットが組み込まれていることを示す図である。図9の(a)はsCをプローブとした場合、(b)はpUC118をプローブとした場合の結果を表している。
【図10】本発明に係る形質転換用プラスミドおよび従来の形質転換用プラスミドを用いた相同組換えの機構を概略的に表した図である。(a)は本発明に係る形質転換用プラスミドを用いた相同組換えの機構を表し、(b)は従来の形質転換用プラスミドを用いた相同組換えの機構を表している。図10において、破線は大腸菌由来のプラスミド断片、を表している。
【図11】実施例3におけるpANNselfプラスミドの構築手順を示す図である。
【図12】実施例3におけるpANNself−BGLプラスミドの概略図である。
【図13】実施例3において得られた形質転換体がβ−グルコシダーゼを発現していることを示す図である。
【図14】実施例3において得られた形質転換体の染色体上にβ−グルコシダーゼ発現カセットが組み込まれていることを示す図である。図14の(a)はniaDをプローブとした場合、(b)はpUC118をプローブとした場合の結果を表している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。また、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を示す「A〜B」は、「A以上、B以下」であることを示す。
【0025】
〔1.形質転換用プラスミド〕
本発明に係る形質転換用プラスミドは、糸状菌を形質転換するためのプラスミドであって、形質転換用遺伝子断片と、大腸菌由来のプラスミド断片とを含み、上記形質転換用遺伝子断片は、糸状菌由来ポリヌクレオチドと、目的遺伝子発現カセットとを含み、上記大腸菌由来のプラスミド断片は、上記糸状菌由来ポリヌクレオチドの内部に挿入されるように連結されている。
【0026】
本明細書において、上記「ポリヌクレオチド」は、「核酸」または「核酸分子」とも換言でき、ヌクレオチドの重合体が意図される。また、「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」とも換言でき、デオキシリボヌクレオチド(A、G、C、およびTと省略される)の配列として示される。
【0027】
ここで、本発明の実施形態である形質転換用プラスミドの構成の一例を図1に基づき説明する。図1は、本発明の一実施形態を示すものであり、形質転換体選択用マーカー遺伝子の内部に挿入されるように大腸菌由来のプラスミド断片が配置された形質転換用プラスミドを概略的に表す図である。
【0028】
図1に示すように、本発明に係る形質転換用プラスミドは、形質転換用遺伝子断片と、大腸菌由来のプラスミド断片(図1中「大腸菌由来プラスミド骨格」と表記された実線部分。)を備え、上記形質転換用遺伝子断片は、糸状菌由来ポリヌクレオチドとしてのマーカー遺伝子(例えばniaD遺伝子。図1中「マーカー前半」および「マーカー後半」と表記された灰色部分。)と、目的遺伝子発現カセット(図1中「発現カセット」と表記された黒色部分。)とを備えている。また、上記大腸菌由来のプラスミド断片(大腸菌由来プラスミド骨格)は、上記マーカー遺伝子の内部に挿入されるように連結されている。換言すれば大腸菌由来のプラスミド断片(「大腸菌由来プラスミド骨格」)は、両端にマーカー遺伝子(「マーカー前半」および「マーカー後半」)が連結されている。
【0029】
図10は、本発明に係る形質転換用プラスミドおよび従来の形質転換用プラスミドを用いた相同組換えの機構を概略的に表した図である。(a)は本発明に係る形質転換用プラスミドを用いた相同組換えの機構を表し、(b)は従来の形質転換用プラスミドを用いた相同組換えの機構を表している。図10において、破線は大腸菌由来のプラスミド断片、を表している。
【0030】
図10の(a)に示すように、一実施形態において、本発明に係る形質転換用プラスミドは、アンピシリン耐性遺伝子を有する大腸菌由来のプラスミド断片(大腸菌由来配列)と、糸状菌由来ポリヌクレオチドとしてのniaDマーカー遺伝子(図10中「niaD-F」および「niaD-L」で表記)と、目的遺伝子発現カセット(図10中「発現カセット」で表記)とを含んでいる。本発明に係る形質転換用プラスミドでは、大腸菌由来のプラスミド断片は、上記糸状菌由来ポリヌクレオチドの内部に挿入されるように連結されている。言い換えれば、上記大腸菌由来のプラスミド断片は、分断された糸状菌由来ポリヌクレオチドの2つの断片によって挟まれている。
【0031】
ここで、上記「糸状菌由来ポリヌクレオチドの内部に挿入されるように連結されている」とは、「糸状菌由来ポリヌクレオチド」におけるヌクレオチドの順序を変えることなく、当該「糸状菌由来ポリヌクレオチド」のヌクレオチド鎖の内部に大腸菌由来のプラスミド断片が連結されていることを意図している。上記「ヌクレオチドの順序」とは、上記「糸状菌由来ポリヌクレオチド」の供与体の染色体DNAにおけるヌクレオチドの順序(塩基配列)を意図している。
【0032】
具体的には、糸状菌由来ポリヌクレオチドの一方の末端をa、他方の末端をcとし、大腸菌由来のプラスミド断片が連結される位置をbとする。糸状菌由来ポリヌクレオチドにおけるヌクレオチドの順序がa…b…cであるとすると、本発明に係る形質転換用プラスミドでは、このヌクレオチドの順序を変えることなく、bの位置に大腸菌由来のプラスミド断片が挿入されるように連結されている。
【0033】
また、形質転換用遺伝子断片に関して説明すれば、目的遺伝子発現カセットは、糸状菌由来ポリヌクレオチドの末端aおよび末端cと連結されている。つまり、本発明に係る形質転換用プラスミドにおいては、niaD遺伝子の転写方向に対する、糸状菌由来ポリヌクレオチドにおけるヌクレオチドの順序はb…ca…bとなっている。
【0034】
相同組換えを目的とする場合、相同組換え頻度を高めるために、形質転換用プラスミドは、糸状菌由来ポリヌクレオチドの任意の位置において切断され、鎖状化されて用いられる。本発明に係る形質転換用プラスミドでは、大腸菌由来のプラスミド断片は、上記糸状菌由来ポリヌクレオチドの内部に挿入されるように連結されている。このため、糸状菌由来ポリヌクレオチドと大腸菌由来のプラスミド断片との連結部を、制限酵素消化等によって切断すれば、相同組換えに用いるための鎖状の形質転換用遺伝子断片を容易に取得することができ、且つ形質転換用遺伝子断片から大腸菌由来のプラスミド断片を容易に除去することができる。このようにして得られた形質転換用遺伝子断片を用いれば、相同組換えによって大腸菌由来のプラスミド断片が染色体内に組み込まれることがない。尚、糸状菌に導入される形質転換用遺伝子断片としては、大腸菌由来のプラスミド断片が除去されて鎖状化されたものに限定されない。鎖状化された形質転換用遺伝子断片をライゲーション等によって環状化した形質転換用遺伝子断片を糸状菌に導入してもよい。
【0035】
一方、図10の(b)に示すように、従来の形質転換用プラスミドでは、大腸菌由来のプラスミド断片が上記糸状菌由来ポリヌクレオチドの内部に挿入されるように連結されていない。このため、相同組換え頻度を高めるために、従来の形質転換用プラスミドを糸状菌由来ポリヌクレオチドのbの位置において制限酵素消化して鎖状化すると、発現カセットのみならず、大腸菌由来のプラスミド断片も糸状菌由来ポリヌクレオチドの断片によって挟まれた形質転換用プラスミド断片が得られる。このような形質転換用プラスミド断片を用いた場合には、相同組換えによって大腸菌由来のプラスミド断片も染色体内に組み込まれることになる。
【0036】
本発明に係る形質転換用プラスミドは、宿主染色体の染色体DNA内の、上記「糸状菌由来ポリヌクレオチド」と相同な領域(A…B…C)において、容易に一重交叉相同組換えを起こし、染色体内に取り込まれる。このため、糸状菌においても、効率良く相同組換えを起こさせることができる。
【0037】
尚、糸状菌由来ポリヌクレオチドの内部に、実際に大腸菌由来のプラスミド断片を挿入して作製された以外の形質転換用プラスミドであっても、糸状菌由来ポリヌクレオチドにおけるヌクレオチドの順序を変えることなく、糸状菌由来ポリヌクレオチドの内部に大腸菌由来のプラスミド断片が連結されている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0038】
本明細書では、本発明に係る形質転換用プラスミドのうち、糸状菌の形質転換に用いる断片、すなわち上記大腸菌由来のプラスミド断片を除いた断片を「形質転換用遺伝子断片」と称している。
【0039】
本明細書において、上記「目的遺伝子発現カセット」とは、宿主糸状菌細胞内で目的遺伝子を発現させるための遺伝子群(以下「発現単位」と称する)を含むポリヌクレオチドを意図している。上記「目的遺伝子」は、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、α−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、α−グルコシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、セルラーゼ、キチナーゼ、プロテアーゼ、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、フィターゼ、ヌクレアーゼ、カタラーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ等の酵素遺伝子や、リボソーム遺伝子、トランスポーター遺伝子、シャペロン遺伝子、転写調節因子遺伝子などの酵素以外のタンパク質をコードする遺伝子からも自由に選択することができ、また機能未知の遺伝子も選択することができる。
【0040】
上記「発現単位」には、宿主糸状菌細胞内で目的遺伝子を発現させるために、例えば、プロモーター領域、目的遺伝子のオープンリーディングフレーム、ターミネーター領域等が含まれている。上記「目的遺伝子発現カセット」には、上記「発現単位」が1つ含まれていてもよいし、複数個含まれていてもよい。上記「目的遺伝子発現カセット」に複数の発現単位が含まれる場合の一例として、形質転換体選択用に、niaD遺伝子等のマーカー遺伝子の発現単位を含む構成とすることによって、形質転換用遺伝子断片が糸状菌の染色体内に導入された形質転換体を容易に選択することができる。
【0041】
上記「目的遺伝子発現カセット」を構成するプロモーター領域、目的遺伝子のオープンリーディングフレーム、ターミネーター領域等の由来は特に限定されない。しかし、本発明に係る形質転換用プラスミドを用いてセルフクローニングを行うことを考慮すると、上記「目的遺伝子発現カセット」は、同一生物種由来であることが好ましい。目的遺伝子発現カセットを構成するポリヌクレオチドを提供する供与体を宿主糸状菌として形質転換を行えば、宿主糸状菌に導入される核酸は宿主と同一生物種由来の核酸のみとなるため、セルフクローニング株を取得することができる。
【0042】
上記「糸状菌由来ポリヌクレオチド」は、宿主糸状菌の染色体内において形質転換用遺伝子断片に相同組換えを起こさせるための相同領域として設けられている。このため、宿主糸状菌の染色体DNAと相同な塩基配列を有するポリヌクレオチドであれば特に限定されない。例えば、染色体内において目的遺伝子発現カセットを挿入したい位置の前後の染色体DNAと相同な塩基配列を有するポリヌクレオチドを、上記「糸状菌由来ポリヌクレオチド」として用いることができる。
【0043】
上記「糸状菌由来ポリヌクレオチド」の長さは、特に限定されないが、相同組換えの効率を考えると、200bp〜20000bpであることが好ましく、500bp〜10000bpであることがより好ましい。上記「糸状菌由来ポリヌクレオチド」の長さが200bp以上であれば、相同組換えを効率よく起こさせることができる。上記「糸状菌由来ポリヌクレオチド」の長さが20000bp以下であれば、糸状菌の菌体内に効率よく取り込ませることができる。
【0044】
図1に示すように、上記「糸状菌由来ポリヌクレオチド」として糸状菌由来のマーカー遺伝子を用いれば、相同組換えを起こした形質転換体を、栄養選択等によって容易に選択することができるため好ましい。上記「マーカー遺伝子」としては、一般に糸状菌形質転換体の選択に使用されているマーカーであれば特に限定されない。例えば、niaD、sC、argB、adeA、ptrA、pyrG等を使用することができる。
【0045】
上記「形質転換用遺伝子断片」を構成する、それぞれのポリヌクレオチドを取得する方法は、特に限定されるものではなく、公知の技術によって取得することができる。例えば、公知の糸状菌の配列情報に基づいて、PCR等の増幅手段を用いる方法によって取得することもできるし、糸状菌の染色体DNAライブラリーからクローニングする方法によって取得することもできる。
【0046】
上記「形質転換用遺伝子断片」には、上記「目的遺伝子発現カセット」および上記「糸状菌由来ポリヌクレオチド」の他に、これらのポリヌクレオチドを連結させるために人工的に挿入した制限酵素認識配列が含まれていてもよい。
【0047】
本発明に係る形質転換用プラスミドを用いてセルフクローニングを行うことを考慮すると、上記「形質転換用遺伝子断片」は、同一生物種由来のポリヌクレオチドからなるものであることが好ましい。形質転換用遺伝子断片を構成するポリヌクレオチドを提供する供与体を宿主糸状菌として形質転換を行えば、宿主糸状菌に導入される核酸は宿主と同一生物種由来の核酸のみとなるため、セルフクローニング株を取得することができる。
【0048】
本明細書において、上記「大腸菌由来のプラスミド断片」とは、本発明に係る形質転換用プラスミドが大腸菌内で安定に増幅し存在するために必要な構成を含むポリヌクレオチドを意図している。例えば、上記「大腸菌由来のプラスミド断片」には、プラスミドが大腸菌内で複製されるための複製起点、プラスミドを保持する大腸菌を選択するための抗生物質耐性遺伝子等が含まれているが、本発明はこれに限定されない。上記「大腸菌由来のプラスミド断片」は、大腸菌内において複製可能で、且つ選択マーカーを有するプラスミドから取得することができる。このようなプラスミドとしては、例えば、通常用いられる、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pUC57、pBR322、pACYC177等を挙げることができる。
【0049】
糸状菌由来ポリヌクレオチドと大腸菌由来のプラスミド断片との連結方法は、特に限定されないが、制限酵素認識配列を介して連結されていることが好ましい。このような構成であれば、糸状菌由来ポリヌクレオチドと大腸菌由来のプラスミド断片との連結部を、制限酵素を用いて切断することができる。それゆえ、本発明に係る形質転換用プラスミドから大腸菌由来のプラスミド断片を容易に除去することができる。
【0050】
連結部に用いる制限酵素認識配列としては、糸状菌由来ポリヌクレオチドにもともと存在する制限酵素認識配列を利用してもよいし、所望の制限酵素認識配列を人工的に挿入して作製してもよい。形質転換用プラスミドを制限酵素消化して大腸菌由来のプラスミド断片を除去する際に形質転換用遺伝子断片の内部が切断されないように、形質転換用遺伝子断片の内部に存在しない制限酵素認識配列であれば、連結部の制限酵素認識配列として選択することができる。汎用性を考慮すると、認識部位の出現頻度が少ない6塩基以上を認識する制限酵素の認識配列とすることが好ましく、8塩基以上を認識する制限酵素の認識配列とすることがより好ましい。6塩基を認識する制限酵素の認識配列としては、例えばGGGCCC(ApaI)、GGATCC(BamHI)、ATCGAT(ClaI)、AAGCTT(HindIII)、CCATGG(NcoI)、CATATG(NdeI)、CACGTG(PmlI)、GCATGC(SphI)、TCTAGA(XbaI)、CTCGAG(XhoI)等が挙げられる。8塩基以上を認識する制限酵素の認識配列としては、例えばGGCGCGCC(AscI)、GCGATCGC(AsiSI)、GGCCGGCC(FseI)、GCGGCCGC(NotI)、TTAATTAA(PacI)、GTTTAAAC(PmeI)、CCTGCAGG(SbfI)、GCCCGGGC(SrfI)、ATTTAAAT(SwaI)等が挙げられる。
【0051】
糸状菌由来ポリヌクレオチドと大腸菌由来のプラスミド断片との2箇所の連結部は、それぞれ別の制限酵素によって認識される制限酵素認識配列であってもよいが、制限酵素処理の効率を考慮すると、同一の制限酵素によって認識される制限酵素認識配列であることが好ましい。
【0052】
糸状菌由来ポリヌクレオチドの内部にもともと存在する制限酵素認識配列を、大腸菌由来のプラスミド断片との連結部として用いる場合には、大腸菌由来のプラスミド断片を挿入する場所は特に限定されない。一方、糸状菌由来ポリヌクレオチドの内部に人工的に制限酵素認識配列を設けて大腸菌由来のプラスミド断片を挿入する場合は、糸状菌由来ポリヌクレオチドの翻訳産物に影響を与えないように、イントロン、又はオープンリーディングフレームの上流若しくは下流の非翻訳領域に大腸菌由来のプラスミド断片を挿入することが好ましい。
【0053】
上記「糸状菌」としては、例えば、アスペルギルス属糸状菌、ペニシリウム属糸状菌、トリコデルマ属、リゾプス属、ムコール属、モナスカス属、フザリウム属等を挙げることができる。
【0054】
上記「アスペルギルス属糸状菌」としては、例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・ウサミ(Aspergillus usami)、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・ニドランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・アクレアタス(Aspergillus aculeatus)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)、アスペルギルス・フォエニシス(Aspergillus phoenicis)等を挙げることができる。
【0055】
上記「ペニシリウム属糸状菌」としては、例えば、ペニシリウム・カマンベルチ(Penicillium camamberti)、ペニシリウム・ノタトウム(Penicillium notatum)、ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)、ペニシリウム・パルロゼナム(penicillium purpurogenum)、ペニシリウム・ロックフォルティ(Penicillium roqueforti)等を挙げることができる。
【0056】
上記「トリコデルマ属糸状菌」としては、例えば、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)、トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)等を挙げることができる。
【0057】
上記「リゾプス属糸状菌」としては、例えば、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)、リゾプス・ジャポニカス(Rhizopus japonicus)等を挙げることができる。
【0058】
上記「ムコール属糸状菌」としては、例えば、ムコール・エスピー(Mucor sp.)等を挙げることができる。
【0059】
上記「モナスカス属糸状菌」としては、例えば、モナスカス・パープレウス(Monascus purpureus)等を挙げることができる。
【0060】
上記「フザリウム属糸状菌」としては、例えば、フザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)等を挙げることができる。
【0061】
本発明に係る形質転換用プラスミドを用いれば、大腸菌由来のプラスミド断片が染色体内に挿入されていない糸状菌の形質転換体を容易に且つ効率よく取得することができる。
【0062】
〔2.形質転換体の作製方法〕
本発明に係る形質転換体の作製方法は、本発明に係る形質転換用プラスミドから上記大腸菌由来のプラスミド断片を除去し、上記形質転換用遺伝子断片を取得する工程(A)と、上記工程(A)で得られた形質転換用遺伝子断片を、宿主糸状菌に導入する工程(B)とを含む。
【0063】
本発明に係る形質転換用プラスミドについては、上記「1.形質転換用プラスミド」の項で説明したとおりであるので、ここでは省略する。以下に、それぞれの工程について説明する。
【0064】
(2−1.工程(A))
工程(A)は、糸状菌の形質転換を行う前工程として、本発明に係る形質転換用プラスミドから上記大腸菌由来のプラスミド断片を除去し、上記形質転換用遺伝子断片を取得する工程である。
【0065】
形質転換用プラスミドから大腸菌由来のプラスミド断片を除去する方法としては、特に限定されない。例えば、形質転換用遺伝子断片を増幅させることができるようなプライマーペアを用いて、本発明に係る形質転換用プラスミドを鋳型としてPCRを行い、形質転換用遺伝子断片のみを増幅させる方法や、制限酵素消化によって、形質転換用プラスミドから大腸菌由来のプラスミド断片を切断する方法等を挙げることができる。
【0066】
上記「1.形質転換用プラスミド」の項において説明したように、本発明に係る形質転換用プラスミドは、糸状菌由来ポリヌクレオチドと大腸菌由来のプラスミド断片とが連結部に設けられた制限酵素認識配列によって連結されていてもよい。形質転換用遺伝子断片中には存在しない制限酵素認識配列を連結部に用いれば、係る制限酵素認識配列を認識する制限酵素を用いて消化することによって、形質転換用遺伝子断片を切断することなく、大腸菌由来のプラスミド断片と糸状菌由来ポリヌクレオチドとの連結部分を容易に切断することができる。
【0067】
形質転換用遺伝子断片を取得する方法としては、特に限定されないが、例えば、PCRまたは制限酵素消化を行った反応液を、アガロースゲル電気泳動による単離、精製操作等の通常行われる操作に供することによって大腸菌由来のプラスミド断片を除去し、糸状菌由来ポリヌクレオチドと目的遺伝子発現カセットを含む形質転換用遺伝子断片のみを取得することができる。
【0068】
尚、工程(A)で取得される形質転換用遺伝子断片は、大腸菌由来のプラスミド断片が除去されて鎖状化されたものに限定されない。大腸菌由来のプラスミド断片が除去されたて鎖状化された形質転換用遺伝子断片を、ライゲーション等によって環状化した形質転換用遺伝子断片としても用いることができる。
【0069】
(2−2.工程(B))
工程(B)は、上記工程(A)で得られた形質転換用遺伝子断片を、宿主糸状菌に導入する工程である。
【0070】
上記工程(A)で得られた形質転換用遺伝子断片を、宿主糸状菌に導入する方法は特に限定されない。例えば、カルシウム−PEG法、エレクトロポレーション法等の公知の方法を用いることができる。
【0071】
図2は、大腸菌由来のプラスミド断片を取り除いた形質転換用遺伝子断片が糸状菌染色体上のマーカー遺伝子部位に相同組換えによって挿入されることを模式的に示した図である。図2に示すように、この形質転換用遺伝子断片は、糸状菌由来ポリヌクレオチドとしてのマーカー遺伝子を目的遺伝子発現カセットによって1箇所分断した形となっている。このような構成の形質転換用遺伝子断片は、宿主染色体上のマーカー遺伝子内の同一箇所との間に容易に一重交叉相同組換えを起こし、染色体内に取り込まれる。
【0072】
宿主となる「糸状菌」については、上記「1.形質転換用プラスミド」の項で説明したとおりであるので、ここでは省略する。セルフクローニング株を取得する観点から、形質転換に用いられる上記形質転換用遺伝子断片は、上記宿主糸状菌と同一生物種由来のポリヌクレオチドからなるものであることが好ましい。換言すればセルフクローニングを行うためには、形質転換用遺伝子断片の供与体である糸状菌を宿主として遺伝子導入すればいよい。
【0073】
宿主糸状菌の染色体内の目的の位置に形質転換用遺伝子断片が挿入されたことは、サザンブロット、PCR等の従来公知の方法によって確認することができる。
【0074】
本発明に係る形質転換方法によれば、大腸菌由来のプラスミド断片が染色体内に挿入されていない糸状菌の形質転換体を容易に且つ効率よく取得することができる。また、宿主糸状菌と同一生物種由来の形質転換用遺伝子断片を導入することによって、セルフクローニング株を容易に取得することができる。
【0075】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0077】
〔実施例1:niaDマーカーを用いたα−グルコシダーゼ生産アスペルギルス・オリゼセルフクローニング株の作製〕
(1.pNENselfプラスミドの作製)
pNENselfプラスミドの構築手順を、図3に基づいて説明する。図3は、実施例1におけるpNENselfプラスミドの構築手順を示す図である。図3に示すように、まず、アスペルギルス・オリゼ由来の改良プロモーターであるP−enoA142は、pNENG142−fプラスミド(Biosci. Biotechnol. Biochem., 69(1), 206-208, 2005)を制限酵素PstI及びSalIで消化後、アガロースゲル電気泳動により単離、精製して得られた。pUC118プラスミドは、制限酵素PstI及びSalIで消化後、アガロースゲル電気泳動により単離、精製して取得された。その後アルカリフォスファターゼでpUC118プラスミドの脱リン酸化を行った。
【0078】
このようにして調製したpUC118プラスミドと、プロモーター(P−enoA142)とをライゲーションし、pUC−enoA142プラスミドを得た。
【0079】
次いで、アスペルギルス・オリゼ由来のα−グルコシダーゼターミネーター(配列番号1)を、SalI−SmaI断片となるようにプライマーA(配列番号2)とプライマーB(配列番号3)とを用いてアスペルギルス・オリゼRIB40株ゲノムを鋳型としてPCR法により取得した。得られたPCR産物を制限酵素SalI及びSmaIで消化後、アガロースゲル電気泳動により単離、精製した。pUC−enoA142プラスミドは、制限酵素SalI及びSmaIで消化後、アガロースゲル電気泳動により単離、精製された。
【0080】
このようにして調製したpUC−enoA142プラスミドと、α―グルコシダーゼターミネーターとをライゲーションし、pUC−enoA142−TagdAプラスミドを得た。
【0081】
次いで、アスペルギルス・オリゼ由来niaDマーカー(配列番号4)の6番イントロン中間部から3’非翻訳領域及びターミネーター部分を含む後半領域(niaD-F)を、AscI−SmaI断片となるようにプライマーC(配列番号5)とプライマーD(配列番号6)とを用いてアスペルギルス・オリゼRIB40株ゲノムを鋳型としてPCR法により取得した。得られたPCR産物を制限酵素SmaIで消化後、アガロースゲル電気泳動により単離、精製した。その後T4ポリヌクレオチドキナーゼにてリン酸化を行った。pUC−enoA142−TagdAプラスミドは、制限酵素SapIで消化後、T4DNAポリメラーゼにて末端平滑化した。その後さらにSmaI消化を行い、アガロースゲル電気泳動により単離、精製した後、アルカリフォスファターゼで脱リン酸化を行った。
【0082】
このようにして調製したpUC−enoA142−TagdAプラスミドと、niaDマーカーの後半領域(niaD-F)とをライゲーションした。得られたプラスミドにおけるniaDマーカーの後半領域(niaD-F)の挿入方向を確認し、pUC−enoA142−TagdA−niaDFプラスミドを得た。
【0083】
次いで、アスペルギルス・オリゼ由来niaDマーカーのプロモーター領域から6番イントロン中間部までを含む前半領域(niaD-L)を、PstI−AscI断片となるようにプライマーE(配列番号7)とプライマーF(配列番号8)とを用いてアスペルギルス・オリゼRIB40株ゲノムを鋳型としてPCR法により取得した。得られたPCR産物を制限酵素PstIで消化後、アガロースゲル電気泳動で単離、精製した。pUC−enoA142−TagdA−niaDFプラスミドは、制限酵素DraIIIで消化後、T4 DNAポリメラーゼにて末端平滑化された。その後、PstI消化を行って、アガロースゲル電気泳動により単離、精製した。
【0084】
このようにして調製したpUC−enoA142−TagdA−niaDFプラスミドと、niaDマーカーの前半領域(niaD-L)とをライゲーションしてpNENselfプラスミドを得た。
【0085】
(2.pNENself−agdAプラスミドの作製)
図4は、実施例1において使用したpNENself−agdAプラスミドを示す図である。アスペルギルス・オリゼ由来のα−グルコシダーゼ遺伝子(配列番号9)を、SalI−SalI断片となるようにプライマーG(配列番号10)とプライマーH(配列番号11)とを用いてアスペルギルス・オリゼRIB40株ゲノムを鋳型としてPCR法により取得した。得られたPCR産物を制限酵素SalIで消化後、アガロースゲル電気泳動で単離、精製した。pNENselfプラスミドは、制限酵素SalIで消化後、アガロースゲル電気泳動により単離、精製された。pNENselfプラスミドは、その後アルカリフォスファターゼで脱リン酸化された。
【0086】
このようにして調製したpNENselfプラスミドと、α−グルコシダーゼ遺伝子とをライゲーションした。得られたプラスミドにおけるα−グルコシダーゼ遺伝子の挿入方向を確認し、pNENself−agdAプラスミドを得た。
【0087】
(3.形質転換用遺伝子断片の調製)
pNENself−agdAプラスミドを保持した大腸菌を50μg/mlのアンピシリンナトリウムを含むLB培地100mlにて37℃、一晩培養した。培養後、遠心操作で菌体を集めた。市販のプラスミド抽出キットを用いてこの菌体よりプラスミドを抽出した。次にこのプラスミド約100μgを制限酵素AscIで消化し、アガロースゲル電気泳動で約9.2kbpの、分断されたniaDマーカーとα−グルコシダーゼ発現カセットからなる形質転換用遺伝子断片を単離、精製した。
【0088】
(4.形質転換体の取得とα−グルコシダーゼ発現量の確認)
上述のように取得した形質転換用遺伝子断片20μgを用いて、プロトプラスト−PEG法によりアスペルギルス・オリゼniaD300株を形質転換し、9株の形質転換体を得た。これら形質転換体をデキストリン・ペプトン培地(2%デキストリン、1%ポリペプトン、0.5%KHPO、0.05%MgSO・7HO)で30℃、3日間振とう培養し、その後、培養液と菌体を分離した。
【0089】
培養液のうち400μlを分画分子量10,000のウルトラフリー(ミリポア社製)にて濃縮し、培養液200μl分をSDS−PAGEに供した。結果を図5に示す。図5は、実施例1において得られた形質転換体がα−グルコシダーゼを発現していることを示す図である。図5に示すように、9株の形質転換体は全てα−グルコシダーゼを発現していた。
【0090】
また、デキストリン・ペプトン培地に小麦ふすまを1%(w/v)加えた培地で形質転換体を30℃、3日間振とう培養した培養液中のα−グルコシダーゼ活性を、4−ニトロフェニルα−D−グルコピラノシドを基質として測定したところ、形質転換体のα−グルコシダーゼ活性は比活性で1mgタンパク質あたり3.1Uであり、親株である宿主(アスペルギルス・オリゼniaD300株)のα−グルコシダーゼ活性0.2Uと比べて10倍以上高かった。
【0091】
(5.形質転換体のサザンブロット解析)
上述の形質転換体のうち3株を選び、定法によりゲノムDNAを抽出した。このゲノムDNAをSalI及びSmaIを用いて消化し、niaD及びpUC118をプローブとしてサザンブロット解析を行った。
【0092】
結果を図6に示す。図6は、実施例1において得られた形質転換体の染色体上にα−グルコシダーゼ発現カセットが組み込まれていることを示す図である。図6の(a)はniaDをプローブとした場合、(b)はpUC118をプローブとした場合の結果を表している。図6に示すように、niaDをプローブとした場合には、いずれの株も、niaD遺伝子座に相同的に1コピー挿入されたことを示す、7.6kbp及び5.9kbpの2本のバンドが検出された。pUC118をプローブとした場合には、いずれの株も、いかなるバンドも検出されなかった。この結果から、形質転換体のいずれの株にも、大腸菌由来のプラスミド断片はゲノムに挿入されておらず、形質転換体はいずれもセルフクローニング株であることが確認できた。
【0093】
〔実施例2:sCマーカーを用いたα−グルコシダーゼ生産アスペルギルス・オリゼセルフクローニング株の作製〕
(1.pSENselfプラスミドの作製)
pSENselfプラスミドの構築手順を、図7に基づいて説明する。図7は、実施例2におけるpSENselfプラスミドの構築手順を示す図である。図7に示すように、まず、アスペルギルス・オリゼ由来sCマーカー(配列番号12)のプロモーター領域から3’非翻訳領域中間部までの前半領域(sC−F)を、SmaI−SwaI断片となるようにプライマーI(配列番号13)とプライマーJ(配列番号14)とを用いてアスペルギルス・オリゼRIB40株ゲノムを鋳型としてPCR法により取得した。得られたPCR産物を制限酵素SmaIで消化後、アガロースゲル電気泳動で単離、精製した。その後、得られたPCR産物をT4ポリヌクレオチドキナーゼにてリン酸化を行った。
【0094】
実施例1にて作製したpUC−enoA142−TagdAプラスミドを、制限酵素SapIで消化後、T4 DNAポリメラーゼにて末端平滑化した。その後、さらにSmaIで消化を行い、アガロースゲル電気泳動により単離、精製した後、アルカリフォスファターゼで脱リン酸化を行った。
【0095】
このようにして調製したpUC−enoA142−TagdAプラスミドと、sCマーカーの前半領域(sC−F)とをライゲーションした。得られたプラスミドにおけるsCマーカーの前半領域(sC−F)の挿入方向を確認し、pUC−enoA142−TagdA−sCFプラスミドを得た。
【0096】
次いで、アスペルギルス・オリゼ由来sCマーカーの後半領域(sC−L)を、SwaI−PshAI断片となるようにプライマーK(配列番号15)とプライマーL(配列番号16)とを用いてアスペルギルス・オリゼRIB40株ゲノムを鋳型としてPCR法により取得した。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動で単離、精製した後、T4ポリヌクレオチドキナーゼにてリン酸化を行った。pUC−enoA142−TagdA−sCFプラスミドを、制限酵素PshAIで消化後、アルカリフォスファターゼで脱リン酸化を行い、アガロースゲル電気泳動により単離、精製した。このようにして調製したpUC−enoA142−TagdA−sCFプラスミドと、sCマーカーの後半領域(sC−L)とをライゲーションした。得られたプラスミドにおけるsCマーカーの後半領域(sC−L)の挿入方向を確認し、pSENselfプラスミドを得た。
【0097】
(2.pSENself−agdAプラスミドの作製)
pSENselfプラスミドを、制限酵素SalIで消化後、アガロースゲル電気泳動により単離、精製した。その後、アルカリフォスファターゼで脱リン酸化を行い、実施例1で調製したα−グルコシダーゼ遺伝子とライゲーションを行った。得られたプラスミドにおけるα−グルコシダーゼ遺伝子の挿入方向を確認し、pSENself−agdAプラスミドを得た。
【0098】
(3.形質転換用遺伝子断片の調製)
pSENself−agdAプラスミドを保持した大腸菌を50μg/mlのアンピシリンナトリウムを含むLB培地100mlにて37℃、一晩培養し、遠心操作で菌体を集めた。市販のプラスミド抽出キット(キアゲン社製QIAprep Spin Miniprep Kit)を用いてこの菌体よりプラスミドを抽出した。次にこのプラスミド約100μgを制限酵素SwaIで消化し、アガロースゲル電気泳動で約8.6kbpの、分断されたsCマーカーとα−グルコシダーゼ発現カセットからなる形質転換用遺伝子断片を単離、精製した。
【0099】
(4.形質転換体の取得とα−グルコシダーゼ発現量の確認)
上述のように取得した形質転換用遺伝子断片20μgを用いて、プロトプラスト−PEG法によりアスペルギルス・オリゼNS4株を形質転換し、5株の形質転換体を得た。これら形質転換体をデキストリン・ペプトン培地(2%デキストリン、1%ポリペプトン、0.5%KH2PO4、0.05%MgSO4・7H2O)で30℃、3日間振とう培養し、その後、培養液と菌体を分離した。培養液のうち400μlを分画分子量10,000のウルトラフリー(ミリポア社製)にて濃縮し、培養液200μl分をSDS−PAGEに供した。結果を図8に示す。図8は、実施例2において得られた形質転換体がα−グルコシダーゼを発現していることを示す図である。図8に示すように、5株の形質転換体は全てα−グルコシダーゼを発現していた。
【0100】
(5.形質転換体のサザンブロット解析)
上述の形質転換体のうち2株を選び、定法によりゲノムDNAを抽出した。このゲノムDNAをSmaI消化し、sC及びpUC118をプローブとしてサザンブロット解析を行った。
【0101】
結果を図9に示す。図9は、実施例2において得られた形質転換体の染色体上にα−グルコシダーゼ発現カセットが組み込まれていることを示す図である。図9の(a)はsCをプローブとした場合、(b)はpUC118をプローブとした場合の結果を表している。図9に示すように、sCをプローブとした場合には、いずれの株も、sC遺伝子座に相同的に2コピー以上挿入されたことを示す、9.7kbp、8.6kbp及び4.5kbpの3本のバンドが検出された。pUC118をプローブとした場合には、いずれの株も、いかなるバンドも検出されなかった。この結果から、形質転換体のいずれの株にも、大腸菌由来のプラスミド断片はゲノムに挿入されておらず、形質転換体はいずれもセルフクローニング株であることが確認できた。
〔実施例3:アスペルギルス・ニガー由来niaDマーカーを用いたβ−グルコシダーゼ生産アスペルギルス・ニガーセルフクローニング株の作製〕
(1.regionIII 12タンデムリピートの作製)
アスペルギルス・ニガーのα−グルコシダーゼ遺伝子の上流−558〜−503bp(「regionIII」という)を、プライマーM(配列番号17)およびプライマーN(配列番号18)を用いて、アスペルギルス・ニガーIFO4343株のゲノムDNAを鋳型とするPCRにより取得した。プライマーMおよびNによって増幅を行うと、PCR産物にそれぞれSmaI切断部位、EcoRV切断部位が含まれるようになる。
【0102】
このPCR産物をSmaI処理したpUC118に導入し、「region III1個導入プラスミド」を構築した。次いで、前述のPCR産物をSmaIおよびEcoRVで消化し、EcoRV処理および脱リン酸化したregionIII1個導入プラスミドに導入して、regionIIIが同方向に2個並んだ「regionIII2個導入プラスミド」を構築した。次いで、regionIII2個導入プラスミドをSmaIおよびEcoRVで消化し、regionIIIが2個含まれる断片を取り出し、EcoRV処理および脱リン酸化したregionIII2個導入プラスミドに導入、regionIIIが同方向に4個並んだ「regionIII4個導入プラスミド」を構築した。以後、上記操作を繰り返すことにより、regionIIIが同方向に8個並んだプラスミド、およびregionIIIが同方向に12個並んだプラスミドを作製した。これらプラスミドをSmaIおよびEcoRVで処理すると、外来の配列を全く含まずに任意の個数からなるregionIII断片を取得することができる。
【0103】
プロモーター領域としてアスペルギルス・ニガーのエノラーゼ遺伝子の上流−997〜−1bp(「PenoA」という)を、プライマーO(配列番号19)およびプライマーP(配列番号20)を用いて、アスペルギルス・ニガーIFO4343株のゲノムDNAを鋳型とするPCRにより取得した。このPCR産物をSmaI処理したpUC118に導入し、「pUC−PenoA」を構築した(図11)。次いで、pUC−PenoAをSmaIで消化し、SmaI部位に上述したregionIIIが同方向に12個並んだ断片を導入して「pUC−PenoA12」を構築した(図11)。このPenoAのSmaI部位にregionIIIが同方向に12個並んだプロモーター断片を「PenoA12」と称する。
【0104】
(2.pANNENselfプラスミドの作製)
pUC118プラスミドをXmaIおよびHindIIIで消化した後、プラスミド断片の精製を行った。この断片に以下に示す2つのインサートを導入した。
【0105】
ターミネーター領域の調製:ターミネーター領域としてアスペルギルス・ニガーのカタラーゼR遺伝子の下流7〜767塩基からなる断片(TcatRフラグメント)を、プライマーQ(配列番号21)およびプライマーR(配列番号22)を用いて、アスペルギルス・ニガーIFO4343株のゲノムDNAを鋳型とするPCRにより取得した。PCR産物を精製後、XmaIおよびPmlIで消化を行った。
【0106】
niaDマーカー前半(niaD−L)の調製:アスペルギルス・ニガー由来niaDマーカーの6番イントロン中間部から5’非翻訳領域及びプロモーター部分を含む前半領域(niaD−L)を、断片となるようにプライマーS(配列番号23)およびプライマーT(配列番号24)を用いてアスペルギルス・ニガーIFO4343株ゲノムDNAを鋳型とするPCRにより取得した。PCR産物を精製後、PmlIおよびHindIIIで消化を行った。
【0107】
上記のようにして調製したpUC118断片、ターミネーター断片、niaDマーカー前半断片をライゲーションし、プラスミド1(5648bp)を得た(図11)。
【0108】
次いで、プラスミド1をXmaIおよびBmtIで消化した後、プラスミド断片の精製を行った。この断片に以下に示す2つのインサートを導入した。
【0109】
プロモーター領域の調製:プロモーター領域を取得するため、プライマーU(配列番号25)およびプライマーV(配列番号26)を用いて、前述したPenoA12を鋳型としてPCRを行った。PCR精製後、NotIおよびBmtIで消化を行った。なお、このPCR断片は、PenoAの3’末端側の10塩基が欠失している。
【0110】
niaDマーカー後半の調製(niaD−F):次いで、アスペルギルス・ニガー由来niaDマーカーの6番イントロン中間部から3’非翻訳領域及びターミネーター部分を含む後半領域(niaD−F)を、断片となるようにプライマーW(配列番号27)およびプライマーX(配列番号28)を用いて、アスペルギルス・ニガーIFO4343株ゲノムDNAを鋳型とするPCRにより取得した。PCR産物を精製後、PmlIおよびHindIIIで消化を行った。
【0111】
調製したプラスミド1断片、プロモーター断片、およびniaDマーカー後半断片(niaD−F)をライゲーションし、プラスミドpANNselfを得た(図11)。
【0112】
(3.β−グルコシダーゼ遺伝子の導入)
アスペルギルス・ニガー由来のβ−グルコシダーゼ遺伝子(配列番号31)を、プライマーY(配列番号29)およびプライマーZ(配列番号30)を用いて、アスペルギルス・ニガーIFO4343株ゲノムDNAを鋳型とするPCR法により取得した。なお、In−Fusion Advantage PCR cloning Kit(タカラバイオ株式会社)を用いてBmtI処理したpANNselfに導入するために、プライマーYおよびZにはBmtI処理したpANNselfの末端配列15塩基の相同な領域を付加した。さらに、β−グルコシダーゼ遺伝子の5‘側にPenoAの欠失した10塩基が付加され、かつ3’側にカタラーゼR遺伝子の下流側で欠失した6塩基が付加されるように、プライマーYおよびZは設計された。次いで、In−Fusion反応にてpANNselfにβ−グルコシダーゼ遺伝子を導入し、pANNself−BGL1(図12)を得た。
【0113】
(4.形質転換用断片の作製)
pANNself−BGL1プラスミドを保持した大腸菌を50μg/mlのアンピシリンナトリウムを含むLB培地100mlにて37℃、一晩培養した。培養後、遠心操作で菌体を集めた。市販のプラスミド抽出キット(キアゲン社製QIAprep Spin Miniprep Kit)を用いてこの菌体よりpANNself−BGL1プラスミドを抽出した。次にこのプラスミド約100μgを制限酵素SwaIで消化し、アガロースゲル電気泳動で約9.6kbpの、分断されたniaDマーカーとβ−グルコシダーゼ発現カセットとからなる形質転換用遺伝子断片を単離し、精製した。
【0114】
(5.形質転換体の取得とβ−グルコシダーゼ発現量の確認)
上述のように取得した形質転換用遺伝子断片20μgを用いて、プロトプラスト−PEG法によりアスペルギルス・ニガーNS48株(IFO4343株の硝酸還元酵素およびATPスルフリラーゼ欠損株(Gene, 84, 329-334, 1989))を形質転換し、6株の形質転換体を得た。これら形質転換体をデキストリン・ペプトン培地(2%デキストリン、1%ポリペプトン、0.5%KHPO、0.05%MgSO・7HO)で30℃、5日間振とう培養し、その後、培養液と菌体を分離した。
【0115】
培養液のうち5μl分をSDS−PAGEに供した。SDS−PAGEの結果を図13に示す。図13は、実施例3において得られた形質転換体がβ−グルコシダーゼを発現していることを示す図である。図13に示すように、6株の形質転換体は全てβ−グルコシダーゼを発現していた。
【0116】
また、培養液中のβ−グルコシダーゼ活性を、p−ニトロフェニル−β−D−グルコピラノシドを基質として測定したところ、形質転換体のβ−グルコシダーゼ活性は402.5U/mlであり、親株である宿主(アスペルギルス・ニガーNS48株)のβ−グルコシダーゼ活性1.4U/mlより250倍以上高かった。
【0117】
(6.形質転換体のサザンブロット解析)
上述の形質転換体のうち1株を選び、定法によりゲノムDNAを抽出した。このゲノムDNAを、pUC118を切断しない酵素であるNheIを用いて消化し、niaD及びpUC118をプローブとしてサザンブロット解析を行った。
【0118】
結果を図14に示す。図14は、実施例3において得られた形質転換体の染色体上にβ−グルコシダーゼ発現カセットが組み込まれていることを示す図である。図14の(a)はniaDをプローブとした場合、(b)はpUC118をプローブとした場合の結果を表している。図14に示すように、niaDをプローブとした場合には、いずれの株も、niaD遺伝子座に相同的に1コピー挿入されたことを示す、7.3kbp及び14.0kbpの2本のバンドが検出された。pUC118をプローブとした場合には、いかなるバンドも検出されなかった。この結果から、形質転換体のゲノムに大腸菌由来のプラスミド断片は挿入されておらず、形質転換体はセルフクローニング株であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明によれば、大腸菌由来のプラスミド断片が染色体内に挿入されていない形質転換体を容易に且つ効率よく取得することができる。また、糸状菌のセルフクローニング株を容易に且つ効率よく取得することができる。従って、本発明は、糸状菌を用いてタンパク質を産生させる、医薬、検査薬、食品等の産業において利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸状菌を形質転換するためのプラスミドであって、
形質転換用遺伝子断片と、大腸菌由来のプラスミド断片とを含み、
上記形質転換用遺伝子断片は、糸状菌由来ポリヌクレオチドと、目的遺伝子発現カセットとを含み、
上記大腸菌由来のプラスミド断片は、上記糸状菌由来ポリヌクレオチドの内部に挿入されるように連結されていることを特徴とする形質転換用プラスミド。
【請求項2】
上記形質転換用遺伝子断片は、同一生物種由来のポリヌクレオチドからなることを特徴とする請求項1に記載の形質転換用プラスミド。
【請求項3】
上記糸状菌由来ポリヌクレオチドは、マーカー遺伝子であることを特徴とする請求項1または2に記載の形質転換用プラスミド。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の形質転換用プラスミドから上記大腸菌由来のプラスミド断片を除去し、上記形質転換用遺伝子断片を取得する工程(A)と、
上記工程(A)で得られた形質転換用遺伝子断片を、宿主糸状菌に導入する工程(B)とを含むことを特徴とする糸状菌の形質転換方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図13】
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【図14】
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