説明

糸用コーティング剤およびこれを塗布した糸

【課題】 糸との密着性が良好であり、外観、平滑性を向上させ、優れた強度を付与できる糸用コーティング剤およびこれを塗布した糸を提供する。
【解決手段】 ポリオレフィン樹脂(A)とポリウレタン樹脂(B)とを含有するコーティング剤であって、ポリオレフィン樹脂(A)が、不飽和カルボン酸成分(a1)とエチレン系炭化水素成分(a2)とを含有する共重合体であり、ポリオレフィン樹脂(A)における不飽和カルボン酸成分(a1)の含有量が0.01〜10質量%であり、ポリウレタン樹脂(B)のガラス転移温度が20℃以上であることを特徴とする糸用コーティング剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン糸などの糸との密着性が良好であり、外観、平滑性、耐水性を向上させ、優れた強度を付与できる糸用コーティング剤およびこれを塗布してなる糸に関する。
【背景技術】
【0002】
超高分子量ポリエチレン糸などに代表される糸は、高強力であり、例えば、釣り糸や漁網などの水産資材、各種ロープ、ミシン系、防護衣料、スポーツ衣料、幕材またはゴルフネットなど各種分野で使用されている。しかし、それぞれの分野において近年種々の進歩がみられ、上記のような超高分子量ポリエチレン糸を用いた製品に対しても、より一層の高性能化が求められている。
通常、糸は、高強度化、低伸度化の点から、何本かを束ねた状態(例えば、組紐など)で使用されたり、他の樹脂や金属からなる糸と組み合わせて使用される(例えば、特許文献1、2)。その場合、糸表面の平滑性が損なわれたり、それによって糸の耐摩擦性、耐磨耗性などの性能が低下するという問題があった。また、糸の平滑性を向上させるためにポリエチレンを溶融させて糸表面を平滑にする方法が知られているが、この方法では糸の強度が著しく低下して、本来有していた高強度の性質が失われてしまうことがあった。
【特許文献1】特開2002−339179号公報
【特許文献2】特開2003−134979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は前記問題点を解決し、糸との密着性が良好であり、外観、平滑性を向上させ、優れた強度を付与できる糸用コーティング剤およびこれを塗布した糸を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、特定のポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂とを含有するコーティング剤を糸に塗布することによって上記問題が解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち本発明の要旨は下記の通りである。
(1)ポリオレフィン樹脂(A)とポリウレタン樹脂(B)とを含有するコーティング剤であって、ポリオレフィン樹脂(A)が、不飽和カルボン酸成分(a1)とエチレン系炭化水素成分(a2)とを含有する共重合体であり、ポリオレフィン樹脂(A)における不飽和カルボン酸成分(a1)の含有量が0.01〜10質量%であり、ポリウレタン樹脂(B)のガラス転移温度が20℃以上であることを特徴とする糸用コーティング剤。
(2)ポリオレフィン樹脂(A)が、さらに(メタ)アクリル酸エステル成分(a3)を含有する共重合体であることを特徴とする(1)記載のコーティング剤。
(3)ポリオレフィン樹脂(A)とポリウレタン樹脂(B)との質量比(A/B)が95/5〜30/70であることを特徴とする(1)または(2)記載のコーティング剤。
(4)コーティング剤の媒体が水性媒体であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のコーティング剤。
(5)さらにワックス(C)を含有し、ワックス(C)の含有量がコーティング剤中の樹脂の合計固形分100質量部に対して2〜100質量部であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のコーティング剤。
(6)さらに架橋剤(D)を含有し、架橋剤(D)の含有量がコーティング剤中の樹脂の合計固形分100質量部に対して0.1〜20質量部であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のコーティング剤。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載のコーティング剤が塗布されてなる糸。
【発明の効果】
【0005】
本発明のコーティング剤は、ポリエチレンなどの糸、特に超高分子量のポリエチレン糸との密着性に優れ、これを塗布することで、糸の平滑性、耐水性、耐塩水性が向上するばかりでなく、糸の強度を保持するという思いがけない効果が認められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のコーティング剤は、ポリオレフィン樹脂(A)とポリウレタン樹脂(B)とを含有し、前記ポリオレフィン樹脂(A)は、不飽和カルボン酸成分(a1)とエチレン系炭化水素成分(a2)との共重合体であり、ポリオレフィン樹脂(A)における不飽和カルボン酸成分(a1)の含有量は0.01〜10質量%であることが必要である。
【0007】
[ポリオレフィン樹脂(A)]
本発明において、ポリオレフィン樹脂(A)は、コーティング剤を水性とする点や、ポリウレタン樹脂(B)との相溶性や被膜の耐水性、耐アルカリ性などの点から、不飽和カルボン酸成分(a1)を0.01〜10質量%含有することが必要であり、0.01〜5質量%含有することが好ましく、0.1〜5質量%含有することがより好ましく、0.5〜5質量%含有することがさらに好ましく、1〜4質量%含有することが最も好ましい。不飽和カルボン酸成分(a1)の含有量が0.01質量%未満の場合は、ポリウレタン樹脂(B)との相溶性が低下したり、水性コーティング剤として用いることが困難になる傾向がある。一方、含有量が10質量%を超える場合には、ポリオレフィン樹脂の極性が高くなり、極性の低いポリエチレン糸などの糸との密着性が低下しやすい。
【0008】
不飽和カルボン酸成分(a1)は、分子内(モノマー単位内)に少なくとも1個のカルボキシル基または酸無水物基を有する化合物であり、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。
不飽和カルボン酸は、ポリオレフィン樹脂(A)中に共重合されていればよく、その形態は限定されず、例えばランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。
【0009】
ポリオレフィン樹脂(A)に含有されるエチレン系炭化水素成分(a2)としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等の炭素数2〜6のオレフィン化合物を挙げることができ、この中でもエチレン、プロピレンが好ましく、エチレンが最も好ましい。
【0010】
本発明において、ポリオレフィン樹脂(A)は、不飽和カルボン酸成分(a1)と、エチレン系炭化水素成分(a2)とに加えて、さらに(メタ)アクリル酸エステル成分(a3)を含有してもよい。
(メタ)アクリル酸エステル成分(a3)としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸エステル類、ぎ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミドなどのアクリルアミド類などが挙げられ、これらの混合物を用いてもよい。この中で、(メタ)アクリル酸エステル類がより好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、あるいは(メタ)アクリル酸エチルが特に好ましく、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルが最も好ましい。(なお、「(メタ)アクリル酸〜」とは、「アクリル酸〜またはメタクリル酸〜」を意味する。)
【0011】
上記のような(メタ)アクリル酸エステル成分(a3)成分を含有するポリオレフィン樹脂(A)の具体例としては、エチレン−アクリル酸メチル−無水マレイン酸三元共重合体、エチレン−アクリル酸エチル−無水マレイン酸三元共重合体が最も好ましい樹脂として挙げられる。三元共重合体の形態はランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等のいずれでもよいが、入手が容易という点でランダム共重合体、グラフト共重合体が好ましい。
【0012】
アクリル酸エステル単位は、樹脂の水性化の際に、エステル結合のごく一部が加水分解してアクリル酸単位に変化することがあるが、その様な場合には、それらの変化を加味した各構成成分の比率が規定の範囲にあればよい。
なお、本発明で用いる無水マレイン酸単位を含有するポリオレフィン樹脂中のマレイン酸単位は、乾燥状態では隣接カルボキシル基が脱水環化した無水マレイン酸構造を取りやすく、一方、後述する塩基性化合物を含有する水性媒体中ではその一部、または全部が開環してマレイン酸、あるいはその塩の構造を取りやすくなる。
【0013】
ポリオレフィン樹脂(A)が(メタ)アクリル酸エステル成分(a3)を含有する場合、(a2)成分と(a3)成分との質量比(a2/a3)は、55/45〜99/1であることが好ましく、ポリエチレン糸などの糸との良好な密着性を持たせるために、70/40〜97/3であることがより好ましく、耐ブロッキング性の点から、75/35〜97/3であることがさらに好ましく、80/20〜97/3であることが特に好ましく、85/15〜97/3であることが最も好ましい。(a3)成分の比率が1質量%未満では、ポリウレタン樹脂(B)との相溶性が低下したり、樹脂を水性とすることが困難になる。一方、化合物(a3)の含有量が45質量%を超えるとオレフィン由来の樹脂の性質が失われ、耐水性、密着性等の性能が低下する。
【0014】
本発明において、ポリオレフィン樹脂(A)は、(メタ)アクリル酸エステル成分(a3)を含有しないポリオレフィン樹脂(A1)と、(a3)成分を含有するポリオレフィン樹脂(A2)とを混合して用いてもよい。その場合の混合比は特に限定されないが、被膜の耐水性、耐アルカリ性、耐磨耗性の点から、固形分質量比(A1/A2)が50/50〜5/95が好ましく、40/60〜15/85がより好ましい。
【0015】
本発明において、ポリオレフィン樹脂(A)としては、分子量の目安となる190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが、0.01〜1000g/10分、好ましくは1〜500g/10分、より好ましくは2〜400g/10分、最も好ましくは2〜300g/10分のものを用いることができる。ポリオレフィン樹脂(A)のメルトフローレートが0.01g/10分未満の樹脂は高粘度になり生産が困難になる。一方、ポリオレフィン樹脂(A)のメルトフローレートが1000g/10分を超えると、基材との密着性や耐磨耗性等の機械的物性が低下する。
【0016】
ポリオレフィン樹脂(A)の合成法は特に限定されず、一般的には、ポリオレフィン樹脂を構成するモノマーをラジカル発生剤の存在下、高圧ラジカル共重合して得られる。また、不飽和カルボン酸、あるいはその無水物はグラフト共重合(グラフト変性)されていてもよい。
【0017】
[ポリウレタン樹脂(B)]
本発明で用いるポリウレタン樹脂(B)とは、主鎖中にウレタン結合を含有する高分子であり、例えばポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との反応で得られるものである。本発明においては、ポリウレタン樹脂(B)の構造は特に限定されないが、耐ブロッキング性の点から、ガラス転移温度が20℃以上であることが必要であり、さらに耐摩擦性の点から、40℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、70℃以上が特に好ましい。また、樹脂骨格は、後述するようなポリエーテルタイプ、ポリエステルタイプ、ポリカーボネートタイプ等が挙げられ、どのようなものでも差し支えないが、耐磨耗性の点からポリカーボネートタイプが好ましい。
【0018】
本発明におけるポリウレタン樹脂(B)は、ポリオレフィン樹脂(A)との相溶性や水性コーティング剤として用いる場合の水性媒体への分散性の点から陰イオン性基を有していることが好ましい。陰イオン性基とは水性媒体中で陰イオンとなる官能基のことであり、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、硫酸基、リン酸基などである。この中でもカルボキシル基を有していることが好ましい。
【0019】
ポリウレタン樹脂(B)を構成するポリオール成分としては、特に限定されず、例えば、水、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、メチル−1,5−ペンタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどの低分子量グリコール類、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの低分子量ポリオール類、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド単位を有するポリオール化合物、ポリエーテルジオール類、ポリエステルジオール類などの高分子量ジオール類、ビスフェノールAやビスフェノールFなどのビスフェノール類、ダイマー酸のカルボキシル基を水酸基に転化したダイマージオール等が挙げられる。
【0020】
また、ポリイソシアネート成分としては、芳香族、脂肪族および脂環族の公知ジイソシアネート類の1種または2種以上の混合物を用いることができる。ジイソシアネート類の具体例としては、トリレンジジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジメリールジイソシアネート、リジンジイソシアネート、水添4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、水添トリレンジジイソシアネート、ダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート、およびこれらのアダクト体、ビウレット体、イソシアヌレート体などが挙げられる。また、ジイソシアネート類にはトリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネートなどの3官能以上のポリイソシアネート類を用いてもよい。
【0021】
また、ポリウレタン樹脂に陰イオン性基を導入するには、カルボキシル基、スルホン酸基、硫酸基、リン酸基などを有するポリオール成分を用いればよく、カルボキシル基を有するポリオール化合物としては、3,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシエチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシプロピル)プロピオン酸、ビス(ヒドロキシメチル)酢酸、ビス(4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン酸、酒石酸、N,N−ジヒドロキシエチルグリシン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−カルボキシル−プロピオンアミド等が挙げられる。
【0022】
また、鎖長延長剤を用いて適宜ポリウレタン樹脂の分子量を調整することもできる。こうした化合物としては、イソシアネート基と反応することができるアミノ基や水酸基などの活性水素を2個以上有する化合物が挙げられ、例えば、ジアミン化合物、ジヒドラジド化合物、グリコール類を用いることができる。
ジアミン化合物としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリエチルテトラミン、ジエチレントリアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン−4,4′−ジアミンなどが挙げられる。その他、N−2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、N−3−ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等の水酸基を有するジアミン類およびダイマー酸のカルボキシル基をアミノ基に転化したダイマージアミン等も挙げられる。更に、グルタミン酸、アスパラギン、リジン、ジアミノプロピオン酸、オルニチン、ジアミノ安息香酸、ジアミノベンゼンスルホン酸等のジアミン型アミノ酸類も挙げられる。
ジヒドラジド化合物としては、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシンジヒドラジドなどの2〜18個の炭素原子を有する飽和脂肪族ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジドなどの不飽和ジヒドラジド、炭酸ジヒドラジド、カルボジヒドラジド、チオカルボジヒドラジドなどが挙げられる。
グリコール類としては、前述のポリオール類から適宜選択して用いることができる。
【0023】
[コーティング剤]
本発明のコーティング剤中のポリオレフィン樹脂(A)とポリウレタン樹脂(B)との質量比(A/B)は、ポリエチレン糸などの糸との密着性、耐ブロッキング性、糸の平滑性、耐摩擦性、強度のバランスを取る上で、95/5〜30/70であることが好ましく、90/10〜40/60であることがより好ましく、90/10〜50/50であることがさらに好ましく、85/15〜60/40であることが特に好ましい。
【0024】
本発明のコーティング剤は糸にコートできればどのような形態であってもよく、例えば、樹脂を溶融状態で用いるホットメルトタイプや、有機溶剤中に樹脂を溶解または分散させて用いる溶剤タイプや、水を主成分とする水性媒体中に樹脂を溶解または分散させてもちいる水性タイプ(エマルションタイプ)等が挙げられる。この中でも、環境の面、職場環境の面、安全性の面、作業性の面から水性タイプのコーティング剤を用いるのが最も好ましい。
【0025】
次に、本発明のコーティング剤を水性タイプとして用いる場合についての方法を記載する。
本発明の水性のコーティング剤を得るには、ポリオレフィン樹脂(A)およびポリウレタン樹脂(B)の樹脂混合物を同時に1つの容器で水性化(水性媒体に分散すること)してもよいし、それぞれの樹脂の水性分散体を所望の組成になるように混合してもよく、後者の方法が好ましい。以下、この好ましい方法について詳述する。
【0026】
ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体を得るための方法は特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン樹脂(A)と水性媒体とを密閉可能な容器中で加熱、攪拌する方法を採用することができる。このとき、水性化に用いられる樹脂の形状は特に限定されないが、水性化速度を速めるという点から、粒子径1cm以下、好ましくは0.8cm以下の粒状ないしは粉末状のものを用いることが好ましい。
【0027】
容器としては、液体を投入できる槽を備え、槽内に投入された水性媒体と樹脂との混合物を適度に撹拌できるものであればよい。そのような装置としては、固/液撹拌装置や乳化機として広く当業者に知られている装置を使用することができ、0.1MPa以上の加圧が可能な装置を使用することが好ましい。撹拌の方法、撹拌の回転速度は特に限定されない。
【0028】
この装置の槽内に各原料を投入した後、好ましくは40℃以下の温度で攪拌混合しておく。次いで、槽内の温度を50〜200℃、好ましくは60〜200℃の温度に保ちつつ、好ましくは5〜120分間攪拌を続けることにより樹脂を十分に水性化させ、その後、好ましくは攪拌下で40℃以下に冷却することにより、水性分散体を得ることができる。槽内の温度が50℃未満の場合は、樹脂の水性化が困難になる。槽内の温度が200℃を超える場合には、ポリオレフィン樹脂の分子量が低下する恐れがある。
【0029】
この際に、前述の理由から、ポリオレフィン樹脂(A)のカルボキシル基または酸無水物基をアニオン化するために、塩基性化合物を添加することが好ましい。塩基性化合物の添加量は、ポリオレフィン樹脂(A)中のカルボキシル基(酸無水物基1モルはカルボキシル基2モルとみなす)に対して0.5〜3.0倍当量であることが好ましく、0.8〜2.5倍当量がより好ましく、1.0〜2.0倍当量が特に好ましい。0.5倍当量未満では、塩基性化合物の添加効果が認められず、3.0倍当量を超えると被膜形成時の乾燥時間が長くなったり、水分散液が着色する場合がある。
【0030】
ここで添加される塩基性化合物としては、LiOH、KOH、NaOH等の金属水酸化物のほか、被膜の耐水性の面からは被膜形成時に揮発する化合物が好ましく、アンモニアまたは各種の有機アミン化合物が好ましい。有機アミン化合物の沸点は250℃以下であることが好ましい。250℃を超えると樹脂被膜から乾燥によって有機アミン化合物を飛散させることが困難になり、被膜の耐水性が悪化する場合がある。有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等を挙げることができる。
【0031】
また、不飽和カルボン酸成分(a1)の含有量が15質量%以下の比較的酸価の低いポリオレフィン樹脂(A)の水性化の際には、有機溶剤を添加することが好ましい。有機溶剤の添加量はポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体100質量部に対して1〜40質量部であることが好ましく、2〜30質量部がより好ましく、3〜20質量部が特に好ましい。なお、有機溶剤は、常圧または減圧下で水性分散体を攪拌しながら加熱することで、その一部を系外へ除去(ストリッピング)することができ、最終的には、ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体100質量部に対して1質量部以下とすることもできる。使用される有機溶剤の具体例としては、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルが挙げられ、低温乾燥性の点からエタノール、イソプロパノール、n−プロパノールが特に好ましい。
【0032】
ポリウレタン樹脂(B)の水性分散体を得るための方法は特に限定されず、既述のポリオレフィン樹脂(A)の水性化方法に準じ、ポリウレタン樹脂(B)を水性媒体に分散させることができる。このようなポリウレタン樹脂(B)の水性分散体は市販されており、三井武田社製のタケラックW−615、W−6010、W−6020、W−6061、W−511、W−405、W−7004、W−605、WS−7000、WS−5000、WS−5100、WS−4000(以上、アニオン性タイプ)、W−512A6、W−635(以上、ノニオン性タイプ)等を例示することができる。
【0033】
上記ポリオレフィン樹脂(A)とポリウレタン樹脂(B)のそれぞれの水性分散体を混合して、所望の樹脂比率の水性コーティング剤を得ることができる。
また、本発明の水性コーティング剤において、乳化剤の含有量は、できる限り低くした方が被膜の耐水性の点から好ましく、樹脂100質量部に対して、5質量部以下がより好ましく、3質量部以下がさらに好ましく、ゼロであることが最も好ましい。乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体等が挙げられ、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0034】
本発明の水性コーティング剤中の樹脂粒子の数平均粒子径(以下、mn)は、水性コーティング剤の保存安定性が向上するという観点から、0.3μm以下が好ましく、低温造膜性の観点から0.2μm以下がより好ましく、0.1μm未満が最も好ましい。さらに、重量平均粒子径(以下、mw)に関しては、0.5μm以下が好ましく、0.2μm以下がより好ましい。粒子径を小さくすることで、低温での造膜性が向上し、透明な被膜を形成することができる。粒子の分散度(mw/mn)は、水性分散体の保存安定性、及び低温造膜性の観点から、1〜3が好ましく、1〜2.5がより好ましく、1〜2が特に好ましい。
【0035】
本発明の水性コーティング剤における樹脂含有率は、成膜条件、目的とする樹脂被膜の厚さや性能等により適宜選択でき、特に限定されるものではないが、コーティング組成物の粘性を適度に保ち、かつ良好な被膜形成能を発現させる点で、1〜60質量%が好ましく、3〜55質量%がより好ましく、5〜50質量%がさらに好ましく、5〜45質量%が特に好ましい。
【0036】
本発明のコーティング剤中には、耐水性、耐ブロッキング性、耐磨耗性等の点から、ワックス(C)を、ポリオレフィン樹脂(A)とポリウレタン樹脂(B)との合計固形分100質量部に対して、2〜100質量部含有していることが好ましく、その含有量は5〜80質量部がより好ましく、10〜60質量部がさらに好ましく、10〜50質量部が最も好ましい。ワックス(C)は、天然ワックスや合成ワックスであってもよい。具体的には、キャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、木ろうなどの植物ワックス、セラックワックス、ラノリンワックス、蜜蝋などの動物ワックス、モンタンワックス、オゾケライトなどの鉱物ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの石油ワックス等の天然ワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス、フィシャートロプシュワックス、変性ワックス、水素化ワックス等の合成ワックスが挙げられる。中でもキャンデリラワックス、カルナバワックス、パラフィンワックスが耐ブロッキング性の点から好ましい。
【0037】
本発明のコーティング剤中には、耐水性、耐溶剤性、耐磨耗性、耐熱性などの各種の被膜性能をさらに向上させるために、架橋剤(D)を、ポリオレフィン樹脂(A)とポリウレタン樹脂(B)との合計固形分100質量部に対して、0.1〜20質量部、好ましくは0.1〜10質量部添加することができる。架橋剤(D)の添加量が0.1質量部未満の場合は、被膜性能の向上の程度が小さく、20質量部を超える場合は、加工性等の性能が低下してしまう。架橋剤(D)としては、自己架橋性を有する架橋剤、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物、多価の配位座を有する金属等を用いることができ、このうちイソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が好ましい。また、これらの架橋剤を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
さらに、耐候性向上や藻などの付着抑制の観点から、防腐剤および/または酸化防止剤を添加することが好ましい。この含有量はコーティング剤中の樹脂の合計固形分100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましい。防腐剤や酸化防止剤の種類は特に限定されず市販のものを使用することができる。また、必要に応じて、難燃剤、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤等の各種薬剤や、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック等の顔料あるいは染料を本発明のコーティング剤に添加することもできる。
【0039】
本発明のコーティング剤は、ポリエチレン糸などの糸との密着性が良好であり、これを塗布した糸は、外観、平滑性、耐水性が向上し、優れた強度を付与することできる。
本発明で用いる糸としては、ポリエチレン糸、特に超高分子量ポリエチレンから構成される糸が好ましい。超高分子量ポリエチレンとしては、分子量が30万程度以上、より好ましくは60万程度以上のものが好適に用いられる。超高分子量ポリエチレンは、ホモポリマーであってもよいし、炭素数3〜10程度の低級α−オレフィン類、例えばプロピレン、ブテン、ペンテン、へキセン等との共重合体であってもよい。エチレンとα−オレフィンとの共重合体としては、後者の割合が炭素数1000個当たり平均0.1〜20個程度、好ましくは平均0.5〜10個程度である共重合体を用いるのが好ましい。
超高分子量ポリエチレン糸の製造方法は、例えば特開昭55−5228号公報、特開昭55−107506号公報などに開示されており、これら公知の方法を用いてよい。また、超高分子量ポリエチレン糸として、ダイニーマ(東洋紡績社製)やスペクトラ(ハネウエル社製)等の市販品を用いてもよい。
【0040】
本発明において用いる芯糸は、モノフィラメントであってもよいが、モノフィラメント複数本からなるマルチフィラメントのほうが好ましい。また、糸は、例えば、引き揃え糸、撚り糸または製紐糸など該マルチフィラメントを複数本用いた合糸であってもよい。前記撚り糸は、リング撚糸機、ダブルツイスターもしくはイタリー式撚糸機など公知の撚糸機を用いて容易に製造することができ、また製紐糸は、4本打ち、8本打ち、12本打ち、16本打ちなど公知の製紐機を用いて容易に製造することができる。
【0041】
上記糸を構成するフィラメントが、超高分子量ポリエチレンフィラメントのように延伸可能なフィラメントの場合は、市販されているフィラメントのように延伸処理がなされているものでもよいし、全く延伸処理がなされていない、いわゆる未延伸フィラメントでもよい。
【0042】
本発明で用いる糸は、上述のようにポリエチレンから構成されることが好ましいが、他樹脂のフィラメントが複合されていてもよい。他樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール等が挙げられる。この場合、芯鞘構造になっていてもよい。
【0043】
本発明のコーティング剤を糸に塗布(コート)または含浸する方法は特に限定されない。塗布または含浸する方法は、公知の方法を用いればよく、例えば、コーティング剤に糸をディッピングし余剰分を取り去る方法、スプレーコート法、カーテンコート法によってコートする方法等が挙げられる。さらに、糸に塗布した後に糸を延伸して用いてもよく、延伸した糸に塗布して用いてもよい。
次いで、コーティング剤を乾燥する際の加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーター等を使用することができる。加熱温度や加熱時間は、被コーティング物である糸の特性等により適宜選択され、経済性を考慮した場合、加熱温度としては、30〜250℃が好ましく、60〜230℃がより好ましく、80〜210℃が特に好ましく、また加熱時間としては、1秒〜20分が好ましく、5秒〜15分がより好ましく、5秒〜10分が特に好ましい。なお、架橋剤を添加した場合は、ポリオレフィン中のカルボキシル基と架橋剤との反応を十分進行させるために、加熱温度および時間は架橋剤の種類によって適宜選定することが望ましい。
【0044】
本発明のコーティング剤の糸に対する付着量は、適宜選定すればよいが、耐水性、耐磨耗性、耐摩擦性、耐ブロッキング性の発現や糸強度を向上させる点から、糸全体の質量に対して、通常1〜50質量%、好ましくは5〜30質量%である。
【0045】
本発明のコーティング剤を塗布した糸は、釣り糸、漁網や延縄などの水産資材、各種ロープ、ミシン系、防護衣料、スポーツ衣料、幕材またはゴルフネットなどに好適であり、中でも藻の付着を抑えることができる点から釣り糸、漁網や延縄などの水産資材に用いることがより好適である。
【実施例】
【0046】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
なお、各種の特性については以下の方法によって測定または評価した。
【0047】
1.樹脂の特性
(1)樹脂の構成
H−NMR分析(バリアン社製、300MHz)より求めた。ポリオレフィン樹脂は、オルトジクロロベンゼン(d)を溶媒とし、120℃で測定した。
【0048】
(2)ポリオレフィン樹脂の水性化後のエステル基残存率
ポリオレフィン樹脂の水性分散体を150℃で乾燥させた後、オルトジクロロベンゼン(d)中、120℃にてH−NMR分析(バリアン社製、300MHz)を行い、水性化前の(メタ)アクリル酸エステルのエステル基量を100%としてエステル基の残存率(%)を求めた。
【0049】
(3)樹脂の融点、ガラス転移温度(Tg)
樹脂10mgをサンプルとし、DSC(示差走査熱量測定)装置(パーキンエルマー社製 DSC7)を用いて昇温速度10℃/分の条件で測定を行い、得られた昇温曲線から融点を求めた。また、得られた昇温曲線中のガラス転移に由来する2つの折曲点の温度の中間値を求め、これをTgとした。
【0050】
(4)樹脂のメルトフローレート
JIS 6730記載(190℃、2160g荷重)の方法で測定した。
【0051】
2.水性分散体、コーティング剤の特性
(1)水性化収率
水性化後の水性分散体を300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)した際に、フィルター上に残存する樹脂質量を測定し、仕込み樹脂質量より収率を算出した。
【0052】
(2)固形分濃度
水性分散体を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、固形分濃度を求めた。
【0053】
(3)粘度
株式会社トキメック社製、DVL−BII型デジタル粘度計(B型粘度計)を用い、温度20℃における水性分散体の回転粘度を測定した。
【0054】
(4)平均粒子径
日機装株式会社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340、動的光散乱法)を用い、水性分散体の数平均粒子径および重量平均粒子径を求めた。ここで、粒子径算出に用いる樹脂の屈折率は1.50とした。
【0055】
(5)外観
目視により、水性分散体、コーティング剤の色調を観察した。
【0056】
(6)ポットライフ
水性分散体、コーティング剤を室温で30日放置した後の水性分散体の外観を次の3段階で評価した。
○:外観に変化なし。
△:増粘がみられる。
×:固化、凝集や沈殿物の発生が見られる。
【0057】
(7)イソプロパノール(iPA)含有率
島津製作所社製、ガスクロマトグラフGC−8A[FID検出器使用、キャリアーガス:窒素、カラム充填物質(ジーエルサイエンス社製):PEG−HT(5%)−Uniport HP(60/80メッシュ)、カラムサイズ:直径3mm×3m、試料投入温度(インジェクション温度):150℃、カラム温度:60℃、内部標準物質:n−ブタノール]を用い、水性分散体または水性分散体を水で希釈したものを直接装置内に投入して、イソプロパノール(iPA)の含有率を求めた。検出限界は0.01質量%であった。
【0058】
3.糸の特性
以下の評価において、ポリエチレン糸としては、超高分子量ポリエチレン糸(ダイニーマ 150d/140F、東洋紡社製)を用いた。
(1)密着性
テープ剥離:セロハンテープ(「ニチバン社製 CT24)を用い、指の腹でコートした糸に密着させた後剥離した。剥離後のテープに付着している樹脂を目視にて5段階評価を行った。
5:樹脂剥離が全く見られない。
4:糸に貼り合わせたテープ面積に対して樹脂が1/4以下の面積で付着している。
3:糸に貼り合わせたテープ面積に対して樹脂が1/2の面積で付着している。
2:糸に貼り合わせたテープ面積に対して樹脂が3/4以上の面積で付着している。
1:糸に貼り合わせたテープ面積に対して樹脂がほぼ全面に付着している。
【0059】
(2)耐摩耗性、強度保持率
JIS D 4604のシートベルトの6角棒摩耗試験機に準じて試験を行い、最大強力値に対して5%の荷重をかけ、1000回ドラムを往復運動させた後の糸の表面観察を行い、また強度保持率の測定を行った。強度保持率は試験前の強度に対する試験後の強度の割合(保持率:%)で評価した。
【0060】
(3)耐水・耐塩水性
25℃の純水もしくは人工海水50質量部に対して試料1質量部の割合で浸漬し、JIS L 0844の洗濯試験機を用いて30分間処理した後の表面観察を行った。
【0061】
(4)耐ブロッキング性
コートした糸を10本束ねた状態で、0.02MPaの負荷をかけ、40℃、65%RHの雰囲気下で24時間放置後、その耐ブロッキング性を次の3段階で評価した。
○:糸を軽く持ち上げる程度でバラける。
×:糸をバラけさせるのに力が必要。
【0062】
以下の実施例において使用したポリオレフィン樹脂(A)の組成を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
(ポリオレフィン樹脂水性分散体E−1の製造)
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gのポリオレフィン樹脂(A)〔住友化学工業社製 ボンダインHX−8210〕、60.0gのイソプロパノール(iPA)、2.5g(樹脂中の無水マレイン酸のカルボキシル基に対して1.0倍当量)のトリエチルアミン(以下、TEA)および177.5gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を140℃に保ってさらに20分間撹拌した。その後、水浴につけて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一なポリオレフィン樹脂水性分散体E−1を得た。
水性分散体の各種特性を表2に示した。数平均粒子径、重量平均粒子径はそれぞれ0.072μm、0.098μmであり、その分布も1山であり、ポリオレフィン樹脂が水性媒体中に良好な状態で分散していた。さらに、この水性分散体のポットライフは30日以上であった。なお、水性化後の樹脂組成を分析したところ、アクリル酸エチルの残存率は100%であり、エステル基は加水分解されていなかった。このエステル基残存率は、室温で30日放置後でも変化せず100%であった。
【0065】
(ポリオレフィン樹脂水性分散体E−2の製造)
ポリオレフィン樹脂としてボンダインTX−8030(住友化学工業社製)を用い、有機溶剤(iPA)量を表2のように変更した以外は水性分散体E−1の製造と同様の操作でポリオレフィン樹脂水性分散体E−2を得た。水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0066】
(ポリオレフィン樹脂水性分散体E−3の製造)
E−1 250g、蒸留水40gを0.5リットルの2口丸底フラスコに仕込み、メカニカルスターラーとリービッヒ型冷却器を設置し、フラスコをオイルバスで加熱していき、水性媒体を留去した。約95gの水性媒体を留去したところで、加熱を終了し、室温まで冷却した。冷却後、フラスコ内の液状成分を300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、濾液の固形分濃度を測定したところ、25.8質量%であった。この濾液を攪拌しながら蒸留水を添加し、固形分濃度が25.0質量%になるように調整した。水性分散体の各種特性を表2に示した。なお、この水性分散体中の水溶性有機溶剤(iPA)の含有率は0.5質量%であった。
【0067】
【表2】

【0068】
ポリウレタン樹脂(B)の水性分散体として、市販のタケラックW−6010(三井武田社製、以下、W6010)、タケラックW−511(三井武田社製、以下、W511)、タケラックW−605(三井武田社製、以下、W605)、アデカボンタイターHUX−380(旭電化工業社製、以下、HUX380)を使用した。使用したポリウレタン樹脂水性分散体の樹脂特性を表3に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
架橋剤(D)として、メラミン化合物(サイメル327、三井サイテック社製、以下、C327)、エポキシ化合物(デナコールEX−313、ナガセ化成工業社製、以下、EX313)、オキサゾリン基含有化合物(エポクロスWS−700、日本触媒社製、以下、WS700)を使用した。
【0071】
実施例1
ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体E−1と、ポリウレタン樹脂(B)の水性分散体W6010とを、樹脂成分質量比が70/30となるように室温にて混合、攪拌してコーティング剤K−1を得た。
K−1にポリエチレン糸を含浸させてコートし、150℃雰囲気下5秒間、テンションをかけながら乾燥させた。得られた糸の評価結果を表4に示す。
【0072】
実施例2〜4
ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体の種類、およびポリオレフィン樹脂(A)とポリウレタン樹脂(B)との混合比を表4記載のように変更した以外は実施例1と同様にしてコーティング剤を得、次いで糸にコートした。得られた糸の評価結果を表4に示す。
【0073】
実施例5〜6
ポリオレフィン樹脂(A)とポリウレタン樹脂(B)の水性分散体の種類を表4記載のように変更した以外は実施例2と同様にしてコーティング剤を得、次いで糸にコートした。得られた糸の評価結果を表4に示す。
【0074】
実施例7
パラフィンワックス水性分散体(日本精蝋社製、EMUSTAR−0135)を、固形分換算でポリオレフィン樹脂(A)とポリウレタン樹脂(B)の合計100質量部に対して10質量部添加した以外は実施例1と同様にしてコーティング剤を得、次いで糸にコートした。得られた糸の評価結果を表4に示す。
【0075】
実施例8〜10
実施例1で得られたコーティング剤に、表4に示す各種架橋剤を混合した以外は実施例1と同様にしてコーティング剤を得、次いで糸にコートした。得られた糸の評価結果を表4に示す。
【0076】
比較例1
ポリウレタン樹脂(B)水性分散体を添加せずに、ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体E−1のみを用いてコーティング剤とした以外は実施例1と同様にして糸にコートした。得られた糸の評価結果を表4に示す。
【0077】
比較例2
ポリウレタン樹脂(B)の水性分散体を、HUX380に変更した以外は実施例1と同様にしてコーティング剤を得、次いで糸にコートした。得られた糸の評価結果を表4に示す。
【0078】
比較例3
ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体E−1と、ポリウレタン樹脂(B)の水性分散体W6010とを、樹脂成分質量比が10/90となるように混合した以外は、実施例1と同様にしてコーティング剤を得、次いで糸にコートした。得られた糸の評価結果を表4に示す。
【0079】
【表4】

【0080】
表4に示すように、本発明にもとづき、特定組成のポリオレフィン樹脂(A)と特定性質のポリウレタン樹脂(B)とを含有するコーティング剤は、ポリエチレン糸、特に超高分子量のポリエチレン糸との密着性に優れており、これを塗布することで糸の平滑性、耐水性、耐塩水性が向上するばかりでなく、糸の強度が保持された(実施例1〜6)。さらにワックスや架橋剤を所定量添加することにより、糸の強度保持率はより向上した(実施例7〜10)。
しかしながら、本発明で規定するポリウレタン樹脂(B)をコーティング剤に添加しなかった場合は、得られる糸は、耐磨耗性、強度保持率、耐ブロッキング性が低かった(比較例1、2)。また、ポリオレフィン樹脂(A)とポリウレタン樹脂(B)との混合割合が本発明で規定する範囲外であるコーティング剤では、糸との密着性が低く、耐水性、耐塩水性、耐磨耗性、強度保持率が低かった(比較例3)。このように糸の性能、特に耐摩耗性や強度保持率を発現させるためには、特定組成のポリオレフィン樹脂(A)と特定性質のポリウレタン樹脂(B)とを特定の割合で混合したコーティング剤をコートする必要があることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂(A)とポリウレタン樹脂(B)とを含有するコーティング剤であって、ポリオレフィン樹脂(A)が、不飽和カルボン酸成分(a1)とエチレン系炭化水素成分(a2)とを含有する共重合体であり、ポリオレフィン樹脂(A)における不飽和カルボン酸成分(a1)の含有量が0.01〜10質量%であり、ポリウレタン樹脂(B)のガラス転移温度が20℃以上であることを特徴とする糸用コーティング剤。
【請求項2】
ポリオレフィン樹脂(A)が、さらに(メタ)アクリル酸エステル成分(a3)を含有する共重合体であることを特徴とする請求項1記載のコーティング剤。
【請求項3】
ポリオレフィン樹脂(A)とポリウレタン樹脂(B)との質量比(A/B)が95/5〜30/70であることを特徴とする請求項1または2記載のコーティング剤。
【請求項4】
コーティング剤の媒体が水性媒体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のコーティング剤。
【請求項5】
さらにワックス(C)を含有し、ワックス(C)の含有量がコーティング剤中の樹脂の合計固形分100質量部に対して2〜100質量部であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のコーティング剤。
【請求項6】
さらに架橋剤(D)を含有し、架橋剤(D)の含有量がコーティング剤中の樹脂の合計固形分100質量部に対して0.1〜20質量部であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のコーティング剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のコーティング剤が塗布されてなる糸。

【公開番号】特開2010−77569(P2010−77569A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−249744(P2008−249744)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】