説明

糸端捕捉案内装置及びそれを備える紡績機

【課題】糸強力が弱い糸を捕捉する場合でも糸切れを良好に抑制でき、エアの消費量も低減できる糸端捕捉案内装置を提供する。
【解決手段】紡績機は、紡績糸10の糸端を吸引しながら捕捉して糸継装置へ案内するためのサクションパイプ44を備える。このサクションパイプ44は、糸端を吸引するための吸込通路62と、撚掛けノズル67と、を備える。撚掛けノズル67は、圧縮空気を噴射することにより吸込通路62に旋回流を形成し、これにより、当該吸込通路62に導入された状態の紡績糸10に対して撚りを掛けることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主要には、紡績機において糸を捕捉して案内するための糸端捕捉案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、この種の糸端捕捉案内装置を備える紡績機を開示する。この特許文献1の紡績機は、紡績装置と、糸送り装置と、巻取装置と、糸継台車と、を主要な構成として有している。
【0003】
糸送り装置はデリベリローラとニップローラとを備えており、紡績装置から紡出された紡績糸をデリベリローラとニップローラとの間に挟んでデリベリローラが回転駆動されることにより、紡績糸を巻取装置側へ送るようになっている。
【0004】
糸継台車は、糸継装置とサクションパイプとを備える。サクションパイプは、糸継装置での糸継ぎのために、紡績装置から排出される糸端を吸い込みながら捕捉して糸継装置へ案内することができる。
【0005】
特許文献1の構成において、紡績装置を始動させるときや糸切れが発生したときに行われる糸継作業では、紡績装置から糸端を噴射して、糸送り装置のローラにニップさせる。これ以降は、糸送り装置の駆動によって糸に張力を付与しながら下流へ引っ張ることができるので、紡績装置で実撚り状の糸を生成できるようになる。前記サクションパイプの先端は糸送り装置の直ぐ下流側に位置するように制御され、当該糸送り装置で下流へ送られた糸は、当該サクションパイプに吸い込まれて捕捉される。その後、サクションパイプは捕捉した糸を糸継装置へ案内し、糸継ぎが行われる。
【0006】
また、この種の紡績機は、特許文献2においても開示されている。この特許文献2の紡績機は特許文献1と同様に糸送り装置(糸送り部)を備え、ニップローラとデリベリローラとで糸を挟持して下流側へ送るようになっている。
【0007】
更に、特許文献2の紡績機においては、糸送り装置の下流側に糸貯留装置が備えられている。この糸貯留装置は、その外周に糸を巻き付けることが可能な糸貯留ローラ(糸弛み取りローラ)を備える。この糸貯留ローラは回転駆動され、紡績装置から連続的に送り出される紡績糸をその外周に巻き付けて一時的に貯留することで、糸継時に発生する糸の弛みを防止できるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−220483号公報
【特許文献2】特開2004−124333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1及び2で示すような紡績機において紡績品質を向上させるためには、紡績装置から紡出される糸に張力を安定して付与しながら当該紡績装置から引き出すことが重要である。しかしながら、特許文献1及び2で開示されている糸送り装置は、糸をニップしながら回転することで紡績装置から紡績糸を引き出す構成であるために、ニップ力不足による紡績糸のスリップが少なからず発生し、糸の紡績品質を低下させる原因となっていた。
【0010】
一方で、特許文献2に開示される糸貯留ローラは、外周面に紡績糸を十分に巻き付けた状態で回転することで、紡績糸を下流側へ安定して引っ張ることができる。そこで、この点に着目して、特許文献2の構成から糸送り装置を省略し、前記糸貯留装置によって紡績装置から糸を直接引き出す構成とすることが考えられる。なお、以下の説明では、このような特徴を備えた紡績機をデリベリローラレス紡績機と称することがある。
【0011】
このように糸貯留装置で糸を直接引き出す構成の紡績機は、特許文献2の構成よりも安定した張力で紡績糸を引き出すことができるので、均一な品質のパッケージを形成できると考えられる。
【0012】
しかしながら、デリベリローラレス紡績機では糸送り装置が省略されているので、糸継作業時には、(特許文献1のように)紡績装置からの糸を糸送り装置にニップさせて実撚り状の糸を生成することができない。従って、サクションパイプに捕捉させるために紡績装置から噴射される紡績糸には実撚りが入らないので、その糸強力は特許文献1の場合よりも相当に低下することになる。この結果、紡績糸の糸端をサクションパイプによって捕捉して糸継装置に案内する際に、糸切れが発生し易く、糸継ミスにより効率が大きく低下してしまうと考えられる。
【0013】
また、特許文献1及び2のサクションパイプは糸端を吸い込むことで捕捉する構成であるが、このために相当な量のエアを消費しており、省エネルギーの観点から改善が求められていた。
【0014】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、糸強力が弱い糸を捕捉する場合でも糸切れを良好に抑制でき、エアの消費量も低減できる糸端捕捉案内装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0015】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0016】
本発明の第1の観点によれば、糸の糸端を吸込口から吸引しながら捕捉して案内する糸端捕捉案内装置において、以下の構成が提供される。即ち、この糸端捕捉案内装置は、吸込通路と、撚掛け部と、を備える。前記吸込通路は、糸端を吸引する。前記撚掛け部は、前記吸込通路に導入された状態の糸に対して撚りを掛けることが可能である。
【0017】
これにより、吸込通路に導入された糸に撚りを掛けつつ、当該糸を捕捉して案内することができる。従って、糸強力の弱い糸を捕捉する場合でも糸切れを効果的に回避できるので、糸端の捕捉ミスを良好に防止できる。
【0018】
前記の糸端捕捉案内装置においては、前記撚掛け部は、圧縮空気を噴射することにより前記吸込通路に旋回流を形成する撚掛けノズルであることが好ましい。
【0019】
これにより、旋回空気流を発生させることで、糸に対する燃掛けを素早く効果的に行うことができる。また、吸込通路内で紡績糸が旋回流に乗って螺旋状を呈するので、吸込通路内の吸引流と糸が良く絡んで、吸引力を効率的に作用させることができる。この結果、吸引のためのエア消費量を節約でき、ランニングコストを低減できる。
【0020】
前記の糸端捕捉案内装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記吸込通路は、前記吸込口に接続される第1部分と、この第1部分の吸引方向下流側に接続される第2部分と、を有する。前記第2部分は、前記第1部分よりも流路断面積が大きくなるように構成される。前記撚掛けノズルの噴射口は前記第2部分に形成されている。
【0021】
これにより、撚掛けノズルからの圧縮空気の噴射によって生成される旋回流は、前記第2部分を吸引方向下流側に向かって螺旋状にスムーズに流れることになる。従って、糸を円滑に吸引できるので、当該糸の捕捉及び案内をより確実に行うことができる。
【0022】
前記の糸端捕捉案内装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この糸端捕捉案内装置は、吸引方向下流側に向かう圧縮空気を前記吸込通路に噴射する引込みノズルを備える。前記引込みノズルは、前記吸込口から見て前記撚掛けノズルよりも遠い位置に配置されている。
【0023】
これにより、糸は撚掛けノズルの旋回流に乗って螺旋状となりながら下流側へ送られ、その螺旋状となった部分に引込みノズルからの空気流が作用することになる。従って、強力な引込み作用が得られるので、吸引のためのエア消費量を一層低減することができる。
【0024】
本発明の第2の観点によれば、以下の構成の紡績機が提供される。即ち、この紡績機は、前記の糸端捕捉案内装置と、紡績装置と、巻取装置と、を備える。前記紡績装置は、空気紡績により紡績糸を生成して紡出口から送り出すことが可能である。前記巻取装置は、前記紡績装置で紡績された糸をボビンに巻き取ってパッケージを形成する。前記糸端捕捉案内装置は、前記紡出口から送り出された紡績糸を前記吸込通路へ直接吸引できるように構成されている。
【0025】
即ち、紡績装置が紡績を開始した直後の紡績糸は、下流側で撚り止めが行われていないために実撚りが入らず、糸強力が通常と比較して低下したものとなっている。この点、上記の構成によれば、そのような糸強力の弱い紡績糸を直接吸引した場合でも、追撚によって糸強力を増大させつつ吸引できるので、糸切れを適切に防止しながら糸を確実に捕捉して案内することができる。
【0026】
前記の紡績機においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この紡績機は、前記紡績装置側の糸と前記パッケージ側の糸とを糸継ぎするための糸継装置を備える。前記糸端捕捉案内装置は、紡績糸の糸端を捕捉して前記糸継装置に案内するように構成されている。
【0027】
これにより、糸継装置による糸継作業において糸切れによる失敗を減らし、紡績機の稼動効率を向上させることができる。
【0028】
前記の紡績機においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この紡績機は、満巻となったパッケージを取り外して空ボビンに交換し、当該空ボビンに糸が巻き取られるようにする玉揚装置を備える。前記糸端捕捉案内装置は、紡績糸の糸端を捕捉して前記空ボビンに案内するように構成されている。
【0029】
これにより、玉揚装置による玉揚作業において糸切れによる失敗を減らし、紡績機の稼動効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係る精紡機の全体的な構成を示した正面図。
【図2】精紡機の縦断面図。
【図3】糸貯留装置の縦断面図。
【図4】サクションパイプ及びサクションマウスによって上糸及び下糸を捕捉する様子を示した縦断面図。
【図5】サクションパイプの先端部の構成を示す拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、本発明の一実施形態に係る精紡機(紡績機)について、図面を参照して説明する。なお、本明細書において「上流」及び「下流」とは、紡績時での糸の走行方向における上流及び下流を意味するものとする。図1は精紡機1の全体的な構成を示した正面図、図2は精紡機1の縦断面図である。
【0032】
図1に示す紡績機としての精紡機1は、並べて配置された多数の錘(紡績ユニット2)を備えている。この精紡機1は、糸継台車3と、玉揚台車4と、ブロアボックス80と、原動機ボックス5と、を備えている。
【0033】
図1に示すように、各紡績ユニット2は、上流から下流へ向かって順に、ドラフト装置7と、紡績装置9と、糸貯留装置12と、巻取装置13と、を主要な構成として備えている。ドラフト装置7は精紡機1が備えるフレーム6の上端近傍に設けられており、このドラフト装置7から送られてくる繊維束8を紡績装置9で紡績するように構成している。紡績装置9から送り出された紡績糸10は後述のヤーンクリアラ52を通過した後、糸貯留装置12を更に通過して巻取装置13によって巻き取られ、これによりパッケージ45が形成される。
【0034】
ドラフト装置7は、スライバ15を延伸して繊維束8にするためのものである。このドラフト装置7は図2に示すように、バックローラ16、サードローラ17、エプロンベルト18が装着されたミドルローラ19、及びフロントローラ20の4つのローラを備えている。
【0035】
紡績装置9の詳細な構成は図示しないが、本実施形態では、旋回気流を利用して繊維束8に撚りを与え、紡績糸10を生成する空気式のものを採用している。
【0036】
紡績装置9の下流には、糸貯留装置12が設けられている。この糸貯留装置12は、紡績糸10に所定の張力を与えて紡績装置9から引き出す機能と、糸継台車3による糸継時などに紡績装置9から供給される紡績糸10を滞留させて糸の弛みを防止する機能と、巻取装置13側の張力の変動が紡績装置9側に伝わらないように張力を調節する機能と、を有している。図2に示すように、糸貯留装置12は、糸貯留ローラ21と、糸掛け部材22と、上流側ガイド23と、エアシリンダ24と、電動モータ25と、下流側ガイド26と、を備えている。
【0037】
糸掛け部材22は、紡績糸10に係合する(引っ掛ける)ことが可能に構成されており、紡績糸10に係合した状態で糸貯留ローラ21と一体的に回転することで、当該糸貯留ローラ21の外周面に紡績糸10を案内できるように構成されている。
【0038】
糸貯留ローラ21は、その外周面に紡績糸10を巻き付けて貯留できるように構成されている。また、糸貯留ローラ21は、電動モータ25によって一定の回転速度で回転駆動される。この構成で、糸掛け部材22によって糸貯留ローラ21の外周面に案内された紡績糸10は、糸貯留ローラ21が回転することにより当該糸貯留ローラ21を締め付けるようにして巻かれ、糸貯留装置12よりも上流側の紡績糸10を引っ張る。これにより、紡績装置9から紡績糸10を連続的に引き出すことができる。
【0039】
上流側ガイド23は、糸貯留ローラ21のやや上流側に配置されている。この上流側ガイド23は、糸貯留ローラ21の外周面に対して糸を適切に案内する案内部材として構成されるとともに、紡績装置9から伝播してくる紡績糸10の撚りが当該上流側ガイド23よりも下流側に伝わることを防止する撚り止めの役割を兼ねている。また、上流側ガイド23はエアシリンダ24に取り付けられており、エアシリンダ24の駆動により適宜移動できるように構成されている。
【0040】
下流側ガイド26は、糸貯留ローラ21のやや下流側に配置されている。この下流側ガイド26は、回転する糸掛け部材22によって振り回される紡績糸10の軌道を規制し、これより下流側の糸の走行経路を安定させて紡績糸10を案内する案内部材として構成されている。
【0041】
精紡機1のフレーム6の前面側であって前記紡績装置9と前記糸貯留装置12との間の位置には、ヤーンクリアラ52が設けられている。そして、紡績装置9で紡出された紡績糸10は、糸貯留装置12で巻き取られる前に前記ヤーンクリアラ52を通過するようになっている。ヤーンクリアラ52は走行する紡績糸10の太さを監視し、紡績糸10の糸欠点を検出した場合に、糸欠点検出信号を図示しないユニットコントローラへ送信するように構成されている。
【0042】
糸継台車3は、図1及び図2に示すように、スプライサ(糸継装置)43と、サクションパイプ(糸端捕捉案内装置)44と、サクションマウス46と、を備えている。糸継台車3は、ある紡績ユニット2で糸切れや糸切断が発生すると、前記フレーム6に固定されたレール41上を当該紡績ユニット2まで走行し、停止して糸継ぎを行うように構成されている。
【0043】
前記サクションパイプ44は、軸を中心に上下方向に回動可能であり、紡績装置9から送出される糸端(上糸)を吸い込みつつ捕捉して、スプライサ43へ案内できるように構成されている。サクションマウス46は、軸を中心に上下方向に回動可能であり、前記巻取装置13に支持されたパッケージ45から糸端(下糸)を吸引しつつ捕捉して、スプライサ43へ案内できるように構成されている。スプライサ43の詳細な構成については省略するが、旋回空気流によって糸端同士を撚り合わせることにより、上糸と下糸とを糸継ぎするように構成されている。
【0044】
巻取装置13は、支軸70まわりに揺動可能に支持されたクレードルアーム71を備える。このクレードルアーム71は、紡績糸10を巻き付けるためのボビン48を回転可能に支持することができる。
【0045】
また、前記巻取装置13は、巻取ドラム72と、トラバース装置75と、を備えている。巻取ドラム72は、前記ボビン48やそれに紡績糸10を巻き付けて形成されるパッケージ45の外周面に接触して駆動できるように構成されている。また、トラバース装置75は、紡績糸10に係合可能なトラバースガイド76を備えている。この構成で、トラバースガイド76を図略の駆動手段によって往復動させながら巻取ドラム72を図略の電動モータによって駆動することで、巻取ドラム72に接触するパッケージ45を回転させ、紡績糸10を綾振りしつつ巻き取るようになっている。
【0046】
玉揚台車4は、図1及び図2に示すように、玉揚装置61を備える。この玉揚装置61は、クレードル操作アーム90と、サクションパイプ88と、バンチ巻アーム91と、を備えている。玉揚台車4は、ある紡績ユニット2でパッケージ45が満巻になると、前記フレーム6に形成された走行路86上を当該紡績ユニット2まで走行し、停止するように構成されている。
【0047】
クレードル操作アーム90は、巻取装置13のクレードルアーム71を操作できるように構成されている。サクションパイプ88は伸縮可能に構成されており、紡績装置9から排出される糸端を吸い込みながら捕捉して、巻取装置13に装着された空のボビン48へ案内できるように構成されている。バンチ巻アーム91は、ボビン48に糸を棒巻きすることによって、紡績糸10をボビン48に固定することができる。
【0048】
次に、糸貯留装置12の詳細な構成について図2及び図3を参照して説明する。図3は、糸貯留装置12の縦断面図である。
【0049】
糸貯留ローラ21は耐摩耗性を有する材料で構成されたローラ部材であって、電動モータ25のモータ軸25aに固定されている。この糸貯留ローラ21の外周面21aは、糸掛け部材22を有する側を先端、電動モータ25が配置されている側を基端とすると、基端から先端に向かって順に、基端側テーパ部21bと、円筒部21cと、先端側テーパ部21dと、を備えている。
【0050】
円筒部21cは、先端側が僅かに細まる形状に構成されるとともに、両側のテーパ部21b,21dに対し段差なく連続する形状になっている。
【0051】
基端側テーパ部21b及び先端側テーパ部21dは、それぞれ端面側を大径側とする緩やかなテーパ状に構成されている。糸貯留ローラ21の外周面21aにおいて、基端側テーパ部21bは、供給された紡績糸10を大径部分から小径部分に向かって円滑に移動させて中間の円筒部21cへ到達させることにより、紡績糸10を円筒部21cの表面に整然と巻き付かせるように構成されている。また、先端側テーパ部21dは、解舒の際に、巻き付いている紡績糸10が一度に抜けてしまう輪抜け現象を防止すると同時に、紡績糸10を小径部分から端面側の大径部分へ順送りに巻き戻して、紡績糸10の円滑な引出しを確保する機能を有している。
【0052】
糸貯留ローラ21の先端側に配置される糸掛け部材22は、図3に示すように前記糸貯留ローラ21と軸線を一致させて配置される。この糸掛け部材22は、フライヤー軸33と、その先端に固定されるフライヤー38と、を備えている。
【0053】
フライヤー軸33は、糸貯留ローラ21に対して相対回転可能に支持されている。一方、フライヤー軸33又は糸貯留ローラ21の何れか一方には永久磁石が取り付けられ、他方には磁気ヒステリシス材が取り付けられている。これらの磁気的手段により、糸掛け部材22が糸貯留ローラ21に対し相対回転するのに抗するトルクが発生するように構成されている。この抵抗トルクにより、糸掛け部材22は糸貯留ローラ21の回転に追従して回転し、結果として両者が一体的に回転できるように構成されている。一方、この抵抗トルクに打ち勝つような力が糸掛け部材22に加わった場合は、糸掛け部材22は糸貯留ローラ21に対して相対的に回転することになる。
【0054】
また、前記フライヤー38は、前記糸貯留ローラ21の外周面21aに向かって適宜湾曲し、紡績糸10と係合する(紡績糸10を引っ掛ける)ことができる形状に構成されている。糸貯留ローラ21上に糸が巻き付けられていない状態で、フライヤー38が糸貯留ローラ21と一体的に回転すると、このフライヤー38が紡績糸10に係合する。そして、この回転するフライヤー38に係合した紡績糸10は、当該フライヤー38によって振り回され、回転する糸貯留ローラ21の外周面へ案内されて巻き付けられる。
【0055】
糸貯留ローラ21に巻き付けられた紡績糸10の様子を説明すると、以下のとおりである。即ち、上流側ガイド23を通った紡績糸10は、基端側から外周面21aに案内され、円筒部21cに複数回巻き付けられる。そして、外周面21aの先端側から引き出された紡績糸10は、フライヤー38を通過した後、下流側ガイド26を通って下流に送られる。
【0056】
図2のように糸貯留ローラ21に紡績糸10が巻き付いた状態で、フライヤー38に係合している紡績糸10を下流側に引っ張る力が与えられると、糸貯留ローラ21の先端部から紡績糸10を解舒するように糸掛け部材22を回転させようとする力がフライヤー38に加わる。従って、糸貯留装置12の下流側の糸張力(糸貯留装置12と巻取装置13と間の糸張力)が前記抵抗トルクに打ち勝つほど大きければ、糸掛け部材22が糸貯留ローラ21と独立して回転することにより、糸貯留ローラ21の先端側からフライヤー38を介して紡績糸10が徐々に解舒される。
【0057】
逆に、糸貯留装置12の下流側の糸張力が前記抵抗トルクに打ち勝つほど強くない場合は、糸掛け部材22が糸貯留ローラ21と一体的に回転する。この場合、糸掛け部材22は、回転する糸貯留ローラ21の先端側から紡績糸10が解舒されることを阻止するように働く。
【0058】
このように、糸貯留装置12は、下流側の糸の張力が上がると糸を解舒し、糸の張力が下がる(糸が弛みそうになる)と糸の解舒を止めるように動作することで、糸の弛みを解消して適切な張力を付与することができる。また、糸掛け部材22が上記のように糸貯留装置12と巻取装置13と間の紡績糸10に加わる張力の変動を吸収するように動作することで、当該張力の変動が、紡績装置9から糸貯留装置12までの間の紡績糸10に影響を及ぼすことを防止できる。以上の構成の糸貯留装置12により、紡績装置9から紡績糸10をより安定した速度で引き出すことができる。
【0059】
なお、糸貯留ローラ21は所定の速度で回転駆動されるので、当該糸貯留ローラ21の基端側には紡績糸10が所定速度で巻き付いていく。従って、糸貯留ローラ21の先端側から紡績糸10が解舒される速度が基端側に巻き付く速度よりも速い場合は糸貯留量が減り、先端側から紡績糸10が解舒されない場合は糸貯留量が徐々に増える。
【0060】
上流側ガイド23は前述したとおり、エアシリンダ24によって進出位置及び退避位置の間で移動可能に構成されている。そして、上流側ガイド23が前記進出位置(図3の実線の位置)にあるときは、紡績糸10が糸貯留装置12の糸掛け部材22と係合することがないように、その糸道が上流側ガイドによって保持される。一方、上流側ガイド23を退避位置(図3の鎖線の位置)に移動させたときは、紡績糸10が前記糸掛け部材22と係合して糸貯留ローラ21に巻き取られる位置まで糸道を移動させるように構成されている。
【0061】
次に、本実施形態の精紡機1における糸継作業について、図4を参照して説明する。図4は、サクションパイプ44及びサクションマウス46によって上糸及び下糸を捕捉する様子を示した縦断面図である。
【0062】
まず、紡績糸10の巻取中にヤーンクリアラ52が糸欠点を検出すると、当該ヤーンクリアラ52は糸欠点検出信号をユニットコントローラへ送信する。前記ユニットコントローラは、前記糸欠点検出信号を受信すると、直ちにカッタ57で紡績糸10を切断し、更にドラフト装置7や紡績装置9等を停止させる。このとき、前記切断位置よりも下流側の糸は、巻取装置13によっていったんパッケージ45に巻き取られる。これにより、糸貯留ローラ21上に巻かれていた紡績糸10もパッケージ45に巻き取られ、当該糸貯留ローラ21上に糸が無くなる。なお、前記糸欠点を含む部分も、パッケージ45にいったん巻き取られる。
【0063】
次に、ユニットコントローラは糸継台車3に制御信号を送り、当該紡績ユニット2の前まで走行させて、糸継動作を開始させる。まず、ユニットコントローラは、サクションマウス46をパッケージ45の表面近傍まで回動させ(図4参照)、吸引流を発生させるとともに、巻取装置13によってパッケージ45を逆回転させる。これにより、パッケージ45の外周面から糸端(下糸)が引き出され、サクションマウス46によって吸引捕捉される。なお、このときパッケージ45から前記糸欠点を含む糸が引き出されてサクションマウス46に吸われることにより、前記糸欠点を含む糸をパッケージ45から除去することができる。
【0064】
続いて、パッケージ45を逆回転させつつ、下糸を吸引した状態でサクションマウス46を上方に回動させて当該下糸をスプライサ43へ案内する。スプライサ43に下糸が案内されると、パッケージ45の回転を停止させる。
【0065】
また、上記サクションマウス46の回動動作と前後して、ユニットコントローラは、図4に示すようにサクションパイプ44を紡績装置9の下流側近傍まで回動させる。そして、ユニットコントローラは、紡績装置9等を再び駆動して紡績を再開させるとともに、サクションパイプ44に吸引流を発生させて紡績装置9側の糸端(上糸)を捕捉する。なお、このサクションパイプ44の詳細な構成については後述する。
【0066】
続いて、吸引を続行しながらサクションパイプ44を図4の状態から下方に回動させることで、紡績装置9から紡績糸10を引き出しつつスプライサ43へ案内する。このとき、ユニットコントローラは、前記エアシリンダ24を駆動して、上流側ガイド23を前記進出位置(図3の実線の位置)まで移動させておく。これにより、回転するフライヤー38に紡績糸10が係合しない状態を保ちつつ、スプライサ43まで糸端を案内することができる。
【0067】
なお、上流側ガイド23を上昇させておくのは、以下のような理由による。即ち、サクションパイプ44の吸引力は、糸掛け部材22の抵抗トルクに打ち勝つほど強力なものではない。従って、サクションパイプ44の吸引力では、糸貯留ローラ21から糸掛け部材22を介して紡績糸10を解舒することができない。このため、仮にスプライサ43に糸端を案内し終わる前に糸貯留ローラ21への糸の巻取りが始まってしまうと、サクションパイプ44は上糸をそれ以上引っ張ることができなくなるから、上糸をスプライサ43まで案内することができなくなり、糸継ぎが失敗してしまう。そこで、サクションパイプ44がスプライサ43に上糸を案内し終わるまでは上流側ガイド23を上昇させておくことにより、糸貯留ローラ21への紡績糸10の巻取りが開始してしまうことを防ぐようになっている。
【0068】
なお、図4には、サクションパイプ44とサクションマウス46が同時に回動動作を行っているように描かれているが、回動動作のタイミングは前後しても差し支えない。
【0069】
スプライサ43への上糸の案内が終了すると、速やかに上流側ガイド23を退避位置に移動させる制御が行われる。これにより、フライヤー38に紡績糸10が係合し、糸貯留ローラ21への紡績糸10の巻付けが開始される。即ち、糸継動作中は巻取装置13による巻取りが停止しているが、この間にも紡績糸10は紡績装置9から連続的に送り出されているから、紡績糸10をそのままにしていると糸の弛みが発生してしまう。そこで本実施形態では、糸貯留装置12において紡績糸10を糸貯留ローラ21に巻き付かせることで、紡績糸10の弛みを防止できるようになっている。このように、糸貯留装置12は、糸継時の糸弛み取り装置として機能する。
【0070】
サクションパイプ44によってスプライサ43に糸端が案内されると、直ちにスプライサ43による糸端同士の糸継ぎが開始される。糸継ぎが終了すると、ユニットコントローラは、巻取装置13による紡績糸10の巻取りを再開する。
【0071】
次に、糸継台車3が備えるサクションパイプ44の先端部の詳細な構成を説明する。図5は、サクションパイプ44の先端部の構成を示す拡大断面図である。なお、図5は、図4に示すようにサクションパイプ44が回動し、その先端が紡績装置9の下流側に位置している状態が描かれている。紡績装置9は、紡績した糸を下流へ送り出すための紡出口9aを備えており、図4のようにサクションパイプ44を上方に回動させたときは、その先端は図5に示すように前記紡出口9aとほぼ対面する位置となっている。
【0072】
図5に示すように、サクションパイプ44の先端部には、細長い形状のノズル部材44aが固定されている。このノズル部材44aは筒状に構成されており、その内部には断面円形状の吸込通路62が形成されている。前記吸込通路62の一端は、ノズル部材44aの先端面に形成された吸込口63に接続している。
【0073】
前記吸込通路62は、吸込口63に近い部分に形成された小径部(第1部分)64と、この小径部64に接続される大径部(第2部分)65と、を有する段付き状の通路として構成されている。従って、大径部65の流路断面積は、小径部64の流路断面積よりも大きくなっている。そして、ノズル部材44aの内部には、前記吸込通路62を囲むように、環状の第1空気室68及び第2空気室69がそれぞれ形成されている。2つの空気室68,69には圧縮空気配管55が接続されており、図示しない圧縮空気源から当該空気室68,69に圧縮空気を供給することができる。
【0074】
第1空気室68には、吸込通路62へ圧縮空気を噴射するためのエジェクタノズル(引込みノズル)66が接続されている。エジェクタノズル66は断面三角形状のリング状ノズルとして形成されており、その断面輪郭は、内側の吸込通路62に近づくに従って徐々に細くなるように形成されている。そして、エジェクタノズル66の先端は吸込通路62(大径部65)の内壁に噴出口を形成しており、この噴出口から吸込通路62に向けて空気を噴出できるように構成されている。
【0075】
エジェクタノズル66の前記噴出口はリング状に形成されており、その全周にわたって空気が噴出されるようになっている。また、エジェクタノズル66は、サクションパイプ44の基端側に向かう斜めの空気流を形成できるように、適宜傾斜させて配置される。この構成で、第1空気室68からエジェクタノズル66を介して吸込通路62に空気を高速で噴射することにより、公知のベンチュリー効果によって圧力降下を生じさせ(エジェクタ効果)、サクションパイプ44の基端側に向かう吸引流を吸込口63に作用させることができる。
【0076】
第2空気室69には、吸込通路62へ圧縮空気を噴射するための複数の撚掛けノズル67が接続されている。撚掛けノズル67は吸込通路62の周囲に等間隔で配置されるとともに、それぞれが吸込通路62の内壁に噴出口を形成している。なお、断面図による説明の便宜のために図5では撚掛けノズル67が径方向に延びるように描かれているが、実際の撚掛けノズル67の向きは、円形の吸込通路62の接線方向となっている。
【0077】
この構成で、第2空気室69から撚掛けノズル67を介して吸込通路62に圧縮空気を噴射することにより、吸込通路62内に旋回空気流が発生する。従って、吸込通路62に導入された紡績糸10は、撚掛けノズル67の部分で発生する旋回空気流の作用で撚りが掛けられながら、サクションパイプ44の基部側へ引き込まれる。
【0078】
ここで、糸継時においては、紡績装置9から紡出される糸は通常よりも撚りが不十分であり、糸強力が低下している。従って、紡績糸10をサクションパイプ44によって単純に強く吸引するだけでは、例えば吸込口63や吸込通路62の内壁との摩擦等により紡績糸10が簡単に切れてしまい、糸継ミスが多発する原因となってしまう。
【0079】
この点、本実施形態の構成では、撚掛けノズル67が吸込通路62内に発生させる旋回空気流が、紡績糸10に撚りを更に掛けるように作用する。この追撚効果により、紡績糸10の糸強力を増強しながらサクションパイプ44に吸引することができるので、糸切れを効果的に防止し、糸継作業を円滑に行うことができる。
【0080】
なお、前記撚掛けノズル67は、吸込通路62の長手方向に垂直な仮想平面に沿って配置されている。しかしながら、撚掛けノズル67の開口は吸込通路62の大径部65に形成されるとともに、その開口のすぐ先端側には、大径部65と小径部64との接続部分である段差85が形成されている。従って、撚掛けノズル67から噴射された圧縮空気がサクションパイプ44の先端側(吸込口63側)へ流れようとしても、その流れの大部分は前記段差85によって阻止される。この結果、撚掛けノズル67から噴射された圧縮空気は、螺旋状に旋回しながらサクションパイプ44の基部へ流れることになる。
【0081】
以上の構成で、ノズル部材44aの吸込口63から吸込通路62に導入された紡績糸10は、上述のとおり撚掛けノズル67からの旋回空気流によって追撚を受けると同時に、上記の螺旋状の流れに乗って螺旋状に振り回される。従って、紡績糸10が螺旋状を呈することになり、エジェクタノズル66での空気の噴射により発生する吸引流が紡績糸10に良く絡むので、サクションパイプ44内に紡績糸10を効率的に吸い込むことができる。従って、圧縮空気の噴射量を従来と比較して減少させても同等の吸引作用を実現できるので、圧縮空気の消費量を節約でき、ランニングコストを低減することができる。なお、本願発明者の計算によれば、本実施形態の構成とすることで、サクションパイプ44に関連する圧縮空気の消費量を従来と比較して40%〜50%程度低減しても従来と同等以上の捕捉性能が得られることが判った。
【0082】
以上に説明したように、本実施形態の精紡機1が備える糸継台車3のサクションパイプ44は、吸込通路62と、撚掛けノズル67と、を備える。吸込通路62は、紡績糸10の糸端を吸引する。撚掛けノズル67は、吸込通路62に導入された状態の紡績糸10に対して撚りを掛けることが可能である。
【0083】
これにより、吸込通路62に導入された紡績糸10に撚りを掛けて糸強力を向上させつつ、当該紡績糸10を捕捉して案内することができる。従って、糸強力の弱い糸を捕捉する場合でも糸切れを効果的に回避できるので、糸端の捕捉ミスを良好に防止できる。
【0084】
また、前記サクションパイプ44においては、撚掛けノズル67は、圧縮空気を噴射することにより吸込通路62に旋回流を形成するように構成されている。
【0085】
これにより、旋回空気流を発生させることで、紡績糸10に対する撚掛けを素早く効果的に行うことができる。また、吸込通路62内で紡績糸10が旋回流に乗って螺旋状を呈するので、吸込通路62内の吸引流と糸が良く絡んで、吸引力を効率的に作用させることができる。この結果、吸引のためのエア消費量を節約でき、ランニングコストを低減できる。
【0086】
また、前記サクションパイプ44においては、吸込通路62は、外部に開口された吸込口63に接続される小径部64と、この小径部64の吸引方向下流側に接続される大径部65と、を有する。大径部65は、小径部64よりも流路断面積が大きくなるように構成される。そして、撚掛けノズル67の噴射口は大径部65に形成されている。
【0087】
これにより、撚掛けノズル67からの圧縮空気の噴射によって生成される旋回流は、前記大径部65を吸引方向下流側に向かって螺旋状にスムーズに流れる。従って、紡績糸10を円滑に吸引できるので、当該糸の捕捉及び案内をより確実に行うことができる。
【0088】
また、前記サクションパイプ44は、吸引方向下流側に向かう圧縮空気を吸込通路62に噴射するエジェクタノズル66を備える。このエジェクタノズル66は、吸込口63から見て撚掛けノズル67よりも遠い位置に配置されている。
【0089】
これにより、紡績糸10は、撚掛けノズル67によって発生する旋回流に乗って螺旋状となりながら吸込通路62の下流側へ送られ、その螺旋状となった部分にエジェクタノズル66からの空気流が作用することになる。従って、強力な引込み作用が得られるので、吸引のためのエア消費量を一層低減することができる。
【0090】
また、本実施形態の精紡機1は、前記サクションパイプ44と、紡績装置9と、巻取装置13と、を備える。紡績装置9は、空気紡績により紡績糸を生成して紡出口9aから送り出すことが可能である。巻取装置13は、紡績装置9で紡績された糸をボビン48に巻き取ってパッケージ45を形成する。サクションパイプ44は図5に示すように、紡出口9aから送り出された紡績糸10を吸込通路62へ直接吸引できるように構成されている。
【0091】
即ち、糸継作業等のために紡績装置9が紡績を開始した直後の紡績糸10は、下流側で撚り止めが行われていないために実撚りが入らず、糸強力が通常に比べて低下したものとなっている。この点、本実施形態の構成によれば、そのような糸強力の弱い紡績糸10を図5のように直接吸引した場合でも、撚掛けノズル67による追撚作用で糸強力を増大させた状態で吸引できるので、糸切れを適切に防止しながら紡績糸10を確実に捕捉して案内することができる。
【0092】
また、本実施形態の精紡機1は、紡績装置9側の紡績糸10(上糸)とパッケージ45側の紡績糸10(下糸)とを糸継ぎするためのスプライサ43を備える。そして、サクションパイプ44は、紡績糸10の糸端を捕捉してスプライサに案内するように構成されている。
【0093】
これにより、スプライサ43による糸継作業において糸切れによる失敗を減らし、精紡機1の稼動効率を向上させることができる。
【0094】
なお、吸込通路62の内部で紡績糸10を追撚する構成は、前記糸継台車3のサクションパイプ44に限らず、玉揚台車4の玉揚装置61が備えるサクションパイプ88に適用することもできる。以下、玉揚台車4が行う玉揚作業について説明する。
【0095】
ある紡績ユニット2のパッケージ45が満巻となったことが図略のセンサによって検知されると、ユニットコントローラは紡績装置9を停止させる。また、それとほぼ同時に、ユニットコントローラは、巻取装置13においてクレードルアーム71を図2の左側へ回動することにより巻取ドラム72から満巻のパッケージ45を離し、回転を停止させるように制御する。
【0096】
玉揚台車4はクレードル操作アーム90によってクレードルアーム71を適宜操作するとともに、図略のパッケージ取外し手段によって満巻パッケージ45をクレードルアーム71から取り外す。取り外された満巻パッケージ45は、玉揚台車4内に形成された傾斜床94を転がった後、溝状に形成されたシェルフ96に落下して静止する。次に、玉揚台車4に備えられた図略の空ボビン供給手段によって、クレードルアーム71に空のボビン48がセットされる。
【0097】
次に、紡績ユニット2のユニットコントローラが、ドラフト装置7及び紡績装置9の駆動を再開する。また、これとほぼ同時に、サクションパイプ88が上方に延伸される。そしてサクションパイプ88は、紡績装置9から排出される紡績糸10の糸端を吸い込むことにより補捉し、その後、糸端を前記空ボビン48の近傍まで案内する。続いて、バンチ巻アーム91によりバンチ巻が行われ、糸端が空ボビン48に取り付けられる。以上の一連の作業により、紡績装置9が紡出した紡績糸10を巻取装置13で巻取可能な状態になる。
【0098】
紡績装置9の駆動再開後、ユニットコントローラはエアシリンダ24によって上流側ガイド23を退避位置まで移動させる。これにより、紡績糸10は糸貯留ローラ21に巻き取られるので、玉揚作業中の糸の弛みを防止することができる。
【0099】
バンチ巻作業が終了すると、玉揚台車4はクレードル操作アーム90によりクレードルアーム71を図2の右側に回動させ、バンチ巻の終わったボビン48を巻取ドラム72に接触させて、糸の巻取りを開始する。これにより紡績糸10に巻取張力が付与され、糸貯留ローラ21から徐々に紡績糸10が解舒される。
【0100】
以上に示すように、玉揚装置61は、満巻となったパッケージ45を巻取装置13から取り外して空ボビン48に交換し、当該空ボビン48に糸が巻き取られるようにする玉揚作業を行う。そして、この玉揚作業において紡績糸10の糸端を捕捉して前記空ボビン48に案内するサクションパイプ88に対し、前記撚掛けノズル67等を備える構成を適用することもできる。
【0101】
この場合、玉揚装置61による玉揚作業において糸切れによる失敗を減らし、精紡機1の稼動効率を向上させることができる。
【0102】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0103】
上記の実施形態の構成では、特許文献1及び2で開示されている糸送り装置が省略された、いわゆるデリベリローラレス紡績機の構成となっている。しかしながら、上記のサクションパイプ44の構成は、特許文献1及び2に示すような糸送り装置を備えた紡績機にも適用することができる。
【0104】
特許文献1では、紡績装置から噴射された紡績糸の糸端が糸送り装置のデリベリローラに着地し、このデリベリローラの回転によって当該デリベリローラとニップローラとの間に紡績糸がニップされる構成が開示されている。しかしながら、この構成では糸が良好に下流側へ搬送されないことが多く、紡績糸がニップローラ又はデリベリローラに巻き付いてしまうこともあった。そこで、糸送り装置に対する糸の巻付きを回避するために、ニップローラをデリベリローラから離間させることが可能な機構を備え、紡績装置から噴射された紡績糸の糸端は糸送り装置でニップせずに下流側に搬送し、サクションパイプに捕捉させる構成が考えられる。この場合、糸送り装置でのニップが得られないために紡績装置で実撚り状の紡績糸を生成できないが、サクションパイプ側に上記実施形態のような追撚のための構成を備えることで、糸強力の低い糸を良好に捕捉できると考えられる。
【0105】
エジェクタノズル66及び撚掛けノズル67は、1つずつ配置されることに代えて、例えば2つ以上配置するように変更することができる。
【0106】
エジェクタノズル66を、撚掛けノズル67よりも吸込口63側(吸込方向上流側)に配置するように変更することができる。
【0107】
撚掛けノズル67を吸込通路62に対して垂直な平面から適宜傾斜させて構成し、当該撚掛けノズル67にエジェクタノズルとしての役割を持たせるように変更することができる。
【符号の説明】
【0108】
1 精紡機(紡績機)
9 紡績装置
9a 紡出口
13 巻取装置
43 スプライサ(糸継装置)
61 玉揚装置
44 サクションパイプ(糸端捕捉案内装置)
62 吸込通路
63 吸込口
66 エジェクタノズル(引込みノズル)
67 撚掛けノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸の糸端を吸込口から吸引しながら捕捉して案内する糸端捕捉案内装置であって、
糸端を吸引するための吸込通路と、
前記吸込通路に導入された状態の前記糸に対して撚りを掛けることが可能な撚掛け部と、
を備えることを特徴とする糸端捕捉案内装置。
【請求項2】
請求項1に記載の糸端捕捉案内装置であって、
前記撚掛け部は、圧縮空気を噴射することにより前記吸込通路に旋回流を形成する撚掛けノズルであることを特徴とする糸端捕捉案内装置。
【請求項3】
請求項2に記載の糸端捕捉案内装置であって、
前記吸込通路は、前記吸込口に接続される第1部分と、この第1部分の吸引方向下流側に接続される第2部分と、を有し、
前記第2部分は、前記第1部分よりも流路断面積が大きくなるように構成され、
前記撚掛けノズルの噴射口は前記第2部分に形成されていることを特徴とする糸端捕捉案内装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の糸端捕捉案内装置であって、
吸引方向下流側に向かう圧縮空気を前記吸込通路に噴射する引込みノズルを備え、
前記引込みノズルは、前記吸込口から見て前記撚掛けノズルよりも遠い位置に配置されていることを特徴とする糸端捕捉案内装置。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の糸端捕捉案内装置と、
空気紡績により紡績糸を生成して紡出口から送り出すことが可能な紡績装置と、
前記紡績装置で紡績された糸をボビンに巻き取ってパッケージを形成する巻取装置と、
を備え、
前記糸端捕捉案内装置は、前記紡出口から送り出された紡績糸を前記吸込通路へ直接吸引できるように構成されていることを特徴とする紡績機。
【請求項6】
請求項5に記載の紡績機であって、
前記紡績装置側の糸と前記パッケージ側の糸とを糸継ぎするための糸継装置を備え、
前記糸端捕捉案内装置は、紡績糸の糸端を捕捉して前記糸継装置に案内するように構成されていることを特徴とする紡績機。
【請求項7】
請求項5に記載の紡績機であって、
満巻となったパッケージを取り外して空ボビンに交換し、当該空ボビンに糸が巻き取られるようにする玉揚装置を備え、
前記糸端捕捉案内装置は、紡績糸の糸端を捕捉して前記空ボビンに案内するように構成されていることを特徴とする紡績機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−174405(P2010−174405A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18635(P2009−18635)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】