説明

紐状フィラー含有塗布物の製造方法

【課題】バックアップローラに巻き掛けられて走行するウェブと塗布ヘッド先端との間のクリアランスに塗布液ビードを形成して塗布する塗布装置を用いて、ナノサイズの紐状フィラーを含む塗布液をウェブに塗布しても塗布スジ故障が発生しない。
【解決手段】バックアップローラ20に巻き掛けられて走行するウェブ12と塗布ヘッド先端18Aとの間のクリアランスdに塗布液ビード22Aを形成して塗布する塗布装置を用いて、金属ナノワイヤー26Aを多数本含む塗布液22をウェブ12に塗布する塗布工程と、塗布された塗布層22Bを乾燥する乾燥工程とを少なくとも備えた紐状フィラー含有塗布物の製造方法において、塗布工程では、塗布液22のウエット膜厚をhとし、クリアランスをdとしたときに、h<d≦3hを満足するようにクリアランスを設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紐状フィラー含有塗布物の製造方法に係り、特にバックアップローラに巻き掛けられて走行するウェブと塗布ヘッド先端との間のクリアランスに塗布液ビードを形成して塗布する塗布装置を用い、紐状フィラーを含有する塗布液を塗布する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の金属ナノワイヤーを含有する塗布液をウェブに塗布した製造物は、例えば透明導電体としての用途が注目されている。
【0003】
透明導電体は、高透過率で絶縁性を有する基体(ウェブ)と、該基体上に形成された薄膜の導電膜とを有して構成される。透明導電体は、十分な光透過性を有しながらも表面導電性を有するように製造される。このような表面導電性を有する透明導電体は、フラット型液晶ディスプレイ、タッチパネル、エレクトロルミネッセンスデバイス及び薄膜の太陽電池セルの透明電極として、また、帯電防止層や電磁波シールド層として広範囲に使用することができる。
【0004】
この透明導電体を製造する好適な方法としては、特許文献1が知られている。この特許文献1には、基体上に複数の金属ナノワイヤーを投入して(金属ナノワイヤーは液体中に分散されている)、該液体を乾燥することにより、基体上に金属ナノワイヤーネットワーク層(複数の金属ナノワイヤーが網状につながった層)を形成する。また、この特許文献1では、基体上に複数の金属ナノワイヤーを投入して、金属ナノワイヤーを液体中に分散させ、該液体を乾燥することにより、基体上に金属ナノワイヤーネットワーク層を形成し、該金属ナノワイヤーネットワーク層上にマトリクス材を投入し、該マトリクス材を硬化してマトリクスとすることで、前記マトリクスと該マトリクスに埋め込まれた金属ナノワイヤーを含む導電層を形成するようにしている。また、特許文献1には、ロール・トゥ・ロール工程にて行うことが記載されている。
【0005】
上述した特許文献1に記載された方法によれば、望ましい電気的、光学的及び機械的特性を有する透明導電体を、様々な基体に適用可能で、低コストで、高スループットプロセスにて製造することができるとされている。
【0006】
また、近年様々な分野における機械的及び機能的材料として期待されているカーボンナノチューブも、上記した透明導電体の導電性材料として使用されており、カーボンナノチューブ含有塗布液を基体上に塗布・乾燥することにより透明導電体を製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開2007/0074316号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記した金属ナノワイヤーやカーボンナノチューブ等の紐状フィラーを含有する塗布液を、エクストルージョン型やスライドダイ型のように塗布液ビードを介して塗布液を塗布する塗布装置で塗布すると、塗布スジ故障が発生するという問題がある。塗布スジ故障を有する透明導電体は均一な電気特性、光学特性、機械特性を有することができず、不良品となる。また、金属ナノワイヤーやカーボンナノチューブ等の導電性の紐状フィラーに限らず導電性を有しない紐状フィラーの場合も同様に塗布スジ故障の問題がある。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、バックアップローラに巻き掛けられて走行するウェブと塗布ヘッド先端との間のクリアランスに塗布液ビードを形成して塗布する塗布装置を用いて、ナノサイズの紐状フィラーを含む塗布液をウェブに塗布しても塗布スジ故障が発生しない紐状フィラー含有塗布物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明に係る紐状フィラー含有塗布物の製造方法は、バックアップローラに巻き掛けられて走行するウェブと塗布ヘッド先端との間のクリアランスに塗布液ビードを形成して塗布する塗布装置を用いて、ナノサイズの紐状フィラーを多数本含む塗布液を前記ウェブに塗布する塗布工程と、前記塗布された塗布層を乾燥する乾燥工程とを少なくとも備えた紐状フィラー含有塗布物の製造方法において、前記塗布工程では、前記塗布液のウエット膜厚をhとし、前記クリアランスをdとしたときに、h<d≦3hを満足するように前記クリアランスを設定することを特徴とする。
【0011】
本発明の紐状フィラー含有塗布物の製造方法によれば、塗布工程において、塗布液のウエット膜厚をhとし、クリアランスをdとしたときに、h<d≦3hを満足するようにクリアランスを設定するようにしたので、バックアップローラに巻き掛けられて走行するウェブと塗布ヘッド先端との間のクリアランスに塗布液ビードを形成して塗布する塗布装置を用いて、ナノサイズの紐状フィラーを含む塗布液をウェブに塗布しても塗布スジ故障が発生しないようにできる。
【0012】
本発明の発明者は、バックアップローラにウェブを巻き掛けながらダイ塗布する場合、ウエット膜厚に対してクリアランスを約10倍程度確保し、塗布ヘッド先端をウェブに近づけ過ぎないという塗布技術分野における当業者の常識が、ナノサイズの紐状フィラーを含む塗布液の塗布では塗布スジ故障の原因となることを見出した。そして、クリアランスをウエット膜厚の3倍以下まで狭くするという従来ありえない非常識な塗布によって、塗布スジ故障の発生を防止することができた。なお、クリアランスがウエット膜厚よりも大きいことは当然である。
【0013】
クリアランスをウエット膜厚の3倍以下まで狭くすることで塗布スジ故障が防止される理由としては、次のことが考察される。即ち、ウエット膜厚に対するクリアランスを大きくしていくと塗布液ビード内に渦流が生じ、渦流が紐状フィラー同士を絡ませて塗布液ビード内に凝集物を発生させ、この凝集物を起点に塗布スジが発生するものと考察される。一方、ウエット膜厚に対するクリアランスを小さくしていくと塗布液ビード内の渦流が抑制されるので、紐状フィラー同士が絡まった凝集物の発生が防止され、これによって塗布スジ故障が防止されるものと考察される。そして、紐状フィラー同士が絡まった凝集物の発生を抑制して塗布スジ故障を防止する臨界的なウエット膜厚とクリアランスとの関係が、ウエット膜厚1に対してクリアランスが3倍の関係であると考察される。
【0014】
本発明においては、前記dは500μm以下であることが好ましい。クリアランスdが500μmを超えて広くなり過ぎると、塗布液ビードに対する重力の影響を無視できなくなり、塗布液ビードが不安定になるためである。
【0015】
本発明においては、前記紐状フィラーは金属ナノワイヤー、あるいはカーボンナノチューブであることが好ましい。
【0016】
本発明は、ナノサイズの紐状フィラーを含む塗布液全般に適用できることは勿論であるが、機能性材料として注目されている金属ナノワイヤー、あるいはカーボンナノチューブを含有する塗布液を用いた塗布物は、上記した透明電導体として特に有用だからである。
【0017】
本発明においては、前記紐状フィラーの長軸径は1〜100μm、短軸径は1〜500nmであることが好ましい。これは、塗布液に含有させる紐状フィラーとして好適な範囲を具体的に示したものである。
【0018】
本発明においては、前記塗布ヘッドは、エクストルージョン型又はスライドダイ型であることが好ましい。これは、塗布液ビードを介して塗布する塗布ヘッドの好ましい態様を具体的に示したものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の紐状フィラー含有塗布物の製造方法によれば、バックアップローラに巻き掛けられて走行するウェブと塗布ヘッド先端との間のクリアランスに塗布液ビードを形成して塗布する塗布装置を用いて、ナノサイズの紐状フィラーを含む塗布液をウェブに塗布しても塗布スジ故障が発生しないようにできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】紐状フィラー含有塗布物の製造方法を実施する製造装置の基本構成図
【図2】製造された紐状フィラー含有塗布物を説明する説明図
【図3】従来の塗布を説明する説明図
【図4】従来の塗布により発生した塗布スジ故障の図
【図5】本実施の形態の塗布を説明する説明図
【図6】本実施の形態の塗布により塗布スジ故障が防止された図
【図7】透明導電体の製造方法の説明図
【図8】実施例における本発明で塗布した塗布状態の説明図
【図9】実施例における従来法で塗布した塗布状態の説明図
【図10】試験条件及び試験結果の表図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面に従って、本発明に係る紐状フィラー含有塗布物の製造方法の好ましい実施の形態について詳述する。
【0022】
[紐状フィラー含有塗布物の製造方法の基本説明]
図1は、本実施の形態における紐状フィラー含有塗布物の製造方法を実施する製造装置10の一例を示す基本構成図である。
【0023】
ウェブ12は送出リール14にロール状に巻回されており、製造装置10の運転開始によってエクストルージョン型の塗布装置16に向けて送出される。エクストルージョン型の塗布装置16は、主として、塗布ヘッド18とバックアップローラ20とで構成され、ウェブ12はバックアップローラ20に巻き掛け支持されながら走行する。ウェブの走行速度としては、5〜150m/分の範囲が好ましい。そして、バックアップローラ20に対して塗布ヘッド18を進退することにより、塗布ヘッド先端18Aとウェブ12との間に所定のクリアランスdを設定する。
【0024】
ウェブ12の材質は特に限定されず、樹脂製、紙製、金属製、ガラス製等を使用することができきる。
【0025】
一方、図示しない塗布液調製装置によって、多数本の紐状フィラーを溶媒に分散させた紐状フィラー含有塗布液(以下、単に塗布液と言う)が調製され、塗布ヘッド18に供給される。紐状フィラーの長軸径は1〜100μm、短軸径は1〜500nmであることが好ましい。
【0026】
そして、塗布ヘッド18に供給された塗布液22は、ポケット18Bにおいてウェブ幅方向(図1の表裏方向)に拡流された後、狭隘なスリット18Cを通って塗布ヘッド先端18Aから走行するウェブ12の一方面に向けて吐出される。これにより、ウェブ12と塗布ヘッド先端18Aとの間のクリアランスdに塗布液ビード22Aが形成され、塗布液22は塗布液ビード22Aを介してウェブ12に塗布される。この結果、ウェブ12上に紐状フィラーが分散した塗布層22Bが形成される。
【0027】
なお、塗布液22を塗布する塗布ヘッド18としては、エクストルージョン型の塗布ヘッドに限らず、スライドダイ方式の塗布ヘッドでもよい。要は、ウェブ12と塗布ヘッド先端18Aとの間のクリアランスdに塗布液ビード22Aを形成し、この塗布液ビード22Aを介して塗布液22を塗布する方式の塗布ヘッド18であればよい。
【0028】
また、ウェブ12は、ウェブ12に塗布される塗布液22の密着性向上を図るために、前処理を行うことが好ましい。前処理としては、例えばウェブ12の溶媒洗浄又は化学的洗浄、加熱、さらには紐状フィラー含有の塗布層22Bに適切な化学性又はイオン状態を与えるための下塗り層の形成、ウェブ12のプラズマ処理、UV−オゾン処理、又はコロナ放電のような表面処理を挙げることができる。
【0029】
例えば、下塗り層は、ウェブ12の表面に塗布され、紐状フィラー特に金属ナノワイヤーやカーボンナノチューブのような導電性材料を固定することができるものが好ましい。下塗り層は、その表面を機能化及び変更し、ウェブ12への紐状フィラーの結合を促進するものが好ましい。この場合、塗布液22の塗布に先立って、下塗り層をウェブ上に塗布してもよいし、塗布液による塗布層と下塗り層とを同時に塗布してもよい。
【0030】
次に、ウェブ12に塗布された塗布層22Bは、乾燥装置24で乾燥され、塗布層中の溶媒を蒸発させる。乾燥装置24としては、塗布液22中の溶媒を蒸発させることができる装置であればよく、熱風式乾燥装置、赤外線式乾燥装置等の各種の乾燥装置を使用できる。
【0031】
これにより、図2(A)に示すように、ウェブ12上に紐状フィラー26のネットワーク層28を有する紐状フィラー含有物30が形成される。形成された紐状フィラー含有塗布物30は、図1に示すように巻取リール31に巻き取られる。
【0032】
このように形成された紐状フィラー26のネットワーク層28の上に、さらに別の塗布装置によってマトリクス材を塗布してマトリクスを形成してもよい。図2(B)は、ウェブ12上にネットワーク層28が形成されている点では図2(A)と同じであるが、紐状フィラー26がマトリクス32中に分散されたネットワーク層28を形成する点で異なる。また、図2(C)は、ウェブ12上にネットワーク層28が形成されている点では図2(A)と同じであるが、紐状フィラー26がマトリクス32に完全に浸漬された状態で分散している点で異なる。
【0033】
マトリクス32の塗布は、ローラー塗布装置の他に、ブラシ、スタンプ、スプレー塗布装置、スロットダイコーター、その他あらゆる適切な塗布装置が使用可能である。
【0034】
「マトリクス」とは、紐状フィラー26が分散又は組み込まれた固体状物質を指し、「マトリクス材」とは、硬化してマトリクスとなることが可能な材料又は材料の混合物を指す。なお、「マトリクス」及び「マトリクス材」については、紐状フィラー26の一例として金属ナノワイヤーを使用した透明導電体の製造方法の欄で詳しく説明する。
【0035】
かかる紐状フィラー含有塗布物の製造方法において、本実施の形態では、塗布液22のウエット膜厚をhとし、クリアランス(塗布ヘッド先端とウェブとの間の距離)をdとしたときに、h<d≦3hを満足するようにクリアランスdを設定するようにした。
【0036】
これによって、バックアップローラ20に巻き掛けられて走行するウェブ12と塗布ヘッド先端18Aとの間のクリアランスdに塗布液ビード22Aを形成して塗布する塗布装置を用いて、ナノサイズの紐状フィラー26を多数本含む塗布液22をウェブ12に塗布する際に従来問題となっていた塗布スジ故障を防止することができる。
【0037】
ここで、h<d≦3hを満足するようにクリアランスdを設定することにより塗布スジ故障を防止できるメカニズムの考察を、図3〜図6を用いて説明する。
【0038】
図3は、従来の紐状フィラー含有塗布物の製造における塗布状態を示した模式図であり、バックアップローラ20は省略してある。
【0039】
図3に示すように、塗布ヘッド先端18A(スリット先端と同義)から吐出された塗布液22は、塗布ヘッド先端18Aとウェブ12との間のクリアランスdに塗布液ビード22Aを形成し、この塗布液ビード22Aを介して矢印方向Aに走行するウェブ12面に塗布液22が塗布される。そして、図3は、塗布液22のウエット膜厚hに対してクリアランスdが3倍を超えて(例えば5倍)広い場合である。従来はウエット膜厚hに対してクリアランスdを約10倍程度、狭い場合でも5倍程度確保し、塗布ヘッド先端18Aをウェブ12に近づけ過ぎないというのが塗布技術分野における当業者の常識である。この結果、ウエット膜厚hに対するクリアランスdが広過ぎるために、塗布液ビード22A内にウェブ12走行方向への液流れCの他に、渦流Bが生じる。これにより、塗布液22中に分散される紐状フィラー26同士が絡み、凝集物27が形成されると推定している。この凝集物27は、図3及び図4に示すように、塗布終端部34(ウェブ12における塗布領域と未塗布領域との境界部分)に大量に観察される。そして、この凝集物27を起点として図4に示す塗布スジ故障36が発生する。
【0040】
図5は、本実施の形態の紐状フィラー含有塗布物の製造における塗布状態を示した模式図であり、塗布液22のウエット膜厚hに対してクリアランスdを3倍に狭く設定した場合である。この結果、ウエット膜厚hに対するクリアランスdが狭いために、塗布液ビード22A内に渦流が発生せず、塗布ヘッド先端18Aから吐出された塗布液22はウェブ12走行方向への一方向のみの液流れCを形成する。この結果、塗布液22中に分散される紐状フィラー26同士の絡みが抑制され、凝集物27が形成されない。したがって、図5及び図6に示すように、塗布液ビード22A内で液が滞留し易い塗布終端部34に紐状フィラー26の凝集物27が蓄積されることもない。これにより、図6に示すように、塗布スジ故障のない面状に優れた塗布がなされるものと考察される。
【0041】
なお、クリアランスdがウエット膜厚hよりも大きいことは当然である。クリアランスdがウエット膜厚hよりも小さいと所定の膜厚(乾物)の紐状フィラー含有塗布物30を製造することができないだけでなく、塗布ヘッド先端18Aがバックアップローラ20に接触して破損する等の虞がある。
【0042】
このように、塗布スジ故障36は、塗布液ビード22A内の渦流Bにより紐状フィラー26が絡まって凝集物27を形成することを原因とするものであり、渦流Bが発生するか否かはウエット膜厚hとクリアランスdとの関係で決まる。したがって、粘度や表面張力等の塗布液物性、樹脂、紙、金属、ガラス等のウェブ材質、塗布ヘッドの先端リップの位置を揃えるか、あるいはオーバーバイトにするか、アンダーバイトにするかに係わらず、h<d≦3hの範囲で塗布スジ故障を防止できる。
【0043】
ただし、クリアランスdは500μm以下であることが好ましい。クリアランスdが500μmを超えて広くなり過ぎると、塗布液ビード22Aに対する重力の影響を無視できなくなる。これにより、塗布液ビード22Aが不安定になるため、塗布スジ故障36とは別の故障が発生し易くなる。
【0044】
[透明導電体の製造方法]
次に、紐状フィラー26として導電性ナノワイヤーを使用した塗布物の一例として、透明導電体の製造方法について説明する。透明導電体30Aの構成は、図2において紐状フィラー26が例えば導電性ナノワイヤー(例えば金属ナノワイヤー26A)に代わり、ネットワーク層28が導電性のネットワークである導電層28Aに代わるだけであり、基本的には同じである。
【0045】
(導電性ナノワイヤー)
導電性ナノワイヤーは、一般的に10〜100000の範囲のアスペクト比(長さ/直径)を有する。アスペクト比がより大きいと、導電性ナノワイヤーの総合密度をより低くし、透明性を高くすることを可能にすることができる。また、より効率的な導電性のネットワークを形成できるため、透明な導電層28Aを得るために有利である。換言すれば、高アスペクト比を有する導電性ナノワイヤーを使用すると、導電性ネットワークを実現する導電性ナノワイヤーの密度は、導電性ネットワークが実質的に透明である程度に十分に低くすることが可能となる。なお、ウェブ12としてPET(ポリエチレンテレフタレート)を使用した場合、ウェブ12上の導電性ナノワイヤーのネットワークの層は、約440nm〜700nmにおいて実質的に透明である。
【0046】
導電性ナノワイヤーとしては、金属ナノワイヤー26Aの他に、高アスペクト比(例えば、10より高い)を有する他の導電性材料を含むことができる。非金属の導電性ナノワイヤーの例としては、カーボンナノチューブ(CNTs)、金属酸化物ナノワイヤー、導電性ポリマー繊維、及び同類の物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
なお、本実施の形態では、主として金属ナノワイヤー26Aの例で説明する。「金属ナノワイヤー」とは、元素金属、金属合金、又は金属化合物(金属酸化物を含む)を含む金属ワイヤーを指す。金属ナノワイヤーの少なくとも1つの横断面寸法(短軸径)は、500nm未満、好ましくは200nm未満、又はより好ましくは100nm未満である。
【0048】
上述したように、金属ナノワイヤー26Aのアスペクト比(長さ:幅)は、10より大きく、好ましくは50より大きく、又はより好ましくは100より大きい。適切な金属ナノワイヤーは、あらゆる金属によって構成することができ、銀、金、銅、ニッケル、及び金メッキ銀が挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
金属ナノワイヤー26Aは、既知の方法により、調製することができる。特に、銀ナノワイヤーは、ポリオール(例えば、エチレングリコール)及びポリ(ビニルピロリドン)の存在下において、銀塩(例えば、硝酸銀)の溶液相還元を通じて合成可能である。均一サイズの銀ナノワイヤーの大量生産は、例えば、Xia,Y.ら、Chem.Mater.(2002),14,4736−4745、及びXia,Y.ら、Nanoletters(2003)3(7)、955−960に記載されている方法に従って調製することができる。
【0050】
(導電層及びウェブ)
既に説明した図2(A)は、ウェブ12上に被覆された導電層28Aを含む透明導電体30Aを示す。導電層28Aは、複数の金属ナノワイヤー26Aを含む。金属ナノワイヤー26Aは導電性のネットワークを形成する。
【0051】
図2(B)は、ウェブ12上に導電層28Aが形成されている点では図2(A)の例と同じであるが、導電層28Aがマトリクス32に組み込まれた複数の金属ナノワイヤー26Aを含む点で異なる。図2(C)は、ウェブ12上に導電層28Aが形成されている点では図2(A)の例と同じであるが、導電層28Aがマトリクス32内の一部に組み込まれる金属ナノワイヤー26Aにより形成され、マトリクス32に完全に浸漬されている点で異なる。
【0052】
金属ナノワイヤー26Aの一部は、導電性のネットワークへのアクセスを可能にするために、マトリクス32から突出していてもよい。マトリクス32は、金属ナノワイヤー26Aのためのホストであって、導電層28Aの物理的形状を提供する。マトリクス32は、腐食及び摩耗のような不都合な環境要因から、金属ナノワイヤー26Aを保護する。特に、マトリクス32は、環境下の湿気、微量の酸、酸素、硫黄等の腐食性要素の浸透を阻止する。
【0053】
その上、マトリクス32は、導電層28Aに好ましい物理的・機械的特性を付与する。例えば、ウェブ12に対する粘着力を付与することができる。さらに、酸化金属フィルムとは異なり、金属ナノワイヤー26Aが組み込まれたポリマーマトリクス又は有機マトリクスは、剛性及び可撓性を有することができる。なお、可撓性のマトリクス32は、低費用・高速大量処理プロセスによる透明導電体30Aの製造を可能にする。
【0054】
さらに、導電層28Aの光学的特性は、マトリクス32を形成するための適切なマトリクス材を選択することにより調整可能である。例えば、反射損及び不要なグレアは、所望の屈折率、組成及び厚さを有するマトリクス材を使用することにより、効果的に低減できる。
【0055】
一般には、マトリクス材は光学的に透明な物質である。可視領域(400nm〜700nm)における物質の光透過率が少なくとも80%であるとき、物質は、光学的に透明であるとみなされる。
【0056】
マトリクス32は、厚さ約10nm〜5μm、厚さ約20nm〜1μm、又は厚さ約50nm〜200nmであり、また、約1.3〜2.5、又は約1.35〜1.8の屈折率を有する。
【0057】
マトリクス材は例えばポリマーであってもよい(ポリマーマトリクスとも称する)。光学的に透明なポリマーは、当技術分野において既知である。適切なポリマーマトリクスの例としては、ポリメタクリレート(例えば、ポリ(メチルメタクリレート))、ポリアクリレート及びポリアクリロニトリルのようなポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステルナフタレート、及びポリカーボネート)、フェノール又はクレゾール−ホルムアルデヒド(Novolacs(登録商標))、ポリスチレン、ポリビニルトルエン、ポリビニルキシレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルアミド、ポリスルフィド、ポリスルホン、ポリフェニレン、及びポリフェニルエーテルのような高度の芳香族性を有するポリマー、ポリウレタン(PU)、エポキシ、ポリオレフィン(例えばポリプロピレン、ポリメチルペンテン、及び環状オレフィン)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマー(ABS)、セルロース誘導体、シリコーン及び他のケイ素含有ポリマー(例えば、ポリシルセスキオキサン及びポリシラン)、塩化ポリビニル(PVC)、ポリアセテート、ポリノルボルネン、合成ゴム(例えばEPR、SBR、EPDM)、及びフルオロポリマー(例えば、ポリビニリデンフッ化物、ポリテトラフルオロエチレン(TFE)又はポリヘキサフルオロプロピレン)、フルオロ−オレフィン及び炭化水素オレフィンのコポリマー(例えば、Lumiflon(登録商標))、及びアモルファスフッ化炭素ポリマー又はコポリマー(例えば、旭ガラス社のCYTOP(登録商標)、又はデュポン社のテフロン(登録商標)AF)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
マトリクス材自体が導電性であってもよい。例えば、マトリクス材は、導電性ポリマーであってもよい。導電性ポリマーは、当技術分野において周知であり、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリアニリン、ポリチオフェン、及びポリジアセチレンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
「導電層28A」とは、透明導電体30Aの導電性媒体を提供する金属ナノワイヤー26Aのネットワーク層を指す。マトリクス32が存在するとき、金属ナノワイヤー26Aのネットワーク層とマトリクス32との組み合わせもまた、「導電層28A」と呼ばれる。導電層28Aの表面伝導率は、その表面抵抗に逆比例し、シート抵抗と呼ばれることもあり、当技術分野において既知の方法で測定可能である。
【0060】
導電層28Aは導電性を有するために、十分な金属ナノワイヤー26Aが充填されなくてはならない。「基準含有量」とは、導電層28Aが、約106オーム/sq.(又は、オーム/□)以下の表面抵抗率を有する場合の、導電層28Aに含有された金属ナノワイヤー26Aの重量%を指す。基準含有量は、金属ナノワイヤー26Aのアスペクト比、整列度、凝集度、及び抵抗率等に依存する。
【0061】
マトリクス32の機械的及び光学的特性は、マトリクス32中のあらゆる粒子の投入により、変化又は損傷されやすい。有利な点として、金属ナノワイヤー26Aの高アスペクト比が高いと、銀ナノワイヤーの場合で、基準含有量が好ましくは約0.05μg/cm〜約10μg/cm、より好ましくは約0.1μg/cm〜約5μg/cm、より好ましくは約0.8μg/cm〜約3μg/cmとなるように、マトリクス32を通じた導電性のネットワークの構成が可能となる。これらの投入量は、マトリクス32の機械的又は光学的特性に影響しない。これらの値は、金属ナノワイヤー26Aの寸法及び空間分散に強く依存する。有利な点として、金属ナノワイヤー26Aの含有量を調節することにより、電気伝導率(又は、表面抵抗率)及び光透過性が調節可能な透明導電体30Aを提供することができる。
【0062】
図2(B)に示されるように、導電層28Aは、マトリクス32の厚み全体に広がる。有利な点として、金属ナノワイヤー26Aのある部分は、マトリクス材(例えば、ポリマー)の表面張力に起因して、マトリクス32表面上に露出する。この特徴は、タッチスクリーン用途に特に役立つ。透明導電体30Aは、その少なくとも1つの表面上に表面伝導率を示す。
【0063】
図2(d)は、マトリクス32に組み込まれた金属ナノワイヤー26Aのネットワークが、どのように表面伝導率を得ると考えられているかを説明している。図示されるように、金属ナノワイヤー26Aが、マトリクス32に「浸漬される」可能性がある一方、金属ナノワイヤー26Aの末端部が、マトリクス32の表面上に突出する。また、金属ナノワイヤー26Aの中央部の一部が、マトリクス32の表面上に突出してもよい。十分な数の金属ナノワイヤー26Aの末端部及び中央部が、マトリクス32上に突出すると、透明導電体30Aの表面は導電性を有する。
【0064】
「ウェブ12」とは、導電層28Aが塗布される材料を指す。ウェブ12は、透明又は不透明であってもよい。適切な高剛性のウェブ12としては、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステルナフタレート、及びポリカーボネート)、ポリオレフィン(例えば、直鎖状、分岐鎖状、及び環状ポリオレフィン)、ポリビニル(例えば、塩化ポリビニル、塩化ポリビニリデン、ポリビニルアセタール、ポリスチレン、ポリアクリレート等)、セルロースエステル系(例えば、セルローストリアセテート、セルロースアセテート)、ポリエーテルスルホンのようなポリスルホン、ポリイミド、シリコーン、及び他の従来のポリマーフイルムが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、紙、金属、ガラス等も使用できる。
【0065】
(性能強化層)
上述したように、導電層28Aは、マトリクス32に起因して、優れた物理的及び機械的特徴を有する。これらの特徴は、透明導電体30Aに、付加的な層を導入することにより、さらに増強することが可能である。付加的な層としては、例えば反射防止層、グレア防止層、接着層、バリア層、及びハードコートのような一以上の層を含む。
【0066】
(腐食防止剤)
透明導電体30Aは、上述したバリア層に加えて、又はバリア層の代わりに、腐食防止剤を含んでもよい。様々な腐食防止剤は、様々な機構に基づいて、金属ナノワイヤー26Aを保護する。
【0067】
腐食防止剤は、容易に金属ナノワイヤー26Aと結合し、金属表面上に保護フィルムを形成する。これらは、バリア形成腐食防止剤とも呼ばれる。
【0068】
塗布液22の溶媒としては、金属ナノワイヤー26Aが均一に分散された塗布液(金属ナノワイヤー含有塗布液)を形成可能なあらゆる非腐食性の溶媒を使用することができる。特に、金属ナノワイヤー26Aは、水、アルコール、ケトン、エーテル、炭化水素、又は芳香族溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレン等)中に分散されることが好ましい。より好ましくは、その溶媒は揮発性であって、200℃以下、又は150℃以下、又は100℃以下の沸点を有する。
【0069】
加えて、金属ナノワイヤー26Aが分散された塗布液22は、粘度、腐食、接着力、及びナノワイヤー分散を調節するために、添加剤及び結合剤を含有してもよい。適切な添加剤及び結合剤の例としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、2−ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース(MC)、ポリビニルアルコール(PVA)、トリプロピレングリコール(TPG)、及びキサンタンガム(XG)、及びエトキシレート、アルコキシレート、エチレンオキシド及びプロピレンオキシド及びこれらのコポリマーのような界面活性剤、スルホン酸塩、硫酸塩、ジスルホン酸塩、スルホコハク酸塩、リン酸エステル、及びフルオロ界面活性剤(例えば、Zonyl(登録商標)、デュポン社)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
一例では、塗布液22は、0.0025重量%〜0.1重量%の界面活性剤(例えば、Zonyl(登録商標)FSO−100では、好ましい範囲は0.0025重量%〜0.05重量%)、0.02重量%〜4重量%の粘度調整剤(例えば、HPMCでは、好ましい範囲は0.02重量%〜0.5重量%)、94.5重量%〜99.0重量%の溶媒、及び0.05重量%〜1.4重量%の金属ナノワイヤーを含有する。適切な界面活性剤の代表例としては、Zonyl(登録商標)FSN、Zonyl(登録商標)FSO、Zonyl(登録商標)FSH、Triton(×100、×114、×45)、Dynol(604、607)、n−ドデシルb−D−マルトシド及びNovek(登録商標)が挙げられる。適切な粘度調整剤の例としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース、キサンタンガム、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースが挙げられる。適切な溶媒の例としては、水及びイソプロパノールが挙げられる。
【0071】
塗布液22の濃度を上記から変更することが求められるならば、溶媒のパーセントを増減させることが可能である。しかしながら、好ましい実施形態では、他の成分の相対比率は、同じままであることができる。特に、粘度調整剤に対する界面活性剤の比率は、好ましくは80〜0.01の範囲であり、金属ナノワイヤーに対する粘度調整剤の比率は、好ましくは5〜0.000625の範囲であり、界面活性剤に対する金属ナノワイヤー26Aの比率は、好ましくは560〜5の範囲である。塗布液22の構成要素の比率は、ウェブ12及び使用される塗布方法に従って、適宜修正してもよい。塗布液22の好ましい粘度範囲は、1〜100mPa・sである。
【0072】
マトリクス材は、ポリマーを含み、上述したものと同様の物を使用することができる。また、マトリクス材はプレポリマーを含む。「プレポリマー」とは、重合及び/又は架橋してポリマーマトリクスを形成することができるモノマーの混合物、オリゴマーの混合物、又は部分ポリマーの混合物を指す。所望のポリマーマトリクスを考慮して、適切なモノマー又は部分ポリマーを選択することは、当技術者の知識の範囲内である。
【0073】
好ましい実施の形態では、プレポリマーは光硬化性である。すなわち、プレポリマーは、照射により重合及び/又は架橋する。より詳細に記載するように、光硬化性プレポリマーに基づくマトリクス32は、選択された領域における照射によりパターン化が可能である。プレポリマーは、熱硬化性でもよく、熱源からの熱を選択的に当てることにより、パターン化が可能である。
【0074】
一般に、マトリクス材は液体である。マトリクス材は、任意に溶媒を含んでもよい。マトリクス材を有効に溶媒和又は分散することができるあらゆる非腐食性溶媒が使用できる。適切な溶媒の例としては、水、アルコール、ケトン、テトラヒドロフラン、炭化水素(例えば、シクロヘキサン)又は芳香族溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレン等)が挙げられる。より好ましくは、溶媒は、揮発性であって、200℃以下、又は150℃以下、又は100℃以下の沸点を有する。
【0075】
マトリクス材は、架橋剤、重合開始剤、安定化剤(例えば、製品寿命を伸ばす酸化防止剤及びUV安定剤、及び保存期間を長くする重合防止剤が挙げられる)、界面活性剤等を含んでもよい。マトリクス材は、腐食防止剤をさらに含んでもよい。
【0076】
(透明導電体の製造方法)
次に、図2(B)に示した透明導電体を、ロール・トゥ・ロール方式で製造する方法を図7により説明する。
【0077】
図7に示すように、ウェブ12は送出リール14から、エクストルージョンタイプ型の塗布装置16に向けて送出される。
【0078】
本実施の形態では、前処理ステーション38において前処理が行われる。より具体的には、塗布液22の塗布の効率を向上するために、前処理ステーション38において、ウェブ12に任意に表面処理を行うことが好ましい。加えて、塗布に先立つウェブ12の表面処理は、塗布される金属ナノワイヤー26Aの均一性を向上することができる。
【0079】
ウェブ12の表面処理は、当技術分野において既知の方法により行うことが可能である。例えば、ウェブ12の表面の分子構造を変更するために、プラズマ表面処理を使用可能である。プラズマ表面処理は、アルゴン、酸素、又は窒素のようなガスを使用して、低温においてより高い反応性を有する種を作成可能である。一般的には、表面上のほんのわずかだけの原子層が工程に関与しているので、ウェブ12(例えば、ポリマーフイルム)のバルク特性は、化学反応によって変化せずそのまま残る。多くの場合、プラズマ表面処理は、濡れ性及び接着結合性を向上する適切な表面活性を提供する。具体例としては、以下の運転パラメーターを使用して、March PX250システムにより、酸素プラズマ処理を遂行可能である。そのパラメーターは、150W、30秒、O流量は62.5sccm、圧力は約400mTorrである。
【0080】
表面処理は、ウェブ12上へ下塗り層の塗布を含んでもよい。上述したように、下塗り層は、一般的には金属ナノワイヤー26A及びウェブ12の両方に親和性を有する。したがって、下塗り層は、金属ナノワイヤー26Aの固定、及び金属ナノワイヤー26Aのウェブ12への付着を可能にする。下塗り層として適した代表的な物質としては、ポリペプチド(例えば、ポリ−L−リジン)を含む多機能生体分子が挙げられる。他の典型的な表面処理としては、溶媒による表面洗浄、コロナ放電、及びUV/オゾン処理が挙げられ、これらは全て当業者に既知である。
【0081】
そして、エクストルージョン型の塗布装置16に送られらウェブ12には、この塗布装置16によって塗布液22が塗布される。これにより、ウェブ12上には、金属ナノワイヤー26Aが分散された塗布層22Bが形成される。
【0082】
かかる塗布の工程においても、上記したように塗布液22のウエット膜厚をhとし、クリアランスをdとしたときに、h<d≦3hを満足するようにクリアランスdを設定することが重要である。
【0083】
これにより、バックアップローラ20に巻き掛けられて走行するウェブ12と塗布ヘッド先端18Aとの間のクリアランスdに塗布液ビード22Aを形成して塗布する塗布装置16を用いて、金属ナノワイヤー26Aを含む塗布液22をウェブ12に塗布しても塗布スジ故障が発生しないようにできる。したがって、製造される透明導電体30Aは均一な電気特性、光学特性、機械特性を有することができる。
【0084】
次に、ウェブ12は濯ぎステーション40に送られ、塗布された塗布層22Bを任意に濯ぐことができる。その後、塗布層22Bは、乾燥ステーション42において乾燥される。なお、図7では特に乾燥方式について説明しないが、例えば図1に示しようにトンネル状の乾燥装置本体の中をウェブ12が通過する間にウェブ12に熱風を吹き付ける熱風乾燥装置を好適に使用できる。これにより、ウェブ12上に金属ナノワイヤー26Aのネットワーク層である導電層28Aが形成される。
【0085】
次に、導電層28Aが形成されたウェブ12は後処理ステーション44に送られる。そして、例えば、アルゴン又は酸素プラズマによる金属ナノワイヤー26Aの表面処理がなされる。これにより、導電層28Aの透過性及び導電性を改善することができる。具体例としては、以下の運転パラメーターを使用して、March PX250システムにより、Ar又はNプラズマを遂行することができる。そのパラメーターは、300W、90秒(又は45秒)、Ar又はNガス流量が12sccm、圧力が約300mTorrである。同様に、他の既知の表面処理(例えば、コロナ放電又はUV/オゾン処理)を使用してもよい。例えば、コロナ処理のために、Enerconシステムを使用可能である。
【0086】
次に、ウェブ12は、導電層28Aの加圧処理を行う加圧処理ステーション46に送られる。より具体的には、導電層28Aが、ローラー46A及び46Bを介して送り込まれ、これらのローラーは導電層28Aの表面に圧力を加える。この場合、単一のローラーも使用可能である。加圧処理の有利な点として、導電層28A、特に、マトリクス材の塗布に先立って導電層28Aを加圧処理すると、導電層28Aの導電性を向上させることができる。以下の説明では、ウェブ12上に導電層28Aが形成された状態のワークや、導電層28Aにマトリクス32が形成された状態のワーク等のように、最終的に透明導電体30Aとなる前の段階のワークを透明導電体前駆体と記す。
【0087】
特に、1つ以上のローラー(例えば、円筒棒)を使用して、導電層28Aを有するウェブ12の一方(導電層面)又は両方の面に、圧力が加えられてもよい。単一のローラーが使用される場合には、導電層28Aが硬質の表面上に設置される可能性があり、ローラーに圧力が加えられる間に、既知の方法を使用して、単一のローラーが導電層28Aの露出した表面を回転する。2つのローラー46A,46Bが使用される場合には、導電層28Aは2つのローラー46A,46B間でロール処理されてもよい。
【0088】
また、1つ以上のローラーにより、50〜10,000psiの圧力が導電層28Aに加えられてもよい。また、100〜1000psi、又は200〜800psi、又は300〜500psiが加えられてもよい。好ましくは、あらゆるマトリクス材の塗布に先立ち、導電層28Aに圧力が加えられる。
【0089】
導電層28Aに圧力を加えるために、2つ以上のローラーを使用する場合には、「ニップ」又は「ピンチ」ローラーを使用してもよい。ニップ又はピンチローラーは、当技術分野においてよく理解されており、例えば、3M技術報告「積層接着剤のコンバータのための積層技術(Lamination Techniques for Converters of Laminating Adhesives)」(2004年3月)において説明されている。
【0090】
上述のプラズマ処理の適用の前後のいずれかにおいて、導電層28Aへ加圧を行うとその導電性が改善され、さらにこの加圧は、先の又は後のプラズマ処理の有無にかかわらず、行われてもよい。図7に示されるように、ローラー46A,46Bは1回又は複数回、導電層28Aの表面を回転してもよい。ローラーが導電層28A上を複数回回転する場合、その回転は、ロール処理されるシートの表面に平行な軸に対して同じ方向(例えば、ウェブの走行経路に沿って)、又は異なる方向(図示せず)へ行われてもよい。
【0091】
例えばステンレス鋼ローラーを使用して約1000psi〜約2000psiで加圧した後の、金属ナノワイヤー26Aによる導電層28Aは、複数のナノワイヤー交点を含む。少なくとも各交点における上面ナノワイヤーは、交差している部分が、加圧により互いに圧迫された場所で、扁平な横断面を有し、それによって、金属ナノワイヤー26Aによる導電層28Aの導電性に加え、接続性が強化されている。
【0092】
さらに、導電層28Aが加熱されることが好ましい。一般的には、導電層28Aは80℃〜250℃のいずれかに10分間以下、より好ましくは、100℃〜160℃のいずれかに10秒間〜2分間のいずれかの間加熱される。加熱は、オンライン又はオフラインのいずれかで行われることができる。例えばオフライン処理において、導電層28Aに所定温度に設定されたシート状の製品を乾燥することができるオーブン(シートオーブンと記す)中に所定時間設置することができる。導電層28Aをこのような方法で加熱すると、透明導電体30Aの導電性を向上する上で有利である。例えば、図7で示すようなロール・トゥ・ロール工程を使用して製造された透明導電体30Aは、本実施の形態では、温度200℃に設定された上述のシートオーブン中に、30秒間置いた。透明導電体30Aは、この熱後処理の前に表面抵抗率が約12kオーム/sq.であったが、熱処理の後に約58オーム/sq.に低下した。例えば、導電層28Aを加熱するために、インライン又はオフライン法のいずれかで、赤外線ランプを使用することができる。RF電流も、金属ナノワイヤー26Aの導電層28Aを加熱するために使用することができる。RF電流は導電層28Aへの電気接点を通じて誘起されるブロードキャストマイクロ波又は電流のいずれかによって導電層28A中で誘起されてもよい。
【0093】
さらに、導電層28Aに熱及び圧力の両方を加える後処理を使用可能である。特に、圧力を加えるために導電層28Aは、上述のような1つ以上のローラーを介して設置されることができる。熱を同時に加えるために、ローラーは加熱されてもよい。ローラーにより加えられる圧力は、好ましくは10〜500psi、より好ましくは40〜200psiである。ローラーは、好ましくは70℃〜200℃、より好ましくは100℃〜175℃に加熱される。このような加熱と加圧の組み合わせは、導電層28Aの導電性を向上可能である。適切な圧力及び熱の両方を同時に加えるために使用可能な機械は、Banner American Products of Temecula、Calif.によるラミネーターである。加熱と加圧との組み合わせは、以下に記載されるような、マトリクス又は他の層の塗布及び硬化の前後のいずれかにおいて行うことができる。
【0094】
導電層28Aの導電性を向上するために使用される他の後処理技術は、本明細書に開示されるように製造された導電層28Aを、金属還元剤にさらすことである。特に、銀ナノワイヤーの導電層28Aは、好ましくは水素化ホウ素ナトリウムのような銀還元剤に、好ましくは10秒間〜30分間のいずれか、より好ましくは1分間〜10分間さらすことができる。当業者が理解するように、このような処理は、インライン又はオフラインのいずれかで行われることができる。
【0095】
上述したように、このような処理は、導電層28Aの導電性を向上できる。例えば、図7で示すロール・トゥ・ロール工程に従って調製されたPETフィルム上の銀ナノワイヤーの導電層28Aは、2%NaBHに1分間さらされ、その後、水で濯ぎ、空気中で乾燥された。導電層28Aは、この後処理の前に約134オーム/sq.の抵抗率を有し、この後処理の後に約9オーム/sq.の抵抗率を有した。
【0096】
次に、ウェブ12は、マトリクス材を塗布するマトリクス塗布ステーション48に送られる。マトリクス塗布ステーション48は、貯蔵タンクの他、噴霧装置、ブラッシング装置、印刷装置等であってもよい。こうして、マトリクス材が導電層28A上に塗布される。有利な点として、マトリクス材は、印刷装置により塗布され、パターン化されたマトリクス材層として形成することが可能である。
【0097】
次に、マトリクス材が塗布されたウェブ12は、硬化ステーション50に送られて硬化される。マトリクス材がポリマー/溶媒系である場合、マトリクス材層は、溶媒を蒸発させることにより硬化可能である。硬化工程は、加熱(例えば、焼成)により、促進可能である。マトリクス材が放射線硬化性プレポリマーを含む場合、マトリクス材層は、照射により硬化可能である。プレポリマーの種類によって、熱硬化(熱的誘導重合)も使用可能である。
【0098】
マトリクス材層を硬化する前に、任意にパターニング段階を行うことができる。パターニングステーション52は、マトリクス塗布ステーション48の後、及び硬化ステーション50の前に配置する。
【0099】
硬化工程は、マトリクス32中に、金属ナノワイヤー26Aを含む導電層28Aを形成する。導電層28Aは、後処理ステーション54においてさらに処理可能である。
【0100】
導電層28Aは、該導電層28Aの表面の金属ナノワイヤー26Aの一部を露出させるために、後処理ステーション54において表面処理することができる。例えば、溶媒、プラズマ処理、コロナ放電、又はUV/オゾン処理により、極微量のマトリクス32がエッチング除去可能である。露出した金属ナノワイヤー26Aは、タッチスクリーン用途に特に有用である。
【0101】
一部の金属ナノワイヤー26Aは、硬化工程の後に導電層28Aの表面上に露出され(図2(D)参照)、エッチング段階は必要でない。特に、マトリクス32の厚さ及びマトリクス材の表面張力が適切に調節されれば、マトリクス32は、上部の導電層28Aを濡らさず、金属ナノワイヤー26Aの一部が導電層28Aの表面上に露出することとなる。これにより、導電層28A及びウェブ12からなる透明導電体30Aが製造される。製造された透明導電体30Aは、巻取リール31に巻き取られる。この製造のフロー工程は、「リール・トゥ・リール」又は「ロール・トゥ・ロール」工程とも称される。ウェブ12は、任意にコンベヤーベルトに沿って移動させることにより、安定化可能である。
【0102】
「ロール・トゥ・ロール」工程において、複数の被覆段階は、移動しているウェブ12の移動経路に沿って行うことができる。したがって、必要に応じ、如何なる数の付加的な被覆ステーションをも組み込むように、カスタマイズや改変可能である。例えば、性能強化層(反射防止、接着、バリア、グレア防止、保護用の層又はフィルム)の被覆は、フロー工程に十分に統合可能である。
【0103】
[実施例]
次に、本実施の形態に係る紐状フィラー含有塗布物の製造方法について、紐状フィラーとして銀ナノワイヤー(金属ナノワイヤーの1種)を使用して透明導電体を製造した具体的な試験結果を説明する。
【0104】
(1)塗布液の処方
試験に供した塗布液の組成は次のとおりである。
【0105】
*銀ナノワイヤー(長軸径10μm、短軸径50nm) 0.3g
*純水 60 g
*プロパノール 37.7g
*テトラエトキシシラン(TEOS) 2 g
[合計] 100 g
なお、pH調整剤により塗布液のpHをpH4に調整した。
【0106】
(2)塗布工程及び乾燥工程の条件
試験は、図1に示す製造装置を使用して行った。
【0107】
*塗布装置16…図8(本発明)及び図9(従来)に示すように、バックアップローラ(図示せず)を備えたエクストルージョン型の塗布ヘッド18を使用すると共に、スリット間隔(S)を50μmに設定した。また、塗布ヘッド18のウェブ走行方向下流側のリップランド長(L)を50μm、オーバーバイト量(OB)を50μmとした。
【0108】
*ウェブ12は、厚み120μmのPETフィルムを使用し、フィルム面を4J/cmでコロナ処理すると共にシランカップリング処理した。
【0109】
*乾燥装置24…熱風乾燥装置を使用し、ウェブ12面に塗布形成された塗布層22Bを120℃で1分乾燥し、塗布層22B中の溶媒を飛ばした。
【0110】
(3)試験
そして、塗布装置16から上記処方された塗布液22を、走行するウェブ12に塗布した。この塗布において、ウェブ12に塗布された塗布液22のウエット膜厚をhとし、クリアランスをdとしたときに、h<d≦3hを満足する場合(図8)と満足しない場合(図9)とで、塗布スジ故障の発生がどのようになるかを試験した。即ち、図10の表に示したように、クリアランスdを20〜120μmの間で変化させると共に、ウエット膜厚hを7〜24cc/mの間で変化させることにより、d/hを2.9〜17の間で変えるようにした。なお、例えば7cc/mの塗布量はウエット膜厚hの7μmに相当する。
【0111】
具体的なd/hは、試験1が7、試験2が10、試験3が17、試験4が4、試験5が3、試験6〜10が2.9、試験11が2.0である。なお、表には小数点以下を四捨五入して記載した。
【0112】
また、ウェブ走行速度の影響を見るために、ウェブ走行速度を12、24、36m/minの3水準で行った。
【0113】
なお、オーバーバイトを有する塗布ヘッド18の場合、クリアランスdはウェブ走行方向下流側のリップ先端からウェブ12までの距離となる。
【0114】
(4)試験結果
試験結果は図10の表に示す。評価項目としては、上記した「塗布スジ」以外に「塗布終端部の凝集物」の有り無し、を目視にて観察した。さらには、塗布スジの発生する原因の考察材料として、塗布液ビード内の渦流の有り無し、を流体力学に基づく計算によって把握した。
【0115】
図10の表における塗布スジの評価は、×が塗布スジの発生したことを示し、○が塗布スジの発生がないことを示す。
【0116】
その結果、h<d≦3hを満足しない、即ちd/hが3倍を超えて大きい試験1〜4では、塗布開始後1分程度でウェブ走行方向に塗布スジ36(図4参照)が発生した。塗布終端部34を観察したところ、図9に示すようにウェブ幅方向に凝集物27が蓄積されているのが確認された。そして、この凝集物27を起点として塗布スジ故障が発生していた。また、この凝集物27を採取して顕微鏡にて観察した結果、銀ナノワイヤー同士が絡まった塊であった。
【0117】
また、試験1〜4のウエット膜厚hとクリアランスdとの関係は塗布液ビード22A内に渦流Bが発生する関係であることから、渦流Bによって銀ナノワイヤー同士が絡まって凝集物27が形成されると推察された。
【0118】
このことから、塗布液ビード22A内に渦流Bが発生しないウエット膜厚hとクリアランスdとの関係、即ちd/hが3倍以下になるように試験5〜11を設定した。その結果、推察したとおり、塗布スジ36は発生せず、塗布終端部34における凝集物27も観察されなかった。
【0119】
また、ウェブ走行速度を12、24、36m/minの3水準に変えても、d/hが3倍以下であれば塗布スジ34は発生しなかった。
【0120】
この結果から、バックアップローラ20に巻き掛けられて走行するウェブ12と塗布ヘッド先端18Aとの間のクリアランスdに塗布液ビード22Aを形成して塗布する塗布装置を用いて、銀ナノワイヤーを含む塗布液22をウェブ12に塗布する場合には、h<d≦3hを満足するようにクリアランスdを設定することで塗布ズシ故障を解消できることが確認された。
【符号の説明】
【0121】
10…紐状フィラー含有塗布物の製造装置、12…ウェブ、14…送出リール、16…エクストルージョン型の塗布装置、18…塗布ヘッド、18A…塗布ヘッド先端、20…バックアップローラ、22…塗布液、22A…塗布液ビード、22B…塗布層、24…乾燥装置、26…紐状フィラー、26A…金属ナノワイヤー、27…凝集物、28…ネットワーク層、28A…金属ナノワイヤーのネットワークを有する導電層、30…紐状フィラー含有塗布物、30A…透明導電体、31…巻取リール、32…マトリクス、34…塗布終端部、36…塗布スジ、38…前処理ステーション、40…濯ぎステーション、42…乾燥ステーション、44…後処理ステーション、46…加圧処理ステーション、48…マトリクス塗布ステーション、50…硬化ステーション、52…パターニングステーション

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックアップローラに巻き掛けられて走行するウェブと塗布ヘッド先端との間のクリアランスに塗布液ビードを形成して塗布する塗布装置を用いて、ナノサイズの紐状フィラーを多数本含む塗布液を前記ウェブに塗布する塗布工程と、前記塗布された塗布層を乾燥する乾燥工程とを少なくとも備えた紐状フィラー含有塗布物の製造方法において、
前記塗布工程では、前記塗布液のウエット膜厚をhとし、前記クリアランスをdとしたときに、h<d≦3hを満足するように前記クリアランスを設定することを特徴とする紐状フィラー含有塗布物の製造方法。
【請求項2】
前記dは500μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の紐状フィラー含有塗布物の製造方法。
【請求項3】
前記紐状フィラーは金属ナノワイヤーであることを特徴とする請求項1又は2に記載の紐状フィラー含有塗布物の製造方法。
【請求項4】
前記紐状フィラーはカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1又は2に記載の紐状フィラー含有塗布物の製造方法。
【請求項5】
前記紐状フィラーの長軸径は1〜100μm、短軸径は1〜500nmであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1に記載の紐状フィラー含有塗布物の製造方法。
【請求項6】
前記塗布ヘッドは、エクストルージョン型又はスライドダイ型であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1に記載の紐状フィラー含有塗布物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−56291(P2013−56291A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195312(P2011−195312)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】