説明

純水製造装置

【課題】 超純水製造装置の長期安定稼動を実現することが可能な純水製造装置を提供する。
【解決手段】 被処理水に含有される細菌を酸化分解する紫外線酸化装置と、前記紫外線酸化装置を通過した被処理水中のオゾンを分解する光触媒反応器と、前記光触媒反応器を通過した被処理水を濾過するイオン交換装置とを有する超純水製造装置であって、前記光触媒反応器は、光触媒機能を有するシリカ基複合酸化物繊維の不織布から形成した成形物が、反応容器内に複数段配置され、254nmの波長の紫外線の照射下に、前記成形物と被処理水が接触するように構成されていることを特徴とする超純水製造装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超純水製造装置等に組み込まれる純水製造装置に関して、光触媒浄化装置とイオン交換装置とを有し、光触媒浄化装置の後段に配置されるイオン交換装置の寿命を改善した純水製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
純度の極めて高い超純水は電子産業分野で利用され、その要求水質も年々厳しくなるとともに、使用量も増加しており、一定基準水質の超純水を安定的に供給することが重要になっている。超純水製造システムは、図1に示すように前処理システム1、一次純水システム2およびサブシステム3によって構成される。一般的に、TOC(有機物)成分は一次純水システム2により10ppb以下、サブシステム3により5ppb以下まで除去される。
【0003】
前処理システム1は、被処理水中の濁質成分を除去するものであり、ろ過装置等で構成されている。一次純水システム2は、前処理システム1で濁質成分を除去した処理水中に含まれるイオン成分、TOC成分を除去するものであり、一次純水タンク4、4床5塔イオン交換装置5、RO装置(逆浸透膜)6、脱気膜装置7、EDI装置(電気脱イオン)8で構成されている。サブシステム3は、一次純水システム2でイオン成分、TOC成分を除去した処理水中に残存する微量なTOC成分を紫外線酸化装置10および非再生型イオン交換装置12で除去するものであり、サブタンク9、紫外線酸化装置10、非再生型イオン交換装置12、UF膜装置(限外ろ過)13で構成されている。このようにして製造された超純水はユースポイントUPで使用されるとともに、余剰な超純水はサブタンク9に返送される。
【0004】
超純水の使用用途が主として電子産業分野であることから、一定基準水質の超純水を安定的に供給することが重要であり、超純水製造装置の長期安定的な稼動が非常に重要となる。しかしながら、上述した従来の超純水製造装置では、紫外線酸化装置10後段の非再生型イオン交換装置12中のイオン交換樹脂が劣化しやすく、長期安定稼動に問題を生じている。これは、紫外線酸化装置10では185nmの波長の紫外線を使用することから、処理水中にオゾンが生成し、このオゾンが非再生型イオン交換装置12中のイオン交換樹脂を劣化させ、イオン交換樹脂から粉化した粒子成分が流出することにより後段のUF膜装置13を閉塞に至らしめるものである。
【0005】
このような問題を解決するものとして、例えば特許文献1に、図2に示すように紫外線酸化装置10後段に紫外線波長254nmの紫外線殺菌装置11を設けることを特徴とする純水製造装置が開示されている。
【0006】
特許文献1の方法においては、紫外線酸化装置10において185nm波長の紫外線によって生成したオゾンを後段の紫外線殺菌装置11において254nm波長の紫外線によって水と酸素に分解することにより、イオン交換装置12へオゾンが流入することを防止し、イオン交換樹脂の劣化を防ぐものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−227886号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、超純水製造装置の長期安定稼動を実現するためには、特許文献1に記載された方法のみでは不十分である。特に、イオン交換装置12内に細菌が繁殖し、細菌の繁殖によってイオン交換装置12内のイオン交換樹脂が固化し、その性能が十分に発揮されなかったり、細菌およびその死骸によって後段のUF装置13が閉塞を起こすといった問題が残されている。これは、紫外線殺菌装置11は、紫外線照射によって細菌を不活化することは可能であるものの、殺菌性能が不十分であり、また細菌の死骸を分解する能力を持たないためである。
【0009】
そこで本発明は、超純水製造装置の長期安定稼動を実現することが可能な純水製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、図3のように紫外線酸化装置10の後段に、254nm波長の紫外線照射下に、光触媒と処理水とを接触させて処理することを目的とする光触媒反応器20を設置することにより、超純水製造装置の長期安定稼動を実現可能とすることを見出した。
【0011】
即ち、本発明は、被処理水に含有される細菌を酸化分解する紫外線酸化装置と、前記紫外線酸化装置を通過した被処理水中のオゾンを分解する光触媒反応器と、前記光触媒反応器を通過した被処理水を濾過するイオン交換装置とを有する純水製造装置であって、前記光触媒反応器は、紫外線ランプと、光触媒機能を有するシリカ基複合酸化物繊維の不織布からなる成形物とを有し、前記成形物が反応容器内に複数段配置され、前記紫外線ランプの254nmの波長の紫外線の照射下に、前記成形物と被処理水が接触するように構成されていることを特徴とする純水製造装置に関する。
【0012】
本発明の純水製造装置は、前記紫外線酸化装置の前段に、順に、被処理水中の濁質成分を除去する前処理システムと、イオン成分やTOC成分を除去する一次純水システムとが接続されていることが好ましい。
【0013】
また、本発明の一態様は、前記光触媒機能を有するシリカ基複合酸化物繊維の不織布からなる成形物が円錐状、中空円錐台状又は円盤状のいずれかである前記純水製造装置である。
【0014】
また、本発明の一態様は、前記光触媒機能を有するシリカ基複合酸化物繊維の不織布からなる成形物が連結棒に複数段直列状に設置され、反応容器内への脱着自在である光触媒カートリッジとして使用される前記純水製造装置である。
【0015】
本発明は、前記紫外線ランプが水の流動方向と平行方向に反応容器内に設けられている前記純水製造装置に関する。
【0016】
本発明は、前記光触媒繊維がシリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物からなる繊維であり、第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大しており、繊維全体に対する第1相の存在割合が98〜40重量%、第2相の存在割合が2〜60重量%である前記純水製造装置に関する。
【0017】
本発明は、前記第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合の傾斜が、繊維表面から5〜500nmの深さで存在することを特徴とする前記純水製造装置に関する。
【0018】
本発明は、前記第2相の金属酸化物がチタニアであり、その結晶粒径が15nm以下であることを特徴とする前記純水製造装置に関する。
【発明の効果】
【0019】
光触媒反応は、紫外線の照射によって発生するOHラジカルが細菌、有機物等を酸化分解するものである。図3に示すように、紫外線酸化装置10で生成したオゾンは、光触媒反応器20において、254nm波長の紫外線によって水と酸素に分解されるとともに、光触媒反応によって被処理水中に含まれる細菌を分解することにより、イオン交換装置12内の細菌の繁殖、細菌およびその死骸によるUF装置13の閉塞を防止することが可能である。
【0020】
本発明は、純水製造装置において、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物からなる繊維であって、第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大しており、光触媒機能を有するシリカ基複合酸化物繊維の不織布から形成した成形物を、反応容器内に複数段配置し、254nm波長の紫外線の照射下に、成形物と被処理水とを接触させることにより、水中のオゾンを分解するとともに、被処理水中に含まれる細菌を酸化分解することにより、長期安定稼動が可能な純水製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】一般的な超純水製造装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図2】特許文献1記載の超純水製造装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明に係る純水製造装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図4】本発明に係る光触媒反応器の概念図である。
【図5】本発明に係る光触媒カートリッジの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の純水製造装置は、被処理水に含有される細菌を酸化分解する紫外線酸化装置と、前記紫外線酸化装置を通過した被処理水中のオゾンを分解する光触媒反応器と、前記光触媒反応器を通過した被処理水を濾過するイオン交換装置とを有する純水製造装置である。前記光触媒反応器は、光触媒機能を有するシリカ基複合酸化物繊維の不織布から形成した成形物が、反応容器内に複数段配置され、254nm波長の紫外線の照射下に、成形物と被処理水が接触するように構成されている。
【0023】
本発明に係る純水製造装置の実施の形態について図面を用いてさらに詳細に説明する。図3は、本実施の形態に係る純水製造装置の構成の一例を示すブロック図である。本実施の形態に係る純水製造装置は、前処理システム1、一次純水システム2およびサブシステム3によって構成される。
【0024】
前処理システム1は、被処理水中の濁質成分を除去するものであり、ろ過装置等で構成されている。一次純水システム2は、前処理システム1で濁質成分を除去した処理水中に含まれるイオン成分、TOC成分を除去するものであり、一次純水タンク4、4床5塔イオン交換装置5、RO装置(逆浸透膜)6、脱気膜装置7、EDI装置(電気脱イオン)8で構成されている。サブシステム3は、一次純水システム2でイオン成分、TOC成分を除去した被処理水中に残存する微量なTOC成分を紫外線酸化装置10および非再生型イオン交換装置12で除去するものであり、サブタンク9、紫外線酸化装置10、光触媒反応器20、非再生型イオン交換装置12、UF膜装置(限外ろ過)13で構成されている。このようにして製造された超純水はユースポイントUPで使用されるとともに、余剰な超純水はサブタンク9に返送される。
【0025】
図4は、不織布の成形物が中空円錐台状である本発明の純水製造装置を構成する光触媒反応器を示す。この光触媒反応器20は、光触媒反応器20の底部に水の入口21、光触媒反応器20の天井部に水の出口22を備え、該光触媒反応器20の中央部に保護管23内に配置された紫外線ランプ24が設置されている。また、光触媒機能を有するシリカ基複合酸化物繊維の不織布から形成した成形物が、反応容器内に複数段設置されており、254nm波長の紫外線の照射下に、成形物と被処理水が接触するように構成されている。入口21から供給された水は、成形物30を形成する繊維一本一本の隙間を通過して、出口22から排出される。前記光触媒機能を有するシリカ基複合酸化物繊維の不織布から形成した成形物の形状としては、円錐状、中空円錐台状又は円盤状などが好ましい。このような形状とすることで、円筒状の反応器内に容易に挿入することが可能である。また、不織布から形成した成形物が連結棒により複数段直列状に設置されることにより、光触媒カートリッジは、反応容器内へ脱着できるように構成されている。これにより、被処理水が前記光触媒機能を有するシリカ基複合酸化物繊維の不織布に効果的に接触する。
【0026】
紫外線ランプ24は、水の流動方向と平行方向に反応容器内に設けられており、前記光触媒機能を有するシリカ基複合酸化物繊維の不織布から形成した成形物に254nm波長の紫外線が照射される。紫外線ランプは通常棒状のものが使用され、反応容器の中心軸と平行に設置することにより、紫外線ランプの棒状に伸びた発光長を効率的に利用することが可能である。
【0027】
不織布31は、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物相からなるシリカ基複合酸化物繊維であって、第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大している光触媒繊維からなる。
【0028】
光触媒繊維の表面は、必要に応じて白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、インジウム(In)及びスズ(Sn)のうちの1以上が担持されていてもよい。担持方法は、特に限定されないが、前記担持される金属イオンが含まれる液と光触媒繊維とを接触させながら、第2相を構成する金属酸化物のバンドギャップに相当するエネルギー以上のエネルギーを有する光を照射することによって、担持させることができる。
【0029】
第1相は、シリカ成分を主体とする酸化物相であり、非晶質であっても結晶質であってもよく、またシリカと固溶体あるいは共融点化合物を形成し得る金属元素あるいは金属酸化物を含有してもよい。シリカと固溶体を形成し得る金属元素(A)としては、例えば、チタン等が挙げられる。シリカと固溶体を形成し得る金属酸化物の金属元素(B)としては、例えば、アルミニウム、ジルコニウム、イットリウム、リチウム、ナトリウム、バリウム、カルシウム、ホウ素、亜鉛、ニッケル、マンガン、マグネシウム、及び鉄等が挙げられる。
【0030】
第1相は、シリカ基複合酸化物繊維の内部相を形成しており、力学的特性を負担する重要な役割を演じている。シリカ基複合酸化物繊維全体に対する第1相の存在割合は40〜98重量%であることが好ましく、目的とする第2相の機能を十分に発現させ、なお且つ高い力学的特性をも発現させるためには、第1相の存在割合を50〜95重量%の範囲内に制御することがさらに好ましい。
【0031】
一方、第2相は、チタンを含む金属酸化物相であり、光触媒機能を発現させる上で重要な役割を演じるものである。金属酸化物を構成する金属としては、チタンが挙げられる。この金属酸化物は、単体でもよいし、その共融点化合物やある特定元素により置換型の固溶体を形成したもの等でもよいが、チタニアであることが好ましい。第2相は、シリカ基複合酸化物繊維の表層相を形成しており、シリカ基複合酸化物繊維の第2相の存在割合は、金属酸化物の種類により異なるが、2〜60重量%が好ましく、その機能を十分に発現させ、また高強度をも同時に発現させるには5〜50重量%の範囲内に制御することがさらに好ましい。第2相のTiを含む金属酸化物の結晶粒径は15nm以下が好ましく、特に10nm以下が好ましい。
【0032】
第2相に含まれる金属酸化物のチタンの存在割合は、シリカ基複合酸化物繊維の表面に向かって傾斜的に増大しており、その組成の傾斜が明らかに認められる領域の厚さは表層から5〜500nmの範囲に制御することが好ましいが、繊維直径の約1/3に及んでもよい。尚、第1相及び第2相の「存在割合」とは、第1相を構成する金属酸化物と第2相を構成する金属酸化物全体、即ちシリカ基複合酸化物繊維全体に対する第1相の金属酸化物及び第2相の金属酸化物の重量%を示している。このような傾斜構造とすることで、光触媒機能を担う第2相と第1相との間に界面が無く作製することが可能であり、第1相の脱落・剥がれという問題を回避することが可能である。
【0033】
本発明の光触媒反応器において、不織布上の平均紫外線強度は、0.5〜10mW/cmであることが好ましく、さらに1〜8mW/cmの範囲であることが好ましい。不織布表面での紫外線強度が0.5〜10mW/cmであると、細菌の分解を高効率に行うことができる。このような範囲にするには、紫外線ランプと不織布との距離等を適当な範囲になるようにすればよい。ここで、平均紫外線強度は、不織布表面の紫外線ランプから最も近い箇所と最も遠い箇所の紫外線強度を測定し、それらの値を平均して平均紫外線強度とすることができる。
【0034】
次に、傾斜構造を有する光触媒繊維の製造方法について説明する。
(溶融紡糸法)
光触媒繊維は、主として一般式
【0035】
【化1】

(但し、式中のRは水素原子、低級アルキル基又はフェニル基を示す。)で表される主鎖骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシランを、有機金属化合物で修飾した構造を有する変性ポリカルボシラン、あるいは変性ポリカルボシランと有機金属化合物との混合物を得る第A工程、溶融紡糸する第B工程、不融化処理する第C工程、及び空気中又は酸素中で焼成する第D工程により製造することができる。
【0036】
第A工程は、シリカ基複合酸化物繊維を製造するための出発原料として使用する数平均分子量が1,000〜50,000の変性ポリカルボシランを製造する工程である。上記変性ポリカルボシランの基本的な製造方法は、特開昭56−74126号に極めて類似しているが、その中に記載されている官能基の結合状態を注意深く制御する必要がある。
【0037】
変性ポリカルボシランは、主として上記化1で表される主鎖骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシランと、一般式、M(OR’)nあるいは、MR”m(Mは金属元素、R’は炭素原子数1〜20個を有するアルキル基又はフェニル基、R”はアセチルアセトナート、mとnは1より大きい整数)を基本構造とする有機金属化合物とから誘導されるものである。
【0038】
傾斜構造を有する光触媒繊維を製造するには、前記有機金属化合物の一部のみがポリカルボシランと結合を形成する緩慢な反応条件を選択する必要がある。その為には280℃以下、好ましくは250℃以下の温度で、不活性ガス中で反応させる必要がある。この反応条件では、有機金属化合物はポリカルボシランと反応したとしても、1官能性重合体として結合(即ちペンダント状に結合)しており、大幅な分子量の増大は起こらない。この有機金属化合物が一部結合した変性ポリカルボシランは、ポリカルボシランと有機金属化合物の相溶性を向上させる上で重要な役割を演じる。
【0039】
なお、2官能以上の多くの官能基が結合した場合は、ポリカルボシランの橋掛け構造が形成されると共に顕著な分子量の増大が認められる。この場合は、反応中に急激な発熱と溶融粘度の上昇が起こる。一方、1官能しか反応せず未反応の有機金属化合物が残存している場合は、逆に溶融粘度の低下が観察される。
【0040】
傾斜構造を有する光触媒繊維を製造するには、未反応の有機金属化合物を意図的に残存させる条件を選択することが望ましい。主として上記変性ポリカルボシランと未反応状態の有機金属化合物あるいは2〜3量体程度の有機金属化合物が共存したものを出発原料として用いるが、変性ポリカルボシランのみでも、極めて低分子量の変性ポリカルボシラン成分が含まれる場合は、同様に出発原料として使用できる。
【0041】
第B工程においては、第A工程で得られた変性ポリカルボシラン、あるいは変性ポリカルボシランと低分子量の有機金属化合物の混合物(以下、前駆体という場合がある。)を溶融させて紡糸原液を造り、場合によってはこれをろ過してミクロゲル、不純物等の紡糸に際して有害となる物質を除去し、これを通常用いられる合成繊維紡糸用装置により紡糸する。紡糸する際の紡糸原液の温度は原料の変性ポリカルボシランの軟化温度によって異なるが、50〜200℃の温度範囲が有利である。上記紡糸装置において、必要に応じてノズル下部に加湿加熱筒を設けてもよい。なお、繊維径は、ノズルからの吐出量と紡糸機下部に設置された高速巻き取り装置の巻き取り速度を変えることにより調整される。
【0042】
前記紡糸の他に、第A工程で得られた変性ポリカルボシラン、あるいは変性ポリカルボシランと低分子量の有機金属化合物の混合物を、例えばベンゼン、トルエン、キシレンあるいはその他該変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物を溶融することのできる溶媒に溶解させ、紡糸原液を造り、場合によってはこれをろ過してマクロゲル、不純物等紡糸に際して有害な物質を除去した後、前記紡糸原液を通常用いられる合成繊維紡糸装置により乾式紡糸法により巻き取り速度を制御しながら紡糸してもよい。
【0043】
これらの紡糸工程において、必要ならば、紡糸装置に紡糸筒を取り付け、その筒内の雰囲気を前記溶媒のうち少なくとも1つの気体との混合雰囲気とするか、あるいは空気、不活性ガス、熱空気、熱不活性ガス、スチーム、アンモニアガス、炭化水素ガス、又は有機ケイ素化合物ガスの雰囲気とすることにより、紡糸筒中の繊維の固化を制御することができる。
【0044】
第C工程においては、第B工程で得られた紡糸繊維を酸化雰囲気中で、張力又は無張力の作用の下で予備加熱を行い、前記紡糸繊維の不融化を行う。第C工程は、第D工程の焼成の際に、繊維が溶融せず、且つ隣接繊維と接着しないことを目的として行うものである。処理温度並びに処理時間は、組成により異なり、特に限定されないが、一般に50〜400℃の範囲内で、数時間〜30時間の処理上条件が選択される。酸化雰囲気中には、水分、窒素酸化物、オゾン等、紡糸繊維の酸化力を高めるものが含まれていてもよく、酸素分圧を意図的に変えてもよい。
【0045】
ところで、原料中に含まれる低分子量物の割合によっては、紡糸繊維の軟化温度が50℃を下回る場合もあり、その場合は、あらかじめ上記処理温度よりも低い温度で、繊維表面の酸化を促進する処理を施す場合もある。なお、第C工程並びに第B工程の際に、原料中に含まれる低分子量物の繊維表面へのブリードアウトが進行し、目的とする傾斜組成の下地が形成されるものと考えられる。
【0046】
第D工程においては、第C工程により不融化された繊維を、張力又は無張力下で、500〜1800℃の温度範囲で酸化雰囲気中において焼成し、目的とする、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物相からなり、表層に向かって第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が傾斜的に増大する光触媒繊維を得る。第D工程において、不融化繊維中に含まれる有機物成分は基本的には酸化されるが、選択する条件によっては、炭素や炭化物として繊維中に残存する場合もある。このような状態でも、目的とする機能に支障をきたさない場合はそのまま使用されるが、支障をきたす場合は、更なる酸化処理が施される。その際、目的とする傾斜組成及び結晶構造に問題が生じない温度、及び処理時間が選択される。
【0047】
なお、光触媒繊維を不織布とするには、上記製法により得られた光触媒機能を有する光触媒繊維を短繊維にした後、ニードルパンチを行うことにより不織布とするとすることができる。
【0048】
(メルトブロー法)
平板状不織布は、メルトブロー法を用いて、第A工程で得られた前駆体を溶融し、溶融物を紡糸ノズルから吐出するとともに、前記紡糸ノズルの周囲から加熱窒素ガスを噴出させて紡糸し、紡糸ノズルの下部に配置した受器に紡糸繊維を捕集することにより不織布を形成させ、次いで、該不織布を不融化処理後、酸化雰囲気中で焼成することにより製造することもできる。
【0049】
紡糸ノズルの直径は通常100〜500μm程度のものを用いる。窒素ガス噴出速度は30〜300m/s程度であり、速度が速いほど細い繊維が得られる。窒素ガスの加熱温度は、所望の紡糸繊維が得られれば特に制限はないが、通常500℃程度に加熱した窒素ガスを噴出させる。従来、一般的なメルトブロー法では、噴出ガスとして空気が用いられているが、第A工程で得られた前記前駆体を紡糸するには窒素を用いる必要がある。噴出ガスとして窒素を用いることにより安定して紡糸を行うことができる。
【0050】
紡糸ノズルの下部に配置した受器に紡糸繊維を捕集する際、吸引可能な受器を用いて、受器の下側から吸引しながら紡糸することが好ましい。吸引することにより、繊維が効果的にからまり、高強度の不織布が得られる。吸引速度は2〜10m/s程度の範囲が好ましい。
【0051】
得られた不織布は、上記溶融紡糸法の場合と同様の不融化処理及び焼成(第C工程及び第D工程)を行うことにより、光触媒繊維からなる不織布が得られる。メルトブロー法により製造される光触媒繊維は、平均繊維径が1〜20μm、好ましくは、1〜8μm、より好ましくは、2〜6μmと、溶融紡糸法で製造される繊維に比べてより細いものとすることができる。これにより、繊維の表面積も大きくでき、触媒活性が増大する。また、メルトブロー法により製造される平板状不織布は、溶融紡糸法で製造された長さ40〜50mm程度の短繊維をニードルパンチ法で不織布としたものに比べて繊維が長いものとなる。その結果、不織布は強度が高く(引張強度2N以上)、フィルター等に加工する際に十分なプリーツ加工性を有する。
【0052】
次いで、上記により得られた不織布を所望の形状に成形し、得られた成形物を例えば連結棒32のような枠体により間隔を設けて直列状に連結することにより、反応器内に着脱可能な光触媒カートリッジが得られる。成形方法については、特に制限はないが、例えばステンレス製の金属棒を支持部材として特定形状物に成形することができる。不織布の目付けや厚みについては特に限定は無いが、通常目付けが50〜500g/m、厚みは0.5〜20mmであることが好ましい。厚みは、必要に応じて不織布を積層することにより調整できる。厚みは、0.5mmよりも薄い場合には、光触媒量そのものが少なすぎて細菌の分解効果が十分に得られない。20mmよりも厚い場合は不織布が抵抗となり、圧力損失が増大し、水処理が難しくなる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例により説明する。
【0054】
(製造例1)
5リットルの三口フラスコに無水トルエン2.5リットルと金属ナトリウム400gとを入れ窒素ガス気流下でトルエンの沸点まで加熱し、ジメチルジクロロシラン1リットルを1時間かけて滴下した。滴下終了後、10時間加熱還流し沈殿物を生成させた。この沈殿をろ過し、まずメタノールで洗浄した後、水で洗浄して、白色粉末のポリジメチルシラン420gを得た。ポリジメチルシラン250gを水冷還流器を備えた三口フラスコ中に仕込み、窒素気流下、420℃で30時間加熱反応させて数平均分子量が1200のポリカルボシランを得た。
【0055】
前記ポリカルボシラン16gにトルエン100gとテトラブトキシチタン64gを加え、100℃で1時間予備加熱させた後、150℃までゆっくり昇温してトルエンを留去させてそのまま5時間反応させ、更に250℃まで昇温して5時間反応させ、変性ポリカルボシランを合成した。この変性ポリカルボシランに意図的に低分子量の有機金属化合物を共存させる目的で5gのテトラブトキシチタンを加えて、変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物の混合物を得た。
【0056】
この変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物の混合物をトルエンに溶解させた後、ガラス製の紡糸装置に仕込み、内部を十分に窒素置換してから昇温してトルエンを留去させて、180℃で溶融紡糸を行った。紡糸繊維を空気中、段階的に150℃まで加熱し不融化させた後、1200℃の空気中で1時間焼成を行い、製造例1に係るチタニア/シリカ繊維(光触媒繊維)を得た。
【0057】
(実施例1)
製造例1により得られた光触媒繊維を厚さ2mmの不織布とし、これをステンレス製の金網(線径1mm、3メッシュ)を支持部材として直径約85mm、高さ130mmで中央部に直径20mmの穴を開けた中空円錐台状成形物として図5のような光触媒カートリッジを作製した。これを図4に示すように内径85mmの反応容器20に4段で配置して光触媒反応器20を作成した。これに使われる紫外線ランプの出力は40Wであり、1本を使用した。また、紫外線ランプの波長は254nmを放射するものである。紫外線ランプと光触媒カートリッジの距離は最も近い箇所で5mm、最も遠い箇所で40mmとし、光触媒カートリッジ表面の平均紫外線強度は5mW/cmであった。この光触媒反応器20を図3のように、サブシステム3において、紫外線酸化装置10の後段に設置し、純水製造装置を製作した。
【0058】
処理流量は、1m/hとし、12ヶ月間に亘ってUP(ユースポイント)における水質(TOC、比抵抗)の測定、処理流量の推移調査を行った。また、12ヵ月後に非再生型イオン交換装置12内の水を採水し、水中の従属栄養細菌数を調べた。結果を表1に示す。表1から、12ヶ月に亘って1m/hの処理流量が維持できており、水質もTOCが2ppb以下、比抵抗が18.0MΩ・cmと良好な水質が維持できていることが確認された。また、12ヵ月後の非再生型イオン交換装置内の従属栄養細菌数は20cfu/ml以下であった。これらの結果から、12ヶ月に亘って安定的に稼動可能な純水製造装置であることが確認された。
【0059】
【表1】

【0060】
(比較例1)
特許文献1を参考に、図2の純水製造装置を作成した。紫外線殺菌装置は内径85mmとし、これに使われる紫外線ランプの出力は40Wであり、1本を使用した。また、紫外線ランプの波長は254nmを放射するものである。
【0061】
実施例1と同様に、処理流量は、1m/hとし、12ヶ月間に亘ってUP(ユースポイント)における水質(TOC、比抵抗)の測定、処理流量の推移調査を行った。また、12ヵ月後に非再生型イオン交換装置12内の水を採水し、水中の従属栄養細菌数を調べた。結果を表1に示す。表1から、6ヶ月後から1m/hの処理流量が維持できなくなっており、UF装置の閉塞による圧力損失が確認された。また、水質もTOCは2ppb以下を維持していたものの、比抵抗は17.0MΩ・cmまで悪化していることが確認された。また、12ヵ月後の非再生型イオン交換装置内の従属栄養細菌数は2×10cfu/ml確認され、非再生型イオン交換装置内での細菌の繁殖が確認された。これらの結果から、非再生型イオン交換装置内の細菌繁殖によってイオン交換の効率悪化による水質の低下と細菌の流出によるUF装置の閉塞により、12ヶ月に亘って安定的に稼動されることは困難であることが確認された。
【符号の説明】
【0062】
1 前処理システム
2 一次純水システム
3 サブシステム
4 一次純水タンク
5 4床5塔イオン交換装置
6 RO(逆浸透)装置
7 脱気膜装置
8 電気脱イオン装置
9 サブタンク
10 紫外線酸化装置(185nm)
11 紫外線殺菌装置(254nm)
12 非再生型イオン交換装置
13 UF装置(限外ろ過)
20 光触媒反応器
21 光触媒反応器水入口
22 光触媒反応器水出口
23 保護管
24 紫外線ランプ
30 光触媒カートリッジ
31 不織布
32 連結棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に含有される細菌を酸化分解する紫外線酸化装置と、前記紫外線酸化装置を通過した被処理水中のオゾンを分解する光触媒反応器と、前記光触媒反応器を通過した被処理水を濾過するイオン交換装置とを有する純水製造装置であって、前記光触媒反応器は、紫外線ランプと、光触媒機能を有するシリカ基複合酸化物繊維の不織布からなる成形物とを有し、前記成形物が反応容器内に複数段配置され、前記紫外線ランプの254nmの波長の紫外線の照射下に、前記成形物と被処理水が接触するように構成されていることを特徴とする純水製造装置。
【請求項2】
前記紫外線酸化装置の前段に、順に、被処理水中の濁質成分を除去する前処理システムと、イオン成分やTOC成分を除去する一次純水システムとが接続されていることを特徴とする請求項1記載の純水製造装置。
【請求項3】
前記光触媒機能を有するシリカ基複合酸化物繊維の不織布からなる成形物が円錐状、中空円錐台状又は円盤状のいずれかである請求項1記載の純水製造装置。
【請求項4】
前記光触媒機能を有するシリカ基複合酸化物繊維の不織布からなる成形物が連結棒により複数段直列状に設置され、反応容器内への脱着自在である光触媒カートリッジとして使用される請求項1項記載の純水製造装置。
【請求項5】
前記紫外線ランプが水の流動方向と平行方向に反応容器内に設けられている請求項1記載の純水製造装置。
【請求項6】
前記光触媒繊維がシリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物からなる繊維であり、第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大しており、繊維全体に対する第1相の存在割合が98〜40重量%、第2相の存在割合が2〜60重量%である請求項1記載の純水製造装置。
【請求項7】
前記第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合の傾斜が、繊維表面から5〜500nmの深さで存在することを特徴とする請求項6記載の純水製造装置。
【請求項8】
前記第2相の金属酸化物がチタニアであり、その結晶粒径が15nm以下であることを特徴とする請求項6記載の純水製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−200671(P2012−200671A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67532(P2011−67532)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】