説明

純粋な水素を製造するための制御された熱勾配を有する反応器

水を水素と酸素とに熱分離する装置であって、水を収容する閉じた反応器チャンバ(1)を備え、前記反応器チャンバは、一つ以上の熱源要素(4、11)を備える加熱系、本質的に気密性であり酸素選択性である一つ以上の膜(3)、本質的に気密性であり水素選択性である一つ以上の膜(2)、前記反応器チャンバ内部に水を誘導する機構(5)を含む。本発明によれば、前記熱源(4、11)は前記反応器チャンバ(1)内部の水中に配置され、前記酸素選択性膜(3)は前記高温領域に配置され、前記水素選択性膜(2)は前記低温領域に配置される。好ましくは、加熱系は反応器内部に向かって太陽光の焦点を合わせるコンセントレータ(8、9)からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
提案される装置はメンブレンリアクター内の水の熱解離に基づく。
【背景技術】
【0002】
水素は将来のエネルギーであり、燃料電池、水素燃焼機関、及び関連する技術の分野において多くの開発が進んでいる。しかしながら、水素の製造、輸送、及び保存の経済コスト及び環境コストは、化石燃料に基づく経済から水素に基づく経済へと向かう急速な変革に対する障害である。太陽エネルギーを用いることによる最終段階近くでの、メンブレンリアクター内における水の熱解離による水素製造は環境に対して影響を与えないだけではなく、潜在的に高い効率を提供する場合もある。
【0003】
提案される装置はメンブレンリアクター内の水の熱解離に基づく。それは、熱及び質量移動の観点から、酸素及び水素の、同時に起こり且つ化学量論的な抽出に関して最適化される[特許文献1]。自律的に、少量又は中程度の量の水素製造において、装置は水素の輸送及び保存に対する必要性を低減するのに役立つ。したがって、それはエネルギーベクターとしての水素の導入を容易にし、大きな経済的収益を生み出す。
【0004】
この装置によって製造された水素は純粋であり、唯一の不純物は水である。水素は燃料電池に直接送られてよく、したがって、家庭用又は小規模な生産の分散ユニットに対して、熱及び電気を共に作り出すために使用することができる。燃料電池を備えた車であって、非常に小型の統一された型において、この装置を車両用途に使用することも考えられる。
【0005】
材料分野における最近の動向によって、特に新しいタイプの膜の開発によって、経済的に実現性があり、寿命が長い、本発明の装置のような装置の製造が可能となった。
【0006】
高温における水の解離及び膜による気体の分離に基づく水素製造装置の原理は、Fally[特許文献2]及び[特許文献3]、Kogan[特許文献4]、Seitzer[特許文献5]及び[特許文献6]、及びLeeら[特許文献7]等、幾つかの刊行物及び特許において提案されている。
【0007】
水の熱解離に基づく水素生成器において遭遇する原理的な問題は、さらに均一性を調整しない場合には実際存在しており、水素は水が少なくとも部分的に解離される高温領域でのみ存在する。水素は、膜を熱領域に配置することによって、又は再結合を防ぐために解離した蒸気を吸収することによって、抽出される。実際に入手可能な水素選択性膜は解離領域において非常に高い温度に耐えるものではなく、吸収工程は大量のエネルギーを消費する。どちらの場合においても、これらの装置の寿命は非常に短く、又は効率が悪い。
【0008】
これらの問題は、熱領域において気体混合物から酸素を分離し、その後それから残りの蒸気を抽出することによって回避することができ、該蒸気は水素に富み、様々な方法で分離することができる。しかしながら、抽出された気体混合物は反応器のエネルギーの一部を運び去り、工程を非生産的にする。熱領域に近い水素を抽出すること及びバラスト蒸気を抽出しないことによって、効率は上がるだろう。Fally[特許文献3]は反応器チャンバ外部に水素選択性膜を配置することによって、この方向性を目指している。
【0009】
効率的に機能する水素選択性膜は、水の解離温度よりも十分低い温度でそのように働く。これらの温度範囲において、開発された膜は触媒効果さえも持ち、したがって水素の移動を加速する[特許文献8]。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】仏国特許発明第2839713号明細書
【特許文献2】英国特許第1489054号明細書
【特許文献3】英国特許第1532403号明細書
【特許文献4】米国特許第5397559号明細書
【特許文献5】米国特許第3901668号明細書
【特許文献6】米国特許第3901669号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2004050801号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Int.J.Hydrogen Energy 29(2004)291−296
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、材料に関する制限及び高効率の必要性の両方を考慮して、水の熱解離及び水素の分離に対する全体論的な方法を開示する。様々な材料からなる構成部品の性質に関して最適化された温度プロファイルは、したがって、特定の幾何学的構造の選択において、装置の寸法によって、及びその部品の配置によって、実行される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は水(又は蒸気;以下では「水」は蒸気の凝集状態も表す)で満たされた反応器チャンバに関し、その内部に全ての機能性部品が配置される。
【0014】
熱源は反応器チャンバ内部の水の中に配置され、熱源の近傍の水を、少なくとも部分的に、解離する温度まで加熱するのに十分な能力を備える。水の実質的な解離は存在する分子約1%に対して約2000Kの温度で開始する。反応器チャンバの壁は冷却される。熱い熱源と冷却され続ける反応器チャンバとの間には温度勾配が存在する。
【0015】
酸素選択性膜は水が解離される領域内の熱源に近いところに配置される。それらはこの初期の解離領域内の酸素を抽出するために使用される。さらに、それらは他の部品を熱源からくる直接的な熱放射から保護する遮蔽物として働く。
【0016】
水素選択性膜は反応器チャンバの壁に近い最も温度の低い領域に配置される。冷却によって、これらの壁の温度は制御される。アセンブリの操作性の特定の条件に従って、水素選択性膜と解離領域との間の距離は、膜に使用される材料の関数である。
【0017】
膜は、抽出された気体が中性のキャリアガスを用いてポンプで取り出すか、又は流し出すことができるような方法で製造される。管状の部品(その膜が、それらが内部に統合される壁の少なくとも一部を形成する)を選択することが可能である。水素及び酸素は、水分子中に見出されるのと同じ割合で抽出される。抽出は、ポンプの能力によって、又は流し出す速度によって制御される。一定の操作条件を維持するために、対応する量の水が反応器壁によって注入される。
【0018】
この装置において、最も温度が高い領域では水素が豊富となり、最も温度が低い領域との該水素の交換は濃度差を補うために進行する。そのような装置の主たる有利な点は、気体を自由に流すことであり、さらに幾何学的集合が単純となる可能性を提供し、部品製造を容易にすることである。
【0019】
装置の効率は、水の加熱及び装置の冷却に用いられる電力に対する抽出された気体の量によって決定される。抽出された気体の量は、得られる水素及び酸素の量、結果的に水の解離の程度、に依存する。
【0020】
装置の効率を改善するために、酸素選択性膜は、それらが熱源から高温領域の外の領域へと向かう熱流束を低減するような方法で、熱源の周囲に配置される。そのような配置の結果、加熱領域と、全てが近傍に存在する酸素選択性膜との間の領域で温度が均衡する。熱源は低電力で働くことができ、水の解離領域はより広範囲に及ぶ。
【0021】
水素透過性のさらなる放射遮蔽物は、高温領域と低温領域との間に配置されてよく、酸素選択性膜によって既に与えられた効果を増大する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】発明の第1の実施形態による装置を概略的に示す縦方向断面図である。
【図2】加熱管周囲の酸素管膜の配置を項目別に示す横方向断面図である。
【図3a】加熱管周囲の酸素管膜、及び加熱管と水素管膜との間の配置を項目別に示す横方向断面図である。
【図3b】反応器チャンバ内に分布する加熱管を囲む酸素膜管を概略的に示す縦方向断面図であり、それら自身が反応器チャンバの内部端に続いて配置される水素管膜に囲まれている。
【図4a】図3aによる装置の横方向断面図であり、追加の放射遮蔽物が酸素管膜と水素管膜との間に挿入されている。
【図4b】図3bによる装置の横方向断面図であり、追加の放射遮蔽物が酸素管膜と水素管膜との間に挿入されている。
【図5】本発明の第2の実施形態による装置を示す縦方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は装置の実施形態を示す。装置は閉じた反応器容積を備える。一例では、反応器チャンバ(1)は円筒形である。図1は半径方向断面を示し、他の図は全て横方向断面を示す。反応器チャンバを通る流れにおいて、及び反応器チャンバを通り且つその対称軸に平行な同じ流れにおいて、特定の機能を有する一つ以上の管には三つの型が存在する。
【0024】
1.本質的に気密性の密閉された一つ以上の管であって、少なくとも部分的に、水素を選択的に透過する膜装置(2、「水素膜」)からなる管。
【0025】
2.本質的に気密性の密閉された一つ以上の管であって、少なくとも部分的に、酸素を選択的に透過する膜装置(3、「酸素膜」)からなる管。
【0026】
3.本質的に気密性の密閉された一つ以上の管(4、「加熱管」)であって、熱源(6)を含む管。
【0027】
加熱管は酸素膜によって囲まれる。加熱管により水と熱源との間が物理的に分離されることによって、任意の加熱様式を用いることが可能になる。この実施形態に関して選択された円筒形の対称性は、電気的な加熱、又は、多孔体ガスバーナー又は乱流ガスバーナー等の、燃焼熱源の使用を可能にする一方で、この幾何学的形状は太陽光加熱の使用にも適合するだろう。
【0028】
熱源の能力は、それを取り囲む水が、水が少なくとも部分的に解離される温度に加熱されるようなものである。
【0029】
加熱管の典型的な温度は2500Kである。そのような温度においては、熱放射伝達が主に起こる;自然な対流熱伝達は相対的に制限され、蒸気内の熱伝導は無視できる。
【0030】
各加熱管は酸素膜によって囲まれる。酸素選択性膜材料は、例えば、酸化ジルコニウムベースのセラミックで出来ており、例えば良好な透過性を有し、水解離領域の非常に高い温度にも耐えられる。これらの酸素膜は、一つ以上の同心円内の熱源周囲に配置され、配置は図2に示すように二つの円を含み、熱源から来る直接的な放射を反射し、それを遮断する。したがって、加熱管と酸素膜との間の領域における温度は増大し、及びこの領域の熱勾配は減少する。これは、熱源が同量の解離水に対して低出力で働くことができることを単純に意味する。酸素膜の内部は中性ガス又はポンプガスが流され抽出された酸素を移動させる。酸素膜はかなりの量の直接的放射を防ぐが、解離領域と、加熱管から離れた、酸素膜を超えた領域との間で、水と他の気体、特に水素、との交換の余地を残す。
【0031】
反応器容積は、加熱管及び酸素膜の一つの配置(図3a)又は幾つかの配置(図3b)を含んでよい。
【0032】
反応器チャンバの幾何学的形状、内部の部品の配置、及び反応器チャンバ壁の温度は、どのように酸素膜の「外側」、すなわち加熱管から最も離れた位置、の温度が変化するかを支配する。冷却は反応器チャンバ壁の温度を制御し、反応器チャンバ容積内部の壁近くの温度分布が、水素膜を配置することができる数センチメートルの領域において最適な条件を作り出すように選択される。現在入手可能な水素膜は、選択性材料の操作温度1500K未満で設計されている。必要とされる冷却能力は、例えばデジタルシミュレーションツールで決定されてよい。水素膜の内部は、中性ガス又はポンプガスが流され、抽出された水素を移動させる。
【0033】
放射遮蔽物として働く酸素膜の二つの同心円に起因する温度の減少は特定の幾何学的形状に対してシミュレートされ、それは300Kのオーダーである。水素膜及び反応器壁への熱放射移動をさらに低減するために、放射遮蔽物が酸素膜と水素膜との間の領域に設置されてもよい。熱移動の減少は加熱及び冷却に関して必要とされる能力を可能にし、さらに、酸素膜と水素膜との間の熱勾配に起因してより小型の形状を可能にする。なぜなら、それらの距離は典型的には数十センチメートルを超えるためである。しかしながら、放射遮蔽物を通る気体の十分な交換が可能でなくてはならない。追加の放射遮蔽物(7)の間の可能な配置は図4に示される。
【0034】
反応器チャンバは水を含み、水の流入部(5)を幾つか備える。最初に導入される水の量は、問題を回避するために及び多くの安全規範に規定されるように、加熱後、特定の蒸気圧の値、例えば10bar未満、が得られるように選択される。
【0035】
酸素が解離領域から抽出されると、過剰な水素は反応器全体に拡散する。過剰な水素は、低温領域で抽出される。水素及び酸素は、流れ速度又はポンプ能力を制御することによって、水における化学量論比、すなわち分子比2対1、で抽出される。反応器チャンバは水蒸気及びその解離生成物のみを含むので、及び反応器容積は熱源から物理的に分離されているので、抽出された水素は純粋であり、どのようなバラストガスとも混合されない。安定な作動条件を保持するため、抽出された酸素及び水素を正確に補うため水が注入される。その結果、反応器内部の気体の量は操作中一定に保たれる。
【0036】
水の流入は、水が機能性管と反応器チャンバとの間に配置されたシールを冷却することができるように、水滴又は冷蒸気で提供される。水の注入は、反応器の多孔性壁を通って蒸気が浸透することによって実行されてもよい。注入された水又は蒸気は、反応器壁の熱的な冷却(部分的に熱絶縁を含む)の実行の結果として、抽出された水素又は酸素からの熱で、並びに加熱系からの熱損失(例えば、バーナーからの排気ガス)で、予熱されてよい。
【0037】
ある実施形態において、装置は熱源として太陽光放射を用いてよい。ミラー系8及びレンズ9を用いることによって(概略図に関しては、図5を参照されたい)、温度受容器11を含む管10内に太陽光放射を集中させ焦点を合わせることが可能になる。この受容器、例えば単一の金属塊、が加熱され、バーナー同様の熱源を形成する。
【0038】
操作の間、装置の効率は、注入された水を加熱及び解離するのに必要とされるエネルギーによって、並びに壁の冷却及び抽出された気体に起因する熱損失によって決定される。装置の熱的効率は、水素消費部(例えば、燃料電池又は水素燃焼機関)からの熱蒸気を用いて装置を充填することによって改善されてよい。
【符号の説明】
【0039】
1 反応器チャンバ
2 水素膜
3 酸素膜
4 加熱管
5 水の流入部
6 熱源
7 放射遮蔽物
8 ミラー系
9 レンズ
10 管
11 温度受容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を水素と酸素とに熱分離する装置であって、水を収容する閉じた反応器チャンバ(1)を備え、前記反応器チャンバは、
− 一つ以上の熱源要素(4、11)を備える加熱系、
− 本質的に気密性であり、酸素を選択的に透過する一つ以上の膜(3)、
− 本質的に気密性であり、水素を選択的に透過する一つ以上の膜(2)、
− 前記反応器チャンバ内部に水を誘導する機構(5)、
を含み、
− 前記熱源(4、11)は前記反応器チャンバ(1)内部の水中に配置され、
− 温度分布は予め決定され、
・ 領域内の水が少なくとも部分的に解離するように、及びこれらの領域が前記酸素選択性膜を含むよう十分大きいものであるように、温度が十分高い高温領域、
・ 前記水素選択性膜を含むのに十分な大きさの低温領域であって、前記低温は膜材料の操作条件に対応し、加熱能力によって、反応器チャンバの壁の冷却によって、膜の配置によって、及び熱源と反応器チャンバの壁との間の距離によって得られ、及び制御される低温領域、
を含み、
− 前記酸素選択性膜(3)は前記高温領域に配置され、
− 前記水素選択性膜(2)は前記低温領域に配置される、
水を水素と酸素とに熱分離する装置。
【請求項2】
前記酸素選択性膜(3)が前記熱源(4、11)の周囲に配置され、それらは熱源から高温領域の外の領域に向かう熱流束を低減し、他の部品を熱源からくる直接的な熱放射から保護する遮蔽物を形成する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
一つ以上の放射遮蔽物(7)の層が前記高温領域と前記低温によって形成される領域との間に形成される領域に配置され、熱流束が低減され、熱勾配が増大し、水素が通って流れることが可能である、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記加熱系が一つ以上の多孔性ガスバーナーを備える、請求項1から3の何れか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記加熱系が一つ以上の乱流多孔性ガスバーナーからなる、請求項1から3の何れか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記加熱系が反応器(1)内部に太陽光の焦点を合わせる一つ以上の太陽光放射コンセントレータ(8、9)からなる、請求項1から3の何れか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記熱源の能力、反応器チャンバ内に注入される水の量、及び反応器チャンバ壁の冷却を調整することによって温度分布及び圧力分布が安定に保持される、請求項1から6の何れか一項に記載の装置。
【請求項8】
反応器チャンバ(1)内の反応器チャンバの壁(1)、前記酸素選択性膜(3)、前記水素選択性膜(2)、前記二つの膜又は他の部品が一つ以上の反応物又は触媒を含み、低温領域において水が水素と酸素とに解離することを容易にする、請求項1から7の何れか一項に記載の装置。
【請求項9】
水の流入が反応器の感熱性の部品を冷却するのに用いられる、請求項1から8の何れか一項に記載の装置。
【請求項10】
水素消費部と共に操作することにより前記消費部により製造される水が装置内で再利用され、そのエネルギー効率を最適化する、請求項1から9の何れか一項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−539591(P2009−539591A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514702(P2009−514702)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際出願番号】PCT/EP2007/005236
【国際公開番号】WO2007/144166
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(508366639)エイチツー・パワー・システムズ・リミテッド (1)
【Fターム(参考)】