説明

純粋二酸化塩素液剤を含有するゲル状組成物

【課題】更に保存安定性に優れ、二酸化塩素濃度を長期間、略一定の範囲内に保持させることができる純粋二酸化塩素液剤を含有するゲル状組成物を提供すること。
【解決手段】溶存二酸化塩素ガス、亜塩素酸塩、及びpH調整剤を構成成分に有する純粋二酸化塩素液剤、並びに高吸水性樹脂を含有し、前記pH調整剤が、25℃における5%水溶液のpHが2.5〜6.8となる緩衝性のある酸またはその塩であることを特徴とするゲル状組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、純粋二酸化塩素液剤、これを含有するゲル状組成物及び発泡性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化塩素ガスは強力な酸化剤であり、その酸化作用により滅菌したり悪臭成分を分解したりすることが知られている。そのため、二酸化塩素は殺菌剤、消臭剤等として使用されている。二酸化塩素は、水に対してその容積の20倍溶解して黄褐色の水溶液となるので、取り扱いの容易性の観点から水溶液の形態で用いることが望まれるが、二酸化塩素水溶液は空気に触れると二酸化塩素ガスを急激に発生させる。そこで、二酸化塩素ガスを過酸化炭酸ナトリウム(Na226)水溶液に溶解させて亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)を主成分とするpH9に保持した水溶液、いわゆる安定化二酸化塩素水溶液とすることによって、安定性を維持しつつ二酸化塩素ガスを持続的に発生させることが提案されている(特許文献1を参照)。
【0003】
しかしながら、安定化二酸化塩素水溶液は、その安定性を維持するためにpH9のアルカリ性に保持されているので、亜塩素酸ナトリウムは水溶液中では次の式(1)に示すように解離している。
【0004】
【化1】

【0005】
そのため、殺菌、消臭等の作用を発現させる遊離の二酸化塩素ガスの発生が極めて少なく、殺菌、消臭等の効果を十分に発揮し得ないという問題があった。
そこで、使用直前に、安定化二酸化塩素水溶液に刺激剤を添加したり、また酸を添加してそのpHを7以下にしたりして、二酸化塩素ガスを発生させることが提案されているが、そのための器具、設備等を必要とするためにコストがかかるという問題があった。
また、安定化二酸化塩素水溶液にあらかじめ刺激剤や酸を添加した場合には、二酸化塩素ガスの発生濃度及び発生持続性は、安定化二酸化塩素水溶液の濃度のみに依存するので、使用目的に応じて、二酸化塩素ガスの発生濃度及び発生持続性をコントロールすることができないという問題があった。更に、工場等の事業所で発生する廃ガス、有機廃棄物等を大規模に消臭処理したりするのに効果的に適用できても、室内、自動車内、冷蔵庫内等において、簡便に殺菌したり消臭するのに効果的に使用できないという問題があった。
なお、安定化二酸化塩素水溶液を寒天、ゼラチン、高吸水性樹脂等のゲル化剤でゲル化してゲル状組成物とすることが提案されているが、かかるゲル状組成物も二酸化塩素ガスの発生が極めて少なく、殺菌、消臭等の効果を十分に発揮し得ないという問題があった。
【0006】
そこで、上記の問題を解決するため、亜塩素酸塩にクエン酸などの有機酸を加えたものを溶存二酸化塩素液剤に加え、これにより二酸化塩素濃度を長期間、略一定に維持させるといった提案がなされた(特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−181532号公報
【特許文献2】特許第3110724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に記載された技術によれば、ガス発生を急激に起こすことなく二酸化塩素濃度を長期間一定に保持でき、二酸化塩素が少しずつガスとして放出され続けても二酸化塩素濃度を略一定の範囲内に保持させることができる。しかし、保存安定性の点では必ずしも十分ではなく、改善の余地が残っていた。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、更に保存安定性に優れ、二酸化塩素濃度を更に長期間、略一定の範囲内に保持させることができる純粋二酸化塩素液剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る純粋二酸化塩素液剤の特徴構成は、溶存二酸化塩素ガス、亜塩素酸塩、及びpH調整剤を構成成分に有し、前記pH調整剤が、25℃における5%水溶液のpHが2.5〜6.8となる緩衝性のある酸(有機酸、無機酸)またはその塩である点にある。ここで、本明細書において「純粋二酸化塩素」とは、二酸化塩素ガスとして存在する二酸化塩素を意味するものとし、「純粋二酸化塩素液剤」とは、二酸化塩素が二酸化塩素ガスとして溶存している液剤を意味するものとする。
ここで、前記亜塩素酸塩が亜塩素酸ナトリウムであると好適である。
また、前記pH調整剤が、リン酸またはその塩であると好適である。
また、前記pH調整剤が、リン酸二水素ナトリウム、または、リン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムの混合物であると好適である。
【0011】
本発明に係るゲル状組成物の特徴構成は、溶存二酸化塩素ガス、亜塩素酸塩、及びpH調整剤を構成成分に有する純粋二酸化塩素液剤、並びに高吸水性樹脂を含有し、前記pH調整剤が、25℃における5%水溶液のpHが2.5〜6.8となる緩衝性のある酸またはその塩である点にある。
ここで、前記高吸水性樹脂がデンプン系吸水性樹脂、セルロース系吸水性樹脂または合成ポリマー系吸水性樹脂であると好適である。
また、前記亜塩素酸塩が亜塩素酸ナトリウムであると好適である。
また、前記pH調整剤が、リン酸またはその塩であると好適である。
また、前記pH調整剤が、リン酸二水素ナトリウム、または、リン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムの混合物であると好適である。
【0012】
本発明に係る発泡性組成物の特徴構成は、溶存二酸化塩素ガス、亜塩素酸塩、及びpH調整剤を構成成分に有する純粋二酸化塩素液剤、並びに泡剤を含有し、前記pH調整剤が、25℃における5%水溶液のpHが2.5〜6.8となる緩衝性のある酸またはその塩である点にある。
ここで、前記泡剤が界面活性剤、及び泡安定剤で構成されていると好適である。
また、前記泡剤が界面活性剤、泡安定剤、及びエアゾール噴射剤で構成されていると好適である。
また、前記亜塩素酸塩が亜塩素酸ナトリウムであると好適である。
また、前記pH調整剤が、リン酸またはその塩であると好適である。
また、前記pH調整剤が、リン酸二水素ナトリウム、または、リン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムの混合物であると好適である。
【0013】
本発明によれば、溶存二酸化塩素を高濃度に含有させることができると共に、高濃度から低濃度にいたる濃度に自由に調節して含有させることができ、しかも略一定の薬効濃度に維持された二酸化塩素ガスを長時間継続して放出させることができる純粋二酸化塩素液剤を提供することができる。また、これを含有するゲル状組成物及び発泡性組成物を低コストで提供することができる。そして、かかる純粋二酸化塩素液剤、並びにこれを含有するゲル状組成物及び発泡性組成物は簡便に、しかも効果的に、抗菌・除菌剤、抗ウイルス剤、除カビ・防カビ剤、及び消臭・防臭剤として使用することができる。
本発明によれば、二酸化塩素を含有する液剤における二酸化塩素濃度を長期間一定に保持でき、前記液剤から二酸化塩素が少しずつガスとして放出され続けても(あるいは積極的に二酸化塩素ガスを放出し続けても)、該液剤における二酸化塩素濃度を略一定の範囲内に保持させることができるといった優れた保存安定性が得られる。ここで「少しずつガスとして放出され続ける」とは、例えば搬送中あるいは保存中、閉蓋していても二酸化塩素がガスとして自然に抜け出てしまうことを意味し、「積極的に二酸化塩素ガスを放出し続ける」とは、防臭作用や殺菌作用を期待すべく気相中にガスを放出させることを意味する。
【0014】
pH調整剤として、リン酸またはその塩を使用した場合にあっては、その他の無機酸や有機酸を使用する場合と比べ、保存安定性がさらに向上し(保存安定期間がさらに延長され)、また保存中における液性(pH)の経時的な変動も小さくなるといった作用効果を奏する。中でも、リン酸二水素ナトリウム、または、リン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムの混合物を使用することが保存安定性の点で好ましい。
【0015】
リン酸二水素ナトリウム、または、リン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムの混合物を選択し、これを亜塩素酸ナトリウムと組み合わせて用いることにより、亜塩素酸ナトリウムが二酸化塩素に変わる反応の過剰な進行が極めて起こり難くなる。そのため、自然分解や容器の蓋部分あるいは容器の壁面からの放散によって失われる二酸化塩素のみが亜塩素酸ナトリウム由来の亜塩素酸イオンから補充されるというガス平衡状態が保たれる。このように、亜塩素酸ナトリウムの不要な消耗が抑制され、亜塩素酸ナトリウムが効率的に消費されるので、保存安定性がさらに向上し(延長され)、また保存中における二酸化塩素濃度の経時的な変動がさらに小さくなる(濃度の低下のみならず、濃度の上昇も抑制される)ので好適である。また、この液剤における、亜塩素酸ナトリウムから二酸化塩素を長期に亘って補給するメカニズムは、当該液剤を塗布、噴霧あるいは放散した空間や被対象物上でも発現する。これは、前記液剤を塗布、噴霧あるいは放散した後の殺菌や消臭の効果が長く続くという優れた持続効果を使用者にもたらすので、使用上の大きなメリットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】は、反応当量以上のリン酸二水素ナトリウムを使用した場合と、反応当量以上のクエン酸を使用した場合の溶存二酸化塩素ガス濃度を示したグラフ図(開始時の濃度は100ppm)である。
【図2】は、反応当量以上のリン酸二水素ナトリウムを使用した場合と、反応当量以上のクエン酸を使用した場合の溶存二酸化塩素ガス濃度を示したグラフ図(開始時の濃度は500ppm)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施例を説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
(亜塩素酸塩)
本発明で使用できる亜塩素酸塩としては、例えば、亜塩素酸アルカリ金属塩や亜塩素酸アルカリ土類金属塩が挙げられる。亜塩素酸アルカリ金属塩としては、例えば亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム、亜塩素酸リチウムが挙げられ、亜塩素酸アルカリ土類金属塩としては、亜塩素酸カルシウム、亜塩素酸マグネシウム、亜塩素酸バリウムが挙げられる。なかでも、入手が容易という理由のみならず、二酸化塩素ガス発生の持続性の点から、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウムが好ましく、亜塩素酸ナトリウムがさらに好ましい。
【0018】
(pH調整剤)
本発明で使用し得るpH調整剤としては、25℃における5%水溶液のpHが2.5〜6.8となる緩衝性のある酸(無機酸、有機酸)またはその塩であればよい。前記pHが2.5未満であっても、また6.8を超えても、溶存二酸化塩素の保存安定性が低下し、保存中における二酸化塩素液剤の液性(pH)の変動が大きくなる。なお、25℃における5%水溶液のpHが3.5〜6.0となる緩衝性のある酸(無機酸、有機酸)またはその塩を使用することが好ましく、pH4.0〜5.5であることがさらに好ましい。具体的には、リン酸、ホウ酸、メタリン酸、ピロリン酸、スルファミン酸、酢酸などが挙げられ、優れた保存安定性が得られるという点で無機酸またはその塩が好ましい。またその塩としては、例えば、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムの混合物などが挙げられる。なかでも、保存安定性に優れ、保存中における液性(pH)の変動を最小限に抑えることができ、それにより優れた殺菌作用、抗ウイルス作用、防カビ作用、防臭作用などの効果を発揮することができるという点で、リン酸またはその塩を使用することが好ましく、リン酸二水素ナトリウムを使用することがさらに好ましい。なお、pH調整剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。最終的に得られる純粋二酸化塩素液剤のpHは4.5〜6.5とすることが、長期にわたる保存安定性に優れ、保存中のpH変動も少ないという理由で好ましく、5.5〜6.0とすることがさらに好ましい。
【0019】
(高吸水性樹脂)
本発明の溶存二酸化塩素ガス、亜塩素酸塩及びpH調整剤(25℃における5%水溶液のpHが2.5〜6.8(好ましくは3.5〜6.0、さらに好ましくは4.0〜5.5)となる緩衝性のある酸またはその塩)を含有する純粋二酸化塩素液剤は、高吸水性樹脂と混合してゲル状組成物とすることができる。高吸水性樹脂としては、デンプン系吸水性樹脂(デンプン−アクリロニトリルグラフト共重合体、デンプン−アクリル酸グラフト共重合体、デンプン−スチレンスルホン酸グラフト共重合体、デンプン−ビニルスルホン酸グラフト共重合体などのグラフト化デンプン系高吸水性樹脂など)、セルロース系吸水性樹脂(セルロース−アクリロニトリルグラフト共重合体、セルロース−スチレンスルホン酸グラフト共重合体、架橋カルボキシメチルセルロースなどのセルロース系高吸水性樹脂、紙や布をリン酸エステル化したもの、布をカルボキシメチル化したものなど)、及び合成ポリマー系吸水性樹脂(架橋ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール系高吸水性樹脂、架橋ポリアクリル酸塩、ポリアクリロニトリル系重合体ケン化物、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート架橋体などのアクリル系高吸水性樹脂、架橋ポリエチレンオキシド系高吸水性樹脂など)が挙げられる。
市販されているものとしては、例えば、デンプン/ポリアクリル酸系樹脂[サンウエット(三洋化成社製、粉末)]、架橋ポリアクリル酸系樹脂[アクアリック(日本触媒社製、粉末)、アラソーブ(荒川化学社製、粉末)、ワンダーゲル(花王社製、粉末)、アクアキープ(住友精化社製、粉末)、ダイアウエット(三菱油化社製、粉末)]、イソブチレン/マレイン酸系樹脂[KIゲル(クラレ社製、粉末)]、及び、ポバール/ポリアクリル酸塩系樹脂[スミカゲル(住友化学社製、粉末)]などがあり、これらの使用も本発明を妨げるものではない。
【0020】
(泡剤)
さらに、本発明の溶存二酸化塩素ガス、亜塩素酸塩及びpH調整剤(25℃における5%水溶液のpHが2.5〜6.8(好ましくは3.5〜6.0、さらに好ましくは4.0〜5.5)となる緩衝性のある酸またはその塩)を含有する純粋二酸化塩素液剤を泡剤と混合して発泡性組成物とすることができる。
前記泡剤は、(1)界面活性剤及び泡安定剤で構成されるか、または(2)界面活性剤、泡安定剤及びエアゾール噴射剤で構成される。
前記界面活性剤は、例えば、(1)ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸等のカルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩等のスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル等の硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等のリン酸エステル塩から選ばれる少なくとも1種のアニオン系界面活性剤、(2)脂肪酸第4級アンモニウム塩等のカチオン系界面活性剤、(3)カルボキシベタイン型両性界面活性剤、(4)ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルポリエチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド等のノニオン系界面活性剤、(5)フッ素系界面活性剤、あるいは(6)サポニンなどが挙げられるが、これらによって限定されるものではない。
前記泡安定剤は、例えば、(7)上記アニオン系界面活性剤にモノまたはジエタノールアミンを添加したもの、(8)上記ノニオン系界面活性剤に長鎖アルコールまたはアルキルスルホキシドを添加したもの、或いは(9)流動パラフィンなどが挙げられるが、これらによって限定されるものではない。
前記エアゾール噴射剤は、例えば、液化天然ガス(LPG)、液化ブタン、ジメチルエーテル等の低毒性性の高圧ガスなどが挙げられるが、これらによって限定されるものではない。
【0021】
(二酸化塩素液剤の調製例)
本発明の純粋二酸化塩素液剤は、例えば、次のように製造される。すなわち、(a)亜塩素酸塩を水に溶解して2000〜180000ppmの亜塩素酸塩水溶液を調整し、(b)二酸化塩素ガスを水中にバブリングして溶解することにより100〜2900ppmの二酸化塩素水溶液を調整し、そして、(c)亜塩素酸塩を水に溶解して2000〜180000ppmの亜塩素酸塩水溶液を調整した後、この溶液に、その1000ml当たり、pH調整剤(25℃における5%水溶液のpHが2.5〜6.8となる緩衝性のある酸またはその塩)0.5〜100gを溶解してpH調整剤を含有する亜塩素酸塩水溶液を調整する。次に、前記(a)の亜塩素酸水溶液5.0〜990ml、好ましくは50〜300ml、前記(b)の二酸化塩素水溶液5.0〜990ml、好ましくは50〜800ml及び前記(c)のpH調整剤を含有する亜塩素酸水溶液5.0〜990ml、好ましくは50〜400mlを混合し室温で十分に攪拌して純粋二酸化塩素液剤とする。
なお、純粋二酸化塩素液剤の最終的なpHは4.5〜6.5とすることが好ましい。この範囲から外れると保存安定性が低下し、保存中の薬理活性が変動したり、例えば2年後といった長期保存後の薬理活性が弱くなったりする可能性がある。本発明における純粋二酸化塩素液剤のさらに好ましいpH範囲は5.5〜6.0である。
【0022】
(ゲル状組成物)
高吸水性樹脂と混合してゲル状組成物とする場合は、例えば、上記にように調整された純粋二酸化塩素液剤50〜99重量%を高吸収性樹脂(粉末)1.0〜50重量%に添加し、これらを室温で十分に攪拌して製造される。このような「ゲル状組成物」は、例えば、少なくとも一方に開口部を有する容器(特開昭61−40803号公報)に充填して、一般用途に供することができるが、合成繊維を構成繊維とする紙または不織布により形成された容器であって、該容器の周縁が合成繊維の熱融着または合成樹脂接着剤によりシールされた容器中に充填して一般用途に供することもできる。前記合成繊維は、例えば、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維など、従来公知の熱可塑性合成繊維である。このような合成繊維を構成繊維とする紙または不織布により形成された容器は、「ゲル状組成物」の付着による目詰まりを防止しつつ、「ゲル状組成物」から二酸化塩素を持続的に気化させることができる。
【0023】
(発泡性組成物)
泡剤を含ませて発泡性組成物とする場合は、例えば、密閉容器内において、上記のように調整された純粋二酸化塩素液剤1.0〜20重量%に泡安定剤5.0〜20重量%及び界面活性剤60〜95重量%を添加し、これらを室温で十分に攪拌することにより製造される。このような「発泡性組成物」は、例えば化粧品、洗剤、カビ取り剤などを入れる容器として従来公知のトリガー式泡形成容器、ポンプ式泡形成容器等に封入して、一般用途に供される。
【0024】
(その他、使用方法、用途など)
本発明の「純粋二酸化塩素液剤」は、その主成分が溶存二酸化塩素ガスであるので、人、動物等に対する安全性に優れており、例えば飲料水、食品の処理水、プール用水等に添加してそれらを殺菌(ウイルス不活性化を含む。以下同様)、消臭処理することができる。また、10倍程度に水で薄めた水溶液に野菜、食器、布巾等を浸漬して殺菌することができ、更に、5倍程度に薄めてホテル、レストラン、外食産業、学校、家庭等のキッチンの設備、家庭の室内、便器、あるいは、自動車内にスプレーすることによりこれらを殺菌、消臭することができる。
また、本発明の「純粋二酸化塩素液剤」は、高吸収性樹脂に混合してゲル状組成物とすることにより、冷蔵庫内、トイレ内、家庭の室内、自動車内等の抗菌、消臭に用いることができる。
さらに、本発明の「純粋二酸化塩素液剤」は、泡剤を混合して発泡性組成物とすることにより、例えば、介護分野で用いられるおむつ、飲食店の厨房におけるグリーストラップ、生ゴミ置き場、及び、汚泥等の産業廃棄物の抗菌、消臭に有用であり、また、タイル、壁等の除カビをするのに有効に用いられる。前記泡剤としては、(1)界面活性剤及び泡安定剤で構成されているものと、(2)界面活性剤、泡安定剤及びエアゾール噴射剤で構成されているものとがある。後者は、製造コストがかかるが、空気を取り込むために少量の薬剤で多量の泡を形成することができるので、上記介護分野で用いられるおむつ、飲食店の厨房におけるグリーストラップ等の処理対象物が小さく、付加価値の高いものに有効である。本発明の発泡性組成物は、泡により抗菌、消臭しようとする対象物を広範囲に覆うことができ、また、泡が層を形成するので、確実に抗菌、消臭することができると共に抗菌、消臭効果の持続性を高めることができる。
このように、本発明の純粋二酸化塩素液剤並びにこれを含有するゲル状組成物及び発泡性組成物は簡便に、しかも効果的に各種の用途に供することができる。
【実施例】
【0025】
(実施例1)
次のようにして二酸化塩素液剤を調製した。すなわち、二酸化塩素ガス2000ppm溶存水250mlに水680mlを加えた。その後、まず亜塩素酸ナトリウム25%溶液80mlを加えて撹拌し、次にこの溶液のpHが5.5〜6.0となる量のリン酸二水素ナトリウム(25℃における5%水溶液のpHは4.1〜4.5)を加えて撹拌した。このようにして、溶存二酸化塩素ガス、亜塩素酸ナトリウム、及びリン酸二水素ナトリウムからなる二酸化塩素液剤1000mlを得た。
(比較例1)
リン酸二水素ナトリウムの代わりに、クエン酸(25℃における5%水溶液のpHは1.8〜2.2)を使用したという以外は実施例1と同様にして、比較対照用の二酸化塩素液剤を調製した。
(実施例2)
前記実施例1と同様の方法で調整した二酸化塩素液剤384mlを架橋ポリアクリル酸塩系の高吸水性樹脂[アクアリック(日本触媒社製、粉末)]16gに添加し、これを室温で十分に攪拌して淡黄色のゲル状組成物400gを得た。
(実施例3)
前記実施例1と同様の方法で調整した二酸化塩素液剤160ml、アルキルスルホン酸ナトリウムよりなる界面活性剤30ml、流動パラフィン10g、及び液化ブタンよりなるエアゾール噴射剤100gを密閉容器に入れて室温で十分に攪拌して淡黄色の発泡性組成物300gを得た。
次に、本発明の作用を説明すると、次のとおりとなる。二酸化塩素ガスを水に溶解した場合の平衡反応及び平衡定数は、例えば、次の式(2)及び式(3)でそれぞれ示される。
【0026】
【化2】

【0027】
【化3】

【0028】
上記式(2)及び式(3)により、二酸化塩素ガス(ClO2)は、常温では圧倒的に溶存二酸化塩素として存在する。
かかる溶存二酸化塩素の水溶液に、亜塩素酸塩及びpH調整剤(25℃における5%水溶液のpHが2.5〜6.8となる緩衝性のある酸またはその塩)として、それぞれ亜塩素酸ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムを添加すると、該液のpHが酸性に保持されると共にそのpHの急激な変化が抑制される。そのため、亜塩素酸ナトリウムは、リン酸二水素ナトリウムが存在することによって、次の式(4)に示されるように水中で電離して亜塩素酸を生成する。
【0029】
【化4】

【0030】
このように、亜塩素酸が生成すると、平衡状態にある式(2)においては、反応が左方向に進行する、すなわち、逆反応が進行することとなるので、二酸化ガス水溶液に亜塩素酸ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムがそれぞれ存在すると、上記溶存二酸化塩素の最大濃度の2900ppm以下では、溶存二酸化塩素ガス濃度が増大することとなる。そのために、本発明の「純粋二酸化塩素液剤」は、溶存二酸化塩素を高濃度に含有することができる。
さらに、式(2)における4種の化合物中、ClO2が最も反応性が高くかつ水溶液中から揮発しやすい(沸点11℃、蒸気圧500トリチェリー(0℃))ために、式(2)における反応が左方向に進行する、すなわち、逆反応が進行することとなるので、溶存二酸化塩素の減少が亜塩素酸ナトリウム由来の亜塩素酸によって常に補充されることになる。
しかも、リン酸二水素ナトリウムは、本発明の純粋二酸化塩素液剤のpHを酸性にするのみならず、pHの急激な変動を抑制するバッファーとして働き、上記式(4)における亜塩素酸ナトリウムから亜塩素酸への急激な変化を抑えて、式(2)における溶存二酸化塩素の急激な放出増加を防いで、該液剤の抗菌、消臭等に係わる効力の持続性の低下を抑制する。
したがって、本発明の「純粋二酸化塩素液剤」によれば、溶存二酸化塩素を高濃度に含有させることができると共に、高濃度から低濃度にいたる濃度に自由に調節して含有させることができ、しかも該溶存二酸化塩素を放出しても補充させることによって略一定の薬効濃度に維持された二酸化塩素ガスを長時間継続して放出させることができる。さらには溶存二酸化塩素の急激な放出増加を防いで、該液剤の抗菌、消臭等に係わる効力の持続性の低下を抑制することができる。このような本発明の「純粋二酸化塩素液剤」の優れた作用は、本発明の「ゲル状組成物」及び「発泡性組成物」においても、同様に発揮される。
【0031】
また、本発明の「純粋二酸化塩素液剤」は、その主成分が溶存二酸化塩素ガスであるので、例えば大腸菌(O−157)、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌及びボツリヌス菌の抗菌・除菌、インフルエンザウイルス、鳥インフルエンザウイルス、ノロウイルス(ネコカリシウイルス)、ヒトパピローマウイルス、コクサッキーウイルス、エイズウイルス、B型肝炎ウイルス、犬パルボウイルス、ロタウイルス、HHV−1(単純ヘルペスウイルス1型(HSV−1))、HHV−2(単純ヘルペスウイルス2型(HSV−2))、HHV−3(水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV))、HHV−5(サイトメガロウイルス(CMV))などのウイルスに対する抗ウイルス、各種のカビの防カビ・除カビ、並びにタバコ臭、体臭及び各種の食品臭の防臭・消臭に対して、極めて有効に作用する。
【0032】
従来技術の「安定化二酸化塩素」が亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)を主成分とするpH9(アルカリ性)に保持した水溶液であること、及び、NaClO2が上記式(1)に示されるように解離することは、前述のとおりであるところ、ClO2-は、水溶液中では水分子と水素結合を形成しているので、遊離の二酸化塩素ガス(ClO2)の揮発は非常に少なく、その酸化力は非常に弱い。なお、本明細書において「安定化二酸化塩素」とは、二酸化塩素ガスが亜塩素酸ナトリウムとして形を変えて存在する二酸化塩素を意味する。これに対して本発明の「純粋二酸化塩素液剤」の酸化力は、水に溶存しているClO2に起因するものであるので非常に強い。それゆえ、本発明の「純粋二酸化塩素液剤」の抗菌力は、従来の「安定化二酸化塩素」の抗菌力と比べると360倍もの効力があり、また本発明の「純粋二酸化塩素液剤」の抗菌濃度は、0.1ppm以上であるのに対して、従来の「安定化二酸化塩素」の抗菌濃度は300ppm以上であり、さらに本発明の「純粋二酸化塩素液剤」による二酸化塩素ガスの細菌との接触確率は、従来の「安定化二酸化塩素」によるものよりも圧倒的に優れている。
従来の「安定化二酸化塩素」の水溶液にその使用直前に刺激剤を充分に添加したり、また、酸を添加してそのpHを7以下の酸性に保持したりすることにより、その濃度を一時的に増大させることが提案されていることは前述のとおりであるが、本発明の「純粋二酸化塩素液剤」は、そのような刺激剤や酸を添加しなくても、溶存二酸化塩素を高濃度に含有させることができると共に、高濃度から低濃度にいたる濃度に自由に調節して含有させることができ、しかも略一定の薬効濃度に維持された二酸化塩素ガスを長時間継続して放出させることができるので、高い薬効を長時間持続的に維持させることができる。また、本発明では、既に提案された技術(特許第3110724号公報に記載された技術)よりも、当該純粋二酸化塩素液剤の保存安定性に優れ、より長期にわたって高い薬効を持続させることができる。本発明の純粋二酸化塩素液剤並びにこれを含有するゲル状組成物及び発泡性組成物は、抗菌・除菌剤、抗ウイルス剤、除カビ・防カビ剤、及び消臭・防臭剤として簡便に、かつ効果的に適用することができる。
【0033】
(安定化試験)
実施例1で得た二酸塩素液剤を従来公知の方法を用いて希釈し、100ppmと500ppmの濃度をもつ二酸化塩素液剤とした。同様に、比較例1で得た二酸化塩素液剤を100ppmと500ppmの二酸化塩素濃度に調整した。
これら液剤の保存安定性を調べるべく、溶存二酸化塩素濃度(ppm)の経時的変化を測定した。なお、安定化試験は従来公知の方法に従って加速試験(測定温度:54℃。14日間が常温の1年に相当する)により行った。保存安定性の結果を下記[表]および[図]に示す(反応当量以上のリン酸二水素ナトリウムを加えた場合と、反応当量以上のクエン酸を加えた場合の比較データを示す)。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
上記した[表]および別紙の[図]から明らかなように、25℃における5%水溶液のpHが2.5〜6.8となるpH調整剤を使用する方が、pH2.5〜6.8から外れる緩衝性のある酸を使用するよりも二酸化塩素液剤の保存安定性が飛躍的に向上し、また保存中の液性(pH)の変動も小さいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、抗菌・除菌剤、抗ウイルス剤、除カビ・防カビ剤及び消臭・防臭剤等に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶存二酸化塩素ガス、亜塩素酸塩、及びpH調整剤を構成成分に有する純粋二酸化塩素液剤、並びに高吸水性樹脂を含有し、
前記pH調整剤が、25℃における5%水溶液のpHが2.5〜6.8となる緩衝性のある酸またはその塩であることを特徴とするゲル状組成物。
【請求項2】
前記高吸水性樹脂がデンプン系吸水性樹脂、セルロース系吸水性樹脂または合成ポリマー系吸水性樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のゲル状組成物。
【請求項3】
前記亜塩素酸塩が亜塩素酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1または2に記載のゲル状組成物。
【請求項4】
前記pH調整剤が、リン酸またはその塩であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のゲル状組成物。
【請求項5】
前記pH調整剤が、リン酸二水素ナトリウム、または、リン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムの混合物であることを特徴とする請求項4に記載のゲル状組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−32286(P2013−32286A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−246759(P2012−246759)
【出願日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【分割の表示】特願2009−503934(P2009−503934)の分割
【原出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(391003392)大幸薬品株式会社 (20)
【Fターム(参考)】