説明

紙および厚紙表面処理用のグリオキシルをベースにした水性不溶化剤組成物

本発明は、グリオキサールとアルカリ金属オルトリン酸塩の少なくとも1種とからなる混合物を含む、紙および厚紙の表面処理を目的とする水性の不溶化剤組成物、およびその利用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙業における紙および/又は厚紙そしてそれらの用途の表面処理用不溶化剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙業においては、目的の用途により紙の表面仕上げを改善することが知られている。それ故、特定の使用法のため、特にオフセット印刷のために、紙は、剛性と乳白度だけでなく良好な湿りこすり、湿り紙むけ、浮きおよび紙粉への耐性を有する一方で良好なプリントを作製する表面、そして水に対する満足のいく不活性さを有することが必要とされる。このことを実現するために、他のものの中で無機顔料および/又は無機充填剤、例えば、ある場合にはデンプン、カゼイン、変性したデンプン又は例えばSBRタイプのその他のラテックスの類の粘着剤と結合した二酸化チタン、粘土又は炭酸カルシウムを含有するコーティングスリップ剤で紙を処理することが提案されている。
【0003】
粘着剤の親水性は、粘着剤を架橋させる不溶化剤の使用を必要とし、それ故、さらに疎水性化し、そしてそれ故、処理された紙の表面特性を改良する。
コーティングスリップ剤への尿素および/又はメラミンおよびホルムアルデヒド、グリオキサール又はその他のグリオキサール−ホルムアルデヒド混合物をベースとするグリオキサール、アミノプラスト樹脂そして時にはジルコニウム塩の投入は米国特許第3869296号、同第3197659号、同第4343655号、同第4455416号および同第4471087号に記載されている。
【0004】
しかしながら、これらの不溶化剤には多くの不都合がある。ホルムアルデヒドを含有するアミノプラスト樹脂は、処理の間にホルムアルデヒドを遊離し、その使用を一部の法律、特に周知のホルムアルデヒドのアレルギー性および刺激性作用に対する法律と相容れなくしている。
ジルコニウム塩は実用的にはデンプンには効果がない。グリオキサールは優れた不溶化特性を有しているが、アルカリ性のコーティングスリップ剤には用いることができない。
【0005】
さらに、遊離又は結合したグリオキサールを含有するコーティングスリップ剤で塗布した紙は容易に黄色を呈し高い乾燥温度に耐えることができない。
ヨーロッパ特許出願EP−A−0637644は、水溶液中にグリオキサール、尿素、ホウ素とアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物とを含有する酸素含有酸のアルカリ金属塩から構成される混合物を含有する不溶化剤組成物を記載している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水に対する不活性さ、湿りこすり、湿り紙むけ、紙粉および浮きへの耐性を低下させることなく、且つ処理された紙の白さを損なうことなく、最低限の少ない量のグリオキサール含量を有する紙および厚紙表面の処理に用いられ得る不溶化剤組成物が、なお強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの対象は、グリオキサールとオルトリン酸アルカル金属塩の少なくとも1種からなる混合物を含有する組成物であって、該組成物のpHが7未満である紙および厚紙の表面処理を目的とする水性不溶化剤組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明による組成物に用いられ得るオルトリン酸塩として、例えば、オルトリン酸ナトリウム、オルトリン酸カリウムおよびオルトリン酸リチウムが挙げられ得る。例として、以下の具体的な化合物である、リン酸一リチウム(LiHPO)、オルトリン酸一ナトリウム(NaHPO)、オルトリン酸二ナトリウム(NaHPO)、オルトリン酸三ナトリウム(NaPO)、オルトリン酸ヘミナトリウム(NaH(PO)、オルトリン酸一カリウム(KHPO)、オルトリン酸二カリウム(KHPO)およびオルトリン酸三カリウム(KPO)が挙げられ得る。
【0009】
本発明によれば、オルトリン酸アルカル金属塩は1種であるいは組み合わせて用いられ得る。
本発明により用いられ得るオルトリン酸アルカル金属塩は、市販されていてそしてそれらの無水又は水和した形で本発明により用いられ得る。
有利には、オルトリン酸ナトリウム、さらに好適には、リン酸三ナトリウム12水和物とも呼ばれるオルトリン酸三ナトリウム12水和物が用いられ得る。
【0010】
特に、本発明の1つの対象は、水溶液中、約0.35〜1.75、好適には約0.5〜1.2そして特に約0.8〜1のオルトリン酸アルカル金属塩/グリオキサールの重量比を含む上記に規定の組成物である。
後者の組成物のうちで、約20重量%〜60重量%、好適には約35重量%〜45重量%そして特に好適には約40重量%の固形分含量を有することを特徴とする組成物が挙げられる。
本発明による組成物の重要な特徴は、上記組成物のpHであり、グリオキサールの劣化を抑制するためには7未満でなければならない。
【0011】
ある種のオルトリン酸アルカリ金属塩、例えばリン酸一ナトリウム(NaHPO)はかなりの酸性pHを有し、一方、他のそれら、例えばリン酸二ナトリウム(NaHPO)又はリン酸三ナトリウム(NaPO)はかなりの塩基性である。
特定の場合そして用いられるオルトリン酸アルカル金属塩により、酸の添加によって前記組成物のpHを7未満、好適には3〜6、さらに好適には4〜5の値に調整することが必要である。例えば、無機酸又はカルボン酸が用いられ得る。
カルボン酸としては、酢酸あるいはクエン酸が挙げられ得る。
好適には、鉱酸、例えば塩酸、硫酸そしてさらに好適にはリン酸が用いられ得る。
【0012】
特に、本発明の対象は、水溶液中に約0.35〜1.75、好適には約0.5〜1.2、そして特に好適には約0.8〜1のオルトリン酸三ナトリウム12水和物/グリオキサールの重量比で含有する組成物である。
後者の組成物のうちで、約20重量%〜60重量%、好適には約35重量%〜45重量%そして特に好適には約40重量%の固形分含量を有する組成物が挙げられる。
本発明による組成物は、それら成分の水中での単純混合によって得ることができる。
【0013】
同様に、本発明は、
- グリオキサール水溶液に水性オルトリン酸アルカル金属塩の望ましい量の導入、
- 必要であれば、組成物中の固形分の割合を調整するための水の添加、そして
- 必要であれば、酸添加による、組成物のpHを7未満の値に調整する
ことからなる工程を含む、上記組成物の製造方法に関する。
【0014】
選択的に、用いられるグリオキサールは、20重量%〜60重量%、好適には30重量%〜50重量%の水溶液の形態である。
さらに好適には、本発明による組成物は、40重量%グリオキサール水溶液に、攪拌下にそして室温で求められる量のオルトリン酸アルカル金属塩、次いで組成物の固形分の割合を調整するために必要ならば水を添加して製造される。
【0015】
さらになお選択的に、本発明による組成物は、グリオキサール水溶液に、攪拌下にそして室温で求められる量のオルトリン酸アルカル金属塩、次いでpHを7未満の値に調整するために求められる量の酸、そして最後に組成物の固形分の割合を調整するために必要ならば水を添加することによって得られる。
【0016】
本発明による組成物は、それらが、紙のコーティングを目的とする鉱物顔料および1種もしくはそれ以上の結合剤をベースとするコーティングスリップ剤に添加されるときにいくつかの有利な特性を有している。それらは、特に、本発明による組成物を含有するコーテリィングスリップ剤で処理した紙の、湿りこすり、湿り紙むけ、紙粉および浮きへの耐性そして同様に水に対する不活性さを改良することを可能とする。
【0017】
さらに、これらの改良は、乾燥条件が厳しいときに紙を黄変させることが周知であるグリオキサールを含有するという事実にも拘わらず、紙の白さを損なうことなく得られる。これらの特性は、製紙業において、特に紙の表面適用を目的とするコーティング浴、例えばコーティングスリップ剤、そして種々のサイズプレスのコーティング配合物を得るためにこれらを応用することを正当化する。
【0018】
本発明の他の対象は、上記組成物を含有するコーティング浴、そして同様に本発明によるコーティング浴を使用して得られる紙である。
本発明の対象の最後の1つは、紙又は厚紙の表面処理用に上記規定の組成物の少なくとも1種の使用である。
【0019】
以下の実施例は、限定しないで本発明を説明する。
【実施例】
【0020】
実施例1
-市販のグリオキサール40重量%水溶液(クラリアント(Clariant)社)112g、
-85重量%リン酸30g、
-オルトリン酸三ナトリウム12水和物37g、
-水88g
が攪拌下に室温で混合された。
3.5のpH、37%固形分含量およびグリオキサール40の含量42%を有する透明な溶液が得られている。
オルトリン酸三ナトリウム12水和物/グリオキサールの重量比は0.83である。
【0021】
応用例
1/サイズプレス処理
この処理は、複数のロールとその間を均一なスリップ剤のコーティングを受けるためにシートが通過する組立部を含むサイズプレス上で行われる。
セレスター(Cerestar)社の酸化デンプンC5591の14重量%溶液が用いられた。
その組成を以下の表1に示す種々の配合物C1〜C6が調製された。量は生成物それ自体のgで示される。
配合物C1は不溶化剤を含まない。
【0022】
配合物C4〜C6は、実施例1に記載された不溶化剤組成物の使用に対応する。
比較例としての配合物C2およびC3は、ヨーロッパ特許EP−A−0637644号に記載の組成物の使用に対応していて、且つ以下の特徴を有している。
-pH=3.5±0.5、
-固形分含量=42±1%、
-グリオキサール40の含量=86%、
-四ホウ酸ナトリウム10水和物/グリオキサールの重量比=0.10
【0023】
【表1】

【0024】
これら実施例では、80g/mの坪量、34.7秒のCobb60を有し、そしてアルジョウィギンス(Arjo Wiggins)社から販売されるコーティングされていないウッドフリーペーパーが用いられた。
紙の含浸は、配合物C1〜C6を用いて、マシス(Mathis)社のSP350サイズプレスを用いて、12m/分の速度および3バールの圧力で行われ、続いて90℃で90秒の乾燥が行われた。次いで、含浸した紙についてテーバー湿りこすりが測定された。
【0025】
テーバー湿りこすりが、修正フランス標準規格Q03−055により外径と内径が各々120mmおよび7mmの環状試験片を用いて、10サイクルおよび20サイクル、CS−0研磨ホイール、100gの圧力下、10gの水の存在下に行われ、続いて10gの水ですすぎ洗いされ、これらの20gの水は回収されそして水で25gの量にそろえ、次いでこれら25gの水の濁度がハック(Hach)濁度計で測定される。実測された濁度はNTU単位で表示され、そして得られた結果が以下の表2である。
【0026】
【表2】

【0027】
結果は、本発明の組成物がデンプン不溶化効果を有していることを示す。
さらに、得られた結果は、同量の活性成分に対して、本発明の組成物が従来技術の組成物と比較して、少なくとも同等である湿こすり耐性の性能を与えるということを示す。
【0028】
2/コーティング処理
オムヤ(Omya)社から販売される炭酸カルシウム、登録商標HYDROCARB90を参照、フーバーエンジニアードマテリアルズ(Huber Engineered Materials)社から販売されるカオリン、登録商標HYDRAGLOSS90を参照、ダウ社から販売されるSBR(スチレン−ブタジエン)ラテックス、DL950を参照、そしてセレスター(Cerestar)社から販売される酸化されているデンプン、C5591を参照、が用いられた。
【0029】
その組成が以下の表3に示される種々の配合物C7〜C11が調製された。量は生成物それ自体のgで表示される。
配合物C7は不溶化剤を含まない。
配合物C7〜C11は、実施例1に記載の1種類の不溶化剤組成物の使用に対応している。
比較例としての配合物C8およびC9は、ヨーロッパ特許EP−A−0637644号に記載の組成物の使用に対応していて、以下の特徴を有している。
-pH=3.5±0.5、
-固形分含量=42±1%、
-グリオキサール40の含量=86%、
-四ホウ酸ナトリウム10水和物/グリオキサールの重量比=0.10
【0030】
【表3】

【0031】
これらの実施例では、80g/mの坪量、34.7秒のCobb60を有し、そしてアルジョウィギンス社から販売されるコーティングされていないウッドフリーペーパーが用いられた。
紙のコーティングは、配合物C7〜C11を用いて、チャンピオン(Champion)010塗布バーを使用して約20g/mの付着量で行われ、続いてオーブン内で105℃で1分間の乾燥が行われた。次いで、テーバー湿りこすりが前述のように含浸紙について測定された。同様に、濁度測定が、印刷機内での105℃、20分間のオーブン処理の後に行われた。
同様に、白色度測定WCIEがミノルタのCM3720/ランプD65/10装置を用いて行われた。
得られた結果は以下の表4に報告される。
【0032】
【表4】

【0033】
得られた結果は、紙のコーティング処理に用いられた本発明の不溶化剤組成物が、処理紙の湿りこすり耐性に関して有利な特性を有しているということを示す。
同様に、本発明の組成物が処理化紙の白色度を損なわないということが観察された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性不溶化剤組成物であって、グリオキサールとオルトリン酸アルカル金属塩の少なくとも1種とからなる混合物を含み、且つ該組成物のpHが7未満であることを特徴とする紙および厚紙の表面処理用の水性不溶化剤組成物。
【請求項2】
水溶液中、オルトリン酸アルカル金属塩/グリオキサールを約0.35〜1.75の重量比で含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
オルトリン酸アルカル金属塩/グリオキサールの重量比が約0.5〜1.2である請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
オルトリン酸アルカル金属塩/グリオキサールの重量比が約0.8〜1である請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物の固形分含量が約20〜60重量%である請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物の固形分含量が約35〜45重量%である請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物の固形分含量が約40重量%である請求項5又は6に記載の組成物。
【請求項8】
オルトリン酸アルカル金属塩が、オルトリン酸三ナトリウム12水和物である請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
下記の工程:
- グリオキサール水溶液にオルトリン酸アルカル金属塩の望ましい量を導入すること、
- 必要であれば、組成物中の固形分の割合を調整するための水を添加すること、および
- 必要であれば、酸の添加によって、組成物のpHを7未満の値に調整すること
を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物の調製方法。
【請求項10】
オルトリン酸アルカル金属塩が、リン酸三ナトリウム12水和物であり且つ前記組成物のpHがリン酸添加により7未満に調整される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物を含むことを特徴とする紙および厚紙用のコーティング浴。
【請求項12】
請求項11に記載のコーティング浴によって処理されていることを特徴とする改良された耐湿りこすり性を有する紙および厚紙。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物の、紙および厚紙の表面処理用の利用。

【公表番号】特表2009−517559(P2009−517559A)
【公表日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−542729(P2008−542729)
【出願日】平成18年11月23日(2006.11.23)
【国際出願番号】PCT/EP2006/068822
【国際公開番号】WO2007/063023
【国際公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(596033657)クラリアント インターナショナル リミティド (48)
【Fターム(参考)】