説明

紙の製造方法及びこの製造方法により得られる紙

【課題】再生粒子を填料として用いた場合において、スラリーの増粘を抑え、かつ優れた歩留まりを有する紙の製造方法及びこの製造方法によって得られる紙の提供を図ることを目的とする。
【解決手段】本発明は、製紙スラッジを主原料とし、脱水、熱処理及び粉砕工程を経て得られた再生粒子を凝結剤により凝集させて、凝集再生粒子含有スラリーを得る再生粒子凝集工程、上記凝集再生粒子含有スラリーをパルプスラリーに添加する添加工程、及び上記凝集再生粒子含有スラリーが添加されたパルプスラリーを抄紙する抄紙工程を有し、上記凝集再生粒子の体積平均粒子径が2.5μm以上10μm以下である紙の製造方法である。上記凝結剤が、カチオン性であり、この凝結剤の電荷密度が5meq/g以上25meq/g以下であるとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生粒子を填料として用いる紙の製造方法及びこの製造方法により得られる紙に関する。
【背景技術】
【0002】
紙の不透明度、白色度、印刷適性などを改善するために、紙には様々な填料が内添される。このような填料の紙への内添は、パルプスラリーに填料スラリーを添加することによって行うのが一般的である。この際、不透明度等の紙の品質向上のために填料添加量を増加させると、填料添加における機能向上効果が頭打ちになり、更に引っ張り強度や引裂き強度等の紙力低下問題を引き起こすと共に、過剰な填料は、紙中に残留しにくくなり、填料の歩留まりが低下する。
【0003】
そこで、抄紙の際に填料を紙中に留まらせる各種方法が提案されている。例えば、歩留向上剤として、パルプスラリーに高分子物質を添加する方法がある。この高分子物質としては、カチオン化澱粉等の天然高分子誘導体や、ポリエチレンイミン等の合成高分子物質が挙げられる。また、填料の水分散液(スラリー)中において、填料を凝集剤で予め凝集させ、この水分散液をパルプスラリーに添加し、抄紙する方法が提案されている。この填料の予備凝集の具体的方法としては、例えば、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドをモノマーとするカチオン性高分子化合物を用い、混合後の抄紙用填料の平均粒子径を混合前の1.0〜2.0倍とする方法が提案されている(特許第4324073号公報参照)。
【0004】
一方、製紙工場の各種工程から排出される製紙スラッジ中の無機物を、いわゆる再生粒子として、製紙用填料等に再利用することは、製紙業界において環境問題に関わる重要な課題となっている。このような再生粒子を製造する方法としては、製紙スラッジを主原料とし、脱水、熱処理及び粉砕工程をこの順に経るものが一般的である。このような工程を経る再生粒子の製造方法においては、熱処理工程における過燃焼等の影響により、炭酸カルシウムが分解し酸化カルシウムに変化し、この酸化カルシウムが水中でさらに水酸化カルシウムに変化すること等によって、スラリー中にカルシウムイオンと水酸化イオンが多量に存在する。あるいは、製紙スラッジ中の炭酸カルシウムや珪酸アルミニウムが反応し、アルミン酸カルシウム等の水和硬化性物質を生成する。そのためこれらの要因により、再生粒子を填料として用いた際に、パルプスラリーの粘度が上昇し、作業性が低下するという不都合が生じる。
【0005】
特に、上述のように填料を凝集剤で予め凝集する際、この填料として再生粒子を用いた場合、再生粒子の凝集と相まって、水分散液(スラリー)の粘度が上昇するため、作業性が低下したり、また、所望以上の再生粒子の凝集が生じたりする等の不都合が生じる。一方、増粘を抑えるために添加する凝集剤の量を低下させると適度に凝集された再生粒子(填料)を得ることができず、填料の歩留まりが低下するという不都合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4324073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたもので、再生粒子を填料として用いた場合において、スラリーの増粘を抑え作業性が向上し、かつ高い填料の歩留まりにより高い不透明性を有する紙の製造方法及びこの製造方法によって得られる紙の提供を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた発明は、
製紙スラッジを主原料とし、脱水、熱処理及び粉砕工程を経て得られた再生粒子を凝結剤により凝集させて、凝集再生粒子含有スラリーを得る再生粒子凝集工程、
上記凝集再生粒子含有スラリーをパルプスラリーに添加する添加工程、及び
上記凝集再生粒子含有スラリーが添加されたパルプスラリーを抄紙する抄紙工程
を有し、
上記凝集再生粒子の体積平均粒子径が2.5μm以上10μm以下である紙の製造方法である。
【0009】
当該製造方法によれば、凝集再生粒子の体積平均粒子径を上記範囲とすることで、スラリーの増粘を抑え作業性を向上させつつ、かつ、再生粒子の紙中への歩留まりが向上することで不透明性の高い紙を得ることができる。
【0010】
上記凝結剤が、カチオン性であり、
この凝結剤の電荷密度が5meq/g以上25meq/g以下であるとよい。
【0011】
上記範囲の電荷密度を有するカチオン性の凝結剤を用いることで、カチオン電荷密度を所望する範囲に容易に調整できることなどにより、スラリー増粘の抑制と再生粒子の適度な粒子径への凝集とをより効率的に達成することができる。
【0012】
上記凝結剤が、主成分としてポリエチレンイミン誘導体を含み、
この凝結剤の質量平均分子量が10万以上150万以下であるとよい。
【0013】
主成分としてポリエチレンイミン誘導体を含み、上記範囲の質量平均分子量を有する凝結剤を用いることで、スラリーの増粘をより効果的に抑え、作業性を向上し、所望する二次粒子径を備える凝集体へ凝集させることができ、再生粒子の紙中への歩留まりが向上することで高い不透明性を有する紙を得ることができる。
【0014】
従って、本発明の製造方法により得られる紙は、填料としての再生粒子の歩留まりが高く、その結果、灰分が高く、高い不透明度等を有することができる。
【0015】
ここで、体積平均粒子径とは、レーザー回析散乱法により測定された粒度分布における体積中位粒径(D50)をいう。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したとおり、本発明の紙の製造方法によれば、再生粒子を填料として用いているにもかかわらず、スラリーの増粘を抑え、かつ優れた填料の歩留まりを有する紙を製造することができるため、紙の生産性を向上させ、灰分が多く、高い不透明度等を有する高品質な紙を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の紙の製造方法及びこの製造方法によって得られる紙について詳説する。
【0018】
<紙の製造方法>
当該紙の製造方法は、
(1)製紙スラッジを主原料とし、脱水、熱処理及び粉砕工程を経て得られた再生粒子を凝結剤により凝集させて、凝集再生粒子含有スラリーを得る再生粒子凝集工程、
(2)上記凝集再生粒子含有スラリーをパルプスラリーに添加する添加工程、及び
(3)上記凝集再生粒子含有スラリーが添加されたパルプスラリーを抄紙する抄紙工程
を有する。
【0019】
<(1)再生粒子凝集工程>
(1)再生粒子凝集工程においては、填料としての再生粒子をパルプスラリーへ添加する前に予め凝結剤により凝集させて、凝集再生粒子を含有する凝集再生粒子含有スラリーを得る。当該製造方法においては、この再生粒子として製紙スラッジを主原料とし、脱水、熱処理及び粉砕工程を経て得られたものを用いることで、過燃焼が抑えられており、スラリー化の際の増粘を抑制することができる。なお、この再生粒子の好ましい製造方法については、後に詳述する。
【0020】
この再生粒子凝集工程においては、例えば再生粒子を水中へ分散させた再生粒子スラリーへ、凝結剤を添加することによって行うことができる。再生粒子スラリーにおける再生粒子の固形分濃度としては、10質量%以上40%質量以下が好ましく、12質量%以上35質量%以下がさらに好ましく、15質量%以上25質量%以下が特に好ましい。再生粒子スラリーの濃度を上記範囲とすることで、再生粒子の凝集性の効率化とスラリー粘度の上昇の抑制との両立を図ることができる。再生粒子スラリーの濃度が上記下限未満の場合は、凝結剤の添加によっても、再生粒子が好適なサイズにまで凝集しないおそれがある。一方、再生粒子スラリーの濃度が上記上限を超える場合は、粘度が高くなりすぎて作業性が低下したり、また、凝集再生粒子の粒度分布が広がりすぎ、歩留まりが低下するおそれがある。
【0021】
なお、凝結剤を添加する前(本工程の前)の再生粒子の体積平均粒子径としては、特に限定されないが、1.5μm以上3.5μm以下が好ましく、2μm以上3μm以下がさらに好ましい。
【0022】
再生粒子スラリーへ添加する凝結剤としては、その電荷の作用により複数の粒子を凝集させることができるものであれば特に限定されず、カチオン性高分子、アニオン性高分子等の高分子化合物を用いることができるが、負に帯電している再生粒子を好適に凝集させることができるカチオン性高分子を用いることが好ましい。
【0023】
この凝結剤の質量平均分子量の下限としては、10万が好ましく、30万がさらに好ましく、40万が特に好ましい。一方、この質量平均分子量の上限としては、150万が好ましく、130万がさらに好ましく、120万が特に好ましい。凝結剤の分子量を上記範囲とすることで、再生粒子に対する好適な凝集性を発揮することができる。特に、上述のような体積平均粒子径を有する再生粒子に対しては、このような範囲の分子量を有する凝結剤を用いることで、所望する粒子径を有する凝集体を効率的に得ることができる。なお、質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC法)を用いて測定した数値である。
【0024】
凝結剤の質量平均分子量が上記下限未満の場合は、十分な凝集能を発揮することができず、再生粒子の凝集が進まないため、歩留まりの向上が発揮されないおそれがある。逆に、この平均分子量が上記上限を超える場合は、凝集能が強すぎて、偏凝集の発生や、スラリーの粘度が上昇して抄紙の作業性が低下したり、得られる紙の紙力が低下したりするおそれがある。
【0025】
また、凝結剤のカチオン電荷密度の下限としては、5meq/gが好ましく、8meq/gがさらに好ましく、10meq/gが特に好ましい。一方、このカチオン電荷密度の上限としては、25meq/gが好ましく、22meq/gがさらに好ましく、20meq/gが特に好ましい。凝結剤のカチオン電荷密度を上記範囲とすることで、再生粒子に対する好適な凝集性を発揮することができる。なお、このカチオン電荷密度は、凝結剤として複数の成分を用いる場合は、その凝結剤全体としてのカチオン電荷密度をいう。
【0026】
本発明において、上記カチオン電荷密度は以下の方法で測定した値である。まず、試料をpH4.0の水溶液に調整した後、流動電位法に基づく粒子荷電測定装置(Muteck PCD−03)にて、1/1000規定のポリビニル硫酸カリウム水溶液を用いた滴定によって、アニオン要求量を測定する。得られたアニオン要求量を用いて下記式(1)によって、試料1gあたりのカチオン電荷密度を計算する。
カチオン電荷密度=A/B ・・・ (1)
A:pH4.0に調整した凝結剤水溶液のアニオン要求量(μeq/l)
B:凝結剤水溶液の固形分濃度(g/l)
【0027】
凝結剤のカチオン電荷密度が上記上限を超えると、再生粒子表面全体がカチオン電荷を帯び、電荷による反発で凝集が生じにくくなる場合がある。逆に、凝結剤のカチオン電荷密度が上記下限未満の場合は、負に帯電している再生粒子を電気的に凝集させることができる効果を十分に発揮することができず、ブロードな粒度分布となる場合がある。
【0028】
なお、このように再生粒子の凝集においては、質量平均分子量とカチオン電荷密度との両方において上述の好ましい範囲を有する凝結剤を用いることが、再生粒子の凝集性とスラリーの増粘抑制の両方を好適に達成することができるため好ましい。この理由は定かではないが、例えば、凝集に係る理由としては、様々な無機物、無機酸化物等の混合体である再生粒子は表面の電荷分布にバラツキがあるため、所定範囲の分子量及びカチオン電荷密度を有するカチオン性合成高分子を用いることで電気的な凝集(凝結)作用が発揮できるためであると考えられる。
【0029】
また、過燃焼等の影響による酸化カルシウム等の水和硬化性物質の存在による再生粒子スラリーの増粘においても、適度な分子量を有する凝結剤が再生粒子表面を効率的に被覆し、酸化カルシウムが水酸化カルシウムに反応すること等を抑えることができると考えられる。この際、適度なカチオン電荷密度を有する凝結剤が再生粒子中に含まれる酸化カルシウムの反応性を抑制し、その結果、スラリーの増粘を抑制することができると考えられる。
【0030】
凝結剤として好適に用いられることのできるカチオン性高分子としては、例えば、ポリアクリルアミド、ポリビニルアミン、ポリアミン、ポリエチレンイミン、及びこれらの誘導体等の有機高分子を挙げることができる。
【0031】
これらの中でも、再生粒子に対する凝集性及びスラリーの増粘抑制性の点から、ポリエチレンイミン誘導体が特に好ましい。
【0032】
凝結剤は水溶液として再生粒子スラリーに添加することが好ましい。また、凝結剤の添加量としては、再生粒子固形分に対して、固形分換算で200ppm以上3,500ppm以下が好ましく、1,000ppm以上3,000ppm以下がさらに好ましく、1,500ppm以上2,500ppm以下が特に好ましい。
【0033】
凝結剤の添加量が上記下限未満の場合は、再生粒子を十分に凝集させることができず、歩留まりの向上効果が発揮されない場合がある。逆に、凝結剤の添加量が上記上限を超えると、スラリーの増粘が顕著に生じたり、三次、四次凝集が生じ、得られる紙の紙力が低下する場合がある。
【0034】
本工程を経て得られる凝集再生粒子の体積平均粒子径の上限は、10μmであり、8μmが好ましく、7μmが特に好ましい。一方、凝集再生粒子の体積平均粒子径の下限は、2.5μmであり、4μmが好ましく、5μmがさらに好ましい。凝集再生粒子の体積平均粒子径を上記範囲とすることで、抄紙工程における再生粒子の歩留まりを効率的に向上させることができる。
【0035】
凝集再生粒子の体積平均粒子径が上記上限を超えると、凝集再生粒子含有スラリーの粘度が高くなりすぎて作業性が低下したり、得られる紙の紙力が低下したりする。逆に、この体積平均粒子径が上記下限未満の場合は、抄紙の再生粒子の歩留まりが十分に向上しない。
【0036】
発明者らの知見によると、好適な凝集再生粒子含有スラリーの粘度は、500cpsを境に大きく変化し、500cpsを超える粘度だと作業性が悪化するとともに、抄紙系内の汚れが顕在化する不都合が生じる。特に好ましくは、300cps以下、更には200cps以下に調整することで、作業性の改善と得られる凝集再生粒子の粒度分布をよりシャープにすることができ、本件発明の課題である、填料の歩留まりにより高い不透明性を有する紙の製造方法及びこの製造方法によって得られる紙の提供をより効果的に実現することができる。
【0037】
<(2)添加工程>
(2)添加工程においては、上記工程で得られた凝集再生粒子含有スラリーをパルプスラリーに添加する。
【0038】
このパルプスラリーに配合される原料パルプとしては、紙の製造原料として公知のものが用いられ、例えば、LBKPやNBKP等の化学パルプ、各種機械パルプ、DIP等を用いることができる。これらのパルプの中でも、コストや環境への影響等を考慮すると、化学パルプ、DIPが好適である。
【0039】
また、上記パルプスラリーには、助剤として、サイズ剤、紙力剤等を適宜配合することができる。
【0040】
さらには、上記パルプスラリーには、再生粒子以外の他の填料を配合してもよい。この他の填料としては、例えば、軽質又は重質炭酸カルシウム、クレー、焼成カオリン、タルク、二酸化チタン、ホワイトカーボン等の公知のものを一種又は二種以上組み合わせて用いることができる。なお、不透明性、白色度、価格等の面から、軽質炭酸カルシウムを併用することが好適である。
【0041】
凝集再生粒子含有スラリーのパルプスラリーに対する添加量としては、パルプ1tに対して再生粒子として10kg以上200kg以下が好ましく、50kg以上150kg以下がさらに好ましい。(凝集)再生粒子の添加量が上記下限未満の場合は、好ましい灰分を有する不透明度等に優れた紙を得ることができないおそれがある。逆に、この添加量が上記上限を超える場合は、紙中に残らない再生粒子の割合が高まり、歩留まりが低下し、生産性が低下するおそれがある。
【0042】
<(3)抄紙工程>
(3)抄紙工程においては、上記工程にて凝集再生粒子含有スラリーが添加されたパルプスラリーを抄紙することによって、紙を得ることができる。この抄紙方法としては、特に限定されず、公知の抄紙機によって抄紙することができる。また、必要に応じ、抄紙後に紙表裏面にサイズ剤を塗布したり、カレンダー装置に通紙し、加圧、平滑化処理等を施してもよい。
【0043】
上記抄紙工程に用いるサイズ剤としては、一般的に用いられるサイズ剤を適宜用いれば良く、このようなサイズ剤としては、例えば、酸化澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉、酵素変性澱粉、カチオン化澱粉、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール(PVA)、スチレン/アクリル酸共重合体、スチレン/(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン/(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン/マレイン酸共重合体、スチレン/マレイン酸半エステル共重合体、スチレン/マレイン酸エステル共重合体等、ポリアクリルアミド等の水溶性高分子、ロジン、トール油とフタル酸等のアルキド樹脂ケン化物、石油樹脂とロジンのケン化物等のアニオン性低分子化合物、イソジアネート系ポリマー等のカチオン性ポリマーなどが挙げられる。これらの中でも、水溶性高分子が好ましく、澱粉がより好ましく、次亜塩素酸ナトリウム等による酸化反応によって低分子量化され分子中へカルボキシル基、アルデヒド基、カルボニル基等が導入された加工澱粉が更に好ましい。上記サイズ剤は1種を単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。これらのサイズ剤を添加することにより、コールドセット型オフセットインキのビヒクル分が素早く吸収され、輪転機の高速化や両面カラー用タワープレス機の使用によって印刷インキ量が増加しても、充分な吸収乾燥性が発現され、また、填料が確実に繊維に固着されるため、填料の脱落を防止し、優れた印刷不透明度、印刷適性等を確保することができる。
【0044】
<紙>
上記製造方法で得られた紙は、填料としての再生粒子の歩留まりが高く、高い灰分を有している。当該製造方法で得られる紙の灰分の下限としては、1%が好ましく、3%がさらに好ましく、5%がより好ましい。一方、この灰分の上限としては、20%が好ましく、15%がさらに好ましく、10%がより好ましい。得られた紙が、灰分をこのような範囲とすることで、不透明度等の優れた特性を発揮することができる。
【0045】
上記製造方法で得られた紙の用途としては特に限定されないが、新聞用紙として好適に用いることができる。上記製造方法は填料の歩留性が高いため、印刷不透明度等の印刷特性に優れた新聞用紙が得られる。その結果、当該製造方法で得られる新聞用紙は、高速のオフセット輪転印刷に好適に用いることができる。
【0046】
<再生粒子の製造方法>
ここで、本発明の製造方法に好適な再生粒子の製造方法について、原料並びに脱水、熱処理及び粉砕の各工程の順に詳説する。なお、熱処理工程と粉砕工程との間に、配合・スラリー化工程を有することが好ましく、さらに必要に応じてその他の工程を設けることができる。
【0047】
(原料)
再生粒子の原料としては、主原料として製紙スラッジが用いられ、製紙スラッジの中でも、脱墨フロスが好適に用いられる。脱墨フロスとは、古紙パルプを製造する古紙処理工程において、主に、古紙に付着したインクを取り除く脱墨工程でパルプ繊維から分離されるものをいう。製紙における古紙パルプ製造工程では、安定した品質の古紙パルプを連続的に生産する目的から、使用する古紙の選定、選別を行い、一定品質の古紙を使用する。そのため古紙パルプ製造工程に持ち込まれる無機物の種類やその比率、量が基本的に一定になる。しかも古紙中に未燃物の変動要因となるビニールやフィルムなどのプラスチック類が含まれていた場合も、これらの異物は脱墨フロスを得る脱墨工程に至る前段階で除去される。したがって、脱墨フロスは、工場排水工程や製紙原料調成工程等の、他の工程で発生する製紙スラッジと比べて、極めて安定した品質の再生粒子を製造するための原料となる。
【0048】
(脱水工程)
脱水工程は、脱墨フロス等の原料の水分を所定割合まで除去する工程である。例えば、古紙パルプを製造する脱墨工程においてパルプ繊維から分離された脱墨フロスは、種々の操作を経て、公知の脱水設備により脱水される。
【0049】
脱水工程の一例としては、以下の工程が挙げられる。まず一の脱水手段であるスクリーンによって、脱墨フロスから水を分離して脱水する。このスクリーンにおいて水分率を90%〜97%に脱水した脱墨フロスは、別の脱水手段である例えばスクリュープレスに送り、更に所定の水分率まで脱水する。
【0050】
脱水後の原料(脱墨フロス)は、40%以上、好ましくは40%以上90%未満、より好ましくは45%以上70%以下、特に好ましくは50%超60%以下の高含水状態とするとよい。
【0051】
脱水後の原料の水分率が70%を超えると、熱処理工程における処理温度の低下を招き、加熱のためのエネルギーロスが多大になるとともに、原料の燃焼ムラが生じやすくなり均一な燃焼を進め難くなる。また、排出される排ガス中の水分が多くなり、ダイオキシン対策における再燃焼処理効率の低下と、排ガス処理設備の負荷が大きくなる不都合を有する。一方で、脱水後の原料の水分率が40%未満と低いと、脱墨フロスの過剰燃焼の原因となる。また、脱水処理エネルギーの削減にも反する。
【0052】
上述のように、原料(脱墨フロス)の脱水を多段工程で行い急激な脱水を避けると、無機物の流出が抑制でき脱墨フロスのフロックが硬くなりすぎるおそれがない。脱水処理においては、脱墨フロスを凝集させる凝集剤等の脱水効率を向上させる助剤を添加しても良いが、凝集剤には、鉄分を含まないものを使用することが好ましい。鉄分が含有されると、鉄分の酸化により再生粒子の白色度が低下するおそれがある。
【0053】
脱水工程のための設備は、再生粒子の他の工程の設備に隣接することが生産効率の面で好ましいが、予め古紙パルプ製造工程に隣接して設備を設け、脱水を行った物を搬送することも可能であり、トラックやベルトコンベア等の搬送手段によって定量供給機まで搬送し、この定量供給機から熱処理工程に供給することもできる。
【0054】
脱水後の原料は、熱処理工程に供給する前に、粉砕機(又は解砕機)等により、平均粒子径40mm以下、好ましくは平均粒子径3mm〜30mm、より好ましくは平均粒子径5mm〜20mmに粒子径を揃えると好適であり、また、粒子径50mm以下の割合が70質量%以上となるように粒子径を揃えると好適である。平均粒子径が3mm未満では過燃焼になりやすい。逆に、平均粒子径が40mmを超えると原料芯部まで均一に燃焼を図るのが困難になる。
【0055】
上記脱水工程における平均粒子径及び粒子径の割合は、攪拌式の分散機で充分分散させた試料溶液を用いて測定した値である。なお、後述する各熱処理工程における粒子径は、JIS−Z8801−2:2000に基づき、金属製の板ふるいにて測定した値である。
【0056】
(熱処理工程)
熱処理工程は、脱水された原料の更なる水分除去のための乾燥と、比較的低温の第1の燃焼とを一連で行う第1熱処理工程、及び第1熱処理工程で得られた熱処理物を再度、第1熱処理工程より高温で熱処理(燃焼)する第2熱処理工程を含む。このように順に温度を上げていく2段階の熱処理工程を経ることで、原料の過燃焼を抑え、得られる再生粒子をスラリー化した際の増粘を抑制することができる。また、熱処理温度としては、比較的低温で行うことで、同様に原料の過燃焼を抑え、得られる再生粒子をスラリー化した際の増粘を抑制することができる。熱処理温度の上限としては、具体的には780℃が好ましく、750℃がさらに好ましい。
【0057】
(第1熱処理工程)
脱水工程を経た原料は、第1熱処理工程として、例えば本体が横置きで中心軸周りに回転する内熱キルン炉を用いて、熱処理される。
【0058】
この内熱キルン炉においては、熱風発生炉にて生成された熱風が、排出口側から原料の流れと向流するように送り込まれる。この内熱キルン炉の一方側には排ガスチャンバーが、他方側には排出チャンバーが設けられている。排出チャンバーを貫通して熱風が内熱キルン炉の他方側から吹き込まれ、上記一方側から装入され、内熱キルン炉の回転に伴って上記他方側へ順次移送される原料の乾燥及び燃焼を行うようになっている。
【0059】
このように第1熱処理工程においては、原料を、本体が横置きで中心軸周りに回転する内熱キルン炉によって乾燥・燃焼することにより、供給口から排出口に至るまで、緩やかに乾燥と有機分の燃焼とを行うことができ、熱処理物の微粉化が抑制され、凝集体形成、硬い・柔らかい等さまざまな性質を有する原料の燃焼度合いの制御と、粒揃えとを、安定的に行うことができる。なお、乾燥を別工程に分割し、例えば吹上げ式の乾燥機によって乾燥させることもできる。
【0060】
第1熱処理工程における熱処理温度(例えば、内熱キルン炉の炉内温度)は、300℃以上500℃未満、好ましくは400℃以上500℃未満、より好ましくは400℃以上450℃以下が好適である。第1熱処理工程においては、容易に燃焼可能な有機物を緩やかに燃焼させ、燃焼し難い残カーボンの生成を抑える目的から、上記範囲の温度で熱処理するのが好ましい。過度に温度が低いと、有機物の燃焼が不十分であり、他方、過度に温度が高いと過燃焼が生じ、炭酸カルシウムの分解によって酸化カルシウムが生成し易くなる。また、温度が500℃以上の場合は、硬い・柔らかい等さまざまな性質を有する脱水物の粒揃えが進行するよりも早くに乾燥・燃焼が局部的に進むため、粒子表面と粒子内部との未燃率の差を少なくし、均一にするのが困難になる。
【0061】
第1熱処理工程は、原料に含有される燃焼容易な有機物を緩慢に燃焼させ、残カーボンの生成を抑制するため、上記条件下で、30分〜90分の滞留(熱処理)時間で熱処理させるのが好ましい。熱処理時間が30分未満では、十分な燃焼が行われず残カーボンの割合が多くなる。他方、熱処理時間が90分を超えると、脱水物の過燃焼による炭酸カルシウムの熱分解が生じ、また、得られる再生粒子が極めて硬くなる。有機物の燃焼及び生産効率の面では、40分〜80分の滞留時間で熱処理させるのが好ましい。恒常的な品質を確保するためには、50分〜70分の滞留時間で熱処理燃焼させるのが好ましい。
【0062】
(第2熱処理工程)
第1熱処理工程を経た原料は、第2熱処理工程として、例えば本体が横置きで中心軸周りに回転する外熱ジャケットを有する外熱キルン炉を用いて、熱処理される。このように、第1及び第2熱処理工程を経ることで、原料中の有機分が燃焼除去され、無機物を熱処理物として排出することができる。
【0063】
第2熱処理工程においては、第1熱処理工程で燃焼しきれなかった残留有機物、例えば残カーボンを燃焼させるため、第1熱処理工程において供給される原料の粒子径よりも小さい粒子径に調整された熱処理物を用いることが好ましい。第1熱処理工程後の熱処理物の粒揃えは、平均粒子径10mm以下となるように調整するのが好ましく、平均粒子径1〜8mmとなるように調整するのがより好ましく、平均粒子径1〜5mmとなるように調整するのが特に好ましい。第2熱処理工程における外熱キルン炉入口での平均粒子径が1mm未満では過燃焼の危惧があり、平均粒子径10mm超では、残カーボンの燃焼が困難であり、芯部まで燃焼が進まず得られる再生粒子の白色度が低下するおそれがある。
【0064】
外熱キルン炉の外熱源としては、外熱キルン炉内の温度制御が容易で、かつ長手方向の温度制御が容易な電気加熱方式の熱源が好適であり、したがって、電気ヒーターによる外熱キルン炉が好ましい。外熱源に電気を使用することにより、炉内の温度を細かく、かつ均一にコントロールすることができ、凝集体の形成、硬い・柔らかい等のさまざまな性質を有する熱処理物の燃焼度合いの制御と、粒揃えとを、安定的に行うことができる。また、電気炉は、電気ヒーターを炉の流れ方向に複数設けることで、任意に温度勾配を設けることが可能であると共に、熱処理物の温度を一定時間、一定温度に保持することができ、第1熱処理工程を経た熱処理物中の残留有機分、特に残カーボンを第2熱処理工程で炭酸カルシウムの分解を来たすことなく限りなくゼロに近づけることができ、例えば重質炭酸カルシウムと比べて低いワイヤー摩耗度でありながら、高白色度の再生粒子を得ることができる。
【0065】
第2熱処理工程における熱処理温度は、好ましくは550℃〜780℃、より好ましくは600℃〜750℃である。第2熱処理工程では、先に述べたように、第1熱処理工程で燃焼しきれなかった残留有機物、特に残カーボンを燃焼させる必要があるため、第1熱処理工程よりも高温で熱処理するのが好ましく、熱処理温度が550℃未満では、十分に残留有機物の燃焼を図ることができないおそれがあり、熱処理温度が780℃を超えると、熱処理物中の炭酸カルシウムの脱炭酸が進行し、粒子が硬くなるおそれがある。
【0066】
第2熱処理工程としての外熱キルン炉における滞留(熱処理)時間としては、好ましくは60分以上、より好ましくは60分〜240分、特に好ましくは90分〜150分、最適には120分〜150分が、残カーボンを完全に燃焼させるに望ましい。特に残カーボンの燃焼は炭酸カルシウムの分解をできる限り生じさせない高温で、緩慢に燃焼させる必要があり、滞留時間が60分未満では、残カーボンの燃焼には短時間で不十分であり、他方、滞留時間が240分を超えると、炭酸カルシウムが分解するおそれがある。また、熱処理物の安定生産を行うにおいては、滞留時間を60分以上、過燃焼防止、生産性確保のためには、滞留時間を240分以下とするのが好適である。
【0067】
第2熱処理工程としての外熱キルン炉から排出される熱処理物の平均粒子径は、10mm以下、好ましくは1mm〜8mm、より好ましくは1mm〜5mmに調整すると好適である。この調整は、例えば、熱処理物を一定のクリアランスを持った回転する2本ロールの間を通過させること等により行うことができる。
【0068】
第2熱処理工程を経た熱処理物は、好適には凝集体であり、例えば冷却機により冷却された後、振動篩機などの粒径選別機により選別され、燃焼品サイロに一時貯留される。この後、配合・スラリー化工程及び粉砕工程で目的の粒子径に調整された後、再生粒子として填料等の用途先に仕向けられる。
【0069】
なお、以上では、脱墨フロスを原料として用いた場合を例示したが、脱墨フロスを主原料に、抄紙工程における製紙スラッジ等の他の製紙スラッジを適宜混入させたものを原料とすることなどもできる。
【0070】
(配合・スラリー化工程)
配合・スラリー化工程は、上記第2熱処理工程から排出される熱処理物に酸及び/又は塩を配合し、その熱処理物を水中に懸濁させてスラリー化させる工程である。
【0071】
この熱処理物は、後工程である粉砕工程において、効果的な粉砕を図るために、ミキサー等を使用して水中に懸濁させ、スラリーとした後に粉砕するのが好ましい。この際のスラリー濃度(スラリー全体に対する添加された熱処理物の質量比)の下限としては、15%が好ましく、20%がさらに好ましい。また、このスラリー化濃度の上限としては、50%が好ましく、40%がさらに好ましい。スラリー化濃度が上記下限未満であると最終的に得られた粒子を固形状とする際に、多大なエネルギーが生じるなど生産効率が低下する。逆に、スラリー化濃度が上記上限を超えると、のちの粉砕工程において効果的な粉砕が困難となる、また凝固、固化が生じやすくなるなどのおそれがある。
【0072】
上記酸及び/又は塩は、カルシウムイオンの存在下でカルシウム塩を析出し得るものである。当該酸及び/又は塩によれば、過燃焼によって生じた酸化カルシウムやメタカオリンに起因しスラリー中に溶け出したカルシウムイオンと反応し、カルシウム塩を析出させることで、カルシウムイオンとスラリー中に共存する珪酸イオンやアルミン酸イオンとの反応を抑え、硬化物質の生成を抑制させることができる。この結果、この酸及び/又は塩を用いることで、スラリーの凝固、固化を抑えることができる。以下その理由について説明する。
【0073】
製紙スラッジの構成成分である炭酸カルシウムとカオリンから、熱処理工程等における過燃焼により酸化カルシウム、メタカオリンなどが生じる。この酸化カルシウムは、水と混合すると(スラリー中では)水酸化カルシウムとなり、この水酸化カルシウムに起因するカルシウムイオンに誘引されて珪酸イオンやアルミン酸イオンがスラリーを凝固、固化させる要因となっている。この理由としては定かではないが、このカルシウムイオンがスラリー中に共存する珪酸イオンやアルミン酸イオンと反応し、この珪酸イオンやアルミン酸イオンなどの水和硬化反応(エトリンガイト等の水和物の生成)を促進させることなどが考えられる。なお、この珪酸イオンやアルミン酸イオンは過燃焼によって生じるメタカオリン等に由来するものである。
【0074】
ここで上記酸及びその塩が、スラリー中に添加されていると、スラリー中のカルシウムイオンと反応してカルシウム塩となる。このカルシウム塩の水への溶解度が低いと固体として析出し、スラリー中のカルシウムイオンを減少させ、メタカオリン等による珪酸イオンやアルミナイオンの生成を抑える。この結果、スラリー中において、水和硬化性物質の生成を生じないためスラリーの凝固、固化を防ぐことができると考えられる。
【0075】
このような酸及び/又は塩としては、カルシウム塩の状態における20℃での水100gに対する溶解度が1g以下であるものが好ましい。このような水への低い溶解度を有する酸及び/又は塩によれば、通常の再生粒子の製造工程における配合・スラリー化工程中のスラリーにおいて、カルシウムイオンと反応し、その反応によって生じるカルシウム塩が、酸化カルシウム又は水酸化カルシウムを含む粒子の表面に析出することでスラリーの凝固、固化を効果的に防ぐことができる。
【0076】
また、この酸及び/又は塩によれば、得られる再生粒子の白色度を高めることができる。酸又はその塩から得られるカルシウム塩は白色度が高いものが多い。そのため、これらのカルシウム塩が酸化カルシウムを含む粒子を被覆することで得られる再生粒子の白色度を高めることができる。
【0077】
この酸及び/塩としては、カルシウムイオンの存在下でカルシウム塩を析出し得るものであり、好ましくはカルシウム塩の状態における20℃での水100gに対する溶解度が1g以下であるものが好ましく、有機酸又はその塩であっても、無機酸又はその塩であってもよい。なお、このカルシウムイオンの存在下でカルシウム塩を析出するとは、一般的な再生粒子の製造工程におけるスラリー中で、カルシウム塩を析出し得ることをいう。
【0078】
この酸としては、具体的には、硫酸(硫酸カルシウム二水和物の溶解度0.21g/100g)、フッ化水素酸(フッ化カルシウムの溶解度0.0016g/100g)、クエン酸(クエン酸カルシウムの溶解度0.025g/100g)、リン酸(リン酸三カルシウムの溶解度0.0025g/100g)、炭酸(炭酸カルシウムの溶解度0.0014g/100g)、ホスホン酸等を挙げることができる。また、その塩としては、上記各酸のカルシウム塩、カリウム塩、アルミニウム塩、ナトリウム塩等を挙げることができる。上記酸又はその塩の中でも、作業性、経済性及び得られる再生粒子の均質性の点から、製紙工場で一般的に利用されている、硫酸カルシウム、炭酸カリウム、リン酸、硫酸、硫酸バンド(Al(SO)及びホスホン酸が好ましく、リン酸又は希硫酸が特に好ましく、リン酸がさらに特に好ましい。
【0079】
また、この酸及び/又は塩としては、酸又は加水分解した際に酸性を示す塩であることが、スラリーのpHの低減の点から好ましい。pHが高い再生粒子は、他の薬品と反応して品質低下を招くおそれがあるため、酸の添加によりpHを低減させることは効果的である。
【0080】
この酸及び/又は塩の熱処理物への配合(配合工程)は、熱処理物のスラリー化(スラリー化工程)より前又は同時に行うことが好ましい。熱処理物をスラリー化した後に、酸及び/又は塩を添加すると、既に熱処理物中の酸化カルシウムが水酸化カルシウムに変化し、発生したカルシウムイオン等を原因とする水和硬化反応が既に開始されているため、凝固や固化の抑制効果を得られない、又はその効果が低下するおそれがある。
【0081】
熱処理物のスラリー化より前の、酸及び/又は塩の熱処理物への配合方法としては、粉体状体の熱処理物に固体の上記酸の塩(硫酸カルシウム、リン酸三カルシウム等)等を混合する方法などを挙げることができる。熱処理物のスラリー化と同時の、酸及び/又は塩の熱処理物への添加方法としては、(1)水に酸及び/又は塩を溶かし、その水溶液中に熱処理物を懸濁させる方法、(2)水に酸及び/又は塩と、熱処理物とを同時に混合させる方法などを挙げることができる。熱処理物のスラリー化と同時の、酸及び/又は塩の熱処理物への添加方法によれば、酸及び/又は塩が水溶液中でしか存在しない場合(炭酸等)や、水溶液以外での扱いが困難な場合(硫酸等)においても、不都合なく配合することができる。
【0082】
この酸及び/又は塩の配合量の下限としては、熱処理物100質量部に対して、0.01質量部が好ましく、0.1質量部がさらに好ましく、0.3質量部が特に好ましい。一方、この配合量の上限としては、10質量部が好ましく、7質量部がさらに好ましい。酸及び/又は塩の配合量が0.01質量部未満の場合には、酸化カルシウム又は水酸化カルシウムを含む粒子及び/又はこの粒子から発生するカルシウムイオンとの接触確率が低く、硬化反応抑制効果が得られないおそれがある。逆に、10質量部を超えても、硬化反応抑制効果が頭打ちとなってしまうおそれがある。
【0083】
(粉砕工程)
粉砕工程は、上記工程にて得られたスラリーを粉砕し、微粒子化することで再生粒子を得る工程である。この粉砕工程においては、公知の粉砕装置等を用いることができる。この粉砕工程を経て、スラリーを適宜必要な粒子径に微細粒化することで、得られる再生粒子を塗工用の顔料、内添用の填料等として好適に使用することができる。
【0084】
(その他の工程)
再生粒子の製造方法においては、原料の凝集工程、造粒工程や、各工程間における分級工程、シリカ析出(被覆)工程、スラリーを炭酸化する炭酸化工程等を設けてもよい。
【0085】
(シリカ析出(被覆)工程)
再生粒子は、上記粉砕工程を経ることで、そのまま填料として使用することが可能であるが、更に再生粒子に対し、シリカを析出(定着)させることで、再生粒子としての機能をより高めることができる。再生粒子にシリカを析出させる方法について、以下に記載する。
【0086】
シリカを析出させる好適な方策としては、再生粒子を珪酸アルカリ水溶液に添加・分散しスラリーを調製した後に加熱攪拌しながら、液温を70〜100℃、より好ましくは密閉容器内で所定の圧力に保持し酸を添加し、シリカゾルを生成させ、最終反応液のpHを8.0〜11.0の範囲に調整することにより、再生粒子表面にシリカを析出させることができる。再生粒子表面に析出されるシリカは、珪酸ナトリウム(水ガラス)を原料として、硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸の希釈液と高温下で反応させ、加水分解反応と珪酸の重合化により得られる粒子径10〜20nmのシリカゾル粒子である。
【0087】
珪酸ナトリウム溶液への希硫酸などの酸の添加により生成する数nm程度のシリカゾル微粒子を再生粒子の多孔性を有する表面全体を被覆するように付着させることによって、シリカゾルの結晶が成長し、無機微粒子表面上のシリカゾル微粒子と再生粒子に包含されるケイ素やカルシウム、アルミニウム間で結合が生じ、再生粒子表面にシリカを析出させることができる。
【0088】
この際、反応液のpHは中性〜弱アルカリ性の範囲が好ましく、より好ましいpHは8〜11の範囲である。pHが7未満の酸性条件になるまで硫酸を添加してしまうと、シリカゾルではなくホワイトカーボンが生成する。ここに使用する珪酸アルカリ溶液は特に限定されないが、珪酸ナトリウム溶液(3号水ガラス)が入手性の点で望ましい。珪酸アルカリ溶液の濃度は水溶液中の珪酸分(SiO換算)で3〜10質量%が好適である。10質量%を超えると、再生粒子に析出されるシリカは、シリカゾルの形態からホワイトカーボンになり、再生粒子の多孔性を阻害し、不透明性、吸油性の向上効果が低くなる。また、3質量%未満では再生粒子中のシリカ成分が低下するため、再生粒子表面へのシリカ析出が生じにくくなってしまう。再生粒子表面にシリカを析出させ、カルシウム、ケイ素及びアルミニウムを、酸化物換算で30〜62:29〜55:9〜35の質量割合とすることで、シリカ析出効果による吸油性、不透明性を向上させることができる。
【0089】
(炭酸化工程)
得られた再生粒子のスラリーは、そのままではpHが12以上とアルカリ性を呈し、例えば、塗工用顔料用途における塗工液調整工程で他の薬品と反応して品質低下を招くおそれがある。従って、熱処理物又は再生粒子中の酸化カルシウムを炭酸カルシウムに戻してpHを低減させるために、第1熱処理燃焼工程や第2熱処理工程において排出された排ガス中の二酸化炭素を利用して、例えばpHを7〜9に調整すると好適である。
【0090】
なお、この炭酸化工程は、配合・スラリー化工程と粉砕工程との間、粉砕工程と同時、又は粉砕工程の後に行ってもよい。なお、この二酸化炭素の吹き込みは、他の酸及び/又は塩の配合に替えて、又は加えて、炭酸の配合として、配合・スラリー化工程とすることもできる。
【0091】
炭酸化に際しては、反応槽の底部にガス吹き込み口を設けるとともに、槽内のpHを測定するpH計を設け、バッチ処理で、スラリーのpHが所定の値以下になるまで槽中のスラリーに対してガスを吹き込むことで実施することが出来る。また、VFポンプのような歯車が噛み合う部分にガス吹き込み口を設け、スラリーに対して粉砕とガスの吹き込みを同時に実施することが出来る。
【0092】
炭酸化のための二酸化炭素としては、CO分離工程として、例えばPSA型分離装置等の二酸化炭素分離装置を用いて排ガスから二酸化炭素を分離して用いることができる。また、排ガスを直接利用したり、市販の二酸化炭素ガスを利用、併用したりすることもできる。
【0093】
二酸化炭素の吹き込み速度は、一定とすることも、また可変とすることも可能であり、可変とする場合、pHの推移に応じて適宜調整すること等ができる。
【0094】
pH調整を完了させたスラリーは、脱水機等に送り、濃度を50〜70%に高める。50〜70%濃度の再生粒子は、固形状(ケーキ状)となる。脱水機としては、例えば、フィルタープレス、遠心脱水機、ベルトプレスなどから、適宜選択して使用することができる。
【0095】
固形状となった再生粒子は、分散工程に送られ、高濃度スラリー化される。分散装置としては、例えば、ミキサー、コーレス分散機、ボールミルなどから、適宜選択して使用することができる。この際の再生粒子の濃度は、50〜70質量%、好ましくは55〜70質量%、より好ましくは60〜65質量%である。スラリー濃度が50質量%未満であると、例えば、塗工顔料用途における塗工液の低濃度化、凝集抑制剤の効果低減や、再生粒子スラリー中の粒子分の沈殿等が生じ、再生粒子スラリーの品質安定性が低下するおそれがある。一方で、スラリー濃度が70質量%を超えると、スラリーが増粘・固化するおそれがあり、また、脱水に要するエネルギーの増加が問題となる。
【0096】
本形態において、再生粒子のさらなる品質安定化を図るためには、被処理物の粒子径を、各工程で均一に揃えるための分級を行うことが好ましく、粗大や微小粒子を前工程にフィードバックすることで、より品質の安定化を図ることができる。
【0097】
また、乾燥工程の前段階において、脱水処理を行った脱墨フロス(脱水物)を造粒することが好ましく、更には造粒物の粒子径を均一に揃えるための分級を行うことがより好ましく、粗大や微小の造粒粒子を前工程にフィードバックすることでより品質の安定化を図ることができる。造粒においては、公知の造粒設備を使用できるが、回転式、攪拌式、押し出し式等の設備が好適である。
【実施例】
【0098】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0099】
なお、本実施例における各測定値は以下の方法にて測定した値である。
【0100】
(ア)凝集再生粒子の体積平均粒子径(単位:μm)
凝集再生粒子サンプル10mgを超音波分散機(出力:80W)で3分間分散させた。この溶液をレーザー粒径分布測定装置(株式会社島津製作所製レーザー回折式粒度分布測定装置 SALD−2200型、標準屈折率(1)にて測定)により、平均粒子径を測定した。
【0101】
(イ)凝集再生粒子の粒度分布
上記レーザー粒径分布測定装置を用いて計測した上記凝集再生粒子サンプルの粒子径の分布波形より、粒度分布がシャープであるかブロードであるか判断した。
【0102】
(ウ)再生粒子スラリーの粘度(単位:cps)
デジタル式B型粘度計(東機産業株式会社製、型番:TVB−10M)を用い、No.2のローターを使用し60rpm、25℃にて測定した。
【0103】
(エ)灰分(再生粒子)歩留(単位:%)
1.0%濃度に希釈したLBKPからなるパルプスラリーに30%の灰分となるように凝集再生粒子スラリーを添加した後、パルプ濃度が0.75%となるよう希釈した。このパルプスラリーを歩留試験機(BTG社製、型番:DFR−05)へ700cc投入し、50秒攪拌した後に、60meshのワイヤーで濾過し、濾液を100cc採取した。このパルプスラリー及び濾液についてそれぞれ灰分濃度を測定し、下記式(2)により灰分(填料)歩留りを算出した。
灰分歩留り=100×(A−B)/A ・・・ (2)
A:パルプスラリーの灰分濃度(g/l)
B:濾液の灰分濃度(g/l)
【0104】
(オ)印刷不透明度(単位:%)
オフセット輪転印刷機で、オフセット輪転印刷用インキ(墨)のインキ量を変えて印刷し、印刷面反射率が9%のときの、印刷前の裏面反射率に対する印刷後の裏面反射率の比率(%)を求めた。なお、反射率は分光白色度測色機(スガ試験機株式会社製)によって測定した値である。
【0105】
〔再生粒子の製造〕
原料として脱墨フロスを用い、水分率が55質量%、平均粒径が10mm、また、50mm以下の粒子の割合が90質量%となるように脱水工程を行った。この脱水物にシャワー水による洗浄を経て、第1熱処理工程、その後、第2熱処理工程を以下の条件で行い熱処理物を得た。
【0106】
第1熱処理工程条件
燃焼形式:内熱キルン
燃焼温度:420℃
酸素濃度:12%
滞留時間:50分
第1熱処理工程後の未燃率:3%
第2熱処理工程条件
燃焼形式:外熱キルンと内熱キルンの併用
入口の平均粒子径:5mm
燃焼温度:700℃
酸素濃度:8%
滞留時間:140分
出口の平均粒子径:5mm
【0107】
得られた熱処理物100質量部に対して、配合・スラリー化工程として、硫酸カルシウム二水和物0.3質量部を添加し、この添加物を水中に懸濁させて、濃度(スラリーの全質量に対する熱処理物の質量比)35質量%のスラリーを得て、粉砕装置にて粉砕した。なお未燃率とは、電気マッフル炉を予め600℃に昇温後、ルツボに試料を入れ約3時間で完全燃焼させて、燃焼前後の質量変化から未燃分を算出することによって求めた値である。
【0108】
〔再生粒子の凝集〕
上記方法にて得られた再生粒子を水に分散させ再生粒子スラリーを得た。この再生粒子スラリーに、実施例1〜10及び比較例1〜4として表1に示す凝結剤又は凝集剤を添加し、得られた凝集再生粒子の体積平均粒子径及びスラリー粘度を測定した。その結果を表1に示す。なお、凝結剤又は凝集剤は固形分濃度0.1質量%に希釈して添加した。各実施例及び比較例で用いた凝結剤及び凝集剤は以下の通りである。
【0109】
・凝結剤A:ハイモ株式会社製「ハイマックスSC−100」
ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体
質量平均分子量:30万
カチオン電荷密度:6.0meq/g
・凝結剤B:ハイモ株式会社製「ハイマックスSC−924」
ポリエチレンイミン変性体
質量平均分子量:50万
カチオン電荷密度:18.0meq/g
・凝結剤C:BASF社製「カチオファストSF」
ポリエチレンイミン
質量平均分子量:100〜120万
カチオン電荷密度:11.0meq/g
・凝集剤A:ハイモ株式会社製「ハイモロックND270」
カチオン性ポリアクリルアミド
質量平均分子量:1500万
カチオン電荷密度:2.0meq/g
【0110】
次に、LBKP100%からなるパルプスラリーに、各実施例及び比較ごとに上記で得られた凝集再生粒子含有スラリーをパルプ1kg(固形分)に対し100g(固形分)配合し、直後に抄紙(手抄き)することにより、坪量40g/mの紙(手抄きシート)を得た。
【0111】
実施例1〜20及び比較例1〜4について、上述した手順で灰分歩留を測定するとともに、得られた紙の印刷不透明度を測定した。なお、印刷不透明度の算出においては、坪量40g/mの紙とともに、それぞれ坪量50g/mの紙を作成し、印刷不透明度をそれぞれ算出した後、坪量45g/mに換算した値である。測定結果を表1に示す。
【0112】
【表1】

【0113】
表1に示すように、本発明の製造方法によれば、灰分(再生粒子)の歩留まりが高く、印刷不透明度に優れた紙を得ることができる。また、特定範囲の質量平均分子量及びカチオン電荷密度を有する凝結剤を用いることで、再生粒子を填料として用いた場合もスラリーの増粘を抑えつつ、適度に凝集させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の紙の製造方法によれば、再生粒子を填料として効率的に使用することができるため、製紙工場等において好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製紙スラッジを主原料とし、脱水、熱処理及び粉砕工程を経て得られた再生粒子を凝結剤により凝集させて、凝集再生粒子含有スラリーを得る再生粒子凝集工程、
上記凝集再生粒子含有スラリーをパルプスラリーに添加する添加工程、及び
上記凝集再生粒子含有スラリーが添加されたパルプスラリーを抄紙する抄紙工程
を有し、
上記凝集再生粒子の体積平均粒子径が2.5μm以上10μm以下である紙の製造方法。
【請求項2】
上記凝結剤が、カチオン性であり、
この凝結剤の電荷密度が5meq/g以上25meq/g以下である請求項1に記載の紙の製造方法。
【請求項3】
上記凝結剤が、主成分としてポリエチレンイミン誘導体を含み、
この凝結剤の質量平均分子量が10万以上150万以下である請求項2に記載の紙の製造方法。
【請求項4】
請求項1、請求項2又は請求項3に記載の紙の製造方法により得られる紙。