説明

紙の製造方法

【課題】排水負荷を低減し、かつ一定の紙質が得られる紙の製造方法を提供する。
【解決手段】澱粉含有製紙工程水にスライムコントロール剤とカチオン性官能基を有するポリマーを添加する。該ポリマーは、化学式(A)のモノマー単独の重合体又はこのモノマーとアクリルアミド若しくはスチレンとの共重合体であり、化学式(A)のモノマー単位を20〜100モル%含有するもの、ジアリルジメチルアンモニウムハライド重合体、ポリエチレンイミン及びエピクロロヒドリン重合体のうち少なくとも1種で、かつ25℃の1N食塩水溶液中の固有粘度(η)が0.05〜5dl/gであるものを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙及び板紙の製造方法に関する。より詳しくは、澱粉を使用する紙の製造工程から排出される排水の水質を改善するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
紙の製造工程では、紙の強度や印刷適正を維持するための紙力増強剤又は表面強度増強剤、或いは層間接着剤として、澱粉が使用されている。また、近年、紙を製造する際の古紙使用率が高まっているが、例えば古紙の塗工層や段ボール古紙の糊など、使用される古紙の多くが澱粉を含有している。
【0003】
このような理由から、製紙工程水には多量の澱粉が含まれているが、これらの澱粉を栄養源として細菌などの微生物が増殖すると、配管やタンクの壁面及びフィルター上などに「スライム」と呼ばれる生物膜が形成される。この「スライム」は、生体物と非生体物の両方を含む水中の固体表面に形成された粘ちょうでゼラチン状のフィルムであり、抄紙工程において、生産性低下や紙質劣化などのスライム障害を引き起こすことが知られている。
【0004】
また、スライムに含まれる微生物は、そのほとんどが澱粉分解酵素であるアミラーゼを産生する能力が高い細菌である。このため、スライムが形成されると、そこから製紙工程水に放出されたアミラーゼにより、パルプ繊維に付着している澱粉や水中に分散している不溶性の澱粉粒子が加水分解されてグルコースが生成し、更に、蟻酸、乳酸、酢酸及び酪酸などの有機酸が生成する。
【0005】
そして、グルコースや有機酸は、低分子量であることから除去が困難であり、排水負荷を増大させる要因となっている。また、紙の強度や印刷適正などの向上を目的として添加された澱粉が、アミラーゼの働きによりパルプスラリー中から消失するため、新たに澱粉を添加、噴霧又は塗工する必要が生じ、製造コストの増加にもつながる。
【0006】
そこで、一般に、紙の製造工程においては、スライムの形成を抑制するスライムコントロール剤が使用されている(例えば、特許文献1〜4参照。)。また、従来、澱粉が原料中に添加される紙の製造方法において、製造工程の所定箇所においてアミラーゼ活性の測定を行い、その測定値に基づいてスライムコントロール剤の添加を行う紙の製造方法も提案されている(特許文献5参照)。この特許文献5に記載の紙の製造方法によれば、スライム障害による澱粉使用紙の品質劣化などを防止することができる。
【0007】
一方、水溶性カチオンポリマー及びカチオン界面活性剤を所定量添加することにより、抄紙工程におけるスライム障害を防止する技術も提案されている(特許文献6参照)。また、澱粉使用量の低減という観点から、アニオン性サイズ剤の定着剤として、カチオン化澱粉の代わりに又はカチオン化澱粉と共にカチオン性ポリマーを使用する技術も提案されている(特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−009307号公報
【特許文献2】特開平10−120509号公報
【特許文献3】特開2003−012413号公報
【特許文献4】特表2004−537412号公報
【特許文献5】特開2008−169499号公報
【特許文献6】特開平8−260392号公報
【特許文献7】特開2002−249995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近時、紙の製造工程における澱粉の使用が急増しており、その結果、澱粉及び澱粉分解物による排水への負荷が高まり、排水処理コストの増大という問題が一層顕在化している。また、一定の紙質を得るため、スライム中の微生物によるアミラーゼの働きによってパルプスラリー中から消失した澱粉を補う目的で、更なる澱粉や紙力増強剤の添加が行われており、排水の負荷を一層高めると共に、製造コストを増大させることとなっている。
【0010】
しかしながら、前述した特許文献6に記載の方法のような単なるスライム防止処理は、アミラーゼ活性を抑制することはできないため、スライム化による欠点や断紙などの操業性低下は防止することはできても、アミラーゼによる澱粉分解を抑制することはできない。また、特許文献7に記載の方法のように、カチオン性ポリマーを単独で使用しても、澱粉分解が生じている状況下では十分な澱粉吸着効果が得られず、紙力発現効果も得られない。
【0011】
そこで、本発明は、排水への負荷を低減し、かつ一定の紙質の紙及び板紙が得られる紙の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る紙の製造方法は、澱粉を含有する製紙工程水にスライムコントロール剤を添加する工程と、前記製紙工程水にカチオン性官能基を有するポリマーを添加する工程と、を有し、前記カチオン性官能基を有するポリマーとして、下記化学式(1)で表されるモノマー単独の重合体又は下記化学式(1)で表されるモノマーとアクリルアミド若しくはスチレンとの共重合体であり、下記化学式(1)で表されるモノマーに由来するモノマー単位を20〜100モル%含有するもの、ジアリルジメチルアンモニウムハライド単位を有する重合体、ポリエチレンイミン及びエピクロロヒドリン単位を有する重合体からなる群から選択される少なくとも1種のポリマーで、かつ、25℃の1N食塩水溶液中における固有粘度(η)が0.05〜5dl/gであるものを使用する。
【0013】
【化1】

【0014】
ここで、上記化学式(1)におけるRは水素原子又はメチル基、R及びRはそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はベンジル基であり、YはO又はNHであり、nは2〜5であり、Z ̄はハロゲンイオン、スルフェートイオン、ホスフェートイオン、ボレートイオン又は有機酸アニオンである。また、本発明で製造される「紙」には、板紙も含まれる。
【0015】
本発明においては、製紙工程水中に、スライムコントロール剤及びカチオン性官能基を有する特定のポリマーを添加しているため、スライムコントロール剤によりスライムの増殖が抑制されると共に、ポリマーにより製紙工程中の澱粉が吸着され、製紙原料中に定着する。
【0016】
この紙の製造方法では、前記スライムコントロール剤を原料スラリーに添加してもよい。
その場合、前記製紙工程水のアミラーゼ活性又は酸化還元電位を測定し、その測定結果に基づいて、前記スライムコントロール剤を追加添加することもできる。
また、スライムコントロール剤としては、例えば酸化剤とアンモニウム塩との混合物を使用することができる。
更に、前記カチオン性官能基を有するポリマーは、例えば前記製紙工程水中の固形分濃度が0.1〜100mg/Lとなるように添加すればよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、製紙工程水中に、スライムコントロール剤及びカチオン性官能基を有する特定のポリマーを添加しているため、紙質の低下を抑制し、かつ排水への負荷を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0019】
本発明の実施形態に係る紙の製造方法においては、澱粉を含有する製紙工程水にスライムコントロール剤を添加する分解抑制工程と、製紙工程水にカチオン性官能基を有するポリマーを添加する吸着工程を行う。なお、これら分解抑制工程及び吸着工程を行う順序は、特に限定されるものではなく、どちらを先に行ってもよく、また、同時に行ってもよい。
【0020】
[分解抑制工程]
分解抑制工程では、製紙工程水にスライムコントロール剤を添加して、スライムに含まれる微生物のアミラーゼによって、例えばパルプ繊維に吸着している澱粉や製紙工程中に分散している澱粉が分解されることを抑制する。これにより、スライムの増殖を防止し、アミラーゼによる澱粉の分解を抑制することが可能となる。
【0021】
本工程で使用するスライムコントロール剤は、澱粉を分解しないものであればよく、公知の化合物から適宜選択して使用することができる。その具体例としては、例えば、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド及びn−ブロモアセトアミドなどのブロモアミド系化合物、1,2−ビス(ブロモアセトキシ)エタン及び1,4−ビス(ブロモアセトキシ)−2−ブテンなどのブロモ酢酸エステル系化合物、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン又はその金属塩、及び4,5−ジクロロ−2−オクチル4−イソチアゾリン−3−オンなどのイソチアゾロン化合物、2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオール及び2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノールなどのブロモニトロアルコール化合物とそのエステル、4,5−ジクロロ−1,2−ジチオラン−3−オン、3,3,4,4−テトラクロロテトラヒドロチオフェン−1,1−ジオキシドなどの環状イオウ化合物、メチレンビスチオシアネート、5−クロロ−2,4,6−トリフルオロイソフタロニトリル、オルトフタルアルデヒド、ジクロログリオキシム、5,5−ジメチルヒダントイン、N−クロロ−5,5−ジメチルヒダントイン及び1−ブロモ−3−クロロ−5,5−ジメチルヒダントインなどのヒダントイン系化合物、酸化剤とアンモニウムを混合することにより得られる反応物殺菌剤などが挙げられ、これらは、単独で使用してもよいが、複数の化合物を組み合わせて使用することもできる。
【0022】
また、これらスライムコントロール剤の中でも、特に、無機系スライムコントロール剤を使用することが好ましい。無機系スライムコントロール剤の具体例としては、例えば、酸化剤とアンモニウム塩との混合物、及び次亜塩素酸や次亜臭素酸を生成する化合物などが挙げられる。
【0023】
ここで使用する酸化剤は、特に限定されるものではないが、塩素系酸化剤が好ましく、より好ましくは次亜塩素酸ナトリウムである。また、アンモニウム塩も、特に限定されるものではなく、臭化アンモニウムなどのハロゲン化アンモニウム、硫酸アンモニウム及び硝酸アンモニウムなどを使用することができ、特に臭化アンモニウムを使用することが好ましい。このような反応物殺菌剤を使用することにより、以後の工程において、スライムの増殖を、経済的にも安価に抑制することができる。
【0024】
一方、スライムコントロール剤の添加位置は特に限定されるものではなく、スライム増殖が発生しやすい場所やスライムが増殖傾向にある箇所を、適宜選択して添加することができる。ただし、少なくとも、古紙原料や工程損紙(澱粉を添加したり、塗工したりしたものの製品で出荷できなかったもの)などのように澱粉を多く含む原料スラリーに、スライムコントロール剤が含まれるようにすることが望ましい。
【0025】
また、原料スラリーにスライムコントロール剤を添加しても、後工程までその効果を維持できない場合には、例えば製紙工程水の水質測定結果などに基づいて、適宜スライムコントロール剤を追加添加すればよい。更に、例えば、製紙工程で使用した水を、原料の希釈などに再利用する場合は、製造工程においてスライムコントロール剤が添加されていた場合でも、必要に応じて、希釈水に再度スライムコントロール剤を添加してもよい。これにより、スライムの増殖抑制効果をより高めることができる。
【0026】
ここで、スライムコントロール剤を追加添加する場合は、その添加位置は、以後全ての工程において、澱粉分解が抑制されるように設定することが望ましい。また、スライムコントロール剤は、連続的に添加することもできるが、アミラーゼ活性又はORP(Oxidation-reduction Potential:酸化還元電位)などの製紙工程水の水質を管理しながら、必要に応じて、間欠的に添加することが望ましい。
【0027】
その際、スライムコントロール剤の添加量及び添加回数も、特に限定されるものではないが、例えば1回あたりの添加量が2〜50mg/L、添加回数が1〜48回/日である。このスライムコントロール剤の添加量及び添加回数は、アミラーゼ活性又はORPなどの製紙工程水の水質測定結果に基づいて、適宜設定することができる。
【0028】
例えば、アミラーゼ活性に基づいてスライムコントロール剤の添加量及び添加回数を管理する場合は、製造工程全域で採取した製紙工程水のアミラーゼ活性を定期的に、好ましくは連続的に測定して監視し、測定値が予め定めた閾値を超えたときにスライムコントロール剤の添加量を増やせばよい。その際の閾値は、特に限定されるものではないが、例えば0.002CU/gとすることができる。
【0029】
一方、ORPに基づいてスライムコントロール剤の添加量及び添加回数を管理する場合は、製紙工程水のORPを定期的に、好ましくは連続的に測定することによって、スライムの増殖を監視し、測定値が予め定めた閾値を下回ったときに、スライムコントロール剤の添加量を増やせばよい。その際、製紙工程水のORPの値をプラスの好気条件に維持するようにスライムコントロール剤を添加し、嫌気条件で促進される微生物による澱粉分解を抑制するようにしてもよい。
【0030】
また、製紙工程水のORPを連続的に測定する場合には、強酸化剤の流入による澱粉の酸化的分解を把握することもできる。このOPRの値は、特に限定されるものではないが、一般的には0〜+500mVの範囲で維持することが好ましい。
【0031】
このように、製紙工程水の水質測定結果に基づいて、スライムコントロール剤の添加量及び添加回数を設定することにより、効率的にスライムの増殖を抑制することができる。
【0032】
[吸着工程]
吸着工程では、製紙工程水に添加されたカチオン性官能基を有するポリマーにより、製紙工程中に分散している澱粉を吸着して、紙原料に定着させる。これにより、排水に移行する澱粉量を低減することができる。
【0033】
また、本工程では、カチオン性官能基を有するポリマーとして、(a)下記化学式(2)で表されるモノマー単独の重合体、若しくはこのモノマーとアクリルアミド若しくはスチレンとの重合体であり、下記化学式(2)で表されるモノマーに由来するモノマー単位を20〜100モル%含有するもの、(b)ジアリルジメチルアンモニウムハライド単位を有する重合体、(c)ポリエチレンイミン、及び(d)エピクロロヒドリン単位を有する重合体からなる群から選択される少なくとも1種のポリマーで、かつ、25℃の1N食塩水中における固有粘度(η)が0.05〜5dl/gであるものを使用する。
【0034】
【化2】

【0035】
なお、上記化学式(2)におけるRは水素原子又はメチル基、R及びRはそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はベンジル基であり、YはO又はNHであり、nは2〜5であり、Z ̄はハロゲンイオン、スルフェートイオン、ホスフェートイオン、ボレートイオン又は有機酸アニオンである。
【0036】
カチオン性官能基を有するポリマーとして、固有粘度(η)が0.05dl/g未満のものを使用すると、パルプ繊維への十分な吸着効果が得られず、薬剤の使用量が増加する。更に、薬剤の多量添加は、濾水性や地合の悪化など操業性の低下を招く。なお、ここで規定する固有粘度(η)は、キャノンフェンスケ型粘度計を使用して流下時間を測定し、その測定値から、Hugginsの式及びMead−Fuossの式を用いて算出した値である。
【0037】
また、カチオン性官能基を有するポリマーとして、上記化学式(2)で表されるモノマーとアクリルアミド又はスチレンとの共重合体で、上記化学式(2)で表されるモノマーに由来するモノマー単位の含有量が20モル%未満のモノマーを使用すると、パルプ繊維への十分な吸着効果が得られない。その結果、薬剤の使用量が増加して、濾水性や地合の悪化など操業性の低下を招く。よって、カチオン性官能基を有するポリマーに上記化学式(2)で表されるモノマーとアクリルアミド又はスチレンとの共重合体を使用する場合は、上記化学式(2)で表されるモノマーに由来するモノマー単位の含有量が20モル%以上のものを使用する。
【0038】
このカチオン性官能基を有するポリマーの添加位置は特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜設定することができるが、澱粉が多く含まれる箇所に、連続的に添加することが望ましい。例えば、排水負荷低減を目的とする場合は、製紙工程から排出される白水回収工程で添加することが望ましく、紙力向上を目的とする場合は、製紙工程の原料ラインに添加することが望ましい。
【0039】
また、カチオン性官能基を有するポリマーの添加量は、製紙工程水中の澱粉濃度や原料の性状に応じて適宜設定できるが、製紙工程水におけるポリマー濃度が固形分濃度で0.1〜100mg/Lとなるように添加することが好ましく、より好ましい固形分濃度は0.5〜50mg/Lである。これにより、工程水中に含まる澱粉を吸着し、紙質の向上及び水中の澱粉濃度低下による排水負荷の低減効果が得られる。
【0040】
なお、本実施形態の紙の製造方法においては、前述したスライムコントロール剤及びカチオン性官能基を有するポリマー以外に、例えば、硫酸バンド、サイズ剤、紙力増強剤及び歩留・濾水性向上剤などを添加してもよい。
【0041】
以上詳述したように、本実施形態の紙の製造方法においては、製紙工程水中に、スライムコントロール剤及びカチオン性官能基を有する特定のポリマーを添加しているため、スラリーの増殖を抑制するだけでなく、排水に流入する澱粉量も低減することができる。これにより、排水に含まれる澱粉及びその分解物に由来する有機物成分の量が減少するため、排水のCODを低く保つことができる。その結果、紙の製造工程における用水原単位を更に低減する節水を進めることもできるため、用水コストの削減の他に、加湿した紙製造工程水の系外流出防止による省エネルギー効果も期待できる。
【0042】
また、本実施形態の紙の製造方法によれば、製紙工程水中の澱粉を、紙原料中に留まらせることができるため、追加で添加する澱粉や紙力増強剤の量を削減することが可能となる。その結果、従来よりも少ない澱粉量で、同等の強度の紙製品を製造することができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、以下に示す方法で、本発明を適用した場合の環境負荷低減効果及び製造される紙の性能について評価した。
【0044】
<試験用パルプスラリーの調製>
段ボール古紙330gを、水道水15Lに分散させ、ビーターで離解及び叩解を行い、固形分濃度が2質量%のパルプスラリー(カナダ標準フリーネス:CSF=315ml)を調製した。
【0045】
そして、澱粉吸着性評価はこのパルプスラリーをそのままの状態で使用し、それ以外の評価試験では、この固形分濃度2質量%のパルプスラリー15Lに、2質量%の澱粉水溶液を添加したものを、試験用パルプスラリーとした。その際、澱粉は、キシダ化学社製試薬特級を使用した。この澱粉のコロイド当量測定によるアニオン化度は、−0.15meq/gであり、若干アニオン性を示した。また、澱粉は、ホットプレートスターラーにて加熱溶解し、2質量%澱粉水溶液に調製した。
【0046】
<手抄紙の調製>
前述した試験用パルプスラリーから、JIS P 8029に規定される方法に準拠して、坪量120g/mの手抄紙を調製した。
【0047】
<澱粉の吸着性評価>
澱粉を添加する前の試験用スラリーを、その固形分濃度が2000mg/Lになるように調製した。その後、スラリーを150rpmで撹拌しながら、スラリー中の澱粉濃度が100g/Lとなるように、澱粉糊液を添加した後、各ポリマーを添加して、水中の澱粉濃度及び溶解性CODMnを測定した。
【0048】
<水中澱粉濃度・アミラーゼ活性・COD(Mn)の測定>
製紙工程水を5A濾紙で吸引濾過した濾液3.2mlに、10倍希釈塩酸:4ml、0.002Nヨウ素溶液:0.4ml及び純水:0.4mlを加え、分光光度計を用いて、580nmの吸光度を測定した。そして、既知濃度の澱粉サンプルに基づいて作成した検量線から、澱粉濃度を算出した。
【0049】
また、濾液について、市販のアミラーゼ測定キット(Megazyme International Ireland社製)を用いて、アミラーゼ活性を測定した。更に、COD(Mn)の測定は、製紙工程水の上澄み液を用いて、JIS K 0102に規定されている100℃における測定法に準拠して行った。
【0050】
<紙中澱粉濃度・紙の強度の測定>
手抄紙:1.0gを純水50mlに浸漬し、これを90℃の温浴中で30分間静置して、紙中に含まれる澱粉を熱水抽出した。そして、前述した方法に従って、水中澱粉濃度を算出し、これを紙中澱粉濃度とした。また、紙の強度の評価は、手抄紙を用いて、JIS P 8112に規定される方法に準拠して、破裂強さを測定した。
【0051】
<スライムコントロール剤の調製>
硫酸アンモニウムと次亜塩素酸ナトリウムとを、モル比で、1:1の割合で今後士、塩素換算濃度1000mg/Lのスライムコントロール剤を調製した。
【0052】
[スライムコントロール剤の添加効果]
先ず、前述した方法で調製した試験用パルプスラリーを30℃の温度条件下で3日間静置したものと、試験用パルプスラリーに1回/日の頻度で、スライムコントロール剤を20mg/L添加し、30℃の温度条件下で3日間静置したものとで、水質及び菌数の違いを確認した。その結果を下記表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
上記表2に示すように、スライムコントロール剤を添加しないスラリーでは、微生物が増殖し、ORP値の低下及びアミラーゼ活性の上昇が見られた。
【0055】
[カチオン性官能基を有するポリマーの添加効果]
次に、下記表2に示すA〜Hのポリマーを使用して、前述した澱粉吸着試験を行った。その結果を下記表3に示す。なお、上記表2におけるポリマーA(DAM/St)はジメチルアミノエチルメタクリレート/スチレン、ポリマーB(DAM/AAM)はジメチルアミノエチルメタクリレート/アクリルアミド、ポリマーC(Poly−DADMAC)はポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ポリマーD(EMA/Epi)はジメチルアミン/エピクロロヒドリン、ポリマーE(PEI)はポリエチレンイミン、ポリマーF(DAA/AAm)はジメチルアミノエチルアクリレート/アクリルアミド、ポリマーG(DAM)はジメチルアミノエチルメタクリレート、ポリマーH(AA/AAm)はアクリル酸/アクリルアミドである。
【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
なお、上記表3に示すCOD低減率は、下記数式(1)により求めた値である。
【0059】
【数1】

【0060】
上記表3に示すように、ポリマーA〜Eを用いた実施例1〜10は、ポリマーF〜Hを使用した比較例1〜6に比べて、澱粉吸着効果及びCOD低減効果が優れていた。
【0061】
[スライムコントロール剤及びカチオン性官能基を有するポリマーの添加効果]
更に、前述したスライムコントロール剤の添加効果の評価で使用した3日間静置後のサンプルに、上記表2に示すポリマーAを添加してその効果を評価した。その結果を下記表4に示す。
【0062】
【表4】

【0063】
上記表4に示すように、スライムコントロール剤を添加して微生物由来のアミラーゼによる澱粉分解を抑制し、更にカチオン性ポリマーにより澱粉を吸着し、手抄紙に定着させた実施例11,12は、スライムコントロール剤又はカチオン性官能基を有するポリマーのいずれかを添加していない比較例7〜10に比べて、水中の澱粉量及びCODを大幅に低減することができた。また、これら実施例11,12により得た手抄紙は、比較例7〜10で得た手抄紙よりも、澱粉量が多く、強度が高かった。
【0064】
以上の結果から、本発明によれば、紙質を低下させることなく、排水への負荷を低減することができることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉を含有する製紙工程水にスライムコントロール剤を添加する工程と、
前記製紙工程水にカチオン性官能基を有するポリマーを添加する工程と、を有し、
前記カチオン性官能基を有するポリマーとして、下記化学式(A)で表されるモノマー単独の重合体又は下記化学式(A)で表されるモノマーとアクリルアミド若しくはスチレンとの共重合体であり、下記化学式(A)で表されるモノマーに由来するモノマー単位を20〜100モル%含有するもの、ジアリルジメチルアンモニウムハライド単位を有する重合体、ポリエチレンイミン及びエピクロロヒドリン単位を有する重合体からなる群から選択される少なくとも1種のポリマーで、かつ、25℃の1N食塩水溶液中における固有粘度(η)が0.05〜5dl/gであるものを使用する紙の製造方法。

【請求項2】
前記スライムコントロール剤を原料スラリーに添加することを特徴とする請求項1に記載の紙の製造方法。
【請求項3】
前記製紙工程水のアミラーゼ活性又は酸化還元電位を測定し、その測定結果に基づいて、前記スライムコントロール剤を追加添加することを特徴とする請求項2に記載の紙の製造方法。
【請求項4】
スライムコントロール剤として、酸化剤とアンモニウム塩との混合物を使用することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の紙の製造方法。
【請求項5】
前記カチオン性官能基を有するポリマーを、前記製紙工程水中の固形分濃度が0.1〜100mg/Lとなるように添加することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の紙の製造方法。

【公開番号】特開2012−72518(P2012−72518A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218564(P2010−218564)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】