説明

紙パルプ製造工程におけるスライムコントロール方法

【課題】スライムコントロール剤を添加している紙パルプ製造工程において、迅速かつ簡便な方法で計測できるスライムコントロール状況の指標と、その指標を用いたスライムコントロール方法の提供。
【解決手段】スライムコントロール剤を添加している紙パルプ製造工程において、工程水中13,17のATP(アデノシン−三リン酸)の濃度21,22に基づいてスライムコントロール剤の添加量を制御する19,20、紙パルプ製造工程のスライムコントロール方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙パルプ製造工程のスライムコントロール方法に関する。より詳しくは、スライムコントロール剤を添加している紙パルプ製造工程において、工程水中のATP(アデノシン−三リン酸)の濃度に基づいてスライムコントロール剤の添加量を制御する、紙パルプ製造工程のスライムコントロール方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙パルプ製造工程のパルプスラリーや白水、白水のろ過水中には、多量の水とパルプに由来する有機物や工程で添加される澱粉などの有機系添加薬品が多く含まれ、しかも水温が30〜50℃と微生物の繁殖にとって非常に好ましい環境となっている。微生物には、粘着性産生物を分泌するものがあり、これがパルプスラリーや白水中の固形物と混合してスライムを形成する原因となっている。スライムは、紙パルプ製造工程の種箱、マシンチェスト、ストックインレット、ワイヤー下ピット、白水サイロ、KP受入れチェスト、DIP受入れチェスト、損紙貯蔵タンク、白水移送配管内、ポリディスクフィルターや加圧浮上装置及び付設タンク等の原料回収系、フェルト、ロールなどの工程各所で発生、付着し操業に支障を来たすばかりか、付着したスライムが剥離してパルプに混入すると紙パルプ製品に「成紙斑点」や「成紙欠陥」などが発生して製品品質が低下し、更に、「断紙」によって生産性が低下することとなる。このようなスライム障害を防止するために、通常は、スライムコントロール剤を添加することが行われており、スライムコントロール剤として例えば次亜塩素酸ナトリウム、ハロゲン化ヒダントイン系化合物が用いられている(特許文献1参照)。又、スライムの要因となる細菌の装置壁面への付着を防止する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0003】
紙パルプ製造工程におけるスライムコントロール剤の添加は、従来から、タイマーと注入装置を用いて一定間隔で所定量を間欠添加する方法が行われている。このような間欠添加の場合、紙パルプ製造工程が一定条件で運転されている場合には、効率的且つ経済的な方法であるが、工程の条件の急な変更、あるいは何らかの要因で微生物が急速に増殖した場合には、その状況に対応できず、前述したように紙パルプ製造工程の操業や製品品質に支障を来たすことが起こる。
【0004】
そのような場合には、スライムコントロール剤の系内における有効濃度を適正に管理することが重要であり、次亜塩の酸化力を利用するスライムコントロール剤では、DPD法などの比色法による残留濃度の測定が用いられ、より迅速でスライムコントロール剤の添加も自動制御できる酸化還元電位(ORP)測定を用いた制御システムも提案されている(特許文献3参照)。しかし、これらの方法は、漂白工程からの還元剤の流入などの、微生物以外の要因にも影響され、また、一般に有機系のスライムコントロール剤には適用できないなどの欠点があった。
【0005】
一方、対象とする工程水の菌数を測定してスライムコントロール剤の効果を判断することも行われている。一般的には、細菌用培地や真菌用培地を使用して、工程水中の生菌数を計測する方法が用いられているが、その培養には細菌で3日間、真菌で5日間を要するのが通常であり、そのため、迅速なスライムコントロール剤の効果判断ができず、適切な対応が取れない欠点を有する。又、菌数測定は、対象とする菌により使用する培地が異なる点にも問題がある。
【0006】
その他、スライムコントロール剤の効果を判定する方法として、対象水系にステンレンス板を吊り下げスライム付着量を測定する方法もあるが、連続的な変化を把握するためには多数のステンレス板を吊り下げる必要があり、実用的ではない。
【0007】
このような現状に対して、スライムコントロール剤の種類、上流工程からの流入物質、あるいは菌種による影響が少なく、迅速かつ簡便な方法で計測できるスライムコントロール状況の指標と、その指標を用いた適切なスライムコントロール方法が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−176996号公報
【特許文献2】特開平11−512718号公報
【特許文献3】特開2000−256993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、スライムコントロール剤を添加している紙パルプ製造工程において、スライムコントロール剤の種類、上流工程からの流入物質、あるいは菌種による影響が少なく、迅速かつ簡便な方法で計測できるスライムコントロール状況の指標と、その指標を用いたスライムコントロール方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、上記指標として紙パルプ製造工程の工程水中のATP(アデノシン−三リン酸)量を用いることによって、適切なスライムコントロール方法が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、請求項1に係る発明は、スライムコントロール剤を添加している紙パルプ製造工程において、工程水中のATP(アデノシン−三リン酸)の濃度に基づいてスライムコントロール剤の添加量を制御する、紙パルプ製造工程のスライムコントロール方法である。
【0012】
請求項2に係る発明は、前記工程水が、パルプスラリー、白水、及び白水のろ過水から選ばれる一種以上である、請求項1記載のスライムコントロール方法である。
【0013】
請求項3に係る発明は、前記の工程水中のATP(アデノシン−三リン酸)の濃度が、ATP(アデノシン−三リン酸)抽出剤とルシフェリン、ルシフェラーゼを前記工程水に添加した時の発光量を測定することで得られる、請求項1又は2のいずれかに記載のスライムコントロール方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法を適用することによって、スライムコントロール剤を添加している紙パルプ製造工程における、迅速で適切なスライムコントロールが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例における全体構成を説明するための概略図である。
【図2】実施例1における、発光量の設定値を説明する図である。
【図3】実施例1における、発光量の推移と成紙欠陥数の推移を示す図である。
【図4】比較例1における、菌数値の推移と成紙欠陥数の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、スライムコントロール剤を添加している紙パルプ製造工程において、スライムコントロール剤の種類、上流工程からの流入物質、あるいは菌種による影響が少なく、迅速かつ簡便な方法で計測できるスライムコントロール状況の指標として、工程水中のATP(アデノシン−三リン酸)量を用いるスライムコントロール方法である。
【0017】
該工程水中のATP(アデノシン−三リン酸)量は、工程水より得られた試料中に存在する微生物体内からATP(アデノシン−三リン酸)を抽出させるために、ATP(アデノシン−三リン酸)抽出剤を試料水に添加した上で、ルシフェリンとルシフェラーゼを添加して得られる発光量を測定することによって求めることができる。この測定は下記に示す酵素反応(ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応)に基づいており、該反応において、ATP(アデノシン−三リン酸)は、ルシフェリンと酸素の存在下で、ルシフェラーゼとカルシウムイオンあるいはマグネシウムイオンを助触媒として反応させることによりAMP(アデノシン−一リン酸)とピロリン酸に変化する。同時にルシフェリンも酸化されオキシルシフェリンに変化する際に蛍光を発生する。この蛍光の発光量は、試料中に存在するATP量に比例するため、予めATP(アデノシン−三リン酸)標準試薬によって作成したATP(アデノシン−三リン酸)濃度と発光量の関係する検量線によって該試料中のATP(アデノシン−三リン酸)量を求めることができる。このように発光量からATP量を換算して求めることができるので、発光量はATP(アデノシン−三リン酸)量を表していると言ってよい。この発光量は相対発光量(Relative Light Unit:RLU)によって表される。
【0018】

【0019】
発光量測定には、市販の測定器が使用でき、例えば、NEOGEN CORPORATION社製のAccuPointやキッコーマン株式会社製のルミテスター、オルガノ東京株式会社製のOR−100などが使用可能である。使用するルシフェリン、ルシフェラーゼは、それぞれホタル、深海魚、微生物などから得ることができるが、本発明においては、上記いずれを用いてもよく、又市販されている測定試薬キット(キッコーマン株式会社製商品名:ルシフェール250プラス)などを用いても差し支えない。
【0020】
ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応によって得られる発光量は、工程水中に含有されている遊離のATP(アデノシン−三リン酸)と微生物体内から抽出されたATP(アデノシン−三リン酸)の合計量であり、試料水中にATP(アデノシン−三リン酸)消去試薬を添加した後にATP(アデノシン−三リン酸)抽出剤とルシフェリンとルシフェラーゼを添加した場合の発光量は微生物体内から抽出されたATP(アデノシン−三リン酸)のみを測定しているとみなされる。食品工業のように生菌数を測定対象としている場合は、微生物体内から抽出されたATP(アデノシン−三リン酸)のみを測定する意義があるが、本発明が対象としている紙パルプ製造工程においては、生菌のみならず微生物の死骸もパルプ繊維、ピッチ、あるいはスケール等と絡まってスライムを形成することが知られており、従って、各種微生物から構成される生菌の集合体とその死骸を含めた微生物量全体を定量的に把握することにより、より現実的なスライムコントロール状況の指標が得られると考えられる。故に、特に指定の無い限り、本発明における上記発光量測定では、ATP(アデノシン−三リン酸)消去試薬を添加しない。
【0021】
上記の試料水に添加するATP(アデノシン−三リン酸)抽出剤は、測定前に、ATP(アデノシン−三リン酸)を菌体外へ抽出するために使用される薬剤であり、一般的には、界面活性剤が使用される。
【0022】
本発明では、スライムコントロール剤を添加している紙パルプ製造工程におけるスライムコントロール状況の指標として、工程水中のATP(アデノシン−三リン酸)量を用いる。ATP(アデノシン−三リン酸)量測定の操作手順は簡単であり、しかも、極めて短時間で測定でき、また、ATP(アデノシン−三リン酸)は全ての生物体に存在するため、細菌、酵母、カビなどから構成される工程水中の微生物量を総体として把握できる。
【0023】
このATP(アデノシン−三リン酸)測定法の優れた特性により、用いるスライムコントロール剤の種類に制約されることもなく、測定に長時間を要する菌数測定法の欠点も克服することができる。
【0024】
本発明によれば、スライムコントロール剤を添加している紙パルプ製造工程のパルプスラリー、白水、及び白水のろ過水から選ばれる一種以上の工程水中のATP(アデノシン−三リン酸)量が特定の値以下になるようにスライムコントロール剤の添加量を制御することができる。具体的には、スライムコントロール剤を添加している紙パルプ製造工程の、マシンチェスト、ミキシングチェスト、リファイニング後の各種原料貯蔵タンク、ブローク原料貯蔵タンク、回収原料貯蔵タンク等の中に存在するパルプスラリー、白水サイロ中の白水、キャナル白水、シールピッチ白水、余剰白水等の白水、及びポリディスクフィルターにて処理したクリア白水、サンドフィルター等にてろ過した再生用水等の白水のろ過水から選ばれる少なくとも一種以上の試料でATP(アデノシン−三リン酸)量を測定し、その量が特定の値以下になるようスライムコントロール剤の添加量を制御することができる。
【0025】
スライムコントロール剤添加量の制御の指標として設定されるATP量の特定の値は、紙パルプ製造工程で製造される抄造品目や製造条件によって変化するため、各々の抄紙機によって決定される固有の値である。対象とする抄紙機の連続運転期間におけるATP量の推移と運転期間中に発生した「成紙斑点」数及び抄紙機の定修時に実施される装置の開放点検観察による汚れの判定結果に基づいて、このATP量の特定値は決定される。
【0026】
本発明に用いられるスライムコントロール剤には特に制限はなく、塩素、二酸化塩素、高度さらし粉、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸アンモニウム、次亜塩素酸マグネシウム、次亜塩素酸カリウム、次亜臭素酸、次亜臭素酸ナトリウム、次亜臭素酸カリウム、次亜臭素酸カルシウム、次亜臭素酸アンモニウム、クロル化またはブロム化ヒダントイン類、クロル化またはブロム化イソシアヌル酸及びそのナトリウム塩またはカリウム塩、あるいは、臭化ナトリウム、臭化アンモニウム、臭化カルシウム等の無機臭化物や塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどと塩素、二酸化塩素、オゾンなどの酸化性化合物を同時に作用させて発生し得る次亜ハロゲン酸発生化合物、更に、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド(DBNPA)、2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール(DBNE)、1,4−ビス(ブロモアセトキシ)−2−ブテン(BBAB)、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(Cl−MIT)、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(MIT)、4,5−ジクロロ−1,2−ジチオラン−3−オン、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン(BIT)などを用いることができ、これらのスライムコントロール剤は単独で使用してもよく、2種以上を併用しても良い。
【0027】
本発明の方法は、随時または継続的に行うことにより、スライムコントロール剤を添加している紙パルプ製造工程のパルプスラリー、白水、及び白水のろ過水中のスライム形成環境を把握することができる。すなわち、該水中のATP(アデノシン−三リン酸)量を不定期または定期的に測定し、その測定結果が、特定の値以下になるようにスライムコントロール剤の添加量を制御することにより、適切なスライムコントロールを行うことができる。
【0028】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
上質紙抄造工程(図1)を対象として、発光量で表されるATP(アデノシン−三リン酸)量に基づくスライムコントロールを行った。この抄造工程では、まず、回収原料1、バージンパルプ2、ブローク原料3などの原料パルプがミキシングチェスト4で混合される。得られたパルプスラリー5はマシンチェスト6に送られ、更に各種添加剤(図示されていない)を加えて調製されたパルプスラリーは、種箱7を経て、ファンポンプ8によって送出され、スクリーン9を経由し、ストックインレット10からワイヤー上に流し出される。ワイヤーパート11でパルプスラリーは脱水され、回収された微細なパルプ繊維を含有する水である白水は白水サイロ12に集められ、その白水13の一部はシールピット14を経てポリディスクフィルター15に、他の部分はファンポンプ8の吸引側に送られてパルプスラリーの濃度調整に供される。ポリディスクフィルター15では白水のろ過が行われ、回収された白水中のパルプ繊維は回収原料タンク(図示されていない)16へ送られ、他方、白水のろ過水17はポリディスクフィルターろ過水タンク18に集められ、希釈水としてミキシングチェスト4や図示されていない各種シャワータンクに送られる。
【0030】
ここで、スライムコントロール剤はポリディスクフィルターろ過水タンク18に添加され(薬注箇所19)、その処理水のATP(アデノシン−三リン酸)量は、ポリディスクフィルターろ過水タンク18出口の測定箇所21にて採取した試料(白水のろ過水17)にATP(アデノシン−三リン酸)抽出剤とルシフェリン、ルシフェラーゼを添加した時の発光量として測定した。また、同様に、スライムコントロール剤は白水サイロ12にも添加され(薬注箇所20)、そのATP(アデノシン−三リン酸)量は、白水サイロ12出口の測定箇所22にて採取した試料(白水13)にATP(アデノシン−三リン酸)抽出剤とルシフェリン、ルシフェラーゼを添加した時の発光量として測定した。
【0031】
具体的な実施条件は下記の通りであった。
実施条件
(1)対象系:上質紙抄造工程の白水およびろ過水
(2)白水pH:7〜8
(3)白水温度:30〜45℃
(4)スライムコントロール剤:
水を溶媒として硫酸アンモニウムと次亜塩素酸ナトリウムを窒素:塩素=1:1(それぞれの成分中の塩素および窒素のモル比)の割合にて添加直前に混合して調製した。
(5)スライムコントロール剤添加場所:
ポリディスクフィルターろ過水タンクと白水サイロの2ヶ所
(6)スライムコントロール剤添加回数:4回/日
(7)スライムコントロール剤添加時間:10分/回、又は15分/回
(8)試験期間:14日間(対象の抄紙工程は、14日間連続操業である)
【0032】
まず、対象工程におけるスライムコントロール剤添加量の制御の指標として、特定のATP量の値を発光量として設定する。後述の比較例と同じく菌数測定法によるスライムコントールを実施している操業期間における、図1の測定箇所21と22から採取した試料のATP発光量(RLU)と成紙欠陥数(個/日)の関係を図2に示した。図2の結果より、成紙欠陥数を5個/日以下とするためには、スライムコントロール剤添加量の制御の指標としてATP発光量(RLU)を50000RLU以下に設定すべきであることが判った。
【0033】
対象工程において、14日間連続操業期間中のATP(アデノシン−三リン酸)発光量(RLU)を50000RLU以下に設定した実施例1の経過は次の通りであった。
【0034】
実施例1において、ATP(アデノシン−三リン酸)発光量の測定は、上質紙抄紙工程の白水サイロ(測定箇所22)とポリディスクフィルターろ過水タンク(測定箇所21)から採取した白水、及び白水のろ過水を測定試料とした。各測定試料にATP(アデノシン−三リン酸)抽出液を添加し、更に発光試薬を添加後、20秒以内にルミテスターC−110にて発光量を測定した。又、測定は、1日に1回ないし2回の頻度で継続的に実施した。
【0035】
操業開始時のスライムコントロール剤の添加時間は10分/回であったが、操業開始4日目には測定試料の白水と白水のろ過水のATP(アデノシン−三リン酸)発光量が増加し、5日目には更に増加したため、スライムコントロール剤の添加時間を15分/回に延長した。その後3日間、添加時間を延長した処理を実施した結果、ATP(アデノシン−三リン酸)発光量の増加傾向が緩和されたため、8日目から該添加時間を10分/回に戻した。しかし、10日目には、再び、ATP(アデノシン−三リン酸)発光量の数値が大きく増加しため、10日目から14日目(操業終了時)まで該添加時間を15分/回に延長した処理を実施し、全操業期間を通じて該発光量を50000RLU以下に維持した。この結果、全操業期間を通じて、成紙欠陥数は5個/日以下であった。
【0036】
実施例1におけるATP(アデノシン−三リン酸)量を示す発光量と成紙欠陥数の経時的推移を図3に示した。
【0037】
(比較例1)
比較例1においては、図1の測定箇所22から採取した試料を細菌用培地にて培養して得られた細菌数に基づく菌数測定法によるスライムコントロールを実施した。それ以外の実施条件は、実施例1と同じであり、操業開始時のスライムコントロール剤の添加時間は10分/回であった。比較例1において、操業開始4日目に菌数は大きく増加したことが判明したのは操業7日目であり、操業6日目からの成紙欠陥数の急増には対応できなかった。7日目以降はスライムコントロール剤の添加時間を15分/回に延長することにより、成紙欠陥数は減少した。
【0038】
比較例1におけるATP(アデノシン−三リン酸)量を示す発光量と成紙欠陥数の経時的推移を図4に示した。
【0039】
以上の結果から、スライムコントロール剤を添加している紙パルプ製造工程に本発明のスライムコントロール方法を適用することによって、迅速で適切なスライムコントロールが可能となることが明らかになった。その結果、成紙欠陥数を少なく抑えた紙パルプ製造工程の安定操業が実現できた。
【符号の説明】
【0040】
1:回収原料
2:バージンパルプ
3:ブローク原料
4:ミキシングチェスト
5:パルプスラリー
6:マシンチェスト
7:種箱
8:ファンポンプ
9:スクリーン
10:ストックインレット
11:ワイヤーパート
12:白水サイロ
13:白水
14:シールピット
15:ポリディスクフィルター
16:回収原料タンクへ
17:白水のろ過水
18:ポリディスクフィルターろ過水タンク
19:薬注箇所
20:薬注箇所
21:測定箇所
22:測定箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライムコントロール剤を添加している紙パルプ製造工程において、工程水中のATP(アデノシン−三リン酸)の濃度に基づいてスライムコントロール剤の添加量を制御する、紙パルプ製造工程のスライムコントロール方法。
【請求項2】
前記工程水が、パルプスラリー、白水、及び白水のろ過水から選ばれる一種以上である、請求項1記載のスライムコントロール方法。
【請求項3】
前記の工程水中のATP(アデノシン−三リン酸)の濃度が、ATP(アデノシン−三リン酸)抽出剤とルシフェリン、ルシフェラーゼを前記工程水に添加した時の発光量を測定することで得られる、請求項1又は2のいずれかに記載のスライムコントロール方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−233271(P2012−233271A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101249(P2011−101249)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】