説明

紙塗工用共重合体ラテックス及び紙塗工用組成物

【課題】塗工操業性に優れ、また、印刷時のピック強度が良好である塗工紙が得られる紙塗工用共重合体ラテックス及び紙塗工用組成物を提供。
【解決手段】下記共重合体ラテックス(A)40〜90重量%と共重合体ラテックス(B)10〜60重量%からなる紙塗工用共重合体ラテックスを使用する。共重合体ラテックス(A)脂肪族共役ジエン系単量体45〜70重量%、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体1〜10重量%およびこれらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体20〜54重量%から構成される。共重合体ラテックス(B)脂肪族共役ジエン系単量体20重量%以上45重量%未満、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体1〜15重量%およびこれらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体40〜79重量%から構成される単量体を乳化重合して得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙塗工用共重合体ラテックス及び紙塗工用組成物に関するものである。詳しくは、紙塗工用組成物にバインダーとして使用される共重合体ラテックスであり、塗工紙製造工程での塗工操業性に優れ、かつ塗工紙の印刷時強度に優れた紙塗工用共重合体ラテックス及び該ラテックスを含有する紙塗工用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、塗工紙は、その印刷効果が高い等の理由から、非常に数多くの印刷物に利用されている。季刊、月刊紙等の定期刊行物の中にも、全ての頁に塗工紙が使用される場合もかなり増えている。特に、メールオーダービジネスにおけるダイレクトメールや商品カタログ等においては、そのほとんどが全ての頁に塗工紙を使用している。
一般に紙塗工用組成物は、クレーや炭酸カルシウムなどの白色顔料を水に分散した顔料分散液、顔料同士および顔料を原紙に接着固定するためのバインダー、およびその他の添加剤によって構成される水性塗料である。バインダーとしてはスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスに代表されるような合成エマルションバインダーやデンプン、カゼインに代表されるような天然バインダーが使用される。その中でもスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスは、品質設計の自由度が大きく、今日では紙塗工用組成物に最も適したバインダーとして広く使用されており、スチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスの性能が紙塗工用組成物の性能や塗工紙作製時の操業性あるいは最終的な塗工紙製品の表面強度、印刷光沢などの品質に影響することが知られている。
【0003】
塗工紙作成時の操業性の改善に関しては、例えば特開平11−50390号公報(特許文献1)では、特定粒子径範囲の重質炭酸カルシウムを30重量%以上含有した紙塗工用組成物において特定粒子径範囲の共重合体ラテックスを使用する紙塗工用組成物を用いると、ブレードコーターでの高速塗工性に優れかつ光沢ムラが殆ど無い高品質な印刷用塗工紙が得られる技術が紹介されている。特開平2006−117954号公報(特許文献2)においては、共重合体ラテックスのフィルムの弾性率の温度依存性を規定することにより、優れた操業安定性と印刷適性が得られるとの技術が紹介されている。
【0004】
塗工紙製品の表面強度などの品質改善としては、例えば特開2006−152484号公報(特許文献3)では、平均粒子径150nm以下の多段重合によって得られるコア−シェル型共重合体ラテックスを使用することにより、印刷光沢が良好でかつインキセット、インキ乾燥性が良好な艶消し塗工紙を提供する技術が紹介されている。特開平9−31894号公報(特許文献4)においては、重合の最初の仕込み段に不飽和ジカルボン酸及びメタクリル酸の使用量全量を含む単量体混合物を重合した後、2段目以降を重合して得られる共重合体ラテックスを用いた紙塗工用組成物によれば、印刷時の表面強度、耐水性、インク着肉性、耐ブリスター性に優れたオフ輪印刷用塗工紙が得られるとの技術開示がある。さらに、特開2008−248446号公報(特許文献5)には、共重合体ラテックスのフィルムの大豆油に対する接触角を規定することにより、印刷時の表面強度、印刷光沢、インキセットなどの印刷適性に優れる塗工紙を提供し得ると紹介され、該共重合体ラテックスを得るには、多段重合によるものが好ましいとしている。
しかし、これらの様々な改良技術は、日々高速化している塗工マシンに対応できる紙塗工用組成物として要求される塗工操業性および塗工紙物性を十分に満足するレベルには至っておらず、特にラテックスからの更なる改良が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−50390号公報
【0006】
【特許文献2】特開2006−117954号公報
【0007】
【特許文献3】特開2006−152484号公報
【0008】
【特許文献4】特開平9−31894号公報
【0009】
【特許文献5】特開2008−248446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、塗工紙のベタツキ性を小さくすることにより塗工操業性に優れ、また、印刷時のピック強度が良好である塗工紙が得られる紙塗工用共重合体ラテックス及び紙塗工用組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
紙塗工用組成物においてバインダーとして使用される共重合体ラテックスであり、脂肪族共役ジエン系単量体45〜70重量%、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体1〜10重量%およびこれらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体20〜54重量%から構成される単量体を乳化重合して得られ、光子相関法による平均粒子径が50〜90nm、ゲル含有量が85〜98%である共重合体ラテックス(A)を40〜90重量%(固形分換算)と、脂肪族共役ジエン系単量体20重量%以上45重量%未満、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体1〜15重量%およびこれらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体40〜79重量%(単量体合計100重量%)から構成される単量体を乳化重合して得られ、光子相関法による平均粒子径が90〜150nm、ゲル含有量が70〜95%である共重合体ラテックス(B)を10〜60重量%(固形分換算)をブレンドすることを特徴とする共重合体ラテックス及び紙塗工用組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の共重合体ラテックスは、塗工紙作製時の塗工操業性に影響を及ぼす要因である塗工紙のベタツキ性に優れ、本発明の紙塗工用組成物を塗工して得られた塗工紙は、印刷時のピック強度に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の共重合体ラテックス(A)、及び共重合体ラテックス(B)は、脂肪族共役ジエン系単量体、エチレン系不飽和カルボン酸単量体およびこれらと共重合可能な他の単量体を乳化重合して得られる。
脂肪族共役ジエン系単量体としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特に1,3−ブタジエンの使用が好ましい。
共重合体ラテックス(A)に用いる脂肪族共役ジエン系単量体は、全単量体中45〜70重量%の範囲で使用されることが必要である。脂肪族共役ジエン系単量体が45重量%未満では、得られる塗工紙のドライピック強度が低下する。一方、脂肪族共役ジエン系単量体が70重量%を越えるとウエットピック強度が低下する。好ましくは45〜60重量%である。
共重合体ラテックス(B)に用いる脂肪族共役ジエン系単量体は、全単量体中20重量%以上45重量%未満の範囲で使用されることが必要である。脂肪族共役ジエン系単量体が20重量%未満では、得られる塗工紙のドライピック強度が低下する。一方、脂肪族共役ジエン系単量体が45重量%以上では塗工紙のベタツキ性が大きくなる。好ましくは25〜40重量%である。
【0014】
エチレン系不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸などの1塩基酸または2塩基酸(無水物)が挙げられる。
共重合体ラテックス(A)に用いるエチレン系不飽和カルボン酸単量体は、全単量体中1〜10重量%の範囲で使用されることが必要である。エチレン性不飽和カルボン酸系単量体が1重量%未満では、ドライピック強度が低下する。一方、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体が10重量%を越えると共重合体ラテックスの粘度が高くなり、取り扱いが困難となる。好ましくは1.5〜8重量%である。
共重合体ラテックス(B)に用いるエチレン系不飽和カルボン酸単量体は、全単量体中1〜15重量%の範囲で使用されることが必要である。エチレン性不飽和カルボン酸系単量体が1重量%未満では、ウェットピック強度が低下する。一方、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体が15重量%を越えると共重合体ラテックスの粘度が高くなり、取り扱いが困難となる。好ましくは1.5〜12重量%である。
【0015】
上記脂肪族共役ジエン系単量体、エチレン系不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な他の単量体としては、アルケニル芳香族単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、シアン化ビニル単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、不飽和カルボン酸アミド単量体などが挙げられる。
【0016】
アルケニル芳香族単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルα−メチルスチレン、ビニルトルエンおよびジビニルベンゼンなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にスチレンの使用が好ましい。
【0017】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にメチルメタクリレートの使用が好ましい。
【0018】
シアン化ビニル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの使用が好ましい。
【0019】
ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体としては、β−ヒドロキシエチルアクリレート、β−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジ−(エチレングリコール)マレエート、ジ−(エチレングリコール)イタコネート、2−ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2−ヒドロキシエチル)マレエート、2−ヒドロキシエチルメチルフマレートなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にβ−ヒドロキシエチルアクリレートの使用が好ましい。
【0020】
不飽和カルボン酸アミド単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にアクリルアミドまたはメタクリルアミドの使用が好ましい。
【0021】
さらに、上記単量体の他に、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等、通常の乳化重合において使用される単量体は何れも使用可能である。
【0022】
共重合体ラテックス(A)に用いるこれらの共重合可能な他の単量体は、全単量体中、20〜54重量%の範囲で使用されることが必要である。これらの共重合可能な他の単量体が20重量%未満では、塗工紙のベタツキ性が大きくなり、54重量%を超えると、塗工紙のドライピック強度が低下する。好ましくは30〜50重量%である。
共重合体ラテックス(B)に用いるこれらの共重合可能な他の単量体は、全単量体中、40〜79重量%の範囲で使用されることが必要である。これらの共重合可能な他の単量体が40重量%未満では、塗工紙のベタツキ性が大きくなり、79重量%を超えると、塗工紙のドライピック強度が低下する。好ましくは50〜70重量%である。
【0023】
共重合体ラテックス(A)の光子相関法による平均粒子径としては、50〜90nmの範囲にあることが必要である。50nm未満では、共重合体ラテックスの粘度が高くなり、取り扱いが困難となる。90nmを超えると、塗工紙のドライピック強度が低下する。
共重合体ラテックス(B)の光子相関法による平均粒子径としては、90〜150nmの範囲にあることが必要である。90nm未満では、塗工紙のべたつき性が大きくなる。150nmを超えると、塗工紙のウエットピック強度が低下する。
【0024】
共重合体ラテックス(A)のゲル含有量としては、85〜98%の範囲にあることが必要である。85%未満では、塗工紙のベタツキ性が大きくなり、98%を超えると、塗工紙のウエットピック強度が低下する。
共重合体ラテックス(B)のゲル含有量としては、70〜95%の範囲にあることが必要である。70%未満では、塗工紙のべたつき性が大きくなり、塗工紙のドライピック強度も低下する。95%を超えると塗工紙のウエットピック強度が低下する。
【0025】
本発明においては、共重合体ラテックス(A)と共重合体ラテックス(B)を、それぞれ固形分換算で、共重合体ラテックス(A)40〜90重量%及び共重合体ラテックス(B)10〜60重量%となるように混合することが、塗工紙の印刷時のピック強度とベタツキ性のバランスを向上させるために必要である。塗工紙の製造において、本発明の紙塗工用組成物を原紙に塗工して乾燥する際に、共重合体ラテックス(B)が塗工紙の表面により多く存在し、共重合体ラテックス(A)が原紙と塗工層の界面により多く存在するので、ベタツキ性が小さく印刷時のピック強度に優れる塗工紙が得られる。特に、共重合体ラテックス(A)が40重量%未満になると、塗工紙のドライピック強度が低下し、共重合体ラテックス(A)が90重量%を超えると塗工紙のべたつき性が大きくなる。
【0026】
上記共重合体ラテックス(A)及び共重合体ラテックス(B)の製造にあたって、単量体ならびにその他の成分の添加方法については特に制限されるものではなく、一括添加方法、分割添加方法、連続添加方法、パワーフィード法の何れでも採用することができる。また、本発明においては、一段重合、二段重合又は多段階重合等何れも採用することができる。また、重合の際には、公知の乳化剤、重合開始剤、連鎖移動剤、炭化水素系溶剤、電解質等を使用することができる。
【0027】
乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、脂肪族カルボン酸塩、デヒドロアビエチン酸塩、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、非イオン性界面活性剤の硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤、ポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルフェニルエーテル型、アルキルエーテル型等のノニオン性界面活性剤が挙げられ、これらを1種又は2種以上使用することができる。
【0028】
重合開始剤としては、過硫酸リチウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等の油溶性重合開始剤、またはレドックス系重合開始剤を適宜用いることができる。特に過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイドの使用が好ましい。
【0029】
連鎖移動剤としては、アルキルメルカプタン、ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物、アリルアルコール等のアリル化合物、ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物、α−ベンジルオキシスチレン、α−ベンジルオキシアクリロニトリル、α−ベンジルオキシアクリルアミド等のビニルエーテル、トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレート、ターピノレン、α−メチルスチレンダイマー等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。
【0030】
炭化水素系溶剤としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の飽和炭化水素、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、4−メチルシクロヘキセン、1−メチルシクロヘキセン等の不飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などの炭化水素化合物を使用することができる。特に、沸点が適度に低く、重合終了後に水蒸気蒸留などによって回収、再利用しやすいシクロヘキセンやトルエンが、本発明の目的とは異なるものの、環境問題の観点から好適である。
【0031】
本発明の共重合体ラテックスの重合には、必要に応じて酸素補足剤、キレート剤、分散剤等の公知の添加剤を用いることも差し支えなく、これらは種類、使用量ともに特に限定されず、適宜適量使用することが出来る。更には消泡剤、老化防止剤、防腐剤、抗菌剤、難燃剤、紫外線吸収剤などの公知の添加剤を用いることも差し支えなく、これらも種類、使用量ともに特に限定されず、適宜適量使用することが出来る。
【0032】
本発明の紙塗工用組成物は、顔料と本発明の共重合体ラテックスを含有する。顔料としては、公知の顔料、例えば、カオリンクレー、炭酸カルシウム、タルク、硫酸バリウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、サチンホワイトなどの無機顔料、あるいはポリスチレンラテックスのような有機顔料をそれぞれ単独または混合して使用することができる。また、紙塗工用組成物中の共重合体ラテックスの含有量は顔料100重量%(固形分)に対して2〜20重量%(固形分)を使用することが好ましい。共重合体ラテックスの含有量が2重量%未満では顔料を充分に接着できないために好ましくなく、20重量%を超えると不透明度や白紙光沢が低下する上に、紙塗工用組成物のコスト上昇を招くために好ましくない。
【0033】
また、必要に応じて澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉等の変性澱粉、大豆蛋白、カゼインなどの天然バインダー、あるいはポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性合成バインダーなどを使用しても差し支えない。
【0034】
本発明の紙塗工用組成物を調製する際には、さらにその他の助剤、例えば分散剤(ピロリン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウムなど)、消泡剤(ポリグリコール、脂肪酸エステル、リン酸エステル、シリコーンオイルなど)、レベリング剤(ロート油、ジシアンジアミド、尿素など)、防腐剤、離型剤(ステアリン酸カルシウム、パラフィンエマルジョンなど)、蛍光染料、カラー保水性向上剤(カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなど)を必要に応じて添加しても良い。
【0035】
本発明の紙塗工用組成物を調製する際には、あらかじめ共重合体ラテックス(A)と共重合体ラテックス(B)を混合した後に、顔料等と混合してもよく、また、顔料等の混合時に共重合体ラテックス(A)と共重合体ラテックス(B)をそれぞれ別々に添加しても良い。
【0036】
さらに、紙塗工用組成物を塗工用紙へ塗布する方法には、公知の技術、例えばエアナイフコーター、ブレードコーター、ロールコーター、バーコーターなどのいずれの塗工機を使用しても差し支えない。また、塗工後、乾燥し、カレンダーリングなどにより仕上げる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。なお実施例中、割合を示す部および%は特に断りのない限り重量基準によるものである。また実施例における諸物性の評価は次の方法に拠った。
【0038】
共重合体ラテックスの光子相関法による平均粒子径の測定
共重合体ラテックスの粒子径を光子相関法により測定した。尚、測定に際しては、FPAR−1000(大塚電子製)を使用した。
【0039】
共重合体ラテックスのゲル含有量の測定
80℃にてラテックスフィルムを作製する。その後ラテックスフィルムを約1g秤量しXgとする。これを400mlのトルエンに入れ48時間膨潤溶解させる。その後、これを秤量済みの300メッシュの金網で濾過し、その後トルエンを蒸発乾燥させ、その乾燥後重量からメッシュ重量を減じて、試料の乾燥後重量を秤量しYgとする。下記式よりゲル含有量を計算した。
ゲル含有量(%)=Y/X*100
【0040】
塗工紙のベタツキ性の評価
バッキングロール等への塗工紙の付着しやすさの目安として、塗工紙のベタツキ性(粘着性)について試験を行った。各塗工紙試料を1cm幅の短冊状に切り、台紙上に短冊を並べて貼り付ける。これに水を付与後、熱ロール(100℃)で、黒ケント紙を同時に圧着する。その後、黒ケント紙をはがした後の繊維の各塗工紙表面への付着状態を目視で判断し、各塗工紙のベタツキ性を比較した。繊維の付着の少ないものをベタツキ性が小さい(=塗工操業性に優れる)として◎、繊維の付着が多いものをベタツキ性が大きい(=塗工操業性に劣る)として×とし、下記の通り相対的に評価した。
(優)◎ > ○ > △ > ×(劣)
【0041】
塗工紙のドライピック強度の評価
RI印刷機で各塗工紙試料を同時に印刷した際のピッキングの程度を肉眼で判定し、5級(優)から1級(劣)まで相対的に目視評価した。
【0042】
塗工紙のウェットピック強度の評価
RI印刷機を用いてモルトンロールにより各塗工紙試料に同時に湿し水を付与し、その直後にインキロールにより各塗工紙試料を同時に印刷した際のピッキングの程度を肉眼で判定し、5級(優)から1級(劣)まで相対的に目視評価した。
【0043】
共重合体ラテックスの合成
共重合体ラテックス(A)−1
攪拌機を備え、耐圧性の重合反応器に、重合水160部、過硫酸カリウム1部、表1の1段目に示す単量体、乳化剤、炭化水素系溶剤、連鎖移動剤を仕込み、70℃に昇温し、表1の2段目に示す単量体、連鎖移動剤を8時間で連続添加した。更に重合を継続し、重合転化率が98%を超えた時点で重合を終了した。
次いで、得られた共重合体ラテックスを、水酸化ナトリウムを用いて、pHを7に調製し、水蒸気蒸留により未反応単量体等を除去して合成した。
【0044】
共重合体ラテックス(A)−2
攪拌機を備え、耐圧性の重合反応器に、重合水160部、過硫酸カリウム1部、表1の1段目に示す単量体、乳化剤、炭化水素系溶剤を仕込み、70℃に昇温し、表1の2段目に示す単量体を8時間で連続添加した。更に重合を継続し、重合転化率が98%を超えた時点で重合を終了した。
次いで、得られた共重合体ラテックスを、水酸化ナトリウムを用いて、pHを7に調製し、水蒸気蒸留により未反応単量体等を除去して合成した。
【0045】
共重合体ラテックス(A)−3
攪拌機を備え、耐圧性の重合反応器に、重合水160部、過硫酸カリウム1部、表1の1段目に示す単量体、乳化剤、炭化水素系溶剤、連鎖移動剤を仕込み、70℃に昇温し、表1の2段目に示す単量体、炭化水素系溶剤、連鎖移動剤を3時間で連続添加した。更に表1の3段目に示す単量体、連鎖移動剤を4時間で連続添加した。更に重合を継続し、重合転化率が98%を超えた時点で重合を終了した。
次いで、得られた共重合体ラテックスを、水酸化ナトリウムを用いて、pHを7に調製し、水蒸気蒸留により未反応単量体等を除去して合成した。
【0046】
共重合体ラテックス(B)−1、共重合体ラテックス(B)−2
攪拌機を備え、耐圧性の重合反応器に、重合水140部、過硫酸カリウム1部、表1の1段目に示す単量体、乳化剤、炭化水素系溶剤、連鎖移動剤を仕込み、70℃に昇温し、表1の2段目に示す単量体、連鎖移動剤を8時間で連続添加した。更に重合を継続し、重合転化率が98%を超えた時点で重合を終了した。
次いで、得られた共重合体ラテックスを、水酸化カリウムを用いて、pHを7に調製し、水蒸気蒸留により未反応単量体等を除去して合成した。
【0047】
共重合体ラテックス(B)−3
攪拌機を備え、耐圧性の重合反応器に、重合水140部、過硫酸カリウム1部、表1の1段目に示す単量体、乳化剤、炭化水素系溶剤、連鎖移動剤を仕込み、70℃に昇温し、表1の2段目に示す単量体、連鎖移動剤を3時間で連続添加した。更に表1の3段目に示す単量体、連鎖移動剤を4時間で連続添加した。更に重合を継続し、重合転化率が98%を超えた時点で重合を終了した。
次いで、得られた共重合体ラテックスを、水酸化ナトリウムを用いて、pHを7に調製し、水蒸気蒸留により未反応単量体等を除去して合成した。
【0048】
共重合体ラテックス(X)−1
攪拌機を備え、耐圧性の重合反応器に、重合水140部、過硫酸カリウム1部、表2の1段目に示す単量体、乳化剤、炭化水素系溶剤、連鎖移動剤を仕込み、70℃に昇温し、表2の2段目に示す単量体、連鎖移動剤を8時間で連続添加した。更に重合を継続し、重合転化率が98%を超えた時点で重合を終了した。
次いで、得られた共重合体ラテックスを、水酸化ナトリウムを用いて、pHを7に調製し、水蒸気蒸留により未反応単量体等を除去して合成した。
【0049】
共重合体ラテックス(X)−2
攪拌機を備え、耐圧性の重合反応器に、重合水160部、過硫酸カリウム1部、表2の1段目に示す単量体、乳化剤、炭化水素系溶剤、連鎖移動剤を仕込み、70℃に昇温し、表2の2段目に示す単量体、連鎖移動剤を8時間で連続添加した。更に重合を継続し、重合転化率が98%を超えた時点で重合を終了した。
次いで、得られた共重合体ラテックスを、水酸化ナトリウムを用いて、pHを7に調製し、水蒸気蒸留により未反応単量体等を除去して合成した。
【0050】
共重合体ラテックス(X)−3
攪拌機を備え、耐圧性の重合反応器に、重合水120部、過硫酸カリウム1部、表2の1段目に示す単量体、乳化剤、炭化水素系溶剤、連鎖移動剤を仕込み、70℃に昇温し、表2の2段目に示す単量体、連鎖移動剤を8時間で連続添加した。更に重合を継続し、重合転化率が98%を超えた時点で重合を終了した。
次いで、得られた共重合体ラテックスを、水酸化ナトリウムを用いて、pHを7に調製し、水蒸気蒸留により未反応単量体等を除去して合成した。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
紙塗工用組成物の作製と評価
下記に示した配合処方に従って、上記合成にて得られた共重合体ラテックスを表3、表4、表5に記載の比率で配合して、水酸化ナトリウムでpH9.5に調整した紙塗工用組成物を作製した。
(紙塗工用組成物の配合処方)
配合処方
カオリン 40部
重質炭酸カルシウム 60部
変性デンプン 2部
共重合体ラテックス 8部
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
固形分濃度 67%
【0054】
塗工紙の作製と評価
塗工原紙(坪量55g/m2)に、上記の紙塗工用組成物を片面あたりの塗被量が10g/m2となるようにワイヤーバーを用いて塗工し乾燥した後、線圧60kg/cm、温度50℃の条件でカレンダー処理を行って塗工紙を得た。得られた塗工紙を各試験に供して評価し、その結果を表3〜5に示した。
【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
【表5】

【0058】
表3に示すとおり、本発明による共重合体ラテックスを用いた紙塗工用組成物を用いた塗工紙は、塗工紙のべたつき性が小さく、印刷時のピック強度に優れる。
【0059】
表4に示す比較例1〜4は、本発明の共重合体ラテックス(A)と(B)を用いて、その(A)/(B)の比率が規定から外れた例である。(A)が40重量%未満である比較例1、3、4はいずれも印刷時のピック強度が劣る。(A)が90重量%を超える比較例2は、塗工紙のべたつき性が大きい。比較例5は、本発明の共重合体ラテックス(A)の単独系であり、塗工紙のべたつき性が大きく、ウェットピック強度も劣る。比較例6は、実施例5の共重合体ラテックス(A)−2と(B)−2のブレンド比率で加重平均したブタジエン量やゲル量に近い(A)−3を単独使用した例であり、塗工紙のべたつき性が大きく、印刷時のピック強度も劣ることがわかる。比較例7は、本発明の共重合体ラテックス(B)を単独使用した例であり、印刷時のピック強度が大きく劣る。
【0060】
表5に示すとおり、本発明の共重合体ラテックス(A)もしくは(B)の粒子径が範囲外である(X)−1〜(X)−3を使用した場合、印刷時のピック強度と塗工紙のべたつき性のバランスが大きく劣る。
【産業上の利用可能性】
【0061】
上記のとおり、本発明の共重合体ラテックスは、塗工紙製造時の塗工操業性に優れ、塗工マシンの高速化にも対応することができる。また、本発明の共重合体ラテックスを使用して得られた塗工紙は印刷時のピック強度に優れることから、紙塗工用バインダー及び紙加工用組成物として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記共重合体ラテックス(A)40〜90重量%(固形分換算)と共重合体ラテックス(B)10〜60重量%(固形分換算)からなる紙塗工用共重合体ラテックス。
共重合体ラテックス(A)
脂肪族共役ジエン系単量体45〜70重量%、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体1〜10重量%およびこれらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体20〜54重量%から構成される単量体を乳化重合して得られ、光子相関法による平均粒子径が50〜90nm、ゲル含有量が85〜98%である。
共重合体ラテックス(B)
脂肪族共役ジエン系単量体20重量%以上45重量%未満、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体1〜15重量%およびこれらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体40〜79重量%から構成される単量体を乳化重合して得られ、光子相関法による平均粒子径が90〜150nm、ゲル含有量が70〜95%である。
【請求項2】
請求項1に記載の紙塗工用共重合体ラテックスを含む紙塗工用組成物。


【公開番号】特開2012−188797(P2012−188797A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−272801(P2011−272801)
【出願日】平成23年12月13日(2011.12.13)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】