説明

紙塗工用共重合体ラテックス及び紙塗工用組成物

【課題】塗工紙作成時の塗工操業性に優れ、また印刷時強度が良好な塗工紙が得られる共重合体ラテックスおよび紙塗工用組成物の提供。
【解決手段】脂肪族共役ジエン系単量体20〜70重量%、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体0.1〜20重量%およびこれらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体10〜79.9重量%から構成される単量体を乳化重合するに際し、分子量調整剤として炭素数違いのアルキルメルカプタンを規定量用いることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙塗工用共重合体ラテックス及び紙塗工用組成物に関するものである。詳しくは、紙塗工用組成物にバインダーとして使用される共重合体ラテックスであり、塗工紙製造工程での塗工操業性に優れ、かつ塗工紙の印刷時強度に優れた紙塗工用共重合体ラテックス及び該共重合体ラテックスを含有する紙塗工用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、塗工紙は、その印刷効果が高い等の理由から、非常に数多くの印刷物に利用されている。季刊、月刊紙等の定期刊行物の中にも、全ての頁に塗工紙が使用される場合もかなり増えている。特に、メールオーダービジネスにおけるダイレクトメールや商品カタログ等においては、そのほとんどが全ての頁に塗工紙を使用している。
一般に紙塗工用組成物は、クレーや炭酸カルシウムなどの白色顔料を水に分散した顔料分散液、顔料同士および顔料を原紙に接着固定するためのバインダー、およびその他の添加剤によって構成される水性塗料である。バインダーとしてはスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスに代表されるような合成エマルションバインダーやデンプン、カゼインに代表されるような天然バインダーが使用される。その中でもスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスは、品質設計の自由度が大きく、今日では紙塗工用組成物に最も適したバインダーとして広く使用されており、スチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスの性能が紙塗工用組成物の性能や塗工紙作製時の操業性あるいは最終的な塗工紙製品の表面強度、印刷光沢などの品質に影響することが知られている。
【0003】
塗工紙作成時の操業性の改善に関しては、例えば特開平11−50390号公報(特許文献1)では、特定粒子径範囲の重質炭酸カルシウムを30重量%以上含有した紙塗工用組成物において特定粒子径範囲の共重合体ラテックスを使用する紙塗工用組成物を用いると、ブレードコーターでの高速塗工性に優れ、かつ光沢ムラが殆ど無い高品質な印刷用塗工紙が得られる技術が紹介されている。
【0004】
塗工紙製品の表面強度などの品質改善としては、例えば特開2006−152484号公報(特許文献2)では、平均粒子径150nm以下の多段重合によって得られるコア−シェル型共重合体ラテックスを使用することにより、印刷光沢が良好でかつインキセット、インキ乾燥性が良好な艶消し塗工紙を提供する技術が紹介されている。特開平9−31894号公報(特許文献3)では、1段目に不飽和ジカルボン酸及びメタクリル酸の使用量全量を含む単量体混合物を重合した後、2段目以降を重合して得られる共重合体ラテックスを用いた紙塗工用組成物を塗工した塗工紙は、印刷時の表面強度、耐水性、インク着肉性、耐ブリスター性に優れたオフ輪印刷用塗工紙が得られるとの技術開示がある。さらに、特開2008−248446号公報(特許文献4)には、共重合体ラテックスのフィルムの大豆油に対する接触角を規定することにより、印刷時の表面強度、印刷光沢、インキセットなどの印刷適性に優れる塗工紙を提供し得ると紹介され、該共重合体ラテックスを得るには、多段重合によるものが好ましいとしている。
しかし、これらの様々な改良技術は、日々高速化している塗工マシンに対応できる紙塗工用組成物として要求される塗工操業性および塗工紙物性を十分に満足するレベルには至っておらず、特にラテックスからの更なる改良が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−50390号公報
【0006】
【特許文献2】特開2006−152484号公報
【0007】
【特許文献3】特開平9−31894号公報
【0008】
【特許文献4】特開2008−248446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ラテックスフィルムのベタツキ性が優れ(すなわち粘着しにくく)、かつ紙塗工用組成物の再分散性が良好であることにより、塗工操業性に優れ、また印刷時強度が良好な塗工紙が得られる共重合体ラテックス及び紙塗工用組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の共重合体ラテックスは、紙塗工用組成物においてバインダーとして使用される共重合体ラテックスであり、脂肪族共役ジエン系単量体20〜70重量%、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体0.1〜20重量%およびこれらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体10〜79.9重量%から構成される単量体を乳化重合するに際し、分子量調整剤として下記のアルキルメルカプタンを単量体100重量部に対して使用することを特徴とする紙塗工用共重合体ラテックスを提供するものである。
(1)ウンデシルメルカプタン 0.0005〜0.6重量部、
(2)ドデシルメルカプタン 0.025〜1.8重量部、
(3)トリデシルメルカプタン 0.0005〜0.6重量部、
(4)テトラデシルメルカプタン 0〜0.2重量部
(5)その他のメルカプタン 0〜0.2重量部
【発明の効果】
【0011】
本発明の共重合体ラテックスは、塗工紙作製時の塗工操業性に影響を及ぼす要因であるラテックスフィルムのベタツキ性に優れ、及び本発明の紙塗工用組成物は再分散性に優れる。また本発明の紙塗工用組成物を塗工して得られた塗工紙は、印刷時強度に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の共重合体ラテックスは、脂肪族共役ジエン系単量体、エチレン系不飽和カルボン酸単量体およびこれらと共重合可能な他の単量体を乳化重合して得られる。
脂肪族共役ジエン系単量体としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特に1,3−ブタジエンの使用が好ましい。
脂肪族共役ジエン系単量体は全単量体中、20〜70重量%の範囲で使用されることが必要である。脂肪族共役ジエン系単量体が20重量%未満では、得られる塗工紙の印刷強度が低下する。一方、脂肪族共役ジエン系単量体が70重量%を越えるとラテックスフィルムのベタツキ性が高くなり、紙塗工用組成物の再分散性が低下する。好ましくは30〜60重量%である。
【0013】
エチレン系不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸などの1塩基酸または2塩基酸(無水物)が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。
これらのエチレン性不飽和カルボン酸系単量体は0.1〜20重量%の範囲で使用されることが必要である。エチレン性不飽和カルボン酸系単量体が0.1重量%未満では共重合体の化学的安定性が劣る。一方、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体が20重量%を越えると共重合体の粘度が高くなり、取り扱いが困難となる。好ましくは0.5〜10重量%、さらに好ましくは1〜6重量%である。
【0014】
上記脂肪族共役ジエン系単量体、エチレン系不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な他の単量体としては、アルケニル芳香族単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、シアン化ビニル単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、不飽和カルボン酸アミド単量体などが挙げられる。
【0015】
アルケニル芳香族単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルα−メチルスチレン、ビニルトルエンおよびジビニルベンゼンなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にスチレンの使用が好ましい。
【0016】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にメチルメタクリレートの使用が好ましい。
【0017】
シアン化ビニル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの使用が好ましい。
【0018】
ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体としては、β−ヒドロキシエチルアクリレート、β−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジ−(エチレングリコール)マレエート、ジ−(エチレングリコール)イタコネート、2−ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2−ヒドロキシエチル)マレエート、2−ヒドロキシエチルメチルフマレートなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にβ−ヒドロキシエチルアクリレートの使用が好ましい。
【0019】
不飽和カルボン酸アミド単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にアクリルアミドまたはメタクリルアミドの使用が好ましい。
【0020】
さらに、上記単量体の他に、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等、通常の乳化重合において使用される単量体は何れも使用可能である。
【0021】
これらの共重合可能な他の単量体としては、全単量体中、10〜79.9重量%の範囲で使用されることが必要である。これらの共重合可能な他の単量体が10重量%未満では、ラテックスフィルムのベタツキ性が高くなり、紙塗工用組成物の再分散性が低下する。一方、これらの共重合可能な他の単量体が79.9重量%を越えると、得られる塗工紙の印刷強度が低下する。好ましくは20〜70重量%である。
【0022】
本発明の共重合体ラテックスを乳化重合するに際しては、単量体100重量部に対して、分子量調整剤として下記のアルキルメルカプタンを用いる。
(1)ウンデシルメルカプタン 0.0005〜0.6重量部、好ましくは0.0005〜0.5重量部、
(2)ドデシルメルカプタン 0.025〜1.8重量部、好ましくは0.025〜1.5重量部、
(3)トリデシルメルカプタン 0.0005〜0.6重量部、好ましくは0.0005〜0.5重量部、
(4)テトラデシルメルカプタン 0〜0.2重量部、好ましくは0〜0.16重量部、
(5)その他のメルカプタン 0〜0.2重量部、好ましくは0〜0.16重量部
(1)〜(5)に記載のアルキルメルカプタンを一種使用した場合、もしくは、二種以上を上記範囲外の量で使用した場合は、塗工紙の印刷強度が低下したり、ラテックスのベタツキ性が劣る。アルキルメルカプタンのアルキル基としては、直鎖タイプ、分岐タイプがあるが、上記範囲内の量を用いた場合には、直鎖タイプ、分岐タイプのいずれのタイプでも塗工紙の優れた印刷強度が得られる。ただし、分岐タイプで第3級ブチル基を有するものは、紙塗工用組成物の再分散性が劣り、好ましくない。
【0023】
本発明で使用する(1)〜(5)に規定する量であるアルキルメルカプタンを得るには、炭素数違いの原料(例えば、ハロゲン化炭化水素)を規定量になるように調整してからメルカプタン化する方法でも、すでに得られた炭素数違いのアルキルメルカプタンを、規定範囲内になるように2種以上混合して使用する方法でもいずれでもよい。
【0024】
本発明の共重合体ラテックスの重合には、上記のアルキルメルカプタン以外の分子量調整剤を使用することができる。例えば、ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物、アリルアルコール等のアリル化合物、ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物、α−ベンジルオキシスチレン、α−ベンジルオキシアクリロニトリル、α−ベンジルオキシアクリルアミド等のビニルエーテル、トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレート、ターピノレン、α−メチルスチレンダイマー等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。
【0025】
本発明の共重合体ラテックスの重合には、公知の乳化剤(界面活性剤)を使用することができる。例えば、高級アルコールの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、脂肪族カルボン酸塩、デヒドロアビエチン酸塩、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、非イオン性界面活性剤の硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤、ポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルフェニルエーテル型、アルキルエーテル型等のノニオン性界面活性剤が挙げられ、これらを1種又は2種以上使用することができる。
【0026】
本発明の共重合体ラテックスの重合には、公知の重合開始剤として、過硫酸リチウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等の油溶性重合開始剤、またはレドックス系重合開始剤を適宜用いることができる。特に過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイドの使用が好ましい。重合開始剤の量は特に制限されないが、単量体組成、重合反応系のpH、他の添加剤などの組み合わせを考慮して適宜調整される。
【0027】
本発明の共重合体ラテックスの重合には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の飽和炭化水素、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、4−メチルシクロヘキセン、1−メチルシクロヘキセン等の不飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などの炭化水素化合物を使用することができる。特に、沸点が適度に低く、重合終了後に水蒸気蒸留などによって回収、再利用しやすいシクロヘキセンやトルエンが、本発明の目的とは異なるものの、環境問題の観点から好適である。
【0028】
本発明における共重合体ラテックスの粒子径は、特に制限はないが50〜200nmであることが好ましい。光子相関法による平均粒子径が50nm未満では白紙光沢が劣る傾向があり、また200nmを超えると塗工紙の印刷時強度が低下する傾向があり好ましくない。共重合体ラテックスの粒子径は、共重合体ラテックスの重合において使用する各種乳化剤、重合開始剤の種類およびその使用量や添加方法、重合水の使用割合等を適宜変更することにより調整が可能である。
【0029】
本発明における共重合体ラテックスのゲル含量は、特に制限はないが、ゲル含量が70〜100重量%が好ましい。ゲル含量が70重量%未満では塗工紙の印刷時強度が低下する傾向があり好ましくない。特に好ましくは75〜98重量%である。
【0030】
本発明の共重合体ラテックスの重合には、必要に応じて酸素補足剤、キレート剤、分散剤等の公知の添加剤を用いることも差し支えなく、これらは種類、使用量ともに特に限定されず、適宜適量使用することが出来る。更には消泡剤、老化防止剤、防腐剤、抗菌剤、難燃剤、紫外線吸収剤などの公知の添加剤を用いることも差し支えなく、これらも種類、使用量ともに特に限定されず、適宜適量使用することが出来る。また、本発明の共重合体ラテックスは、その使用目的に応じて他のラテックスと適宜適量ブレンドすることもできる。
【0031】
本発明の共重合体ラテックスの製造にあたって、単量体ならびにその他の成分の添加方法については、特に制限されるものではなく、単量体の添加方法については分割添加方法、連続添加方法の何れでも採用することができる。
【0032】
本発明の紙塗工用組成物は、顔料と本発明の共重合体ラテックスを含有する。顔料としては、公知の顔料、例えば、カオリンクレー、炭酸カルシウム、タルク、硫酸バリウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、サチンホワイトなどの無機顔料、あるいはポリスチレンラテックスのような有機顔料をそれぞれ単独または混合して使用することができる。また、紙塗工用組成物中の共重合体ラテックスの含有量は顔料100重量部(固形分)に対して2〜20重量部(固形分)を使用することが好ましい。さらに好ましくは3〜15重量部使用する。共重合体ラテックスの含有量が2重量部未満では顔料を充分に接着できないために好ましくなく、20重量部を超えると不透明度や白紙光沢が低下する上に、紙塗工用組成物のコスト上昇を招くために好ましくない。
【0033】
また、必要に応じて澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉等の変性澱粉、大豆蛋白、カゼインなどの天然バインダー、あるいはポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性合成バインダーなどを使用しても差し支えない。さらに、ポリ酢酸ビニルラテックス、アクリル系ラテックスなどの合成ラテックス等を本発明の共重合体ラテックスと併用してもよい。
【0034】
本発明の紙塗工用組成物を調製する際には、さらにその他の助剤、例えば分散剤(ピロリン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウムなど)、消泡剤(ポリグリコール、脂肪酸エステル、リン酸エステル、シリコーンオイルなど)、レベリング剤(ロート油、ジシアンジアミド、尿素など)、防腐剤、離型剤(ステアリン酸カルシウム、パラフィンエマルジョンなど)、蛍光染料、カラー保水性向上剤(カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなど)を必要に応じて添加しても良い。
【0035】
さらに、紙塗工用組成物を塗工用紙へ塗布する方法には、公知の技術、例えばエアナイフコーター、ブレードコーター、ロールコーター、バーコーター、カーテンコーターなどのいずれの塗工機を使用しても差し支えない。また、塗工後、表面を乾燥し、カレンダーリングなどにより仕上げる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。なお実施例中、割合を示す部および%は特に断りのない限り重量基準によるものである。また実施例における諸物性の評価は次の方法に拠った。
【0037】
共重合体ラテックスの光子相関法による平均粒子径の測定
各共重合体ラテックスの光子相関法による平均粒子径を測定した。尚、測定に際しては、FPAR−1000(大塚電子製)を使用した。
【0038】
共重合体ラテックスのゲル含有量の測定
80℃にて各共重合体ラテックスのラテックスフィルムを作製する。その後ラテックスフィルムを約1g秤量しXgとする。これを400mlのトルエンに入れ48時間膨潤溶解させる。その後、これを秤量済みの300メッシュの金網で濾過し、その後トルエンを蒸発乾燥させ、その乾燥後重量から金網重量を減じて、試料の乾燥後重量を秤量しYgとする。下記式よりゲル含量を計算した。
ゲル含量(%)=(Y/X)*100
【0039】
共重合体ラテックスフィルムのベタツキ性試験
バッキングロール等へのラテックスの付着しやすさの目安として、共重合体ラテックスのフィルムのベタツキ性(粘着性)について試験を行った。ポリエステルフィルムに各共重合体ラテックスを固形分で塗布量12g/m2になるように塗工し、120℃オーブン中で1分間乾燥後、1cm幅の短冊状に切る。黒色台紙上に合成した全ての共重合体ラテックスフィルムの短冊を並べて貼り付ける。
その上に、濾紙を重ねてRI印刷機を用い圧着する。その後、濾紙を剥がした後の、濾紙の繊維の各ラテックスフィルム表面上への付着状態を目視で判断し、各ラテックスフィルムのベタツキ性を比較した。繊維の付着の少ないものをベタツキ性に優れるとして◎、繊維の付着が多いものをベタツキ性に劣るとして×とし、下記のとおり相対的に評価した。
(優)◎ > ○ > △ > ×(劣)
【0040】
紙塗工用組成物の再分散性の評価
NBR黒ゴム板上に各組成物サンプルを並べて#6ワイヤーバーにて塗布し60℃熱風循環式オーブンにて3分間乾燥させた後、30℃の流水で1分間洗浄してNBR黒ゴム板上に残った組成物の皮膜を目視にて観察した。皮膜の残量の少ないものを再分散性に優れるとして◎、皮膜の残量の多いものを再分散性に劣るとして×とし、下記のとおり目視にて相対的に評価した。
(優)◎ > ○ > △ > × > ××(劣)
【0041】
塗工紙のドライピック強度の評価
RI印刷機で各塗工紙試料を同時に印刷した際のピッキングの程度を肉眼で判定し、5級(優)から1級(劣)まで相対的に目視評価した。
【0042】
塗工紙のウェットピック強度の評価
RI印刷機を用いてモルトンロールにより各塗工紙試料に同時に湿し水を付与し、その直後にインキロールにより各塗工紙試料を同時に印刷した際のピッキングの程度を肉眼で判定し、5級(優)から1級(劣)まで相対的に目視評価した。
【0043】
共重合体ラテックスの合成
耐圧製の重合反応器に、重合水150部、過硫酸カリウム1部を仕込み、十分攪拌した後、1段目として表1および表2の添加1に示す各単量体および他の化合物を加えて70℃に昇温して重合を開始した。1段目の単量体の重合転化率が50%を越えた時点で、表1および表2の添加2に示す各単量体および他の化合物を7時間掛けて連続添加した。更に重合を行い、重合転化率が98%を越えた時点で重合を終了した。
次いで、得られた共重合体ラテックスを、水酸化カリウム水溶液を用いて、pHを7に調製し、水蒸気蒸留により未反応単量体および他の低沸点化合物を除去し、共重合体ラテックス1〜10を得た。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
紙塗工用組成物の作製と評価
下記に示した配合処方に従って、上記合成にて得られた共重合体ラテックス1〜10を用い、水酸化ナトリウム水溶液でpH9.5に調整し、紙塗工用組成物を作製した。
(紙塗工用組成物の配合処方)
配合処方
カオリン 40部
重質炭酸カルシウム 60部
変性デンプン 2部
共重合体ラテックス 7部
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
固形分濃度 67%
【0047】
塗工紙の作製と評価
塗工原紙(坪量55g/m2)に、上記の紙塗工用組成物を片面あたりの塗被量が10g/m2となるようにワイヤーバーを用いて塗工し乾燥した後、線圧60kg/cm、温度50℃の条件でカレンダー処理を行って塗工紙を得た。得られた塗工紙を各試験に供して評価し、その結果を表3および表4に示した。
【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

【0050】
表3、4に示すとおり、本発明による共重合体ラテックス1〜4はいずれもラテックスフィルムのベタツキ性が良好で、かつこれらの共重合体ラテックスを使用した紙塗工用組成物はいずれも再分散性に優れ、得られた塗工紙のドライピック強度およびウェットピック強度が良好である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
上記のとおり、本発明の共重合体ラテックスは、ラテックスフィルムのベタツキ性に優れ、該共重合体ラテックスを使用した本発明の紙塗工用組成物は再分散性が良好であることから、塗工紙作成時の塗工操業性に優れ、塗工マシンの高速化にも対応することができる。また、本発明の紙塗工用組成物を塗工して得られた塗工紙は印刷時強度に優れることから、紙塗工用バインダー及び組成物として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族共役ジエン系単量体20〜70重量%、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体0.1〜20重量%およびこれらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体10〜79.9重量%から構成される単量体を乳化重合するに際し、分子量調整剤として下記のアルキルメルカプタンを単量体100重量部に対して使用することを特徴とする紙塗工用共重合体ラテックス。
(1)ウンデシルメルカプタン 0.0005〜0.6重量部、
(2)ドデシルメルカプタン 0.025〜1.8重量部、
(3)トリデシルメルカプタン 0.0005〜0.6重量部、
(4)テトラデシルメルカプタン 0〜0.2重量部
(5)その他のメルカプタン 0〜0.2重量部
【請求項2】
請求項1に記載の共重合体ラテックスを含有する紙塗工用組成物。


【公開番号】特開2012−92485(P2012−92485A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216211(P2011−216211)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】