説明

紙塗工用共重合体ラテックス

【課題】塗工紙の耐ブリスター性と接着強度の両方を同時に高い水準に向上させ、さらにウエットベタツキ性、紙塗工用組成物の再分散性に優れてバッキングロール汚れの十分な抑制効果を有する共重合体ラテックスの提供。
【解決手段】脂肪族共役ジエン系単量体、エチレン系不飽和酸単量体、シアン化ビニル類およびその他共重合可能な単量体を乳化重合して得られる、特定範囲の異なる粒子径とゲル含量に調節した2種類の共重合体ラテックスおよびこれを含有してなる塗工紙用組成物。本発明の共重合体ラテックスを含有してなる塗工紙用組成物を用いると、耐ブリスター性、接着強度およびロール汚れ防止性能に優れた塗工紙が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工紙における顔料バインダーに用いられる紙塗工用共重合体ラテックス、その共重合体ラテックスを含有する紙塗工用組成物に関するものである。さらに詳しくは、高い接着強度(ドライ強度及びウエット強度)と塗工操業性とを両立し、さらには塗工紙の耐ブリスター性と光沢性能に優れる紙塗工用共重合体ラテックス、紙塗工用組成物、オフセット印刷用塗工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
共重合体ラテックスは、塗工紙における顔料バインダー、カーペットバッキング剤、各種接着剤および粘着剤、繊維結合剤ならびに塗料など広範な用途に用いられてきた。これらの用途に用いられる共重合体ラテックスには、基材や配合される顔料などに対する優れた接着力が要求される。
【0003】
塗工紙は、抄造された紙の表面の平滑性を高め、光沢や印刷適正を向上させる目的で、原紙にカオリンクレー、炭酸カルシウム、サチンホワイト、タルク、酸化チタンなどの無機顔料およびプラスチック顔料などの有機顔料を塗布しており、これらの顔料のバインダーとしてジエン系共重合体ラテックスが一般的に用いられている。顔料バインダーとして用いられる共重合体ラテックスの性質は、これを利用した塗工紙の表面強度に大きな影響を及ぼすことが知られている。
【0004】
近年、カラー印刷された雑誌類やパンフレット、広告等の需要の増大に伴い、印刷速度の高速化が進められており、特にインクのタックによる紙の表面の破壊に対する抵抗性(いわゆるドライ強度及びウエット強度)の改善が以前にも増して要求されるようになった。また、塗工紙を生産する製紙メーカーにとっては、製品のコストダウンが主要課題の1つでもあり、共重合体ラテックスの使用割合を減らすことが要求され、この観点でも共重合体ラテックスの持つ性能としての接着強度(ドライ強度及びウエット強度)の改善が望まれている。
【0005】
また、印刷工程の高速化に伴い、オフセット輪転印刷機の普及が著しい。この印刷方式は、枚葉オフセット印刷と比較し、印刷直後に高温高速乾燥を行うために、乾燥時の紙中の水分蒸発に伴う火ぶくれ(ブリスター)防止が必要とされ、オフセット輪転印刷用塗工紙では、耐ブリスター性は極めて重要な要求特性の1つである。しかし、耐ブリスター性と、接着強度は、負の相関にあり、これらの特性間のバランスを十分に向上させることが益々重要となる。
【0006】
従来、この課題を克服するために、共重合体ラテックスの製造時に使用される連鎖移動剤により、生成するラテックスポリマーのゲル含量を50−90%に調節する方法が知られている(特許文献1)。
【0007】
しかし、塗工紙の接着強度は、バインダーとして添加される共重合体ラテックスのゲル含量が高いほど良好となるのに対して、耐ブリスター性はゲル含量が低いほど良好となることが認められており、接着強度と耐ブリスター性の両方を同時に高い水準に向上させる手段として、前記技術は、十分に満足しうるものではない。
【0008】
耐ブリスター性と、接着強度を向上させる技術として、異なる粒子径、ゲル含量の共重合体ラテックスを配合する方法が開示されている(特許文献2)。しかし、前記技術についても、印刷強度と耐ブリスター性を十分に満足しうるものではない。
【0009】
一方、塗工紙の製造は、先に述べた共重合体ラテックスを主バインダーとする塗工液が、原紙にフラッデドニップロールやジェットファウンテン方式によってアプリケートされ、ブレード等によって余分な塗工液が掻き取られ、塗工液の所定量を塗布し、乾燥するのが一般的な方法である。塗工紙は表裏両面に印刷されることが多く、このため塗工紙の生産では、原紙の片面(表面)に塗布乾燥後、もう一方の面(裏面)に同様な方法で処理が行われる。
【0010】
このブレードによる計量の際に塗工紙はブレードとバッキングロールとの間で高いシェアーと圧力を受け、特に裏面塗工時に表面の塗工層表層部分がバッキングロールに転移する、いわゆるバッキングロール汚れを発生することがあり、汚れの発生が著しくなると原紙の紙切れや頻繁な研磨によるロール洗浄の必要が生じ、生産性が低下する。この塗工操業性の改良には、一旦塗布・乾燥された塗工用組成物の、ロールへの転移を少なくすることが必要であり、共重合体ラテックスの粘着性を低減させることが有用であるとされている(特許文献3)。
【0011】
またバッキングロール汚れに対する別の対策の考え方として、一旦バッキングロールに転移した異物を、フロークリン水により容易に洗浄・除去させるという方法がある。即ち、紙塗工用組成物の水に対する再分散性を向上させることも有用とされている(特許文献3)。
【0012】
前記課題を解決するために、特定量の共役ジエン、エチレン系モノカルボン酸、エチレン系ジカルボン酸、及び共重合可能な他の単量体よりなる単量体を2段階以上の特定の工程に分割して共重合体を得ることが開示されている(特許文献3)。
【0013】
しかし、特許文献3の方法では、耐ベタツキ性、ラテックスの再分散性が十分ではない。
【0014】
【特許文献1】特開平10−330408号公報
【特許文献2】特開平8−325994号公報
【特許文献3】特開2002−234903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、塗工紙の耐ブリスター性と接着強度の両方を同時に高い水準に向上させ、さらにウエットベタツキ性、紙塗工用組成物としたときの再分散性に優れてバッキングロール汚れの十分な抑制効果を有する共重合体ラテックスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、これらの問題を解決するために鋭意研究の結果、まず、バッキングロールにはフロークリン水と呼ばれる少量の洗浄水がロール上に連続的に流されているため、共重合体ラテックスの粘着性については、水を介した状態でのベタツキ性、即ち、ウエットベタツキ性の向上が特に有効であることを見出し、さらに、バッキングロール汚れに対する対策であるウエットベタツキ性と再分散性はゲル含量が高いものほど良好であるが、ゲル含量が低いほど良好となる耐ブリスター性とは負の相関にあり、両方を高い水準で向上させるために、2種類の共重合体ラテックスを特定の割合で混合することにより、これを含有してなる塗工紙用組成物が、耐ブリスター性と接着強度の両方を同時に高い水準に向上させ、さらにウエットベタツキ性、紙塗工用組成物の再分散性に優れてバッキングロール汚れの十分な抑制効果を有する共重合体ラテックスを提供しうることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0017】
即ち、本発明は下記の通りである。
〔1〕 下記の共重合体ラテックス(A)と共重合体ラテックス(B)を固形分重量比で(A)/(B)=25/75〜5/95の割合で混合してなることを特徴とする紙塗工用共重合体ラテックス。
共重合体ラテックス(A):平均粒子径が110〜220nmでかつゲル含量が40%以下であり、かつ、ガラス転移領域の温度範囲が10〜45℃である共重合体ラテックス。
共重合体ラテックス(B):平均粒子径が120nm以下でかつゲル含量が60%以上の共重合体ラテックス。
〔2〕 前記共重合体ラテックス(A)が、下記の(a)から(d)からなる単量体を合計で100重量部となるように乳化重合して得られた共重合体ラテックスであることを特徴とする〔1〕に記載の紙塗工用共重合体ラテックス。
(a)脂肪族共役ジエン系単量体 20〜50重量部
(b)エチレン系不飽和酸単量体 0.5〜10重量部
(c)シアン化ビニル類 5〜30重量部
(d)その他共重合可能な単量体 10〜74.5重量部
〔3〕 前記(c)シアン化ビニル類が、アクリロニトリルであることを特徴とする〔2〕に記載の紙塗工用共重合体ラテックス。
〔4〕 前記乳化重合は、下記の工程(I)および工程(II)により行うことを特徴とする〔2〕または〔3〕に記載の紙塗工用共重合体ラテックス。
(I)単量体(a)の一部量、単量体(c)の一部量、単量体(d)の一部量および単量体(b)の全量を一括添加して重合する工程
(II)単量体(a)の残量、単量体(c)の残量、単量体(d)の残量を1段階または2段階以上に分けて連続添加して重合する工程
〔5〕 〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の紙塗工用共重合体ラテックスを含有することを特徴とする紙塗工用組成物。
〔6〕 〔5〕に記載の紙塗工用組成物を原紙の表面に塗工したことを特徴とするオフセット印刷用塗工紙。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、紙に塗工した場合に、耐ブリスター性、接着強度およびロール汚れ防止性能のいずれにもバランスよく優れた塗工紙を得ることができる紙塗工用共重合体ラテックス、これを利用した紙塗工用組成物およびオフセット印刷用塗工紙が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明の紙塗工用共重合体ラテックスは、共重合体ラテックス(A)と共重合体ラテックス(B)を固形分重量比で(A)/(B)=25/75〜5/95の割合で混合してなることを特徴とする。
【0021】
共重合体ラテックス(A)は、平均粒子径が110〜220nmでかつゲル含量が40%以下であり、ガラス転移領域の温度範囲が10〜45℃である共重合体ラテックスである。
【0022】
共重合体を構成する単量体としては、得られる共重合体ラテックス(A)が上記の範囲を満たすものであれば特に限定されないが、一般的には、(a)脂肪族共役ジエン系単量体、(b)エチレン系不飽和酸単量体、(c)シアン化ビニル類、(d)その他共重合可能な単量体が挙げられる。
【0023】
(a)脂肪族共役ジエン系単量体の例としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン等をあげることができ、特に1,3−ブタジエンが好適に使用される。単量体(a)の配合割合は、単量体(a)〜(d)の合計量を100重量部として20〜50重量部であることが好ましく、25〜40重量部であることが特に好ましい。この使用量が前記範囲よりも少ない場合は十分な接着強度が得られないおそれがあり、また多すぎると耐水性、接着強度およびロール汚れ防止性能が低下するおそれがあるので好ましくない。
【0024】
(b)エチレン系不飽和酸単量体の例としては、アクリル酸、メタアクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸類、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のジカルボン酸類およびその無水物、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類、ハーフエステル類、スチレンスルホン酸、2−スルホエチルアクリレート、アクリルアミドプロパンスルホン酸等のスルホン酸基含有不飽和単量体およびその塩等が挙げられる。このうち、ジカルボン酸類及びその無水物、メタクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸エステル類が好ましい。単量体(b)の配合割合は、単量体(a)〜(d)の合計量を100重量部として0.5〜10重量部であることが好ましく、3〜7重量部であることが特に好ましい。この使用量が前記範囲外では、共重合体ラテックスの安定性、接着強度が不十分であったり、また共重合体ラテックスおよびこれを含有する塗工紙用組成物の粘度またはハイシェア粘度が高くなりすぎ作業性に劣る場合がある。
【0025】
(c)シアン化ビニル類の例としては、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられ、本発明では、アクリロニトリルが好ましい。
【0026】
単量体(c)の配合割合は、単量体(a)〜(d)の合計量を100重量部として5〜30重量部であることが好ましく、10〜20重量部であることが特に好ましい。
【0027】
(d)その他共重合可能な単量体は、上記の単量体(a)、(b)および(c)の少なくとも1つまたは2つ以上と共重合可能な単量体を意味する。その例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体を挙げることができる。このうち、特に芳香族ビニル単量体としてはスチレンが好適に使用される。
【0028】
さらに、(d)その他共重合可能な単量体の例として、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等のエチレン系不飽和カルボン酸アミドおよびそのN−置換化合物、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル等の水酸基含有不飽和単量体類、(メタ)アクリル酸グリシジル等のグリシジル基含有不飽和単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類等が挙げられる。
【0029】
単量体(d)の配合割合は、単量体(a)〜(d)の合計量を100重量部として10〜74.5重量部であることが好ましく、40〜60重量部であることが特に好ましい。
【0030】
単量体(c)と単量体(d)の配合割合は、合計で、単量体(a)〜(d)の合計量を100重量部として40〜79.5重量部であることが好ましい。この使用量が前記範囲外では、十分な接着強度が得られなかったり、光沢発現性やインキ乾燥性が不十分になる恐れがある。
【0031】
本発明において、共重合体ラテックス(A)の製法は特には限定されないが、乳化重合によることが好ましい。原料となる単量体については上述したとおりである。共重合体の乳化重合は、例えば、攪拌機を備えると共に温度調整可能なオートクレーブ中に、水、前記各単量体(a)(b)(c)(d)、乳化剤、及び重合開始剤を添加して行うことができる。
【0032】
単量体の添加は、二段階以上の工程に分割して行うことが好ましい。例えば、下記の2工程(I)および(II)により行うことができる。
(I)単量体(a)の一部量、単量体(c)の一部量、単量体(d)の一部量および単量体(b)の全量を一括添加して重合する工程
(II)単量体(a)の残量、単量体(c)の残量、単量体(d)の残量を1段階または2段階以上に分けて連続添加して重合する工程
【0033】
工程(I)(第一工程)においては、単量体(a)の一部量、単量体(c)の一部量、単量体(d)の一部量、および単量体(b)の全量を一括添加し、重合反応を行う。第一工程において、添加する単量体(a)、(c)および(d)としては、全工程で添加する全量の10重量%〜20重量%が好ましく、特に好ましくは14重量%〜16重量%である。各単量体を2種類以上用いる場合には、各単量体によって異なる添加率としてもよい。反応温度は、55℃〜65℃が好ましく、特に59℃〜61℃が好ましい。
【0034】
続く、工程(II)(第二工程)においては、第一工程で添加しなかった残りの単量体(a)と単量体(c)と単量体(d)を、ポンプ等を用いて、連続的に追加し重合反応を行う。反応の温度は、工程(I)よりも好ましくは5〜20℃、より好ましくは5〜15℃(10℃程度)高温であることが好ましい。連続添加時間は、4〜6時間が好ましく、特には5時間前後であることが好ましい。連続添加にかける時間が、短すぎると、ラテックス粒子の構造は、一括添加した場合と近いものになるので、好ましくない。
本発明では、上記のように重合反応を二段階とすることにより、第一工程でラテックス粒子のコア部分を作り、第二工程で、コア部分の外側に少しずつ単量体を付加でき、ラテックス粒子は、ソフトコアハードシェル構造になるものと推測される。
【0035】
工程(II)は各単量体の所定量を一段階で連続添加してもよいし、二段階以上に分割しても良い。また、二段階以上に分割する場合、連続添加の前半の工程と後半の工程で、単量体(c)の添加量を変えても良い。工程(II)を二段階に分割する場合は、単量体(a)と単量体(d)は、工程(I)および工程(II)の前半の添加量の合計量と、工程(II)の後半の添加量とが等量となるように添加することもできるが、添加割合が〔工程(I)+工程(II)の前半〕/〔工程(II)の後半〕=40/60となることが好ましい。
【0036】
一方、単量体(c)の連続添加する工程、すなわち工程(II)を二段階に分割した場合、単量体(c)の好ましい添加量は、以下の通りである。
【0037】
まず、(第一工程(一括添加)と第二工程(連続添加)の前半)/第二工程(連続添加)の後半=100/0〜50/50が好ましく、特に好ましくは、前半/後半=95/5〜85/15である。
【0038】
また、単量体(c)の第一工程(一括添加工程)と第二工程(連続添加)の前半の添加比率は、第一工程の添加量10/50〜20/50に対し第二工程の前半の添加量30/50〜40/50の範囲とすることが好ましい。特に、第一工程が15/50で第二工程の前半が35/50が最も好ましい。例えば、第一工程の添加比率と第二工程の前半の添加比率が15/50、35/50で、かつ(第一工程(一括添加)と第二工程(連続添加)の前半)/第二工程(連続添加)の後半=95/5であった場合、単量体(c)の添加量全体に対する各工程での添加比率は、以下の式で算出される。
(式1−1)第一工程(一括添加)の添加率x(%)=95×15/50
(式1−2)第二工程(連続添加)の前半の添加率y(%)=95×35/50
(式1−3)第二工程(連続添加)の後半の添加率z(%)=100−(x+y)
【0039】
工程(II)において、単量体(c)の連続添加を少なくとも二段階に分けることにより、共重合体ラテックス(A)のコアシェル構造を、ラテックス粒子の内側(コア部分)に向けて外側から次第に柔らかくなる連続異層型構造とすることができると推測する。連続異相型構造となることにより、外部からの衝撃を吸収しやすくなり、強度の低下を抑制できるものと推測する。そのため、本発明においては、単量体(c)を二段階に分割して連続添加する方法が、より好ましい。
【0040】
本発明において共重合体ラテックス(A)の乳化共重合に使用される重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩、過酸化水素等の水溶性開始剤、あるいはこれらと重亜硫酸ナトリウム、アミン類等の還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤が好適であり、水溶性のアゾ系開始剤、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリル等の油溶性開始剤等も使用できる。また、重合状態を調整するために、重合抑制剤を使用することもできる。
【0041】
また、乳化共重合する際に、生成する共重合体ラテックス(A)の粒子径を調節するとともに、共重合体ラテックスに十分な安定性を付与するために乳化剤を使用することができる。使用される乳化剤の例としては、高級アルコールの硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテル(ジ)スルホン酸塩等のアニオン性界面活性剤、ポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルフェニルエーテル型、アルキルエーテル型等のノニオン性界面活性剤、およびベタイン型等の両性界面活性剤が単独または2種類以上組み合わせて用いられる。乳化剤の添加量は、通常、各単量体の合計100重量部に対して0.1〜1.0重量部、中でも0.2〜0.8重量部、好ましくは0.2〜0.6重量部の範囲で定めることができる。共重合体ラテックスの平均粒子径を大きくするためには、乳化剤を減配することが好ましく、例えば0.2〜0.5重量部、好ましくは0.2〜0.4重量部とすることができる。一方、共重合体ラテックスの平均粒子径を小さくするためには、乳化剤を増配することが好ましく、例えば0.5〜1.0重量部、好ましくは0.6〜0.8重量部とすることができる。尚、共重合体ラテックス(A)の製造における乳化剤の添加時期は重合開始時が好ましく、また、前記した単量体を分割添加する場合の乳化剤の乳化重合における添加も工程(I)における一括添加が好ましい。
【0042】
本発明の共重合体ラテックス(A)の製造に使用する連鎖移動剤の例としては、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、メルカプトエタノール、メルカプトプロピオン酸およびそのエステル等の硫黄元素含有化合物、テトラエチルチウラムスルフィド等のスルフィド類、四塩化炭素等のハロゲン化アルキル類、ターピノーレン等のテルペノイド類、α−メチルスチレンダイマー等の一般に乳化共重合反応における分子量の調節に用いられる連鎖移動剤を単独あるいは二種類以上の混合物として使用できる。共重合体ラテックス(A)の製造における連鎖移動剤の添加時期は重合開始時が好ましく、また、前記した単量体を分割添加する場合の連鎖移動剤の乳化重合における添加は、単量体(a)、(c)及び(d)と共に分割添加することが好ましい。分割添加する際の添加比率については、工程(I)/工程(II)=10〜20/80〜90が好ましく、14〜16/84〜86がより好ましい。更に、工程(II)を2段階以上に分割して行う場合、例えば工程(II)における添加量を前半/後半で30〜50/50〜70が好ましく、35〜45/55〜65がより好ましい。連鎖移動剤の添加量は、通常、各単量体の合計100部に対して0.5〜4.0重量部、好ましくは1.0〜3.0重量部の範囲で定めることができる。
【0043】
本発明の共重合体ラテックス(A)の平均粒子径は、110nm〜220nm、好ましくは130〜210nmであることが好ましい。平均粒子径は、乳化剤の配合量や種類によって、調整することが可能である。粒子径を上記の範囲にするためには、例えば、各単量体の合計100部に対して、乳化剤を0.2〜1.0部添加すればよい。
【0044】
本発明の共重合体ラテックス(A)のゲル含量は40%以下であり、20%以下であることが好ましい。下限は特に規定されないが、通常は10%以上である。なおゲル含量は、以下の(式2)により算出されるものであり、測定方法は後述する。ゲル含量のコントロールは連鎖移動剤の量や種類を変える等公知の方法で行うことができる。例えば、上記記載の連鎖移動剤を増加させることで、ゲル含量を低くする等の調整をすることが出来る。
【0045】
【数1】

【0046】
本発明の共重合体ラテックス(A)のガラス転移領域の温度範囲は、10〜45℃が好ましく、特に好ましくは、20〜40℃である。本発明におけるガラス転移領域の温度範囲とは、ガラス転移開始点からガラス転移終了点までの温度差をいう。
【0047】
本発明者らの研究により、共重合体ラテックスの粒子構造が、印刷強度に影響することが分かっており、共重合体ラテックス自体に強度を付加するため、その粒子構造を外部からの衝撃を緩和できるような構造に変化させることで、ラテックス自体に強度を付与し、印刷強度の低下を抑制できることを見出した。すなわち、ラテックス粒子の内側が柔らかく、外側が硬いソフトコアハードシェル構造または、ラテックス粒子の内側(コア部分)に向けて外側から次第に柔らかくなる連続異層型構造が、適していることを見出した。特に、本発明においては、連続異層型構造の粒子構造が、うまく衝撃を吸収することが出来、強度も高くなるため、好ましい。そして、そのような構造にするためには、ガラス転移領域の温度範囲を10〜45℃にすればよい。ガラス転移領域の温度範囲が、10〜45℃以外の範囲では、塗工紙用組成物の耐ブリスター性および接着強度が低くなる。
【0048】
共重合体ラテックス(B)としては、平均粒子径が120nm以下でかつゲル含量が60%以上の共重合体ラテックスが挙げられる。
【0049】
共重合体の単量体としては、上記の範囲を満たすものであれば特に限定されないが、一般的には、本発明の共重合体ラテックス(A)と同様な単量体を用いることができるすなわち、(a)脂肪族共役ジエン系単量体、(b)エチレン系不飽和酸単量体、(c)シアン化ビニル類、(d)その他共重合可能な単量体を単量体として用いることが好ましい。単量体(a)〜(d)の具体例については、すでに共重合体ラテックス(A)について説明したとおりである。また、単量体(a)の添加量は20〜50重量部であることが好ましく、特に、25〜40重量部であることが好ましい。単量体(b)の添加量は0.5〜10重量部であることが好ましく、特に、3〜7重量部であることが好ましい。単量体(c)の添加量は5〜30重量部であることが好ましく、特に、10〜20重量部であることが好ましい。単量体(d)の添加量は、10〜74.5重量部であることが好ましく、特に、40〜60重量部であることが好ましい。尚、上記の添加量は、4つの単量体の合計を100重量部とした場合で表している。
【0050】
共重合体ラテックス(B)の製造は、乳化重合によることが好ましく、上記の単量体(a)〜(d)を用いる場合には、一括添加によることもできるし、分割添加によることもできる。分割添加による乳化重合の場合には、共重合体ラテックス(A)の製造の場合と同様の工程(I)および(II)の二段階で重合を進めることが好ましい。乳化重合において添加できる乳化剤、重合開始剤についても、共重合体ラテックス(A)と同様である。乳化剤の添加量は、単量体の合計量を100重量部とした場合に0.5〜2.0重量部であることが好ましく、0.6〜1.2重量部であることが好ましい。重合開始剤の添加量は、0.5〜1.5重量部であることが好ましく、0.8〜1.2重量部であることが好ましい。
【0051】
本発明において共重合体ラテックス(B)の平均粒子径は、120nm以下、特に110nm以下であることが好ましい。下限は特に限定されないが、50nm以上であることが好ましい。平均粒子径の調整は、本発明の共重合体ラテックス(A)と同様に乳化剤の添加量の調整によることができる。粒子径を上記の範囲にするためには、例えば、各単量体の合計100部に対して、乳化剤を0.6部以上添加すればよい。
【0052】
本発明において共重合体ラテックス(B)のゲル含量は60%以上、好ましくは70%以上であることが好ましい。また上限は特に規定されないが通常は95%以下である。なおゲル含量は、前記の(式2)により算出されるものであり、ゲル含量のコントロールは連鎖移動剤の量や種類を変える等公知の方法で行うことができる。例えば、上記記載の連鎖移動剤を増加させることで、ゲル含量を低くする等の調整をすることが出来る。
【0053】
本発明において共重合体ラテックス(A)と(B)の平均粒子径は、前記の範囲、すなわち、(A)の平均粒子径DA(nm)および(B)の平均粒子径DB(nm)が、110≦DA≦220、DB≦120の関係を満たすことが好ましい。この関係を満たさないと、塗工紙用組成物の耐ブリスター性および接着強度が不十分になる等の問題を生じることがある。
【0054】
本発明において共重合体ラテックス(A)および(B)のゲル含量GA(%)およびGB(%)は、GA≦40、GB≧60の関係を満たすことが好ましい。上記範囲外では、ロール汚れ防止性能が低下したり、塗工紙用組成物の耐ブリスター性および接着強度が不十分になる等の問題を生じることがある。
【0055】
本発明において共重合体ラテックス(A)および(B)の混合比率は、固形分重量比で、(A)/(B)=25/75〜5/95の範囲にあることが好ましく、20/80〜10/90の範囲にあることが特に好ましい。上記範囲外では、ロール汚れ防止性能が低下したり、塗工紙用組成物の耐ブリスター性および接着強度が不十分になる等の問題を生じることがある。
【0056】
上記本発明の共重合体ラテックスは、紙塗工用のラテックスとして用いることができ、紙塗工用組成物として利用することができる。紙塗工用組成物とした場合は、本発明の紙塗工用ラテックスのほかに適宜他の添加物を添加することができる。例えば顔料として、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、サチンホワイト、酸化チタン、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛等の無機顔料、ポリスチレン、SBRおよびフェノール樹脂等の有機顔料が単独あるいは二種以上の組み合わせで使用されうる。その他、分散剤、耐水化剤、粘度調整剤、消泡剤、保水剤、染料、蛍光染料、滑剤、pH調節剤、界面活性剤、防腐剤、その他助剤、添加剤類等を必要に応じて添加することが出来る。
【0057】
また、本発明の紙塗工用組成物におけるバインダーとしては、必要に応じて、デンプン、カゼイン、ポリビニルアルコールなどの水溶性ポリマー、ポリ酢酸ビニル、アクリル酸エステル共重合体などのラテックスを併用することができる。
【0058】
本発明の紙塗工用組成物における紙塗工用共重合体ラテックスの含有割合は特に限定されないが、顔料(固形分)に対して、通常5〜30重量部(固形分)の範囲で適宜定めることができる。
【0059】
本発明の紙塗工用組成物は、原紙の表面に塗工してオフセット印刷用塗工紙として利用することができる。
【0060】
本発明において塗工用原紙には、通常のパルプ、填料等が配合される。
本発明において原紙に配合されるパルプの種類等は特に限定されない。例えば、広葉樹クラフトパルプ(以下、LBKPとする)、針葉樹クラフトパルプ(以下、NBKPとする)、サーモメカニカルパルプ、砕木パルプ、古紙パルプ等が使用される。また、原紙に配合される填料としては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリン、クレー、タルク、水和珪酸、ホワイトカーボン、酸化チタン、合成樹脂填料などの公知の填料を使用することができる。これら填料は、紙料スラリーの抄紙適性や強度特性を調節する目的で、単独または2種以上を混合して使用しても良い。填料の使用量は、パルプ重量に対して3〜20重量%が好ましい。さらに必要に応じて、硫酸バンド、サイズ剤、紙力増強剤、歩留まり向上剤、着色顔料、染料、消泡剤などを含有してもよい。
【0061】
原紙の抄紙方法については特に限定されるものではなく、ギャップフォーマーマシン、トップワイヤー等を含む長網マシン、丸網マシン等を用いて、酸性抄紙、中性抄紙、アルカリ性抄紙方式で抄紙した原紙のいずれであってもよく、もちろん、メカニカルパルプを含む中質原紙も使用できる。また、必要に応じて原紙をスーパーカレンダー、ソフトカレンダー等の平滑化処理を前以って施しておくこともできる。また、サイズプレス、ゲートロールコーター、ビルブレード等を用いて、澱粉、ポリビニルアルコールなどを予備塗工した原紙も使用できる。
【0062】
原紙としては、一般の塗工紙に用いられる坪量が25〜400g/m2程度の塗工原紙を用いることができるが、好ましくは坪量が30〜100g/m2の塗工原紙である。
【0063】
本発明おいて、表面強度向上の目的で、塗工原紙に澱粉を主成分とする表面処理剤の塗布を行ってもよい。澱粉としては、酸化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉、酵素変性澱粉等の、表面処理剤として通常使用されるものを単独、あるいはこれらの混合物を使用することができる。澱粉の塗布量は、0.2〜2.5g/m2が好ましく、より好ましくは、0.3〜2.0g/m2である。また、表面処理剤の中には、澱粉のほかに耐水化、表面強度向上を目的とした紙力増強剤やサイズ性付与を目的とした外添サイズ剤を添加することができる。表面処理剤は2ロールサイズプレスコーターや、ゲートロールコーター、ブレードメタリングサイズプレスコーター、およびロッドメタリングサイズプレスコーターなどのフィルム転写型ロールコーター等の塗工機によって塗布することができる。塗工機はゲートロールコーターなどのフィルム転写型ロールコーターを使用することが好ましい。フィルム転写型ロールコーターで塗工した場合、2ロールサイズプレスコーターと比較して表面処理剤が紙表面に留まりやすいため、低塗布量で高い表面強度をもつ塗工紙が得られ、塗布量を低くすることで折り部の強度低下はより小さくなる。
【0064】
また、塗工層に含有される顔料としてはとくに限定されるものではなく、塗工紙用に従来から用いられている、カオリン、クレー、デラミネーテッドクレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、タルク、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、ケイ酸、ケイ酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイトなどの無機顔料、プラスチックピグメントなどの有機顔料を、必要に応じて1種類以上を選択して使用できる。
【0065】
さらに助剤として必要に応じて、分散剤、増粘剤、保水剤、消泡剤、着色剤、離型剤、流動変性剤、耐水化剤、防腐剤、印刷適性向上剤など、通常の塗工紙用塗料組成物に配合される各種助剤が適宜使用される。
【0066】
調製された塗料組成物を原紙に塗工するための方法としては、2ロールサイズプレスコーターや、ゲートロールコーター、およびブレードメタリングサイズプレスコーターおよびロッドメタリングサイズプレスコーター、シムサイザー、JFサイザー等のフィルム転写型ロールコーターや、フラデッドニップ/ブレードコーター、ジェットファウンテン/ブレードコーター、ショートドウェルタイムアプリケート式コーターの他、ブレードの替わりにグルーブドロッド、プレーンロッド等を用いたロッドメタリングコーターや、エアナイフコーター、カーテンコーターまたはダイコーター等の公知のコーターにより塗工することができる。塗工量は、原紙の片面あたり5〜30g/m2が好ましく、より好ましくは15〜25g/m2である。塗工層は必要に応じて1層あるいは2層以上の層を設け、多層とすることも可能である。なお、多層にする場合、各の塗工液は同一組成である必要はなく、とくに限定されるものではない。また、白紙光沢、平滑性向上、および印刷光沢度向上等のため、乾燥された塗工紙を平滑化などの表面処理を行う。表面処理の方法としては弾性ロールにコットンロールを用いたスーパーカレンダーや、弾性ロールに合成樹脂ロールを用いたソフトニップカレンダー、ブラシ掛け等公知の表面処理装置を用いることができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0068】
[製造例1〜製造例4] 二段階反応による共重合体ラテックスa−1〜a−4の製造
第一工程において、攪拌機を備えると共に温度調整可能なオートクレーブ中に、水、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタン、及び重合開始剤として過硫酸カリウム、各単量体を表1に示す割合で一括添加し、60℃で1時間重合反応を行った後、第二工程として、70℃に昇温後、残りの単量体を、ポンプを使用して、ポンプ流量2.9ml/分で連続的に添加して、すべての単量体を添加し終わるまで(5時間)、重合反応を行った。共重合体ラテックスa−1〜a−4のそれぞれの組成および物性評価の結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
[製造例5〜製造例7] 三段階反応による共重合体a−5〜a−7の製造
第一工程において、攪拌機を備えると共に温度調整可能なオートクレーブ中に、水、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタン、及び重合開始剤として過硫酸カリウム、各単量体を表2に示す割合で一括添加し、60℃で1時間重合反応を行った後、第二工程として、70℃に昇温後、表2に示す割合で単量体をポンプを使用して、ポンプ流量2.9ml/分で連続的に添加して、すべての単量体を添加し終わるまで(2時間)、重合反応を行った。その後、第三工程として、残りの単量体をポンプを使用して、ポンプ流量2.9ml/分で連続的に添加して、すべての単量体を添加し終わるまで(3時間)、重合反応を行った。共重合体ラテックスa−5〜a−7のそれぞれの組成および物性評価の結果を表2に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
[製造例8〜製造例10] 二段階反応による共重合体ラテックスa−8〜a−10の製造
第一工程において、攪拌機を備えると共に温度調整可能なオートクレーブ中に、水、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタン、及び重合開始剤として過硫酸カリウム、各単量体を表3に示す割合で一括添加し、60℃で1時間重合反応を行った後、第二工程として、70℃に昇温後、残りの単量体を、ポンプを使用して、ポンプ流量2.9ml/分で連続的に添加して、すべての単量体を添加し終わるまで(5時間)、重合反応を行った。共重合体ラテックスa−8〜a−10のそれぞれの組成および物性評価の結果を表3に示す。
【0073】
[製造例11] 三段階反応による共重合体ラテックスa−11の製造
第一工程において、攪拌機を備えると共に温度調整可能なオートクレーブ中に、水、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタン、及び重合開始剤として過硫酸カリウム、各単量体を表3に示す割合で一括添加し、60℃で1時間重合反応を行った後、第二工程として、70℃に昇温後、表2に示す割合で単量体をポンプを使用して、ポンプ流量2.9ml/分で連続的に添加して、すべての単量体を添加し終わるまで(2時間)、重合反応を行った。その後、第三工程として、単量体(c)の残量をポンプを使用して、ポンプ流量2.9ml/分で連続的に添加して、すべて添加し終わるまで(3時間)、重合反応を行った。共重合体ラテックスa−11の組成および物性評価の結果を表3に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
[製造例12] 二段階反応による共重合体ラテックスb−1の製造
第一工程において、攪拌機を備えると共に温度調整可能なオートクレーブ中に、水、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタン、及び重合開始剤として過硫酸カリウム、各単量体を表4に示す割合で一括添加し、60℃で1時間重合反応を行った後、第二工程として、70℃に昇温後、残りの単量体を、ポンプを使用して、ポンプ流量2.9ml/分で連続的に添加して、すべての単量体を添加し終わるまで(5時間)、重合反応を行った。共重合体ラテックスb−1の組成および物性評価の結果を表4に示す。
【0076】
【表4】

【0077】
尚、表1〜4に示す各共重合体ラテックスの物性評価は、下記のようにして行った。
【0078】
[1.粒子径]
光散乱法粒度分布計(ゼータサイザー 3000HSA(MALNERN社製))により、平均粒子径を測定した。
【0079】
[2.ゲル含量]
乾燥機100℃にて、共重合体ラテックスを乾燥させ、ラテックスフィルムを作製する。その後ラテックスフィルム1.0グラムを正確に秤量後、100ccのトルエンに入れ24時間放置溶解し濾過後、乾燥し、トルエン不溶分(ゲル)を測定し、前記式(2)に基づきゲル含量を算出する。
【0080】
[3.ガラス転移温度]
乾燥機100℃にて、共重合体ラテックスを乾燥させ、ラテックスフィルムを作製し、このフィルムを示差走査熱量計(セイコー インスツルメント社製DSC−6200)を用いて、昇温速度30℃/minで測定した。ガラス転移温度は、DSC曲線をさらに温度で微分した、DSC曲線のピーク位置をもってガラス転移温度とした。
【0081】
[4.ガラス転移領域温度範囲]
ガラス転移開始点からガラス転移終了点までの温度差を、示差走査熱量計(セイコー インスツルメント社製DSC−6200)を用いて得られたチャートから以下の式で算出する。(図1の矢印の領域に相当する)
【0082】
(式3)ガラス転移領域温度範囲(℃)=ガラス転移終了点−ガラス転移開始点
なお、図1には共重合体a−5のガラス転移温度およびガラス転移領域を示す。
【0083】
[実施例1−8、比較例1−5]
製造例で製造した共重合体a−1〜a−11とb−1を表5と表6に示す割合で配合し、得られる共重合体ラテックスの性能評価を行った。性能評価の結果は表5と表6に示す。
【0084】
性能評価に用いた塗工液の配合処方は、以下の通りである。
【0085】
(塗工液の配合処方)
カオリンクレー 70重量部
重質炭酸カルシウム 30重量部
分散剤 0.3重量部
NaOH 0.1重量部
酸化澱粉 3重量部
共重合体ラテックス 12重量部
塗工液濃度 65%
【0086】
尚、表5と表6に示す各共重合体ラテックスの物性評価は、下記のようにして行った。
【0087】
[1.再分散性]
ゴム板にマイヤーバーを用い、共重合体ラテックスを塗布し、乾燥機80℃30秒にて乾燥後、水につけて軽く擦りラテックスフィルムの塗工層の落ちやすさを二重丸、○、△、×の4段階で評価する。バッキングロール表面に取られた塗工層の洗浄しやすさの指標である。
【0088】
[2.ウエットベタツキ性]
OHPシートにマイヤーバーを用い、共重合体ラテックスを塗布し、乾燥機130℃にて乾燥後、濡れた状態の黒ケント紙と重ねて、60℃のカレンダーロールに通し、黒ケント紙へのフィルムの取られ方を二重丸、○、△、×の4段階で評価する。塗工層とバッキングロールの粘着性の指標である。
【0089】
[3.ドライ強度]
上記塗工液を、坪量30g/m2となるように両面ブレードで塗工し、23℃、50%RHの恒温恒湿室にて12時間調湿した。これをスーパーカレンダーで、ロール温度50℃、線圧147000N/mの条件で片面2回ずつ通紙し、塗工紙のサンプルを得た。
【0090】
塗工紙を、RI−II型印刷機(明製作所製)及び、東京インキ社製のピッキングテスト用インキ(TV−24)を用いて印刷を行い、印刷面のピッキングの程度を目視で1(劣)〜5(優)の5段階で評価する。評価が3以上であれば実用上問題ない。
【0091】
[4.ウエット強度]
3で作成した塗工紙を、RI−I型印刷機(明製作所製)及び、東京インキ社製のピッキングテスト用インキ(TV−24)を用いて、塗工サンプルが水に濡れた状態で印刷を行い、印刷面のピッキングの程度を目視で1(劣)〜5(優)の5段階で評価する。評価が3以上であれば実用上問題ない。
【0092】
[5.耐ブリスター性]
3で作成した塗工紙を、RI−II型印刷機(明製作所製)及び、東洋インキ社製のオフセット印刷用インキ(商品名TKハイユニティSOY617墨MZ)を用いて試験片の両面の印刷を行った。印刷後の試験片を、恒温室(20℃、50%RH)で24時間調湿した後、出力可変のヒーティングガンの熱風で3秒加熱し、ブリスターが発生する熱風の最低温度を求めた。
【0093】
[6.インキ乾燥性]
3で作成した塗工紙を、RI−II型印刷機(明製作所製)及び、東洋インキ社製のオフセット印刷用インキ(商品名TKハイユニティSOY617墨MZ)を用いて試験片に印刷し、1分後に転写紙に転写を行い、白色度計によりインキの乾燥性を測定した。尚、ここでインキ乾燥性の値が低いほど、インキ乾燥性が速いことを表す。
【0094】
【表5】

【0095】
【表6】

【0096】
実施例1〜8で得られる共重合体ラテックスは、比較例1〜5のものと比較して、高い耐ブリスター性と接着強度を持ち、さらに優れたウエットベタツキ性と再分散性を兼ね備えていることを確認できる。
【0097】
特に、実施例5〜6および8より、共重合体ラテックス(A)のガラス転移温度の温度範囲が20℃〜40℃であれば、さらに高い耐ブリスター性と接着強度を有していることが確認できる。
【0098】
比較例2より、共重合体ラテックス(A)の混合割合が30%を超えると、ウエットベタツキ性が低下する。比較例3より、共重合体ラテックス(A)のゲル含量が40%を超えると、ウエット強度が低下する。比較例4より、共重合体ラテックス(A)の粒子径が小さすぎると、耐ブリスター性が低下する。比較例5より、共重合体ラテックス(A)の粒子径が大きすぎると、ドライ強度およびウエット強度が低下する。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】共重合体ラテックス(A)のガラス転移温度およびガラス転移領域の一例を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の共重合体ラテックス(A)と共重合体ラテックス(B)を固形分重量比で(A)/(B)=25/75〜5/95の割合で混合してなることを特徴とする紙塗工用共重合体ラテックス。
共重合体ラテックス(A):平均粒子径が110〜220nmでかつゲル含量が40%以下であり、かつ、ガラス転移領域の温度範囲が10〜45℃である共重合体ラテックス。
共重合体ラテックス(B):平均粒子径が120nm以下でかつゲル含量が60%以上の共重合体ラテックス。
【請求項2】
前記共重合体ラテックス(A)が、下記の(a)から(d)からなる単量体を合計で100重量部となるように乳化重合して得られた共重合体ラテックスであることを特徴とする請求項1に記載の紙塗工用共重合体ラテックス。
(a)脂肪族共役ジエン系単量体 20〜50重量部
(b)エチレン系不飽和酸単量体 0.5〜10重量部
(c)シアン化ビニル類 5〜30重量部
(d)その他共重合可能な単量体 10〜74.5重量部
【請求項3】
前記(c)シアン化ビニル類が、アクリロニトリルであることを特徴とする請求項2に記載の紙塗工用共重合体ラテックス。
【請求項4】
前記乳化重合は、下記の工程(I)および工程(II)により行うことを特徴とする請求項2または3に記載の紙塗工用共重合体ラテックス。
(I)単量体(a)の一部量、単量体(c)の一部量、単量体(d)の一部量および単量体(b)の全量を一括添加して重合する工程
(II)単量体(a)の残量、単量体(c)の残量、単量体(d)の残量を1段階または2段階以上に分けて連続添加して重合する工程
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の紙塗工用共重合体ラテックスを含有することを特徴とする紙塗工用組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の紙塗工用組成物を原紙の表面に塗工したことを特徴とするオフセット印刷用塗工紙。

【図1】
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【公開番号】特開2009−243004(P2009−243004A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92822(P2008−92822)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(502368059)日本製紙ケミカル株式会社 (86)
【Fターム(参考)】