説明

紙容器入りパン及びその製造方法

【課題】災害時の緊急食料を想定した、食味、栄養性および保存性に優れたパンおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】糊化した小麦粉生地と、タンパク質素材および/あるいは微量栄養成分含有素材と、の混合物に、未糊化の小麦粉を混合してパン生地を作製する工程と、前記パン生地を発酵させる工程と、発酵したパン生地を耐熱性紙容器中で焼成する工程と、前記耐熱性紙容器を密閉した状態で、前記耐熱性紙容器およびその内容物を滅菌する工程と、を含む紙容器入りパンの製造方法並びに当該方法によって製造された紙容器入りパン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、災害時の緊急食糧を想定した、食味、栄養性および保存性に優れたパンおよびその製造方法に関するものであり、より具体的には、糊化した小麦粉生地にタンパク質素材および/あるいは微量栄養成分含有素材を加えて練り合わせた後、未糊化の小麦粉に混合し、密閉可能な耐熱性容器中で発酵させた後、密閉し、高温高圧処理することによって滅菌および消化性向上を行うことを特徴とする、食味、栄養性、消化性および保存性に優れた包装パンの製造方法および当該方法によって製造されたパンに関する。
【背景技術】
【0002】
パンは、小麦粉を水と練って生地を作り、酵母によって発酵させた後に焼き上げたものであり、加熱調理が不要なおいしい食品として世界中で広く食されている。
【0003】
しかしながら、パンはデンプンを主成分としているので、肉や魚、野菜やスープなどとともに食され、パンのみからすべての必須栄養成分を摂取することは困難である。
【0004】
パンに肉やハム、チーズや野菜などを挟んだサンドイッチやパン生地に各種の食材を直接添加したバラエティーパンが開発されているが、いずれの場合も、保存性が悪く、かつパン生地と食材とが独立して存在しており、食べにくいという問題があった。
【0005】
従来、先行技術として、特許文献1に示されているような薄葉紙に包まれた缶詰パン、特許文献2に示されているような紙容器入り生パン、特許文献3に示されているような、カップ状底蓋付き紙容器などが報告されている。
【0006】
しかしながら、これらの発明例では、それぞれの実施例に示されているように、通常のパンを対象としており、本出願明細書で示すような、必須栄養成分を高含量含み、しかも長期保存が可能で、再調理が不要なおいしいパンはこれまで報告されていなかった。
【0007】
本発明者らは、小麦粉に糊化米生地を練りこんで米粉パンを製造する際に、硬質米の発芽玄米とともに肉や魚、野菜などを添加する製造方法を考案し、特許を出願した(特許文献4参照)が、この米粉パンは、難消化性澱粉やγ-アミノ酪酸による機能性を特徴とする米粉パンであり、本発明のパンに比べて、密閉容器中で発酵、焼成および滅菌を行ってはいないので、保存性が悪く、1週間以上の保存が困難であった。
【0008】
また、従来報告されている特許文献1に示されているような薄葉紙に包まれた缶詰パン、特許文献2に示されているような紙容器入り生パン、特許文献3に示されているようなカップ状底蓋付き紙容器入りのパンは、いずれも縦長の形状をしており、容器の上部、中央部、底部のそれぞれの部位によって、パンの水分含量や物理特性、食感などが均一ではないという問題があった。
【0009】
さらに、本発明者らが出願した特許文献4の場合には、硬質発芽玄米を糊化して小麦粉に練り込むことを特徴としているが、食物繊維やγーアミノ酪酸の含量が高いという、健康機能性に貢献するという目的の技術であり、米粉は小麦粉に比べてタンパク質含量が低い上に、水と練り合わせてもグルテンを形成しないので、パン生地の強度が弱く、パンの比容積や食感の点で小麦粉100%のパンに及ばない上に、製造後の時間が経過するにつれて老化が進んでパンが硬くなりやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10-72021号公報
【特許文献2】特開2006-282272号公報
【特許文献3】特開2008-56342号公報
【特許文献4】特開2010-263793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、食味、栄養性および保存性に優れたパンおよびその製造方法に関して鋭意研究を進めたが、食味と栄養性を向上させるためには、肉、魚、豆などのタンパク質素材、ビタミン類を多く含むトマト、ブロッコリー、タマネギ、ホウレンソウなどの野菜やミカン、イチゴ、バナナ、ブルーベリーなどの果実類、さらにミネラル類を多く含むワカメや昆布などの海藻類や小魚などを加える必要があった。
【0012】
また、長期保存性であって、なおかつ食味を向上させるためには、主原料である小麦粉のデンプンの糊化度を上げ、老化を防いで食感を改良することが必要であり、そのためには通常の発酵・焼成に加えて、さらに強いデンプン糊化工程が必要とされた。
【0013】
さらに、水分含量が約40%と高いパンの長期保存性を高めるには、焼成後に密閉状態で強い殺菌工程、すなわちレトルトなどの高温高圧処理による滅菌工程を加える必要がある。
【0014】
縦長の缶や紙容器を使用したパンでは、容器の上部と底部とで水分含量や食感が均一でないため、これらを均一にできる密封可能な耐熱性製パン容器の開発が必要とされていた。
【0015】
また、製造後の時間が経過しても、米粉含有パンの問題点として指摘されているような、老化が進んで硬くなることのない低老化性のパンの開発が必要とされていた。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、糊化した小麦粉生地にタンパク質素材および微量栄養成分含有素材を加えて練り合わせた後、未糊化の小麦粉に混合し、密閉可能な耐熱性容器中で発酵および焼成を行い、ついで密閉し、当該密閉容器中で高温高圧処理することによって滅菌を行うことを特徴とする、食味、栄養性および保存性に優れた包装パンの製造方法および当該方法によって製造されたパンを開発するに至った。
【0017】
本発明の第1の特徴は、糊化した小麦粉生地にタンパク質素材および/あるいは微量栄養成分含有素材を加えて練り合わせたのち、未糊化の小麦粉に混合し、酵母を添加して一次発酵させた後、密閉可能な耐熱性紙容器中で二次発酵および焼成を行い、次いで紙容器を密閉し、高温高圧処理することによって紙容器及び内容物を滅菌することを特徴とする、食味、栄養性および保存性に優れた包装パンの製造方法である。
【0018】
本発明の第2の特徴は、タンパク質素材が、牛肉、豚肉、鶏肉、鶏卵、脱脂乳、チーズ、魚肉、甲殻類タンパク質、軟体動物タンパク質、豆類タンパク質、脱脂大豆、大豆濃縮タンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質、トウモロコシタンパク質、脱脂ヒマワリ、脱脂ナタネ、綿実タンパク質、脱脂米ぬかからなる群のうちの1種類あるいは2種類以上の素材であることを特徴とする包装パンの製造方法である。
【0019】
本発明の第3の特徴は、微量栄養成分含有素材が、ビタミン類を多く含む野菜、果実;食物繊維を多く含む野菜、果実、キノコ、海藻;ミネラルを多く含む野菜、果実、海藻、魚類からなる食品素材群のうちから選ばれた1種類あるいは2種類以上の食品素材である包装パンの製造方法である。
【0020】
本発明の第4の特徴は、高温高圧処理が105℃から200℃の温度で15秒〜2時間間処理する滅菌工程を含むことを特徴とする包装パンの製造方法である。
【0021】
本発明の第5の特徴は、耐熱性紙容器の容積に対するパン生地の体積が30%以上80%以下である包装パンの製造方法である。
【0022】
本発明の第6の特徴は、耐熱性紙容器が、底面にかかる荷重が0.5g/cm2〜2.0g/cm2である包装パンの製造方法である。
【0023】
本発明の第7の特徴は、耐熱性紙容器が、底面の長方形の長辺が短辺の3倍以上の長さであって、高さが底面の一辺より小さい横長型の直方体である包装パンの製造方法である。
【0024】
本発明の第8の特徴は、耐熱性紙容器が通気性のある二重底である包装パンの製造方法である。
【0025】
本発明の第9の特徴は、上記の方法で製造された包装パンである。
【0026】
本発明の第10の特徴は、可食部乾物100グラム当たり、熱量が400キロカロリー以上であり、タンパク質を10グラム以上、食物繊維を3グラム以上、ビタミンBを80マイクログラム以上、カルシウムを80ミリグラム以上含む包装パンである。
【0027】
すなわち、請求項1に係る本発明は、糊化した小麦粉生地と、タンパク質素材および/あるいは微量栄養成分含有素材と、の混合物に、未糊化の小麦粉を混合してパン生地を作製する工程と、
前記パン生地を発酵させる工程と、
発酵したパン生地を耐熱性紙容器中で焼成する工程と、
前記耐熱性紙容器を密閉した状態で、前記耐熱性紙容器およびその内容物を滅菌する工程と、
を含むことを特徴とする紙容器入りパンの製造方法である。
請求項2に係る本発明は、タンパク質素材が、牛肉、豚肉、鶏肉、卵、脱脂乳、チーズ、魚肉、甲殻類タンパク質、軟体動物タンパク質、豆類、豆類タンパク質、脱脂大豆、大豆濃縮タンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質、トウモロコシタンパク質、脱脂ヒマワリ、脱脂ナタネ、綿実タンパク質および脱脂米ぬかからなる群より選ばれた1種以上である、請求項1記載の製造方法である。
請求項3に係る本発明は、微量栄養成分含有素材が、野菜、果実、キノコ、海藻および魚類からなる群より選ばれた1種類以上である、請求項1または2記載の製造方法である。
請求項4に係る本発明は、滅菌工程が、105℃〜200℃の温度で15秒〜2時間高温高圧処理するものである、請求項1〜3のいずれか一項記載の製造方法である。
請求項5に係る本発明は、耐熱性紙容器に入れるパン生地の体積が、耐熱性紙容器の容積に対して30%以上80%以下である、請求項1〜4のいずれか一項記載の製造方法である。
請求項6に係る本発明は、耐熱性紙容器が、横長型の直方体であって、高さが底面の短辺より小さく、かつ底面の長方形の長辺が短辺の3倍以上の長さである、請求項1〜5のいずれか一項記載の製造方法である。
請求項7に係る本発明は、耐熱性紙容器が、通気性のある二重底を有し、内側の底面と外側の底面との間に副資材を入れてなることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項記載の製造方法である。
請求項8に係る本発明は、請求項1〜7のいずれか一項記載の製造方法により製造された紙容器入りパンである。
請求項9に係る本発明は、可食部乾物100グラム当たり、熱量が400キロカロリー以上であり、タンパク質を10グラム以上、食物繊維を3.0グラム以上、ビタミンBを80マイクログラム以上、カルシウムを75ミリグラム以上含む、請求項8記載の紙容器入りパンである。
【発明の効果】
【0028】
本発明の第1の効果としては、密閉後のレトルト滅菌により、滅菌(芽胞を含む)され、安全性が確保される点を挙げることができる。
【0029】
本発明の第2の効果としては、本発明の製造方法により得られるパンが高水分でやわらかく、加熱や加水が不可能な災害地においても調理が不要であり、開封してそのまま食べられるという高い利便性を挙げることができる。
【0030】
本発明の第3の効果としては、脱酸素剤による酸素濃度低下効果によって、当該パンを製造後少なくとも10日、通常は製造後、半年から数年保存できるという長期保存性を挙げることができる。
【0031】
本発明の第4の効果としては、当該パンにおいては、通常の食事と同程度の栄養性が確保される、すなわち、カロリー、糖質、タンパク質、ビタミン、ミネラル、食物繊維などの点で、通常の食事から得られる栄養性に近づけることができるということを挙げることができる。
【0032】
本発明の第5の効果としては、当該パンは、通常の食事と同程度のおいしさ(食感、味、香り)を有しており、食物繊維を多く含んでいるので便通にもよく、また、気分を高めるためのビタミン、ミネラルを多く含むため、災害時などにも気分を明るくする効果があるということを挙げることができる。
【0033】
本発明の第6の効果としては、当該パンにおいては、肉や魚、野菜・果実や海藻、納豆などがパン生地に均一に練りこまれているので、毎日続けて食べても飽きが来ない上に、栄養のバランスが良く、しかも咀嚼しやすく、病態者、子供、老人などにも幅広く受け入れられやすい食感であり、年齢や地域によって好き嫌いのある人参や納豆の場合でも、意識せずに食べることができるということを挙げることができる。
【0034】
本発明の第7の効果としては、糊化練り込み法によって高含量の肉や魚、野菜や果実を加えることができるので、従来のパンに比べて、風味や香りが優れており、かつ、多様な食事に相当するような各種の「お食事パン」を製造できるので、新しいパンの食形態を提供できることができるということを挙げることができる。
【0035】
本発明の第8の効果としては、紙容器、特に、高さに対する底面積の比率の大きな横型の紙容器で製パンすることにより、パンの部位によらず水分含量および食感が均一になる点を挙げることができる。
【0036】
本発明の第9の効果としては、横型の紙容器を分割して異なる種類の練り込みパンを配置することにより、たとえば、左から「オードブルパン」、「肉入り主菜パン」、「デザートパン」のように、コースの食事に類似した多様な食事パンとして楽しむことができる点を挙げることができる。
【0037】
本発明の第10の効果としては、缶詰パンとは異なり、紙容器を使用しているので電子レンジによる再加熱が可能であることを挙げることができる。
【0038】
本発明の第11の効果としては、缶詰パンに比べて軽量であり、喫食後の容器の廃棄が容易であることを挙げることができる。
【0039】
本発明の第12の効果として、紙容器を使用するので、包装コストを低減して産業上有利とすることを挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の紙容器入りパンの基本的製造工程を示す図である。
【図2】実施例1で作製した練り込みパンを示す写真像図である。図中、Aは本発明例を、Bは比較例を、それぞれ示す。
【図3】実施例1〜3で作製した3種類の練り込みパンの断面を示す写真像図である。図中、Aは実施例1のピザ風パンを、Bは実施例2の牛肉練りこみパンを、Cは実施例3の鮭練りこみパンを、それぞれ示す。
【図4】実施例5におけるカレー練りこみパンの製造工程を示す写真像図である。図中、Aは加熱糊化後の生地を、Bは加熱糊化生地と非加熱小麦粉の混合工程を、Cは一次発酵後のパン生地を、それぞれ示す。
【図5】実施例5で作製したカレー練り込みパンの官能検査結果を示すグラフである。図中、●は野菜カレーパンを、○はビーフカレーパンを、それぞれ示す。**はp<0.01、*はp<0.1において、それぞれ食パン(3点)との間で有意差があることを示す。
【図6】実施例8で作製した糊化練り込みパンと未糊化練り込みパンの断面を示す写真像図である。図中、Aは本発明例のパンを、Bは比較例のパンを、それぞれ示す。
【図7−A】実施例8における製パン方法の相違によるパン物性(「噛みごたえ」)の変化を示すグラフである。
【図7−B】実施例8における製パン方法の相違によるパン物性(「硬さ」)の変化を示すグラフである。
【図8】実施例8におけるパン生地の糊化工程の有無による老化性の相違を示すグラフである。
【図9】実施例9で作製した小麦粉と米粉の糊化練り込みパンについての製造3日後の物性比較を示すグラフである。
【図10】実施例10で缶容器と紙容器を用いて作製したパンの比容積の比較結果を示すグラフである。
【図11】実施例11で作製した缶詰パンと紙容器パンを示す写真像図である。図中、Aは缶詰パンを、Bは紙容器パンを、それぞれ示す。
【図12−A】実施例11で作製したパンの物性測定結果(「硬さ」)を示すグラフである。
【図12−B】実施例11で作製したパンの物性測定結果(「噛みごたえ」)を示すグラフである。
【図13】実施例11で作製したパンの製造30分後の各部分における水分含量を示す。図中、*は危険率5%で有意差があることを示す。
【図14】実施例11、12で作製した各種の紙容器および缶詰パンを示す写真像図である。図中、下段はいずれも実施例12の紙容器パンであり、Aは豚肉練り込みパンを、Bは鮭練り込みパンを、Cはおでん練り込みパンを、上段は実施例11の缶詰パンを、それぞれ示す。
【図15−A】実施例12で作製した各種の紙容器パンの物性測定結果(「硬さ」)を示す。
【図15−B】実施例12で作製した各種の紙容器パンの物性測定結果(「噛みごたえ」)を示す。
【図15−C】実施例12で作製した各種の紙容器パンの物性測定結果(「脆さ」)を示す。
【図15−D】実施例12で作製した各種の紙容器パンの物性測定結果(「柔軟性」)を示す。
【図16】実施例13で用いた横長型直方体の紙パックを示す写真像図である。
【図17】実施例13で用いた横長型直方体の紙パックの構造を示す図である。
【図18】実施例13で横長紙容器を用いて作製した3種類の異なる練り込みパンを示す写真像図である。図中、Aはピザパンを、Bは牛肉パンを、Cは鮭パンを、それぞれ示す。
【図19】実施例14における容器容積に対するパン生地の割合と製パン性との関係を示す写真像図である。図中、Aは容器容積に対するパン生地体積の割合が82%、Bが28%、Cが50%である。
【図20】実施例15で示した横長紙容器の展開図を示す。図中、Aは側面の展開図を、Bは底面の展開図を、それぞれ示す。
【図21】実施例15で用いた二重底型紙容器と、それを用いて試作したパンを示す。図中、Aは紙容器の側面を、Bは紙容器の底面(脱酸素剤装着)を、Cは紙パックパンを、それぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の紙容器入りパンの製造方法は、
糊化した小麦粉生地と、タンパク質素材および/あるいは微量栄養成分含有素材と、の混合物に、未糊化の小麦粉を混合してパン生地を作製する工程と、
前記パン生地を発酵させる工程と、
発酵したパン生地を耐熱性紙容器中で焼成する工程と、
前記耐熱性紙容器を密閉した状態で、前記耐熱性紙容器およびその内容物を滅菌する工程と、
を含むことを特徴とするものである。
【0042】
本発明において用いられる小麦粉は、強力粉、中力粉、全粒粉など、いかなる種類の小麦粉であってもよい。
本発明における「小麦粉生地」とは、少なくとも小麦粉と水とを混合、撹拌したものを指す。
【0043】
本発明における「(加熱)糊化」とは、小麦粉に水を加えた後、当該小麦デンプンの糊化温度以上の温度に加熱することでデンプンの結晶を水和させ、やわらかい食感と高い消化性を実現することを指す。
糊化の具体的な手段としては、蒸煮、炊飯、加水後の油ちょう、加水後の誘電加熱、加水後のジェットクッキング、高水分状態でのエクストルーダー処理や膨化処理などを例として挙げることができる。
【0044】
本発明における「タンパク質素材」とは、タンパク質を多く含む食品素材を指す。具体例としては、肉;鶏卵などの卵;脱脂乳、チーズなどの乳製品;魚類、甲殻類、軟体動物などの魚介類の肉;納豆、大豆、脱脂大豆、大豆濃縮タンパク質、小豆、そらまめ、ささげなどの豆類;小麦タンパク質、米タンパク質、脱脂米ぬか、トウモロコシタンパク質などの穀類タンパク質;脱脂ヒマワリ、脱脂ナタネ、綿実タンパク質などの種実類タンパク質などの食品素材が挙げられる。
本発明における「肉」とは、牛肉、豚肉などの畜肉類、鶏肉、七面鳥の肉などの鳥類の肉を指す。
本発明における「魚類」とは、コイやフナなどの淡水魚、タイやマグロ、鮭、イワシ、カツオ、サバなどの海水魚などを指す。
また、本発明のタンパク質素材には、上記に例示した素材の加工食品、乾燥物、濃縮物、脱脂物、タンパク質抽出物などの加工品も含まれる。
これらのタンパク質素材は、1種類のみで、あるいは2種類以上を組み合わせて、用いることができる。
【0045】
本発明における「微量栄養成分含有素材」とは、ビタミン類や食物繊維、ミネラルを多く含む食品素材を指す。具体例としては、トマト、タマネギ、ホウレンソウ、ゴボウ、ブロッコリー、人参、カボチャなどの野菜;ミカン、リンゴ、ブルーベリー、イチゴ、ブドウ、バナナなどの果実類;シイタケ、エノキ、シメジなどのキノコ;昆布、ワカメなどの海藻;魚類などが挙げられる。
また、本発明の微量栄養成分含有素材には、上記に例示した素材の加工食品、乾燥物、濃縮物などの加工品も含まれる。
これらのタンパク質素材は、1種類のみで、あるいは2種類以上を組み合わせて、用いることができる。
【0046】
本発明において、糊化した小麦粉生地と、上記のタンパク質素材や微量栄養成分含有素材(以下、添加食材ともいう。)と、の混合物は、未糊化の小麦粉と添加食材を混合加熱したものであってもよいし、糊化した小麦粉生地に添加食材を混合したものであってもよい。
本発明において「混合」する手段は特に限定されず、例えばホームベーカリーや手などで混捏してもよいし、ニーダーなどで練り合わせてもよいし、ミキサーなどで細片化しながら混合してもよい。あるいは擂潰機ですりつぶしながら混合してもよい。
【0047】
本発明においては、生地と添加食材を上記の方法で混合した後、小麦粉に当該生地、食塩、砂糖、バター、水、スキムミルク、酵母などの必要な副材料を加えて練り合わせ、パン生地を形成する。
【0048】
本発明においては次に、前記パン生地を発酵させる。ここで、発酵条件は通常の製パン方法に従えばよく、後述する耐熱性紙容器の中で発酵を行うこともできる。
また、複数段階に分けて発酵を行うこともでき、例えば、一次発酵を行った後に生地を耐熱性紙容器の中に移して二次発酵を行ってもよい。
【0049】
本発明で用いられる「耐熱性紙容器」とは、パンの焼成温度に耐性のある紙製の容器であればよく、その形状は特に限定されないが、高さが底面の短辺より小さい直方体である耐熱性紙容器が好ましい。中でも、底面にかかる荷重が0.5g/cm2〜2.0g/cm2であるものや、底面の長方形の長辺が短辺の3倍以上の長さである横長型の直方体であるものが、特に好適である。
【0050】
また、底部が二重底となっていて、内側の底紙に通気孔が開いている耐熱性紙容器を用いることによって、二重の底紙の間に、パン生地と接触しない状態で、脱酸素剤などの副資材を入れることができる。この場合、パンと脱酸素剤などの副資材を、直接接触しない状態で共存させることができるので、好ましい。
【0051】
本発明においては次に、発酵したパン生地を耐熱性紙容器中で焼成させる。このとき、耐熱性紙容器は密閉されていなくても、密閉されていてもよい。
また、焼成条件は通常の製パン方法に従えばよいが、例えば175〜235℃で15分〜2時間とすることができる。
【0052】
本発明においては次に、耐熱性紙容器およびその内容物を滅菌もしくは殺菌する。このとき、前記で焼成したパンは耐熱性紙容器中に密閉された状態であることが必要である。
本発明における滅菌処理条件は、パンに混在する微生物および芽胞を殺し、常温でのパンの長期保存を可能にするという目的を達成することができれば、特に限定されない。
例えば、高圧滅菌釜やレトルト釜などを用いて、105℃〜200℃の温度で15秒〜2時間の高温高圧処理を行うことが好ましい。
あるいは、高圧滅菌釜やレトルト釜に替えて、150℃以上の常圧乾熱処理を施し、密閉した耐熱性紙容器中を高温高圧状態にすることで、微生物および芽胞を滅菌してもよい。
【0053】
本発明においては、上部を密閉した耐熱性紙容器にパン生地を入れて一次発酵させた後、耐熱性紙容器の上下を逆転させて二次発酵および焼成を行い、最後に二重底となっている底部の紙で覆って密閉し、高温高圧滅菌を行うことができる。
【0054】
上記の方法によって製造された本発明の紙容器入りパンは、冷却後、密閉状態を保持したまま保管あるいは流通に供する。滅菌処理後も密閉状態を維持することにより、常温で半年から数年間保存することができる。
さらに、密閉紙容器中に脱酸素剤を共存させる場合は、貯蔵保管中の脂質の分解・酸化を抑制することが可能となり、脂質を含む高栄養素材を練り込んだ本発明のパンの保管中の品質劣化を抑制する意味から、きわめて好適である。
【0055】
本発明の紙容器入りパンは、可食部乾物100グラム当たり、熱量が400キロカロリー以上であり、タンパク質を10グラム以上、食物繊維を3.0グラム以上、ビタミンBを80マイクログラム以上、カルシウムを75ミリグラム以上含むため、通常の食事と同程度の栄養性が確保され、食物繊維を多く含んでいるので便通にもよい。
【0056】
また、本発明の紙容器入りパンは、糊化練り込み法によって高含量の肉や魚、野菜や果実を加えることができるので、風味や香りが優れており、かつ、横型の紙容器を分割して異なる種類のパンを配置することにより、コースの食事に類似した多様な「お食事パン」として楽しむことができる。
【実施例】
【0057】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明は実施例のみに制限されるものではない。
【0058】
実施例1(ピザパン)
トマト(中型)2個、ニンニク4切れ、タマネギ(中型)1個、干しシイタケ7枚、エノキタケ100グラムを、シイタケの煮汁、レモン汁、塩、こしょう、醤油、ゴマ油、ゆずこしょうで味付けし、弱火で20分間煮詰め、ブレンダー(テスコム製THM500)にかけ、均一に練り合わせた。これをミックスペーストと呼ぶ。
【0059】
焼きベーコン65グラム、とろけるチーズ40グラム、前記のミックスペースト150グラム、強力小麦粉(日清製粉製カメリア)84グラムに、いりこだし汁60CC、トマトケチャップ大さじ1杯を加えて撹拌し、家庭用電気炊飯器(シャープ製KS-HA5-W)を使用し、白米モードで25分間加熱して小麦デンプンを糊化させた。
これを加熱していない強力小麦粉(日清製粉製カメリア)196グラムに加え、さらに塩小さじ半杯、オリーブオイル15グラム、砂糖15グラム、スキムミルク15グラムを加え、家庭用製パン機(パナソニック製SD-BH103)で15分間撹拌し、ドライイースト3グラムを加えて、パン生地を形成した。
【0060】
このパン生地を同製パン機中で3.5時間一次発酵させ、生地を取り出してガス抜きをし、500mL容の牛乳用紙パックに当該生地200グラムを入れ、タバイエスペック製インキュベーター中で38℃、40分間二次発酵を行った。なお、上記の紙パックは、縦7cm×横10cm×高さ7cmの横長型直方体のものである。次いで、家庭用調理器(シャープ製ヘルシオ)を用いてロールパンモードで40分間焼成した。最後に紙パック全体をオートクレーブ用の耐熱性プラスチック袋に密閉し、平山製作所製のオートクレーブを用いて、120℃、20分間の滅菌処理を行った。
【0061】
基本的製造工程を図1に、作製したパンの写真を図2に示す。図2のB(右)は、比較例として、強力小麦粉84gに替えて発芽超硬質米(九州大学製、系統名「EM10」)の粉末を同量使用したこと以外は上記と同様に作製した米粉含有パンであり、図2のA(左)は本発明例である。図2B(比較例)のパンに比べて、図2A(本発明例)のパンの方が膨化性に優れており、比容積が大きいことがわかる。パンの食感においても、本発明例のパンの方が比較例のパンより顕著に優れていた。
【0062】
このようにして試作した本発明例のパンは、ピザ風の食味を有し、軟らかくて食感が良好であった。未開封の状態で10日間、常温(25℃、以下同様。)で保管してもカビおよび細菌の増殖は認められず、電子レンジでの再加熱も可能であり、再加熱することでさらに食味が向上した。
【0063】
このパンは、可食部乾物100グラム当たり、熱量が423キロカロリーであり、タンパク質を10.6グラム、食物繊維を3.2グラム、ビタミンBを86マイクログラム、カルシウムを93ミリグラム含んでいた。
【0064】
比較のために、シャープ製ヘルシオに替えて、平沢製作所製乾熱滅菌器を用いて、二次発酵後のパン生地を、それぞれ170℃、180℃、220℃、250℃で40分間焼成した。
その結果、170℃では焼き色が不十分であり、250℃では焦げてしまい、それぞれ不適当であった。一方、180℃、220℃の場合は、シャープ製ヘルシオによる焼成と同様に、適度の焼き色と香気の生成が起こり、好適であった。
【0065】
実施例2(肉練りこみパン)
実施例1と同様にして、トマト(中型)2個、ニンニク4切れ、タマネギ(中型)1個、干しシイタケ7枚、エノキタケ100グラムを、シイタケの煮汁、レモン汁、塩、こしょう、醤油、ゴマ油、ゆずこしょうで味付けし、弱火で20分間煮詰め、ブレンダー(テスコム製THM500)にかけ、均一に練り合わせた。これをミックスペーストと呼ぶ。
【0066】
このミックスペースト150グラムに、牛肉120グラム(酒大さじ1、みりん大さじ2、砂糖10グラム、レモン汁少々で調味し、焼いたもの)、ネギ17グラム、市販強力小麦粉(日清製粉製カメリヤ)84グラム、いりこだし40mLを加え、家庭用電気炊飯器(シャープ製KS-HA5-W)で白米モードで25分間加熱し、小麦デンプンを糊化させ、加熱糊化生地とした。
【0067】
以下は実施例1と同様にして、この加熱糊化生地を加熱していない強力小麦粉(日清製粉製カメリア)196グラムに加え、塩小さじ半杯、オリーブオイル15グラム、砂糖15グラム、スキムミルク15グラムを加え、家庭用製パン機(パナソニック製SD-BH103)で15分間撹拌し、ドライイースト3グラムを加えて、パン生地を形成した。
【0068】
このパン生地を同製パン機中で3.5時間一次発酵させ、生地を取り出してガス抜きをし、500mL容の牛乳用紙パックに当該生地200グラムを入れ、タバイエスペック製インキュベーター中で38℃、40分間二次発酵を行った。次いで、家庭用調理器(シャープ製ヘルシオ)を用いてロールパンモードで40分間焼成した。最後に紙パック全体をオートクレーブ用の耐熱性プラスチック袋に密閉し、平山製作所製のオートクレーブを用いて、120℃、20分間の滅菌処理を行った。
【0069】
作製したパンの断面写真を図3のBに示す。なお、図3中、Aは実施例1で作製したピザパンを、Bは本実施例2で作製した牛肉練りこみパンを、それぞれ示す。
本実施例で作製したパンの主要成分は表1のとおりである。
【0070】
【表1】

表中、水分以外は乾物100gあたりの重量あるいは割合を示す。
【0071】
表1に示す本発明のパンは、食物繊維含量が多く、試験者5名が3日間、朝食および夕食に200gずつ食べ続けた結果、3名に便通改善効果が認められた。
【0072】
比較のため、前述の特許文献4の実施例1と同様にして、発芽処理を行った超硬質米「EM10」の玄米を用いて作った糊化発芽玄米がゆ300gに、豚ロース30gおよび加熱したなめこ30gを加えてホモゲナイズしたものに、市販強力小麦粉300gその他の材料を混合し、定法に従って食パンを試作した。
この米粉パンは、難消化性澱粉やγ-アミノ酪酸による機能性を特徴とする米粉パンであり、本発明のパンとは異なり、密閉容器中で発酵、焼成および滅菌を行ってはいないので、保存性が悪く、製造後1週間以上常温で保管するとカビの着生が認められ、長期保存が困難であった。
【0073】
実施例3(鮭練りこみパン)
紅鮭ほぐし50g、トマト(中型)1個、ごぼう50g、五目煮豆(大豆、人参、ゴボウ、昆布)大さじ3杯、市販強力小麦粉(日清製粉製カメリヤ)84gに、いりこだし40mLを加え、家庭用電気炊飯器(シャープ製KS-HA5-W)で白米モードで25分間加熱し、小麦デンプンを糊化させ、加熱糊化生地とした。
【0074】
以下は実施例1と同様にして、この加熱糊化生地を加熱していない強力小麦粉(日清製粉製カメリア)196グラムに加え、塩小さじ半杯、オリーブオイル15グラム、砂糖15グラム、スキムミルク15グラムを加え、家庭用製パン機(パナソニック製SD-BH103)で15分間撹拌し、ドライイースト3グラムを加えて、パン生地を形成した。
【0075】
このパン生地を同製パン機中で3.5時間一次発酵させ、生地を取り出してガス抜きをし、500mL容の牛乳用紙パックに当該生地200グラムを入れ、タバイエスペック製インキュベーター中で38℃、40分間二次発酵を行った。次いで、家庭用調理器(シャープ製ヘルシオ)を用いてロールパンモードで40分間焼成した。最後に紙パック全体をオートクレーブ用の耐熱性プラスチック袋に密閉し、平山製作所製のオートクレーブを用いて、120℃、20分間の滅菌処理を行った。
作製したパンの断面写真を図3Cに示す。パンの主要成分は表2のとおりである。
【0076】
【表2】

表中、水分以外は乾物100gあたりの重量あるいは割合を示す。
【0077】
5名の試験者による鮭練り込みパンの試食試験結果を表3に示す。市販の食パンを基準として比較し、各項目について「良」、「市販食パンと同等」、「不良」の3段階で評価した。
この結果、鮭練り込みパンは市販の普通食パンに比べて極めておいしいということが示された。
【0078】
【表3】

【0079】
試験例1(滅菌処理条件の検討)
上記の実施例3において、未加熱小麦粉として枯草菌(Bacillus subtilis)を菌数100000個/小麦粉1gの割合で混合したものを使用して作製した焼成後のパンについて、滅菌処理条件を(1)105℃で10秒、(2)110℃で30秒、(3)120℃で1分、(4)150℃で5分、(5)180℃で60分、(6)220℃で3時間、の各温度・時間に変えて、加熱処理を行った。
その結果、上記の(1)では、製造後のパン生地中の枯草菌の胞子が滅菌されておらず、製造後、1週間常温保管後に枯草菌の菌数が増加した。また、(6)の処理の場合は、加熱条件が強すぎるために、パン試料が焦げて褐変し、不適当であった。それ以外の(2)から(5)までの条件では、枯草菌が滅菌され、かつ適度の着色となって好適であった。
【0080】
実施例4(ペースト状の魚及び野菜を練りこんだパン)
市販のペースト状食品(ホリカフーズ製「鯖味噌煮」およびホリカフーズ製「きんぴらごぼう」)各50グラムをテスコム製ブレンダーTHM500で潰しながら均一に練り合わせた。これに市販強力小麦粉(日清製粉製カメリヤ)84グラムと水60mlを加えてよく混合した後、電気炊飯器(シャープ製KS-HA5-W)を用いて白飯モードで25分間加熱し、小麦デンプンを糊化させ、加熱糊化生地とした。
【0081】
強力小麦粉(日清製粉製カメリヤ)196グラムに当該加熱糊化生地を混合し、食塩5グラム、砂糖30グラム、バター15グラム、水160ml、スキムミルク20グラム、ドライイースト5グラム、冷凍トマト1/4個を加えて練り合わせ、パン生地を形成した。
【0082】
このパン生地を、パナソニック製ホームベーカリー(SD-BH103)を用い、フランスパンモードで一次発酵させた。次いで、当該発酵生地を牛乳用紙パック容器に入れ、タバイエスペック製インキュベーターを用いて38℃で40分間二次発酵を行った。次いでシャープ製ヘルシオを用い、パン焼きモードで40分間焼成した。焼成後、紙容器を密閉し、平山製作所製オートクレーブを用いて120℃、20分間の条件で滅菌処理を行った。
【0083】
このようにして試作した本発明のパンは、非加熱でそのまま可食状態であり、鯖およびゴボウの風味があり、5名の食味試験結果では、一般の食パンに比較してきわめておいしいとの評価であった。
また、滅菌処理後、未開封の状態で、30℃、10日間保管した後に開封して一般生菌数を測定したが、検出限界以下(<300cfu/g以下)であった。
【0084】
この鯖およびゴボウ練りこみパンは、100グラム当たりのカロリーが412キロカロリー、タンパク質含量が15.8%であり、総食物繊維含量が4.1%、ビタミンB含量が0.15ミリグラム、カルシウム含量が96ミリグラムであった。
本実施例で試作した本発明のパンは、食物繊維含量が多く、試験者5名が3日間、朝食および夕食に200gずつ食べ続けた結果、3名に便通改善効果が認められた。
【0085】
実施例5(カレー練込みパン)
市販のレトルトカレー(ハウス食品製、野菜カレー又はビーフカレー)150グラムに鶏卵(50g)を加え、テスコム製ブレンダーTHM500で潰しながら均一に練り合わせた。これに市販強力小麦粉(日清製粉製カメリヤ)84グラムと水60mlを加えてよく混合した後、電気炊飯器(シャープ製KS-HA5-W)を用いて白飯モードで25分間加熱糊化し、小麦デンプンを糊化させ、加熱糊化生地とした(図4A)。
【0086】
強力小麦粉(日清製粉製カメリヤ)196グラムに当該加熱糊化生地を混合し、食塩5グラム、砂糖30グラム、無塩バター15グラム、水160ml、スキムミルク20グラム、ドライイースト5グラム、冷凍トマト1/4個を加えて練り合わせ、パン生地を形成した(図4B)。
【0087】
このパン生地を、パナソニック製ホームベーカリー(SD-BH103)を用い、フランスパンモードで一次発酵させた。次いで、当該発酵生地を牛乳パック用の紙容器に入れ、タバイエスペック製インキュベーターを用いて38℃で40分間二次発酵を行った。次いでシャープ製ヘルシオを用い、パン焼きモードで40分間焼成した。焼成後、紙容器を密閉し、平山製作所製オートクレーブを用いて120℃、20分間の条件で滅菌処理を行った。
【0088】
このようにして試作した本発明のパンは、図6Aに示すように良好な断面を呈し、非加熱でそのまま可食状態であり、カレーの風味があり、5名の食味試験結果では、一般の食パンに比較して、きわめておいしいとの評価であった(図5)。図5中、●は野菜カレーパンを、○はビーフカレーパンを、それぞれ示す。**及び*は基準である食パン(3点)との間で有意差があることを示し、危険率は**がp<0.01、*がp<0.1である。
また、滅菌処理後、未開封の状態で、30℃、10日間保管した後に開封して一般生菌数を測定したが、検出限界以下(<300cfu/g以下)であった。
【0089】
このカレー練りこみパンは、乾物100グラム当たりのカロリーが421キロカロリー、タンパク質含量が16.7%であり、脂質含量が7.13%、総食物繊維含量が3.07%、ビタミンB含量が0.13ミリグラム、カルシウム含量が97.1ミリグラムであった。
【0090】
実施例6(だし練り込みパン)
うるめ煮干し100g、昆布20g、かつおぶし10gに水1000mLを加え、6時間浸漬後、弱火で20分間煮てザルで濾し、だしを取った。このだしに、シメジ86g、タマネギ185g、人参112g、トマト237g、ラッキョウ20g、ワカメ30gおよび細かく刻んだ上記のだしに用いた昆布と煮干しのだしがらを加え、みりん大さじ4杯、酒大さじ4杯、ごま油大さじ2杯、ケチャップ大さじ8杯、柚子コショウ小さじ3杯、白ごま大さじ3杯で調味し、弱火で40分間煮込み、濃縮だしミックスを作った。
【0091】
この濃縮だしミックス150gに強力小麦粉(カメリヤ)84g、水30mLを加え、電気炊飯器(シャープ製KS-HA5-W)を用いて25分間、白飯モードで加熱し、小麦デンプンを糊化させ、加熱糊化生地とした。
強力小麦粉(日清製粉製カメリヤ)196グラムに当該加熱糊化生地を混合し、食塩5グラム、砂糖30グラム、バター15グラム、水160ml、スキムミルク20グラム、ドライイースト5グラム、冷凍トマト1/4個を加えて練り合わせ、パン生地を形成した。
【0092】
このパン生地を、パナソニック製ホームベーカリー(SD-BH103)を用い、フランスパンモードで一次発酵させた。次いで、当該発酵生地を牛乳用紙パック容器に入れ、タバイエスペック製インキュベーターを用いて38℃で40分間二次発酵を行った。次いでシャープ製ヘルシオを用い、パン焼きモードで40分間焼成した。焼成後、紙容器を密閉し、平山製作所製オートクレーブを用いて120℃、20分間の条件で滅菌処理を行った。
【0093】
このようにして試作したパンは、非加熱でそのまま可食状態であり、風味があり、5名の食味試験結果では、一般の食パンに比較してきわめておいしいとの評価であった。
また、滅菌処理後、未開封の状態で、30℃、10日間保管した後に開封して一般生菌数を測定したが、検出限界以下(<300cfu/g以下)であった。
【0094】
このパンは、可食部乾物100グラム当たり、熱量が438キロカロリーであり、タンパク質を35.0グラム、食物繊維を6.2グラム、ビタミンBを0.30ミリグラム、カルシウムを438ミリグラム含んでおり、タンパク質と食物繊維を多く含んでいた。
【0095】
実施例7(納豆練りこみパン)
市販納豆(あずま食品製)45グラムと市販強力小麦粉(日清製粉製カメリヤ)84グラムに水60mLを加え、家庭用電気炊飯器(シャープ製KS-HA5-W)で白米モードで25分間加熱し、小麦デンプンを糊化させ、加熱糊化生地とした。
以下は実施例1と同様にして、加熱糊化生地を加熱していない強力小麦粉(日清製粉製カメリア)196グラムに加え、塩小さじ半杯、オリーブオイル15グラム、砂糖15グラム、スキムミルク15グラムを加え、家庭用製パン機(パナソニック製SD-BH103)で15分間撹拌し、ドライイースト3グラムを加えてパン生地を形成した。
【0096】
このパン生地を同製パン機中で3.5時間一次発酵させ、生地を取り出してガス抜きをし、500mL容の牛乳用紙パックに当該生地200グラムを入れ、タバイエスペック製インキュベーター中で38℃、40分間二次発酵を行った。次いで、家庭用調理器(シャープ製ヘルシオ)を用いてロールパンモードで40分間焼成した。焼成後、紙容器を密閉し、平山製作所製オートクレーブを用いて120℃、20分間の条件で滅菌処理を行った。
【0097】
このようにして試作した本発明のパンは、膨張性に優れ、多孔質構造で食感がよく、しかも納豆の風味があり、きわめて美味しいパンとなった。
このパンは、可食部乾物100グラム当たり、熱量が432キロカロリーであり、タンパク質を15.3グラム、食物繊維を4.2グラム、ビタミンBを93マイクログラム、カルシウムを102ミリグラム含んでいた。
【0098】
比較のため、市販強力小麦粉(日清製粉製カメリヤ)84グラムに替えて、硬質米発芽玄米粉(千葉県産、品種名「夢十色」)84グラムを用いたこと以外は、上記と全く同様にして米粉含有パン(比較例)を試作した。
この比較例のパンは、本発明例に比べて、著しく比容積が劣り、パンの断面が多孔質構造にならず、餅のような食感で、商品性の劣るパンとなった。
【0099】
実施例8(糊化練りこみパンと生地直接練り込みパンの比較)
実施例6と同様にして、だし練り込みパンを作製した。すなわち、うるめ煮干し100g、昆布20g、かつおぶし10gに水1000mLを加え、6時間浸漬後、弱火で20分間煮てザルで濾し、だしを取った。このだしに、シメジ86g、タマネギ185g、人参112g、トマト237g、ラッキョウ20g、ワカメ30gおよび細かく刻んだ上記のだしに用いた昆布と煮干しのだしがらを加え、みりん大さじ4杯、酒大さじ4杯、ごま油大さじ2杯、ケチャップ大さじ8杯、柚子コショウ小さじ3杯、白ごま大さじ3杯で調味し、弱火で40分間煮込み、濃縮だしミックスを作った。
【0100】
この濃縮だしミックス150gに強力小麦粉(カメリヤ)84g、水30mLを加え、電気炊飯器(シャープ製KS-HA5-W)を用いて25分間、白飯モードで加熱し、小麦デンプンを糊化させ、加熱糊化生地とした。
強力小麦粉(日清製粉製カメリヤ)196グラムに当該加熱糊化生地を混合し、さらに塩小さじ半杯、オリーブオイル15グラム、砂糖15グラム、スキムミルク15グラムを加え、家庭用製パン機(パナソニック製SD-BH103)で15分間撹拌し、ドライイースト3グラムを加えて、パン生地を形成した。
【0101】
このパン生地を、同製パン機中で3.5時間一次発酵させた。次いで、当該発酵生地を取り出してガス抜きをし、500mL容の牛乳用紙パックに当該生地200グラムを入れ、タバイエスペック製インキュベーター中で38℃、40分間二次発酵を行った。次いで、家庭用調理器(シャープ製ヘルシオ)を用いてロールパンモードで40分間焼成した。焼成後、紙容器を密閉し、平山製作所製オートクレーブを用いて120℃、20分間の条件で滅菌処理を行った。
【0102】
比較のため、実施例6の濃縮だしミックス150gに強力小麦粉(カメリヤ)84g、水30mLを加え、電気炊飯器による加熱糊化工程を省略して、未糊化小麦生地とした。強力小麦粉(日清製粉製カメリヤ)200グラムに、上記の未糊化小麦生地を加え、さらに、塩小さじ半杯、オリーブオイル15グラム、砂糖15グラム、スキムミルク15グラムを加え、家庭用製パン機(パナソニック製SD-BH103)で15分間撹拌し、ドライイースト3グラムを加えて、パン生地を形成した。このパン生地を、同製パン機中で3.5時間一次発酵させた。次いで、当該発酵生地を取り出してガス抜きをし、これに上記で調製した濃縮だしミックス150gを加え、500mL容の牛乳用紙パックに当該生地200グラムを入れ、タバイエスペック製インキュベーター中で38℃、40分間二次発酵を行った。以下は上記と全く同様にして、当該発酵生地を焼成後、紙容器を密閉し、滅菌処理を行った。
【0103】
作製した上記2種類のパンの断面写真を図6に示す。図6中、Aは本発明例のパンを、Bは比較例のパンを、それぞれ示す。小麦デンプンを糊化せずに直接生地に濃縮だしミックスを混合して発酵・焼成した比較例のパンは、断面組織が粗く、不均一であった(図6B)。
また、テンシプレッサーを用いて製造直後のパンの物性を測定した結果、図7−AおよびBに示すように、本発明の糊化練り込みパンの方がしっかりした噛みごたえのある物性を示し、比較例の生地直接練り込みパンの場合は、軟らかすぎてパン強度が不足していた。図7−Aは「噛みごたえ」の測定結果を、図7−Bは「硬さ」の測定結果を、それぞれ示す。
図6および図7−A、Bから明らかなように、本発明の糊化練り込みパンの方が、比較例の生地直接練り込みパンより優れていた。
【0104】
さらに、常温で製造後3日間保管後のパンの「硬さ」をテンシプレッサーで測定した。製造3日後の測定値を製造直後の測定値で割った比率(老化比率)を図8に示す。図8から、本発明の糊化練り込みパンの方が3日後でも老化しにくいことが分かった。
【0105】
実施例9(小麦粉パンと米粉含有パンの老化性の比較)
実施例6と全く同様にして、だし練り込みパンを試作した(本発明例)。
比較のため、強力小麦粉84gに替えて同量の米粉(品種名「コシヒカリ」)を用いたこと以外は、実施例6と全く同様にして米粉含有パンを試作した(比較例)。
【0106】
これら2種類のパンを常温で3日間保管後の物性について、タケトモ電機製テンシプレッサーを用いて測定した結果を図9に示す。
図9から、加熱糊化生地についても小麦粉(カメリヤ)を用いて試作した小麦粉パン(本発明例)の場合は硬さが1740gw/cmであるのに対し、加熱糊化生地を米粉で試作した米粉含有パン(比較例)の場合は硬さが1979gw/cmと本発明例の場合より硬くなっており、比較例の方が製造後の老化が著しいということが示された。
【0107】
実施例10(缶詰パンと紙容器パンの膨張体積の比較)
実施例1と同様の方法でピザパンを試作した。
これに加えて、ミカン果肉30gあるいはブドウ果肉30gを加えたパンも試作した。すなわち、強力小麦粉(日清製粉製カメリア)84グラムに、ミカン果肉30gあるいはブドウ果肉30gを加えて撹拌し、家庭用電気炊飯器(シャープ製KS-HA5-W)を使用し、白米モードで25分間加熱して小麦デンプンを糊化させ、加熱糊化生地とした。以下は実施例1と同様にして、当該加熱糊化生地と加熱していない強力小麦粉その他の材料とを混合してパン生地を形成し、発酵・焼成・滅菌処理を行った。
【0108】
これら3種類のパンを試作するに際し、金属缶(486cm)あるいは牛乳パック紙容器(490cm)の2種類の容器を使用して、パンの比容積を比較した。上記の各容器の寸法は、金属缶容器が直径7.5cm×高さ11cm、牛乳パック紙容器が縦7cm×横7cm×高さ10cmであった。
なお、各試験区におけるパン生地の使用量は、缶詰ピザパンが200g、牛乳パックピザパンが100g、缶詰ミカンパンが200g、牛乳パックミカンパンが100g、缶詰ブドウパンが150g、牛乳パックブドウパンが150gとした。
【0109】
種子置換法で測定したパンの比容積を図10に示す。図10からピザパン、ミカンパン、ブドウパンのいずれにおいても、紙容器を用いた方が、金属缶容器を用いた場合よりもパンの比容積が大きくなり、膨張性が良いことが示された。
【0110】
実施例11(缶詰パンと紙容器パンの物性、水分含量の比較)
実施例6と同様にして作製しただし練り込みパンの一次発酵後の生地を2分して、一方の生地(125g)を実施例10と同じ缶詰用金属缶(486cm)に入れ、もう一方の生地(125g)を実施例10と同じ牛乳用紙パック(490cm)に入れた。これらについて、タバイエスペック製インキュベーターを用いて38℃で40分間二次発酵を行い、ついでシャープ製ヘルシオを用い、パン焼きモードで40分間焼成した。焼成後、缶あるいは紙容器を密閉し、平山製作所製オートクレーブを用いて120℃、20分間の条件で滅菌処理を行った。
【0111】
上記2種類のパンの写真を図11に、テンシプレッサーによる物性測定結果を図12−AおよびBに、製造30分後の部位別の水分含量を図13に示す。
図11中、Aは缶詰パンを、Bは紙パックパンを、それぞれ示す。図12−Aは「硬さ」の測定結果を、図12−Bは「噛みごたえ」の測定結果を、それぞれ示す。図13中、*は危険率5%で有意差があることを示す。
【0112】
紙容器を用いて試作した本発明のパンは、図12−AおよびBに示すように、しっかりした噛みごたえのある物性を示した。
また、本発明のパンは、図13に示すように、金属缶を用いて試作した比較例のパンに比べて、上部・中部・底部による水分含量の偏りがなく、均一な食感を示した。一方、金属缶を用いて試作したパンでは、上部と底部の水分含量の間で有意差が認められた(p<0.05)。
【0113】
実施例12(豚肉、鮭、おでんを練り込んだパンの試作)
紅鮭ほぐし30g、即席茶漬けのもと(永谷園製)1袋、市販強力小麦粉(日清製粉製カメリヤ)84gに、いりこだし2.5g(130mL)を加え、家庭用電気炊飯器(シャープ製KS-HA5-W)の白米モードで25分間加熱し、小麦デンプンを糊化させ、加熱糊化生地とした。
【0114】
以下は実施例1と同様にして、当該加熱糊化生地を加熱していない強力小麦粉(日清製粉製カメリア)196グラムに加え、さらに塩小さじ半杯、オリーブオイル15グラム、砂糖15グラム、スキムミルク15グラムを加え、家庭用製パン機(パナソニック製SD-BH103)で15分間撹拌し、ドライイースト3グラムを加えて、パン生地を形成した。
【0115】
このパン生地を同製パン機中で3.5時間一次発酵させ、生地を取り出してガス抜きをし、500mL容の牛乳用紙パックに当該生地200グラムを入れ、タバイエスペック製インキュベーター中で38℃、40分間二次発酵を行った。次いで、家庭用調理器(シャープ製ヘルシオ)を用いてロールパンモードで40分間焼成した。焼成後、紙容器を密閉し、平山製作所製オートクレーブを用いて120℃、20分間の条件で滅菌処理を行った(鮭練り込みパン)。
【0116】
同様に、醤油、生姜、砂糖、みりんで調味した味付き生姜焼きロース豚肉93g、青シソ3枚、生姜(大)1個、強力小麦粉(カメリア)84gにかつおだし2.5g(130mL)を加え、炊飯器で加熱糊化させた後に、強力小麦粉その他の材料と混合して、上記と同じ方法で豚肉練り込みパンを作製した。
【0117】
さらに、市販の「おでんの具(昆布、卵、さつま揚げ、ゴボウ巻、ちくわ、こんにゃく)」(一正蒲鉾製)65gおよび強力小麦粉(カメリア)84gにかつおだし2.5g(120mL)を加え、炊飯器で加熱糊化させた後に、強力小麦粉その他の材料と混合して、上記と同じ方法でおでん練り込みパンを作製した。
【0118】
実施例11で作製した缶詰パンと並べた上記3種類のパンの写真を図14に、それぞれのパンのテンシプレッサーによる物性測定結果を図15−A〜Dに示す。
図14中、下段のAは豚肉練り込みパンを、Bは鮭練り込みパンを、Cはおでん練り込みパンを、上段は実施例11で作製した缶詰パンを、それぞれ示す。また図15−Aは「硬さ」の測定結果を、図15−Bは「噛みごたえ」の測定結果を、図15−Cは「脆さ」の測定結果を、図15−Dは「柔軟性」の測定結果を、それぞれ示す。
【0119】
これらの図から、本発明によって、おでん、鮭、豚肉などを練り込んだ「食事」に近いパンの製造が可能であり、それぞれのパンは風味の点でおでん、鮭、豚肉の風味を有しているのみならず、噛みごたえ、硬さ、脆さ、柔軟性などの物理特性の点でも、好まれる特性を有していることが示された。
【0120】
実施例13(横長紙容器による製パン)
図16および図17に、本発明で用いられる横長型直方体の耐熱性紙容器の一例を示す。この紙容器は、横長型の直方体の耐熱性紙容器であって、高さが底面の短辺より小さく、かつ底面の長方形の長辺が短辺の3倍以上の長さである。
また、この紙容器は、図17に示すように底が二重構造になっており、パン生地を底から入れて発酵・焼成した後、2枚目の底紙をパックして滅菌処理を行い、パンの取り出しは上部を開封して行うものである。さらに、数種類のパンを製造するため、図17に示すように容器の内部に仕切りを入れることが可能である。
【0121】
実施例1(ピザパン)、実施例2(牛肉パン)および実施例3(鮭パン)の方法を用いて3種類のパン生地(一次発酵後)を作製した。上記の耐熱性紙容器に仕切りを入れて3分割したものに、当該3種類のパン生地を入れ、発酵・焼成・滅菌処理することにより作製した3種類の包装パンを、図18に示す。
図18中、Aはピザパンを、Bは牛肉パンを、Cは鮭パンを、それぞれ示す。
【0122】
本実施例のように、横長型直方体の耐熱性紙容器であって高さが底面の短辺より小さいものを用いた場合は、パンの上部、中部、底部の水分含量が均一となり、食感も良好となった。
また、底面の長方形の長辺が短辺の3倍以上の長さである紙容器を用いることにより、3種類の異なるパンを1個の紙容器内に並べることが可能となった。
さらに、図18に示すように、3つに区分された横長型紙容器を使用することにより、A(ピザパン)、B(牛肉パン)、C(鮭パン)という、3種類の風味の異なる練り込みパンを一度に味わうことができた。
【0123】
実施例14(横長紙容器のパン生地体積)
実施例1と同様にしてピザ練り込みパンの生地(一次発酵後)を作製した。実施例13の図16と同様の横長紙容器の中に、3種類の紙容器を入れて3分割し、3種類の体積の異なる上記パン生地(容器容積に対して28%、50%、82%)を加えた。さらに、実施例1と同様にして二次発酵・焼成・滅菌処理を行った。
【0124】
このようにして作製した3種類のパンを図19に示す。図19中、Aは容器容積に対するパン生地体積の割合が82%、Bが28%、Cが50%である。
図19に示すように、パン生地体積が紙容器の容積の28%の場合(図19B)は、容器の上部に空間が多く残存するので不適当であった。一方、パン生地体積が紙容器の容積の80%を超えると(図19A)、二次発酵で膨張したパン生地が大きくなりすぎるために容器上部の密閉が不可能となるので不適当であった。
この結果、本発明における紙容器に入れるパン生地の体積は、紙容器の容積の30%以上、80%以下の範囲内であることが必要であることが示された。
【0125】
実施例15(二重底横長紙容器)
本発明で用いられる通気性のある二重底である耐熱性紙容器の例(展開図)を、図20に示す。また、牛乳用紙容器を材料として試作した、本発明で用いられる二重底の紙容器の例(写真)を、図21に示す。
図20中、Aは側面の展開図を、Bは底面の展開図を、それぞれ示す。図21中、Aは紙容器の側面を、Bは紙容器の底面(脱酸素剤装着)を、Cは紙パックパンを、それぞれ示す。
【0126】
これらの図に示すように、底が二重底となっていると、パン生地を入れる容器本体と、脱酸素材等の副資材添加物を入れる最下部とを仕切ることが可能となり、パン生地が副資材添加物と直接接触しないという利点がある。
また、図20に示すように、脱酸素剤を入れる最下部とパン生地を入れる容器本体との間仕切りに穴を開けることで、パン生地と脱酸素材等との直接の接触を防ぎながら、容器内の酸素分圧を低下させることが可能となる。
【0127】
実施例2の方法にしたがい、図21に示す紙容器を用いて試作し、脱酸素剤を共存させて保管したパンを図21Cに示す。このパンは、密閉して滅菌処理してあるため、製造後3ヶ月常温保管した後においても微生物の増殖は認められず、共存脱酸素剤の効果によって、パンに含まれる油脂中の遊離脂肪酸増加も認められなかった。
比較のために、脱酸素剤を共存させずに常温で貯蔵保管した場合は、3ケ月後の遊離脂肪酸が100mgKOH当量/100gパン乾物量を超えてしまい、食品として不適当となってしまった。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明は、災害時の緊急食糧を想定した、食味、栄養性、消化性および保存性に優れたパンおよびその製造方法に関するものであり、より具体的には、糊化した穀類生地にタンパク質素材および微量栄養成分含有素材を加えて練り合わせた後、小麦粉に混合し、密閉可能な耐熱性紙容器中で発酵させた後、密閉し、高温高圧処理することによって滅菌および消化性向上を行うことを特徴とする、食味、栄養性および保存性に優れた包装パンの製造方法および当該方法によって製造されたパンに関するものであり、安全性、利便性、高栄養性、良食味性、長期保存性、均一性などの利点を有している。
【0129】
したがって、本発明に係るパンは、災害時の緊急食糧、自治体や企業における保存食、家庭における食事代替食などの幅広い用途があり、産業上の利用可能性が高い上に、横型の紙容器を分割して異なる種類の練り込みパンを配置することにより、多様な食事パンとして楽しむことができる。
【0130】
さらに、本発明に係るパンは、缶詰パンとは異なり、紙容器を使用しているので電子レンジによる再加熱が可能であり、缶詰パンに比べて軽量であり、喫食後の容器の廃棄が容易であり、製造・流通・廃棄におけるコストが低減できる。
【符号の説明】
【0131】
1 開封口
2 二重底
3 内部仕切り
4 のりしろ
5 通気口
6 脱酸素剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糊化した小麦粉生地と、タンパク質素材および/あるいは微量栄養成分含有素材と、の混合物に、未糊化の小麦粉を混合してパン生地を作製する工程と、
前記パン生地を発酵させる工程と、
発酵したパン生地を耐熱性紙容器中で焼成する工程と、
前記耐熱性紙容器を密閉した状態で、前記耐熱性紙容器およびその内容物を滅菌する工程と、
を含むことを特徴とする紙容器入りパンの製造方法。
【請求項2】
タンパク質素材が、牛肉、豚肉、鶏肉、卵、脱脂乳、チーズ、魚肉、甲殻類タンパク質、軟体動物タンパク質、豆類、豆類タンパク質、脱脂大豆、大豆濃縮タンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質、トウモロコシタンパク質、脱脂ヒマワリ、脱脂ナタネ、綿実タンパク質および脱脂米ぬかからなる群より選ばれた1種以上である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
微量栄養成分含有素材が、野菜、果実、キノコ、海藻および魚類からなる群より選ばれた1種類以上である、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
滅菌工程が、105℃〜200℃の温度で15秒〜2時間高温高圧処理するものである、請求項1〜3のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項5】
耐熱性紙容器に入れるパン生地の体積が、耐熱性紙容器の容積に対して30%以上80%以下である、請求項1〜4のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項6】
耐熱性紙容器が、横長型の直方体であって、高さが底面の短辺より小さく、かつ底面の長方形の長辺が短辺の3倍以上の長さである、請求項1〜5のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項7】
耐熱性紙容器が、通気性のある二重底を有し、内側の底面と外側の底面との間に副資材を入れてなることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項記載の製造方法により製造された紙容器入りパン。
【請求項9】
可食部乾物100グラム当たり、熱量が400キロカロリー以上であり、タンパク質を10グラム以上、食物繊維を3.0グラム以上、ビタミンBを80マイクログラム以上、カルシウムを75ミリグラム以上含む、請求項8記載の紙容器入りパン。

【図1】
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【図5】
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【図7−A】
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【図7−B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12−A】
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【図12−B】
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【図13】
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【図15−A】
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【図15−B】
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【図15−C】
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【図15−D】
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【図17】
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【図20】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図11】
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【図14】
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【図16】
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【図18】
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【図19】
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【図21】
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【公開番号】特開2013−27372(P2013−27372A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167003(P2011−167003)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】