説明

紙幣識別装置

【課題】紙幣の傾きや滑りを高精度に検出することができるようにする。
【解決手段】紙幣識別装置は、搬送ベルトまたは搬送ローラに対して紙幣搬送通路を挟んで対向する位置に設けられ、前記搬送ベルトまたは前記搬送ローラと搬送される紙幣の両方の移動量を検出する2次元移動量検出センサと、紙幣が挿入される毎に、前記2次元移動量検出センサの出力に基づいて前記搬送ベルトまたは前記搬送ローラの移動量と移動方向の情報からなる基準データと、前記搬送ベルトまたは前記搬送ローラによって搬送される移動量と移動方向の情報からなる紙幣の搬送状態情報とを其々求めると共に、前記基準データと紙幣の搬送状態情報とを比較することによって、前記紙幣の傾きと滑りを検出する搬送状態判別部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、紙幣の傾きや滑りを高精度に検出することができるようにした紙幣識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動販売機等には紙幣識別装置が搭載されている。紙幣識別装置は、紙幣挿入口から挿入された紙幣を、搬送ベルト又は搬送ローラで搬送して装置内に取り込み、その搬送中に、紙幣搬送通路に沿って設けられた光センサや磁気センサ等の識別センサによって、紙幣の真偽と種類を識別するものである。
【0003】
紙幣識別装置の搬送ベルト又は搬送ローラを駆動させる駆動モータの軸には、パルスエンコーダが取り付けられており、パルスエンコーダから出力されるパルスに同期して識別センサにより検出された紙幣の特徴データを、メモリに記憶されている特徴データと比較することで、紙幣の真偽と種類を識別するとともに、紙幣が特定のセンサの位置を通過するまでのパルスエンコーダのパルス数をカウントして紙幣の長さを判定するようになされている。
【0004】
紙幣識別装置のメモリには、識別センサにより検出された特徴データとの比較に用いられる、紙幣の特徴データが予め記憶されている。挿入された紙幣が上記の識別において真券ではないと識別された時、駆動モータを逆方向に回転させて、その紙幣を返却する動作が行われる。
【0005】
このような紙幣識別装置において、搬送ベルト又は搬送ローラや紙幣が接触する搬送用部品の汚れ、あるいは、濡れた紙幣、折れた紙幣、こしが無いぼろぼろの紙幣が挿入されることが原因となって、搬送中の紙幣に傾き(スキュー)や滑りが発生することがあった。
【0006】
紙幣の搬送中にスキューや滑りが発生した場合、紙幣が詰まってしまい、返却動作を行っても紙幣を返却出来ずに紙幣識別装置が利用出来なくなってしまう。また、パルスエンコーダのパルスに同期して識別処理を行うようになされている為、滑りが発生すると、識別センサによる検出結果の位置がずれて識別不良が発生することになる。
【0007】
特許文献1には、これらの問題を解決するために、自動販売機等に搭載される紙幣識別装置において、押圧ローラに取り付けられたローラパルスと、モータ軸に取り付けられたモータパルスにより紙幣の滑りに対応した識別を行う技術が開示されている。
【0008】
一方、特許文献2および特許文献3には、複写機等の紙葉類搬送装置において、光学式マウスセンサ等で用いられているものと同様の2次元移動量検出センサを用いて紙葉類のスキューや滑りをリアルタイムで検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−348233号公報
【特許文献2】特開2005−41623号公報
【特許文献3】特開2005−206307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に開示されている技術においては、押圧ローラ自体に滑りが発生し、紙幣の滑りを正確に検出出来ないことがあった。また、スキューを検出することが出来なかった。
【0011】
また、特許文献2および特許文献3に開示されている技術では、2次元移動量検出センサに誤差(バラつき)がある為、紙葉類のスキューや滑りを高精度に検出することができなかった。
【0012】
ここで、2次元移動量検出センサの誤差には、駆動角度の誤差と距離測定の誤差とがある。2次元移動量検出センサの駆動角度の誤差は、2次元移動量検出センサに設けられているCCD(Charge Coupled Device Image Sensor)に対する、測定物の駆動角度の誤差である。駆動角度の誤差は、2次元移動量検出センサ、紙葉類搬送装置の組み立て誤差等によって生じる。
【0013】
また、2次元移動量検出センサの距離測定の誤差は、レンズによる光学像をCCDで読み取り、DSP(Digital Signal Processor)で2方向の移動距離を検出する2次元移動量検出センサの原理により、対象物、レンズ、CCDの位置関係により光学像の大きさが変わり、1ドット当りの距離に違いが出ることをいう。距離測定の誤差も、2次元移動量検出センサ、紙葉類搬送装置の組み立て誤差等によって生じる。
【0014】
ところで、上述した技術から、自動販売機等に搭載される紙幣識別装置に2次元移動量検出センサを用いることで、紙幣の搬送中のスキューや滑りを検出することができ、これにより、紙幣の真偽と種類を精度よく識別することが可能になるものと考えられる。
【0015】
しかし、自動販売機等に搭載される紙幣識別装置においては、紙幣の搬送駆動源として直流モータが利用されており、紙幣の搬送速度の制御が行われていない。また、自動販売機に搭載される紙幣識別装置は、使用される環境温度の範囲が−10〜60℃と一般的な事務機器と比較して広い装置である為に、搬送速度が装置周辺の温度によって多きく変動する。さらに、紙幣識別装置の個体差によって紙幣の搬送速度が装置毎に異なる。
【0016】
従って、仮に、上述したような2次元移動量検出センサの個体差(誤差)を出荷時に補正しても、紙幣識別装置毎の搬送速度が異なることや、出荷後の紙幣識別装置の紙幣の搬送速度が、温度等によって出荷時の速度と異なることから、出荷時に個体差を補正した2次元移動量検出センサの出力と、実稼働時の2次元移動量検出センサの出力とを比較してもスキューや滑りを高精度に検出することが出来ないという問題があった。
【0017】
例えば、出荷時に、常温25℃の環境下で使用されることを想定して2次元移動量検出センサの個体差を補正したとしても、低温環境下では紙幣の搬送速度が遅くなってしまうことから、滑りが発生していると誤って判定されてしまう。また、温度以外にも、搬送ローラや搬送ベルトの摩耗が要因となって紙幣の搬送速度が出荷時より低下し、誤って判定されてしまう。
【0018】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、紙幣の傾きや滑りを高精度に検出することができる紙幣識別装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の目的を達成するために請求項1記載の紙幣識別装置の発明は、搬送ベルトまたは搬送ローラに対して紙幣搬送通路を挟んで対向する位置に設けられ、前記搬送ベルトまたは前記搬送ローラと搬送される紙幣の両方の移動量を検出する2次元移動量検出センサと、紙幣が挿入される毎に、前記2次元移動量検出センサの出力に基づいて前記搬送ベルトまたは前記搬送ローラの移動量と移動方向の情報からなる基準データと、前記搬送ベルトまたは前記搬送ローラによって搬送中の紙幣の移動量と移動方向の情報からなる紙幣の搬送状態情報とを其々求めると共に、前記基準データと紙幣の搬送状態情報とを比較することによって、前記紙幣の傾きと滑りを検出する搬送状態判別部とを備えることを特徴とする。
【0020】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の紙幣識別装置において、前記2次元移動量検出センサは、プーリの近傍の位置に設けられることを特徴とする。
【0021】
請求項3記載の紙幣識別装置の発明は、搬送ベルトまたは搬送ローラに連動して駆動される測定部材を備え、前記測定部材に対して紙幣搬送通路を挟んで対向する位置に設けられ、該測定部材上と搬送される前記紙幣の両方の移動量と移動方向を検出する2次元移動量検出センサと、前記紙幣が挿入される毎に、2次元移動量検出センサの出力に基づいて前記測定部材の移動量と移動方向の情報からなる基準データと、前記搬送ベルトまたは前記搬送ローラによって搬送中の前記紙幣の移動量と移動方向の情報からなる紙幣の搬送状態情報とを其々求めると共に、前記基準データと前記紙幣の搬送状態情報とを比較することによって、前記紙幣の傾きや滑りを検出する搬送状態判別部を備えることを特徴とする。
【0022】
請求項4記載の紙幣識別装置の発明は、請求項1乃至請求項3に記載の紙幣識別装置において、挿入口に紙幣の挿入を検出する入口センサをさらに備るともに、前記2次元移動量検出センサは受光量をさらに検出するものであって、前記搬送状態判別部は、前記入口センサにより前記紙幣の挿入が検出されることに応じて前記搬送ベルトまたは前記搬送ローラの駆動が開始されたとき、2次元移動量検出センサからの出力に基づいて前記基準データと前記受光量を求め、前記2次元移動量検出センサが設けられた位置に前記紙幣が到達したことを前記受光量の変化に基づいて検知すると前記紙幣の搬送状態情報を求め、前記紙幣の傾きと滑りの検出を開始することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、紙幣の傾きや滑りを高精度に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る紙幣識別装置の要部破断断面図である。
【図2】2次元移動量検出センサの構成例を示す図である。
【図3】紙幣識別装置1の紙幣搬送手段と紙幣識別手段の概略を示す側面図である。
【図4】紙幣識別装置1の紙幣搬送手段と紙幣識別手段の概略を示す上面図である。
【図5】紙幣識別装置1の制御部の機能構成例を示すブロック図である。
【図6】紙幣の搬送状態を監視する紙幣識別装置の動作について説明するフローチャートである。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る紙幣識別装置の紙幣搬送手段と紙幣識別手段の概略を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[本発明の第1の実施の形態]
<紙幣識別装置の構成例>
初めに、図1を参照しながら本発明の第1の実施の形態に係る紙幣識別装置の基本構成を説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る紙幣識別装置の要部破断断面図である。
【0026】
図1の紙幣識別装置1は、例えば自動販売機内に設けられる。紙幣識別装置1は、紙幣挿入口2を備えた筐体である装置本体3と、装置本体3内に設けられ、紙幣挿入口2に挿入された紙幣を装置本体3内の紙幣搬送通路に沿って搬送する紙幣搬送手段4と、紙幣搬送手段4により搬送された紙幣の真偽と金種を識別する紙幣識別手段5と、紙幣識別手段5により真券と識別された紙幣を収容するスタッカ6とから構成される。
【0027】
装置本体3は、紙幣挿入口2が形成され、図示しない自動販売機の正面を構成する扉の一部から露出するように配設されるフロントマスク7と、フロントマスク7を正面に装着したフロントプレート8と、フロントプレート8に固着された矩形状の筐体9とから構成される。紙幣挿入口2には、紙幣の挿入を検出する入口センサ21が設けられている。入口センサ21は、反射型の光センサであるが透過型の光センサや直接紙幣に接触して受入れを検知するセンサであってもよい。
【0028】
紙幣搬送手段4および紙幣識別手段5は、ユニットボックス11内に設けられている。スタッカ6は、筐体9の下方に軸受手段12を介し、回動自在および着脱自在に支承されている。
【0029】
紙幣搬送手段4は、ユニットボックス11内の上部に設けられたモータ41と、モータ41の回転を無端の紙幣搬送ベルト44に伝達する駆動プーリ42と、駆動プーリ42との間で紙幣搬送ベルト44を張設する従動プーリ43と、紙幣搬送ベルト44の周面に所定の間隔で設けられた従動ローラ45A乃至45Dとを備えている。
【0030】
なお、駆動プーリ42を支承する軸42aとモータ41の駆動軸41aとの間には、図示しない歯車列が設けられ、その歯車列が動力伝達手段として機能する。図示せぬ制御部からの駆動信号に基づいてモータ41が駆動して駆動軸41aが一方向へ回転すると、その歯車列を介して駆動プーリ42の軸42aが一方向へ回転し、紙幣搬送ベルト44が一方向へ回転する。
【0031】
従動ローラ45A乃至45Dは紙幣搬送ベルト44の表面に圧接するように設けられている。挿入された紙幣は、紙幣搬送ベルト44が回転することによって、従動ローラ45A乃至45Dによって紙幣搬送ベルト44との間に挟持された状態で、紙幣搬送ベルト44の回転方向に搬送される。
【0032】
紙幣識別手段5は、通過する紙幣の特定位置の濃淡を特徴データとして検出する複数の発光素子51および複数の受光素子52から構成される。複数の発光素子51は、ユニットボックス11内に収容されたプリント配線基板54に搭載され、複数の受光素子52はプリント配線基板55に搭載されている。
【0033】
また、紙幣搬送ベルト44に対して紙幣搬送通路を挟んで対向する位置には、2次元移動量検出センサ61が設けられている。この2次元移動量検出センサ61は、パーソナルコンピュータ等のユーザインターフェースとして利用される光学式マウスに搭載される2次元移動量検出センサと同様の機能を有するセンサであって、被測定物の移動量と移動方向を示す情報としてのX方向とY方向の移動量の情報や受光量を出力するセンサである。
【0034】
図2は、2次元移動量検出センサ61の構成例を示す図である。
2次元移動量検出センサ61は、光源81と、2次元受光素子アレイ83と、光源81から照射されて被測定物に反射した光を2次元受光素子アレイ83に集束させるためのレンズ82を備える。2次元受光素子アレイ83は、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)からなる。尚、2次元受光素子アレイ83は、電荷結合素子(CCD)のような他の撮像デバイスを使用することも可能である。
【0035】
演算処理部85は、2次元受光素子アレイ83からの出力に基づいて、対象物のX方向とY方向の移動量の演算を行い、演算により求めたX方向とY方向の移動量を表す情報と受光量を表す情報を、インターフェース86を介して外部に出力する。なお、2次元移動量検出センサ61による移動量の検出の原理については、特開2005−41623号公報等に記載されている通り公知の技術であるから詳細な説明は省略する。
【0036】
第1の実施例に係わる紙幣処理装置1は、このような2次元移動量検出センサ61を搭載することで、搬送ベルト44と搬送される紙幣の其々の移動量(X方向の移動量とY方向の移動量)と搬送ベルト44と搬送される紙幣の其々から反射した受光量を取得して、搬送中の紙幣の傾きや滑りを検出できる。
【0037】
尚、2次元移動量検出センサ61は、従動プーリ43に架けられた搬送ベルト44の近傍に配置されている。このように従動プーリ44や駆動プーリ42に近い位置に2次元移動量検出センサ61を配置した方が、2次元移動量検出センサ61と紙幣搬送ベルト44との間隔が比較的一定となって、紙幣や紙幣搬送ベルト44の移動量(X方向の移動量とY方向の移動量)が高精度に検出できる。
【0038】
次に、図3、図4を参照しながら第1の実施の形態にかかわる紙幣識別装置1の紙幣搬送手段4と紙幣識別手段5および2次元移動量検出センサ61について詳細に説明する。
図3は、図1に示す紙幣識別装置1の紙幣搬送手段4と紙幣識別手段5の概略を示す側面図であり、図4は、紙幣搬送手段4と紙幣識別手段5の概略を示す上面図である。図3と図4に示す構成のうち、図1に示す構成と同じ構成には同じ符号を付してあり、重複する説明については適宜省略する。
【0039】
図3の白抜き矢印#1に示すようにして紙幣挿入口2に挿入された紙幣は入口センサ21により検出され、モータ41の駆動によって駆動プーリ42を介して駆動される紙幣搬送ベルト44によって、装置内部へと搬送される。
【0040】
装置内部へと搬送される紙幣は、従動ローラ45Aと従動ローラ45Bの位置を通過し、白抜き矢印#2の先に示す2次元移動量検出センサ61の検出位置(2次元移動量検出センサ61の位置)に到達する。さらに、従動ローラ45Cの位置を通過し、発光素子51と受光素子52からなる識別用光学センサ71が設けられた位置を通過する。紙幣が識別用光学センサ71を通過すると、紙幣処理装置1は、識別用光学センサ71の出力に基づいて紙幣の真贋を判別する。ここで紙幣が真正であると判断されると、紙幣は従動ローラ45Dの位置を通過してスタッカ6に収容される。
【0041】
なお、図4に示すように、紙幣識別装置1には、図3に示す駆動プーリ42、従動プーリ43、紙幣搬送ベルト44と同じ構成が並行に2つ設けられており、紙幣搬送ベルト44による紙幣の搬送方向と直交する方向に、識別用光学センサ71が複数並べて設けられている。図3の例においては、下側の紙幣搬送ベルト44側に2次元移動量検出センサ61が設けられている。
【0042】
上側の駆動プーリ42と下側の駆動プーリ42は軸42aによって接続され、軸42aには、動力伝達手段となる歯車列などを介してモータ41が接続される。モータ41には、モータ41の回転に同期してパルス信号を出力するモータパルスエンコーダ81が設けられている。また上側の従動プーリ43と下側の従動プーリは図示しない軸によって接続されている。
【0043】
このような構成を有する紙幣識別装置1においては、後述する制御部101により、紙幣の挿入が検出された場合、紙幣搬送ベルト44が動き出してから、紙幣が2次元移動量検出センサ61の位置に到達する前の紙幣搬送ベルト44の移動量(X方向の移動量とY方向の移動量)が2次元移動量検出センサ61の出力に基づいて検出され、紙幣搬送ベルト44の移動量と移動方向を表す情報が基準データとして求められる。また、紙幣が、2次元移動量検出センサ61の位置に到達後は、紙幣の移動量(X方向の移動量とY方向の移動量)が2次元移動量検出センサ61の出力に基づいて検出され、紙幣の移動量と移動方向を表す情報が紙幣の搬送状態情報としてリアルタイムに求められる。
そして、これらの基準データと紙幣の搬送状態情報とをリアルタイム比較することで、紙幣のスキューや滑りが検出される。
【0044】
次に紙幣識別装置1の制御部(CPU101)の機能構成について詳細に説明する。図5は、制御部の機能構成例を示すブロック図である。
【0045】
制御部として機能するCPU101においては、予めメモリ120に記憶された所定のプログラムが実行されることによって、搬送状態判別部111、識別部112、およびモータ制御部113が実現される。搬送状態判別部111は、2次元移動量検出センサ61により取得した情報に基づいて紙幣の滑りや傾きを判別するものである。識別部112は、モータパルスエンコーダ81からの出力信号と紙幣識別手段5からの出力信号および搬送状態判別部111からの情報に基づいて紙幣の真贋と金種を判別するものである。モータ制御部113は、紙幣の受入方向への搬送、返却方向への搬送および停止の制御をするものである。搬送状態判別部111は、測定部111A、スキュー検出部111B、および滑り検出部111Cから構成され、識別部112は、識別アドレス補正処理部112Aおよび識別処理部112Bから構成される。
【0046】
搬送状態判別部111の測定部111Aは、入口センサの21の出力信号に基づいて紙幣が挿入されたことを検出する毎に、2次元移動量検出センサ61により取得されたX方向とY方向の移動量に基づいて、紙幣が無い状態(言い換えると2次元移動量検出センサ61にまだ搬送されている紙幣が到達しない状態)での紙幣搬送ベルト44の移動量と移動方向を表す基準データを求め、メモリ120へ記憶する。また、測定部111Aは、2次元移動量検出センサ61により取得された受光量に基づいて、基準となる受光量を求め、この基準データと基準となる受光量をメモリ120へ記憶する。また測定部111Aは、挿入された紙幣が2次元移動量検出センサ61の位置に到達したことを受光量の変化に基づいて検出する。
【0047】
紙幣が2次元移動量検出センサ61の位置に到達したことがを受光量の変化に基づいて測定部111Aにより検出された場合、測定部111Aは、紙幣の移動量と移動方向を表す搬送状態情報を求める。
【0048】
スキュー検出部111Bは、測定部111Aが搬送状態情報として求めた紙幣の移動方向と、メモリ120に記憶した基準データの移動方向を表す情報とを比較して紙幣のスキューを検出する。また、滑り検出部111Cは、測定部111Aが求めた搬送状態情報として求めた紙幣の移動量と、メモリ120に記憶した基準データの移動量とを比較して紙幣の滑りを検出する。スキュー検出部111Bにより検出されたスキューの情報と滑り検出部111Cにより検出されたスキューの情報は、識別部112とモータ制御部113に供給される。
【0049】
識別部112の識別アドレス補正処理部112Aは、スキュー検出部111Bにより求められたスキューと滑り検出部111Cにより求められた滑りに基づいて、紙幣搬送ベルト44により搬送されている紙幣の識別アドレスを補正する。
【0050】
識別処理部112Bは、例えば、識別処理部112Bに対して予め与えられている紙幣の各位置の特徴データと、識別用光学センサ71により検出された、識別アドレス補正後の紙幣の特徴データとをマッチングし、紙幣の真偽と種類を識別する。識別処理部112Bにより識別された紙幣の真偽を表す情報はモータ制御部113に出力される。
【0051】
モータ制御部113は、入口センサ21により紙幣の挿入が検出された場合、モータ41の駆動を開始させる。また、モータ制御部113は、スキュー検出部111Bにより検出されたスキューまたは滑り検出部111Cにより検出された滑りが、識別アドレス補正処理部112Aが識別アドレスを補正しきれないほど大きい場合、モータ41を逆回転させて紙幣の返却動作を行う。モータ制御部113は、挿入された紙幣が真券ではないとして識別処理部112Bにより識別された場合も同様に紙幣の返却動作を行わせる。
【0052】
<搬送状態判別部111の処理について>
ここで、測定部111Aにより行われる基準データの取得方法と、紙幣が2次元移動量検出センサ61の位置に到達した後の紙幣の搬送状態情報の取得と、スキュー検出部111B、滑り検出部111Cにより行われる紙幣のスキュー、滑りの検出と、紙幣が2次元移動量検出センサ61の位置に到達したこと受光量に基づいて検出する方法について説明する。
【0053】
(紙幣搬送前の搬送状態の基準データ取得)
紙幣の挿入が検出されてから2次元移動量検出センサ61の位置に紙幣が到達する前までの所定期間(時間T1)の間の2次元移動量検出センサ61の出力するX方向(紙幣の搬送方向)の移動量をX1、Y方向(紙幣の搬送方向と直交する方向)の移動量をY1とすると、基準データの内、方向の基準を表す値である方向基準値α1は下式(1)により求められる。
α1 = ArcTan(Y1/X1) ・・・ (1)
【0054】
また、紙幣の挿入が検出されてから2次元移動量検出センサ61の位置に紙幣が到達する前までの所定期間における、基準データの移動量基準値V1は下式(2)により求められる。なお、絶対値較正をしてないので移動量基準値V1は相対値である。
V1 = SQRT(X12 + Y12) /T1 ・・・ (2)
【0055】
(紙幣到達以後の搬送状態情報の求め方(算出方法)と紙幣のスキュー、滑り検出)
2次元移動量検出センサ61の位置に紙幣が到達すると、2次元移動量検出センサ61が出力するX方向とY方向の移動量に基づいて、上述した基準データの求め方と同様の方法で紙幣の移動方向情報α1billが下式(3)から求められる。
α1bill= ArcTan(Ybill/Xbill) ・・・ (3)
【0056】
また、2次元移動量検出センサ61が出力するX方向とY方向の移動量に基づいて、上述した基準データの求め方と同様の方法で、紙幣の移動量を示す値であるV2が下式(4)から求められる。
V2= SQRT(Xbill2 + Ybill2)/ T2 ・・・ (4)
【0057】
紙幣のスキューは次の式から求められる。
スキュー = αbill − α1 ・・・ (5)
【0058】
紙幣の滑りは次の式から求められる。
滑り = V2 − V1 ・・・ (6)
【0059】
(2次元移動量検出センサ61の位置に紙幣が到達したことを2次元移動量検出センサ61の受光量に基づいて検知する方法)
第1の実施の形態における紙幣処理装置1の搬送ベルト44は黒い色のベルトを用いておりこの搬送ベルト44から2次元移動量検出センサ61が受光量は、紙幣に比較して少ない(暗い)。一方紙幣は全体において搬送ベルトよりも反射量が多い(明るい)。このため、識別状態識別部111の測定部111Aは、紙幣が無い状態において求めた基準となる受光量に対して、急激に受光量が増えた時、紙幣が2次元移動量検出センサ61の位置に到達したことを検出出来る。
【0060】
次に、図6のフローチャートを参照して、紙幣処理装置1が紙幣の搬送状態を監視して、紙幣の滑りとスキューの検出する処理について説明する。
【0061】
ステップS1において入口センサ21により紙幣の挿入が検出された場合(S1にてYes)、ステップS2において、モータ制御部113はモータ41を制御し、挿入された紙幣の搬送を開始する。
【0062】
ステップS3において、識別状態識別部111の測定部111Aは、紙幣が2次元移動量検出センサ61の位置に到達する前に2次元移動量検出センサ61により検出された紙幣搬送ベルト44の移動量に基づいて、上式(1)と(2)により基準データを求める。また、測定部111Aは基準の受光量を取得する。
尚、本フローチャートとは別に、紙幣の搬送状態を監視する処理と並行して搬送されている紙幣が識別センサへ到達して通過するまでの間は、識別センサからの出力信号が公知の方法でサンプリングされ、時系列の紙幣の特徴データを取得している。
【0063】
ステップS4において、測定部111Aは、紙幣が2次元移動量検出センサ61の位置に到達したか否かを2次元移動量検出センサ61により検出される受光量の変化に基づいて判定する。
【0064】
紙幣が2次元移動量検出センサ61の位置に到達したとステップS4において判定された場合(S4にてYes)、ステップS5において、測定部111Aは上式(3)と(4)によって紙幣の搬送状態情報をリアルタイムで算出する処理を開始する。
【0065】
ステップS6において、スキュー検出部111Bは、上記ステップS5において取得した紙幣の搬送状態情報と基準データとを比較してスキューを検出したか否かを判定する。例えば、上式(5)により求められた値が予め定められた閾値と比較され、閾値を超えた場合、スキューを検出したとして判定される(S6にてYes)。
【0066】
ステップS6においてスキューが検出されていない場合(S6にてNo)、ステップS7において、滑り検出部111Cは、滑りを検出したか否かを判定する。例えば、上式(6)により求められた値が閾値と比較され、予め定められた閾値を超えた場合、滑りを検出したとして判定される。
【0067】
ステップS7において滑りが検出されていない場合(S7にてNo)、ステップS8において、紙幣が2次元移動量検出センサ61の位置を通過したか否かを判定する。紙幣が2次元移動量検出センサ61を通過したか否かは、上述した2次元移動量検出センサ61の受光量の変化に基づいて判定する。ここで、紙幣が2次元移動量検出センサ61の位置を通過していないとステップS8において判定された場合、ステップS5に戻り、同様の処理が繰り返される。ステップS8において紙幣が2次元移動量検出センサ61を通過したと判定された場合(S8にてYes)は、処理は終了される。
【0068】
上記の紙幣の搬送状態を監視する処理が終了すると、紙幣処理装置1は、紙幣が識別センサを通過するまでサンプリングを継続し、サンプリングが終了すると、紙幣の搬送を停止するとともに、紙幣の特徴データに基づいて紙幣の識別処理を実行し紙幣の金種や真贋の判別処理をする。
【0069】
一方、ステップS6においてスキューが検出された場合(S6にてYes)、またはステップS7において滑りが検出された場合(S7にてYes)、ステップS9において、識別アドレス補正処理部112Aは補正が可能であるか否かを判定する。
【0070】
スキューや滑りが微小であることから補正が可能であるとステップS9において判定した場合(S9にてYes)、ステップS10において、識別アドレス補正処理部112Aは、スキュー検出部111Bにより検出されたスキュー、または滑り検出部111Cにより検出された滑りに応じて識別アドレスを補正する。
【0071】
具体的には、滑りが発生した場合、通常、モータパルスエンコーダ81が出力するパルスに同期してサンプリングを行っているものを、2次元移動量検出センサ61からの紙幣移動情報に同期させてサンプリングを行うようにして識別アドレスの補正が行われる。また、スキューが発生した場合、規定値以上のスキューの発生箇所については特徴データのばらつきを考慮して判定閾値(紙幣の真偽と種類の判定に用いる閾値)を広げるようにして補正アドレスの補正が行われる。事前に基準ラインの左右の判定用標準パターンを用意しておき、スキューに応じた判定用標準パターンを選択し、紙幣の識別を行うことにより受入率を向上させるようにしてもよい。ステップS10において補正が終了すると、ステップS8に戻る。
【0072】
一方、ステップS9において補正が不可能であると判定された場合(S9にてNo)、ステップS11において、モータ制御部113は、モータ41を制御することによって紙幣の搬送を停止し、さらに逆回転して紙幣の返却動作を行う。
【0073】
ステップS11において紙幣の返却が行われるとステップS1へ戻る。
【0074】
以上のように、紙幣識別装置1は、2次元移動量検出センサ61を設け、紙幣を受け入れる毎に、紙幣搬送ベルト44の搬送状態を基準として紙幣の状態を検出するようにしたので、紙幣識別装置1の個体差、温度変化、経時変化などによって、実際の搬送速度が想定されている速度と異なる場合であっても、紙幣のスキューや滑りを高精度に検出することが可能になる。また、紙幣のスキューや滑りをリアルタイムで検出でき、大きなスキューや滑りが検出された場合には返却動作を迅速に行うことによって、紙幣詰まりを未然に防止することが可能になる。
【0075】
なお、従動プーリ43の近傍に2次元移動量検出センサ61を配置するのではなく、特徴データの検出開始位置と2次元移動量検出センサ61の測定の開始位置を同一にするために、識別用光学センサ71の並びと同じラインの位置に搭載してもよい。この場合、2次元移動量検出センサ61を配置する位置には、紙幣搬送ベルト44の暴れを抑える為に従動プーリを追加してもよい。
【0076】
[本発明の第2の実施の形態]
図7は、紙幣識別装置1の紙幣搬送手段4と紙幣識別手段5の他の概略を示す側面図である。図7に示す構成のうち、図3に示す構成と同じ構成には同じ符号を付してある。重複する説明については適宜省略する。
【0077】
図7に示す構成では、従動プーリ43に測定部材121が取り付けられている。従動プーリ43に設けられた測定部材121の直径は、従動プーリ43に架けられた搬送ベルト外周の直径とほぼ同一であってモータ41が駆動し、紙幣搬送ベルト44が動き始めたとき、測定部材121は従動プーリ43と一体になって駆動する。また2次元移動量検出センサ61は、測定部材121と搬送通路をはさんで対向する位置に設けられている。
【0078】
このように、2次元移動量検出センサ61が紙幣の移動量を測定できるような位置にモータ41の駆動に連動して動く測定部材を設け、この測定部材と紙幣の両方の移動量や移動方向を検出し、第1の実施の形態に係る紙幣識別装置1と同様の方法で、基準データの求め方、紙幣の搬送状態の検出などを行っても、紙幣のスキューや滑りを検出することが出来る。
【0079】
これにより、紙幣搬送ベルト44上に2次元移動量検出センサ61を設ける場合と比べて、紙幣搬送ベルト44の不安定さを排除して基準データを求めたり、紙幣のスキュー、滑りを検出したりすることができる。
【0080】
[変形例]
紙幣にスキューや滑りが発生した回数をカウントしておくことによって、自動販売機の管理者に対する紙幣搬送ベルト44の清掃の通知などを正確なタイミングで行うことが可能になる。これにより、紙幣詰まり等のトラブルを未然に防ぐ事ができる。
【0081】
以上においては、紙幣搬送ベルト44上、または従動プーリ43のリム上に2次元移動量検出センサ61を設ける場合について説明したが、駆動プーリを駆動する駆動軸上の位置などの他の位置に設けるようにすることも可能である。
【0082】
尚、以上においては、紙幣を搬送ベルトによって搬送する紙幣識別装置を例に説明をしたが、従来からある紙幣を搬送ローラによって搬送する紙幣識別装置においても、搬送ローラの移動量と紙幣の移動量の両方を測定できる位置に2次元移動量検出センサを配置したり、搬送ローラを駆動するモータの駆動に連動して動くように測定部材を設け、この測定部材と紙幣の両方を測定出来る位置に2次元移動量検出センサ配置しても、本発明を実施することができる。
【0083】
また、以上においては、基準データの取得を紙幣の挿入が検出される毎に行われる例を基に説明をしたが、紙幣が挿入されていない状態(待機状態)において、数分毎に、基準データの取得を定期的に行なって、紙幣を挿入後は紙幣の搬送状態情報の取得のみを実行する構成とすることも可能である。
【0084】
この発明は、上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化したり、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせたりすることにより種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施の形態に亘る構成要素を適宜組み合わせても良い。
【符号の説明】
【0085】
1 紙幣識別装置
21 入口センサ
42 駆動プーリ
43 従動プーリ
44 紙幣搬送ベルト
45A乃至45D 押圧ローラ
61 2次元移動量検出センサ
71 識別用光学センサ
101 CPU
111 搬送状態判別部
111A 基準データ測定部
111B スキュー検出部
111C 滑り検出部
112 識別部
112A 識別アドレス補正処理部
112B 識別処理部
113 モータ制御部
120 メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送ベルトまたは搬送ローラに対して紙幣搬送通路を挟んで対向する位置に設けられ、前記搬送ベルトまたは前記搬送ローラと搬送される紙幣の両方の移動量を検出する2次元移動量検出センサと、
紙幣が挿入される毎に、前記2次元移動量検出センサの出力に基づいて前記搬送ベルトまたは前記搬送ローラの移動量と移動方向の情報からなる基準データと、
前記搬送ベルトまたは前記搬送ローラによって搬送中の前記紙幣の移動量と移動方向の情報からなる紙幣の搬送状態情報とを其々求めると共に、前記基準データと前記紙幣の搬送状態情報とを比較することによって、前記紙幣の傾きと滑りを検出する搬送状態判別部と
を備えることを特徴とする紙幣識別装置。
【請求項2】
前記2次元移動量検出センサは、プーリの近傍の位置に設けられることを特徴とする請求項1に記載の紙幣識別装置。
【請求項3】
搬送ベルトまたは搬送ローラに連動して駆動される測定部材を備え、
前記測定部材に対して紙幣搬送通路を挟んで対向する位置に設けられ、該測定部材と搬送される前記紙幣の両方の移動量を検出する2次元移動量検出センサと、
前記紙幣が挿入される毎に、前記2次元移動量検出センサの出力に基づいて前記測定部材の移動量と移動方向の情報からなる基準データと、前記搬送ベルトまたは前記搬送ローラによって搬送中の前記紙幣の移動量と移動方向の情報からなる紙幣の搬送状態情報とを其々求めると共に、前記基準データと前記紙幣の搬送状態情報とを比較することによって、前記紙幣の傾きや滑りを検出する搬送状態判別部を備えることを特徴とする紙幣識別装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3に記載の紙幣識別装置において、
挿入口に紙幣の挿入を検出する入口センサをさらに備るともに、前記2次元移動量検出センサは受光量をさらに検出するものであって、
前記搬送状態判別部は、前記入口センサにより前記紙幣の挿入が検出されることに応じて前記搬送ベルトまたは前記搬送ローラの駆動が開始されたとき、2次元移動量検出センサからの出力に基づいて前記基準データと前記受光量を取得し、前記2次元移動量検出センサが設けられた位置に前記紙幣が到達したことを前記受光量の変化に基づいて検知すると前記紙幣の搬送状態情報を求め、前記紙幣の傾きと滑りの検出を開始することを特徴とする紙幣識別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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