説明

紙用添加剤、紙用添加剤の安定化方法及び紙

【課題】特定のモノカルボン酸及び/又は特定のモノカルボン酸誘導体とポリアルキレンポリアミン類との反応で得られるアミド系化合物と、エピハロヒドリンとの反応物を含有する紙用添加剤の粘度安定性を改良し、更に好ましくは、抄紙時の発泡を著しく軽減できる紙用添加剤の提供。
【解決手段】炭素数6〜24のモノカルボン酸及び/又は炭素数6〜24のモノカルボン酸誘導体とポリアルキレンポリアミン類との反応で得られるアミド系化合物と、エピハロヒドリンとの反応物(A)と水溶性電解質(B)とを含有する紙用添加剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙用添加剤、紙用添加剤の安定化方法及び紙に関し、更に詳しくは、炭素数6〜24のモノカルボン酸及び/又は炭素数6〜24のモノカルボン酸誘導体とポリアルキレンポリアミン類との反応で得られるアミド系化合物と、エピハロヒドリンとの反応物(A)と水溶性電解質(B)とを含有する紙用添加剤、紙用添加剤の安定化方法及び紙に関する。
【背景技術】
【0002】
紙のサイズ剤の主要成分として、カルボン酸及び/又はカルボン酸エステルとポリアルキレンポリアミン類との反応で得られるアミド系化合物と、エピハロヒドリンとの反応物(以下、「CAE樹脂」)が有用であり公知である(例えば、特許文献1、2参照)。CAE樹脂のサイズ剤以外の用途として不透明度向上剤及び多孔性向上剤もある。前記CAE樹脂が不透明度向上剤として使用されることは公知である(例えば、特許文献3、4参照)。多孔性向上剤として使用されることも公知である(例えば、特許文献5参照)。しかしながら、従来のCAE樹脂は、粘度安定性が十分に満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭42−2922号公報
【特許文献2】特公昭47−11306号公報
【特許文献3】特開昭61−252400号公報
【特許文献4】特開平2000−273792号公報
【特許文献5】特開昭61−252400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、特定のモノカルボン酸及び/又は特定のモノカルボン酸誘導体とポリアルキレンポリアミン類との反応で得られるアミド系化合物と、エピハロドリンとを反応して得られる反応物を含有する紙用添加剤の粘度安定性を改良し、さらに好ましい態様にあっては紙用添加剤として抄紙における発泡を著しく軽減できる紙用添加剤、紙用添加剤の安定化方法及び紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、特定のモノカルボン酸及び/又は特定のモノカルボン酸誘導体とポリアルキレンポリアミン類との反応で得られるアミド系化合物と、エピハロドリンとを反応して得られる反応物を含有する紙用添加剤の粘度安定性について鋭意検討を重ねた結果、水溶性電解質を紙用添加剤に含有させることで粘度安定性が改善でき、さらに特定の界面活性剤を用いることで紙用添加剤として用いた場合における抄紙における発泡を著しく軽減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は
<1>炭素数6〜24のモノカルボン酸及び/又は炭素数6〜24のモノカルボン酸誘導体とポリアルキレンポリアミン類との反応で得られるアミド系化合物と、エピハロヒドリンとの反応物(A)と水溶性電解質(B)とを含有することを特徴とする紙用添加剤、
<2>水溶性電解質(B)が25℃のpKaが1〜13の酸の塩から構成される上記<1>の紙用添加剤、
<3>水溶性電解質(B)がカルボン酸塩である上記<1>又は<2>の紙用添加剤、
<4>紙用添加剤中に水溶性電解質(B)を0.01〜5質量%含み、40℃1週間保存後の粘度(固形分15%、温度25℃)が2〜50mPa・sの範囲である上記<1>〜<3>のいずれか1項の紙用添加剤、
<5>さらに炭素数8〜24のアルキル基又はアルケニル基を有する界面活性剤(C)を含有する<1>〜<4>のいずれかに1項の紙用添加剤、
<6>炭素数6〜24のモノカルボン酸及び/又は炭素数6〜24のモノカルボン酸誘導体とポリアルキレンポリアミン類との反応で得られるアミド系化合物と、エピハロヒドリンとの反応物(A)に25℃のpKaが1〜13の酸の塩から構成される水溶性電解質(B)を含有させることを特徴とする紙用添加剤の安定化方法、
<7>さらに炭素数8〜24のアルキル基又はアルケニル基を有する界面活性剤(C)を含有する上記<6>の紙用添加剤の安定化方法、
<8>上記<1>〜<5>のいずれか1項の紙用添加剤を含有する紙、
を提供するものである
【発明の効果】
【0007】
特定のモノカルボン酸及び/又は特定のモノカルボン酸誘導体とポリアルキレンポリアミン類との反応で得られるアミド系化合物と、エピハロドリンとを反応して得られる反応物を含有する紙用添加剤の粘度安定性を改善し、さらに好ましい態様にあっては紙用添加剤として抄紙における発泡を著しく軽減できる紙用添加剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、炭素数6〜24のモノカルボン酸及び/又は炭素数6〜24のモノカルボン酸誘導体とポリアルキレンポリアミン類との反応で得られるアミド系化合物と、エピハロヒドリンとの反応物(A)と水溶性電解質(B)とを含有することを特徴とする紙用添加剤、紙用添加剤の安定化方法及び紙である。
【0009】
本発明に使用される炭素数6〜24のモノカルボン酸及び炭素数6〜24のモノカルボン酸誘導体としては炭素数6〜24の脂肪酸、炭素数6〜24の脂肪酸の酸無水物及び炭素数6〜24の脂肪酸のエステル等を挙げることができる。
【0010】
脂肪酸としては炭素数6〜24である直鎖脂肪酸、分岐鎖を有する脂肪酸、飽和脂肪酸、及び不飽和脂肪酸の何れでも良い。これら各種の脂肪酸の中でも特に、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、及びオレイン酸が好ましい。これらはその一種を単独で用いても良いし、二種以上を併用しても良い。
脂肪酸の酸無水物としては上記各脂肪酸の酸無水物が挙げられる。
【0011】
脂肪酸のエステルとしては上記各脂肪酸の低級アルコールエステルなどが挙げられる。脂肪酸の低級アルコールエステルとして、脂肪酸のメチルエステル、脂肪酸のエチルエステル、及び脂肪酸のプロピルエステルなどが挙げられる。本発明における脂肪酸エステルは、従来から公知の、脂肪酸とアルコールとのエステル化反応により得ることができる。これらはその一種を単独で用いても良いし、二種以上を併用しても良い。
【0012】
本発明においては、前記以外のモノカルボン酸及び/又はモノカルボン酸誘導体の一部として、脂肪族二塩基性カルボン酸を併用することができる。脂肪族二塩基性カルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などが挙げられる。また、アルケニル無水コハク酸、及びアルケニルケテンダイマーを併用することもできる。これらはその一種を単独で用いても良いし、二種以上を併用しても良い。
【0013】
本発明に使用される、ポリアルキレンポリアミン類としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミン、イミノビスプロピルアミン及びこれらのアミン類のアルキレンオキシド付加物が挙げられ、これらはその一種を単独で用いても良いし、二種以上を併用しても良い。これらの中で、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンが好ましく、さらにはテトラエチレンペンタミンが特に好ましい。これらはその一種を単独で用いても良いし、二種以上を併用しても良い。
【0014】
カルボン酸及び/又はカルボン酸エステルとポリアルキレンポリアミン類との反応モル比は特に限定するものではないが、ポリアルキレンポリアミン類のアミノ基に対して、モノカルボン酸及び/又はモノカルボン酸誘導体の反応量が0.3〜0.99当量であり、好ましくは0.4〜0.8当量である。
【0015】
モノカルボン酸及び/又はモノカルボン酸誘導体とポリアルキレンポリアミン類との反応は、100〜200℃に加熱することにより行われる。反応時間は、通常、0.5〜10時間であり、中でも2〜6時間が好ましい。反応に際してカルボン酸及び/又はカルボン酸エステルとポリアルキレンポリアミン類とを混合する方法に制限はなく、通常はポリアルキレンポリアミン類にカルボン酸及び/又はカルボン酸エステルを徐々に添加して反応をスムースに進行させる方法が好ましい。アミド化反応の触媒は特に用いなくても良いが、アミド化反応の触媒として、硫酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸などのスルホン酸類、あるいはリン酸などアミド化反応に通常に用いられる触媒を使用しても良い。その使用量はポリアルキレンポリアミン1モルに対し、通常の場合0.005 〜0.1モルであり、好ましくは0.01〜0.05モルである。
【0016】
本発明の紙用添加剤を得るために、上記のようにして得られたアミド化合物とエピハロヒドリンとを30〜100℃で反応させる。反応溶媒として水又は水と有機溶剤との混合溶媒を用いることができる。本発明で得られる紙用添加剤のエマルションを安定化するために界面活性剤を含有させることが好ましく、さらにDCP(1,3−ジクロロ−2−プロパノール)等の低分子有機塩素化合物の低減のため、次のような1次反応及び2次反応を行うことが好ましい。
【0017】
反応溶媒として水又は水と有機溶剤との混合溶媒を用い、アミド化合物と反応溶媒との混合物を30℃〜69℃に保ち、そこへエピハロヒドリンを添加して反応を進行させる。エピハロヒドリンを添加した後、さらに反応温度を30℃〜69℃に保ち、反応を進める。この反応を便宜上1次反応と称する。1次反応の時間は5分〜3時間が好ましい。5分未満の反応時間では、CAE樹脂中のDCPの含有量を低くする効果が十分ではないことがあり、一方、1次反応時間が3時間を超えても得られるCAE樹脂中のDCPの含有量はあまり低下せず、単に反応時間が延びるだけであって経済的でない。
【0018】
1次反応で反応させた後、70℃〜100℃に昇温し、その温度に保ちつつ反応を進める。この反応を便宜上2次反応と称する。2次反応の反応時間は反応が完結するのに十分な時間行えば良く、通常、1時間〜8時間である。
【0019】
本発明に使用される反応溶媒としては水あるいは水および有機溶剤の混合溶媒が使用される。有機溶剤としてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどが挙げられ、この中でもイソプロピルアルコールが好ましい。これらは一種単独で水と混合しても良いし、二種以上を併用して水と混合しても良い。水と有機溶剤の使用量、混合比率は反応温度でアミド化合物を均一に溶解、分散させるのに必要な量、混合比を使用すれば良く、通常アミド化合物とエピハロヒドリンとの反応は、アミド化合物の濃度が5〜90%、水と有機溶剤の混合比は水100gに対して0〜100gで行われる。
【0020】
アミド化合物はエピハロヒドリンとの反応において、アミド系化合物の残存アミノ基の活性水素に対する、エピハロヒドリンのモル量は、0.05〜1.2当量であり、好ましくは、0.2〜1.0当量である。エピハロヒドリンのモル量が0.05当量よりも少ないとCAE樹脂の粘度が高くなり流動性を失い、取り扱いが困難となると言う不都合を生じることがあり、また1.2当量を超えるとCAE樹脂中のDCPの含有量が多くなると言う不都合を生じることがある。
【0021】
ここで、残存アミノ基は、アミノ系化合物のアミン価を測定して算出することができる。
【0022】
残存アミノ基=アミン価=(V×F×0.5×56.1)/S
但し、V:1/2規定塩酸メタノール液の滴定量(cc)
F :1/2 規定塩酸メタノール液の力価
S :採取した試料の固形分量(g)
本発明に使用されるエピハロヒドリンとしては、エピクロロヒドリン、エピブロムヒドリンなどが挙げられ、その中でもエピクロロヒドリンが好ましい。
【0023】
本発明で使用される界面活性剤としては、従来公知の界面活性剤が使用でき、例えば、非イオン界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。この中でも非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤を用いることが好ましく、特にカチオン性界面活性剤は、パルプ繊維への定着向上に優れるため、抄紙系内での発泡軽減に繋がるため好ましい。界面活性剤は、エピハロヒドリンとの反応前のアミド化合物に加えるか、アミド化合物とエピハロヒドリンの反応途中、アミド化合物とエピハロヒドリンとの反応終了後に加えることができ、紙用添加剤中において0.1〜10%、特に0.5〜5%の範囲で使用することが好ましい。界面活性剤の含有量が10%よりも多くなると抄紙時の発泡軽減が難しくなる。
【0024】
非イオン性界面活性剤としては、下記一般式(1)で表される化合物(以下化合物Iとする)を挙げることができる。これらは単独で用いても良いし、二種以上を併用しても良い。
一般式(1)
【化1】


(但し、式中、−A11−は−O−又は−COO−を示し、R11は炭素数5〜23のアルキル基又は炭素数5〜23のアルケニル基を示し、R12は炭素数6〜24のアルキル基又は炭素数6〜24のアルケニル基、炭素数6〜24のアルキル基又は炭素数6〜24のアルケニル基を有するアシル基、又は水素基を示し、B11Oはオキシエチレン基及び/又はオキシプロピレン基を示し、オキシエチレン基とオキシプロピレン基のうち1種又は2種が付加していても良く、kは1〜100、好ましくは10〜80である。なおkは平均付加モル数である。)
【0025】
上記一般式(1)で表される化合物は、例えば炭素数が6〜24、好ましくは10〜22のアルコール又は炭素数が6〜24、好ましくは10〜22の脂肪酸1モルにエチレンオキサイド、及び/又はプロピレンオキサイドを付加して得ることができ、さらに前記アルキレンオキサイド付加物を炭素数が6〜24、好ましくは10〜22の脂肪酸1モルでエステル化するか、炭素数が6〜24、好ましくは10〜22のアルコールまたは炭素数が6〜24、好ましくは10〜22のハロゲン化アルキル1モルでエーテル化して得ることができる。エチレンオキサイド、及び/又はプロピレンオキサイドの付加形態はランダムでもブロックでも良く、炭素数が6〜24、好ましくは10〜22のアルコール又は炭素数6〜24、好ましくは10〜22の脂肪酸1モルに対して1〜100モル、好ましくは10〜80モルの割合で付加される。
【0026】
炭素数が6〜24のアルコールとしては、直鎖アルコール、分岐鎖を有するアルコール、飽和アルコール、及び不飽和アルコールの何れでも良い。これら各種のアルコールの中でも炭素数が10〜22のアルコールが好ましく、特に、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、及びオレイルアルコールが好ましい。これらはその一種を単独で用いても良いし、二種以上を併用しても良い。
【0027】
炭素数6〜24の脂肪酸としては、直鎖脂肪酸、分岐鎖を有する脂肪酸、飽和脂肪酸、及び不飽和脂肪酸の何れでも良い。これら各種の脂肪酸の中でも、炭素数が10〜22の脂肪酸が好ましく、特に、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、及びオレイン酸が好ましい。これらはその一種を単独で用いても良いし、二種以上を併用しても良い。
【0028】
下記一般式(2)〜(4)で表わされるカチオン性界面活性剤を挙げることができる。
一般式(2)
【化2】

一般式(2)中、R21は炭素数8〜24のアルキル基またはアルケニル基を示し、B21O及びB22Oはオキシエチレン基及び/又はオキシプロピレン基を示し、オキシエチレン基とオキシプロピレン基のうち1種又は2種が付加していても良く、l及びmは平均付加モル数でありlとmの合計は1〜70、好ましくは10〜60であることを示す。
一般式(3)
【化3】

一般式(3)中、R31及びR32は炭素数8〜24のアルキル基またはアルケニル基を示し、B31Oはオキシエチレン基及び/又はオキシプロピレン基を示し、オキシエチレン基とオキシプロピレン基のうち1種又は2種が付加していても良く、nは平均付加モル数であり、1〜70、好ましくは10〜60であることを示す。

一般式(4)
【化4】


一般式(4)中、R41は炭素数8〜24のアルキル基またはアルケニル基を示し、Yは炭素数2〜6のアルキレン基を示し、B41O、B42O及びB43Oオキシエチレン基及び/又はオキシプロピレン基を示し、オキシエチレン基とオキシプロピレン基のうち1種又は2種が付加していても良く、o〜qは平均付加モル数でありo〜qの合計が1〜70、好ましくは10〜60であることを示す。
【0029】
本発明の紙用添加剤は添加剤の粘度安定性の点から、水溶性電解質(B)を含有する。水溶性電解質(B)は、アミド化合物とエピハロヒドリンの反応途中や反応終了後に加えることが好ましい。水溶性電解質(B)の含有量としては、紙用添加剤の中に含まれる濃度として0.01〜5質量%、特に0.05〜2質量%の範囲であることが好ましい。
【0030】
本発明における水溶性電解質(B)とは、水中でイオン解離する化合物を指す。好適な水溶性電解質(B)としては、25℃のpKaが−4〜13、好ましくは1〜13、さらに好ましくは3〜10の酸の塩から構成される。本発明のpKaは、25℃の水中の酸解離定数であり、多価の酸のn塩の場合はpKa nを示し、具体的には、クエン酸二ナトリウムであれば、クエン酸のpKa2を示すものである。具体的には、ギ酸、酢酸、乳酸、グルコン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、リンゴ酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クエン酸、フタル酸、酢酸、安息香酸、サリチル酸、没食子酸、ジエチルバルビツル酸等のカルボン酸、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、セリン、グルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノ酸、エタンスルホン酸、フェノールスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、m−キシレンスルホン酸等の有機スルホン酸、タウリンなどのアミノスルホン酸、塩酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、炭酸、珪酸、アルミン酸等の無機酸、などの酸剤、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基、などのアルカリ剤、前記の酸剤とアルカリ剤との中和生成塩、例えばクエン酸ナトリウム、安息香酸カリウム、塩化アンモニウム、炭酸ナトリウム、リン酸二カリウム、硫酸モノエタノールアミン、1号珪酸ソーダ、2号珪酸ソーダ、3号珪酸ソーダ等、が挙げられる。これらの中でもカルボン酸から選ばれる酸剤及び/またはそれらのアルカリ剤の中和生成塩を配合することが好ましい。具体的には、酢酸ナトリウム(pKa=4.8)、酢酸アンモニウム(pKa=4.8)、酢酸カリウム(pKa=4.8)、クエン酸ナトリウム(クエン酸一ナトリウム(pKa1=3.1)、クエン酸二ナトリウム(pKa2=4.8)、及びクエン酸三ナトリウム(pKa3=6.4)を意味する)、リンゴ酸ナトリウム(リンゴ酸一ナトリウム(pKa1=3.4)及びリンゴ酸二ナトリウム(pKa2=5.1)を意味する)、ギ酸ナトリウム(pKa=3.8)、アジピン酸ナトリウム(アジピン酸一ナトリウム(pKa1=4.4)及びアジピン酸二ナトリウム(pKa2=5.4)を意味する)が好ましい。
【0031】
CAE樹脂は従来公知の方法で分散させることができる。その際に、上記の水溶性電解質(B)を予め加えてもよく、分散後に加えてもよい。従来公知の分散方法としては、転相乳化、界面活性剤の添加、あるいは界面活性剤を添加した後の転相乳化、また機械的な方法により分散させることができる。これらは単独でも二種以上の方法を併用しても差し支えない。機械的な方法としてはホモミキサー、高圧吐出型ホモジナイザー、高剪断型回転式乳化分散機、超音波乳化機等の各種公知の乳化機により均一に分散させる方法が挙げられる。
【0032】
本発明の紙用添加剤を含有する紙としては、特に制限されないが、各種の紙、及び板紙が挙げられる。紙の種類としては、PPC用紙、インクジェット印刷用紙、レーザープリンター用紙、フォーム用紙、熱転写紙、感熱記録原紙、感圧記録原紙等の記録用紙、印画紙及びその原紙、アート紙、キャストコート紙、上質コート紙等のコート原紙、クラフト紙、純白ロール紙等の包装用紙、その他ノート用紙、書籍用紙、各種印刷用紙、新聞用紙等の各種紙(洋紙)、マニラボール、白ボール、チップボール等の紙器用板紙、ライナー、石膏ボード原紙等の板紙が挙げられる。紙以外には改質木材、無機系建築材料が挙げられ、例えばパーティクルボード、ハードボード、インシュレーションボード、ロックウールボード等を挙げることができる。
【0033】
本発明の紙を製造するに当たって、通常、本発明の製用添加剤をパルプ原料固形分に対し固形分で0.1〜3重量%の使用割合で添加する。また本発明の製用添加剤はサイズプレス、ゲートロールコーター、シムサイザー等で紙基体に塗布されたものであってもよい。
【0034】
本発明の紙はパルプ原料としてクラフトパルプあるいはサルファイトパルプなどの晒あるいは未晒化学パルプ、砕木パルプ、機械パルプあるいはサーモメカニカルパルプなどの晒あるいは未晒高収率パルプ、新聞古紙、雑誌古紙、段ボール古紙あるいは脱墨古紙などの古紙パルプを含有することができる。また、上記パルプ原料と岩綿、石綿、あるいはポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリオレフィン、及びポリビニルアルコール等の合成繊維との混合物を含有してもよい。
【0035】
本発明の紙を製造するにあたって、填料、サイズ剤、乾燥紙力剤、湿潤紙力向上剤、歩留り向上剤、及び濾水性向上剤などの添加物も、各々の紙種に要求される物性を発現するために、必要に応じて使用しても良い。これらは単独で用いても良く、二種以上を併用しても良い。また、これらを本発明の紙用添加剤と予め混合して紙料に添加して使用することもでき、混合の方法は特に制限はない。
【0036】
填料としては、クレー、タルク、及び炭酸カルシウム等が挙げられ、これらは単独で用いても良く、二種以上を併用しても良い。サイズ剤としては、ステアリン酸ナトリウムのごとき脂肪酸石鹸のサイズ剤、ロジン、強化ロジン、ロジンエステル系サイズ剤、アルケニル無水コハク酸の水性エマルション、2−オキセタノンの水性エマルション、パラフィンワックスの水性エマルション、カルボン酸と多価アミンとの反応により得られるカチオン性サイズ剤及び脂肪族オキシ酸と脂肪族アミン又は脂肪族アルコールとの反応物の水性エマルション、カチオン性スチレン系サイズ剤等が挙げられる。これらは単独で用いても良く、二種以上を併用しても良い。
【0037】
乾燥紙力向上剤としては、アニオン性ポリアクリルアミド、カチオン性ポリアクリルアミド、両性ポリアクリルアミド、カチオン化澱粉、及び両性澱粉等が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、二種以上を併用しても良い。湿潤紙力向上剤としては、ポリアミド・エピクロルヒドリン樹脂、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、及び尿素・ホルムアルデヒド樹脂等が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、アニオン性ポリアクリルアミドを併用しても良い。
【0038】
歩留り向上剤としては、アニオン性、カチオン性、又は両性の高分子量ポリアクリルアミド、シリカゾルとカチオン化澱粉の併用、及びベントナイトとカチオン性高分子量ポリアクリルアミドの併用等が挙げられる。これらは単独で用いても良く、二種以上を併用しても良い。濾水性向上剤としては、ポリエチレンイミン、カチオン性又は両性又はアニオン性ポリアクリルアミド等が挙げられる。これらは単独で用いても良く、二種以上を併用しても良い。
【0039】
また、サイズプレス、ゲートロールコーター、ビルブレードコーター、カレンダーなどで、澱粉、ポリビニルアルコール及びアクリルアミド系ポリマー等の表面紙力向上剤、染料、コーティングカラー、表面サイズ剤、並びに防滑剤などを必要に応じて塗布しても良い。これらは単独で用いても良く、二種以上を併用しても良い。また、硫酸バン土は本発明の紙用添加剤を添加する前、添加した後、あるいは同時に添加して使用しても良い。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例および比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、各例中、%は特記しない限りすべて重量%である。
【0041】
製造例1
温度計、還流冷却器、攪拌機、滴下ロートを備えた2L四つ口丸底フラスコにジエチレントリアミン10.3g(0.1モル)、テトラエチレンペンタミン170g(0.9モル)、75%リン酸0.218g(0.005モル)を仕込み、130℃へ昇温した後、牛脂脂肪酸{ステアリン酸/パルミチン酸混合物(混合重量比65/35)}714g(2.3モル)を徐々に加えた。180℃まで昇温し、生成する水を系外に除去しながら2時間反応させてアミド化合物を得た。得られたアミド化合物の酸価は6、残存アミノ基量は2.3mmol/gであった。
【0042】
製造例2
温度計、還流冷却器、攪拌機、滴下ロートを備えた2L四つ口丸底フラスコにテトラエチレンペンタミン189g(1モル)、75%リン酸0.218g(0.005モル)を仕込み、130℃へ昇温した後、オレイン酸847g(3モル)を徐々に加えた。180℃まで昇温し、生成する水を系外に除去しながら2時間反応させてアミド化合物を得た。得られたアミド化合物の酸価は8、残存アミノ基量は1.9mmol/gであった。
【0043】
実施例1
温度計、還流冷却器、攪拌機、滴下ロートを備えた1L四つ口丸底フラスコに製造例1で得られた生成物100g(アミノ基として0.23モル)と界面活性剤(C)としてポリオキシエチレン(40)ヤシアルキルエーテル5gと水245gを加えて、80℃で1時間撹拌した。60℃まで冷却した後、エピクロロヒドリン8.4g(0.091モル)を加えて30分間撹拌した。続いて反応液を80℃にして1時間反応させた後、反応液を冷却しながら水溶性電解質(B)として10%酢酸ナトリウム水溶液45.2gを加え、固形分が15%になるように水を加えて調整した。これをそのまま紙用添加剤とした。製造直後の粘度と40℃7日間保存後の粘度、発泡性、嵩高効果を表1に示す。
【0044】
実施例2〜17、比較例1〜2
表1のアミド化合物(A)、水溶性電解質(B)、界面活性剤(C)の種類と量を用いる以外は実施例1と同様にした。製造直後の粘度と40℃7日間保存後の粘度、嵩高効果、発泡性を表1に示す。
【0045】
<嵩高効果、発泡性>
実施例1〜17及び比較例1〜2で得られたそれぞれの紙用添加剤を、角型シートマシンにて抄紙試験に供した。抄紙で得られた白水の発泡状態を目視で判定し(×・・・発泡多い、△・・・発泡 多くない、○・・・発泡少ない)、また得られた紙について密度(JISP8118に準拠)を測定した。
【0046】
<抄紙条件>
使用パルプ:晒クラフトパルプ(針葉樹/広葉樹=1/9)濃度2.4%
叩解度(CSF)410
薬品の添加率と添加順序:添加率はすべて対パルプ固形分
炭酸カルシウム(奥多摩工業社製TP121)10%→カチオン化澱粉0.5%→実施例1〜17、比較例1〜2で得られた何れかの紙用添加剤1%→角型シートマシンにて抄紙
抄紙坪量:80g/m2
乾燥条件:100℃×100sec(ドラムドライヤーを使用)
【0047】
【表1】

【0048】
なお、表1中の水溶性電解質(B)の25℃のpKaは、リンゴ酸一ナトリウムが3.4(pKa1)、塩化カルシウムが−3.7(pKa)、硫酸二ナトリウムが2.0(pKa2)、塩化ナトリウムが−3.7(pKa)、炭酸水素ナトリウムが6.4(pKa1)、リン酸二水素ナトリウムが2.2(pKa1)、酢酸ナトリウムが4.8(pKa)、酢酸アンモニウムが4.8(pKa)、酢酸カリウムが4.8(pKa)、クエン酸二ナトリウムが4.8(pKa2)、ギ酸ナトリウムが3.8(pKa)、アジピン酸一ナトリウムが4.4(pKa1)である。
【0049】
薬品添加において紙用添加剤のみを加えなかった場合の手抄き紙の密度は0.69g/cmであった。
【0050】
表1中のヤシアルキル基は、アルキル基が炭素数6〜18のアルキル基又は、アルケニル基の混合物で、主にラウリル基を含有している。また、表1中の界面活性剤の名称の()内の数字はオキシエチレン基の平均付加モル数を示す。表1中の(B)の含有量は、紙用添加剤の中に含まれている水溶性電解質(B)の濃度を示している。
【0051】
表1に示す結果から明らかなように、本発明の紙用添加剤は、紙の低密度化に優れた効果を発揮するとともに、40℃で1週間後においても著しい粘度上昇がなく、保管、運搬などに伴う制限を著しく軽減できるメリットがあり、さらに化合物(C)を使用した実施例2〜9及び実施例11〜17は抄紙における発泡性が著しく軽減できるため、実用上非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数6〜24のモノカルボン酸及び/又は炭素数6〜24のモノカルボン酸誘導体とポリアルキレンポリアミン類との反応で得られるアミド系化合物と、エピハロヒドリンとの反応物(A)と水溶性電解質(B)とを含有することを特徴とする紙用添加剤。
【請求項2】
水溶性電解質(B)が25℃のpKaが1〜13の酸の塩から構成されることを特徴とする請求項1に記載の紙用添加剤。
【請求項3】
水溶性電解質(B)がカルボン酸塩であることを特徴とする請求項1又は2に記載の紙用添加剤。
【請求項4】
紙用添加剤中に水溶性電解質(B)を0.01〜5質量%含み、40℃1週間保存後の粘度(固形分15%、温度25℃)が2〜50mPa・sの範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の紙用添加剤。
【請求項5】
さらに炭素数8〜24のアルキル基又はアルケニル基を有する界面活性剤(C)を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の紙用添加剤。
【請求項6】
炭素数6〜24のモノカルボン酸及び/又は炭素数6〜24のモノカルボン酸誘導体とポリアルキレンポリアミン類との反応で得られるアミド系化合物と、エピハロヒドリンとの反応物(A)に25℃のpKaが1〜13の酸の塩から構成される水溶性電解質(B)を含有させることを特徴とする紙用添加剤の安定化方法。
【請求項7】
さらに炭素数8〜24のアルキル基又はアルケニル基を有する界面活性剤(C)を含有することを特徴とする請求項6に記載の紙用添加剤の安定化方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の紙用添加剤を含有することを特徴とする紙。

【公開番号】特開2013−108189(P2013−108189A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253336(P2011−253336)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000109635)星光PMC株式会社 (102)
【Fターム(参考)】