説明

紙糸用原紙

【課題】再生可能で、引張強度や湿潤強度が強く、紙糸に仕上げる際のスリット加工工程では断紙トラブルが発生しにくい紙糸用原紙を提供する。
【解決手段】紙糸用原紙は繊維幅20nm〜1000nmの微細繊維状セルロースを1質量%以上100質量%以下含有し、かつ湿潤紙力剤を用いて耐水化処理を施すことによって得られる。該紙糸用原紙は縦方向と横方向の強度比が3以上、縦方向と横方向の強度の相乗平均が80MPa以上であることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高強度を有し、スリット加工性能に優れる紙糸用原紙に関する。
【背景技術】
【0002】
紙を細長い短冊状に切断し、撚ることによって紙糸にし、紙糸を製織した紙布は古くから紙衣として広く利用されてきた。こうして出来た紙衣は軽くて通気性が良好という特徴を持っている。しかし、戦後の繊維産業の衰退とともに、綿や絹に代表される繊維の代用品であった紙糸の需要は減少して近年では小規模な生産に留まっている。
【0003】
一般に紙糸用原紙は、非木材あるいは木材をソーダ蒸解、硫酸蒸解、クラフト蒸解等の方法によって化学パルプを得た後に、漂白、叩解を行い、精選工程で異物を取り除いた後、必要に応じて薬品を添加し、丸網、短網、長網、傾斜ワイヤー等の抄紙機を用いて抄紙される。
【0004】
一般的な紙糸用原紙の原料としては、例えば三椏、マニラ麻、サイザル麻、亜麻、大麻、黄麻、針葉樹が使用される。これらは比較的繊維長の長い原料であるが、原料としたパルプを抄紙する場合には繊維同士の絡み合いやもつれによるヨレが生じやすく、ヨレを原因とした欠点により断紙等の操業トラブルを生じやすい。ヨレを少なくするため、広葉樹のような比較的繊維長の短い原料を使用することも可能であるが、繊維自体が短いため高強度の紙糸原紙を得ることが困難である。
【0005】
紙糸用原紙は紙糸に加工するためにスリット状に断裁される。スリット状に断裁する方法としては、一定の間隔に配置した回転刃からなるスリッターに紙糸用原紙を通紙して、紙糸用原紙を幅方向に均一な長さになるように断裁する方法が挙げられる。このような装置としては例えば特許文献1に示されるものが使用可能である。
【0006】
このようにして得たスリット状紙糸用原紙を、特許文献2に示すような紙糸製造機等を用いて撚ることによって紙糸が得られる。このように紙糸の製造は非常に手間がかかり、特に紙をスリット加工する工程やスリットした紙を撚る工程では、紙の強度や伸びの不足から、破断するトラブルが発生しやすい。
【0007】
紙力増強を行う方法としては、パルプ繊維の全体又は大部分を微細繊維とした微細繊維化パルプをつくり、抄紙前のパルプスラリーに添加して紙力を増強する方法(特許文献3、特許文献4)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−221149号公報
【特許文献2】特開2005−42280号公報
【特許文献3】特開昭58−197400号公報
【特許文献4】特開2007−231438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、再生可能で、引張強度や湿潤強度が強く、かつスリット加工性能に優れた紙糸用原紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の構成を有する。
(1) 繊維幅が20nm〜1000nmである微細繊維状セルロースを1質量%以上100質量%以下含有し、かつ湿潤紙力剤によって耐水化処理を施してなる紙糸用原紙
(2) 縦方向と横方向の強度比が3以上、縦方向と横方向の強度の相乗平均が80MPa以上である(1)記載の紙糸用原紙
【発明の効果】
【0011】
本発明者らは種々原紙を作製し、紙糸に仕上げた。紙糸の引張強度、湿潤強度や紙糸仕上げ時のスリット加工適性について検討を重ねた。紙糸用原紙は繊維幅が20nm以上1000nm以下である微細繊維状セルロースを1質量%〜100質量%含有し、かつ湿潤紙力剤によって耐水化処理することによって、引張強度や湿潤強度が強く、紙糸に仕上げるためのスリット加工工程やスリットした紙を撚る工程では断紙トラブルが発生しにくく、生産効率が良好であることが分かった。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の紙糸用原紙は繊維幅20nm〜1000nmの微細繊維状セルロースを1質量%以上100質量%以下含有し、かつ湿潤紙力剤によって耐水化処理が行われている。パルプ成分としては、微細繊維状セルロースを100質量%含有する以外は一般製紙用パルプを配合することができる。
【0013】
(微細繊維状セルロース)
本発明の微細繊維状セルロースは、植物繊維を公知公用の方法で微細化して得ることが可能である。植物繊維の種類としては特に限定されないが、針葉樹、広葉樹などの木材繊維と綿、マニラ麻、亜麻、藁、竹、パガス、ケナフなどの非木材繊維が挙げられる。例えば、木材繊維としては針葉樹、広葉樹をクラフト法、硫酸法、ソーダ法、ポリサルファイド法などで蒸解した化学パルプ繊維、レファイナー、グラインダーなどの機械力によってパルプ化した機械パルプ繊維、薬品による前処理の後、機械力によってパルプ化したセミケミカルパルプ繊維、或いは古紙パルプ繊維などを例示でき、それぞれ未晒(漂白前)もしくは晒(漂白後)の状態で使用することができる。非木材繊維としては、木材パルプと同様の方法でパルプ化した繊維を用いることができる。
【0014】
植物繊維から微細繊維状セルロースを製造する方法としては、たとえば、植物繊維含有材料をグラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナーなどの機械的作用を利用する湿式粉砕でセルロース系繊維を細くする方法などが挙げられる。また、TEMPO酸化、オゾン処理、酵素処理などの化学処理を施してから微細化する方法もある。勿論、木材を微粉砕後、脱リグニンなどの処理を行って得ることも可能である。一般的に、上記の方法で0.01〜20質量%程度の微細植物繊維懸濁液が得られる。
【0015】
本発明で用いる微細繊維状セルロースは、繊維幅が20nm〜1000nmである。20nm〜500nmの繊維幅を有する微細繊維状セルロースを含有することが好ましく、20nm〜200nmの繊維幅を有する微細繊維状セルロースを含有するのが最も好ましい。繊維幅が1000nmを超えると十分なフィブリル化がおこなわれていないために、繊維間の水素結合を補強するには不十分である。繊維幅が20nm未満の微細繊維状セルロースを得るには微細化時のエネルギー消費が大きく、また、抄紙時にワイヤーから微細繊維状セルロースが脱落しやすく、紙抄造時の歩留まりが低下する虞がある。本発明の繊維幅は走査または透過電子顕微鏡で観察し、測定する。本発明は2000〜100000倍の間に顕微鏡の倍率を変え、測定回数を増やし、繊維幅を特定する。
【0016】
微細繊維状セルロース繊維は、通常の大きさを有するパルプにおける繊維間結合をより強固にすることができる。その添加量は1質量%以上が有効である。3質量%以上75質量%以下の範囲がより好ましく、5質量%以上50質量%以下の範囲が最も好ましい。添加量が1質量%未満の場合は繊維間結合を補強するのには不十分である。添加量が多すぎると、抄紙時にワイヤーから微細繊維状セルロースが脱落しやすく、紙抄造時の歩留まりが低下する虞がある。
【0017】
(一般製紙用パルプ)
パルプ成分として、微細繊維状セルロース100質量%以外の場合は一般製紙用パルプを配合することができる。一般製紙用パルプの種類は特に限定するものではないが、たとえば、針葉樹、広葉樹をクラフト法、サルファイト法、ソーダ法、ポリサルファイド法などで蒸解した化学パルプ、レファイナー、グラインダーなどの機械力によってパルプ化した機械パルプ、薬品による前処理の後、機械力によってパルプ化したセミケミカルパルプなどの木材由来のパルプ、或いは古紙パルプなどを例示でき、それぞれ未晒(漂白前)もしくは晒(漂白後)の状態で使用することができる。また、非木材パルプとしては、例えば綿、マニラ麻、亜麻、藁、竹、パガス、ケナフなどを木材パルプと同様の方法でパルプ化した繊維が挙げられる。木材由来のパルプや古紙パルプを含有する紙シートは一般的に強度が弱く、強度アップも困難である。微細繊維状セルロースの添加は特に木材パルプ、古紙パルプを含有する紙シートの強度アップに有効である。
【0018】
パルプとして使用される樹種は、アカマツ、クロマツ、トドマツ、エゾマツ、ベニマツ、カラマツ、モミ、ツガ、スギ、ヒノキ、カラマツ、シラベ、トウヒ、ヒバ、ダグラスファー、ヘムロック、ホワイトファー、スプルース、バルサムファー、シーダ、パイン、メルクシマツ、ラジアータパイン等の針葉樹、ブナ、カバ、ハンノキ、ナラ、タブ、シイ、シラカバ、ハコヤナギ、ポプラ、タモ、ドロヤナギ、ユーカリ、マングローブ、ラワン等の広葉樹が挙げられる。また、麻類、三椏、竹、ワラをパルプ化して用いることも可能である。
【0019】
(耐水化処理)
紙糸は一般的に湿潤強度が要求される。発明者らが鋭意検討した結果、繊維幅20nm〜1000nmの微細繊維状セルロースを含有する紙糸用原紙に、製紙用湿潤紙力剤を添加して耐水化処理を行うと、紙糸用原紙と紙糸用原紙から得られた紙糸の湿潤強度が著しく向上することが分かった。湿潤紙力剤の添加による耐水化処理は、例えば(a)湿潤紙力剤を微細繊維状セルロース含有懸濁液に添加して抄紙する処理方法、(b)微細繊維状セルロース含有懸濁液に湿潤紙力剤を添加せずに抄紙し、得られた原紙に湿潤紙力剤含有溶液で含浸するか、塗工する処理方法、(c)湿潤紙力剤を微細繊維状セルロース含有懸濁液に添加して抄紙し、得られた原紙にさらに湿潤紙力剤含有溶液で含浸するか、塗工する処理方法、などが挙げられる。塗工する場合の塗工方式については特に限定するものではなく、ゲートロール、サイズプレス、バーコーター、グラビアコーター、ブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、ダイコーター、カーテンコーター等が挙げられる。なお、含浸および塗工する場合には、すでにスリット加工した紙に行ってもよい。
【0020】
本発明で使用する湿潤紙力剤は特に限定するものではなく、例えば、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂、植物性ガム、ラテックス、ポリエチレンイミン等が挙げられる。ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂は水中で繊維に容易に吸着し、耐水効果や使用しやすさから特に好ましい。湿潤紙力剤に併せて、グリオキサル、ガム、マンノガラクタンポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルアルコール、澱粉、カルボキシメチルセルロース、グアーガム、尿素樹脂等の紙力増強剤を使用してもよい。
【0021】
湿潤紙力剤の添加量は特に限定されるものではないが、紙糸用原紙中の微細繊維状セルロースを含む全パルプ量100部に対して、0.1〜10部を含有することが好ましい。さらに好ましくは0.5〜5部を含有する。0.1部未満では耐水性が不足し、10部を超えると得られる紙が硬くなり、紙糸に加工する際に断紙等のトラブルを生じやすくなる。
【0022】
微細繊維状セルロース含有懸濁液である原料パルプを抄紙する際には、目的、必要に応じて、填料、pH調整剤、消泡剤、増粘剤等を外添、または内添することが可能である。
【0023】
(原紙の製造)
微細繊維状セルロース含有懸濁液である原料パルプは、通常の抄紙で用いられる長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機のほか、これらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機、さらに手抄き等公知の抄紙方法で抄紙されシート化が可能である。ワイヤー上で脱水して湿紙状態のシートを得た後、プレス、乾燥することで紙糸用原紙を得ることが可能である。紙糸用原紙の坪量は特に限定するものではないが、10〜30g/mが好適である。
【0024】
プレス工程において、湿紙状態のシートを十分にプレスすることでより高密度なシートを得ることが可能であり、結果的に高強度の紙糸用原紙を得ることが可能となる。プレス後、ヤンキードライヤー、シリンダードライヤー、スルードライヤー、オーブン等の一般的な乾燥設備により乾燥される。その後、マシンカレンダーまたはスーパーカレンダーにより密度を向上させ、さらに高強度にすることも可能である。シート密度は1.05〜1.40g/cmの範囲が好ましい。このようにして得られた紙糸用原紙はスリット加工工程や撚って紙糸に加工する工程では断紙が少なく、加工適性が良好である。
【0025】
(引張強度)
紙糸用原紙の引張強度(JIS−P8113に準じて測定)の縦横比が3.0以上、かつ縦方向の強度と横方向の強度の相乗平均が80MPa以上とすることにより、高強度でスリット加工性能に優れた紙糸用原紙を得ることが可能となる。引張強度の縦横比が3.0未満、或いは縦方向の引張強度と横方向の引張強度の相乗平均が80MPaに満たない場合は、紙糸用原紙としての強度が不十分であり、スリット加工工程において紙切れが発生しやすい。一般紙の製法を用いて効率よく生産するには、引張強度の縦横比は3.0〜6.0が好ましく、3.0〜4.0が特に好ましい。縦方向の強度と横方向の強度の相乗平均値を上げるには微細繊維状セルロースや紙力剤の増添が必要となり、生産効率とコストの面から、縦方向の強度と横方向の強度の相乗平均は80〜300MPaが好ましく、80〜200MPaの範囲が特に好ましい。
【0026】
本発明により得られた紙糸用原紙を使用して、紙糸を製造する方法は特に限定するものではない。例えば特許文献1の方法で紙糸を得ることが可能である。本発明の原紙で得られた紙糸は、通常の糸と同様の方法で染色することが可能である。また、特に縦方向に優れた乾燥強度、湿潤強度を発現する。またこの紙糸を織った織物は、布として使用可能であり、壁紙、油絵用のキャンバス、畳表、ござ、空手用のスポーツ着、浴衣の帯、シャツ、作業着、ハンカチ、タオル、カーテン等、一般的な織物が使用される用途に使用することが出来る。
【実施例】
【0027】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、勿論、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、例中の部、及び%は特に断らない限り、それぞれ質量部及び質量%を示す。
【0028】
(微細繊維状セルロースの調製)
針葉樹晒クラフトパルプ(王子製紙社製、水分50%、JIS P8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)は550ml)を濃度1%になるように水を加えてディスインテグレーターで離解して、パルプ懸濁液を得た。このパルプ懸濁液を長径250mmのグラインダー部を有する増幸産業社製のマスコロイダーで解繊処理を行った。下記の処理回数で得られた解繊液の上澄みを取り、真空乾燥し、オートファインコータ(JFC−1600、JEOL)を用いて試料表面をスパッタリング電流(10mA, スパッタリング時間:90秒)にてPtコーティングした後、電解放射走査顕微鏡(JSM−6700,JEOL)で観察を行った。視野内の微細セルロース繊維100本について、顕微鏡の倍率を変えながら、繊維幅を測定した。
微細繊維状セルロース1(処理回数:3回):繊維幅が60〜700nmの範囲であった。平均繊維幅140nmであった。
微細繊維状セルロース2(処理回数:10回):繊維幅が20〜200nmの範囲であった。平均繊維幅55nmであった。
【0029】
(実施例1)
一般製紙用の針葉樹晒クラフトパルプ水分散液(NBKP、JIS P8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)は500ml)を2%に調製し、ダブルディスクリファイナーで叩解し、CSFが120ml、長さ加重平均繊維長が1.33mmのものが得られた。このように得られたものはNBKP1と称す。NBKP1をスリーワンモーターにて全量が十分混合されるように攪拌しながら、NBKP1、98部に対して微細繊維状セルロース2を2部添加し、濃度が0.2%になるように原料を調製した。さらに、該原料100部に対し、湿潤紙力増強剤(WS−4024 星光PMC社製、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂)を1.5部添加した。このように調製した原料を、坪量が15.0g/mとなるように傾斜ワイヤー型抄紙機(この際、所定の大きさに切断した孔径0.8μmのメンブレンフィルターをカレンダー処理後、濾材として用いた)にて抄紙した。その際、J/W比(紙原料ジェットとワイヤとの速度比)を調整しながら、得られたシートの引張強度の縦横比を測定し、縦横比が3.0以上になったところで抄紙した。その後、ロール温度105℃、圧力1MPaに設定したスーパーカレンダーに通してカレンダー処理を行った。
【0030】
(実施例2)
NBKP1、90部に対し微細繊維状セルロース2を10部添加した以外は実施例1と同様にして、坪量15.0g/mの紙糸用原紙を得た。
【0031】
(実施例3)
NBKP1、75部に対し微細繊維状セルロース2を25部添加した以外は実施例1と同様にして、坪量15.0g/mの紙糸用原紙を得た。
【0032】
(実施例4)
NBKP1、50部に対し微細繊維状セルロース2を50部添加した以外は実施例1と同様にして、坪量15.0g/mの紙糸用原紙を得た。
【0033】
(実施例5)
NBKP1、25部に対し微細繊維状セルロース2を75部添加した以外は実施例1と同様にして、坪量15.0g/mの紙糸用原紙を得た。
【0034】
(実施例6)
NBKP1、10部に対し微細繊維状セルロース2を90部添加した以外は実施例1と同様にして、坪量15.0g/mの紙糸用原紙を得た。
【0035】
(実施例7)
微細繊維状セルロース2を微細繊維状セルロース1に変更した以外は実施例2と同様にして坪量15.0g/mの紙糸用原紙を得た。
【0036】
(実施例8)
湿潤紙力剤を0.4部に変更した以外は実施例2と同様にして坪量15.0g/mの紙糸用原紙を得た。
【0037】
(実施例9)
湿潤紙力剤を4.0部に変更した以外は実施例2と同様にして坪量15.0g/mの紙糸用原紙を得た。
【0038】
(実施例10)
湿潤紙力剤をメラミン系樹脂(田岡化学工業社製、Sumirez Resin 8%AC)に変更した以外は実施例2と同様にして坪量15.0g/mの紙糸用原紙を得た。
【0039】
(実施例11)
J/W比を調整しながら、得られたシートの引張強度の縦横比を測定し、縦横比が2.5〜3.0になったところで抄紙した。前記J/W比を変更した以外は実施例2と同様にして坪量15.0g/mの紙糸用原紙を得た。
【0040】
(比較例1)
実施例1において微細繊維状セルロース2を添加せずに坪量15.0g/mの紙糸用原紙を作製した。
【0041】
(比較例2)
実施例1において、湿潤紙力増強剤を添加しなかった以外は実施例1と同様にして坪量15.0g/mの紙糸用原紙を作製した。
【0042】
(比較例3)
実施例3において、湿潤紙力増強剤を添加しなかった以外は実施例3と同様にして坪量15.0g/mの紙糸用原紙を作製した。
【0043】
[評価方法]
(微細繊維状セルロースの含有量)
本発明はパルプスラリー原料中に微細繊維状セルロースを含有するため、該パルプスラリーを傾斜ワイヤー型抄紙機の濾材上で濾過して紙シートにする際に、微細繊維状セルロースが濾材表面に留まらず、濾液に落ちることがある。微細繊維状セルロースの含有量は下記のように算出した。
微細繊維状セルロース含有量(%)=(原料に配合した微細繊維状セルロース質量−濾液中の微細繊維状セルロース質量)/紙シートの全質量×100
【0044】
(微細繊維状セルロースの歩留まり)
微細繊維状セルロースの歩留まり(%)=(原料に配合した微細繊維状セルロース質量−濾液中の微細繊維状セルロース質量)/原料に配合した微細繊維状セルロース質量×100
濾液中に微細繊維状セルロースが少ないほど歩留まりが良く、抄紙時の濾水性が良好である。
【0045】
(シートの引張強度)
JIS P 8113に準じて測定し、単位面積当たりの強度をMPa単位で表記した。さらに、縦方向と横方向の引張強度の相乗平均を示した。
(シートの引張強度の縦横比)
縦方向の引張強度を横方向の引張強度で除して表した。
(湿潤引張強度)
JIS L−8135に基づき10分間水に浸漬した後の縦方向の湿潤引張強度を測定した。
【0046】
(スリット加工適性)
本発明の原紙ロール(幅:300mm、長さ:300m)を用意し、紙糸用に2mm幅にスリット加工した。スリット加工のしやすさを下記の方法で評価した。
◎:高速スリット可能で、断紙がなかった。
○:高速スリットでは断紙があるが、速度を少し落とせば断紙がなくなる。
△:スリット速度を少し落としても、断紙は完全にはなくならないが大幅に減少する。実施上問題ないレベル。
×:スリット速度を落としても、断紙は多発する。生産性が著しく劣る。
【0047】
【表1】

【0048】
表1から明らかなように実施例1〜11の原紙は引張強度、湿潤強度が強く、紙糸に仕上げる工程においてはスリット加工適性が良好である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維幅が20nm〜1000nmである微細繊維状セルロースを1質量%以上100質量%以下含有し、かつ湿潤紙力剤によって耐水化処理を施してなる紙糸用原紙
【請求項2】
縦方向と横方向の強度比が3以上、縦方向と横方向の強度の相乗平均が80MPa以上である請求項1記載の紙糸用原紙

【公開番号】特開2012−87431(P2012−87431A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235029(P2010−235029)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】