説明

紙系基材のための多層塗膜

実施態様として、多層塗膜により被覆した紙又は板紙、及び、多層塗膜により被覆した紙又は板紙を形成する方法を含む。当該多層塗膜は、第1の水蒸気バリア層、生体高分子バリア層、及び第2の水蒸気バリア層を含むものであり、板紙に対して改善された耐油・グリース性、酸素バリア性及び水蒸気バリア性を付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆した紙又は板紙に関するものであり、より具体的には、耐油・耐グリース性、酸素バリア性、及び水蒸気バリア性である多層塗膜で被覆した紙又は板紙に関する。
【背景技術】
【0002】
紙や板紙などの繊維質材料は、包装作業に広く用いられている。しかしながら、紙や板紙は、水蒸気、気体、油、溶媒、グリースなどの浸透に対する耐性が低い。そのような物質に対する耐浸透性を高めるために、紙又は板紙をさまざまの材料により被覆することが行われてきた。長年にわたって、耐油・耐グリース(OGR(oil and grease resistance))性を付与するための手段として、フッ素化学品を用いて表面処理を行い又は製紙工程におけるウェットエンド添加剤として使用することが有力な手段となっていた。しかしながら、最近ではフッ素化学品について環境面での懸念がもたれていることから、紙及び板紙のメーカーでは、代替技術として紙に塗工して耐油・耐グリース(OGR)性を付与するための塗工用組成物の開発を行っている。
【0003】
紙に塗工してOGR性を付与するための代替技術としては、ラテックス、ゼラチン、でんぷん、加工でんぷん、植物性たんぱく質などの化学物質を使用する技術がある。しかしこれらの化学物質は、十分なOGR性を付与するためには多量に用いる必要があり高コストとなっていた。さらに、これらの化学物質を多量に用いると、処理を施した紙は堅くなり過ぎて、及び/又は脆くなり過ぎて、多くの用途に不向きになる。よって、そのような塗工材料で塗膜を形成しても、板紙又は紙にシワをつけたりこれを折りたたんだりすると、塗膜が適切に機能しなくなる可能性がある。
【0004】
塗膜の堅さ及び/又は脆さに対応する一つの手段として、塗膜中に多量の可塑剤を加える方法がある。多量の可塑剤を用いることは、塗膜の柔軟性の向上には役立つけれども、その反面で多量の可塑剤を用いる結果、酸素バリア性が失われ水蒸気の浸透に対する耐性を弱めることにつながり、紙塗膜が当初の目的には役立たなくなってしまう可能性がある。
【0005】
したがって、繊維質の基材上に柔軟性のあるバリア膜を形成するための紙塗膜であって、油、グリース、溶媒、酸素及び水蒸気に対する耐浸透性が改善された紙塗膜が、引き続き必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、その実施態様として、基材となる紙に多層塗膜で被覆した紙又は板紙、及び当該紙又は板紙を形成する方法を開示するものである。さまざまな実施態様において、被覆した紙又板紙の多層塗膜は、生体高分子バリア層をサンドイッチ状に挟み込んだ水蒸気遮断層を有する。さまざまな実施態様において、多層塗膜は、被覆した紙又板紙に改善されたOGR性、酸素遮蔽性及び水蒸気遮蔽性を与える。驚くべきことに、紙又板紙を被覆する多層塗膜は、被覆した紙又板紙にシワをつけ及び/又は折りたたんで機械的なストレスを与えた後であってもなお、そのOGR性を維持している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
さまざまな実施態様において、被覆した紙又板紙は、総乾燥塗膜重量が10グラム・パー・平方メーター(g/m2)以下である多層塗膜を第1の主表面上に形成した原紙を含む。多層塗膜は、第1の水蒸気バリア層、当該第1の水蒸気バリア層上の生体高分子バリア層、当該生体高分子バリア層上の第2の水蒸気バリア層を有するように構成される。また、生体高分子バリア層の乾燥重量は4g/m2以下である。多層塗膜中にはさらにこれ以外の層を含んでもよい。
【0008】
追加的な実施態様において、多層塗膜は、第1の水蒸気バリア層、当該第1の水蒸気バリア層上の第1の生体高分子バリア層、当該第1の生体高分子バリア層上の第2の生体高分子バリア層、当該第2の生体高分子バリア層の上の第2の水蒸気バリア層を有し、第1の生体高分子バリア層と第2の生体高分子バリア層が、第1の水蒸気バリア層と第2の水蒸気バリア層の間に位置するように構成することができる。また、第1の生体高分子バリア層上と第2の生体高分子バリア層はそれぞれ、乾燥重量が2g/m2以下である。
【0009】
さまざまな実施態様において、生体高分子バリア層は、生体高分子、可塑剤及び顔料を含むものとすることができる。いくつかの実施態様においては、可塑剤の量は、塗膜の柔軟性を高めるために、多量に含む従来の塗膜に比べて比較的少量にとどめておくことができる。
【0010】
さまざまな実施態様が、本開示の被覆した紙又板紙を形成する方法を含み、当該方法は、原紙の第1の主表面に多層塗膜を同時に塗布すること、及び、当該原紙の第1の主表面上の多層塗膜を乾燥することを含む。多層塗膜は第1の水蒸気バリア層及び第2の水蒸気バリア層を含んでおり、各水蒸気バリア層はラテックスを用いて調製した第1の塗膜組成物から形成される。多層塗膜はまた、少なくとも一つの生体高分子バリア層を含んでおり、当該生体高分子バリア層は、生体高分子、生体高分子の乾燥重量100重量部当たり約2.5〜約50重量部の可塑剤、及び生体高分子の乾燥重量100重量部当たり約10〜約100重量部の顔料を含んでなる第2の塗膜組成物から形成される。さらに、生体高分子バリア層は第1及び第2のバリア層の間に位置する。
【0011】
上述した本開示の概要は、本開示についての実施態様の一つ一つを説明することを意図し、あるいはすべての実施を説明しようと意図したものではない。以下において、具体的な実施態様についてより詳細に説明される。本願全体の中のいくつかの箇所において、様々に組み合わせて用いることができる実施例のリストによって指針が与えられる。各場合において、記載されたリストは単なる代表的な群としての役割のみを果たすのであって、排他的なリストとして解釈されるべきではない。
【0012】
定義
本明細書で用いられるとき、「一つの(a)」、「一つの(an)」、「その(the)」、「少なくとも一つの(at least one)」、及び「一つ以上の(one or more)」は、相互に置き換え可能なものとして用いられる。用語「含む(include)」及び用語「包含する(comprise)」及びそれらの変化形は、これらの用語が明細書及び特許請求の範囲で用いられる場合には、制限的意味を有しない。したがって、例えば、「一つの(a)」生体高分子を含む生体高分子バリア層とは、「一つ以上の(one or more)」生体高分子を含む層を意味すると解釈することができる。
【0013】
用語「及び/又は(and/or)」は、列挙された要素の一つ以上又はすべてを意味する。
【0014】
また、本明細書において、端点をもって数値範囲を記述する場合は、当該範囲内に含まれるすべての数が含まれる(例えば、約1〜約5には、1,1.5,2,2.75,3,3.80,4,5,などが含まれる。)。
【0015】
本明細書で用いられるとき、用語「乾燥」は、液体が実質的に存在しないことを意味する。
【0016】
本明細書で用いられるとき、用語「乾燥重量」は、乾燥した物質の重量を意味する。例えば、クレーの固形成分含有量は乾燥重量で表すことができ、その意味するところは、実質的にすべての揮発性物質(例えば水)が除去された後に残るクレーの重量である。
【0017】
本明細書で用いられるとき、「室温」は、約20℃〜約25℃の周囲温度を表す。
【0018】
本明細書で用いられるとき、用語「部」は、塗工用組成物の1以上の固形分の総乾燥重量100重量部に対する部を表す。
【0019】
本明細書で用いられるとき、「アスペクト比」とは、クレー粒子の第1の軸に沿った最長寸法の、第2の軸に沿った最短寸法に対する比である。
【0020】
本明細書で用いられるとき、「紙」及び「板紙」は、その少なくとも一部に植物繊維、木材繊維及び/又は合成繊維を含むことができる繊維が融合してなる紙系基材を表す。本明細書で用いられるとき、「繊維板」は、繊維(本明細書で取り上げられている類のもの)を、紙及び/又は板紙よりも堅いシート状に圧縮して得られる材料を表す。理解されるように、紙及び/又は板紙及び/又は繊維板シートの紙系基材には他の成分も含まれ得る。紙、板紙及び/又は繊維板は、この明細書で用いるとき、厚さ、堅さ、強度及び/又は重量は異なるけれども、これらはいずれも、本明細書で提供される塗工用組成物及び塗工方法の実施態様によって改良され、本開示の被覆した紙系基材を形成するための対象とされる。本開示において、用語「紙系基材」は、この用語が用いられている文脈からみてそうでないことが明らかな場合を除き、「紙」、「板紙」及び「繊維板」を包含し、これらの用語と相互に置き換え可能なものとする。
【0021】
本明細書で用いられるとき、「ラテックス」とはポリマーの水性懸濁液をいい、当該ポリマーは天然ポリマー、合成ポリマー又はそれらの組合せ物であり得る。
【0022】
本明細書で用いられるとき、「生体高分子」とは生物源から得られる高分子物質をいう。本明細書で用いられるとき、「生体高分子」とは、でんぷん、キトサン、多糖類、蛋白質、ゼラチン、バイオポリエステル及びこれらの修飾物及び混合物からなる群をいう。
【0023】
本明細書で用いられるとき、用語「組成物」又は「塗工用組成物」には、溶液状のものに加えて、通常の定義のコロイド分散液、懸濁液、エマルション及びラテックス状のものを含むと解釈される。
【0024】
本明細書で用いられるとき、「剥離」とは、層状のフィラーを壊して元の粒子の個々の層に分離するプロセスをいう。
【0025】
本明細書で用いられるとき、「機械的応力」とは、シワをつけること、折りたたむこと、曲げること、巻くこと及びプレスすることをいう。
【0026】
本明細書で用いられるとき、「比表面積」とは、材料の単位重量、実容積若しくはみかけ容積、又は断面積当たりの総表面積をいう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1は、本開示に従って被覆した原紙のサンプルにシワをつけるために用いられる実験用シワ付け装置の一つの態様を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本開示の実施態様では、改善されたOGR性と酸素バリア性を持つ多層塗膜で被覆された板紙が提供される。ここでは用語「板紙」を用いるが、本開示の態様が紙及び/又は板紙に利用できることは、当業者であれば理解できるであろう。さらに、本明細書に記載されるように、多層塗膜は、板紙に対して改善されたOGR性、酸素バリア性とともに耐水蒸気性を与える。
【0029】
さまざまな実施態様において、本開示の多層塗膜は、第1の水蒸気バリア層、生体高分子バリア層、及び第2の水蒸気バリア層を含む。さまざまな実施態様において、生体高分子バリア層は2以上の別の層により形成することができる。
【0030】
さまざまな実施態様において、被覆した板紙を製造する方法においては、第1主表面を有する板紙(すなわち、原紙)を供給する工程、及び板紙の第1主表面に同時に多層塗膜を施す工程を含む。本明細書に記載されるように、多層塗膜は第1の水蒸気バリア層及び第2の水蒸気バリア層を含み、それぞれはラテックスを含む第1の塗工用組成物により形成される。多層塗膜はさらに、少なくとも一つの生体高分子バリア層を含み、このバリア層は、生体高分子、生体高分子の100乾燥重量部当たり約2.5〜50重量部の可塑剤、及び生体高分子の100乾燥重量部当たり約10〜100重量部の顔料を含む第2の塗工用組成物によって形成される。さまざまな実施態様において、生体高分子バリア層は、第1及び第2のバリア層の間に配置される。さまざまな実施態様において、多層塗膜は、板紙に塗布されるとともに板紙の第1主表面上で乾燥される。
【0031】
多層塗膜に用いられる第1及び第2の塗工用組成物は、紙又は板紙への塗工技術として公知の技術を用いて板紙に塗布し、所望の厚さ及び/又は乾燥塗膜重量の第1の水蒸気バリア層、生体高分子バリア層及び第2の水蒸気バリア層を有する塗膜とすることができる。そのような技術としては、国際特許第2004/035929号パンフレット、米国特許出願公開第2003/0188839号明細書及び米国特許出願公開第2004/0121080号明細書に開示された多層同時塗工のための多層カーテン塗工法が含まれるが、これらに限るものではない。これらはその全体の内容が本明細書に組み込まれる。
【0032】
本明細書に記載されるように、第1及び第2の水蒸気バリア層は、生体高分子バリア層の両面に設けることができる。例えば、第1の水蒸気バリア層を板紙の表面に配置し、第1の水蒸気バリア層の上に生体高分子バリア層を配置し、生体高分子バリア層の上に第2の水蒸気バリア層を配置することができる。いいかえると、第1及び第2の水蒸気バリア層は、生体高分子バリア層をサンドイッチ状に挟むことができる。また、本明細書でさらに記載されるように、さまざまな実施態様において、生体高分子バリア層は2以上の生体高分子バリア層からなることができる。
【0033】
本開示の第1の塗工用組成物から形成される水蒸気バリア層は、板紙に耐水蒸気性を付与して、生体高分子層を水の吸収から保護することができる。さまざまな実施態様において、それぞれの水蒸気バリア層の乾燥塗膜重量は、1グラム パー 平方メートル(g/m2)〜10g/m2の範囲にすることができる。例えば、ある実施態様においては、各水蒸気バリア層の乾燥塗膜重量は3g/m2以下とすることができ、そして第1水蒸気バリア層と第2水蒸気バリア層の合計乾燥塗膜重量を6g/m2以下とすることができる。他の実施態様においては、各水蒸気バリア層の乾燥塗膜重量は5g/m2以下とすることができる。さらに、第1の水蒸気バリア層と第2の水蒸気バリア層は、互いに異なる乾燥塗膜重量を有してもよい。
【0034】
さまざまな実施態様において、生体高分子バリア層の第1の塗工用組成物は、単層に塗布して合計乾燥塗膜重量が4g/m2以下にすることができる。他の実施態様では、生体高分子バリア層の第1の塗工用組成物は、少なくとも2つの層で、例えば第1の生体高分子バリア層と第2の生体高分子バリア層として塗布することができる。生体高分子バリア層が2層で塗布される場合、第1の生体高分子バリア層と第2の生体高分子バリア層のそれぞれは、乾燥塗膜重量を2g/m2以下とすることができる。他の実施態様においては、第1の生体高分子バリア層と第2の生体高分子バリア層のそれぞれは、乾燥塗膜重量を1g/m2以下とすることができる。さらなる実施態様においては、第1の生体高分子バリア層と第2の生体高分子バリア層のそれぞれは、乾燥塗膜重量を0.5g/m2以下とすることができる。また、生体高分子バリア層には乾燥塗膜重量が異なる第1及び第2の生体高分子バリア層を含むことができる。例えば、第1の生体高分子バリア層の乾燥塗膜重量が約2g/m2であり、一方第2の生体高分子バリア層の乾燥塗膜重量は約0.5g/m2とすることができる。乾燥塗膜重量が異なる他の組合せもまた可能である。
【0035】
すでに記載したように、本開示の多層塗膜の第1及び第2の塗工用組成物は、板紙上に塗布してさまざまな厚さ及び/又は塗膜重量にすることができる。したがって例えば、多層塗膜の総乾燥重量が10g/m2以下であり、ここにおいて第1の水蒸気バリア層は乾燥塗膜重量が3g/m2以下になるように塗布し、第1の生体高分子バリア層は乾燥塗膜重量が2g/m2以下になるように塗布し、第2の生体高分子バリア層は乾燥塗膜重量が2g/m2以下になるように塗布し、第2の水蒸気バリア層は乾燥塗膜重量が3g/m2以下になるように塗布することができる。
【0036】
別の実施態様においては、第1の塗工用組成物は、乾燥塗膜重量が3g/m2以下の第1の水蒸気バリア層を生成するように塗布し、第2の塗工用組成物は、単層で乾燥塗膜重量が4g/m2以下の生体高分子バリア層を生成するように塗布し、さらに第1の塗工用組成物を、乾燥塗膜重量が3g/m2以下の第2の水蒸気バリア層を生成するように塗布することができる。
【0037】
先行技術の実施態様とは異なり、本開示の多層塗膜は、OGR性と酸素バリア性を付与することができる薄い生体高分子バリア層を含んでおり、このOGR性は、板紙が機械的ストレスにさらされた後であっても保つことができる。例えば、本明細書においてさらに十分記載されるように、板紙上の乾燥塗膜は、フラット・キット・レイティング・ナンバー(flat Kit Rating Number)が12となるOGR性バリアを提供することができる。本明細書に記載されるように、キット・レイティング・ナンバーは、ある表面(例えば被覆した板紙の乾燥塗膜の表面のような)が、浸透性が徐々に強くなっていく一連の試薬群による浸透に対して、どの程度の耐性を有するかを示すための測定基準である。
【0038】
本開示の多層塗膜は、摂氏23度(23℃)、760ミリメートル水銀(mmHg)、及び相対湿度50%の下で、1日当たりわずか100立方センチメートル・パー・平方メートル(cm3/m2)の酸素透過性とすることができる。この結果は、本明細書の実施例においてより十分に記載される。
【0039】
さらに、ホット・オイル・サークル試験(Hot Oil Circle Test)を用いることにより、本開示の多層塗膜は、塗膜形成した板紙を機械的ストレスにさらした後であっても、多層塗膜を通して板紙の内部にカノーラ油が浸透するのを60℃で24時間防ぐことを示すことができる。
【0040】
本明細書に記載されるように、水蒸気バリア層(例えば、第1及び第2の水蒸気バリア層)は、生体高分子バリア層を取り囲み、生体高分子バリア層と板紙とを水の浸透から保護することができる。さまざまな実施態様において、水蒸気バリア層はラテックスと乳化剤とから形成することができる。さまざまな実施態様において、ラテックスは、水蒸気バリア層中で水蒸気バリア層の総重量に対して約30パーセント〜約100パーセントの範囲の量で存在するようにできる。さまざまな実施態様において、乳化剤は水蒸気バリア層中にラテックスの100乾燥重量部当たり約0.1〜約2.5重量部の範囲の量で存在することができる。
【0041】
さまざまな実施態様において、粘着性やべたつきを伴うことなく良好な膜を形成するラテックスが好ましいものとされる。第1の塗工用組成物に用いられるそのようなラテックスの例は、スチレン−ブタジエンラテックス、スチレン−アクリレートラテックス、スチレン−アクリルラテックス、スチレン 無水マレイン酸、スチレン−ブタジエン アクリロニトリルラテックス、スチレン−アクリレート−ビニルアクリロニトリルラテックス、酢酸ビニルラテックス、酢酸ビニル−ブチルアクリレートラテックス、酢酸ビニル−エチレンラテックス、アクリルラテックス、酢酸ビニル−アクリレートラテックス、アクリレート共重合体、ビニリデン含有ラテックス、塩化ビニリデン/塩化ビニル含有ラテックス、及びこれらの混合物からなる群から選ぶことができる。前記ラテックスのいくつかについてのカルボキシル化物もまた選択可能であり、ここでラテックスは、モノマーと例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのカルボン酸との共重合により調製される。第1の塗工用組成物として使用できるラテックスとして、米国特許第4468498号明細書及び第6896905号明細書に記載されているラテックスもまた含めることができ、これらは参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0042】
上記したラテックスに加えて、水蒸気バリア層に用いられる第1の塗工用組成物は、多糖類、たんぱく質、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、セルロース及びセルロース誘導体、エポキシアクリレート、ポリエステル、ポリエステルアクリレート、ポリウレタン、ポリエーテルアクリレート、含油樹脂、ニトロセルロース、ポリアミド、ビニル共重合体、種々の形態のポリアクリレート、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸及びバーサティック酸ビニルの共重合体を含むことができる。さらに、本開示の塗工用組成物は、以下のものを包含する熱可塑性樹脂の群から選択される一以上のベースポリマーを含むことができる:ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリ−3−メチル−1-ブテン、ポリ−3−メチル−1−ペンテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブタン共重合体、及びプロピレン−1−ブテン共重合体などを典型例とする、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1-ブテン、4-メチル-1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン及び1−ドデセンなどのアルファオレフィンのホモポリマー又はコポリマー(エラストマーを含む);エチレン−ブタジエン共重合体及びエチレン−エチリデン ノルボルネン共重合体を典型例とするアルファオレフィンと共役又は非共役のジエンとの共重合体;エチレン−プロピレン−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン−ジシクロペンタジエン共重合体、エチレン−プロピレン−1,5−ヘキサジエン共重合体及びエチレン−プロピレン エチリデン ノルボルネン共重合体を典型例とする、2以上のIアルファ−オレフィンと共役又は非共役のジエンとの共重合体などのポリオレフィン(エラストマーを含む);エチレン−ビニル酢酸共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−塩化ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸又はエチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリレート共重合体などのエチレン−ビニル化合物共重合体;ポリスチレン、ABS、アクリロニトリル−スチレン共重合体、オルト−メチルスチレン−スチレン共重合体などのスチレン共重合体(エラストマーを含む);スチレン−ブタジエン共重合体及びその水化物、スチレン−イソプレン−スチレン トリブロック共重合体などのスチレンブロック共重合体(エラストマーを含む);ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレートなどのポリビニル化合物;ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン12などのポリアミド;ポリエチレンテレフタレート及び/又はポリブチレンテレフタレートなどの熱可塑性ポリエステル;ポリカーボネート、ポリフェニレンオキサイドなど。これらの樹脂は単独で又は二以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、国際特許出願第2005/090427号及び米国特許出願第11/376835号に記載されるようなオレフィンブロック共重合体もまた、ベースポリマーとして用いることができる。本明細書で用いられるとき、用語「共重合体」は、二以上のコモノマーから形成される重合体をいう。
【0043】
特定の実施態様においては、ポリプロピレン、ポリエチレン、それらの共重合体、それらの混合物などのポリオレフィンは、エチレン−プロピレン−ジエン三元重合体と同様に、塗工用組成物に含まれるベースポリマーとすることができる。塗工用組成物は、1以上の安定剤及び液状媒体を、塗工用組成物を形成するために含むことができる。
【0044】
さまざまな実施態様において、水蒸気バリア層を形成するための第1の塗工用組成物における乳化剤は、アニオン系乳化剤とすることができる。適切なアニオン乳化剤には、アルキルアリールスルホン酸塩、アルカリ金属アルキルスルホン酸塩、スルホン酸化したアルキルエステル、及び脂肪酸せっけんが含まれる。具体例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルジフェニルエーテル二スルホン酸二ナトリウム、N−オクタデシルスルホコハク酸塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムが含まれる。
【0045】
乳化剤は非イオン性であってもよい。適当な非イオン性乳化剤にはポリオキシエチレン縮合物が含まれる。使用できるポリオキシエチレン縮合物の例としては、次のものが含まれる。ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテルなどのポリオキシエチレン脂肪族エーテル;ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテルなどのポリオキシエチレンアルカリルエーテル;ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレンオレエートなどの高級脂肪酸のポリオキシエチレンエステル、同様にエチレンオキシドと樹脂酸及びトール油酸(tall oil acid)との縮合物;N−ポリオキシエチレンラウリル酸アミド、N−ラウリル−N−ポリオキシエチレンアミンなどのポリオキシエチレンアミド及びアミン縮合物;ポリオキシエチレン・n−ドデシル・チオエーテルなどのポリオキシエチレンチオエーテル。
【0046】
水蒸気バリア層を形成するために使用する第1の塗工用組成物には、乳化剤、安定剤に代えて、種々の保護コロイドを用いてもよい。適したコロイドとしては、エマルション重合技術の分野で知られているように、カゼイン、ヒドロキシエチルでんぷん、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、アルギン酸塩、ポリビニルアルコール、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、スチレン−マレイン酸無水物共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリエーテルなどが含まれる。一般的にいって、これらのコロイドが用いられる場合には、エマルション重合反応器の内容物合計量に対して0.05重量%〜10重量%の程度で用いられる。
【0047】
水蒸気バリア層には顔料も含むようにでき、この場合、第1水蒸気バリア層と第2水蒸気バリア層は、ラテックス100重量部ごとに顔料を約0重量部〜100重量部を含むことができる。さまざまな実施態様において、水蒸気バリア層に用いる顔料は、クレー、焼成クレー、剥離した天然層状ケイ酸塩、部分的に剥離した天然層状ケイ酸塩、剥離した合成層状ケイ酸塩、部分的に剥離した合成層状ケイ酸塩、重質炭酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アラゴナイト、硫酸バリウムドロマイト(barium sulfate doromite)、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、マグネサイト二酸化チタン(magnesite titanium dioxide)(例えば、ルチル型及び/又はアナターゼ型)、サチン白、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ三水和物、マイカ、珪藻土、アラゴナイト、方解石、バテライト、タルク及びそれらの混合物からなる群から選ぶことができる。さらに、塗工用組成物にはブラスチック顔料を入れることができる。プラスチック顔料の例としては、プラスチック顔料の総重量に対して約70%〜約100%のポリスチレンを含むポリスチレンラテックスがある。
【0048】
いくつかの実施態様において、水蒸気バリア層で用いる顔料をクレーにすることができる。クレーを含めることにより、特にバリア性を高め、ブロッキングを減少させ、水蒸気バリア層のための塗工用組成物の総コストを低減することに役立つ。水蒸気バリア層にクレーを添加することにより生じうる効果としては、これに限るわけではないが、水蒸気バリア層の表面の封止効果、水蒸気バリア層中の透過性材料の一部の低減、及び/又は水蒸気の拡散経路の増加、及びこれによるそれらの浸透の遅延化が挙げられる。さらに、水蒸気バリア層には、バリア性、リサイクル性又は柔軟性を高めるために、一定の他の添加剤、例えば架橋剤、ワックス、分散剤、及び/又は可塑剤を含むことができる。
【0049】
本明細書で記載されるように、多層塗膜中の生体高分子バリア層は良好なOGR性と酸素バリア性を提供することができる。さまざまな実施態様において、本開示の生体高分子バリア層は、特に生体高分子、可塑剤及び顔料を含むものとすることができる。
【0050】
本明細書で記載されるように、生体高分子は脆い塗膜を形成する可能性があるので、従来技術における塗膜では生体高分子バリア層の柔軟性を増すために多量の可塑剤が含まれていた。それとは対照的に、本開示の生体高分子バリア層は比較的少量の可塑剤を含むものでありながら、生体高分子バリア層に十分な柔軟性を与え、板紙が機械的ストレスにさらされた場合であってもひび割れが生じるのを防ぐことができる。
【0051】
さまざまな実施態様において、可塑剤は生体高分子バリア層中において、生体高分子の100乾燥重量部当たり約2.5重量部〜約50重量部の範囲で存在させることができる。さまざまな実施態様において、本開示の生体高分子バリア層に用いられる可塑剤は、エチレン・アクリル酸共重合体とすることができる。適切な可塑剤の例には、分子量が約50〜約40000のものが含まれる。
【0052】
さまざまな実施態様において、生体高分子は、生体高分子バリア層中に、生体高分子バリア層の総重量に対して約50%〜約100%の量で存在させることができる。さまざまな実施態様において、本開示の生体高分子バリア層に用いられる生体高分子はデンプンとすることができる。また、生体高分子は、デンプン、加工デンプン、キトサン、多糖類、タンパク質、ゼラチン、バイオポリエステル、これらの修飾物及び混合物からなる群から選ぶこともできる。本明細書で用いられるとき、加工デンプンには、構造的及び/又は化学的に修飾されて修飾前のデンプンとは構造的及び/又は化学的に異なるようになったデンプンが含まれる。
【0053】
さまざまな実施態様において、生体高分子バリア層に含まれる顔料は、クレー、焼成クレー、剥離した天然層状ケイ酸塩、部分的に剥離した天然層状ケイ酸塩、剥離した合成層状ケイ酸塩、部分的に剥離した合成層状ケイ酸塩、重質炭酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アラゴナイト、硫酸バリウムドロマイト(barium sulfate doromite)、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、マグネサイト二酸化チタン(magnesite titanium dioxide)(例えば、ルチル型及び/又はアナターゼ型)、サチン白、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ三水和物、マイカ、珪藻土、アラゴナイト、方解石、バテライト、タルク及びそれらの混合物からなる群から選ぶことができる。さらに、塗工用組成物にはブラスチック顔料を入れることができる。プラスチック顔料の例としては、プラスチック顔料の総重量に対して約70%〜約100%のポリスチレンを含むポリスチレンラテックスがある。
【0054】
本明細書で述べられるように、いくつかの実施態様においては、生体高分子バリア層の第2の塗工用組成物に用いられる顔料をクレーにすることができる。そのような実施態様においては、クレーは、その97%が2マイクロメーター(μm)よりも小くなるような平均粒子径を有し、約30のアスペクト比を有し、約20m2/gの比表面積を有する。ある実施態様においては、アスペクト比は約30〜約50の範囲とすることができる。また、クレーの比表面積は最大で約330m2/gに至ってもよい。さらなる実施態様では、顔料のアスペクト比は、最大約330m2/gまでの比表面積となるような小粒径であれば、30を超えることができる。
【0055】
いくつかの実施態様において、顔料は、生体高分子バリア層中において生体高分子100乾燥重量部当たり約10〜100重量部の量で存在させることができる。
【0056】
いくつかの実施態様において、第1及び第2塗工用組成物には、塗膜の望ましいレオロジー特性及び/又は仕上げ時の塗膜特性を生成及び/又は促進するために、任意付加的な成分を(懸濁状態又は溶解状態として)含ませることができる。そのような付加的な成分には、結合剤、分散剤、保護コロイド、コロイド用の溶媒、金属イオン封鎖剤、増粘剤、保湿剤、滑剤、界面活性剤、湿潤剤、架橋剤、消泡剤などが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
さらに、第1及び第2塗工用組成物に任意成分として含まれる界面活性剤、湿潤剤、消泡剤、分散剤、及び/又は平滑剤は、アニオン性、カチオン性及び/又はノニオン性であってよい。当業者には理解されるとおり、第1及び/又は第2塗工用組成物に添加される界面活性剤、湿潤剤、消泡剤、分散剤、及び/又は平滑剤の量及び数は、選ばれた個々の化合物によって異なるが、乾燥塗膜の性能を損なうことなく基材の湿潤を達成するに必要な量にとどめるべきである。例えばいくつかの実施態様において、界面活性剤の量は、第1の塗工用組成物又は第2の塗工用組成物の約10重量%以下にすることができる。
【0058】
本開示の多層塗膜は、被覆した板紙上の1以上の塗膜として用いられる。例えば、本開示の多層塗膜を板紙上の唯一の塗膜として用いることができる。さらなる実施態様においては、本開示の多層塗膜を、塗膜を形成された板紙における下塗り、上塗り及び/又は下塗りと上塗りの間の中塗りのいずれか一つとして用いることができる。したがって、本開示の多層塗膜は、望ましい塗膜特性を促進及び/又は生成できる他の層と一体化させてもよい。
【0059】
本明細書で述べるように、本開示の多層構造物は、例えば食品包装における水バリア性及び/又は湿気バリア性などのような、バリア性が求められる紙及び/又は紙以外のものの塗膜形成に用いることができる。
【実施例】
【0060】
本開示のさまざまな実施態様を以下の実施例によって説明するが、本開示はこれらの例によって制限されるものではない。個々の例、材料、量及び手順は、本明細書の開示に示すように、本開示の範囲に従って広く解釈すべきである。特に断りがなければ、すべての部とパーセントは重量によるものであり、すべての分子量は数平均分子量である。特に断りがなければ、用いられるすべての機器及び化学品は本明細書で示されるように商業的に入手可能である。次の材料が実施例において使用される。
クレー:Contour Xtreme クレー(Imerys Pigments for Paper社)、97%>2μmの平均粒径、約30のアスペクト比、比表面積20平方メートル・パー・グラム(m2/g)。
デンプン:Perlcoat 155 デンプン(Lyckeby Starkelsen Group社,スウェーデン企業)。
可塑剤:Tecseal E799−35(Trueb Emulsions Chemie AG社,スイス)
ラテックス DL930(ダウ・ケミカル・カンパニー,ミッドランド ミシガン州,米国)
乳化剤:Emulsogen SF8 (クラリアント化学社)
紙系基材:厚さ340μm、PPSラフネス3.5μmで柔軟性が高い被覆天然クラフト板紙。
用いたオイルはキャノーラ油。
【0061】
例のすべての測定及び手順は、特に断りがない限り摂氏約23度(℃)の室温において行われた。
【0062】
塗工用組成物及び塗膜形成した紙系基材
水蒸気バリア層塗工用組成物F1の調製
水蒸気バリア層塗工用組成物を、0.5グラム(g)の乾燥重量のEmulsogen SF8(固形分約50%)と100gの乾燥重量のDL930ラテックス(固形分約50%)を混合して調製した。この塗工用組成物を次の表においてF1で表す。
【0063】
生体高分子バリア層塗工用組成物F2の調製
生体高分子バリア層塗工用組成物を、100gの乾燥重量のContour Xtreme クレー(固形分約68.4%)、100gの乾燥重量のPerlcoat 155 デンプン(固形分約32.0%)及び2.5gの乾燥重量のTecseal E799−35(固形分約35.0%)を混合して調製した。この塗工用組成物を次の表においてF2で表す。
【0064】
生体高分子バリア層塗工用組成物F3の調製
生体高分子バリア層塗工用組成物を、100gの乾燥重量のPerlcoat 155 デンプン(固形分約32.0%)及び2.5gの乾燥重量のTecseal E799−35(固形分約35.0%)を用いて調製した。この塗工用組成物を次の表においてF3で表す。
【0065】
水蒸気バリア層塗工用組成物F4の調製
水蒸気バリア層塗工用組成物を、100gの乾燥重量のContour Xtreme クレー(固形分約68.4%)、100gの乾燥重量のDL930ラテックス(固形分約50%)、及び0.50グラム(g)の乾燥重量のEmulsogen SF8(固形分約50%)を混合して調製した。この塗工用組成物を次の表においてF4で表す。
【0066】
多層カーテンコーティングのセッティング(setting)
以下の実施例のために、前記した塗工用組成物を被覆天然クラフト板紙(紙基材)の表面に塗布して「被覆原紙」を作った。塗工には実験用多層カーテンコーティング(MLCC)ステーションコーターを使用し、各試料について所望の乾燥塗膜重量が得られるように調整した。実験用MLCCステーションコーターは、8層のスライドダイ、毎分100〜2000メーター(m/min)の速度、280ミリメーター(mm)の幅、及び乾燥のための赤外線(IR)とエアホイル(air foil)を有している。
【0067】
試料1−7の調製
被覆原紙の各試料は、紙基材、一つの下層、二つの中層及び一つの上層からなる。下層と上層は水蒸気バリア層用の塗工用組成物F1を用いて形成され、中層は生体高分子バリア層用の組成物F2を用いて形成される。下層は第1の水蒸気バリア層に対応し、中層は生体高分子バリア層(例えば、第1及び第2の生体高分子バリア層、又は単一の生体高分子バリア層)に対応し、上層は第2の水蒸気バリア層に対応する。各実施例において、層を形成するために用いた塗工用組成物は同じであり、種々の層の乾燥重量を変化させている。試料は、MLCCステーションコーターを用いて塗工される。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
【表4】

【0072】
【表5】

【0073】
【表6】

【0074】
【表7】

【0075】
例8−15
クレーの配置の効果をさらに分析するために以下の試料が調製される。被覆原紙の各試料は、紙基材、被覆原紙をつくるための塗工用組成物により形成された下層、1層又は2層の中層、及び上層から構成される。下層及び上層は、既述の水蒸気バリア層用塗工用組成物F1及びF4により形成される。中層は、既述の生体高分子バリア層用塗工用組成物F2又はF3により形成される。各例において、塗工用組成物により形成された層は変わらないままであり、種々の層の乾燥重量が変化する。試料は、本明細書で述べたMLCCステーションコーターにより塗工される。
【0076】
【表8】

【0077】
【表9】

【0078】
【表10】

【0079】
【表11】

【0080】
【表12】

【0081】
【表13】

【0082】
【表14】

【0083】
【表15】

【0084】
フラットキット試験(flat kit test)
グリース及び油のキット試験液が、表16に示す処方により作られた。キャスター・オイル(USPグレード99−100%)、トルエン(ACSグレード,99.5%min.ガスクロマトグラフによる)、ヘプタン(試薬グレード,99.9%min.,99.0%n−ヘプタン)は、VWRインターナショナル社から購入した。
【0085】
【表16】

【0086】
耐油・耐グリース性「キット試験」を、試料8−14について、TAPPI UM 557 「紙及び板紙のグリース、油、ワックスに対する耐性(キット試験)」に従って行う。キット試験は、本開示の被覆原紙のように塗膜を有する紙又は板紙の耐性を試験する方法である。
【0087】
キット試験は次のように行う。被覆原紙のそれぞれ5つの試験片(5.08cm×5.08cm)を用意する。キット・レイティング・ナンバー試験液を1滴、本開示の塗工用組成物を有する被覆原紙の平滑な表面上に、高さ2.54cmから落とす。15秒後に過剰のキット・レイティング・ナンバー試験液を清潔なティッシュペーパー又は綿布片でぬぐう。直ちに被覆原紙の表面を観察する。
【0088】
被覆原紙は、その試験した表面が試験されない被覆原紙に比べてはっきりした黒ずみを示す場合には不合格とする。しかしながら被覆原紙が合格であった場合は、被覆原紙の新しい試料を用いてより高い数字のキット・レイティング・ナンバー試験液により既述の試験を行い、不合格となるキット・レイティング・ナンバー試験液になるまでこの試験を繰り返し行う。合格したキット・レイティング・ナンバー溶液の5つの試験片についてのそれぞれの最高値を平均し、この平均値を丸めの幅0.5で丸めた数字を、被覆原紙上の塗工用組成物のフラット・キット・レイティング・ナンバーとする。試験結果を下の表17に示す。
【0089】
【表17】

【0090】
ホット・オイル・サークル試験(hot oil circle test)
ホット・オイル・サークル試験はダウ・ケミカル社によって開発されたもので、塗工用組成物の熱油に対する耐性を評価するものである。被覆原紙のOGR性は、被覆原紙の試料への機械的ストレス下に行う。耐熱油性試験は、被覆原紙への油の浸透速度を高めるために60℃で行う。試験手順は次のとおりである。
【0091】
被覆原紙の試験片(8cm×8cm)を用意する。試験ごとに最低2つの試験片が必要となる。塗膜形成紙にシワをつけるためにシワ付け工程を用い、これにより機械的ストレスをかけた被覆原紙試験片を作成する。シワをつける工程は、実験用シワ付け装置(Marbach Werkzeugbau社)を用いて行われる。図1は、この試験においてシワをつけた被覆原紙試験片を作成するために使用した実験用シワ付け装置100の部分図である。実験用シワ付け装置100により形成されたシワの高さ(Hc)は、次式で計算される。
Hc=Hcutter−Hbar−s*
ここで、
Hcは、シワ付け部材104の高さであり;
cutterは、カッター106の高さであり;
barは、シワ付け部材104の下方のカウンタープレート108の高さであり;
s*は機械的ストレスをかけた状態での被覆原紙の厚さである。
(応用科学大学(ミュンヘン)Hofer教授著 「Praktikumsversuch Nr.2:Stanzen,Rillen,und Falten von Faltschachtel Karton」からの情報)
【0092】
実験用シワ付け装置100のHcutterは23.8mmであり、Hbarは0.1mmである。s*の値は(s)(1−p)に等しく、ここでsは被覆原紙試験片の厚さで約0.37mm、そしてpは被覆原紙試験片102の圧縮値(compression value)である。pの値は被覆原紙試験片102の圧縮率に依存し、実験用シワ付け装置100の中で試料102が破壊されるのを防ぐためにp=0.1が選択される。この例においては、シワ付け部材104の高さは23.35mmと計算される。
【0093】
被覆紙試験片に効率的にシワをつけるために、シワ高さを用いて、どのようなシワ付けドレッシング(creasing dressing)を用いれば被覆紙試験片を切断することなくシワをつけることができるかを計算する。さらに、試験片の切断を避け、規定のシワを再現可能なように付けるためには、カウンタープレートについての計算が必要である。シワ付けドレッシングを選択するために、くぼみ(depression)の有効幅,bN及びカウンタープレートのくぼみの有効幅,tNが決定される。指針値として、次の値を仮定することができる。
紙の機械方向(MD):bN=1.5×s+bM
紙の幅方向(CD):bN=1.5×s+bM+0.1m
ここで、
sは被覆原紙の厚さであり;そして、
Mはシワ付け部材104の幅であって、その値は0.7mmである。
【0094】
いったんMDbN及びCDbNが計算されると、この2つを適当なシワ付けドレッシング番号を選択するために使用することができる。下の表18を用いてNrが選択されるが、ここでbN値はbN2と等しい。例えば、もしbNが1.2であれば、Nrは1が用いられる。もしbNが1.3であれば、Nr3が使用される。さらに、bNを用いてNrを決定するために表18を用いることにより、tNもまた与えられる。この方法により、シワ付けは明確で再現可能な結果を与える。
【0095】
【表18】

【0096】
この場合、シワ付けドレッシングの計算された有効幅と高さは:s(又はtN)は0.37mmであり、bMは0.7、bN(CD)は1.348mm、bN(MD)は1.248mmである。試料の厚さが0.37mmであることから、Nrは1又は2が唯一の選択である。しかしながら、bNの平均値は、bN(CD)及びbN(MD)の平均をとると1.298となり、Nrが1である場合にbN値が最も1.298に近くなるので、Nrは1となる。
【0097】
被覆原紙試験片にシワがつけられると、次いで試験片は折りたたまれ、そして開いて、被覆原紙の被覆した面が面するようにテープで(例えば平らな状態で)Plexiglas(登録商標)の上に固定される。シワをつけた被覆原紙試験片の中ほどに直径6.0cmの円を描くために、円形の型板が用いられる。そして、ホットグルーガンを用いて接着剤を円に沿って数珠状に堆積し、「接着剤のダム」を形成する。接着剤のダムは室温で最低15分間冷却され硬化してもよい。
【0098】
予熱されたキャノーラ油を60℃のオーブンから取り出し、その1mlを、最初にシワをつけて折りたたまれた被覆原紙上の接着剤のダムにより規定された領域中に塗布する。油が拡がって円の全体を覆うことが必要である。結果の解釈に役立つように、油で覆われた試料の写真が撮られる。ついで、油で覆われた試料は60℃のオーブン中に置かれる。シワをつけた被覆原紙の試料は、決められた時間間隔後(ここでは11時間後)にオーブンから取り出され、実験台に置かれて室温まで冷却される。シワをつけた被覆原紙試験片の写真が、油のある状態とない状態で撮られる。いくつかの試料の結果を表19及び20に示す。
【0099】
【表19】

【0100】
試料1−6が示すところでは、45のシワをつけた試験片のうちのわずか13だけが24時間後に熱油浸透を示さなかった。最も層乾燥塗膜重量が小さいもの(試料3のシワをつけたもの)の多層構造だけが、試験を100%パスした。下は、試料1−6についての統計情報である。
【0101】
【表20】

【0102】
上に記載したホット・オイル・サークル試験は試料8−15についても行われる。結果を表21及び22に示す。
【0103】
【表21】

【0104】
試料8−15の示すところでは、127の試験片のうち56が油脂試験を浸透なしでパスした。シワをつけた後に良好なOGR性を示した試料は、試料10、12、及び11であった。下は試験(試料8−15)の統計情報である。
【0105】
【表22】

【0106】
酸素透過速度試験
酸素透過速度試験を試料8−14について行う。酸素の透過性は、温度23℃、相対湿度(RH)50%で測定装置(Model OX−TRAN Model2/12,MOCON社製)を用いて測定する。この装置の内部では、各測定ユニットは試料によって隔てられた2つの小室で構成される。一方の小室にキャリアガス(窒素)が送られ、他方の小室には試験ガス(酸素)を流す。両方のガスは一定の温度とRHを有する。測定が始まった後に酸素がCouloxセンサーに注入される。このセンサーは酸素にさらされると注入した酸素の量に比例した電流を発生する。酸素透過試験の結果を表23に示す。
【0107】
【表23】

【0108】
表23のデータによると、試料8、13、及び14の多層塗膜は、酸素バリア層としては試料9−12の多層塗膜ほど有効ではない。試料14の多層塗膜を試料10及び12の多層塗膜と比べると、デンプンとクレーの両方を含む生体高分子層(試料10及び12)は優れた酸素バリア性を有し、クレーが多層塗膜の酸素バリア性を向上させることを示している。さらに、試料8−15の多層塗膜は、上で記載したホット・オイル・サークル試験の結果に示されるように、良好な柔軟性を示す。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆した紙又は板紙であって、:
第1の主表面を有する原紙;
第1の主表面上の、総乾燥塗膜重量が10g/m2以下である多層塗膜;
を包含し、ここで当該多層塗膜は、
ラテックスを用いて形成された第1の水蒸気バリア層;
第1の水蒸気バリア層の上に形成され、総乾燥塗膜重量が4g/m2以下である生体高分子バリア層;及び
生体高分子バリア層の上にラテックスを用いて形成される第2の水蒸気バリア層;
を含むものである、被覆した紙又は板紙。
【請求項2】
請求項1に記載された被覆した紙又は板紙であって、生体高分子バリア層が:
生体高分子;
生体高分子の100乾燥重量部あたり約2.5〜約50重量部の可塑剤;及び、
生体高分子の100乾燥重量部あたり約10〜約100重量部の顔料;
を含む、被覆した紙又は板紙。
【請求項3】
請求項2に記載された被覆した紙又は板紙であって、生体高分子が、デンプン、加工デンプン、キトサン、多糖類、タンパク質、ゼラチン、バイオポリエステル、並びにこれらの修飾物及び混合物からなる群から選ばれる、被覆した紙又は板紙。
【請求項4】
請求項2に記載された被覆した紙又は板紙であって、顔料が、クレー、剥離した天然層状ケイ酸塩、部分的に剥離した天然層状ケイ酸塩、剥離した合成層状ケイ酸塩、部分的に剥離した合成層状ケイ酸塩、炭酸カルシウム、タルク及びそれらの混合物からなる群から選ばれる、被覆した紙又は板紙。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項に記載された被覆した紙又は板紙であって、可塑剤がエチレン−アクリル酸共重合体である、被覆した紙又は板紙。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載された被覆した紙又は板紙であって、生体高分子バリア層は、第1の水蒸気バリア層上の第1の生体高分子バリア層、及び、第1の生体高分子バリア層上の第2の生体高分子バリア層を含み、第1の生体高分子バリア層と第2の生体高分子バリア層が第1のバリア層及び第2のバリア層の間に位置するようにした、被覆した紙又は板紙。
【請求項7】
請求項6に記載された被覆した紙又は板紙であって、第1の生体高分子バリア層及び第2の生体高分子バリア層のそれぞれが2g/m2以下の乾燥塗膜重量を有するものである、被覆した紙又は板紙。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載された被覆した紙又は板紙であって、第1の水蒸気バリア層及び第2の水蒸気バリア層の合計の乾燥塗膜重量が6g/m2以下である、被覆した紙又は板紙。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載された被覆した紙又は板紙であって、その酸素透過性が、23℃、760mmHg、及び相対湿度50%の下で100cm3/(m2*24Hr)を超えないものである、被覆した紙又は板紙。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載された被覆した紙又は板紙であって、被覆した紙又は板紙の多層塗膜は、シワを付けて折りたたんだ後の多層塗膜と原紙を通してのカノーラ油の浸透を、60℃で24時間阻止するものである、被覆した紙又は板紙。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載された被覆した紙又は板紙であって、少なくとも12のキット・レイティング・ナンバーを有する、被覆した紙又は板紙。
【請求項12】
被覆した紙又は板紙を形成する方法であって:
原紙の第1主表面に多層塗膜を同時に塗布し、ここにおいて多層塗膜は以下の層を含み、
ラテックスを用いて形成した第1の塗工用組成物によって形成される、第1の水蒸気バリア層及び第2の水蒸気バリア層;
以下の成分、
生体高分子
生体高分子の100乾燥重量部あたり約2.5〜約50重量部の可塑剤;及び、
生体高分子の100乾燥重量部あたり約10〜約100重量部の顔料;
を含む第2の塗工用組成物によって形成され、第1及び第2のバリア層の間に位置する、少なくとも1層の生体高分子バリア層;
ついで原紙の第1主表面上の多層塗膜を乾燥させる工程を含む、被覆した紙又は板紙を形成する方法。
【請求項13】
請求項12に記載された方法であって、多層塗膜を同時に塗布するにあたって、合計の乾燥塗膜重量が10g/m2以下の多層塗膜が形成されるように、第1及び第2の水蒸気バリア層並びに少なくとも1層の生体高分子バリア層を塗布する方法。
【請求項14】
請求項13に記載された方法であって、多層塗膜を同時に塗布するにあたって、1つの生体高分子バリア層の塗膜重量が4g/m2以下となるように、少なくとも1層の生体高分子バリア層を塗布する方法。
【請求項15】
請求項12〜14のいずれか1項に記載された方法であって、多層塗膜を同時に塗布するにあたって、第1及び第2の水蒸気バリア層を、それぞれ塗膜重量3g/m2以下の第1バリア層及び塗膜重量が3g/m以下の第2の水蒸気バリア層を形成するように塗布する方法。

【公表番号】特表2012−505321(P2012−505321A)
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−531016(P2011−531016)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【国際出願番号】PCT/US2009/005474
【国際公開番号】WO2010/042162
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【Fターム(参考)】