説明

紙葉類の断面構造情報の検出方法および検出装置

【課題】光コヒーレンストモグラフィ(以下「OCT」という。)手法を用いて紙葉類の断面構造情報を検出する。
【解決手段】搬送機構部20にセットされた検出対象である紙葉類10に対し、OCT信号検出部30から低干渉性(コヒーレンス)光を照射し、紙葉類10からの反射光を受光して、参照光との間で得られる干渉光の強さを検出する(OCT生信号の検出)。得られたOCT生信号は、データ処理および判定部50へ与えられて、データ処理および判定処理として、「反射率の深さ方向のプロファイル算出処理」(S1)、「反射率の深さ方向プロファイル解析処理」(S2)および「判定処理」(S3)が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、紙葉類の断面構造情報を検出するための方法および装置に関し、特に、光コヒーレンストモグラフィ(Optical Coherence Tomography:OCT)の手法を用いて紙葉類の断面構造情報を非破壊的に検出する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光コヒーレンストモグラフィ(Optical Coherence Tomography:OCT)とは、光の低コヒーレンス干渉の原理を用いた断層(断面)計測法である。この計測法は、医療分野において目や皮膚などの診断装置として実用化されている技術であり、かかる技術に関する先行特許(出願)としては、特許文献1(特開2007−101264号公報)や特許文献2(米国特許第5,565,986号)がある。
【0003】
特許文献1および特許文献2に記載の技術は、測定対象が人体等の生物学的対象物であり、主として医療分野で利用するための構成を有している。このため、特許文献1および特許文献2に記載の技術は、そのままでは紙葉類の断面構造情報の検出に適用することはできない。
一方、紙葉類の断面構造情報を検出する技術に関しては、たとえば特許文献3(特開平8−110967号)に、紙葉内部に埋め込まれて存在するメタルスレッドの有無を検出する技術が開示されている。特許文献3に記載の技術は、対向するコンデンサ電極の間に紙葉を通過させ、その通過の間のキャパシタンス変化に基づいてメタルスレッドの有無を検出するというものである。この技術では、メタルスレッドの有無は検出できるが、メタルスレッドの構造的特徴までは検出できないという課題がある。
【0004】
特許文献4(特開2004−285507号)には、固有の用紙断面形状を有するスレッド挿入用紙の断面形状を利用した、用紙の真偽判定方法が開示されている。特許文献4に開示の用紙の真偽判定では、断面形状を見る必要があり、断面形状がはっきりと見えない用紙の場合は、用紙を切断して断面を確認しなければならず、用紙の断面構造情報を非破壊測定により得られない場合があるという課題がある。
【0005】
特許文献5(特開2002−269616号)には、印刷物に存在する磁気顔料の磁気量と、画線盛量とを検出して、真正券の有するそれら値と照合することにより、凹版印刷物の真偽判定を行う技術が開示されている。この技術は、凹版印刷物であって、インキに磁気成分が用いられている場合は有効であるが、インキに磁気成分が用いられていない場合には判定ができないという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−101264号公報
【特許文献2】米国特許第5,565,986号明細書
【特許文献3】特開平8−110967号公報
【特許文献4】特開2004−285507号公報
【特許文献5】特開2002−269616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
紙葉類の断面構造情報を検出する場合は、非接触で、紙葉類に埋設されているスレッドの形状が紙葉の端部ではっきりしていない場合でも、当該スレッドを検出する必要がある。また、紙葉類の表面に磁気インキ成分が盛られていない場合でも、凹版印刷の有無が確認できる必要がある。
従来技術においては、紙葉類の断面構造情報を正しく検出する技術は確立されていなかった。
【0008】
この発明は、このような技術的背景のもとになされたものであり、光コヒーレンストモグラフィ(以下「OCT」という。)手法を用いて紙葉類の断面構造情報を検出する検出方法および検出装置を提供することを主たる目的とする。
この発明は、また、OCT手法を用い、紙葉類の断面構造情報を得て、紙葉類の真偽判別を行うための方法および装置を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題は、本願の特許請求の範囲の各請求項記載の構成により解決することができる。
上記課題を解決するための本願発明の構成の説明に先立ち、本願発明の概要の説明をする。
(1)本願発明の検出対象
本願発明の検出対象は、紙葉類、特に紙幣や有価証券といった偽造防止処理の施された紙葉類である。
【0010】
図1に、対象となる紙葉類の構成を図解的に示す。
図1を参照して、発明の検出対象である紙葉類10は、その内部に埋め込まれたセキュリティスレッド11およびその表面に印刷された凹版インキ12を有する。セキュリティスレッド11の特徴としては、紙葉類10内部に埋没しており、外部からの確認は困難ということである。凹版インキ12の特徴は、紙葉類10表面でインキ12がわずかに盛り上がっているということである。この発明は、かかる紙葉類10の厚み方向における断面構造上の特徴(断面構造情報)を検出する発明である。
【0011】
ここに、セキュリティスレッド11とは、たとえば細長い帯(多くの場合、表面に金属膜が蒸着された透明プラスチックからなる)が紙葉類10の内部に埋め込まれたものである。これらセキュリティスレッド11の存在は、紙葉類10の断面構造に関し、一定の特徴を与える。
凹版インキ12とは、インキ12が通常より高く盛られて印刷されたものであり、そのインキ盛の高さはたとえば50μm程度である。凹版インキ12は、凹版印刷により印刷することができる。
【0012】
図1に示すような紙葉類10を、複写機やOA用プリンタで複製しようとしても、セキュリティスレッド11や凹版インキ12により紙葉類10が有する厚み方向の構造を複製することは不可能である。従って、紙葉類10の断面構造の特徴(情報)を検出することにより、確度の高い紙葉類の真偽判別が可能となる。この発明は、次に説明するように、紙葉類の断面構造情報を、OCT手法を用いて非破壊測定によって検出するものである。
(2)本願発明の概要
図2に、本願発明に係る紙葉類の断面構造情報の検出装置の構成ブロックを示す。
【0013】
図2を参照して、本願発明の検出装置は、搬送機構部20にセットされた検出対象である紙葉類10に対し、OCT信号検出部30から低干渉性(コヒーレンス)光を照射し、紙葉類10からの反射光を受光して、参照光との間で得られる干渉光の強さを検出する(OCT生信号の検出)。OCT信号検出部30で得られたOCT生信号は、データ処理および判定部50へ与えられて、データ処理および判定が行われる。データ処理および判定の内容は、「反射率の深さ方向のプロファイル算出処理」(S1)、「反射率の深さ方向プロファイル解析処理」(S2)および「判定処理」(S3)に区分することができる。
(3)OCT手法の説明
OCT信号検出部30において、OCT生信号を得るための構成としては、OCT手法の種類により、紙葉類10の深さ方向構造情報の測定の仕方が異なる。
【0014】
OCT手法としては、
a.時間領域OCT(図3A参照)、および
b.フーリエ領域OCTがあり、フーリエ領域OCTは、さらに
b−1.周波数領域OCT(検出部に分光器を用いるもの、図3B参照)、および、
b−2.波長掃引OCT(光源に波長掃引光源を用いるもの、図3C参照)に分けることができる。
【0015】
上記OCT手法ごとの基本構成は、それぞれ、図3A〜3Cに示す構成となる。
この発明は、どのタイプのOCT手法を用いてもよく、後記実施形態の説明においては、周波数領域のOCT手法を例にとって説明をする。
図3A〜3Cに示す3つのタイプのOCT手法の基本構成について、簡単に説明しておく。
【0016】
図3A、3Bにおいて、31は低コヒーレンス光源であり、たとえば、LED、SLD(スーパールミネッセントダイオード)、ハロゲンランプ等である。また、図3Cにおいて、31は波長走査光源であり、発光波長を可変できる光源である。
各図において、光源31から照射される光はたとえばコリメートレンズ32により平行光とされ、ビームスプリッタ33に与えられて、検出光34と参照光35とに分割される。そして検出光34は対物レンズ36により集光されて検出対象である紙葉類10に照射される。そしてその反射光は対物レンズ36で平行光とされ、ビームスプリッタ33へ再入射される。
【0017】
一方、参照光35は参照ミラー37で反射され、ビームスプリッタ33に戻る。参照ミラー35は、図3Aでは、光路長を走査できるように移動可能であるが、図3B、3Cでは、固定配置されている。そしてビームスプリッタ33によって紙葉類10で反射され戻ってきた光と参照ミラー37で反射され戻ってきた光とが再結合されて、光検出器38(図3A、3C)または分光器40(図3B)へ導かれる。なお図3A、3Cにおいて、39は検出用集光レンズである。
【0018】
また、図3Bにおいて、分光器40には、回折格子41、検出用集光レンズ42およびリニアCCD43が含まれている。
図3Bでは、分光器40を用いてリニアCCD43により測定されたスペクトル干渉信号がフーリエ変換される。
一方、図3Cでは、光源31の波長を掃引しながら測定された光検出器38から出力される時間変化信号がフーリエ変換される。
(4)発明の構成
この発明の具体的な構成は、請求項記載の通りの次の構成である。
【0019】
この発明は、ある局面から見ると、低コヒーレンス光を検出光および参照光に2分し、検出光を測定対象である紙葉類に照射し、該紙葉類からの反射光を得るとともに、参照光を参照ミラーに照射して該参照ミラーで反射される反射光を得、紙葉類からの反射光および参照ミラーからの反射光を干渉させて干渉光を得、この干渉光を干渉光の強さに応じて受光素子によって受光して電気的信号に変換し、変換された信号から紙葉類の深さ方向の信号を得、深さ方向の信号を分析することにより、紙葉類の表面を基準にして、紙葉類の深さ方向の断面構造情報および紙葉類の表面から盛り上がった方向の断面構造情報を得ることを特徴とする、紙葉類の断面構造情報の検出方法である。
【0020】
前記紙葉類には、その表面に部分的に凹版印刷がなされており、前記紙葉類の表面を基準にした盛り上がりの断面構造情報には、凹版印刷によるインキの盛り上がりを示す位置情報が含まれているのが望ましい。
また、前記紙葉類には、その内部の予め定める位置にセキュリティスレッドが埋設されており、前記紙葉類の表面を基準にした紙葉類の深さ方向の断面構造情報には、前記セキュリティスレッドにより反射される反射信号に基づく深さ位置および反射率情報が含まれていてもよい。
【0021】
さらに、上記の検出方法により得られた断面構造情報から紙葉類が予め定める種類の紙葉類か否かの真偽判別を行う方法であって、前記真偽判別は、セキュリティスレッドが埋設された領域と、埋設されていない領域との検出信号の差分信号に基づいて判定してもよい。
または、上記検出方法により得られた断面構造情報から紙葉類が予め定める種類の紙葉類か否かの真偽判別を行う方法であって、前記真偽判別は、セキュリティスレッドが埋設された領域と、埋設されていない領域との検出信号の比率に基づいて判定してもよい。
【0022】
この発明は、別の局面から見ると、低コヒーレンス光を照射するための光源と、前記光源から照射される低コヒーレンス光を検出光および参照光に2分し、検出光を検出対象である紙葉類に照射して該紙葉類からの反射光を得、且つ、参照光を参照ミラーに照射して該参照ミラーからの反射光を得、両反射光を干渉させて干渉光を生成する光学ユニットと、前記光学ユニットから出力される前記干渉光を受光して電気的信号に変換するための受光素子と、前記受光素子で受光されて得られた信号から紙葉類の深さ方向の信号を得る信号処理手段と、前記信号処理手段により得られた信号の深さ方向成分を分析することにより、紙葉類の表面を基準にして、紙葉類の深さ方向の断面構造情報および紙葉類の表面から盛り上がった方向の断面構造情報を得る信号分析手段と、を含むことを特徴とする、紙葉類の断面構造情報の検出装置である。
【0023】
前記紙葉類には、その表面に部分的に凹版印刷がなされており、前記紙葉類の表面を基準にした盛り上がりの断面構造情報には、凹版印刷によるインキの盛り上がりを示す位置情報が含まれていることが望ましい。
前記紙葉類には、その内部の予め定める位置にセキュリティスレッドが埋設されており、前記紙葉類の表面を基準にした深さ方向の断面構造情報には、前記セキュリティスレッドにより反射される反射信号に基づく位置情報および反射率情報が含まれていてもよい。
【0024】
前記検出装置は、さらに、予め定める種類の紙葉類に関し、凹版印刷およびセキュリティスレッドの少なくとも一方に関する情報が記憶された記憶手段を有し、前記信号分析手段で得られる信号を、前記記憶手段に記憶された情報と比較することにより、検査対象の紙葉類の真偽を判定する真偽判定手段を含む構成でもよい。
【発明の効果】
【0025】
この発明によれば、検出対象物である紙葉類の深さ方向の反射率分布の特性を得ることができる。それによって、紙葉類に埋設されたセキュリティスレッドの有無および紙葉類表面の凹版インキの有無を判定することができる。そして、紙葉類の真偽判別を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の検出対象である紙葉類10の図解図であり、(a)は紙葉類10の平面、(b)は紙葉類10の断面を図解的に示している。
【図2】この発明の断面構造情報の検出装置の概要を示す構成ブロック図である。
【図3A】時間領域OCTの基本構成ブロック図である。
【図3B】周波数領域のOCTの基本構成図である。
【図3C】波長掃引OCTの基本構成図である。
【図4】この発明の一実施形態に係るOCT手法による紙葉類の断面構造情報検出装置の構成ブロック図である。
【図5】A(1)は、検出されたOCT生信号を処理して得られた深さZ=Z1の位置にのみ反射面が存在する場合の干渉スペクトル信号の一例を示す図であり、B(1)は、深さZ=Z2(>Z1)の位置にのみ反射面が存在する場合の干渉スペクトル信号の一例を示す図であり、A(2)、B(2)は、それぞれ、A(1)、B(1)の干渉スペクトル信号を離散フーリエ変換した結果であり、深さZ=Z1およびZ=Z2の位置にそれぞれ存在する反射面に対応する各信号ピーク位置および信号ピーク値をそれぞれ示す。
【図6】データ処理および判定部50(図2参照)において行われる処理内容を説明するためのフロー図である。
【図7】反射率の深さ方向プロファイルのグラフである。
【図8】セキュリティスレッドの有部と無部との差異を表わすグラフである。
【図9】凹版インキ部とその周辺部とでの信号の差異を表わすグラフである。
【図10】予め定める領域にセキュリティスレッド11が埋設されている紙葉類10の図解的平面図である。
【図11】反射率の深さ方向プロファイル算出処理を施すことにより得られた信号の例である。
【図12】差分信号によるスレッド検出判定処理で得られたスレッド領域(スレッド有部)とその隣接領域(スレッド無部)との間の差分信号のグラフである。
【図13】反射率プロファイルから、スレッド無部と、スレッド有部との比(比率信号)を求めた信号比のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下には、この発明を実施するための実施形態について、図面を参照して具体的に説明をする。
図4は、この発明の一実施形態に係るOCT手法による紙葉類の断面構造情報検出装置の構成ブロック図である。この構成は、スペクトル領域干渉方式(周波数領域OCT)を用いた場合の構成ブロック図である。よって、図4に示す構成は、基本的には、図3Bの構成と同様である。
【0028】
図4において、31は光源としてのSLD(スーパールミネッセントダイオード)であり、低コヒーレンス光を出射する。SLD31から出射された低コヒーレンス光はコリメートレンズ32で平行光とされ、ビームスプリッタ(BS)33へ与えられる。ビームスプリッタ33では、与えられた光を検出光34と参照光35とに分割し、それぞれ検出対象である紙葉類10および参照ミラー37へ向けて出射する。検出光34は、対物レンズ36で集光されて、紙葉類10が搭載された搬送機構部20(図2参照)の基準面(この基準面を、Z=0面とする)に照射される。照射された検出光は、紙葉類10の表面で反射されると共に、基準面Z=0面からZ方向に深みを有する紙葉類10の内部に侵入し、内部で反射された反射光は、表面で反射された光と共に対物レンズ36を経由してビームスプリッタ33へ入射する。
【0029】
一方、ビームスプリッタ33で分割された参照光35は参照ミラー37で反射される。参照ミラー37は、ビームスプリッタ33から見た光路長が、紙葉類10の基準面Z=0面と等距離の位置に固定されている。そして参照ミラー37で反射された参照光もビームスプリッタ33へ再入射される。
ビームスプリッタ33では、紙葉類10で反射された反射光と参照ミラー37で反射された反射光とが再結合される。この再結合された光は、紙葉類10で反射された反射光と参照ミラー37で反射された参照光とが干渉し合う複数波長の光が混じった干渉光である。この再結合光44は回折格子41で反射されて干渉縞の光45となり、集光レンズ46でライン状の受光素子、たとえばリニアCCD43に集光される。よってリニアCCD43により干渉縞の光の強さが検出される。
【0030】
この検出された干渉縞の光の強さ、すなわちOCT生信号は、紙葉類10におけるZ軸方向(深さ方向)に見て、Z=Z1の位置に存在する反射面に対しては、たとえば図5A(1)に示す干渉スペクトル信号が得られる。すなわち、Z=Z1の場合は、紙葉類10の反射光と参照ミラー37の反射光との位相差は、
nkZ1(但し、n:検出対象物(紙葉類)の屈折率、k:波数)
であり、紙葉類10の反射面の深さ位置Z1の大きさに逆比例した周期を持つ干渉スペクトル信号が得られる。
【0031】
また、Z=Z2(>Z1)の位置に存在する反射面に対しては、たとえば図5B(1)に示す干渉スペクトル信号が得られる。すなわちZ=Z2の場合には、紙葉類10の反射光と参照ミラー37の反射光の位相差は、
nkZ2(但し、n:検出対象物(紙葉類)の屈折率、k:波数)
であり、深さ位置Z2の大きさに逆比例した周期を持つ干渉スペクトル信号が得られる。
【0032】
そして、得られた干渉用スペクトル信号を離散フーリエ変換(DFT)すると、信号ピーク位置から反射面の深さ位置、および信号ピーク値から反射面の振幅反射率、を求めることができる。
紙葉類10の反射面の深さZ=Z1およびZ=Z2の位置に存在するそれぞれの反射面に対する各信号ピーク位置および信号ピーク値を、図5Aの(2)および図5Bの(2)に示す。
【0033】
この実施形態では、図2に示すOCT信号検出部30が図4に示す構成であり、この検出部で検出されたOCT生信号に対して、図2に示すデータ処理および判定部50が、図6に示す3段階の処理を行っている。
図6は、データ処理および判定部50(図2参照)において行われる処理内容を説明するためのフロー図である。
【0034】
OCT信号検出部30(図2参照)で検出されたOCT生信号がデータ処理および判定部50に与えられると(ステップS0)、データ処理および判定部50では、反射率の深さ方向プロファイル算出処理(ステップS1)、反射率の深さ方向プロファイル解析処理(ステップS2)および判定処理(ステップS3)という3つの処理を順次実行する。
(ステップS1)の反射率の深さ方向プロファイル算出処理には、離散的フーリエ変換(Discrete Fourier Transform:以下「DFT」という。)処理、ノイズ除去を行うフィルタリング処理、および区間データ平均処理が含まれている。
【0035】
検出されたOCT生信号にこれら処理を施すことにより、図7に示すような反射率の深さ方向プロファイルのグラフが得られる。
図7において、横軸は深さ方向光路長の位置[μm]であり、縦軸はピーク値で規格化された信号[dB]である。
図7のグラフから、検出対象である紙葉類の厚み方向に、表面位置で最も大きな信号が現れ、紙葉類の厚み方向に深さが深くなるに従って光は紙葉類内で散乱するため、徐々に信号が弱まっていることが理解できる。
(ステップS2)の反射率の深さ方向プロファイル解析処理には、測定部の最表面に対応する信号ピーク(第1ピーク)の位置検出処理と、紙葉類内部における第2の信号ピークの有無の確認処理とが含まれている。そして、紙葉類内部における第2の信号ピークが有の場合は、そのピーク位置検出処理も含まれている。第2の信号ピークに関する処理は、セキュリティスレッドが埋設されている領域と、埋設されていない領域との検出信号の比率または差分に基いて行うことができる。
【0036】
反射率の深さ方向プロファイル解析処理を行うことにより、図8に示すようなセキュリティスレッドの有部と無部との差異を表わすグラフが得られる。
図8のグラフにおいて、横軸は深さ方向光路長の位置[μm]であり、縦軸はピーク値で規格化された信号[dB]を表わしている。図8のグラフによれば、深さ方向の光路長が約100マイクロmにおいて、信号の第1ピークが現れており、また、深さ方向光路長が約150マイクロmにおいて信号の第2ピークが現れている。
【0037】
この信号特性から、第1ピーク(深さ方向光路長が100μm)の位置が紙葉類の表面であり、表面から約50μm(150−100)の位置に、セキュリティスレッドが埋め込まれていることが理解できる。
凹版インキは、凹版印刷によるインキの盛り上がり情報、すなわちインキの位置情報により、検出処理を行うことができる。
【0038】
図9は、凹版インキ部とその周辺部とでの信号の差異を表わすグラフであり、図9のグラフも、横軸が深さ方向光路長の位置[μm]、縦軸がピーク値で規格化された信号[dB]を表わしている。そして紙葉類表面に凹版インキが印刷されたインキ部においては、深さ方向光路長が約40μmの位置にピークが現れる。一方、インキ部周辺(凹版インキの無い部分)においては、深さ方向光路長が約120μmの位置にピークが現れる。
【0039】
このグラフから、紙葉類の表面は、深さ方向光路長が120μmの位置にあり、その紙葉類表面に凹版インキの印刷により約80μmのインキ盛り量の印刷が施されていることが理解できる。即ち、インクの表面は紙表面より前面にあることが示されている。
(ステップS3)の判定処理には、(1)凹版インキの存在判定およびそれに基づく真偽判定と、(2)セキュリティスレッドの存在判定およびそれに基づく真偽判別と、が含まれている。
【0040】
次に、これら2つの判定処理について具体的に説明する。
(1)凹版インキの存在判定およびそれに基づく真偽判別
この判定および判別では、紙葉類表面の所定の位置とその近傍部の状態を検出し、第1信号ピークの発生位置の差ΔH1を評価する。そして
a)ΔH1≧(所定の閾値1)の場合は、紙葉類が真正(凹版インキ有)と判定する。
【0041】
b)ΔH1<(所定の閾値1)の場合は、紙葉類が複製または偽造(凹版インキ無)と判定する。
(2)セキュリティスレッドの存在判定およびそれに基づく真偽判別
この判定および判別では、
ア.紙葉類の所定の位置を検出したとき、第2の信号ピークが検出されなかった場合には、複製または偽造(セキュリティスレッド無)と判定する。
【0042】
イ.紙葉類の所定の位置で第2の信号ピークが検出された場合は、第1の信号ピークの発生位置と、第2の信号ピークの発生位置との差異ΔH2を評価する。そしてその評価は、
a)(所定の閾値2)≦ΔH2≦(所定の閾値3)の場合は、真正(セキュリティスレッド有)と判定する。
【0043】
b)ΔH2<(所定の閾値2)、または、ΔH2>(所定の閾値3)の場合は、複製または偽造が疑われる紙葉類であると判定する。
すなわち、セキュリティスレッドに対応した第2の信号ピークの発生位置が、第1の信号ピーク(紙葉類の表面)との関係で、所定の深さ位置にある場合は真正であると判定するが、第2の信号ピークの深さ位置がセキュリティスレッドの埋め込まれた深さ位置ではない場合には、その第2の信号ピークは真正なセキュリティスレッドに基づく信号ピークではない可能性があるので、真正な紙葉類ではないことを疑うこととしている。
【0044】
次に、セキュリティスレッドの検出に関しデータ処理および判定部50で行われる
S1:反射率の深さ方向プロファイル算出処理、
S2:反射率の深さ方向プロファイル解析処理、
および、
S3:判定処理の処理ステップ
に関し、より具体的に説明をする。
【0045】
データ処理および判定部50で行われる上記処理ステップS1、S2、S3に関しては、具体的には、2種類のやり方が適用できる。
(1)差分信号によるスレッド検出判定処理、および、(2)比率信号によるスレッド検出判定処理である。
これら2種類の処理について、それぞれ説明をする。
【0046】
(1)差分信号によるスレッド検出判定処理
この処理では、検出対象である紙葉類10を搬送機構部20(図2参照)にセットし、セットした紙葉類10の表面が検出光34に曝されるように搬送機構部20によりX方向に紙葉類10を搬送する。その際に、紙葉類10における予め定めるセキュリティスレッドが埋設されているはずの領域と、その隣接領域(セキュリティスレッドが埋設されていない領域)の両方を検出光で走査する。
【0047】
より具体的には、図10に示すように、紙葉類10には、予め定める領域にセキュリティスレッド11が埋設されている。
そこで、たとえば搬送機構部20により紙葉類10をX方向に搬送し、横線A1で示す走査部分を検出光34に曝して検出光34で走査を行う。
図10では、紙葉類10を左から右へと走査する。これにより、スレッドのない領域と、スレッドが埋設された領域と、スレッドのない領域とが順に走査されて、その信号が得られる。得られた信号を、ステップS1の反射率の深さ方向プロファイル算出処理を施すことにより、図11に示す信号が得られる。
【0048】
図11において、横軸は深さ位置[μm]であり、縦軸は検出信号レベル[dB]を表わしている。図11において、実線A2はスレッド領域の検出結果、破線のA3は非スレッド領域の検出結果を表わしている。
いずれの場合も、第1ピークとして、紙葉類10の表面において高い検出信号レベルが得られる。これは、紙葉類10表面において、検出光34が大きく反射されるからである。
【0049】
また、スレッド領域では、深さ約55μmの位置に、第2ピークが現れている。すなわち、スレッド領域では、紙葉類10の表面から深さ約55μmの位置に埋設されたセキュリティスレッド11により、照射された検出光がセキュリティスレッドで11反射され、検出信号レベルが大きくなり、第2ピークとして現れるものである。
差分信号によるスレッド検出判定処理では、スレッド領域(スレッド有部)とその隣接領域(スレッド無部)との間の差分信号を求める。すなわち、図12に示すグラフを得る。図12において、横軸は深さ位置[μm]であり、縦軸は差分信号レベル[dB]である。
【0050】
図12において、スレッド有部とスレッド無部との間での反射率の特徴(プロファイル信号の差分)を求めている。
そして、差分信号F(Z)に対して、所定の閾値レベルを設定している。
差分信号F(Z)が、設定した閾値以上となる区間、すなわち図12において(Z:Za〜Zb)における信号総和値S1(斜線を付した部分)を算出する。信号総和値S1は、次の式で表わされる。
【0051】
【数1】

【0052】
そして、信号総和値S1に対して、予め設定された閾値との比較を行い、
S1≧(設定閾値)
の場合に、セキュリティスレッド11が有ると判定する。
なお、図10のような紙葉類10の場合は、紙葉類10の左から右へと検出光を当てて走査し、その反射光に基づく第1のピーク値と第2のピーク値とを連続的に採取することにより、セキュリティスレッド11の位置情報と深さ情報および幅情報が得られる。従って、正規の位置、深さおよび幅でセキュリティスレッド11が埋設されているか否かを判定することができる。
【0053】
また、セキュリティスレッド11による反射強度は、スレッドの材質にも関連してくるので、正規の反射率を持っているかどうかにより、所定の材質でできたセキュリティスレッド11が埋設されているかどうかも判定することが可能である。
(2)比率信号によるスレッド検出判定処理
次に、信号の比率をとることにより、セキュリティスレッド11の検出判定を行う処理について説明をする。
【0054】
この処理では、反射率プロファイルの算出処理は、差分信号によるセキュリティスレッド検出判定処理と同様で、図11に示すような反射率プロファイルを得る。
次いで、求めた反射率プロファイルから、スレッド無部と、スレッド有部との比(比率信号)を求める。
求められた信号比のグラフを図13に示す。
【0055】
図13において、横軸は深さ位置[μm]であり、縦軸は信号比率R(Z)である。
図13のグラフは、隣接する領域間(スレッド有部とスレッド無部)での反射率プロファイル信号の比率を求めたものである。
そして、求めた比率信号R(Z)に対して、閾値レベルを設定する。
そして、求めた比率信号R(Z)が閾値以上となる区間(Z:Za〜Zb)における信号総和値S2を算出する。
【0056】
信号総和値S2は、次の式で表わすことができる。
【0057】
【数2】

【0058】
信号総和値S2に対して、予め設定された閾値との比較を行い、
S2=≧(設定閾値)の場合には、セキュリティスレッド有と判定する。
この発明を、たとえば、紙幣の真偽判別に適用する場合、紙幣の種類により予め定められているセキュリティスレッドや凹版インキの情報を、記憶手段(メモリテーブル)に登録しておき、真偽判定時に、メモリテーブルの情報を参照してもよい。
【0059】
すなわち、検出装置は、さらに、予め定める種類の紙葉類に関し、凹版印刷およびセキュリティスレッドの少なくとも一方に関する情報が記憶された記憶手段を有し、信号分析手段で得られる信号を、記憶手段に記憶された情報と比較することにより、検査対象の紙葉類の真偽を判定する真偽判定手段を含む構成であってもよい。
この場合、搬送機構部20(図2参照)で、紙幣10の搬送を制御し、紙幣表面の検出位置と検出信号とをリンクさせることにより、メモリテーブルから、適切な情報を読み出し、参酌することができる。
【0060】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0061】
10 紙葉類
11 セキュリティスレッド
12 凹版インキ
20 搬送機構部
30 OCT信号検出部
31 光源
32 コリメートレンズ
33 ビームスプリッタ
34 検出光
35 参照光
37 参照ミラー
41 回折格子
43 リニアCCD
50 データ処理および判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低コヒーレンス光を検出光および参照光に2分し、検出光を測定対象である紙葉類に照射し、該紙葉類からの反射光を得るとともに、参照光を参照ミラーに照射して該参照ミラーで反射される反射光を得、紙葉類からの反射光および参照ミラーからの反射光を干渉させて干渉光を得、
この干渉光を干渉光の強さに応じて受光素子によって受光して電気的信号に変換し、
変換された信号から紙葉類の深さ方向の信号を得、
深さ方向の信号を分析することにより、紙葉類の表面を基準にして、紙葉類の深さ方向の断面構造情報および紙葉類の表面から盛り上がった方向の断面構造情報を得ることを特徴とする、紙葉類の断面構造情報の検出方法。
【請求項2】
前記紙葉類には、その表面に部分的に凹版印刷がなされており、
前記紙葉類の表面を基準にした盛り上がりの断面構造情報には、凹版印刷によるインキの盛り上がりを示す位置情報が含まれていることを特徴とする、請求項1記載の紙葉類の断面構造情報の検出方法。
【請求項3】
前記紙葉類には、その内部の予め定める位置にセキュリティスレッドが埋設されており、
前記紙葉類の表面を基準にした紙葉類の深さ方向の断面構造情報には、前記セキュリティスレッドにより反射される反射信号に基づく深さ位置および反射率情報が含まれていることを特徴とする、請求項1または2記載の紙葉類の断面構造情報の検出方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの検出方法により得られた断面構造情報から紙葉類が予め定める種類の紙葉類か否かの真偽判別を行う方法であって、
前記真偽判別は、セキュリティスレッドが埋設された領域と、埋設されていない領域との検出信号の差分信号に基づいて判定することを特徴とする、方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかの検出方法により得られた断面構造情報から紙葉類が予め定める種類の紙葉類か否かの真偽判別を行う方法であって、
前記真偽判別は、セキュリティスレッドが埋設された領域と、埋設されていない領域との検出信号の比率に基づいて判定することを特徴とする、方法。
【請求項6】
請求項2の検出方法により得られた断面構造情報から紙葉類が予め定める種類の紙葉類か否かの真偽判別を行う方法であって、
前記真偽判別は、凹版印刷によるインキの盛り上がり情報が紙葉類の表面の反射信号に基づく位置情報であり、前記紙葉類の表面の位置情報より前面位置にあることに基づいて判定することを特徴とする、方法。
【請求項7】
低コヒーレンス光を照射するための光源と、
前記光源から照射される低コヒーレンス光を検出光および参照光に2分し、検出光を検出対象である紙葉類に照射して該紙葉類からの反射光を得、且つ、参照光を参照ミラーに照射して該参照ミラーからの反射光を得、両反射光を干渉させて干渉光を生成する光学ユニットと、
前記光学ユニットから出力される前記干渉光を受光して電気的信号に変換するための受光素子と、
前記受光素子で受光されて得られた信号から紙葉類の深さ方向の信号を得る信号処理手段と、
前記信号処理手段により得られた信号の深さ方向成分を分析することにより、紙葉類の表面を基準にして、紙葉類の深さ方向の断面構造情報および紙葉類の表面から盛り上がった方向の断面構造情報を得る信号分析手段と、
を含むことを特徴とする、紙葉類の断面構造情報の検出装置。
【請求項8】
前記紙葉類には、その表面に部分的に凹版印刷がなされており、
前記紙葉類の表面を基準にした盛り上がりの断面構造情報には、凹版印刷によるインキの盛り上がりを示す位置情報が含まれていることを特徴とする、請求項7記載の紙葉類の断面構造情報の検出装置。
【請求項9】
前記紙葉類には、その内部の予め定める位置にセキュリティスレッドが埋設されており、
前記紙葉類の表面を基準にした深さ方向の断面構造情報には、前記セキュリティスレッドにより反射される反射信号に基づく位置情報および反射率情報が含まれていることを特徴とする、請求項6または7記載の紙葉類の断面構造情報の検出装置。
【請求項10】
前記検出装置は、さらに、予め定める種類の紙葉類に関し、凹版印刷およびセキュリティスレッドの少なくとも一方に関する情報が記憶された記憶手段を有し、
前記信号分析手段で得られる信号を、前記記憶手段に記憶された情報と比較することにより、検査対象の紙葉類の真偽を判定する真偽判定手段を含むことを特徴とする、請求項7〜9のいずれかに記載の紙葉類の断面構造情報の検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−158395(P2011−158395A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21515(P2010−21515)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000001432)グローリー株式会社 (1,344)
【Fターム(参考)】