説明

紙葉類の正損判定用辞書作成方法、紙葉類処理装置、及び紙葉類処理方法

【課題】より高精度で紙葉類の正損判定を行う事ができる紙葉類処理装置に用いられる紙葉類の正損判定用辞書作成方法、辞書を用いた紙葉類処理装置、及び紙葉類処理方法を提供する。
【解決手段】辞書作成方法は、入力される第1の調整用画像及び第2の調整用画像における感知領域を複数の領域に分割し、分割した各領域毎に前記第1の調整用画像の第1の特徴量と、前記第2の調整用画像の第2の特徴量を算出する。各領域毎に前記第1の特徴量及び前記第2の特徴量の平均と分散とをそれぞれ算出し、前記算出した平均及び分散に基づいて各領域毎に重み情報を設定し、前記各領域毎に、汚損が存在するか否かを判定する為の汚損判定閾値を前記重み情報と共に記憶する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば紙幣等の紙葉類を処理する紙葉類処理装置に用いられる紙葉類の正損判定用辞書作成方法、辞書を用いた紙葉類処理装置、及び紙葉類処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙幣等の種々の紙葉類の計数鑑別を行う紙葉類処理装置が実用化されている。紙葉類処理装置は、投入部に投入された紙葉類を1枚ずつ取り込み、紙葉類の検査部に搬送する。
【0003】
検査部は、紙葉類に対して種々の処理を行い紙葉類の状態を判別する。紙葉類処理装置は、検査部による検査の結果に基づいて、紙葉類の種類判定、真偽判定、及び再流通が可能な紙葉類であるか否かの正損判定などを行う。
【0004】
紙葉類処理装置は、汚損のレベルの高い紙葉類を、再流通に適さない紙葉類(損券)であると判定する。この為に、検査部は、搬送される紙葉類から画像を取得する。検査部は、取得した画像と、予め設定される基準値(閾値)とを比較することにより紙葉類の汚損のレベルを判定する。
【0005】
例えば、特許文献1に記載されている紙葉類処理装置は、正券(fit券)と損券(unfit券)とを少なくとも各1枚処理する。紙葉類処理装置は、取得したセンサデータを保存し、保存したデータを評価する。これにより、紙葉類処理装置は、センサ閾値を自動的に調整する。この結果、紙葉類処理装置は、経時変動に対応することができ、且つ、センサ閾値の調整を容易に行う事ができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】US Patent Application Publication US2006/0011447 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1に記載されている紙葉類処理装置は、紙葉類から取得する画像全体を評価し、センサ閾値を調整する。
【0008】
紙葉類の券面には、種々の手法により図柄が形成される。この為、紙葉類の券面には、例えば、インクによる印刷処理が施される領域、透かし処理が施される領域、及びホログラムが付加される領域などが存在する。
【0009】
しかし、上記の領域の中には、画像により汚損のレベルを判定することが難しい領域が存在する。例えば、輝度値の変動が大きい領域などの汚損のレベルを判定する場合、正確に汚損レベルを判定する事ができない可能性があるという問題がある。この結果、正損判定に影響が出るという問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、より高精度で紙葉類の正損判定を行う事ができる紙葉類処理装置に用いられる紙葉類の正損判定用辞書作成方法、辞書を用いた紙葉類処理装置、及び紙葉類処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態としての紙葉類の正損判定用辞書作成方法は、入力される第1の調整用画像及び第2の調整用画像における感知領域を複数の領域に分割し、前記第1の調整用画像の分割した各領域毎に第1の特徴量を算出し、前記第2の調整用画像の分割した各領域毎に第2の特徴量を算出し、各領域毎に前記第1の特徴量及び前記第2の特徴量の平均と分散とをそれぞれ算出し、前記算出した平均及び分散に基づいて各領域毎に重み情報を設定し、前記各領域毎に、汚損が存在するか否かを判定する為の汚損判定閾値を前記重み情報と共に記憶する。
【0012】
また、本発明の一実施形態としての紙葉類処理装置は、各領域毎に汚損が存在するか否かを判定する為の汚損判定閾値と重み情報とを有する辞書を予め記憶する辞書記憶部と、紙葉類を搬送する搬送部と、前記搬送部により搬送される紙葉類から光を受光して評価用画像を撮像する撮像部と、前記撮像部により撮像される評価用画像における感知領域を複数の領域に分割する分割部と、前記評価用画像の分割した各領域毎に評価用特徴量を算出する算出部と、前記算出部により算出した評価用特徴量と、前記辞書記憶部により記憶する辞書の汚損判定閾値と、に基づいて各領域毎に汚損の有無を判定する汚損判定部と、前記汚損判定部により判定した各領域毎の汚損の有無の判定結果と、前記辞書記憶部により記憶する辞書の重み情報とに基づいて前記紙葉類の正損判定を行う正損判定部と、を具備する。
【0013】
また、本発明の一実施形態としての紙葉類処理方法は、紙葉類を搬送し、前記搬送される紙葉類から光を受光して評価用画像を撮像し、前記撮像される評価用画像における感知領域を複数の領域に分割し、前記評価用画像の分割した各領域毎に評価用特徴量を算出し、前記算出した評価用特徴量と、予め記憶される各領域毎の汚損判定閾値と、に基づいて各領域毎に汚損の有無を判定し、前記各領域毎の汚損の有無の判定結果と、予め記憶される重み情報とに基づいて前記紙葉類の正損判定を行う。
【発明の効果】
【0014】
この発明の一形態によれば、より高精度で紙葉類の正損判定を行う事ができる紙葉類処理装置に用いられる紙葉類の正損判定用辞書作成方法、辞書を用いた紙葉類処理装置、及び紙葉類処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る紙葉類処理装置の構成例について説明するための説明図である。
【図2】図2は、図1に示す紙葉類処理装置により処理する紙葉類の画像の例について説明するための説明図である。
【図3】図3は、紙葉類の画像の分割処理及び重み調整処理について説明する為の説明図である。
【図4】図4は、汚損判定閾値を設定する閾値設定処理について説明する為の説明図である。
【図5】図5は、図1に示す紙葉類処理装置において行われる辞書作成処理について説明する為のフローチャートである。
【図6】図6は、図1に示す紙葉類処理装置において行われる正損判定処理について説明する為のフローチャートである。
【図7】図7は、重み調整処理の他の例について説明する為の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る紙葉類処理装置に用いられる辞書の辞書作成方法、辞書を記憶する紙葉類処理装置、及び紙葉類処理方法について詳細に説明する。
【0017】
図1は、一実施形態に係る紙葉類処理装置100の構成例について説明するための説明図である。
紙葉類処理装置100は、供給部20、分離ローラ25、搬送系30、第1のゲート31、第1のスタッカ32、第2のゲート33、第2のスタッカ34、制御部40、センサ41、特徴量記憶部42、辞書記憶部43、及び入出力部45を備える。また、紙葉類処理装置100は、第2のゲート33の後段に図示しない裁断部を備える。
【0018】
制御部40は、紙葉類処理装置100の各部の動作を統合的に制御する。制御部40は、CPU、バッファメモリ、プログラムメモリ、及び不揮発性メモリなどを備える。CPUは、種々の演算処理を行う。バッファメモリは、CPUにより行われる演算の結果を一時的に記憶する。プログラムメモリ及び不揮発性メモリは、CPUが実行する種々のプログラム及び制御データなどを記憶する。制御部40は、CPUによりプログラムメモリに記憶されているプログラムを実行することにより、種々の処理を行うことができる。
【0019】
供給部20は、紙葉類処理装置100に取り込む紙葉類10をストックする。供給部20は、重ねられた状態の紙葉類10をまとめて受け入れる。
【0020】
分離ローラ25は、供給部20の下端に設置される。供給部20に紙葉類10が投入される場合、投入された紙葉類10の集積方向の下端に接する。分離ローラ25は、回転することにより、供給部20にセットされる紙葉類10を集積方向の下端から1枚ずつ紙葉類処理装置100の内部に取り込む。
【0021】
分離ローラ25は、たとえば、1回転するごとに1枚の紙葉類10を取出すように機能する。これにより、分離ローラ25は、紙葉類10を一定のピッチで取出す。分離ローラ25により取り込まれた紙葉類10は、搬送系30に導入される。
【0022】
搬送系30は、紙葉類10を紙葉類処理装置100内の各部に搬送する搬送部である。搬送系30は、図示しない搬送ベルト及び図示しない駆動プーリなどを備える。搬送系30は、図示しない駆動モータにより駆動プーリを駆動する。搬送ベルトは、駆動プーリにより動作する。
【0023】
搬送系30は、分離ローラ25により取り込む紙葉類10を搬送ベルトにより一定速度で搬送する。なお、搬送系30において分離ローラ25に近い側を上流側、逆側を下流側として説明する。
【0024】
2つのセンサ41は、搬送系30を挟んで互いに対向するように配置される。センサ41は、紙葉類10の光学的特徴情報を検出する。即ち、センサ41は、搬送系30により搬送される紙葉類10の両面の画像を読み取る。
【0025】
センサ41は、撮像部として機能する。センサ41は、紙葉類10の券面を二次元的に撮像する。センサ41は、例えば、Charge Coupled Device(CCD)などの受光素子と、光学系とを備える。センサ41は、搬送される紙葉類10に対して光を投光し、反射光または透過光を光学系により受光する。センサ41は、光学系により受光した光をCCDに結像させ、電気信号(画像)を取得する。
【0026】
制御部40は、センサ41により撮像した画像から特徴量を算出する。特徴量は、例えば画素毎の輝度値である。即ち、制御部40は、センサ41により撮像した画像に基づいて、紙葉類10の表面及び裏面の特徴量を算出する。制御部40は、算出する特徴量に基づいて、紙葉類10が再流通に適する正券であるか、再流通に適さない損券であるかを判定する。さらに、制御部40は、紙葉類10の種類、表裏、及び真偽などを判定する。
【0027】
第1のゲート31及び第2のゲート33は、搬送系30のセンサ41より下流に設けられる。第1のゲート31及び第2のゲート33は、それぞれ制御部40の制御に基づいて動作する。制御部40は、紙葉類10に対する各種の判定の結果に応じて第1のゲート31及び第2のゲート33を制御する。制御部40は、紙葉類10を所定の処理部に搬送するように制御する。
【0028】
第1のゲート31は、紙葉類10の搬送先を第1のスタッカ32と第2のゲート33とで切り替える。また、第2のゲート33は、紙葉類10の搬送先を第2のスタッカ34と裁断部とで切り替える。
【0029】
制御部40は、正券と判定した紙葉類10を第1のスタッカ32または第2のスタッカ34に搬送するように、第1のゲート31及び第2のゲート33を制御する。即ち、制御部40は、正券を種類毎に区分けして集積するように各部を制御する。
【0030】
また、制御部40は、損券と判定した紙葉類10を第2のゲート33の後段に設けられる裁断部に搬送するように、第1のゲート31及び第2のゲート33を制御する。即ち、制御部40は、損券と判定した紙葉類10を裁断部に搬送し、裁断部により裁断するように各部を制御する。
【0031】
特徴量記憶部42は、制御部40により算出された紙葉類10の特徴量を記憶する。辞書記憶部43は、正損判定処理を行う為の辞書を記憶する。
【0032】
入出力部45は、操作部と表示部とを備える。入出力部45は、オペレータによる各種操作入力を操作部により受け付ける。また、入出力部45は、オペレータに対して各種の操作案内、及び処理結果などを表示部により表示して報知する。なお、入出力部45の操作部と表示部とは、タッチパネルとして構成されていてもよい。この場合、紙葉類処理装置100は、入出力部45に表示されるボタンと、入出力部45に対するオペレータによる操作とに基づいて、各種の操作入力を検知する。
【0033】
制御部40は、正損判定処理を行う場合、紙葉類10の汚損のレベルと辞書記憶部43に記憶される辞書とに基づいて紙葉類10が正券であるか否かを判定する。
【0034】
辞書は、重み情報と汚損判定閾値とを有する。制御部40は、紙葉類10の正損判定処理を行う場合、汚損が存在するか否かを汚損判定閾値に基づいて判定する。制御部40は、汚損の有無の判定の結果と、重み情報とに基づいて、紙葉類10の正損判定を行う。
【0035】
この為に、制御部40は、予め辞書を作成する辞書作成処理を行う。辞書作成処理は、重み調整処理と、閾値設定処理とを含む。即ち、制御部40は、特徴量記憶部42に記憶される特徴量に基づいて重み調整処理と、閾値設定処理を行う。
【0036】
辞書作成処理を行う場合、紙葉類処理装置100は、予め正券と判定された紙葉類(第1の紙葉類)と予め損券と判定された紙葉類(第2の紙葉類)とを処理する。即ち、紙葉類処理装置100のセンサ41は、第1の紙葉類から第1の調整用画像を取得する。また、センサ41は、第2の紙葉類から第2の調整用画像を取得する。
【0037】
図2は、図1に示すセンサ41により撮像される調整用画像12の例について説明するための説明図である。
制御部40は、センサ41から調整用画像12が入力される場合、入出力部45により入力される操作に基づいて予め設定される感知領域15を画像上において特定する。制御部40は、入出力部45により入力される操作に基づいて予め設定されるサイズに基づいて感知領域15を複数の分割領域16に分割する。この場合、制御部40は、分割部として機能する。
【0038】
また、制御部40は、分割領域16毎に特徴量を算出し、特徴量記憶部42に記憶する。この場合、制御部40は、特徴量を算出する算出部として機能する。
【0039】
即ち、制御部40は、第1の調整用画像における感知領域15を特定する。制御部40は、特定した感知領域15を複数の分割領域16に分割する。制御部40は、各分割領域16毎に第1の特徴量を算出し、特徴量記憶部42に記憶する。
【0040】
また、制御部40は、第2の調整用画像における感知領域15を特定する。制御部40は、特定した感知領域15を複数の分割領域16に分割する。制御部40は、各分割領域16毎に第2の特徴量を算出し、特徴量記憶部42に記憶する。
【0041】
この結果、特徴量記憶部42は、正券の画像から算出する第1の特徴量と、損券の画像から算出する第2の特徴量とを各分割領域16毎に記憶する。なお、辞書作成処理において処理する正券のサンプル数n及び損券のサンプル数nは、少なくともそれぞれ1枚以上であれば如何なる数であってもよい。
【0042】
まず、制御部40は、領域毎の重みを設定する重み調整処理を行う。重み調整処理を行う場合、制御部40は、特徴量記憶部42に記憶される各分割領域16毎の特徴量の複数のサンプルにおける平均と分散とを算出する。なお、下記の演算は、複数のサンプルの同じ場所に位置する分割領域16毎に行われるものとする。即ち、制御部40は、複数のサンプルの対応する分割領域16の特徴量に基づいて演算を行う。
【0043】
この平均と分散は、複数のサンプルの同じ場所に位置する分割領域16の特徴量の平均及び分散である。制御部40は、平均及び分散を第1の特徴量と第2の特徴量とのそれぞれに基づいて個別に算出する。正券の画像から算出した第1の特徴量をx1iとし、正券のサンプル数をnとする場合、第1の特徴量の第1の平均μは、次の数式1により表すことができる。
【数1】

【0044】
また、第1の特徴量の第1の分散σは、次の数式2により表すことができる。
【数2】

【0045】
また、損券の画像から算出した第2の特徴量をx2iとし、損券のサンプル数をnとする場合、第2の特徴量の第2の平均μは、次の数式3により表すことができる。
【数3】

【0046】
また、第2の特徴量の第2の分散σは、次の数式4により表すことができる。
【数4】

【0047】
制御部40は、算出した平均と分散とに基づいて、クラス内分散σとクラス間分散σとを算出する。このクラスとは、正券と損券との二つの分類を示す。クラス内分散σは、次の数式5により表す事ができる。
【数5】

【0048】
さらに、対応する分割領域16の第1の特徴量と第2の特徴量との複数のサンプルにおける平均をMとする。全平均Mは、クラス数をclとする場合、次の数式6により表すことができる。
【数6】

【0049】
また、クラス間分散σは、次の数式7により表す事ができる。
【数7】

【0050】
なお、この場合、クラス数が2つであるので、cl=2となる。
【0051】
さらに制御部40は、クラス内分散σとクラス間分散σとに基づいて、各分割領域16毎の基準cを算出する。基準cは、次の数式8により算出される。
【数8】

【0052】
制御部40は、上記の基準cに基づいて、各分割領域16の重み情報を設定する。基準cは、クラス間分散をクラス内分散で割った値である。この為、基準cの値が大きいほど、サンプル毎の特徴量のバラツキが小さい。即ち、制御部40は、基準cの値が大きい分割領域16ほど、正損判定に適する領域であると判断する。
【0053】
制御部40は、例えば、基準cの大きい順に順位付けを行う。制御部40は、順位に基づいて領域毎のウェイトWの値を重み情報として設定する。分割領域16の数をm個とする場合、制御部40は、m個の分割領域16にそれぞれ1乃至mの番号を付す。制御部40は、m個の分割領域16にそれぞれ重み情報としてWを決定する。即ち、制御部40は、m番の番号を付した分割領域16に重み情報Wを設定する。
【0054】
制御部40は、例えば、m個の分割領域16の中から、基準cの順位の高いN個の分割領域16を正損判定に用いる領域として選択する。制御部40は、例えば、選択した領域のウェイトWを「1」と設定し、選択しない領域のウェイトWを「0」と設定する。
【0055】
図3は、紙葉類10の画像に対して行う分割処理及び重み調整処理について説明する為の説明図である。ここでは、制御部40は、ハッチングを付した領域を選択している。即ち、制御部40は、領域A、B、C、D、及びEを正損判定に用いる領域として選択している。即ち、制御部40は、領域A、B、C、D、及びEのウェイトWを「1」に設定している。また、制御部40は、選択しないその他の領域FのウェイトWを「0」に設定している。
【0056】
さらに、制御部40は、各分割領域16毎に汚損の有無を判定する為の汚損判定閾値を設定する閾値設定処理を行う。
【0057】
図4は、汚損判定閾値を設定する閾値設定処理について説明する為の説明図である。
グラフ47は、複数のサンプルにおけるある分割領域16の第1の特徴量(正券の特徴量)を示す。グラフ48は、複数のサンプルにおけるある分割領域16の第2の特徴量(損券の特徴量)を示す。制御部40は、入出力部45により入力される操作に基づいて汚損判定閾値を分割領域16毎に設定する。例えば、制御部40は、第1の特徴量の平均(第1の平均)μ±3σを汚損判定閾値として設定する。
【0058】
制御部40は、分割領域16毎の汚損判定閾値と、分割領域16毎の重み情報とを辞書として辞書記憶部43に記憶する。なお、制御部40は、画像上における各分割領域16の座標を示す情報を、対応する汚損判定閾値と重み情報とに付加して辞書記憶部43に記憶する。
【0059】
即ち、辞書記憶部43は、分割領域16毎の汚損判定閾値と、分割領域16毎の重み情報と、各分割領域16の座標を示す情報とを記憶する。
【0060】
図5は、図1に示す紙葉類処理装置100において行われる辞書作成処理について説明する為のフローチャートである。
まず、紙葉類処理装置100は、分離ローラ25を動作させることにより、供給部20にセットされる紙葉類10を集積方向の下端から1枚ずつ紙葉類処理装置100の内部に取り込む。供給部20にセットされる紙葉類10は、予め正券と判定された第1の紙葉類、または、予め損券と判定された第2の紙葉類である。
【0061】
搬送系30は、紙葉類10をセンサ41に搬送する。センサ41は、紙葉類10から調整用画像12を取得し、制御部40に入力する(ステップS11)。なお、紙葉類処理装置100は、第1の紙葉類と第2の紙葉類とを個別に処理する。即ち、紙葉類処理装置100のセンサ41は、第1の紙葉類から第1の調整用画像を取得する。また、センサ41は、第2の紙葉類から第2の調整用画像を取得する。
【0062】
制御部40は、センサ41から調整用画像12が入力される場合、入出力部45により入力される操作に基づいて予め設定される感知領域15を画像上において特定する。制御部40は、入出力部45により入力される操作に基づいて予め設定されるサイズに基づいて感知領域15を複数の分割領域16に分割する。制御部40は、分割領域16毎に特徴量を算出する(ステップS12)。制御部40は、算出した特徴量を特徴量記憶部42に記憶する(ステップS13)。
【0063】
即ち、制御部40は、第1の調整用画像の感知領域15を複数の分割領域16に分割する。制御部40は、各分割領域16毎に第1の特徴量を算出し、特徴量記憶部42に記憶する。
【0064】
また、制御部40は、第2の調整用画像の感知領域15を複数の分割領域16に分割する。制御部40は、各分割領域16毎に第2の特徴量を算出し、特徴量記憶部42に記憶する。
【0065】
制御部40は、特徴量記憶部42に保存した第1の特徴量と第2の特徴量とに基づいて、領域毎の重みを設定する重み調整処理を行う(ステップS14)。即ち、制御部40は、複数のサンプルの各分割領域16毎の特徴量の平均と分散とを算出する。制御部40は、各分割領域16にそれぞれ重み情報としてウェイトWを設定する。
【0066】
制御部40は、各分割領域16毎に汚損の有無を判定する為の汚損判定閾値を設定する閾値設定処理を行う(ステップS15)。
【0067】
制御部40は、分割領域16毎の汚損判定閾値と、分割領域16毎の重み情報とから辞書を作成し、辞書記憶部43に記憶する(ステップS16)。
【0068】
上記したように、本実施形態の辞書作成方法によると、制御部40は、画像を複数の領域に分割し、分割した領域毎に特徴量を算出する。制御部40は、算出した特徴量の平均及び分散に基づいて、各領域毎に重み情報を設定する。また、制御部40は、各領域毎に、汚損の有無を判定する為の汚損判定閾値を設定する。制御部40は、重み情報と汚損判定閾値とに基づいて辞書を作成し、辞書記憶部43に記憶する。
【0069】
これにより、正損判定を行うのに適した領域を特定することができる。また、正損判定における重要度を各領域毎に設定することができる。この結果、より高精度で紙葉類の正損判定を行う為の正損判定用辞書を作成する正損判定用辞書作成方法を提供することができる。
【0070】
次に、正損判定処理について説明する。
図6は、図1に示す紙葉類処理装置において行われる正損判定処理について説明する為のフローチャートである。
【0071】
正損判定処理を行う場合、紙葉類処理装置100は、評価を行う紙葉類10を処理する。即ち、紙葉類処理装置100のセンサ41は、評価用の紙葉類10から評価用画像を取得する。センサ41は、取得した評価用画像を制御部40に入力する(ステップS21)。
【0072】
制御部40は、センサ41から評価用画像が入力される場合、入出力部45により入力される操作に基づいて予め設定される感知領域15を画像上において特定する。制御部40は、入出力部45により入力される操作に基づいて予め設定されるサイズに基づいて感知領域15を複数の分割領域16に分割する。制御部40は、各分割領域16毎に特徴量(評価用特徴量)を算出する(ステップS22)。即ち、制御部40は、評価用の紙葉類10の感知領域15の各分割領域16毎に評価用特徴量を算出する。
【0073】
制御部40は、算出した評価用特徴量と辞書記憶部43に記憶される辞書とを比較する(ステップS23)。即ち、制御部40は、算出した評価用特徴量と辞書記憶部43に記憶される汚損判定閾値とに基づいて、各分割領域16毎に汚損が存在するか否かを判定する汚損判定を行う。この場合、制御部40は、汚損判定部として機能する。
【0074】
即ち、制御部40は、算出した評価用特徴量が汚損判定閾値(μ−3σからμ+3σ)の範囲内の値であるか否かを判定する。制御部40は、評価用特徴量がμ−3σからμ+3σの範囲内の値であると判定した場合、当該分割領域16に汚損が存在しないと判定する。また、制御部40は、評価用特徴量がμ−3σからμ+3σの範囲の値でないと判定した場合、当該分割領域16に汚損が存在すると判定する。
【0075】
制御部40は、m個の分割領域16にそれぞれ汚損の有無の判定結果yを決定する。即ち、制御部40は、m番の番号を付した分割領域16の汚損の判定結果yを決定する。
【0076】
例えば、制御部40は、汚損が存在しないと判定した領域の判定結果yを「1」と決定する。また、制御部40は、汚損が存在すると判定した領域の判定結果yを「0」と決定する。
【0077】
制御部40は、辞書記憶部43に記憶される各分割領域16毎のウェイトWと、各分割領域16毎の汚損の有無の判定結果yとに基づいて、紙葉類10が正券であるか否かを判定する正損判定を行う(ステップS24)。この場合、制御部40は、正損判定部として機能する。
【0078】
制御部40は、各領域毎にウェイトWとyとを乗算した結果Wを書く領域毎に算出する。制御部40は、m個の領域のWを加算した値と、予め設定される正損判定閾値θと、を比較する。
【0079】
例えば、制御部40は、次の数式9を満たす場合、紙葉類10が正券であると判定する。
【数9】

【0080】
また、制御部40は、次の数式10を満たす場合、紙葉類10が損券であると判定する。
【数10】

【0081】
なお、正損判定閾値θは、最終判断の閾値である。制御部40は、メモリなどの記憶装置に正損判定閾値θを記憶する。正損判定閾値θは、例えば、入出力部45により入力される操作に基づいて予め任意の値に設定される。yの値を「0」又は「1」とする場合、正損判定閾値θは、次の数式11の範囲で自由に設定することができる。
【数11】

【0082】
また、yの値を「0」乃至「ymax」とする場合、正損判定閾値θは、次の数式12の範囲で自由に設定することができる。
【数12】

【0083】
Σyは、汚損が存在しないと判定した領域の数に相当する。例えば、yの値が「1」又は「0」であり、正損判定閾値θの値が「5」であり、ウェイトWを「1」と設定した領域の数が10である場合、制御部40は、10個の領域のうちの6個以上の領域において汚損が存在しないと判定した場合、紙葉類10を正券と判定する。即ち、正損判定閾値θの値を大きくするほど、正損判定を厳しくすることができる。
【0084】
上記したように、本実施形態の紙葉類処理装置100は、画像を複数の領域に分割し、分割した領域毎に特徴量を算出する。制御部40は、分割した領域ごとに特徴量を辞書の汚損判定閾値と比較し、汚損の有無を判定する。制御部40は、各領域毎の汚損の有無の判定結果と、辞書の重み情報とに基づいて、紙葉類10が正券であるか否かを判定する。
【0085】
これにより、領域毎に汚損の有無の判定結果に差を付けて正損判定を行う事ができる。この結果、より高精度で紙葉類の正損判定を行う紙葉類処理装置、及び紙葉類処理方法を提供することができる。
【0086】
なお、上記の実施形態では、制御部40は、正損判定に用いる領域として選択した領域の重み情報Wを「1」と設定し、選択しない領域の重み情報Wを「0」と設定するとして説明したが、この構成に限定されない。例えば、領域の重要度に応じてウェイトWを段階的に設定してもよい。
【0087】
図7は、重み調整処理の他の例について説明する為の説明図である。図7に示す例では、制御部40は、各分割領域26に段階的に重み情報を設定する。
【0088】
制御部40は、領域A、B、C、D、及びEを選択している。即ち、制御部40は、N=5個の分割領域16を正損判定に用いる領域として選択している。
【0089】
また、各領域の基準cの順位は、「領域Aの基準c>領域Bの基準c>領域Cの基準c>領域Dの基準c>領域Eの基準c」であるとする。
【0090】
各領域の基準cの順位をrとする場合、制御部40は、次の数式13に基づいて各領域の重み情報Wを設定する。
【数13】

【0091】
即ち、制御部40は、領域Aの重み情報Wを「5」と設定する。また、制御部40は、領域Bの重み情報を「4」と設定する。また、制御部40は、領域Cの重み情報を「3」と設定する。また、制御部40は、領域Dの重み情報を「2」と設定する。また、制御部40は、領域Eの重み情報を「1」と設定する。さらに、制御部40は、領域Fの重み情報を「0」と設定する。
【0092】
この構成によると、紙葉類処理装置100は、重視すべき領域の汚損の有無の判定結果を重視して正損判定を行う事ができる。
【0093】
なお、上記した実施形態では、制御部40は、第1の特徴量の平均「μ±3σ」を汚損判定閾値として設定するとして説明したが、この構成に限定されない。汚損判定閾値として設定する特徴量の値は、如何なる値であってもよい。
【0094】
また、制御部40は、汚損判定閾値の上限値と下限値とを設定するのではなく、汚損判定閾値の中間値と幅とを設定する構成であってもよい。この場合、制御部40は、汚損判定閾値の中間値として「μ」、幅として「3σ」を辞書として設定する。
【0095】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具現化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0096】
10…紙葉類、12…調整用画像、15…感知領域、16…分割領域、20…供給部、25…分離ローラ、26…分割領域、30…搬送系、31…第1のゲート、32…第1のスタッカ、33…第2のゲート、34…第2のスタッカ、40…制御部、41…センサ、42…特徴量記憶部、43…辞書記憶部、45…入出力部、100…紙葉類処理装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される第1の調整用画像及び第2の調整用画像における感知領域を複数の領域に分割し、
前記第1の調整用画像の分割した各領域毎に第1の特徴量を算出し、
前記第2の調整用画像の分割した各領域毎に第2の特徴量を算出し、
各領域毎に前記第1の特徴量及び前記第2の特徴量の平均と分散とをそれぞれ算出し、
前記算出した平均及び分散に基づいて各領域毎に重み情報を設定し、
前記各領域毎に、汚損が存在するか否かを判定する為の汚損判定閾値を前記重み情報と共に記憶する、
ことを特徴とする紙葉類の正損判定用辞書作成方法。
【請求項2】
前記第1の特徴量及び前記第2の特徴量の平均と分散とに基づいてクラス内分散とクラス間分散とを算出し、
前記算出したクラス内分散とクラス間分散との比に基づいて各領域における重み情報を設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の紙葉類の正損判定用辞書作成方法。
【請求項3】
前記算出したクラス内分散とクラス間分散との比に基づいて各領域の順位を判定し、
前記判定した順位に基づいて、各領域毎の重み情報を設定する、
ことを特徴とする請求項2に記載の紙葉類の正損判定用辞書作成方法。
【請求項4】
前記判定した順位に基づいて、各領域毎の重み情報を段階的に設定する、
ことを特徴とする請求項3に記載の紙葉類の正損判定用辞書作成方法。
【請求項5】
前記算出したクラス間分散をクラス内分散で割った値が大きい順に各領域の順位を判定し、
順位の高い順に重み情報の値を高く設定する、
ことを特徴とする請求項4に記載の紙葉類の正損判定用辞書作成方法。
【請求項6】
透かしが施されていない領域の重み情報の値を高く設定することを特徴とすることを特徴とする請求項5に記載の紙葉類の正損判定用辞書作成方法。
【請求項7】
各領域毎に汚損が存在するか否かを判定する為の汚損判定閾値と重み情報とを有する辞書を予め記憶する辞書記憶部と、
紙葉類を搬送する搬送部と、
前記搬送部により搬送される紙葉類から光を受光して評価用画像を撮像する撮像部と、
前記撮像部により撮像される評価用画像における感知領域を複数の領域に分割する分割部と、
前記評価用画像の分割した各領域毎に評価用特徴量を算出する算出部と、
前記算出部により算出した評価用特徴量と、前記辞書記憶部により記憶する辞書の汚損判定閾値と、に基づいて各領域毎に汚損の有無を判定する汚損判定部と、
前記汚損判定部により判定した各領域毎の汚損の有無の判定結果と、前記辞書記憶部により記憶する辞書の重み情報とに基づいて前記紙葉類の正損判定を行う正損判定部と、
を具備することを特徴とする紙葉類処理装置。
【請求項8】
前記正損判定部は、前記紙葉類の正損を判定する為の正損判定閾値を予め記憶し、前記汚損判定部により判定した各領域毎の汚損の有無の判定結果を重み情報によりそれぞれ重み付けを行い、重み付けした結果と正損判定閾値とに基づいて前記紙葉類の正損判定を行うことを特徴とする請求項7に記載の紙葉類処理装置。
【請求項9】
紙葉類を搬送し、
前記搬送される紙葉類から光を受光して評価用画像を撮像し、
前記撮像される評価用画像における感知領域を複数の領域に分割し、
前記評価用画像の分割した各領域毎に評価用特徴量を算出し、
前記算出した評価用特徴量と、予め記憶される各領域毎の汚損判定閾値と、に基づいて各領域毎に汚損の有無を判定し、
前記各領域毎の汚損の有無の判定結果と、予め記憶される重み情報とに基づいて前記紙葉類の正損判定を行う、
ことを特徴とする紙葉類処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−28512(P2011−28512A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173504(P2009−173504)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】