説明

紙葉類処理装置

【課題】顧客の要求に応じて紙葉類の取出速度、搬送速度、鑑査性能をトレードオフすることが可能で、その結果、様々な顧客の要望に対し対応できる紙葉類処理装置を提供する。
【解決手段】有価証券などの紙葉類を1枚づつ取出して搬送し、この搬送される紙葉類に対し真偽や種類などの判別を行ない、この判別結果に基づいて各紙葉類の枚数を計数する紙葉類鑑査装置などの紙葉類処理装置において、鑑査性能を優先する動作モードが設定された場合、紙葉類の取出速度および搬送速度のうち少なくともいずれか一方を低下させるとともに鑑査性能を向上させ、処理高を優先する動作モードが設定された場合、紙葉類の取出速度および搬送速度のうち少なくともいずれか一方を向上させるとともに鑑査性能を低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、有価証券などの紙葉類を1枚づつ取出して搬送し、この搬送される紙葉類に対し真偽や種類などの判別を行ない、この判別結果に基づいて各紙葉類の枚数を計数する紙葉類鑑査装置などの紙葉類処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の紙葉類処理装置にあっては、紙葉類の単位時間当たりの処理高を向上させるためには、紙葉類の取出速度および搬送速度を向上させる必要がある。さらに、紙葉類の取出速度および搬送速度を向上させるためには、紙葉類の鑑査に使用するセンサ類の解像度を低下させたり、処理するデータの量を減らしたりするなどの対応が必要である。
【特許文献1】特開平2−309489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
紙葉類の真偽や種類などの判別を行なう鑑査部の機能から見ると、紙葉類の搬送速度を向上することはセンサ類の読取解像度を落とすことにつながり、また、紙葉類の取出速度を向上することは鑑査部の鑑査判定処理時間を短縮することに直結する。すなわち、これは、処理高を向上させるためには鑑査性能を低下させる必要があることを示している。これは、処理高を犠牲にしてでも高い鑑査性能を求める顧客の要求には応えることができない。
【0004】
そこで、本発明は、顧客の要求に応じて紙葉類の取出速度、搬送速度、鑑査性能をトレードオフすることが可能で、その結果、様々な顧客の要望に対し対応できる紙葉類処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の紙葉類処理装置は、紙葉類を1枚づつ取出す取出手段と、この取出手段により取出された紙葉類を1枚づつ搬送する搬送手段と、この搬送手段により搬送される紙葉類に対し真偽や種類などの判別を行なう鑑査手段と、少なくとも鑑査性能を優先する第1の動作モードおよび処理高を優先する第2の動作モードを有し、これら第1、第2の動作モードを選択的に設定する動作モード設定手段と、この動作モード設定手段により前記第1の動作モードが設定された場合、前記取出手段の取出速度および前記搬送手段の搬送速度のうち少なくともいずれか一方を低下させるとともに前記鑑査手段の鑑査性能を向上させるよう制御し、前記第2の動作モードが設定された場合、前記取出手段の取出速度および前記搬送手段の搬送速度のうち少なくともいずれか一方を向上させるとともに前記鑑査手段の鑑査性能を低下させるよう制御する制御手段とを具備している。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、顧客の要求に応じて紙葉類の取出速度、搬送速度、鑑査性能をトレードオフすることが可能で、その結果、様々な顧客の要望に対し対応できる紙葉類処理装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態に係る紙葉類鑑査装置などの紙葉類処理装置の構成を概略的に示すものである。この紙葉類処理装置は、後述する動作モードを選択的に設定したり、各種操作やデータ入力などを行なったりする操作入力装置(動作モード設定手段)11、図示しない供給部から供給される有価証券などの紙葉類Pを1枚づつ取出す取出手段としての取出機構部12、取出機構部12を制御する取出手段としての取出制御部13、取出機構部12により取出された紙葉類Pを1枚づつ搬送する搬送手段としての搬送機構部14、搬送機構部14を制御する搬送手段としての搬送制御部15、搬送機構部14により搬送される紙葉類Pから鑑査データを取得して入力する鑑査手段としての鑑査データ入力部16、鑑査データ入力部16により入力された鑑査データに基づき紙葉類Pの真偽や種類などの判別を行なう鑑査手段としての鑑査処理部17、および、これら全体の制御を司る主制御部(制御手段)18から構成されている。
【0008】
ここに、取出機構部12は、紙葉類Pを1枚づつ取出す取出ローラ12aを有し、搬送機構部14は、紙葉類Pを1枚づつ挟持搬送する複数の搬送ローラ14aおよび搬送ベルト14bを有し、鑑査データ入力部16は、搬送される紙葉類Pから鑑査データを光学的および磁気的に取得するための複数のセンサ16aを有している。
【0009】
図2〜図4は連続して取出し搬送される紙葉類Pを順次鑑査処理するタイミングを表したものである。図2は、鑑査性能を優先する第1の動作モードの場合のタイミング例であり、紙葉類1が鑑査データ入力部16のセンサ16aを通過する過程でその鑑査データの取得を行ない、次の紙葉類2がセンサ16aに到達するまでの時間を紙葉類1のデータ処理(鑑査判定処理)に費やしている。特に、この紙葉類1から紙葉類2が到達するまでの時間を長く取ることにより、充分なデータ処理時間を確保している。
【0010】
ここで、本装置の顧客が鑑査性能よりも処理高を優先する設定を希望する場合、操作入力装置11を用いて、その動作モード(第2の動作モードとする)を設定することで、主制御部18へ通知する。第2の動作モードの設定を受けた主制御部18は、当該設定に合わせて取出制御部13に対して紙葉類Pの取出サイクルをアップすることを要求する。このときの状態を示すタイミングが図3である。図3から明らかなように、紙葉類Pの搬送速度には変化なく(紙葉類Pの通過時間が変わっていないことがそれを表している)、紙葉類Pが鑑査データ入力部16のセンサ16a部へ進入する間隔が短くなっている。
【0011】
一方、主制御部18は、取出制御部13に取出サイクルのアップ指示を出すのと同時に、鑑査処理部17に対してもデータ処理内容の変更を要求する。図3から明らかなように、各紙葉類に対するデータ処理時間が図2と比較して短くならざるを得ないことがわかる。これは、たとえば、鑑査処理部17における複数の鑑査項目うちあらかじめ定められた数の鑑査項目を削るなどして、鑑査性能を低下させることによりデータ処理量を減らすことによって実現されるものである。
以上のような処理を行なうことにより、紙葉類Pの鑑査性能を押さえる(低下させる)ことの見返りとして、紙葉類Pの処理高を高めるシステムの実現が可能となる。
【0012】
次に、上記説明では、紙葉類Pの取出サイクルを速めることで処理高の向上を実現しているが、これに紙葉類Pの搬送速度の変更を加えることによって、さらなる処理高の向上を実現することができる。
【0013】
すなわち、本装置の顧客が鑑査性能よりも更に処理高を優先する設定を希望する場合、操作入力装置11を用いて、その動作モード(第3の動作モードとする)を設定することで、主制御部18へ通知する。第3の動作モードの設定を受けた主制御部18は、当該設定に合わせて取出制御部13に対して紙葉類Pの取出サイクルを更にアップすることを要求するとともに、搬送制御部15に対して紙葉類Pの搬送速度のアップを合わせて要求する。このときの状態を示すタイミングが図4である。
【0014】
図4から明らかなように、図3と比較するとデータ処理時間は変わらないが、紙葉類Pの搬送速度のアップにより紙葉類Pが鑑査データ入力部16のセンサ16aを通り抜ける時間(すなわち、鑑査データを取得する時間)が減少している。これにより、紙葉類Pの取出サイクルを図2の場合よりも更に短くすることを実現しており、さらなる処理高アップを実現することができる。
【0015】
一方、主制御部18は、鑑査処理部17に対して取出サイクルのアップと搬送速度のアップを通知する。ここで、鑑査処理部17は、図2の状態(鑑査システムとしてベストパフォーマンスの状態とする)が鑑査データの入力としての限界であるとすれば、それ以上の搬送速度アップに対しては鑑査データの取込サンプリング周期を低下させて対応することになる。すなわち、主制御部18から通知を受けた鑑査処理部17は、鑑査データ入力部16に対して鑑査データの取込サンプリング周期を下げることを要求する。
以上のような処理を行なうことにより、紙葉類Pの鑑査性能をさらに低下させることで、その見返りとして鑑査性能の向上を実現することが可能となる。
【0016】
以下、図5〜図7に示すフローチャートを参照して全体的な動作を詳細に説明する。
まず、操作者は、操作入力装置11を用いて、所望の動作モードを設定することで、主制御部18へ通知する(ステップS1)。たとえば、鑑査性能を優先する第1の動作モードが設定された場合、第1の動作モードの設定を受けた主制御部18は、当該設定に合わせて取出制御部13に対し紙葉類Pの取出間隔をあらかじめ定められた最大値まで広げるように指示する(ステップS2)。この指示を受けた取出制御部13は、取出機構部12(取出ローラ12a)の取出間隔があらかじめ定められた最大値になるように、動作パラメータを設定する(ステップS3)。
【0017】
次に、主制御部18は、取出制御部13および取出機構部12の準備が完了したか否かをチェックし(ステップS4)、準備が完了した場合、鑑査処理部17に対してデータ処理時間をあらかじめ定められた最大値まで延長するように指示する(ステップS5)。この指示を受けた鑑査処理部17は、たとえば、データ処理時間を有効に利用するため、鑑査項目の増加やデータ処理の解像度を上げるように、処理パラメータを設定する(ステップS6)。
【0018】
次に、主制御部18は、鑑査処理部17および鑑査データ入力部16の準備が完了したか否かをチェックし(ステップS7)、準備が完了した場合、本装置の第1の動作モードによる運転を開始する(ステップS8)。
【0019】
一方、ステップS1において、たとえば、鑑査性能よりも処理高を優先する第2の動作モードが設定された場合、第2の動作モードの設定を受けた主制御部18は、当該設定に合わせて取出制御部13に対し紙葉類Pの取出間隔をあらかじめ定められた値まで短縮するように指示する(ステップS11)。この指示を受けた取出制御部13は、取出機構部12(取出ローラ12a)の取出間隔があらかじめ定められた値になるように、動作パラメータを設定する(ステップS12)。
【0020】
次に、主制御部18は、取出制御部13および取出機構部12の準備が完了したか否かをチェックし(ステップS13)、準備が完了した場合、鑑査処理部17に対してデータ処理時間をあらかじめ定められた値まで短縮するように指示する(ステップS14)。この指示を受けた鑑査処理部17は、たとえば、データ処理時間を短縮するため、鑑査項目の削減やデータ処理の解像度を下げるように、処理パラメータを設定する(ステップS15)。
【0021】
次に、主制御部18は、鑑査処理部17および鑑査データ入力部16の準備が完了したか否かをチェックし(ステップS16)、準備が完了した場合、本装置の第2の動作モードによる運転を開始する(ステップS17)。
【0022】
また、ステップS1において、たとえば、鑑査性能よりも更に処理高を優先する第3の動作モードが設定された場合、第3の動作モードの設定を受けた主制御部18は、当該設定に合わせて取出制御部13に対し紙葉類Pの取出間隔をあらかじめ定められた値まで短縮するように指示する(ステップS21)。この指示を受けた取出制御部13は、取出機構部12(取出ローラ12a)の取出間隔があらかじめ定められた値になるように、動作パラメータを設定する(ステップS22)。
【0023】
次に、主制御部18は、取出制御部13および取出機構部12の準備が完了したか否かをチェックし(ステップS23)、準備が完了した場合、搬送制御部15に対して紙葉類Pの搬送速度をあらかじめ定められた値までアップするように指示する(ステップS24)。この指示を受けた搬送制御部15は、搬送機構部14(搬送ローラ14a、搬送ベルト14b)の搬送速度があらかじめ定められた値になるように、動作パラメータを設定する(ステップS25)。
【0024】
次に、主制御部18は、搬送制御部15および搬送機構部14の準備が完了したか否かをチェックし(ステップS26)、準備が完了した場合、鑑査処理部17に対して鑑査データの取込サンプリング周期をあらかじめ定められた値まで短縮するように指示する(ステップS27)。この指示を受けた鑑査処理部17は、たとえば、鑑査データ入力部16におけるセンサ駆動速度やA/Dコンバータの変換タイミングなどがあらかじめ定められた値になるように、動作パラメータを設定する(ステップS28)。
【0025】
次に、主制御部18は、鑑査処理部17および鑑査データ入力部16の準備が完了したか否かをチェックし(ステップS29)、準備が完了した場合、本装置の第3の動作モードによる運転を開始する(ステップS30)。
【0026】
なお、以上の説明は鑑査性能の向上のためのトレードオフとして、鑑査性能を押さえるものとして説明を行なったが、逆説的に言えば次のように本発明を捉えることもまた可能である。
たとえば、有価証券鑑査装置を例として、その有価証券鑑査装置には有価証券の真偽を判別する真偽判別装置と、有価証券の新旧を判別する正損判別装置の2種が実装されていたとする。ここでもし、検査対象である有価証券が全て本物であることが判っているならば、真偽判別を新たに実行することは無益である。そこで、真偽判別装置を停止し、正損判別装置だけを動作させることにより、データ処理時間を短縮する。そして、そのトレードオフとして処理高の向上を実現することも可能である。同様に、真偽判別だけが要求され、新旧判別は無用である場合に、正損判別を停止して短縮されるデータ処理時間の見返りとして、処理高の向上を実現することが可能となる。
【0027】
以上説明したように、上記実施の形態によれば、あらかじめ定められた装置の動作モード設定に応じて鑑査性能と処理高性能をベストな組合わせとして実現することができる。すなわち、顧客は自らの業務状況に応じてベストな動作モードを設定し、より自らの要求に沿った稼動が可能となる。その結果、様々な顧客の要望へ対応できるフレキシブルなシステムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係る紙葉類鑑査装置などの紙葉類処理装置の構成を概略的に示す模式図。
【図2】鑑査性能を優先した第1の動作モードにおいて、連続して取出し搬送される紙葉類を順次鑑査処理するタイミングを表わすタイミング図。
【図3】処理高を優先した第2の動作モードにおいて、連続して取出し搬送される紙葉類を順次鑑査処理するタイミングを表わすタイミング図。
【図4】さらに処理高を優先した第3の動作モードにおいて、連続して取出し搬送される紙葉類を順次鑑査処理するタイミングを表わすタイミング図。
【図5】鑑査性能を優先する第1の動作モードが設定された場合の動作を説明するためのフローチャート。
【図6】鑑査性能よりも処理高を優先する第2の動作モードが設定された場合の動作を説明するためのフローチャート。
【図7】鑑査性能よりも更に処理高を優先する第3の動作モードが設定された場合の動作を説明するためのフローチャート。
【符号の説明】
【0029】
11…操作入力装置(動作モード設定手段)、12…取出機構部(取出手段)、13…取出制御部(取出手段)、14…搬送機構部(搬送手段)、15…搬送制御部(搬送手段)、16…鑑査データ入力部(鑑査手段)、17…鑑査処理部(鑑査手段)、18…主制御部(制御手段)、P…紙葉類(有価証券)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙葉類を1枚づつ取出す取出手段と、
この取出手段により取出された紙葉類を1枚づつ搬送する搬送手段と、
この搬送手段により搬送される紙葉類に対し真偽や種類などの判別を行なう鑑査手段と、
少なくとも鑑査性能を優先する第1の動作モードおよび処理高を優先する第2の動作モードを有し、これら第1、第2の動作モードを選択的に設定する動作モード設定手段と、
この動作モード設定手段により前記第1の動作モードが設定された場合、前記取出手段の取出速度および前記搬送手段の搬送速度のうち少なくともいずれか一方を低下させるとともに前記鑑査手段の鑑査性能を向上させるよう制御し、前記第2の動作モードが設定された場合、前記取出手段の取出速度および前記搬送手段の搬送速度のうち少なくともいずれか一方を向上させるとともに前記鑑査手段の鑑査性能を低下させるよう制御する制御手段と、
を具備したことを特徴とする紙葉類処理装置。
【請求項2】
前記第2の動作モードは、処理高を高める第3の動作モードと、この第3の動作モードよりも更に処理高を高める第4の動作モードとからなり、
前記制御手段は、前記動作モード設定手段により前記第3の動作モードが設定された場合、前記取出手段の取出速度を向上させるとともに前記鑑査手段の鑑査性能を低下させるよう制御し、前記第4の動作モードが設定された場合、前記取出手段の取出速度および前記搬送手段の搬送速度をそれぞれ向上させるとともに前記鑑査手段の鑑査性能を低下させるよう制御することを特徴とする請求項1記載の紙葉類処理装置。
【請求項3】
前記制御手段が行なう前記鑑査手段の鑑査性能を低下させる制御は、複数ある鑑査項目のうちあらかじめ定められた鑑査項目を削ったり鑑査を行なうための鑑査データを取込むサンプリング周期を低下させたりすることで鑑査性能を低下させることを特徴とする請求項1記載の紙葉類処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−99277(P2006−99277A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−282519(P2004−282519)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】