紙葉類判別装置
【課題】
複数の磁気センサを用いることによって、紙幣に印刷された磁性体の特性を検出し、紙幣類の真偽判定能力を向上させる。
【解決手段】
紙葉1に含まれる磁性体106の透磁率を検出する第1のセンサ15と、紙葉に含まれる磁性体の残留磁化を検出する第2のセンサ16を有し、第1のセンサ及び第2のセンサにより検出された信号を紙葉の判別に用いる。
複数の磁気センサを用いることによって、紙幣に印刷された磁性体の特性を検出し、紙幣類の真偽判定能力を向上させる。
【解決手段】
紙葉1に含まれる磁性体106の透磁率を検出する第1のセンサ15と、紙葉に含まれる磁性体の残留磁化を検出する第2のセンサ16を有し、第1のセンサ及び第2のセンサにより検出された信号を紙葉の判別に用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙葉類判別装置に係り、特に紙幣等のように磁性インキを用いて印刷された紙葉の真偽を磁気的に検知する紙幣鑑別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金融機関で利用されている現金自動取引装置(ATM)等の紙幣取扱装置には、紙幣の真偽を判別する鑑別機能が設けられている。紙幣の真偽を判別するためには、通常、磁気センサや光学センサを用いて紙幣のパターンを検知し、その検知されたパターンと基準パターンとを比較することによって紙幣の真偽の判別している。
【0003】
磁気センサを用いて印刷媒体に印刷された磁気インクを検出するものとして、例えば、特開2000−105847号公報(特許文献1)には、印刷媒体の磁性インクの量に応じた磁界を正確に検出できる磁気インク感知用磁気センサが開示されている。
【0004】
また、特開2000−48237号公報(特許文献2)には、仕様変更に容易に対応可能にしながら仕様に応じたポイントでの特徴量検出を行えるようにして、低コスト化および判定処理時間の短縮を図るために、センサ2を、特徴量情報を検出する複数の特徴量検出ヘッド11から構成し、複数のヘッド取付穴に特徴量検出ヘッド11を着脱自在に取り付ける紙葉類判別装置が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−105847号公報
【特許文献2】特開2000−48237号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、紙幣の偽造を防止するために、紙幣の印刷に使用する磁性インキの特性を微妙に類似させたり、或いは多種類の磁性インキを使用する場合がある。このような場合、紙幣の印刷に用いられた磁性体の特徴を単一の磁気センサで正確詳細に検出することは難しい。
【0007】
本発明の目的は、複雑な磁気特性を持つ紙葉類の真偽判別を行うことにある。とりわけ、複数の磁気センサを用いて、紙葉に印刷された磁性体の異なる磁気特性を検出する真偽判別装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る紙葉類判別装置は、紙葉に含まれる磁性体の透磁率を検出する第1のセンサと、紙葉に含まれる磁性体の残留磁化を検出する第2のセンサを有し、第1のセンサ及び第2のセンサにより検出された信号を紙葉の判別に用いる紙葉類判別装置である。
この紙葉類判別装置は、好ましくは、紙葉に使用された磁性体の残留磁化に関する情報と、紙葉に使用された透磁率に関する判定情報を予め記憶する記憶部と、第1又は第2のセンサにより検出された信号の情報と記憶部に記憶された判定情報とを照合する処理部と、を有し、処理部における照合の結果に応じて紙葉の判別を行う。
また、一例では、処理部における照合により、紙幣の金種及び真偽の判定を行う。
好ましい例では、第1のセンサは、搬送される紙葉の全体を覆うライン型磁気センサであり、第2のセンサは、搬送される紙葉から部分的に検出信号を得るように配置される。
一例では、紙葉の搬送方向に対して直角方向であって、第2のセンサの横に紙葉を搬送するための搬送ローラを配置する。
また、一例では、少なくとも第1又は第2のセンサの一方は、不感帯を有する磁気センサの配列である。
また、一例では、第1のセンサは、紙葉に含まれる磁性体を励磁する励磁部を有する。
【0009】
本発明では、処理部により処理された紙葉を分別して保管する複数の保管部と、処理部の処理結果に従って紙葉を、複数の保管部のいずれかに搬送するために搬送路を切り替える切替機構とを有する紙葉類判別装置を用いた、例えばATMのような紙葉類取扱装置として把握される。
【0010】
本発明はまた、紙葉類の判別方法としても把握できる。即ち、第1のセンサにより紙葉に含まれる磁性体の透磁率を検出するステップと、第2のセンサにより紙葉に含まれる磁性体の残留磁化を検出するステップと、紙葉に使用された磁性体の残留磁化に関する情報と、紙葉に使用された透磁率に関する判定情報を予め記憶部に記憶するステップと、第1又は第2のセンサにより検出された信号の情報と記憶部に記憶された判定情報とを照合するステップと、を有し、照合の結果に応じて紙葉の判別を行う紙葉類の判別方法である。
一例では、第1のセンサ又は第2のセンサは、紙葉の同一場所における残留磁化又は透磁率を検出する。
また、好ましくは、第1のセンサ又は第2のセンサによって、紙葉における磁性体の位置、及び磁性体の濃度に関する情報を得て、位置及び濃度の情報を判別に用いる。
更に、好ましい例では、第1のセンサ又は第2のセンサによって、磁性体を含む磁性インクにより印刷された紙葉の符号部から得た信号と、紙葉の模様部から得た信号とを判別に用いる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数の磁気センサにより紙葉に印刷された複数種の磁気的特性を検出することができ、これによって紙葉類の真偽判定能力を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施例について説明する。
一般に外部から与える磁界(Hex)がない状態での磁束(磁化)を残留磁化(Br)と言い、外部磁界HexとそのHexがある状態での磁束(B1)の比(B1/Hex)を透磁率と言う。紙幣に外部磁界を与えるため磁石で励磁し、残留磁化Brと透磁率を磁気センサで検出することで磁性体の種類を見分けようとするものである。
【0013】
本実施例においては、磁気検出特性の異なる複数の磁気センサとして、残留磁化検出用のセンサと透磁率検出用センサを使用し、紙幣判別装置に紙幣を1回搬送するだけで磁気特性の情報を取得するようにするものである。紙幣の搬送回数が1回で済ませることにより紙幣の判定能力の向上を図る。
【0014】
図1は一実施例における紙幣判別装置の構成図である。
紙幣1を搬送するための搬送路10には、複数組のローラ12、13が配置される。ローラ13は紙幣の搬送ローラであり、ローラ12の対向する位置には、紙幣1に印刷された磁性特性を検出する磁気センサ15,16が配置される。ここで、磁気センサ15は透磁率検出用のセンサであり、磁気センサ16は残留磁気検出用のセンサである。磁気センサ15には紙幣1内の磁性体106を励磁するための磁石151が内蔵されており、磁気センサ16とは異なる磁気特性を検出する。磁性体106はセキュリティスレッド用として利用される。
【0015】
ローラ12、13の材質としては、例えばゴムやスポンジ等の弾力のある材料が使用され、このローラ12は紙幣1を磁気センサ15,16に密着或いはそれに近い状態になるように圧接している。勿論、紙幣1とローラ12との間は密接状態でなくて、紙幣1が通過する程度の隙間が確保される構成としてもよい。
【0016】
紙幣1と磁気センサ16を密着させると両者の距離が一定に保たれ、紙幣1の通過位置のばらつきによるセンサ出力の変動を抑えることができる。他方、ローラ12と磁気センサ16の間に隙間をあけると、紙幣1と磁気センサ16との衝突が緩和され、機械的衝撃によるセンサのノイズが緩和される。
【0017】
尚、本実施例では磁石151を用いているが、これに限らず、磁性体106を励磁する他の手段として、励磁用コイルを用いてもよい。磁石を用いると構造が簡単で安価に磁気センサが構成できる。一方、励磁コイルを用いると励磁磁界の強さを制御することができ、取り扱う紙幣の検出に適した励磁磁界を設定することができる。
【0018】
磁気センサ15,16によって得られた検出信号は、それぞれ増幅回路171,172で増幅され、制御装置18へ送られる。制御装置18は、実際的には紙幣鑑別装置を構成する制御用の印刷配線基板である。
制御装置18は、マルチプレクサ181、AD変換器182、記憶部183、及び処理部184を有する。マルチプレクサ181は、処理部184からの切り替え信号に基づいて増幅回路171又は172のいずれかの信号を選択する。AD変換器182は受信した、アナログ状態の検出信号をディジタル信号に変換する。記憶部183はフラッシュメモリのような半導体メモリ又はハードディスクのような記憶装置であり、ここには紙幣の真偽判別に使用される基準情報としての判定情報を格納する。格納される判定情報は、透磁率用判定情報1831及び残留磁化用判定情報1832が含まれる(図2参照)。判定情報は紙幣の金種毎に記憶部183内に用意されることは勿論である。
処理部184はプロセッサを有し、AD変換器182から送られる磁気センサ15又は16の磁気情報と記憶部183に格納されている判定情報1831又は1832とを比較し、その比較の結果、判定結果19を出力する。判定結果19は、紙幣の金種に関する情報及び真偽の情報を含む。
【0019】
図2に、図1に示した紙幣判別装置の機能ブロック図を示す。
処理部184は、磁気センサ15得られた磁気情報と、記憶部183に格納されている透磁率用判定情報1831を比較して紙幣の透磁率の特徴を判定するプログラムの実行処理1841、及び磁気センサ16から得られた磁気情報と残留磁気用判定情報1832とを比較して残留磁化の特徴を判定するプログラムの実行処理1842、及びこれら2種の実行処理1841,1842の結果を受け、紙幣の金種及び真偽を判定するプログラムの実行処理1849を行う。
尚、上記実行処理を行うための各プログラムは、記憶部183又は他の記憶器に格納されており、それらの実行時に処理部184にロードされて実行される。
【0020】
図3は、紙幣判別装置における磁気センサの配置関係を示す平面図である。
磁気センサ15、16はいずれもライン型の検知器であり、それぞれ紙幣1の搬送方向Aと直角方向に配置される。透磁率検出用の磁気センサ15の長さは紙幣の長さLよりも大きく、紙幣1の全体からの磁気情報を採取できる。
一方、残留磁化検出用の磁気センサ16は紙幣の長さよりも短く、磁気検出範囲Sをカバーしている。これは、磁気センサ16は磁性体106を検知することを目的として配置されるものであり、紙幣の磁性体106が存在していそうな所定の範囲Sをカバーしていればよいからである。
【0021】
図3に示す磁気センサの配置は、図1を単に平面図として表したものではない。図3の例は、紙幣判別装置におけるローラの実装効率の向上、更には他の部品の実装可能性に配慮している。即ち図1の例では、搬送路10において搬送ローラ13の間に磁気センサ16及び対向ローラ12を配置しているが、実際には、紙幣の金種及び真偽判別のためには磁気センサの他に複数の光学センサが必要である。しかし搬送ローラ13間の限られた場所に磁気センサ及び光学センサを配置するには、これらのセンサの実装スペースを確保することが必要であるが、現実には大変困難となっている。
【0022】
そこで、図3の例では、搬送ローラ13´は磁気センサ16の延長上に配置されている。図1に照らして言えば、磁気センサ16及び対向ローラ12は、右側の搬送ローラ13の内側(図1の紙面と直角方向であって搬送ローラ13の奥側)に配置された形である。このように、図1から磁気センサ16及び対向ローラ12が削除でき、その場所は空きスペースとなるので、そこには紙幣を判別するための光学センサ等の他の部品を実装することができる。
尚、図3の例では、搬送ローラ13´の対となるローラ及び対向ローラ12は紙幣1の裏側に配置されていて見えない。また、光学センサは本実施例の趣旨とは直接的には関係しないと思われるので、その図示を省略した。
【0023】
次に、図4〜図6を参照して磁気センサ15,16で透磁率及び残留磁化を検出する理由及び原理について説明する。
図4は磁性体のB−Hヒステリシス曲線の例である。図4の横軸は磁性体に外部から印加される磁界の強さを示し、縦軸は磁性体が持つ磁束密度を示す。外部磁界Hexが印加されていないときの磁束密度をBrとする。また、外部磁界Hexが印加されているときの磁束密度をB1とする。
【0024】
このヒステリシス曲線は磁性体の材料や配合等によって形が異なり、例えば図5に示す磁性体や図6に示す磁性体等がある。図5と図6の磁性体を判別する方法として、
図5のBr<図6のBr
同じHexを印加した場合、図5のB1>図6のB1
図5のB1−Br>図6のB1−Br
がある。Hexを複数設定できるように構成すれば、B1は複数点得られ、より詳細なヒステリシス曲線の特徴が得られる。
【0025】
本実施例では上記の判定を行うために、2種類の磁気センサを用い、磁気センサ16でBrを検出し、磁気センサ15でB1を検出する。
磁性体106によって印刷されている紙幣1の磁気センサによる検出信号の波形を図7(a)〜(d)に示す。(a)から(d)の横軸は磁性体の印刷位置、縦軸は磁気センサの出力電圧を示す。
(a)は図5に示す磁性体を印刷した紙幣を磁気センサ16で検出したB1の値である。(b)は図5に示す磁性体を印刷した紙幣を磁気センサ15で検出したBrの値である。(c)は図6に示す磁性体を印刷した紙幣を磁気センサ16で検出したB1の値である。(d)は図6に示す磁性体を印刷した紙幣を磁気センサ15で検出したBrの値である。
【0026】
磁気センサ15,16による検知の結果から、(a)と(c)は類似した波形になるように磁性体を印刷したものであると判別される。しかし、図5でBrの値は小さいため(b)の値は大きく、図6でBrの値は大きいため(d)の値は大きいので、紙幣の印刷に使用された磁性体は異なる可能性がある。
【0027】
もし、Brを読み取る磁気センサ16だけを搭載した紙幣判別装置では、(a)と(c)の波形が類似しているため磁性体の材料を明確に判定することは難しい。しかし、磁気センサ15の検出信号を用いれば、(b)と(d)の違いから図5と図6の磁性体を区別することができる。
【0028】
(b)と(d)が類似した波形になるように磁性体の印刷濃度を調整してある場合には、(a)と(c)の波形が異なり図5と図6の磁性体が区別できる。
【0029】
次に別の観点から、図11を参照して、磁気センサ15,16による検出信号に基づく磁性体の違いの判別法について説明する。
図11は、紙幣の磁気センサの検出出力信号と判定パターンの関係を示す。図4、図5、図6に示す磁気特性を持つ磁性体106を含有する磁性インクで、それぞれS4、S5、S6の部分が印刷された紙幣1を磁気センサ15(B1検出用)及び磁気センサ16(Br検出用)で検出するものとする。磁気センサ15,16の検出信号は、(a-1)、(b-1)に示すような波形になる。
【0030】
検出パターンに関しては、B1は(b-1)に示すように、図4、図5、図6でほぼ同じ高さとなるため、磁気センサ15の出力波形はほぼ同じ高さで全て「1」のパターンとなる。これに対してBrは(b-2)に示すように、図4、図5、図6でそれぞれでの大きさが異なるので、磁気センサ16の出力波形の大きさは異なる。即ち、図4ではB1のほぼ半分が「0」のパターンとなり、図5では殆んどが「0」のパターンとなり、図6ではB1とほぼ同じ出力となる。このため、パターンは(b-2)に示すように「0.5」になる部分と「0」になる部分とを含むパターンとなる。
【0031】
そこで、磁気センサ15と磁気センサ16の検出パターンを比較することで、図4、図5、図6の内いずれの磁性インクを使っているかが判定できる。そこで、例えば以下のように4つの判定基準を設定して紙幣の磁性インクを判別することができる。
(1)磁気センサ15の検出出力のパターンが「0」の場合、磁性インクがない。
(2)磁気センサ15の検出出力のパターンが「1」の場合で、かつ磁気センサ16と磁気センサ15のパターンが「0」の場合は、図5の磁性インクが含まれる。
(3)磁気センサ15の検出出力のパターンが「1」の場合で、かつ磁気センサ16と磁気センサ15のパターンが「0.5」の場合は、図4の磁性インクが含まれる。
(4)磁気センサ15の検出出力のパターンが「1」の場合で、かつ磁気センサ16と磁気センサ15のパターンが「1」の場合は、図6の磁性インクが含まれる。
【0032】
そこで、例えば1万円札に使用された磁性インク106は、図6の磁気特性を持つとする。1万円札の特定の場所における透磁率と残留磁化のパターンは予め分かっているので、例えばその既知のパターンとして,上記(4)によるパターンを予め記憶部183に記憶しておく。そして、実際に鑑別対象となった一万円札から得られた磁気センサ15,16の検出パターンと、予め記憶部183に記憶されていたパターンとを処理部184で比較することにより、磁性インクが適合しているか否かを判別することができる。
【0033】
このように、本実施例の紙幣判別装置においては、磁気センサ15,16で紙幣の透磁率及び残留磁化を検出することで、紙幣の磁性体の印刷濃度又は磁性体の材料のいずれか一方でも正常な紙幣と整合しなければ、偽券と判断される。正券と判断されるためには、磁性体の印刷濃度及び磁性体の材料の両方が正常であることが必要となる。このため、紙幣の真偽判定能力を一層向上させることができ、紙幣の偽造がより困難になる。
【0034】
次に、図8を参照して紙幣判別装置を適用した紙幣取扱装置の例について説明する。図8は模式的に示しているが、この紙幣取扱装置は、例えばATMであってもよいし、或いは単体の紙幣鑑別装置でもよい。
図1に示したような紙幣判別装置100には、搬送路81を介して搬送路切替機構82が接続される。紙幣判別装置100からの判定結果19に従って切替機構82は搬送路811,812,813を切り替え制御する。これにより紙幣1は収納庫86,87,88のいずれかに案内されて収納される。また、判定結果84は表示部85に送られて表示される。表示部85は例えばATMの操作画面であり、単体の装置の場合には、鑑別結果を表示する表示器である。
【0035】
紙幣の判定結果19に応じた紙幣1の切り替え制御の一例として、例えば、収納庫86には正常と判定された紙幣を収納し、収納庫87には磁気センサ15、16の両方で異常と判定された紙幣を収納し、収納庫88には磁気センサ16と磁気センサ15のいずれか一方センサで正常と判定され、他方センサでは異常と判定された紙幣を収納するように制御する。
【0036】
このように切り替え制御することで、収納庫86には正常と判定された紙幣を収納し、収納庫87には取り扱い対象外の紙幣、即ち明らかに異常と判定される紙幣を収納し、収納庫88には偽造と疑わしい紙幣を収納するように、紙幣の判定結果に応じてそれぞれ分類できる。ATMの場合、収納庫87へ収納することを省略し、明らかに異常と判別された紙幣を入金口へ返却するように制御してもよい。
【0037】
尚、実際的には、紙幣の判別には磁気センサだけでなく、光学センサによる検出信号も用いて、紙幣の金種及び真偽を判別することが多い。然し、その場合にでも、上述したように、複数種類の磁気センサにより検知された磁気特性に基づく判別結果を1つの因子として紙幣を分類できることが理解される。
【0038】
次に、図9及び図10を参照して他の実勢例について説明する。
図9は磁気センサによる有価証券の検出の様子を示し、図10は磁気センサの検出出力信号を示す。
図示は、紙葉としての例として有価証券900を示す。これは、磁性体が離散的な符号として印刷されている部分(符号部)901と、それが連続的な模様として印刷されている部分(模様部)902を有する。有価証券900は矢印X方向へ搬送され、磁気センサ95、96により磁気特性が検出される。
【0039】
符号部901は主として有価証券の種類を判定するためのものであり、符号の並び方に有価証券の情報が含まれており、印刷の濃淡には情報が含まれていない。また、模様部902は磁性体によって印刷された図柄、模様等であり、印刷の濃淡に情報が含まれている。尚、符号部901はセキュリティスレッドの検出として用いることもできる。
【0040】
磁気センサ95は符号部901を読み取るためのセンサであり、符号部901を必ず検出するように検出領域が広く取ってある。磁気センサ96は模様部902を読み取るためのセンサであり、模様部902の印刷の濃淡を詳細に出力するように、例えば小さな磁気ヘッドを複数並べてある。つまり磁気センサ96は不感帯を有していることになる。
【0041】
この有価証券900を磁気センサ95で走査されると、図10(a)のような出力信号が得られ、磁気センサ96で走査されると図10(b)のような出力信号が得られる。ここで図10(a)、(b)の横軸は走査方向を示し、縦軸はセンサ出力電圧を示す。
【0042】
図10(a)に示すように、磁気センサ95では符号部901の出力の凹凸が検出できるが、模様部902の出力の凹凸は小さい。これは磁気センサ95の検出領域が広いため模様部902の微細な濃淡が平均化されてしまうためである。一方、(b)に示すように、磁気センサ96には間隔が空けてあるため、有価証券900が方向Xに対して斜めに搬送されると、符号部901の出力信号の一部が欠けてしまう。
【0043】
このように、有価証券900の全体を隙間無く覆い、符号部901を見落とさない磁気センサ95と、模様の濃淡を詳細に出力するセンサ205の両方を用いると符号部と模様部の両方が詳細に読み取ることができる。
【0044】
この実施例において、磁気センサ95として例えば図1の残留磁気検出用の磁気センサ16を使用し、磁気センサ96として例えば透磁率検出用の磁気センサ15を使用することができる。また、その逆に、磁気センサ95,96として、図1の磁気センサ15,16を用いてもよい。いずれを適用するかは、検出すべき紙葉類の磁性体による符号部や模様部の位置等により判断して適合する配置関係を選べばよい。
【0045】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は上記実施例に限定されずにその趣旨の範囲内で種々変形して実施し得る。
例えば、図1や図3では紙幣を幅方向へ搬送する場合を前提として説明したが、紙幣をその長さ方向へ搬送する装置においては、搬送系におけるローラ等の配置関係が主に変わり、複数種の磁気センサによる検出信号を利用すると言う本実施例の基本的な趣旨は変わらない。
【0046】
また、紙幣判別装置の搬送路の実装に余裕がある場合には、図3に示すような、磁気センサ16と搬送ローラ13´の関係の配置を、図1に示す磁気センサ16の配置に適用してもよい。即ち、搬送ローラ13間に、更に図3に示す搬送ローラ13´の実装が追加された配置になる。このように搬送ローラ13´を配置することにより、紙幣の搬送が安定し、また紙幣のジャム発生を一層減らすことができる。
【0047】
また、この判別方法が適用される対象としては、上記実施例の紙幣や有価証券に限らず、広く磁性体を含む紙葉類の磁気特性の検出に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】一実施例による紙幣判別装置の構成を示す図。
【図2】一実施例における紙幣判別装置の機能ブロック図。
【図3】一実施例による紙幣判別装置における磁気センサと搬送ローラの配置関係を示す平面図。
【図4】磁性体のB−Hヒステリシス曲線の一例を示す図。
【図5】磁性体のB−Hヒステリシス曲線の一例を示す図。
【図6】磁性体のB−Hヒステリシス曲線の一例を示す図。
【図7】紙幣の磁気センサによる検出出力信号を示す図。
【図8】紙幣判別装置を適用した紙幣取扱装置の例を示す図。
【図9】磁気センサによる有価証券の検出の関係を示す図。
【図10】有価証券を磁気センサで検出した出力信号を示す図。
【図11】紙幣の磁気センサの検出出力信号と判定パターンの関係を示す図。
【符号の説明】
【0049】
1:紙幣、 10:搬送路、 12:対向ローラ、13:搬送ローラ、
15、16:磁気センサ、 106:磁性体、 18:制御装置
100:紙幣判別装置、 81:搬送路、 82:搬送路切替機構
85:表示部、 86〜88:収納庫、
900:有価証券、 901:符号部、 902:模様部
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙葉類判別装置に係り、特に紙幣等のように磁性インキを用いて印刷された紙葉の真偽を磁気的に検知する紙幣鑑別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金融機関で利用されている現金自動取引装置(ATM)等の紙幣取扱装置には、紙幣の真偽を判別する鑑別機能が設けられている。紙幣の真偽を判別するためには、通常、磁気センサや光学センサを用いて紙幣のパターンを検知し、その検知されたパターンと基準パターンとを比較することによって紙幣の真偽の判別している。
【0003】
磁気センサを用いて印刷媒体に印刷された磁気インクを検出するものとして、例えば、特開2000−105847号公報(特許文献1)には、印刷媒体の磁性インクの量に応じた磁界を正確に検出できる磁気インク感知用磁気センサが開示されている。
【0004】
また、特開2000−48237号公報(特許文献2)には、仕様変更に容易に対応可能にしながら仕様に応じたポイントでの特徴量検出を行えるようにして、低コスト化および判定処理時間の短縮を図るために、センサ2を、特徴量情報を検出する複数の特徴量検出ヘッド11から構成し、複数のヘッド取付穴に特徴量検出ヘッド11を着脱自在に取り付ける紙葉類判別装置が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−105847号公報
【特許文献2】特開2000−48237号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、紙幣の偽造を防止するために、紙幣の印刷に使用する磁性インキの特性を微妙に類似させたり、或いは多種類の磁性インキを使用する場合がある。このような場合、紙幣の印刷に用いられた磁性体の特徴を単一の磁気センサで正確詳細に検出することは難しい。
【0007】
本発明の目的は、複雑な磁気特性を持つ紙葉類の真偽判別を行うことにある。とりわけ、複数の磁気センサを用いて、紙葉に印刷された磁性体の異なる磁気特性を検出する真偽判別装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る紙葉類判別装置は、紙葉に含まれる磁性体の透磁率を検出する第1のセンサと、紙葉に含まれる磁性体の残留磁化を検出する第2のセンサを有し、第1のセンサ及び第2のセンサにより検出された信号を紙葉の判別に用いる紙葉類判別装置である。
この紙葉類判別装置は、好ましくは、紙葉に使用された磁性体の残留磁化に関する情報と、紙葉に使用された透磁率に関する判定情報を予め記憶する記憶部と、第1又は第2のセンサにより検出された信号の情報と記憶部に記憶された判定情報とを照合する処理部と、を有し、処理部における照合の結果に応じて紙葉の判別を行う。
また、一例では、処理部における照合により、紙幣の金種及び真偽の判定を行う。
好ましい例では、第1のセンサは、搬送される紙葉の全体を覆うライン型磁気センサであり、第2のセンサは、搬送される紙葉から部分的に検出信号を得るように配置される。
一例では、紙葉の搬送方向に対して直角方向であって、第2のセンサの横に紙葉を搬送するための搬送ローラを配置する。
また、一例では、少なくとも第1又は第2のセンサの一方は、不感帯を有する磁気センサの配列である。
また、一例では、第1のセンサは、紙葉に含まれる磁性体を励磁する励磁部を有する。
【0009】
本発明では、処理部により処理された紙葉を分別して保管する複数の保管部と、処理部の処理結果に従って紙葉を、複数の保管部のいずれかに搬送するために搬送路を切り替える切替機構とを有する紙葉類判別装置を用いた、例えばATMのような紙葉類取扱装置として把握される。
【0010】
本発明はまた、紙葉類の判別方法としても把握できる。即ち、第1のセンサにより紙葉に含まれる磁性体の透磁率を検出するステップと、第2のセンサにより紙葉に含まれる磁性体の残留磁化を検出するステップと、紙葉に使用された磁性体の残留磁化に関する情報と、紙葉に使用された透磁率に関する判定情報を予め記憶部に記憶するステップと、第1又は第2のセンサにより検出された信号の情報と記憶部に記憶された判定情報とを照合するステップと、を有し、照合の結果に応じて紙葉の判別を行う紙葉類の判別方法である。
一例では、第1のセンサ又は第2のセンサは、紙葉の同一場所における残留磁化又は透磁率を検出する。
また、好ましくは、第1のセンサ又は第2のセンサによって、紙葉における磁性体の位置、及び磁性体の濃度に関する情報を得て、位置及び濃度の情報を判別に用いる。
更に、好ましい例では、第1のセンサ又は第2のセンサによって、磁性体を含む磁性インクにより印刷された紙葉の符号部から得た信号と、紙葉の模様部から得た信号とを判別に用いる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数の磁気センサにより紙葉に印刷された複数種の磁気的特性を検出することができ、これによって紙葉類の真偽判定能力を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施例について説明する。
一般に外部から与える磁界(Hex)がない状態での磁束(磁化)を残留磁化(Br)と言い、外部磁界HexとそのHexがある状態での磁束(B1)の比(B1/Hex)を透磁率と言う。紙幣に外部磁界を与えるため磁石で励磁し、残留磁化Brと透磁率を磁気センサで検出することで磁性体の種類を見分けようとするものである。
【0013】
本実施例においては、磁気検出特性の異なる複数の磁気センサとして、残留磁化検出用のセンサと透磁率検出用センサを使用し、紙幣判別装置に紙幣を1回搬送するだけで磁気特性の情報を取得するようにするものである。紙幣の搬送回数が1回で済ませることにより紙幣の判定能力の向上を図る。
【0014】
図1は一実施例における紙幣判別装置の構成図である。
紙幣1を搬送するための搬送路10には、複数組のローラ12、13が配置される。ローラ13は紙幣の搬送ローラであり、ローラ12の対向する位置には、紙幣1に印刷された磁性特性を検出する磁気センサ15,16が配置される。ここで、磁気センサ15は透磁率検出用のセンサであり、磁気センサ16は残留磁気検出用のセンサである。磁気センサ15には紙幣1内の磁性体106を励磁するための磁石151が内蔵されており、磁気センサ16とは異なる磁気特性を検出する。磁性体106はセキュリティスレッド用として利用される。
【0015】
ローラ12、13の材質としては、例えばゴムやスポンジ等の弾力のある材料が使用され、このローラ12は紙幣1を磁気センサ15,16に密着或いはそれに近い状態になるように圧接している。勿論、紙幣1とローラ12との間は密接状態でなくて、紙幣1が通過する程度の隙間が確保される構成としてもよい。
【0016】
紙幣1と磁気センサ16を密着させると両者の距離が一定に保たれ、紙幣1の通過位置のばらつきによるセンサ出力の変動を抑えることができる。他方、ローラ12と磁気センサ16の間に隙間をあけると、紙幣1と磁気センサ16との衝突が緩和され、機械的衝撃によるセンサのノイズが緩和される。
【0017】
尚、本実施例では磁石151を用いているが、これに限らず、磁性体106を励磁する他の手段として、励磁用コイルを用いてもよい。磁石を用いると構造が簡単で安価に磁気センサが構成できる。一方、励磁コイルを用いると励磁磁界の強さを制御することができ、取り扱う紙幣の検出に適した励磁磁界を設定することができる。
【0018】
磁気センサ15,16によって得られた検出信号は、それぞれ増幅回路171,172で増幅され、制御装置18へ送られる。制御装置18は、実際的には紙幣鑑別装置を構成する制御用の印刷配線基板である。
制御装置18は、マルチプレクサ181、AD変換器182、記憶部183、及び処理部184を有する。マルチプレクサ181は、処理部184からの切り替え信号に基づいて増幅回路171又は172のいずれかの信号を選択する。AD変換器182は受信した、アナログ状態の検出信号をディジタル信号に変換する。記憶部183はフラッシュメモリのような半導体メモリ又はハードディスクのような記憶装置であり、ここには紙幣の真偽判別に使用される基準情報としての判定情報を格納する。格納される判定情報は、透磁率用判定情報1831及び残留磁化用判定情報1832が含まれる(図2参照)。判定情報は紙幣の金種毎に記憶部183内に用意されることは勿論である。
処理部184はプロセッサを有し、AD変換器182から送られる磁気センサ15又は16の磁気情報と記憶部183に格納されている判定情報1831又は1832とを比較し、その比較の結果、判定結果19を出力する。判定結果19は、紙幣の金種に関する情報及び真偽の情報を含む。
【0019】
図2に、図1に示した紙幣判別装置の機能ブロック図を示す。
処理部184は、磁気センサ15得られた磁気情報と、記憶部183に格納されている透磁率用判定情報1831を比較して紙幣の透磁率の特徴を判定するプログラムの実行処理1841、及び磁気センサ16から得られた磁気情報と残留磁気用判定情報1832とを比較して残留磁化の特徴を判定するプログラムの実行処理1842、及びこれら2種の実行処理1841,1842の結果を受け、紙幣の金種及び真偽を判定するプログラムの実行処理1849を行う。
尚、上記実行処理を行うための各プログラムは、記憶部183又は他の記憶器に格納されており、それらの実行時に処理部184にロードされて実行される。
【0020】
図3は、紙幣判別装置における磁気センサの配置関係を示す平面図である。
磁気センサ15、16はいずれもライン型の検知器であり、それぞれ紙幣1の搬送方向Aと直角方向に配置される。透磁率検出用の磁気センサ15の長さは紙幣の長さLよりも大きく、紙幣1の全体からの磁気情報を採取できる。
一方、残留磁化検出用の磁気センサ16は紙幣の長さよりも短く、磁気検出範囲Sをカバーしている。これは、磁気センサ16は磁性体106を検知することを目的として配置されるものであり、紙幣の磁性体106が存在していそうな所定の範囲Sをカバーしていればよいからである。
【0021】
図3に示す磁気センサの配置は、図1を単に平面図として表したものではない。図3の例は、紙幣判別装置におけるローラの実装効率の向上、更には他の部品の実装可能性に配慮している。即ち図1の例では、搬送路10において搬送ローラ13の間に磁気センサ16及び対向ローラ12を配置しているが、実際には、紙幣の金種及び真偽判別のためには磁気センサの他に複数の光学センサが必要である。しかし搬送ローラ13間の限られた場所に磁気センサ及び光学センサを配置するには、これらのセンサの実装スペースを確保することが必要であるが、現実には大変困難となっている。
【0022】
そこで、図3の例では、搬送ローラ13´は磁気センサ16の延長上に配置されている。図1に照らして言えば、磁気センサ16及び対向ローラ12は、右側の搬送ローラ13の内側(図1の紙面と直角方向であって搬送ローラ13の奥側)に配置された形である。このように、図1から磁気センサ16及び対向ローラ12が削除でき、その場所は空きスペースとなるので、そこには紙幣を判別するための光学センサ等の他の部品を実装することができる。
尚、図3の例では、搬送ローラ13´の対となるローラ及び対向ローラ12は紙幣1の裏側に配置されていて見えない。また、光学センサは本実施例の趣旨とは直接的には関係しないと思われるので、その図示を省略した。
【0023】
次に、図4〜図6を参照して磁気センサ15,16で透磁率及び残留磁化を検出する理由及び原理について説明する。
図4は磁性体のB−Hヒステリシス曲線の例である。図4の横軸は磁性体に外部から印加される磁界の強さを示し、縦軸は磁性体が持つ磁束密度を示す。外部磁界Hexが印加されていないときの磁束密度をBrとする。また、外部磁界Hexが印加されているときの磁束密度をB1とする。
【0024】
このヒステリシス曲線は磁性体の材料や配合等によって形が異なり、例えば図5に示す磁性体や図6に示す磁性体等がある。図5と図6の磁性体を判別する方法として、
図5のBr<図6のBr
同じHexを印加した場合、図5のB1>図6のB1
図5のB1−Br>図6のB1−Br
がある。Hexを複数設定できるように構成すれば、B1は複数点得られ、より詳細なヒステリシス曲線の特徴が得られる。
【0025】
本実施例では上記の判定を行うために、2種類の磁気センサを用い、磁気センサ16でBrを検出し、磁気センサ15でB1を検出する。
磁性体106によって印刷されている紙幣1の磁気センサによる検出信号の波形を図7(a)〜(d)に示す。(a)から(d)の横軸は磁性体の印刷位置、縦軸は磁気センサの出力電圧を示す。
(a)は図5に示す磁性体を印刷した紙幣を磁気センサ16で検出したB1の値である。(b)は図5に示す磁性体を印刷した紙幣を磁気センサ15で検出したBrの値である。(c)は図6に示す磁性体を印刷した紙幣を磁気センサ16で検出したB1の値である。(d)は図6に示す磁性体を印刷した紙幣を磁気センサ15で検出したBrの値である。
【0026】
磁気センサ15,16による検知の結果から、(a)と(c)は類似した波形になるように磁性体を印刷したものであると判別される。しかし、図5でBrの値は小さいため(b)の値は大きく、図6でBrの値は大きいため(d)の値は大きいので、紙幣の印刷に使用された磁性体は異なる可能性がある。
【0027】
もし、Brを読み取る磁気センサ16だけを搭載した紙幣判別装置では、(a)と(c)の波形が類似しているため磁性体の材料を明確に判定することは難しい。しかし、磁気センサ15の検出信号を用いれば、(b)と(d)の違いから図5と図6の磁性体を区別することができる。
【0028】
(b)と(d)が類似した波形になるように磁性体の印刷濃度を調整してある場合には、(a)と(c)の波形が異なり図5と図6の磁性体が区別できる。
【0029】
次に別の観点から、図11を参照して、磁気センサ15,16による検出信号に基づく磁性体の違いの判別法について説明する。
図11は、紙幣の磁気センサの検出出力信号と判定パターンの関係を示す。図4、図5、図6に示す磁気特性を持つ磁性体106を含有する磁性インクで、それぞれS4、S5、S6の部分が印刷された紙幣1を磁気センサ15(B1検出用)及び磁気センサ16(Br検出用)で検出するものとする。磁気センサ15,16の検出信号は、(a-1)、(b-1)に示すような波形になる。
【0030】
検出パターンに関しては、B1は(b-1)に示すように、図4、図5、図6でほぼ同じ高さとなるため、磁気センサ15の出力波形はほぼ同じ高さで全て「1」のパターンとなる。これに対してBrは(b-2)に示すように、図4、図5、図6でそれぞれでの大きさが異なるので、磁気センサ16の出力波形の大きさは異なる。即ち、図4ではB1のほぼ半分が「0」のパターンとなり、図5では殆んどが「0」のパターンとなり、図6ではB1とほぼ同じ出力となる。このため、パターンは(b-2)に示すように「0.5」になる部分と「0」になる部分とを含むパターンとなる。
【0031】
そこで、磁気センサ15と磁気センサ16の検出パターンを比較することで、図4、図5、図6の内いずれの磁性インクを使っているかが判定できる。そこで、例えば以下のように4つの判定基準を設定して紙幣の磁性インクを判別することができる。
(1)磁気センサ15の検出出力のパターンが「0」の場合、磁性インクがない。
(2)磁気センサ15の検出出力のパターンが「1」の場合で、かつ磁気センサ16と磁気センサ15のパターンが「0」の場合は、図5の磁性インクが含まれる。
(3)磁気センサ15の検出出力のパターンが「1」の場合で、かつ磁気センサ16と磁気センサ15のパターンが「0.5」の場合は、図4の磁性インクが含まれる。
(4)磁気センサ15の検出出力のパターンが「1」の場合で、かつ磁気センサ16と磁気センサ15のパターンが「1」の場合は、図6の磁性インクが含まれる。
【0032】
そこで、例えば1万円札に使用された磁性インク106は、図6の磁気特性を持つとする。1万円札の特定の場所における透磁率と残留磁化のパターンは予め分かっているので、例えばその既知のパターンとして,上記(4)によるパターンを予め記憶部183に記憶しておく。そして、実際に鑑別対象となった一万円札から得られた磁気センサ15,16の検出パターンと、予め記憶部183に記憶されていたパターンとを処理部184で比較することにより、磁性インクが適合しているか否かを判別することができる。
【0033】
このように、本実施例の紙幣判別装置においては、磁気センサ15,16で紙幣の透磁率及び残留磁化を検出することで、紙幣の磁性体の印刷濃度又は磁性体の材料のいずれか一方でも正常な紙幣と整合しなければ、偽券と判断される。正券と判断されるためには、磁性体の印刷濃度及び磁性体の材料の両方が正常であることが必要となる。このため、紙幣の真偽判定能力を一層向上させることができ、紙幣の偽造がより困難になる。
【0034】
次に、図8を参照して紙幣判別装置を適用した紙幣取扱装置の例について説明する。図8は模式的に示しているが、この紙幣取扱装置は、例えばATMであってもよいし、或いは単体の紙幣鑑別装置でもよい。
図1に示したような紙幣判別装置100には、搬送路81を介して搬送路切替機構82が接続される。紙幣判別装置100からの判定結果19に従って切替機構82は搬送路811,812,813を切り替え制御する。これにより紙幣1は収納庫86,87,88のいずれかに案内されて収納される。また、判定結果84は表示部85に送られて表示される。表示部85は例えばATMの操作画面であり、単体の装置の場合には、鑑別結果を表示する表示器である。
【0035】
紙幣の判定結果19に応じた紙幣1の切り替え制御の一例として、例えば、収納庫86には正常と判定された紙幣を収納し、収納庫87には磁気センサ15、16の両方で異常と判定された紙幣を収納し、収納庫88には磁気センサ16と磁気センサ15のいずれか一方センサで正常と判定され、他方センサでは異常と判定された紙幣を収納するように制御する。
【0036】
このように切り替え制御することで、収納庫86には正常と判定された紙幣を収納し、収納庫87には取り扱い対象外の紙幣、即ち明らかに異常と判定される紙幣を収納し、収納庫88には偽造と疑わしい紙幣を収納するように、紙幣の判定結果に応じてそれぞれ分類できる。ATMの場合、収納庫87へ収納することを省略し、明らかに異常と判別された紙幣を入金口へ返却するように制御してもよい。
【0037】
尚、実際的には、紙幣の判別には磁気センサだけでなく、光学センサによる検出信号も用いて、紙幣の金種及び真偽を判別することが多い。然し、その場合にでも、上述したように、複数種類の磁気センサにより検知された磁気特性に基づく判別結果を1つの因子として紙幣を分類できることが理解される。
【0038】
次に、図9及び図10を参照して他の実勢例について説明する。
図9は磁気センサによる有価証券の検出の様子を示し、図10は磁気センサの検出出力信号を示す。
図示は、紙葉としての例として有価証券900を示す。これは、磁性体が離散的な符号として印刷されている部分(符号部)901と、それが連続的な模様として印刷されている部分(模様部)902を有する。有価証券900は矢印X方向へ搬送され、磁気センサ95、96により磁気特性が検出される。
【0039】
符号部901は主として有価証券の種類を判定するためのものであり、符号の並び方に有価証券の情報が含まれており、印刷の濃淡には情報が含まれていない。また、模様部902は磁性体によって印刷された図柄、模様等であり、印刷の濃淡に情報が含まれている。尚、符号部901はセキュリティスレッドの検出として用いることもできる。
【0040】
磁気センサ95は符号部901を読み取るためのセンサであり、符号部901を必ず検出するように検出領域が広く取ってある。磁気センサ96は模様部902を読み取るためのセンサであり、模様部902の印刷の濃淡を詳細に出力するように、例えば小さな磁気ヘッドを複数並べてある。つまり磁気センサ96は不感帯を有していることになる。
【0041】
この有価証券900を磁気センサ95で走査されると、図10(a)のような出力信号が得られ、磁気センサ96で走査されると図10(b)のような出力信号が得られる。ここで図10(a)、(b)の横軸は走査方向を示し、縦軸はセンサ出力電圧を示す。
【0042】
図10(a)に示すように、磁気センサ95では符号部901の出力の凹凸が検出できるが、模様部902の出力の凹凸は小さい。これは磁気センサ95の検出領域が広いため模様部902の微細な濃淡が平均化されてしまうためである。一方、(b)に示すように、磁気センサ96には間隔が空けてあるため、有価証券900が方向Xに対して斜めに搬送されると、符号部901の出力信号の一部が欠けてしまう。
【0043】
このように、有価証券900の全体を隙間無く覆い、符号部901を見落とさない磁気センサ95と、模様の濃淡を詳細に出力するセンサ205の両方を用いると符号部と模様部の両方が詳細に読み取ることができる。
【0044】
この実施例において、磁気センサ95として例えば図1の残留磁気検出用の磁気センサ16を使用し、磁気センサ96として例えば透磁率検出用の磁気センサ15を使用することができる。また、その逆に、磁気センサ95,96として、図1の磁気センサ15,16を用いてもよい。いずれを適用するかは、検出すべき紙葉類の磁性体による符号部や模様部の位置等により判断して適合する配置関係を選べばよい。
【0045】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は上記実施例に限定されずにその趣旨の範囲内で種々変形して実施し得る。
例えば、図1や図3では紙幣を幅方向へ搬送する場合を前提として説明したが、紙幣をその長さ方向へ搬送する装置においては、搬送系におけるローラ等の配置関係が主に変わり、複数種の磁気センサによる検出信号を利用すると言う本実施例の基本的な趣旨は変わらない。
【0046】
また、紙幣判別装置の搬送路の実装に余裕がある場合には、図3に示すような、磁気センサ16と搬送ローラ13´の関係の配置を、図1に示す磁気センサ16の配置に適用してもよい。即ち、搬送ローラ13間に、更に図3に示す搬送ローラ13´の実装が追加された配置になる。このように搬送ローラ13´を配置することにより、紙幣の搬送が安定し、また紙幣のジャム発生を一層減らすことができる。
【0047】
また、この判別方法が適用される対象としては、上記実施例の紙幣や有価証券に限らず、広く磁性体を含む紙葉類の磁気特性の検出に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】一実施例による紙幣判別装置の構成を示す図。
【図2】一実施例における紙幣判別装置の機能ブロック図。
【図3】一実施例による紙幣判別装置における磁気センサと搬送ローラの配置関係を示す平面図。
【図4】磁性体のB−Hヒステリシス曲線の一例を示す図。
【図5】磁性体のB−Hヒステリシス曲線の一例を示す図。
【図6】磁性体のB−Hヒステリシス曲線の一例を示す図。
【図7】紙幣の磁気センサによる検出出力信号を示す図。
【図8】紙幣判別装置を適用した紙幣取扱装置の例を示す図。
【図9】磁気センサによる有価証券の検出の関係を示す図。
【図10】有価証券を磁気センサで検出した出力信号を示す図。
【図11】紙幣の磁気センサの検出出力信号と判定パターンの関係を示す図。
【符号の説明】
【0049】
1:紙幣、 10:搬送路、 12:対向ローラ、13:搬送ローラ、
15、16:磁気センサ、 106:磁性体、 18:制御装置
100:紙幣判別装置、 81:搬送路、 82:搬送路切替機構
85:表示部、 86〜88:収納庫、
900:有価証券、 901:符号部、 902:模様部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙葉に含まれる磁性体の透磁率を検出する第1のセンサと、該紙葉に含まれる磁性体の残留磁化を検出する第2のセンサを有し、該第1のセンサ及び第2のセンサにより検出された信号を紙葉の判別に用いることを特徴とする紙葉類判別装置。
【請求項2】
紙葉に使用された磁性体の残留磁化に関する情報と、該紙葉に使用された透磁率に関する判定情報を予め記憶する記憶部と、該第1又は第2のセンサにより検出された信号の情報と該記憶部に記憶された該判定情報とを照合する処理部と、を有し、該処理部における照合の結果に応じて該紙葉の判別を行うことを特徴とする請求項1の紙葉類判別装置。
【請求項3】
該処理部における照合により、紙幣の金種及び真偽の判定を行うことを特徴とする請求項2の紙葉類判別装置。
【請求項4】
該第1のセンサは、搬送される紙葉の全体を覆うライン型磁気センサであり、該第2のセンサは、搬送される該紙葉から部分的に検出信号を得るように配置されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの紙葉類判別装置。
【請求項5】
該紙葉の搬送方向に対して直角方向であって、該第2のセンサの横に該紙葉を搬送するための搬送ローラを配置することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの紙葉類判別装置。
【請求項6】
少なくとも該第1又は第2のセンサの一方は、不感帯を有する磁気センサの配列であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかの紙葉類判別装置。
【請求項7】
該第1のセンサは、紙葉に含まれる磁性体を励磁する励磁部を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかの紙葉類判別装置。
【請求項8】
該処理部により処理された該紙葉を分別して保管する複数の保管部と、該処理部の処理結果に従って該紙葉を、該複数の保管部のいずれかに搬送するために搬送路を切り替える切替機構とを有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかの紙葉類判別装置を用いた紙葉類取扱装置。
【請求項9】
第1のセンサにより紙葉に含まれる磁性体の透磁率を検出するステップと、
第2のセンサにより該紙葉に含まれる磁性体の残留磁化を検出するステップと、
紙葉に使用された磁性体の残留磁化に関する情報と、該紙葉に使用された透磁率に関する判定情報を予め記憶部に記憶するステップと、
該第1又は第2のセンサにより検出された信号の情報と該記憶部に記憶された該判定情報とを照合するステップと、を有し、
該照合の結果に応じて該紙葉の判別を行うことを特徴とする紙葉類の判別方法。
【請求項10】
該第1のセンサ又は第2のセンサは、該紙葉の同一場所における残留磁化又は透磁率を検出することを特徴とする請求項9の紙葉類の判別方法。
【請求項11】
該第1のセンサ又は第2のセンサによって、紙葉における磁性体の位置、及び磁性体の濃度に関する情報を得て、該位置及び濃度の情報を判別に用いることを特徴とする請求項9又は10の紙葉類の判別方法。
【請求項12】
該第1のセンサ又は第2のセンサによって、磁性体を含む磁性インクにより印刷された紙葉の符号部から得た信号と、該紙葉の模様部から得た信号とを判別に用いることを特徴とする請求項9又は10の紙葉類の判別方法。
【請求項1】
紙葉に含まれる磁性体の透磁率を検出する第1のセンサと、該紙葉に含まれる磁性体の残留磁化を検出する第2のセンサを有し、該第1のセンサ及び第2のセンサにより検出された信号を紙葉の判別に用いることを特徴とする紙葉類判別装置。
【請求項2】
紙葉に使用された磁性体の残留磁化に関する情報と、該紙葉に使用された透磁率に関する判定情報を予め記憶する記憶部と、該第1又は第2のセンサにより検出された信号の情報と該記憶部に記憶された該判定情報とを照合する処理部と、を有し、該処理部における照合の結果に応じて該紙葉の判別を行うことを特徴とする請求項1の紙葉類判別装置。
【請求項3】
該処理部における照合により、紙幣の金種及び真偽の判定を行うことを特徴とする請求項2の紙葉類判別装置。
【請求項4】
該第1のセンサは、搬送される紙葉の全体を覆うライン型磁気センサであり、該第2のセンサは、搬送される該紙葉から部分的に検出信号を得るように配置されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの紙葉類判別装置。
【請求項5】
該紙葉の搬送方向に対して直角方向であって、該第2のセンサの横に該紙葉を搬送するための搬送ローラを配置することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの紙葉類判別装置。
【請求項6】
少なくとも該第1又は第2のセンサの一方は、不感帯を有する磁気センサの配列であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかの紙葉類判別装置。
【請求項7】
該第1のセンサは、紙葉に含まれる磁性体を励磁する励磁部を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかの紙葉類判別装置。
【請求項8】
該処理部により処理された該紙葉を分別して保管する複数の保管部と、該処理部の処理結果に従って該紙葉を、該複数の保管部のいずれかに搬送するために搬送路を切り替える切替機構とを有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかの紙葉類判別装置を用いた紙葉類取扱装置。
【請求項9】
第1のセンサにより紙葉に含まれる磁性体の透磁率を検出するステップと、
第2のセンサにより該紙葉に含まれる磁性体の残留磁化を検出するステップと、
紙葉に使用された磁性体の残留磁化に関する情報と、該紙葉に使用された透磁率に関する判定情報を予め記憶部に記憶するステップと、
該第1又は第2のセンサにより検出された信号の情報と該記憶部に記憶された該判定情報とを照合するステップと、を有し、
該照合の結果に応じて該紙葉の判別を行うことを特徴とする紙葉類の判別方法。
【請求項10】
該第1のセンサ又は第2のセンサは、該紙葉の同一場所における残留磁化又は透磁率を検出することを特徴とする請求項9の紙葉類の判別方法。
【請求項11】
該第1のセンサ又は第2のセンサによって、紙葉における磁性体の位置、及び磁性体の濃度に関する情報を得て、該位置及び濃度の情報を判別に用いることを特徴とする請求項9又は10の紙葉類の判別方法。
【請求項12】
該第1のセンサ又は第2のセンサによって、磁性体を含む磁性インクにより印刷された紙葉の符号部から得た信号と、該紙葉の模様部から得た信号とを判別に用いることを特徴とする請求項9又は10の紙葉類の判別方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−236198(P2006−236198A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−52719(P2005−52719)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(504373093)日立オムロンターミナルソリューションズ株式会社 (1,225)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(504373093)日立オムロンターミナルソリューションズ株式会社 (1,225)
【Fターム(参考)】
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