説明

紙葉類判別装置

【課題】搬送ジャムの抑制を図った上で、セキュリティースレッドによる検知感度のバラツキの顕在化を抑制する。
【解決手段】磁極を逆にして永久磁石212を並べ、隣り合う永久磁石212の磁石境界では、磁束の結びつきが強いために感度低下を来しやすいので、この磁石境界に向き合うよう、搬送ローラー体を配置して、ローラーの腹を磁石境界に位置させる。検知感度の高まる永久磁石212の中央領域には、磁気抵抗素子214の高感度域が位置するよう、磁気抵抗素子214を配置した上で、搬送ローラー体を、磁気抵抗素子214の高感度域を挟んで隣り合わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙幣や有価証券と言った紙葉類の識別を行う紙葉類識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の紙葉類判別装置は、紙幣の金種、真偽、破損有無と言った識別のため、例えば紙幣の入出金を図る現金自動取引装置に搭載され、種々の識別手法が提案されている。この一手法として、紙幣の磁気的な特性を利用した識別手法が知られており(例えば、特許文献1)、磁気的特性を利用する故の利点がある。
【0003】
紙幣の偽造回避の実効性を高めるため、磁性インクで図柄や線図等のセキュリティースレッドを紙幣に印刷することが多々なされている。そして、このセキュリティースレッドは、磁性インクによる印刷部位なため磁気的な特異な特性を呈するので、紙幣を搬送しつつ磁気的変化を磁気センサーにて検知すれば、こうした磁気的変化に基づいた識別精度が高まる。その一方、磁気センサーについても種々の技術が提案されており(例えば、特許文献2等)、これら技術では、磁気センサーの一例である磁気抵抗素子の配列を工夫することで、その性能向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−221219号公報
【特許文献2】特開2003−107142号公報
【特許文献3】実用新案登録第3105238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、紙幣の搬送に際しては、搬送の支障となる搬送ジャムの抑制を図る都合上、搬送路幅方向の全域に亘って紙幣全面をセンサー検知面側に押し付けるようなことはできず、紙幣の押し付けは搬送路幅方向において間欠的にしか行えない。このため、紙幣と磁気センサーのセンサー検知面との間隔(以下、検知間隔と称する)を、搬送路幅方向において一定とはし難い。
【0006】
その一方、磁気センサーの配列の工夫により性能向上が図られたとしても、搬送路幅方向において検知感度を一定とすることは難しい。例えば、磁束の効果的な形成を図るために複数の永久磁石等の磁性体を搬送路幅方向に沿って並べた場合、磁石の隣り合う箇所と一つの磁石の例えば中央箇所では、搬送される紙幣とは無関係に磁束密度が相違する。このため、磁石の隣り合う箇所での磁気検知を行う磁気センサーと磁石中央箇所での磁気検知を行う磁気センサーとでは、検知基準となる磁束密度が相違すると共に、上記したように検知間隔が同じとならない可能性があるため、紙幣搬送に伴う検知感度の低下や検知感度のバラツキが生じ得る。
【0007】
また、紙幣には、既述したようなセキュリティースレッドが印刷されることが多々あり、紙幣におけるセキュリティースレッドの形成位置やその形状等は紙幣種別ごとに一律である。ところが、紙幣搬送の際の紙幣位置は搬送路幅方向において一律とは限らないので、紙幣搬送のたびに、セキュリティースレッドが通過する搬送路幅方向位置も変わり、セキュリティースレッドが上記した検知感度のバラツキ発生箇所に合致するよう紙幣が搬送されたり、合致しないで搬送されたりする。そうすると、検知感度のバラツキ発生箇所に合致した場合と合致しない場合では、セキュリティースレッドの有する磁気的特性により検知感度のバラツキがより顕在化するので、その検知結果のノイズが増えてしまう。なお、こうした状況は、紙幣に限らず有価証券等の紙葉類についても同様である。
【0008】
本発明は、上述した従来の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、搬送ジャムの抑制を図った上で、セキュリティースレッドによる検知感度のバラツキの顕在化を抑制することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決することを目的としてなされたものであり、以下の構成を採用した。
【0010】
[適用1:紙葉類識別装置]
識別対象となる紙葉類の搬送路において磁束を形成し、前記紙葉類の搬送に伴う磁束変化に基づいて前記紙葉類に関する識別を行う紙葉類識別装置であって、
前記紙葉類の搬送方向と交差する搬送路幅方向に沿って設けられ、前記磁束を形成しつつ前記磁束変化を検知する磁気検知部と、
該磁気検知部を通過する前記紙葉類と前記磁気検知部との隔たりを調整するよう搬送過程の前記紙葉類に作用する複数の搬送調整部とを備え、
該複数の搬送調整部の少なくとも一つは、前記磁気検知部において前記搬送路幅方向に沿って現れる検知感度のバラツキに対応して前記搬送路幅方向に沿って配置されている
ことを要旨とする。
【0011】
上記構成を備える紙葉類識別装置は、搬送過程の紙葉類と磁気検知部との隔たりを複数の搬送調整部にて調整するに当たり、この複数の搬送調整部を、紙葉類の搬送方向と交差する搬送路幅方向に沿って配置する。よって、搬送調整部による紙葉類の隔たり調整箇所は、搬送路幅方向において間欠的となり、紙葉類の搬送に際しての搬送ジャムを抑制できる。こうして複数の搬送調整部を搬送路幅方向に沿って配置する際には、その配置位置を、磁気検知部において搬送路幅方向に沿って現れる検知感度のバラツキに対応したものとする。そして、こうした配置位置を採る搬送調整部は、紙葉類と磁気検知部との隔たり調整を検知感度のバラツキを抑制する側に行うよう、隔たり調整のために紙葉類に作用し、隣り合う搬送調整部の間では、こうした隔たり調整を行わないようにできる。このため、仮に、紙葉類の一つである紙幣のセキュリティースレッドがその有する磁気的特性により磁気検知部の検知感度のバラツキを顕在化するような位置にあっても、当該セキュリティースレッドの紙幣部位を磁気検知部との隔たりをバラツキの抑制側に調整することで、セキュリティースレッドの磁気的特性による影響を大きく変えないようにできる。また、隣り合う搬送調整部の間では、こうした隔たり調整はなされないので、セキュリティースレッドの紙幣部位を磁気検知部から遠ざけることが可能となり、セキュリティースレッドの磁気的特性による影響を弱めることができる。この結果、上記構成を備える紙葉類識別装置によれば、セキュリティースレッドによる磁気検知部の検知感度のバラツキの顕在化を、紙葉類の搬送に際しての搬送ジャムを抑制した上で、抑制できる。
【0012】
上記構成を備える紙葉類識別装置は、次のような態様とすることができる。例えば、前記磁気検知部の検知感度が他の部位に比べて低い低感度部位において、前記搬送調整部を前記磁気検知部と向き合って配置するようにできる。こうすれば、低感度部位において紙葉類のセキュリティースレッドを磁気検知部から遠ざけないようにして磁気検知部との隔たりをバラツキ抑制側に調整できるので、低感度部位での磁束変化をセキュリティースレッドの磁気的特性により大きくして、感度低下を抑制できる。
【0013】
この場合、前記磁気検知部の検知感度が他の部位に比べて高い高感度部位において隣り合う前記搬送調整部を、間隔を隔てて配置した上で、該高感度部位を挟んで隣り合うようにできる。こうすれば、高感度部位において紙葉類のセキュリティースレッドを磁気検知部から遠ざけるようにできるので、セキュリティースレッドの磁気的特性が磁束変化に及ぼす影響を弱めて高感度部位での磁束変化を小さくし、感度過剰を抑制できる。
【0014】
このように高低の感度部位に対応して搬送調整部を配置するに当たり、前記磁気検知部にあっては、これを、前記磁束を形成する複数の磁性体を隣り合う磁性体ごとに磁極の向きを変えて前記搬送路幅方向に沿って隣接配置し、磁気効果をセンサー検知原理とする複数の磁気センサーを前記磁性体ごとに対向配置して備えるものとし、前記複数の搬送調整部については、隣り合う前記磁性体の境界を前記低感度部位として、該境界を含んで前記搬送調整部を前記磁性体と向き合わせ、隣り合う前記搬送調整部を、搬送調整部同士の間隔が前記磁性体と向き合うよう並んで配置するようにできる。
【0015】
複数の磁性体を隣り合う磁性体ごとに磁極の向きを変えて搬送路幅方向に沿って隣接配置すれば、効率的に磁束を形成できるが、隣り合う磁性体の境界では、隣り合う磁性体間の磁束の結びつきが強く、磁束変化が起き難くなるので、磁気効果をセンサー検知原理とする磁気センサーの検知感度の低下を来しやすい。その一方、磁性体では、その隣の磁性体との境界から離れると、磁束の結びつきが弱くなるので、磁束変化が起き易くなり磁気センサーの検知感度が過剰となり易い。つまり、磁束形成の上から上記した磁性体配置を取ると、その構成の上から磁気センサーの検知感度の高低のバラツキを生じる。ところが、検知感度の低下を来しやすい磁性体の境界では、その境界を含んで搬送調整部が磁性体に向き合うので、セキュリティースレッドを磁気センサーから遠ざけないようにしてセキュリティースレッドによる磁束変化を大きくでき、これにより感度低下を抑制できる。その一方、隣の磁性体との境界から離れた磁性体の部位では、検知感度が過剰となり易いものの、セキュリティースレッドを遠ざけることで、セキュリティースレッドの磁気的特性が磁束変化に及ぼす影響を弱めて高感度部位での磁束変化を小さくし、感度過剰を抑制できる。
【0016】
そして、搬送調整部については、そのそれぞれを、前記搬送方向に沿った前記紙葉類の搬送を来すよう駆動回転する搬送ローラーとでき、こうすれば、搬送ローラーによる紙葉類搬送を図りつつ、搬送ジャムの抑制と、セキュリティースレッドによる検知感度のバラツキの顕在化の抑制を両立できる。
【0017】
こうした搬送ローラーの他、前記搬送調整部を、前記搬送方向に沿って搬送される前記紙葉類を挟んで前記磁気検知部と対向する対向部材と、該対向部材に係合され前記磁気検知部に向けた前記対向部材の動きをもたらす弾性保持部材とを備えるものとしたり、隣り合う前記対向部材を共通の前記弾性保持部材に係合させるようにできる。こうしても、搬送ジャムの抑制と、セキュリティースレッドによる検知感度のバラツキの顕在化の抑制を両立できる。なお、磁気検知部が鉛直方向の下方側に位置し、搬送調整部が鉛直方向の上側に位置すれば、弾性保持部材にて対向部材を吊り下げ保持することで、対向部材は、その自重で紙葉類を磁気検知部の側に押し付けて磁気検知部との隔たりを規定内に収まるようにする。この逆であれば、弾性保持部材は、その弾性力を対向部材に作用させることで、紙葉類を磁気検知部の側に押し付けて磁気検知部との隔たりを規定内に収まるようにする。
【0018】
この他、前記複数の搬送調整部を、前記搬送路幅方向に沿った幅に広狭の差があるものとし、幅広の前記搬送調整部を前記磁気検知部の検知感度が他の部位に比べて低い低感度部位にて前記磁気検知部と向き合うように配置することができる。こうすれば、低感度部位では、セキュリティースレッドを磁気抵抗素子から遠ざけないようにすることが簡便で確実となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施例にかかる紙幣取扱装置101を搭載した現金自動取引装置100の外観を示す斜視図である。
【図2】紙幣取扱装置101の概略構成を示す側断面図である。
【図3】上部ユニット101aを説明する説明図である。
【図4】紙幣取扱装置101の制御ユニット80を示すブロック図である。
【図5】紙幣識別部40における鑑別用搬送路40Pにて搬送される紙幣Sとその搬送に関与する検知部対向搬送ローラー202とを概略的に側面視して示す説明図である。
【図6】磁気検知部210と検知部対向搬送ローラー202との関係を紙幣Sの搬送方向上流側から見て概略的に示す説明図である。
【図7】磁気検知部210の構成と検知部自体が発生する磁界の様子を概略的に示す説明図である。
【図8】磁気抵抗素子214からの出力の様子を説明する説明図である。
【図9】磁気抵抗素子214の特性とこの特性をもたらす磁気回路パターンの一例を概略的に示す説明図である。
【図10】磁気検知部210への紙幣Sの搬送の様子を搬送路上方から俯瞰して示す説明図である。
【図11】比較例の磁気抵抗素子214hを本実施例の磁気抵抗素子214のように配置した場合のセンサー出力に及ぼすセキュリティースレッドSSの影響を説明する説明図である。
【図12】隣り合う永久磁石212の境界に搬送ローラー体202_1〜202_2を配置し永久磁石212の中央領域を隣り合う搬送ローラー体の間とした場合のセンサー出力の様子を示す説明図である。
【図13】図12図相当であり検知感度に高低の特性を持たせた本実施例の磁気抵抗素子214を配置した場合のセンサー出力の様子を示す説明図である。
【図14】検知感度に高低の特性を持たせた磁気抵抗素子214の配置の様子と検知部対向搬送ローラー202の各搬送ローラー体との配置の様子とを示す説明図である。
【図15】図14相当であり検知部対向搬送ローラー202に代わる第1変形例の検知部対向ローラー300の各対向ローラー体302の配置の様子を示す説明図である。
【図16】検知部対向搬送ローラー202に代わる検知部対向体350の各対向体352の配置の様子を示す説明図である。
【図17】また別の変形例における磁気抵抗素子214の構成を示す説明図である。
【図18】図14相当図でありこの変形例の磁気抵抗素子214を用いた場合のその配置の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、その実施例を図面に基づき説明する。図1は本実施例にかかる紙幣取扱装置を搭載した現金自動取引装置100の外観を示す斜視図である。現金自動取引装置100は、銀行などの金融機関によって管理され、利用者(顧客)の操作に応じて各種取引を行うための装置である。現金自動取引装置100は、紙幣取扱装置101と、硬貨取扱装置102と、通帳取扱装置103と、カード明細票取扱装置104と、顧客操作部105とを備えている。また、図示は省略しているが、現金自動取引装置100は、電源ユニットや、現金自動取引装置100の全体を制御するための本体制御ユニットを備えている。
【0021】
紙幣取扱装置101は、利用者との紙幣の授受を行うための装置である。硬貨取扱装置102は、利用者との硬貨の授受を行う。通帳取扱装置103は、通帳を取り扱い、取引に応じて、通帳に記されたマークなどの読み取りや、印字処理などを行う。カード明細票取扱装置104は、磁気ストライプカード(いわゆるキャッシュカード)に記録された情報を読み取ったり、取引に応じて、その内容を記録した取引明細票を発行したりする。顧客操作部105は、入出金取引のための情報表示および入出金取引のための操作入力を行うための利用者とのインタフェースである。
【0022】
図2は紙幣取扱装置101の概略構成を示す側断面図である。紙幣取扱装置101は、上部に配置された上部ユニット101aと、下部に配置された金庫ユニット101bと、両ユニットを制御する制御ユニット80とを備えており、紙幣の搬送路を、限られた内部スペースに配置し、金庫ユニット101bを多目的に利用可能としている。以下、紙幣取扱装置101の各部の構成について説明する。
【0023】
図3は上部ユニット101aを説明する説明図である。上部ユニット101aは、概ね、利用者との紙幣の授受に必要な機構を備えており、紙幣入出金部30と、紙幣識別部40(紙葉類判別部)と、一時保管庫50と、取り忘れ紙幣収納庫60と、紙幣を各部の間で搬送する搬送機構とを備えている。
【0024】
紙幣入出金部30は、利用者が紙幣の預け入れを行なう入金部30aと、紙幣の払い出しを行なう出金部30b(集積部)とを備え、これらは仕切板31により仕切られるとともに、出金部30bに集積された紙幣を入金部30a側に移動させるための押圧板32を設けている。紙幣識別部40は、紙幣の金種、真偽、および、リジェクト紙幣であるか否かを鑑別し、その鑑別結果を制御ユニット80(図2)に出力する機構であり、例えば、紙幣をスキャンして得られる画像データ、紙幣の表面の凹凸形状、磁気特性、紫外線などに対する光学特性など種々の情報を利用して行うことができる。このうち、磁気特性の検知に関する事項が、本願発明の要旨と関連し、これについては後述する。なお、リジェクト紙幣は、紙幣の真偽により不適合な紙幣であるか、重なり合ったり、折れ曲がったりして真偽が不明な紙幣などをいう。一時保管庫50は、紙幣入出金部30と金庫ユニット101bとの間の紙幣の搬送過程において、紙幣を一時的に保管する機構である。取り忘れ紙幣収納庫60は、利用者が取り忘れた紙幣を集積する機構である。
【0025】
搬送機構は、紙幣入出金部30の入金部30aから紙幣を回収する入金用搬送路30Paと、出金部30bへ紙幣を繰り出す出金用搬送路30Pbと、鑑別用搬送路40Pと、一時保管用搬送路50Paと、リジェクト用搬送路60Pとを備えている。鑑別用搬送路40Pおよび一時保管用搬送路50Paなどの搬送路は、双方向に搬送可能に構成されており、鑑別用搬送路40Pが本願発明の要旨と関連するので、当該搬送路構成については後述する。搬送路の分岐箇所には、ゲート31G,32G,50Gなどが配置され、上述した搬送路における紙幣の搬送方向を切り替えるように構成されている。また、紙幣取扱装置101には、紙幣を検出するためのセンサーが配置されている。すなわち、紙幣識別部40に通過センサー40Sが配置され、一時保管庫50に空検知センサー50Saおよび満杯検知センサー50Sbが配置されている。これらのセンサーの検出信号は、制御ユニット80に送られ、紙幣の通過や紙幣の有無の判定に使用される。
【0026】
図2において、金庫ユニット101bは、紙幣収納庫70(紙葉類収納庫)、搬送機構、センサーおよびゲートを備え、上部ユニット101aとの間で紙幣を双方向に搬送する機構である。紙幣収納庫70は、4個の紙幣用カセット71〜74を備え、それらはほぼ同じ構成であり、扱う紙幣の種類が異なっており、例えば、1万円、5千円、千円、2千円を収納する紙幣庫として用いている。4個の紙幣用カセット71〜74は、同じ構成である。なお、これら紙幣用カセットとカセット間の紙幣収納のための収納用搬送路70Pについては、本願発明の要旨と直接関係しないので、その説明についてはこれを省略する。
【0027】
図4は紙幣取扱装置101の制御ユニット80を示すブロック図である。制御ユニット80は、主制御部81を中心に構成され、金融機関に設置される自動取引装置のホストコンピューターなどの上位装置HCからの指令を回線制御部90を介して受け渡すとともに、上述したセンサーからの信号に基づいて各部を制御する。
【0028】
主制御部81は、中央制御部82を中心に構成され、プログラムや種々の情報を記憶する記憶部83や、中央制御部82により制御される各制御部を備えている。各制御部として、紙幣入出金部30に対して紙幣の分離や集積などを制御する入出金制御部84と、紙幣識別部40の紙幣の識別結果を出力する識別制御部85と、一時保留部制御部86に対して紙幣の分離や集積を制御する一時保留部制御部86と、紙幣収納庫70に対して紙幣の分離や集積などを制御する収納庫制御部87とを備えている。このうち、識別制御部85は、データ処理部85aと真偽識別部85bを備え、紙幣識別部40が備える後述の光学センサー154や磁気検知部210にける磁気抵抗素子214からのセンサー出力を入力する。データ処理部85aは、これらセンサー入力を調整したり種々の変換を図り、真偽識別部85bは、データ処理部85aからのデータに基づいて紙幣の真偽や金種等を識別する。
【0029】
制御ユニット80は、主制御部81により駆動される駆動部やセンサーなどを備えている。駆動部は、紙幣の通過を検出する通過センサーや満杯検知センサー等のセンサーを制御するセンサー駆動部91と、紙幣を所定の集積先に搬送するようにゲートを切り替えるゲート駆動部92と、搬送路駆動モータを制御する搬送路モータ駆動部93と、搬送路の移動量を計数する搬送路移動量計数部94と、搬送異常を検出する紙幣搬送監視部95とを備えている。紙幣搬送監視部95は、識別制御部85からの識別結果を元に主制御部81により決定した集積先の情報とセンサー駆動部91からのセンサー情報を元に、繰出しから集積まで搬送路上の紙幣が正しく搬送されていることを監視する機能を有している。主制御部81は、上述したセンサーなどの信号に基づいて、各駆動部などを制御することで、出金処理、入金処理などの各種の紙幣取扱処理を実行する。
【0030】
次に、紙幣識別部40について詳述する。図5は紙幣識別部40における鑑別用搬送路40Pにて搬送される紙幣Sとその搬送に関与する検知部対向搬送ローラー202とを概略的に側面視して示す説明図、図6は磁気検知部210と検知部対向搬送ローラー202との関係を紙幣Sの搬送方向上流側から見て概略的に示す説明図である。
【0031】
図示するように、鑑別用搬送路40Pは、磁気識別ユニット200を通る搬送路とされ、搬送路上下に位置するガイドプレート142は、紙幣Sの搬送軌跡が鉛直方向上下に大きくズレないようにする。そして、この鑑別用搬送路40Pにおける磁気識別ユニット200の上下流には、上流搬送ローラー対150と、下流側ローラー対152とが位置し、磁気識別ユニット200の磁気検知部210に対向して検知部対向搬送ローラー202が位置する。上流搬送ローラー対150と下流側ローラー対152は、一方のローラーが鑑別用搬送路40Pに沿った紙幣Sの搬送を来すよう搬送回転し、他方のローラーはそれに従動して回転することで、紙幣Sを鑑別用搬送路40Pに沿って搬送する。検知部対向搬送ローラー202は、鑑別用搬送路40Pに沿った紙幣Sの搬送を来すよう搬送回転して紙幣搬送に関与すると共に、搬送される紙幣Sを磁気検知部210に向けて付勢する。
【0032】
図6に示すように、検知部対向搬送ローラー202は、共通の回転軸204に間隔を持って装着された筒状の搬送ローラー体202_1〜202_iの集合として構成される。各搬送ローラー体は、鑑別用搬送路40Pにおける紙幣Sの搬送方向と交差する搬送路幅方向に沿って配置され、上記したようにそれぞれが搬送回転する。つまり、この検知部対向搬送ローラー202の搬送ローラー体202_1〜202_iは、磁気検知部210を通過する紙幣Sに対して作用して、搬送過程の紙幣Sと磁気検知部210との隔たりが規定内に収まるよう調整する。この場合、搬送ローラー体202_1〜202_iの並びにおいて隣り合う搬送ローラー体間の間隔、即ち各搬送ローラー体の配置の様子は、後述する検知感度のバラツキに応じて定まる。また、搬送ローラー体202_1〜202_iの数は、後述するような搬送ローラー体配置を採った上で、鑑別用搬送路40Pの搬送路幅のサイズに応じて決定される。
【0033】
上流搬送ローラー対150と下流側ローラー対152の各ローラーにあっても、検知部対向搬送ローラー202と同様、筒状のローラー体の集合として構成されて、各ローラー体を搬送路幅方向に沿って配置する。この場合、上記の両ローラー対にあっては、筒状の複数のローラー体を検知部対向搬送ローラー202と同じピッチで配置できるが、ローラー対は磁気検知部210と対向していないので、検知部対向搬送ローラー202とは異なり所定ピッチで配置することもできる。なお、上下のガイドプレート142は、上記した各ローラー体と干渉しないよう、配設されていると共に、磁気検知部210の磁束に影響を及ぼさない非磁性材料にて形成されている。
【0034】
この他、図5に示すように、上流搬送ローラー対150の上流側には、光学センサー154が鑑別用搬送路40Pの上方に配置されている。この光学センサー154の側のガイドプレート142は、当該センサーと対向する箇所をガラス等の透光性材料を組み込んだ検知窓とする。光学センサー154は、鑑別用搬送路40Pの搬送路幅方向に亘ってライン状に配置され、搬送されてくる紙幣Sの図柄を上記した検知窓越しにスキャンして紙幣Sの画像データを取得する。この画像データは、検出データとしてデータ処理部85a(図4参照)に送られ、磁気検知部210による磁気的な検知結果と共に真偽識別部85bにて紙幣の真偽識別等に用いられる。
【0035】
次に、磁気検知部210について説明する。図7は磁気検知部210の構成と検知部自体が発生する磁界の様子を概略的に示す説明図である。図示するように、磁気検知部210は、永久磁石212と磁気抵抗素子214とを対向配置して備える。永久磁石212は、隣り合う永久磁石ごとに磁極の向きを変えて鑑別用搬送路40Pの搬送路幅方向に沿って隣接配置されている。このため、磁気検知部210は、永久磁石212により、図中の点線で示すようにループ状の磁束Mを形成する。この磁束Mは、永久磁石212の磁力に基づいて形成され、隣り合う永久磁石212の境界を挟んでその結びつきが強く、永久磁石212の中央側ほど磁束Mの結びつきが弱まって立ち上がる。この図7において、紙面奥側から手前側の向き、或いはその逆が紙幣Sの搬送方向となるので、磁束Mは搬送される紙幣Sを貫くことになる。
【0036】
磁気抵抗素子214は、永久磁石212が形成した磁束の変化を検知する。つまり、磁気抵抗素子214は、その表面に対となる磁気回路パターンを備え、当該回路パターンを永久磁石212の磁極面に対向させるので、この磁気回路パターンを垂直に貫く磁束(詳しくは、磁束密度)が変化すると、磁気回路パターンの抵抗値が変化して流れる電流が変化する。この電流の変化は、磁束変化に対応したものであることから、磁気抵抗素子214は磁束変化に応じた出力を生成する。図8は磁気抵抗素子214からの出力の様子を説明する説明図である。図示するように、磁気抵抗素子214は、電源216から所定の電圧の印加を対となる磁気回路パターンに受け、当該パターン間の電位を比較器222に出力する。電源216の電圧は、磁気抵抗素子214と平行の抵抗回路に含まれる抵抗218と抵抗220にも掛かり、両抵抗間の電位(定電位)も比較器222に出力され、比較器222は、その結果を増幅器224に出力し、その出力はAD変換器226にて変換され、磁気抵抗素子214の出力となる。磁気抵抗素子214を垂直に貫く磁束Mに変化がなければ、AD変換器226からの磁気抵抗素子214の出力は一定である。ところが、磁気抵抗素子214を垂直に貫く磁束が変化すれば、その磁束変化に応じて磁気抵抗素子214から比較器222への出力が変化するので、この出力変化によりAD変換器226からの磁気抵抗素子214の出力は変わることになり、この出力は磁束変化が反映したものとなる。
【0037】
図9は磁気抵抗素子214の特性とこの特性をもたらす磁気回路パターンの一例を概略的に示す説明図である。磁気抵抗素子214は、図9に示すように、その中央領域において高感度とされ、その両側では低感度となる感度特性を有する。こうした感度の高低特性は、対となる磁気回路パターンMPを、低感度域ではパターンが疎となるよう、高感度域ではパターンが密となるように形成することで、得ることができる。この磁気抵抗素子214は、永久磁石212ごとに複数用意され、本実施例では、三つの磁気抵抗素子214が一つの永久磁石212の磁極面に対応するようにした上で、隣り合う永久磁石212の境界を磁気抵抗素子214で跨ぐようにし、この境界には、磁束変化の検知感度の高い中央領域が位置する。
【0038】
ここで、磁気検知部210による磁気的特性の検知の様子について説明する。図10は磁気検知部210への紙幣Sの搬送の様子を搬送路上方から俯瞰して示す説明図である。図示するように、紙幣Sは、磁気検知部210に向かって搬送されるが、磁気検知部210に対する紙幣Sの搬送位置は一律とはならない。これは、紙幣Sのサイズが金種ごとに異なると共に、ユーザーが紙幣Sをどのようにして紙幣取扱装置101の紙幣投入孔に差し入れるかが定まらないことによる。そして、紙幣Sに磁性インクで形成されたセキュリティースレッドSSは、金種ごとに異なる位置に形成されたり、紙幣Sの搬送位置が一律でないことから、セキュリティースレッドSSについても、磁気検知部210に対する位置が一律となることは少ない。例えば、ユーザーは、紙幣Sをその表裏や左右を意識して紙幣投入孔に差し込むことは少ないので、セキュリティースレッドSSは、図10に示す位置と図において左右対称な位置を取り得るほか、紙幣Sの投入位置によっては、図10に示す位置から左右にずれることが有り得る。なお、紙幣Sの一方端を規定して紙幣搬送経路位置を或る程度は規定できるものの、紙幣SやセキュリティースレッドSSの搬送経路位置が必ず定位置となるとは限らない。
【0039】
次に、図9のようにして磁気抵抗素子214に感度特性を持たせた場合のセンサー出力の様子について説明するが、対比のため、感度特性に高低を持たせない比較例の磁気抵抗素子214hを用いた場合のセンサー出力について先に説明する。図11は比較例の磁気抵抗素子214hを本実施例の磁気抵抗素子214のように配置した場合のセンサー出力に及ぼすセキュリティースレッドSSの影響を説明する説明図である。例えば、図10に示すように紙幣Sが搬送される場合、図11に示すように、セキュリティースレッドSSは、図における左方側の範囲において様々なパス位置を取り得る。この図11において、紙面奥側から手前側の向き、或いはその逆が紙幣Sの搬送方向となる。また、紙幣Sは、図6に示した検知部対向搬送ローラー202の搬送ローラー体202_1等に付勢されつつ搬送されるので、磁気抵抗素子214hに近接してその隔たりは規定内に収まるよう調整される。なお、磁気抵抗素子214hの表面は、紙幣搬送に伴う素子損傷回避のため図示しないカバーで覆われている。このカバーは、非磁性材料にて形成されているので、磁気検知部210の磁束に影響を及ぼさない。後述する磁気抵抗素子214についても同様である。
【0040】
その一方、隣り合う搬送ローラー体202_1等の間では、紙幣Sは搬送ローラー体からの付勢を受けないことから湾曲して磁気抵抗素子214hから離れる場合が生じる。このため、図11に示すように、セキュリティースレッドSSは、そのパス位置に応じて磁気抵抗素子214hに対する上下位置が相違し、隣り合う搬送ローラー体202_1等の間では、磁気検知部210から遠ざかる。こうした状況は、後述する本実施例の磁気抵抗素子214を用いた場合も同様である。
【0041】
セキュリティースレッドSSは、磁性インクで形成されていることから、永久磁石212が形成した磁束Mに影響を及ぼし、永久磁石212に近いほど、即ち磁気抵抗素子214hに近接したパス位置を採る場合の方が、磁気抵抗素子214hから離れたパス位置を採る場合よりも磁束Mを大きく変化させる。この様子は、図11におけるセンサー出力電圧において示され、点線の出力が磁気抵抗素子214hから離れたパス位置のセキュリティースレッドSSの影響が反映したものとなり、実線の出力が磁気抵抗素子214hに近接したパス位置のセキュリティースレッドSSの影響が反映したものとなる。図に示す出力波形部位Paは、永久磁石212の中央領域付近であるため、図7で説明したように、磁束Mの結びつきが弱まって磁束Mが立ち上がっており、当該部位に対向する磁気抵抗素子214hでは、感度に高低の差がないことから、磁気抵抗素子214hでのセンサー出力には感度のバラツキはあまり見られず、上記したようにセキュリティースレッドSSによる出力の高低となる。この場合、永久磁石212の中央では、磁束Mは最も立ち上がっていることから、セキュリティースレッドSSの影響を受け易く検知感度が高まることになる。
【0042】
その一方、出力波形部位Pbでは、当該部位は隣り合う永久磁石212の磁石境界であることから、図7で説明したように磁束Mはその結びつきが強いために、セキュリティースレッドSSが磁気抵抗素子214hに近接していても、磁束Mに大きな変化をあまりもたらせない。しかも、磁気抵抗素子214hは、その感度に高低がないことから、磁石境界に該当する出力波形部位Pbでは、図11に示すように、磁束Mの変化に基づく検知感度に大きなバラツキが起き、感度も低下する。
【0043】
次に、上記した磁気抵抗素子214hによるセンサー出力を、検知部対向搬送ローラー202の搬送ローラー体202_1等による紙幣付勢との関係を加味して説明する。図12は隣り合う永久磁石212の境界に搬送ローラー体202_1〜202_2を配置し永久磁石212の中央領域を隣り合う搬送ローラー体の間とした場合のセンサー出力の様子を示す説明図である。この図12において、紙面奥側から手前側の向き或いはその逆が紙幣Sの搬送方向となり、紙面左右方向が搬送路幅方向となる。図12と同等の図においても、同様である。
【0044】
この図12に示すような搬送ローラー体配置であると、隣り合う永久磁石212の境界(磁石境界)には、搬送ローラー体202_1〜202_2が向かい合い、これら搬送ローラー体はそのローラーの腹を磁石境界に位置させる。紙幣Sは、これら搬送ローラー体の付勢を受けて搬送されるので、搬送ローラー体の腹に当たる範囲では、セキュリティースレッドSSは磁気抵抗素子214hに近接してその隔たりは規定内に収まるよう調整される。ところが、図12に示すように配置した磁気抵抗素子214hのそれぞれは、当該素子において検知感度に高低の差がないので、上記した隔たりが規定内とはいえ、磁石境界に対向する磁気抵抗素子214hからのセンサー出力(出力波形部位Pb)は、その両隣の磁気抵抗素子214hに比べて検知感度のバラツキが大きく、その感度も著しく低下した低感度部位となる。
【0045】
また、隣り合う搬送ローラー体202_1〜202_2の間では、紙幣Sの折れ癖などが関係して、これら搬送ローラー体の付勢を受けないことから湾曲して磁気抵抗素子214hから離れる場合が生じる。そして、上記の搬送ローラー体の間に位置する磁気抵抗素子214hは、既述したように検知感度に高低の差がなく、しかも、セキュリティースレッドSSは、紙幣Sの湾曲に伴い磁気抵抗素子214hから遠ざかる。このため、上記の搬送ローラー体の間の出力波形部位Pcにおける磁気抵抗素子214hのセンサー出力には、セキュリティースレッドSSが磁気抵抗素子214hに近接してその隔たりが規定内に収まっている場合のセンサー出力(図における実線出力)に比して、図中に点線で示すように、検知感度の大きなバラツキと著しい感度低下を来す。この出力波形部位Pcでの感度バラツキと感度低下は、例えば図示する二つの搬送ローラー体202_1〜202_2を連続させた一つの搬送ローラー体とすることで改善されるものの、このようにすると、紙幣Sは広い範囲に亘ってローラーの腹に接触することから、紙幣Sの搬送ジャムを招きかねない。よって、実際の紙幣搬送の際に得られる搬送ローラー体の間の領域(出力波形部位Pc)でのセンサー出力は、紙幣Sの湾曲が生じた場合は、その湾曲に伴って磁気抵抗素子214hから遠ざかったセキュリティースレッドSSの影響を受けた図中点線で示すセンサー出力となる。
【0046】
こうしたことに対処すべく、本実施例の現金自動取引装置100、詳しくはこれに搭載された紙幣識別部40では、図9で説明したように検知感度に高低の特性を有する本実施例の磁気抵抗素子214を用いた。まず、隣り合う永久磁石212の磁石境界でのセンサー検知感度のバラツキとその低下の改善について説明する。図13は図12図相当であり検知感度に高低の特性を持たせた本実施例の磁気抵抗素子214を配置した場合のセンサー出力の様子を示す説明図である。
【0047】
図示するように、隣り合う永久磁石212の磁石境界には、図9に示すようにその中央領域で高感度とされた磁気抵抗素子214を配置し、この磁気抵抗素子214の高感度域を磁石境界と向かい合わせた。その上で、この磁石境界に対して、搬送ローラー体202_1〜202_2を向かい合わせ、これら搬送ローラー体のローラーの腹を磁石境界に位置させた。よって、既述したように、搬送ローラー体の腹に当たる範囲(出力波形部位Pb)では、セキュリティースレッドSSは磁気抵抗素子214hに近接してその隔たりは規定内に収まり、磁石境界に向き合う部位では、磁気抵抗素子214は高感度であるので、図中に白抜き矢印で示すように、出力波形部位Pbでのセンサー出力は、検知感度のバラツキと感度低下において改善する。
【0048】
本実施例の紙幣識別部40では、上記した磁石境界においての磁気抵抗素子214の高感度域の配置および搬送ローラー体202_1〜202_2の向かい合わせ配置に加え、隣り合う搬送ローラー体の間については、次のようにした。図14は検知感度に高低の特性を持たせた磁気抵抗素子214の配置の様子と検知部対向搬送ローラー202の各搬送ローラー体との配置の様子とを示す説明図である。図示するように、本実施例の紙幣識別部40では、隣り合う永久磁石212の磁石境界への磁気抵抗素子214の高感度域の向かい合わせと、この磁石境界への搬送ローラー体202_2等の向かい合わせとに加え、隣り合う搬送ローラー体の間に磁気抵抗素子214の高感度域が位置するようにした。つまり、磁石境界に向かい合うことなく永久磁石212に向かい合う磁気抵抗素子214の高感度域を、隣り合う搬送ローラー体で挟むよう、搬送ローラー体を配置した。この配置により、搬送ローラー体202_1と搬送ローラー体202_2とは、磁気抵抗素子214の高感度域を挟んで隣り合って配置され、この配置関係は、隣り合う搬送ローラー体202_2と搬送ローラー体202_3、搬送ローラー体202_3と搬送ローラー体202_4、搬送ローラー体202_4と搬送ローラー体202_5、搬送ローラー体202_5と搬送ローラー体202_6、搬送ローラー体202_6と搬送ローラー体202_7についても同様である。その上で、隣り合う永久磁石212の磁石境界に向かい合う搬送ローラー体202_3と搬送ローラー体202_5とについては、これらを搬送路幅方向に長いローラー体として、低感度部位となる永久磁石212の磁石境界に向き合うようにした。
【0049】
上記したように磁気抵抗素子214の高感度域を隣り合う搬送ローラー体で挟むようにローラー体配置を採ったので、隣り合う永久磁石212の境界以外の永久磁石212の領域(出力波形部位Pa)におけるセンサー出力は、次のようになる。隣り合う搬送ローラー体202_1と搬送ローラー体202_2とを例に挙げ説明すると、当該両ローラー体の間においては、磁気抵抗素子214はその高感度域を位置させているので、上記両ローラー体の間におけるセンサー検知感度は高感度となる。よって、仮にセキュリティースレッドSSが磁気抵抗素子214に近接していれば、図中に実線で示すようにそのセンサー出力は大きく高まる。
【0050】
その一方、本実施例では、紙幣Sに対して、搬送ローラー体202_1および搬送ローラー体202_2のローラーの腹において既述したような磁気検知部210からの隔たりを調整して紙幣Sを磁気抵抗素子214に近接させるものの、上記両ローラー体の間ではその調整を解く。よって、紙幣Sは、図示するように、上記両ローラー体の間で湾曲し、これに伴いセキュリティースレッドSSは磁気抵抗素子214から遠ざかる。そうすると、磁気抵抗素子214の高感度域を配置することで感度を高めるとはいえ、このように高感度となった部位(出力波形部位Pb)において、セキュリティースレッドSSを磁気抵抗素子214から遠ざけるので、図中黒塗り矢印のように、検知感度を抑制する。このような感度抑制を図ったとしても、抑制後の感度は、磁気抵抗素子214の高感度域の隣の低感度域での検知感度と同程度の感度を得ることができる。
【0051】
以上説明したように、本実施例の現金自動取引装置100では、その搭載した紙幣識別部40において紙幣Sの磁気的な検知を行うに当たり、磁束を形成する複数の永久磁石212を隣り合う磁石ごとに磁極の向きを変えて鑑別用搬送路40Pの搬送路幅方向に沿って隣接配置し、永久磁石212ごとに複数の磁気抵抗素子214を対向配置させた。この対向配置の際には、隣り合う永久磁石212の磁石境界に磁気抵抗素子214の高感度域を向き合わせた。また、検知部対向搬送ローラー202を構成する複数の搬送ローラー体202_1〜202_7については、その一つの搬送ローラー体(搬送ローラー体202_3と搬送ローラー体202_5)を、隣り合う永久磁石212の磁石境界を含んで永久磁石212と向き合わせ、隣り合う搬送ローラー体、例えば図14に示すように搬送ローラー体202_1〜202_2を、搬送ローラー体同士の間隔が永久磁石212およびこれに対向する磁気抵抗素子214の高感度域と向き合うよう、並べて配置した。
【0052】
本実施例の現金自動取引装置100によれば、複数の永久磁石212を隣り合う磁石ごとに磁極の向きを変えて搬送路幅方向に沿って隣接配置することで、効率的に磁束を形成できる。こうして隣り合う永久磁石212の磁石境界では、既述したように磁束の強い結びつきにより磁束変化が起き難くなり、磁気抵抗素子214の検知感度の低下を来しやすい。このように感度低下が起きやすい磁石境界では、搬送ローラー体202_3と搬送ローラー体202_5をこの磁石境界を含んで永久磁石212に向かい合わせることで、紙幣SおよびセキュリティースレッドSSを磁気抵抗素子214に近接させて、セキュリティースレッドSSを磁気抵抗素子214から遠ざけないようにする。このため、磁石境界に磁気抵抗素子214の高感度域を位置させたことと相まって、磁石境界での感度低下を抑制できる(図13参照)と共に、セキュリティースレッドSSによる検知感度のバラツキを顕在化させない。
【0053】
その一方、隣り合う永久磁石212との磁石境界から離れた永久磁石212の部位では、磁束の結びつきが弱くなって磁束変化が起き易くなり磁気抵抗素子214の検知感度が過剰となり易い。つまり、磁束形成の上から上記した永久磁石212の配置を取ると、その構成の上から検知感度の高低のバラツキを生じる。その上で、本実施例では、既述した磁石境界の低感度部位では、搬送ローラー体の配置と磁気抵抗素子214の高感度域の配置とにより、感度低下の抑制とセキュリティースレッドSSによる検知感度のバラツキを顕在化の抑制を図り、高検知感度部位にあたる永久磁石212の部位では、磁気抵抗素子214の高感度域の配置による高感度化と、隣り合う搬送ローラー体の配置によるセキュリティースレッドSSの磁束変化に及ぼす影響の希釈化とにより、感度過剰を抑制できる(図14参照)。
【0054】
また、本実施例では、検知部対向搬送ローラー202を構成するそれぞれの搬送ローラー体202_1〜202_7を、紙幣Sの搬送を来すよう駆動回転するようにしたので、検知部対向搬送ローラー202による紙幣Sの搬送を図りつつ、搬送ジャムの抑制と、セキュリティースレッドSSによる検知感度のバラツキの顕在化の抑制を両立できる。検知部対向搬送ローラー202を複数の搬送ローラー体202_1〜202_7で構成することは多用されていることから、各搬送ローラー体の配置位置の変更という簡便な処置が、上記した効果を得ることに寄与する。
【0055】
次に、変形例について説明する。図15は図14相当であり検知部対向搬送ローラー202に代わる第1変形例の検知部対向ローラー300の各対向ローラー体302の配置の様子を示す説明図、図16は検知部対向搬送ローラー202に代わる検知部対向体350の各対向体352の配置の様子を示す説明図である。
【0056】
図15に示す変形例では、永久磁石212と磁気抵抗素子214の配置の様子は、既述した実施例と同じであり、検知部対向ローラー300の対向ローラー体302_1〜302_7のサイズは、検知部対向搬送ローラー202の搬送ローラー体202_1〜202_7と同じである。そして、この変形例では、検知部対向ローラー300の対向ローラー体302_1〜302_7は、隣り合う対向ローラーとシャフト304で連結され、シャフト304で連結される各対向ローラーは、重量バランスが取られた上でバネ306にて吊り下げ保持されている。こうしてバネ306にて吊り下げ保持された対向ローラー体302_1〜302_7のそれぞれは、その自重とバネ306の弾性力とのバランスから上下動可能であると共に、搬送される紙幣Sに接触することで回転するよう構成されている。そして、この対向ローラー体302_1〜302_7のそれぞれにあっても、磁気検知部210を通過する紙幣Sと磁気検知部210との隔たりを調整するよう搬送過程の紙幣Sに作用する。
【0057】
図16に示す変形例では、永久磁石212と磁気抵抗素子214の配置の様子は、既述した実施例と同じであり、検知部対向体350の対向体352_1〜352_7の紙面における左右方向、即ち搬送路幅方向のサイズは、検知部対向搬送ローラー202の搬送ローラー体202_1〜202_7のローラー高さと同じである。そして、この変形例では、検知部対向体350の対向体352_1〜352_7は、それぞれがバネ306にて吊り下げ保持されている。こうしてバネ306にて吊り下げ保持された対向体352_1〜352_7のそれぞれは、その自重とバネ306の弾性力とのバランスから上下動可能であり、磁気検知部210を通過する紙幣Sと磁気検知部210との隔たりを調整するよう搬送過程の紙幣Sに作用する。これら変形例にあっても、既述した実施例と同様の効果を奏することができる。
【0058】
図17はまた別の変形例における磁気抵抗素子214の構成を示す説明図、図18は図14相当図でありこの変形例の磁気抵抗素子214を用いた場合のその配置の様子を示す説明図である。
【0059】
図17に示すように、この変形例では、磁気抵抗素子214は、低感度磁気抵抗素子214Lと高感度磁気抵抗素子214Hとに分離され、高感度磁気抵抗素子214Hを中央にして低感度磁気抵抗素子214Lを並べると、図9に示した単一の磁気抵抗素子214に相当することになる。この高感度磁気抵抗素子214Hと低感度磁気抵抗素子214Lとは、磁気回路パターンの形成に用いる回路形成材料が相違し、高感度磁気抵抗素子214Hは、磁気変化に対する感度の高い高感度材料で磁気回路パターンが形成された素子である。低感度磁気抵抗素子214Lは、磁気変化に対する感度の低い低感度材料で磁気回路パターンが形成された素子である。そして、これら感度が高低の抵抗素子の配置に際しては、図18に示すように、低感度磁気抵抗素子214Lと高感度磁気抵抗素子214Hとを個別に配列すればよく、この変形例によっても、既述した効果を奏することができる。
【0060】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、図14〜図15では、永久磁石212と磁気抵抗素子214とを鑑別用搬送路40Pにおいて鉛直方向の下方側に位置させ、検知部対向ローラー300或いは検知部対向体350を鉛直方向の上側に位置するようにしたが、この逆に、配置することもできる。この場合には、バネ306にて検知部対向ローラー300や検知部対向体350が上下動するようこれらを下側か支えるようにし、バネ306の弾発力で検知部対向ローラー300や検知部対向体350を磁気抵抗素子214の側に上向きに付勢して、磁気抵抗素子214との隔たりを規定内に収まるようにすることもできる。なお、バネ306に代えて、弾性或いは弾発力を発揮する他の部材で検知部対向ローラー300や検知部対向体350を係合保持するようにすることもできる。
【0061】
また、上記の実施例とその変形例では、永久磁石212に磁気抵抗素子214を向かい合わせたが、磁気抵抗素子214については、磁気効果をセンサー検知原理とする磁気センサー、例えば、電流磁気電界効果、磁歪効果、磁歪の逆効果、磁気−インピーダンス効果等をセンサー検知原理とする磁気センサーを利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
30…紙幣入出金部
30a…入金部
30b…出金部
30Pa…入金用搬送路
30Pb…出金用搬送路
31…仕切板
31G…ゲート
32…押圧板
40…紙幣識別部
40P…鑑別用搬送路
40S…通過センサー
50…一時保管庫
50Pa…一時保管用搬送路
50Sa…空検知センサー
50Sb…満杯検知センサー
60…紙幣収納庫
60P…リジェクト用搬送路
70…紙幣収納庫
70P…収納用搬送路
71…紙幣用カセット
80…制御ユニット
81…主制御部
82…中央制御部
83…記憶部
84…入出金制御部
85…識別制御部
85a…データ処理部
85b…真偽識別部
86…一時保留部制御部
87…収納庫制御部
90…回線制御部
91…センサー駆動部
92…ゲート駆動部
93…搬送路モータ駆動部
94…搬送路移動量計数部
95…紙幣搬送監視部
100…現金自動取引装置
101…紙幣取扱装置
101a…上部ユニット
101b…金庫ユニット
102…硬貨取扱装置
103…通帳取扱装置
104…カード明細票取扱装置
105…顧客操作部
142…ガイドプレート
150…上流搬送ローラー対
152…下流側ローラー対
154…光学センサー
200…磁気識別ユニット
202…検知部対向搬送ローラー
202_1〜202_i…搬送ローラー体
204…回転軸
210…磁気検知部
212…永久磁石
214…磁気抵抗素子
214H…高感度磁気抵抗素子
214L…低感度磁気抵抗素子
214h…磁気抵抗素子
216…電源
218…抵抗
220…抵抗
222…比較器
224…増幅器
226…AD変換器
300…検知部対向ローラー
302_1〜302_7…対向ローラー体
304…シャフト
306…バネ
350…検知部対向体
352_1〜352_7…対向体
S…紙幣
M…磁束
MP…磁気回路パターン
SS…セキュリティースレッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
識別対象となる紙葉類の搬送路において磁束を形成し、前記紙葉類の搬送に伴う磁束変化に基づいて前記紙葉類に関する識別を行う紙葉類識別装置であって、
前記紙葉類の搬送方向と交差する搬送路幅方向に沿って設けられ、前記磁束を形成しつつ前記磁束変化を検知する磁気検知部と、
該磁気検知部を通過する前記紙葉類と前記磁気検知部との隔たりを調整するよう搬送過程の前記紙葉類に作用する複数の搬送調整部とを備え、
該複数の搬送調整部の少なくとも一つは、前記磁気検知部において前記搬送路幅方向に沿って現れる検知感度のバラツキに対応して前記搬送路幅方向に沿って配置されている
紙葉類識別装置。
【請求項2】
前記磁気検知部の検知感度が他の部位に比べて低い低感度部位において、前記搬送調整部は前記磁気検知部と向き合って配置されている請求項1に記載の紙葉類判別装置。
【請求項3】
前記磁気検知部の検知感度が他の部位に比べて高い高感度部位において隣り合う前記搬送調整部は、間隔を隔てて配置されると共に、該高感度部位を挟んで隣り合う請求項2に記載の紙葉類判別装置。
【請求項4】
請求項3に記載の紙葉類判別装置であって、
前記磁気検知部は、前記磁束を形成する複数の磁性体を隣り合う磁性体ごとに磁極の向きを変えて前記搬送路幅方向に沿って隣接配置し、磁気効果をセンサー検知原理とする複数の磁気センサーを前記磁性体ごとに対向配置して備え、
隣り合う前記磁性体の境界を前記低感度部位として、該境界を含んで前記搬送調整部を前記磁性体と向き合わせ、
隣り合う前記搬送調整部を、搬送調整部同士の間隔が前記磁性体と向き合うよう並んで配置する
紙葉類判別装置。
【請求項5】
前記搬送調整部のそれぞれは、前記搬送方向に沿った前記紙葉類の搬送を来すよう駆動回転する搬送ローラーとされている請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の紙葉類判別装置。
【請求項6】
前記搬送調整部は、前記搬送方向に沿って搬送される前記紙葉類を挟んで前記磁気検知部と対向する対向部材と、該対向部材に係合され前記磁気検知部に向けた前記対向部材の動きをもたらす弾性保持部材とを備える請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の紙葉類判別装置。
【請求項7】
隣り合う前記対向部材は、共通の前記弾性保持部材に係合されている請求項6に記載の紙葉類判別装置。
【請求項8】
前記複数の搬送調整部は、前記搬送路幅方向に沿った幅に広狭の差があり、幅広の前記搬送調整部は、前記磁気検知部の検知感度が他の部位に比べて低い低感度部位にて前記磁気検知部と向き合うように配置されている請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の紙葉類判別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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