説明

紙葉類識別装置

【課題】透過型ホトセンサの光量調節作業を不要とし、その周囲環境の変化等に起因する受光レベルの変化による検出精度の低下も回避可能な紙葉類識別装置を提案すること。
【解決手段】紙幣識別装置1では、識別対象の紙幣Pが紙幣挿入口3から挿入されて透過型ホトセンサからなる紙幣読取センサ7に到達するまでの期間において、紙幣読取センサ7のホトダイオード7bの受光レベルが予め設定されている所定レベルとなるように、その発光ダイオード7aの発光量をフィードバック制御して紙幣識別用の発光ダイオード7aの発光電流を求めている。紙幣の識別動作毎に紙幣読取センサ7の発光量が調節されるので、紙幣識別装置の出荷時等における光量調節作業が不要になる。また、周囲環境変化、経時変化などに起因する受光レベルの変化に影響されずに、常に精度良く識別動作を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙幣、商品券、クーポン券などの各種の紙葉類の種類、真偽、受入の可否などの識別を透過型ホトセンサを用いて行う紙葉類識別装置に関し、特に、組付け誤差、環境条件などに起因する透過型ホトセンサの受光レベルのばらつきを抑制して精度良く識別動作を行うように構成された紙葉類識別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透過型ホトセンサを用いた紙葉類識別装置、例えば、紙幣の識別を行う紙幣識別装置では、その出荷時に補助的なツールを用いて透過型ホトセンサの光量調節を行い、個体差、組付け誤差などに起因する検出特性のばらつきを抑制している。例えば、透過型ホトセンサの検出信号を増幅処理する信号処理回路による利得を可変抵抗など用いて調整して、検出特性のばらつきを抑制している。
【0003】
このような出荷時の調整作業を簡単に行うための提案が特許文献1に開示されている。ここに開示されている紙幣識別装置では、出荷時等において、透過型ホトセンサの信号処理回路に用いられている対数増幅回路の出力値が予め定められた値となるように調節するための補正値を算出し、算出した補正値を記憶保持するようにしている。紙幣識別時には、対数増幅回路を介して得られる透過型ホトセンサの検出信号を、記憶保持している補正値によって補正し、補正後の検出信号に基づき識別を行うようにしている。
【特許文献1】特開2001−126108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、透過型ホトセンサは周囲環境が変化するとその特性が変化し、受光レベルが変化して識別精度が低下することがある。また、受光レベルが経時変化して識別精度が低下することがある。従来の方法では、紙幣識別装置の出荷時に補助的なツールを用いてその光量調節を行うか、あるいは、特許文献1に開示されているように、出荷時などに設定された補正値を用いて受光レベルを補正している。いずれの場合においても、透過型ホトセンサの光量調節作業が必要である。また、周囲環境の変化、経時変化に起因する受光レベルの変化による影響を除去することができない。
【0005】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、透過型ホトセンサの光量調節作業を不要とし、しかも、周囲環境の変化、経時変化等に起因する受光レベルの変化による検出精度の低下も回避可能な紙葉類識別装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の紙葉類識別装置は、
識別対象の紙葉類を挿入するための挿入口と、
この挿入口に紙葉類が挿入されたことを検出するための入口センサと、
この入口センサの出力に基づき、前記挿入口から挿入された紙葉類を搬送路に沿って送り込む搬送機構と、
前記搬送路に沿って送り込まれる紙葉類に担持されている光学的情報を検出するための透過型ホトセンサと、
この透過型ホトセンサの検出信号に基づき挿入された紙葉類の真偽等を識別する識別手段と、
挿入された紙葉類が前記透過型ホトセンサに到るまでの間において、当該透過型ホトセンサのホトダイオードの受光レベルが所定値となるように、その発光ダイオードの発光量を調節する光量調節手段とを有していることを特徴としている。
【0007】
本発明では、紙幣などの紙葉類の挿入毎(識別動作毎)に自動的に透過型ホトセンサの光量調節が行われる。したがって、補助ツールなどを用いた光量調節作業が実質的に不要になる。また、識別動作毎に光量調節が自動的に行われるので、周囲環境の変化、経時変化等に影響されることのない高精度の識別動作が保証される。
【0008】
ここで、前記透過型ホトセンサの検出信号に信号処理を施して前記光量調節手段に供給する信号処理手段としては、前記検出信号を増幅するための前段増幅器および後段増幅器を備えたものを用いることができる。この場合には、前記光量調節手段は、前記前段増幅器を介して得られる前記検出信号の増幅信号に基づき前記発光量を調節することが望ましい。
【0009】
光量調節時には、紙葉類を通さずに直接に発光素子からの射出光が受光素子で受光されるので、識別時に比べて受光量が極めて大きい。このため、光量調節時に、識別時と同様に後段増幅器を介して大幅に増幅された後の検出信号を用いると、検出信号レベルが高すぎて、所謂、飽和状態に陥り、光量調節が不能となってしまう。したがって、光量調節には前段増幅器を経由した後の信号を用いて行い、識別には後段増幅器を経由した後の大幅に増幅された信号を用いて行い、ダイナミックレンジを確保することが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の紙葉類識別装置では、識別対象の紙葉類が挿入口から挿入されて識別用の透過型ホトセンサに到達するまでの間において、透過型ホトセンサの受光レベルが予め設定されている所定レベルとなるように発光量を調節している。紙葉類の識別動作毎に透過型ホトセンサの光量調節が行われるので、透過型ホトセンサの光量調節作業を出荷時などに行う必要がなくなる。また、周囲環境変化、経時変化などに起因する受光レベルの変化による識別精度の低下も防止でき、常に精度良く識別動作を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した紙幣識別装置の実施の形態を説明する。
【0012】
図1は本発明を適用した紙幣識別装置を示す全体構成図である。紙幣識別装置1は、その装置ハウジング2の前面に形成した紙幣挿入口3と、ここから挿入された紙幣Pを搬送するための紙幣搬送路4と、この紙幣搬送路4に沿って紙幣Pを搬送する紙幣搬送機構5を有している。紙幣搬送路4における紙幣挿入口3の近傍には、当該紙幣挿入口3に紙幣Pが挿入されたか否かを検出するための入口センサ6が配置されている。紙幣搬送路4の途中位置には、紙幣搬送機構5によって紙幣搬送路4に沿って搬送される紙幣Pに担持されている情報を読み取るための紙幣読取センサ7が配置されている。紙幣搬送路4の後端は排出口4aとなっており、不図示の紙幣収納部に繋がっている。また、紙幣識別装置1は、入口センサ6、紙幣読取センサ7の検出信号に基づき、挿入された紙幣の搬送制御、紙幣の識別処理を行う制御ユニット10を備えている。
【0013】
紙幣読取センサ7は、紙幣Pの光学的特徴を形成する透過光パターンを検出する透過型ホトセンサであり、発光ダイオード7aおよびホトダイオード7bが紙幣搬送路4を挟み一定のギャップで対向配置された構成となっている。紙幣読取センサとしては、紙幣Pに印刷されたインクの成分によって磁気パターンを形成する磁気的特徴を検出する磁気センサなどを併用することもできるが、説明を簡単にするために、本例においては透過型ホトセンサのみを備えているものとする。また、紙幣読取センサ7は2組の透過型ホトセンサを用いることも可能であるが、説明を簡単にするために1組の透過型ホトセンサのみを備えているものとする。なお、入口センサ6としては、ホトセンサ、メカニカルスイッチなどを用いることができる。
【0014】
図2は紙幣識別装置1の制御系を中心に示す概略構成図である。制御ユニット10は、マイクロコンピュータを中心に構成されており、紙幣Pの識別基準などが記憶保持されている記憶部11と、紙幣読取センサ7で読み取られた紙幣読取情報を記憶部11に保持されている識別基準に照合して紙幣Pの識別を行う紙幣識別部12と、紙幣読取センサ7の光量調節を行う光量調節部13と、紙幣搬送機構5の搬送モータ5aの駆動制御、光量調節部13の制御などを行う制御部14とを備えている。
【0015】
光量調節部13は、紙幣読取センサ7のホトダイオード7bの受光レベルが予め設定されている値となるように発光ダイオード7aの発光量を調整するためのものである。ホトダイオード7bの受光レベルに対応する光電変換信号は、信号処理部16において増幅処理および波形整形処理が施される。処理後の信号がA/D変換回路17を介してデジタル信号に変換された後に紙幣識別部12に供給される。
【0016】
ここで、本例の信号処理部16は前段増幅回路16aおよび後段増幅回路16bを備えており、前段増幅回路16aを介して増幅された後の検出信号がA/D変換回路18を介してデジタル信号に変換された後に光量調節部13に供給される。光量調節部13では、供給された検出信号レベルを予め定められている設定信号レベルと比較し、検出信号レベルが設定信号レベルとなるように、発光ダイオード7aの発光電流を増減させるための補正値を算出する。算出した補正値に対応する補正信号をD/A変換回路19を介して出力する。出力された補正信号は、発光ダイオード7aを点灯駆動するためのLED駆動回路20に供給される。LED駆動回路20は、補正信号によって補正された発光電流を供給して発光ダイオード7aを点灯駆動する。
【0017】
図3は信号処理部16に搭載されている前段増幅回路16aおよび後段増幅回路16bからなる増幅部の一例を示す回路図である。後段増幅回路16bの出力がA/D変換回路17を介してデジタル信号AD0に変換されて紙幣識別部12に入力され、前段増幅回路16aの出力がA/D変換回路18を介してデジタル信号AD1に変換されて光量調節部13に入力される。前段増幅回路16aを介して得られるデジタル信号AD1と後段増幅回路16bを介して得られるデジタル信号AD0は比例関係を維持するように設定されている。
【0018】
図4は紙幣識別装置1による紙幣識別処理動作を示す概略フローチャートである。この図に従って紙幣識別処理動作を説明する。まず、入口センサ6によって紙幣Pが挿入されたことを検出すると(ステップST1)、制御部14は光量調節部13を介してLED駆動回路20を駆動し、発光ダイオード7aに予め定められている発光電流を流して当該発光ダイオード7aを点灯させる(ステップST2)。
【0019】
次に、ホトダイオード7bの受光信号を信号処理部16の前段増幅回路16aを介して光量調節部13に読み込む。光量調節部13では、読み込まれた受光信号のレベルを予め設定されている信号レベルと比較し、その差を解消するための補正信号を生成し、LED駆動回路20に供給する。LED駆動回路20では補正信号に基づき発光ダイオード7aに供給する発光電流の値を増減して、発光量を増減させる。このようにして、受光レベルが所定の値となるように発光量がフィードバック制御され、識別用の発光電流値が求められる(ステップST3)。
【0020】
この後、あるいは、発光ダイオード7aの点灯と同時に、制御部14は紙幣搬送機構5を駆動して、挿入された紙幣Pを紙幣搬送路4に送り込む搬送動作を開始する(ステップST4)。
【0021】
紙幣Pが紙幣読取センサ7に到達した後は紙幣Pの読み取り処理が開始される(ステップST5→ステップST6)。すなわち、ホトダイオード7bの受光信号が、信号処理部16の後段増幅回路16bを介して取り出されて紙幣識別部12に供給される。発光ダイオード7aは算出された識別用の発光電流によって点灯駆動される。紙幣識別部12では、入力信号のレベル変化を記憶部11の識別基準と照合して、紙幣Pの識別処理を行う(ステップST7)。
【0022】
受入可能な真札であるとの識別結果がでると、紙幣搬送路4の後端の排出口4aから後段側の紙幣収納部(図示せず)に、挿入された紙幣Pが送り出され(ステップST8→ST9)、処理が終了する。これに対して、偽札などの受入不可の紙幣であると識別された場合には、紙幣搬送機構5によって紙幣Pは逆方向に送り出されて、紙幣挿入口3から排出され(ステップST8→ST10)、処理が終了する。
【0023】
以上説明したように、本例の紙幣識別装置1では、紙幣Pが挿入されて紙幣読取センサ7に到るまでの期間において、そのホトダイオード7bの受光レベルが予め定めた値になるように発光ダイオード7aの発光電流値を調節している。そして、紙幣読取時には、調節後に得られた識別用の発光電流で発光ダイオード7aを駆動するようにしている。したがって、紙幣Pの識別毎に紙幣読取センサ7の受光レベルが一定となるように調節されるので、周囲環境の変化、経時変化に起因して受光レベルが変化しても、このような変化に影響されることなく精度良く紙幣Pの光学的情報を読み取り、これに基づき精度良く紙幣の識別動作を行うことができる。
【0024】
また、本例では、発光電流の補正時には、信号処理部16の前段増幅回路16aを介した後の増幅率の小さな信号を用いており、紙幣識別時にはその後段増幅回路16bを介して得られる大きな増幅率の信号を用いている。
【0025】
発光電流の補正時(光量調節時)および紙幣識別時において同一増幅率の信号を用いると次のような問題が発生する。すなわち、増幅率が低い場合には、紙幣識別時における受光信号が極めて小さくなり、S/N比が低下し、識別が困難になってしまう。逆に、増幅率が高い場合には、紙幣が介在していない発光電流の補正時における受光信号が大きくなり過ぎて飽和状態に陥り、光量調節が不能になってしまう。したがって、双方の処理に適した増幅率の信号を得ることは困難である。
【0026】
本例では、前段増幅回路16aおよび後段増幅回路16bを備えた信号処理部16を用いているので、小さな増幅率の受光信号を用いて飽和状態に陥ることなく発光電流の補正を行うことができ、大きな増幅率の受光信号を用いてそのダイナミックレンジを確保して、S/N比を上げ紙幣の識別精度を確保することができるという利点がある。
【0027】
なお、本例では、紙幣Pが紙幣挿入口3に挿入されたことが検出されると、発光ダイオード7aを点灯して光量調節を行うようにしている。光量調節は、紙幣Pが紙幣読取センサ7に到るまでの期間内において行うことができる。例えば、この期間内において、一定のサンプリング周期で繰り返し受光信号をサンプルホールドして光量調節を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明を適用した紙幣識別装置の概略構成図である。
【図2】図1の紙幣識別装置の制御系を中心に示す概略ブロック図である。
【図3】図2の信号処理部の増幅部の一例を示す回路図である。
【図4】図1の紙幣識別装置の識別動作を示す概略フローチャートである。
【符号の説明】
【0029】
1 紙幣識別装置
2 装置ハウジング
3 紙幣挿入口
4 紙幣搬送路
4a 排出口
5 紙幣搬送機構
5a 搬送モータ
6 入口センサ
7 紙幣読取センサ
7a 発光ダイオード
7b ホトダイオード
10 制御ユニット
11 記憶部
12 紙幣識別部
13 光量調節部
14 制御部
16 信号処理部
16a 前段増幅回路
16b 後段増幅回路
17、18 A/D変換回路
19 D/A変換回路
20 LED駆動回路
P 紙幣

【特許請求の範囲】
【請求項1】
識別対象の紙葉類を挿入するための挿入口と、
この挿入口に紙葉類が挿入されたことを検出するための入口センサと、
この入口センサの出力に基づき、前記挿入口から挿入された紙葉類を搬送路に沿って送り込む搬送機構と、
前記搬送路に沿って送り込まれる紙葉類に担持されている光学的情報を検出するための透過型ホトセンサと、
この透過型ホトセンサの検出信号に基づき挿入された紙葉類の真偽等を識別する識別手段と、
挿入された紙葉類が前記透過型ホトセンサに到るまでの間において、当該透過型ホトセンサのホトダイオードの受光レベルが所定値となるように、その発光ダイオードの発光量を調節する光量調節手段と
を有していることを特徴とする紙葉類識別装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記透過型ホトセンサの検出信号に信号処理を施して前記光量調節手段に供給する信号処理手段を有し、
この信号処理手段は、前記検出信号を増幅するための前段増幅器および後段増幅器を備えており、
前記光量調節手段は、前記前段増幅器を介して得られる前記検出信号の増幅信号に基づき前記発光量を調節することを特徴とする紙葉類識別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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