説明

紙製マスキングテープ用含浸剤

【課題】良好な強度及び伸びを有し、かつ湿潤時の強度低下が改善された紙基材を与える紙製マスキングテープ用含浸剤を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル酸アルキルエステル65〜99.5質量%、イタコン酸0.1〜15質量%及び不飽和モノカルボン酸0〜20質量%をからなるモノマー成分を、乳化重合させて得られるエマルジョンを含有する、紙製マスキングテープ用含浸剤を紙に含浸させることにより、良好な強度と伸びを有し、湿潤時の強度低下が改善された紙基材を得ることが出来、当該基材を備えた紙製マスキングテープを製造することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙製マスキングテープ用含浸剤、当該含浸剤を含浸させたマスキングテープ用紙基材及び当該紙基材を備えた紙製マスキングテープに関する。
【背景技術】
【0002】
マスキングテープは、自動車の塗装、建築現場での養生や吹付塗装等の際に、塗装を施さない部分を遮蔽し、汚染を防止する等の目的で、各種被着体に貼付して使用される。一般に、マスキングテープは、和紙、クレープ紙等の紙、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、軟質塩化ビニルフィルム等の樹脂フィルム、布等を基材とし、その片面にゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤等の粘着剤層を備え、他方の面に粘着剤との剥離性を付与する剥離剤層を備えた構成を有する。マスキングテープは、通常、ロール状に巻回して製造・販売され、使用時にロール状テープから所要量を巻き戻し、切り離して被着体に貼付する。
【0003】
上記マスキング作業は、通常、手作業のため、マスキングテープには手切れ性が要求される。手切れ性の点からは、紙を基材とするマスキングテープが有利であるが、紙基材は、強度が小さく、湿潤時の強度の低下が著しい上に、伸びが比較的小さいため、曲面や凹凸のある被着体に対するマスキングテープの追従性が小さいという問題があった。これらの特性の改善のために、通常、紙基材は含浸剤で処理される。
【0004】
含浸剤としては、従来より、各種有機溶剤系樹脂や水系樹脂が使用されてきているが最近では環境面から水系樹脂が多く用いられるようになってきている。具体的には、SBR、MBR、NBRのような合成ゴムのエマルジョンや天然ゴムラテックス、アクリル系樹脂エマルジョン、酢酸ビニル系樹脂エマルジョン、塩化ビニル系樹脂エマルジョン等がある。アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂においては、それぞれ主成分となるアクリル酸エステル、酢酸ビニル、塩化ビニルとともに共重合可能な各種ビニル系モノマーを共重合させることにより特徴を持たせた樹脂エマルジョンも存在する。例えば引張強度、耐水強度の改善のためにN−メチロール(メタ)アクリルアミドのコポリマーを使用した樹脂エマルジョンが提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、N−メチロール(メタ)アクリルアミドは、反応時にホルムアルデヒドを発生するため、近年では使用に対する規制や使用の自粛が強化される傾向にある。さらに、特許文献1には、引張強度を改善するために架橋反応を行うことが有効であるとの記載があるが、架橋反応を行うと柔軟性が失われるため、バランスの取れた含浸紙を得ることは困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−279085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、良好な強度及び伸びを有し、かつ湿潤時の強度低下が改善された紙基材を与える紙製マスキングテープ用含浸剤を提供することを目的とし、また、当該含浸剤を含浸させたマスキングテープ用紙基材及び当該紙基材を備えた紙製マスキングテープを提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとイタコン酸とを特定の割合で組み合わせ、場合により不飽和モノカルボン酸をさらに組み合わせて、乳化重合させて得られるエマルジョンを含有する、紙製マスキングテープ用含浸剤により、良好な強度及び伸びを有し、かつ湿潤時の強度低下が改善された紙基材が提供可能となることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル65〜99.5質量%、イタコン酸0.1〜15質量%及び不飽和モノカルボン酸0〜20質量%からなるモノマー成分を、乳化重合させて得られるエマルジョンを含有する、紙製マスキングテープ用含浸剤に関する。本発明は、さらに、架橋剤を含有する、上記の紙製マスキングテープ用含浸剤に関する。また、本発明は、上記のいずれかの紙製マスキングテープ用含浸剤を含浸した紙製マスキングテープ用の紙基材に関し、この紙基材を備えた紙製マスキングテープに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の紙製マスキングテープ用含浸剤によれば、良好な強度及び伸びを有し、かつ湿潤時の強度低下が改善されたマスキングテープ用紙基材が提供される。本発明の紙製マスキングテープ用含浸剤を含浸した紙基材を備えた紙製マスキングテープは、手切れ性に優れ、かつ伸びも良好なため、曲面や凹凸のある被着体への追従性も優れている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の紙製マスキングテープ用含浸剤は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル65〜99.5質量%、イタコン酸0.1〜15質量%及び不飽和モノカルボン酸0〜20質量%からなるモノマー成分(モノマー成分の合計を100質量%とする)を、水性媒体中で乳化重合させて得られるエマルジョンを含有する。
【0011】
モノマー成分である(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル基は、特に限定されず、直鎖、分岐、環状のアルキル基であってよい。アルキル基は、炭素原子数1〜18のものが好適であり、より好ましくは炭素原子数1〜10の直鎖又は分岐のアルキル基である。
【0012】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、イソノニルアクリレート、イソデシルアクリレート、n−セチルアクリレート、n−ステアリルアクリレート、イソステアリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、イソオクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、イソノニルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、トリデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等が挙げられる。アルキル基が環状(例えば、炭素原子数3〜10の環状アルキル基(シクロヘキシル基等))の(メタ)アクリル酸エステルも使用することができるが、アルキル基が直鎖又は分岐の(メタ)アクリル酸エステルと併用することが好ましい。
【0013】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。柔軟性の良い紙を作る点からは、炭素原子数1〜10の直鎖又は分岐のアルキル基を有する、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの1種以上を組み合わせて用いることが好ましく、例えば、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートが挙げられる。乳化重合により得られるコポリマーについて、モノマー成分から推定されるTgが−10℃以下になるように、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを選択することが好ましい。モノマー成分から、コポリマーのTgを推定する算式は各成分のホモポリマーのTgの値から以下の式によって算出される(例えば、粘着ハンドブック第2版(日本粘着テープ工業会)、144頁参照)。
1/Tg=(W/Tg)+(W/Tg)+・・・・(W/Tg
Tgは、コポリマーのガラス転移点(K)、Tgnはモノマーnのホモポリマーのガラス移転点(K)、Wnはモノマーnの重量分率を表す。
【0014】
モノマー成分の合計100質量%中、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、65〜99.5質量%であり、イタコン酸は0.1〜15質量%である。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとイタコン酸とを組み合わせ、上記の量で使用することにより、含浸紙の引張強度と湿潤時の強度低下を大きく改善する効果がある。紙基材の湿潤時の強度低下の抑制の点からは、好ましくは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、70〜99質量%であり、より好ましくは、80〜95質量%であり、好ましくは、イタコン酸は0.5〜15質量%であり、より好ましくは、1〜10質量%である。
【0015】
本発明においては、さらに強度及び伸びの改善の点から、モノマー成分として、不飽和モノカルボン酸を使用することが好ましい。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、β−カルボキシエチルアクリレート、2−アクリロイロキシエチル−コハク酸等が挙げられる。
【0016】
不飽和モノカルボン酸は、モノマー成分の合計100質量%中、20質量%以下とすることができ、強度及び伸びの効果的な改善の点からは、好ましくは、1〜10質量%である。
【0017】
モノマー成分として、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外のモノマーを使用することができる。例えば、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、カルボン酸ビニルエステル、マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。また、(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル基が、水酸基、アルコキシ基等で置換されているものも使用することができる。これらの1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0018】
エマルジョンは、モノマー成分を乳化重合させることにより得られる。乳化重合の手段は、特に限定されるものではなく、公知の手段を使用することができる。具体的には、水を溶媒として、界面活性剤によりモノマー成分を乳化させ、重合開始剤を添加して、所定の温度で重合反応を行う方法が挙げられる。重合反応の温度、時間は、適宜、選択することができる。モノマー成分は、数回(例えば2回)に分けて投入することができ、一部を投入した時点で重合を開始してもよい。
【0019】
上記の方法において、界面活性剤は、特に限定されるものではなく、乳化重合に使用される公知の界面活性剤を使用することができる。界面活性剤は、1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0020】
界面活性剤は、非反応性界面活性剤であっても、ラジカル重合可能な基を構造中に有する反応性界面活性剤であってもよい。
【0021】
非反応性界面活性剤には、アニオン性、ノニオン性の界面活性剤が包含される。アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸塩、アルキル(アリル)スルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル硫酸塩等が挙げられ、ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー等が挙げられる。
【0022】
反応性界面活性剤には、アニオン性、ノニオン性の界面活性剤が包含される。アニオン性反応性界面活性剤としては、エーテルサルフェート型反応性界面活性剤、アルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム、リン酸エステル系反応性界面活性剤が挙げられるが、これに限定されない。
【0023】
エーテルサルフェート型反応性界面活性剤には、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩又はポリオキシアルキレンフェニルエーテル硫酸塩を基本骨格とし、重合性のアルケニル基(例えば、アリル基)、(メタ)アクリロイル基等を有する化合物が包含される。例えばラテムルPD-104、PD−105(花王株式会社製)、エレミノールRS−30、NHS−20(三洋化成工業株式会社製)、アクアロンKH−5、KH−10、KH−20(第一工業製薬株式会社製)、アデカリアソープSR−10、SR−20等(株式会社ADEKA製)がある。
【0024】
リン酸エステル系反応性界面活性剤には、アルキルリン酸エステル又は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸(塩)又はポリオキシアルキレンフェニルエーテルリン酸(塩)を基本骨格とし、重合性のアルケニル基(例えば、アリル基)、(メタ)アクリロイル基等を有する化合物が含まれる。例えばSIPOMER PZ-100(ローディア日華株式会社製)、H−3330PL、ニューフロンティアS−510(第一工業製薬株式会社製)、Maxemul6106、6112(ユニケマ社製)、アデカリアソープPP−70(株式会社ADEKA製)等がある。
【0025】
その他のアニオン性反応性界面活性剤としては、SIPOMER COPS1(ローディア日華株式会社製)、エレミノールJS-20(三洋化成工業株式会社製)、Maxemul 5010、5011(ユニケマ社製)等がある。
【0026】
一方、ノニオン性反応性界面活性剤には、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを基本骨格とし、重合性のアルケニル基(例えば、アリル基)、(メタ)アクリロイル基等を有する化合物が包含される。例えば、アデカリアソープNE−10、NE−20、NE−30、ER−10、ER−20、ER−30(株式会社ADEKA製)、ラテムルPD−420、PD−430、PD−450(株式会社花王製)、アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50(第一工業製薬株式会社製)等がある。
【0027】
一般に、アクリル酸エステルの乳化重合用の界面活性剤としては、非反応性界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテルを単独で、又は組み合わせて用いられるが、粘着製品を製造する際には、粘着特性への悪影響を低減させるために、反応性界面活性剤と組み合わせることが好ましく、より好ましくは、反応性界面活性剤のみを用いて重合を行うことが好ましく、中でもエーテルサルフェート型反応性界面活性剤を用いて重合を行うことが好ましい。
【0028】
界面活性剤の使用量は、モノマー成分全量100質量部に対して、0.5〜10質量部が好ましく、より好ましくは、1〜5質量部である。
【0029】
重合開始剤は、特に限定されず、乳化重合に使用される公知の重合開始剤を使用することができる。重合開始剤は、1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0030】
重合開始剤としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸系開始剤、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド等の有機過酸化物系開始剤、過酸化水素系開始剤と酒石酸等を併用したレドックス系開始剤、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4’−アゾビス−4−シアノ吉草酸等のアゾ系開始剤が挙げられる。アゾ系開始剤には、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリド等の水溶性アゾ系開始剤が包含される。
【0031】
重合開始剤の使用量は、モノマー成分の合計100質量部に対して、0.05〜10質量部が好ましく、より好ましくは、0.1〜5質量部である。
【0032】
重合反応に際しては、必要に応じ、連鎖移動剤、中和剤、保護コロイドを使用することができる。
【0033】
重合反応により得られるエマルジョンについて、固形分濃度を35〜60質量%とすることができ、平均粒子径を0.08〜0.8μmとすることができ、粘度10〜10000mPa・s(25℃)とすることができる。平均粒子径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置で測定したメジアン径とし、粘度は、B型粘度計で測定した値とする。
【0034】
本発明においては、エマルジョンをそのまま、含浸剤とすることもできるが、作業性及び処理量の点から、希釈により、濃度を35質量%以下にすることもできる。粘度は、好ましくは20秒以下(#3ザーンカップ、室温)、より好ましくは、13秒以下(#3ザーンカップ、室温)である。
【0035】
本発明においては、架橋剤、消泡剤、充填剤、濡れ剤、浸透剤、防腐剤、製膜助剤、染料、顔料等を、エマルジョンに添加して、場合により希釈して、含浸剤とすることができる。特に、強度改善の点から、架橋剤を添加することが有利である。
【0036】
架橋剤としては、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物、アジリジン化合物、金属錯体等が挙げられる。
【0037】
カルボジイミド化合物は、分子内にカルボジイミド結合(−N=C=N−)を有する化合物であれば、特に限定されない。カルボジイミド化合物には、カルボジライトE―01、E―02、V―02、V―04、V―06(日清紡ケミカル株式会社製)等が挙げられる。
エポキシ化合物としては、2個以上エポキシ基を含有する化合物であれば、特に限定されない。例えば、デナコール EXシリーズ(ナガセケムテックス株式会社製)、SRシリーズ(阪本薬品工業株式会社製)等を使用することができる。
オキサゾリン化合物としては、オキサゾリン基を含有するポリマーが包含される。例えば、エポクロスWS−500、700、K−1010E、K−2010E、K−3010E、K−1020E、K−1030E(株式会社日本触媒製)等を使用することができる。
イソシアネート化合物としては、2個以上イソシアネート基を含有する化合物であれば、特に限定されない。例えば、デュラネートWB40、WT20、WT30、WT50(旭化成ケミカルズ株式会社製)を使用することができる。
金属錯体としては、有機チタン化合物が挙げられ、チタンキレート化合物が好ましい。例えば、オルガチックスTC-400、300、310、315(株式会社マツモト交商製)を使用することができる。
【0038】
架橋剤の使用量は、モノマー成分の合計100質量部に対して、15質量部以下で使用することができ、好ましくは、0.05〜10質量部であり、より好ましくは、0.1〜5質量部である。
【0039】
本発明の含浸剤を用いて、マスキングテープ用の紙基材を含浸処理することができる。含浸処理は、含浸剤に紙基材を浸漬することにより行う。
【0040】
本発明の含浸剤によれば、坪量約30gの紙基材に対しての塗布量(含浸量)が乾燥重量で3〜30g/mで、強度及び伸びの改善、湿潤時の強度低下の抑制を図ることができる。塗布量(含浸量)は、好ましくは、5〜20g/mであり、より好ましくは、7〜15g/mである。
【0041】
紙基材は、特に限定されないが、中でも、和紙が好ましい。ここで、和紙とは、流し漉きの手法により、機械的に抄紙して得られる紙を意味する。和紙の原紙は、クラフトパルプを主原料とするものが好ましいが、クラフトパルプ以外に、機械的強度や耐水性の改善のために、例えば、ポリエステル繊維、ビニロン繊維、マニラ麻等の抄紙可能な繊維を併用してもよい。場合によっては、抄紙段階で、含浸処理を行ってもよい。
【0042】
含浸処理された紙基材の片面(背面)には、背面処理剤の塗布層を設けてもよい。背面処理剤は、特に限定されず、シェラック等の天然物、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合樹脂、水酸基含有脂肪族不飽和炭化水素−(メタ)アクリロニトリル共重合樹脂、ヒドロキシ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸よりなる群から選ばれる1種以上と(メタ)アクリル酸エステルとスチレンとの共重合樹脂等が挙げられる。背面処理剤の厚さは、乾燥膜厚で通常0.1〜20μm、好ましくは1〜10μmである。
【0043】
背面処理剤上には、ロール状に巻回したマスキングテープの剥離(展開)をスムーズにするために、剥離剤を塗布することもできる。剥離剤は、特に限定されない。剥離剤の塗布量は、通常0.01〜10g/m2、好ましくは0.1〜1g/m2である。
【0044】
含浸処理された紙基材の反対の面(前面)には、粘着剤層を設けることができる。粘着剤は、特に限定されず、天然ゴム系粘着剤、合成ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤等が挙げられる。粘着剤中には、顔料、染料、紫外線吸収剤、充填剤、老化防止剤、軟化剤等を配合することもできる。粘着剤の厚さは、通常5〜100μm、好ましくは10〜30μmである。
【0045】
本発明のマスキングテープは、塗装マスキングテープとしてだけでなく、例えば、梱包用のいわゆる紙粘着テープとしても好適に用いることができる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。部は質量部表示とする。
【0047】
実施例1
含浸剤の調製
温度計、コンデンサー、窒素導入管、撹拌機を備えた温度調節可能な反応容器に蒸留水200部、エーテルサルフェート型反応性界面活性剤(アクアロンKH−10:第一工業製薬(株)製)0.45部、表1に記載する10分の1の量の2−エチルヘキシルアクリレート(2−EHA)(すなわち、23.55部)、n−ブチルアクリレート(n−BA)(すなわち、3.0部)、メチルメタクリレート(MMA)(すなわち、3.0部)、イタコン酸(ITA)(すなわち、0.45部)を仕込み、窒素気流下で80℃まで昇温した後、過硫酸カリウム0.6部を蒸留水10部に溶解させた液を滴下し、10分後から、残部の2−EHA(すなわち、211.95部)、n−BA(すなわち、27.0部)、MMA(すなわち、27.0部)、ITA(すなわち、4.05部)からなる混合物を、エーテルサルフェート型反応性界面活性剤(アクアロンKH−10:第一工業製薬(株)製)4.05部、蒸留水90部に乳化分散させたモノマー乳化物を、2時間で連続的に添加し、さらに80℃で2時間反応を継続し、重合を完結させた後冷却した。アンモニア水でpH7.5に調整後、金網等で濾過し、固形分50%のエマルジョンを得た(粘度3000mPa・s(25℃)。エマルジョンの平均粒子径0.1μm)。
【0048】
含浸剤による紙基材の処理
木材パルプと少量のビニロンからなる和紙(坪量:31g/m)に、実施例1の含浸剤を浸漬により含浸させて、紙基材を調製した(乾燥重量約10g/m)。得られた紙基材及び処理前の和紙(比較例1)について、以下の評価を行った。
(1)引張強度:幅15mmとした紙基材を試料としJISZ0237に準じて測定を行った。
(2)水浸漬後の引張強度:JISP8135の一般法(浸漬)に基づき水浸漬し、浸漬後に、引張強度の測定を行った。
(3)伸び:幅15mmとした紙基材を試料としJISZ0237に準じて測定を行った。
結果を表1に示す。
【0049】
実施例2〜4、比較例2の含浸剤の調製
モノマー成分の組成を、表1の組成に変更した以外は、実施例1と同様にして、含浸剤を調製し、紙基材を処理した後、各物性を測定した。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
本発明の含浸剤によって処理した実施例の紙基材は、良好な強度及び伸びを有し、かつ湿潤時の強度低下が改善されたことがわかる。比較例2に示されるようにイタコン酸を欠く場合、強度及び伸びの改善効果は小さく、また、湿潤時の強度低下の改善幅も小さかった。
【0052】
実施例5〜11、比較例3〜5の含浸剤の調製
モノマー成分の組成を、表2の組成に変更した以外は、実施例1と同様にして、含浸剤を調製した。アクリル酸は、他のモノマーと同様に、2回に分けて投入した(1回目:表2の10分の1の量。2回目:残部)。含浸剤で紙基材を処理した後、実施例1と同様にして、各物性を測定した。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
表2から、アクリル酸を併用した実施例の含浸剤によって処理した紙基材は、強度及び伸びが一層改善したことがわかる。しかしながら、比較例3〜5に示されるように、イタコン酸との併用でなければ、改善効果は薄かった。特に、イタコン酸との併用の場合に水湿潤後の強度低下の抑制効果が高いことがわかる。
【0055】
実施例12〜20の含浸剤の調製
モノマー成分の組成を、表3の組成に変更し、エマルジョンを得た後、架橋剤を表3の量で配合した以外は、実施例1と同様にして、含浸剤を調製した。含浸剤で紙基材を処理した後、実施例1と同様にして、各物性を測定した。結果を表3に示す。
【0056】
【表3】

【0057】
実施例21〜29の含浸剤の調製
モノマー成分の組成を、表4の組成に変更し、エマルジョンを得た後、表4に示す架橋剤3質量部を配合した以外は、実施例1と同様にして、含浸剤を調製した。含浸剤で紙基材を処理した後、実施例1と同様にして、各物性を測定した。結果を表4に示す。
【0058】
【表4】

【0059】
表3及び4から、架橋剤を配合した実施例の含浸剤によって処理した紙基材は、強度が顕著に向上する一方、柔軟性(伸び)は損なわれにくいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の紙製マスキングテープ用含浸剤によれば、良好な強度及び伸びを有し、かつ湿潤時の強度低下が改善されたマスキングテープ用紙基材が提供されるため、産業上有用である。本発明の紙製マスキングテープ用含浸剤を含浸した紙基材を備えた紙製マスキングテープは、手切れ性に優れ、かつ伸びも良好なため、曲面や凹凸のある被着体への追従性も優れており、利便性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル65〜99.5質量%、イタコン酸0.1〜15質量%及び不飽和モノカルボン酸0〜20質量%からなるモノマー成分を、乳化重合させて得られるエマルジョンを含有する、紙製マスキングテープ用含浸剤。
【請求項2】
さらに、架橋剤を含有する、請求項1記載の紙製マスキングテープ用含浸剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載の紙製マスキングテープ用含浸剤を含浸した紙製マスキングテープ用の紙基材。
【請求項4】
請求項3記載の紙基材を備えた紙製マスキングテープ。

【公開番号】特開2011−206701(P2011−206701A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77552(P2010−77552)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000004020)ニチバン株式会社 (80)
【Fターム(参考)】