紙製品のマーキング法

紙製品にマーキングをする方法およびマーキングされた紙製品が提供される。一部の方法は、紙の官能基化を変更するために紙製品を照射する工程を含む。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2009年10月14日に提出された米国仮出願第61/251,633号に対して優先権を主張するものである。この仮出願の全内容の開示は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本発明は、通貨などの紙製品をマーキングする方法およびシステム、ならびにその方法およびシステムにより製造された製品に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
本明細書での使用において、「紙」という用語は、書き物、印刷、梱包、および他の応用に使用される多種多様のセルロースに基づくシート材を意味する。紙は、制限するものではないが、例えば、下記の応用に使用されてもよい:紙幣、銀行紙幣、株券、社債券、小切手、郵便切手などとして;本、雑誌、新聞、および美術品において;例えば板紙、段ボール、紙袋、封筒、包装用ティッシュ、箱など、梱包のために;トイレットペーパー、ティッシュ、紙タオル、紙ナプキンなどの家庭用品において;複合材料においてコア材料として使用されるペーパーハニカム;建築材料;厚いパルプ紙;使い捨て衣料;並びにエメリー研磨紙、紙やすり、吸い取り紙、リトマス試験紙、広域指示薬試験紙、濾紙クロマトグラフィー、電池セパレーター、およびコンデンサー絶縁体などを含む様々な工業的用途において。
【0004】
一部の応用において、例えば紙が通貨やその他の経済的用途に使用される場合、肉眼では見えないおよび/または偽造者が容易に作り出すことのできない特別なマーキングで、紙に「マーク」または「タグ」を付けられることがよく望ましいとされる。マーキングは、例えば、通貨、美術品、および他の貴重な書類の偽造を防いだり検出したりするために使用することができる。また、例えば通貨が盗まれたり、犯罪取引に使用された場合にそれを追跡および/または特定できるようにするために、マーキングを通貨に用いることもできる。
【発明の概要】
【0005】
概要
本発明は、適切なレベルで紙を照射することにより、照射された紙の官能基化を変化させることができ、それにより、例えば赤外分光法(IR)またはその他の手法でその紙と照射を受けていない紙とを識別できるようにするという発見に部分的に基づく。場合によって、この紙は別の作業条件下で照射された紙とも識別可能である。その結果、通貨などの紙製品は、本明細書に記載の方法により「マーキング」されてもよい。一部の実行において、マーキングは肉眼では見えず、例えば、機械を用いて検出される。他の実行においては、マーキングは肉眼で見える。一般的にマーキングは、比較的精巧な機器無しには複製が難しく、その結果偽造をより難しくしている。
【0006】
「官能基化」とは、紙の上または中に存在する官能基を意味する。
【0007】
一つの側面において、本発明はマーキングされた紙製品を製造する方法を特徴とする。一部の方法は、紙製品の少なくとも一部の官能基化を変更するために選択された条件下で紙製品を照射する工程を含む。
【0008】
一部の実行は一つ以上の下記の特徴を含む。紙は電離放射線を照射されてもよい。電離放射線の線量は、例えば、少なくとも0.10 MRad、その例としては少なくとも0.25 MRadであり得る。電離放射線の線量は、約0.25〜約5 MRadのレベルに制御可能である。照射する工程は、γ線および/または電子ビーム線での照射、または他の粒子を照射する工程を含み得る。電子ビーム中の電子は、少なくとも0.25 MeV、例えば約0.25 MeVから約7.5 MeV、のエネルギーを持つことができる。
【0009】
該方法は、更に、照射された紙製品をクエンチする工程を含み得る。例えば、照射された紙製品中に存在するラジカルと反応するように選択された気体の存在下でクエンチを実施することができる。
【0010】
場合によって、紙製品のほんの一部が照射される。場合によって、照射された面の一部のみ、または紙製品全体の一部のみがクエンチされる。例えば、マーキングおよび/またはクエンチしないままにする面は覆うことができる。
【0011】
照射は、紙製品を形成する最中に実施されてもよい。形成は、パルプ材料を湿ったペーパーウェブとして融合する工程を含み得る。照射は、湿ったペーパーウェブに実施してもよいし、湿ったペーパーウェブが形成される前に実施してもよい。形成は、更に、湿ったペーパーウェブを乾燥させる工程を含んでいてもよく、乾燥した後に照射が実施されてもよい。一部の実行においては、粉末、顆粒、化学溶液、染料、インク、または気体を、単独または組み合わせて、紙が形成される前、最中、または後に適用することができる。
【0012】
別の側面において、本発明は、マーキングされた紙製品が得られるもととなった天然に存在するセルロース系またはリグノセルロース系繊維状材料には存在しない官能基を含むセルロース系またはリグノセルロース系繊維状材料を含むマーキングした紙製品を特徴とする。
【0013】
紙製品中のセルロース系またはリグノセルロース系材料は、例えば、木材および再生紙由来の繊維;綿、麻、リネン、イネ、サトウキビ、バガス、わら、竹、ケナフ、ジュート、および亜麻などの植物繊維材料、ならびにその混合物からなる群より選択することができる。一部の態様において、更に、金属または無機繊維は、セルロース系またはリグノセルロース系材料と共に含まれていてもよく、または照射されている紙製品の一部に含まれていてもよい。
【0014】
更なる側面において、本発明は、紙製品がマーキングされているかを確認する方法を特徴とする。該方法は、試料紙製品の官能基化を、マーキングされた紙製品の官能基化と比較する工程を含む。
【0015】
場合によっては、該方法は、赤外分光法(IR)を用いて試料紙製品の官能基化を決定する工程を含む。該方法は、試料紙製品中に存在するカルボン酸基の数をマーキングされた紙製品に存在するカルボン酸基の数と比較する工程を含み得る。
【0016】
場合によっては、官能基化は、原子間力顕微鏡(AFM)、化学力顕微鏡(CFM)、または電子スピン共鳴(ESR)を用いて決定される。
【0017】
紙製品は、例えば、通貨または芸術作品であり得る。
【0018】
本明細書に開示される任意の方法において、官能基化は紙に存在するカルボン酸基の数を増やすことを含んでもよい。カルボン酸基の数は、滴定により決定される。
【0019】
照射された材料は、更にアルデヒド基、ニトロソ基、ニトリル基、ニトロ基、ケトン基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキル基、クロロアルキル基、クロロフルオロアルキル基、およびエノール基からなる群より選択される官能基を含んでいてもよい。
【0020】
一部の実行において、照射された材料は、分子鎖状に配置された複数のサッカライド単位を含んでもよく、約5個に1個から約1500個に1個のサッカライド単位がニトロソ、ニトロ、またはニトリル基を含む。例えば、各鎖の約10個に1個から約1000個に1個のサッカライド単位がニトロソ、ニトロ、またはニトリル基を含むか、または各鎖の約35個に1個から約750個に1個のサッカライド単位がニトロソ、ニトロ、またはニトリル基を含む。場合によっては、照射された材料は、ニトリル基とカルボン酸基の混合物を含む。
【0021】
ある態様において、サッカライド単位は、実質的にカルボン酸基、ニトリル基、ニトロソ基、またはニトロ基など、1種類の基のみを含むことができる。
【0022】
本明細書において使用される「紙」という用語は、セルロース含有シート材およびセルロースを含む複合シート材を含むことを意図する。例えば、紙は、プラスチックマトリックス中のセルロース、または添加物もしくは結合材と組み合わせたセルロースを含んでもよい。
【0023】
本明細書において開示される任意の方法において、放射線は、半円筒形の容器に納められた装置により照射されてもよい。
【0024】
別段の定義がなければ、本明細書において用いられる全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書において記述されるものと同様または同等の方法および材料を本発明の実践または試験において用いることができるが、適当な方法および材料を以下に記述する。本明細書において言及される全ての刊行物、特許出願、特許、およびその他の参考文献は、その全てが参照により本明細書に組み入れられる。矛盾がある場合には、定義を含む本明細書が優先する。更に、材料、方法、および例は、本発明を説明するためのみのものであり、本発明を限定するものではない。
【0025】
本発明の他の特性および利点は、下記の詳細な説明および請求項より明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】製紙システムを図式的に表示したものである。
【図2】繊維材料の分子構造および/または超分子構造の変化を示す図である。
【図3】コンクリート製の半円筒形の容器内に設置されたガンマ照射器の透視・断面図である。
【図4】図3の領域Rの拡大透視図である。
【図5】DC加速装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明の詳細な説明
上述のとおり、本発明は、繊維状材料を照射することにより、即ち適切なレベルでセルロース系およびリグノセルロース系材料を照射することにより、繊維状材料の少なくともセルロース系部分の分子構造を変化させることができ、繊維状材料の官能基化を変化させることができるという発見に部分的に基づく。紙へのマーキングに加えて、官能基化の変更は、紙製品の表面特性に好ましい影響を及ぼすことができ、その例としては、コーティング、インク、および染料に対する表面の受容性である。
【0028】
更に、分子構造の変化は、セルロース系部分の平均分子量、平均結晶度、表面積、重合、多孔性、分枝、切継ぎ、および領域サイズの任意の一つ以上の変化を含むことができる。その結果、これらの分子構造における変化は、繊維状材料により示される物理学的特性に好ましい変化をもたらすことができる。このような変化は、2009年4月3日に提出された米国出願番号第12/417,707号に詳しく記述されており、その全開示は参照により本明細書に組み入れられる。
【0029】
製紙工程の一つ以上の選択された段階において放射線を適用することができる。場合によっては、照射は、紙を作り上げているセルロース系繊維の強度を増加させることにより紙の強度および引裂き抵抗を向上させる。加えて、セルロース系材料を放射線で処理することにより、材料を殺菌することができ、これにより紙がカビや白カビなどの成長を促進する傾向を減少させることができ得る。照射は、一般的には、採用される放射線の種類を選択する、および/または、適用される放射線の線量を選択することにより、特定の適用のために最適な条件を提供するように制御され、予定された方法で実施される。
【0030】
低線量の電離放射線は、例えばパルプ製造の後ならびにパルプ化された繊維を融合しウェブとする前;湿った繊維ウェブに;乾燥中または乾燥後のペーパーウェブに;または乾燥させたペーパーウェブに、例えばサイズ設定、コーティング、カレンダー加工などその後の加工工程の前、その最中、またはその後に適用することができる。一般的には、ウェブの含水量が比較的低い状態のときに放射線を適用することが好ましい。図1に示した例において、照射は、乾燥と仕上げの最中、例えばサイズ設定、乾燥、プレス、およびカレンダー加工操作の合間、または加工後の時点、例えばロール、スリットロール、またはシート状の完成した紙に実施することができる。
【0031】
上記のとおり、ある態様において、放射線は、製造工程中の複数の時点で適用される。例えば、電離放射線は、パルプを形成するために、またはパルプの形成を助けるために比較的高い線量で使用されてもよく、その後、紙の官能基化を変更させるために比較的低い線量で使用されてもよい。望まれる場合、部分的にもろくした部分を作り出すため、例えば引裂きゾーンを提供するために、仕上がった紙に対してペーパーウェブの選択された部分に高線量の放射線を適用することができる。
【0032】
実際問題として、既存の技術を用いた場合、一般的には、照射する工程を製紙プロセス中、パルプ製造の後で製紙機械にパルプを導入する前、ウェブが製紙機械から出た後、典型的には乾燥およびサイズ設定後、またはウェブを最終的な産物に加工する最中またはその後に統合することが最も望ましい。場合によっては、仕上げられたまたは既存の紙製品、例えば通貨、美術品、または文書を照射することにより製品をマーキングすることができる。しかしながら、上述のとおり、照射は、工程中の任意の所望の段階で実施されてよい。
【0033】
材料の官能基に影響を及ぼすための照射工程
一つ以上の電離放射線、例えばフォトニックな放射線(例えば、X線またはγ線)、e-ビーム放射線、またはプラスまたはマイナス電荷を帯びた電子よりも重い粒子(例えば、プロトンまたは炭素イオン)による照射で処理を行うと、紙がイオン化する;即ち、紙は、例えば電子スピン共鳴分光器で検出可能なレベルでラジカルを含む。イオン化後、紙をクエンチし、例えば、電子スピン共鳴分光器ではラジカルが検出できないレベルまでに、イオン化された材料中のラジカルの量を減少させることができる。例えば、充分な圧力をイオン化された材料に適用すること、および/またはラジカルと反応する(ラジカルをクエンチする)気体または液体などの流体をイオン化された材料と接触させることにより、ラジカルをクエンチすることができる。少なくともラジカルをクエンチすることを補助し、イオン化された材料を所望の官能基で官能基化するために、様々な気体、例えば窒素もしくは酸素、または液体を使用することができる。従って、照射後のクエンチは、例えば一つ以上の下記の官能基を含む所望の官能基を有するパルプまたは紙を提供するために使用されてもよい:アルデヒド基、エノール基、ニトロソ基、ニトリル基、ニトロ基、ケトン基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキル基、クロロアルキル基、クロロフルオロアルキル基、および/またはカルボン酸基。これらの基は、材料においてそれらが存在する領域の親水性を増加させる。一部の実行において、ペーパーウェブは、コーティングおよびカレンダ加工などの処理段階の前または後に、照射されクエンチされることにより、紙の内部および/または表面の官能基化に影響を与え、それによりその紙のインク受容性および他の性質に影響を与える。
【0034】
図2は、電離放射線、例えば、材料をイオン化して最初のレベルのラジカルを提供するのに充分なエネルギーを有する電子またはイオン、を用いて繊維状材料を前処理することにより、紙の原料、紙の前駆体(例えば、湿ったペーパーウェブ)、または紙などの繊維状材料の分子構造および/または超分子構造を変化させる工程を示す。図2に示すように、イオン化された材料が空気に残留した場合、それは例えば空気中の酸素との反応によりカルボン酸基が形成されるという程度にまで酸化される。ラジカルは照射後しばらくの間、例えば、1日、5日、30日、3ヶ月、6ヶ月よりも長く、または更に1年よりも長く「存在」することができるため、材料の性質は時間と共に変化し続けることが可能であり、これは望ましくない場合がある。
【0035】
電子スピン共鳴分光法により照射された試料中のラジカルを検出する工程および、そのような試料におけるラジカルの寿命は、Bartolotta et al., Physics in Medicine and Biology, 46(2001), 461-471およびBartolotta et al., Radiation Protection Dosimetry, Vol. 84, Nos. 1-4, pp. 293-296 (1999)において考察されている。図2に示すように、イオン化された材料をクエンチすることによりイオン化された材料に官能基を持たせる、および/または、イオン化された材料を安定化させることができる。
【0036】
一部の態様において、クエンチする工程は、例えば材料を機械的に変形させることにより、イオン化された材料に圧力をかけることを含み、その例としては、1、2、または3次元で材料を直接機械的に圧縮する工程、または等方加圧など材料が浸されている流体に圧力をかける工程が挙げられる。例えば、ニップに紙を通すことにより、圧力をかけてもよい。そのような場合、材料そのものの変形が、しばしば結晶性領域に捕捉されているラジカルを、それらが再度組み合わさるか、または別の基と反応するのに十分な近さに引き寄せる。場合によって、圧力は熱とともに加えられ、熱の量の例としては、リグニン、セルロース、またはヘミセルロースなどのイオン化された材料の成分の融点または軟化点よりも高い温度まで材料の温度を上昇させるのに十分な熱の量が挙げられる。熱は、材料中の分子の可動性を改善させることができ、これはラジカルをクエンチする工程を補助することができる。クエンチに圧力が利用される場合、圧力は約1000 psiよりも大きくてもよく、例えば約1250 psi、1450 psi、3625 psi、5075 psi、7250 psi、10000 psiよりも大きく、または更に15000 psiよりも大きくてもよい。
【0037】
一部の態様において、クエンチする工程は、イオン化された材料を液体または気体などの流体に接触させる工程を含み、ラジカルと反応することが可能な気体の例としては、アセチレン、または窒素、エチレン、塩素化エチレン、またはクロロフルオロエチレン中のアセチレンの混合物、プロピレン、またはこれらの気体の混合物などが挙げられる。他の特定の態様において、クエンチする工程は、イオン化された材料を液体と接触させる工程を含み、液体の例としては、イオン化された材料に溶解可能または少なくとも浸透することが可能であり、1,5-シクロオクタジエンなどのジエン等のラジカルと共に反応できる液体が挙げられる。一部の特定の態様において、クエンチする工程は、イオン化された材料をビタミンEなどの抗酸化剤と接触させる工程を含む。望まれる場合は、材料はそれに分散された抗酸化剤を含むこともでき、クエンチする工程は、材料中に分散された抗酸化剤をラジカルと接触させることにより行われてもよい。
【0038】
クエンチ工程のための他の方法も可能である。例えば、その全開示が参照により本明細書に組み入れられるMuratogluらの米国特許公報第2008/0067724号およびMuratogluらの米国特許第7,166,650号に記載のポリマー材料中のラジカルをクエンチする任意の方法は、本明細書に記載の任意のイオン化された材料をクエンチする工程に利用できる。更に、任意のクエンチ剤(上記Muratogluによる開示においては「増感剤」と記載されている)および/またはいずれのMuratoglu文献にも記載の任意の抗酸化剤は、任意のイオン化された材料をクエンチするために利用可能である。
【0039】
また、電荷をもつ重イオンを利用することにより官能基化を高めることができる。例えば、酸化を強めることが望ましい場合、電荷を持つ酸素イオンを照射に用いることができる。窒素官能基が望まれる場合、窒素イオンまたは窒素を含む任意のイオンを利用できる。同様に、硫黄またはリン官能基が望まれる場合、照射において硫黄またはリンイオンを使用できる。
【0040】
一部の態様において、クエンチ後、クエンチされた材料は更に一つ以上の線量の放射線、例えば電離または非電離放射線で処理されてもよい、および/または更なる分子構造および/または超分子構造の変化のために酸化されてもよい。
【0041】
一部の態様において、繊維状材料は、クエンチ工程を行う前に、ヘリウムやアルゴンなどの不活性ガスの層の下で照射される。
【0042】
官能基の位置は、例えば特定の電離粒子の種類および線量を選択することにより、制御することができる。例えば、ガンマ線は紙の内部の分子の官能基化に影響を及ぼす傾向があり、電子ビーム放射線は、表面に存在する分子の官能基化に優先的に影響を及ぼす傾向がある。
【0043】
場合によって、材料の官能基化は、別のクエンチ段階の結果ではなく、照射と同時に起こり得る。この場合、官能基の種類および酸化の程度は、様々な方法で影響される可能性があり、その例としては、照射される材料にかぶせる気体であって照射ビームが通過する気体の制御が挙げられる。適した気体としては、窒素、酸素、空気、オゾン、二酸化窒素、二酸化硫黄、および塩素が含まれる。
【0044】
一部の態様において、官能基化は繊維状材料中のエノール基の形成をもたらす。繊維状材料が紙の場合、これは、インク、接着剤、コーティング等に対する紙の受容性を高めることができ、グラフト位置を提供できる。エノール基は、特に追加の塩基または酸の存在下、分子量の縮小を助けることができる。従って、そのような基の存在はパルプ製造を補助できる。完成した紙製品において、pHは一般的に中性に十分近いため、これらの基は悪影響となる分子量の低下はもたらさない。
【0045】
マスキング
場合によっては、例えば「透し」を作るため、または通貨に書かれた「E」などの紙に印刷された特定の記号を照射するために、紙製品のほんの小さい面積を照射および/またはクエンチすることが望ましいと考えられる。このような場合、マーキングがされないままとなる紙製品の残りの部分は、覆う(マスクする)ことができる。
【0046】
ほんの小さい部分が照射される場合、残りの部分は鉛または他の重金属などの放射線不透過性材料でマスクされる。マーキングを防ぐために、マスクは、放射線の通過を予防するか、または通過する放射線を十分に減少させるのに足りる十分な厚みがあるべきである。特定の記号、例えば通貨に書かれたE、にマーキングすることが望まれる場合、紙製品はマスクと位置を合わせる必要があり、マーキングされる記号がマスクの開き口と合うようにするべきである。そのようなマスキングのための技術は、例えば半導体産業においては公知である。
【0047】
ほんの小さい部分がクエンチされる場合、紙製品の残りの部分はクエンチ工程の最中、例えばクエンチ工程に用いる液体または気体と紙製品との接触を阻害する材料でマスキングされていてもよい。
【0048】
流体中における粒子ビーム露光
場合によって、紙またはそのセルロース系またはリグノセルロース系出発物質は、一つ以上の追加の流体(例えば、気体および/または液体)の存在下で粒子ビームに露光されてもよい。一つ以上の追加の流体の存在下で材料を粒子ビームに露光させることにより、処理の効率を高めることができる。
【0049】
一部の態様において、材料は空気などの流体の存在下で粒子ビームに露光される。例えば、加速装置内で加速された粒子は、排出ポート(例えば金属ホイルなどの薄膜)を介して加速装置から対となって排出され、流体の占める空間体積中を通過した後、材料に投射されてもよい。材料を直接処理するのに加えて、一部の粒子は、流体粒子(例えば、オゾンや酸化窒素などの様々な空気の構成物質より発生されるイオンおよび/またはラジカル)と相互作用することにより追加の化学種を発生する。これら発生した化学種も材料と相互作用できる。例えば、作り出された任意の酸化剤は、材料を酸化することができる。
【0050】
特定の態様において、材料にビームが投射される前に、粒子ビームの進路に追加の流体を選択的に導入することができる。上述のとおり、ビームの粒子と導入された流体の粒子との間の反応は、追加の化学種を作り出すことができ、これは材料と反応して材料を官能基化する工程、および/または、材料の特定の性質を選択的に変化させる工程を補助することができる。一つ以上の追加の流体は、例えば供給チューブからビームの進路に向けることができる。導入される流体の方向および流速は、処置全体の効率を制御するのに望ましい露光速度および/または方向に従って選択できる。これは粒子に基づく処理からもたらされる効果、および材料と導入された流体より動的に発生した種の相互作用による効果の両方を含む。空気に加えて、イオンビームに導入可能な例示的流体には、酸素、窒素、一つ以上の希ガス、一つ以上のハロゲン、および水素が含まれる。
【0051】
照射された材料の冷却
上記の材料を電離放射線で処理している最中、特に毎秒0.15 Mradより高い率、例えば0.25 Mrad/s、0.35 Mrad/s、0.5 Mrad/s、0.75 Mrad/s、または1 Mrad/sよりも更に高い値などの高い線量率の場合、材料は有意な量の熱を保持することができ、そのため材料の温度は上昇する。より高い温度は、一部の態様、例えばより速い反応速度が望ましい場合においては有利となるが、架橋および/またはグラフト工程などの電離放射線により開始された化学反応に対する制御を保持するために、加熱を制御することが有利である。
【0052】
例えば、一つの方法において、材料は第一の温度で光子、電子、またはイオン(例えば、一価または多価陽イオンまたは陰イオン)などの電離放射線で、材料の温度を第一の温度よりも高い第二の温度に上昇させるために十分な時間および/または十分な線量で照射される。照射された材料は次に、第二の温度よりも低い第三の温度まで冷却される。望まれる場合、冷却された材料は、例えば電離放射線などの放射線を用いて一回以上処理されてもよい。望まれる場合、各放射線処理の後および/またはその最中に、冷却工程を材料に適用することができる。
【0053】
冷却は、一部の場合、材料を、気体窒素などの、第一または第二の温度よりも低い温度の気体などの流体と、約77Kで接触させる工程を含む。名目上の室温(例えば25℃)よりも低い温度の水、などの水さえも、一部の実行において利用することができる。
【0054】
放射線の種類
放射線は、例えば1)α粒子などの重荷電粒子;2)例えば、ベータ崩壊または電子ビーム加速装置により作り出される電子;または3)例えば、ガンマ線、X線、または紫外線などの電磁放射線、により提供され得る。放射線の異なる形態は、放射線のエネルギーによって決定されるような特定の相互作用を介してセルロース系またはリグノセルロース系材料をイオン化する。
【0055】
重荷電粒子は、ヘリウム原子の核と同一であり、ビスマス、ポロニウム、アスタチン、ラドン、フランシウム、ラジウム、いくつかのアクチニド、例えば、アクチニウム、トリウム、ウラン、ネプツニウム、キュリウム、カリフォルニウム、アメリシウム、およびプルトニウムの同位体などの種々の放射性核のアルファ崩壊によって生じるアルファ粒子を含む。
【0056】
電子はクーロン散乱、および電子の速度の変化によって生じた制動放射を介して相互作用する。電子は、ヨウ素、セシウム、テクネチウム、およびイリジウムの同位体などのベータ崩壊を受ける放射性核によって生じ得る。別法として、電子ガンを、熱イオン放射を介して電子源として用いることができる。
【0057】
電磁放射線は3つのプロセス:光電気吸収、コンプトン散乱、および対生成を介して相互作用する。支配的な相互作用は、入射放射線のエネルギーおよび材料の原子番号によって決定される。セルロース系材料における吸収された放射線に貢献する相互作用の合計は、質量吸収係数によって表すことができる。
【0058】
電磁放射線はその波長に応じて、ガンマ線、X線、紫外線、赤外線、マイクロ波、またはラジオ波として下位分類される。
【0059】
図3および4(領域Rの拡大図)を参照すると、ガンマ照射器10はガンマ放射線源408、例えば、60Coペレット、材料が照射されるように保持するためのワーキングテーブル14、例えば、複数の鉄板から形成されたリザーバ16を含み、それによりガンマ放射線が提供され得る。その全ての構成部分は、鉛でライニングされたドア26を超えて迷路入口22を含むコンクリート封じ込めチャンバー(半円筒形の容器)20に収容されている。リザーバ16は複数のチャネル30、例えば、16以上のチャネルを含み、ガンマ放射線源がワーキングテーブルに近い、途中のリザーバを通過するのを可能とする。
【0060】
操作において、照射されるべき試料をワーキングテーブルの上に置く。照射器は所望の線量率を送達するように配置され、モニタリング機器は実験ブロック31に連結される。次いで、オペレーターは封じ込めチャンバーを離れ、迷路入口を通り、そして鉛でライニングされたドアを通る。オペレーターは制御パネル32を受け持ち、コンピューター33が、水力ポンプ40に付着されたシリンダー36を用いて放射線源12を作動位置まで持ち上げるように指示する。
【0061】
ガンマ放射線は、有意な貫入深さの利点を有する。ガンマ線の源はコバルト、カルシウム、テクネチウム、クロム、ガリウム、インジウム、ヨウ素、鉄、クリプトン、サマリウム、セレン、ナトリウム、タリウム、およびキセノンの同位体などの放射性核を含む。
【0062】
X線の源はタングステンまたはモリブデンまたは合金などの金属ターゲット、またはカルフォルニア州 Palo AltoのLyncean Technologies社によって商業的に生産されたものなどのコンパクトな光源との電子線衝突を含む。
【0063】
紫外線放射線の源は重水素またはカドミウムランプを含む。
【0064】
赤外線放射線の源はサファイア、亜鉛、またはセレン化物ウィンドウセラミックランプを含む。
【0065】
マイクロ波のための源はクリストロン、SlevinタイプのRF源、または水素、酸素、または窒素ガスを使用する原子線源を含む。
【0066】
一部の態様において、電子線を放射線源として用いる。電子線は高い線量率(例えば、毎秒1、5、またはさらには10 Mrad)、高いスループット、より少ない封じ込め、およびより少ない閉じ込め機器の利点を有する。電子は分子鎖切断を引き起こすのにより効果的でもあり得る。加えて、4〜10MeVのエネルギーを有する電子は、40mmなどの5〜30mm以上の貫入深さを有することができる。
【0067】
原子線は、例えば、静電気発生器、カスケード発生器、変換発生器、走査系を持つ低エネルギー加速装置、線形陰極を持つ低エネルギー加速装置、線形加速装置、およびパルス加速装置によって生成させることができる。電離放射線源としての電子は、例えば、0.5インチ未満、例えば、0.4インチ未満、0.3インチ、0.2インチ、または0.1インチ未満の比較的薄い材料で有用であり得る。一部の態様において、電子線の各電子のエネルギーは約0.25 MeV〜約7.5 MeV(100万電子ボルト)、例えば、約0.5 MeV〜約5.0 MeV、約0.7 MeV〜約2.0 MeVである。電子線照射デバイスは、Ion Beam Applications, Louvain-la-Neuve, BelgiumまたはTitan Corporation, SanDiego, CAから商業的に入手することができる。典型的な電子エネルギーは1 MeV、2 MeV、4.5 MeV、7.5 MeVまたは10 MeVであり得る。典型的な電子線照射デバイス電力は1 kW、5 kW、10 kW、20 kW、50 kW、100 kW、250 kW、または500 kWであり得る。典型的な線量は1 kGy、5 kGy、10 kGy、20 kGy、50 kGy、100 kGy、または200 kGyの値をとることができる。
【0068】
電子線照射デバイス電力仕様を考えるに当たってのトレードオフは、稼働コスト、資本コスト、減価償却、およびデバイス設置面積を含む。電子線照射の曝露線量レベルを考えるに当たってのトレードオフは、エネルギーコストならびに環境、安全性、および健康(ESH)懸念である。発電機は典型的には、例えば鉛またはコンクリート製の半円筒形の容器に納められている。
【0069】
電子線照射デバイスは固定されたビームまたは走査ビームのいずれかを生じさせることができる。これは大きな固定されたビーム幅を効果的に置き換えるため、走査ビームは大きな走査掃引長および高い走査スピードであると有利であり得る。さらに、0.5 m、1 m、2 mまたはそれ以上の利用可能な掃引幅が利用できる。
【0070】
照射が電磁放射線で行われる態様において、電磁放射線は、例えば、102 eVよりも大きい、例えば、103、104、105、106よりも大きな、またはさらには107 eVよりも大きな、(電子ボルトで表した)光子当たりのエネルギーを有することができる。いくつかの態様において、電磁放射線は104および107の間、例えば、105および106 eVの間の光子当たりのエネルギーを有する。電磁放射線は、例えば、1016 hzよりも大きな、1017 hz、1018、1019、1020よりも大きな、またはさらには1021 hzよりも大きな周波数を有することができる。いくつかの態様において、電磁放射線は1018および1022 hzの間、例えば、1019および1021 hzの間の周波数を有する。
【0071】
上記の放射線源を用いて作り出されたイオンを加速させるために使用することが可能な加速装置の一種は、Dynamitron(登録商標)である(例えば、Radiation Dynamics社、現在はIBA, Louvain-la-Neuve, Belgiumの一部門、より入手可能)。Dynamitron(登録商標)加速装置1500の模式図は図5に示されている。加速装置1500は、注入装置1510(イオン源を含む)、ならびに複数の環状電極1530を含む加速カラム1520を含む。注入装置1510とカラム1520は、真空ポンプ1600で脱気された囲い1540の中に設置されている。
【0072】
注入装置1510はイオンのビーム1580を発生させ、ビーム1580を加速カラム1520内に導入する。環状電極1530は、異なる電位に保持されており、それによりイオンが電極の隙間を通過する際にそれらが加速される(例えば、イオンは隙間で加速されるが、電位が均一である電極内では加速されない)。カラム1520の上から図5の下の方へとイオンが進むにつれて、イオンの平均速度は増す。次の環状電極1530との間の間隔は、典型的には増加し、従ってより高速の平均イオン速度を許容できる。
【0073】
加速されたイオンがカラム1520の長さを通過した後、加速されたイオンビーム1590は、導出管1555を通り、囲い1540から対となって排出される。排出管1555の長さは、適切な遮へいをカラム1520の隣に配置することを許可するように選択され(例えば、コンクリート製の遮へい)、カラムを分離する。管1555を通過後、イオンビーム1590は、走査磁石1550内を通過する。外部の理論演算装置(示されていない)により制御されている走査磁石1550は、加速されたイオンビーム1590を、カラム1520の中心軸に垂直に向きを合わせた二次元平面上で、制御された状態で走らせることができる。図5に示すとおり、イオンビーム1590は、窓1560(例えば金属ホイル窓またはスクリーン)を通過し、次に、走査磁石1550により試料1570の選択された領域に影響を及ぼすように指揮されている。
【0074】
一部の態様において、電極1530に与える電位は、例えばDC電位源などにより発生される静的ポテンシャルである。特定の態様において、電極1530に与えられる一部または全ての電位は、変動電位源により発生される変動電位である。適当な変動する大きな電位の供給源としては、クライストロン等の増幅された電界源が含まれる。従って、電極1530に与えられる電位の性質によって、加速装置1500は、パルス様式または連続様式で操作できる。
【0075】
カラム1520の出口側で選択された加速したイオンエネルギーを達成するには、カラム1520の長さ、および電極1530に与えられる電位は、当技術分野において公知の条件に基づいて選択される。しかしながら、注目すべきことに、カラム1520の長さを短くするには、一価のイオンの代わりに多価イオンを使用することができる。即ち、2つの電極の間の選択された電位差による加速効果は、電荷の大きさが2以上であるイオンのほうが、電荷の大きさが1のイオンよりも大きい。従って、任意のイオンX2+は、対応する任意のイオンX+よりも短い距離で最終エネルギーEまで加速させることができる。三価イオンおよび四価イオン(例えば、X3+およびX4+)は、最終エネルギーEまで更に短い距離で加速させることができる。従って、イオンビーム1580が、主に多価イオン種を含む場合、カラム1520の長さは有意に短縮できる。
【0076】
正電荷を持つイオンを加速するためには、カラム1520の電極1530の間の電位差は、図5において下方向に(例えば、カラム1520の下に向かって)電界の強度が増すように選択される。逆に、加速装置1500を負電荷を持つイオンを加速するために使用した場合、電極1530の間の電位差はカラム1520内で逆にされ、図5において上方向に(例えば、カラム1520の上に向かって)電界の強度が増す。電極1530に与える電位を設定しなおす手順は簡単であり、加速装置1500は比較的に速やかに陽イオンの加速から陰イオンの加速、またその逆へと変換可能である。同様に、加速装置1500は、一価イオンの加速から多価イオンの加速、またその逆へと速やかに変換することができる。
【0077】
紙または原料となるセルロース系またはリグノセルロース系材料を処理するために用いられてもよいイオンビームに適したイオンの発生には、様々な方法を用いることができる。イオンが発生された後、これらは典型的には一つ以上の様々な種類の加速装置で加速され、処理される材料に影響を及ぼすように向けられる。本明細書において参照として組み入れられる米国特許出願第12/417,707号には、様々な種類の加速装置およびイオンビーム発生装置が記載されている。
【0078】
線量
一部の態様において、(任意の放射線源、または放射線源の組み合わせでの)照射は、材料が少なくとも0.05 Mrad、例えば、少なくとも0.1 Mrad、0.25 Mrad、1.0 Mrad、2.5 Mrad、または5.0 Mradの線量を受けるまで行う。一部の態様において、照射は、材料が0.1 Mradおよび2.5 Mradの間の線量を受けるまで行う。他の適切な範囲としては、0.25 Mradおよび4.0 Mradの間、0.5 Mradおよび3.0 Mradの間、ならびに1.0 Mradおよび2.5 Mradの間が含まれる。
【0079】
達成された官能基化の度合いは一般的に線量が上昇するにつれて高くなる。
【0080】
一部の態様において、照射は5.0および1500.0 krad/時間の間、例えば、10.0および750.0 krad/時間の間、または50.0および350.0 krad/時間の間の線量率で行われる。高いスループットが望ましい場合、例えば高速の製紙過程においては、放射線は、例えば0.5〜3.0 MRad/秒、またはさらに早く適用することができ、照射された材料の過度の加熱を防ぐため、冷却工程が用いられる。
【0081】
コーティングされた紙が照射される一部の態様において、紙のコーティングは、架橋可能な樹脂を含み、例としてはジアクリレートまたはポリエチレンが挙げられる。場合によっては、紙が照射されると樹脂が架橋し、これは耐擦り傷性および紙のほかの表面の性質を最適化する際に相乗効果を提供できる。これらの態様においては、紙の望ましい官能基化が達成されるよう、放射線の線量が十分に高く選択され、即ち、材料に応じて少なくとも約0.25〜約2.5 MRadとなり、同時に紙のコーティングに悪影響を与えることを避けるよう十分に低く選択される。線量の上限は、コーティングの成分により変化するが、一部の態様において、好ましい線量は約5 MRad未満である。
【0082】
一部の態様において、2種またはそれ以上の電離放射線などの2種またはそれ以上の放射線源が用いられている。例えば、試料を、任意の順序で、電子線、続いて、ガンマ放射線、および/または約100 nm〜約280 nmの波長を有するUV光で処理することができる。一部の態様において、試料は、電子線、ガンマ放射線、およびエネルギーUV光などの3つの電離放射線源で処理される。
【0083】
マーキングされた紙製品の特定
本明細書に記載の方法を用いてマーキングされた紙製品は、紙の官能基を決定することにより、見た目が同様のマーキングされていない紙製品と判別できる。これは、例えば、赤外線分光計を用いて、対象の紙のIRスキャンを用意し、これをマーキングされた紙の「対照」IRスキャンと比較することにより実現される。例えば、紙のカルボン酸基の数が増加するようにマーキングされた紙が官能基化されていた場合、同様にマーキングされているかを見るために試験されている紙のIRスキャンは、対照IRスキャン中のカルボキシルピークと実質的に同じ高さのピークであるカルボキシルピークを有するはずである。
【0084】
紙がマーキングされているかどうかを試験するための別の方法としては、AFM、CFM、およびESRが含まれる。
【0085】
紙への添加物
製紙産業において使用される任意の多くの添加物およびコーティングを、繊維状材料、紙、または任意の他の材料、および本明細書に記載の製品に加えるまたは適用することができる。添加物は、炭酸カルシウム、プラスチック顔料、グラファイト、珪灰石、雲母、ガラス、繊維ガラス、シリカ、およびタルクなどの充填剤;アルミナ三水和物または水酸化マグネシウムなどの無機難燃材;塩素化または臭素化有機化合物などの有機難燃材;炭素繊維;および金属繊維もしくは粉末(例えば、アルミニウム、ステンレス鋼)を含む。これらの添加物は電気的もしくは機械的特性、適合性特性、または他の特性を補強し、拡大し、または変化させることができる。他の添加物はデンプン、リグニン、フレグランス、カップリング剤、抗酸化剤、不透明化剤、熱安定化剤、染料および色素などの着色剤、例えば分解可能なポリマーを含むポリマー、光安定化剤、および殺生物剤を含む。代表的な分解可能ポリマーは、ポリヒドロキシ酸、例えばポリラクチド、ポリグリコリド、および乳酸およびグリコール酸のコポリマー、ポリ(ヒドロキシ酪酸)、ポリ(ヒドロキシ吉草酸)、ポリ[ラクチド-コ-(e-カプロラクトン)]、ポリ[グリコリド-コ-(e-カプロラクトン)]、ポリカーボネート、ポリ(アミノ酸)、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、ポリ無水物、ポリオルトエステル、およびこれらのポリマーのブレンドを含む。
【0086】
望まれる場合、様々な架橋添加物を加えることができる。このような添加物としては、そのものが架橋可能な材料および紙の中のセルロース系またはリグノセルロース系材料の架橋を補助する材料が含まれる。架橋添加物には、リグニン、デンプン、ジアクリレート、ジビニル化合物、およびポリエチレンが含まれるが、これらに制限されない。ある実行において、このような添加物は、約0.25%〜約2.5%、例えば約0.5%〜約1.0%の濃度で含まれる。
【0087】
添加物が含まれる場合、それらは、繊維状材料の総重量に基づいて、約1パーセント未満から約80パーセントの高さまでの、乾燥重量ベースで計算された量で存在させることができる。より典型的には、量は約0.5重量パーセント〜約50重量パーセント、例えば約0.5パーセント〜約5パーセント、10パーセント、20パーセント、30パーセント以上、例えば40パーセントの範囲である。
【0088】
本明細書において記載された任意の添加物をカプセル化し、例えば噴霧乾燥またはマイクロカプセル化して、例えば取扱いの間に熱または水分から添加物を保護することができる。
【0089】
特定の印刷用途に必要な性能特性を含む特定の表面特性を提供するために、適切なコーティング剤は、製紙産業において使用される多くのコーティング剤の任意のものを含む。
【0090】
上記のとおり、紙には様々な充填剤が含まれていてよい。例えば、炭酸カルシウム(例えば、沈降炭酸カルシウムまたは天然炭酸カルシウム)、アラゴナイトクレイ、斜方晶系クレイ、カルサイトクレイ、菱面体クレイ、カオリンクレイ、ベントナイトクレイ、リン酸二カルシウム、リン酸三カルシウム、ピロリン酸カルシウム、不溶性メタリン酸ナトリウム、沈降炭酸カルシウム、オルトリン酸マグネシウム、リン酸三マグネシウム、ヒドロキシアパタイト、合成アパタイト、アルミナ、シリカキセロゲル、金属アルメノシリケート複合体、ケイ酸ナトリウムアルミニウム、ケイ酸ジルコニウム、二酸化ケイ素などの無機充填剤、あるいは無機添加物の組み合わせを用いることができる。充填剤は、例えば1ミクロンを超える、例えば2ミクロン、5ミクロン、10ミクロン、または25ミクロンを超える、またはさらに35ミクロンを超える粒子サイズを有することができる。
【0091】
ナノメートルスケールの充填剤を単独で、あるいは任意のサイズおよび/または形状の繊維状材料を組み合わせて用いることもできる。充填剤は、例えば粒子、プレートまたは繊維の形態とすることができる。例えば、ナノメートルサイズのクレイ、シリコンおよびカーボンナノチューブ、ならびにシリコンおよび炭素ナノワイヤーを用いることができる。充填剤は1000nm未満、例えば900nm、800nm、750nm、600nm、500nm、350nm、300nm、250nm、200nm、もしくは100nm未満、またはさらに50nm未満の横方向寸法を有することができる。
【0092】
一部の態様において、ナノ-クレイはモンモリロナイトである。そのようなクレイはNanocor, Inc.およびSouthern Clay Productsから入手可能であり、米国特許第6,849,680号および第6,737,464号に記載されている。例えば樹脂または繊維状材料への混合前にクレイの表面処理を行うことができる。例えば、クレイはその表面が自然な状態でイオン性、例えばカチオン性またはアニオン性であるように表面処理することができる。
【0093】
集合したまたは凝集したナノメートルスケールの充填剤、または、集まって超分子構造、例えば自己集合超分子構造となったナノメートルスケール充填剤も用いることができる。集合充填剤または超分子充填剤の構造を開くまたは閉じることができ、これらは種々の形状、例えばケージ、チューブまたは球状でありうる。
【0094】
リグニン含有量
本明細書に記述されている紙製品は、リグニンを、例えば1、2、3、4、5、7.5、10、15、20重量%まで、または更にリグニンを25重量%まで含み得る。このリグニン含有量は、紙を製造するために用いられるリグノセルロース系材料の中に存在するリグニンによるものであり得る。その他に、または更に、上記のとおり、紙に添加物としてリグニンを加えることができる。この場合、リグニンは固体として、例えば粉末または他の粒子材料として加えることができるか、または液体の状態で加え、溶解または分散することができる。後の例の場合、リグニンは溶媒または溶媒系に溶解されていてもよい。溶媒または溶媒系は単相または2つ以上の相の形態であってもよい。セルロース系およびリグノセルロース系材料のための溶媒系としては、DMSO・塩系が含まれる。このような系としては、例えばリチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、または亜鉛の塩と組み合わせたDMSOが含まれる。リチウム塩にはLiCl、LiBr、LiI、過塩素酸リチウム、および硝酸リチウムが含まれる。マグネシウム塩には硝酸マグネシウムおよび塩化マグネシウムが含まれる。カリウム塩にはヨウ化カリウムおよび硝酸カリウムが含まれる。ナトリウム塩の例には、ヨウ化ナトリウムおよび硝酸ナトリウムが含まれる。亜鉛塩の例としては、塩化亜鉛および硝酸亜鉛が含まれる。任意の塩は無水であっても水和されていてもよい。DMSOにおける塩の典型的な充填量は、約1および約50重量パーセントの間、例えば約2および25重量パーセントの間、約3および15重量パーセントの間、または約4および12.5重量パーセントの間である。
【0095】
場合によっては、リグニンは照射中に紙に架橋され、紙の物理的性質を更に向上させる。
【0096】
紙の種類
紙はしばしばその重さにより特徴づけられる。紙に割り当てられる重さは、一般消費者に販売されるサイズに紙を切断する前の様々な「基本サイズ」の一連、500枚、の重さである。例えば、一連の20ポンド、8.5×11インチの紙の重量は5ポンドであり、これは大きいシートを4等分に切断したものであるからである。米国では、印刷用紙は一般的に20ポンド、24ポンド、または最大32ポンドである。表紙の用紙は、一般的に68ポンドおよび110ポンド以上である。
【0097】
ヨーロッパでは、重量は平方メートル当たりのグラム数(gsmまたは単にg)で表現される。印刷用紙は一般的に60gおよび120gの間である。160gよりも重いものは、表紙の用紙とみなされる。従って一連の重さは紙の寸法に依存し、例えば一連のA4(210 mm×297 mm)サイズ(約8.27インチ×11.7インチ)の重さは2.5kg(約5.5ポンド)である。
【0098】
紙の密度としては、ティッシュの250 kg/m3(16ポンド/フィート3)から一部の特別な紙の1500 kg/m3(94ポンド/フィート3)に及ぶ。一部の場合において、印刷用紙の密度は約800 kg/m3(50ポンド/フィート3)である。
【0099】
本明細書に記載のプロセスは、これら全ての品質の紙での使用に適しており、更に他の種類の紙、例えば段ボール、板紙、およびその他の紙製品も含まれる。本明細書に記載のプロセスは、例えば下記の任意の用途に用いられる紙を処理するためにも用いることができる:郵便切手として;紙幣、銀行紙幣、証券、小切手、などとして;本、雑誌、新聞、および美術品として;ならびに例えば板紙、段ボール、紙袋、封筒、箱など、梱包用として。紙は、単層もしくは多層紙であってよく、または積層物の一部を形成してもよい。マーキングは、商業において購入、使用、または他の出来事を示すために使用されてもよい。例えば、マーキングは、郵便切手を「無効」にするために、または品物がどこで、および/または、いつ購入されたかを示すために使用してもよい。
【0100】
紙は、木材および再生紙に由来する繊維、ならびに他の原料に由来する繊維を含む任意の所望の種類の繊維で製造され得る。植物繊維材料、例えば綿、麻繊維、リネン、およびイネは、単独でまたは互いに組み合わせて、または木材由来の繊維と組み合わせて使用できる。他の非木材繊維の供給源としては、これらに限定されないが、サトウキビ、バガス、わら、竹、ケナフ、ジュート、亜麻、および綿が挙げられる。望ましい物理的性質を与える方法としては、多種多様な合成繊維、例えばポリプロピレンおよびポリエチレン、ならびに他の成分、例えば無機充填剤を紙に組み込むことができる。紙幣、高級文房具、アート紙、ならびに特定の強度または美的性質を必要とするほかの用途のための、特別な用途に用いられる紙にこれらの非木材繊維を入れることは望ましいと考えられる。
【0101】
紙は、印刷の前または後に照射されてもよい。
【0102】
工程用水
本明細書に開示されている工程において、任意の工程において水が使用されるときはいつも、水は家庭雑排水、例えば、市の家庭雑排水または汚水であってよい。一部の態様において、家庭雑排水または汚水は、使用前に滅菌される。滅菌は、任意の望まれる手法、例えば照射、蒸気、または化学的な滅菌によって達成され得る。
【0103】
他の態様
発明の詳細な説明と併せて本発明について説明したが、前述の説明は例示的なものであり、本発明の範囲を限定することを意図したものではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲により定められることを理解されたい。その他の側面、利点、及び変更形態は、以下の特許請求の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙製品の少なくとも一部の官能基化を変更するために選択された条件下で紙製品を照射する工程を含む、マーキングされた紙製品を製造する方法。
【請求項2】
紙が電離放射線で照射されることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
電離放射線の線量が少なくとも0.10 MRadである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
電離放射線の線量が少なくとも0.25 MRadである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
照射する工程がγ線および/または電子ビーム線で照射する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
電子ビームが少なくとも0.25 MeVのエネルギーを有することを特徴とする、請求項5記載の方法。
【請求項7】
紙製品中に存在するカルボン酸基の数が増加するように選択された条件下で照射が実施されることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項8】
更に、処理された紙製品をクエンチする工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
照射された紙製品中に存在するラジカルと反応するように選択された気体の存在下でクエンチを実施することを特徴とする、請求項8記載の方法。
【請求項10】
紙製品の一部のみが照射される、請求項1記載の方法。
【請求項11】
紙製品の一部のみがクエンチされる、請求項8記載の方法。
【請求項12】
紙製品が得られるもととなった天然に存在するセルロース系またはリグノセルロース系繊維状材料には存在しない官能基を含むセルロース系またはリグノセルロース系繊維状材料を含む、マーキングされた紙製品。
【請求項13】
マーキングされた紙の中のセルロース系またはリグノセルロース系繊維状材料が天然に存在するセルロース系またはリグノセルロース系繊維状材料中に存在するカルボン酸基よりも多くのカルボン酸基を含む、マーキングされた紙製品。
【請求項14】
マーキングされた紙の中のセルロース系またはリグノセルロース系繊維状材料がアルデヒド基、ニトロソ基、ニトリル基、ニトロ基、ケトン基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキル基、クロロアルキル基、クロロフルオロアルキル基、およびエノール基からなる群より選択される官能基を含む、請求項12記載のマーキングされた紙製品。
【請求項15】
マーキングされた紙の中のセルロース系またはリグノセルロース系繊維状材料が分子鎖状に配置された複数のサッカライド単位を含み、約5個に1個から約1500個に1個のサッカライド単位がニトロソ、ニトロ、またはニトリル基を含む、請求項12記載のマーキングされた紙製品。
【請求項16】
マーキングされた紙の中のセルロース系またはリグノセルロース系繊維状材料がニトリル基およびカルボン酸基の混合物を含む、請求項12記載のマーキングされた紙製品。
【請求項17】
サッカライド単位が実質的にカルボン酸基、ニトリル基、ニトロソ基、またはニトロ基など、1種類の基のみを含む、請求項15記載のマーキングされた紙製品。
【請求項18】
紙製品中のセルロース系またはリグノセルロース系材料が、木材由来の繊維、再生紙由来の繊維、綿、麻、リネン、イネ、サトウキビ、バガス、わら、竹、ケナフ、ジュート、および亜麻、ならびにその混合物からなる群より選択される、請求項12記載のマーキングされた紙製品。
【請求項19】
試料紙製品の官能基化を、マーキングされた紙製品の官能基化と比較する工程を含む、紙製品がマーキングされているかを確認する方法。
【請求項20】
AFM、CFM、ESR、およびIRからなる群より選択される手法を用いて試料紙製品の官能基化を明らかにする工程を更に含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
比較する工程が、試料紙製品に存在するカルボン酸基の数をマーキングされた紙製品に存在するカルボン酸基の数と比較する工程を含む、請求項19記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−508567(P2013−508567A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534301(P2012−534301)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【国際出願番号】PCT/US2010/052388
【国際公開番号】WO2011/046973
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(509284598)キシレコ インコーポレイテッド (13)
【Fターム(参考)】