説明

紙製拭き取り用シート及び紙製拭き取り用シートの製造方法

【課題】安価な紙製拭き取り用シート及び紙製拭き取り用シートの製造方法を提供する。
【解決手段】パルプにより構成された基材シートの表面及び/又は裏面に、樹脂が塗付されてなる紙製拭き取り用シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙製拭き取り用シート及び紙製拭き取り用シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、台拭き用途として不織布を材料とする拭き取り用シートが用いられている(例えば、特許文献1)。このような拭き取り用シートは、例えば、不織布シートの表裏面にバインダーを塗布されたものから構成され、繰り返し洗濯可能であり、且つ乾燥性の良いことが特徴である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−213194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した拭き取り用シートは、不織布により構成されているため、紙を材料としたものに比べてコストが高いという問題があった。
一方、紙を材料とした場合には、不織布に比べて洗濯耐久性が極めて劣るという問題があった。
ところで、市場では、衛生面や洗濯作業の煩雑さから、繰り返し洗濯して使用できる拭き取り用シートよりも、数回洗濯して使用した後に破棄してもコストアップとならないような、より安価な拭き取り用シートのニーズが高い。
【0005】
本発明の課題は、安価な紙製拭き取り用シート及び紙製拭き取り用シートの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、紙製拭き取り用シートにおいて、パルプにより構成された基材シートの表面及び/又は裏面に、樹脂が塗付されてなることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の紙製拭き取り用シートにおいて、前記基材シートは、複数のパルプ層が積層されてなることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2記載の紙製拭き取り用シートにおいて、前記基材シートにラミネート加工が施されていることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の紙製拭き取り用シートにおいて、前記樹脂は、熱硬化性樹脂であることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、紙製拭き取り用シートの製造方法において、パルプにより構成された基材シートの表面及び/又は裏面に樹脂を塗付する塗布工程と、樹脂が塗布された基材シートにラミネート加工を施すラミネート加工工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の発明によれば、基材シートとして、パルプを用いているので、不織布を用いたものに比べて安価に製造することができる。
また、表面及び/又は裏面に樹脂が塗付されているので、基材シートのみの場合と比べて洗濯耐久性が向上する。
【0012】
請求項2記載の発明によれば、基材シートは、複数のパルプ層が積層されてなるので、パルプ層間に水分を保持させることができることとなって、水分吸収性能を向上させることができる。
【0013】
請求項3記載の発明によれば、基材シートにラミネート加工が施されているので、層間の密着性が保たれ、且つ表層の面積が増えて水分吸収性を更に向上させることができる。
【0014】
請求項4記載の発明によれば、樹脂は熱硬化性樹脂なので、表層を保護し、洗濯耐久性を高めることができる。
【0015】
請求項5記載の発明によれば、請求項1と同様の効果が得られることは無論の他、基材シートに樹脂が塗付された後にラミネート加工が施されているため、樹脂を塗布する前にラミネート加工される場合に比べて、樹脂を基材シートの表面に均一に塗付することができ、品質を安定させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る紙製拭き取り用シートの実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
紙製拭き取り用シートは、パルプにより構成された基材シートと、基材シートの表面に樹脂が塗付された樹脂層と、から構成されている。
なお、本発明に係る基材シートは、一層構造であることに限らず、複数のパルプ層が積層された積層構造をなすシートであってもよい。
【0018】
基材シートは、例えば、公知の湿式抄紙技術により抄紙して形成することができる。すなわち、パルプ及び添加物等を含む抄紙原料を湿紙の状態とした後に、ドライヤーなどにより乾燥して形成することができる。
パルプは、例えば、グランドウッドパルプ(GP),プレッシャーライズドグランドウッドパルプ(PGW),サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ、針葉樹高歩留り未晒クラフトパルプ(HNKP;N材),針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP;N材、NB材),広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP;L材),広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP、L材)等の化学パルプ、デインキングパルプ(DIP),ウェイストパルプ(WP)等の古紙パルプやセミケミカルパルプ(CP)などを用いることができ、これらパルプの中から一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。
【0019】
通常の場合、填料や異物を含まない化学パルプが好適であり、特にNBKPを100質量%用いることが好ましいが、一部LBKPを配合することも可能である。
一般的にLBKPよりもNBKPの方が、繊維長が長く繊維太さが太いため、NBKPが多い程、強度が高く嵩高となるとともに、吸水性や吸油性が良好となり、水分や油分の保持性も良好となる。なお、NBKPとLBKPとを混合して用いる場合、NBKPの配合量は70質量%以上であることが好ましい。
また、基材シートはクレープ加工されていることが好ましい。それにより柔らかくなり嵩が高まることに加え、表面が凹凸となることで、液吸収速度が速くなる。
さらに、基材シートには、パルプの他、湿潤紙力剤、粘剤、接着剤、剥離剤等の抄紙用薬品を適宜用いてもよい。
【0020】
なお、パルプ層を積層した基材シートを用いる場合には、ラミネート加工を施すことにより、各パルプ層を一体化して紙製拭き取り用シート1を形成する。この紙製拭き取り用シート1の米坪は20g/m以上、200g/m以下であることが好ましい。20g/mを下回ると吸収性能を確保できず、200g/mを上回ると嵩高くなるため、拭き取り作業がしにくくなるためである。
【0021】
厚み方向のラミネート加工は、具体的にはPVAやCMCを用いたラミネート加工、超音波シール等により行うことができる。ラミネート加工は、対応する凹凸模様の付いた一対のエンボスロール若しくはプレート間、或いは凹凸模様の付いたエンボスロール若しくはプレートと凹凸模様を有しないロール若しくはプレートとの間に、対象シートを挟んで加圧を行うことにより、対象シートに凹凸模様を形成しながら紙同士を貼り合わせる加工である。
【0022】
基材シートの表面に塗付される樹脂層は、例えば、エマルジョンの樹脂を使用することができる。樹脂としては、アクリル樹脂、アクリル酸エステル共重合樹脂、ポリウレタン樹脂、酢酸ビニル共重合体樹脂、エポキシ樹脂、スチレン−アクリル共重合樹脂等の熱硬化性樹脂が例示できるがこれらに限定されるものではない。
なお、基材シートの両面に樹脂層を設けてもよいし、片方の面にのみ樹脂層を設けてもよい。また、基材シートの両面に樹脂層を設ける場合には、両方について同様の樹脂を用いる必要はない。特に、一方の面には、染料等の着色料を混合することで、視覚的に見栄えのよい波形模様が得られる。染料は樹脂の着色に用いられている既知のものが利用できる。
【0023】
樹脂層の形成方法としては、塗工機による塗布、印刷機による印刷、浸漬法、スプレー法等を用いることができる。浸漬法が特に好ましい。
なお、波形線のような模様を形成する場合には、浸漬法よりも、スプレー法や塗工機による塗布、印刷機による印刷による付与が適する。
【0024】
樹脂の塗付量は、例えば、0.5〜5.0g/m2の範囲である。塗布量が0.5g/m2未満の場合は、樹脂が繊維全体に均一に塗布できず部分的に弱くなる場合があり、そのため、毛羽立ちが発生し易く、洗濯を繰り返すような使用に耐えられない場合があるからである。一方、塗布量が5.0g/m2を超えると、紙製拭き取り用シート自体が硬くなり手触り感が悪くなるとともに、拭き取り対象物の微妙な凹凸に柔軟に対応できず、拭き取り効果が低下してしまうからである。
【0025】
次に、紙製拭き取り用シートの製造方法について説明する。
まず、単一のパルプ層若しくは複数のパルプ層により形成した基材シートを作製する。次いで、基材シートに樹脂を塗布する(樹脂塗布工程)。次いで、基材シートの厚み方向にラミネート加工を施す(ラミネート加工工程)。
圧縮加熱加工前に樹脂を塗布したのは、圧縮加熱加工後に樹脂を塗布すると、樹脂層が不均一となってしまうおそれがあるからである。
【0026】
次に、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、勿論本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、例中の%は質量%を示す。
【0027】
[実施例1]
パルプとして、NBKP:LBKP=9:1を用いた。
また、片面に塗布した樹脂は、アクリル系樹脂であり、実質の塗布量(塗付量/固形分)は、1.47g/m2である。
樹脂の塗付は、グラビア印刷により行った。
製品米坪を JIS P 8124(1998)に準じて測定した。多層構造については多層のまま試験を行った。
紙厚は、JIS P 8118(1998)の条件下で、ダイヤルシックネスゲージ(厚み測定器)「PEACOCK G型」(尾崎製作所)を用いて測定するものとする。具体的には、プランジャーと測定台の間にゴミ、チリがないことを確認してプランジャーを測定台の上におろし、前記ダイヤルシックネスゲージのメモリを移動させてゼロ点を合わせ、次いで、プランジャーを上げて試料を試験台の上におき、プランジャーをゆっくりと紙面に対し垂直に下ろしそのときのゲージを読み取る。このとき、プランジャーをのせるだけとする。プランジャーの端子は金属製で直径10mmの平面が紙平面に対し垂直に当たるようにし、この紙厚測定時の荷重は、約70gfである。なお紙厚は測定を10回行って得られる平均値とする。
[実施例2]
実施例1との相違点は、樹脂の塗布量が1.70g/m2であることのみであり、他の条件及び測定方法は、実施例1と同一である。
[実施例3]
パルプとして、NBKP:LBKP=9:1を用い、2層構造とした点が、実施例1と異なる。
また、表層に塗布した樹脂は、アクリル系樹脂であり、実質の塗布量(塗付量/固形分)は、4.24g/m2である。
[比較例1]
いわゆる一般的に市販されている拭き取り用シート(大王製紙製:エリエールカウンタークロス)であり、レーヨン100%の不織布に、樹脂として、アクリル系樹脂を塗付した。実質の塗布量(塗付量/固形分)は、12.93g/m2(両面)である。
樹脂の塗布は、ロール転写により行った。
また、他の条件及び測定方法は、実施例1と同一である。
[比較例2]
実施例1、2との相違点は、表層に樹脂を塗布していないことのみであり、その他の条件及び測定方法は、実施例1と同一である。
[比較例3]
実施例3との相違点は、表層に樹脂を塗布していないことのみであり、その他の条件及び測定方法は、実施例3と同一である。
【0028】
<吸水性試験方法>
(1)試験方法
吸水量は次の方法で測定されるものである。100mm×100mmの試験片を、針金でできた縦横20mm間隔でできた網の上に載せたまま水に浸し、シート片全体が浸った後、垂直に網を持ち上げ、そこから30秒間自然に水を切った後のシート重量から水に浸す前のシート重量を差し引いて、吸収した水を算出し、g/m2の単位であらわす。
【0029】
(2)試験結果
【表1】


表1に示すように、実施例1、2と比較例1を比べると、樹脂を塗布することによる吸水量の改善は認められない。
しかしながら、パルプ層を2層にすると、吸水量が著しく増え、また、樹脂を塗布することによる吸水量の増加が認められた。
【0030】
<乾燥性試験>
(1)試験方法
試験片200mm×100mmを採取し、試験片を濡らして手で絞り、水分を試験片当たり4g(200g/m2)含ませ、温度:23℃、湿度:34%RHの環境にて放置した。
そして、10分経過毎に試験片の重量(単位:g)を測定した。
その結果を表2に示す。
【0031】
(2)試験結果
【表2】


表2に示すように、実施例1,2と比較例1、2を比べると、乾燥性については、従来の不織布を用いた拭き取り用シートと略同等であることが分かる。
【0032】
<洗濯耐久性試験>
(1)試験方法
試験片200mm×100mmを採取し、水7リットルと、次亜塩素酸42ミリリットルが入った洗濯用バケツ内(農家の友製「マルチ洗浄器 MW−01」)に試験片を入れて15分間洗濯した。15分間の洗濯を1回とし、連続4回行なった。
そして、各回終了後に、試験片の観察を行なった。
(2)試験結果
比較例1は、洗濯4回後の結果、ほとんど変化は見られなかった。
実施例1,2と比較例2を比較すると、洗濯4回後の結果、樹脂を塗付していない比較例2では、穴空き、崩壊が認められたが、樹脂を塗付した実施例1,2では、穴空きは認められなかった。これにより、樹脂塗布による洗濯耐久性の向上が認められた。
【0033】
<総合評価>
上記試験結果を踏まえて、実施例1〜3、比較例1〜3の特性を評価した結果を表3に示す。
【0034】
【表3】


評価は、比較例1、即ち、従来の不織布からなる拭き取り用シートとの相対評価であり、
◎;比較例1よりも大変優れている。
○;比較例1よりも優れている。
△;比較例1と略同等である。
×;比較例1よりも劣っている。
【0035】
以上、本発明に係る紙製拭き取り用シートによれば、基材シートとして、パルプを用いているので、不織布を用いたものに比べて安価に製造することができる。
また、表面及び/又は裏面に樹脂が塗付されているので、基材シートのみの場合と比べて洗濯耐久性が向上する。
【0036】
また、基材シートは、複数のパルプ層が積層されてなるので、パルプ層間に水分を保持させることができることとなって、水分吸収性能を向上させることができる。
【0037】
また、基材シートにラミネート加工が施されているので、層間の密着性が保たれ、且つ表層の面積が増えて水分吸収性を更に向上させることができる。
【0038】
また、樹脂はアクリル系樹脂なので、表層を保護し、洗濯耐久性を高めることができる。
【0039】
また、基材シートに樹脂が塗付された後にラミネート加工が施されているため、樹脂を塗布する前にラミネート加工される場合に比べて、樹脂を基材シートの表面に均一に塗付することができ、品質を安定させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプにより構成された基材シートの表面及び/又は裏面に、樹脂が塗付されてなることを特徴とする紙製拭き取り用シート。
【請求項2】
請求項1記載の紙製拭き取り用シートにおいて、
前記基材シートは、複数のパルプ層が積層されてなることを特徴とする紙製拭き取り用シート。
【請求項3】
請求項2記載の紙製拭き取り用シートにおいて、
前記基材シートにラミネート加工が施されていることを特徴とする紙製拭き取り用シート。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の記載の紙製拭き取り用シートにおいて、
前記樹脂は、熱硬化性樹脂であることを特徴とする紙製拭き取り用シート。
【請求項5】
パルプにより構成された基材シートの表面及び/又は裏面に樹脂を塗付する塗布工程と、
樹脂が塗布された基材シートにラミネート加工を施すラミネート加工工程と、
を有することを特徴とする紙製拭き取り用シートの製造方法。

【公開番号】特開2011−212109(P2011−212109A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81332(P2010−81332)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】