説明

紙製農業用シート

【課題】 本発明は紙製農業用シート及び当該紙製農業用シートに塗布するための保護層形成用組成物を提供すること。
【解決手段】 紙製農業用シートのための保護層形成用組成物であって、
A 合成樹脂ラテックス;
B スチレン−アクリル系乳化重合物と、α、β不飽和多塩基性酸付加合成炭化水素樹脂、パラフィン系ワックス、天然及び/又は合成ワックス、直鎖系ノニオン系界面活性剤並びに油性ノニオン系界面活性剤を用い、無機アルカリ及び/又は有機アルカリを用いて乳化分散させてなる乳化分散物との混合物;並びに
C ペーパースラッジ炭、炭酸カルシウム又はゼオライト
を含む保護層形成用組成物。並びに当該保護層形成用組成物を紙材料の少なくとも片面に塗布してなる紙製農業用シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紙製農業用シート、当該紙製農業用シートに塗布するための保護層形成用組成物に関する。さら詳細には、撥水性、寸法安定性、遮光性を有し、雑草等の生育を絶つ事ができ、また、収穫時期になるとシート自身が腐朽する為、廃棄処分の必要が無い紙製農業用シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の農業用シートは、遮光性を持った無色透明、銀色、黒色の低密度ポリエチレンフィルムシート(例えば、タイベック:登録商標)などがあった。しかし、これらの農業用シートでは遮光性、撥水性、寸法安定性は十分発揮し得るが、収穫時期になるとシートを廃棄しなければならなく、近年問題になっているゴミの問題が発生する。このため、生分解性ポリマーを使用し、生分解性を高めたシートも存在するが分解に時間がかかり、コスト高である為に経済的負担も大きい。
【0003】
また、生分解性が高い紙マルチシートもあった。しかし、これらの紙マルチシートは伸縮による破れ防止の為にエンボス、又はクレープ加工を施さなければならず、加工工程が増えてコストもかかった。
【0004】
さらに、顔料と合成樹脂ラテックスから形成された防湿層を有し、当該防湿層中にポリブテン、ポリイソブチレン、ブチルゴムから選ばれた常温で液状の炭化水素系オリゴマー、又はロジンエステル、テルペン樹脂、石油樹脂から選ばれた軟化点180℃以下である常温で固体状の疎水性高分子のうち少なくとも一種を含む、農業用紙マルチシートが開示されている(特許文献1を参照)。しかし、合成樹脂ラテックスは、皮膜に柔軟性、追随性を与え、折れ曲げた箇所から湿気や水の侵入を押さえる働きのみで、いわば防湿保護の保護的な機能しか有しない。また、ここに記載されているような組成では、塗工量が20〜30g/mも必要で、コストがかかる。さらに、150℃以上の高温乾燥を行わないと性能が維持できず、150℃未満の温度だと極端に性能が劣る。その為に最適塗工量以上に塗工し、乾燥を十分に行えるように必要以上の乾燥を行わなければならない場合もあった。また、このような組成では撥水性が全く期待できない。
【0005】
一方、紙又は板紙用防湿剤の製造方法として、ナフサ分解時に副生される沸点範囲−20〜250℃の留分をフリーデルクラフト型反応によって重合して得られた軟化点が40〜90℃の合成炭化水素樹脂92〜98重量%(α,β不飽和多塩基性酸付加合成炭化水素樹脂基準)にα,β不飽和多塩基性酸2〜8重量%(α,β不飽和多塩基性酸付加合成炭化水素樹脂基準)を付加してα,β不飽和多塩基性酸付加合成炭化水素樹脂40〜88重量%(エマルジョンA基準)を生成させた後、融点50〜80℃のワックス10〜50重量%(エマルジョンA基準)及びノニオン型界面活性剤2〜10重量%(エマルジョンA基準)を加え、さらに無機アルカリ及び/又は有機アルカリを加えて乳化分散し、得られたエマルジョンA、50〜80重量%(紙又は板紙用防湿剤基準)にスチレン−アクリル系エマルジョンB、20〜50重量%(紙又は板紙用防湿剤基準、固型換算)を混合する方法があった(特許文献2を参照)。しかし、特許文献2には、ここで得られる防湿剤が農業用シートに応用できることが教示も示唆もされていない。
【0006】
さらに、紙又は板紙用防湿剤の製造法として、A.重合反応混合物の総重量を基準に、乳化重合用モノマーとして、a)アクリル酸ステアリル及び/又はメタクリル酸ステアリルを10〜30重量部;b)疎水性モノマーを20〜50重量部;並びにc)アクリル酸アルキル及び/又はメタクリル酸アルキルを20〜50重量部;使用し、d)乳化重合用分散剤として、スチレン−アクリル酸とメタクリル酸ステアリル又はアクリル酸ステアリルとを塊状重合させた樹脂のアルカリ塩を使用し、e)乳化重合用助剤としてアニオン系界面活性剤及び/又はノニオン系界面活性剤を使用して乳化重合させて乳化重合物を得ること、B.別に、α,β不飽和多塩基性酸付加合成炭化水素樹脂、ワックス及びノニオン型界面活性剤と、無機アルカリ及び/又は有機アルカリとを加えて乳化分散させ乳化分散物を得ること、並びにC.Aの乳化重合物とBの乳化分散物とを混合して分散させること、を含む方法があった(特許文献3を参照)。しかし、特許文献3も、ここで得られる防湿剤が農業用シートに応用できることを教示も示唆もしていない。
【0007】
【特許文献1】特開平10−84789号公報(請求項1、2、[0007]〜[0008]、[0017]等)
【特許文献2】特開平5−262956号公報(請求項1等)
【特許文献3】特開平8−239407号公報(請求項1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上述した低密度ポリエチレンフィルムシートからなる従来の農業用シートに見られるゴミの問題もなく、撥水性、寸法安定性、遮光性を有し、雑草等の生育を絶つ事ができ、また、収穫時期になるとシート自身が腐朽する為、廃棄処分の必要が無い紙製農業用シートを提供することにある。
【0009】
さらに本発明の目的は、上述した顔料と合成樹脂ラテックスからなる従来の農業用マルチシートの欠点をなくし、また150℃未満の低温乾燥においても十分な性能を発揮する紙製農業用シートを提供することにある。
【0010】
また本発明の別の目的は紙製農業用シートを保護するための保護層形成用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決する為に鋭意研究を行った結果、合成樹脂ラテックスに、防湿層形成用組成物として、スチレン−アクリル系乳化重合物と、α、β不飽和多塩基性酸付加合成炭化水素樹脂、パラフィン系ワックス、天然及び/又は合成ワックス、直鎖系ノニオン系界面活性剤並びに油性ノニオン系界面活性剤を用い、無機アルカリ及び/又は有機アルカリを用いて乳化分散させてなる乳化分散物との混合物を組合せて含ませ、さらにペーパースラッジ炭、炭酸カルシウム又はゼオライトを含む組成物を紙に塗布した農業用シートが、顔料と合成樹脂ラテックスからなる従来の農業用マルチシートの欠点をなくし、また150℃未満の低温乾燥においても十分な性能を発揮し、また低密度ポリエチレンフィルムシートからなる従来の農業用シートの欠点がなく、撥水性、寸法安定性、遮光性に優れ、さらに、収穫時期になるとシート自身が腐朽するため、廃棄処分の必要がないことを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、A 合成樹脂ラテックス;
B スチレン−アクリル系乳化重合物と、α、β不飽和多塩基性酸付加合成炭化水素樹脂、パラフィン系ワックス、天然及び/又は合成ワックス、直鎖系ノニオン系界面活性剤並びに油性ノニオン系界面活性剤を用い、無機アルカリ及び/又は有機アルカリを用いて乳化分散させてなる乳化分散物との混合物;並びにCペーパースラッジ炭、炭酸カルシウム又はゼオライトとを含む保護層形成用組成物にある。
【0013】
さらに、本発明は、A 合成樹脂ラテックス;B スチレン−アクリル系乳化重合物と、α、β不飽和多塩基性酸付加合成炭化水素樹脂、パラフィン系ワックス、天然及び/又は合成ワックス、直鎖系ノニオン系界面活性剤並びに油性ノニオン系界面活性剤を用い、無機アルカリ及び/又は有機アルカリを用いて乳化分散させてなる乳化分散物との混合物;並びにC ペーパースラッジ炭、炭酸カルシウム又はゼオライトとを含む保護層形成用組成物を紙材料の少なくとも片面に塗布してなる紙製農業用シートにある。
【発明の効果】
【0014】
本発明の保護層形成用組成物を紙材料に塗布した農業用シートは、撥水性、寸法安定性、遮光性に優れるために雑草等の生育を絶つことができる。さらに、収穫時期になるとシート自身が腐朽するため、廃棄処分の必要がない顕著な効果を示す。また、C成分として使用し得る木材繊維の炭化物であるペーパースラッジ炭は安価であり、紙表面に塗工しているので優れた遮光性を持ち、雑草等の生育を絶つ事ができる。さらに腐朽した際はペーパースラッジ炭が土壌改質剤として利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の紙製農業用シートのための保護層形成用組成物は、
A 合成樹脂ラテックス;
B(1)乳化重合物の固形分を100重量部とした場合を基準に
a) スチレン、α‐メチルスチレン、及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる群から選択される一種又はそれ以上の成分と(メタ)アクリル酸とを重合させたもののアルカリ塩を10〜40重量部(乳化重合用分散剤)、
b) スチレン及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる群から選択される一種又はそれ以上の成分を60〜90重量部使用して乳化重合させてなる乳化重合物;
B(2)乳化分散物の固形分を100重量部とした場合を基準に
a) α、β不飽和多塩基性酸付加合成炭化水素樹脂を50〜80重量部、
b) パラフィン系ワックスを10〜40重量部、
c) 天然(合成)ワックスを3〜15重量部、
d) 直鎖系ノニオン系界面活性剤を1〜8重量部、及び
e) 特定の油性ノニオン系界面活性剤を3〜10重量部併用し、無機アルカリ及び/又は有機アルカリを用いて乳化分散させてなる乳化分散物;並びに
C 木材繊維の炭化物であるペーパースラッジ炭、炭酸カルシウム又はゼオライトを含む。
【0016】
当該保護層形成用組成物の各成分の混合割合は、A及びB成分の総重量を100重量部とした場合、A成分が30〜60重量部、好ましくは35〜55重量部、最も好ましくは40〜50重量部、B成分が40〜70重量部、好ましくは45〜65重量部、最も好ましくは50〜60重量部から構成され、C成分はA及びB成分の総重量100重量部当り20〜50重量部、好ましくは25〜45重量部、最も好ましくは30〜40重量部の割合で含む。
【0017】
本発明で使用する合成樹脂ラテックスは、主に形成された保護皮膜に柔軟性、追随性を与え、例えばシートが折れ曲がったりしたときに折れ曲がった箇所からの湿気や水の侵入を防ぐことができる。本発明で使用できる合成樹脂ラテックスにはスチレンブタジエンラテックス(SBR)、メチルメタクリレートブタジエンラテックス(MBR)、アクリロニトリルブタジエンラテックス(NBR)等があり、防湿性、柔軟性、経済性を考慮すれば、スチレンブタジエンラテックスが好ましい。合成樹脂ラテックスは、例えば、SBRラテックスは、旭化成工業(株)製 A−6130、A−6925、A−6950として入手できる。
【0018】
本発明で使用するB(1)成分のスチレン−アクリル系乳化重合物は、前記B(2)成分の乳化分散物との相容性を良くし、均一な防湿層の皮膜を形成することができる。
スチレン−アクリル系乳化重合物を得る乳化重合に使用する乳化重合用分散剤はスチレン、α−メチルスチレン、及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる群から選択される一種又はそれ以上の成分と(メタ)アクリル酸とを重合させたもののアルカリ塩が適しており、特にアンモニウム塩が好ましい。乳化重合物中の固形分の100重量部当り、各成分の総重量が10〜40重量部、好ましくは、10〜30重量部、より好ましくは15〜25重量部の範囲で使用できる。
【0019】
本発明の乳化重合に使用できるモノマーにはスチレン及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる群から選択される一種又はそれ以上のモノマーがあり、モノマーの量は乳化重合物中の固形分100重量部当り、前記各成分の総重量が60〜90重量部、好ましくは70〜90重量部、より好ましくは75〜85重量部の範囲で使用できる。前記各モノマー成分の使用範囲は任意に設定できるが、スチレン対(メタ)アクリル酸アルキルエステルの相対割合は、重量基準で、一般的に30〜70:70〜30、好ましくは35〜65:65〜35、最も好ましくは40〜60:60〜40である。
【0020】
本発明で使用できる(メタ)アクリル酸アルキルエステルには、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸タ−シャルブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等がある。製造される乳化重合物の皮膜性、柔軟性を考慮すれば、アクリル酸n‐ブチル、アクリル酸2‐エチルヘキシルが好ましい。
【0021】
本発明の乳化重合物のガラス転移点は、−15〜35℃、好ましくは−5〜25℃、最も好ましくは5〜15℃が望ましい。ガラス転移点が35℃を超えると低温(例えば、130℃)乾燥処理では塗工表面温度がガラス転移点を超えないことも予想され、皮膜形成が充分に行えない可能性がある。また、高温(例えば、150℃)で乾燥処理しても皮膜にクラックが入りやすく性能が維持できない。上記範囲のガラス転移点を採用することにより、低温(例えば、130℃)でもガラス転移点を超え、充分な皮膜を形成できる。ガラス転移点が−15℃未満であれば皮膜形成は出来るが、皮膜に粘りが出て、紙材料シートの片面側に保護層形成用組成物を塗布し巻き取った場合、無塗工面と塗工面とでブロッキングを起す可能性がある。
【0022】
本発明の保護層形成用組成物に使用する乳化重合用分散剤の重合方法は当業界で公知の方法を使用することができる。例えば重合反応容器に必須成分である(メタ)アクリル酸と、スチレン、α−メチルスチレン及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルから選択される一種又はそれ以上(各モノマー成分の使用範囲は任意に設定することができる)と、そしてさらに界面活性剤及び水を入れ、撹拌下に約60〜65℃に加温する。前記の温度を維持させながら過硫酸アンモニウムのような触媒を入れ、70〜80分、70〜80℃で維持する。さらに過硫酸アンモニウムのような触媒を入れ、40〜50分、同一温度で維持し反応を終了させ、アルカリを入れ乳化させる。
【0023】
乳化重合物の重合方法は、当業界で公知の方法を使用することができる。例えば重合反応容器に乳化重合用分散剤及び水を入れ、撹拌下に78〜85℃に加温する。乳化重合用分散剤として、前記で特定した乳化重合用分散剤を使用することが好ましい。前記の温度を維持させながら、過硫酸アンモニウムのような触媒を入れ、別に調製した所定量のスチレンと、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(一種又はそれ以上を使用することができ、各モノマー成分の使用範囲は任意に設定することができる)との混合物を約2〜3時間にわたって滴下する。滴下後、約2〜2.5時間、同一温度で維持し、反応を終了させる。
【0024】
本発明で使用する乳化分散物(B(2)成分)は、ナフサ分解時に副生する沸点範囲−20〜250℃の留分をフリーデルクラフト反応によって重合して得られた軟化点が40〜90℃の合成炭化水素樹脂92〜98重量%(α、β不飽和多塩基性酸付加合成炭化水素樹脂基準)にα、β不飽和多塩基性酸2〜8重量%、好ましくは3〜5重量%を付加してα、β不飽和多塩基性酸付加合成炭化水素樹脂50〜80重量部(乳化分散物の固形分を100重量部とした場合を基準)を生成させた後、融点50〜80℃のパラフィンワックスを10〜40重量部(乳化分散物の固形分を100重量部とした場合を基準)、天然(合成)ワックス3〜15重量部(乳化分散物の固形分を100重量部とした場合を基準)及び直鎖系ノニオン系界面活性剤を1〜8重量部(乳化分散物の固形分を100重量部とした場合を基準)を加え、さらに特定の油性ノニオン系界面活性剤を3〜10重量部(乳化分散物の固形分を100重量部とした場合を基準)を添加し、無機アルカリ及び/又は有機アルカリを加えて中和し乳化分散させ、乳化分散物を得る。
【0025】
本発明で使用するα、β不飽和多塩基性酸は、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及び無水マレイン酸等から少なくとも一種選択できる。ワックス類は、パラフィンワックス、酸化パラフィンワックス、天然ワックス類、水添石油樹脂、水添ロジン等から少なくとも一種選択できる。パラフィンワックスは融点50〜80℃のワックスを任意に選定でき、天然ワックスとしてはカルナバワックス、モンタンワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス等から任意に選択できる。上述したように、パラフィンワックスの使用量は10〜40重量部(乳化分散物の固形分を100重量部とした場合を基準)の範囲であり、天然(合成)ワックスの使用量は3〜15重量部(乳化分散物の固形分を100重量部とした場合を基準)の範囲である。
【0026】
本発明で使用する直鎖系ノニオン系界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル等を、乳化分散物の固形分を100重量部とした場合を基準に、1〜8重量部、好ましくは2〜5重量部加える。
【0027】
本発明の特定の油性ノニオン性界面活性剤には、ヘキサステアリン酸POE(6)ソルビット、モノラウリン酸POE(6)ソルビット、テトラヘキサステアリン酸POE(60)ソルビット、テトラオレイン酸POE(6)ソルビット、テトラオレイン酸POE(30)ソルビット、テトラオレイン酸POE(40)ソルビット、テトラオレイン酸POE(60)ソルビット等がある。当該油性ノニオン性界面活性剤は、一般の親水性を有する界面活性剤と異なり、防湿性、撥水性を損なわず乳化させることができるという特徴を有する。製造される乳化分散物の撥水性、乳化性付与性能を考慮すれば、ヘキサステアリン酸POE(6)ソルビットが好ましい。
【0028】
本発明の乳化分散物に使用できるアルカリには、無機アルカリとして、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム等があり、有機アルカリとして、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モルホリン、アミノアルコール、ジメチルアミン等がある。
【0029】
B成分の乳化重合物と乳化分散物との混合割合は、混合物100重量部を基準に、40〜90:10〜60であり、好ましくは45〜85:15〜55、最も好ましくは50〜80:20〜50の範囲である。
【0030】
本発明に使用できるペーパースラッジ炭は木材繊維の炭化物である。粒径は100μm以下が望ましい。それ以上であれば隠蔽性が悪くなり十分な遮光性が得られない。ペーパースラッジ炭は、例えば、鹿児島化成(株)からPS炭として入手できる。また、炭酸カルシウム、ゼオライトなども使用できる。ペーパースラッジ炭等は、A及びB成分の混合物100重量部に対し、20〜50重量部を使用できる。20重量部未満であれば十分な遮光性が得られない。50重量部を超えると十分な防湿性が得られない。
【0031】
本発明の保護層形成用組成物は、前述の合成樹脂ラテックス、スチレン−アクリル系乳化重合物と乳化分散物との混合物、及びペーパースラッジ炭、炭酸カルシウム又はゼオライトの各成分を単に均一に混合するのみで製造することができる。また、スチレン−アクリル系乳化重合物と分散物との混合物はそれぞれ単独でも均一に混合することができる。
【0032】
本発明の農業用シートに使用できる紙材料には、晒しクラフト紙、未晒しクラフト紙、ライナー紙、新聞用紙等がある。農業用シートの用途や紙材料の種類等に応じて強度や重量を調整するために、坪量を変動できる。一般的には、坪量を50〜120g/mに設定でき、好ましくは、60〜100g/mに、最も好ましくは、65〜85g/mに設定できる。
【0033】
本発明の農業用シートは、上記保護層形成用組成物を紙材料の片面又は両面に塗工することにより製造することができる。塗工するための塗工装置には、エアーナイフ、ブレードコーター、リバーシブルコーター、カーテンコーター、ロールコーター等がある。塗工量は、農業用シートを保護したい期間や農業用シートを使用する地方の天候等により変動できるが、一般に5〜20g/mの範囲、好ましくは10〜18g/mの範囲、最も好ましくは、15〜18g/mの範囲である。
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0035】
(参考例1 乳化重合用分散剤の製造)
反応容器にスチレン60g、メタクリル酸60g、n‐ブチルメタクリレート5g、α‐メチルスチレン15g、n‐ドデシルメルカプタン9g、イオン交換水449g、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(70%)2gを入れ、攪拌下、60℃に加温した。これに触媒として過硫酸アンモニウム0.8gを添加した後、75℃で70分、次いで過硫酸アンモニウム0.3gを添加し、65℃で50分の反応を行った。反応終了後冷却し、イオン交換水400g、アンモニア水(25%)48gを添加して固形分15%、pH9.0、粘度250mPa・sの乳化重合用分散剤を得た。
【0036】
(参考例2 乳化重合物の製造)−B(1)成分の製造−
4つ口フラスコに実施例1で得られた乳化重合用分散剤370g及びイオン交換水313gを加え、攪拌下、80℃に加温した。これに触媒として過硫酸アンモニウム1.6gを添加した後、別に混合したスチレン148g、n‐ブチルアクリレート59g、アクリル酸2‐エチルヘキシル104g、n‐ドデシルメルカプタン4gからなるモノマー混合物を2時間かけて滴下した。過硫酸アンモニウム0.6gを追加した後、80℃に保ったまま攪拌下で2時間熟成させた後冷却し、固形分37%、pH9.0、粘度450mPa・sの乳化重合物を得た。
【0037】
(参考例3 乳化分散物の製造)−B(2)成分の製造−
ナフサ分解時に副生する沸点範囲−20〜250℃の留分をフリーデルクラフト反応によって重合して得られた軟化点64℃の合成炭化水素樹脂96.5gを反応釜にし込み、加熱溶融し、系内温度を180〜190℃に調整し、無水マレイン酸3.5gを加え攪拌下徐々に昇温して系内温度を200〜210℃で5時間反応を行った。次に得られたマレイン化合成炭化水素樹脂を60g(全仕込量100g当り)と、融点62.7℃のパラフィンワックス30g、ポリオキシエチレンセチルエーテル5g、ヘキサステアリン酸POE(6)ソルビット5gを乳化釜にし込み、100〜120℃で加熱溶融する。系内温度を100〜110℃に調整した後、水酸化カリウム(49%)4.3gをさらに加える。次に70〜80℃の温水を徐々に添加し固形分40%のエマルションを得た。得られたエマルションを乳化分散物とする。
【0038】
(実施例1)
合成樹脂ラテックス(A成分)、上記の方法で得た乳化重合物と乳化分散物との混合物(B成分)、及びペーパースラッジ炭、又は炭酸カルシウム(C成分)を表1に示す混合比率(重量部)で混合して本発明の保護層形成用組成物を得た。
【0039】
【表1】

【0040】
合成樹脂ラテックスは旭化成株式会社製A‐6950を用い、ペーパースラッジ炭は鹿児島化成株式会社製PS炭を乾式粉砕にて平均粒子径10μmに調整したもの、また炭酸カルシウムは備北粉化工業株式会社製BF300を用いた。
【0041】
下記の材料・条件を用いて上記組成物を紙材料に塗工し、紙製農業用シートを得た。
原紙 : 未晒しクラフト紙 坪量60g/m
塗工量 : 10,15g/m(solid)
塗工方法 : バーコーター
乾燥条件 : 130℃で20秒間乾燥(熱風乾燥)
【0042】
[性能試験]
本発明の紙製農業用シートの性能について遮光性、撥水性、寸法安定性、そして腐朽性を、黒色の低密度ポリエチレンフィルムシート(積水フィルム九州(株)製、販売名:農ポリ黒マルチ)、及び無塗工未晒しクラフト紙シートと比較例とした。
【0043】
(遮光性試験)
遮光性試験はJIS L 1055「カーテンの遮光性試験方法」に準じた。
(撥水性試験)
撥水性試験はJIS P 8137「紙及び板紙のはっ水度試験方法」に準じた。
【0044】
(浸水伸度試験)
寸法安定性を評価するために浸水伸度試験を行った。浸水伸度試験はJ.TAPPI紙パルプ試験方法No.27A法「紙及び板紙の浸水伸度試験方法」に準じた。そして浸水伸度測定後の試験紙を23℃‐65%に調整した恒温恒湿室に24時間放置して乾燥させ、浸水前を基準とした乾燥後伸度も合わせて確認した。さらに同一工程を再度行い、繰返し浸水伸度、繰返し乾燥後伸度も確認した。
【0045】
(引張り強さ試験、湿潤引張り強さ試験)
強度を評価するために引張り強さ試験及び湿潤引張り強さ試験を行った。引張り強さ試験及び湿潤引張り強さ試験は各々JIS P 8113「紙及び板紙の引張強さ試験方法」、JIS P 8135「紙及び板紙の湿潤引張強さ試験方法」に準じた。浸水時間は60分とし、さらに浸水処理した試験紙を23℃‐65%に調整した恒温恒湿室に24時間放置して乾燥させ、乾燥後引張り強さも確認した。
【0046】
(腐朽性試験)
プランターに園芸用の土を敷き、その中に塗工紙又は無塗工紙を半分の所まで差し込む。このプランターを屋外に置き、3日毎にジョウロで土表面が湿る程度の水を撒き、前記差し込み部分の時間経過(30日後、90日後、120日後)による腐朽性を確認した。
【0047】
(離解性試験)
紙料20gを手で3cm角程にカット後、家庭用ミキサー(100V)に清水780mlと共に投入し5分間離解した。離解後のスラリーを8リットルまで希釈し、丸型抄紙機にて坪量50g/mの手抄きを行い、離解度を目視判定する。判定はパルプが均一に分散して抄かれている場合を良好とし、パルプが部分的に凝集して不均一に抄かれている場合を不良とした。
【0048】
本試験を行った理由は、スリッター加工により所定の大きさの農業用シートに切断する際に出るゴミとなる不用紙を、故紙としてリサイクルする場合の容易性を評価するためである。
【0049】
[試験結果]
表2〜表6,及び図1〜7に試験結果を示す。
(遮光性試験)
【0050】
【表2】

【0051】
上記の結果より、ペーパースラッジ炭を使用している配合例‐1,2の20g/m(solid)においてはポリエチレンフィルムシートと同等の遮光性を持つ事が分った。
(撥水性試験)
【0052】
【表3】

【0053】
上記の結果より、全ての配合例にてR10(水滴が完全に転がり落ちる)を示し、良好である事が分った。
(浸水伸度試験)
【0054】
【表4】

【0055】
上記の結果より、全ての塗工条件で縦横とも殆ど伸縮が無く寸法安定性に優れている事が分った。
(引張り強さ試験、湿潤引張り強さ試験)
【0056】
【表5】

【0057】
上記の結果より、無塗工紙と比べて格段に強度が増している事が分った。
(腐朽性試験)
配合例‐1で10g/m(solid)での試験結果を無塗工と比較した写真を図1〜7として示した。
腐朽性試験の結果より、無塗工紙は90日で腐朽するが、塗工紙は120日でも紙の形態をなしている事が分った。
(離解性試験)
【0058】
【表6】

【0059】
離解性良好 5⇔1 離解性不良
上記の結果より、離解性は良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の農業用シートの腐朽性試験開始前の写真である。
【図2】本発明の農業用シートの腐朽性試験30日経過時の写真である。
【図3】本発明の農業用シートの腐朽性試験90日経過時の写真である。
【図4】本発明の農業用シートの腐朽性試験120日経過時の写真である。
【図5】比較のために使用した無塗工紙シートの腐朽性試験開始前の写真である。
【図6】無塗工紙シートの腐朽性試験30日経過時の写真である。
【図7】無塗工紙シートの腐朽性試験90日経過時の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙製農業用シートのための保護層形成用組成物であって、
A 合成樹脂ラテックス;
B スチレン−アクリル系乳化重合物と、α、β不飽和多塩基性酸付加合成炭化水素樹脂、パラフィン系ワックス、天然及び/又は合成ワックス、直鎖系ノニオン系界面活性剤並びに油性ノニオン系界面活性剤を用い、無機アルカリ及び/又は有機アルカリを用いて乳化分散させてなる乳化分散物との混合物;並びに
C ペーパースラッジ炭、炭酸カルシウム又はゼオライト
を含む保護層形成用組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の保護層形成用組成物を紙材料の少なくとも片面に塗布してなる紙製農業用シート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−262723(P2006−262723A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−81682(P2005−81682)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(591023642)中越パルプ工業株式会社 (5)
【出願人】(391014480)近代化學工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】