説明

紙送りローラおよびゴム組成物

【課題】従来に比べて構成成分が少なく、かつ耐候性に優れる上、紙粉の蓄積による摩擦係数の低下とそれに伴う紙の搬送不良とを、これまでに比べてさらに生じにくくして、より一層長期に亘って良好な紙送りを維持できる紙送りローラと、前記紙送りローラのもとになるゴム組成物とを提供する。
【解決手段】ゴム分としてエチレンプロピレンジエンゴム、およびエポキシ化天然ゴムを含み、かつ前記2種のゴム分の総量中に占めるエポキシ化天然ゴムの割合が10〜90質量%であるゴム組成物と、前記ゴム組成物からなるローラ本体2を備えた紙送りローラ1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電式複写機や各種プリンタ等において紙送りに用いられる紙送りローラと、前記紙送りローラを形成するためのゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば静電式複写機、レーザープリンタ、普通紙ファクシミリ装置、およびこれらの複合機や、あるいはインクジェットプリンタ、自動現金預払機(ATM)等の機器類における紙送り機構には、各種の紙送りローラが組み込まれている。
前記紙送りローラとしては、紙(プラスチックフィルム等を含む。以下同様。)と接触しながら回転して摩擦によって紙を搬送する、例えば給紙ローラ、搬送ローラ、プラテンローラ、排紙ローラ等が挙げられる。
【0003】
前記紙送りローラとして、従来は、例えば天然ゴム(NR)、ウレタンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ポリノルボネンゴム、シリコーンゴム、塩素化ポリエチレンゴム等の各種ゴムからなるローラが一般的に用いられている。
しかし前記紙送りローラの外周面には紙から発生する紙粉が付着しやすく、紙と繰り返し接触するうちに前記外周面に紙粉が蓄積されることで紙に対する紙送りローラの摩擦係数が低下して、比較的早期に紙の搬送不良を生じる場合がある。
【0004】
特に灰分の多い紙は紙粉が発生しやすいため、前記紙粉の蓄積とそれによる紙の搬送不良とを生じやすい。
前記紙送りローラを形成するゴム分としてEPDM、イソプレンゴム(IR)、およびスチレンブタジエンゴム(SBR)の3種を、所定の割合で併用することが検討されている(特許文献等1参照)。
【0005】
発明者の検討によると、前記3種のゴム分の併用系によれば、紙粉の蓄積とそれに伴う紙の搬送不良の発生をある程度は抑制して、これまでに比べて長期に亘って良好な紙送りを維持しうる紙送りローラを形成することが可能である。
しかしその効果は未だ十分ではなく、より一層長期に亘って紙粉の蓄積とそれに伴う紙の搬送不良の発生とを防止して、良好な紙送りを維持できる紙送りローラが求められている。
【0006】
また、前記3種のゴム分の併用系では、本来的に摩擦係数の小さいEPDMに、IR、およびSBRを加えることで、紙送りローラの初期の摩擦係数を向上することをも意図しているが、かかる効果も未だ十分ではない。
また、前記3種のゴム分のうちEPDMは、周知のように本来的に耐候性に優れているものの、IR、およびSBRは主鎖中に炭素−炭素二重結合を有し、前記EPDMに比べて耐候性が十分でないことから、紙送りローラを長期に亘って使用した際に、当該紙送りローラが亀裂を生じたり破断したりしやすくなるという問題もある。
【0007】
また、前記のように3種のゴム分を含む分、構成成分が多くなるためゴム組成物の構成が複雑化して、当該ゴム組成物やそれを用いて形成される紙送りローラの生産性が低下したり、その品質管理が容易でなくなったり、あるいは生産コストが上昇したりするといった問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−116480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、従来に比べて構成成分が少なく、耐候性に優れ、かつ初期の摩擦係数が高い上、紙粉の蓄積による摩擦係数の低下とそれに伴う紙の搬送不良とを、これまでに比べてさらに生じにくくして、より一層長期に亘って良好な紙送りを維持できる紙送りローラと、前記紙送りローラのもとになるゴム組成物とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ゴム分としてEPDM、およびエポキシ化天然ゴム(ENR)を含み、かつ前記2種のゴム分の総量中に占めるENRの割合が10質量%以上、90質量%以下であるゴム組成物からなることを特徴とする紙送りローラである。
また本発明は、ゴム分としてEPDM、およびEMRを含み、かつ前記2種のゴム分の総量中に占めるENRの割合が10質量%以上、90質量%以下であることを特徴とする紙送りローラ形成用のゴム組成物である。
【0011】
本発明によれば、従来の3種のゴム分のうちIR、およびSBRに代えて、ゴム分としてENRを、前記所定の割合でEPDMと併用することにより、後述する実施例、比較例の結果からも明らかなように、初期の摩擦係数が高い上、紙粉の蓄積による摩擦係数の低下とそれに伴う紙の搬送不良とを、これまでに比べてさらに生じにくくして、より一層長期に亘って良好な紙送りを維持しうる紙送りローラを得ることが可能となる。
【0012】
また前記ENRは、IR、SBRと同様に主鎖中に炭素−炭素二重結合を有するものの、主鎖に沿ってエポキシ基を導入することで前記炭素−炭素二重結合の割合が減じられていることと、導入したエポキシ基自体の作用とによって、前記IR、SBR等に比べて耐候性に優れている。
そのため本発明によれば、前記ENRを、本来的に耐候性に優れたEPDMと併用することにより、長期に亘って使用した際に亀裂を生じたり破断したりしにくい紙送りローラを得ることも可能となる。
【0013】
しかも本発明によれば、前記のようにゴム分としてEPDMとENRの2種を併用することで全体の構成成分を少なくして、ゴム組成物や紙送りローラの生産性を向上し、かつその品質管理を容易化するとともに、生産コストを引き下げることもできる。
前記ゴム組成物は、過酸化物架橋剤によって架橋されているのが好ましい。
前記過酸化物架橋剤は、通常の硫黄加硫系の架橋剤のように、紙送りローラの表面にブルームして摩擦係数の低下を引き起こすおそれのある加硫促進剤やステアリン酸等を併用する必要がない上、それ自体もブルームを生じないため摩擦係数の低下を引き起こすおそれがない。
【0014】
そのため、初期の摩擦係数がさらに高い上、紙と繰り返し接触させた際の摩擦係数の低下とそれに伴う搬送不良とをさらに良好に抑制して、より一層長期に亘って良好な紙送りを維持しうる紙送りローラを得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来に比べて構成成分が少なく、耐候性に優れ、かつ初期の摩擦係数が高い上、紙粉の蓄積による摩擦係数の低下とそれに伴う紙の搬送不良とを、これまでに比べてさらに生じにくくして、より一層長期に亘って良好な紙送りを維持できる紙送りローラと、前記紙送りローラのもとになるゴム組成物とを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の紙送りローラの、実施の形態の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〈ゴム組成物〉
本発明のゴム組成物は、ゴム分としてEPDM、およびENRを含み、かつ前記2種のゴム分の総量中に占めるENRの割合が10質量%以上、90質量%以下であることを特徴とするものである。
本発明において、ENRの割合が前記範囲に限定されるのは、下記の理由による。
【0018】
すなわち、前記範囲よりEPDMが少ない場合には、紙送りローラの耐候性が低下して、長期に亘って使用した際に亀裂を生じたり破断したりしやすくなる。また耐摩耗性も低下するため、紙送りローラを紙と繰り返し接触させた際に摩耗しやすくなり、当該摩耗によって摩擦係数が低下して紙の搬送不良を生じたりしやすくなる。
一方、前記範囲よりENRが少ない場合には、当該ENRをEPDMと併用したことによる、初期の摩擦係数を向上する効果や、紙と繰り返し接触させた際に、紙粉の蓄積による摩擦係数の低下とそれに伴う搬送不良とを生じにくくして、より長期に亘って良好な紙送りを維持する効果が得られない。
【0019】
なおENRの配合割合は、前記各種の問題点が生じるのを防止して、より一層耐候性に優れ、かつ初期の摩擦係数が高い上、さらに長期に亘って良好な紙送りを維持しうる紙送りローラを得ることを考慮すると、前記範囲内でも15質量%以上であるのが好ましく、80質量%以下、特に70質量%以下であるのが好ましい。
(EPDM)
EPDMとしては、エチレン、プロピレン、およびジエンを共重合させた種々の共重合体がいずれも使用可能である。前記ジエンとしては、エチリデンノルボルネン(ENB)、ジシクロペンタジエン(DCPD)等が挙げられる。
【0020】
またEPDMとしては伸展油で伸展したいわゆる油展EPDM、および伸展油で伸展していない非油展EPDMのいずれを用いてもよい。ただし、前記2種のゴム分に架橋剤等の添加剤を配合し、混練してゴム組成物を調製する際や、前記ゴム組成物を紙送りローラの形状に成形する際の加工性等を向上することを考慮すると、EPDMとしては油展EPDMが好ましい。
【0021】
ジエンがENBであるENB系の油展EPDMとしては、例えば住友化学(株)製のエスプレン(登録商標)670F〔ゴム分:伸展油=100:100(質量比)〕、671F〔ゴム分:伸展油=100:70(質量比)〕、三井化学(株)製の三井EPT3042E〔ゴム分:伸展油=100:120(質量比)〕等の1種または2種以上が挙げられる。
【0022】
またジエンがDCPDであるDCPD系の油展EPDMとしては、例えば住友化学(株)製のエスプレン400〔ゴム分:伸展油=100:100(質量比)〕等が挙げられる。
EPDMは、前記例示のものをいずれか1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
EPDMとして油展EPDMを用いる場合、先に説明したENRの割合は、前記油展EPDM中に含まれるゴム分(EPDM)と、ENRとの総量中に占める割合である。
(ENR)
ENRとしては、天然ゴムを、例えばクロルヒドリン法、直接酸化法、過酸化水素法、アルキルヒドロペルオキシド法、過酸法等の任意の方法で処理して、その主鎖中の炭素−炭素二重結合をランダムにエポキシ化したものがいずれも使用可能である。
【0024】
前記ENRのエポキシ化率は、任意に設定することができる。
ただし、EPDMと併用して紙送りローラを形成することによる先に説明した種々の効果をさらに向上することを考慮すると、エポキシ化率は4モル%以上、特に10モル%以上であるのが好ましく、60モル%以下、特に50モル%以下であるの好ましい。
前記エポキシ化天然ゴムとしては、例えばサイム・ダービー(Sime Darby Berhad、マレーシア)社製のENR10〔エポキシ化率10モル%〕、ENR25〔エポキシ化率25モル%〕、ENR50〔エポキシ化率50モル%〕等の1種または2種以上が挙げられる。
【0025】
〈架橋剤〉
ゴム組成物には、前記ゴム分を架橋させるための架橋剤を配合する。
前記架橋剤としては、通常の硫黄加硫系(硫黄または含硫黄化合物と、加硫促進剤、加硫促進助剤等との併用系)の架橋剤を使用してもよいが、特に過酸化物架橋剤が好ましい。
【0026】
過酸化物架橋剤は、硫黄加硫系の架橋剤のように、紙送りローラの表面にブルームして摩擦係数の低下を引き起こす前記加硫促進剤やステアリン酸(加硫促進助剤)等を併用する必要がない上、それ自体もブルームを生じないため摩擦係数の低下を引き起こすおそれがない。
そのため、紙と繰り返し接触させた際の摩擦係数の低下とそれに伴う搬送不良とをさらに良好に抑制して、より一層長期に亘って良好な紙送りを維持しうる紙送りローラを得ることができる。
【0027】
前記過酸化物架橋剤としては、例えばベンゾイルパーオキサイド、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ジ(tert−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、1,4−ビス[(tert−ブチル)パーオキシイソプロピル]ベンゼン、ジ(tert−ブチルパーオキシ)ベンゾエート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキシド、tert−ブチルクミルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジtert−ブチルパーオキシドおよび2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)−3−ヘキセン等の1種または2種以上が挙げられる。
【0028】
過酸化物架橋剤の配合割合は、ゴム分の総量100質量部あたり0.8質量部以上、特に1.5質量部以上であるのが好ましく、5質量部以下、特に3.5質量部以下であるのが好ましい。
過酸化物架橋剤の配合割合が前記範囲未満では、紙送りローラの耐摩耗性が低下するおそれがある。また、前記範囲を超える場合には、紙送りローラが硬くなりすぎて、望まれる摩擦係数が発現されにくくなるおそれがある。
【0029】
またゴム組成物には、カーボンブラック等の補強剤・充填剤や、あるいはオイル、可塑剤等の各種添加剤を適宜選択して配合してもよい。
〈紙送りローラ〉
図1は、本発明の紙送りローラ1の、実施の形態の一例を示す斜視図である。
図1を参照して、この例の紙送りローラ1は、前記ゴム組成物からなる円筒状のローラ本体2と、前記ローラ本体2の中心の通孔3に挿通されたシャフト4とを含んでいる。シャフト4は、例えば金属、セラミック、硬質樹脂等によって形成される。
【0030】
ローラ本体2のゴム厚みは特に限定されないが、例えば静電式複写機等の紙送りローラの場合に良好な紙送りを実現するためには、前記ゴム厚みが1mm以上、特に2mm以上であるのが好ましく、20mm以下、特に15mm以下であるのが好ましい。
前記ローラ本体2は、先に説明したゴム組成物を射出成形法、押出成形法等の任意の成形法によって円筒状に成形したのち、例えばプレス架橋等によって架橋させて形成される。
【0031】
ローラ本体2とシャフト4とは、例えば前記シャフト4の外径をローラ本体2の通孔3の内径よりも大きめに形成して前記通孔3内にシャフト4を圧入したり、前記両者を接着剤によって接着したり、ローラ本体2の架橋時に加硫接着剤によって加硫接着したりすることで一体化される。
また前記一体化の前後の任意の時点で、必要に応じてさらにローラ本体2の外周面5を所定の表面粗さになるように研磨したり、前記外周面5をローレット加工、シボ加工等したり、あるいはローラ本体2の軸方向の長さ、すなわち紙送りローラ1の幅が所定値となるようにローラ本体2の両端をカットしたりしてもよい。これにより、図1に示す紙送りローラ1が製造される。
【0032】
なおローラ本体2は、外周面5側の外層とシャフト4側の内層の2層構造に形成してもよい。その場合、少なくとも外層を前記ゴム組成物によって形成すればよい。
また紙送りローラ1の用途によっては、通孔3はローラ本体2の中心から偏心した位置に設けてもよい。またローラ本体2は円筒状でなく異形形状、例えば外周面5の一部が平面状に切り欠かれた形状等であってもよい。かかる異形形状を有するローラ本体2を形成するには、射出成形法、押出成形法等によって、ローラ本体2を前記異形形状に直接に成形してもよいし、円筒状に形成したローラ本体2の外周面5を後加工して前記異形形状としてもよい。
【0033】
また円筒状に形成したローラ本体2の通孔3に、断面形状が前記異形形状に対応する変形形状とされたシャフト4を圧入することでローラ本体2を変形させて前記異形形状とすることもできる。この場合、外周面5の研磨やローレット加工、シボ加工等は変形前の円筒状のローラ本体2に対して行なうことができるため加工性を向上できる。
本発明の紙送りローラ1は、例えば静電式複写機、レーザービームプリンタ、普通紙ファクシミリ装置、インクジェットプリンタ、自動現金預払機(ATM)等の機器類における紙送り機構に組み込まれる、給紙ローラ、搬送ローラ、プラテンローラ、排紙ローラ等の種々の紙送りローラとして用いることができる。
【実施例】
【0034】
〈実施例1〉
ゴム分としての油展EPDM〔前出の住友化学(株)製のエスプレン670F、ゴム分:伸展油=100:100(質量比)〕40質量部(ゴム分としてのEPDMの量は20質量部)、およびENR〔前出のサイム・ダービー社製のENR25、エポキシ化率25モル%〕80質量部に、さらに過酸化物架橋剤としてのジクミルパーオキシド〔日油(株)製のパークミル(登録商標)D〕3質量部、補強剤・充填剤としてのカーボンブラック〔HAF、東海カーボン(株)製の商品名シースト3〕10質量部、およびパラフィンオイル〔出光興産(株)製のダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW−380〕60質量部を配合し、混練してゴム組成物を調製した。
【0035】
次いで、前記ゴム組成物を筒状に押出成形したのち160℃×30分間プレス加硫して、内径φ12.6、外径φ25、長さ60mmの筒状体(コット)を形成し、前記筒状体を、円筒研削盤を用いて外径φ24に研磨したのち長さ30mmにカットして円筒状のローラ本体を形成した。
そして、前記ローラ本体の通孔にφ14の樹脂製のシャフト(専用樹脂コア)を圧入して紙送りローラを製造した。
【0036】
前記ゴム組成物における、ゴム分の総量中に占めるENRの割合は80質量%であった。
〈実施例2〉
油展EPDMの量を100質量部(ゴム分としてのEPDMの量は50質量部)、ENRの量を50質量部とし、かつパラフィンオイルの量を30質量部としたこと以外は実施例1と同様にしてゴム組成物を調製し、紙送りローラを製造した。
【0037】
前記ゴム組成物における、ゴム分の総量中に占めるENRの割合は50質量%であった。
〈実施例3〉
油展EPDMの量を140質量部(ゴム分としてのEPDMの量は70質量部)、ENRの量を30質量部とし、かつパラフィンオイルの量を10質量部としたこと以外は実施例1と同様にしてゴム組成物を調製し、紙送りローラを製造した。
【0038】
前記ゴム組成物における、ゴム分の総量中に占めるENRの割合は30質量%であった。
〈実施例4〉
過酸化物架橋剤に代えて、粉末硫黄〔鶴見化学工業(株)製〕1質量部、テトラエチルチウラムジスルフィド〔加硫促進助剤、大内新興化学工業(株)製のノクセラー(登録商標)TET〕2質量部、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド〔加硫促進助剤、大内新興化学工業(株)製のノクセラーDM〕1質量部、ステアリン酸〔日油(株)製の商品名つばき〕1質量部、および酸化亜鉛2種〔三井金属鉱業(株)製〕5質量部を配合したこと以外は実施例3と同様にしてゴム組成物を調製し、紙送りローラを製造した。
【0039】
前記ゴム組成物における、ゴム分の総量中に占めるENRの割合は30質量%であった。
〈実施例5〉
油展EPDMの量を180質量部(ゴム分としてのEPDMの量は90質量部)、ENRの量を10質量部、カーボンブラックの量を15質量部とし、かつパラフィンオイルを配合しなかったこと以外は実施例1と同様にしてゴム組成物を調製し、紙送りローラを製造した。
【0040】
前記ゴム組成物における、ゴム分の総量中に占めるENRの割合は10質量%であった。
〈比較例1〉
ゴム分として、油展EPDM〔前出の住友化学(株)製のエスプレン670F、ゴム分:伸展油=100:100(質量比)〕40質量部(ゴム分としてのEPDMの量は20質量部)、天然ゴム〔SMR(Standard Malaysian Rubber)−CV60〕50質量部、およびSBR〔日本ゼオン(株)製のニポール(登録商標)1502、非油展SBR〕30質量部の3種を併用したこと以外は実施例1と同様にしてゴム組成物を調製し、紙送りローラを製造した。
【0041】
〈比較例2〉
油展EPDMの量を10質量部(ゴム分としてのEPDMの量は5質量部)、ENRの量を95質量部とし、かつパラフィンオイルの量を75質量部としたこと以外は実施例1と同様にしてゴム組成物を調製し、紙送りローラを製造した。
前記ゴム組成物における、ゴム分の総量中に占めるENRの割合は95質量%であった。
【0042】
〈比較例3〉
油展EPDMの量を190質量部(ゴム分としてのEPDMの量は95質量部)、ENRの量を5質量部、カーボンブラックの量を18質量部とし、かつパラフィンオイルを配合しなかったこと以外は実施例1と同様にしてゴム組成物を調製し、紙送りローラを製造した。
【0043】
前記ゴム組成物における、ゴム分の総量中に占めるENRの割合は5質量%であった。
〈摩擦係数試験および通紙状況評価〉
各実施例、比較例の紙送りローラを、テフロン(登録商標)板の上に載置した幅60mm×長さ210mmの紙〔ゼロックス社製のXerox Business4200〕の上に340gfの鉛直荷重をかけながら圧接させた状態で、前記紙送りローラを周速度105mm/秒で回転させた際に、前記紙に加わる搬送力Fを、ロードセルを用いて測定して、式(4):
μ=F/340 (4)
により摩擦係数μを求めた。
【0044】
測定は紙送りローラの製造直後(初期)と、前記紙送りローラを日本ヒューレットパッカード(株)製のレーザープリンタHP Laser Jet 4350nに給紙ローラとして組み込んで前記と同じ紙〔ゼロックス社製のXerox Business4200〕を1万2千枚通紙した後(耐久後)に実施した。
またこの通紙時の通紙状況を観察して、その良否を下記の基準で評価した。
【0045】
×:1万2千枚までの間に紙送りの不良が10回以上発生した。通紙状況不良。
○:1万2千枚までの間に紙送りの不良が1回以上、9回以下発生した。通紙状況良好。
◎:1万2千枚までの間に紙送りの不良は全く発生しなかった。通紙状況極めて良好。
〈耐候性試験〉
各実施例、比較例の紙送りローラの耐候性を、日本工業規格JIS K6259:2004「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−耐オゾン性の求め方」に所載の静的オゾン劣化試験に則って評価した。
【0046】
すなわち各実施例、比較例で調製したのと同じゴム組成物を用いて、前記規格において規定された寸法、形状の試験片を作製し、前記試験片に引張ひずみ(10%伸長)を加えながら温度40℃、オゾン濃度50ppm、試験時間120時間の条件でオゾンに曝露した際に、前記試験片に亀裂が発生したか否かを確認した。そして下記の基準で耐候性の良否を評価した。
【0047】
×:曝露96時間までの間に亀裂が発生した。耐候性不良。
○:曝露96時間までの間には亀裂は発生しなかったが、96時間を経過後、120時間までの間に亀裂が発生した。耐候性良好。
◎:曝露120時間までの間に亀裂は全く発生しなかった。耐候性極めて良好。
以上の結果を表1、表2に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
表1、表2の実施例1〜5、比較例1の結果より、ゴム分としてEPDMとENRの2種を併用することにより、耐候性に優れ、かつ初期の摩擦係数が高い上、紙粉の蓄積による摩擦係数の低下とそれに伴う紙の搬送不良とを生じにくくして、長期に亘って良好な紙送りを維持しうる紙送りローラが得られることが判った。
ただし実施例1〜5、比較例2、3の結果より、前記効果を得るためには、EPDMとENRとの総量中に占めるENRの割合が10質量%以上、90質量%以下である必要があることが判った。
【0051】
また実施例1〜5の結果より、前記効果をさらに向上するためには、EPDMとENRとの総量中に占めるENRの割合が、前記範囲内でも15質量%以上であるのが好ましく、80質量%以下、特に70質量%以下であるのが好ましいことが判った。
さらに実施例3、4の結果より、架橋剤として過酸化物架橋剤を用いることにより、硫黄加硫系の架橋剤を用いる場合に比べてさらに初期の摩擦係数を向上できることが判った。
【符号の説明】
【0052】
1 紙送りローラ
2 ローラ本体
3 通孔
4 シャフト
5 外周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム分としてエチレンプロピレジエンゴム、およびエポキシ化天然ゴムを含み、かつ前記2種のゴム分の総量中に占めるエポキシ化天然ゴムの割合が10質量%以上、90質量%以下であるゴム組成物からなることを特徴とする紙送りローラ。
【請求項2】
前記ゴム組成物は、過酸化物架橋剤によって架橋されている請求項1に記載の紙送りローラ。
【請求項3】
ゴム分としてエチレンプロピレジエンゴム、およびエポキシ化天然ゴムを含み、かつ前記2種のゴム分の総量中に占めるエポキシ化天然ゴムの割合が10質量%以上、90質量%以下であることを特徴とする紙送りローラ形成用のゴム組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2013−91557(P2013−91557A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235261(P2011−235261)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】