説明

紙送りローラとその製造方法及び紙送りユニット並びに記録装置

【課題】製造が容易で高摩擦領域を高精度に形成できる紙送りローラの製造方法を提供する。
【解決手段】板状体60の少なくとも一部に凹凸処理を施して高摩擦領域50を形成する第1工程と、高摩擦領域50が形成された板状体60を丸めてパイプ化する第2工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙送りローラとその製造方法及び紙送りユニット並びに記録装置に関し、特に軽量化を実現できる紙送りローラとその製造方法及び紙送りユニット並びに記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
記録装置の一つとしてプリンタがあり、このプリンタにおいては、用紙等の記録媒体を紙送りローラ及び従動ローラで記録部に送り込んだ後に、排紙ローラ(駆動ローラ)及びその従動ローラ(ギザローラ)で排出する構成のものが採用されている。
【0003】
この種の紙送りローラは、従動ローラとの間で用紙を挟持して、回転駆動することにより、用紙をキャリッジの移動方向と直交する副走査方向に記録位置まで搬送するものであり、高い搬送力が要求される。
【0004】
そこで、紙送りローラに高い摩擦力を保持させるために、特許文献1には金属製丸棒の周面に、目打ち加工により多数の突起を形成する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、プレス加工により表面を叩いて隆起させ多数の突起を形成する技術が開示されている。
【特許文献1】特許第3271048号公報
【特許文献2】特開平10−119374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したような従来技術には、以下のような問題が存在する。
【0007】
軸状(円柱状)の表面に周方向に沿って突起を形成する必要があるため、作業性が悪いことに加えて、中実の材料を用いることからコストが嵩むという問題がある。
【0008】
また、特許文献2には、中空のシャフト(パイプ)を用いる点も記載されているが、プレス加工により表面を叩くことにより、特に薄肉パイプの場合には変形が生じやすいという問題があり、搬送精度が低下する虞がある。
【0009】
一方、用紙の搬送時、用紙と紙送りローラの突起との摩擦により紙粉が生じ、この紙粉が溜まることにより、用紙と紙送りローラの突起との摩擦力が低下し、搬送力が低下するという問題が生じる。
【0010】
本発明は、以上のような点を考慮してなされたもので、製造が容易で高摩擦領域を高精度に形成できる紙送りローラとその製造方法及び紙送りユニット並びに記録装置を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明の別の目的は、搬送力の低下を抑制できる紙送りローラとその製造方法及び紙送りユニット並びに記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために本発明は、以下の構成を採用している。
【0013】
本発明の紙送りローラの製造方法は、板状体の少なくとも一部に凹凸処理を施して高摩擦領域を形成する第1工程と、前記高摩擦領域が形成された前記板状体を丸めてパイプ化する第2工程と、を有することを特徴とするものである。
【0014】
従って、本発明では、平滑な板状体に対してプレス加工等の凹凸処理を施すため、円柱の外周面に加工を施す場合と比較して、容易に突起等の高摩擦領域を製造することができる。また、本発明では、板状体に対して高摩擦領域を形成した後にパイプ化するため、パイプに対して凹凸処理を施す場合と比べて、パイプに対するダメージが低減して高精度の紙送りローラを製造することが可能になる。
【0015】
さらに、本発明では、紙送りローラが中空となり材料の重量が減るため、材料費を削減することが可能になるとともに、紙送りローラが軽量化されるため、紙送りローラを駆動するモータの負荷が軽減され、また動作・停止時のイナーシャも軽減することができる。従って、本発明では、より小型のモータで紙送りローラを駆動することができ、紙送りローラを備えた機器の小型軽量化及び低価格化に寄与できる。
【0016】
また、本発明における前記第2工程では、前記高摩擦領域を外した領域を接触部分として丸める手順を好適に採用できる。
【0017】
これにより、本発明では、板状体を丸める加工を行う際に、高摩擦領域(凸部分)が損傷して摩擦力が低下することにより、搬送力が低下してしまうことを防止できる。
【0018】
また、本発明における前記第2工程では、前記板状体を螺旋状に巻く手順も好適に採用できる。
【0019】
これにより、本発明では、板状体を例えば帯状とし、螺旋状に巻く工程と切断する工程とを繰り返すことにより、紙送りローラを連続的に大量に製造することが可能になり、生産性の向上に寄与できる。
【0020】
また、本発明における前記第1工程では、前記板状体に貫通孔を形成する手順も好適に採用できる。
【0021】
これにより、本発明では、塵埃や紙粉を貫通孔から容易に排出することが可能になり、塵埃や紙粉により、用紙と紙送りローラとの摩擦力が低下し、搬送力が低下することを抑制できる。
【0022】
また、本発明における前記第1工程では、鉤状の切込みを形成する手順も好適に採用できる。
【0023】
これにより、本発明では、高摩擦領域を構成する突起と貫通孔とを同時に形成することが可能になり、塵埃や紙粉を排出して、用紙と紙送りローラとの摩擦力が低下することを抑制できる紙送りローラを効率よく製造することができる。
【0024】
そして、本発明の紙送りローラは、表面の一部に突状の高摩擦領域が設けられ、少なくとも前記高摩擦領域の部分がパイプ状に形成され、パイプ状の部分に貫通孔が形成されていることを特徴としている。
【0025】
従って、本発明の紙送りローラでは、内部が中空となり材料の重量が減るため、材料費を削減することが可能になるとともに、紙送りローラが軽量化されるため、紙送りローラを駆動するモータの負荷が軽減され、また動作・停止時のイナーシャも軽減することができる。従って、本発明では、より小型のモータで紙送りローラを駆動することができ、紙送りローラを備えた機器の小型軽量化及び低価格化に寄与できる。
【0026】
さらに、本発明の紙送りローラでは、塵埃や紙粉を貫通孔から容易に排出することが可能になり、塵埃や紙粉により、用紙と紙送りローラとの摩擦力が低下し、搬送力が低下することを抑制できる。
【0027】
また、本発明における前記貫通孔としては、前記高摩擦領域に形成されている構成を好適に採用できる。
【0028】
従って、本発明では、高摩擦領域において生じやすい紙粉を効率的に排出することが可能になる。
【0029】
また、本発明における前記貫通孔としては、突状部分に対応して形成されている構成を好適に採用できる。
【0030】
従って、本発明では、高摩擦領域となる突状部分において生じやすい紙粉を効率的に排出することが可能になる。
【0031】
一方、本発明の紙送りユニットは、先に記載の紙送りローラと、該紙送りローラと当接して従動する従動ローラと、前記紙送りローラを回転駆動する駆動装置とを有することを特徴とするものである。
【0032】
従って、本発明では、上記の紙送りローラを備えているため、高精度の紙搬送、コスト削減、機器の小型軽量化及び低価格化に寄与する紙送りユニットを得ることができる。
【0033】
また、本発明においては、前記従動ローラの表面に低摩耗処理が施されている構成を好適に採用できる。
【0034】
これにより、本発明では、紙送りローラとの接触、特に高摩擦領域との接触により従動ローラにダメージが加わることを抑制できる。
【0035】
また、本発明においては、前記従動ローラが、前記高摩耗領域に対応して配置されている構成を好適に採用できる。
【0036】
これにより、本発明では、紙送りローラと従動ローラとの間で紙を挟持する力が大きくなり、紙送りの安定化を図ることが可能になる。
【0037】
そして、本発明の記録装置は、先に記載の紙送りユニットと、搬送された用紙に記録処理を行う記録部と、前記記録部の記録処理を制御する制御部とを有することを特徴とするものである。
【0038】
従って、本発明の記録装置では、上記の紙送りユニットを備えているため、高精度の紙搬送、コスト削減、機器の小型軽量化及び低価格化に寄与する記録装置を得ることができ、用紙に対して高精度の記録が可能となる。
【0039】
また、本発明においては、前記紙送りユニットが前記記録部よりも給紙側に配置されている構成も好適に採用できる。
【0040】
これにより、本発明では、用紙を高精度に記録部に搬送することができ、用紙に対して高精度の記録が可能となる。
【0041】
また、本発明においては、前記貫通孔を介してエアの吸引または噴射を行うエア駆動装置を有する構成を好適に採用できる。
【0042】
これにより、本発明では、前記貫通孔を介してエアの吸引または噴射を行うことにより、塵埃や紙粉を容易に除去することが可能になり、塵埃や紙粉により、用紙と紙送りローラとの摩擦力が低下し、搬送力が低下することを抑制できる。
【0043】
また、本発明における前記制御部としては、前記エア駆動装置の駆動タイミングを制御する構成を好適に採用できる。
【0044】
これにより、本発明では、記録部における記録処理と前記貫通孔を介してのエアの吸引または噴射とを同期させることが可能となり、例えば記録処理時にはエアを噴射を停止させて、エアの噴射に起因して記録処理に悪影響が及ぶことを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明の紙送りローラとその製造方法及び紙送りユニット並びに記録装置の実施の形態を、図1ないし図9を参照して説明する。
【0046】
なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0047】
図1は本発明の一実施形態に係る記録装置の紙送りユニットを備えるインクジェットプリンタの側断面図であり、図2は同記録装置の紙送りユニット部分の平面図(A)及び駆動系の側面図(B)である。
【0048】
図1において、符号1は本発明に係る紙送りユニットを適用した記録装置の一例であるインクジェットプリンタを示す。インクジェットプリンタ1は、プリンタ本体3と、該プリンタ本体3の後方上部に設けられる給紙部5と、プリンタ本体3の前方に形成される排紙部7とを備えてなるものである。
【0049】
給紙部5には給紙トレイ11が設けられており、給紙トレイ11には複数枚の用紙Pが積載できるようになっている。給紙トレイ11の直ぐ下流側には給紙ローラ13が設けられている。給紙ローラ13は、対向する分離パッドとの間で給紙トレイ11の最上部に位置する用紙Pを挟圧して、前方へ送り出す作用をする。
【0050】
送り出された用紙Pは、下側に配置される紙送り駆動ローラ(紙送りローラ)15及び上側に配置される紙送り従動ローラ(従動ローラ)17から構成される紙送りローラ機構19に至り、そこで後述する駆動系による紙送り駆動ローラ15の回転駆動によって、印刷工程における精密な紙送り動作を受けながら、紙送りローラ機構19の下流側に位置する記録ヘッド(記録部)である印字ヘッド21へ給紙されるようになっている。
【0051】
印字ヘッド21はキャリッジ23に支持されており、キャリッジ23は給紙方向と直交する方向へ往復運動できる構成となっている。印字ヘッド21と対向する位置にはプラテン24が設けられており、該プラテン24はキャリッジ23の移動方向に沿って間隔をあけて配置される複数のダイヤモンドリブ25によって構成されている。ダイヤモンドリブ25は、印字ヘッド21によって用紙Pに印刷を行う際に、用紙Pを下側から支持する作用をし、具体的には、ダイヤモンドリブ25の頂面がその作用を担う。
【0052】
この印字ヘッド21による印字処理(記録処理)は、図1に示す制御部CONTによって制御される。
【0053】
印字ヘッド21とダイヤモンドリブ25との距離は、用紙Pの厚さによって適宜調節可能な構成となっており、これにより用紙Pはダイヤモンドリブ25の頂面上を滑らかに通過しながら、高品質の印刷が行えるようになっている。印字ヘッド21で印刷された用紙Pは、排紙部7に設けられる排紙ローラ27によって順次排出される。
【0054】
排紙ローラ27は、下側に配置される排紙駆動ローラ29及び上側に配置される排紙ギザローラ31から構成されており、用紙Pが排紙駆動ローラ29の回転駆動により引き出されて排出される装置となっている。
【0055】
ここで紙送りローラ機構19及び排紙ローラ27における各駆動ローラ15,29の駆動系及び両駆動ローラ15,29の駆動速度の関係について説明する。図2(B)に示す如く、プリンタ本体3には、上記制御部CONTの制御下で駆動される紙送りモータ(駆動装置)32が設けられ、その駆動軸に設けられたピニオン33には紙送り駆動ギア35が歯合している。紙送り駆動ギア35の回転軸37は、紙送り駆動ローラ15と連結されている。
【0056】
また、紙送り駆動ギア35と同軸的に設けられるインナギア39には中間ギア41が歯合しており、該中間ギア41には排紙駆動ギア43が歯合している。排紙駆動ギア43の回転軸は、排紙駆動ローラ29の軸体45となっている。このようにして紙送りローラ機構19及び排紙ローラ27における各駆動ローラ15、29は、同一の駆動源である紙送りモータ32からの駆動力を受けて駆動される。
【0057】
ギア比を調整することで、排紙駆動ローラ29の回転速度は、紙送り駆動ローラ15の回転速度よりも速くなるように設定されており、従って排紙ローラ27の排紙速度は、紙送りローラ機構19の紙送り速度よりも増速率sだけ速い速度となっている。また紙送りローラ機構19による用紙押さえ力は、排紙ローラ27による押さえ力よりも大きく設定されているため、紙送りローラ機構19と排紙ローラ27の両方が用紙を挟持している状態にあるときの用紙搬送速度は、排紙ローラ27の排紙速度とは関係なく紙送りローラ機構19の紙送り速度で規定されるようになっている。
【0058】
以下、本発明の特徴的構成である紙送りローラ機構19について説明する。
【0059】
図3は、紙送り駆動ローラ15及び紙送り従動ローラ17からなる紙送りローラ機構19の要部詳細を示す外観斜視図である。
【0060】
紙送り駆動ローラ15は、例えばステンレス等の金属の板状体60を丸めることでパイプ状に形成されたものであり(後述)、その外周面には軸方向に所定の間隔をあけて高摩擦領域50が設けられている。各高摩擦領域50には、上記板状体60に凹凸処理を施すことで形成された突起51が軸方向及び周方向に略一定間隔で複数配列されている。
【0061】
この凹凸処理としては、ここでは板状体60に、プレス加工により鉤状(三角形)の切込みを形成する方法が採られている。これにより、図4(a)に示すように、三角形の一辺を基端として、図4(b)に示すように、三角形の頂点部が外周側(外側)に屈曲して突出する突起51が形成されている。そして、突起51が切り込まれた板状体60には、この突起(突状部分)51にそれぞれ対応するように、平面視三角形の貫通孔61が形成されている。
【0062】
なお、高摩擦領域50の間、及び紙送り駆動ローラ15の両端部は、凹凸処理の未処理部とされており、この未処理部である紙送り駆動ローラ15の端部において、紙送り駆動ギア35の回転軸37と連結される。
【0063】
また、図2及び図3に示すように、本実施形態のインクジェットプリンタ1には、パイプ状に形成された紙送り駆動ローラ15の内部のエアを負圧吸引するエア吸引装置(エア駆動装置)55が設けられている。このエア吸引装置55の駆動も上記制御部CONTにより制御される。
【0064】
紙送り従動ローラ17は、図3に示すように、紙送り駆動ローラ15の高摩擦領域50に対応した個数、及び長さに分割して複数配設されている。各紙送り従動ローラ17は、高摩擦領域50(突起51)に対して、所定の付勢力(用紙Pに対する挟持力)をもって接するように付勢されて配置される。そのため、紙送り従動ローラ17の表面は、突起51との摺接による損傷を抑制するために、例えばフッ素樹脂塗装等の低摩耗処理が施されている。
【0065】
続いて、上記紙送り駆動ローラ15の製造方法について、図5乃至図7を参照して説明する。
【0066】
まず、図5に示すように、平板状の板状体60に対して、プレス加工により所定間隔で凹凸処理(切込み加工処理)を施すことにより、突起51を群形成して、紙送り駆動ローラ15の回転軸線方向に沿って高摩擦領域50を設ける(第1工程)。
【0067】
次に、図6に示すように、高摩擦領域50を外した領域を支持する支持部71、及び高摩擦領域50との間で隙間を形成する凹部72を有する治具70と、支持部71と対向して配置され板状体60をパイプ状に丸める金型75とを用いて、平板状の板状体60をパイプ状に丸める(第2工程)。
【0068】
具体的には、図5に矢印で示すように、高摩擦領域50を外した領域の両端近傍を接触部分として、金型75を用いて、板状体60を回転軸線周りにパイプ状に丸める。
【0069】
これにより、図7に示すように、板状体60は幅方向で円弧状に湾曲し、図3に示したように、パイプ化(円筒化)されて紙送り駆動ローラ15が形成される。
【0070】
そして、端部において、紙送り駆動ギア35の回転軸37と連結することにより、インクジェットプリンタ1に組み込まれる。
【0071】
次に、上記実施の形態のインクジェットプリンタ1の動作について説明する。
【0072】
給紙ローラ13によって給紙された用紙Pは、紙送りローラ機構19の上流側近傍に至ると、その上面を案内されて、紙送り駆動ローラ15と紙送り従動ローラ17との間に導かれ、両ローラの駆動により下流側に位置する印字ヘッド21の下方に向けて定速で搬送される。この紙送り駆動ローラ15には、突起51を有する高摩擦領域50が形成され、この高摩擦領域50と対向して紙送り従動ローラ17が付勢状態で配設されているため、用紙Pは強い挟持力で安定して搬送される。
【0073】
このとき、制御部CONTは、紙送りモータ32と同期してエア吸引装置55を作動させ、紙送り駆動ローラ15の内部のエアを吸引させる。
【0074】
これにより、紙送り駆動ローラ15と紙送り従動ローラ17との間で挟持されることで生じた用紙Pの紙粉や、各種ギヤの回転で生じインクジェットプリンタ1内で浮遊する塵埃等は、図8に示すように、貫通孔61を介して紙送り駆動ローラ15の内部に吸引され、エアとともに外部へ排出される。
【0075】
この場合、紙粉等を円滑に吸引できるように、エアの吸引方向としては、突起51の先端側から基端側に向かう方向とすることが好ましい。
【0076】
そして、用紙Pの印刷開始端が、印字ヘッド21の直下の所定の印刷位置に差し掛かると印刷が開始される。ここで、制御部CONTは、エア吸引装置55によるエア吸引が印字ヘッド21によるインク吐出等の記録処理に悪影響が及ぶ場合には、エア吸引装置55を介してエア吸引を停止させることも可能である。
【0077】
その後用紙Pの始端が、排紙ローラ27に至ると、排紙動作が開始される一方、排紙ローラ27の搬送速度は紙送りローラ機構19の搬送速度より速く設定されているため、用紙Pにバックテンションが掛かった状態で搬送される。
【0078】
以上説明したように、本実施形態では、板状体60に凹凸処理を施して、突起51を有する高摩擦領域50を形成した後に、丸めてパイプ化するため、円柱状の部材の外周面に加工を施す場合と比較して、容易に高摩擦領域を製造することが可能となり、製造効率を向上させることができる。また、本実施形態では、平板状の板状体60の凹凸処理を施すので、パイプに対して凹凸処理を施す場合と比べて、パイプに対するダメージを低減させることができ、高精度の紙送り駆動ローラ15を製造することが可能になる。
【0079】
さらに、本実施形態では、紙送り駆動ローラ15が中空となるため、材料費に係るコストを削減することができるとともに、紙送り駆動ローラ15が軽量化されることから、紙送り駆動ローラ15を駆動するモータ32の負荷が軽減され、また動作・停止時のイナーシャも軽減することができる。従って、本実施形態では、より小型のモータで紙送り駆動ローラ15を駆動することが可能になり、プリンタ本体3、給紙部5、及びこれらを有するインクジェットプリンタ1の小型軽量化及び低価格化に寄与できる。
【0080】
また、本実施形態では、紙送り駆動ローラ15が貫通孔61を有しているため、用紙Pの搬送時に生じる紙粉等を紙送り駆動ローラ15の管内に導くことができ、突起51等に付着する量を低減することが可能になるため、紙粉等の介在により用紙Pと紙送り駆動ローラ15との摩擦力が低下し、搬送力が低下することを抑制でき、高精度の用紙搬送を実現できる。
【0081】
加えて、本実施形態では、紙送り駆動ローラ15の内部をエア吸引するエア吸引装置55を設けているため、紙送り駆動ローラ15の外側に浮遊する塵埃や紙粉等も貫通孔61を介して回収して除去できるため、紙送り駆動ローラ15に関する摩擦力が低下し、搬送力が低下することをより効果的に抑制できる。
【0082】
また、本実施形態では、板状体60を丸める際に、高摩擦領域50を外した領域を接触部分としているため、高摩擦領域50を形成する突起51が損傷して搬送力が低下してしまうことを防止できる。
【0083】
また、本実施形態では、高摩擦領域50、特に実際に用紙Pと接触する突起51毎に、且つ突起51の直下に貫通孔61が形成されているため、一層効率的に紙粉等を吸引して排出することが可能になる。しかも、本実施形態では、板状体60に鉤状の切込みを形成しているため、突起51と貫通孔61とを同時に形成することが可能になり、紙送りローラを効率よく製造することができる。
【0084】
また、本実施形態では、紙送り従動ローラ17を紙送り駆動ローラ15の高摩擦領域50に対応して配置しているため、紙送り従動ローラ17と紙送り駆動ローラ15との間で用紙Pを挟持する力が大きくなり、紙送りの安定化を図ることができる。そして、本実施形態では、この紙送り従動ローラ17の表面に低摩耗処理を施しているため、紙送り駆動ローラ15の高摩擦領域50(突起51)との接触により紙送り従動ローラ17にダメージが加わることを抑制でき、用紙Pに対する安定した搬送力を長期に亘って維持することが可能になる。
【0085】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0086】
例えば、上記実施形態では、パイプ状に形成された紙送り駆動ローラ15の内部のエアを吸引することにより、貫通孔61を介して塵埃や紙粉等を除去する構成としたが、これに限定されるものではなく、エアを供給することにより、貫通孔61からエアを噴射して塵埃や紙粉等を除去する構成としてもよい。
【0087】
また、上記実施形態では、板状体を丸めたもので紙送り駆動ローラ15を形成する構成としたが、これ以外にも、板状体を別の管体に巻回して取り付ける構成であってもよい。
【0088】
さらに、上記実施形態では、板状体60を回転軸線回りに丸めて紙送り駆動ローラ15を形成する手順としたが、これ以外にも、例えば図9に示すように、板状体を例えば帯状とし、螺旋状に巻いて紙送り駆動ローラ15を形成する手順としてもよい。
【0089】
これにより、板状体をローラ等に巻回した状態で準備しておき、板状体を螺旋状に巻く工程と、切断する工程とを繰り返すことにより、紙送りローラを連続的に大量に製造することが可能になり、生産性の向上に寄与できる。この場合、板状体を螺旋状に巻く際に、高摩擦領域50の突起51が損傷しないように、両端部には突起51を形成しない構成とすることが好ましい。また、板状体を螺旋状に巻く際には、図9に示すように、周回毎に隙間をあけて貫通孔を形成することが好ましい。
【0090】
また、上記実施形態では、本発明に係る紙送りローラを紙送り駆動ローラ15に適用する構成としたが、これに限定されるものではなく、排紙駆動ローラ29や排紙ギザローラ31に適用する構成としてもよい。特に、排紙ギザローラは、軽い荷重で支持する必要があるため、軽量化が実現できる本発明を好適に適用できる。
【0091】
なお、上記実施形態では、板状体60に切込みを形成して、突起51と貫通孔61とを同時に形成する構成としたが、これに限定されるものではなく、例えば突起と貫通孔とを個別に形成する構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】インクジェットプリンタの側断面図である。
【図2】紙送りユニット部分の平面図(A)及び駆動系の側面図(B)である。
【図3】紙送りローラ機構の要部詳細を示す外観斜視図である。
【図4】突起の詳細を示す(a)は平面図、(b)は断面図である。
【図5】紙送り駆動ローラの製造手順を示す図である。
【図6】紙送り駆動ローラの製造時に用いる治具の断面図である。
【図7】紙送り駆動ローラの製造手順を示す図である。
【図8】エア吸引の様子を説明するための図である。
【図9】紙送り駆動ローラの別形態を示す図である。
【符号の説明】
【0093】
CONT…制御部、 1…インクジェットプリンタ(記録装置)、 15…紙送り駆動ローラ(紙送りローラ)、 17…紙送り従動ローラ(従動ローラ)、 21…印字ヘッド(記録ヘッド、記録部)、 32…紙送りモータ(駆動装置)、 50…高摩擦領域、 51…突起、 55…エア吸引装置(エア駆動装置)、 60…板状体、 61…貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状体の少なくとも一部に凹凸処理を施して高摩擦領域を形成する第1工程と、
前記高摩擦領域が形成された前記板状体を丸めてパイプ化する第2工程と、
を有することを特徴とする紙送りローラの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の紙送りローラの製造方法において、
前記第2工程では、前記高摩擦領域を外した領域を接触部分として丸めることを特徴とする紙送りローラの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の紙送りローラの製造方法において、
前記第2工程では、前記板状体を螺旋状に巻くことを特徴とする紙送りローラの製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の紙送りローラの製造方法において、
前記第1工程では、前記板状体に貫通孔を形成することを特徴とする紙送りローラの製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の紙送りローラの製造方法において、
前記第1工程では、鉤状の切込みを形成することを特徴とする紙送りローラの製造方法。
【請求項6】
表面の一部に突状の高摩擦領域が設けられ、
少なくとも前記高摩擦領域の部分がパイプ状に形成され、
パイプ状の部分に貫通孔が形成されていることを特徴とする紙送りローラ。
【請求項7】
請求項6記載の紙送りローラにおいて、
前記貫通孔は、前記高摩擦領域に形成されていることを特徴とする紙送りローラ。
【請求項8】
請求項7記載の紙送りローラにおいて、
前記貫通孔は、突状部分に対応して形成されていることを特徴とする紙送りローラ。
【請求項9】
請求項6から8のいずれかに記載の紙送りローラと、
該紙送りローラと当接して従動する従動ローラと、
前記紙送りローラを回転駆動する駆動装置とを有することを特徴とする紙送りユニット。
【請求項10】
請求項9記載の紙送りユニットにおいて、
前記従動ローラの表面に低摩耗処理が施されていることを特徴とする紙送りユニット。
【請求項11】
請求項9または10記載の紙送りユニットにおいて、
前記従動ローラは、前記高摩耗領域に対応して配置されていることを特徴とする紙送りユニット。
【請求項12】
請求項9から11のいずれかに記載の紙送りユニットと、
搬送された用紙に記録処理を行う記録部と、
前記記録部の記録処理を制御する制御部とを有することを特徴とする記録装置。
【請求項13】
請求項12記載の記録装置において、
前記紙送りユニットが前記記録部よりも給紙側に配置されていることを特徴とする記録装置。
【請求項14】
請求項12または13記載の記録装置において、
前記貫通孔を介してエアの吸引または噴射を行うエア駆動装置を有することを特徴とする記録装置。
【請求項15】
請求項14記載の記録装置において、
前記制御部は、前記エア駆動装置の駆動タイミングを制御することを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−68977(P2008−68977A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−249414(P2006−249414)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】