説明

素子基板とその製造方法

【課題】GaNに格子定数の近い基板を用い,大型で良質のGaNエピタキシャの結晶を得る。
【解決手段】素子基板は、遷移金属二ホウ化物のホウ素面にアルミニウム含有膜を介して窒化物半導体膜をエピタキシャル成長させて形成されてなることを特徴とする構成。素子基板の製造方法であって、遷移金属二ホウ化物のホウ素面に、アルミニウム膜をエピタキシャル成長させ、次に、窒化物半導体膜をエピタキシャル成長させることを特徴とする構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素子基板とその製造方法に関し、より詳しくは、窒化物半導体素子基板とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)をはじめとする窒化物半導体は光デバイスとして利用されている他に、高効率な電子制御デバイスとして今後さらなる応用が期待されている物質である。しかしながら、融液から高品質な大型単結晶を作成することが難しいため、現在は主にサファイア基板を用いてその上に結晶成長させることにより窒化ガリウム結晶を得ているが、サファイア基板の格子定数は窒化ガリウムに比べ−14%と大きく異なっているため作成された半導体結晶中に転位欠陥を多く含んでいる。
その問題を解決するために二ホウ化ジルコニウム(ZrB)(特許文献1)などGaNと格子定数の近い基板が提案され、良質のGaNの成長が報告されている。
【特許文献1】特開2002−43223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ZrBと同じ結晶構造をとる二ホウ化ニオブ(NbB)や二ホウ化クロム(CrB)のような5族、6族の遷移金属二ホウ化物の(0001)表面を真空中で清浄化した場合、最外層がホウ素層で覆われた表面が得られる。
【0004】
これに対して4族の遷移金属二ホウ化物であるZrB (0001)は最外層が金属で覆われている。このような金属面上にはGaNがエピタキシャル成長するが、ホウ素面上にはGaNがエピタキシャル成長しないことが我々の研究によりわかってきた。
【0005】
ZrBは格子定数もGaNの−0.6%と非常に近く、金属面が得られるので非常によい基板結晶であるが、その融点が3200℃と非常に高いため大型の単結晶を作成することが難しく、また投入エネルギーや装置の規模等、単結晶育成に多大なコストがかかる。これに対し格子定数の一致はNbBがGaNの−2.4%、CrBは−6.8%とZrBに比べ劣っているが、その融点がNbBは3000℃、CrBでは2200℃とZrBに比較して大幅に低く大型の結晶を作るには非常に有利である。
【0006】
しかしながらこれらの結晶の(0001)表面はホウ素面であるため、その利用にはホウ素面上にGaNをエピタキシャル成長させる方法を開発することが重要な課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明1の素子基板は、遷移金属二ホウ化物のホウ素面にアルミニウム含有膜を介して窒化物半導体膜をエピタキシャル成長させて形成されてなることを特徴とする構成を採用した。
【0008】
発明2は、前記発明1の素子基板の製造方法であって、遷移金属二ホウ化物のホウ素面に、アルミニウム膜をエピタキシャル成長させ、次に、窒化物半導体膜をエピタキシャル成長させることを特徴とする構成を採用した。
【発明の効果】
【0009】
発明1により、光デバイスや高効率な電子制御デバイスとして今後さらなる応用が期待されている遷移金属二ホウ化物のホウ素面に窒化物半導体膜を有する素子基板を実現することができた。
【0010】
さらに、発明2によって容易に大型単結晶を育成することができる遷移金属二ホウ化物のホウ素面に窒化物半導体膜をエピタキシャル成長させることが可能となった。
【0011】
アルミニウムは二ホウ化アルミニウム(AlB)という該遷移金属二ホウ化物と同じ結晶構造を持つ化合物が存在するので、ホウ素面と親和性が高く、さらに窒化アルミニウム(AlN)という窒化物半導体の中の一つの構成元素でもあるため、界面において両者を安定につなぐ働きをしているものと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
欠陥の少ない窒化物半導体膜を成長させるためには不純物のない清浄な基板表面を作成する必要があるため、5族、6族の遷移金属二ホウ化物単結晶(0001)表面を真空中における希ガスイオンを用いたスパッタリング及び真空中のアニールを繰り返すことにより清浄化する。
【0013】
清浄表面はきれいな1×1の反射高速電子回折(RHEED)パターンを示し、オージェ電子分光法(AES)で不純物はほとんど検出されない。
【0014】
このような清浄表面上にクヌーセンセルからアルミニウムを1〜2ML(Mono Layer, 単原子層厚)真空蒸着し、窒化物半導体膜成長用基板として用いる。この基板上に窒化物半導体膜を例えばプラズマ補助分子線エピタキシ法(PA−MBE)により、Ga分子線および窒素ラジカルを照射しGaN膜を、アルミニウム分子線と窒素ラジカルを照射してAlN膜を成長させる。
【0015】
AlNの作成にあたっては、基板にアルミニウム分子線を窒素ラジカルに先立って照射開始することによりあらかじめ1■2MLのアルミニウムを蒸着するのと同様の効果を得ることができるため、このアルミニウム蒸着を省略することができる。作成された膜は反射高速電子回折(RHEED)によるその場観察で結晶性を、オージェ電子分光法(AES)による元素分析で表面組成を評価した。
【実施例1】
【0016】
本実施例の遷移金属二ホウ化物単結晶は参考文献[1]に記述された方法で作成した。即ち、市販のCrB粉にアモルファスホウ素粉を添加、混合した原料粉をラバープレスにて棒状に固め、これを真空中又は不活性ガス中で千数百℃に加熱し、原料焼結棒を作製した。
この焼結棒から図1に模式的に示したような高周波加熱浮遊帯域法によりCrB単結晶棒を育成した。即ち、原料焼結棒5を高周波コイル4によって加熱溶融し融帯6を形成し、これを徐々に移動させることにより結晶7を成長させる。
育成に要した加熱エネルギーは同じ方法、同じ装置で同サイズのZrB結晶を育成する場合の1/3であり、大型結晶の育成が容易であることを確認した。
【0017】
X線回折(反射ラウエ法)により<0001>方位を決め、放電加工機により厚さ1〜2 mmに切り出した後、表面が鏡面になるまでダイアモンドペーストおよびアルミナ粉を用いて機械研磨した。研磨基板はアセトンで脱脂洗浄後PA−MBE用真空槽に導入され、1200℃で脱ガスの後、Krイオン衝撃と1200℃のアニールを表面が清浄になるまで繰り返し行った。
【0018】
RHEEDおよびAESで清浄表面を確認した後基板温度780℃に保ち、アルミニウム蒸発用クヌーセンセル温度1000℃にてアルミニウム分子線を先に照射開始し、その約1分後からNプラズマ励起電力450Wの条件でNラジカルを照射することによってAlN膜を4.3時間かけて成長させた。成長したAlNの厚さは190 nmであった。図2に示すようにRHEEDは下地と同様な間隔の1×1パターンを示し、表面が比較的平坦な単結晶AlN膜がエピタキシャル成長していることがわかった。AESでもアルミニウムとNしか検出されずAlNの成長を示している。
(参考文献)
[1] S. Otani and T. Ohsawa, J. Cryst. Growth, 200, 472 (1999).
【実施例2】
【0019】
実施例1と同様に清浄化したCrB (0001)基板上に約2MLのアルミニウムを蒸着し、これを成長用基板として用いた。GaNをPA−MBEにて基板温度600℃、Gaセル温度830℃、Nプラズマ励起電力450Wの条件で3時間かけ成長させた。図3に示すようにRHEEDは下地と同様な間隔のスポット的なパターンを示し、表面の形状は凸凹しているが結晶方位は下地とそろったGaN膜が成長していることがわかった。AESでもGaとNしか検出されずGaNの成長を示している。GaNの膜厚は140 nmであった。
対照実験として、CrB (0001)表面に清浄化後アルミニウムを蒸着せずにGaNを同条件で成長させた場合は、AESではGaNの形成が確認できるが、RHEEDは図4のようなリング状パターンを示し、多結晶のGaN膜が成長していることが確かめられた。
【実施例3】
【0020】
参考文献[2]に記された、実施例1と同様の方法でNbB単結晶を育成した。育成に必要な加熱電力はZrBの3/4であり、大型結晶の育成に有利であることが確認できた。育成した結晶より鏡面研磨した(0001)面を持つ試料を作成し、実施例1と同様の方法により真空中で清浄化した。
【0021】
作成したNbB (0001)基板上に、実施例1と同様の方法でAlNを基板温度780℃、アルミニウム蒸発用クヌーセンセル温度1000℃、Nプラズマ励起電力450Wの条件で4.5時間かけて成長させた。図5の様にRHEEDは下地と同様な間隔の1×1パターンを示したが、AlN表面に特有の2×2パターンも弱く認められ、表面が比較的平坦な単結晶AlN膜がエピタキシャル成長していることがわかった。AESでもアルミニウムとNしか検出されずAlNの成長を示している。膜厚は180 nmであった。
【0022】
(参考文献)
[2] S. Otani, M. M. Korsukova, and T. Mitsuhashi, J. Cryst. Growth, 194, 430 (1998).
【実施例4】
【0023】
実施例3と同様の方法で作成したNbB (0001)基板上に約2MLのアルミニウムを蒸着し、これを成長用基板として用いた。GaNをPA−MBEにて基板温度580℃、Gaセル温度870℃、Nプラズマ励起電力450Wの条件で3時間成長させた。
図6の様にRHEEDは下地と同様な1×1のパターンを示し、表面が比較的滑らかで結晶方位は下地とそろったGaN膜がエピタキシャル成長していることがわかった。AESでもGaとNしか検出されずGaNの成長を示している。膜厚は240 nmであった。
【0024】
対照実験として、NbB(0001)表面に清浄化後アルミニウムを蒸着せずにGaNを同条件で成長させた場合は、AESでGaNの形成がほとんど確認できず、主として六方晶窒化ホウ素(hBN)で覆われていることがわかった。
これは下地表面に存在したホウ素面がNラジカルと直接反応して形成されたものと考えられる。hBNは化学的に不活性なため、Gaの吸着を抑制しそのためGaNの成長を阻害したのであろう。
図7に示すようにRHEEDではhBNの他に若干の微粒子状のGaNが認められたが非常に微量であった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
これまでホウ素面で覆われた5族、6族の遷移金属二ホウ化物表面への窒化物半導体膜のエピタキシャル成長は知られていなかったが、本発明によりホウ素面においても窒化物半導体膜のエピタキシャル成長が可能となる。融点が低く大型単結晶が比較的容易に作成可能なこれらの二ホウ化物を、窒化物半導体成長用基板として応用することができれば製造コストの点から非常に有利になるため、二ホウ化物の基板応用が産業上促進されるものと期待される。これらの二ホウ化物は金属的伝導性を持つため、基板を電極として用いる縦型素子の作成が可能であり、また、基板を反射層として用いることにより高効率の発光素子の作成が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の基板材料の製造に用いられた単結晶育成装置の模式図。
【図2】CrB(0001)上に本発明の方法で成長させたAlNの図面代用RHEED像。
【図3】CrB(0001)上に本発明の方法で成長させたGaNの図面代用RHEED像。
【図4】CrB(0001)上にアルミニウム蒸着せず直接成長させたGaNの図面代用RHEED像。
【図5】NbB(0001)上に本発明の方法で成長させたAlNの図面代用RHEED像。
【図6】NbB(0001)上に本発明の方法で成長させたGaNの図面代用RHEED像。
【図7】NbB(0001)上にアルミニウム蒸着せず直接成長させたGaNの図面代用RHEED像。
【符号の説明】
【0027】
1 上軸駆動部
1’下軸駆動部
2 上軸
2’下軸
3 ホルダー
3’ホルダー
4 ワークコイル
5 原料焼結棒
6 融帯
7 単結晶
8 種結晶または初期融帯形成用の焼結棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属二ホウ化物のホウ素面にアルミニウム含有膜を介して窒化物半導体膜をエピタキシャル成長させて形成されてなることを特徴とする素子基板
【請求項2】
請求項1の素子基板の製造方法であって、遷移金属二ホウ化物のホウ素面に、アルミニウム膜をエピタキシャル成長させ、次に、窒化物半導体膜をエピタキシャル成長させたことを特徴とする素子基板の製造方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−41709(P2008−41709A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−210096(P2006−210096)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】