説明

素子基板と当該素子基板を有する記録ヘッド、及び記録装置

【課題】 端子数を増やす等によりコストアップすることなく、ロジック電源との電気的接続状態の確認を単独でできることが可能な素子基板を提供すること。
【解決手段】 ロジック電源入力端子の接続状態、或いは記録信号、クロック信号、駆動信号、ラッチ信号の各入力端子の接続状態に応じた信号を出力する接続状態出力回路と、該接続状態出力回路からの出力信号を出力する接続状態出力探知とを有する素子基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドと記録装置との電気的接続状態に応じた信号を出力する接続状態出力回路を有する着脱可能な記録ヘッド用の素子基板に関する。また、記録ヘッド、ヘッドカートリッジ、記録装置、記録ヘッド又はヘッドカートリッジと記録装置との電気的接続状態確認方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置に搭載される記録ヘッドの代表的なインク吐出方式として、ピエゾ素子などの電気機械変換体を用いたもの、電気熱変換素子(ヒータ)によってインクを加熱し、膜沸騰の作用によりインク滴を吐出させるもの等が知られている。
【0003】
上記のようなインクジェット記録ヘッドを備えた記録装置は、低コストで高品位な文字や画像が出力可能である。特に、膜沸騰の作用によりインク滴を吐出させるプリンターは、低価格でカラープリントを行うことができる利点から、市場の大半を占めている。
【0004】
一般に、記録ヘッドの吐出口数は、高画質化の傾向から、64個から128個、さらには256個等に増えており、1インチ当たりの吐出口数(dpi)で、300dpi、600dpi等、高密度に配置されている。これらの吐出口に対して配置される電気熱変換体としての発熱体は、数μsecオーダーから10μsecオーダーのヒートパルスによって膜沸騰による気泡を形成し、高周波の駆動により、高速で、高画質なプリントを実現している。
【0005】
インクジェット記録装置における記録ヘッドを電気的に接続する手段は、記録ヘッドを装着して往復運動させるキャリッジに設けられている。具体的には、キャリッジに複数の接点を設け、記録ヘッドがキャリッジに装着された際に、記録ヘッド側に設けられた複数の接点と接するようにする。こうして、記録ヘッドとインクジェット記録装置との電気的な接続がなされる。
【0006】
交換可能な記録ヘッドは、ユーザによって交換されることを前提とするものが多く、インクタンク一体型の記録ヘッドを用いるインクジェット記録装置では、インクを消費するたびに、新しい記録ヘッドが装着される。電気的な接続は、ユーザによる記録ヘッドの付け替え毎に行われることから、記録装置本体と記録ヘッドとの電気的接続状態を監視することが望ましい。この電気的接続状態を監視する手段を設けた記録ヘッド及びインクジェット記録装置が開示されている(特許文献1参照)。これは、記録装置本体から記録ヘッドの入力端子へ入力される記録信号、記録信号を転送するためのクロック信号、記録信号に応じた記録動作をさせるための制御信号の論理積を演算するAND回路と、演算の結果を出力する出力端子とを、設けるものである。
【0007】
図3は、従来の接続状態出力回路の一例である。記録信号(DATA)、クロック信号(CLK)、ヒータを駆動するための駆動信号(HE)、記録信号をラッチ回路にラッチするためのラッチ信号(LT)の論理積をAND回路で演算し、接続状態出力端子(CNO)より演算結果を出力する。ラッチ信号、駆動信号、記録信号及びクロック信号の全ての信号がHighの場合のみ、CNO信号はHighとなる。したがって、記録装置本体からある任意のタイミングで各入力信号をHighで入力し、CNO信号をHighで出力した場合に、記録ヘッドと記録装置本体との電気的接続が確認される。このようにして、記録ヘッドが記録装置本体に正しく接続されているかどうかの確認ができるため、記録ドット抜けなどの記録不良や、接点不良が起因となる記録ヘッドの破壊などを防止することができる。
【0008】
ところで、ユーザによって交換されることを前提としている交換可能な記録ヘッドは、交換時などにはユーザに直接触れられる。そのため、例えば、ユーザによって直接触れられた際などに静電気が発生すると、その静電気による電流が記録ヘッドの端子や配線を介して素子基板に供給され、素子基板の静電気に弱い部分が破壊される場合がある。このため、素子基板が破壊に至らないような手段を講じる必要がある。
【0009】
この解決手段として、それぞれの記録信号の入力部と電源線及びグラウンド線との間にダイオードで構成される静電気保護素子を挿入する構成が一般にとられている。これにより、静電気として流入する電流は電源線やグラウンド線に分散して流出し、素子基板の静電気に対する耐性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−252909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、電気的接続状態を確認することが可能で、静電気保護素子が設けられている記録ヘッドでは、電気的接続確認時に各信号端子がHighである信号を入力すると、静電気保護素子を通じて電源線に電流が流れてしまう場合がある。電源線としてのロジック電源(VDD)ラインに電流が流れてしまうと、VDD端子単独での接続確認を行うことができなくなる場合がある。図2は、静電気保護素子としてダイオードを用いた静電気保護回路の構成例を示している。記録信号入力パッドの近傍に静電気保護素子であるダイオードをVDDライン側とグラウンド側にそれぞれ設けている。この構成によって静電気として流入する電流は外部に分散して流出する。ここで、電気的接続状態の確認時には、各記録信号端子に例えば3.3V等の電圧が印加される。しかし、仮にVDD端子が接続不良となっていても、ダイオードを通じてVDDラインへ2.6V程度の電圧が供給されるため、電気的接続状態の確認時にはこの電圧がVDD電圧として確認することになる。VDD端子と接続され通電されていれば問題ないが、VDD端子が接続不良の状態で、ヒータ駆動用電源VH(例えば24V等)を印加してしまうと、ロジック回路の論理が確定していないことによるヒータの誤作動により記録ヘッドを破壊してしまう恐れがある。したがって、電気的接続出力回路と静電気保護回路を併せ持つ記録ヘッドにおいて、より信頼性を高めるためには、単独でロジック電源との電気的接続状態の確認できる構成であることが望ましい。
【0012】
そこで、本発明は以上のことを鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、記録ヘッドとその記録ヘッドを用いる記録装置との電気的接続状態の確認、特にロジック電源の電気的接続状態の確認を単独でできることが可能な素子基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明は、複数の記録素子と、記録信号を入力する記録信号入力端子と、前記記録信号を転送するためのクロック信号を入力するクロック信号入力端子と、前記記録素子の駆動を制御する駆動信号を入力する駆動信号入力端子と、前記記録信号をラッチ回路にラッチするためのラッチ信号を入力するラッチ信号入力端子と、前記駆動信号に従って前記記録素子の駆動を制御するロジック回路と、前記ロジック回路に印加する電圧を入力するロジック電源入力端子とを有する素子基板であって、
前記ロジック電源入力端子と抵抗を介してドレインを接続し、接地とソースを接続し、前記記録信号入力端子と前記クロック信号入力端子と前記駆動信号入力端子と前記ラッチ信号入力端子それぞれから入力された電圧を反映した信号をゲートに入力するNMOSトランジスタを用いて、前記ロジック電源入力端子の接続状態、或いは前記記録信号入力端子と前記クロック信号入力端子と前記駆動信号入力端子と前記ラッチ信号入力端子の接続状態に応じた信号を出力する接続状態出力回路と、
前記接続状態出力回路からの出力信号を外部に出力する接続状態出力端子と、
を有し、
前記接続状態出力端子からの出力信号は、
前記ロジック電源入力端子と前記ドレイン間と、前記ドレインと前記ソース間との分圧として出力され、
前記ゲートに入力された信号のレベルに従って出力される、前記ロジック電源入力端子に印加された電圧を反映した第1のレベルの信号か、前記記録信号入力端子と前記クロック信号入力端子と前記駆動信号入力端子と前記ラッチ信号入力端子とにそれぞれ入力された電圧を反映した第2のレベルの信号であることを特徴とする素子基板である。
【0014】
また、上記課題を解決するための別の本発明は、前記素子基板を有する記録ヘッド、ヘッドカートリッジ及び記録装置、並びに、前記記録ヘッド又は前記ヘッドカートリッジと記録装置との電気的接続状態確認方法である。
【0015】
さらに、上記課題を解決するための別の本発明は、複数の記録素子と、記録信号を入力する記録信号入力端子と、前記記録信号を転送するためのクロック信号を入力するクロック信号入力端子と、前記記録素子の駆動を制御する駆動信号を入力する駆動信号入力端子と、前記記録信号をラッチ回路にラッチするためのラッチ信号を入力するラッチ信号入力端子と、前記駆動信号に従って前記記録素子の駆動を制御するロジック回路と、前記ロジック回路に印加する電圧を入力するロジック電源入力端子とを有する素子基板であって、 前記入力端子のそれぞれから入力される信号に応じて、各端子の接続状態に応じた信号を出力する回路であって、前記ロジック電源入力端子から入力される信号の出力を他の入力端子から入力される信号によって切り替える接続状態出力回路とを有することを特徴とする素子基板である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、端子数を増やす等によりコストアップすることなく、ロジック電源との電気的接続状態の確認を単独でできることが可能な素子基板を提供することが可能となる。また、この素子基板を有した記録ヘッド、ヘッドカートリッジ及び記録装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例である接続状態出力回路の構成と各信号のタイミングを示す図である。
【図2】従来の静電気保護回路の構成例を示す図である。
【図3】従来の接続状態出力回路例を示す図である。
【図4】接続状態出力回路の一例を示す図である。
【図5】本発明のインクジェット記録ヘッドの回路構成例を示す図である。
【図6】本発明の一実施例である第1の記録ヘッドを説明するための斜視図である。
【図7】本発明の一実施例である第1の記録ヘッドの分解斜視図である。
【図8】本発明の一実施例である第1の記録ヘッドを構成する第1の素子基板の一部を破断して示す斜視図である。
【図9】本発明の一実施例である記録ヘッドの一部の断面図である。
【図10】本発明のインクジェット記録装置の一例を示す模式図である。
【図11】本発明のインクジェット記録装置の制御構成を示す図である。
【図12】インクジェット記録装置における記録ヘッドとの電気的接続状態確認の手順のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
【0019】
なお、この明細書において、「記録」(以下、「プリント」とも称する)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、又は媒体の加工を行う場合も表すものとする。また、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わない。
【0020】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0021】
さらに、「インク」とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきもので、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成又は記録媒体の加工、或いはインクの処理に供され得る液体を表すものとする。インクの処理としては、例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固又は不溶化させることが挙げられる。
【0022】
なお、説明に用いる「素子基板」とは、シリコン半導体からなる単なる基体を指し示すものではなく、各素子や配線等が設けられた基体を示すものである。
【0023】
「素子基板上」とは、単に素子基板の表面上を指し示すだけでなく、素子基板の表面上、表面近傍の素子基体内部側をも示すものである。また、本発明でいう「作り込み」とは、別体の各素子を単に基体上に配置することを指し示している言葉ではなく、各素子を半導体回路の製造工程等によって素子基板上に一体的に形成、製造することを示すものである。
【0024】
図6から図10は、本発明が実施又は適用される好適な記録ヘッド(ヘッドカートリッジ)を説明するための説明図である。以下、これらの図面を参照して各構成要素について説明する。
【0025】
本実施例の記録ヘッドは、インクを内包するインクタンク一体型のものである。図6の(a)及び(b)に示すような、ブラックインクを収容した第1の記録ヘッドH1000などからなる。記録ヘッドH1000は、インクジェット記録装置本体に搭載されているキャリッジ上に、位置決め手段及び電気的接点によって固定支持されるとともに、キャリッジに対して着脱可能となっている。充填されているインクが消費されてなくなった場合は、記録ヘッドを交換することができる。
【0026】
以下、記録ヘッドH1000に関して、記録ヘッドを構成しているそれぞれの構成要素を詳細に説明する。
【0027】
(記録ヘッド)
第1の記録ヘッドH1000は、電気信号に応じて膜沸騰をインクに対して生じせしめるための熱エネルギを生成する電気熱変換体を用いたバブルジェット(登録商標)方式の記録ヘッドである。また、電気熱変換体とインク吐出口とが対向するように配置された、いわゆるサイドシュータ型の記録ヘッドである。
【0028】
(1)第1の記録ヘッドH1000
図7は、第1の記録ヘッドH1000の分解斜視図である。第1の記録ヘッドH1000は、第1の記録素子基板H1100、電気配線テープH1300、インク供給保持部材H1500、フィルタH1700、インク吸収体H1600、蓋部材H1900、及びシール部材H1800から構成されている。
【0029】
(1−1)第1の記録素子基板H1100
図8は、第1の記録素子基板H1100の構成を説明するための図で、一部破断して示す斜視図である。第1の記録素子基板H1100は、例えば、厚さ0.5mm〜1mmのSi基板H1110に、インク流路である長溝状の貫通口のインク供給口H1102を、Siの結晶方位を利用した異方性エッチングやサンドブラストなどの方法で形成したものである。
【0030】
Si基板H1110には、インク供給口H1102を挟んでその両側に、記録素子である電気熱変換素子H1103及びこれらを駆動する不図示の駆動素子が1列ずつ並べて配置されている。また、さらに電気熱変換素子H1103に電力を供給するAlなどからなる不図示の電気配線が形成されている。これら電気熱変換素子H1103と電気配線は、既存の成膜技術を利用して形成することができる。各列の電気熱変換素子H1103は、互いに千鳥状になるように配列されている。すなわち、各列の吐出口の位置が、その列方向に直交する方向に並ばないように少しずれて配置されている。
【0031】
また、Si基板H1110には、電気配線に電力を供給したり、電気熱変換素子H1103を駆動するための電気信号を供給したりするための電極部H1104が、電気熱変換素子H1103の列の両端に位置する側の辺部に沿って配列されている。それぞれの電極部H1104上にはAuなどからなるバンプH1105が形成されている。
【0032】
Si基板H1110上の、配線及び抵抗素子などの記録素子のパターンが形成された面上には、電気熱変換素子H1103ごとにインク流路を備える、樹脂材料からなる構造体がフォトリソ技術によって形成されている。この構造体は、各インク流路を区切るインク流路壁H1106とその上方を覆う天井部とを有し、天井部には吐出口H1107が開口されている。吐出口H1107は、電気熱変換素子H1103のそれぞれに対向して設けられており、これにより吐出口群H1108を形成している。
【0033】
上記のように構成された第1の記録素子基板H1100では、インク供給口H1102から供給されたインクは、各電気熱変換素子H1103の発熱によって発生した気泡の圧力により、各電気熱変換素子H1103に対向する吐出口H1107から吐出される。
【0034】
(1−2)電気配線テープH1300
電気配線テープH1300は、第1の記録素子基板H1100に対してインクを吐出するための電気信号を印加する電気信号経路を形成するものである。また、第1の記録素子基板H1100を組み込むための開口部H1303が形成されており、この開口部の縁付近には、第1の記録素子基板H1100の電極部H1104に接続される電極端子H1304が形成されている。さらに、電気配線テープH1300には、本体装置からの電気信号を受け取るための外部信号入力端子H1302が形成されており、この外部信号入力端子H1302と電極端子H1304が連続した銅箔の配線パターンでつながれている。
【0035】
電気配線テープH1300と第1の記録素子基板H1100の電気的接続は、第1の記録素子基板H1100のバンプH1105と、電気配線テープH1300の電極端子H1304とが熱超音波圧着法により電気接合されることでなされている。
【0036】
(1−3)インク供給保持部材H1500
図7に示すように、インク供給保持部材H1500は、内部にインクを保持し負圧を発生するためのインク吸収体H1600を有することでインクタンクの機能がある。また、記録素子基板H1100にそのインクを導くためのインク流路を形成することでインク供給の機能がある。
【0037】
インク流路の下流部には、第1の記録素子基板H1100にブラックのインクを供給するためのインク供給口H1200が形成されている。そして、第1の記録素子基板H1100のインク供給口H1102がインク供給保持部材H1500のインク供給口H1200に連通するよう、第1の記録素子基板H1100がインク供給保持部材H1500に対しての位置が精度良く接着、固定される。
【0038】
また、第1の記録素子基板H1100の接着面周囲の平面と、電気配線テープH1300の裏面の一部とが、第2の接着剤により接着、固定される。第1の記録素子基板H1100と電気配線テープH1300との電気接続部分は、第1の封止剤H1307及び第2の封止剤H1308(図9参照)により封止され、これにより電気接続部分をインクによる腐食や外的衝撃から保護している。第1の封止剤H1307は、主に電気配線テープH1300の外部信号入力端子H1302と第1の記録素子基板H1100のバンプH1105との接続部の裏側と、第1の記録素子基板H1100の外周部分とを封止している。
【0039】
次に、上述した記録ヘッドのインクジェット記録装置への装着について具体的に説明する。
【0040】
図6に示したように、第1の記録ヘッドH1000は、インクジェット記録装置本体のキャリッジの装着位置に案内するための装着ガイドH1560を備えている。また、ヘッドセットレバーによりキャリッジに装着固定するための係合部H1930を備えている。さらに、キャリッジの所定の装着位置に位置決めするためのキャリッジの走査方向の突き当て部H1570、記録媒体の搬送方向の突き当て部H1580、インク吐出方向の突き当て部H1590を備えている。これら突き当て部により位置決めされることで、電気配線テープH1300及びH1301上の外部信号入力端子H1302とキャリッジ内に設けられた電気接続部のコンタクトピンとの正確な電気的接触が可能となっている。
【0041】
<インクジェット記録装置>
次に、上述したようなカートリッジタイプの記録ヘッドを搭載可能な液体吐出記録装置について説明する。図10は、本発明のインクジェット記録ヘッドを搭載可能な記録装置の一例を示す説明図である。
【0042】
図10を参照すると、この記録装置は、図6に示した記録ヘッドH1000が、位置決めされて、交換可能に搭載されるキャリッジ102を有する。キャリッジ102には、記録ヘッドH1000上の外部信号入力端子を介して各吐出部に駆動信号等を伝達するための電気接続部が設けられている。この電気接続部として、後述の素子基板のロジック電源入力端子及び接続状態出力端子等の各端子と接続する、ロジック電源出力端子及び接続状態入力端子等の各端子を備えている。
【0043】
キャリッジ102は、走査方向に延在して装置本体に設置されたガイドシャフト103に沿って往復移動可能に支持されている。そして、キャリッジ102は、走査モータ104によりモータプーリ105、従動プーリ106及びタイミングベルト107等の駆動機構を介して駆動されるとともに、その位置及び移動が制御される。また、キャリッジ102にはホームポジションセンサ130が設けられている。キャリッジ102上のホームポジションセンサ130が遮蔽板136の位置を通過した際に、ホームポジションとなる位置が検出される。
【0044】
印刷用紙やプラスチック薄板等の記録媒体108は、給紙モータ135がギアを介してピックアップローラ131を回転させることにより、記録媒体108がオートシートフィーダ(ASF)132から一枚ずつ分離され、給紙される。さらに、記録媒体108は、搬送ローラ109の回転により、記録ヘッドH1000の吐出口面と対向する位置(プリント部)を通って搬送される。LFモータ134による駆動は、ギアを介して搬送ローラ109に伝達される。給紙されたかどうかの判定と給紙時の頭出し位置の確定は、記録媒体108がペーパエンドセンサ133を通過した時点で行われる。このペーパエンドセンサ133は、記録媒体108の後端が実際にどこに有り、実際の後端から現在の記録位置を最終的に割り出すためにも使用される。
【0045】
<制御構成>
次に、上述したインクジェット記録装置の記録制御を実行するための制御構成について説明する。
【0046】
図11はインクジェット記録装置の制御回路の構成を示すブロック図である。
【0047】
図11において、1700は記録信号を入力するインタフェース、1701はMPU、1702はMPU1701が実行する制御プログラムを格納するROMである。また、1703は各種データ(記録ヘッドH1000に供給される記録信号等)を保存しておくDRAMである。1704は記録ヘッドH1000に対する記録信号の供給制御を行うゲートアレイ(G.A.)であり、インタフェース1700、MPU1701、RAM1703間のデータ転送制御も行う。1710は記録ヘッドH1000及びH1001を搬送するためのキャリアモータ、134は記録媒体搬送のためのLFモータである。1705は記録ヘッドH1000を駆動するヘッドドライバ、1706は、搬送モータ1709を駆動するためのモータドライバ、1707は、キャリアモータ1710を駆動するためのモータドライバである。
【0048】
上記制御構成の動作を説明すると、インタフェース1700に記録信号が入るとゲートアレイ1704とMPU1701との間でこの記録信号がプリント用の記録信号に変換される。そして、モータドライバ1706、モータドライバ1707が駆動されると共に、ヘッドドライバ1705に送られた記録信号に従って記録ヘッドH1000が駆動され、記録が行われる。
【実施例】
【0049】
図5は本実施例における記録ヘッドH1000の記録素子基板H1100の回路構成を示す図である。なお、第1の記録素子基板H1100は、Si基板H1110の上に半導体素子と配線を半導体プロセスで形成している。本実施例における記録ヘッドH1000には、インク供給口H1102に対して、一列あたりn個のノズルが備えられている。このノズル1つ1つに対応して、ノズル中のインクを加熱しうる電気熱変換素子H1103と、電気熱変換素子H1103を駆動する駆動素子H1116が設けられている。この電気熱変換素子と駆動素子とインク吐出ノズルをあわせて記録要素と呼ぶ。
【0050】
記録ヘッドH1000は、記録装置本体との電気的接点として、記録信号(DATA)を入力する記録信号入力端子H1121と、記録信号と同期しこれを入力するためのクロック信号(CLK)を入力するクロック信号入力端子H1120とを設ける。また、ラッチ回路H1117にラッチ信号(LT)を入力するラッチ信号入力端子H1123と、電気熱変換素子H1103を駆動する駆動素子H1116をイネーブル状態にするヒート信号(HE)を入力する駆動信号入力端子H1122とを設ける。また、ロジック回路に印加する電圧であるロジック電源(VDD)を入力するロジック電源入力端子H1128を設ける。さらに、電気熱変換素子H1103の電源配線端子H1124と、グランド側の電気熱変換素子H1103の電源配線端子H1125とを設ける。なお、H1113は電気熱変換素子H1103の電源配線であり、H1114はグランド側の電源配線である。また、記録信号入力端子H1121、クロック信号入力端子H1120、ラッチ信号入力端子H1123及び駆動信号入力端子H1122の近傍には、不図示であるが、図2で示されるような保護素子としてのダイオードが配置されている。また、図5の記録ヘッドはn個の記録要素を複数のブロックに分割して駆動する分割駆動を採用している。
【0051】
このような記録ヘッドの駆動は以下のような手順でなされる。
【0052】
記録信号入力端子H1121より記録信号をクロック信号入力端子H1120から入力されるクロック信号に同期して入力し、記録信号を順次シフトレジスタH1118に保持する。このようにして所定ビットの記録信号がシフトレジスタH1118に保持されると、ラッチ信号入力端子H1123にラッチ信号を入力し、シフトレジスタH1118の次段にあるラッチ回路H1117がラッチ信号の入力に従って記録信号をラッチする。また、記録信号の一部はn個の電気熱変換素子H1103を分割して駆動するためのブロック選択信号(BLE)としてデコーダ(不図示)に入力される。このブロック選択信号によって選択された記録要素の内、駆動信号入力端子H1122に入力されるヒート信号とラッチ回路H1117より出力される記録信号との論理積を演算するAND回路H1119からの出力によって選択された記録要素が駆動する。そして、この記録要素に対応したノズルからインクが吐出し、記録がされる。ここで、記録要素が駆動している間、次の記録を行うための記録信号、クロック信号、ラッチ信号及び駆動信号が記録ヘッドに入力される。
【0053】
次に記録ヘッドH1000とインクジェット記録装置との電気的接続状態を確認するための手順について説明する。
【0054】
記録ヘッドH1000は図10に示す記録装置本体のキャリッジ102に装着される。キャリッジ102と記録ヘッドH1000の間には、互いの電気的接点の接続をするためのコンタクト部(不図示)が設けられている。従って、記録ヘッドH1000をキャリッジ102に装着すると、記録ヘッドH1000に設けられている種々の電気信号を授受する外部信号入力端子H1302に接触し、電気的な接続がなされる。この記録ヘッドH1000は記録装置本体との電気的接続状態を確認する手段として、接続状態出力回路H1127と、この回路の演算結果を記録装置本体に出力する接続状態出力端子H1126(CNO)を設けている。
【0055】
本実施例の接続状態出力回路H1127を図1(a)に示す。接続状態出力回路H1127は記録信号、クロック信号の論理積を演算する第1のAND回路と、ラッチ信号及びヒート信号の論理積を演算する第2のAND回路と、第1、第2のAND回路での演算結果の論理積を演算する第3のAND回路とを備えている。第3のAND回路での演算結果はNMOSトランジスタのゲートに入力される。なお、NMOSトランジスタは、抵抗を介してドレインがロジック電源入力端子H1128に接続され、ソースが接地と接続されている。こうして、接続状態出力端子H1126から出力される信号は、前記ロジック電源入力端子と前記ドレイン間と、前記ドレインと前記ソース間との分圧として出力される。このような構成によって、ゲートに入力された信号のレベルに従って、ロジック電源入力端子に印加された電圧を反映した第1のレベルの信号か、前記記録信号等の各入力端子に入力された電圧を反映した第2のレベルの信号を、接続状態出力端子から出力する。こうして、ロジック電源(VDD)の接続状況を単独で確認できるよう構成されている。
【0056】
図1(b)は、記録ヘッドと記録装置本体の接続状態を確認する場合に記録装置から記録ヘッドへ入力される各信号と、接続状態出力端子H1126より出力される出力信号(CNO信号)のタイミング図である。ここで、制御系信号であるラッチ信号と駆動信号は、信号がLow状態でONとなる負論理(ローアクティブ)となっている。負論理とは無信号時、つまり論理が“偽(0)”のときにはプルアップ抵抗によりHigh状態となり、論理が“真(1)”のときにはLow状態となる。なお、記録信号及びクロック信号は、信号がHigh状態でONとなる正論理(ハイアクティブ)であり、無信号時はGNDレベルとなるようにプルダウン抵抗に接続されている。これは、全ての信号が正論理である場合、何らかの原因で全ての信号がHigh状態になると、記録要素の駆動制御が不可能になるためである。このような状態になることを防ぐために異なる論理の信号を使用しており、また、通常ノイズマージンが有利なことから、制御系信号であるラッチ信号と駆動信号を負論理とし、クロック信号と記録信号を正論理としている。
【0057】
まず、VDDの接続状態を単独で確認する方法について説明する。初期状態すなわち時間帯T1において、各信号端子からの入力信号はLow状態となっており、VDDもLow状態となっている。VDD単独接続確認時においては、各信号端子からの入力信号は全てLow状態を維持し、時間T2でVDD端子から信号を入力しVDDをHigh状態にする。結果としてCNO出力はHigh状態で出力され、記録ヘッドのVDD端子と記録装置本体との電気的接続を確認することができる。T1〜T4においてCNO出力が正しく記録装置側で確認できた後に、各信号端子の接続状態の確認を行う。
【0058】
各信号端子の接続状態確認方法は、まず時間帯T5において記録信号、クロック信号、ラッチ信号、駆動信号とロジック電源VDDを一度すべてHigh状態として、CNO出力はLow状態で出力されるようにする。ここで、時間帯T6に記録装置本体から記録ヘッドへ、LTのみLow状態の信号を入力する。そして、CNO出力がLTに同期してHigh状態になれば正しく接続がなされていることになり、記録装置本体はその論理を確認することで接続状態を判断する。同様にしてT8〜T13まで各ロジック入力端子が個別に接続されているかどうかの確認を行う。
【0059】
以上のインクジェット記録装置における記録ヘッドとの電気的接続状態確認の手順のフローチャートを図12に示す。
【0060】
最初に、ステップS110で、VDD、DATA、CLK、HE、LTを素子基板に出力する。次に、ステップS120で、素子基板の接続状態出力回路H1127による確認結果を入力する。そして、ステップS130で、MPU1701等により、VDD端子の電気的接続状態と各信号の入力端子の電気的接続状態とを、それぞれ独立して判断する。なお、本実施例では、VDD端子の電気的接続状態の確認を、各信号の入力端子の電気的接続状態の確認よりも先に行ったが、逆の順番に行っても良い。
【0061】
以上の処理を記録装置の電源投入時や記録動作前に行うことで、記録ドット抜けなどの記録不良や、接点不良が起因となる記録ヘッドの破壊などを防止することができる。
【0062】
一方、本発明の目的であるロジック電源(VDD)の接続状態確認を単独で行う別の方法として、図4に示すように記録基板内でVDDの入力端子であるロジック電源入力端子H1128から接続確認用端子H1129を直接接続する構成による方法がある。この構成はVDDの入力端子H1128と接続確認用端子H1129を直接接続する構成であるため、第1のインクジェット記録基板内の回路構成は、最も簡単な構成となる。しかしながら、接続確認用端子H1129を新たに設けるため、1端子分新たに設けることとなり、素子基板のサイズに影響を与える可能性がある。これに対し、本発明においては、図1(a)に示すように、既存の接続状態出力回路を改良する構成であるため、新たに出力端子を設ける必要がなく、素子基板のサイズアップをすることなく信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0063】
また、本発明に係る記録装置の形態として、コンピュータ等の情報処理機器の画像出力端末として一体又は別体に設けられるものの他、リーダ等と組み合わせた複写装置、更には送受信機能を有するファクシミリ装置の形態を取るものでも良い。
【0064】
また、上記実施例はインクジェット記録ヘッド用の素子基板を例に説明したが、熱転写方式の記録ヘッド用、昇華型の記録ヘッド用等の素子基板に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0065】
H1100 第1のインクジェット記録基板
H1101 第2のインクジェット記録基板
H1103 電気熱変換素子
H1104 電極端子
H1105 バンプ
H1120 クロック信号入力端子
H1121 記録信号入力端子
H1122 駆動信号入力端子
H1123 ラッチ信号入力端子
H1126 接続状態出力回路の出力端子
H1127 接続状態出力回路
H1128 ロジック電源入力端子
H1129 ロジック電源接続確認用端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の記録素子と、記録信号を入力する記録信号入力端子と、前記記録信号を転送するためのクロック信号を入力するクロック信号入力端子と、前記記録素子の駆動を制御する駆動信号を入力する駆動信号入力端子と、前記記録信号をラッチ回路にラッチするためのラッチ信号を入力するラッチ信号入力端子と、前記駆動信号に従って前記記録素子の駆動を制御するロジック回路と、前記ロジック回路に印加する電圧を入力するロジック電源入力端子とを有する素子基板であって、
前記ロジック電源入力端子と抵抗を介してドレインを接続し、接地とソースを接続し、前記記録信号入力端子と前記クロック信号入力端子と前記駆動信号入力端子と前記ラッチ信号入力端子それぞれから入力された電圧を反映した信号をゲートに入力するNMOSトランジスタを用いて、前記ロジック電源入力端子の接続状態、或いは前記記録信号入力端子と前記クロック信号入力端子と前記駆動信号入力端子と前記ラッチ信号入力端子の接続状態に応じた信号を出力する接続状態出力回路と、
前記接続状態出力回路からの出力信号を外部に出力する接続状態出力端子と、
を有し、
前記接続状態出力端子からの出力信号は、
前記ロジック電源入力端子と前記ドレイン間と、前記ドレインと前記ソース間との分圧として出力され、
前記ゲートに入力された信号のレベルに従って出力される、前記ロジック電源入力端子に印加された電圧を反映した第1のレベルの信号か、前記記録信号入力端子と前記クロック信号入力端子と前記駆動信号入力端子と前記ラッチ信号入力端子とにそれぞれ入力された電圧を反映した第2のレベルの信号であることを特徴とする素子基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−232601(P2012−232601A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−193568(P2012−193568)
【出願日】平成24年9月3日(2012.9.3)
【分割の表示】特願2007−148616(P2007−148616)の分割
【原出願日】平成19年6月4日(2007.6.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】